特許第6552371号(P6552371)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552371
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】超電導ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/02 20060101AFI20190722BHJP
   H01L 39/04 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   H01B12/02
   H01L39/04
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-198579(P2015-198579)
(22)【出願日】2015年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-110996(P2016-110996A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2018年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-246090(P2014-246090)
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】大屋 正義
(72)【発明者】
【氏名】南野 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】本庄 昇一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 修
(72)【発明者】
【氏名】中野 哲太郎
(72)【発明者】
【氏名】三村 智男
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−140764(JP,A)
【文献】 特開2010−238427(JP,A)
【文献】 米国特許第04176238(US,A)
【文献】 国際公開第2015/133204(WO,A1)
【文献】 特開2008−287896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導導体層と、前記超電導導体層の外周に電気絶縁層を介して設けられる接地層とを備える複数のケーブルコアと、
前記複数のケーブルコアを収納すると共に液体冷媒が充填される内管と、前記内管の外周に設けられて、前記内管との間に断熱層を形成する外管とを含む断熱管とを備え、
各ケーブルコアは、前記接地層の外周に個別耐アーク層を備え、
前記ケーブルコアの外周と前記外管の内周との間には、前記複数のケーブルコアを一括して覆う包括耐アーク層を備え、
各個別耐アーク層は、隣り合うケーブルコアの個別耐アーク層を合わせることで、これらケーブルコア間のアーク放電を遮断するように構成され、
前記包括耐アーク層は、前記各ケーブルコアの個別耐アーク層と合わせることで、前記各ケーブルコアから前記断熱管へのアーク放電を遮断するように構成される超電導ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電路などに利用される超電導ケーブルに関する。特に、地絡などの事故時にケーブル外へのアーク放電を防止できる上に、小型な超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは、小型でありながら、大容量の電力を低損失で送電可能なことから、省エネルギー技術として期待されている。超電導ケーブルは、超電導導体層を有するケーブルコアと、ケーブルコアを収納し、超電導導体層を超電導状態に維持する液体窒素などの液体冷媒が充填される断熱管とを備える構成が代表的である。超電導ケーブルには、一つの断熱管内に1本のケーブルコアのみが収納された単心ケーブルと、一つの断熱管内に複数のケーブルコアが収納された多心一括ケーブルとがある(特許文献1)。
【0003】
上記ケーブルコアは、代表的には、内側から順に、フォーマと、超電導導体層と、電気絶縁層と、接地されてシールド層などに利用される外側超電導層と、外側超電導層を機械的に保護する保護層とを備える(特許文献1)。上記断熱管は、代表的には、内管及び外管を備える二重構造の真空断熱管である(特許文献1)。内管及び外管には、ステンレス鋼管などの金属管が利用される。
【0004】
