特許第6552313号(P6552313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552313
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/24 20180101AFI20190722BHJP
   H01R 12/75 20110101ALN20190722BHJP
【FI】
   H01R4/24
   !H01R12/75
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-144357(P2015-144357)
(22)【出願日】2015年7月21日
(65)【公開番号】特開2017-27740(P2017-27740A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390012977
【氏名又は名称】イリソ電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】山口 富三郎
(72)【発明者】
【氏名】木全 孝徳
【審査官】 山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−053577(JP,U)
【文献】 特開2003−086262(JP,A)
【文献】 米国特許第05470250(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/24 − 4/46
H01R 12/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、線状導体と導通接触する端子とを備えるコネクタにおいて、
前記端子は、前記線状導体を挟んで保持する挟持片を有し、
前記ハウジングは、
ハウジング本体と、
前記ハウジング本体に対する挿入方向への移動により前記線状導体を前記挟持片に押し込んで挟ませるスライダーとを備え、
前記スライダーは、前記線状導体の挿通孔を有し、
前記ハウジング本体は、前記線状導体の挿入方向で前記挿通孔と連通する前記線状導体の導入口を有することを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記挿通孔は、前記導入口と連通する入口側挿通孔と、前記入口側挿通孔と連通する中央挿通孔とを有し、
前記入口側挿通孔は、孔軸が前記導入口に対してずれており、
前記中央挿通孔は前記線状導体の孔径と同程度である請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
ハウジングと、線状導体と導通接触する端子とを備えるコネクタにおいて、
前記端子は、前記線状導体を挟んで保持する挟持片を有し、
前記ハウジングは、
ハウジング本体と、
前記ハウジング本体に対する挿入方向への移動により前記線状導体を前記挟持片に押し込んで挟ませるスライダーとを備え、
前記スライダーには、前記スライダーを貫通するように前記線状導体の挿通孔が形成されており、
前記ハウジング本体は、前記コネクタの外観として、前記挿通孔における前記線状導体の挿入側とは反対側の孔端を露出させる開口部を有することを特徴とするコネクタ。
【請求項4】
前記スライダーは、前記ハウジング本体からの抜去方向への移動により前記線状導体を前記挟持片から押し出して保持を解除する請求項1〜請求項3何れか1項記載のコネクタ。
【請求項5】
前記挿通孔は、前記線状導体に押し当たる当接部である請求項1〜請求項4何れか1項記載のコネクタ。
【請求項6】
前記ハウジング本体は、前記挟持片が前記線状導体を挟持する接続位置で前記スライダーを内部に収容する収容部を有する請求項1〜請求項5何れか1項記載のコネクタ。
【請求項7】
前記収容部は、前記接続位置では、前記ハウジング本体の外部に突出しないように前記スライダーを収容する請求項6記載のコネクタ。
【請求項8】
前記挟持片は、前記スライダーにより押し込まれる前記線状導体の絶縁被覆を除去する接触縁を有する請求項1〜請求項7何れか1項記載のコネクタ。
【請求項9】
前記挟持片は、前記線状導体を挟持する間隔が、前記線状導体が押し込まれる先端側で狭く、基端側で広く形成されている請求項1〜請求項8何れか1項記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線状導体を基板の回路に導通接続するコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気部品から伸びるエナメル線やリード線などの線状導体を基板の回路に導通接続する方法としては、従来からはんだ付けが行われている。線状導体を基板のスルーホールに挿通して基板の回路接点(ランド)にはんだ付けするという方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−146420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような方法では、はんだ付け作業が面倒であり、接続すべき線状導体の数が多くなればなる程、それに応じた労力と負担が必要となってしまう。
