(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オレフィンから導かれる構造単位及び(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位を含み、かつ前記(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸が、1種以上の沸点が105℃以上である不揮発性アルカリ化合物、及び1種以上の沸点が105℃未満である揮発性アルカリ化合物によって中和されている、ポリオレフィン共重合体(A)からなり、
前記ポリオレフィン共重合体(A)の全構造単位に対する、前記(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位の割合が、5重量%以上25重量%以下であり、
前記ポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体を、前記不揮発性アルカリ化合物及び前記揮発性アルカリ化合物で中和して得られる化合物であり、
前記オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体中和時の前記不揮発性アルカリ化合物由来の塩基量が、前記(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸の総量に対して25〜85モル%であり、前記揮発性アルカリ化合物由来の塩基量が、前記(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸の総量に対して30〜95モル%である、電気化学セル用バインダー。
前記不揮発性アルカリ化合物が、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び不揮発性有機アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
前記揮発性アルカリ化合物がアンモニア、及び揮発性有機アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の電気化学セル用バインダー。
前記水溶性ポリマー(B)が、カルボキシメチルセルロースまたはその変性体、ポリエチレンオキサイドまたはその変性体、ポリビニルアルコールまたはその変性体からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性ポリマーである、請求項4または5に記載の電気化学セル用ペースト。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.電気化学セル用バインダー
本発明の電気化学セル用バインダーは、非水電解質二次電池の電極用の材料である。非水電解質二次電池の電極は通常、集電体と、当該集電体の一方の面もしくは両方の面に形成され、かつ活物質を含む合材層とを含む。電気化学セル用バインダーは、活物質と共に合材層に含まれ、活物質等を集電体に結着する機能を果たす。本発明の電気化学セル用バインダーは、非水電解質二次電池の正極及び負極のいずれにも適用される。
【0018】
本発明の電気化学セル用バインダーは、特定のポリオレフィン共重合体(A)からなり、通常、水に分散されている。以下、「電気化学セル用バインダー」を「ポリオレフィン共重合体(A)」とも称する。
【0019】
本発明のポリオレフィン共重合体(A)は、粒子状であることが好ましく、その体積平均粒子径は好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは10〜800nmであり、さらに好ましくは10〜500nmである。体積平均粒子径が10nm以上であると、ポリオレフィン共重合体(A)が活物質等を集電体に結着しやすくなる。一方、体積平均粒子径が1000nm以下であると、ポリオレフィン共重合体(A)の水分散性が高まる。
【0020】
また、合材層は通常、ポリオレフィン共重合体(A)の水分散体を塗布・乾燥させて得られるが、ポリオレフィン共重合体(A)の体積平均粒子径が1000nmより大きいと、ポリオレフィン共重合体(A)が水と共に水分散体の塗膜表面側に移動しやすくなる。その結果、得られる合材層と集電体との界面に存在するポリオレフィン共重合体(A)の量が少なくなり、合材層と集電体との密着性が低くなりやすい。ポリオレフィン共重合体(A)の体積平均粒子径は、粒度分布測定装置(例えばマイクロトラックHRA:Honeywell社製)で測定される。
【0021】
ここで、本発明のポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィンから導かれる構造単位、及び(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位を含み、(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸の少なくとも一部が、特定のアルカリ化合物で中和された構造を有する。
【0022】
ポリオレフィン共重合体(A)に含まれるオレフィンから導かれる構造単位は、炭素数が2〜18の直鎖状、分岐鎖状、または環状オレフィンから導かれる構造単位であることが好ましく、炭素数が2〜8の直鎖状または分岐鎖状のオレフィンであることがより好ましい。ポリオレフィン共重合体(A)には、オレフィンから導かれる構造単位が、1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれていてもよい。オレフィンから導かれる構造単位は、好ましくはエチレン、プロピレン、またはブテンから導かれる構造単位であり、特に好ましくはエチレンから導かれる構造単位である。
【0023】
