(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
一般に屋内の工場では風等の外乱が少ないことから,フィードバックによって制御のロバスト性を高める必要がない.また近年の半導体工場に見られるように荷物は規格化されており,無人でより高速な自動制御のニーズが高まっている.そのため,より簡便で,コストの安い,より高速な荷物の制振搬送をおこなうためには,誤作動の心配も少ないフィードフォワード制御の開発が必要となる.
【0015】
移動台車を駆動して荷物を初期位置から目標位置まで搬送する単振り子式搬送装置においては,荷物にダンパーを直接取り付けることが難しいことから,移動台車の軌道のフィードフォワード関数には,移動台車を荷物の揺れに合わせて動かすことで残留振動を取る追いノッチ操作が必須となる.
【0016】
PCT出願WO2014126177A1には,線形振動子に対する振動操作関数を用いることにより,任意に振動子の位置や速度をフィードフォワード制御する方法が紹介されており,これを用いることで単振り子式搬送装置に対する追いノッチ操作の線形解が得られているが,操作時間は固有周期に限られており,振り子に対する非線形性も補正程度の修正しか入れることはできないでいた.
【0017】
さらに単振り子式搬送装置においては,必要に応じて揺れ長さも任意に変化させる必要があることから,揺れ長さの伸展に伴うコリオリ力の負の減衰効果や,揺れ長さの短縮に伴う正の減衰効果を取り入れる必要があったが,PCT出願WO2014126177A1ではこうした効果が入ってはいなかった.
【0018】
さらに一般の工場で単振り子式搬送装置を動かす場合,現場の状況に合わせて複雑な経路を通って荷物や移動台車を動かす必要があるが,従来の制御法では移動台車の台車経路は任意に設計できるものの揺れを生じることから,追いノッチ操作を加えながら荷物経路を任意に設計する移動台車の軌道を設計することは難しかった.
【0019】
さらに複雑な台車経路は,直線ばかりでなく,曲がって方向を変えたりすることから,方向の異なる直線台車経路と,これを結ぶ曲線台車経路について,それぞれ別々に荷物経路を任意に設計する移動台車の軌道を設計する必要があった.
【0020】
本発明が解決すべき課題は,多くのセンサーを用いることなく,複雑な台車経路に沿って,荷物の揺れを抑えたフィードフォワード制御をおこなうための,直線台車経路に沿った移動台車の軌道関数の設計法と,曲線台車経路に沿った移動台車の軌道関数の設計法と,これを可能にする単振り子式搬送装置を提供することにある.
【0021】
そのため,本発明においては,区間操作開始時刻から区間終了開始時刻の間に,移動台車の軌道を変化させることで,支持構造と荷物を結ぶ線と鉛直線の間の角度である揺れ角と,支持構造と荷物を結ぶ線と鉛直線の間の角速度である揺れ角速度が,操作終了時間において目標値になるように制御することを課題とし,これを組み合わせることで,直線台車経路に沿った移動台車の軌道関数の設計法と,曲線台車経路に沿った移動台車の軌道関数の設計法を与える.
【0022】
一方,PCT出願WO2014126177A1では,センサーにより現在値と目標値の制御偏差をフィードバックすることで,線形振動子に対する振動操作関数を操作時間毎に修正し,よりロバスト性が高いサンプル値制御が可能であったことから,本発明のもう一つの課題は,センサーを用いることで,同様なサンプル値制御を使った移動台車の軌道関数の修正演算を可能にする単振り子式搬送装置を提供することにある.
【0023】
そのため,本発明においては,操作区間毎に,区間操作開始時刻から区間操作終了時刻の間における移動台車の軌道を修正演算することで,操作時間毎の揺れ角と揺れ角速度制御偏差を修正することを課題とし,操作時間毎の揺れ角と揺れ角速度のサンプル値制御を提供する.
【課題を解決するための手段】
【0024】
[発明1]
前記課題を解決するため,本発明における単振り子式搬送装置は,
荷物と、支持構造が単振り子構造を構成し,該支持構造が移動台車に搭載されて駆動されて,該荷物が搬送される.
また,この単振り子式搬送装置は,上記移動台車が通る水平な台車経路が少なくとも一つの直線台車経路から構成されている.
さらにこの単振り子式搬送装置は,所定の操作時間毎に区分的に定められた操作区間の境界時刻である操作区間境界時刻において,上記支持構造と上記荷物を結ぶ線と鉛直線の間の角度である揺れ角の目標値と,上記支持構造と上記荷物を結ぶ線と鉛直線の間の角速度である揺れ角速度の目標値と,上記単振り子の長さである揺れ長さの目標値と,上記揺れ長さの時間微分である揺れ長さ速度の目標値を持つ.
【0025】
またこの単振り子式搬送装置は,上記直線台車経路上の上記移動台車の位置の時間変化を表す,直線台車軌道関数を,
上記揺れ角の目標値と,上記揺れ角速度の目標値と,上記揺れ長さの目標値と,上記揺れ長さ速度の目標値に基づき,上記操作区間毎に定める.
さらにこの単振り子式搬送装置は,上記直線台車軌道関数から,全操作時間における,上記移動台車の位置の目標値の時間変化である台車位置関数,もしくは,上記移動台車の速度の目標値の時間変化である台車速度関数,もしくは,上記移動台車の加速度の目標値の時間変化である台車加速度関数を定める.
加えてこの単振り子式搬送装置は,上記移動台車の位置が上記台車位置関数
に従うように,移動台車を制御する,もしくは,上記移動台車の速度が上記台車速度関数
に従うように,移動台車を制御する,もしくは,上記移動台車の加速度が上記台車加速度関数
に従うように,移動台車を制御する,台車位置追従制御機構を具備する.
これらにより,単振り子式搬送装置は,上記追従制御をすることで,上記操作時間毎の,上記揺れ角と,上記揺れ角速度を,上記目標値通りに制御することを特徴とする.
【0026】
[発明2]
発明1の単振り子式搬送装置に加えて,本発明の単振り子式搬送装置においては,
上記移動台車が通る水平な台車経路に,上記直線台車経路を結ぶ曲線台車経路を含む.
さらにこの単振り子式搬送装置は,上記曲線台車経路上の上記移動台車の位置の時間変化を表す,曲線台車軌道関数を,上記目標値に基づき,上記操作区間毎に定める.
加えてこの単振り子式搬送装置は,上記直線台車軌道関数と曲線台車軌道関数から,全操作時間における,上記移動台車の位置の目標値の時間変化である台車位置関数,もしくは,上記移動台車の速度の目標値の時間変化である台車速度関数,もしくは,上記移動台車の加速度の目標値の時間変化である台車加速度関数を定めることを特徴とする.
【0027】
[発明3]
発明2の単振り子式搬送装置に加えて,本発明の単振り子式搬送装置においては,
上記直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)は,操作時間をΔt
*,操作開始時刻である区間操作開始時刻t
0*とする,上記操作区間における,上記揺れ角の時間変化である揺れ角関数θ
cr*(t
0*+t’
*)の参照軌道を,回転振動操作関数Θ
VMF*(t
0*+t’
*)によって操作を受けた回転単振動体の回転振動子の角度の時間変化である被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*)とすることで定義される.
またこの単振り子式搬送装置においては,上記直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)は,上記操作区間の操作時間Δt
*と,上記区間操作開始時刻t
0*における,上記揺れ角の目標値θ
in*と,上記揺れ角速度の目標値ω
in*=dθ
in*/dt
*と,上記操作区間の終了時刻である操作区間終了時刻t
0*+Δt
*における,上記揺れ角の目標値θ
en*と,上記揺れ角速度の目標値ω
en*=dθ
en*/dt
*と,揺れ長の基準長さL
0*と,揺れ長さの時間変化である揺れ長さ関数P
*(t
0*+t’
*)から定められる,下記(式12)で表される関数である.
【0028】
さらにこの単振り子式搬送装置においては,上記被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*)は,上記揺れ角の目標値θ
in*と,上記揺れ角速度の目標値ω
in*と,上記揺れ角の目標値θ
en*と,上記揺れ角速度の目標値ω
en*から定められる,下記(式6)で表される関数である.
またこの単振り子式搬送装置においては,上記回転振動操作関数Θ
VMF*(t
0*+t’
*)は,上記揺れ角の目標値θ
in*と,上記揺れ角速度の目標値ω
in*と,上記揺れ角の目標値θ
en*と,上記揺れ角速度の目標値ω
en*から定められる,下記(式5)で表される関数である.
