(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552260
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】光学フィルタ装置および当該光学フィルタ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20190722BHJP
G02B 1/116 20150101ALI20190722BHJP
C03C 27/10 20060101ALI20190722BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B1/116
C03C27/10 E
B32B17/06
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-98119(P2015-98119)
(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2016-14866(P2016-14866A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2018年2月28日
(31)【優先権主張番号】10 2014 106 698.7
(32)【優先日】2014年5月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ビアテュンプフェル
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ライヒェル
【審査官】
大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−238773(JP,A)
【文献】
特開平03−037142(JP,A)
【文献】
特開昭62−034103(JP,A)
【文献】
特開2001−272633(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102006042538(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトル光成分をフィルタリングするための光学フィルタ素子(1)であって、
前記光学フィルタ素子(1)は、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子(3)を備えており、
前記板状素子(3)は、前記板状素子(3)を通過する光をスペクトル的にフィルタリングするために、銅元素、コバルト元素、マンガン元素、鉄元素、希土類元素、ニッケル元素のうちの少なくとも1つの元素の光吸収イオンでドーピングされており、
前記板状素子(3)は、相互に対向する2つの面(31、33)を有しており、
前記2つの面(31,33)のうちの少なくとも一方の面上に、薄いガラスのシート(5)が配置されており、
前記薄いガラスのシート(5)は、500μm以下の厚さまたは200μm未満の厚さまたは100μm未満の厚さを有しており、
前記薄いガラスのシート(5)は、光学セメント(7)によって、前記面(31,33)に接着されており、
前記薄いガラスのシート(5)の熱膨張係数は、前記リン酸塩ガラスまたは前記フルオロリン酸塩ガラスの前記板状素子(3)の熱膨張係数よりも小さい、
光学フィルタ素子(1)。
【請求項2】
前記相互に対向する2つの面(31、33)は、平行平面形である、
請求項1に記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項3】
前記板状素子(3)の両方の面(31,33)が、それぞれ薄いガラスのシート(5,6)に接着されている、
請求項1に記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項4】
前記薄いガラスは、前記リン酸塩ガラスまたは前記フルオロリン酸塩ガラスの前記板状素子(3)よりも高いヌープ硬度を有する、
請求項1から3のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項5】
前記光学フィルタ素子(1)は、前記板状素子(3)よりも高い曲げ強度を有する、
請求項1から4のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項6】
前記板状素子(3)は、8・10−6K−1よりも大きい線形熱膨張係数αを有する、
請求項1から5のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項7】
前記薄いガラスのシート(5)の線形熱膨張係数は、前記リン酸塩ガラスまたは前記フルオロリン酸塩ガラスの前記板状素子(3)の線形熱膨張係数よりも、少なくとも2・10−6K−1の値だけ、または、少なくとも3・10−6K−1だけ小さい、
