特許第6552110号(P6552110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552110
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】軸受の摩耗防止構造
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/52 20060101AFI20190722BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20190722BHJP
   F16C 35/073 20060101ALI20190722BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20190722BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   F16C19/52
   F16C19/38
   F16C35/073
   F16C33/78 D
   F16C33/80
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-31717(P2016-31717)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-150520(P2017-150520A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡村 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 研
(72)【発明者】
【氏名】永友 貴史
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−130274(JP,A)
【文献】 特開2013−019486(JP,A)
【文献】 特開2008−082392(JP,A)
【文献】 特開2006−153285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72−33/82
F16C 19/38、19/52
F16C 35/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受とこの軸受と接触する接触部材とが不均一に接触するときに、これらの接触面に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、
前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面と前記接触部材側の接触面とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部を備え、
前記可撓部は、前記接触部材の薄肉部であること、
を特徴とする軸受の摩耗防止構造。
【請求項2】
軸受とこの軸受と接触する接触部材とが不均一に接触するときに、これらの接触面に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、
前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面と前記接触部材側の接触面とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部を備え、
前記可撓部は、前記接触部材の長さ方向に所定の間隔をあけて、この接触部材の外周面及び/又は内周面の円周方向に形成された複数本の溝部を備えること、
を特徴とする軸受の摩耗防止構造。
【請求項3】
軸受とこの軸受と接触する接触部材とが不均一に接触するときに、これらの接触面に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、
前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面と前記接触部材側の接触面とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部を備え、
前記可撓部は、前記接触部材の外周面及び/又は内周面の円周方向に形成された一本の溝部を備えること、
を特徴とする軸受の摩耗防止構造。
【請求項4】
軸受とこの軸受と接触する接触部材とが不均一に接触するときに、これらの接触面に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、
前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面と前記接触部材側の接触面とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部を備え、
前記可撓部は、前記接触部材の長さ方向に所定の間隔をあけて、この接触部材の外周面の円周方向に形成された複数本の溝部を備え、
前記可撓部の複数本の溝部は、回転体である前記接触部材と所定の間隔をあけて固定される固定体の複数本の溝部と隙間をあけて対向し、
前記可撓部の複数本の溝部と前記固定体の複数本の溝部は、この可撓部の複数本の溝部とこの固定体の複数本の溝部との間の隙間を密封するラビリンスシール部を構成すること、
を特徴とする軸受の摩耗防止構造。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の軸受の摩耗防止構造において、