さらにこの単振り子式搬送装置においては,上記直線台車軌道関数
Xtr*(t
0*+t’
*)は,上記区間操作開始時刻における,上記移動台車の位置X
tr*(t
0*)および速度V
tr*(t
0*)を初期値として,上記操作区間における上記移動台車の加速度である直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を,上記操作区間の範囲で2階時間積分することで定義される,下記(式13)で表される.
【0029】
加えてこの単振り子式搬送装置においては,上記曲線台車軌道関数は,上記揺れ角の目標値および上記揺れ角速度の目標値を好ましくは0とし,上記移動台車の速度を好ましくは一定とし,上記荷物に掛かる遠心力を,上記荷物に掛かる重力の1/10以下と小さくすることで定められることを特徴とする.
【0030】
ただし,(式12)は以下のように表され,
【数1】
(式6)は以下のように表され,
【数2】
(式5)は以下のように表され,
【数3】
(式13)は以下のように表される.
【数4】
【0031】
また、(式12),(式6),(式5),(式13)は、前記単振り子構造の固有周期を2πとして代表時間とし、前記基準長さL
0を代表長さとした無次元化関数であり、t
0*≦t’
*<t
0*+Δt
*の範囲において成り立つ.さらにpは任意の自然数であり,α
pは(式10)を満たす任意の実数である.
【数5】
【0032】
[発明4]
発明4の単振り子式搬送装置に加えて,本発明の単振り子式搬送装置においては,
上記台車位置追従制御機構は,上記台車位置関数,もしくは,上記台車速度関数,もしくは,上記台車加速度関数を演算する,演算手段を具備する.
さらに上記台車位置追従制御機構は,上記台車位置関数,もしくは,上記台車速度関数,もしくは,上記台車加速度関数をもとに生成される制御信号を発生する信号発生手段を具備する.
【0033】
また上記台車位置追従制御機構は,上記演算手段もしく
は記録手段から取得された上記台車位置関数,もしくは,上記台車速度関数,もしくは,上記台車加速度関数に従って,駆動信号を発生する駆動信号発生手段を具備する.
さらに上記台車位置追従制御機構は,上記駆動信号に従って上記移動台車の位置,もしくは,速度,もしくは,加速度を操作することで,上記台車位置関数どおりに上記移動台車の位置を追従制御できる駆動手段を具備する.
【0034】
加えて上記単振り子式搬送装置は,必要に応じて,上記揺れ長さの時間変化を表す,揺れ長さ関数に従って,上記揺れ長さを操作したり,追従制御したりすることのできる揺れ長さ調整機構を具備することを特徴とする.
【0035】
[発明5]
発明4の単振り子式搬送装置に加えて,本発明の単振り子式搬送装置は,
上記移動台車の加速度を測るセンサーと,上記移動台車の速度を測るセンサーと,上記移動台車の位置を測るセンサーを,少なくとも一つ具備する.
またこの単振り子式搬送装置は,上記揺れ角を測るセンサーと,上記揺れ角速度を測るセンサーを,少なくとも一つ具備する.
さらにこの単振り子式搬送装置は,必要であれば,上記揺れ長さを測るセンサーと,上記揺れ長さ速度を測るセンサーを,少なくとも一つ具備する.
またこの単振り子式搬送装置は,上記操作区間境界時刻における,上記移動台車の加速度と,上記移動台4車の速度と,上記移動台車の位置と,上記揺れ角と,上記揺れ角速度と,揺れ長さと,揺れ長さ速度を推定する推定手段を具備する.
【0036】
さらにこの単振り子式搬送装置は,上記直線台車軌道関数から,操作区間境界時刻における,上記移動台車の位置の目標値や,上記移動台車の速度の目標値を演算する手段を具備する.
またこの単振り子式搬送装置は,上記操作区間境界時刻における,上記移動台車の加速度と,上記移動台車の速度と,上記移動台車の位置と,上記揺れ角と,上記揺れ角速度と,上記揺れ長さの推定値と,これらの目標値の間の追従誤差である制御偏差を演算する演算手段を具備する.
さらにこの単振り子式搬送装置は,上記操作区間境界時刻前に,次の上記操作区間の上記直線台車軌道関数を補償する補償手段を具備する.
【0037】
加えてこの単振り子式搬送装置は,上記全操作時間終了後に,新たな操作区間の上記直線台車軌道関数を演算する演算手段を具備する.
これにより,この単振り子式搬送装置は,上記制御偏差に基づいて,上記直線台車軌道関数を補償したり,
補償された上記直線台車軌道関数に従って発生された,上記駆動信号に従って,上記移動台車の位置,もしくは,速度,もしくは,加速度を操作することで,誤差やノイズに強いロバストな,上記操作区間境界時刻毎にサンプル値フィードバック制御したりすることを特徴とする.
【発明の効果】
【0038】
本発明により、移動台車を駆動して昇降可能に取り付けられた荷物を初期位置から目標位置まで搬送する単振り子式搬送装置においては,水平な直線台車経路と,必要に応じて該直線台車経路を結ぶ水平な曲線台車経路から構成された水平な台車経路に従って動く移動台車における荷物の揺れに対する,フィードフォワード制御が可能となる.
【0039】
本発明による単振り子式搬送装置においては,荷物の揺れに対するフィードフォワード制御をおこなうことで,所定の操作時間毎に定められた操作区間境界時刻において,予め定めた揺れ角の目標値と,揺れ角速度の目標値を通る,揺れ角の軌道制御を実現し,揺れ角と揺れ角速度の時間変化である,揺れ角の軌道が定まる.これにより,単振り子式搬送作業における,荷物と周囲の環境との干渉を予め設計することができる.
【0040】
本発明による単振り子式搬送装置においては,揺れ角の目標値と,揺れ角速度の目標値を0と定めた操作区間境界時刻において,荷物の揺れを好ましくは0とする制振制御が可能となる.
【0041】
本発明による単振り子式搬送装置においては,揺れ角の目標値と,揺れ角速度の目標値を任意の値に定めた操作区間境界時刻において,荷物を任意に揺らす加振制御が可能となる.
本発明による単振り子式搬送装置においては,2区間制振搬送操作を用いることにより,静止位置にあった荷物を2操作区間の操作後に,任意の一定速度で制振直線搬送させる片停留制振直線搬送が可能となる.
【0042】
本発明による単振り子式搬送装置においては,2区間制振搬送操作を用いることにより,任意の一定速度で動いている荷物を2操作区間の操作後に,制振させたまま停止させる片停留制振直線搬送が可能となる.
【0043】
本発明による単振り子式搬送装置においては,2区間制振搬送操作を用いることにより,一定速度で動いている荷物を2操作区間の操作後に,別の一定速度で制振直線搬送させる無停留制振直線搬送が可能となる.
【0044】
二つの2区間制振搬送操作による片停留制振直線搬送を,定速直線搬送で結ぶことにより,任意の距離の二点間を直線で結ぶ両停留制振直線搬送が可能となる.単振り子式搬送装置の停止位置にわずかなずれが生じた場合にも,本両停留制振直線搬送を組み合わせることにより,荷物が制振した状態で位置調整ができる.
【0045】
二つの2区間制振搬送操作による無停留制振直線搬送を,定速直線搬送で結ぶことにより,任意の距離の二点間を直線で結ぶ無停留制振直線搬送が可能となる.
【0046】
二つの2区間制振搬送操作による無停留制振直線搬送を,定速曲線搬送で結ぶことにより,角度の異なる任意の二直線台車経路を曲線台車経路で結ぶ無停留制振曲がり搬送が可能となる.特に曲線台車経路に入る移動台車の速度か,曲線台車経路の曲率を小さくすることで,曲線台車経路を通る際の荷物に掛かる遠心力を小さくすることができ,曲がり搬送における揺れの発生を小さく抑えることができる.また曲線台車経路の通過前と通過後の直線搬送における速度を上げることができる
【0047】
本発明により、単振り子式搬送装置にセンサーを取り付けることにより,荷物の揺れに対するサンプル値制御が可能となる.これにより荷物の揺れは,外乱に強くなり,ロバストな制振制御が可能となる.また台車経路の経時変化に伴うずれに強い単振り子式搬送が可能となる.
【0048】
本発明により、初期位置から目標位置まで複雑な台車経路を高速制振搬送することができる単振り子式搬送装置を提供できる.これにより,工場のスペースを小さくすることができ,半導体工場等のクリーンルームに掛かるコストを引き下げられる.また搬送時間が大幅に短縮することから,単振り子式搬送装置の台数を減らすことができ,コストを引き下げられる.
【0049】
本発明における直線台車軌道関数や曲線台車軌道関数は,解析関数であり,予め定めた目標値により解析的に定まることから,単振り子式搬送装置の軌道を予め,机上で設計することができる.