請求項1から6のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項8】
前記薄いガラスのシート(5,6)の外側表面には、反射防止コーティング(91,92)が設けられている、
請求項1から7のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項9】
前記板状素子(3)のエッジ(35)には、シーリングとして、疎水性セメント(7)または防湿性セメント(7)が設けられている、
請求項1から8のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項10】
前記薄いガラスのシート(5)のガラスは、1時間当たりかつ1平方センチメートル当たり0.01回未満の事象数のアルファ線放射を有する、
請求項1から9のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項11】
前記板状素子(3)の厚さは、前記光学フィルタ素子(1)の厚さの半分より大きい、
請求項1から10のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項12】
前記板状素子(3)と、前記薄いガラスのシート(5,6)との間の前記光学セメント(7)の層厚が50μm未満である、
請求項1から11のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項13】
前記リン酸塩ガラスの板状素子(3)の面または前記薄いガラスのシート(5,6)の面のうちの一方の面上に、前記光学セメント(7)を用いて接着されている透明導電性酸化物層(11)をさらに含む、
請求項1から12のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項記載の光学フィルタ素子(1)を製造する方法であって、
リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子(3)を準備するステップであって、前記板状素子(3)は、前記板状素子(3)を通過する光をスペクトル的にフィルタリングするために、銅元素、コバルト元素、マンガン元素、鉄元素、希土類元素、ニッケル元素のうちの少なくとも1つの元素の光吸収イオンでドーピングされ、前記板状素子(3)は、相互に対向する2つの面(31,33)を有するステップと、
前記2つの面(31,33)のうちの少なくとも一方の面上に、薄いガラスのシート(5)を配列するステップであって、前記薄いガラスのシート(5)は、500μm以下の厚さまたは200μm以下の厚さまたは100μm未満の厚さを有し、前記薄いガラスのシート(5)の熱膨張係数は、前記リン酸塩ガラスまたは前記フルオロリン酸塩ガラスの前記板状素子(3)の熱膨張係数よりも小さい、ステップと、
前記シート(5)を、光学セメント(7)によって、前記面(31,33)に接着するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
平行平面形の、相互に対向する2つの面(31,33)を有する板状素子が準備される、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの前記板状素子(3)の前記2つの面(31,33)の各々に、光学セメント(7)によって、薄いガラスのシート(5,6)を取り付けるステップであって、前記2つのシート(5,6)の境界部(50,60)を、前記板状素子(3)のエッジ(35)を越えて突出させる、ステップと、
前記シート(5,6)のうちの少なくとも1つの前記境界部(50,60)を加熱し、前記境界部(50,60)をもう1つのシート(6,5)に向けて変形させるステップと、
前記シート(5,6)の前記2つの境界部(50,60)を一緒に溶接または融合するステップと、
を含む、
請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
薄いガラス基板(2)を準備するステップと、
リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの複数の前記板状素子(3)が、前記薄いガラス基板(2)上に並んで配列されるように、前記リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの複数の前記板状素子(3)を、前記薄いガラス基板(2)に、光学セメント(7)で接合するステップと、
前記板状素子(3)から材料を研磨除去するステップと、
前記薄いガラス基板(2)からシート(5)を分離するステップであって、前記シート(5)のそれぞれが、前記シート(5)に接着された少なくとも1つの板状素子(3)を有する、ステップと、
を含む、
