(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のコイル部品であって、前記第2コア部材は、零磁界において前記第1コア部材よりも低い透磁率を有し、前記第3コア部材は、少なくとも一部が前記第2コア部材と同一の材料で構成されているコイル部品。
請求項1に記載のコイル部品であって、前記第2コア部材は、零磁界において前記第1コア部材よりも低い透磁率を有し、前記第3コア部材は、前記第1コア部材と同一の材料で構成されているコイル部品。
請求項1に記載のコイル部品であって、前記第3コア部材は、零磁界において前記第1コア部材よりも低い透磁率を有し、前記第2コア部材は、少なくとも一部が前記第3コア部材と同一の材料で構成されているコイル部品。
請求項1に記載のコイル部品であって、前記第3コア部材は、零磁界において前記第1コア部材よりも低い透磁率を有し、前記第2コア部材は、前記第1コア部材と同一の材料で構成されているコイル部品。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】角線を巻回したコイルにおいて通電によって生じる交流銅損の分布を磁束とともに示す図である。
【
図2】
図1のコイルを垂直方向の外部磁界中に置いた場合に通電によって生じる交流銅損の分布を磁束とともに示す図である。
【
図3】平角線をその断面における長辺が巻軸と平行になるように渦巻状に巻回したコイル(フラットワイズコイル)において通電によって生じる交流銅損の分布を磁束とともに示す図である。
【
図4】
図3のコイルを垂直方向の外部磁界中に置いた場合に通電によって生じる交流銅損の分布を磁束とともに示す図である。
【
図5】平角線をその断面における長辺が巻軸に垂直となるように螺旋状に巻回したコイル(エッジワイズコイル)において通電によって生じる交流銅損の分布を磁束とともに示す図である。
【
図6】
図5のコイルを垂直方向の外部磁界中に置いた場合に通電によって生じる交流銅損の分布を磁束とともに示す図である。
【
図7】(a)一本の導電線の周囲に断面形状が略正方形のコアを配置した場合における通電によって生じる磁界(磁束)を示す図、及び(b)その部分拡大図である。
【
図8】一本の導電線の周囲に断面形状が略正方形の一対のコアを配置した場合における通電によって生じる磁界(磁束)を示す図である。
【
図9】一本の導電線の周囲に
図8のコアとは構成の異なる別の一対のコアを配置した場合における通電によって生じる磁界(磁束)を示す図である。
【
図10】(a)一本の導電線の周囲に断面形状が長方形のコアを配置した場合における通電によって生じる磁界(磁束)を示す図、及び(b)その部分拡大図である。
【
図11】一本の導電線の周囲に断面形状が長方形の一対のコアを配置した場合における通電によって生じる磁界(磁束)を示す図である。
【
図12】一本の導電線の周囲に
図11のコアとは構成の異なる別の一対のコアを配置した場合における通電によって生じる磁界(磁束)を示す図である。
【
図13】コアに埋設されたエッジワイズコイルにおいて通電によって生じる磁束分布を磁束とともに示す図である。コアは一方の端面を除いてコイルの周囲を囲う比較的低い透磁率を有する下部コアと、一方の端面を覆うように下部コア上に設けられた比較的高い透磁率を有する上部コアとで構成されている。
【
図14】(a)第1のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図15】(a)第2のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図16】(a)第3のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図17】(a)第4のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図18】(a)第5のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図19】(a)第6のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図20】(a)第7のコイル部品の略左半分の概略構成を示す部分断面図、(b)(a)のコイル部品に含まれるコイルへの通電によって生じる磁束分布を示す図、及び(c)(a)のコイル部品に含まれるコイルにおける交流銅損部分布を示す図である。
【
図21】コイルの巻列の数と交流銅損との関係を示すグラフである。コアとして圧粉コアを用いた場合、注型コアを用いた場合及び圧粉コアと注型コアの組み合わせ(ハイブリッド)を用いた場合を示している。
【
図22】左図は、コイルの構成とコイルに流れる電流の向きを示す図であり、右図は、コイルへの通電によって生じる磁界を示す図である。
【
図23】左図は、コイルの内部に理論上発生し得る渦電流の向きを示す図であり、右図は、コイル内部に実際に生じる渦電流に由来する電流の向き示す図である。
【
図24】左図は、コイルの内部に生じる渦電流に由来する電流の向きを示す図であり、右図は、中央部の電流は小さいので無視できることを示す図である。
【
図25】左図は、コイルの構成とコイルへの通電によって生じる磁界を示す図であり、右図は、コイルの内部に生じる渦電流の向き示す図である。
【
図26】エッジワイズコイル及びフラットワイズコイルの各々の巻線の厚みと損失係数との関係を示すグラフである。
【
図27】本発明の第1の実施の形態によるコイル部品の構造を示す断面図である。
【
図28】
図27のコイル部品の構造をさらに説明するための図である。
【
図29】
図27に示すコイル部品の製造工程の一工程を説明するための図である。
【
図30】
図29の工程に続く一工程を説明するための図である。
【
図31】
図30の工程に続く一工程を説明するための図である。
【
図32】
図31の工程に続く一工程を説明するための図である。
【
図33】本発明の第2の実施の形態によるコイル部品に用いられるギャップ材の一配置例を示す斜視図である。
【
図35】本発明の第2の実施の形態によるコイル部品に用いられるギャップ材の他の配置例を示す斜視図である。
【
図37】本発明の第3の実施の形態によるコイル部品の構造を説明するための図である。