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下では,図に従って,単振り子式搬送装置における,本発明の実施態様を詳細に述べる.
図1は,単振り子式搬送装置の概略図である.移動台車1は,屋内の天井(高所)や地面に設置された水平台2上を動き,移動台車1に取り付けられた支持構造3から,接続体4を通して取り付けられた荷物5が,単振り子構造を構成し,移動台車1を駆動して荷物5を初期位置から目標位置まで搬送する.接続体4は,必要に応じて揺れ長さ調整器6をもち,これによって揺れ長Lを伸縮自在とすることから,荷物5は昇降可能となり,初期位置と目標位置で荷物を積み下ろしすることができる.接続体4と鉛直線の成す角を揺れ角θ
cr*,揺れ角の時間微分を揺れ角速度dθ
cr*/dt=ω
cr*とする.また式における物理量の時間微分は,ニュートンの記法であるドット記法でも表現する.
【0052】
ここで,tは時間,t
0は区間操作開始時刻,t
‘は操作経過時間,Δtは操作時間,Mは移動台車の質量,X
trは移動台車の位置,V
tr=dX
tr/dtは移動台車の速度,A
tr=dV
tr/dt=d
2X
tr/dt
2は移動台車の加速度,Lは揺れ長(荷物が構成する単振り子の長さ),L
0は揺れ長の基準長さ,θ
crは揺れ角,ω
cr=dθ
cr/dtは揺れ角速度,mは荷物の重さ,xは荷物の振れ位置,vは荷物の振れ速度,F
fは移動台車の摩擦力,gは重力加速度である.また揺れ長さ関数はP(t
0+t’)=L/L
0で定義される.
【0053】
一方,
図2は,単振り子式搬送システムの主要構成部の平面図である.単振り子式搬送システムでは,屋内の天井(高所)や地面に設置された水平台からなる台車経路7上を移動台車1が移動することで,荷物5を始点位置8から終点位置9まで搬送する.
図3は一般的な台車経路を単純化したモデル図である.
図3に示すように,移動台車の通る一般的な台車経路7を単純化したモデルとして,角度φで表される方向の異なる長さD
Aの直線台車経路Aである10と長さD
Bの直線台車経路Bである11を,曲率半径R
Cの円弧からなる曲線台車経路Cである12で結んだ台車経路とする.より一般的な台車経路は,この単純化された台車経路をさらにつなげることで表現され,これに限定されないことは言うまでもない.さらに方向の異なる直線台車経路だけで構成される台車経路も存在し,その場合は
図3の曲線台車経路の曲率半径R
Cは0として考察する.
【0054】
単振り子式搬送装置が天井クレーンの場合,
図4に示すように,移動台車は,屋内の天井(高所)に設置されたレール13上をx軸方向に横行する基台14と,その上に乗ってy軸方向に走行する台車15によって構成される.任意の方向を向く直線台車経路16は,基台14と台車15を一定の比の速度で動かすことによって実現し,台車軌道は直線台車軌道だけで構成することも可能となる.
【0055】
一方,単振り子式搬送装置が,クリーンルーム内で天井軌道を走行するOHT(Overhead Hoist Transport)であった場合,
図3に示すように,台車経路は予め引かれたレールからなる台車経路7であり,様々な方向を持つ直線台車経路とそれらを結ぶ曲線台車経路からなり,ビークルと呼ばれる移動台車1は,時には複数台がレールである台車経路7の上を走る.
【0056】
一方,単振り子式搬送装置が,
図5に示す地面を走行する倒立振り子型車両であった場合,移動台車1は地面17を走り,台車経路は地面17を走る経路であり,様々な方向を持つ直線台車経路とそれらを結ぶ曲線台車経路からなり,移動台車1の上部には,荷物5と接続体4が置かれている.
【0057】
以下では,移動台車1が直線台車経路を動く場合について,
図1で示されたモデルを使って台車や荷物の運動や軌道を議論する.
【0058】
直線台車経路上を動く単振り子式搬送装置の荷物の運動方程式をラグランジュの運動方程式から求めると以下のようになる。
【数6】
【0059】
この式(1)を√(L
0/g)を代表時間、L
0を代表長さ、単位質量を代表質量として無次元化を行うと,
【数7】
と変形される。
【0060】
一方,PCT出願WO2014126177A1にも示されているように,線形一体振動子の根元に振動操作関数を作用させた場合,一体振動子の質量の位置や速度は,操作時間である一体振動子の固有周期後に,任意の位置や任意の速度に操作することができる.同様の計算から,操作時間が任意である場合の振動操作関数も導くことができる.
【0061】
これらの振動操作関数は,回転振動体18においても同様に成り立つ.いま
図6に根元に強制回転を与える回転振動体の概略図を示す.
図6に示すように,区間操作開始時刻t
0*からt
0*+Δt
*の間に,回転の根元19が強制回転Θ
r(t
0*+t’
*)を受けるような,慣性モーメントI,慣性モーメントの角度がθ
r(t
0*+t’
*)となる,回転バネを考える.この回転バネに減衰がないとすると,回転バネの回転の運動方程式は,下記の(式3)で表される.また一体振動系の運動方程式を代表時間、代表質量で無次元化すると,回転バネの回転の運動方程式は,下記(式4)と表される.ここで,上付きで“*”がついた物理量は無次元化量を示す。
【数8】
【数9】
【0062】
操作区間t
0*≦t’
*<t
0*+Δt
*の間に,この回転バネの根元の強制回転として,回転における振動操作関数に相当する,下記(式5)で表される回転振動操作関数Θ
VMF*(t
0*+t’
*)を加えた場合,回転バネの慣性モーメントの角度は,下記(式6)で表される被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*)に従って時間変化する.このことは,単純に(式7)の微分方程式の解として,これらの関数が満足し,この微分方程式が成り立つことから確かめられる.
【数10】
【数11】
【数12】
【0063】
ここでΘ
0*,Ω
0*=dΘ
0*/dt
*は,区間操作開始時刻t
0*における強制角変位量の初期角度および初期角速度を、θ
in*,ω
in*=dθ
in*/dt
*は,区間操作開始時刻t
0*における振動体の初期角度および初期角速度を、θ
en*,ω
en*=dθ
en*/dt
*は,操作終了時間t
0*+Δt
*における回転振動体の目標角度および目標角速度を表す。以下,簡便のため,本発明においてはΘ
0*=Ω
0*=0として振動体の角度の軌道を設計するが,移動台車の加速度を調整するために,必要に応じて別の値にしてもよいことは,言うまでもない.
【0064】
またω
+は以下の(式8)によって,ω
-は以下の(式9)によって表される.
【数13】
【数14】
ここでpは任意の自然数である.
【0065】
α
pは,(式10)を満たす任意の実数であるが,被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*)を複雑にしないためにも,α
1=1,α
p≠1=0が好ましいが,必要に応じて任意の組み合わせにしても良いことは,言うまでもない.
【数15】
【0066】
他方,本発明においては,
図1の単振り子式搬送装置操作において,区間操作開始時刻t
0*から操作終了時間t
0*+Δt
*の操作時間Δtの間に,移動台車の軌道を変化させることで,操作終了時間における荷物の揺れ角θ
cr(t
0*+Δt
*)と荷物の揺れ角速度ω
cr(t
0*+Δt
*)を目標値になるように制御したい.
【0067】
いま,単振り子式搬送装置における直線台車経路上の移動台車の軌道を変化させることで,揺れ角の時間変化θ
cr(t
0*+t’
*)が,被回転振動操作関数θ
VMF* (t
0*+t’
*)に従うように操作できたとする.つまり,揺れ角の時間変化θ
cr(t
0*+t’
*)の参照軌道を被回転振動操作関数θ
VMF* (t
0*+t’
*)とすることで,以下の(式11)が成り立つ.
【数16】
【0068】
よって.区間操作開始時刻t
0*における揺れ角はθ
in*,揺れ角速度はω
in*=dθ
in*/dt
*,操作終了時間t
0*+Δt
*における揺れ角はθ
en*、揺れ角速度はω
en*=dθ
en*/dt
*となり,荷物の揺れ角θ
cr(t
0*+t’
*)を目標値通りに動かすことができる.
【0069】
揺れ角の時間変化θ
cr(t
0*+t’
*)を,参照軌道である被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*)に従うようにするには,単振り子式搬送装置の荷物の運動方程式(式2)のθ
cr(t
0*+t’
*)に,θ
VMF*(t
0*+t’
*)と,予め定めた揺れ長さ関数P(t
0*+t’
*)を代入して求まる,操作時間の間の移動台車の加速度である(式12)の直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を操作すればよい.ただし,(式12)を求める際,(式4)の関係を使用した.