【0005】
以上のような従来技術を背景としてなされたのが本発明である。その目的は、線状導体の基板への導通接続を省力化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、以下の構成を備える。
【0007】
即ち本発明は、ハウジングと、線状導体と導通接触する端子とを備えるコネクタについて、前記端子が、前記線状導体を挟んで保持する挟持片を有し、前記ハウジングが、ハウジング本体と、ハウジング本体に対する挿入方向への移動により線状導体を挟持片に押し込んで挟ませるスライダーとを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のコネクタによれば、スライダーをハウジング本体に対する挿入方向へ移動させることで、線状導体を端子の挟持片に押し込んで挟ませて確実に保持することができる。したがって本発明によれば容易なスライダーの移動操作によって線状導体の基板との導通接続を大幅に省力化することができる。
【0009】
前記スライダーは、ハウジング本体からの抜去方向への移動により線状導体を挟持片から押し出して保持を解除するものとすることができる。
【0010】
前述の従来技術によれば、線状導体を基板にはんだ付けするため、線状導体を有する電子部品に不具合が起きた場合に電子部品のみを交換することができず、基板ごと交換しなければならないため不経済である。
これに対して本発明によれば、スライダーが抜去方向への移動により線状導体を挟持片から押し出して保持を解除することができる。したがって、前述のような不具合が起きても線状導体とコネクタとの接続を解除して電子部品のみを交換することが可能である。しかも、スライダーを抜去方向へ移動させるだけなので、簡単な作業で保持を解除することができる。
【0011】
前記スライダーは線状導体に押し当たる当接部を有する。
【0012】
スライダーを移動させると当接部が線状導体に押し当たるので、スライダーの操作感と連動して線状導体を挟持片に挟み込ませることができ、確実に挟持片に線状導体を導通接続させることができる。
【0013】
前記当接部は、スライダーに設けた線状導体の挿通孔とすることができる。
【0014】
当接部が線状導体を通した挿通孔なので、スライダーと線状導体とを一体として移動させることができる。
【0015】
前記ハウジング本体は、挟持片が線状導体を挟持する接続位置でスライダーを内部に収容する収容部を有する。
【0016】
挟持片が線状導体を挟持する接続位置では、スライダーが収容部に収容されてハウジング本体の外部に突出しない。そのため線状導体が正しく端子に接続されていることを収容部に対するスライダーの位置によって目視で容易に確認することができる。
【0017】
前記ハウジング本体は、スライダーの挿通孔と連通する線状導体の導入口を有する。
【0018】
これによれば、ハウジング本体の導入口とスライダーの挿通孔とが連通するので、導入口に入れた線状導体を、そのまま送ることでスライダーの挿通孔に通すことができる。こうした構造は、特にハウジング本体の内部にスライダーを収容するハウジング構造を持ち、ハウジング本体に線状導体の導入口を設ける必要がある場合に有用である。この場合、ハウジング本体の導入口はスライダーの挿通孔よりも大きな孔として構成すると、挿入作業が容易となりより好ましい。
【0019】
前記挟持片は、スライダーにより押し込まれる線状導体の絶縁被覆を除去する接触縁を有する。
【0020】
線状導体は、通常、導電性材料でなる芯線と、芯線を保護する絶縁被覆とで形成される。前述の従来技術では、はんだ付けする前に線状導体の絶縁被覆を除去する作業が必要な場合がある。例えば導通接続用の導線として様々な電子部品に使用されている、いわゆるエナメル線(マグネットワイヤ)には、樹脂材でなる絶縁被覆が形成されており、サンドペーパー等でそれを除去して導通接続しなければならず面倒である。他方、エナメル線の中には、はんだ付けする際の熱により絶縁被覆を溶かすことができるものがあるが、電子部品の用途によっては、はんだ接続部の導通品質の信頼性を低下させる虞もある。