【
図38】本発明の第4の実施の形態によるコイル部品の構造を説明するための図である。
【
図39】本発明の第5の実施の形態によるコイル部品の構造を説明するための図である。
【
図40】本発明の第6の実施の形態によるコイル部品の構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の理解のため、まず、発明者が検討した事項について説明する。コイルに交流銅損を生じさせる主な原因として、表皮効果と近接効果が知られている。ここで、表皮効果は、コイルに流れる電流の周波数が高くなるほど大きくなる。さらに隣接する導体との作用による近接効果も問題となる。そこで、発明者は、交流銅損の低減について検討した。
【0024】
リアクトルのようなコイル部品は、コイルとコアとを有する。そして、コアは、コイルに近接効果を生じさせる原因となり得る。コアとして比較的高い透磁率を有するものを用いれば、コアからコイルへの磁束の漏れを少なくすることができ、コアに起因する近接効果を抑制することができる。しかしながら、コイル部品として、所望のインダクタンス特性や磁気飽和特性を得ようとする場合には、磁気回路中に磁気抵抗部を設ける必要がある。そして、磁気抵抗部は、コアからコイルへの磁束漏れによる交流抵抗損失増加の原因となる。なお、磁気抵抗部として、非磁性体ギャップや比較的低い透磁率を有するコア部材がある。非磁性体ギャップによる磁束の漏れは、ギャップの周囲に集中して発生する。
【0025】
磁気抵抗部からの漏れ磁束のコイルへの影響を知るため、発明者は、まず、コイルに対する外部磁界の影響について検討した。コイルの巻線として、角線(
図1及び
図2)又は平角線(
図3乃至
図6)を用いてシミュレーションを行った。また、平角線については、その断面の長辺が巻軸と平行になるように渦巻状に巻回したフラットワイズ(
図3及び
図4)と、断面の長辺が巻軸に垂直となるように螺旋状に巻回したエッジワイズ(
図5及び
図6)の2種類の巻回方式を採用した。なお、
図1乃至
図6において、巻軸はいずれも上下方向に延び、コイルの左側に位置している。即ち、
図1乃至
図6は、コイルをその巻軸を含む平面で切断した場合に見られる2つのコイル断面のうちの一方とその周辺を表している。
【0026】
図1を参照すると、角線を3層×3列に巻回したコイル111では、通電により同心円状の磁束112で表される磁界が発生している。この状態で、交流銅損の大きい領域113は、主として、各角線の磁界中心から遠い側に形成される。一方、同コイル111を、
図2に磁束122で表される巻軸方向に沿った交流の外部磁界(垂直磁界)中に置くと、角線が形成する各列(上下方向)の両側に交流銅損の大きい領域123が現れる。しかも、
図2の領域123は、
図1の領域113と、その分布が異なっている。なお、本明細書では、コイルの巻軸に直交する方向の導電線の並びを「層」と呼び、コイルの巻軸に平行な方向の導電線の並びを「列(又は巻列)」と呼ぶ。また、本明細書では、巻軸に沿った方向の磁界を、便宜上「垂直磁界」と呼ぶが、巻軸は任意の方向を向いてよく、「垂直」は、重力方向を意味しない。
【0027】
また、
図3を参照すると、平角線を9列に巻回したコイル131でも、通電により同心円状の磁束132で表される磁界が発生している。この状態で、交流銅損の大きい領域133は、コイル131の中央部に位置する平角線では、その断面の短辺に沿って現れる。また、コイル131の左右両側部(外周側及び内周側)に位置する平角線では、その断面の短辺のみならず長辺に沿って交流銅損の大きい領域133が現れている。そして、同コイル131を巻軸方向に沿った交流の外部磁界(垂直磁界)中に置くと、
図4に示すように、外部磁界を表す磁束142は、コイル内を通過するように曲がり、交流銅損の大きい領域143は、コイル131の中央部に位置する平角線も含む全ての平角線において、その断面の短辺及び長辺に沿って広がっている。
【0028】
図5を参照すると、平角線を9層に巻回したコイル151でも、通電により同心円状の磁束152で表される磁界が発生している。また、この状態では、コイル131と同様に、交流銅損の大きい領域153が表れている。即ち、コイル151の中央部では、交流銅損の大きい領域153は、平角線の断面の短辺に沿って現れる。また、コイル151の上下両側部では、交流銅損の大きい領域153は、各平角線の短辺に沿って現れるとともに、長辺に沿って現れる。ところが、同コイル151を巻軸方向に沿った外部磁界(垂直磁界)中に置くと、
図6に示すように、外部磁界の磁束162はコイル151を避けるように曲がり、交流銅損の大きい領域163は、各平角線の断面の短辺に沿った領域に縮小し、長辺に沿った領域では見えなくなる。
【0029】
図1乃至
図6から以下のことが理解される。即ち、磁束は、巻線(導体)を貫通し難く、巻線の表面又は巻線間の境界を通過し易い。また、巻線間の境界では、境界が延びている方向に応じて磁束の通過し易さが異なる。詳しくは、磁界の向きが巻線間の境界の延びる方向に平行(
図4)であれば磁束は巻線間の境界を通過し易く、磁界の向きが巻線間の境界の延びる方向に垂直(
図6)であれば磁束は巻線間の境界を通過し難い。
【0030】
以上のことから、コイルの周囲における磁界の向きを制御することによりコイルへの磁束の進入(漏れ)を抑制又は阻止し、それによってコアに起因する交流抵抗損失を抑制できるものと推測される。
【0031】
次に、発明者は、コイル周囲の磁界の向きを制御するために、コイルの周囲にコアを配置した場合の磁界の変化について検討した。まず、導電線が一本の場合について、導電線に電流を流したときに形成される磁界中にコアを配置した場合の磁束の変化について検討した。
【0032】
導電線が一本の場合、導電線に電流を流すことにより形成される磁界は、導電線の長さ方向に垂直な断面を含む平面において、導電線を中心とする同心円状になる。その磁界中にコアを配置すると、磁束は透磁率の高いコア内を通過しようとして磁束分布に変化が生じる。
図7(a)及び
図7(b)に示すように、導電線171が形成する磁界中に、断面が略正方形のコア172を配置したとする。その場合、磁束173は透磁率の高いところ、即ちコア172内を通過しようとする。しかし、コア172の左右方向(導電線171とコア172の中心とを結ぶ直線に垂直な方向)の長さが比較的短いため、磁束173は略同心円状のままであり、導電線171の周囲の磁束分布を大きく変化させることができない。