【数17】
【0070】
任意の操作区間における回転振動操作関数Θ
VMF*(t
0*+t’
*)は,時間t
0*+t’
*ばかりではなく,操作時間Δt
*と,区間操作開始時刻t
0*における揺れ角の目標値θ
in*と揺れ角速度の目標値ω
in*と,区間操作終了時刻t
0*+Δt
*における揺れ角の目標値θ
en*と揺れ角速度の目標値ω
en*のパラメータによって定まることから,以下では必要に応じて,回転振動操作関数をΘ
VMF*(t
0*+t’
*,Δt
*,θ
in*,ω
in*,θ
en*,ω
en*)と明示する.
【0071】
任意の操作区間における被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*)は,時間ばかりではなく,操作時間Δt
*と,区間操作開始時刻t
0*における揺れ角の目標値θ
in*と揺れ角速度の目標値ω
in*と,区間操作終了時刻t
0*+Δt
*における揺れ角の目標値θ
en*と揺れ角速度の目標値ω
en*のパラメータによって定まることから,以下では必要に応じて,被回転振動操作関数をθ
VMF*(t
0*+t’
*,Δt
*,θ
in*,ω
in*,θ
en*,ω
en*)と明示する.
【0072】
また,同じ条件において,任意の操作区間における直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)は,時間t
0*+t’
*ばかりではなく,操作時間Δt
*と,区間操作開始時刻t
0*における揺れ角の目標値θ
in*と揺れ角速度の目標値ω
in*と,区間操作終了時刻t
0*+Δt
*における揺れ角の目標値θ
en*と揺れ角速度の目標値ω
en*と,揺れ長さ関数のパラメータβ
iによって定まることから,以下では必要に応じて,直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*,Δt
*,θ
in*,ω
in*,θ
en*,ω
en*,β
i)と明示する.
【0073】
一方,操作時間の間の移動台車の位置変化である直線台車軌道関数X
tr*(t
0*+t’
*)は,区間操作開始時刻t
0*における移動台車の位置X
tr*(t
0*)および速度V
tr*(t
0*)を初期値として,直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を,操作区間の範囲で2階時間積分することで定義され,(式13)のように示される.
【数18】
【0074】
一方,操作時間の間の移動台車の速度変化である直線台車速度関数V
tr*(t
0*+t’
*)は,区間操作開始時刻t
0*における移動台車の速度V
tr*(t
0*)を初期値として,直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を,操作区間の範囲で1階時間積分することで定義され,(式14)のように示される.
【数19】
【0075】
ここで,区間操作開始時刻t
0*における移動台車の速度V
tr*(t
0*)は,t
0*以前の直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を,始点位置における区間操作開始時刻である,始点操作開始時刻t
*=0からt
0*までの範囲において,1階時間積分することで定義され,(式15)のように示される.
【数20】
【0076】
一方,区間操作開始時刻t
0*における移動台車の位置X
tr*(t
0*)は,t
0*以前の直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を,始点操作開始時刻t
*=0からt
0*までの範囲において,2階時間積分することで定義され,(式16)のように示される.
【数21】
【0077】
よって,直線台車経路上のΔt
*の操作時間をもつ任意の操作区間において,区間操作開始時刻t
0*における揺れ角θ
in*,揺れ角速度ω
in*を,操作終了時間t
0*+Δt
*において揺れ角θ
en*、揺れ角速度ω
en*にする移動台車の直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)をA
tr*(t
0*+t’
*,Δt
*,θ
in*,ω
in*,θ
en*,ω
en*,β
i)と表す.
【0078】
同様に,直線台車経路上のΔt
*の操作時間をもつ任意の操作区間において,区間操作開始時刻t
0*における移動台車の位置がX
tr*(t
0*),速度がV
tr*(t
0*)である場合,区間操作開始時刻t
0*における揺れ角θ
in*,揺れ角速度ω
in*を,操作終了時間t
0*+Δt
*において揺れ角θ
en*、揺れ角速度ω
en*にする移動台車の直線台車軌道関数X
tr*(t
0*+t’
*)を, X
tr*(t
0*+t’
*,Δt
*,θ
in*,ω
in*,θ
en*,ω
en*,β
i,X
tr*(t
0*),V
tr*(t
0*))と表す.
【0079】
同様に,直線台車経路上のΔt
*の操作時間をもつ任意の操作区間において,区間操作開始時刻t
0*における移動台車の速度がV
tr*(t
0*)である場合,区間操作開始時刻t
0*における揺れ角θ
in*,揺れ角速度ω
in*を,操作終了時間t
0*+Δt
*において揺れ角θ
en*、揺れ角速度ω
en*にする移動台車の直線台車速度関数V
tr*(t
0*+t’
*)を,V
tr*(t
0*+t’
*,Δt
*,θ
in*,ω
in*,θ
en*,ω
en*,β
i,V
tr*(t
0*))と表す.
【0080】
本発明においては,以上の式により,直線台車経路上の単振り子式搬送装置操作において,各操作区間境界時刻における荷物の揺れ角や揺れ角速度,揺れ長さや揺れ長さ速度を任意の目標値になるように制御するための,移動台車の軌道である直線台車軌道関数や直線台車速度関数が定まる.数値積分等の複雑な演算が必要であるものの,現在の数値計算器の性能からは運転に十分な速度で,直線台車軌道関数や直線台車速度関数を演算することができる.
【0081】
単振り子式搬送装置において,揺れ角が小さく,揺れ長さを変化させない場合,揺れ角速度も,三角関数による非線形性も,ほとんど無視できることから,上記の物理量は近似により解析的に表される.以下では,これらの解析式を導く.
【0082】
(式12)で表される直線台車加速度関数
Atr*は,以下に示す(式17)のように近似できることから,近似された直線台車加速度関数
Atr*’は回転振動操作関数Θ
VMF*(t
0*+t’
*)に負の揺れ長さ関数(−P(t
0*))を掛けたものになり,(式5)より解析的に定まる.
【数22】
【0083】
同様に,(式13)で表される直線台車軌道関数X
tr*は近似できることから,近似された直線台車軌道関数X
tr*’は,以下に示す(式18)のように解析的に定まる.
【数23】
【0084】
同様に,(式14)で表される直線台車速度関数V
tr*は,以下に示す(式19)のようにV
tr*’に近似できることから,解析的に定まる.
【数24】
【0085】
以上のように,本発明においては,直線台車経路上の単振り子式搬送装置操作において,荷物の揺れ角や揺れ角速度が十分に小さく,揺れ長さを変化させない場合,各操作区間境界時刻において,これらの値を目標値になるように制御するための,移動台車の軌道である直線台車軌道関数や直線台車速度関数は解析的に定まり,荷物の揺れ角や揺れ角速度が大きい場合に必要な数値積分等の複雑な演算を必要としない.
【0086】
次に,直線台車経路上を荷物の揺れがなく,停止もしくは一定速度で動いている移動台車に対して,連続した第一操作区間と第二操作区間からなる二操作区間の操作によって,移動台車に一定の速度変化を与える,二区間制振搬送操作を説明する.この二区間制振搬送操作と,移動台車の速度を一定とする定速搬送操作を組み合わせることにより,移動台車および荷物を一定距離搬送した後に,荷物の揺れを制振したまま,上記移動台車を静止もしくは定速運動とすることができる.
【0087】
二区間制振搬送操作においては,以下の条件を満たすように,直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を設計する.いま,第一操作区間の操作区間開始時刻のt
*=t
0*の直前の状態において,揺れ角と揺れ角速度は0であり,移動台車の位置がX
tr*(t
0*),移動台車の速度がV
tr*(t
0*)で定速搬送していたとする.
【0088】
次の第一操作区間の操作区間終了時刻t
0*+Δt
1*において,揺れ角の目標値をθ
cr(t
0*+Δt
1*)=ζ
1≠0,揺れ角速度の目標値を0とする.すると,第一操作区間における揺れ角は,被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+t’
*,Δt
1*,θ
in*=0,ω
in*=0,θ
en*=ζ
1,ω
en*=0)に従った軌道を描く.
【0089】
さらに直後の第二操作区間の操作区間終了時刻t
0*+Δt
1*+Δt
2*において,揺れ角の目標値および揺れ角速度の目標値を0とする.すると,第二操作区間における揺れ角は,被回転振動操作関数θ
VMF*(t
0*+Δt
1*+t’
*,Δt
2*,θ
in*=ζ
1,ω
in*=0,θ
en*=0,ω
en*=0)に従った軌道を描く.これにより,二区間制振搬送操作終了後の荷物の揺れは抑えられる.