これに対して本発明は、挟持片がスライダーにより押し込まれる線状導体の絶縁被覆を除去する接触縁を有する。このためスライダーを移動させて線状導体を挟持片の接触縁に押し込ませれば線状導体の絶縁被覆を除去することができるので、絶縁被覆を除去するためだけの手間が掛からず、また除去した絶縁被覆が導通品質の信頼性を低下させることもない。
【0021】
前記挟持片は、線状導体を挟持する間隔が、線状導体が押し込まれる先端側で狭く、基端側で広く形成されている。
【0022】
挟持片で挟持する間隔が線状導体を押し込む方向に沿って一定である場合、換言すると挟持片の対向する接触縁が並行である場合、挟持片の先端側ほどばね長が長く撓みやすく広がり易いのに対し、挟持片の基端側ほどばね長が短くなり撓みにくく広がりにくくなる。したがって、線状導体の挿入が浅い段階(挿入初期)では、線状導体の被覆を除去できる程の接触力が得られず被覆を除去するのが難しい。被覆を除去することができる接触力を得られるのは、相当程度挿入が進んだ段階(挿入された線状導体が挟持片の基端に近づいた段階)となる。そのため被覆の除去を行える挿入距離を十分に確保することができず、被覆が残存してしまい、導通に悪影響を与えてしまうおそれがある。そして、線状導体を押し込めば押し込むほど挟持片の接触力が強くなり、誤って途中で押し込みを止めてしまうおそれもある。
これに対して、前記本発明では、挟持片に対する線状導体の押し込みが深くなるにつれて挟持する間隔を広げる形状、換言すると挟持片の対向する接触縁の間隔が、挟持片の先端側で狭く、基端側で広い形状としている。このような形状とした場合、挟持片の先端側では対向する接触縁の間隔が狭いため、線状導体を挿入して挟持片が線状導体を挟んだ挿入初期の段階から挟持片接触力(N)を高くすることができる。そして、対向する接触縁の間隔は、挟持片の先端側よりも基端側で広いため、対向する接触縁を平行にする場合と比べて、線状導体を押し込めば押し込むほど強くなる接触力の増加度合いを緩和することができる。したがって、挿入が過剰に硬くなり、誤って途中で押し込むのを止めてしまわないようにすることができる。
以上のようにして、本発明によれば、挿入初期の段階から最終的な接続位置まで、線状導体の被覆を破るのに必要な接触力を超える挿入初期の挟持片接触力(N)を維持して被覆を除去し続けることができるため、被覆の除去が不十分になるのを防止して、確実な導通接触を実現することができ、また挿入途中で止まることなく、最終的な接続位置まで線状導体を押し込むことができる。
【0023】
前記ハウジング本体は、前記コネクタの外観としてスライダーの挿通孔を露出させる開口部を有する。
【0024】
これによれば、ハウジング本体の開口部を通じてスライダーの挿通孔が露出されて、そこに線状導体が挿通されているかをコネクタの外観として目視で確認することができる。したがって、線状導体の接続作業を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のコネクタによれば、スライダーをハウジング本体に対する挿入方向へ移動させることで、線状導体を端子の挟持片に押し込んで挟ませて確実に保持することができるため、線状導体の基板への導通接続を大幅に省力化することができる。したがって、はんだ付けによらないコネクタ接続により、電子部品を機械的且つ効率的に基板の回路に対して導通接続することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態によるコネクタの分解斜視図。
図2図1のコネクタの正面、平面、左側面を含む斜視図。
図3図1のコネクタの正面、底面、左側面を含む斜視図。
図4図1のコネクタの正面図。
図5図1のコネクタの平面図。
図6図1のコネクタの底面図。
図7図1のコネクタの背面図。
図8図4のA−A線断面図。
図9図1のコネクタの右側面図。
図10図1の端子の斜視図。
図11図1のコネクタの線状導体との接続方法を示す説明図であり、分図(a)は図4のB−B線断面による接続前の状態を示す断面図、分図(b)は接続状態を示す断面図。
図12図1のコネクタの端子と線状導体との位置関係を示す説明図であり、分図(a)は図11(a)の接続前の状態に対応する説明図、分図(b)は図11(b)の接続状態に対応する説明図。
図13図12で示す接触縁の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のコネクタの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、マグネットワイヤを基板の回路に接続するコネクタ1を例として説明する。
【0028】
なお、本明細書、図面、特許請求の範囲の記載では、説明の便宜上、コネクタ1の幅方向を(長手方向)をX方向、前後方向(短手方向)をY方向、高さ方向(上下方向)をZ方向として説明する。また、後述するハウジング本体におけるスライダーの挿入口を正面(前面)とし、それを基準としてX方向の左・右、Y方向の前・後、Z方向の上・下と位置付けて説明する。但し、これらによってコネクタ1の実装方法や使用方法を限定するものではない。