請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、スペクトル光成分をフィルタリングするための光学フィルタ装置に関する。より具体的には、本発明は、光吸収構成要素を有するフィルタガラスを含む光学フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラチップは、そのカメラチップの画素が、赤外線スペクトル範囲においても感度を有するという特性がある。さらに、標準的なガラスまたはプラスチックで構成された光学構成要素を備えたカメラモジュールの光学システムは、一般的に、ある程度の赤外線透過率を示す。しかしながら、チップに到達する赤外光は、望ましくない色歪みおよび輝度歪みを発生させる。
【0003】
このため、カメラモジュールは、典型的に、赤外線ブロックフィルタを備えている。もっとも一般的な赤外線ブロックフィルタは干渉フィルタである。このようなフィルタにおいては、多層誘電体層システムが、典型的にはガラス基板である基板上に設けられる。多層誘電体層システムは、物理的な理由で、赤外線放射を反射するが、可視光を透過させるように設計されている。例えば、特許文献1(WO2014/029536 A1)は、電気的に切り換え可能な光学特性を有するコンポジットパネルに関するものである。コンポジットパネルは、外側パネルと内側パネルとを備え、外側パネルと内側パネルとが、その表面全体にわたり中間層を介して互いに接続されている。中間層内に、少なくとも1つの活性層を含む切り換え可能な機能素子が配列され、赤外線保護コーティングが、外側パネルと活性層との間に、それらの表面全体にわたるように配列され、ここで赤外線保護コーティングは、赤外光範囲において反射特性を有する少なくとも3つの機能層を含む。
【0004】
これらのフィルタを比較的安価に製造することができるが、いくつかの欠点を示す。干渉フィルタは、しばしば、透過特性に特定の変調sをきたすことがある。この変調は、コームフィルタと同様の効果を有し、個々の色に影響する可能性がある。
【0005】
さらに、干渉フィルタは、「ステンドグラス」または吸収フィルタとも呼ばれる光学フィルタガラスよりも、かなり高い、入射角からのフィルタカーブの依存性(透過特性)を示す。コンパクトカメラは、典型的には、最大で30°までの開き角を有し、しばしば、テレセントリックに整列しない、すなわち、光線が(最大の開き角を有する)所定の角度において画像センサ上に入射する。
【0006】
さらに、赤外光は、干渉層によって反射されて光学システム内に戻される。干渉フィルタは、通常、少なくとも近赤外光範囲において、依然として残余透過を示すので、それによって非常にやっかいなゴースト画像が、光学システムにおける多重反射に起因して発生し得る。
【0007】
さらに、赤外光吸収を目的とした薄い酸化物フィルムが知られている。例えば、特許文献2(EP2163921 A1)は、熱反射特性を有する積層体を記載している。この積層体は、2つの基板と、この2つの基板に接合された中間層とを含む。熱線遮蔽タングステン酸化物層とプラスチックフィルムとが、中間層と1つの基板との間に挿入されている。
【0008】
最後に、金属もまた赤外線反射層として使用されている。1つの例が特許文献3(EP0810452 B1)に記載されている。ここでは、銀の層が、赤外線反射材料として提案されている。しかしながら、金属は、広帯域の光を反射する効果を有し、その結果、可視スペクトル範囲の透過にも影響がある。
【0009】
1つの代替案は、フィルタガラスの形態の赤外線フィルタである。フィルタガラスを通過する際に赤外光が吸収されるので、フィルタガラスは、本質的に、上述のコームフィルタ効果を示したり、赤外光の多重反射に起因するゴーストを発生させたりもしない。
【0010】
このようなフィルタガラスに特に適したガラス材料は、とりわけ、フルオロリン酸塩ガラスを含むリン酸塩ガラスである。しかしながら、このようなガラスは水と反応し、結果として水分の影響を受けやすい。これらのガラスを保護するために、ガラス上に、誘電性反射防止層を設けることが公知である。しかしながら、このようなコーティングを、欠陥なしに製造することは非常に複雑である。さらに、このコーティングは損傷を受ける。このことは、リン酸塩ガラスが比較的軟らかい、すなわち、相応して低いヌープ硬度を示すという事実によって一層悪化する。結果として、研磨応力または点状負荷にさらされる場合には、反射防止層が容易にへこみ、それにより、局所的に損傷を受け、その結果、水分が浸透し、腐食が開始する。
【0011】
さらに、これらのガラスは、典型的に、高い熱膨張係数を示す。このことは、わずか3.2・10
−6K
−1という膨張係数を有する光学シリコンチップと共にこのようなフィルタを搭載することを複雑にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2014/029536号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2163921号明細書
