【文献】
菊地 武土,仮想空間ウォーキング・サイクリングシステムのためのソフトウェア構築と応用,ロボティクス・メカトロニクス 講演会2013 講演論文集,日本,一般社団法人 日本機械学会,2013年 5月21日,1222-1223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記仮想空間において前記仮想自転車が前記仮想道路の車線に進入したとき及び脱出したときの前記仮想自転車に最も接近している前記仮想自動車との距離又は前記仮想自転車までの到達時間に基づく評価データを算出することを特徴とする請求項1に記載の自転車運転シミュレータ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。最初に、
図1〜
図3を参照しながら、自転車運転シミュレータ1の構成を説明する。
【0015】
自転車運転シミュレータ1は、コンピュータによって作り出される仮想的な空間(以下「仮想空間」という。)において自転車の運転を模擬し、運転内容の評価を支援するシステムである。
図1に示すように、自転車運転シミュレータ1は、被験者Sが運転する模擬自転車2と、模擬自転車2の周囲に映像を表示する表示装置3a〜3cと、仮想空間における映像(以下「仮想映像」という。)を生成し、表示装置3a〜3cに仮想映像を表示させるとともに、運転内容の評価に用いる評価データを算出する制御装置4a〜4cと、制御装置4a〜4cが用いるデータを計測する各種センサ群と、仮想映像の音を出力する音響装置とを備える。
【0016】
模擬自転車2は、被験者Sが操作し、進行方向を調節するハンドル21と、被験者Sが腰を掛けるサドル22と、被験者Sが操作し、速度を調節するペダル23と、ペダル23、チェーン及びギヤ等からなる動力伝達機構によって回転される前輪24とを備え、据置部材25によって床や地面等に据え付けられる。模擬自転車2は、例えば、フィットネスバイクのように、前輪24や後輪が無くても良い。また、模擬自転車2は、実際に走行可能な自転車をローラー台等で固定しても良い。
【0017】
表示装置3aは模擬自転車2の前方に、表示装置3bは後方に、表示装置3cは右側方に、各々映像を表示する。表示装置3a〜3cは、例えば、プロジェクタである。表示装置3a〜3cは、各々に対向して配置されるスクリーン11a〜11cの各表示領域31a〜31cに映像を投影する。尚、スクリーン11a、11b及び11cを設置せず、建物の壁などに直接映像を投影させても良い。以下、表示装置3a〜3cを総称する場合、表示装置3と表記する。
【0018】
音響装置は、例えば、前方に配置されるスピーカ12a及び12b並びにこれらに対応するアンプ(不図示)と、後方に配置されるスピーカ12c及び12d並びにこれらに対応するアンプ(不図示)とによって構成される。音響装置は、制御装置4と接続され、仮想映像の環境音を出力する。
【0019】
図2に示すように、スクリーン11a〜11cの大きさは略等しく、スクリーン11aとスクリーン11cとのなす角及びスクリーン11bとスクリーン11cとのなす角は略90°である。模擬自転車2から各スクリーン11a〜11cまでの距離は、スクリーン11a〜11cの横幅Lの略半分である。模擬自転車2から各スクリーン11a〜11cに下ろした垂線は、各スクリーン11a〜11cを略二等分する。この場合、模擬自転車2に乗車している状態で、被験者Sは、前方のスクリーン11aの左端13から、右側方のスクリーン11bを介して、後方のスクリーン11cの右端14までの略270°の範囲で仮想映像を視認することができ、実際の交通環境を正確に模擬することができる。
【0020】
また、スピーカ12a及び12bは、スクリーン11aの両端に位置し、スピーカ12c及び12dは、スクリーン11bの両端に位置する。結果的に、スピーカ12b及び12dは、スクリーン11cの両端に位置する。すなわち、スピーカ12a〜12dは、模擬自転車2から略90度ごとに位置し、模擬自転車2までの距離が略等しい。これによって、被験者Sに対して臨場感のある環境音を出力することができる。
【0021】