【0029】
コネクタ1は、ハウジング2と、端子3と、固定金具4とを備えており、ハウジング2はハウジング本体5とスライダー6とを備えて構成される。
【0030】
ハウジング本体5
ハウジング本体5は、樹脂成形体であり、前面5a、上面5b、背面5c、右側面5d、左側面5e、底面5fが形成されている。前面5aには開口5gが形成されており、その奥にはスライダー6の収容部5hが形成されている。収容部5hは、前側収容部5h1と、3つの分かれる分割収容部5h2とで形成されており、それらを合わせてスライダー6の全体が収容されることとなる。
【0031】
前側収容部5h1には、その側面にスライダー6の挿入方向に沿って、後述するスライダー6の第1の係止突起6eと第2の係止突起6fが通るガイド溝5h11が形成されている。
【0032】
分割収容部5h2は、ハウジング本体5の上面5bと背面5cとを跨いで形成した壁5iにより区画されている。本実施形態では一例として3つの分割収容部5h2が形成されている。そして、各分割収容部5h2には端子3が配置されており、各分割収容部5h2の上面5b側にはスライダー6を目視可能な「開口部」としての上面開口5kが形成されている。
【0033】
壁5iには2種類ある。一つは、隣接する端子3どうしを構造的に仕切って電気的に絶縁する隔壁5i1である。他の一つは、ハウジング本体5の右側面5d、左側面5eに位置して、左端と右端の端子3を外部から仕切って保護する外壁5i2である。外壁5i2の外側には、固定金具4の取付部5mが形成されている。固定金具4は垂直部4aと水平部4bでなるL字状に形成され、垂直部4aが溝状の取付部5mに圧入されてハウジング本体5に固定され、水平部4bが基板にはんだ付けされることで、ハウジング本体5が基板に固定される。なお、固定金具4は挿入実装用のストレート形状のものとしてもよい。
【0034】
ハウジング本体5の背面5cには、端子3を固定する溝状の固定部5mが形成されている。各端子3は固定部5mに圧入され板幅方向で拘束されてハウジング本体5に固定される。
【0035】
ハウジング本体5の底面5fには、線状導体の導入口5nが形成されている。コネクタ1はボトムエントリータイプのもので、線状導体は実装面の反対側から基板Pの孔Phを通じて挿入され、底面5fの導入口5nからハウジング本体5に差し込まれる。したがって、線状導体をコネクタ1に導通接続すると、基板の実装面におけるコネクタ1の周囲には線状導体による配線が無いため、実装スペースを無駄なく回路配置に有効利用することができる。
【0036】
導入口5nは端子3の数に合わせて各分割収容部5h2に設けられている。また導入口5nは、スライダー6が移動する前後方向Yに沿う長孔として形成されている。導入口5nは、ハウジング本体5の板厚方向に沿う孔面が線状導体の挿入をガイドする誘導傾斜面として形成されている。即ち、本実施形態ではその誘導傾斜面がテーパー面として形成されている。これによって基板Pの裏側からでも円滑且つ正確にコネクタ1の内部の所定位置に線状導体を導入できるようにしている。
【0037】
スライダー6
スライダー6は、正面にコネクタ1の幅方向Xに沿う基部6aが形成されている。基部6aには複数の嵌合部6bが櫛歯状に突出して形成されている。嵌合部6bのハウジング本体5への挿入側端部(突出側端部)から嵌合部6bの内部には、端子挿入部6cが形成されている。端子挿入部6cはスライダー6の高さ方向Zで1箇所に形成されている。端子3はハウジング本体5に固定されるが、端子挿入部6cを設けることで、スライダー6がハウジング本体5への挿入方向及び抜去方向へ移動できるようになっている。
【0038】
嵌合部6bには、線状導体の挿通孔6dが形成されている。挿通孔6dは、嵌合部6bの上面に開口する上側挿通孔6d1、「当接部」としての中央挿通孔6d2、嵌合部6bの底面に開口するテーパー状の「入口側挿通孔」としての下側挿通孔6d3により形成されている。下側挿通孔6d3は、線状導体の挿入を円滑かつ確実に行うためにテーパー状とされている。中央挿通孔6d2は、線状導体の外径と略同程度の孔径を有するように形成されている。そのためスライダー6を移動させると、中央挿通孔6d2が線状導体と接触して、線状導体を移動させる。上側挿通孔6d1は、嵌合部6bの上面に開口しており、そこから線状導体が分割収容部5h2に露出できるように形成されている。
【0039】