【特許文献3】欧州特許第0810452号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明が基礎とする課題は、上述の欠点に関して光学フィルタを改良することである。この課題は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、それぞれの従属請求項において特定される。
【0014】
従って、本発明は、スペクトル光成分をフィルタリングするための光学フィルタ素子を提供し、前記光学フィルタ素子は、
リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子を備え、
前記板状素子は、前記板状素子を通過する光をスペクトル的にフィルタリングするために、銅元素、コバルト元素、マンガン元素、鉄元素、希土類元素、ニッケル元素のうちの少なくとも1つの元素の光吸収イオンでドーピングされ、
前記板状素子は、好適には平行平面形の相互に対向する2つの面を有し、
前記2つの面のうちの少なくとも1つに、薄いガラスのシートが配置されており、前記薄いガラスのシートの厚さは、200μm以下であり、好適には、100μm未満であり、かつ、
前記薄いガラスのシートは、光学セメントによって、前記面に接着されており、
前記薄いガラスのシートの熱膨張係数は、前記リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの前記板状素子の熱膨張係数よりも小さい。
【0015】
従って、前記光学フィルタ素子を製造する方法は、
上述した光吸収イオンを含む前記板状素子を準備するステップと、
厚さが500μm以下、好適には200μm以下、より好適には100μm未満の薄いガラスのシートを、前記2つの面のうちの少なくとも1つの上に配列するステップであって、前記薄いガラスのシートは、前記板状素子の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有する、ステップと、
前記薄いガラスのシートを、光学セメントによって、前記面に接着するステップと
に基づく。
【0016】
特に好適には、薄いガラスのシートが、前記板状素子の両方の面に接着される。しかしながら、光学フィルタ素子が、例えば、ハーメチックケーシングの一部を形成する場合には、オプションで、薄いガラスのシートは、内側には設けられない。
【0017】
5μmの厚さでさえ、薄いガラスは、完全に水を浸透させない。結果として、本発明に従う複合材は、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスに対して、水分からの効果的な保護を提供する。同時に、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスは、機械的損傷からも効果的に保護される。後者の目的のために、前記薄いガラス用のガラスとして、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子よりも高いヌープ硬度を有するガラスを使用することが、一般的に有利である。
【0018】
一見したところでは不利な点に思える、熱膨張係数の差は、光学フィルタ素子全体を、さらに低い膨張の光学構成要素または搭載手段へと調整することを可能にする。さらに、フィルタ素子が別々に製造される場合、この差は、温度差を回避するために考慮される。一方で、後の組み立てステップにおいて、フィルタ素子が他の構成要素と組み合わされる場合、温度差は除外されない。ここで、この薄いガラスは、さらなる構成要素とフィルタガラスとの間の緩衝熱膨張補償効果を有する。
【0019】
特に、薄いガラスは、層品質の高さおよび欠陥の少なさという点で、良好なコーティングを提供する。
【0020】
本発明は、ここで、例示的な実施形態によって、かつ、添付の図面を参照して、より詳細に説明される。図面中の同一の参照番号は、同一または同等の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の第一の実施形態の断面図である。
【
図2】
図2は、片側がリン酸塩ガラスで封止された第二の実施形態を示す。
【
図3】
図3は、薄いガラスのシートが突出している、
図2の実施形態の変化形を示す。
【
図5】
図5は、複数の薄いガラスのシートが突出している、
図1の実施形態の変化形を示す。
【
図6】
図6は、薄いガラスのシート同士が融合しているさらなる変化形を示す。
【
図7】