【0090】
一方,二区間制振搬送操作直後の移動台車の速度V
tr*(t
0*+Δt
1*+Δt
2*)は以下の(式20)によって表され,この操作によって速度が,V
tr*(t
0*+Δt
1*+Δt
2*)−V
tr*(t
0*)だけ変化することが分かる.
【数25】
【0091】
一方,二区間制振搬送操作直後の移動台車の位置X
tr*(t
0*+Δt
1*+Δt
2*)は以下の(式21)によって表され,この操作によって位置が,X
tr*(t
0*+Δt
1*+Δt
2*)−X
tr*(t
0*)だけ変化することが分かる.
【数26】
【0092】
次に,直線台車経路上で,t
*=t
0*の時刻において,X
tr*(t
0*)の位置で停止している(V
tr*(t
0*)=0)移動台車に対して,二区間制振搬送操作による加速操作(二区間制振加速操作)によって,移動台車に荷物の揺れなく一定の速度を与え,その後,この速度で荷物の揺れなく定速搬送操作させ,最後に二区間制振搬送操作による減速操作(二区間制振減速操作)によって,荷物の揺れなく移動台車を停止させることで,一定距離Dを制振搬送させる,定距離制振搬送操作を行う.この際,定距離制振搬送操作に掛かる全操作時間をt
d*とする.t
d*は,後から述べるように,全体の設計が決まらなければ,定まらない.また最初の状態が停止状態ではなく,一定速度で動いている(V
tr*(t
0*)≠0)状態でも適応可能であることは,言うまでもない.
【0093】
最初の二区間制振加速操作のうち,第一操作区間の操作時間をΔt
1_1*,第二操作区間の操作時間をΔt
2_1*,それらの間の操作区間境界時刻における揺れ角の目標値をθ
cr(t
0*+Δt
1_1*)=ζ
1≠0とする.また最後の二区間制振減速操作のうち,第一操作区間の操作時間をΔt
1_2*,第二操作区間の操作時間をΔt
2_2*,それらの間の操作区間境界時刻における揺れ角の目標値をθ
cr(t
d*−Δt
2_2*)=ζ
2≠0とする.
【0094】
最初の二区間制振加速操作直後の移動台車の速度は(式20)より,V
tr*(t
0*+Δt
1_1*+Δt
2_1*)となる.また最初の二区間制振加速操作による移動台車の位置の変化量は(式21)より,X
tr*(t
0*+Δt
1*+Δt
2*)−X
tr*(t
0*)となる.
【0095】
また最後の二区間制振加速操作による移動台車の位置の変化量は(式21)より,X
tr*(t
d*)−X
tr*(t
d*−Δt
2_1*−Δt
2_2*)となる.
【0096】
よって,定速搬送操作が必要な距離は, D-(X
tr*(t
0*+Δt
1_1*+Δt
2_1*)−X
tr*(t
0*))−(X
tr*(t
d*)−X
tr*(t
d*−Δt
1_2*−Δt
2_2*))=X
tr*(t
d*−Δt
1_2*−Δt
2_2*)−X
tr*(t
0*+Δt
1_1*+Δt
2_1*)となる.定速搬送操作における移動台車の速度がV
tr*(t
0*+Δt
1_1*+Δt
2_1*)となることから,定速搬送操作に掛かる操作時間t
c*は(式22)のように定まり,定距離制振搬送操作に掛かる全操作時間t
d*は(式23)のように定まる.
【数27】
【数28】
【0097】
一方,最後の二区間制振加速操作後の移動台車は停止しなければならないことから,その速度はV
tr*(t
d*)=0とならなければならない.よって,定距離制振搬送操作おける全操作時間移動台車の速度の間には,V
tr*(t
0*+Δt
1_1*+Δt
2_1*)=−V
tr*(t
d*−Δt
2_1*−Δt
2_2*)の関係式が成り立たなければならない.よって,V
tr*(t
0*)=V
tr*(t
d*)=0および(式20)の条件式より,以下の(式24)の関係式が成り立つ必要がある.
【数29】
【0098】
上記の(式24)は,その十分条件として,以下の三式である(式25)と(式26)と(式27)に分けることができる.ただし,ここではこれらの式が二区間制振搬送操作の一区間であることを添え字によって表している.
【数30】
【数31】
【数32】
【0099】
(式12)より,上記の十分条件は次の(式28)〜(式33)ように表現される.
【数33】
【数34】
【数35】
【数36】
【数37】
【数38】
【0100】
回転振動操作関数および被回転振動操作関数の定義式((式5),(式6))より,(式28)〜(式31)は,二区間制振搬送操作の条件に加えて,以下の条件において成り立つ.
【数39】
【0101】
以上の考察により,(式25),(式34)および(式28)〜(式33)が成り立つように移動台車の二区間制振加速操作と二区間制振減速操作を設計し,さらに(式22)が成り立つように定速搬送操作を設計することで,停止状態から停止状態までの制振搬送が可能な定距離制振搬送操作が実現する.
【0102】
次に以下では,移動台車1が曲線台車経路を動く場合について,
図3で示された一般的な台車経路を単純化したモデルを使って台車や荷物の運動や軌道を議論する.
【0103】
図3に示すように,10である直線台車経路Aを通った移動台車1が,区間操作開始時刻t
0*において,直線台車経路Aと曲率半径R
Cの円弧である12の曲線台車経路Cの境界位置E
1にいたとする.この時,移動台車1の速度をV
tr*(t
0*)とし,曲線台車経路Cを,この速度で一定に動いたとすると,移動台車5は,動径方向に(式35)で示す遠心力を受ける.
【数40】
【0104】
また区間操作開始時刻t
0*において,揺れ角θ
cr(t
0*+t’
*)や揺れ角速度ω
cr(t
0*+t’
*)が0でなかった場合,回転によって揺れの方向が進行方向とは違う方向に向いてしまう.これら両者とも,生じる荷物の揺れは,直線台車経路の進行方向の直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)では制振できないことから,遠心力を重力に比べてなるべく小さくする必要がある.そため例えば遠心力を重力の1/10以下にする必要がある.
【0105】
そこで,以下の二点について留意して,直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)の設計を行う.
まず最初に,直線台車経路Aと曲線台車経路Cの境界位置E
1においては,揺れ角θ
cr(t
0*+t’
*)や揺れ角速度ω
cr(t
0*+t’
*)が好ましくは0となるように,区間操作開始時刻t
0*までの直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を設計する.つまり,直線台車経路Aの最後の操作において,操作終了時間t
0*における揺れ角θ
en*=0、揺れ角速度ω
en*=0となるように,(式12)の直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を設計する.
【0106】
次に,直線台車経路Aと曲線台車経路Cの境界位置E
1における移動台車の速度V
tr*(t
0*)が不都合がない程度に小さくなるように,区間操作開始時刻t
0*までの直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を設計する.つまり,直線台車経路Aの最後と最後から二つ目の操作によって,操作終了時間t
0*における移動台車の速度V
tr*(t
0*)<<1となるような2区間制振搬送操作を実現するように,直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を設計するか,曲率半径R
Cを十分に大きくとる.
【0107】
本発明においては,以上の式により,曲線台車経路上の単振り子式搬送装置操作において,荷物の揺れ角や揺れ角速度を制振させたまま,曲線台車経路上を一定速度で,大きな遠心力を与えることなく荷物を移動させる曲線台車軌道関数が定まる.これにより,荷物の搬送方向を任意に変化させることができる.
【0108】
以上のように,始点位置から終点位置までに通る直線台車経路および曲線台車経路上の全ての操作区間における直線台車軌道関数と曲線台車軌道関数を定めることで,各操作区間において移動台車の位置の目標値の時間変化である台車位置関数が決まる.また台車位置関数の時間一階微分として台車速度関数が,台車位置関数の時間二階微分として台車加速度関数が決まる.
【0109】
一方,本発明の単振り子式搬送装置においては,
図7に示すような,移動台車の位置や速度や加速度が,台車位置関数や台車速度関数や台車加速度関数を追従制御する台車位置追従制御機構を必要とする.
【0110】
この台車位置追従制御機構は,移動台車1を駆動できる駆動手段20と,この駆動に必要な駆動信号を,台車位置関数や台車速度関数や台車加速度関数に従って発生させる駆動信号発生手段21と,この駆動信号発生手段が参照する操作区間毎の台車位置関数や台車速度関数や台車加速度関数を演算する演算手段22と,台車位置関数や台車速度関数や台車加速度関数を演算するのに必要な,予め定めた各操作区間境界時刻における各目標値を記憶する記憶手段23と,これらを駆動させる電源24からなる.
