特許第6552152号(P6552152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6552152-焼酎の製造方法 図000009
  • 特許6552152-焼酎の製造方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552152
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】焼酎の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/08 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   C12G3/08
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-13686(P2014-13686)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-139399(P2015-139399A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 豊
(72)【発明者】
【氏名】石原 武雄
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−249587(JP,A)
【文献】 特開平11−127841(JP,A)
【文献】 本格焼酎製造技術,財団法人日本醸造協会,1991年12月10日,236−241頁
【文献】 西谷尚道,本格焼酎の香味(II),日本醸造協会雑誌,1980年,75巻、12号,944−952頁
【文献】 焼酎マイルドろ過による香味向上技術の確立,NEWS RELEASE,[online],2014年10月 6日,[平成29年11月27日検索],インターネット<URL:http//www.sapporobeer.jp/news_release/0000020912/index.html>
【文献】 醸造試験所報告,1978年12月,第150号,10−27頁
【文献】 日本醸造協会誌,2000年,95巻、8号,577−582頁
【文献】 J.Brew.Soc.Japan,1985年,vol.80,no.6,p.415-417
【文献】 朝日新聞,2009年 6月11日,朝刊15頁、東京本社
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単式蒸留機で蒸留した単式蒸留焼酎と連続式蒸留機で蒸留した連続式蒸留焼酎とを混和した焼酎の製造方法であって、
前記単式蒸留焼酎、又は、前記単式蒸留焼酎と前記連続式蒸留焼酎とを混和した焼酎について、液温を20℃以上としてろ過するろ過工程と、
全アルコール量に占める前記単式蒸留焼酎のアルコール量の割合が5〜30%となるように、前記単式蒸留焼酎と前記連続式蒸留焼酎とを混和する混和工程と、
を含み、
前記混和した焼酎は麦焼酎であって、前記混和した焼酎の1−ブタノールの濃度を0.02〜0.11ppmとすることを特徴とする焼酎の製造方法。
【請求項2】
前記ろ過工程では、濁度を0.01NTU以下とすることを特徴とする請求項1に記載の焼酎の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎の製造方法に係り、特に、単式蒸留機で蒸留した単式蒸留焼酎と連続式蒸留機で蒸留した連続式蒸留焼酎とを混和した焼酎の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醸造酒を更に蒸留することにより造られた蒸留酒の1つとして、焼酎が存在する。そして、この焼酎は、単式蒸留機により蒸留した単式蒸留焼酎と、連続式蒸留機により蒸留した連続式蒸留焼酎とに大きく分類される。
また、単式蒸留焼酎が有する独特の風味と、連続式蒸留焼酎の安価に製造できるという利点の双方を生かすため、単式蒸留焼酎と連続式蒸留焼酎とを混和した混和焼酎という分野も広まりつつある。
【0003】
前記のとおり、単式蒸留焼酎は、単式蒸留機により蒸留したものであることから、連続蒸留焼酎と比較し、独特の風味が消えることなく残っている。そして、この独特の風味は、単式蒸留焼酎に含まれる高級脂肪酸やそのエチルエステルといった「油性成分」に起因するものであると考えられている。
しかし、この油性成分は、酸化等することにより油臭を発生させるとともに、焼酎を白濁させる原因であるとも考えられている。
【0004】