その他、特許文献1は、短絡や地絡などの事故時に事故電流を分流するために、超電導導体層を支持するフォーマを銅などの常電導材料によって構成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−044564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超電導ケーブル自体に地絡などの事故が生じたときに、ケーブル外へのアーク放電を防止することが望まれる。好ましくはアーク放電による断熱管の損傷を防止できること、仮に断熱管がある程度損傷しても、液体冷媒がケーブル外に漏出することを防止できることが望まれる。また、多心一括ケーブルでは、アーク放電による各ケーブルコア間の短絡を防止できることも望まれる。
【0007】
特許文献1は、上述のように短絡や地絡などの事故が生じた場合に事故電流を流せる構成を開示している。この事故電流とは、超電導ケーブルの周囲に布設され得る架空送電線などの常電導ケーブルに短絡事故などが生じ、この事故に起因して超電導ケーブルに瞬間的に流れ得る過大な電流を想定している。上記の構成は、超電導ケーブル自体は健全であることを前提として、上記の過大な電流を流すためのものである。超電導ケーブル自体にも地絡などの事故が生じ得ることから、その対策が望まれる。
【0008】
超電導ケーブル自体に地絡などの事故が発生して、電気絶縁破壊が生じた場合、高電位である超電導導体層から、接地されてゼロ電位である外側超電導層などの接地層にアーク放電が生じる可能性がある。このアーク放電が断熱管の内管にまで達すると、内管に孔が開く恐れがある。内管に孔が開けば、内管と外管との間に形成される真空断熱層に液体冷媒が漏れて真空を維持できなくなったり、断熱を十分に行えず液体冷媒が気化し、この気化時の体積膨張によって断熱管が破損したりするなどの恐れがある。また、上述のアーク放電によって、内管だけでなく外管にも孔が開く恐れがある。外管に孔が開けば、アーク放電がケーブル外の導電部材に達したり、液体冷媒がケーブル外に漏出したりする恐れがある。
【0009】
更に、特許文献1に記載されるような多心一括ケーブルの場合、一つの断熱管に収納されるケーブルコア同士が近接している。そのため、一つの断熱管に収納される複数のケーブルコアのうち、あるケーブルコアが絶縁破壊してアーク放電が発生した場合に、隣接するケーブルコアにアーク放電が達し、ケーブルコア同士が短絡する恐れもある。
【0010】
一方、上述の断熱管の損傷や液体冷媒の漏出、短絡などを防止できながらも、ケーブル径が小さく、小型な超電導ケーブルが望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的の一つは、超電導ケーブル自体に地絡などの事故が生じたときに、ケーブル外へのアーク放電を防止できる上に、小型な超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る超電導ケーブルは、超電導導体層と、前記超電導導体層の外周に電気絶縁層を介して設けられる接地層とを備える複数のケーブルコアと、前記複数のケーブルコアを収納すると共に液体冷媒が充填される内管と、前記内管の外周に設けられて、前記内管との間に断熱層を形成する外管とを含む断熱管とを備える。
各ケーブルコアは、前記接地層の外周に個別耐アーク層を備える。
前記ケーブルコアの外周と前記外管の内周との間には、前記複数のケーブルコアを一括して覆う包括耐アーク層を備える。
各個別耐アーク層は、隣り合うケーブルコアの個別耐アーク層を合わせることで、これらケーブルコア間のアーク放電を遮断するように構成される。
前記包括耐アーク層は、前記各ケーブルコアの個別耐アーク層と合わせることで、前記各ケーブルコアから前記断熱管へのアーク放電を遮断するように構成される。
【発明の効果】
【0013】
上記の超電導ケーブルは、地絡などの事故時にケーブル外へのアーク放電を防止できる上に、小型である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1の超電導ケーブルの概略を示す横断面である。
図2】実施形態2の超電導ケーブルの概略を示す横断面である。
図3】実施形態3の超電導ケーブルの概略を示す横断面である。
図4】実施形態4の超電導ケーブルの概略を示す横断面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る超電導ケーブルは、超電導導体層と、上記超電導導体層の外周に電気絶縁層を介して設けられる接地層とを備える複数のケーブルコアと、上記複数のケーブルコアを収納すると共に液体冷媒が充填される内管と、上記内管の外周に設けられて、上記内管との間に断熱層を形成する外管とを含む断熱管とを備える。
