特許第6552207号(P6552207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特許6552207ドアチェッカー用アームおよびドアチェッカー
<>
  • 特許6552207-ドアチェッカー用アームおよびドアチェッカー 図000003
  • 特許6552207-ドアチェッカー用アームおよびドアチェッカー 図000004
  • 特許6552207-ドアチェッカー用アームおよびドアチェッカー 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552207
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ドアチェッカー用アームおよびドアチェッカー
(51)【国際特許分類】
   E05C 17/22 20060101AFI20190722BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20190722BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20190722BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   E05C17/22 A
   B60J5/04 K
   B32B15/20
   B32B15/08 E
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-21515(P2015-21515)
(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公開番号】特開2016-142119(P2016-142119A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年10月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】井上 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】尾身 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 浩士
【審査官】 家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−034865(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/008847(WO,A1)
【文献】 特許第3099226(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05C 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材とが接合してなる金属/樹脂複合構造体により形成されており、
少なくとも前記アルミニウム合金金属部材の前記熱可塑性樹脂部材との接合部表面には、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されず、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成されており、
射出成型金型内に配置された前記アルミニウム合金金属部材に前記熱可塑性樹脂部材を射出成形することによって得られたものであり、
前記熱可塑性樹脂部材を構成する熱可塑性樹脂が、ポリアセタールおよびポリアミドから選択される一種または二種以上であるドアチェッカー用アーム。
【請求項2】
前記アルミニウム合金金属部材が日本工業規格(JIS)に規定された展伸用アルミニウム合金および鋳造用アルミニウム合金から選択される一種または二種以上のアルミニウム合金により形成されている、請求項1に記載のドアチェッカー用アーム。
【請求項3】
少なくとも前記アルミニウム合金金属部材の前記熱可塑性樹脂部材との前記接合部表面において、
平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす、請求項1または2に記載のドアチェッカー用アーム。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が70%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
【請求項4】
自動車ドアチェッカー用アームである、請求項1乃至いずれか一項に記載のドアチェッカー用アーム。
【請求項5】
請求項1乃至いずれか一項に記載のドアチェッカー用アームを備えるドアチェッカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアチェッカー用アームおよびドアチェッカーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、ドア開閉時にドアを所定の開度位置に保持するためにドアチェッカーが設けられている。このようなドアチェッカーは、例えば、車体に固定されるヒンジ部と、一端がヒンジ部に連結されたアームと、ドアに固定されるものであり、上記アームが挿通されるケースと、上記アームの他端に固定されるストッパとを備える。
【0003】
このようなドアチェッカー用アームに関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2006−143964号公報)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、金属製の長板状のインサートの長手方向中間部に特定のポリアミド樹脂組成物を用いた摺動部を一体成形したドアチェッカー用アームが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−143964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されているようなドアチェッカー用アームは、ドアを開閉操作する際に異音が発生する場合があることが明らかになった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ドアを開閉操作する際の異音の発生が抑制されたドアチェッカー用アームおよびドアチェッカーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ドアを開閉操作する際の異音の発生が抑制されたドアチェッカー用アームを安定的に得るために鋭意検討した。その結果、金属部材としてアルミニウム合金部材を使用し、かつ、アルミニウム合金金属部材の熱可塑性樹脂部材との接合部表面に、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造を形成することにより、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れ、ドアを開閉操作する際の異音の発生が抑制されたドアチェッカー用アームおよびドアチェッカーが安定的に得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すドアチェッカー用アームおよびドアチェッカーが提供される。
【0010】
[1]
アルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材とが接合してなる金属/樹脂複合構造体により形成されており、
少なくとも上記アルミニウム合金金属部材の上記熱可塑性樹脂部材との接合部表面には、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されず、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成されており、
