特許第6552210号(P6552210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552210炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552210
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20190722BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20190722BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20190722BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C08J5/04CFD
   C08G63/91
   C08K7/06
   C08L63/00
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-24685(P2015-24685)
(22)【出願日】2015年1月25日
(65)【公開番号】特開2015-157939(P2015-157939A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2018年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-24859(P2014-24859)
(32)【優先日】2014年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599168257
【氏名又は名称】エフテックス有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 隆
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第98/044019(WO,A1)
【文献】 特開2000−169613(JP,A)
【文献】 特開昭55−065235(JP,A)
【文献】 特開2015−007212(JP,A)
【文献】 特開2014−148656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10、5/24
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08G 60/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:ポリエチレンテレフタレート100重量部、
(B)成分:炭素繊維5〜150重量部、
(C)成分:結合剤0.1〜5重量部、
(D)成分:結合反応触媒0.01〜1重量部、
(E)成分:展着剤0.01〜1重量部から構成される混合物を、反応押出法により、該ポリエチレンテレフタレートの融点以上の温度で反応させてエステル結合を形成させる炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法であって、
前記炭素繊維は、カルボキシル基を有するラージトウ炭素繊維であり、
前記結合剤は、分子内に2個以上のエポキシ基を含有する多官能エポキシ化合物である、ことを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレートが、回収されたポリエチレンテレフタレート成形品の再循環物の一種類以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記炭素繊維が、ラージトウPAN系炭素繊維チョップの一種類以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記結合剤の配合量が、0.1〜0.60重量部であることを特とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化・改質ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端にカルボキシル基を保有する熱可塑性ポリエステルとカルボキシル基を保有する炭素繊維とを、多官能エポキシ樹脂系結合剤を仲介として触媒の存在下に結合反応させることに依って、機械的強度、電気特性等の諸物性を向上させた炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱可塑性ポリエステルは、例えば芳香族飽和ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート(以下に、PET又はペットと称す。)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等がある。これらは、熱可塑性樹脂として透明性、機械的強度、剛性等に優れた物性を有し、繊維、フィルム、プラスチックス等として広範囲に使用されている。特に、プラスチックス分野では、成形品がボトル、シート、容器、日用品、自動車内装材
、機械部品、電気・電子材料、建材、土木材、各種工業用品等に広く活用されている。
また、それらのポリエステルは、更にガラス繊維または炭素繊維を混合して熱可塑複合材にする事に依り、機械的強度や耐熱性等の諸特性が改善され、一層高級な用途に使用されて来ている。特に、ガラス繊維が安価であるので、これで強化されたPET複合材、PBT複合材、PC複合材(GFRPと呼称)が大量に使用されている。一方、炭素繊維は高強度であるがあまりにも高価格であるために、これらのポリエステル複合材は、特殊用途に少量にしか使用されて来なかった。
【0003】
近年、自動車産業、新幹線車両業、宇宙航空産業、リニヤーモーターカー等の先端産業分野に於いては、構成材料の機械的強度の改善による一層の軽量化・省エネルギー化をはじめ、電気特性、耐熱性、放熱性等の一層の性能改善が求められている。合成樹脂は、一般に分子量を増大すれば、物性および成形加工性が改善される。しかしながら、ポリエステルは、その製造法の重縮合法に起因して高分子量体が得られ難く、かつその中分子量体を高分子量化する固層重合法は数時間を必要として生産性が低くかった。また大規模設備を必要とする弱点があった。
【0004】
本発明者らは、特許文献1、特許文献2および特許文献3に示される様に、これらポリエステルで末端にカルボキシル基を保有する中分子量体を反応押出法を採用し、エポキシ樹脂系結合剤(鎖延長剤)および触媒に依り、ポリエステル同士を反応させて数分以下の短時間で高分子量化する高生産性を実現し、コンパクトで安価な設備を使用する反応押出方式による製造法を提供した。しかしながら、ポリエステルの溶融張力の増大による成形加工性については画期的な進歩があったが、一方機械的物性の改善については、当時に本発明で期待されていた効果は殆ど見られなかった。