制御装置4a〜4cは、表示装置3a〜3cの各々に映像を送信する。制御装置4a〜4cは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置及び補助記憶装置等を備えるPC(Personal Computer)である。制御装置4a〜4cに対する指示やデータの入力は、キーボード41やマウス42等の入力装置を介して行われる。液晶ディスプレイ43a〜43cには、表示装置3a〜3cに送信される映像や各種の操作画面が表示される。例えば、制御装置4aがサーバ、制御装置4b及び4cがクライアントとして機能し、互いにデータの送受信が可能に接続される。以下、制御装置4a〜4cを総称する場合、制御装置4と表記する。
【0022】
制御装置4によって生成される仮想映像は、仮想空間において、道路の図形(以下「仮想道路50」という。)、仮想道路50における模擬自転車2の位置を示す自転車の図形(以下「仮想自転車61」という。)、及び仮想道路50の車道を走行する自動車の図形(以下「仮想自動車62」という。)を含む動画像である。制御装置4は、被験者Sによる模擬自転車2の運転操作に応じた仮想映像を生成する。仮想映像は、例えば、VR(Virtual Reality)技術を用いて生成される。
【0023】
図1及び
図3に示すように、本実施の形態における仮想道路50は、例えば、模擬自転車2から見て前方と後方の間に延びる2車線(片側1車線)の直線道路である。但し、仮想道路50はこれに限定されることはなく、対面通行又は一方通行の1車線でも良いし、4車線(片側2車線)以上でも良いし、蛇行する道路でも良いし、それ以外の道路でも良い。
【0024】
また、本実施の形態における自転車運転シミュレータ1は、例えば、車道を横断する際の運転行動の評価を支援する。但し、評価対象はこれに限定されることはなく、単に車道を直進する際の運転行動でも良いし、障害物(路上駐車等)を回避する際の運転行動でも良いし、それ以外の運転行動でも良い。
【0025】
図3に示す仮想道路50は、2つの車線を区分する中央線51と、模擬自転車2から見て手前側の車線である手前車線52a及び奥側の車線である奥車線52bと、各車線の車道外側線である手前車道外側線53a及び奥車道外側線53bと、各車線の路側帯である手前路側帯54a及び奥路側帯54bと、を含む。
【0026】
制御装置4a〜4cは、それぞれ表示角度範囲R1〜R3の仮想映像を生成し、表示装置3a〜3cに対してスクリーン11a〜11cに仮想映像を表示させるように制御する。サーバである制御装置4aは、仮想自転車61及び仮想自動車62の位置を算出し、自らが生成する仮想映像に反映するとともに、クライアントである制御装置4b及び42cに送信する。制御装置4b及び4cは、制御装置4aから受信する仮想自転車61及び仮想自動車62の位置を、自らが生成する仮想映像に反映する。
図1、
図3に示される仮想自転車61及び2台の仮想自動車62は、位置関係が互いに略一致する。
【0027】
各種センサ群は、第1センサ5〜第5センサ9である。各センサは、制御装置4とデータの送受信が可能に接続され、所定のサンプリングレートで計測データを制御装置4に送信する。
【0028】
第1センサ5は、模擬自転車2において仮想自転車61の速度の算出に用いるデータを計測する。第1センサ5は、例えば、模擬自転車2のペダル23の回転のパルスを検出する回転パルスセンサであり、模擬自転車2のペダル23につながるギヤ付近に装着される。制御装置4は、第1センサ5から受信するデータに基づいて模擬自転車2のペダル23の単位時間当たりの回転数を算出し、予め記憶されているペダル23の1回転で進む距離を用いて仮想自転車61の速度を算出する。
【0029】
実際の自転車であれば、ペダル23の回転を止めた後、しばらくの間は減速しながら前進する。そこで、ペダル23の回転に基づいて速度を算出する場合、制御装置4は、被験者がペダル23の回転を止めた後、しばらくの間は減速しながら前進するように、予め記憶されている計算式に基づいて仮想自転車61の速度を算出する。尚、第1センサ5は、模擬自転車2の前輪24の回転のパルスを検出する回転パルスセンサ等でも良い。