前記可撓部は、前記軸受の内輪と接触する後蓋又は油切りに形成されていること、
を特徴とする軸受の摩耗防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受とこの軸受と接触する接触部材とが不均一に接触するときに、これらの接触面に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車軸軸受装置(以下、従来技術1という)は、軸受の内輪の内径以上でこの内輪の内径の1.2倍以下の範囲に、軸受のつば部端面と後蓋との接触面を設け、この接触面の外方に環状溝を形成している(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、軸受の内輪のつば部端面と後蓋との接触面の摩耗によって発生するフレッチング摩耗粉を環状溝に閉じ込めている。
【0003】
従来の鉄道車両用軸受装置(以下、従来技術2という)は、軸受の内輪と後蓋とが直接接触しないように、軸受の内輪と後蓋との間に環状スペーサを嵌合させている(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2では、軸受の内輪と後蓋との間に環状スペーサを挿入することによって、軸受の内輪と後蓋とが接触してフレッチング摩耗粉が発生するのを抑制している。
【0004】
従来の鉄道車両用軸受ユニット(以下、従来技術3という)は、軸受の内輪と後蓋とが均一に接触するように後蓋側の接触面の形状を変更している(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3では、軸受の内輪と後蓋との接触部が平坦面にならないように後蓋側の接触部を凸状の曲面に形成し、軸受の内輪と後蓋との接触部における接触面圧の偏りを解消している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-254735号公報
【0006】
【特許文献2】特開2004-332905号公報
【0007】
【特許文献3】特開2011-112122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1では、軸受のつば部端面と後蓋との接触面の外方に環状溝を形成している。このため、従来技術1では、軸受のつば部端面と後蓋との接触面の接触面圧が低い位置に環状溝を形成したときには、この接触面の接触面圧の高い位置から発生するフレッチング摩耗粉をこの環状溝に閉じ込めることができず、フレッチング摩耗の発生自体を防ぐこともできない問題点がある。従来技術2では、軸受の内輪と後蓋との間にこれらとは別部材の環状スペーサを嵌合させている。このため、従来技術2では、鉄道車両用軸受装置を構成する構成部品の点数が増加し、組立に手間がかかり製造コストが高くなってしまう問題点がある。また、これらの従来技術1,2では、フレッチング摩耗粉が軸受内部に侵入するのを防止することを目的としており、フレッチング摩耗そのものを防止することができない問題点がある。従来技術3では、後蓋側の接触部を多項式や指数関数などの断面曲線に形成する必要があり、断面曲線の設計や後蓋の加工に手間がかかる問題点がある。
【0009】
この発明の課題は、簡単な加工によって軸受と接触部材とを略均一に接触させ軸受の摩耗を防止することができる軸受の摩耗防止構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2図9及び図11に示すように、軸受(3)とこの軸受と接触する接触部材(9)とが不均一に接触するときに、これらの接触面(3g,9a)に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、 前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面(3g)と前記接触部材側の接触面(9a)とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部(13)を備え、前記可撓部は、前記接触部材の薄肉部であることを特徴とする軸受の摩耗防止構造(12)である。
【0011】
請求項2の発明は、図2〜図及び図11に示すように、軸受(3)とこの軸受と接触する接触部材(9)とが不均一に接触するときに、これらの接触面(3g,9a)に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面(3g)と前記接触部材側の接触面(9a)とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部(13)を備え、前記可撓部は、前記接触部材の長さ方向に所定の間隔をあけて、この接触部材の外周面(9c)及び/又は内周面(9b)の円周方向に形成された複数本の溝部(14a)を備えることを特徴とする軸受の摩耗防止構造(12)である。
【0012】
請求項3の発明は、図〜図に示すように、 軸受(3)とこの軸受と接触する接触部材(9)とが不均一に接触するときに、これらの接触面(3g,9a)に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面(3g)と前記接触部材側の接触面(9a)とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部(13)を備え、前記可撓部は、前記接触部材の外周面(9c)及び/又は内周面(9b)の円周方向に形成された一本の溝部(14b)を備えることを特徴とする軸受の摩耗防止構造(12)である。