ポリエステルに、炭素繊維を機械的に混合して炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料(CFRTP)として、その機械的強度および導電性を上げることは公知である。ただし、これら炭素繊維は、一般に特殊の高分子繊維(PAN系またはピッチ系)を超高温の焼成法で製造されるので、表面にカルボキシル基や水酸基は殆ど存在しないので、樹脂にはマクロ的には分散する。しかしながら、それらの固体は樹脂に溶融しない異物であるので、応力や衝撃がかかると両者の界面が剥離し、この複合材組成物を脆化させ、逆に強度を低下させることがある。その改善には、一般的に特殊なエポキシ系樹脂で炭素繊維表面を被覆して樹脂との親和性を高めてその複合材料の強度等を改善している。
他方、炭素微小体としてのナノサイズのダイヤモンドには、衝撃圧縮法による多結晶ダイヤモンド、静圧法による単結晶ダイヤモンド、爆発法によるクラスターダイヤモンドの三種類があり、非特許文献1によればその表面にはカルボキシル基が存在している。近年、ソ連と中国で遊休火薬による爆発法によるクラスターダイヤモンドが、安価に生産され始めた特許文献4によれば、爆発法ダイヤモンドを粉砕と遠心分離を繰返して一次粒子径を50nm以下にする方法および化学的酸化処理に依りダイヤモンド表面にカルボキシル基、水酸基、アミノ基、アセチル基等を導入する方法が提案されている。
また一方、特許文献5には、カーボンナノチューブ(CNT)を含む気相法炭素繊維(2〜12重量部)をポリカーボネートに二軸押出機で機械的に混合して、複合材組成物の導電性および熱伝導性を改善している。しかしながら、強度改善についての記載は見られない。
また一方、本発明者らは、特許文献6に示される様に、ポリエチレンテレフタレート(PET)にカーボンナノチューブ(CNT)を含む気相法炭素繊維10重量部をエポキシ樹脂系結合剤(鎖延長剤)および触媒の存在下に二軸押出機で反応押出法にて混合して、その複合材組成物の引張強度を15−20%および導電性を改善している。
最近公開された特許文献7の実施例によれば、炭素繊維強化熱硬化性樹脂複合材料(CFRP)を400℃にて熱硬化性樹脂のみを焼成して得た炭素繊維集合体を、更にアルカリ電解浴の陽極酸化により開繊して再生炭素繊維を回収している。この再生炭素繊維の5%で強化された熱硬化性樹脂複合材料(CFRP)の引張強度は、殆ど改善されなかった。しかし、サイジング剤で処理したこの再生炭素繊維の5%で強化された熱硬化性樹脂複合材料(CFRP)の引張強度は、約20%改善された。他方、炭素繊維強化炭素(C/Cコンポジット)からは、酸性電解浴の陽極酸化により開繊して再生炭素繊維が回収された。しかしながら、再生炭素繊維のカルボキシル基の存在および炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料(CFRTP)についての記載は見当たらない。
非特許文献2によれば、過熱水蒸気法により500−700℃でCFRPから回収された再生炭素繊維をBoehm法で分析したところ、主にフェノール性水酸基が約0.10等量/Kgと多く、ラクトン基が約0.05等量/Kgと少なく、カルボキシル基は極微量にしか存在していない。尚、本発明のエポキシ樹脂系結合剤(鎖延長剤)および触媒は、カルボキシル基にのみに高速度で反応し、水酸基およびラクトン基には殆ど反応しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】第3503952号公告
【特許文献2】国際公開WO2009/004745A1
【特許文献3】米国 8258239B2号登録
【特許文献4】国際公開WO2008/096854A1
【特許文献5】特開2006−225648号公報(第25頁、表2)
【特許文献6】特願2013−030429号
【特許文献7】特開2013−249386号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「高圧力の科学と技術 Vol.13,No.1(2003)」(第34頁、図6
【非特許文献2】プラスチックリサイクル化学研究会、「CFRPのリサイクル技術の最前線」講演資料(2013.4.26)(第162−163頁、図23−25)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、自動車産業、新幹線車両業、宇宙航空機産業、リニヤーモーターカー等の先端産業分野に於ける構成材料の機械的強度の改善による一層の軽量化・省エネルギー化をはじめ、電導性、耐熱性、放熱性等の一層の性能改善をすることを目的とする。特に、航空機産業においては構成材料の5%以上の強度改善による軽量化・省エネルギー化が世界市場で緊急に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の着想を述べる。初めに、炭素繊維の表面に存在するカルボキシル基とポリエステルの分子末端のカルボキシル基とを、下記化学式(1)の様に触媒の存在下に結合剤としての多官能性エポキシ樹脂のエポキシ環の開裂を伴う化学反応を起こさせ、新たにヒドロキシ基を含むエステル結合を形成させて巨大分子量のポリエステル・炭素繊維共重合体とする。但し、PESはポリエステルの骨格を、黒色長方形
【化1】
は炭素繊維を示す。尚、水酸基は反応しない。また、この結合反応は、2軸押出装置を使用して反応押出法に依って、本発明者らの先願特許の図1の反応機構にて高速度に実行出来る。このポリエステル・炭素繊維共重合体は、巨大分子量であり、長鎖分岐構造体であるので、その引張強度は分子鎖の「絡み合い」効果により増大する。従来のポリエステル・炭素繊維組成物の分子間親和力よりも、本ポリエステル・炭素繊維共重合体複合材(CFRTP)のエステル鎖の結合力が圧倒的に大きいので、強靭性が改善される。また、炭素繊維の導入に依り、更に電気特性、放熱性等のその他の性能も改善される。
【0009】
【化2】
【0010】
[化学式の説明]
カルボキシル基を保有する炭素繊維と分子末端にカルボキシル基を保有するポリエステルとの反応機構である。空白逆三角形はエポキシ環を、黒色長方形は炭素繊維本体を示す。Rは、エポキシ樹脂の残基である。
【0011】
本発明は、更に詳しくは下記の製造方法を提供するものである。
本発明は、第1に(A)成分の飽和ポリエステル100重量部、(B)成分のカルボキシル基を保有する炭素繊維5〜150重量部、(C)成分の結合剤として該分子内に2個以上のエポキシ基を含有する多官能エポキシ化合物0.1〜5重量部、(D)成分の結合反応触媒0.01〜1重量部、(E)成分の展着剤0.01〜1重量部から構成される混合物を、該ポリエステルの融点以上の温度で反応させてエステル結合を形成させることを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明は、第2に(A)成分のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートまたはそれらの回収された成形品の再循環物のいずれか一種類以上を含有することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【0013】
本発明は、第3に(B)成分のカルボキシル基を保有する炭素繊維が、カルボキシル基を保有する再生された炭素繊維の長繊維、中繊維または粉末状繊維からなる群のいずれか一種類以上を含有することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【0014】