射出成型金型内に配置された上記アルミニウム合金金属部材に上記熱可塑性樹脂部材を射出成形することによって得られたものであり、
前記熱可塑性樹脂部材を構成する熱可塑性樹脂が、ポリアセタールおよびポリアミドから選択される一種または二種以上であるドアチェッカー用アーム。
[2]
上記アルミニウム合金金属部材が日本工業規格(JIS)に規定された展伸用アルミニウム合金および鋳造用アルミニウム合金から選択される一種または二種以上のアルミニウム合金により形成されている、上記[1]に記載のドアチェッカー用アーム
[3
少なくとも上記アルミニウム合金金属部材の上記熱可塑性樹脂部材との上記接合部表面において、
平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす、上記[1]または[2]に記載のドアチェッカー用アーム。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が70%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える

自動車ドアチェッカー用アームである、上記[1]乃至[]いずれか一つに記載のドアチェッカー用アーム。

上記[1]乃至[]いずれか一つに記載のドアチェッカー用アームを備えるドアチェッカー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドアを開閉操作する際の異音の発生が抑制されたドアチェッカー用アームおよびドアチェッカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のドアチェッカー用アームの一例を模式的に示した断面図である。
図2】本実施形態に係るアルミニウム合金金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部の測定箇所を説明するための模式図である。
図3】本実施形態のドアチェッカーの一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。なお、文中の数字の間にある「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0014】
[ドアチェッカー用アーム]
まず、本実施形態に係るドアチェッカー用アーム101について説明する。
図1は、本実施形態のドアチェッカー用アーム101の一例を模式的に示した断面図である。ドアチェッカー用アーム101は、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105とが接合してなる金属/樹脂複合構造体106により形成されている。そして、少なくともアルミニウム合金金属部材103の熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104には、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されず、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成されている。さらに金属/樹脂複合構造体106は射出成型金型内に配置されたアルミニウム合金金属部材103に熱可塑性樹脂部材105を射出成形することによって得られたものである。
アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104に形成された、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下である凸部が林立した微細凹凸構造に熱可塑性樹脂部材105が侵入して金属と樹脂が接合し、金属―樹脂界面を形成することにより本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106が得られる。
【0015】
金属部材としてアルミニウム合金金属部材103を用いることにより、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104に、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造を形成することができる。
アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104には、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度向上に適した微細凹凸構造が形成されているため、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合性を優れたものにすることができる。
具体的には、射出成型金型内に配置されたアルミニウム合金金属部材103に熱可塑性樹脂部材105を射出成形することにより、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104の上記微細凹凸構造の中に熱可塑性樹脂部材105を進入させることができる。こうすることによって、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、通常では接合が困難なアルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105とを強固に接合することが可能になる。
【0016】
このようにして得られた金属/樹脂複合構造体106により形成されたドアチェッカー用アーム101は、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合が強固なため、ドアを開閉操作する際の異音の発生を抑制することができる。
ドアチェッカー用アーム101は、例えば、自動車用ドアチェッカーに用いられる。
【0017】
以下、金属/樹脂複合構造体106を構成する各部材について説明する。
【0018】
<アルミニウム合金金属部材>
以下、本実施形態に係るアルミニウム合金金属部材103について説明する。
アルミニウム合金金属部材103はアルミニウム合金により形成されている。アルミニウム合金金属部材103を構成するアルミニウム合金としては、例えば、日本工業規格(JIS)に規定された展伸用アルミニウム合金および鋳造用アルミニウム合金から選択される一種または二種以上のアルミニウム合金が挙げられる。
【0019】
アルミニウム合金金属部材103の形状は、熱可塑性樹脂部材105と接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等とすることができる。また、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。
また、熱可塑性樹脂部材105と接合する接合部表面104の形状は、特に限定されないが、平面、曲面等が挙げられる。
【0020】
アルミニウム合金金属部材103は、アルミニウム合金を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、後述する粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
必要な形状に加工されたアルミニウム合金金属部材103は、熱可塑性樹脂部材105と接合する部位が酸化や水酸化されていないことが好ましく、長期間の自然放置で表面に酸化皮膜である錆の存在が明らかなものは研磨、化学処理等でこれを取り除くことが好ましい。
【0021】