したがって、これまで、この油性成分を除去するために、蒸留した焼酎はできる限り早く冷却させ、ろ紙や石綿等でろ過処理を施していた。さらに、この油性成分を確実に除去するために、焼酎を冷却した後、遠心分離するという技術(特許文献1)も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−127841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法や特許文献1に開示されている技術のように、焼酎を冷却した後にろ過処理や遠心分離処理を施すと、独特の風味を大幅に減少させてしまうという問題が生じてしまう。
また、焼酎の中でも前記した混和焼酎は、連続式蒸留焼酎を含有させることにより、安価に提供できるという点だけでなく、すっきりとした味わいを有する点で人気を博していることから、この「すっきりとした味わい」という長所を活かす必要もある。
【0007】
そこで、本発明は、独特の風味を保持するとともに、すっきりとした味わいの焼酎の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)単式蒸留機で蒸留した単式蒸留焼酎と連続式蒸留機で蒸留した連続式蒸留焼酎とを混和した焼酎の製造方法であって、前記単式蒸留焼酎、又は、前記単式蒸留焼酎と前記連続式蒸留焼酎とを混和した焼酎について、液温を20℃以上としてろ過するろ過工程と、全アルコール量に占める前記単式蒸留焼酎のアルコール量の割合が5〜30%となるように、前記単式蒸留焼酎と前記連続式蒸留焼酎とを混和する混和工程と、を含み、前記混和した焼酎は麦焼酎であって、前記混和した焼酎の1−ブタノールの濃度を0.02〜0.11ppmとすることを特徴とする焼酎の製造方法。
(2)前記ろ過工程では、濁度を0.01NTU以下とすることを特徴とする前記1に記載の焼酎の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る焼酎によると、1−ブタノールの濃度を所定範囲に規定していることから、独特の風味を保持するとともに、すっきりとした味わいの焼酎とすることができる。
本発明に係る焼酎の製造方法によると、液温を10℃以上とした焼酎をろ過するろ過工程を含むことから、1−ブタノールの濃度が所定範囲である焼酎を製造することができる。その結果、独特な風味を保持するとともに、すっきりとした味わいの焼酎を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る混和焼酎に用いる単式蒸留焼酎の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る混和焼酎の製造方法の内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る焼酎およびその製造方法を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0012】
[焼酎]
本発明の実施形態に係る焼酎とは、単式蒸留機で蒸留した単式蒸留焼酎と連続式蒸留機で蒸留した連続式蒸留焼酎とを混和した混和焼酎(麦焼酎または芋焼酎)であって、1−ブタノールの濃度が所定範囲であることを特徴とする。
まず、各焼酎の定義等について簡単に説明した後、本発明の実施形態に係る焼酎の特有の事項を説明する。
【0013】
(単式蒸留焼酎)
単式蒸留焼酎とは、穀類または芋類、これらの麹および水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したものであり、焼酎乙類とも呼ばれる。そして、単式蒸留焼酎は、蒸留が基本的に1回であるため、原料由来の独特な風味を有する。
【0014】
(連続式蒸留焼酎)
連続式蒸留焼酎とは、アルコール含有物を連続式蒸留機により蒸留したものであり、焼酎甲類とも呼ばれる。そして、連続式蒸留焼酎は、何度も蒸留を行うため、単式蒸留焼酎と比較し、独特な風味は減少するが、連続蒸留機を用いて製造することから大量生産に適しているため、比較的安価である。
【0015】
(混和焼酎)
混和焼酎とは、単式蒸留焼酎と連続式蒸留焼酎とを混和したものである。そして、混和焼酎は、混和の割合によって、甲乙混和焼酎(焼酎乙類を5%以上50%未満混和した焼酎)と、乙甲混和焼酎(焼酎乙類を50%以上95%未満混和した焼酎)とに分類される。
【0016】
本発明の実施形態に係る焼酎は、この混和焼酎に属する。そして、本発明の実施形態に係る焼酎の単式蒸留焼酎の混和割合については、後記する1−ブタノールの濃度の規定を満たすように含有していれば特に限定されないが、5〜30%が好ましい。単式蒸留焼酎の混和割合が5%以上であることにより、焼酎の独特な風味(混和焼酎に求められる水準の風味)の発揮を確実なものとすることができる。また、単式蒸留焼酎の混和割合が30%以下であることにより、すっきりとした味わいの発揮を確実なものとすることができる。
そして、本発明の実施形態に係る焼酎における単式蒸留焼酎の混和割合は、5〜20%がより好ましく、5〜10%がさらに好ましい。
なお、ここで「単式蒸留焼酎の混和割合」とは、詳細には、混和焼酎の全アルコール量に占める単式蒸留焼酎のアルコール量の割合である。