本発明は、第4に(B)成分のカルボキシル基を保有する炭素繊維が、カルボキシル基を保有する工業製品、化学的酸化処理された工業製品または電気化学的に酸化処理された工業製品からなる群のいずれか一種類以上を含有することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【0015】
本発明は、第5に(C)成分の結合剤が、該分子内に2個以上のエポキシ基を保有する多官能エポキシ化合物を、単独または2種類以上混合使用することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【0016】
本発明は、第6に(D)成分の結合反応触媒が、アルカリ金属のカルボン酸塩、アルカリ土類金属のカルボン酸塩、アルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩、アルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩からなる群のいずれか一種類以上を含有することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【0017】
本発明は、第7に(E)成分の展着剤が、流動パラフィンを含有することを特徴とする炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂およびその成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、芳香族飽和ポリエステルについて炭素繊維を共重合させてポリエステル・炭素繊維共重合体を形成させることに依り、その強度、導電性、伝熱性、耐熱性、耐油性、耐候性等の諸物性を従来よりも一層向上させることが出来る。本発明品は、化学結合を伴う共重合体であるために、従来の組成物に比べて特別仕様の押出装置でなくても均一混合し、成形品の長期使用に於いて相分離による性能変化が少ない。近年は、自動車用に太いPAN繊維から高速に製造される炭素繊維(Large Tow)のコストダウンがすすんでおるので、原料として容易に使用できる。また、航空機の端材の炭素繊維強化複合材(CFRP)から再生されたカルボキシル基を保有する再生炭素繊維は、
将来安価に製造されるので、原料として好適に使用できる見通しである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分のポリエステル]
本発明における主原料としての(A)成分のポリエステルは、芳香族飽和ポリエステルであり、ジカルボン酸成分とグリコール成分とから合成される系列のものが使用出来る。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタール酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の芳香族、脂環族ジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中で、芳香族ジカルボン酸、特にテレフタル酸、イソフタール酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。これらの中で、エチレングリコールおよびテトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)が特に好ましい。
この系列のポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタール酸を少量共重合した低融点PET、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸の共重合体(PETG)、ポリテトラメチレンテレフタレート(ポリブチレンテレフタレート、PBT)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等が挙げられる。ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。大量生産され極めて安価なポリエチレンテレフタレート(PET)が、特に好ましい。
また、本発明において主原料としての(A)成分のポリエステルは、他の系列のものとしてビスフェノールAを主原料とするポリカーボネート(PBT;ポリ−4,4‘−イソプロピレンジフェニルカーボネート)が使用出来る。
【0020】
本発明で使用できる代表的ポリエステルとしてのPETは、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール(1:1)混合溶媒に溶解して25℃で測定した固有粘度が0.50dl/g以上(繊維用)であることが好ましく、0.70dl/g以上(シート用)であることがより好ましく、0.80dl/g以上(ボトル用)であることが更に一層好ましい。固有粘度が0.50dl/g未満であると、本発明によっても結合反応が困難であり、得られるポリエステル・炭素共重合体が必ずしも優れた機械的強度を得ることができない恐れがある。固有粘度の上限は、特に制限されないが、通常1.1dl/g以下、好ましくは比較的安価な0.80dl/g前後である。市販PETの入手可能の上限は、固有粘度が1.25dl/gであるが、単独使用では成形加工性が悪化するので、本発明では固有粘度が0.60−0.80dl/gのものと混合して使用することが好ましい。
【0021】
[(B)成分のカルボキシル基を保有する炭素繊維]
本発明の(B)成分のカルボキシル基を保有する炭素繊維は、第1系列として再生炭素繊維を好ましく使用することが出来る。租原料となる炭素繊維強化熱硬化性エポキシ樹脂複合材(CFRP)は、現状では航空機を組立てる時に約40%副生する端材、そのボーリング時に副生するドリルの切粉、釣り竿、ゴルフティ等から得られる。将来は、大型航空機の機体の約65%を占めるCFRPのスクラップから大量に派生すると予想される。
再生炭素繊維は、実施例の製造例1および製造例2に例示される様に、特許文献7の記載方法に準じて反応条件の制御下で電解酸化処理する事に依り、多数のカルボキシル基を導入した物を特に好適に使用することが出来る。本発明の再生炭素繊維のカルボキシル基量は、通常、0.01−0.20mmol/gの範囲を含有する。好ましく使用できる範囲は、0.02−0.15mmol/gである。カルボキシル基量が0.01mmol/g以下では、本発明の再炭素繊維強化熱可塑性ポリエステル樹脂複合材(R−CFRTP)の機械的強度および電気特性等の改善効果が少なく、0.20mmol/g以上では再生炭素繊維同士の塊化(ブロッキング)による副反応が起り易い。
再生炭素繊維の含有量は、基体樹脂としての(A)成分のポリエステル100重量部に対して、5〜150重量部(4.8〜60%)とする。5重量部以下では、R−CFRTPの機械的強度および電気特性等の改善効果が少ない。また、150重量部以上では、樹脂比率低下に依り再生炭素繊維の混入が困難になる。R−CFRTPの物性改善のため、長繊維と中繊維の場合には10〜30%が、また粉末状繊維の場合には20〜60%が好ましい。
尚、再生炭素繊維の繊維長は、航空機等のCFRP製端材の寸法および組立時のボーリングによる切粉の大きさに従属する。本発明では、繊維長として長繊維(100mm以上)、中繊維(3−100mm)または粉末状繊維(3mm以下)と呼称する。いずれも、本発明で好ましく使用できる。
【0022】