図8に示すように、導電線171を挟んで互いに対向するように一対のコア172を導電線
171の上下に設けた場合も同様である。また、
図9に示すように、比較的短い2個のコア部材の間により透磁率の低い別のコア部材を挟んだ一対のコア174を、導電線171を挟んで互いに対向させて配置した場合も同様である。但し、この場合においては、コア174の図の左右方向の長さが比較的短いこと、及びコア174相互間の間隔が比較的広いことも関係しているものと考えられる。
【0033】
一方、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、導電線201が形成する磁界中に、断面が長方形のコア202を配置すると、より多くの磁束203がコア202を通過する。換言すると、磁界中に、図の左右方向に比較的長いコア202を配置すると、磁束分布が比較的大きく変化する。その結果、導電線201の左右両側には、垂直に近い磁界が形成される。
図11に示すように、導電線201を挟んで互いに対向するように一対のコア202を導電線201の上下に設けると、導電線201の左右両側の磁界をより一層垂直磁界に近づけることができる。また、
図12に示すように、比較的長い2個のコア部材の間に比較的短い(薄い)ギャップ材を挟んだ一対のコア204を、導電線201を挟むように対向配置した場合も同様である。
【0034】
以上のことから、導電線(コイル)の近くにコアを適切に配置すれば、導電線(コイル)の周囲の磁界の向きを制御できることが理解できる。発明者の検討によれば、一対のコア(上下コア)を電流中心に対して上下にかつ対称に配置する場合、上下コアの導電線(コイル)が形成する磁場方向における反磁界係数が0.3以下となるようにすることで、理論上は、導電線(コイル)の左右両側に垂直に近い磁界を形成することができる。これは、概ね、導電線(コイル)を挟んで対向配置される一対のコア(上下コア)を二辺とする四角形を想定した場合に、その四角形が上下コアを長辺とする長方形になる場合である。
【0035】
次に、単一の導電線に代えてコイル(エッジワイズコイル)を用い、コイルの周囲に配置されたコアの影響を検討した。
図13において、コイル231は、一方(上側)の端面を露出させるように、比較的透磁率の低い(μ
L=8)下部コア232に埋め込まれている。また、下部コア232の上には、コイル231の上側端面を覆うように、比較的透磁率の高い(μ
H=90)上部コア233が配置されている。コイル231の巻軸は図の右側に位置し、上下方向に延びている。即ち、
図13は、コイル231を巻軸を含む平面で切断した場合に見られる2つのコイル断面のうちの一方を示している。
図13に示す構成は、コイル231の一方(上側)の端面側に比較的高い透磁率を有しかつ図の左右方向に長い上部コア233を配置した状態(
図10参照)に相当する。この構成において、コイル231の内周面の内側及び外周面の外側には、略垂直の磁界が形成されている。その結果、コイル231において、交流銅損が多い領域234は、内周面側及び外周面側(各ターンの短辺側)に偏っている。即ち、コイル231の磁束の漏れが低減され、交流抵抗損失が抑制されている。但し、エッジワイズコイル231の他方(下側)の端面近くでは、各平角線の長辺に沿って交流銅損の多い領域235が現れている。これは、
図13に破線236〜238で示されるように、磁束の通過する経路が異なるからだと推測される。即ち、エッジワイズコイル231の上側端面側では、コイル231に漏れる磁束がほとんどないのに対して、下側端面の近くではコイル231への磁束の漏れが存在するからだと考えられる。しかしながら、このような磁束の漏れは、エッジワイズコイル231の下側に、上部コア233と同様に比較的高い透磁率を持つ別のコアを配置することにより抑制できるものと予想される。
【0036】
以上のように、コイル231の場合も単一の導電線(
図10参照)の場合と同様に、その左右両側(内周面の内側及び外周面の外側)にほぼ垂直な(巻軸に沿った方向の)磁界(垂直磁界)を形成することができる。これにより、コアよりコイルに流入する磁束に起因する交流抵抗損失を抑制することができる。
【0037】
次に、コイルの上下に比較的高い透磁率を有する一対のコアを配置したコイル部品の磁束分布及び交流銅損について検討した。具体的には、コイルの巻線形状及び巻回方式を変えた5種類のコイル部品(第3乃至第7モデル)と、比較のための2つのコイル部品(第1及び第2モデル)についてシミュレーションを行った。シミュレーションにおいて、比較的透磁率の高いコアとして圧粉コアを、比較的透磁率の低いコアとして注型コアを想定した。なお、圧粉コアは軟磁性合金粉末を圧縮成型したものであり、注型コアは軟磁性合金粉末及びバインダ(樹脂)等を含むスラリーを硬化させたものである。
【0038】
図14(a)を参照すると、第1のモデルは、エッジワイズコイル241と、その周囲に配置された圧粉コア242と、エッジワイズコイル241の内周側において磁路中に挿入された3つのギャップ243とを有している。なお、コイルの巻軸は図の右側に位置し、上下方向に延びている。即ち、
図14(a)は、コイル部品を巻軸を含む平面で切断したときに見られる2つのコイル断面のうちの一方とその周囲を示している。このコイル部品では、
図14(b)に示されるように、コイル241とギャップ243の境界周辺の領域244、即ちコイル241の内周側において磁束の集中が生じている。換言すると、エッジワイズコイル241とギャップ243の境界周辺において、圧粉コア242からエッジワイズコイル241へ多くの磁束が漏れている。このため、
図14(c)に示されるように、コイル241における交流銅損の大きい領域245は、コイル241の内周側に偏っている。この構成では、交流銅損の大きい領域245が内周側に偏っており、シミュレーションによる交流銅損は172Wと大きな値であった。
【0039】
図15(a)を参照すると、第2のモデルは、エッジワイズコイル251と、その周囲に配置された注型コア252とを有している。このコイル部品では、
