特許第6552204号(P6552204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552204ケーソンの沈設方法およびフリクションカット構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552204
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ケーソンの沈設方法およびフリクションカット構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 23/14 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   E02D23/14
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-14311(P2015-14311)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-138409(P2016-138409A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰司
(72)【発明者】
【氏名】土橋 功
(72)【発明者】
【氏名】新井 昌一
(72)【発明者】
【氏名】小松 祥子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 一弥
(72)【発明者】
【氏名】林 正人
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−064620(JP,A)
【文献】 特開2011−052484(JP,A)
【文献】 特公昭48−014087(JP,B1)
【文献】 特開平01−315529(JP,A)
【文献】 特開2003−184101(JP,A)
【文献】 特開2002−061279(JP,A)
【文献】 特開2004−044242(JP,A)
【文献】 特開2004−225326(JP,A)
【文献】 特開昭54−003316(JP,A)
【文献】 米国特許第04973197(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/00−25/00
E21D 1/00−9/14
E02D 7/00−13/00
E02D 29/00
E02D 29/045−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソンの下端に設けられた刃口の外形状に沿って地盤を掘削するとともに前記ケーソンを沈設する第一工程と、
前記刃口の外周囲をフリクションカットしつつ地盤を掘削するとともに前記ケーソンを沈設する第二工程と、を備えるケーソンの沈設方法であって、
前記第二工程では、前記刃口の下端から外方向に向けて複数のフリクションカット用治具を突出させるとともに、複数の前記フリクションカット用治具の突出長を部分的に変化させることを特徴とする、ケーソンの沈設方法。
【請求項2】
ケーソンの刃口と、フリクションカット用治具と、前記刃口と前記フリクションカット用治具との間に介設されたジャッキと、を備えるフリクションカット構造であって、
前記フリクションカット用治具は、前記ジャッキにより内外方向へ進退可能であることを特徴とする、フリクションカット構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーソンの沈設方法およびフリクションカット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーソン工事では、刃口部にフリクションカット部を形成し、刃口の外形状をケーソン本体の外形状よりも大きくしておくことで、ケーソン本体沈設時の周面摩擦力を低下させる場合がある(例えば、特許文献1参照)。
このようなフリクションカット部は刃口部と一体に形成されていて、工事開始から終了までフリクションカットを行うのが一般的である。
【0003】
一方、フリクションカットによりケーソンの周囲に隙間が形成されるため、地盤の性質によっては周辺地盤が乱され、地表面沈下等を生ずる場合がある。
また、孔壁が崩落すると、ケーソン周囲の隙間に土砂が部分的に引きずり込まれて周面摩擦力が不均一になるおそれがある。周面摩擦力が不均一になると、ケーソンの姿勢制御が困難になる。
【0004】
そのため、特許文献2には、フリクションカットによって形成されたケーソン周囲の隙間に、フリクションカット部から潤滑剤を注入することによって、孔壁の崩落を防止するとともに周面摩擦力の均一化を図るケーソンの沈設方法が開示されている。
また、フリクションカットによって形成されたケーソン周囲の隙間に、砂利を投入することにより孔壁の崩落を防止するとともに周面摩擦力の均一化を図るSSケーソン工法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−152843号公報
【特許文献2】特開2004−92276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のケーソンの沈設方法は、潤滑剤の充填率や注入圧力の計算に手間がかかる。また、潤滑剤を注入するための装置の維持管理にも手間がかかる。
また、SSケーソン工法は、砂利の締固めや、循環水の管理等に手間がかかる。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、ケーソンの高品質施工を簡易に行うことができるケーソンの沈設方法およびフリクションカット構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明のケーソンの沈設方法は、ケーソンの下端に設けられた刃口の外形状に沿って地盤を掘削するとともに前記ケーソンを沈設する第一工程と、前記刃口の外周囲をフリクションカットしつつ地盤を掘削するとともに前記ケーソンを沈設する第二工程とを備えるケーソンの沈設方法であって、前記第二工程では前記刃口の下端から外方向に向けて複数のフリクションカット用治具を突出させるとともに、複数の前記フリクションカット用治具の突出長を部分的に変化させることを特徴としている。