本発明における(B)成分のカルボキシル基を保有する炭素繊維は、第2系列としてカルボキシル基を保有する工業製品を使用する事ができる。例えば、東レ(株)の高性能炭素繊維「トレカ」カットファイバーのT008シリーズ、T010シリーズ、TS12−006(長繊維から裁断された繊維長:カット長3−12mm)、または「トレカ」ミルドファイバーのMLDシリーズ(繊維長30−150μm)などが素原料として使用できる。また、一般にこれらの炭素繊維工業製品は、カルボキシル基の含有量が非常に少ないので、特許文献7の記載方法に準じた電解酸化処理に依り、または特許文献4に記載方法に準じた化学的酸化処理に依り炭素繊維の表面にカルボキシル基、水酸基およびアセチル基等を導入することに依り、本発明の目的に合わせて使用することが出来る。炭素繊維の含有量は、再生炭素繊維のそれとほぼ同様である。
近年は、自動車用に太いPAN繊維(Large Tow:太番手)から高速に製造される炭素繊維LTのコストダウンがすすんでおるので、原料として容易に使用できる。例えば、米国のZOLTEK社の炭素繊維は、国内企業の高性能炭素繊維の1/3−1/5の値段で極めて安価となっている。最近は、ドイツSGL社も自動車用に、開発を進めている。
尚、本発明では、PAN系またはピッチ系の炭素繊維を同様に使用することが出来る。
【0023】
[(C)成分の結合剤]
本発明の(C)成分の結合剤は、重量平均分子量が1,000〜300,000であることが好ましく、該分子内に2〜100個のエポキシ基を含有する高分子型多官能エポキシ化合物を単独または2種類以上の混合体として使用することができる。高分子量の骨格を形成する樹脂にエポキシ環を含むグリシジル基をペンダント状に吊下げたものや分子内にエポキシ基を含むものの市販品、例えば日本油脂(株)の「マープルーフ」シリーズ、BASFジャパン(株)の「ジョンクリルADR」シリーズを使用することができる。骨格となる樹脂は、アクリル樹脂系やスチレンアクリル樹脂系がポリオレフィン系(PP、PS、PE)よりも好ましい。何故ならば、樹脂の溶解度パラメーターは、原料PET 10.7、エポキシ樹脂 10.8、ポリアクリル酸メチル 10.2、ポリアクリル酸エチル 9.4、ポリプロピレン(PP) 9.3、ポリメタクリル酸エチル 9.0、ポリス散れ(PS) 8.9、ポリエチレン(PE) 8.0であり、数値が近いほど混合性が良いからである。
尚、これらの結合剤は、特許文献1に記載されている様に、マスターバッチの形態にして使用することが出来る。
【0024】
(C)成分の多官能エポキシ化合物の配合量は、(A)成分のポリエステル100重量部に対して0.1〜5重量部である。それは、(C)成分の種類と(B)の炭素繊維の種類と添加量に依って大幅にことなる。一般的には、0.1重量部未満では分子量と溶融粘度の増加効果が不充分のため、成形加工性も不充分で成形品の基本物性や機械的特性が劣ることになる。5重量部を越えると逆に成形加工性が悪化し、樹脂の黄変・着色とゲルやフィッシュアイ(FE)が副生したりする。
【0025】
[(D)成分の結合反応触媒]
本発明における(D)成分としての結合反応触媒は、(1)アルカリ金属の有機酸塩、炭酸塩および炭酸水素塩、(2)アルカリ土類金属の有機酸塩、炭酸塩および炭酸水素塩からなる群から選ばれた少なくとも一種類以上を含有する触媒である。有機酸塩としては、カルボン酸塩、酢酸塩等が使用できるが、カルボン酸塩の中で特にステアリン酸塩が好ましい。カルボン酸の金属塩を形成する金属としては、リチウム、ナトリウムおよびカリウムのようなアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムのようなアルカリ土類金属を使用できる。
この結合反応触媒としてのカルボン酸塩の配合量は(A)成分のポリエステル100重量部に対して0.01〜1重量部である。特に、0.1〜0.5重量部であることが好ましい。0.01重量部未満では触媒効果が小さく、共重合反応が未達となって分子量が充分増大しないことがある。1重量部を超えると局部反応によるゲル生成や加水分解の促進による溶融粘度の急上昇による押出成形機内のトラブルなどを惹起させる。
また、尚、これらの触媒は、特許文献1に記載されている様に、マスターバッチの形態にして使用することが出来る。
尚、(C)成分の結合剤と(D)成分の結合反応触媒とを合わせて、改質剤と呼称する。
【0026】
[(E)成分の展着剤]
本発明の展着剤は、パラフィンオイル、流動パラフィン、トリメチルシラン等が使用できる。流動パラフィンが、無極性で高沸点であり適度の粘着流体であるために特に好ましい。これらの展着剤は、(B)成分の炭素繊維を(A)成分のポリエステルのペレットまたは粉体に、均一付着させるために必要であり、また炭素繊維が大気中に舞い上がり人体や機器に悪影響を与えることを防止するために必要欠くべからざる助剤である。
【0027】
[配合方法、反応押出方法]
次に、本発明のポリエステル樹脂および炭素繊維を配合する方法に付いて説明する。(A)成分のポリエステルは、通常のバージンペレット、回収したフレーク、粒状物、粉末、チップ等の任意形状のものが使用し得る。一般的には、主成分のポリエステルを乾燥する方が好ましい。各成分をタンブラーやヘンシェルミキサー等の混合機で混和させてから、押出装置に供給する。加熱溶融する温度は、ポリエステルの融点の250度以上で300度以下であることが反応押出法の観点から望ましい。特に、280℃以下が好ましく、特に好ましくは265℃である。300℃を越えるとポリエステルの変色や熱分解が生じるおそれがある。各成分は同時に混合する方法以外に、(A)成分のポリエステルを(E)成分の展着剤で濡らしておき、(B)成分の炭素繊維を混合し、その後、(C)成分の結合剤と(D)成分の触媒を添加することも可能である。
【0028】
反応押出装置としては、単軸押出機、二軸押出機、それらの組合せの二段押出機等を使用することができる。一方、上記の5種類の成分をドライブレンドした生の原料混合物を直接に反応押出装置のホッパーへ供給し、直ちにインライン法で成形することもできる。ただし、単軸押出機の場合は、混合性の良い特殊構造スクリューと樹脂がベントアップしない真空ラインを必要とする。スクリューの混練工程の段階数や加熱条件を考慮して、最適な配合組成を選定することが重要である。二軸押出機の場合は、混合性の良いスクリュー構造と樹脂がベントアップしない真空ラインを必要とする。更に、炭素繊維が切断されない様に、炭素繊維の結束帯またはマスターバッチを押出機の出口シリンダーに供給出来るサイドフィーダーが必要不可欠である。
射出成形体、パイプや異型押出体、シートやボード成形体、中空成形体および発泡体成形体等をオフライン法で成形する場合には、予め反応押出装置で製造しておいた本発明のペレットを使用することが出来る。
【実施例】
【0029】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明のポリエステルおよびポリエステル・炭素繊維複合材についての評価方法は以下の通りである。尚、実施例1〜4は参考例とする。
(1)PET等の固有粘度(IV値)の測定法
1,1,2,2ーテトラクロロエタンとフェノールの等重量の混合溶媒を使用し、キャノンフエンスケ粘度計で25℃にて測定した。または、メーカーのカタログ値を採用した。