本実施形態に係るアルミニウム合金金属部材103において、少なくとも熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104には、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されず、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成されている。
これにより、熱可塑性樹脂部材105が、接合部表面104の上記微細凹凸構造に入り込むため、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度を向上させることができる。その結果、ドアを開閉操作する際の異音の発生を抑制することができる。
ここで、上記超微細凹凸構造の間隔周期は凸部から隣接する凸部までの距離の平均値であり、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真から求めることができる。電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡により測定する場合は、具体的にはアルミニウム合金金属部材103の接合部表面104を撮影する。その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。
【0022】
接合部表面104には、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下、好ましくは1μm以上300μm以下、より好ましくは5μm以上200μm以下、特に好ましくは10μm以上200μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成されている。粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)は、後述するように、例えば表面粗さ測定装置を用いて、JIS B0601(対応国際規格:ISO 4287)に準拠して測定することができる。
【0023】
粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が上記下限値以上であると、上記微細凹凸構造の凹部に熱可塑性樹脂部材105が十分に進入することができ、その結果、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより向上させることができる。また、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が上記上限値以下であると、得られる金属/樹脂複合構造体106の金属―樹脂界面に隙間が生じるのを抑制できる。その結果、金属―樹脂界面の隙間から水分等の不純物が浸入することを抑制できるため、金属/樹脂複合構造体106を高温、高湿下で用いた際、強度が低下することを抑制できる。
【0024】
間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されず、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が上記範囲内である微細凹凸構造を形成する方法としては、NaOH等の無機塩基水溶液および/またはHCl、HNO等の無機酸水溶液に金属部材を浸漬する方法、陽極酸化法により金属部材を処理する方法等が挙げられる。これらの方法は、使用するアルミニウム合金金属部材103のアルミニウム合金の種類や、上記粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の範囲内において形成する凹凸形状によって使い分けることが可能である。
【0025】
本実施形態に係るアルミニウム合金金属部材103において、少なくとも熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たすことが好ましい。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が70%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
【0026】
図2は、本実施形態に係るアルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部の測定箇所を説明するための模式図である。
上記6直線部は、例えば、図2に示すような6直線部B1〜B6を選択することができる。まず、基準線として、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104の中心部Aを通る中心線B1を選択する。次いで、中心線B1と平行関係にある直線B2およびB3を選択する。次いで、中心線B1と直交する中心線B4を選択し、中心線B1と直交し、中心線B4と並行関係にある直線B5およびB6を選択する。ここで、各直線間の垂直距離D1〜D4は、例えば、2〜5mmである。
なお、通常、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104だけでなく、アルミニウム合金金属部材103の表面全体に対し、表面粗化処理が施されているため、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104と同一面で、接合部表面104以外の箇所から6直線部を選択してもよい。
【0027】
上記要件(1)および(2)を同時に満たすと、接合強度により一層優れたドアチェッカー用アーム101が得られる理由は必ずしも明らかではないが、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104が、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間のアンカー効果が効果的に発現し、その結果、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105とが強く結合できる構造になっているためと考えられる。
本発明者らは、アルミニウム合金金属部材と、熱可塑性樹脂部材との接合強度を向上させるために、アルミニウム合金金属部材の表面の十点平均粗さ(Rz)を調整することを検討した。
しかし、アルミニウム合金金属部材の表面の十点平均粗さ(Rz)を単に調整するだけではアルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材との接合強度を十分に向上させることができないことが明らかとなった。
ここで、本発明者らは、負荷長さ率という尺度がアルミニウム合金金属部材表面の凹凸形状の鋭利性を表す指標として有効であると考えた。負荷長さ率が小さい場合は、アルミニウム合金金属部材表面の凹凸形状の鋭利性が大きいことを意味し、負荷長さ率が大きい場合は、アルミニウム合金金属部材表面の凹凸形状の鋭利性が小さいことを意味する。
そこで、本発明者らは、アルミニウム合金金属部材と、熱可塑性樹脂部材との接合強度を向上させるための設計指針として、アルミニウム合金金属部材表面の粗さ曲線の負荷長さ率という尺度に注目し、さらに鋭意検討を重ねた。その結果、アルミニウム合金金属部材表面の負荷長さ率を特定値以下に調整することにより、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間にアンカー効果がより効果的に発現し、その結果、接合強度により一層優れた金属/樹脂複合構造体106が実現できることを見出した。
【0028】
アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1A)〜(1C)のうち1つ以上の要件をさらに満たすことが好ましく、要件(1C)を満たすことがとりわけ好ましい。
(1A)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が70%以下である直線部を好ましくは2直線部以上、より好ましくは3直線部以上、最も好ましくは6直線部含む