【0030】
第2センサ6は、模擬自転車2において仮想自転車61の進行方向の算出に用いるデータを計測する。第2センサ6は、例えば、磁気センサによる3次元位置姿勢計測装置のレシーバであり、金属の影響を抑える為、樹脂製のアタッチメント28を介してハンドル21に固定される。第2センサ6は、3次元位置姿勢計測装置のコントローラ10を介して、計測データを制御装置4に送信する。尚、第2センサ6は、模擬自転車2のハンドル21の回転角度を検出する回転角センサ等でも良い。
【0031】
第3センサ7は、模擬自転車2を運転中の被験者Sの視線方向に関するデータを計測する。第3センサ7は、例えば、磁気センサによる3次元位置姿勢計測装置のレシーバであり、被験者Sが被るヘルメット26に固定される。第3センサ7は、3次元位置姿勢計測装置のコントローラ10を介して、計測データを制御装置4に送信する。尚、第3センサ7は、被験者Sの頭部の角速度を検出するジャイロセンサ等でも良い。
【0032】
第4センサ8は、被験者Sによって模擬自転車2に加えられる左右の荷重差に関するデータを計測する。第4センサ8は、例えば、据置部材25の後方支持板25aの左右両端に設置される一対の圧力センサである。後方支持板25aは、サドル22の下方付近に位置し、模擬自転車2の左右方向に延びる板状部材である。一対の圧力センサは、後方支持板25aの左右両端において、床又は地面等と対向する底面に設置される。
【0033】
第5センサ9は、被験者Sの左右いずれかの膝の位置に関するデータを計測する。第5センサ9は、例えば、磁気センサによる3次元位置姿勢計測装置のレシーバであり、被験者Sの右膝に装着されるバンド27に固定される。第5センサ9は、3次元位置姿勢計測装置のコントローラ10を介して、計測データを制御装置4に送信する。尚、第5センサ9は、左右いずれかのペダル23の回転位置を検出する回転センサでも良い。
【0034】
ここで、3次元位置姿勢計測装置の概要を説明する。3次元位置姿勢計測装置は、3軸直交コイルで構成されるトランスミッタ(不図示)と、同じく3軸直交コイルで構成されるレシーバ(第2センサ6、第3センサ7及び第5センサ9)と、これらを制御するコントローラ10と、によって構成される。コイルの直径は、トランスミッタと、レシーバとの間の距離に比べて十分に小さいため、各コイルは1つの点とみなすことができる。トランスミッタのコイルに電流を流し、励磁すると、磁界が発生する。各レシーバは、トランスミッタが励磁されることにより発生するパルス磁場を受け、電磁誘導によってコイルに電流が流れる。コントローラ10は、各レシーバのコイルに流れる電流を検出し、AD変換を行い、制御装置4に計測データを送信する。計測データは、トランスミッタと各レシーバとの相対的な3次元の位置情報及び姿勢情報である。
【0035】
次に、
図4〜
図6を参照しながら、自転車運転シミュレータ1による自転車運転模擬処理について説明する。自転車運転模擬処理を実現するためのソフトウエアは、例えば、VR環境開発ツール「Vizard4.0」(World Viz社)によって開発可能である。
【0036】
図4に示すように、ユーザが制御装置4aに対して起動を指示すると、制御装置4aは起動処理を実行する(ステップS1)。具体的には、制御装置4aは、自らにインストールされている自転車運転模擬処理のプログラムを実行するとともに、制御装置4b及び4cに対して、制御装置4b及び4cにインストールされている自転車運転模擬処理のプログラムを実行させる。各プログラムが実行されると、制御装置4a〜4cは、表示装置3a〜3cに対して所定の画面をスクリーン11a〜11cに表示させる。制御装置4aは、各種センサからデータの送受信が可能な状態であることを確認し、データの送受信ができなければ、エラー処理等を実行する。
【0037】
この時点で、被験者Sは、必要に応じてヘルメット26やバンド27を装着し、模擬自転車2のサドル22に腰を掛ける。制御装置4aは、第3センサ7から受信する被験者Sの頭部の位置情報及び姿勢情報に基づいて、被験者Sの目の高さ(耳眼平面)を算出し、仮想空間におけるカメラの高さとして設定する。尚、ユーザが制御装置4aに対して被験者Sの身長又は座高を入力し、制御装置4aが被験者Sの身長又は座高から被験者Sの目の高さ(耳眼平面)を算出しても良い。