各ケーブルコアは、上記接地層の外周に個別耐アーク層を備える。
上記ケーブルコアの外周と上記外管の内周との間には、上記複数のケーブルコアを一括して覆う包括耐アーク層を備える。
各個別耐アーク層は、隣り合うケーブルコアの個別耐アーク層を合わせることで、これらケーブルコア間のアーク放電を遮断するように構成される。
上記包括耐アーク層は、上記各ケーブルコアの個別耐アーク層と合わせることで、上記各ケーブルコアから上記断熱管へのアーク放電を遮断するように構成される。
【0016】
上記の超電導ケーブルは、各ケーブルコアが接地層の外周に個別耐アーク層を備えると共に、断熱管の外管よりも内側の領域(外管の内周面を含む)に複数のケーブルコアをまとめて囲むように包括耐アーク層を備える。これら両耐アーク層によって、上記の超電導ケーブルは、自身に地絡などの事故が生じた場合に、この事故に起因するアーク放電がケーブル外に達することを防止できる。従って、上記の超電導ケーブルは、上記アーク放電による断熱管の損傷を防止できる、又は断熱管の損傷をある程度許容するものの、ケーブル外に液体冷媒が漏出することを防止できる。
【0017】
詳しくは、断熱管に収納される複数のケーブルコアのうち、あるケーブルコアの電気絶縁層が絶縁破壊して、超電導導体層から接地層に向かってアーク放電が発生しても、接地層と断熱管との間には、このケーブルコアの個別耐アーク層と包括耐アーク層との双方が介在する。
例えば、包括耐アーク層が内管の内側に存在すれば、このアーク放電が断熱管の内管に達することを両耐アーク層によって実質的に遮断でき、内管に孔が開くといった断熱管の損傷を防止できる。
包括耐アーク層が内管の外側(特に、内管の外周面上)、又は外管の内側(特に、外管の内周面上)、又は内管と外管との間の内部空間に存在すれば、個別耐アーク層によって内管へのアーク放電を低減でき、仮に内管に孔が開いても、両耐アーク層によって、外管へのアーク放電を実質的に遮断でき、外管に孔が開くといった断熱管の損傷を防止できる。
このように両耐アーク層を備える上記の超電導ケーブルは、ケーブル外へのアーク放電を防止できる。
【0018】
また、上記の超電導ケーブルは、多心一括ケーブルであり、隣接するケーブルコア同士の間には、これら2心分の個別耐アーク層が介在する。この2心分の個別耐アーク層を合わせることで、上記隣接するケーブルコア間のアーク放電を実質的に遮断できる。そのため、上記の超電導ケーブルは、複数のケーブルコアのうち、一つのケーブルコアからのアーク放電によって、隣接するコア同士が短絡することも防止できる。
【0019】
かつ、上記の超電導ケーブルは、各ケーブルコアの個別耐アーク層の厚さ、及び複数のケーブルコアに対して一括して備える包括耐アーク層の厚さを、ケーブルコアにのみ耐アーク層を備える場合や断熱管にのみ耐アーク層を備える場合に比較して、薄くできるため、小型である。
例えば、各ケーブルコアに備える個別耐アーク層の厚さは、単独ではアーク放電を十分に遮断できずに短絡が生じ得るが、二つの個別耐アーク層を合計すればアーク放電を実質的に遮断できる厚さとすることができる。また、各個別耐アーク層の厚さ及び包括耐アーク層の厚さは、個別耐アーク層又は包括耐アーク層のみを備える場合にはアーク放電を十分に遮断できずにケーブル外にアーク放電が達する恐れがあるが、個別耐アーク層と包括耐アーク層との双方を備えて、これら両耐アーク層を合計すればアーク放電を実質的に遮断できる厚さとすることができる。
上記の超電導ケーブルは、このように個別耐アーク層と包括耐アーク層との双方を備えることで、各耐アーク層の厚さを薄くできるため、両耐アーク層の具備によるケーブル径の増大を低減できる。
【0020】
(2)上記の超電導ケーブルの一例として、上記個別耐アーク層及び上記包括耐アーク層は、高性能・高機能繊維、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、シリコーン樹脂、アミノ樹脂、アラミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリレート樹脂、シリコーンゴム及び金属から選択される1種以上の材料(以下、高耐アーク材料と呼ぶことがある)から構成される形態が挙げられる。
【0021】
高性能・高機能繊維とは、例えば、高強度繊維、高強度・高弾性率繊維、高耐熱性繊維、不燃性繊維などが挙げられる。高強度繊維は、引張強さが1GPa以上程度を有する非金属繊維が挙げられる。高強度・高弾性率繊維は、引張強さが2GPa程度以上、弾性率が50GPa程度以上を有する非金属繊維であって、スーパー繊維と呼ばれるものなどが挙げられる。カーボンやガラス、金属化合物といったセラミックスなどの非金属無機材料から構成される無機繊維、樹脂といった有機材料から構成される有機繊維が挙げられる。