図7は、複数のフィルタガラス素子が接着された薄いガラスの基板を含む中間生成物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の第一の実施形態の断面図である。光学フィルタ素子1は、光吸収イオンがドーピングされた、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子3を含む。特に、カメラチップにとって、近赤外光範囲の光をフィルタリング除去することが好ましい。なぜならば、シリコンベースのチップは、赤外線スペクトル範囲において感度を有し、その結果、当該チップ上に収束した光の赤外成分が色歪みを引き起こすからである。例えば、Cuイオンでのドーピングは、可視スペクトル範囲近傍の赤外成分をフィルタリング除去することに適している。
【0023】
板状素子3に適したガラス、とりわけ、以下の成分(wt%で表示、酸化物ベース)を含む化学組成の、銅を含有するリン酸塩ガラスおよびフルオロリン酸塩ガラスである。
【表1】
【0024】
上述の組成とは異なるが、上で列挙されたアルカリ土類酸化物の全ての酸化物が含まれる必要はない。しかしながら、好適には、アルカリ土類酸化物CaO、BaO、SrOおよびMgOのうちの少なくとも2つが、ガラス組成に使用される。
【0025】
1つの実施形態に従って、以下の成分(wt%で表示、酸化物ベース)を含む化学組成の以下のフルオロリン酸塩ガラスが板状素子3に使用される。
【表2】
ここで、
Σ RO(R=Mg,Ca,Sr,Ba) 15−40、
Σ R
2O(R=Li,Na,K) 3−18であり、
列挙された組成に基づくと、酸化物イオン(O
2−)の1〜39モル%が、ガラス内で、フッ化物イオン(F
−)に置換される。
【0026】
As
2O
3は、清澄剤としてのオプションである。As
2O
3が使用される場合、その割合は、好適には、0.02重量%までである。フルオロリン酸塩ガラスは、フッ素無含有ガラスまたは低フッ素ガラスよりも水分に対する感度が低いが、フィルタガラスと水分との接触は、本発明に従う光学フィルタ素子の構成のおかげで既に回避されている。
【0027】
フルオロリン酸塩ガラスは、リン酸塩ガラスのカテゴリに分類されるので、単純化のために、他に断りがない限り、以下の説明においては、用語「リン酸塩ガラス」は、フルオロリン酸塩ガラスについても言及するものとして使用される。一般的に、リン酸塩ガラスは、従って、フルオロリン酸塩ガラスも同様に、50重量%未満の含有量のSiO
2を有する。
【0028】
ここで、板状素子3の面31、33のうちの少なくとも1つには、その面上に薄いガラスのシート5が配置されており、この薄いガラスのシート5は、500μm以下、好適には200μm以下、より好適には100μm未満の厚さを有し、光学セメント7によって、面31、33に接着される。板状素子に接着される薄いガラスのシート5は、いくつかの肯定的な効果を達成する。薄いガラスが非常に効果的な水分障壁を提供するので、特に、この薄いガラスのシート5は、リン酸塩ガラスが、水分に接触し、それにより腐食し、曇ってしまうことを防止する。さらに、板状素子3の表面は、機械的な損傷に対して保護される。
【0029】
セメント7について、例示的な実施形態に限定するものではないが、可能な限り少ない水分を含有する材料が一般的に好ましい。樹脂ベースの光学セメントが特に適している。従って、この場合、水で硬化が開始するセメントは好ましくない。本発明に適したセメント7の例は、UV硬化型アクリレートおよびエポキシド接着剤ならびに熱架橋樹脂を含む。
【0030】
光学セメント7の層厚は好適には非常に薄い。一般的に、板状素子3と、各面31、33を覆う薄いガラスのシート5、6の各々との間の光学セメント7は、50μm未満の膜厚を有する。
【0031】
フィルタガラスまたはリン酸塩ガラスの板状素子に対する効果的な機械的保護を達成するために、
図1に示される特定の実施形態に限定するものではないが、薄いガラスが、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子3よりも高いヌープ硬度を有することが一般的に好ましい。
【0032】
さらに、本発明に従う構成のおかげで、板状素子3と比較すると、フィルタ素子1に対して、より高い曲げ強度が一般的に達成される。単純なフィルタガラス板と比較した場合、板状素子3と、板状素子3に光学セメント7によって接着された少なくとも1つの薄いガラスのシート5、6とを備えている本発明の複合材は、より高い機械的安定性を達成する。
【0033】
薄いガラスのシート5に適したガラスの群は、無アルカリホウケイ酸ガラスである。ここでは、以下の組成(重量%表示)が好ましい。
【表3】
【0034】
これらのガラスは、200μm以下の厚さの非常に薄いガラスリボンを生成するように容易に処理される。このような薄いガラスは、ダウンドロープロセス、オーバーフローフュージョンプロセスによって、同様に、加熱されたプリフォームからガラスリボンを引き出すことによって適切に生成される。これらのガラスの線形熱膨張係数は、典型的に、4・10
−6K
−1未満である。
【0035】