図15(b)に見られるように、コイル251の上下両側において、各平角線の長辺に沿った領域253に磁束の集中が見られる。その結果、この構成では、
図15(c)に示されるように、コイル251の上下中央部では、交流銅損の大きい領域254が内周側及び外周側に偏っているものの、上下両側では、各平角線の断面の長辺に沿って交流銅損の大きい領域255が広がっている。そして、シミュレーションによる交流銅損は230Wであった。
【0040】
図16(a)を参照すると、第3のモデルは、エッジワイズコイル261と、その内周側及び外周側にそれぞれ配置された注型コア262,263と、エッジワイズコイル261の端面を覆い、かつ2つの注型コア262,263を連結する一対の圧粉コア264とを有している。このコイル部品では、
図16(b)に見られるように、平角線の短辺に沿った領域265において磁束の集中が生じている。この構成では、
図16(c)に示されるように、交流銅損の大きい領域266は、コイル261の内周側及び外周側に偏っており、シミュレーションによる交流銅損も48.2Wという最も小さな値であった。
【0041】
図17(a)を参照すると、第4のモデルは、
図16(a)と類似の構成を有している。このコイル部品が
図16(a)のコイル部品と異なる点は、エッジワイズコイル271の巻列の数が2列である点である。巻列の数を2列に増やしても、
図16(b)と
図17(b)との比較から理解されるように、その磁束分布は巻列の数が1列の場合と大きく変わらない。即ち、コイル271の内周側及び外周側の領域275において磁束の集中が生じている。また、
図17(c)に示されるように、交流銅損の大きい領域276についても、コイル271の内周側及び外周側に偏っており、シミュレーションによる交流銅損も49.5Wという小さな値であった。
【0042】
図18(a)を参照すると、第5のモデルは、角線を3層3列に巻回して形成されたコイル281と、その内周側及び外周側にそれぞれ配置された注型コア262,263と、コイル281の端面を覆い、かつ2つの注型コア262,263を連結する一対の圧粉コア264とを有している。このコイル部品では、
図18(b)に見られるように、コイル281の内周側及び外周側の領域282に磁束の集中が生じるとともに、コイル281の内部において巻列の境界に沿った領域283にも磁束の集中が生じている。この構成では、
図18(c)に示されるように、交流銅損の大きい領域284はコイル281の内周側及び外周側のみならず内部にも存在する。そして、シミュレーションによる交流銅損は、71.8Wであった。
【0043】
図19(a)を参照すると、第6のモデルは、平角線を2層5列に巻回して形成されたコイル291と、その内周側及び外周側にそれぞれ配置された注型コア262,263と、コイル291の端面を覆い、かつ2つの注型コア262,263を連結する一対の圧粉コア264とを有している。このコイル部品でも、
図19(b)に見られるように、コイル291の内周側及び外周側の領域292に磁束の集中が生じ、加えてコイル291の内部においても巻列の境界に沿った領域293に磁束の集中が生じている。
図18(b)との比較から理解されるように、巻列の数の増加に伴い磁束の集中が生じる領域293の数も増えている。同様に、交流銅損の大きい領域294の数も、
図19(c)に示されるように増加している。シミュレーションによる交流銅損は、90.9Wであった。
【0044】
図20(a)を参照すると、第7のモデルは、フラットワイズコイル301と、その内周側及び外周側にそれぞれ配置された注型コア262,263と、コイル301の端面を覆い、かつ2つの注型コア262,263を連結する一対の圧粉コア264とを有している。このコイル部品でも、
図20(b)に見られるように、コイル301の内周側及び外周側の領域302に磁束の集中が生じるとともに、コイル301の内部において巻列の境界に沿った領域303に磁束の集中が生じている。磁束の集中が生じる領域303の数は、
図19(b)の場合よりもさらに増えている。また、
図20(c)に示されるように、交流銅損の大きい領域304も、
図19(c)の場合に比べて増加した。また、シミュレーションによる交流銅損も、144.1Wに増加した。
【0045】
図14乃至
図20から理解されるように、コイルの上下に一対の圧粉コアを配置した第3乃至第7のモデル(
図16乃至
図20)では、コア全体を圧粉コアとしギャップと組み合わせた第1のモデル(
図14)及びコア全体を注型コアとした第2のモデル(
図15)に比べて、交流銅損を低減することができる。これは、上述したように、コイルの内周側及び外周側に垂直に近い磁界が形成された結果、コイルへの漏れ磁束が減少したからだと推測される。
【0046】
また、
図16乃至
図20及び
図21から理解されるように、コイルの巻列の数が増加すると交流銅損が増加する。これは、次のような理由によるものと考えられる。
【0047】
図16の構成と同様の構成を有するコイル部品のコイル(エッジワイズコイル、1列×4層)に対して、
図22の左図に示すように紙面奥向きの電流を流すと、同図の右図に矢印で示すような右回りの磁界が発生する。この磁界を打ち消すように、コイルの巻線(平角線)には、
図23の左図に示すように複数の渦電流が発生する。しかしながら、これらの渦電流は各平角線の内部において互いに打ち消し合う。その結果、同図の右図に示すように、平角線の断面における長手方向端部の渦電流だけが残ることになるものと思われる。
【0048】
平角線は絶縁膜で被覆されているため、渦電流の打ち消しは、平角線単位(各ターン)で発生する。換言すると、隣接する平角線同士の間では、渦電流の打ち消しは生じない。したがって、巻列の数が増加すると、残留する渦電流も増加する。例えば、巻列の数が2列の場合、
図24の左図のようにコイルの両側部(内周側及び外周側)のみならず中央部にも渦電流が残る。しかしながら、渦電流の大きさは磁界の強さに応じて大きくなり、コイルの外側に比べてコイルの中心側の方が小さい。そのため、巻列の数が2列の場合には、
図24の右図のように、両側部の渦電流が残るとみなすことができるものと思われる。
【0049】
しかし、巻列の数が増えると、特開2013−26589号公報に記載された近接効果により、各列に渦電流が残る。例えば、