(2)メルトフローレート(MFR)の測定法
JIS K7210の条件20に従い、温度255−280℃、荷重2.16kgの条件で測定した。但し、樹脂は予め120℃×12時間または140℃×4時間で、熱風乾燥または真空乾燥されたものを使用した。
(3)比重の測定法
JIS K7112のA法(水中置換法)に従い、樹脂ペレットについてアルコールを液体として測定した
(4)機械的強度の測定法
小型試験片の作成:住友重機械工業(株)製の射出成形機SE18DUZ(型締め圧18トン、スクリュー径16mm)を使用し、成形温度270℃、金型温度35℃、冷却時間15−20秒の条件で成形した。
試験片の形状:引張試験片 JIS K7162 5A型(厚み2mm)
曲げ試験片 短冊型 80mm×10mm(厚み2mm)
引張試験:引張速度2mm/分にて実施し、5点の平均値で評価した(JIS K7073ほか)。
曲げ試験:3点曲げ試験を実施し、5点の平均値で評価した(JIS K7074ほか)。
(5)電気特性の測定法
JIS K 6911に準じて測定した。
(6)カルボキシル基等の測定法
JIS K 0070に準じ、Boehm法で測定した。炭素繊維またはポリエステルのサンプルに水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを別々に加え、電位差自動測定装置を使用して塩酸溶液を用いて逆滴定をした。全酸性官能基量(全酸量)を水酸化ナトリウム添加後の塩酸溶液による逆滴定で、また強酸性官能基量(カルボキシル基量)を炭酸水素ナトリウム添加後の塩酸溶液による逆滴定で測定した。なお、弱酸性官能基量(フェノール系水酸基量)は、全酸量―カルボキシル基量から求めた。例えば、カルボキシル基量は、電池負極のカーボン材の場合にはその表面では0.01−0.15mmol/g、PET樹脂で0.04mmol/g以下であるとされている。
【0030】
[製造例1]
[カルボキシル基を含有する再生炭素繊維のアルカリ液の電解酸化に依る製造と分析例]
特許文献7(特開2013−249386号)に準じて、航空機組立時に副生したCFRPの端材約30Kgを10cm角以下に裁断し、電気炉で400−500℃にて熱硬化性エポキシ樹脂部分を焼成除去して再生炭素繊維(集結体)約15Kgを得た。
再生炭素繊維(集結体)5gを500ccのビーカーに入れ、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mLに浸漬させた。再生炭素繊維集結体側を陽極とし、陰極側をチタニウム電極として、3V×0.5Aにての直流電解反応を1時間実施したこの電解酸化処理に依り開繊した再生炭素繊維を中性になるまで水洗し、乾燥してから保管した。これを3回繰り返した。
再生炭素繊維1gを各200ccの三角フラスコに秤量し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液または炭酸水素ナトリウム水溶液の各50mLに浸漬させた。栓をしてからその2体を24時間浸透機にかけた。各容器の上澄み液5mLを0.05mol/L塩酸水溶液で滴定し、全酸量とカルボキシル基量とを同定した。このBoehm法に依る分析を焼成後の再生炭素繊維と新品炭素繊維についても実施し、その結果を比較して以下に示す。
【表1】
カルボキシル基は、新品炭素繊維には極めて微量にしか存在しないが、本発明の焼成後の再生炭素繊維には0.03−0.05mmol/gも存在し、電解酸化後の再生炭素繊維にはその2−3倍の0.10mmol/gにまで増加していた。尚、PET樹脂では0.04以下mmol/gであるので、本発明の再生炭素繊維のカルボキシル基量は共重合させるに充分である。
【0031】
[製造例2]
[カルボキシル基を含有する再生炭素繊維のアルカリ液の電解酸化に依る製造例]
製造例1で得た再生炭素繊維集結体約1Kgを10Lの電解槽に入れ、水酸化カリウム水溶液を張込んだ。この再生炭素繊維集結体を金属製板の陽極側とし、陰極側をチタニウム製電極として、低電流・低電圧の直流電解反応を4時間実施した再生炭素繊維集結体は、殆どが開繊していたが、更に機械的に開繊して黒色光沢性の再生炭素繊維を得た。繊維長は、5−10cmであった。約50%のアルカリ水を含む再生炭素繊維を酸性溶液で中和し、水洗した後に180℃で一夜乾燥して保管した。同様操作を数回繰り返し、再生炭素繊維5Kgを得た。
【0032】
[実施例1]
[粉末状PET樹脂と再生炭素繊維・中繊維14%と多官能エポキシ樹脂に依るPET・炭素繊維共重合体ペレットR1の製造例]
原材料が少量なので、口径15mm×二軸の卓上式押出機を使用して、以下を実施した。
A成分の粉末状PET樹脂(東邦樹着工業(株)製:IV値0.92のペレットの粉砕物)85重量部(737g、120℃・12時間での熱風乾燥後の水分含有率約150ppm)、B成分の再生炭素繊維・中繊維(製造例2で試作された様に、炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材の切断片を約500℃で焼成してエポキシ樹脂を除去し、電解酸化処理と開繊の後に、中性化洗浄し、繊維長10−30mmに裁断して180℃一夜の乾燥をしたもの)15重量部(約130g)、C成分の結合剤として多官能エポキシ化合物(日油(株)製のマープルーフG−0130S:重量平均分子量Mw9,000、数平均分子量Mn5,500、エポキシ等量WPE530g/eq.、官能基:重量平均基準17個/分子、数平均基準10個/分子)1重量部(8.6g)、D成分の結合反応触媒としてステアリン酸カルシウム/ステアリン酸ナトリウム/ステアリン酸リチウム(50/25/25重量比)複合物の0.2重量部(1.7g)およびE成分の展着剤の流動パラフィン0.2重量部(1.7g)を原料とした。
(株)テクノベル製の同方向2軸押出機(KZW15−30MG:スクリュー口径15mm、L/D=30、回転数200rpm)を使用し、この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−265℃とし、B成分の再生炭素繊維・中繊維のみを除く4成分をポリエチレン袋内で手動にて混合した粉末状の白色混合物をホッパーに投入し、回転式フィーダーで1Kg/時の所定速度にて供給した。一方、押出機の出口側ベント孔部(C4)に特殊形態冶具を装備して再生炭素繊維・中繊維をほぼ一定速度で押込むことによって反応押出を行った。
ストランドを口径3mmの水平ノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットR1(630g)を製造した。ストランド金型の樹脂圧力は2.2MPaに上昇し、金型出口から水盤へのストランドはほぼ直線状に張り、溶融張力が増大した。これにより、異型押出成形による山形鋼、L字鋼やH字鋼の製造が可能となった。なお、原材料の消費量から再生炭素繊維の含有量は、約14%と計算された。
この温かい黒色樹脂ペレットR1(円柱型形状:口径2.6mm×長さ3.9mm)を直ちに140℃・4時間熱風乾燥して後に、アルミ・ポリエチレン積層の防湿袋に貯蔵したペレットの形状は、改質効果に依り口径と長さが、PETのみの場合に比べて共に増大した。
【0033】