一方、ポリオレフィン共重合体(A)に含まれる(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位は、アクリル酸またはメタクリル酸から導かれる構造単位;もしくは3,3−ジメチルアクリル酸、フェニルアクリル酸等の置換(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位;でありうる。ポリオレフィン共重合体(A)には、(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位が2種以上含まれてもよい。(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位は、特に好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸から導かれる構造単位である。
【0024】
(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位の量は、ポリオレフィン共重合体(A)に含まれる全構造単位に対して5〜25重量%であることが好ましく、より好ましくは6〜20重量%であり、さらに好ましくは10〜20重量%である。(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位の量が5重量%未満であると、ポリオレフィン共重合体(A)の水に対する分散性が低下しやすい。さらに、ポリオレフィン共重合体(A)の集電体や活物質に対する密着性も低下しやすい。一方、(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位の量が25重量%を超えると、ポリオレフィン共重合体(A)が水媒体に溶解しやすくなる。つまりポリオレフィン共重合体(A)が水溶性高分子になりやすく、ポリオレフィン共重合体(A)で集電体や活物質密着性を十分に結着できないことがある。
【0025】
本発明のポリオレフィン共重合体(A)では、(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸の少なくとも一部が、1種以上の不揮発性アルカリ化合物、及び1種以上の揮発性アルカリ化合物によって中和されている。各アルカリ化合物で中和されたカルボン酸は、カルボン酸の水素基が、各アルカリ化合物由来の基で置換されている。なお、本発明における「不揮発性アルカリ化合物」とは、沸点が105℃以上のアルカリ化合物であり、「揮発性アルカリ化合物」とは沸点が105℃未満のアルカリ化合物である。
【0026】
前述のように、従来の電気化学セル用バインダーでは、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体のカルボン酸が、揮発性アルカリ化合物のみで中和されていた。しかし、揮発性アルカリ化合物のみでカルボン酸が中和されると、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体が沈降しやすくなるとの問題があった。オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体の中和は、通常、当該共重合体の融点以上に加熱して行われる。そのため、中和の際にアルカリ化合物が揮発しやすく、カルボン酸が十分に中和されず、水分散性が低下すると推察される。
【0027】
一方で、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体のカルボン酸が不揮発性アルカリ化合物のみで中和されると、当該バインダーを含む合材層と、集電体との密着性が低くなる、との問題があった。ポリオレフィン共重合体(中和物)には、未中和のカルボン酸も含まれており、この未中和のカルボン酸が、活物質や集電体の構成材料と水素結合することで、ポリオレフィン共重合体が活物質や集電体と密着する。しかし、不揮発性アルカリ化合物でカルボン酸を中和すると、合材層作製時の加熱によっても、余剰のアルカリ化合物が除去されない。その結果、合材層中に未反応のアルカリ化合物が残存し、カルボン酸が過剰に中和されやすくなる。つまり、未中和のカルボン酸量が少なく、ポリオレフィン共重合体と集電体や合材層との間で、十分な量の水素結合を形成できない。したがって、集電体と合材層との密着性が低くなる、と推察される。
【0028】
またこの場合、ポリオレフィン共重合体(中和物)の水分散体では、中和されたカルボン酸が水との界面に配向し、未中和のカルボン酸が水分散体粒子の中心側に存在する。そのため、ポリオレフィン共重合体(中和物)の粒子表面に未中和のカルボン酸が露出し難く、当該カルボン酸が水素結合に寄与できない。このことも、合材層と集電体との密着性が低くなる一因であると推察される。
【0029】
これに対し、本発明のポリオレフィン共重合体(A)では、カルボン酸が不揮発性アルカリ化合物及び揮発性アルカリ化合物によって十分に中和されているため、水に対する分散性が高い。また、カルボン酸の一部が揮発性アルカリ化合物によって中和されている。前述のように、アルカリ化合物によって中和されたカルボン酸は、ポリオレフィン共重合体(A)の粒子表面に配向しやすい。その一方で、揮発性アルカリ化合物で中和されたカルボン酸は、合材層形成時の加熱によって、少なくとも一部が未中和のカルボン酸に戻る。つまり、本発明のポリオレフィン共重合体(A)では、合材層の形成時に、未中和のカルボン酸が粒子表面に露出する。その結果、ポリオレフィン共重合体(A)が、合材層や集電体と、十分に水素結合することができ、合材層と集電体との密着性が高まる。ひいては、当該電極を含む非電解質二次電池のサイクル特性が高まる。
【0030】