そして、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0017】
(麦焼酎)
麦焼酎とは、主原料(掛原料)として麦類を用いて製造された焼酎である。そして、主原料である麦類としては、オオムギ、ハダカムギ、ライムギ等を用いることができ、特に限定されない。
なお、主原料として麦類を用いて製造された単式蒸留焼酎に連続式蒸留焼酎を混和させた混和焼酎が麦焼酎であるとともに、主原料として麦類を用いて製造された単式蒸留焼酎や、主原料として麦類を用いて製造された連続式焼酎も麦焼酎である。
【0018】
(芋焼酎)
芋焼酎とは、主原料(掛原料)として芋類を用いて製造された焼酎である。そして、主原料である芋類としては、サツマイモ、ジャガイモ、キャッサバ、ヤマノイモ、サトイモ、コンニャクイモ等を用いることができ、特に制限されない。
なお、主原料として芋類を用いて製造された単式蒸留焼酎に連続式蒸留焼酎を混和させた混和焼酎が芋焼酎であるとともに、主原料として芋類を用いて製造された単式蒸留焼酎や、主原料として芋類を用いて製造された連続式焼酎も芋焼酎である。
【0019】
(1−ブタノール)
本発明の実施形態に係る焼酎は、1−ブタノールを含有する。
そして、1−ブタノールは、構造式がCH(CHOHで表される化合物であり、n−ブチルアルコールとも呼ばれる。
また、この1−ブタノールは、焼酎の独特な風味の付加に関与する成分の1つであり、独特な風味を有するか否かを決定する指標にもなる成分である。さらに、この1−ブタノールは、「すっきりとした味わい」を有するか否かを決定する指標にもなる成分である。
【0020】
本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)が麦焼酎である場合、1−ブタノールの濃度は0.015ppm(0.000015mg/ml)以上である。1−ブタノールの濃度が0.015ppm以上であることにより、麦焼酎を口に含んだ際に、麦由来の独特な風味(混和焼酎に求められる水準の風味)を確認することができる。そして、麦由来の独特な風味をより確実に確認できるように、1−ブタノールの濃度は0.019ppm以上であるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)が麦焼酎である場合、1−ブタノールの濃度は0.120ppm(0.000120mg/ml)以下である。1−ブタノールの濃度が0.120ppm以下であることにより、麦焼酎を口に含んだ際に、すっきりとした味わいを確認することができる。そして、すっきりとした味わいをより確実に確認できるように、1−ブタノールの濃度は0.040ppm以下であるのが好ましい。
【0022】
本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)が芋焼酎である場合、1−ブタノールの濃度は0.030ppm(0.000030mg/ml)以上である。1−ブタノールの濃度が0.030ppm以上であることにより、芋焼酎を口に含んだ際に、芋由来の独特な風味(混和焼酎に求められる水準の風味)を確認することができる。そして、芋由来の独特な風味をより確実に確認できるように、1−ブタノールの濃度は0.034ppm以上であるのが好ましい。
【0023】
また、本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)が芋焼酎である場合、1−ブタノールの濃度は0.210ppm(0.000210mg/ml)以下である。1−ブタノールの濃度が0.210ppm以下であることにより、芋焼酎を口に含んだ際に、すっきりとした味わいを確認することができる。そして、すっきりとした味わいをより確実に確認できるように、1−ブタノールの濃度は0.070ppm以下であるのが好ましい。
そして、1−ブタノールの濃度の測定については、ガスクロマトグラフィー等により測定することができる。
【0024】
(濁度)
本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)の濁度は、特に限定されないが、0.01NTU以下であるのが好ましい。濁度が0.01NTU以下であると、混和焼酎として十分な透明感を有すると消費者に判断される。そして、透明感をより確実なものとするため、濁度は0.00NTUであるのが特に好ましい。
なお、焼酎の濁度の測定については、吸光光度計等により測定することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る焼酎によれば、1−ブタノールの濃度を所定範囲に規定していることから、麦や芋由来の独特な風味を保持した焼酎とすることができるとともに、すっきりとした味わいの焼酎とすることができる。
【0026】