【0013】
請求項4の発明は、図11に示すように、軸受(3)とこの軸受と接触する接触部材(9)とが不均一に接触するときに、これらの接触面(3g,9a)に発生する摩耗を防止する軸受の摩耗防止構造であって、前記軸受と前記接触部材とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、前記軸受側の接触面(3g)と前記接触部材側の接触面(9a)とが略均一に接触するように、この接触部材を撓ませる可撓部(13)を備え、前記可撓部は、前記接触部材の長さ方向に所定の間隔をあけて、この接触部材の外周面(9c)の円周方向に形成された複数本の溝部(14b)を備え、前記可撓部の複数本の溝部は、回転体である前記接触部材と所定の間隔をあけて固定される固定体(15)の複数本の溝部(15a)と隙間をあけて対向し、前記可撓部の複数本の溝部と前記固定体の複数本の溝部は、この可撓部の複数本の溝部とこの固定体の複数本の溝部との間の隙間を密封するラビリンスシール部(16)を構成することを特徴とする軸受の摩耗防止構造(12)である。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の軸受の摩耗防止構造において、図2図9及び図11に示すように、前記可撓部は、前記軸受の内輪と接触する後蓋(9)又は油切り(8)に形成されていることを特徴とする軸受の摩耗防止構造である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、簡単な加工によって軸受と接触部材とを略均一に接触させ軸受の摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える軸受組立体を概略的に示す縦断面図である。
図2】この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のII-IIB線で切断した状態を示す断面図である。
図3】この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋の一部を省略して示す縦断面図である。
図4】この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋が圧入される車軸が撓んだ状態を模式的に示す縦断面図であり、(A)は摩耗防止構造が存在する場合の縦断面図であり、(B)は摩耗防止構造が存在しない場合の縦断面図である。
図5】この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋を所定位置よりも反軸端側に圧入した状態を模式的に示す縦断面図であり、(A)は摩耗防止構造が存在する場合の縦断面図であり、(B)は摩耗防止構造が存在しない場合の縦断面図である。
図6】この発明の第2実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋の一部を省略して示す縦断面図であり、(A)は後蓋の内周面に可撓部を備える場合の縦断面図であり、(B)は後蓋の外周面及び内周面に可撓部を備える場合の縦断面図である。
図7】この発明の第3実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のVII-VIIB線で切断した状態を示す断面図である。
図8】この発明の第3実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋の一部を省略して示す縦断面図である。
図9】この発明の第4実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える後蓋の一部を省略して示す縦断面図であり、(A)は後蓋の内周面に可撓部を備える場合の縦断面図であり、(B)は後蓋の外周面及び内周面に可撓部を備える場合の縦断面図である。
図10】この発明の第5実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える軸受組立体を概略的に示す縦断面図である。
図11】この発明の第5実施形態に係る軸受の摩耗防止構造を備える軸受組立体のラビリンスシール部の一部を省略して示す縦断面図である。
図12】この発明の実施例1に係る後蓋の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
図13】この発明の実施例2に係る後蓋の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
図14】従来例に係る後蓋の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
図15】この発明の実施例及び比較例に係る後蓋の接触面の圧力分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示す車軸1は、中心軸Oを中心として回転する部材である。車軸1は、例えば、鉄道車両の左右一対の車輪がこの車軸1の両端部側に圧入され取り付けられており、この車輪と一体となって回転する。車軸1は、図1に示すように、ジャーナル部1aと、ちりよけ座1bと、輪座1cと、中径部1dと、溝部1eなどを備えている。ジャーナル部1aは、軸受3によって支持される部分であり、鉄道車両の車体荷重を支持する。ジャーナル部1aは、このジャーナル部1aの外周面に軸受3の内輪3dの内周面が嵌め込まれている。ちりよけ座1bは、後蓋9が装着される部分である。ちりよけ座1bは、車軸1の反軸端側(車軸1の端部とは反対側(図1に示す輪座1c側))に形成されており、ちりよけ座1bの外周面に後蓋9の内周面が圧入され嵌め込まれている。輪座1cは、車輪が装着される部分である。輪座1cは、車輪のボス穴の内周面が圧入され嵌め込まれており車軸1の所定の位置に車輪を固定する。中径部1dは、ジャーナル部1aと輪座1cとの間に形成された段部である。溝部1eは、車軸1の中心軸Oと平行にこの車軸1の端部に所定の深さ及び長さで形成された凹部である。