薄いガラスのシート5に使用するのに適しているように非常に薄い厚さまで引っ張ることが可能な、別の種類のガラスは、ホウケイ酸ガラスである。以下の成分(重量%表示)を含むガラスが特に適している。
【表4】
好適には、このガラス組成は、さらに、0.001重量%から0.1重量%までのセレン酸化物を(SeO
2またはSeO
3の形態で)含む。
【0036】
これらのガラスは、典型的に、8・10
−6K
−1未満の線形熱膨張係数を有する。
【0037】
対照的に、適切なリン酸塩ガラスおよびフルオロリン酸塩ガラスの熱膨張係数α(20℃〜300℃)はしばしば8・10
−6K
−1より大きい、または、11・10
−6K
−1より大きい場合さえある。
【0038】
結果として、一般的に、本発明のさらなる実施形態に従うと、8・10
−6K
−1より大きい、または、少なくとも10・10
−6K
−1より大きい場合さえある線形熱膨張係数αを示す板状素子3が提供される。フィルタガラスの線形熱膨張係数が高いことにより、覆っている薄いガラスの熱膨張係数との差がより大きくなる。結果として、一般的に、上述の特定のガラスに限定するものではないが、本発明のさらに別の実施形態に従うと、薄いガラスのシート5の線形熱膨張係数は、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子3の線形熱膨張係数よりも、少なくとも2・10
−6K
−1だけ、好適には、少なくとも3・10
−6K
−1だけ小さいことが企図される。
【0039】
本発明の1つの実施形態に従うと、ガラス組成の成分を適切に選択することによって、有利には、1時間当たりかつ1平方センチメートル当たり0.01回未満の事象数の非常に少ないアルファ線放射を示す、シート5、6用の薄いガラスを使用することがさらに可能である。ここで、本発明は、厚さが薄く、結果として、ガラスの使用量が少ないので、構成要素の選択がかなり複雑であるが、製造コストが実質的に上昇しないという事実からの利益を享受している。とりわけ、光学フィルタ素子1の下流の光学チップの暗騒音のさらなる上昇を防止するために、アルファ線放射が少ないことは好ましい。
【0040】
図1に示されている例も含む本発明の好適な実施形態に従うと、薄いガラスのシート5、6は、板状素子3の両方の面31、33に接着されている。従って、フィルタガラスの両方の光学表面が、薄いガラスによって、周囲の影響から保護される。
【0041】
本発明のこの実施形態は、例えば、光学フィルタ素子が、他の構成要素を含む光学システムに組み込まれた場合に、周囲における温度変化が、熱誘発性応力の対称的なプロフィールを発生させるというさらなる利点を提供する。
【0042】
シート5、6が非常に薄いので、光学フィルタ素子の全体の厚さは、一般的に、3.4mmより小さい。シート5、6の全体の厚さが板状素子3の厚さよりも小さい場合にさらに有利であり、一般的には十分である。言い換えると、本発明のこの実施形態に従うと、板状素子の厚さは、光学フィルタ素子1の厚さの半分よりも大きい。このことは、光学フィルタ素子1によって占有される空間が小さいままであることを保証する。例えば、板状素子3が1mmの厚さを有する。シート5、6に対して用いられる薄いガラスが200μmの厚さを有する場合でさえ、フィルタガラスは、2つのシート5、6を合計した厚さよりも厚い。
【0043】
さらに、比較的低い熱膨張係数を有するガラスは、コーティングを施すことにより適している。さらに、上述したように、リン酸塩ガラス上に、欠陥なしでコーティングを設けることは簡単なことではない。特に、好適なコーティングは、光学フィルタ素子1の表面における反射損失を低減するために、反射防止コーティングを含む。
【0044】
この目的のために、
図1に示されている例において、シート5、6の各々の表面または外面に、反射防止コーティング91および92がそれぞれ設けられている。しかしながら、光学フィルタ素子1の1つの表面が、さらなる光学素子または光電素子に、例えば、接着されることによって、直接的に接合される場合には、この表面に反射防止コーティングを施すことは適切ではない。しかしながら、接着促進層のような異なるコーティング、または、フィルタにさらなるスペクトル特性を付加する干渉フィルタシステムを設けることは好ましい。
【0045】
本発明のさらに別の実施形態に従うと、透明導電性酸化物層が設けられる。このような層は、電磁遮蔽部として使用される。しばしば、カメラの電子部品は、例えば、無線周波数の電磁波を放射する。感度の良いカメラチップは、ハウジングによって適切に遮蔽されているが、電磁波は、依然として光学システムを通過し、チップに到達し、そこにスプリアス信号を発生させる。ここで、特に、フィルタ素子1は、好適には、チップ上に直接設置されるか、または、遮蔽効果も有するカメラハウジング上に、窓として設置され、その結果、いかなる場合でも良好な遮蔽が達成されるので、フィルタ素子1自体が、遮蔽導電性酸化物層によって、残りの漏出を閉鎖することを提供する。