この乾燥した黒色ペレットR1を射出成形して引張試験片および曲げ試験片を製作した。引張強さ99MPa、ヤング率6.2GPaおよび曲げ強さ147MPa、曲げ弾性率6.6GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比べると、本例1の再生炭素繊維・中繊維14%と改質剤の共重合効果は、引張強さ1.7倍、ヤング率3.3倍、曲げ強さ1.8倍、曲げ弾性率3.1倍であった。大幅に、改善された。
また、引張試験で破断した断面を白色光式レーザー顕微鏡で観察したら、再生炭素繊維・中繊維は殆ど全てが切断されて樹脂表面に切株が整然と並んでいた。即ち、再生炭素繊維・中繊維がPET樹脂から抜けることがなく、それら二者間の密着性は、共重合効果により抜群に強かった。
【0034】
[実施例2]
[粉末状PET樹脂と粉末状再生炭素繊維15%と多官能エポキシ樹脂に依るPET・炭素繊維共重合体ペレットR2の製造例]
A成分のポリエステルとして粉末状ペット(PET)樹脂(実施例1と同じ、熱風乾燥品)85重量部(737g、実施例1と同じ、熱風乾燥品)、B成分の粉末状再生炭素繊維(航空機の機体組立時に炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材をボーリング時に派生した切粉として派生した粉末状物を約500℃で焼成し、中性化まで水洗浄し、180℃一夜の乾燥後に80メッシュで篩分けした黒色粉体)15重量部(130g)、C成分の結合剤として多官能エポキシ化合物(日油(株)製のマープルーフG−0130S:実施例1と同じ)1重量部(8.6g)、D成分の結合反応触媒(実施例1と同じ)0.2重量部(1.7g)およびE成分の展着剤の流動パラフィン0.2重量部(1.7g)をポリエチレン袋内で手動にて混合した。
(株)テクノベル製の同方向2軸押出機(KZW15−30MG:スクリュー口径15mm、L/D=30、回転数200rpm、1ベント方式)を使用した。この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−265℃とし、C4部で真空引きしながら、上記の粉末状の黒色混合物をホッパーに投入し、回転式フィーダーで1.5Kg/時の所定速度にて供給することによって反応押出を行った。ストランドを口径3mmの水平ノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットR2(798g)を製造した。ストランド金型の樹脂圧力は、比較例1の粉末状PET樹脂のみに比べて6.4MPaに急上昇し、金型出口から水盤へのストランドが直線状に張り、溶融張力が増大した。これにより、異型押出成形による山形鋼、L字鋼やH字鋼等の製造が可能となった。
本例の黒色ストランドは、艶が良く、180度折り曲げで割れず針金の様に永久塑性変形性(Dead Hold性)を示した。この温かい黒色樹脂ペレットR2(円柱型形状:口径2.4mm×長さ2.8mm)を直ちに140℃・4時間熱風乾燥して後に、アルミ・ポリエチレン積層の防湿袋に貯蔵した。
【0035】
この乾燥した黒色ペレットR2を射出成形して、引張試験片および曲げ試験片を製作した。引張強さ59MPa、ヤング率2.6GPaおよび曲げ強さ91MPa、曲げ弾性率2.8GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比べると、本例2の粉末状再生炭素繊維15%と改質剤の共重合効果は、引張強さ同じ、ヤング率1.4倍、曲げ強さ1.1倍、曲げ弾性率1.3倍であった。かなり改善が見られた。
【0036】
[比較例1]
[粉末状PET樹脂のみによるペレットP1の製造例]
A成分の粉末状PET樹脂(実施例1と同じ、乾燥品)100重量部(2,500g)のみを使用し、実施例2とほぼ同様な条件にて押出機でペレットP1を製造し、透明ペレット2,400gを得た。ストランド金型の樹脂圧力は2.7MPaで、金型出口から水盤中のストランドは蛇行して溶融張力がやや小さかった。本例の透明ストランドは、艶が良く、180度折り曲げで割れなかったが、永久塑性変形性は無くて元の形状に戻った。 この透明ペレットP1は、MFR(255℃、荷重2.16Kg)が40g/10分、比重が1.373であった。
この乾燥したPET樹脂のみの透明ペレットP1(円柱型形状:口径2.5mm×長さ3.5mm)を射出成形して引張試験片および曲げ試験片を製作した。引張強さ59MPa、ヤング率1.9GPaおよび曲げ強さ84MPa、曲げ弾性率2.1GPaであった。
【0037】
[比較例2]
[粉末状PET樹脂と再生炭素繊維・中繊維とのPET・炭素繊維組成物複合材ペレットB1の製造例]
A成分の粉末状PET樹脂(実施例1と同じ、熱風乾燥品)85重量部(約737g)、B成分の再生炭素繊維・中繊維(実施例1と同じ、熱風乾燥品)15重量部(約130g)およびE成分の展着剤の流動パラフィン0.2重量部(1.7g)を原料とした。
(株)テクノベル製の同方向2軸押出機(KZW15−30MG:スクリュー口径15mm、L/D=30、回転数200rpm)を使用し、この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−265℃とし、上記の粉末状の白色PFTと展着剤をホッパーに投入し、回転式フィーダーで1Kg/時の所定速度にて供給することによって押出を行った。押出機の出口側ベント孔部(C4)に特殊形態冶具を装備して再生炭素繊維・中繊維を一定速度で押込んで混合した。
ストランドを口径3mmのノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットB1(722g)を製造した。ストランド金型の樹脂圧力は1.6MPaと低く、金型出口から水盤へのストランドは弓なりに垂れて溶融張力が小さかった。
本例の黒色ストランドは、艶が無く、180度折り曲げで割れず針金の様に永久塑性変形性(Dead Hold性)を示した。なお、原材料の消費量から再生炭素繊維の含有量は、約11%と計算された。この温かい黒色樹脂ペレットB1は、円柱型形状(口径1.8mm×長さ3.0mm)であった。
【0038】
[実施例3]
[粉末状PET樹脂と粉末状再生炭素繊維20%と多官能エポキシ樹脂に依るPET・炭素繊維共重合体ペレットR3の製造例]
原材料を増やして、口径25mm×二軸の中規模押出機を使用して、以下を実施した。
A成分のポリエステルとして粉末状PET樹脂(実施例1と同じ、真空乾燥物)80重量部(1,760g)、B成分の粉末状再生炭素繊維(実施例2と同じ、真空乾燥物)20重量部(440g)、C成分の結合剤として多官能エポキシ化合物(日油(株)製のマープルーフG−0130S:実施例1と同じ)1重量部(17.6g)、D成分の結合反応触媒(実施例1と同じ)0.2重量部(3.6g)およびE成分の展着剤の流動パラフィン0.2重量部(3.6g)を原料とした。
(株)創研製の同方向2軸押出機(スクリュー口径25mm、L/D=41、回転数200rpm)を使用した。この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−280℃とし、上記の3成分の黒色混合物をホッパーに投入して、重量式定量フィーダーで5Kg/時の速度にて押出機に供給した。ストランド2本を口径3mmの水平ノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットR3(1.67Kg)を製造した。ストランド金型の樹脂圧力は1.1MPaで、金型出口から水盤へのストランドは直線状となり、溶融張力が大きかった。