【0019】
軸受組立体2は、軸受3の主要構成部分を組み立てた部材である。軸受組立体2は、例えば、鉄道車両の軸箱に収容された状態で、台車の台車枠の所定の位置に保持されている。軸受組立体2は、図1に示すように、軸受3と、軸端ナット4と、小蓋5と、緩み止めボルト6と、密封構造7などを備えている。軸受組立体2は、例えば、グリースなどの潤滑剤が内部に充填された状態で密封されている。
【0020】
軸受3は、車軸1を回転自在に支持する部材である。図1に示す軸受3は、車軸1の両端部を回転自在に支持する転がり軸受である。軸受3は、外輪3cと内輪3dとの間で転がる転動体3aと、この転動体3aを等間隔に保持する保持器3bと、軸箱側に固定される外輪3cと、車軸1と一体となって回転する内輪3dと、この内輪3dの外側端部に一体に形成されてアキシアル荷重を受けるつば3eと、左右の内輪3d間に挿入されてこれらの隙間及び与圧を調整する間座3fと、後蓋9側の接触面9aと接触する平坦な接触面(端面)3gなどを備えている。図1に示す軸受3は、転動体3aとして円すいころを2列配置した複列円すいころ軸受であり、車軸1のジャーナル部1aの外周面に嵌め合わされている。図1に示す軸受3は、例えば、軸方向のアキシアル荷重を内輪3dのつばで受ける複列円すいころ軸受である。
【0021】
軸端ナット4は、後蓋9との間に油切り8及び軸受3を挟み込むことによってこの軸受3を所定の位置に位置決めし固定する部材である。軸端ナット4は、外観が円環状の部材であり、車軸1の端部に形成された雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部が内周面に形成されており、この車軸1の端部に着脱自在に装着されている。軸端ナット4は、車軸1の雄ねじ部に締め付けることによって、軸受3、油切り8及び後蓋9に与圧を作用させる。軸端ナット4は、車軸1の長さ方向に押圧力(加圧力)を作用させることによって、軸受3の内輪3dの接触面3gと後蓋9の接触面9aとを密着させるとともに、軸受3の内輪3dの接触面3gと油切り8の接触面8aとを密着させる。
【0022】
小蓋5は、車軸1と嵌合する部材である。小蓋5は、外観が円環状の金属製の部材である。小蓋5は、内周部から突出して車軸1の溝部1eと嵌合する突起部5aを備えている。小蓋5は、車軸1の溝部1eに突起部5aを嵌合させることによって車軸1と一体となって回転する。
【0023】
緩み止めボルト6は、軸端ナット4の緩みを防止する部材である。緩み止めボルト6は、軸端ナット4の端面に所定の深さで形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を先端部に備えている。緩み止めボルト6は、小蓋5の貫通孔を貫通して軸端ナット4に着脱自在に装着されており、小蓋5の突起部5aを車軸1の溝部1eと嵌合させた状態で軸端ナット4と小蓋5とを一体化させて、軸端ナット4の回転を阻止する。
【0024】
密封構造7は、軸受組立体2を密封する構造である。密封構造7は、軸受組立体2の内部に軸受3を収容した状態でこの軸受組立体2の内部を密封し、軸受3内の潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止するとともに、軸受3内に外部から異物が侵入するのを防止する。密封構造7は、油切り(スリンガ(フリンガ))8と、後蓋9と、シールケース10A,10Bと、オイルシール11A,11Bなどを備えている。密封構造7は、油切り8、後蓋9、シールケース10A,10B、オイルシール11A,11Bなどの各構成部材を組み合わせることによって、軸受3の内部から外部に潤滑剤が漏れ出すのを防止するとともに、軸受3の内部に外部から異物が侵入するのを防止する。
【0025】
油切り8は、軸受3の内部から軸端側に向かって潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止する部材である。油切り8は、外観が円筒状の金属製の部材である。油切り8は、この油切り8の内周面が車軸1のジャーナル部1aの外周面に圧入されて車軸1と一体となって回転可能に嵌合しており、軸端ナット4と軸受3の内輪3dとの間に挟み込まれている。油切り8は、接触面8aと、内周面(内径面)8bと、外周面(外径面)8cなどを備えている。
【0026】
接触面8aは、軸受3側の接触面3gと接触する部分である。接触面8aは、接触面3gと同様に油切り8の端面の円周方向に沿って平坦に形成されている。内周面8bは、車軸1と嵌合する側の表面である。内周面8bは、車軸1のジャーナル部1aの外周面と嵌合する嵌合面である。外周面8cは、車軸1と嵌合する側とは反対側の表面である。外周面8cは、シールケース10Aの端部の内周面と非接触で対向する対向面8dと、オイルシール11Aの先端部(リップ)が摺動する摺動面8eとを備えている。
【0027】