【0022】
上記高耐アーク材料はいずれも、耐アーク性に優れる。上記の形態は、個別耐アーク層及び包括耐アーク層のいずれもが高耐アーク材料で構成されるため、ケーブル外へのアーク放電をより確実に防止できる上に、各耐アーク層の厚さをより薄くし易く、より小型である。
【0023】
(3)上記の超電導ケーブルの一例として、上記包括耐アーク層が上記(2)に記載の材料(高耐アーク材料)から構成されるテープ材が巻回されてなり、上記複数のケーブルコアを一括する巻回層を含む形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、包括耐アーク層を容易に形成できて製造性に優れる上に、包括耐アーク層によって複数のケーブルコアを一つのコア集合体とすることができて取り扱い易い。巻回層は、例えば、テープ材をギャップ巻きした多層構造とすると共に、巻方向が異なる層を含むと、即ちS巻層及びZ巻層を含むと、断熱管へのアーク放電を低減しつつ、液体冷媒の含浸経路を確保できて、超電導ケーブルの製造性にも優れる。
【0025】
(4)上記の超電導ケーブルの一例として、上記包括耐アーク層が、引張強さが1GPa以上である高性能・高機能繊維から構成される高強度層を含み、上記内管の内側に備える形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、個別耐アーク層及び包括耐アーク層を備えることで、上述のように地絡などの事故時にケーブル外へのアーク放電を防止できる上に小型であり、更には、包括耐アーク層の少なくとも一部に高強度層を備えることで強度にも優れる。特に、高強度層が、ケーブルコアを断熱管に引き込む際の張力に耐え得る程度の強度を有する繊維で構成されている場合には、この高強度層を引き込み用のテンションメンバに利用できる。上記形態は、内管の内側に備える包括耐アーク層をテンションメンバに兼用でき、別の高張力材を省略できる又は高張力材の構成材料を低減できるため、小型である上に、超電導ケーブルの製造性などに優れる。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の具体例を説明する。図において同一符号は同一名称物を示す。図1図4に示す断熱管2A〜2Dは二重構造のコルゲート管であり、内管21では、最小径部分を断面で示し、図1図2図4では更に最大径部分の外側の輪郭線を細線で示し、外管22では、最大径部分を断面で示し、図1図3では更に最小径部分の内側の輪郭線を細線で示す。
【0028】
[実施形態1]
図1を参照して、実施形態1の超電導ケーブル1Aを説明する。
・全体構成
実施形態1の超電導ケーブル1Aは、図1に示すように、超電導導体層12、電気絶縁層13、接地層14を備える複数のケーブルコア10(以下、コア10と呼ぶことがある)と、複数のコア10を収納する断熱管2Aとを備える多心一括ケーブルである。この例ではコア10a,10b,10cを備える3心一括ケーブルである。超電導ケーブル1Aは、布設されて送電路を構築する。
【0029】
各ケーブルコア10はいずれも同様の構成であり、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、電気絶縁層13、接地層14を備える。断熱管2Aは、内管21と外管22とを備える二重構造の真空断熱管である。超電導ケーブル1Aは、超電導導体層12と電気絶縁層13との双方が断熱管2Aに収納されて、液体窒素などの液体冷媒Lで冷却される低温絶縁型のケーブルである。超電導ケーブル1Aの基本的構成は、従来の超電導ケーブルに類似する。実施形態1の超電導ケーブル1Aは、各コア10が接地層14の外周に個別耐アーク層30を備える点、これら複数のコア10を一括して覆う包括耐アーク層32を備える点をそれぞれ特徴の一つとする。この例の包括耐アーク層32は、複数のコア10に接して、その外周直上に設けられており、これら複数のコア10は、包括耐アーク層32によって一つにまとめられてコア集合体10Aをなす。以下、各要素の機能や代表的な構成などを簡単に説明し、耐アーク層30,32を詳細に説明する。
【0030】
・ケーブルコア
・・フォーマ
フォーマ11は、超電導導体層12を支持する支持部材である。具体例として、管材などの中空体や、複数の素線を撚り合わせた撚り線、複数の撚り線を更に撚り合わせた撚り合せ体などの中実体などが挙げられる。主たる構成材料は、銅やアルミニウム、その合金といった常電導材料が挙げられる。上記素線は、金属導体線が絶縁被覆で覆われた被覆線が挙げられる。