次に、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法について説明する。
[焼酎の製造方法]
本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)の製造方法は、液温を10℃以上とした焼酎をろ過するろ過工程、を含むことを特徴とする。そして、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法は、以下に説明する各工程を含んでもよい。
まず、単式蒸留焼酎、連続式蒸留焼酎、および両者を混和した混和焼酎の製造方法を説明し、その後、本発明の特徴であるろ過工程を説明する。
【0027】
(単式蒸留焼酎の製造方法)
単式蒸留焼酎の製造方法は、図1に示すように、一次もろみ製造工程S1、二次もろみ製造工程S2、蒸留工程S3、蒸留後ろ過工程S4、割水工程S5、割水後ろ過工程S6等の工程を含んで構成される。
【0028】
一次もろみ製造工程S1では、まず、一次もろみの原料となる米、麦、芋を洗米(麦、芋)・浸漬し、蒸した後、放冷する。そして、放冷した後の原料に種麹(白麹菌、黒麹菌等)を種付して、製麹を行う。その後、焼酎酵母や水等が加えられ、一次熟成もろみ(酒母)が製造される。
【0029】
二次もろみ製造工程S2では、一次もろみ製造工程S1で製造された一次熟成もろみに、水や主原料(掛原料)である麦、芋等を加える。そして、温度等を管理しながら数日〜数十日間、発酵させることにより、二次熟成もろみが製造される。
なお、主原料として麦を用いた場合は麦焼酎、芋を用いた場合は芋焼酎、というように、主原料の種類により焼酎の種類が決定される。
【0030】
蒸留工程S3では、二次もろみ製造工程S2で製造された二次熟成もろみを単式蒸留機により蒸留する。なお、単式蒸留機による蒸留については、蒸留機内の温度が100℃前後である常圧蒸留と、50℃あるいは60℃以下である減圧蒸留とが存在するが、いずれでもよい。
【0031】
蒸留後ろ過工程S4では、蒸留工程S3後の原酒中の油性成分を除去するためにろ過を施す。ろ過処理に用いる装置等については、特に限定されず、この点、以下の各ろ過工程についても同様である。
【0032】
割水工程S5では、アルコール度数を下げるために、蒸留後ろ過工程S4後の焼酎に水を加える。
割水後ろ過工程S6では、割水工程S5の割水により、アルコール度数が低くなることで析出する油性成分を除去するためにろ過を施す。
そして、通常、この割水後ろ過工程S6を経た焼酎をビン詰めし、出荷する。
【0033】
(連続式蒸留焼酎の製造方法)
連続式蒸留焼酎の製造方法については、単式蒸留焼酎の製造方法と異なる点を中心に説明する。
まず、連続式蒸留焼酎の製造方法について、単式蒸留焼酎の製造方法と大きく異なる点は、図1に示す蒸留工程S3において、単式蒸留機ではなく連続式蒸留機を用いる点である。そして、連続式蒸留焼酎の製造方法は連続式蒸留機を用いることから、当該蒸留機により蒸留された原酒には、油性成分がほとんど含まれていない。したがって、通常、油性成分を除去するような蒸留後ろ過工程S4や割水後ろ過工程S6の処理は施さず、不純物を取り除く程度の簡易なろ過処理のみ行う。
さらに、通常、連続式蒸留焼酎の製造方法における蒸留の対象は、糖蜜等から作られる酒類原料用アルコールや、穀物等のデンプン質原料を麹等で糖化し発酵させたものが用いられる。
【0034】
(混和焼酎の製造方法)
混和焼酎の製造方法は、図2に示すように、前記した製造方法で製造された単式蒸留焼酎と、前記した製造方法で製造された連続式蒸留焼酎とを混和する混和工程S21を含んで構成される。
そして、混和工程S21における単式蒸留焼酎と連続式蒸留焼酎との混和の割合は、前記のとおり特に限定されないが、単式蒸留焼酎の混和割合が5〜30%となるように混和するのが好ましく、5〜20%となるように混和するのがより好ましく、5〜10%となるように混和するのがさらに好ましい。
また、混和工程S21後に、油性成分を除去するための混和後ろ過工程S22を設けてもよい。
【0035】
なお、混和工程S21では、通常、図1に示す割水後ろ過工程S6の後の単式蒸留焼酎と、連続式蒸留焼酎とを混和するが、蒸留工程S3の後、蒸留後ろ過工程S4の後、または割水工程S5の後の単式蒸留焼酎と、連続式蒸留焼酎とを混和してもよい。ただし、これらの場合は、単式蒸留焼酎内の油性成分が十分に除去しきれていない可能性があるため、混和工程S21の後に、油性成分を除去するための混和後ろ過工程S22を設けるのが好ましい。
【0036】
(ろ過工程)
本発明の実施形態に係る焼酎(混和焼酎)の製造方法は、蒸留後ろ過工程S4、割水後ろ過工程S6、および混和後ろ過工程S22のうち少なくとも1つの工程が、焼酎の液温を10℃以上としたろ過工程(以下、適宜「規定のろ過工程」という)であればよい。つまり、混和工程S21の前の蒸留後ろ過工程S4または割水後ろ過工程S6を規定のろ過工程としてもよいし、混和工程S21の後の混和後ろ過工程S22を規定のろ過工程としてもよい。言い換えると、規定のろ過工程は、混和工程S21の前に行っても、混和工程S21の後に行ってもよい。