図1及び図2に示す後蓋9は、軸受3の内部から反軸端側に向かって潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止するする部材である。後蓋9は、外観が円筒状の金属製の部材である。後蓋9は、この後蓋9の内周面が車軸1のちりよけ座1bの外周面に圧入されて車軸1と一体となって回転可能に嵌合する回転体である。後蓋9は、図1及び図3に示すように、車軸1の軸端側から圧入されたときに嵌合面9dと嵌合面9eとの間の段部が、車軸1のちりよけ座1bと中径部1dとの間の段部に引っ掛かることによって車軸1の所定位置に位置決めされる。後蓋9は、図1に示すように、油切り8との間に軸受3の内輪3dを挟み込むことによって、軸受3を車軸1の所定の位置に位置決めするとともに軸受3に与圧(押圧力)を作用させる。後蓋9は、図1及び図3に示すように、軸受3と接触する接触部材であり、軸受3の内輪3dと接触している。後蓋9は、図1図3に示すように、接触面9aと、内周面(内径面)9bと、外周面(外径面)9cと、摩耗防止構造12などを備えている。
【0028】
図1図3に示す接触面9aは、軸受3側の接触面3gと接触する部分である。接触面9aは、接触面3gと同様に後蓋9の端面の円周方向に沿って平坦に形成されている。内周面9bは、車軸1と嵌合する側の表面である。内周面9bは、ちりよけ座1bの軸端側の傾斜面と嵌合する嵌合面9dと、中径部1dの軸端側の円周面と嵌合する嵌合面9eと、車軸1のちりよけ座1bの軸端側の傾斜面との間に隙間を形成し車軸1とは嵌合しない非嵌合面9fとを備えている。外周面9cは、車軸1と嵌合する側とは反対側の表面である。外周面9cは、図1及び図3に示すシールケース10Bの端部の内周面と非接触で対向する対向面9gと、図3に示すオイルシール11Bのリップ(先端部)11aが摺動する摺動面9hと、図1及び図3に示すシールケース10B及びオイルシール11Bが摺動しない非摺動面9iとを備えている。
【0029】
図1に示すシールケース10Aは、軸受3と油切り8との間から軸受3の内部の潤滑剤が軸端側に向かって外部に漏れ出すのを防止する部材である。シールケース10Bは、軸受3と後蓋9との間から軸受3の内部の潤滑剤が反軸端側に向かって外部に漏れ出すのを防止する部材である。シールケース10A,10Bは、外観が円筒状の金属製の薄肉部材である。シールケース10Aは、軸受3の外輪3cと油切り8との間に装着されている。シールケース10Aは、このシールケース10Aの一方の端部の外周面が外輪3cの内周面と密着し、このシールケース10Aの他方の端部の内周面が油切り8の対向面8dと隙間をあけて対向する。シールケース10Bは、軸受3の外輪3cと後蓋9との間に装着されている。シールケース10Bは、このシールケース10Bの一方の端部の外周面が外輪3cの内周面と密着し、このシールケース10Bの他方の端部の内周面が後蓋9の対向面9gと隙間をあけて対向する。
【0030】
オイルシール11Aは、油切り8とシールケース10Aとの間を密封する部材であり、オイルシール11Bは後蓋9とシールケース10Bとの間を密封する部材である。オイルシール11Aは、油切り8の外周面8cとシールケース10Aの内周面との間に挟み込まれており、オイルシール11Bは後蓋9の外周面9cとシールケース10Bの内周面との間に挟み込まれている。オイルシール11Bは、図3に示すように、後蓋9の摺動面9hと摺動するリップ11aを備えており、オイルシール11Aも油切り8の摺動面8eと摺動するリップ11aと同一構造のリップを備えている。オイルシール11A,11Bは、軸受組立体2の内部から外部に潤滑剤が漏れ出すのを防止するとともに軸受組立体2の外部から内部に異物が侵入するのを防止する。
【0031】
図1図3に示す摩耗防止構造12は、軸受3とこの軸受3と接触する後蓋9とが不均一に接触するときに、これらの接触面3g,9aに発生する摩耗を防止する構造である。摩耗防止構造12は、例えば、図4(A)に示すように車両走行中に車軸1が撓んだり、図5(A)に示すように軸受圧入時に後蓋9の反軸端側が変形したりして、軸受3側の接触面3gと後蓋9側の接触面9aとが偏って接触するようなときに、接触面3gと接触面9aとが略均一に接触するように後蓋9を撓ませる。摩耗防止構造12は、図2(B)及び図3に示す可撓部13などを備えている。
【0032】
図2(B)及び図3に示す可撓部13は、軸受3と後蓋9とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、軸受3側の接触面3gと後蓋9側の接触面9aとが略均一に接触するように、この後蓋9を撓ませる部分である。可撓部13は、後蓋9の厚みを部分的に薄くした後蓋9の薄肉部であり、軸受3の内輪3dと接触する後蓋9に形成されている。可撓部13は、後蓋9の接触面9a側が撓み後蓋9が弾性変形するように、後蓋9の接触面9a寄りに形成されている。可撓部13は、後蓋9の曲げ剛性を部分的に低下させることによって、図1及び図3に示す軸受3側の接触面3gと後蓋9側の接触面9aとが略均一に接触するように後蓋9を撓ませて、これらの間の接触面圧を略均一にする。可撓部13は、図2(B)及び図3に示すように、後蓋9の長さ方向(車軸1の中心軸Oと平行な方向)に所定の間隔をあけて、この後蓋9の外周面9cの円周方向に形成された複数本の溝部14aを備えている。
【0033】
図2(B)及び図3に示す溝部14aは、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の外周面9cに所定の深さで直線状に形成されており、底部の応力集中を緩和するために底部に丸みが付与されている。溝部14aは、例えば、後蓋9の製造後の切削などの機械加工、又は後蓋9の製造時の鋳造などの成形加工時に後蓋9に形成される切り込みである。溝部14aは、図3に示すように、この後蓋9の外周面9cとオイルシール11Bのリップ11aとの間から潤滑剤が漏れ出さないように、リップ11aが外周面9cと摺動する摺動面9h以外の非摺動面9iに形成されている。
