特許第6552234号(P6552234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552234
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/22 20100101AFI20190722BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20190722BHJP
   H01L 33/06 20100101ALI20190722BHJP
【FI】
   H01L33/22
   H01L33/32
   H01L33/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-59265(P2015-59265)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-178269(P2016-178269A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】特許業務法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 優作
【審査官】 皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−150631(JP,A)
【文献】 特開2013−084978(JP,A)
【文献】 特開2009−124149(JP,A)
【文献】 特開2005−93682(JP,A)
【文献】 特開2008−199016(JP,A)
【文献】 特開2008−53608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaNの組成を有しかつ第1の導電型を有する第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に形成された発光層を含む発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記第1の半導体層とは反対の導電型を有する第2の半導体層とを有する半導体発光素子であって、
前記発光層は、前記第1の半導体層から応力歪を受けるAlGaNの組成を有してランダムな網目状に形成された溝を有し、前記溝によって区画されかつ各々が上面に平坦部を有する複数のベースセグメントを有するベース層と、前記ベース層上に形成された少なくとも1つの量子井戸層及び少なくとも1つの障壁層からなる量子井戸構造層と、を有し、
前記少なくとも1つの量子井戸層は、InGaNの組成を有し、記第2の半導体層に向かってIn組成が増加しかつ前記ベース層における前記平坦部上の領域と前記溝上の領域との間でIn組成が異なるように構成されていることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
記少なくとも1つの量子井戸層は、前記第2の半導体層に向かってIn組成が連続的に増加するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記少なくとも1つの量子井戸層は、前記第2の半導体層に向かってIn組成が段階的に増加するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記ベース層は、AlGaNの組成を有する第1の副ベース層と、前記第1の副ベース層よりも前記第2の半導体層側に形成され、前記第1の副ベース層よりも大きなAl組成を有するAlGaNからなる第2の副ベース層と、を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記発光機能層は、前記発光層と前記第1の半導体層との間か、又は前記発光層と前記第2の半導体層との間に、前記発光層よりも短波長で発光する量子井戸層を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)などの半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子は、通常、成長用基板上に、n型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる半導体構造層を成長し、それぞれn型半導体層及びp型半導体層に電圧を印加するn電極及びp電極を形成して作製される。
【0003】