図25の左図に示すように巻列の数が4列の場合には、同図の右図のように各列の端部に渦電流が残る。前述のように、コイルの外側ほど渦電流は大きく、中心部を除いて無視することができない。しかも、中央部以外では、隣接する巻列間の境界に発生する渦電流の向きは互いに逆向きである。このため、渦電流をより誘導しやすい状態となっており、交流銅損が増加するものと思われる。
【0050】
このように、巻列の数が増加すると交流銅損は増加する。それでも、
図21から理解されるように、コイルの上下に一対の圧粉コアを配置した第3乃至第7のモデル(「ハイブリッド」、
図16乃至
図20)は、コアを全て圧粉コアとしギャップを設けた場合(「圧粉3Gap」(第1のモデル(
図14)及びそれと同様の構成を有するコイル部品))やコアを全て注型コアとした場合(「注型μ11(零磁場における透磁率μ=11の注型コア)」、第2のコイル部品モデル(
図15)及びそれと同様の構成を有するコイル部品)に比べて交流銅損を大幅に低減することができる。これは、巻列の数を10にした場合でも言えることである。
【0051】
なお、第3乃至第7のモデルでは、コイルの上下に配置されるコアとして圧粉磁心を想定したが、コイルの端面を覆う部分については、少なくともその一部を注型コアや非磁性ギャップに置き換えても、交流銅損の大幅な増加は見られなかった。したがって、少なくともコイルの角に対応する領域に比較的高い透磁率を有するコアを配置すれば、交流銅損の低減が見込まれる。換言すると、コイル部品をコイルの巻軸とコア内を周回する磁路とを含む平面で切断した断面において、コイルの断面の各々の周囲を内周面、外周面及び端面に沿った4本の直線で8つの領域に区分したとき、角に位置する4つの領域に比較的高い透磁率を有するコアを配置すればよい。このとき、内周面の内側及び外周面の外側の領域には、比較的低い透磁率を有するコアを配置する。比較的高い透磁率μ
Hが、例えば100の場合、比較的低い透磁率μ
Lはその十分の一程度、例えば10とすれば良好な結果が得られる。
【0052】
上述した発明者による検討では、コイルの巻軸に平行な磁界(垂直磁界)に着目した。しかし、コイルの巻軸に直交する方向(径方向)の磁界に注目した場合にも、同様の結果が期待できる。即ち、コイルの内周側及び外周側に比較的高い透磁率を有するコアを配置すれば、コイル端面の外側の磁界を制御でき、それによって、コイルの交流銅損の低減が期待できる。なお、上述した、コイル部品の断面において、角に位置する4つの領域に比較的高い透磁率を有するコアを配置する構成では、垂直磁界のみならず、径方向の磁界についても制御することができる。径方向の磁界に着目した場合には、垂直磁界に着目した場合とは異なるコイルを用いることが望ましい。即ち、この場合、コイルとして、端面に露出する導電線同士の境界の数が少ないもの(例えば、フラットワイズコイル)を用いることが望ましい。
【0053】
次に、巻線(素線)の厚みの影響について検討した。
図26を参照すると、巻線(素線)の厚みが増加するに従い、コイルの交流銅損が増加することが理解できる。巻線(導体)の厚みが表皮深さと同じかそれより薄い場合は、エッジワイズコイル(「エッジ」)とフラットワイズコイル(「フラット」)とで損失係数(Rac/L/N)に大きな差はない。しかしながら、巻線の厚みが表皮深さよりも厚くなると、フラットワイズコイルの損失係数は急激に増加する。これに対して、エッジワイズコイルの損失係数は、素線の厚みの増加に伴い一次関数的に増加する。このように、エッジワイズコイルでは、巻線の厚みが増加しても、フラットワイズコイルの場合のような急激な交流銅損の増加はない。したがって、エッジワイズコイルの使用は、巻線の厚みが大きい場合に有利である。
【0054】
上記検討の結果、発明者は、本発明に想到するに至った。なお、本発明は、コアからコイルに流入する磁束を抑制することにより交流銅損を低減することを目指したものであるが、それがすべてではない可能性がある。
【0055】
(第1の実施の形態)
次に、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。
図27に示されるように、本発明の第1の実施の形態によるコイル部品10は、コイル11と、コイル11の内周側に配置される内周側コア12と、コイル11の外周側に配置される外周側コア13と、一対の端面側コア14,15と、これらを収容するケース16とを備えている。
図27において、コイル11の巻軸は、図の左右方向中央に位置し、図の上下方向に沿って延びている。なお、
図1は、コイル部品10の使用状態を表すものではなく、使用時において、コイル11の巻軸は任意の方向を向いてよい。後述する他の実施の形態においても同様である。
【0056】
コイル11は、巻軸方向に沿って巻線(導電線)を重ねるように巻回されたエッジワイズコイルである。即ち、コイル11は、略長方形の断面形状を持ち、周囲を絶縁体(図示せず)で被覆された導電線(平角線)(図示せず)を螺旋状に巻回して形成される。詳しくは、本実施の形態のコイル11は、導電線を直線状の巻軸を有するように螺旋状かつ四角形状に巻回して形成される。したがって、本実施の形態のコイル11は、巻軸と直交する面内において、略四角形の形状を有している。コイル11は、導電線を巻回して形成した巻回体の周囲を覆う絶縁体を更に有していてもよい。いずれにしても、コイル11は、内周面と外周面及びこれらに連続する一対の端面を有している。
【0057】
内周側コア12は、コイル11の内周面に接するように、コイル11の内周面の内側に配置される。また、外周側コア13は、コイル11の外周面に接するように、コイル11の外周面の外側に配置される。これら内周側コア12と外周側コア13は、同一の材料を用いて同時に形成される。具体的には、内周側コア12及び外周側コア13は、軟磁性金属粉末、熱硬化性バインダ成分、溶媒等からなるスラリー20(
図31参照)を熱硬化させて形成される。また、内周側コア12と外周側コア13は、比較的低い零磁界における透磁率(低μ)を有する。具体的には、内周側コア12と外周側コア13の透磁率は、3〜15であり、好ましくは7〜12であり、特に10程度が好ましい。なお、以下の説明において、スラリー20を硬化させて形成したコアを、注型コアと呼ぶことがある。