不揮発性アルカリ化合物は、105℃以上の沸点を有するアルカリ化合物であれば特に制限されず、LiOH、NaOH、KOH等のアルカリ金属の水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール、N,N−ジエチル−2−アミノエタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、ピリジン、アニリン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−メチルイミダゾール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール等の不揮発性有機アミン類等でありうる。カルボン酸の中和には、上記の不揮発性アルカリ化合物が1種のみ用いられてもよく、2種以上が用いられてもよい。
【0031】
揮発性アルカリ化合物は、105℃未満の沸点を有するアルカリ化合物であれば特に制限されず、アンモニア;もしくはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン等の揮発性有機アミン類等でありうる。オレフィン−(メタ)アクリル酸の共重合体の中和には、上記の揮発性アルカリ化合物が1種のみ用いられてもよく、2種以上が用いられてもよい。
【0032】
また、ポリオレフィン共重合体(A)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、50,000以上であることが好ましく、より好ましくは50,000〜200,000であり、さらに好ましくは50,000〜150,000である。ポリオレフィン共重合体(A)の分子量が50,000以上であると、ポリオレフィン共重合体(A)の水分散体中での粒子径を所望の範囲に調整しやすくなる。
【0033】
また、ポリオレフィン共重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC)によって融点が認められない、もしくは融点が120℃以下であることが好ましく、融点はより好ましくは110℃以下である。融点が認められない、もしくは融点が120℃以下であると、ポリオレフィン共重合体(A)等を含む合材層の柔軟性が高まりやすく、合材層形成時の収縮応力も緩和されやすい。
【0034】
ポリオレフィン共重合体(A)は、結晶性を有してもよいが、二次電池のサイクル特性が高まったり、活物質や集電体との密着性が高まるとの観点から、ポリオレフィン共重合体(A)の結晶化度は低いことが好ましい。具体的には、X線回折法により測定される結晶化度が、30%以下であることが好ましい。
【0035】
本発明のポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体を調製し、当該共重合体を、不揮発性アルカリ化合物及び揮発性アルカリ化合物で中和して得られる。
【0036】
オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体の調製方法は特に制限されず、従来公知の方法でありうる。例えば、オレフィンと(メタ)アクリル酸とを触媒を用いて共重合させる方法でありうる。
【0037】
また、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体の中和方法は、当該共重合体、水、前述の不揮発性アルカリ化合物、及び前述の揮発性アルカリ化合物を混合し、所定の温度で攪拌しながら反応させる方法でありうる。オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体の中和時には、必要に応じて、乳化助剤を添加してもよい。
【0038】
中和時に添加する不揮発性アルカリ化合物の量は、(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸の総量に対して、不揮発性アルカリ化合物由来の塩基(カルボン酸と反応する基)の量が25〜85モル%となる量であることが好ましい。不揮発性アルカリ化合物由来の塩基の量は、より好ましくは30〜80モル%であり、さらに好ましくは30〜60モル%である。中和時に添加する不揮発性アルカリ化合物由来の塩基の量が25モル%以上であると、カルボン酸が不揮発性アルカリ化合物によって十分に中和される。その結果、得られるポリオレフィン共重合体(A)の水媒体への分散性が高まりやすい。一方、中和時に添加する不揮発性アルカリ化合物由来の塩基の量が85モル%以下であると、相対的に未中和のカルボン酸の量が十分になり、得られるポリオレフィン共重合体(A)と集電体や活物質との密着性が高まりやすい。
【0039】
一方、中和時に添加する揮発性アルカリ化合物の量は、(メタ)アクリル酸から導かれる構造単位に含まれるカルボン酸の総量に対して、揮発性アルカリ化合物由来の塩基(カルボン酸と反応する基)の量が25〜100モル%となる量であることが好ましい。揮発性アルカリ化合物の塩基量は、より好ましくは30〜95モル%であり、さらに好ましくは35〜90モル%である。中和時に添加する揮発性アルカリ化合物の量が上記範囲であると、得られるポリオレフィン共重合体(A)の分散体を塗布・乾燥して合材層を形成する際に、未中和のカルボン酸が十分に生成する。その結果、合材層と集電体との密着性が高まりやすい。
【0040】
反応時に添加する不揮発性アルカリ化合物の量と、揮発性アルカリ化合物の量との比率は、不揮発性アルカリ化合物の量100質量部に対して、揮発性アルカリ化合物の量が30〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜390質量部であり、さらに好ましくは、70〜380質量部である。
【0041】
中和反応時の温度は、通常、オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体の融点以上の温度であることが好ましく、105〜180℃であることが好ましく、より好ましくは120〜170℃である。また、反応時間は1〜24時間であることが好ましく、より好ましくは2〜8時間である。オレフィン−(メタ)アクリル酸共重合体の中和時の温度や、中和量、乳化助剤の量によって、得られるポリオレフィン共重合体(A)の体積平均粒子径が調整される。なお、中和時に添加する乳化助剤の種類は特に制限されず、公知の乳化助剤でありうる。