【0038】
次に、ユーザは、制御装置4aに対して初期設定の情報を入力する(ステップS2)。本実施の形態では、仮想自動車62の車両速度を2種類(例えば、40km/hと60km/h)とし、初期設定の情報として選択入力することができる。制御装置4aは、ステップS2において入力される仮想自動車62の車両速度に基づいて、仮想自動車62の位置を算出する。
【0039】
次に、ユーザが、制御装置4aに対して計測開始を指示すると、制御装置4aは計測処理を実行する(ステップS3)。計測処理の詳細は
図5に示す。
【0040】
図5に示す処理は、所定のサンプリングレートごとに繰り返し実行される。制御装置4aは、各センサからデータを受信し(ステップS11)、仮想自転車61及び仮想自動車62の位置を算出する(ステップS12)。制御装置4aは、第1センサ5及び第2センサ6から受信するデータに基づいて仮想自転車61の速度及び進行方向を算出し、更に、仮想自転車61の位置を算出する。また、制御装置4aは、ステップS2において入力される車両速度に基づいて仮想自動車62の位置を算出する。
【0041】
次に、制御装置4aは、各センサから受信する計測データ、ステップS12において算出される仮想自転車61の位置や仮想自動車62の位置等の算出データを記憶する(ステップS13)。ステップS13において記憶されるデータは、後述するステップS4の評価データ算出処理に用いられる。
【0042】
次に、制御装置4aは、仮想自転車61と仮想自動車62とが衝突しているか否か判定する(ステップS14)。仮想自転車61及び仮想自動車62の現在位置は、ステップS12において算出されている。制御装置4aは、仮想自転車61及び仮想自動車62の現在位置に基づいて、互いに衝突しているか否か判定する。制御装置4aは、例えば、仮想自転車61及び仮想自動車62が所定の領域を有するものとし、互いの領域の一部が重複すれば、衝突していると判定する。
【0043】
仮想自転車61と仮想自動車62とが衝突していない場合(ステップS14のNo)、制御装置4aは、仮想自転車61が車道の横断を終了しているか否か判定する(ステップS15)。制御装置4aは、仮想自転車61の現在位置が、奥車線52bを脱出し、奥車道外側線53bを超えて、奥路側帯54bに到達していれば、仮想自転車61が車道の横断を終了していると判断する。
【0044】
仮想自転車61が車道の横断を終了していない場合(ステップS15のNo)、制御装置4aは、自らの次フレームの映像を生成するとともに、制御装置4b及び4cに対して仮想自転車61及び仮想自動車62の現在位置を送信し、次フレームの映像を生成させる(ステップS16)。
【0045】
次に、制御装置4a〜4cは、表示装置3a〜3cに対して仮想映像の表示を制御し(ステップS17)、ステップS11から処理を繰り返す。
【0046】
ステップS14において、仮想自転車61と仮想自動車62とが衝突している場合(ステップS14のYes)、制御装置4aは、仮想自転車61と仮想自動車62との衝突ありと記憶し(ステップS18)、処理を終了する。
【0047】
ステップS15において、仮想自転車61が車道の横断を終了している場合(ステップS15のYes)、制御装置4aは、仮想自転車61と仮想自動車62との衝突なしと記憶し(ステップS19)、処理を終了する。
【0048】
図4の説明に戻る。次に、制御装置4aは、計測処理において記憶されるデータに基づいて、運転内容の評価を支援するための評価データを算出する(ステップS4)。具体的な評価データについては、後述する実施例において説明する。
【0049】
図6は、自転車運転シミュレータの配置の他の例を示す模式図である。