特許文献1には、1つの基板材料上に少なくとも2種類以上の半導体発光素子を形成し、各々の半導体発光素子上に、それぞれの素子の発光波長に反応する蛍光体を複数種類塗布した発光素子が開示されている。特許文献2には、赤色、緑色及び青色発光ダイオードが同一方向に発光するようにこの順で積層された白色発光ダイオードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-071805号公報
【特許文献2】特開2011-249460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体発光素子は、電極から素子内に注入された電子と正孔(ホール)とが活性層において結合(再結合)することによって発光する。活性層から放出される光の波長(すなわち発光色)は、活性層を構成する半導体材料のバンドギャップによって決まる。例えば、窒化物系半導体を用いた発光素子の場合、その活性層からは青色の光が放出される。
【0006】
一方、例えば照明用途など、光源に演色性が求められる場合がある。高い演色性を有する光源は自然光に近い光を発する光源である。高い演色性を得るためには、光源から可視域のほぼ全域の波長を有する光が取出されることが好ましい。例えば、演色性の高い光源から取出された光は白色光として観察される。
【0007】
これに対し、上記特許文献に記載されるように、半導体発光素子を用いて白色光を得る様々な手法が提案されている。例えば、異なる組成を有する複数の活性層を積層することで、蛍光体を用いずに発光波長の広帯域化を図る手法が提案されている。また、活性層とn型半導体層との間に凹凸構造を有する層を挿入することで、活性層内でのバンドギャップを不均一にし、発光波長を広帯域化することが提案されている。
【0008】
しかし、これらの手法によって発光装置を作製する場合、各発光色の均一化や製造工程の複雑化、発光強度の点で課題があった。その一例としては、半導体層の形成工程の追加、半導体層の加工工程の追加及び半導体層の結晶性の劣化などが挙げられる。
【0009】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、広範囲に亘る発光波長帯域(スペクトル幅)を有する高い演色性かつ高い発光強度の半導体発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による半導体発光素子は、GaNの組成を有しかつ第1の導電型を有する第1の半導体層と、第1の半導体層上に形成された発光層を含む発光機能層と、発光機能層上に形成され、第1の半導体層とは反対の導電型を有する第2の半導体層とを有する半導体発光素子であって、発光層は、第1の半導体層から応力歪を受けるAlGaNの組成を有してランダムな網目状に形成された溝を有し、溝によって区画されかつ各々が上面に平坦部を有する複数のベースセグメントを有するベース層と、ベース層上に形成された少なくとも1つの量子井戸層及び少なくとも1つの障壁層からなる量子井戸構造層と、を有し、少なくとも1つの量子井戸層は、InGaNの組成を有し、第2の半導体層に向かってIn組成が増加しかつベース層における平坦部上の領域と溝上の領域との間でIn組成が異なるように構成されていることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は実施例1に係る半導体発光素子の構造を示す断面図であり、(b)は発光層のベース層を模式的に示す上面図である。
図2】(a)は実施例1に係る半導体発光素子における発光層の構造を示す断面図であり、(b)は量子井戸層の層内におけるIn組成の分布を示す図である。
図3】実施例1に係る半導体発光素子の発光強度の変化を示す図である。
図4】実施例1の変形例1に係る半導体発光素子における発光層の構造を示す断面図である。
図5】実施例1の変形例2に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。
図6】実施例2に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施例について詳細に説明する。本明細書においては、同一の構成要素に同一の参照符号を付している。
【実施例1】
【0013】
図1(a)は、実施例1の半導体発光素子(以下、単に発光素子又は素子と称する場合がある)10の構造を示す断面図である。半導体発光素子10は、搭載基板(以下、単に基板と称する場合がある)11上に半導体構造層SSが形成された構造を有している。半導体構造層SSは、搭載基板11上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)12、n型半導体層12上に形成された発光層を含む発光機能層13、発光機能層13上に形成された電子ブロック層14、電子ブロック層14上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層、第1の半導体層12とは反対の導電型を有する半導体層)15を含む。