【0111】
また本発明の単振り子式搬送装置においては,必要に応じて,
図8に示すような,揺れ長さ調整機構を持つ.
【0112】
この揺れ長さ調整機構は,荷物5と支持構造3が構成する単振り子の長さである接続体4の長さを,揺れ長さ関数P(t
0+t’)に従って追従制御することのできる揺れ長さ調整器6を持ち,必要に応じて,駆動手段に必要な駆動信号を,揺れ長さ関数P(t
0+t’)に従って発生させる揺れ長さ調整器の駆動信号発生手段25や,この駆動信号発生手段が参照する操作区間毎の揺れ長さ関数を演算する演算手段26や,揺れ長さや揺れ長さ速度の目標値を記憶する記録手段27や,これらを動かす電源24を付属する.
【0113】
移動台車の位置を追従制御できる駆動手段は,それを構成するアクチュエータの種類に依存して,追従する操作対象が位置だったり,速度だったり,加速度だったりする. またアクチュエータの種類に応じて,異なる駆動信号発生手段を用意する必要がある.またアクチュエータの種類に応じて,移動台車において追従制御する操作対象を測るセンサー28が必要だったりする.
【0114】
揺れ長さを操作できる駆動手段は,それを構成するアクチュエータの種類に依存して,追従する操作対象が位置だったり,速度だったり,加速度だったりする. またアクチュエータの種類に応じて,異なる駆動信号発生手段を用意する必要がある.また必要な場合においては,アクチュエータの種類に応じて,揺れ長さにおいて追従する操作対象を測るセンサー29を用意する.
【0115】
これにより,操作時間毎に揺れ角や揺れ角速度を,好ましくは目標値通りにフィードフォワード制御しながら,移動台車と荷物を始点位置から終点位置まで,フィードフォワード制御下で搬送することを特徴とする単振り子式搬送装置が得られる.
【0116】
一方,駆動信号や駆動手段に生じる誤差や,外部からのノイズが多く発生する環境においては,操作時間毎にずれをフィードバックして,直線台車軌道関数を補償するサンプル値フィードバック制御を行う必要がある.
【0117】
本発明の単振り子式搬送装置をサンプル値フィードバック制御するためには,被制御振動体である荷物と支持構造からなる単振り子構造の揺れ角θ
cr*や揺れ角速度ω
cr*の実際の値と目標値との制御偏差と,制御体である移動台車の位置X
tr*と速度V
tr*と加速度A
tr*の実際の値と目標値との制御偏差を評価する必要がある.
【0118】
そこで,
図9にブロック線図に表されるような,サンプル値フィードバック制御機構を用いる.このサンプル値フィードバック制御機構は,被制御対象である移動台車1や振り子をなす接続体4や荷物5からなるプラント30と,プラントからの連続時間信号であるプラント出力31と,プラント出力をサンプリング周期Δt’でサンプリングするサンプラ32と,サンプラから出力される離散時間信号であるサンプラ出力33と,サンプラ出力から各操作区間境界時刻である操作時間Δt毎の推定値を演算する離散時間補償器34と,離散時間補償器から出力される離散時間信号である揺れ角θ
cr*や揺れ角速度ω
cr*や移動台車の位置X
tr*や速度V
tr*や加速度A
tr*や揺れ長さP
*の推定値35と,参照器36から出力される各操作区間境界時刻において定義される離散時間信号である揺れ角θ
cr*や揺れ角速度ω
cr*や移動台車の位置X
tr*や速度V
tr*や加速度A
tr*や揺れ長さP
*の参照入力37と,これら参照入力37と先ほどの推定値35の離散制御偏差40を基に演算するホールド39と,プラント30を制御する直線台車軌道関数X
tr*(t
0*+t’
*)や直線台車速度関数V
tr*(t
0*+t’
*)や直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)や揺れ長さ関数
P*(t
0*+t’
*)からなる,ホールド39から出力される連続時間信号である制御信号38とから構成される.
【0119】
本発明におけるサンプル値フィードバック制御をおこなう単振り子式搬送装置においては,
図10に示されるような,各操作区間境界時刻において定義される,揺れ角θ
cr*や揺れ角速度ω
cr*や位置X
tr*や速度V
tr*や加速度A
tr*や揺れ長さP
*の目標値,等を測るためのセンサーを必要とする.この場合,単振り子式搬送装置においては,揺れ角センサー41や,揺れ角速度センサー42や,移動台車の加速度や速度や位置などの追従制御する操作対象を測るセンサー28や,揺れ長さにおいて追従する操作対象を測るセンサー29を取り付け,これらの値から,操作区間境界時刻毎のこれらの実際の値を推測して,離散制御偏差40を評価すればよい.またそれらの値を用いて,操作区間境界時刻毎に直線台車軌道関数を補償したり,新たな操作を加えることで,誤差やノイズに強いロバストな,単振り子式搬送装置のサンプル値フィードバック制御が実現する.
【0120】
例えば,駆動信号や駆動手段に生じる誤差や,外部からのノイズによって,実際の揺れ角や揺れ角速度が目標値とずれた場合,全てもしくは特定の操作区間において,その次の操作区間における区間操作開始時刻の実際の揺れ角θ
es*や揺れ角速度ω
es*を推定し,その時刻における揺れ角や揺れ角速の目標値であるθ
in*やω
in*と,これら推定値を取り換えることで,次の操作区間における直線台車軌道関数X
tr*(t
0*+t’
*)は,(式13)に従って補償される.
【0121】
直線台車軌道関数の補償手段は,次の操作区間における区間操作開始時刻までに,(式13)に従って次の操作区間の直線台車軌道関数X
tr*(t
0*+t’
*)を演算する.この補償された直線台車軌道関数が定める移動台車の位置に従って,駆動手段を使って移動台車を追従制御させることにより,揺れ角や揺れ角速度における実際の値と目標値とのずれを小さくすることができる.
【0122】
一方,駆動信号や駆動手段に生じる誤差や,外部からのノイズによって,全操作時間終了後に,実際の移動台車の速度が目標値とずれた場合,新たな操作区間を設定し,二区間制振搬送操作を行うことで,移動台車の速度のずれを補償することができる.
【0123】
他方,駆動信号や駆動手段に生じる誤差や,外部からのノイズによって,全操作時間終了後に,実際の移動台車の位置が目標値とずれた場合,新たな操作区間を設定し,ずれた距離分の定距離制振搬送操作を行うことで,位置のずれを補償することができる.
【0124】
次に,外乱が存在する場合において,単振り子式搬送装置の位置を変えない定位置制振制御を,サンプル値フィードバック制御を用いておこなう.この際,荷物の揺れは小さく,直線台車加速度関数は,線形近似したものが使用できるものとする.
【0125】
具体的な制御方法として、時間で移動台車の位置、速度がX
tr*(t
0*),V
tr*(t
0*)でかつ、荷物の振れ角がθ
in_1*、角速度がω
in_1*=dθ
in_1*/dt
*であった際、最初の制御時間Δt
*である角度θ
en_1*、ある角速度ω
en_1*=dθ
en_1*/dt
*に制御し、その直後の次の制御時間Δt
*で角度0、角速度0となるように制御を行う。その際、制御後の移動台車の位置、速度をX
tr*(t
0*+Δt
*)、V
tr*(t
0*+Δt
*)とし、制御前と制御後の移動台車の位置、速度の変化量がそれぞれΔX
tr_op*、ΔV
tr_op*であったとする.θ
en_1*、ω
en_1*の値をθ
in_1*、ω
in_1*、ΔX
tr_op*、ΔV
tr_op*、Δt
*から求め、制御時間2Δt
*ごとに移動台車の位置、速度を任意に設定しながら振動を除去する制御を考える。
【0126】
この制御を行うためにθ
en_1*、ω
en_1*の値の設定方法を導出する。まず、移動台車の初期速度が0、初期位置が0であった場合の振動操作一回後の位置、速度を求める。この時、単純化のため、Θ
0*、Ω
0*は0、ω
+=3π/Δt
*、ω
-=π/Δt
*として、(式36)と(式37)を得る。
【0129】
次に制御時間2Δt
*での移動台車の速度変化について考える。ΔV
tr_op*は(式37)で定義され、(式35)を用い、時間t
0*での移動台車の初期加速度を0した時、ΔV
tr_op*は(式38)のように表される。
【数43】
【数44】
【0130】
この(式39)をθ
en_1*について解くと以下の(式40)ようになり、θ
en_1*の方程式が導出される。
【数45】
ただし,Λは(式41)で表される.