【0034】
次に、この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造の作用を説明する。
図4(B)に示すように、後蓋9に摩耗防止構造12が存在しない場合には、車両が軌道上を走行して車軸1に曲げモーメントMが作用すると、車軸1の軸端側が撓む。このため、車軸1と一体となって後蓋9が回転してこの後蓋9の外周面9c側の縁部が下方に位置すると、後蓋9の接触面9aと軸受3側の接触面3gとが下縁部で部分的に偏って接触する。その結果、後蓋9の接触面9aと軸受3側の接触面3gとの下縁部に繰り返し応力が作用して、軸受3と後蓋9との摩耗によってフレッチング摩耗粉のような異物が発生する。また、図5(B)に示すように、後蓋9に摩耗防止構造12が存在しない場合には、後蓋9を車軸1に圧入すると後蓋9の反軸端側が変形して、後蓋9の接触面9aが反った状態で車軸1に後蓋9が装着される。このため、後蓋9の接触面9aの外周面9c側の縁部が軸受3側の接触面3gと部分的に偏って接触し、これらの接触面3g,9aの摩耗によってフレッチング摩耗粉のような異物が発生する。
【0035】
一方、図4(A)に示すように、後蓋9に摩耗防止構造12が存在する場合には、車軸1の撓みに追従して後蓋9が可撓部13で撓む。例えば、後蓋9の上方付近では溝部14aの開口部側が開くように後蓋9が弾性変形し、後蓋9の下方付近では溝部14aの開口部側が閉じるように後蓋9が弾性変形する。このため、後蓋9の接触面9aが軸受3側の接触面3gと略均一に接触し、これらの接触面3g,9aの接触面圧の略均一になって、これらの接触面3g,9aの摩耗によって異物が発生するのが防止される。また、図5(B)に示すように、後蓋9に摩耗防止構造12が存在する場合には、後蓋9を車軸1に圧入すると後蓋9の反軸端側が変形するが、後蓋9の変形に追従して後蓋9が可撓部13で撓む。例えば、後蓋9の外周面9c側の縁部では溝部14aの開口部側が閉じるように後蓋9が弾性変形する。このため、後蓋9の接触面9aが軸受3側の接触面3gと略均一に接触し、これらの接触面3g,9aの接触面圧の略均一になって、これらの接触面3g,9aの摩耗によって異物が発生するのが防止される。
【0036】
この発明の第1実施形態に係る軸受の摩耗防止構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、軸受3と後蓋9とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、軸受3側の接触面3gと後蓋9側の接触面9aとが略均一に接触するように、この後蓋9を可撓部13が撓ませる。このため、例えば、図4(B)に示すように車軸1が撓んだり、図5(B)に示すように後蓋9の反軸端側が変形したりして、軸受3側の接触面3gと後蓋9側の接触面9aとが偏って接触したときに、図4(A)及び図5(A)に示すように軸受3側の接触面3gと後蓋9側の接触面9aとの間の接触面圧を略均一にすることができる。その結果、軸受3の接触面3g及び後蓋9の接触面9aにおけるフレッチング摩耗などの発生を防止することができる。
【0037】
(2) この第1実施形態では、可撓部13が後蓋9の薄肉部である。このため、後蓋9の曲げ剛性を部分的に低下させて可撓部13を簡単に撓ませることができる。その結果、軸受3と後蓋9とが密着する方向に押圧力を作用させたときに、軸受3と後蓋9とを略均一に接触させることができる。
【0038】
(3) この第1実施形態では、後蓋9の長さ方向に所定の間隔をあけて、この後蓋9の外周面9cの円周方向に複数本の溝部14aが形成されている。このため、既存の後蓋9や新品の後蓋9に切削などの機械加工によって溝部14aを形成したり、後蓋9を鋳造などの成型加工によって製造するときに成形加工と同時に溝部14aを形成したりすることができる。その結果、簡単な加工によって後蓋9の外周面9cの円周方向に可撓部13を形成することができる。
【0039】
(4) この第1実施形態では、軸受3の内輪3dと接触する後蓋9に可撓部13が形成されている。このため、後蓋9に簡単な加工を施すだけで、フレッチング摩耗粉の発生を抑制することができ、フレッチング摩耗粉が軸受3の内部に侵入するのを防止することができる。
【0040】
(第2実施形態)
以下では、図1図5に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図6(A)に示す可撓部13は、図2に示す可撓部13とは異なり、後蓋9の長さ方向(車軸1の中心軸Oと平行な方向)に所定の間隔をあけて、この後蓋9の内周面9bの円周方向に形成された複数本の溝部14aを備えている。溝部14aは、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の内周面9bに所定の深さで直線状に形成されており、底部の応力集中を緩和するために底部に丸みが付与されている。
【0041】