(1B)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を好ましくは1直線部以上、より好ましくは2直線部以上、さらに好ましくは3直線部以上、最も好ましくは6直線部含む
(1C)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を好ましくは1直線部以上、より好ましくは2直線部以上、さらに好ましくは3直線部以上、最も好ましくは6直線部含む
【0029】
また、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)の平均値が好ましくは0.1%以上70%以下であり、より好ましくは0.5%以上60%以下であり、さらに好ましくは1%以上50%以下であり、最も好ましくは2%以上40%以下である。
なお、上記負荷長さ率(Rmr)の平均値は、前述の任意の6直線部の負荷長さ率(Rmr)を平均したものを採用することができる。
【0030】
アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104の各負荷長さ率(Rmr)は、アルミニウム合金金属部材103の表面に対する粗化処理の条件を適切に調節することにより制御することが可能である。
本実施形態においては、とくにエッチング剤の種類および濃度、粗化処理の温度および時間、エッチング処理のタイミング等が、上記各負荷長さ率(Rmr)を制御するための因子として挙げられる。
【0031】
アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(2A)をさらに満たすことが好ましい。
(2A)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が好ましくは5μm超、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である
【0032】
アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、十点平均粗さ(Rz)の平均値が好ましくは2μmを超えて50μm以下、より好ましくは5μmを超えて45μm以下、さらに好ましくは10μm以上40μm以下、特に好ましくは15μm以上30μm以下である。
なお、上記十点平均粗さ(Rz)の平均値は、前述の任意の6直線部の十点平均粗さ(Rz)を平均したものを採用することができる。
【0033】
アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たすことが好ましい。
(3)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満であり、より好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0034】
アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより一層向上させる観点から、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104上の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が好ましくは10μmを超え300μm未満、より好ましくは20μm以上200μm以下である。
なお、上記粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値は、前述の任意の6直線部のRSmを平均したものを採用することができる。
【0035】
アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104の十点平均粗さ(Rz)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)は、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104に対する粗化処理の条件を適切に調節することにより制御することが可能である。
本実施形態においては、とくに粗化処理の温度および時間、エッチング量等が、上記十点平均粗さ(Rz)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を制御するための因子として挙げられる。
【0036】
また、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104の電子顕微鏡観察において、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されない。これにより、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度をより良好なものとすることができる。
【0037】
次に、上記要件(1)〜(3)、(1A)〜(1C)、(2A)等を満たすアルミニウム合金金属部材103の調製方法について説明する。
このようなアルミニウム合金金属部材103は、例えば、エッチング剤を用いて粗化処理することにより形成することができる。
ここで、エッチング剤を用いて金属部材の表面を粗化処理すること自体は従来技術においても行われてきた。しかし、本実施形態では、エッチング剤の種類および濃度、粗化処理の温度および時間、エッチング処理のタイミング、等の因子を高度に制御している。上記要件(1)〜(3)、(1A)〜(1C)、(2A)等を満たすアルミニウム合金金属部材103を得るためには、これらの因子を高度に制御することが重要となる。
以下、上記要件(1)〜(3)、(1A)〜(1C)、(2A)等を満たすアルミニウム合金金属部材103を得るためのアルミニウム合金金属部材表面の粗化処理方法の一例を示す。ただし、本実施形態に係るアルミニウム合金金属部材表面の粗化処理方法は、以下の例に限定されない。
【0038】
(1)前処理工程
まず、アルミニウム合金金属部材103は、熱可塑性樹脂部材105との接合側の表面に酸化膜や水酸化物等からなる厚い被膜がないことが望ましい。このような厚い被膜を除去するため、次のエッチング剤で処理する工程の前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨してもよい。また、熱可塑性樹脂部材105との接合側の表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行なうことが好ましい。
【0039】
(2)表面粗化処理工程
本実施形態においてアルミニウム合金金属部材の表面粗化処理方法としては、後述する酸系エッチング剤による処理を特定のタイミングで行うことが好ましい。具体的には、該酸系エッチング剤による処理を表面粗化処理工程の最終段階で行うことが好ましい。
【0040】
上記酸系エッチング剤を用いて粗化処理する方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜350秒程度が好ましく、金属部材表面をより均一に粗化できる観点から、20〜300秒がより好ましく、50〜300秒が特に好ましい。
【0041】
上記酸系エッチング剤を用いた粗化処理によって、アルミニウム合金金属部材103の表面が凹凸形状に粗化される。上記酸系エッチング剤を用いた際のアルミニウム合金金属部材103の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解したアルミニウム合金金属部材103の質量、比重および表面積から算出した場合、0.1〜500μmであることが好ましく、5〜500μmであることがより好ましく、5〜100μmであることが更に好ましい。エッチング量が上記下限値以上であれば、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度をより向上させることができる。また、エッチング量が上記上限値以下であれば、処理コストの低減が可能となる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0042】