【0031】
・・超電導導体層
超電導導体層12は、フォーマ11の外周に複数の超電導線材を巻回して形成された線材層が挙げられる。超電導線材は、Bi2223といったビスマスを含む酸化物系銀シース線材や、RE123といった希土類元素を含む酸化物系薄膜線材などのテープ状線材が挙げられる。線材層や線材の使用本数などは、所定の電力量に応じて選択できる。線材層は、多層、単層のいずれも利用できる。多層の場合、絶縁紙などを巻回した層間絶縁層(図示せず)を設けることができる。
【0032】
・・電気絶縁層
電気絶縁層13は、超電導導体層12とその外側に配置された接地層14との間に介在し、両者の電気的絶縁を確保する。電気絶縁層13は、クラフト紙や、樹脂とクラフト紙とを含む半合成紙などの絶縁紙を超電導導体層12の外周に巻回して形成された巻回層が挙げられる。半合成紙は、ポリプロピレン樹脂とクラフト紙とを含むもの、例えば、PPLP(Polypropylene Laminated Paper)(登録商標)が挙げられる。電気絶縁層13内外に半導電層(図示せず)を設けることができる。
【0033】
・・接地層
接地層14は、超電導導体層12の外周に電気絶縁層13を介して設けられ、接地電位をとるための導電部である。接地層14は、上述の超電導線材、銅などの常電導材料からなる線材やテープ材、編組材などを適宜巻回して形成された巻回層が挙げられる。接地層14が超電導線材によって形成されている場合、接地層14を、交流送電では超電導シールド層に利用できる。
【0034】
電気絶縁層13の外周に、超電導線材によって形成された外側超電導層を設け、別途、常電導材料によって形成された接地層14を設けることができる。この場合、外側超電導層は、上述のように超電導シールド層などに利用できる。外側超電導層と常電導材料の接地層14との間には層間絶縁層を設けることができる。
【0035】
・・接地層の外周に設けられる層
ここで、従来のケーブルコアは、超電導線材などの導電材料で構成される接地層14の機械的保護、この接地層14と金属で構成される断熱管2Aとの間の電気的絶縁などを目的として、接地層14の外周に保護層を設けている。これらの目的から、従来のケーブルコアでは、保護層をクラフト紙などの電気絶縁材料で構成している。実施形態1の超電導ケーブル1Aは、超電導ケーブル1A自身に地絡などの事故が生じた場合に、あるケーブルコア10の電気絶縁層13が絶縁破壊して超電導導体層12から接地層14にアーク放電が発生し、更にはこのアーク放電が近接する別のコア10に達したり、断熱管2Aに達したりすることを低減するために、接地層14の外周に個別耐アーク層30を備える。
個別耐アーク層30は、上記保護層の機能を兼備する形態の他、機械的保護及び電気的絶縁などを目的とする保護層(図示せず)を別途備える形態とすることができる。
保護層の構成材料は、クラフト紙などの絶縁紙、綿などの布、PPLPといった半合成紙などの絶縁材が挙げられる。保護層は、これら絶縁材からなるテープ材が巻回されてなる巻回層が挙げられる。
【0036】
仮に、各ケーブルコア10に個別耐アーク層30のみを備える場合を考える。
上記地絡などの事故時に各コア10から断熱管2Aへのアーク放電の遮断に必要な各個別耐アーク層30の最小厚さをtとし、仮に、各個別耐アーク層30の厚さをtとする。隣接するコア10間(例えばコア10a,10b間など)には、これら2心分の個別耐アーク層30,30が介在して、合計厚さが2×tとなる。この厚さ2×tの耐アーク層は、隣接するコア10間でのアーク放電の遮断に必要な最小厚さtに対して、過剰である。従って、各コア10にのみ耐アーク層を備える構成では、その厚さをある程度厚くするために、コア径の増大、更にケーブル径の増大、ひいては超電導ケーブル1Aの大型化を招く。
【0037】
実施形態1の超電導ケーブル1Aでは、ケーブルコア10と断熱管2A間のアーク放電の遮断とコア10間のアーク放電の遮断との両立にあたり、各個別耐アーク層30の厚さを厚くするのではなく、別途、包括耐アーク層32を備える。両耐アーク層30,32を備えることで、各耐アーク層30,32の厚さを薄くすることができ、コア径、更にケーブル径を小さくでき、小型な超電導ケーブル1Aとする。
詳しくは、各個別耐アーク層30は、各コア10の接地層14の外周に設けられて、隣り合うコア10、例えばコア10a,10bの個別耐アーク層30,30を合わせることで、これらコア10a,10b間のアーク放電を遮断するように構成される。