【0042】
2.電気化学セル用ペースト
電気化学セル用ペーストは、電気化学セル用電極の合材層を作製するためのペーストである。電気化学セル用ペーストには、前述の電気化学セル用バインダー(ポリオレフィン共重合体(A))、水溶性ポリマー(B)、活物質(C)、及び導電助剤(D)が含まれ、水等の溶媒がさらに含まれてもよい。
【0043】
(2−1)電気化学セル用バインダー((ポリオレフィン共重合体(A))
電気化学セル用バインダーは、前述のように、集電体上に電気化学セル用電極の合材層を作製したときに、活物質(C)や導電助剤(D)を集電体に結着する機能を果たす。
【0044】
電気化学セル用バインダーは、電気化学セル用ペーストの固形分(溶媒を除く全ての成分)中に1〜10重量%含まれることが好ましく、より好ましくは2〜6重量%である。電気化学セル用ペーストの固形分中に含まれる電気化学セル用バインダーの量が1重量%以上であると、合材層と集電体との密着性が高まりやすい。一方、電気化学セル用バインダーの量が10重量%以下であれば、電気化学セル用バインダーによって、活物質(C)の表面が被覆され難い。
【0045】
また、電気化学セル用バインダーは、活物質(C)100重量部に対して0.5〜30重量部含まれることが好ましく、より好ましくは2〜10重量部である。電気化学セル用バインダーの量が上記範囲であると、電気化学セル用バインダーによって活物質(C)が集電体に十分に結着される。
【0046】
(2−2)水溶性ポリマー(B)
電気化学セル用ペーストに水溶性ポリマー(B)が含まれると、電気化学セル用ペーストの粘度が調整され、電気化学セル用ペーストの塗工性が高まる。さらに、電気化学セル用ペースト中における、活物質(C)や導電助剤(D)の経時での沈降や、電気化学セル用バインダーの分離が抑制される。
【0047】
水溶性ポリマー(B)は、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロースまたはその変性体;ポリエチレンオキサイドまたはその変性体;ポリビニルアルコールまたはその変性体;多糖類;等でありうる。なかでも、カルボキシメチルセルロースまたはその変性体、ポリエチレンオキサイドまたはその変性体、ポリビニルアルコールまたはその変性体であることが好ましく、沈降安定性の面からカルボキシメチルセルロースまたはその変性体、ポリビニルアルコールまたはその変性体がより好ましい。電気化学セル用ペーストには、水溶性ポリマー(B)が一種のみ含まれてもよく、二種以上含まれてもよい。
【0048】
活物質(C)や導電助剤(D)の経時での沈降が抑制されやすいとの観点から、水溶性ポリマー(B)は、カルボキシメチルセルロース、ポリオキシエチレンまたはその変性体、ポリビニルアルコールまたはその変性体であることが好ましい。
【0049】
水溶性ポリマー(B)の分子量は特に制限されないが、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で求められる重量平均分子量(ポリスチレン換算)が50,000〜4,000,000であることが好ましく、より好ましくは60,000〜3,500,000であり、さらに好ましくは65,000〜3,000,000である。水溶性ポリマー(B)の重量平均分子量が、50,000未満であると、活物質(C)や導電助剤(D)が沈降することがある。一方、水溶性ポリマー(B)の重量平均分子量が4,000,000を超えると、電気化学セル用ペーストに著しいチクソトロピー特性が発現し、電気化学セル用ペーストの塗工性が低下することがある。
【0050】
電気化学セル用ペーストの塗布性や作業性等の観点から、水溶性ポリマー(B)は、ポリオレフィン共重合体(A)100重量部に対して、10〜100重量部含まれることが好ましく、より好ましくは10〜95重量部である。
【0051】
また、水溶性ポリマー(B)は活物質(C)100重量部に対して0.5〜30重量部含まれることが好ましく、より好ましくは0.5〜20重量部である。活物質(C)に対して、水溶性ポリマー(B)が上記の範囲含まれると、ペースト中における、活物質(C)や導電助剤(D)の経時での沈降が抑制されやすい。
【0052】
(2−3)活物質(C)
電気化学セル用ペーストに含まれる活物質(C)は、一般的な非水電解質二次電池(リチウム電池)に使用される活物質でありうる。活物質の種類は、電気化学セル用ペーストの用途(正極用、もしくは負極用)に応じて適宜選択される。
【0053】
負極用の活物質は、リチウムイオンをドープ・脱ドープできるものであれば特に制限されず、金属リチウム、リチウム合金、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化チタン、シリコン、遷移金属窒素化物、天然黒鉛等の炭素材料や、これらの複合物でありうる。
【0054】
正極用の活物質の例には、Li
2S、Sなどの硫黄系化合物、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiNi
XCo
(1−X)O
2、LiNi
xMn
yCo
(1−x−y)、LiNi
xCo
yAl
(1−x−y)、Li
2MnO
3などのリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物;LiFePO
4、LiMnPO
4等の燐酸化合物が含まれる。正極用の活物質は、活物質自体の電子伝導性を高めるため、炭素材料等の電子導電性材料がコーティングされたものでもありうる。
【0055】
活物質(C)の粒度分布は、レーザー回折散乱法で測定されるメディアン径(D50)が0.5〜20μmであることが好ましい。D50が0.5μm未満であると、電気化学セル用ペーストの調製時に、粒子の再凝集が生じ、合材層の形成が困難になる。一方、D50が20μmより大きいと、粒子自体の電子伝導性が得られ難く、非水電解質二次電池の入出力性能が低下しやすい。