本例3の黒色ストランドは、艶が良く、180度折り曲げで割れず針金の様に永久塑性変形性(Dead Hold性)を示した。この温かい黒色樹脂ペレットR3(円柱型形状:口径2.1mm×長さ3.1mm)を直ちに140℃・4時間熱風乾燥して後に、アルミ・ポリエチレン積層の防湿袋に貯蔵した。この黒色ペレットR3は、MFR(255℃、荷重2.16Kg)が24g/10分、比重が1.447であった。
【0039】
この乾燥した黒色ペレットR3を射出成形して、引張試験片および曲げ試験片を製作した。引張強さ56MPa、ヤング率2.0GPaおよび曲げ強さ94MPa、曲げ弾性率3.0GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比べると、本例3の粉末状再生炭素繊維20%と改質剤の共重合効果は、引張強さ0.93倍、ヤング率1.1倍、曲げ強さ1.1倍、曲げ弾性率1.4倍であった。特に、曲げ弾性率に改善が見られた。
【0040】
[実施例4]
[粉末状PET樹脂と粉末状再生炭素繊維40%と多官能エポキシ樹脂に依るPET・炭素繊維共重合体ペレットR4の製造例]
A成分のポリエステルとして粉末状PET樹脂(実施例1と同じ、真空乾燥物)60重量部(1,320g)、B成分の粉末状再生炭素繊維(実施例2と同じ、真空乾燥物)40重量部(880g)、C成分の結合剤として多官能エポキシ化合物(日油(株)製のマープルーフG−0130S:実施例1と同じ)1重量部(13.2g)、D成分の結合反応触媒(実施例1と同じ)0.2重量部(2.6g)およびE成分の展着剤の流動パラフィン0.2重量部(2.6g)を原料とした。
(株)創研製の同方向2軸押出機(スクリュー口径25mm、L/D=41、回転数200rpm)を使用した。この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−280℃とし、上記の3成分の黒色混合物をホッパーに投入して、重量式定量フィーダーで5Kg/時の速度にて押出機に供給した。鈍い黒色のストランド2本を口径3mmの水平ノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットR4(1.67Kg)を製造した。ストランド金型の樹脂圧力は0.8MPaで、金型出口から水盤へのストランドは直線状となり成形加工性に優れ、かつ溶融張力がほぼ適切だった。
この温かい黒色ペレットR4(円柱型形状:口径1.9mm×長さ3.2mm)を直ちに140℃・4時間熱風乾燥して後に、アルミ・ポリエチレン積層の防湿袋に貯蔵した。この黒色ペレットR4は、MFR(255℃、荷重2.16Kg)が31g/10分、比重が1.512であった。
【0041】
この乾燥した黒色ペレットR4を射出成形して、引張試験片および曲げ試験片を製作した。引張強さ62MPa、ヤング率3.2GPaおよび曲げ強さ108MPa、曲げ弾性率4.4GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比べると、本例4の粉末状再生炭素繊維40%と改質剤の共重合効果は、引張強さ1.1倍、ヤング率1.7倍、曲げ強さ1.3倍、曲げ弾性率2.1倍であった。この40%充填により、機械的性能のかなりな改善が見られた。
【0042】
[比較例3]
[粉末状PET樹脂と粉末状再生炭素繊維40%とのPET・炭素繊維組成物複合材ペレットB2製造例]
実施例4とほぼ同一条件にて、但しC成分の結合剤として多官能エポキシ化合物およびD成分の結合反応触媒を除いて、A成分の粉末状PET樹脂60重量部(1,320g)、B成分の粉末状再生炭素繊維40重量部(880g)およびE成分の流動パラフィン0.2重量部(2.6g)を原料として押出試験を実施した。
(株)創研製の同方向2軸押出機(スクリュー口径25mm、L/D=41、回転数200rpm)を使用した。この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−280℃とし、上記の3成分の黒色混合物をホッパーに投入して、重量式定量フィーダーで5Kg/時の速度にて押出機に供給した。鈍い黒色のストランド2本を口径3mmの水平ノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色ペレットB2(1.6Kg)を製造した。
ストランド金型の樹脂圧力は0.6MPaと低く、金型出口から水盤へのストランドは弓なり状に下方に垂れ、溶融張力が小さかった。この黒色ストランドは、吐出が脈動して切れ易く成形加工性が悪く、水冷物は折れ易かった。改質剤無しには、この粉末状再生炭素繊維40%の混練り製造は、困難であると判断した。
この温かい黒色ペレットB2は、円柱型形状(口径1.7mm×長さ3.0mm)であり、MFR(255℃、荷重2.16Kg)が50g/10分、比重が1.525であった。
【0043】
[比較例4]
[PET樹脂ペレットと炭素繊維結束帯15%とのPET・炭素繊維組成物複合材ペレットB3の製造例]
実施例4とほぼ同一条件にて、但しC成分の結合剤として多官能エポキシ化合物およびD成分の結合反応触媒を除いて、A成分のPET樹脂ペレット(市販ペットボトル用、IV値0.80)85重量部(850g)、B成分の炭素繊維結束帯(東レ「トレカ」カットファイバーTS12−006、繊維長6mm)15重量部(150g)を原料として押出試験を実施した。
(株)創研製の同方向2軸押出機(スクリュー口径25mm、L/D=41、回転数200rpm)を使用した。この押出機のスクリューとダイスの設定温度を240−280℃とし、上記の2成分を別々の重量式定量フィーダーでホッパーに投入して、5Kg/時の速度にて押出機に供給した。黒色のストランド2本を口径3mmの水平ノズルから約2m/分の速度にて水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色ペレットB3(0.95Kg)を製造した。
ストランド金型の樹脂圧力は0.8MPaと低く、金型出口から水盤へのストランドはやや下方に垂れ、溶融張力が小さかった。この黒色ストランドは、成形加工性が悪くはなかった。
この温かい黒色ペレットB3(円柱型形状:口径1.7mm×長さ3.2mm)を直ちに140℃・4時間熱風乾燥して後に、アルミ・ポリエチレン積層の防湿袋に貯蔵した。この黒色ペレットB3は、MFR(255℃、荷重2.16Kg)が33g/10分、比重が1.434であった。
【0044】
この乾燥した黒色ペレットB3を射出成形して、引張試験片および曲げ試験片を製作した。引張強さ73MPa、ヤング率3.3GPaおよび曲げ強さ119MPa、曲げ弾性率4.2GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比ベると、本比較例4の工業製品としての炭素繊維結束帯15%の混合効果は、引張強さ1.2倍、ヤング率1.7倍、曲げ強さ1.4倍、曲げ弾性率2.0倍であった。この炭素繊維結束帯15%の充填により、機械的性能のかなりな改善が見られたが、これは粉末状再生炭素繊維40%の共重合体(実施例4)とほぼ同じであるが、再生炭素繊維・中繊維14%の共重合体(実施例1)よりはかなり劣った。