図6に示す例では、スクリーン11a〜11cの大きさが全て等しく、スクリーン11aとスクリーン11cとのなす角及びスクリーン11bとスクリーン11cとのなす角は150°である。模擬自転車2からスクリーン11cまでの距離は、スクリーン11a〜11cの横幅Lの略半分である。模擬自転車2からスクリーン11cに下ろした垂線は、スクリーン11cを二等分する。この場合、前方のスクリーン11aの左端13から、右側方のスクリーン11bを介して、後方のスクリーン11cの右端14までの略180°の範囲で仮想映像を視認することができる。従って、
図6に示す配置例は、仮想道路50の左端から右端へと横断する際の運転行動を評価する場合であれば何ら支障がない配置と言える。また、自転車の模擬を第三者に観覧させる場合、模擬自転車2の左側方に設けられる観覧スペースVからスクリーン11a〜11cに表示される仮想映像が容易に視認でき、便利である。尚、スピーカ12a〜12dの位置は、
図2の場合と同様である。
【0050】
仮想道路50の左端から右端へと横断する際の運転行動を評価する場合、
図2及び
図6に示すように、スクリーン11aとスクリーン11cとのなす角及びスクリーン11bとスクリーン11cとのなす角は、90°〜150°の範囲を取り得る。尚、制御装置4は、スクリーン11a〜11cの配置場所に応じた仮想映像を生成する。
【0051】
日本では車両が左側通行であるが、車両が右側通行の国も存在する。このような国においては、模擬自転車2の左側方にスクリーン11bを配置し、制御装置4は、仮想自転車61及び仮想自動車62が右側通行となるように仮想映像を生成しても良い。
【実施例】
【0052】
以下、
図7〜
図12を参照しながら、実施例について説明する。本実施例では、制御装置4は、被験者Sが模擬自転車2を運転し、
図3に示す仮想道路50の車道を横断する際の運転行動を計測し、評価した。
【0053】
<ハードウエア及びソフトウエアの構成>
本実施例では、制御装置4a〜4cとして、「Prime Galleria ZX」(ドスパラ社製)のPCを用いた。制御装置4a〜4cのグラフィックボードは「NVIDIA GeForceGTX275」を用いた。制御装置4a〜4cは、1000BASE-TのLAN(Local Area Network)で接続した。
【0054】
表示装置3a〜3cには、ミラー投射型プロジェクタ「WT610T」(旧NECビューテクノロジー社製)を用いた。スクリーン11a〜11cには、100インチの広視野角スクリーン「VL-S100E」(NEC社製)(幅1,987mm×高さ1490mm)を用いた。スクリーン11a〜11cの配置は、
図2と同様とした。
【0055】
スピーカ12a〜12dには、「TD510」(富士通テン社製)を用いた。これらに接続する2つのアンプには、「TDA501 II」(富士通テン社製)を用い、サーバである制御装置4aにUSB(Universal Serial Bus)を介して接続した。スピーカ12a〜12dの配置は、
図2と同様とした。スピーカ12a〜12dの再生周波数帯域は55〜20,000Hzであり、仮想映像の環境音をより忠実に再現できた。
【0056】
第1センサ5には、ペダル23の回転を検出するパルスセンサを用い、制御装置4aにAD変換器を介してパルス信号を出力した。制御装置4aは、入力されるパルス信号に基づいてパルス数をカウントし、ペダル23の単位時間当たりの回転数を算出し、予め記憶されているペダル23の1回転で進む距離を用いて仮想自転車61の速度を算出した。
【0057】
3次元位置姿勢計測装置には、コントローラ10が3次元デジタイザ「Liberty 8 system」(POLHEMUS社製)、レシーバ(第2センサ6、第3センサ7及び第5センサ9)が「RX-2」(POLHEMUS社製)、トランスミッタが「TX4」(POLHEMUS社製)を用いた。制御装置4aには、USB(Universal Serial Bus)を介して3次元デジタイザを接続した。測定可能範囲はトランスミッタを中心とする半径約900mmの半球状である。位置情報の角度は0.75mm、分解能は0.0038mmである。姿勢情報の角度は0.15°、分解能は0.0012°である。
【0058】