ただし、混和工程S21の後に油性成分が析出する可能性があるので、混和後ろ過工程S22が規定のろ過工程であるのがより好ましい。
【0037】
なお、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法は、前記のとおり、焼酎の液温を10℃以上としたろ過工程、を含んでいればよい。したがって、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法は、単式蒸留後(蒸留工程S3の後)の原酒と、連続式蒸留焼酎とを購入し、それぞれを混和した後、規定のろ過工程の処理を施すといった形式であってもよい。
【0038】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る焼酎の製造方法によれば、規定のろ過工程を含むことから、1−ブタノールの濃度が所定範囲(特に所定値以上)である焼酎を製造することができる。その結果、麦や芋由来の独特な風味を保持するとともに、すっきりとした味わいの焼酎を製造することができる。
また、混和工程において、単式蒸留焼酎の混和割合を所定割合以上にすることにより、独特な風味をより確実に発揮できる焼酎を製造することができる。さらに、混和工程において、単式蒸留焼酎の混和割合を所定割合以下にすることにより、すっきりとした味わいをより確実に発揮できる焼酎を製造することができる。
【0039】
なお、本発明の実施形態に係る焼酎およびその製造方法において、明示していない特性や条件については、従来公知のものであればよく、前記特性や条件によって得られる効果を奏する限りにおいて、限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0040】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係る焼酎およびその製造方法について説明する。
まず、実施例1では、ろ過処理時における焼酎の液温が焼酎の風味に与える影響を確認する。
【0041】
[サンプルの準備]
(麦焼酎:単式蒸留焼酎)
麦焼酎(アルコール度数25度、主原料:麦、麹:麦麹、常圧単式蒸留、無ろ過の状態、市販品)を用意し、ろ過を施さなかったサンプルと、所定の液温にした後、ろ過(フィルター名:セルロース・アセテート、品番:25CS045AN、孔径:0.45μm、販売:アドバンテック(株))を施したサンプルを用意した。
なお、「麦焼酎:単式蒸留焼酎」の詳細な成分組成等については、下記の表1に示す。
【0042】
(芋焼酎:単式蒸留焼酎)
芋焼酎(アルコール度数25度、主原料:サツマイモ、麹:黒麹、常圧単式蒸留、無ろ過の状態、市販品)を用意し、ろ過を施さなかったサンプルと、所定の液温にした後、ろ過(フィルター名:セルロース・アセテート、品番:25CS045AN、孔径:0.45μm、販売:アドバンテック(株))を施したサンプルを用意した。
なお、「芋焼酎:単式蒸留焼酎」の詳細な成分組成等については、下記の表2に示す。
【0043】
[1−ブタノールの濃度測定]
サンプル中の1−ブタノールの濃度は、SPME法(固相マイクロ抽出法)にて分析を行った。
具体的には、20mlのヘッドスペース用バイアル瓶にサンプル10mlをとり、40℃、15分間ヘッドスペース中の香気成分をSPMEファイバーにて抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS、アジレント・テクノロジー(株))を用いて分析した。
【0044】
(条件)
詳細な条件は次の通りである。
カラム:DB−WAX 30m×0.25mmID×0.25μm、40〜240℃、5℃/min
抽入口:スプリットレス−270℃
ガス流量:ヘリウム
流速:1.0ml/min
【0045】
[パルミチン酸エチル等の濃度測定]
サンプルに含まれるパルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルの抽出方法としては、アルコール5度程度になるように水で希釈した試料をジクロロメタンにて30分間振とうした。振とう後、ジクロロメタン相を回収し、濃縮後、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS、アジレント・テクノロジー(株))を用いて分析を行った。
【0046】
(条件)
詳細な条件は次の通りである。
カラム:DB−WAX 30m×0.25mmID×0.25μm、40〜240℃、5℃/min
抽入口:スプリットレス−270℃、注入量:1μl
ガス流量:ヘリウム
流速:1.0ml/min
【0047】
[濁度の測定]