【数46】
【0131】
最後に制御時間2Δt
*での移動台車の位置変化について考える。ΔX
tr_op*は(式42)で定義され、(式37)を用い、時間t
0*での移動台車の初期加速度を0した時、ΔX
tr_op*は(式43)のように表される。
【数47】
【数48】
【0132】
この(式43)をθ
en_1*ついて解くと以下の(式44)ようになる。
【数49】
【0133】
よって、(式40)、(式44)より制御開始時のパラメータと制御中の移動台車の位置、速度の変位量よりθ
en_1*及びω
en_1*=dθ
en_1*/dt
*が求められた。ここで例えば2回の操作後の移動台車の位置と速度を最初の位置と速度に戻したとする場合,ΔX
tr_op*(t
0*)=0,ΔV
tr_op*(t
0*)=0の条件から,1回の操作後の目標振れ角θ
en_1*と目標振れ角速度ω
en_1*が定まる.
【実施例1】
【0134】
単振り子式搬送装置が,直線台車経路上において,荷物と支持構造からなる単振り子が一定振幅で揺れていた場合,直線台車加速度関数に従って,移動台車に加速度を与えることにより,揺れ角や揺れ角速度を0にすることができる.以下では,Runge-Kutta法を用いた数値シミュレーションによって一回の制振操作の検証を行った。(式14)より,一回の操作で揺れ角速度は変化しないことから,一回の操作で荷物の揺れを止めるためには,揺れている荷物の揺れ角速度が0となる,揺れ角が最大となる振り切った位置で操作を開始させなければならない.
【0135】
揺れ長さ関数Pは操作者が任意に設定できることから、ここでは定距離制振搬送操作が可能なように(式32)の条件を満たすように,振動操作開始時t
*=t
0*のPの値をP
1、振動操作終了後t
*=t
0*+Δt
*のP値をPの値をP
2とし、以下の(式45)にしたがって振動操作中に滑らかに変化させることとした。
【数50】
【0136】
操作の間,揺れ長さが変化せず,操作時間がΔt
*=2πであった場合について,一回の制振操作を考える.一回の操作区間における区間操作開始時刻において,揺れ角がθ
in*=1,揺れ角速度がω
in*=0であった場合,操作時間終了後に荷物を制振するように,(式12)により直線台車加速度関数
Atr*(t
0*+t’
*)を定める.この直線台車加速度関数に従って,移動台車に加速度を与えることにより,
図11に示すように,Δt
*=2π後,揺れ角はθ
in*=0,揺れ角速度はω
in*=0となった.
【0137】
次に操作の間,揺れ長さが変化せず,操作時間がΔt
*=0.9πであった場合について,一回の制振操作を考える.一回の操作区間における区間操作開始時刻において,揺れ角がθ
in*=1,揺れ角速度がω
in*=0であった場合,操作時間終了後に荷物を制振するように,(式12)により直線台車加速度関数を定める.この直線台車加速度関数に従って,移動台車に加速度を与えることにより,
図12に示すように,Δt
*=0.9π後,揺れ角はθ
in*=0,揺れ角速度はω
in*=0となった.
【0138】
一方,P
1=1,P
2=0.5とし,一回の操作によって揺れ長さが半分になるように変化させた場合の一回の制振操作を考える.また操作時間をΔt
*=2πとする.一回の操作区間における区間操作開始時刻において,揺れ角がθ
in*=1,揺れ角速度がω
in*=0であった場合,操作時間終了後に荷物を制振するように,(式12)により直線台車加速度関数を定める.この直線台車加速度関数に従って,移動台車に加速度を与えることにより,
図13に示すように,Δt
*=2π後,揺れ角はθ
in*=0,揺れ角速度はω
in*=0となった.
【0139】
同様に,一回の操作によって揺れ長さが半分になるように変化させ,操作時間をΔt
*=0.9πとした場合の一回の制振操作を考える.一回の操作区間における区間操作開始時刻において,揺れ角がθ
in*=1,揺れ角速度がω
in*=0であった場合,操作時間終了後に荷物を制振するように,(式12)により直線台車加速度関数を定める.この直線台車加速度関数に従って,移動台車に加速度を与えることにより,
図14に示すように,Δt
*=0.9π後,揺れ角はθ
in*=0,揺れ角速度はω
in*=0となった.
【0140】
以上のように,任意の操作時間において,揺れ長さの変化の有無に関わらず,荷物の揺れをなくすように移動台車を制御できることが分かった.ここで示した移動台車の直線台車加速度関数は,区間操作開始時刻において不連続に変化するが,Θ
0*やΩ
0*を適切に選ぶことで,移動台車の加速度の不連続性は緩和できる.
【実施例2】
【0141】
直線台車経路上において,移動台車および荷物の揺れが停止していた.この台車をt
*=t
0*の時刻において起動させて荷物を一定の搬送距離Dだけ搬送させ,移動台車および荷物の揺れを再び停止させる定距離制振搬送操作をおこないたい.
【0142】
定距離制振搬送操作では,前述したように,二区間制振搬送操作による加速操作(二区間制振加速操作)によって,移動台車に荷物の揺れなく一定の速度を与え,その後,この速度で荷物の揺れなく定速搬送操作させ,最後に二区間制振搬送操作による減速操作(二区間制振減速操作)によって,荷物の揺れなく移動台車を停止させることで,一定距離Dを制振搬送させる.
【0143】
以下では実際に理論通りの制御を行うことができるかRunge-Kutta法を用いた数値シミュレーションを行う。ここでは最も単純である、単振り子式搬送装置の基本操作となる停止状態からの加速、定速走行、定速走行からの停止操作をおこなう場合について,以下のステップを用いて数値シミュレーションした。
【0144】
まず,操作開始時刻t
*=t
0*において,X
tr*(t
0*)=0,V
tr*(t
0*)=0,θ
cr(t
0*)=0,ω
cr(t
0*)=0の停止状態の単振り子式搬送装置を考える.最初に二区間制振加速操作を与え,単振り子式搬送装置を加速させる.二区間制振加速操作のうち,第一操作区間の操作時間をΔt
1_1*,第二操作区間の操作時間をΔt
2_1*,それらの間の操作区間境界時刻における揺れ角の目標値をθ
cr(t
0*+Δt
1_1*)=ζ
1≠0とする。
【0145】
次に,荷物を制振させたまま移動台車を定速走行させる。後で示すような減速操作で停止する際に移動する距離を予め計算し、定速搬送時の移動時間t
c*算出する.これにより,定距離制振搬送操作に掛かる全操作時間をt
d*が定まる.
【0146】
最後に,二区間制振減速操作により,操作終了時刻t
*=t
d*において,単振り子式搬送装置を,X
tr*(t
d*)=D,V
tr*(t
d*)=0,θ
cr(t
d*)=0,ω
cr(t
d*)=0の停止状態とする.定速移動時間t
c*経過後、最後の二区間制振減速操作のうち,第一操作区間の操作時間をΔt
1_2*,第二操作区間の操作時間をΔt
2_2*,それらの間の操作区間境界時刻における揺れ角の目標値をθ
cr(t
d*−Δt
2_2*)=ζ
2≠0とする。
【0147】
一方,二区間制振加速操作における第一操作区間の揺れ長さ関数Pを定距離制振搬送操作が可能なように(式32)の条件を満たすように定義する.揺れ長さ関数Pの変化は,以下のシミュレーションの結果に示すこととし,詳細は省略する.
【0148】
以下にシミュレーションの結果を示す。Δt
1_1*=Δt
2_1*=Δt
1_2*=Δt
2_2*=0.9π,ζ
1=ζ
2=0.1,D=10.0とした場合の,定距離制振搬送操作の数値シミュレーションを
図15に示す.