【0056】
活物質(C)のBET比表面積は、5〜30m
2/gであることが好ましい。BET比表面積が5m
2/g未満であると、活物質(C)と導電助剤(D)や集電体との実効接触面積が小さくなり、電極の抵抗値が高まる。そして、非水電解質二次電池の入出力性能が低下しやすくなる。一方、BET比表面積が30m
2/gより大きいと、電気化学セル用ペースト調製時に、活物質(C)に溶媒が吸着されやすくなる。その結果、ペーストの固形分濃度が低くなり、合材層表面にひび割れが生じやすくなる。
【0057】
(2−4)導電助剤(D)
電気化学セル用ペーストに含まれる導電助剤(D)は、導電性のカーボン、有機半導体、金属粉末、金属繊維等であり、好ましくは導電性のカーボン、または有機半導体である。導電性のカーボンの例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、人造黒鉛、天然黒鉛等が含まれる。一方、有機半導体は、ポリチオフェン系化合物、ポリピロール系化合物、ポリアニリン系化合物等の導電性高分子が含まれる。電気化学セル用ペーストには、これらの導電助剤(D)が1種のみ含まれてもよく、2種以上が含まれてもよい。
【0058】
また特に、負極用の導電助剤(D)は、好ましくは人造黒鉛の粉末である。負極用の導電助剤(D)が人造黒鉛の粉末であると、非水電解質二次電池のエネルギー密度が高まりやすい。一方、正極用の導電助剤(D)は、コスト等の観点から、好ましくはアセチレンブラックである。
【0059】
導電助剤(D)の粒度分布は、レーザー回折散乱法で測定したメディアン径(D50)が0.02〜80μmであることが好ましく、より好ましくは0.4〜20μmである。D50が0.02μm未満であると、電気化学セル用ペーストの調製時に、粒子の再凝集が起こりやすくなる。一方、D50が80μmより大きくなると、電気化学セル用ペースト調製時に、ペーストにせん断力がかかり難く、粒子の分散が不十分になることがある。また特に、アセチレンブラック等の正極用の導電助剤(D)は、正極活物質のメディアン径とのバランスの点から、メディアン径(D50)が0.02〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.4〜3μmである。
【0060】
導電助剤(D)の比表面積(BET)は、2〜80m
2/gであることが好ましい。比表面積が2m
2/g未満であると、導電助剤(D)と活物質(C)や集電体との実効接触面積が小さく、電極板の抵抗値が高くなり、非水電解質二次電池の入出力性能が低下しやすい。導電助剤(D)比表面積が80m
2/gより大きくなると、導電助剤(D)と非水電解質との接触面積が大きくなり、充電時における非水電解質の分解反応が多くなりやすい。
【0061】
導電助剤(D)は、活物質(C)100重量部に対して0.1〜20重量部含まれることが好ましく、より好ましくは0.2〜15重量部である。この範囲であれば、充電容量を損なわずに良好なリチウムイオン輸送性と電気伝導性が得られる。また、導電助剤(D)の量が0.1重量部未満であると、合材層の電気抵抗が増加しやすくなる。一方、導電助剤(D)の量が20重量部を超えると、Liイオン輸送性が低下することがある。
【0062】
(2−5)溶媒
電気化学セル用ペーストには、通常、水や、その他の溶媒が含まれ、特に好ましくは水のみ含まれる。溶媒の量や種類は、電気化学セル用ペーストの粘度等に応じて、適宜選択される。水以外の溶媒は、例えばメタノール、エタノール、n−プロパン−ル、イソプロパノール、n−ブタノール等の炭素数が1〜10、好ましくは2〜4である低級アルコール類でありうる。
【0063】
(2−6)その他
電気化学セル用ペーストには、必要に応じて、耐熱安定剤、スリップ防止剤、発泡剤、結晶化助剤、核剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、充填剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤、加工助剤等の各種添加剤が含まれてもよい。
【0064】
また、電気化学セル用ペーストには、必要に応じて界面活性剤が含まれてもよい。界面活性剤が含まれると、電気化学セル用ペーストにおける、活物質(C)や導電助剤(D)の分散性が高まりやすい。界面活性剤の例には、オレイン酸カリウム、アセチレニックグリコール誘導体のポリオキシエチレンエーテル、およびシリコン変性ポリオキシエチレンエーテル等が含まれる。電気化学セル用ペーストにはこれらが1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0065】
(2−7)電気化学セル用ペーストの調製方法
電気化学セル用ペーストは、前述の電気化学セル用バインダーの水分散体、水溶性ポリマー(B)、活物質(C)、及び導電助剤(D)を混合し、公知の方法で混合することで調製される。必要に応じて、追加の溶媒や他の添加剤を添加してもよい。混合方法の例には、ディスパーミキサーによる攪拌等が挙げられる。
【0066】
電気化学セル用ペーストの固形分濃度(溶媒以外の成分の濃度)は、20〜80重量%とすることが好ましく、より好ましくは30〜70重量%である。電気化学セル用ペーストの固形分濃度が80重量%以下であると、電気化学セル用ペーストの塗工性が高まりやすい。一方、電気化学セル用ペーストの固形分濃度が20重量%以上であると、電気化学セル用ペーストの塗膜が短時間で乾燥される。
【0067】
3.電気化学セル用電極
本発明の電気化学セル用電極は、後述の非水電解質二次電池用の電極でありうる。当該電気化学セル用電極は、金属箔からなる集電体の一方の面、もしくは両方の面に合材層が積層された構造を有する。また、当該電気化学用セル用電極には、電気化学用セルに配置されることを目的とした加工(例えば切断等)前の、いわゆるシート状の電極も含まれる。