【0046】
このような層を、シート5と6との間の層システム内部に、すなわち、リン酸塩ガラス素子3に面する側でシートのうちの一方に、または、リン酸塩ガラス素子3自体に、良好に保護されるように設けることも可能である。
図1において、このような導電性酸化物層11(例えば、フッ素ドーピングされた酸化スズ層または酸化インジウムスズ層)が、リン酸塩ガラス素子3に接着された薄いガラスのシート6の面に設けられる。当然、このような酸化物層11は、同様に、もう一方の面に設けられてもよい。従って、
図1に示される例に限定するものではないが、本発明のさらなる実施形態に従うと、このような酸化物層11は、特に、光学セメント7で接着された、リン酸塩ガラス素子3の面または薄いガラスのシート5、6の面のうちの一方に設けられる。
【0047】
代替的にまたは付加的に、誘電性干渉コーティングを、例えば、反射防止コーティングとして、接着された面のいずれか1つに設けてもよい。反射防止コーティングは、例えば、薄いガラスのシートまたはリン酸塩ガラス素子と、光学セメント7との間の屈折率の差が反射損失の増加もたらす場合に有利である。しかしながら、通常、薄いガラスのシート5、6と、光学セメント7との間、および、リン酸塩ガラス素子3と光学セメントとの間の屈折率の差は、それぞれの場合において、0.2未満であることが好ましい。このような誘電性干渉コーティングが、特に、UV光を反射するために使用されることも可能である。フィルタガラスと組み合わせて、望ましくないスペクトル成分が、その後、光学フィルタ素子1によって、選択的にフィルタ除去される。当然、このようなUV反射コーティングと反射防止コーティング91、92とを組み合わせること、または、反射防止コーティングが紫外線スペクトル範囲で反射するように、反射防止コーティングの層システムを設計することもまた可能である。
【0048】
従って、例示されている例に限定するものではないが、1つの実施形態に従うと、薄いガラスのシート5、6は、その外側表面にコーティングが提供されるように企図される。この場合、このコーティングは、特に、反射防止コーティングを含む。
【0049】
図2は、
図1に例示された例示的な実施形態の単純化された変化形を示す。この変化形においては、薄いガラスのシート5が、面31、33のうちの一方にのみ(面31)に設けられ、接着されている。光学フィルタ素子1がハーメチックハウジングの一部を形成し、薄いガラスのシート5が提供されたフィルタ素子の表面が、ハウジングの外側表面である場合には、本発明のこのような単純化された実施形態が有用である。オプションで、反射防止コーティング92が、リン酸塩ガラス素子の接着された面の反対側の面33上に設けられる。例えば、光学フィルタ素子1が、こちら側のカメラチップなどの別の光学素子に直接接合されていない場合に、このことが有用である。
【0050】
図3に示されている変化形において、再び、板状ガラス素子3の1つの面31のみが、板状ガラス素子3に接着された薄いガラスのシート5を有する。しかしながら、ここでは、
図2に示されている実施形態と対照的に、薄いガラスのシート5は、板状ガラス素子3のエッジ35を越えて突出している。本発明のこのような実施形態は、例えば、エッジ35を越えて突出しているという事実によって特定される突出部分が、補助的な搭載手段として使用される場合に有用である。
【0051】
図4は、
図3に従う変化形の上面図である。
図4から理解されるように、シート5は、概して、長方形または正方形の外周形状を特定する、エッジ部分351、352、353、354の全てを越えて突出している。しかしながら、薄いガラスのシート5が、エッジ35の全長に沿って、エッジ35を越えて、常に突出するわけではないことも同様に想像可能である。例えば、
図4に示されているものとは対照的に、シート5が、2つの対向するエッジ部分351、353(または352、354)を越えて突出し、2つの他のエッジ部分と面一であることも考えられる。この場合には、対向して配置された突出部もまた、補助的な搭載手段として使用される。
【0052】
図1に従う例の相応の修正形が、
図5に示されている。この例示的な実施形態において、薄いガラスのシート5、6の両方が、板状素子3のエッジ35を越えて突出している。従って、溝が、エッジ35の周りを囲むように設置され、突出部は、また、補助的な搭載手段として使用することができる。同様に、板状素子3のエッジ35に対するシーリングが、この溝内に収容される。例示されている例において、薄いガラスのシート5、6を板状素子3に接着するために役立つ光学セメント7が、シーリングとしても使用される。
【0053】