包括耐アーク層32は、複数のコア10の外周と断熱管2Aの外管22の内周との間に設けられて、各コア10、例えばコア10aの個別耐アーク層30と合わせることで、コア10aから断熱管2Aへのアーク放電を遮断するように構成される。
複数のコア10の外周と外管22の内周との間とは、具体的には、内管21の内周面を含む内側、内管21の外周面を含む外側、外管22の内周面を含む内側、内管21と外管22との間の空間が挙げられる。この例の包括耐アーク層32は、内管21の内側であり、特に複数のコア10の直上に位置する。
【0038】
・耐アーク層
・・材質
各ケーブルコア10に備える個別耐アーク層30は、上述のように地絡などの事故時に超電導導体層12から接地層14を経て、近接する別のコア10へのアーク放電や断熱管2Aへのアーク放電をある程度低減できる耐アーク性、又は耐トラッキング性、又は耐熱性を有していればよい。但し、複数のコア10のうち、近接する二つのコア10の個別耐アーク層30,30を合わせることで、これらのコア10間のアーク放電を実質的に遮断できる程度の耐アーク性、又は耐トラッキング性、又は耐熱性などを有することとする。かつ、各個別耐アーク層30と、包括耐アーク層32とを合わせることで、各コア10と断熱管2A間のアーク放電を実質的に遮断できる程度の耐アーク性、又は耐トラッキング性、又は耐熱性などを有することとする。
【0039】
耐アーク層30,32の構成材料は、耐アーク性や耐トラッキング性に優れる高耐アーク材料を含むことが好ましい。ここでの高耐アーク材料とは、以下に説明する樹脂といった有機材料、炭素系材料やガラス、セラミックスなどの非金属無機材料、非金属材料(有機材料、無機材料)からなる繊維、金属などである。
【0040】
高耐アーク材料のうち、具体的な有機材料は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂に代表されるフッ素樹脂、シリコーン樹脂、アミノ樹脂、アラミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアクリレート樹脂から選択される1種以上の樹脂、シリコーンゴムといったゴムなどが挙げられる。アミノ樹脂の具体例として、尿素樹脂(ユリア樹脂)、メラミン樹脂、アニリン樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、耐アーク性や耐トラッキング性に優れる。ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂について、以下の耐アーク性試験を行った場合の耐アーク性(秒)、耐トラッキング性の代表値を表1に示す。
【0041】
耐アーク性試験は、列挙した非金属材料のうち、有機材料などの電気絶縁材料からなる試験片の上に2本のタングステン電極を対向して置き、この対向配置の状態で高電圧、微小電流のアークを飛ばして、試料表面が炭化して、電気絶縁性が無くなるまでの時間(秒)を測定する(JIS K 6911(1995年)、5.15 耐アーク性、参照)。試験条件は、例えば、電圧が12,500V、電流が10mA以上40mA以下、が挙げられる。超電導ケーブル1Aの使用電流などに応じて、試験条件を調整することができる。測定した時間(秒)が長いほど、耐アーク性に優れる。
【0042】
耐トラッキング性は、アーク劣化を測定する耐トラッキング性試験法によって評価できる。具体的な試験法は、IEC法(International Electrotechnical Commission)、DIN法(Deutsches Institut fur Normung)、Dust Fog法、高電圧微小電流耐アーク試験法、Differential Wet法、Dip Track法などが挙げられる。
【0043】
【表1】
【0044】
高耐アーク材料のうち、非金属材料からなる繊維として、例えば、アラミド繊維などの樹脂(有機材料)からなる繊維(有機繊維)、カーボン繊維やガラス繊維、セラミックス繊維などの無機材料からなる繊維(無機繊維)が挙げられる。特に、強度や剛性などの機械的特性に優れていたり、耐熱性や難燃性に優れていたりする高性能・高機能繊維などが挙げられる。高性能・高機能繊維は、特に強度に優れる高強度繊維、スーパー繊維などと呼ばれて特に強度や剛性に優れる高強度・高弾性率繊維、特に耐熱性や難燃性に優れる高耐熱性繊維などが挙げられる。
【0045】
高強度繊維、高強度・高弾性率繊維は、例えば、パラ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール(PBO)繊維、カーボン繊維などが挙げられる。