【0068】
(3−1)集電体
電気化学セル用電極に含まれる集電体は、電気化学セル用電極を適用する非水電解質二次電池の外層体の形状等に応じて適宜選択され、圧延金属箔、電解金属箔、多孔質金属板、ラス状、パンチングメタル、網状やスポンジ状などの三次元に連なった金属多孔体等でありうる。
【0069】
正極用の集電体は、耐酸化性の高い金属からなることが好ましく、AlやTiからなることが好ましい。一方、負極用の集電体は、リチウムと合金化し難い金属からなることが好ましく、Cu、Ni、SUS等からなることが好ましい。
【0070】
(3−2)合材層
電気化学セル用電極に含まれる合材層は、前述の電気化学セル用ペーストの硬化物である。
正極用の合材層の充填密度は、1.0〜6.0g/cm
3であることが好ましく、正極用の合材層中に含まれる活物質(C)の量は4mg/cm
3〜90mg/cm
3であることが好ましい。合材層の充填密度が1.0mg/cm
3未満であると、非水電解質二次電池のエネルギー密度が低下しやすい。一方、充填密度が6.0g/cm
3より高くなると、正極板への電解質の浸透性が低くなり、電池性能が劣化しやすい。充填密度は、合材層の重量(g)/合材層の体積(cm
3)から算出される。一方、合材層中に含まれる活物質(C)の量は、合材層の充填密度(g/cm
3)×合材層中に含まれる活物質の割合(%)/100から算出される。
【0071】
一方、負極用の合材層の充填密度は、1.0〜1.7g/cm
3であることが好ましく、負極用の合材層中に含まれる活物質(C)の量は4〜90mg/cm
2であることが好ましい。
【0072】
当該合材層は、電気化学セル用ペーストを、集電体上に塗布し、溶媒を乾燥させた後、塗膜を圧延して作製される。
【0073】
電気化学セル用ペーストの塗布方法は特に制限されず、アプリケータやバーコーター、コンマコーター、ダイコーター等による塗布でありうる。また、塗膜の乾燥方法は、ペースト中に含まれる溶媒を乾燥可能な方法であれば特に制限されず、常温での乾燥、もしくは加熱乾燥等でありうる。乾燥時の温度は、25〜250℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜180℃である。25℃以上の温度で乾燥すると、ペースト中に含まれる溶剤と共に、電気化学セル用バインダー(ポリオレフィン共重合体(A))に結合した揮発性アルカリ化合物も揮発する。その結果、未中和のカルボン酸が生成し、電気化学セル用バインダーが集電体や合材層中の活物質(C)等と水素結合する。乾燥時間は適宜選択されるが、通常1時間未満であることが好ましく、より好ましくは0.1〜30分である。
【0074】
ペースト中の溶媒や揮発性アルカリ化合物の除去後、さらに当該塗膜を圧延する。圧延方法は特に制限されず、ロールプレス機等で行われる。プレス圧力は、合材層中の活物質(C)の充填密度が、前述の範囲になるよう、適宜選択される。塗膜が圧延されると、活物質(C)と導電助剤(D)との密着性、及び導電助剤(D)と集電体との密着性が高まり、電気化学セル用電極の電気抵抗が低減される。
【0075】
4.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、正極、セパレータ、及び負極の積層体を、円筒型、コイン型、角型、フィルム型の外装材内に配置し、非水電解質を封入したものでありうる。非水電解質二次電池の正極及び負極は、前述の電気化学セル用電極でありうる。
【0076】
(4−1)セパレータ
非水電解質二次電池のセパレータは特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、などから成る不織布や微多孔質膜等でありうる。
【0077】
セパレータは、空隙率が30%〜90%であることが好ましい。空隙率が低いと、非水電解質の含有量が減りやすく、非水電解質二次電池の内部抵抗が高まりやすい。一方、空隙率が90%より高いと、正極板と負極板が物理的な接触を起こしやすくなり、非水電解質二次電池の内部短絡する場合がある。
【0078】
セパレータの形状は、非水電解質二次電池の形状に合わせて適宜選択されるが、セパレータの厚みは、通常5〜100μmであることが好ましい。セパレータの厚みが5μm以上であると、正極及び負極の短絡が十分に抑制される。一方、セパレータの厚みが100μm以下であると、非水電解質二次電池の内部抵抗が抑制されやすい。
【0079】
(4−2)非水電解質
非水電解質は、電解質塩を有機溶媒に溶解させたものでありうる。
非水電解質に含まれる電解質塩の例には、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、トリフルオロ酢酸リチウム(LiCF
3COO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(LiN(CF
3SO
2)
2)等のリチウム塩が含まれる。これらは、非水電解質に1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0080】
非水電解質に含まれる有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のフラン類;ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチル等でありうる。これらは非水電解質に1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類が高沸点であるとの観点から好ましい。
【0081】
非水電解質における、電解質塩の濃度は0.5〜3mol/lであることが好ましい。電解質塩の濃度が0.5mol/l以下であると、非水電解質中のキャリア濃度が低くなり、非水電解質の抵抗が高くなりやすい。一方、電解質塩の濃度が3mol/lより高いと塩の解離度が低くなり、非水電解質中のキャリア濃度が上がり難い。