第4センサ8には、圧縮型ロードセル「TC-FR1KN」(TEAC社製)を用いた。第4センサ8のキャリブレーションのために、第4センサ8には、AD変換器「U3-LV」(LABJACK社製)を介してデジタル指示計「TD-700T」(TEAC社製)を接続した。デジタル指示計「TD-700T」には左右の荷重差が表示されるようになっており、被験者Sが模擬自転車2のサドル22に腰をかけた状態で、左右の荷重差を0とするキャリブレーションを行った。
【0059】
制御装置4a〜4cにインストールするプログラムは、VR環境開発ツール「Vizard4.0」(World Viz社)によって開発した。3次元デジタイザ「Liberty 8 system」の制御プログラムには、Vizard4.0の標準ドライバを用いた。システム全体のサンプリングレートは30Hzとした。制御装置4aは、第1センサ5及び第2センサ6から受信するデータに基づいて仮想自転車61の速度及び進行方向を算出し、算出された速度及び進行方向に応じて仮想自転車61が移動するように仮想映像を生成した。これによって、被験者Sは実際に模擬自転車2が前に進んでいる感覚を体験することができた。
【0060】
制御装置4aは、第3センサ7から受信するデータに基づいて、被験者Sの身長を算出し、仮想映像の地上からの高さを設定した。尚、計測中は頭部の揺れによるちらつきを抑える為、制御装置4aは、被験者Sの身長から目の高さ(耳眼平面)を算出し、被験者Sの目の高さに仮想空間で設定するカメラの高さを一致させた。
【0061】
制御装置4aは、計測中、仮想自転車61及び仮想自動車62の位置、並びに第3センサ7から受信するデータに基づいて算出される被験者Sの視線方向に関するデータを毎秒30フレームのCSV形式で補助記憶装置(ハードディスクドライブ)に記憶した。仮想自転車61が所定の位置に到達すると、制御装置4aは計測を自動的に終了した。
【0062】
制御装置4aは、ランダムな車間距離で仮想道路50に仮想自動車62を出現させ、
図3の右から左が走行方向となる手前車線52aおよび
図3の左から右が走行方向となる奥車線52bを走行させた。仮想自動車62を出現させる車間距離は、60m、100m及び140mの3種類とした。車両速度は、40km/h、60km/hの2条件とし、初期設定の入力時にいずれか一方を選択した。仮想自転車61は、手前路側帯54aから直進の状態で出発させた。
【0063】
<被験者及び教示条件>
被験者Sの年齢層は、高齢者と若年者とした。高齢者のグループは、男性1名、女性10名の計11名、平均年齢が約69歳であった。若年者のグループは、男性9名、女性1名の計10名、平均年齢が約23歳であった。被験者S一人当たりの試行回数は20回とした。
【0064】
被験者Sには、手前車線52aを走行する仮想自動車62が仮想自転車61と並進したときに、模擬自転車2のペダル23を漕ぎ始めるように教示した。また、スクリーン11a〜11cに表示される仮想映像を見て、「安全に横断できる」と判断したとき、車道の横断を開始するように教示した。また、仮想自動車62との衝突の危険を感じた場合、模擬自転車2のペダル23を早く漕ぐなどの行動を取っても構わないと教示した。
【0065】
<評価データの算出結果>
本実施例では、制御装置4は、「交通事故発生率」、「車間選択率」、「最接近車両到達時間」、「最接近車両到達距離」、「後方確認時間」の評価データを算出した。以下、各評価データの定義及び算出結果について説明する。
【0066】
「交通事故発生率」は、ステップS14において、制御装置4が衝突ありと判定した件数の割合とする。
図7に示すように、制御装置4は、年齢層(高齢者、若年者)、車両速度条件(40km/h、60km/h)、及び車線(手前車線52a、奥車線52b)毎に交通事故発生率を算出した。
【0067】
若年者は交通事故が発生しなかった。高齢者の交通事故発生率は、車両速度40kmで手前車線52aにおいて2.41%、車両速度40kmで奥車線52bにおいて0%、車両速度60kmで手前車線52aにおいて2.25%、車両速度60kmで奥車線52bにおいて1.12%となった。高齢者に着目すると、奥車線52bよりも手前車線52aの方が、交通事故発生率が高い。高齢者の場合、後方確認時、接近してくる仮想自動車62の見落としが発生していると考えられる。