【0014】
本実施例においては、搭載基板11は、例えば半導体構造層SSの成長に用いる成長用基板であり、例えばサファイアからなる。また、半導体構造層SSは、窒化物系半導体からなる。半導体発光素子10は、例えば、サファイア基板のC面を結晶成長面とし、サファイア基板上に有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD法)を用いて半導体構造層SSを成長することによって、作製することができる。なお、図示していないが、発光素子10は、n型半導体層12及びp型半導体層15にそれぞれ電圧を印加するn電極及びp電極を有している。
【0015】
なお、本実施例においては、発光素子10が搭載基板11としての成長用基板上に半導体構造層SSが形成された構造を有する場合について説明するが、搭載基板11は成長用基板である場合に限定されるものではない。例えば、半導体発光素子10は、成長用基板上に半導体構造層SSを成長した後、半導体構造層SSを他の基板(支持基板)に貼り合わせ、成長用基板を除去した構造を有していてもよい。この場合、当該貼り合わせた他の基板はp型半導体層15上に設けられる。当該貼り合わせ用の基板としては、例えばSi、AlN、Mo、W、CuWなどの放熱性の高い材料を用いることができる。
【0016】
なお、図示していないが、搭載基板11とn型半導体層12との間にバッファ層(下地層)が設けられていてもよい。当該バッファ層は、例えば、成長用基板と半導体構造層SSとの界面及び半導体構造層SS内の各層の界面に生じ得る歪の緩和を目的として設けられる。本実施例においては、サファイア基板(搭載基板11)上にバッファ層としてアンドープのGaN層を成長した後、n型半導体層12を積層した。
【0017】
n型半導体層12は、例えば、n型ドーパント(例えばSi)を含むGaN層からなる。電子ブロック層14は、例えばAlGaN層からなる。p型半導体層15は、例えば、p型ドーパント(例えばMg)を含むGaN層からなる。また、電子ブロック層14は、p型ドーパントを含んでいてもよい。また、p型半導体層15は、電子ブロック層14との界面とは反対側の主面にコンタクト層を有していてもよい。
【0018】
なお、発光機能層13は複数の発光層を有していてもよいが、本実施例においては、発光機能層13が1つの発光層からなる場合について説明する。発光層13は、n型半導体層12上に形成され、量子井戸(QW)構造を有している。
【0019】
発光層13は、n型半導体層12とは異なる組成を有するベース層BLを有している。ベース層BLは、n型半導体層12から応力を受けてランダムな網目状に形成された溝GRを有している。すなわち、溝GRは、n型半導体層12とベース層BLとの間の異なる組成によってベース層BLに生じた応力歪によって生じた複数の溝部が結合したメッシュ形状として形成されている。なお、ベース層BLに生じた応力歪とは、n型半導体層12とベース層BLとの間の格子定数の差によって、ベース層BLの結晶構造が歪むことをいう。
【0020】
また、発光層13は、ベース層BL上に形成された量子井戸層WA及び障壁層BAからなる量子井戸構造層QWを有している。量子井戸層WAはベース層BL上に形成され、障壁層BAは量子井戸層WA上に形成されている。なお、ベース層BLは、量子井戸層WAに対して障壁層として機能する。
【0021】
ここで、図1(b)を参照して、ベース層BLについて説明する。図1(b)は、ベース層BLの上面を模式的に示す図である。また、ベース層BLは、溝GRによって区画され、かつランダムなサイズで形成された多数の微細なベースセグメントBSを有している。ベースセグメントBSの各々は、ベース層BLにおいて、ベース層がn型半導体層12によって応力歪を受けることによって、ランダムな網目状に区画されている。
【0022】
溝GRは、互いにランダムにかつ異なる長さ及び形状の溝部から構成されている。溝GRは、ベース層BLの表面において網目状(メッシュ状)に張り巡らされるように形成されている。ベースセグメントBSの各々は、この溝GRによってベース層BL内にランダムに区画形成された部分(セグメント)である。なお、ベースセグメントBSの各々は、略円形や略楕円形、多角形状など、様々な上面形状を有している。
【0023】
図1(a)に示すように、溝GRは、例えばV字形状を有し、ライン状の底部BPを有している。本実施例においては、ベースセグメントBSの各々は、溝GRにおける底部BPをその端部とする。ベースセグメントBSの各々は、底部BPにおいて他のベースセグメントBSに隣接している。