【0149】
これらシミュレーションの結果から、停止状態からの加速、定速移動、目標位置での停止を達成しており、その際に残留振動も生じていないことから、単振り子式搬送装置の最適軌道を決定する際に振動操作関数を用いることは有効であるといえる。
【0150】
また、様々に操作時間を変えた数値シミュレーションの結果から、実際に軌道設計する際には、直線台車加速度関数
Atr(t
0*+t’
*)の形状に影響を与えやすいΔt
*に関しては、加減速操作で速度が比較的階段状に変化しやすいΔt
*=0.9π〜1.2π(ただし,Δt
*≠π)の範囲の値を用いるのが望ましいといえる。
【実施例3】
【0151】
以下では,速度を操作対象とするブラシ付きDCモータを使用することで,直線台車速度関数V
tr(t
0*+t’
*)から求められた台車速度関数による単振り子式搬送装置の制御を実際に実験を通して実施した例を紹介する。実験装置の構成の概略図を
図16に示す。
【0152】
実験の流れとしては、台車速度関数によって定められた制御データ50を,演算手段であるコンピュータ49で演算し,制御データ50を基に制御信号51を信号発生手段である関数発生器43で生成し、制御信号51を基に駆動信号発生手段であるバイポーラ電源44によって駆動信号である制御電圧52を増幅させ、駆動手段であるDCモータ45に印加することによってDCモータ45を回転させ、ベルト46で連結された移動台車1であるトロリを動かすことで,荷物5である重りと接続体4であるひもからなる振り子を操作するフィードフォワード制御を行う。
【0153】
この時、移動台車の位置はDCモータ45に取り付けられたセンサーであるインクリメンタルエンコーダ47が発生する回転のパルス信号53をデータロガー48で記録し,後でデジタルデータ54をコンピュータ55に移動させ,推定手段であるコンピュータ54で位置を推定する。今回の実験では装置が複雑となるため巻き上げ操作を行わず、移動台車1の1自由度のみ制御を行った。
【0154】
DCモータに印加される制御電圧[V]は以下の(式46)の微分方程式で示される。
【数51】
【0155】
iは回路内を流れる電流、R
a [Ω]はモータの内部抵抗、L[H]はモータのインダクタンス成分、E
B[V]は整流子による電圧降下、E
c[V]は逆起電力を表す。また、DCモータはI [A]に対し出力トルクT
m [N・m]が比例して発生し、回転角速度ω
m[rad/s]に対しE
c[V]が比例する特性を有している.この性質をトルク定数k
T[N・m/A]、逆起電力定数k
E [V・s/rad]を用いて表すと以下の(式47)および(式48)ようになる。
【数52】
【数53】
【0156】
(式46)、(式47)、(式48)を用いてE
appをT
mとω
mで表すと以下の(式49)ように書き直すことができる。
【数54】
【0157】
つまり印加される制御電圧E
appは必要トルク
【数55】
ここで移動台車1に掛かる力は(式51),必要回転角速度ω
mは(式52)のように表される.
【数56】
【数57】
【0158】
ここで,J
m [kg・m
2]はモータの慣性モーメント、D
v [kg・m/(rad・s)]は速度に比例する粘性抵抗係数、F
CR [N・m]は移動台車1を動かす際にかかる力、F
r [N・m]は摩擦等による抵抗力、M
CR [kg]は移動台車の質量、r
p [m]はプーリの半径を表す。
【0159】
今回の実験では吊った荷物5や接続体4であるひもが軽く、減速ギアが入っているため,F
CRは無視し、簡単化のためT
mはF
rが支配的であると考え、それ以外の項を無視した.加えて、F
rは一定であると考えることにより,T
m=F
rと置くことができることから,(式46)は以下の(式53)ように変形される。
【数58】
この式から制御電圧E
appは回転角速度ω
mの線形一次式となることが分かる。
【0160】
実際に定電圧をモータに印加し、その時の回転角速度をエンコーダの値から測定したところ、DCモータの制御電圧とモータの回転角速度の関係は
図17に示すようになり、(式53)が成り立つことが確認された。
【0161】
第一象限のプロットは(式54)で近似され、
【数59】
第三象限のプロットは(式55)で近似でき、
【数60】
どちらもよく一致していることが見て取れ、(式53)が成り立つことが確認された。よって、本実験では第一象限における回転角速度については(式54)を、第三象限における回転角速度においては(式55)を用い、(式53)から求められた回転角速度の時間変化を制御電圧の時間変化に変換することとする。
【0162】
(実験結果1) まず、最も単純な直線台車加速度関数
Atr*(t’
*)による振動制御の実験として、操作開始時刻t
0*=0でθ
cr(0)=0.25[rad]、ω
cr(0)=0.00[rad/s]であった荷物の揺れを,操作終了時刻後t
0*=Δt
*でθ
cr(Δt
*)=0.00 [rad]、ω
cr(Δt
*)=0.00[rad/s]とする一回制振操作の実験を行う。この時、振り子の周期から求めた接続体4であるひもの長さはL
0P=308.6[mm]であったことから、L
0=g/308.6×10
3[mm]と定め、操作後の移動台車の速度が0となるように操作時間をΔt
*=1.9982πとした。こうして得られた一回制振操作の実験結果を以下の
図18に示す。
【0163】
θ
cr_tg(Δt
*)、X
tr_tg(t’
*)、V
tr_tg(t’
*)はそれぞれ荷物の目標振れ角、移動台車の目標位置、移動台車の目標速度を表す。 今回の実験では(式54)、(式55)より求めた制御電圧を印加しているため、移動台車1が負の速度から正の速度に変わる0[mm/s]を境に,制御電圧が不連続に変化することから、移動台車の速度が乱れる様子が確認できる。しかし、全体的には移動台車の速度は目標値通りに変化しており、速度の積分値である位置に関しては、ほぼ一致している様子が確認できる。θ
cr(t’
*)に関しては角速度を完全に目標値と一致させることができなかったことから、荷物5の揺れを完全に除去することができなかったが、ある程度目標値と一致していることが
図18から確認でき、実験からも直線台車速度関数V
tr(t’
*)が単振り子式搬送装置の振動操作に有効であることが確認できた。
【0164】
(実験結果2)次に、単振り子式搬送装置の基本操作の一つである、静止状態からの加速、定速走行、目標位置での停止を行う定距離制振搬送操作のフィードフォワード関数を、
Atr(t’
*)を用いて求め、実際に残留振動の発生しない搬送制御を行うことができるか確認を行った。振り子の周期から求めた接続体4であるひもの長さはL
0P=308.6[mm]であったことから、実験1と同様にL
0=g/308.6×10
3[mm]と定め、制御時間Δt
*=0.9πについて実験を行った。また実験1より速度の時間変化が0をまたぐことで目標値とずれが生じやすいことが分かっていたため、パラメータの設定を行う際は単振り子式搬送装置操作中に速度の符号が入れ換わらないように注意を払った。
図19に定距離制振搬送操作の実験結果を示す。
【0165】
実験2では速度が0をまたぐことのないようにパラメータを設定したため、制御電圧に不連続点が生じず、実験1よりも目標値に実験値がよく追従している様子が
図19からも見て取れる。また、定速走行時および停止時の残留振動に関しても,
図19から,揺れの発生が抑制されていることが確認できた.よって,直線台車速度関数V
tr(t’
*)を用いて導出した定距離制振搬送操作のフィードフォワード関数は単振り子式搬送装置操作時の残留振動発生抑制に一定の効果があることが実験から確認できた。
【実施例4】
【0166】
直線台車加速度関数A
tr*(t’
*)を用いて単振り子式搬送装置の振れ角を制御できるため、風などの外乱によって振動している単振り子式搬送装置に直線台車加速度関数A
tr(t’
*)を用いたサンプル値フィードバック制御を行うことで、振動の成長の抑制を試みる。外乱を受ける単振り子式搬送装置のモデル図を
図20に示す。
【0167】
F
noiseは吊り荷に加わる外乱を示す。F
noiseに関しては単純化のため垂直方向成分は考えず、水平方向成分に関して考え、その関数はランダムな振幅、角周波数、位相を持った30個の正弦波の足合わせで表すこととする。
【0168】
具体的な制御手順としては、制御開始直前にセンサー等でθ
cr*(t
0*)、ω
cr*(t
0*)の値を調べ、(式40)、(式44)より振動操作に必要なパラメータの設定を行い、移動台車の軌道を求め、その軌道となるように単振り子式搬送装置の制御を行う。これをサンプル時間2Δt
*ごとに繰り返し行うことで外乱による振動の成長を抑制する。以下に制御をしなかった場合と制御を行った場合について、外乱の影響下における単振り子式搬送装置のシミュレーション結果を示す。制御を行わない場合の外乱を受ける単振り子式搬送装置の数値シミュレーションの結果を
図21に,サンプル値フィードバック制御を行った場合の外乱を受ける単振り子式搬送装置の数値シミュレーションの結果を
図22に示す.
【0169】
制御のない
図21と比較すると,制御のない場合ではθ
cr*は0.2近くまで外乱によって加振されているが、サンプル値フィードバック制御を加えた
図22は0.1を超えておらず、振動の成長が抑制されていることが見て取れる。また、(式40)、(式44)において,ΔX
tr_op*=0となる条件を使っているため、2Δt
*ごとの移動台車の位置は動いておらず、目標位置に留まる制御も行えていることがわかる。
以上より、直線台車加速度関数A
tr(t’
*)を用いた制御は外乱の影響がある単振り子式搬送装置の振動除去制御に有効であるといえる。