【0068】
「車間選択率」は、被験者Sが車道を横断したときの各車間距離(60m、100m及び140m)を選択した割合とする。
図8に示すように、制御装置4は、年齢層(高齢者、若年者)、車両速度条件(40km/h、60km/h)、車線(手前車線52a、奥車線52b)、及び交通事故発生有無毎に車間選択率を算出した。
【0069】
高齢者は、車両速度が速い方が安全な車間選択を行っている。すなわち、高齢者は、車両速度が40km/hよりも60km/hの方が、車間距離がより長いタイミング(60mよりも100m、100mよりも140m)で車道を横断していることが分かる。これは、車両速度が速いことでより慎重に車間選択を行ったと考えられる。一方、若年者は車両速度による差があまりないことが分かる。これは、若年者の身体能力が高い為、車両速度では車間選択に影響を及ぼさないためと考えられる。また、若年者・高齢者ともに、手前車線52aよりも奥車線52bの方が安全な車間選択を行っている。若年者と高齢者で比較すると、車両速度60km/hにおいて、交通事故が発生していないときは、高齢者の方が若年者よりも安全な車間選択を行っている。
【0070】
「最接近車両到達時間」は、仮想自転車61が車線に進入した時点又は脱出した時点において、その車線内で最も接近している仮想自動車62が仮想自転車61に到達するまでの時間とする。また、「最接近車両到達距離」は、仮想自転車61が車線に進入した時点又は脱出した時点において、最も接近している仮想自動車62から仮想自転車61までの距離とする。
図9(a)には、仮想自転車61が手前車線52aに侵入した時点における最接近車両到達距離D1を示している。
図9(b)には、仮想自転車61が手前車線52aを脱出した時点における最接近車両到達距離D2を示している。制御装置4は、これらの2つの最接近車両到達距離D1、D2を車両速度で割ることによって、最接近車両到達時間を算出した。また、制御装置4は、奥車線52bにおける最接近車両到達時間についても同様に算出した。最接近車両到達距離や最接近車両到達時間を算出することによって、被験者Sによる横断の判断が安全であったか否かを評価することが可能となる。
【0071】
図10が最接近車両到達時間、
図11が最接近車両到達距離の算出結果を示している。符号a〜fは、それぞれ、a:事故が発生しなかったときの手前車線52a、b:事故が発生しなかったときの奥車線52b、c:手前車線52aで事故が発生したときの手前車線52a、d:手前車線52aで事故が発生したときの奥車線52b、e:奥車線52bで事故が発生したときの手前車線52a、f:奥車線52bで事故が発生したときの奥車線52b、の棒グラフを示す。
【0072】
図10(a)を参照すると、事故が発生することなく安全に横断できた試行では、手前車線52aよりも奥車線52bにおいて時間に余裕があり、より安全な車線侵入判断ができていることが分かる。
【0073】
また、
図10(a)及び
図10(b)を比較すると、事故が発生していない試行では、高齢者の場合、手前車線52aよりも奥車線52bの方が、最接近車両到達時間が長い傾向にある。一方、若年者の場合、手前車線52aと奥車線52bとの差があまりないか、奥車線52bよりも手前車線52aの方が、最接近車両到達時間が長くなっているデータもある。
【0074】
手前車線52aよりも奥車線52bの方が、より安全な車線侵入判断ができていることから、被験者Sは、被験者Sと対向して奥車線52bを走行している仮想自動車62の車間を目安にして横断するか否かを判断していると考えられる。また、高齢者及び若年者との間で、手前車線52a及び奥車線52bの最接近車両到達時間の傾向が異なった原因として、年齢における身体能力の違いによる車道横断に要する時間が考えられる。
【0075】
手前車線52aで事故が発生したときの手前車線52aにおける最接近車両到達時間と、事故が発生しなかった時の手前車線52aにおける最接近車両到達時間との間において有意差が見られた(p<0.05)。これは、手前車線52aで事故に遭うときには、後方確認時の最も接近している仮想自動車62の見落としにより、危険なタイミングで車線に進入しているためと考えられる。