板状素子3のエッジ35が、本明細書に例示され説明された他の実施形態の全てにおいて、例えば、光学セメント7によって、同様にシーリングされることが認識される。従って、本発明のさらなる実施形態に従うと、概して、板状素子3のエッジ35に、シーリングが、例えば光学セメントによって提供されることが企図される。好適には、エッジ35のシーリングは、疎水性セメントまたは防湿性セメントを用いて達成され、その結果、リン酸塩ガラスが、水分からハーメチックに保護される。
【0054】
エッジ35をシーリングするさらなる可能性が
図6に示される。本発明のこの実施形態は、境界部50および60をそれぞれ有するシート5、6を再び使用し、この境界部50および60は、板状フィルタガラス素子3のエッジ35を越えて突出している。接着された後(光学セメント7は、単純化のために
図6には示されていない)、シート5、6のうちの少なくとも1つが、その境界部50、60において加熱され、変形され、もう1つのシートの境界部に融合される。
図6に示されている例においては、シート5の境界部50のみが、シート6の境界部60と統合または融合するように、加熱され、落下されている。当然、両方のシートの境界部50、60を変形することも同様に可能である。この局所的な加熱は、レーザを用いて達成される。
【0055】
いずれの場合においても、薄いガラスのシート5、6が、光学セメント7によって、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子3の面31、33の各々に取り付けられている、本発明のこの実施形態は、
−2つのシート5、6の境界部50、60を、板状素子3のエッジ35を越えて突出させ、
−シート5、6のうちの少なくとも一方の境界部50、60を加熱し、もう1つのシート6、5に向けて変形させ、
−シート5、6の2つの境界部50、60を一緒に溶接または融合する、
ことによって、
ガラス内でのフィルタガラスの非常にハーメチックな完全な封止を達成する。
【0056】
本発明は、光学フィルタ素子の製造中に、さらに別の利点を提供する。実際には、薄いリン酸塩ガラスを研磨したり、または、研削したりすることは難しい。上述したとおり、これらのガラスは、概して、高い機械的強度を示さず、結果として、研磨機械加工中に容易に破損する傾向にある。さらに、研削中または研磨中に水との接触を回避することは難しい。従って、研磨除去の処理期間は可能な限り短い方が良い。これらの問題は、フィルタガラスの横方向の寸法に対して、フィルタガラスを薄くすればするほど悪化する。しかしながら、特に、小型のカメラモジュールにとっては、可能な限り薄いフィルタが望ましい。
【0057】
これらの問題を解決するために、
図7に示されるように、最初に、複数の板状素子3を、光学セメント7(
図7の上面図には示されていない)を用いて薄いガラス基板2に接着することが可能である。板状素子は、ここで、より薄く研削され、および/または、研磨される。共通のガラス支持体上の複数のフィルタを、個々の小さい板と研磨する場合よりも、非常に薄い厚さまで研磨することが可能である。処理が容易であり、フィルタは、研磨時にそれほど容易には破損しない。薄いガラス基板2との複合材は、付加的な安定性を提供する。さらに、素子3の事前に接着された面は、接着されていることにより、水にさらされることから保護されている。
【0058】
研削および/または研磨後に、接着された板状素子3をそれぞれが有する個別のシート5は、薄いガラス基板2の集合体から分離される。この形態において、分離された部分は、
図2または
図3に示されている実施形態に対応している。その後、薄いガラスのシート6は、板状素子3の反対側の面に接着されて、
図1または
図5の実施形態に従う光学フィルタ素子1が得られる。分離を行う前に、自由な状態で残っており、研削および/または研磨がちょうどなされた面に、別の基板2を接着し、その後、
図1または
図5の実施形態に対応する個別の部分に分離することも同様に可能である。
【0059】
いずれにしても、上述のこれら全ての実施形態において、以下の方法ステップが、列挙された順番で実行される。
−薄いガラス基板2を準備するステップ、
−例えば、
図7に示されるように、板状素子3が、薄いガラス基板2上に並んで配列されるように、リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの複数の板状素子3を、光学セメント7によって、薄いガラス基板2に接合するステップ、
−板状素子3から、(特に、研削および/または研磨によって)材料を研磨除去するステップ、
−シート5を、薄いガラス基板2から分離するステップであって、シート5の各々が、シート5に接着された少なくとも1つの板状素子3を有する、ステップ。
【符号の説明】
【0060】
1 光学フィルタ素子
2 薄いガラスの基板
3 リン酸塩ガラスまたはフルオロリン酸塩ガラスの板状素子
5、6 薄いガラスのシート
7 光学セメント
91、92 反射防止コーティング
31、33 3の面
11 透明導電性酸化物層
35 3のエッジ
50、60 5、6の境界部
351、352、353、354 エッジ部分