【0024】
また、ベース層BLは、ベースセグメントBSの各々に対応する平坦部FLを有している。ベース層BLの表面は、平坦部FLと溝GRの内壁面によって構成されている。平坦部FLの各々は、溝GRによってベースセグメントBS毎に区画されている。ベースセグメントBSは、平坦部FLからなる上面と溝GRの内壁面からなる側面とを有している。
【0025】
すなわち、平坦部FLはベースセグメントBSの各々における上面を構成し、溝GRの内壁面はベースセグメントBSの側面を構成する。従って、ベースセグメントBSの各々は、傾斜した側面を有し、またその断面において例えば略台形の形状を有している。
【0026】
発光層13は、ベース層BL上に形成された量子井戸層WAを有している。量子井戸層WAは、溝GRを埋め込んで形成されている。また、量子井戸層WAは、その上面が平坦面(以下、第1の平坦面と称する)FS1として形成されている。量子井戸層WAは、ベース層BLとの界面(下面)においては溝GRに対応する凹凸形状を有する一方で、上面においては平坦形状を有している。量子井戸層WAは、図1(a)に示すように、ベース層BLを埋め込んで平坦化された第1の平坦面FS1を有している。量子井戸層WAは、歪み量子井戸層として形成されている。
【0027】
また、発光層13は、量子井戸層WA上に形成された障壁層BAを有している。障壁層BAは、その両主面が平坦面として形成されている。具体的には、障壁層BAは、量子井戸層WAの第1の平坦面FS1上に形成され、上面が平坦面(以下、第2の平坦面と称する)FS2として形成されている。
【0028】
図2(a)は、発光層13の構造を示す断面図である。図2(a)は、図1(a)の破線で囲まれた部分を拡大して示す部分拡大断面図である。図2(a)を用いて発光層13についてより詳細に説明する。ベース層BLは、例えばAlGaN又はAlNの組成を有している。ベース層BLにおけるベースセグメントBSは、ベース層BLとしてのAlGaN層又はAlN層を、成長温度を比較的低温でn型半導体層12としてのGaN層上に成長することで形成することができる。
【0029】
まず、n型半導体層12上に、これとは異なる結晶組成のベース層BLを成長した場合、ベース層BLには応力(歪)が生ずる。例えばn型半導体層12としてのGaN層にベース層としてのAlGaN層を成長する場合、AlGaN層にはGaN層によって伸張歪が生ずる。従って、AlGaN層にはその成長時に引張応力が生ずる。従って、AlGaN層の成長開始時又は成長途中でAlGaN層に溝が生じ、これ以降は、AlGaN層は3次元的に成長する。すなわち、AlGaN層は立体的に成長し、複数の微細な凹凸が形成される。この溝の形成開始点が溝GRの底部BPとなる。
【0030】
さらに、GaN層上に低温でAlGaN層を成長する場合、AlGaN層における3次元的な成長が促進される。従って、AlGaN層の表面に無数の溝が互いに結合しながら形成され(溝GR)、これによってAlGaN層の表面が粒状の複数のセグメントに区画されていく。このようにしてベースセグメントBSを有するベース層BLを形成することができる。なお、本実施例においては、1100℃の成長温度でベース層BLとしてのAlGaN層を形成した。
【0031】
このベース層BL上に量子井戸層WAとしてのInGaN層を形成すると、量子井戸層WAは歪み量子井戸層として形成される。また、量子井戸層WA内におけるInの含有量に分布が生ずる。すなわち、量子井戸層WAのうち、例えば平坦部FL上の領域と溝GR上の領域とでIn組成が異なるように形成される。また、ベースセグメントBSの上面上と側面上とでは量子井戸層WAの層厚が異なる。従って、量子井戸層WAの層内においてはバンドギャップが一定ではない。このようにして微細な島状の凹凸を有する発光層13からは、様々な色の光が放出されることとなる。
【0032】
また、ベースセグメントBSのサイズが小さくなるほど、ベース層BL内におけるInの取り込み量が増加し、発光波長は長波長側にシフトしていく。さらに、ベース層BLであるAlGaN層上に量子井戸層WAであるInGaN層を形成する場合、InGaN層はAlGaN層によって圧縮歪を受ける。InGaN層が圧縮歪を受けると、井戸層WA内にInが取り込まれ易くなる。これによって、InGaN層におけるバンドギャップ、すなわち量子準位間のエネルギーは小さくなる。量子井戸層WAからは、より長波長側の発光波長を有する光が放出される。
【0033】