左端と右端の嵌合部6bの外側面には、前後方向Yに沿って第1の係止突起6eと、第2の係止突起6fが並べて形成されている(図1)。第1の係止突起6eは、略直角三角形の形状を呈しており、収容部5hの側面に形成した抜け止め用の段部5oに対して抜け方向で当接して、スライダー6を抜け止めする(図8)。これがハウジング本体5に対してスライダー6を仮組みした状態である。第2の係止突起6fは、その仮組みした状態からさらにスライダー6を収容部5hに押し切って完全に嵌合させた状態を維持するために設けられている。即ち、その完全に嵌合した状態では第2の係止突起6fが段部5oに対して抜け方向で当接して、スライダー6を抜け止めするようになっている。
【0040】
以上のような第1の係止突起6e、第2の係止突起6fが長さ方向Xで弾性変位できるように、スライダー6にはスリット6gと可撓壁6hが形成されている(図8)。第1の係止突起6e、第2の係止突起6fが変位する際には、可撓壁6hがばねとしてスリット6gに撓むようになっている。
【0041】
端子3
端子3は、基板に半田付けされる基板固定部3aと、ハウジング本体5の固定部5mに圧入により保持される取付片部3bと、線状導体と導通接続する挟持片3cとを有している。
【0042】
基板固定部3aは、コネクタ1の背面、即ちハウジング本体5の背面5c側で基板Pにはんだ付けされる箇所である。したがって、ハウジング本体5にスライダー6を押し込む挿入力Fをハウジング本体5の背面5c側で受け止めることができる。また、ハウジング本体5の右側面5d、左側面5eでは、固定金具4が挿入力Fを受け止める。
【0043】
挟持片3cは、端子3には1枚の平板形状の金属片で1つの挟持片3cが形成されているものであり、例えば複数枚の挟持片3cを板面を並列に配置して線状導体Lに対してその長さ方向に沿う複数箇所で導通接触させるような端子構造としていない。他方、スライダー6には、その1枚の挟持片3cを挿入する端子挿入部6cが、スライダー6の高さ方向Zで1箇所に形成されている。そのためスライダー6、ハウジング本体5、そしてコネクタ1について基板Pの実装面からの高さが低い低背型のコネクタとすることができる。
【0044】
挟持片3cは、基部3c1と、そこから二股状に並列に突出する接触片3c2を有して形成されている。2つの接触片3c2には対向する接触縁3c3が形成されている。この接触縁3c3は、その長さ方向に沿って、薄い板厚の段部として形成されており、対向する接触縁3c3の間に線状導体が押し込まれると、接触縁3c3が線状導体の表面に形成されている絶縁被膜を除去して導電体の芯線に対して接触する。
【0045】
対向する接触縁3c3は、図13で示すように、接触片3c2の先端側、即ち線状導体Lが押し込まれる斜縁3c4の側で挟持する間隔D1が狭く、基部3c1の側(基端側)で挟持する間隔D2が広くなっている。このような形状とした場合、先端側の挟持間隔D1が狭いため、線状導体Lを挿入して接触片3c2が線状導体Lを挟んだ挿入初期の段階から挟持片接触力(N)を高くすることができる。そして、基部3c1の側の挟持間隔D2が、先端側の挟持間隔D1より広いため、対向する接触縁を平行にするような場合と比べて、線状導体Lを押し込めば押し込むほど強くなる挟持片接触力(N)の増加度合いを緩和することができる。したがって、挿入力Fが過剰に硬くなり誤って途中で押し込むのを止めてしまわないようにすることができる。したがって、本実施形態の挟持片3cでは、挿入初期の段階から最終的な接続位置まで、線状導体Lの被覆を破るのに必要な接触力を超える挿入初期の挟持片接触力(N)を維持して被覆を除去し続けることができるため、被覆の除去が不十分になるのを防止して、確実な導通接触を実現することができる。また、挿入途中で止まることなく、最終的な接続位置まで線状導体Lを押し込むことができる。
【0046】
使用方法
次に、コネクタ1の使用方法を説明する。コネクタ1は、基板Pの回路と、電子部品のマグネットワイヤのような線状導体Lとを導通接続するものである。
【0047】
図11(a)で示すように、基板Pには、ハウジング本体5の導入口5nと連通する孔Phが形成されている。線状導体Lは基板Pの裏面から孔Phに挿入される。線状導体Lは、孔Phを通り、さらにハウジング本体5の導入口5nに挿入される。このとき孔Phよりも導入口5nの方が孔の大きさが大きいため、孔Phに挿入されればスムーズに線状導体Lをハウジング本体5の内部に挿入することができる。
【0048】
ハウジング本体5の導入口5nは、ハウジング本体5の内部に向けて窄むテーパー形状になっているため、線状導体Lはスライダー6の挿通孔6dにスムーズに送られる。即ち、ハウジング本体5の導入口5nとスライダー6の挿通孔6dとが連通しているため、線状導体をそのまま送れば導入口5nから挿通孔6dに線状導体Lを容易に通すことができる。スライダー6の挿通孔6dの下側挿通孔6d3は、孔軸がハウジング本体5の導入口5nに対してずれており、傾斜する孔面によってハウジング本体5の開口5gの側に誘い込まれて中央挿通孔6d2に挿入される。