なお、本実施形態では、上記酸系エッチング剤を用いて金属部材を粗化処理する際、金属部材表面の全面を粗化処理してもよく、熱可塑性樹脂部材105が接合される面だけを部分的に粗化処理してもよい。
【0043】
(3)後処理工程
本実施形態では、上記表面粗化処理工程の後、通常、水洗および乾燥を行うことが好ましい。水洗の方法については特に制限はないが浸漬または流水にて所定時間洗浄することが好ましい。
【0044】
さらに、後処理工程としては、上記酸系エッチング剤を用いた処理により生じたスマット等を除去するため、超音波洗浄を施すことが好ましい。超音波洗浄の条件は、生じたスマット等を除去することができる条件であれば特に限定されないが、用いる溶媒としては水が好ましく、また、処理時間としては、好ましくは1〜20分間である。
【0045】
(酸系エッチング剤)
本実施形態において、アルミニウム合金金属部材表面の粗化処理に用いられるエッチング剤としては、後述する特定の酸系エッチング剤が好ましい。上記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム合金金属部材の表面に、熱可塑性樹脂部材105との間の密着性向上に適した微細凹凸構造が形成され、そのアンカー効果によりアルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度がより一層向上するものと考えられる。
【0046】
以下、本実施形態で使用できる酸系エッチング剤の成分について説明する。
【0047】
上記酸系エッチング剤は、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの少なくとも一方と、酸と、を含み、必要に応じて、マンガンイオン、各種添加剤等を含むことができる。
【0048】
・第二鉄イオン
上記第二鉄イオンは、アルミニウム合金金属部材を酸化する成分であり、第二鉄イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該第二鉄イオンを含有させることができる。上記第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等が挙げられる。上記第二鉄イオン源のうちでは、塩化第二鉄が溶解性に優れ、安価であるという点から好ましい。
【0049】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜12質量%、さらに好ましくは0.5〜7質量%、さらにより好ましくは1〜6質量%、特に好ましくは1〜5質量%である。上記第二鉄イオンの含有量が上記下限値以上であれば、アルミニウム合金金属部材の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、上記第二鉄イオンの含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度向上により適した均一な粗化が可能になる。
【0050】
・第二銅イオン
上記第二銅イオンはアルミニウム合金金属部材を酸化する成分であり、第二銅イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該第二銅イオン含有させることができる。上記第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅等が挙げられる。上記第二銅イオン源のうちでは、硫酸第二銅、塩化第二銅が安価であるという点から好ましい。
【0051】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記第二銅イオンの含有量は、0.001〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜7質量%、さらに好ましくは0.05〜1質量%、さらにより好ましくは0.1〜0.8質量%、さらにより好ましくは0.15〜0.7質量%、特に好ましくは0.15〜0.4質量%である。上記第二銅イオンの含有量が上記下限値以上であれば、アルミニウム合金金属部材の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、上記第二銅イオンの含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度向上により適した均一な粗化が可能になる。
【0052】
上記酸系エッチング剤は、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの一方のみを含むものであってもよく、両方を含むものであってもよいが、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含むことが好ましい。酸系エッチング剤が第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含むことで、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度向上により適した良好な粗化形状が容易に得られる。
【0053】
上記酸系エッチング剤が、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含む場合、第二鉄イオンおよび第二銅イオンのそれぞれの含有量が、上記範囲であることが好ましい。また、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンと第二銅イオンの含有量の合計は、0.011〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%、特に好ましくは1〜5質量%である。
【0054】
・マンガンイオン
上記酸系エッチング剤には、アルミニウム合金金属部材表面をむらなく一様に粗化するために、マンガンイオンが含まれていてもよい。マンガンイオンは、マンガンイオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該マンガンイオンを含有させることができる。上記マンガンイオン源としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン等が挙げられる。上記マンガンイオン源のうちでは、硫酸マンガン、塩化マンガンが安価である等の点から好ましい。
【0055】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記マンガンイオンの含有量は、0〜1質量%であることが好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%である。
【0056】
・酸