図2(b)は、量子井戸層WAのIn組成の分布を示す図である。図2(b)の横軸は量子井戸層WAの積層方向(成長方向)における位置を、縦軸はIn組成を示している。図2(b)に示すように、量子井戸層WAは、p型半導体層15に向かってIn組成が大きくなるように形成されている。すなわち、量子井戸層WAとしてのInGaN層は、n型半導体層12側では小さなIn組成を有し、p型半導体層15側では大きなIn組成を有している。
【0034】
本実施例においては、量子井戸層WAは、半導体構造層SSの積層方向において、p型半導体層15に向かって連続的にIn組成が増加するように構成されている。量子井戸層WAは、量子井戸層WAの成長時におけるIn供給ガス、例えばトリメチルインジウム(TMI)の供給量を連続的に増加させることで形成することができる。本実施例においては、量子井戸層WAのIn組成を3%から30%まで徐々に増加(変化)させた。
【0035】
このように量子井戸層WAにおけるIn組成が成長方向に沿って異なるように形成することで、量子井戸層WAの層内における歪がp型半導体層15に向かって緩和されていく。具体的には、量子井戸層WAは、ベース層BLとの界面においてはベース層BLによって結晶構造が歪み、しばらくはベース層BLの表面の溝GRを引き継いで形成されていく。しかし、ある程度成長が進み、さらにIn組成を大きくしていくことで、歪が緩和されていく。従って、量子井戸層WAは、ベース層BLの溝GRが埋め込まれるように形成される。これによって量子井戸層WAの結晶性が向上し、発光効率が向上する。また、本実施例においては、ベース層BLのベースセグメントBSが平坦部FLを有している。従って、量子井戸層WAの上面が平坦部FS1となる。従って、量子井戸層WAの上面においては良好な結晶性が確保され、発光効率が向上する。
【0036】
なお、本実施例においては、発光層13からは、青色領域よりも長波長側に強度のピークを有する光が放出される。具体例として、ベース層BLの層厚を7nmに設定した場合、およそ530nmにスペクトル強度のピークを有する広いスペクトル幅の光が放出された。なお、ベースセグメントBSの面内方向におけるサイズは、およそ数十nm〜数μmの大きさであった。
【0037】
図3は、発光素子10の発光強度のピークを示す図である。図の縦軸は発光素子10(実施例1)と他の構造を有する3つの比較例との発光強度を示す。なお、比較例1として、一定のIn組成の量子井戸層を有する発光素子を作製した。また、比較例2として、ベース層BLを有しておらず、In組成の分布を付けた量子井戸層が障壁層WBに挟まれた発光層を有する発光素子を作製した。また、比較例3として、ベース層を有しておらず、一定のIn組成の量子井戸層が障壁層WBに挟まれた発光層を有する発光素子を作製した。比較例2及び3においては、量子井戸層が平坦な主面を有している。
【0038】
図3に示すように、発光素子10は、一定のIn組成の量子井戸層の場合(比較例1)に対して2倍の発光強度を示した。すなわち、発光強度が大幅に向上した。一方、ベース層BLを有さない場合(比較例2及び3)においては、量子井戸層のIn組成をp型半導体層15に向かって増加させた場合(比較例2)、一定のIn組成を有する量子井戸層の場合(比較例3)に比べて発光強度が低下した。
【0039】
すなわち、p型半導体層15に向かって量子井戸層のIn組成を増加させる構成は、ベース層BL上に形成した場合には効果を発揮するが、単に平坦な量子井戸層の場合には効果が出ない。なお、比較例2及び3のようにIn組成の分布によって発光強度が低下する要因として、電子と正孔との間の波動関数のずれが考えられる。
【0040】
なお、本実施例においてはベース層BLが平坦部FL及び溝GRからなる場合について説明したが、ベース層BLの表面形状はこの場合に限定されない。例えば、ベースセグメントBSの上面が曲面形状を有していてもよい。
【0041】
なお、本実施例においては、量子井戸構造層QWが1つの量子井戸層WA及び1つの障壁層BAからなる構造を有する場合について説明したが、この場合に限定されない。すなわち、量子井戸構造層QWは複数の量子井戸層WA及び複数の障壁層BAから構成されていてもよい。すなわち、量子井戸構造層QWは単一量子井戸(SQW)構造を有していてもよいし、多重量子井戸(MQW)構造を有していてもよい。すなわち、量子井戸構造層QWは、ベース層BL上に形成された少なくとも1つの量子井戸層WA及び少なくとも1つの障壁層BAから構成されていればよい。
【0042】
図4は、実施例1の変形例1に係る半導体発光素子10Aの構造を示す断面図である。発光素子10Aは、発光機能層(発光層)13Aの構造を除いては、発光素子10と同様の構成を有している。まず、発光層13Aの量子井戸構造層QWAは、異なるIn組成を有する量子井戸層WAAと障壁層BAとからなる。なお、本変形例においても、量子井戸層WAA及び障壁層BAは少なくとも1つ形成されていればよい。