【0082】
(4−3)外装材
非水電解質二次電池の外装材は、鉄、ステンレススチール、アルミニウム等からなる缶でありうる。また極薄のアルミを樹脂でラミネートしたフィルム状の袋でもありうる。
外装材の形状は特に制限されず、円筒型、角型、薄型等いずれの形状でもありうる。ただし、大型リチウムイオン二次電池は組電池として使用されることが多いため、角型または薄型であることが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
<電気化学セル用バインダー(ポリオレフィン共重合体(A))の水分散体の調製>
[製造比較例1]
エチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタクリル酸から導かれる構造単位の含有率:20重量%)280重量部、25%アンモニア水溶液48.7重量部(アンモニアの沸点:−33℃)、及び脱イオン水1100重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で4時間攪拌した。当該混合液を冷却したところ、大部分のエチレン−メタクリル酸共重合体が乳化せずに沈殿した。
【0085】
[製造比較例2]
エチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタクリル酸から導かれる構造単位の含有率:20重量%)280重量部、96%水酸化ナトリウム29.8重量部(沸点:1388℃)、脱イオン水1100重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で4時間攪拌した。当該混合液を冷却し、体積平均粒子径20nm、固形分20%の乳白色のポリオレフィン共重合体(A)(融点:85℃)の水分散体を得た。
【0086】
[製造比較例3]
エチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタクリル酸から導かれる構造単位の含有率:20重量%)280重量部、96%水酸化ナトリウム13.5重量部(沸点:1388℃)、及び脱イオン水1100重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で4時間攪拌した。当該混合液を冷却し、体積平均粒子径20nm、固形分20%の乳白色のポリオレフィン共重合体(A)(融点:85℃)の水分散体を得た。
【0087】
[製造実施例1]
エチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタクリル酸から導かれる構造単位の含有率:20重量%)280重量部、96%水酸化ナトリウム8.14重量部(沸点:1388℃)、25%アンモニア水溶液35.4重量部(アンモニアの沸点:−33℃)、及び脱イオン水1100重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で4時間攪拌した。当該混合液を冷却し、体積平均粒子径20nm、固形分20%の乳白色のポリオレフィン共重合体(A)(融点:85℃)の水分散体を得た。
【0088】
[製造実施例2]
エチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタクリル酸から導かれる構造単位の含有率:20重量%)280重量部、モノエタノールアミン11.9重量部(沸点:171℃)、25%アンモニア水溶液35.4重量部(アンモニアの沸点:−33℃)、及び脱イオン水1100部をオートクレーブに仕込み、150℃で4時間攪拌した。当該混合液を冷却し、体積平均粒子径20nm、固形分20%の乳白色のポリオレフィン共重合体(A)(融点:85℃)の水分散体を得た。
【0089】
[製造実施例3]
エチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタクリル酸から導かれる構造単位の含有率:20重量%)280重量部、96%水酸化ナトリウム8.14重量部(沸点:1388℃)、ジエチルアミン38重量部(沸点:55℃)、脱イオン水1100重量部をオートクレーブに仕込み、150℃で4時間攪拌した。当該混合液を冷却し、体積平均粒子径20nm、固形分20%の乳白色のポリオレフィン共重合体(A)(融点:85℃)の水分散体を得た。
【0090】
<電気化学セル用電極(正極)の作製>
[比較例1]
LiCoO
2活物質(アルドリッチ社製)90重量部、アセチレンブラック(デンカブラックHS−100:電気化学工業株式会社製)4重量部、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN−メチル−2−ピロリドン溶液(PVDF量:6重量部)を混合し、固形分濃度50重量%の電気化学セル用ペーストを調製した。
当該電気化学セル用ペーストを、厚さ20μmのアルミ箔(集電体)の一方の面に塗布し、乾燥させた。その後、圧縮成型して、集電体と合材層とからなる、厚さ70μmの正極を作製した。
【0091】
[比較例2〜4、及び実施例1〜3]
LiCoO
2活物質(アルドリッチ社製)90重量部、アセチレンブラック(デンカブラックHS−100:電気化学工業株式会社製)4重量部、カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学株式会社CMC1160、重量平均分子量:650,000)1重量部、及び製造比較例1〜3または製造実施例1〜3で調製したポリオレフィン共重合体(A)の水分散体(ポリオレフィン共重合体(A)量:4重量部)を混合した。さらに、脱イオン水にて固形分濃度を調整し、固形分濃度50重量%の電気化学セル用ペーストを調製した。
当該電気化学セル用ペーストを、厚さ20μmのアルミ箔(集電体)の一方の面に塗布し、乾燥させた。その後、圧縮成型して、集電体と合材層とからなる、厚さ70μmの正極を作製した。
【0092】
<電気化学セル用電極(正極)の評価>