上記酸は、第二鉄イオンおよび/または第二銅イオンにより酸化された金属を溶解させる成分である。上記酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸や、スルホン酸、カルボン酸等の有機酸が挙げられる。上記カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸等が挙げられる。上記酸系エッチング剤には、これらの酸を一種または二種以上配合することができる。上記無機酸のうちでは、臭気がほとんどなく、安価である点から硫酸が好ましい。また、上記有機酸のうちでは、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0057】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記酸の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜50質量%であることがより好ましく、1〜50質量%であることがさらに好ましく、1〜30質量%であることがさらにより好ましく、1〜25質量%であることがさらにより好ましく、2〜18質量%であることがさらにより好ましい。上記酸の含有量が上記下限値以上であれば、アルミニウム合金の粗化速度(溶解速度)の低下を防止できる。一方、上記酸の含有量が上記上限値以下であれば、液温が低下した際のアルミニウム合金の金属塩の結晶析出を防止できるため、作業性を向上できる。
【0058】
・他の成分
本実施形態において使用できる酸系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、深い凹凸を形成するために添加されるハロゲン化物イオン源、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等を例示できる。あるいは、粗化処理速度を上げるために添加されるチオ硫酸イオン、チオ尿素等のチオ化合物や、より均一な粗化形状を得るために添加されるイミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等のアゾール類や、粗化反応を制御するために添加されるpH調整剤等も例示できる。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、酸系エッチング剤中に0.01〜10質量%程度であることが好ましい。
【0059】
本実施形態の酸系エッチング剤は、上記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0060】
<熱可塑性樹脂部材>
以下、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材105について説明する。
【0061】
(熱可塑性樹脂(A))
本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材105は熱可塑性樹脂(A)を含む。
熱可塑性樹脂(A)としては、得られる金属/樹脂複合構造体106の機械特性および耐摩耗性をより効果的に向上させることができる観点から、ポリアセタールおよびポリアミドから選択される一種または二種以上であることが好ましい。
【0062】
熱可塑性樹脂部材105は熱可塑性樹脂(A)のみから構成されていてもよく、また後述する充填剤(B)を含んでいてもよい。充填剤(B)を含む場合は、熱可塑性樹脂(A)の含有量は、熱可塑性樹脂部材105全体を100質量%としたとき、通常50質量%以上95質量%以下、好ましくは50質量%以上90質量%以下、より好ましくは60質量%以上90質量%以下である。
【0063】
(充填材(B))
本実施形態において、熱可塑性樹脂部材105は、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との線膨張係数差の調整や熱可塑性樹脂部材105の機械的強度を向上させる観点から、充填材(B)をさらに含んでもよい。
【0064】
充填材(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
【0065】
充填材(B)の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよい。
【0066】
なお、熱可塑性樹脂部材105が充填材(B)を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂部材105全体を100質量%としたとき、通常5質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0067】
充填材(B)は、熱可塑性樹脂部材105の剛性を高める効果の他、熱可塑性樹脂部材105の線膨張係数を制御できる効果がある。特に、本実施形態のアルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との複合体の場合は、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との形状安定性の温度依存性が大きく異なることが多いので、大きな温度変化が起こると複合体に歪みが掛かりやすい。熱可塑性樹脂部材105が上記充填材(B)を含有することにより、この歪みを低減することができる。また、上記充填材(B)の含有量が上記範囲内であることにより、靱性の低減を抑制することができる。
【0068】
本実施形態において、充填材(B)は繊維状無機充填材であることが好ましく、ガラス繊維、炭素繊維であることがより好ましく、ガラス繊維であることが特に好ましい。
これにより、成形後の熱可塑性樹脂部材105の収縮を抑制することができるため、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合をより強固なものとすることができる。
【0069】
本実施形態において、熱可塑性樹脂部材105中の繊維状無機充填材の含有量は、熱可塑性樹脂部材105の成形性を維持しつつ接合強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂部材105全体を100質量%としたとき、好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、特に好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0070】
(その他の配合剤)
熱可塑性樹脂部材105には、個々の機能を付与する目的でその他の配合剤を含んでもよい。
上記配合剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等、耐衝撃性改質剤が挙げられる。
【0071】
(熱可塑性樹脂部材105の製造方法)
熱可塑性樹脂部材105の製造方法は、例えば、前述した熱可塑性樹脂(A)、さらに必要に応じて充填材(B)、上記その他の配合剤を、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置を用いて、混合または溶融混合することにより、熱可塑性樹脂部材105が得られる。
【0072】
[ドアチェッカー用アームの製造方法]
つづいて、本実施形態に係るドアチェッカー用アーム101の製造方法について説明する。
ドアチェッカー用アーム101の製造方法は、以下の(i)〜(ii)の工程を含む。
(i)粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成され、かつ、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されないアルミニウム合金金属部材103を、射出成型金型内に配置する工程
(ii)熱可塑性樹脂部材105の少なくとも一部がアルミニウム合金金属部材103と接するように、金型内に熱可塑性樹脂部材105を射出成形する工程
以下、具体的に説明する。
【0073】