【0058】
一対の端面側コア14,15は、コイル11の一対の端面を覆い、内周側コア12と外周側コア13とを機械的及び磁気的に連結する。その結果、内周側コア12、外周側コア13及び端面側コア14,15は、閉磁路を形成する。一対の端面側コア14,15の各々は、鉄合金粉末等の飽和磁束密度の高い軟磁性金属粉末を、高い圧力によって圧縮成型して形成された圧粉コアである。これらの端面側コア14,15は、実質的に均一な厚みと、一対の平らな主表面を有する板状の形状を有している。また、
端面側コア14,15は、内周側コア12と外周側コア13に比較して、零磁界において高い透磁率(高μ)を有する。具体的には、端面側コア14,15の透磁率は50以上であり、好ましくは50〜150であり、特に90程度が好ましい。
【0059】
詳しくは、コイル11の巻軸と直交する面内において、端面側コア14,15は、夫々、コイル11の外周面よりも大きいサイズを有しており、且つ、コイル11の外周面よりも外側に張り出している。換言すると、本実施の形態の端面側コア14,15は、角を丸めた四角形状を有しており、その縁部はコイル11の外周面を超えて鍔状に突き出している。そのため、仮に端面側コア14,15とコイル11とをコイル11の巻軸の方向に沿って見た場合、コイル11は、
端面側コア14,15に隠れて見えない。但し、本発明は、この構成に限られない。即ち、端面側コア14,15は、コイル11の全周に亘って外周側へ張り出していなくてもよい。例えば、コイル11が平面視で(
図27の上方から見て)略四角形の場合、端面側コア14,15は、コイル11の互いに対向する二組の辺のうちの一方の組の辺から外周側(
図27の左右方向)へ張り出し、他方の組の辺から外周側(
図27の表裏方向)へ張り出していないものであってよい。具体的には、EE(又はEI)コアと呼ばれるような形状であってもよい。この場合、他方の組の辺に相当するコイルの端面部分は、端面側コア14,15によって一部又は全部が覆われていてもよいし、外周側コア13により一部又は
全部が覆われていてもよいし、あるいは、一部または全部が外部に露出していてもよい。また、他方の組の辺に相当するコイルの外周面の外側には、外周側コア(第2コア部材)13が配置されていなくてもよく、コイルの外周面がケースに直接接触していてもよい。
【0060】
コア12,13,14及び15の構成は、別の見方をすると次の様に言える。即ち、
図28に示すように、コイル部品をコイル11の巻軸とコア(12,13、14,15)内を周回する磁路とを含む平面で切断した断面において、コイル11の周囲(コイル部品の断面に見られる2つのコイル断面の各々の周囲)を内周面、外周面及び端面に沿った4本の直線31〜34で8つの領域41〜48に区分したとき、角に位置する4つの領域41,43,45,47に夫々圧粉コア(第1コア部材、高μ材)が配置され、内周面の内側に位置する領域42及び外周面の外側に位置する領域46に夫々注型コア(第2コア部材、低μ)が配置され、端面の外側に位置する領域44,48に夫々圧粉コア(第3コア部材、高μ)が配置されている。
【0061】
再び、
図27を参照すると、ケース16は、例えばアルミニウム等の金属からなる。図示されたケース16は、コイル11の巻軸の延びる方向において開口部16A及び底部16Bを有すると共に、開口部16Aと底部16Bとを繋ぐ側面部16Sを有している。より具体的には、底部16Bは角を丸めた四角形状を有しており、側面部16Sは略四角筒形状を有している。内周側コア12、外周側コア13、端面側コア14,15及びコイル11は、ケース16内に配置されている。ケース16内において、内周側コア12及び外周側コア13は、コイル11と端面側コア14,15に対して密着している。底部16Bよりも開口部16Aに近い方の端面側コア15は、側面部16Sから離れて位置している。即ち、コイル11の巻軸と直交する平面内において、端面側コア15は、側面部16Sよりも小さい。このような端面側コア15と側面部16Sとの間には、外周側コア13の一部が部分的に入り込んでいる。同様に、開口部16Aよりも底部16Bに近い方の端面側コア14は、側面部16Sから離れて位置している。即ち、コイル11の巻軸と直交する平面内において、端面側コア14は、側面部16Sよりも小さい。このような端面側コア14と側面部16Sとの間には、外周側コア13の一部が入り込んでいる。
【0062】
次に、
図29乃至
図32を参照して、
図27のコイル部品10の製造方法について説明する。
【0063】
まず、
図29に示すように、ケース16を用意し、ケース16の底部16Bに一方の端面側コア14を載置する。本実施の形態の端面側コア14は、ケース16の側面部16Sよりも小さいサイズを有していることから、側面部16Sと端面側コア14との間には隙間ができている。このような設計としていることから、端面側コア14のサイズにバラつきがあったとしても、端面側コア14とケース16との位置的関係が問題となることはない。
【0064】
次に、
図30に示すように、一方の端面側コア14の一面上にコイル11を載置する。
【0065】
次に、
図31に示すように、内周側コア12及び外周側コア13の原料であるスラリー20を、開口部16Aを通してコイル11が完全に浸るまでケース16内に流し込む。即ち、本実施の形態において、流し込んだスラリー20の上面(液面)はコイル11の上端11Uよりも上方に位置している。コイル11の上端11Uよりも上方に位置するスラリー20は、内周側コア12及び外周側コア13の主部を形成するものではなく、余分なものである。同様に、一方の端面側コア14と
側面部16Sの間に入り込んだスラリー20も余分なものである。しかしながら、後述するように、この余分なスラリー20の存在により、内周側コア12及び外周側コア13と端面側コア15との密着度を高めることができる。
【0066】
本実施の形態においては、開口部16Aがコイル11の巻軸の方向において開いていることから、コイルの内側及び外側のスペースを視認でき、スラリー20をコイル11の内側にも外側にも流し込むことができる。換言すると、本実施の形態においては、開口部16Aがコイル11の巻軸の方向において開いていることから、内周側コア12と外周側コア13の双方を注型コアとすることができる。