以下の方法で、比較例1〜4、及び実施例1〜3で作製した電気化学セル用電極について、以下の方法で切削強度を測定し、集電体に対する合材層の密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
(切削強度の測定方法)
各電極をロールプレス機で3.0g/ccとなるまで圧縮成形し、SAICAS(Surface And Interfacial Cutting Analysis System:DN20 ダイプラウィンテス社製)にて切削強度を測定した。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示されるように、揮発性アルカリ化合物及び不揮発性アルカリ化合物によって中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体が合材層のバインダーである電極では、合材層と集電体との密着性が良好(切削強度が0.32kN/m以上)であった。
【0096】
これに対し、揮発性アルカリ化合物のみで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体を合材層のバインダーとすると、合材層が形成できなかった(比較例2)。エチレン−メタクリル酸共重合体の中和が十分に行われず、エチレン−メタクリル酸共重合体が水分散液中で沈降したと推察される。
【0097】
一方、不揮発性アルカリ化合物のみで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体が合材層のバインダーである場合、中和時のアルカリ化合物(水酸化ナトリウム)の量が多いと(比較例3)、合材層が剥離した。また、アルカリ化合物の量が少なかったとしても(比較例4)、合材層と集電体との密着性が低かった。合材層中に、余剰の不揮発性アルカリ化合物が残存してしまい、カルボン酸が過剰に中和されたと推察される。
【0098】
<非水電解質二次電池の作製>
・電気化学セル用電極(負極)の作製
カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学株式会社CMC1160、重量平均分子量:650,000)の水溶液を準備した。水溶液中のカルボキシメチルセルロースの濃度は、1.2重量%とした。
【0099】
人造黒鉛(日立化成品、平均粒径20μm)90重量部と、アセチレンブラック(デンカブラック:電気化学工業株式会社製)7重量部と、上記のカルボキシセルロース溶液83.3重量部(カルボキシセルロース量:1重量部)と、バインダーとしてスチレンブタジエンゴムを含むエマルション(SR143:日本エイアンドエル(株)社製、体積平均粒子径:160nm、固形分濃度:48重量%)41.7重量部(固形分量:2重量部)とを混合し、固形分濃度50重量%の負極電気化学セル用ペーストを調製した。
当該負極電気化学セル用ペーストを、厚さ18μmの帯状銅箔製の負極集電体の一方の面に塗布し、乾燥させた。そして、これを圧縮成型して、厚さ70μmの負極を作製した。
【0100】
・非水電解質の調製
非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)の混合液(EC:MEC=4:6(重量比))を準備した。当該混合液に、LiPF
6(電解質塩)を溶解させて、電解質塩の濃度が1.0mol/Lとなるように非水電解質を調製した。
【0101】
・コイン型リチウムイオン二次電池の作製
コイン型電池用負極として前記の負極を直径14mmの円盤状に打ち抜いて、重量20mg/14mmφのコイン状の負極を得た。一方、コイン型電池用正極として前記の比較例1〜4、及び実施例1〜3の正極をそれぞれ直径13.5mmの円盤状に打ち抜いて、重量42mg/13.5mmφのコイン状の正極を得た。
コイン状の負極、正極、及び厚さ25μm、直径16mmの微多孔性ポリプロピレンフィルム製のセパレータをこの順に積層し、ステンレス製の2032サイズ電池缶の負極缶内に設置した。その後、セパレータに前記非水電解質0.04mlを注入した。そして、積層体の上にアルミニウム製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)、およびバネを重ねた。
最後に、ポリプロピレン製のガスケットを介して電池の正極缶をかぶせて、缶蓋をかしめ、電池内の気密性が保持された、直径20mm、高さ3.2mmのコイン型電池を得た。
【0102】
<電池サイクル特性の評価>
各コイン型リチウムイオン二次電池について、1Cにおけるサイクルを回繰り返し、初期の電池容量に対する500サイクル後の容量(%)を評価した。
評価結果を表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2に示されるように、電気化学セル用バインダーに不揮発性アルカリ化合物及び揮発性アルカリ化合物で中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体を合材層のバインダーとした実施例1〜3のリチウムイオン二次電池では、500サイクル後における電池容量の減少率が20%以下であった。バインダーによって、合材層と集電体とが強固に結着されているためと推察される。
【0105】
これに対し、不揮発性アルカリ化合物のみで中和されたエチレン−メタクリル酸共重合体を合材層のバインダーとした比較例3及び4のリチウムイオン二次電池では、500サイクル後における電池容量の減少率が45%以下であった。合材層と集電体との密着性が低かったためと推察される。
さらに、電気化学セル用バインダーにPVDFを用いた比較例1のリチウム二次電池でも、500サイクル後における電池容量の減少率が60%であった。
【0106】
本出願は、2013年12月2日出願の特願2013−249190に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。