まず、(i)射出成型金型を用意し、その金型を開いてそのキャビティ部(空間部)に粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下の凸部が林立した微細凹凸構造が形成され、かつ、間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造が観測されないアルミニウム合金金属部材103を配置する。(ii)その後、金型を閉じ、熱可塑性樹脂部材105の少なくとも一部がアルミニウム合金金属部材103と接するように、上記金型の上記キャビティ部に熱可塑性樹脂部材105を射出して固化し、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105とを接合する。その後、金型を開き離型することにより、金属/樹脂複合構造体106により形成されたドアチェッカー用アーム101を得ることができる。上記金型としては、例えば、高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)で一般的に使用される射出成形用金型を用いることができる。
【0074】
ここで、上記(ii)の工程において、熱可塑性樹脂部材105の射出開始から保圧完了までの間、上記金型の表面温度を、好ましくは熱可塑性樹脂部材105のガラス転移温度(以下、Tgとも呼ぶ。)以上、より好ましくはTg+(5以上100以下)℃以上の温度に維持することが好ましい。
これにより、熱可塑性樹脂部材105が軟化した状態に保ちながら、アルミニウム合金金属部材103の接合部表面104に熱可塑性樹脂部材105を高圧でより長い時間接触させることができる。
その結果、アルミニウム合金金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接着性を向上できるため、接合強度により一層優れた金属/樹脂複合構造体106をより安定的に得ることができる。
【0075】
また、上記(ii)の工程において、上記保圧完了後、上記金型の表面温度を、好ましくは熱可塑性樹脂部材105のガラス転移温度未満、より好ましくはTg−(5以上100以下)℃以下の温度に冷却する。
これにより、軟化状態の熱可塑性樹脂部材105を急速に固化させることができる。その結果、金属/樹脂複合構造体106の成形サイクルを短縮できるため、金属/樹脂複合構造体106を効率よく得ることができる。
【0076】
上記金型の表面温度の調整は、急速加熱冷却装置を金型に接続することにより、実施することができる。急速加熱冷却装置は、一般的に使用されている方式を採用することができる。
【0077】
加熱方法として、蒸気式、加圧熱水式、熱水式、熱油式、電気ヒータ式、電磁誘導過熱式のいずれか1方式またはそれらを複数組み合わせた方式でよい。
具体的には、金型の表面の近くに設けられた流路に水蒸気、温水および温油から選択される加熱媒体を導入する、あるいは電磁誘導加熱を用いることにより、上記金型の上記表面温度を熱可塑性樹脂部材105のガラス転移温度以上の温度に維持することが好ましい。
【0078】
冷却方法としては、冷水式、冷油式のいずれか1方式またはそれらを組み合わせた方式でよい。
具体的には、金型の表面の近くに設けられた流路に冷水および冷油から選択される冷却媒体を導入することにより、金型の表面温度を熱可塑性樹脂部材105のガラス転移温度未満の温度に冷却することが好ましい。
【0079】
上記(ii)の工程において、上記射出開始から上記保圧完了までの時間は、好ましくは1秒以上60秒以下であり、より好ましくは10秒以上50秒以下である。
上記時間が上記下限値以上であると熱可塑性樹脂部材105を溶融させた状態に保ちながら、アルミニウム合金金属部材103の上記微細凹凸構造に熱可塑性樹脂部材105を高圧でより長い時間接触させることができる。これにより、接合強度により一層優れた金属/樹脂複合構造体106をより安定的に得ることができる。
また、上記時間が上記上限値以下であると、金属/樹脂複合構造体106の成形サイクルを短縮できるため、金属/樹脂複合構造体106をより効率よく得ることができる。
【0080】
また、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の製造方法が適用される成形方法としては、射出成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法、反応射出成形法、ブロー成形法、熱成形法、プレス成形法等が挙げられる。これらの中でも射出成形法が好ましい。
【0081】
[ドアチェッカー]
つぎに、本実施形態に係るドアチェッカー110について説明する。ドアチェッカー110は本実施形態に係るドアチェッカー用アーム101を備える。
図3は、本実施形態のドアチェッカー110の一例を模式的に示した断面図である。この場合、ドアチェッカー110は、例えば、車体に固定されるヒンジ部111と、一端がヒンジ部111に連結されたドアチェッカー用アーム101と、ドアに固定されるものであり、ドアチェッカー用アーム101が挿通されるケース113と、ドアチェッカー用アーム101の他端に固定されるストッパ115とを備える構成とすることができる。
【0082】
本実施形態に係るドアチェッカー110は、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れたドアチェッカー用アーム101を備えている。そのため、ドアを開閉操作する際の異音の発生が生じ難く、信頼性に優れている。
【0083】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0084】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0085】
(ドアチェッカー用アームの摺動時の異音評価)
実施例および比較例で得られたドアチェッカー用アーム101を摺動させて異音の発生をチェックした。
異音が発生しなかったものを「〇」、異音が発生したものを「×」と評価した。
【0086】
(アルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材の界面の顕微鏡観察)
ドアチェッカー用アーム101におけるアルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材の界面を、光学顕微鏡で観察した。
アルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材との界面に空隙が観察されなかったものを「〇」、アルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材との界面に空隙が観察されたものを「×」と評価した。
【0087】
(アルミニウム合金金属部材の表面粗化処理)
[アルミニウム合金金属部材1の調製方法]
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム板を酸系エッチング剤(硫酸:8.2質量%、塩化第二鉄:7.8質量%(Fe3+:2.7質量%)、塩化第二銅:0.4質量%(Cu2+:0.2質量%)イオン交換水:残部)(30℃)中に80秒間浸漬し、揺動させることによってエッチングした。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行い、乾燥させることにより表面処理済みのアルミニウム合金金属部材1を得た。
【0088】
得られたアルミニウム合金金属部材1の間隔周期は、走査型電子顕微鏡(JEOL社製JSM−6701F)にて測定した。
また、得られたアルミニウム合金金属部材1の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用して測定し、6直線部について、切断レベル10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%および80%における負荷長さ率(Rmr)、十点平均粗さ(Rz)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を求めた。このうち、切断レベル20%におけるRmr(20%)値、上記Rmr(20%)値が70%以下となる直線部の本数、切断レベル40%におけるRmr(40%)値、上記Rmr(40%)値が60%以下となる直線部の本数、6直線部のRz値、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を算出した。