焼酎の濁度については、液温20℃で、吸光光度計(SHIMADZU社製、UV−1600)を用いて、EBC値(波長:660nm)を計測し、当該EBC値からNTU値を算出した。
なお、NTU値の算出については、「NTU値=EBC値×19.7÷0.245」という式を用いて行った。
【0048】
[華やかな香りの評価]
前記の方法により準備したサンプルの香りについて、よく訓練された専門のパネル3名が下記評価基準に則って1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、香りの評価については、サンプルを口に含まずに評価を行った。
【0049】
(華やかな香り)
5点:極めて強い華やかな香りがある。
4点:強い華やかな香りがある。
3点:華やかな香りがある。
2点:弱い華やかな香りがある。
1点:全く華やかな香りがない。
【0050】
[焼酎としての独特な風味の評価]
前記の方法により準備したサンプルの風味について、よく訓練された専門のパネル3名が下記評価基準に則って1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、風味(香りや味わい)の評価については、サンプルを口に含んで評価を行った。そして、焼酎としての独特な風味とは、麦焼酎の場合は、麦由来の独特な風味(単式蒸留焼酎に求められる水準の風味)のことであり、芋焼酎の場合は、芋由来の独特な風味(単式蒸留焼酎に求められる水準の風味)のことである。
【0051】
(焼酎としての独特な風味)
5点:単式蒸留焼酎として、極めて強い独特な風味がある。
4点:単式蒸留焼酎として、強い独特な風味がある。
3点:単式蒸留焼酎として、独特な風味がある。
2点:単式蒸留焼酎として、弱い独特な風味がある。
1点:単式蒸留焼酎として、全く独特な風味がない。
【0052】
以下、表1および表2には、1−ブタノールの濃度と濁度を示すとともに、表3および表4には、評価結果(華やかな香り、独特な風味)を示す。
なお、表1および表2には、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルの濃度も参考値として示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
表1に示すサンプルNo.1−2〜1−5については、ろ過温度が本発明の規定する温度以上であったことから、1−ブタノールの濃度が高い値を示すこととなった。その結果、これらのサンプルは、表3に示す「華やかな香り」および「独特な風味」の評価において、ろ過温度の低かったサンプルNo.1−1と比較し、点数が2倍以上となった。
【0058】
表2に示すサンプルNo.2−2〜2−5については、ろ過温度が本発明の規定する温度以上であったことから、1−ブタノールの濃度が高い値を示すこととなった。その結果、これらのサンプルは、表4に示す「華やかな香り」および「独特な風味」の評価において、ろ過温度の低かったサンプルNo.2−1と比較し、点数が2倍以上となった。
【実施例2】
【0059】
次に、実施例2では、実施例1において良い結果が得られた単式蒸留焼酎を用いて、当該単式蒸留焼酎の混和割合、および、1−ブタノールの濃度が、焼酎(混和焼酎)の風味や味わいに与える影響を確認する。
【0060】
[サンプルの準備]
(麦焼酎:単式蒸留焼酎、芋焼酎:単式蒸留焼酎)
「麦焼酎:単式蒸留焼酎」については、実施例1で使用した表1のサンプルNo.1−4(ろ過温度は20℃)と同じものを用意した。また、「芋焼酎:単式蒸留焼酎」については、実施例1で使用した表2のサンプルNo.2−4(ろ過温度は20℃)と同じものを用意した。
【0061】
(連続式蒸留焼酎)
連続式蒸留焼酎(アルコール度数65.5度、主原料:糖蜜、常圧連続式蒸留、ろ過後の状態)を用意した。
なお、「連続式蒸留焼酎」の詳細な成分組成等については、下記の表5に示す。
【0062】
そして、上記のとおり用意した「麦焼酎:単式蒸留焼酎」と「連続式蒸留焼酎」、「芋焼酎:単式蒸留焼酎」と「連続式蒸留焼酎」を所定の割合で混和させることによりサンプルを準備した。
なお、前記のとおり、単式蒸留焼酎の混和割合は、詳細には、混和焼酎の全アルコール量に占める単式蒸留焼酎のアルコール量の割合である。したがって、例えば「単式蒸留焼酎の混和割合が10%の混和焼酎」を準備する場合、単式蒸留焼酎(アルコール度数25度)と連続式蒸留焼酎(アルコール度数65.5度)とを液量の比率が約3:10となるように混和させた。
【0063】
[1−ブタノール、パルミチン酸エチル等の濃度測定]
サンプル中の1−ブタノール、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルの濃度の測定方法は、実施例1と同様の方法で行った。
【0064】
[焼酎としての独特な風味の評価]