図6(B)に示す可撓部13は、図2図3及び図6(A)に示す可撓部13とは異なり、後蓋9の長さ方向(車軸1の中心軸Oと平行な方向)に所定の間隔をあけて、この後蓋9の内周面9b及び外周面9cの円周方向に形成された複数本の溝部14aを備えている。可撓部13は、例えば、後蓋9の機械的強度が低下しないように、内周面9b側の溝部14aと外周面9c側の溝部14aとが後蓋9の厚さ方向で重ならないように、互い違いに形成されている。溝部14aは、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の内周面9b及び外周面9cに所定の深さで直線状に形成されており、底部の応力集中を緩和するために底部に丸みが付与されている。この第2実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0042】
(第3実施形態)
図7(B)及び図8に示す可撓部13は、図2(B)及び図3に示す可撓部13とは異なり、後蓋9の外周面9cの円周方向に形成された一本の溝部14bを備えている。図7(B)及び図8に示す可撓部13は、図2(B)及び図3に示す溝部14aよりも幅が広い単数の溝部14bが外周面9cの円周方向に形成されている。溝部14bは、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の外周面9cに所定の深さで直線状に形成されており、底部の応力集中を緩和するために底部に丸みが付与されている。
【0043】
この発明の第3実施形態に係る軸受の摩耗防止構造には、第1実施形態及び第2実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第3実施形態では、可撓部13が後蓋9の外周面9cの円周方向に一本の溝部14bが形成されている。このため、第1実施形態及び第2実施形態に比べて、単数の溝部14bを簡単な加工によって後蓋9の外周面9cの円周方向に短時間で形成することができる。
【0044】
(第4実施形態)
図9(A)に示す可撓部13は、図7及び図8に示す可撓部13とは異なり、後蓋9の内周面9bの円周方向に形成された溝部14bを備えている。溝部14bは、図9(A)に示すように、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の内周面9bに所定の深さで直線状に形成されており、底部の応力集中を緩和するために底部に丸みが付与されている。図9(B)に示す可撓部13は、図7図8及び図9(A)に示す可撓部13とは異なり、後蓋9の内周面9b及び外周面9cの円周方向に形成された溝部14bを備えている。可撓部13は、例えば、後蓋9の機械的強度が低下しないように内周面9b側の溝部14bの深さと外周面9c側の溝部14bの深さとが設定されている。溝部14bは、図9(B)に示すように、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の内周面9b及び外周面9cに所定の深さで直線状に形成されており、底部の応力集中を緩和するために底部に丸みが付与されている。この第4実施形態には、第3実施形態と同様の効果がある。
【0045】
(第5実施形態)
図10に示す軸受組立体2は、図1に示す軸受組立体2とは異なり、図11に示すように可撓部13側の複数本の溝部14aが固定体15側の複数本の溝部15aと隙間をあけて対向することによって、これらの隙間を密封するラビリンスシール部16を構成している。密封構造7は、図10に示す油切り8と、図10及び図11に示す後蓋9と、図10に示すシールケース10A,10Bと、オイルシール11A,11Bと、図10及び図11に示すラビリンスシール部16などを備えている。固定体15は、回転体である後蓋9と所定の間隔をあけて固定される部材である。固定体15は、例えば、軸受組立体2を収容する軸箱の一部を構成するケーシング部である。固定体15は、図11に示すように、反軸端側の端部に可撓部13側の複数本の溝部14aと同じ間隔(ピッチ)で複数本の溝部15aが形成されている。
【0046】
図11に示すラビリンスシール部16は、可撓部13側の複数本の溝部14aと固定体15側の複数本の溝部15aとの間に所定の隙間をあけることによって、これらの隙間を密封する部分である。ラビリンスシール部16は、後蓋9と固定体15との間から潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止する非接触型密封装置である。ラビリンスシール部16は、可撓部13側の溝部14aと固定体15側の溝部15aとの間の隙間を気体が通過するときに発生する絞り作用と渦損失とによって潤滑剤の漏れを防止する。ラビリンスシール部16は、後蓋9と固定体15との間に凹凸の隙間を複数段に組み合わせて段毎に漏れ圧を徐々に緩和させ低下させる。
【0047】
この発明の第5実施形態に係る軸受の摩耗防止構造には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第5実施形態では、可撓部13が後蓋9の長さ方向に所定の間隔をあけて、この後蓋9の外周面の円周方向に複数本の溝部14aが形成されている。また、この第5実施形態では、可撓部13側の複数本の溝部14aが固定体15側の複数本の溝部15aと隙間をあけて対向することによって、これらの隙間を密封するラビリンスシール部16を構成する。このため、図1及び図3に示すようなオイルシール11Bを省略することができるとともに、可撓部13側の複数本の溝部14aをラビリンスシール部16としての一部として利用することができる。
【実施例】
【0048】