【0043】
量子井戸層WAAは、InGaNの組成を有する第1の層WA1と、第1の層WA1上に形成され、InGaNの組成を有し、第1の層WA1よりも大きなIn組成を有する第2の層WA2からなる。すなわち、量子井戸層WAAは、p型半導体層15に向かってIn組成が増加するように構成された複数の層WA1及びWA2を有している。すなわち、量子井戸層WAAは、p型半導体層15に向かって段階的にIn組成が増加するように構成されている。
【0044】
実施例1においては量子井戸層WA内のIn組成がp型半導体層15に向かって連続的に増加する構成を有している場合について説明した。しかし、本変形例の量子井戸層WAAのように、複数の層(本変形例においては第1の層WA1及び第2の層WA2)を形成し、各層毎で段階的にIn組成を変化させてもよい。本変形例においては、量子井戸層WAAの形成が容易になる。具体的には、連続的にIn組成を変化させる場合に比べて、製造装置による製造誤差が小さい。従って、所望のIn組成の量子井戸層WAAを安定して確実に形成することができる。なお、量子井戸層内の結晶性を考慮すると、実施例1のように、層内で連続的にIn組成を変化させることが好ましい。
【0045】
また、発光層13Aのベース層BLAは、AlxGa1-xN(0<x≦1)の組成を有する第1の副ベース層BL1と、第1の副ベース層BL1上に形成され、AlyGa1-yN(0<y≦1)の組成を有する第2の副ベース層BL2と有している。ベース層BLAは、互いに異なるAl組成を有する複数のAlGaN層からなる複数の副ベース層を有している。障壁層BAは、GaNの組成を有している。
【0046】
第2の副ベース層BL2は、ベース層BLAの複数の副ベース層BL1及びBL2のうち、第1の副ベース層BL1よりも大きなAl組成yを有している。具体的には、第2の副ベース層BL2におけるAl組成yは、第1の副ベース層BL1におけるAl組成xよりも大きい。本実施例においては、Al組成yは、y=1である。すなわち、本実施例においては、第1の副ベース層BL1はAlGaNの組成を有し、第2の副ベース層BL2はAlNの組成を有している。
【0047】
ベース層BLは、互いに異なるAl組成を有するAlGaNからなる第1及び第2の副ベース層BL1及びBL2を有している。また、第2の副ベース層BL2が第1の副ベース層BL1よりもp型半導体層15側に形成され、かつ第1の副ベース層BL1よりも大きなAl組成を有している。従って、比較的Al組成の小さい第1の副ベース層BL1によって、n型半導体層12及びベース層BL間の結晶性が確保される。また、比較的Al組成の大きい第2の副ベース層BL2によって、量子井戸層WAのバンドギャップが歪み、スペクトル幅が広範囲なものとなる。従って、発光層13Aからは、発光波長の広帯域化及び発光強度の両方に優れた光が放出される。従って、発光素子10Aからは、高い演色性を有する高発光強度の光が放出される。
【0048】
なお、溝GRを形成することを考慮すると、GaN層上に直接AlN層(すなわち第2の副ベース層BL2)を形成すればよい。しかし、AlNは、その大きなバンドギャップから、n型半導体層(GaN層)12から量子井戸層WAへのキャリア(電子)の移動を阻害する。AlGaN層(第1の副ベース層BL1)は、AlN層及びGaN層の中間のバンドギャップを有しているため、キャリアの移動阻害を低減することができる。従って、発光強度の低下を抑制することが可能となる。
【0049】
本変形例においては、第1の副ベース層BL1は、例えば6nmの層厚を有している。また、第2の副ベース層BL2は、例えば1nmの層厚を有している。
【0050】
図5は、実施例1の変形例2に係る半導体発光素子10Bの構造を示す断面図である。半導体発光素子10Aは、発光層13Bの構造を除いては半導体発光素子10と同様の構造を有している。
【0051】
実施例1で示した半導体発光素子10においては、発光層13の上面は完全に平坦化されている。より具体的には、量子井戸層WA及び障壁層BAがベース層BLの溝GRを完全に埋め込んで形成されており、量子井戸層WA及び障壁層BAの上面がそれぞれ第1及び第2の平坦面FS1及びFS2として形成されている。一方、図5に示すように、本変形例の半導体発光素子10Bにおいては、発光層13Bの上面は、ベース層BLの溝GR1(発光層13における溝GRに相当する溝)を引き継いだ溝GR2を有している。すなわち、発光層13Bの上面における平坦部FL1の直上に相当する領域は平坦部FL2として形成されており、溝GR1の直上に対応する位置には凹部(溝GR2)が形成されている。
【0052】