【0049】
中央挿通孔6d2は線状導体Lの孔径とほぼ同程度の大きさであり、大きな挿入代を設けていないようにしている。それは図12(a)で示すように、挟持片3cの接触縁3c3と斜縁3c4との間に線状導体Lを正しく位置決めさせるためである。そしてそのまま線状導体Lを挿入すると上側挿通孔6d1に挿入されて、ハウジング本体5の上面開口5kに露出する。これにより線状導体Lの挿入作業は終わりである。
【0050】
次に、スライダー6を挿入力Fによりハウジング本体5に押し込ませていくと、中央挿通孔6d2が線状導体Lと当接して対向する接触片3c2の間に線状導体Lが押し込まれる。このとき、対向する接触片3c2は基部3c1を基端とするばね片になっているため、線状導体Lが接触片3c2を押し拡げて接触縁3c3の間に入り込んだときにクリック感が発生する。これにより接続作業が進んでいることを手元の感覚で確認することが可能である。
【0051】
そして線状導体Lは、接触縁3c3と圧接しながら摺動することで絶縁被覆が除去されて挟持片3cに対して導通接触する。スライダー6が停止するまで押し込むと、コネクタ1によって線状導体Lを基板Pと電気的に接続することができる(図11(b)、図12(b))。このようにしてスライダー6を押し込む容易なワンプッシュ操作によって、本実施形態では3本の線状導体Lを同時にコネクタ1と導通接続することができることから、接続作業を従来よりも大きく省力化することができる。
【0052】
また、挟持片3cが線状導体Lを挟持する接続位置では、図11(b)で示すように、スライダー6が収容部5hに収容されてハウジング本体5の外部に突出しない。そのため線状導体Lが正しく端子3に接続されていることを、収容部5hに対するスライダー6の位置によって目視で容易に確認することができるため、導通接続の不良を見逃すことはない。
【0053】
正しい接続状態の確認という点では、図11(b)で示すように、ハウジング本体5の上面開口5kを見れば、スライダー6の挿通孔6dに線状導体Lが挿通されていることを目視で確認することができる。したがって、これによっても線状導体Lの接続作業を確実に行うことができる。
【0054】
次に、以上のようにしてコネクタ1に接続した線状導体Lを除去するには、スライダー6を挿入時とは逆の抜去方向に移動させる。この際には、ハウジング本体5の上面開口5kに露出するスライダー6の嵌合部6bの先端に、例えばマイナスドライバーのような道具を押し当てて抜去方向へ力を加える。これにより図11(b)の接続位置から図11(a)の接続解除位置へとスライダー6が移動し、線状導体Lが接触縁3c3から外れて斜縁3c4の位置に戻り、線状導体Lを容易に取り外すことができる。なお、図11(a)の接続解除位置からさらにスライダー6を抜去方向に押しても、第1の係止突起6eが抜去方向でハウジング本体5の段部5oに当接するため、スライダー6が外れることはない。
【0055】
実施形態の変形例
以上の実施形態では3本の線状導体Lを導通接続するコネクタ1を例示したが、それに限定することなく任意の本数を接続することができるコネクタに構成してもよい。
【0056】
スライダー6は図11(b)の接触位置でハウジング本体5から外部に突出しない例を示したが、スライダー6の不完全な嵌合を示す確認手段があれば、外部に突出する構成としてもよい。また、スライダー6は図11(b)の接触位置から図11(a)の接触解除位置に戻して線状導体Lを除去できる例を示したが、接触位置でスライダー6の位置がロックするものとしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 コネクタ
2 ハウジング
3 端子
3a 基板固定部
3b 取付片部
3c 挟持片
3c1 基部
3c2 接触片
3c3 接触縁
3c4 斜縁
4 固定金具
4a 垂直部
4b 水平部
5 ハウジング本体
5a 前面
5b 上面
5c 背面
5d 右側面
5e 左側面
5f 底面
5g 開口
5h 収容部
5h1 前側収容部
5h11 ガイド溝
5h2 分割収容部
5i 壁
5i1 隔壁
5i2 外壁
5k 上面開口(ハウジング本体の開口部)
5m 取付部
5n 導入口
5o 段部
6 スライダー
6a 基部
6b 嵌合部
6b1 上面
6c 端子挿入部
6d 挿通孔
6d1 上側挿通孔
6d2 中央挿通孔(当接部)
6d3 下側挿通孔(入口側挿通孔)
6e 第1の係止突起
6f 第2の係止突起
6g スリット
6h 可撓壁
P 基板
Ph 孔
L 線状導体
図1
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