【0009】
すなわち、本発明に係るケーソンの沈設方法は、フリクションカットを行わない第一工程と、フリクションカットを行う第二工程とを併用するものである。
かかるケーソンの沈設方法によれば、地盤状況に応じてフリクションカット(第二工程)を行うことで、ケーソン外面に作用する周面摩擦力を調整することができる。そのため、高品質施工を簡易に実施することができる。
【0010】
また、前記フリクションカット用治具が前記刃口の内外方向へ進退可能であるため、フリクションカット用治具を進退させることで、地盤状況に応じてフリクションカット量を調整することができるとともに、ケーソンの姿勢制御を行うことも可能である。
【0015】
また、本発明のフリクションカット構造は、ケーソンの刃口と、フリクションカット用治具と、前記刃口と前記フリクションカット用治具との間に介設されたジャッキとを備えており、前記フリクションカット用治具が前記ジャッキにより内外方向へ進退可能であることを特徴としている。
【0016】
かかるフリクションカット構造によれば、ジャッキによってフリクションカット用治具を進退させることができるので、刃口からの突出長を調節することが可能となり、ひいては、フリクションカットの大きさ(長さ)を調節することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のケーソンの沈設方法およびフリクションカット構造によれば、ケーソンの高品質施工をより簡易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るケーソンを示す断面図である。
図2】ケーソンの沈設方法の各工程を示す断面図であって、(a)は第一工程、(b)第二工程である。
図3】(a)は第一の実施形態のフリクションカット構造を示す断面図、(b)は(a)のA−A矢視図である。
図4】(a)および(b)は本実施形態のケーソン沈設方法における姿勢制御方法の一例を示す説明図である。
図5】(a)は他の形態のフリクションカット構造を示す断面図、(b)は(a)のB−B矢視図である。
図6】(a)は第二の実施形態のフリクションカット構造を示す断面図、(b)は(a)のC−C矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一の実施形態>
第一の実施形態では、図2に示すように、地表側の第一層G1と第一層G1よりも硬質な第二層G2とが積層された地盤G中にケーソン工法により地中構造物を構築する場合について説明する。
ケーソン工法は、図1に示すように、地盤Gを掘削することにより形成された掘削孔Hに、複数のケーソン躯体2,2,…を順次沈設する方法である。
【0020】
掘削孔Hは、ケーソン1の最下端(最下段に設けられたケーソン躯体2の下側)に設けられた刃口3の外形状に沿って地盤Gを掘削して形成する。
図2の(a)に示すように、第一層G1では刃口3の外形状に沿って掘削し(第一工程)、図2の(b)に示すように、第二層G2ではフリクションカットFをしつつ掘削する(第二工程)。なお、フリクションカット長は、第二層G2の地山強度に応じて適宜設定すればよい。
【0021】
ケーソン躯体2は、平面視矩形状で所定の高さを有した、鉄筋コンクリート製の角筒状の躯体である。複数のケーソン躯体2を上下方向に連設することで筒状の地中構造物が形成される。
本実施形態では、図1に示すようにケーソン躯体2の内空部中央に中壁が形成されているが、中壁は必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
また、ケーソン躯体2の断面形状は矩形に限定されるものではなく、例えば円形であってもよい。
【0022】
刃口3は、鉄筋コンクリート製部材であって、スラブ部4と刃部5とを備えている。刃口3の外形状は、ケーソン躯体2の外形状と同等に形成されている。なお、刃口3の外形状は、ケーソン躯体2の外形状よりも若干大きくてもよい。また、刃口3の材質は限定されるものではなく、例えば鋼製部材であってもよい。
【0023】
スラブ部4は、最下段のケーソン躯体2の下面を遮蔽するように設けられた盤状部分である。
刃部5は、スラブ部4の下側に形成された角筒状部分であって、外側面は垂直で、内側面は下端に向かうに従って外側面に近づくように傾斜している。
【0024】
本実施形態の刃部5には、図3に示すように、フリクションカットを行うためのフリクションカット用治具6が周方向に間隔をあけて複数設けられている。
すなわち、複数のフリクションカット用治具6によって刃口3にフリクションカット構造が形成されている。
【0025】
フリクションカット用治具6は、刃部5の下面の幅(内外方向の長さ)よりも大きな長さを有した鋼板からなる。フリクションカット用治具6を刃部5の下面に固定すると、刃部5の内側および外側の少なくとも一方に端部が突出する。
【0026】
本実施形態のフリクションカット用治具6には、7段2列(計14カ所)の挿通孔7が等間隔で形成されている。なお、挿通孔7の数や配置は限定されない。
フリクションカット用治具6の数や配設ピッチは限定されるものではなく、適宜設定すればよい。また、フリクションカット用治具6を構成する鋼板の強度や厚さ等は、地盤の強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
フリクションカット用治具6は、挿通孔7を挿通したボルト8を刃口3(刃部5)に螺着されている。すなわち、フリクションカット用治具6は、刃部5に対して着脱可能である。
フリクションカット用治具6の刃部5への固定は、刃部5の内外方向に跨って並ぶ7段の挿通孔7のうち連続する5段を利用して行う。そのため、図3の(b)に示すように、ボルト8を固定する挿通孔7の位置を変更する(ずらす)ことにより、フリクションカット用治具6の外方向への突出長(フリクションカットの大きさ)を変化させることができる。
【0028】