【0067】
次に、
図32に示すように、他方の端面側コア15をコイル11上に載置する。このとき、他方の端面側コア15は、一対の端面側コア14,15が互いに正対するように配置される。上述したように、本実施の形態の端面側コア15は、ケース16の側面部16Sよりも小さいサイズを有していることから、側面部16Sと端面側コア14との間には隙間が形成される。
【0068】
他方の端面側コア15をケース16の底部16Bに向かって押え付けると、余分なスラリー20が端面側コア15とケース16の側面部16Sとの間に入り込む。余分なスラリー20は、さらに、他方の端面側コア15の上面にまで達し、その少なくとも一部を覆ってもよい。この状態において、加熱してスラリー20を硬化させる。これにより、スラリー20を、注型コアである内周側コア12及び外周側コア13に変化させる。このことから理解されるように、端面側コア14,15の各々とケース16の側面部16Sとの間に入り込んだスラリー20は、外周側コア13の一部となる。本実施の形態においては、上述したようにして、内周側コア12及び外周側コア13を端面側コア14,15とコイル11とに密着させたコイル部品10を得ることができる。
【0069】
以上のように本実施の形態では、コイル11としてエッジワイズコイルを用いるとともに、その内周側及び外周側に注型コアである内周側コア12及び外周側コア13をそれぞれ配置し、内周側コア12と外周側コア13とを圧粉コアである一対の端面側コア14,15で連結する。これにより、コイル11に発生する交流銅損を低減することができる。また、内周側コア12及び外周側コア13の双方に注型コアを用いたことにより、コイル部品10に直流重畳電流を通電しない零磁界でのインダクタンスを抑えて、直流重畳特性を改善することができる。
【0070】
また、本実施の形態では、コアの一部(具体的には、内周側コア12及び外周側コア13)を、スラリー20を用いて形成する。これにより、コイル11とその周囲のコア(内周側コア12、外周側コア13並びに端面側コア14,15)との間の隙間をなくすことができる。その結果、組み付け精度に依存するコイル部品10の特性のバラつきを低減し又は無くすことができると共にコイル11のガタツキを抑制することができ、コイル部品10の使用時における騒音を低減することができる。更に、本実施の形態では、固体である圧粉コアの数を減らすことができ、それによって組み付け工程を簡略化することができる。加えて、本実施の形態では、比較的透磁率の高い圧粉コアの数を減らし、比較的透磁率の低い注型コアを用いることで、コストを削減することができる。
【0071】
上述した実施の形態において、コイル11は、巻軸と直交する面内において角を丸めた四角形状を有していたが、本発明は、これに限定されるわけではない。コイル11は、コイルの巻軸と直交する面内において、円形若しく楕円形、あるいは競技用トラック形状の外形を有するものであってもよい。
【0072】
また、上記実施の形態では、内周側コア12及び外周側コア13として注型コアを用い、端面側コア14,15として圧粉コアを用いている。しかしながら、内周側コア12及び外周側コア13として圧粉コアを用いてもよいし、端面側コア14,15として注型コアを用いてもよい。あるいは、これらのコアは、成型した磁性体粉末に樹脂を浸透させ、その後樹脂を硬化させて形成するようにしてもよい。いずれにしても、端面側コア14,15の零磁界での透磁率が、内周側コア12及び外周側コア13の零磁界での透磁率よりも高くなるように、内周側コア12、外周側コア13及び端面側コア14,15が形成されていればよい。
【0073】
(第2の実施の形態)
上述した第1の実施の形態のコイル部品の構成に加え、
図33及び
図34若しくは
図35及び
図36に示すように、コイル11の内周側空間50内に非磁性ギャップ材51を配置する。即ち、4枚の長方形の板状のギャップ材51を2枚ずつ上下2段に配置する。各段のギャップ材51は、長辺同士が互いに平行となるように配置される。ギャップ材51は、組み付けを容易にするため、支持材52により互いに固定されている。また、組み付けを容易にするとともに交流銅損の発生を抑えるため、ギャップ材51は、コイル11の内周面との間に所定の間隔を空けるよう配置されていてもよい。さらに、製造時におけるスラリー20の流し込みを容易にするとともに直流重畳特性を改善するため(零磁界でのインダクタンスを低減するため)、左右に隣り合うギャップ材51は、互いに間隔を空けて配置されていてもよい。さらに、スラリー20を流し込む際に発生し得る気泡が排出され易いように、各ギャップ材51は、コイル11の巻軸に直交する平面に対して傾きを有するように配置されている。なお、ギャップ材51の形状、数及び配置は本実施の形態に限られない。ギャップ材51の形状、数及び配置は、所望の特性に応じて調整することができる。
【0074】
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態によるコイル部品の端面側コア14,15の一部を、注型コア(低μ)に置換する。具体的には、端面側コア14,15のコイル11の端面を覆う部分の少なくとも一部を注型コアに置換する。換言すると、
図37に示すように、コイル部品をコイルの巻軸とコア内を周回する磁路とを含む平面で切断した断面において、コイル11の周囲(コイル部品の断面に見られる2つのコイル断面の各々の周囲)を内周面、外周面及び端面に沿った4本の直線31〜34で8つの領域41〜48に区分したとき、角に位置する4つの領域41,43,45,47に夫々圧粉コア(第1コア部材、高μ)を配置する。また、コイル11の内周面の内側に位置する領域42及び外周面の外側に位置する領域46に夫々注型コア(第2コア部材、低μ)を配置する。さらに、端面の外側に位置する領域44,48の各々の少なくとも一部に注型コア(第3コア部材、低μ)を配置する。領域44,48における残りの部分には、圧粉コアを配置する。領域44,48の各々において、通常、注型コアは一対の圧粉コアに挟まれるように配置される。領域44,48に配置される圧粉コアは、隣接する領域41,43,45,47のいずれかに配置されている圧粉コアと一体に形成されてよい。
【0075】