高耐熱性繊維は、例えば、メタ系アラミド繊維、PPS繊維、PI繊維、フッ素繊維などが挙げられる。
不燃性繊維は、例えば、ガラス繊維、セラミックス繊維などが挙げられる。
ガラス繊維の構成材料は、代表的には、シリカ(SiO)が挙げられる。セラミックス繊維などを構成するセラミックスは、金属酸化物、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ホウ素、その他、金属炭化物や金属窒化物などが挙げられる。シリカとセラミックスとを含む繊維、例えば、シリカとアルミナとを含むセラミックス繊維や、複数種のセラミックスを含む繊維、例えば、シリカと酸化ホウ素とアルミナとを含むセラミックス繊維などが挙げられる。
ガラス繊維やセラミックス繊維は、耐アーク性により優れる耐アーク層を形成できる。そのため、各耐アーク層30,32の厚さやこれらの合計厚さなどをより薄くできる。アラミド繊維は、強度にも優れる耐アーク層を形成できる。従って、耐アーク層30,32の構成材料には、ガラス繊維、セラミックス繊維、及びアラミド繊維の少なくとも一種の高耐アーク材料を含むことが好ましい。ガラス繊維及びセラミックス繊維の少なくとも一方と、アラミド繊維とを含むことができる。
【0046】
耐アーク層の構成材料が樹脂や樹脂繊維、ゴムを含む場合、適宜な充填材や配合剤を樹脂やゴムに添加すると、樹脂単体やゴム単体の場合に比較して、耐アーク性や強度などの機械的特性に優れることがある。充填材や配合剤は、樹脂の成分やゴムの成分に応じて適宜選択でき、以下のような無機材料などが挙げられる。
シリコーン樹脂やシリコーンゴムに対して耐アーク性向上の充填材として、アルミナ三水和物などのアルミナ系化合物などが挙げられる。シリコーン樹脂やシリコーンゴムに対して強度などの向上の充填材として、シリカ(酸化珪素)などが挙げられる。PPS樹脂やPPS繊維の配合剤として、以下の分解吸熱フィラーや、ポリマーが完全燃焼したときに二酸化炭素と水になることを促進する炭化抑制剤などが挙げられる。分解吸熱フィラーの構成材料は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸亜鉛などが挙げられる。充填材や配合剤は、公知のものを利用できる。
【0047】
高耐アーク材料のうち、具体的な金属は、鉛、ステンレス鋼・ニッケル・鉄などといった鉄族元素を含む鉄系金属などが挙げられる。耐アーク層30,32の構成材料には、上述の有機材料のような電気絶縁材料だけではなく、金属といった導電性を有する無機材料でも利用できると期待される。断熱管2A自体を厚くするのではなく、別途、包括耐アーク層32を備えることで、耐アーク性に優れる材料を利用したり、包括耐アーク層32の形成位置を選択したりでき、設計の自由度を高められる。また、耐アーク性に優れる材料で包括耐アーク層32を構成することで、断熱管2A自体の厚さを薄くでき、小型化に寄与できる。
【0048】
その他の耐アーク層30,32の構成材料として、異なる材料を複合した複合材料、例えば、上述の樹脂と上述の繊維とを含む繊維強化樹脂などが挙げられる。
【0049】
耐アーク層30,32の構成材料が同種である形態の他、少なくとも一部が異なる形態とすることができる。例えば、耐アーク層30,32の少なくとも一方を後述するような多層構造の耐アーク層とする場合、一方の耐アーク層に含む少なくとも一層の構成材料と、他方の耐アーク層の構成材料とが異なる形態が挙げられる。
【0050】
・・形態
耐アーク層30,32の少なくとも一方は、上述の有機材料や無機材料、好ましくは高耐アーク材料から構成されるテープ材(シート材を含む)が巻回されてなる巻回層を含むと、耐アーク層30,32を容易に設けられて製造性に優れる。耐アーク層30,32の全体が実質的に巻回層で構成された形態とすることができる。
個別耐アーク層30がテープ材の巻回層である場合、例えば、所望の厚さや幅のテープ材を用意して、接地層14の外周などに巻回することで、所望の厚さの個別耐アーク層30を容易に形成できる。
包括耐アーク層32がテープ材の巻回層である場合、例えば、個別耐アーク層30を備えるケーブルコア10を複数集めて、又は適宜撚り合わせて、その外周に所望の厚さや幅のテープ材を巻回することで、所望の厚さの包括耐アーク層32を容易に形成できる。
この例のように、複数のコア10間を渡るように包括耐アーク層32を備える場合、包括耐アーク層32は、複数のコア10を一括する巻回層を含むと形成し易い。
【0051】