本変形例においては、量子井戸層WA及び障壁層BAがベースセグメントBSを完全には埋め込んでいない。このように、凹凸構造の上面を有する量子井戸層WAにおいても、p型半導体層15に向けてIn組成を増加させることで、高い演色性を有する高発光強度の光が放出される。すなわち、量子井戸層WA及び障壁層BAは、ベース層BL上に形成されていればよい。
【0053】
図6は、実施例2の半導体発光素子30の構造を示す断面図である。発光素子30は、発光機能層33の構成を除いては、発光素子10と同様の構成を有している。発光機能層33は、n型半導体層12と発光層(第1の発光層)13との間に、少なくとも1つ(本実施例においては2つ)の一様に平坦な量子井戸層WBと少なくとも1つ(本実施例においては2つ)の障壁層WBとからなり、これらがそれぞれ交互に積層された量子井戸構造を有する発光層(第2の発光層)33Aを有している。
【0054】
本実施例においては、発光層33Aは、n型半導体層12上に、2つの量子井戸層WBの各々が3つの障壁層BBの各々によって挟まれた多重量子井戸(MQW)構造を有している。最もp型半導体層15側に位置する障壁層BB上には発光層13(ベース層B1)が形成されている。量子井戸層WBの各々は、例えば、量子井戸層WAと同一の組成、例えばInGaNの組成を有している。障壁層BBの各々は、障壁層BAと同一の組成、例えばGaNの組成を有している。障壁層BBのうち、最も発光層13側に位置する障壁層BBは、n型半導体層12と同一の組成を有している。
【0055】
本実施例においては、実施例1の発光素子10における発光層13のn型半導体層12側に量子井戸構造の第2の発光層33Aが追加された構成となる。従って、実施例1に比べて、純粋な青色領域に発光波長のピークを有する光を追加で放出させることが可能となる。本実施例は、例えば青色領域の光の強度を大きくしたい場合に有利な構成となる。すなわち、本実施例においては、発光機能層33は、n型半導体層12と発光層13との間に、発光層13よりも短波長で発光する量子井戸層WBを有している。なお、発光機能層33において、発光層33Aは、発光層13とp型半導体層15との間に形成されていてもよい。つまり、発光層13よりも短波長で発光する量子井戸層WBは、n型半導体層12と発光層13との間か、発光層13とp型半導体層15との間か、又はその両方に形成されていればよい。
【0056】
なお、上記においては、発光機能層(発光層)13、13A及び33とp型半導体層15との間に電子ブロック層14を形成する場合について説明したが、電子ブロック層14を設ける場合に限定されるものではない。例えば発光機能層13上にp型半導体層15が形成されていてもよい。なお、電子ブロック層14は、n型半導体層12、発光機能層13及びp型半導体層15よりも大きなバンドギャップを有している。従って、電子が発光機能層13を越えてp型半導体層15側にオーバーフローすることを抑制することが可能となる。従って、大電流駆動時及び高温動作時においては電子ブロック層14を設けることが好ましい。
【0057】
なお、実施例1、変形例1、変形例2及び実施例2は、互いに組み合わせることが可能である。例えば発光層13A及び発光層33Aからなる発光機能層を形成することができる。また、発光層13及び13Aを積層することも可能である。
【0058】
本実施例及びその変形例においては、発光層13は、n型半導体層12から応力歪を受ける組成を有してランダムな網目状に形成された複数のベースセグメントBSを有するベース層BLと、ベース層BL上に形成された少なくとも1つの量子井戸層WA及び少なくとも1つの障壁層BAからなる量子井戸構造層とを有し、量子井戸層WAの各々は、InGaNの組成を有し、かつp型半導体層15に向かってIn組成が増加するように構成されている。従って、可視域の広範囲に亘って高い発光強度を有する光を放出することが可能な発光素子を提供することが可能となる。
【0059】
なお、本実施例においては、第1の導電型がn型の導電型であり、第2の導電型がp型である場合について説明したが、第1の導電型がp型であり、第2の導電型がn型であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10、10A、10B、30 半導体発光素子
12 n型半導体層(第1の半導体層)
13、13A、33、33A 発光機能層(発光層)
WA、WAA 量子井戸層
WA1、WA2 井戸層
14 電子ブロック層
15 p型半導体層(第2の半導体層)
BL、BLA ベース層
BL1 第1の副ベース層
BL2 第2の副ベース層
BS ベースセグメント
GR 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6