実施例1,2及び従来例に係る後蓋を備える軸受組立体について有限要素解析を実施した。図12に示す実施例1は、図1図5に示す第1実施形態に係る後蓋9に対応し、外周面に3本の溝部を有する後蓋である。図13に示す実施例2は、図7及び図8に示す第3実施形態に係る後蓋9に対応し、外周面に1本の溝部を有する後蓋である。図14に示す従来例は、外周面に溝部を有さない従来品の後蓋である。図12図14に示す実施例1,2及び従来例に係る後蓋は、車軸の所定位置よりも反軸端側に圧入した状態で軸受の内輪と接触させている。
【0049】
従来例に係る後蓋は、図14に示すように、車軸のちりよけ座と中径部との間の段部とこの後蓋の嵌合面との接触面圧が高くなっており、軸受側の接触面と後蓋側の接触面とが偏って接触しておりこれらの接触面における接触面圧が不均一であることが解析によって確認された。その結果、従来例に係る後蓋は、軸受側の接触面と後蓋側の接触面との間でフレッチング摩耗が発生することが予測される。
【0050】
一方、実施例1,2に係る後蓋は、図12及び図13に示すように、図14に示す従来例と同様に車軸のちりよけ座と中径部との間の段部とこの後蓋の嵌合面との接触面圧が高くなっている。しかし、実施例1,2に係る後蓋は、図12及び図13に示すように、軸受側の接触面と後蓋側の接触面とが略均一に接触しておりこれらの接触面における接触面圧が略均一であることが解析によって確認された。その結果、実施例1,2に係る後蓋は、軸受側の接触面と後蓋側の接触面との間のフレッチング摩耗の発生を抑制可能であることが予測される。
【0051】
図15に示す縦軸は、接触面圧[MPa]であり、横軸は内周面からの距離[mm]である。実施例1,2に係る後蓋は、図15に示すように、従来例に係る後蓋に比べて、外周面寄りの接触面圧が低下しており、内周面側から外周面側までの略全域において接触面圧の変化を低減可能であることが確認された。また、実施例2に係る後蓋は、実施例1に係る後蓋に比べて、内周面側から外周面側までの略全域において接触面圧が略均一であり、軸受側の接触面と後蓋側の接触面との間のフレッチング摩耗の発生をより一層抑制可能であることが確認された。
【0052】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、鉄道車両の軸受3の摩耗防止構造12を例に挙げて説明したが、鉄道車両の軸受3に限定するものではない。例えば、発電所のタービンなどの回転軸を支持する軸受の摩耗防止構造や、車軸1を駆動する主電動機の軸受の摩耗防止構造についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、軸受3がころ軸受である場合について説明したが、軸受3が玉軸受である場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、軸受3が複列円すいころ軸受である場合を例に挙げて説明したが、複列円筒ころ軸受又は球面ころ軸受などについてもこの発明を適用することができる。
【0053】
(2) この実施形態では、軸受3と接触する接触部材が後蓋9である場合を例に挙げて説明したが後蓋9に限定するものではない。例えば、ちりよけ座1bの外周面に圧入し軸受3内の潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止する油切りのような接触部材についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、後蓋9の中心軸Oに対して直交して後蓋9の内周面9b又は外周面9cに溝部14a,14bを直線状に形成する場合を例に挙げて説明したが、溝部14a,14bをテーパ状又は曲面状のような任意の形状で形成することもできる。さらに、この実施形態では、車軸1の端部の雄ねじ部と噛み合う軸端ナット4を備える軸受組立体2を例に挙げて説明したが、油切り8を抑える前蓋を車軸1の端部に固定ボルトによって固定する軸受組立体についてもこの発明を適用することができる。
【0054】
(3) この第1実施形態、第2実施形態及び第5実施形態では、溝部14aが三本である場合を例に挙げて説明したが、溝部14aが二本又は四本以上である場合についてもこの発明を適用することができる。また、この第2実施形態では、後蓋9の厚さ方向で重ならないように後蓋9の内周面9b及び外周面9cに溝部14aを互い違いに形成する場合を例に挙げて説明したが、後蓋9の厚さ方向で重なるように後蓋9の内周面9b及び外周面9cに溝部14bを形成することもできる。同様に、この第4実施形態では、後蓋9の厚さ方向で重なるように後蓋9の内周面9b及び外周面9cに溝部14bを形成する場合を例に挙げて説明したが、後蓋9の厚さ方向で重ならないように後蓋9の内周面9b及び外周面9cに溝部14bを互い違いに形成することもできる。さらに、この第5実施形態では、後蓋9側の溝部14aと固定体15側の溝部15aとを凹凸部分が一致するように対向させる場合を例に挙げて説明したが、これらを凹凸部分が互い違いになるように対向させることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 車軸
2 軸受組立体
3 軸受
3d 内輪
3g 接触面
4 軸端ナット
5 小蓋
6 回り止めボルト
7 密封構造
8 油切り
9 後蓋(接触部材)
9a 接触面
9b 内周面
9c 外周面
9d,9e 嵌合面
9f 非嵌合面
9g 対向面
9h 摺動面
9i 非摺動面
10A,10B シールケース
11A,11B オイルシール
12 摩耗防止構造
13 可撓部
14a,14b 溝部
15 固定部
15a 溝部
16 ラビリンスシール部
O 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15