この構成においても、コイル11内を通過することなく一方の端面側コアから他方の端面側コアへ向かおうとする磁束が発生するため、コイル11への磁束漏れは少なく、交流銅損の低減効果が得られる。また、この構成は、応力を低減する効果もある。さらに、第1の実施の形態に比べて、零磁界におけるインダクタンスは低くなるため、用途に合わせてインダクタンスを調整できる。なお、本実施の形態においても、得ようとする特性に応じて、第2の実施の形態で説明したギャップ材51をコイル11の内周側に配置するようにしてもよい。
【0076】
(第4の実施の形態)
第1の実施の形態によるリアクトルの端面側コア14,15の一部を、非磁性ギャップ材に置換する。具体的には、コイル11の端面を覆う部分の少なくとも一部を非磁性ギャップ材に置換する。換言すると、
図38に示すように、コイル部品をコイル11の巻軸とコア内を周回する磁路とを含む平面で切断した断面において、コイル11の周囲(コイル部品の断面に見られる2つのコイル断面の各々の周囲)を内周面、外周面及び端面に沿った4本の直線31〜34で8つの領域41〜48に区分したとき、角に位置する4つの領域41,43,45,47に夫々圧粉コア(第1コア部材、高μ)を配置する。また、コイル11の内周面の内側に位置する領域42及び外周面の外側に位置する領域46に夫々注型コア(第2コア部材、低μ)を配置する。さらに、コイル11の端面の外側に位置する領域44,48の夫々について少なくとも一部に非磁性ギャップ材を配置する。なお、図では、コイル11の端面全体が非磁性ギャップで覆われているように見えるが、実際には、コイル11の端面の多くは、圧粉コア(第3コア部材、高μ)で覆われており、非磁性ギャップ材により覆われる領域は小さい。この構成では、エッジワイズコイルを用いることで、非磁性ギャップ材からコイル11への漏れ磁束を抑制することができる。コイル11の端面は、平角線の断面における長辺側だからである。なお、本実施の形態においても、第3の実施の形態と同様に、第2の実施の形態で説明したギャップ材51をコイル11の内周側に配置するようにしてもよい。
【0077】
(第5の実施の形態)
上述した第1乃至第4の実施の形態では、コイル11の巻軸に沿った方向の磁界に着目したが、本実施の形態では、コイル11の巻軸に垂直な方向(径方向)の磁界に着目する。そして、本実施の形態では、コイル11の内周側及び外周側に、それぞれ端面よりも外側に張り出す圧粉コアをそれぞれ配置する。また、コイル11としてフラットワイズコイルを用いる。換言すると、
図39に示すように、コイル部品をコイルの巻軸とコア内を周回する磁路とを含む平面で切断した断面において、コイル11の周囲(コイル部品の断面に見られる2つのコイル断面の各々の周囲)を内周面、外周面及び端面に沿った4本の直線31〜34で8つの領域41〜48に区分したとき、角に位置する4つの領域41,43,45,47に夫々圧粉コア(第1コア部材、高μ)を配置する。また、コイル11の内周面の内側に位置する領域42及び外周面の外側に位置する領域46の各々にも圧粉コア(第2コア部材、高μ)を配置する。さらに、端面の外側に位置する領域44,48にそれぞれ注型コア(第3コア部材、低μ)を配置する。領域42に配置される圧粉コアは、隣接する領域41及び43にそれぞれ配置されている圧粉コアと一体に形成されてよい。同様に、領域46に配置される圧粉コアは、隣接する領域45及び47にそれぞれ配置されている圧粉コアと一体に形成されてよい。本実施の形態においても、コイル11への磁束漏れは少なく、交流銅損の低減効果が得られる。
【0078】
(第6の実施の形態)
第5の実施の形態によるリアクトルの内周側コア12と外周側コア13とを注型コアに置換する。即ち、
図40に示すように、コイル部品をコイルの巻軸とコア内を周回する磁路とを含む平面で切断した断面において、コイル11の周囲(コイル部品の断面に見られる2つのコイル断面の各々の周囲)を内周面、外周面及び端面に沿った4本の直線31〜34で8つの領域41〜48に区分したとき、角に位置する4つの領域41,43,45,47に夫々圧粉コア(第1コア部材、高μ)を配置する。また、コイル11の内周面の内側に位置する領域42及び外周面の外側に位置する領域46の各々の少なくとも一部に注型コア(第2コア部材、低μ)を配置する。さらに、端面の外側に位置する領域44,48にそれぞれ注型コア(第3コア部材、低μ)を配置する。領域42,46における残りの部分には、圧粉コアを配置する。領域42,46の各々において、通常、注型コアは一対の圧粉コアに挟まれるように配置される。領域42,46に配置される圧粉コアは、隣接する領域41,43,45,47のいずれかに配置されている圧粉コアと一体に形成されてよい。本実施の形態においても、コイル11への磁束漏れは少なく、交流銅損の低減効果が得られる。
【0079】
以上、本発明についていくつかの実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の変更、変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、コイル11として平角線を巻回したエッジワイズコイル又はフラットワイズコイルを用いたが、コイル11は、角線や丸線を巻回したコイルであってもよい。また、コイルの巻列の数及び層の数はそれぞれ2以上であってもよい。但し、端面側コア14,15として圧粉コアを用いる場合、コイルの巻列の数は10以下が好ましく、2以下が特に好ましい。同様に、コイルの内周面内側及び外周面外側に、夫々端面の外側に張り出す圧粉コアを用いた場合、コイルの層数は10以下が好ましく、2以下が特に好ましい。また、上記実施の形態では、コイルの周囲の領域を内周面、外周面及び端面に沿った直線で8分割したが、多少のずれがあってもよい。例えば、
図28において、角に位置する4つの領域は、それぞれ注型コア(低μ)側(上下方向)に突き出してもよい。この場合、突き出し量は、圧粉コアの上下方向の厚みの10%以内が望ましい。突き出し量が多くなると、コイルの角部分において磁束の漏れ(コイルと鎖交しない磁路の形成)が生じ易くなるからである。なお、突き出し部分は、組み付け時の位置合わせ等に利用できる。また、本発明のコイル部品は、リアクトル、特に車載用リアクトルに適しているが、他のコイル部品にも適用できる。