再生炭素繊維は、繊維長を数ミリ以上にすれば同一含有量で従来の工業製品と同等、ないしそれ以上の機械的強度を発現出来る。
【0045】
[実施例5]
[ペット樹脂とLT炭素繊維チョップ15%と改質剤から成る炭素繊維強化・改質ペット樹脂ペレットR5の製造と射出成型体の製造例]
A成分のポリエステルとして汎用ペット樹脂ペレット(ボトルグレード:台湾・南亜3802T、IV値0.80)100重量部(乾燥後の水分含有率約100ppm以下)とC成分の結合剤として多官能エポキシ樹脂0.60重量部、D成分の結合反応の混合触媒0.16重量部とE成分の展着剤としての流動パラフィン0.06重量部をスーパーミキサーで均一混合した。これらを主体樹脂押出用の第1ホッパーに納入した。一方、B成分の炭素繊維としてLT炭素繊維チョップ(米国・ZOLTEK社のラージトウPAN系炭素繊維「Panex35」6mm長)をサイドフィーダー用の第2ホッパーに納入した。
同方向2軸押出機(口径60mm、1ベント式)を使用し、この押出機の10ブロックから成るシリンダーとダイスの設定温度を150−270℃およびスクリュー回転数150rpmとした。重量式計量フィーダーを使用し、第1ホッパーからA成分とC成分とD成分等の混合樹脂を100Kg/hの速度で反応押出を行い、また第2ホッパーから炭素繊維チョップを17.6Kg/h(炭素繊維の含有量15%)の速度で連続的にサイドフィードした。
ストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットR5を製造した。金型出口から水盤中へのストランドは直線状であり溶融張力が増加していた。
この黒色樹脂ペレットR5収量は約180Kgであった。その形状は、円柱状で直径約3.4mm×長さ約6mmであった。また、MFR(260℃、荷重2.16Kg)は、6.2g/10分であった。
【0046】
この炭素繊維強化・改質ペット樹脂の黒色ペレットR5を120℃・一夜熱風乾燥し、日精樹脂工業(株)製のハイブリッド式射出成形機FNZ60(型締め圧140トン、スクリュー径60mm)を使用し、成形温度280℃、金型温度130−145℃、射出圧力53MPa、射出速度12mm/s、スクリュー回転数80rpmおよび冷却時間20秒の条件にて、下記の射出成形体を成形する事が出来た。
多目的試験片の形状:ISO 20753、JIS K7139 A1型
全長さ120mm、厚み4mm、チャック部の幅20mm、くびれ部の幅10mm、
同その長さ80mm(Zランナー方式)
尚、この炭素繊維(CF15%)強化・改質ペット樹脂ペレットR5は、バリの副生が無くて良好な射出成型性を示した。試験片の表面は平滑で艶があった。引張速度2mm/分および曲げ速度5mm/分での試験を実施した。
引張強度171MPa、ヤング率7.70GPaおよび曲げ強さ291MPa、曲げ弾性率12.0GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比べると、本例R5でのZOLTEK炭素繊維約15%の混合効果は、引張強さ2.9倍、ヤング率4.1倍、曲げ強さ3.5倍、曲げ弾性率5.7倍であった。成形加工性が良好で、機械的強度が大幅改善された炭素繊維強化・改質ペット樹脂および射出成形体が得られた。
【0047】
[実施例6]
[ペット樹脂とLT炭素繊維チョップ30%と改質剤から成る炭素繊維強化・改質ペット樹脂ペレットR6の製造と射出成型体の製造例]
実施例1とほぼ同一条件にて、ペレットR6の製造を実施した。但し、炭素維繊チョップの含有量を約30%にする為にサイドフィードの速度を2倍にした。A成分のポリエステルとして汎用ペット樹脂ペレット(ボトルグレード:台湾・南亜3802T、IV値0.80)100重量部(乾燥後の水分含有率約100ppm以下)とC成分の結合剤として多官能エポキシ樹脂0.56重量部、D成分の結合反応の混合触媒0.16重量部とE成分の展着剤としての流動パラフィン0.06重量部をスーパーミキサーで均一混合した。これらを主体樹脂押出用の第1ホッパーに納入した。一方、B成分の炭素繊維としてLT炭素繊維チョップ(米国・ZOLTEK社のラージトウPAN系炭素繊維「Panex35」6mm長)をサイドフィーダー用の第2ホッパーに納入した。
同方向2軸押出機(口径60mm、1ベント式)を使用し、この押出機の10ブロックから成るシリンダーとダイスの設定温度を150−270℃およびスクリュー回転数150rpmとした。重量式計量フィーダーを使用し、第1ホッパーからA成分とC成分とD成分等の混合樹脂を100Kg/hの速度で反応押出を行い、また第2ホッパーから炭素繊維チョップを42Kg/h(炭素繊維の含有量30%)の速度で連続的にサイドフィードした。
ストランドを口径3mmの斜め下方向のノズルから水中に連続的に押出し、回転カッターで切断して黒色樹脂ペレットR6を製造した。金型出口から水盤中へのストランドは直線状であり溶融張力が増加していた。
この黒色樹脂ペレットR6の収量は約250Kgであった。その形状は、円柱状で直径約3.4mm×長さ約6mmであった。また、MFR(260℃、荷重2.16Kg)は、6.7g/10分であった。
【0048】
この炭素繊維強化・改質ペット樹脂の黒色ペレットR6を120℃・一夜熱風乾燥し、日精樹脂工業(株)製のハイブリッド式射出成形機FNZ60(型締め圧140トン、スクリュー径60mm)を使用し、成形温度290℃、金型温度130−145℃、射出圧力63MPa、射出速度12mm/s、スクリュー回転数80rpmおよび冷却時間20秒の条件にて、下記の射出成形体を成形する事が出来た。
多目的試験片の形状:ISO 20753、JIS K7139 A1型
全長さ120mm、厚み4mm、チャック部の幅20mm、くびれ部の幅10mm、
同その長さ80mm(Zランナー方式)
尚、この炭素繊維(CF30%)強化・改質ペット樹脂ペレットR6は、バリの副生が無くて良好な射出成型性を示した。試験片の表面はほぼ平滑で艶があった。引張速度2mm/分および曲げ速度5mm/分での試験を実施した。
引張強度209MPa、ヤング率11.6GPaおよび曲げ強さ331MPa、曲げ弾性率21.7GPaであった。
比較例1のPET樹脂のみの透明ペレットP1に比べると、本例R6でのZOLTEK炭素繊維約30%の混合効果は、引張強さ3.5倍、ヤング率6.1倍、曲げ強さ3.9倍、曲げ弾性率10.3倍であった。成形加工性が良好で、機械的強度が大幅改善された炭素繊維強化・改質ペット樹脂および射出成形体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、熱可塑性ポリエステルについて炭素繊維を共重合させて炭素繊維強化・改質ポリエステル樹脂(CFRTP)を形成させることに依り、その機械的強度、電気特性、伝熱性、耐熱性、耐油性、耐候性等の諸物性を飛躍的に向上させることが出来る。また、航空機用の炭素繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂複合材(CFRP)から再生される安価な炭素繊維も将来大量に使用することが出来る。
本発明は、土木建築資材、自動車産業、新幹線車両業、宇宙航空機産業、リニヤーモーターカー等の先端産業分野に於ける構成材料の強度改善による一層の軽量化・省エネルギー化をはじめ、導電性、耐熱性、放熱性等の一層の性能改善ができるので、この分野の利用可能性が大きい。