得られた結果を以下に示す。
【0089】
間隔周期:間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造は観測されなかった
切断レベル20%におけるRmr(20%)値[%]:17.5、10.3、13.4、10.6、3.8、7.4
Rmr(20%)値が70%以下となる直線部の本数:6本
切断レベル40%におけるRmr(40%)値[%]:43.6、26.1、48.0、46.7、33.5、34.2
Rmr(40%)値が60%以下となる直線部の本数:6本
6直線部のRz値[μm]:17.8、18.1、19.6、17.8、17.2、18.0
6直線部のRSm値[μm]:104.0、83.0、85.6、98.7、106.6、103.1
【0090】
[アルミニウム合金金属部材2の調製方法]
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:1.6mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム板を酸系エッチング剤(硫酸:4.1質量%、塩化第二鉄:3.9質量%(Fe3+:1.35質量%)、塩化第二銅:0.2質量%(Cu2+:0.1質量%)イオン交換水:残部)(30℃)中に40秒間浸漬し、揺動させることによってエッチングした。次いで、流水で水洗(1分)を行った。次に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に上記処理後のアルミニウム板を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行った。次に35質量%の硝酸水溶液(25℃)中に上記処理後のアルミニウム板を浸漬して30秒間揺動させた後、流水で水洗(1分)を行い、乾燥させることにより表面処理済みのアルミニウム合金金属部材2を得た。
得られたアルミニウム合金金属部材2の間隔周期および各表面粗さをアルミニウム合金金属部材1と同様の方法で測定した。
得られた結果を以下に示す。
【0091】
間隔周期:間隔周期が500nm未満の超微細凹凸構造は観測されなかった
切断レベル20%におけるRmr(20%)値[%]:45.2、48.4、30.6、33.7、44.3、49.2
Rmr(20%)値が70%以下となる直線部の本数:6本
切断レベル40%におけるRmr(40%)値[%]:78.1、76.9、61.5、70.7、71.6、79.4
Rmr(40%)値が60%以下となる直線部の本数:0本
6直線部のRz値[μm]:10.0、11.3、11.2、10.3、9.7,9.2
6直線部のRSm値[μm]:58.7、85.1、77.5、78.9、81.1、104.8
【0092】
[アルミニウム合金金属部材3の調製方法]
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断した。このアルミニウム板を特開2005−119005号公報の実施例1に記載の処理をおこなった。具体的には、市販のアルミニウム脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を15%濃度で水に溶かし75℃とした。この水溶液が入ったアルミニウム脱脂槽に上記アルミニウム板を5分間浸漬し水洗し、40℃の1%塩酸水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。つづいて、40℃の1%水酸化ナトリウム水溶液が入った槽に1分浸漬し水洗した。次いで40℃の1%塩酸水溶液を入れた槽に1分浸漬し水洗し、60℃の2.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液を入れた第1ヒドラジン処理槽に1分浸漬し、40℃の0.5%濃度の1水和ヒドラジン水溶液を入れた第2ヒドラジン処理槽に0.5分浸漬し水洗した。これを40℃で15分間、60℃で5分程度温風乾燥させることにより、表面処理済みのアルミニウム合金金属部材3を得た。
【0093】
得られたアルミニウム合金金属部材3の間隔周期は、走査型電子顕微鏡(JEOL社製JSM−6701F)にて測定した。
得られた結果を以下に示す。
【0094】
間隔周期:間隔周期が50nmの超微細凹凸構造が観測された
【0095】
[実施例1]
(射出成形)
日本製鋼所社製の射出成形機J55ADに小型ダンベル金属インサート金型を装着し、金型内にアルミニウム合金金属部材1を設置した。次いで、金型の表面温度を、加熱媒体である加圧熱水を用いて160℃まで加熱した。
次いで、その金型内に、熱可塑性樹脂部材1(ポリアミド、宇部興産社製UBEナイロン66)を、シリンダー温度290℃、射出速度25mm/sec、保圧95MPa、保圧時間6秒の条件にて射出成形を行い、図1に示すドアチェッカー用アーム101を得た。
ここで、図1は、本実施形態のドアチェッカー用アーム101の一例を模式的に示した断面図である。アルミニウム合金金属部材103(インサート)の表面に熱可塑性樹脂部材105(摺動部)が形成されている。
得られたドアチェッカー用アーム101について、上記評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例2]
熱可塑性樹脂部材1を熱可塑性樹脂部材2(ポリアセタール、ポリプラスチック社製ジュラコンM90−44(登録商標))に変えた以外は実施例1と同様にしてドアチェッカー用アーム101を得た。得られたドアチェッカー用アーム101について、上記評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0097】
[実施例3]
アルミニウム合金金属部材1をアルミニウム合金金属部材2に変えた以外は実施例1と同様にしてドアチェッカー用アーム101を得た。得られたドアチェッカー用アーム101について、上記評価をおこなった。評価結果は表1に示す。
【0098】
[比較例1]
アルミニウム合金金属部材1を表面処理前のアルミニウム板に変えた以外は実施例1と同様にしてドアチェッカー用アーム101を得た。得られたドアチェッカー用アーム101について、上記評価をおこなった。評価結果は表1に示す。
【0099】
[比較例2]
アルミニウム合金金属部材1をアルミニウム合金金属部材3に変えた以外は実施例1と同様にしてドアチェッカー用アーム101を得た。得られたドアチェッカー用アーム101について、上記評価をおこなった。評価結果は表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例1〜3で得られたドアチェッカー用アーム101はアルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材との界面に空隙が観察されず良好な接合状態であった。このようなドアチェッカー用アーム101は摺動時に異音は発生しなかった。すなわち、アルミニウム合金金属部材と、熱可塑性樹脂部材との接合強度に優れていた。
一方、比較例1および2で得られたドアチェッカー用アーム101はアルミニウム合金金属部材と熱可塑性樹脂部材との界面に空隙が観察された。このようなドアチェッカー用アーム101は摺動時に異音が発生した。
【符号の説明】
【0102】
101 ドアチェッカー用アーム
103 アルミニウム合金金属部材
104 接合部表面
105 熱可塑性樹脂部材
106 金属/樹脂複合構造体
110 ドアチェッカー
111 ヒンジ部
113 ケース
115 ストッパ
図1
図2
図3