【0076】
また、速度条件で比較した結果、高齢者及び若年者ともに、手前車線52a及び奥車線52bの両方において有意差が見られた(p<0.005)。年齢層で比較した結果、車両速度が40km/hで奥車線52bのデータのみ、有意差が見られた(p<0.005)。一方、
図11(a)及び
図11(b)を速度条件で比較した結果、有意差は見られなかった。従って、横断できると判断する最接近車両到達距離は、車両速度に依存しないと考えられる。
【0077】
「後方確認時間」は、被験者Sが模擬自転車2の運転を開始してから終了するまでの間に後方を確認した時間の合計時間とする。制御装置4は、被験者Sが装着するヘルメット26に固定される第3センサ7の姿勢情報に基づいて被験者Sの視線方向を算出し、被験者Sが後方確認をしているか否か判断した。具体的には、制御装置4は、第3センサ7の姿勢情報における鉛直方向周りの回転成分を被験者Sの視線方向の回転角度とし、視線方向の回転角度が閾値(本実施例では140°)を超えている間は後方確認をしていると判断した。
【0078】
図12に示すように、制御装置4は、年齢層(高齢者、若年者)、車両速度条件(40km/h、60km/h)、及び事故発生パターン(事故なし、手前車線52aにおいて事故発生、及び奥車線52bにおいて事故発生)毎に、後方確認時間の平均を算出した。
【0079】
事故の有無で比較すると、後方確認時間に大きな差は現れなかった。車両速度で比較すると、高齢者及び若年者ともに有意差は見られなかった。一方、高齢者及び若年者で比較すると、後方確認時間は若年者の方が長く、全ての速度条件において有意差が見られた(車両速度が40km/hの場合:p<0.005、車両速度が60km/hの場合:p<0.01)。高齢者の場合、過去の経験から「自分はしっかり確認できている。」という思い込みが発生しているのではないかと考えられる。また、事故の有無で後方確認時間に差が生じなかった理由は、事故発生時にも、事故が無かった時と同程度の時間をかけて後方の確認行動を取っているためと考えられる。従って、手前車線52aにおいて事故に遭う理由は、最も接近している仮想自動車62の見落としが主な要因であると考えられる。
【0080】
以上の通り、実施例における「交通事故発生率」、「車間選択率」、「最接近車両到達時間」、「最接近車両到達距離」、「後方確認時間」の評価データは、模擬自転車2の運転内容の評価に有効であるとともに、事故発生時の要因解析にも有効であると言える。
【0081】
<評価データの変形例>
制御装置4は、「ペダルの回転角度の軌跡」、「重心移動の軌跡」の評価データを算出することもできる。以下、これらの評価データの定義及び算出結果について説明する。0084」
【0082】
「ペダルの回転角度の軌跡」は、クランク軸に対する左右いずれかのペダル23の回転角度の経時変化とする。制御装置4は、被験者Sの右膝のバンド27に固定される第5センサ9によって計測される位置情報及び姿勢情報に基づいて、右のペダル23の回転軸に対する回転角度を算出した。「重心移動の軌跡」は、被験者Sによって模擬自転車2に加えられる左右の荷重差の経時変化とする。制御装置4は、後方支持板25aの左右両端に設置される一対の第4センサ8によって計測される出力電圧の差に基づいて、左右の荷重差を算出した。具体的には、制御装置4は、次式を用いて左右の荷重差を算出した。
【0083】
【数1】
【0084】
図13に示すように、制御装置4は、ペダル23の回転角度を横軸、左右の荷重差を縦軸とする散布図を算出した。これによって、例えば、普段良く自転車を運転する人とそうでない人の行動特性の違いを評価し、ふらつき運転等に関する知見を得ることができる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る自転車運転シミュレータ等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。