第一層G1を掘削する第一工程は、図2の(a)に示すように、フリクションカット用治具6を刃口3から突出させない状態で行う。すなわち、第一工程では、フリクションカットFを行わずに掘削する。なお、第一工程は、フリクションカット用治具6を刃口3から取外した状態で行ってもよい。
【0029】
第二層G2を掘削する第二工程では、図2の(b)に示すように、複数のフリクションカット用治具6,6,…の先端を刃口3から外方向に突出させて、フリクションカットFを行いながら掘削する。
【0030】
フリクションカット用治具6の突出長は、第二層G2の地山強度に応じて適宜設定する。また、施工データにより作成した掘削沈下関係図から周面摩擦力を算出し、フリクションカットFの量を調節してもよい。
【0031】
以上、本実施形態のケーソンの沈設方法では、軟質地盤である第一層G1ではフリクションカットを行わず、硬質地盤である第二層G2にのみフリクションカットFを行っている。このように地盤状況に応じてケーソン1の外面に作用する周面摩擦力を調整すると、高品質施工を簡易に実施することができる。
【0032】
また、図4の(a)に示すように、ケーソン1が傾いた場合であっても、フリクションカット用治具6の突出長を部分的に変化させれば、余掘り量(フリクションカット量)を調整できるので、ケーソンの姿勢を制御することができる(図4の(b)参照)。
【0033】
また、フリクションカット用治具6は、ボルト8の盛り替えにより刃口3からの突出長を調節することができるため、フリクションカットFの量の調節を簡易に行うことができる。
【0034】
なお、フリクションカット用治具6の挿通孔7は、図5の(a)および(b)に示すように、長孔であってもよい。
挿通孔7が長孔であれば、フリクションカット用治具6を刃口3から取り外すことなくずらすことができるため、刃口3からの突出長の調節が簡易である。すなわち、フリクションカット用治具6を刃口3の内外方向へ進退させることで、地山状況に応じたフリクションカット量の調整を簡易に行うことができる。
【0035】
このように、軟質地盤である第一層G1ではフリクションカットを行わないので、地盤Gの緩みを防止することができ、周辺の構造物や環境等に影響を及ぼす心配がない。
また、軟質地盤である第二層G2ではフリクションカットFを行うので、周面摩擦により施工不能になることを防止できる。
【0036】
<第二の実施形態>
第二の実施形態では、第一の実施形態と同様に、地表側の第一層G1と第一層G1よりも硬質な第二層G2とが積層された地盤Gにおいて、ケーソン工法により地中構造物を構築する場合について説明する。
【0037】
第二の実施形態のケーソン躯体2および刃口3の詳細は、第一の実施形態で示したケーソン躯体2と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0038】
本実施形態のフリクションカット構造は、図6の(a)および(b)示すように、刃口3と、フリクションカット用治具6と、刃口3とフリクションカット用治具6との間に介設されたジャッキ9とを備えている。
【0039】
フリクションカット用治具6は、刃部5の下面の幅(内外方向の長さ)よりも大きな長さを有した鋼板であって、刃部5に下面において、刃部5の内側および外側の少なくとも一方に端部が突出するように構成されている。
フリクションカット用治具6は、刃口3の内外方向へ進退可能に設けられている。
【0040】
ジャッキ9は、刃口3に形成されたジャッキ受け9aに固定されていているとともに、フリクションカット用治具6の基端部(地盤と反対側の端部)に接続されている。
ジャッキ9の構成は限定されるものではなく、例えば、油圧ジャッキやエアジャッキ等からなる。
【0041】
ジャッキ9を伸張させると、フリクションカット用治具6の先端部(地盤G側端部)が刃口3の外側に押し出され、ジャッキ9を縮長させると、フリクションカット用治具6が刃口3の内側方向に引き戻される。
すなわち、フリクション用治具6は、ジャッキ9により刃口3の内外方向へ進退可能に設けられている。
【0042】
本実施形態では、第一層G1を掘削する第一工程では、ジャッキ9を収縮させて、フリクションカット用治具6を刃口3から突出させない状態で、フリクションカットを行わずに掘削する。
【0043】
一方、第二層G2を掘削する第二工程では、ジャッキ9を所定長伸張させて、複数のフリクションカット用治具6,6,…の先端を刃口3から外方向に突出させて、フリクションカットFを行いながら掘削する。
【0044】
フリクションカット用治具6の突出長は、第二層G2の地山強度に応じて適宜設定する。また、施工データにより作成した掘削沈下関係図から周面摩擦力を算出し、フリクションカットFの量を調節してもよい。
【0045】
本実施形態のフリクションカット構造によれば、フリクション用治具6を進退させることで、地盤状況に応じてフリクションカット量を調整することができるとともに、ケーソンの姿勢制御を行うことも可能である。そのため、高品質施工をより簡易に行うことができる。
【0046】
また、フリクション用治具6の着脱に要する手間を省略することができる。
この他の第二の実施形態のケーソンの沈設方法およびフリクションカット構造の作用効果は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0047】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0048】
例えば、前記実施形態では、第一層と第二層とが積層された地盤に本発明のケーソンの沈設方法を採用する場合について説明したが、地盤の状況は限定されるものではない。例えば、第一層と第二層とが複数回交互に積層された地盤であってよい。また、異なる強度の硬質層(第二層)が積層されている地盤であってもよい。
本発明のケーソンの沈設方法により形成される地中構造物は限定されない。
【符号の説明】
【0049】
1 ケーソン
2 ケーソン躯体
3 刃口
4 スラブ部
5 刃部
6 フリクションカット用治具
7 挿通孔
8 ボルト
F フリクションカット
G 地盤
G1 第一層
G2 第二層
H 掘削孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6