前記の方法により準備したサンプルの風味について、よく訓練された専門のパネル3名が下記評価基準に則って1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
風味(香りや味わい)の評価については、サンプルを口に含んで評価を行った。そして、焼酎としての独特な風味とは、麦焼酎の場合は、麦由来の独特な風味(混和焼酎に求められる水準の風味)のことであり、芋焼酎の場合は、芋由来の独特な風味(混和焼酎に求められる水準の風味)のことである。
なお、単式蒸留焼酎を用いた実施例1における「焼酎としての独特な風味」と比較し、混和焼酎を用いた実施例2における「焼酎としての独特な風味」は、単式蒸留焼酎と混和焼酎に求められる水準が異なるため、混和焼酎の方が求められる水準が低い。
【0065】
(焼酎としての独特な風味)
5点:混和焼酎として、極めて強い独特な風味がある。
4点:混和焼酎として、強い独特な風味がある。
3点:混和焼酎として、独特な風味がある。
2点:混和焼酎として、弱い独特な風味がある。
1点:混和焼酎として、全く独特な風味がない。
【0066】
[すっきりとした味わいの評価]
前記の方法により準備したサンプルの味わいについて、よく訓練された専門のパネル3名が下記評価基準に則って1〜5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、すっきりとした味わいの評価については、サンプルを口に含んで評価を行った。
【0067】
(すっきりとした味わい)
5点:すっきりとした味わいが極めて強い。
4点:すっきりとした味わいが強い。
3点:すっきりとした味わいがある。
2点:すっきりとした味わいが弱い。
1点:すっきりとした味わいが全く感じられない。
【0068】
以下、表5には、サンプルを製造する際に用いた「連続式蒸留焼酎」の1−ブタノールの濃度等を示す。また、表6、7には、サンプルの1−ブタノールの濃度等を示すとともに、併せて評価結果(独特な風味、すっきりとした味わい)を示す。
なお、表5〜7には、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルの濃度も参考値として示す。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
表6に示すサンプルNo.3−3〜3−5については、1−ブタノールの濃度が所定範囲であったことから、「独特な風味」および「すっきりとした味わい」の評価において、いずれも2点以上(弱いが独特な風味やすっきりとした味わいが感じられる)という好ましい結果となった。
特に、サンプルNo.3−3、3−4については、「独特な風味」および「すっきりとした味わい」の評価において、いずれも2.5点以上という非常に好ましい結果となった。
【0073】
一方、サンプルNo.3−1、3−2については、1−ブタノールの濃度が低かったため、「独特な風味」が全く感じられないという結果となった。また、サンプルNo.3−6については、1−ブタノールの濃度が高かったため、「すっきりとした味わい」がかなり弱いという結果となった。
【0074】
表7に示すサンプルNo.4−3〜4−5については、1−ブタノールの濃度が所定範囲であったことから、「独特な風味」および「すっきりとした味わい」の評価において、いずれも2点以上(弱いが独特な風味やすっきりとした味わいが感じられる)という好ましい結果となった。
特に、サンプルNo.4−3、4−4については、「独特な風味」および「すっきりとした味わい」の評価において、いずれも3点以上という非常に好ましい結果となった。
【0075】
一方、サンプルNo.4−1、4−2については、1−ブタノールの濃度が低かったため、「独特な風味」が全く感じられないという結果となった。また、サンプルNo.4−6については、1−ブタノールの濃度が高かったため、「すっきりとした味わい」が非常に弱いという結果となった。
【0076】
以上説明したように、実施例1では、焼酎の液温を所定温度以上にした状態で、焼酎をろ過することにより、1−ブタノールの濃度を高い値にできることがわかった。そして、1−ブタノールの濃度について高い値を示す単式蒸留焼酎は、「華やかな香り」および「独特な風味」の評価において良い結果が得られることがわかった。
また、実施例2では、実施例1において良い結果が得られた単式蒸留焼酎を用いるとともに、当該単式蒸留焼酎の混和割合、1−ブタノールの濃度を所定範囲とすることにより、独特の風味を保持するとともに、すっきりとした味わいの混和焼酎を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
S1 一次もろみ製造工程
S2 二次もろみ製造工程
S3 蒸留工程
S4 蒸留後ろ過工程(ろ過工程)
S5 割水工程
S6 割水後ろ過工程(ろ過工程)
S21 混和工程
S22 混和後ろ過工程(ろ過工程)
図1
図2