耐アーク層30,32が多層構造である場合に上述の巻回層であると容易に形成できる。多層の巻回層は、ギャップ巻きの多層構造とすると共に、少なくとも一層は巻方向が異なること、つまりS巻層とZ巻層とを備えることが好ましい。巻方向の変更は、一層ごとでも(即ち、S巻層とZ巻層とが交互に存在する)、複数層ごとでもいずれでもよい。ギャップ巻きの多層構造であって、S巻層とZ巻層との双方を備えることで、S巻層のギャップをZ巻層が覆うため、ギャップが多過ぎたり大き過ぎたりすることなどによるアーク遮断効果の低下を抑制できる。かつ、ギャップ巻きの多層構造であって、S巻層とZ巻層との双方を備えることで、上述の樹脂や金属といったテープ材を利用する場合であっても、液体冷媒Lの流路を十分に確保できる。そのため、超電導ケーブル1Aの断熱管2A内に液体冷媒Lを導入して、ケーブルコア10に液体冷媒Lを含浸させるときに含浸時間の短縮を図ることができる。テープ材の厚さや幅、巻回層のギャップや巻回ピッチなどの仕様は適宜選択できる。耐アーク層30,32の双方に巻回層を含む場合、個別耐アーク層30に用いるテープ材の仕様と包括耐アーク層32に用いるテープ材の仕様とが同じ形態、少なくとも一つの仕様が異なる形態とすることができる。
【0052】
上述の繊維は、織物や編組材、不織布のいずれの形態も利用できる。いずれの形態も、緻密にすることでアーク放電を遮断し易い。緻密な繊維テープ材を用いる場合でも、上述のようにギャップ巻きの多層構造であって、S巻層とZ巻層との双方を備えることで、液体冷媒Lの流路を十分に確保できる。緻密度合いによっては、ギャップ巻ではなく重ね巻などとすることで、アーク放電を遮断しつつ、液体冷媒Lの流路を確保できる。アークの遮断・低減と液体冷媒Lの流路の確保とを両立するように、織物や不織布などの緻密度合いやテープ材の厚さ、巻回層のギャップなどを設定すればよい。
【0053】
耐アーク層30,32の少なくとも一方は、構成材料が異なるテープ材の巻回層や、形態が異なるテープ材(例えば、樹脂テープ材と繊維テープ材、織物テープ材と不織布テープ材など)の巻回層を組み合わせた多層構造とすることができる。例えば、上記樹脂からなるテープ材の巻回層、上記繊維からなるテープ材の巻回層、及び上記金属からなるテープ材の巻回層から選択される二種以上の巻回層を組み合わせて備える形態が挙げられる。
【0054】
複数の異なる材料から構成される多層構造の個別耐アーク層30の具体例として、内周側から順に、上述のPPLPといった半合成紙から形成される半合成紙層と、ガラス繊維及びセラミックス繊維の少なくとも一方から形成される無機繊維層と、アラミド繊維から形成される有機繊維層とを含む形態が挙げられる。
半合成紙層は、金属テープ材や金属線などで構成される接地層14の表面を平滑にしたり、金属テープ材などを押えたり、ガラス繊維による接地層14の損傷を防止したりして、無機繊維層の下地層として機能する。また、半合成紙層は保護層としても機能する。特に、PPLPなどの半合成紙は、例えばクラフト紙などの絶縁紙よりも耐アーク性に優れるため、耐アーク層30,32の合計厚さを薄くして、ケーブルコア10の小径化に寄与する。
無機繊維層がガラス繊維で構成される場合には、ガラス繊維は難燃性に優れるため、耐アーク性に優れる耐アーク層の構築に寄与する。無機繊維層がセラミックス繊維で構成される場合には、セラミックス繊維はガラス繊維よりも耐アーク性に優れるため、耐アーク性により優れる耐アーク層の構築に寄与する。無機繊維層がガラス繊維とセラミックス繊維との双方を含む場合には、耐アーク性に一層優れる耐アーク層とすることができる。
有機繊維層は、無機繊維層と共に備えることで耐アーク性を更に高められると共に、アラミド繊維、特にパラ系アラミド繊維といった高強度・高弾性率繊維で構成されることで、機械的強度をも高められる。
無機繊維層や有機繊維層は、テープ材の巻回層、シート材の接合層、繊維を含む複合材料の押出層などが挙げられる。
【0055】
耐アーク層30,32に加えて、各層30,32の下(個別耐アーク層30の場合には接地層14の上)、又は各層30,32上、又は各層30,32を上下に挟むようにクラフト紙などの絶縁紙、綿などの布、PPLPといった半合成紙などからなる絶縁テープ材の巻回層を含むことができる(上述の多層構造の具体例も参照)。耐アーク層30,32が金属テープ材の巻回層などの金属層を含む場合には、その内周や外周に上記絶縁テープ材の巻回層を備えると、金属層に近接配置される金属部材、例えば別の耐アーク層に含まれる金属層、断熱管2Aの内管21や外管22との間の電気絶縁性を高められて好ましい。絶縁テープ材の巻回層の厚さは1mm以下程度であると、小型な超電導ケーブル1Aとし易い。
【0056】
その他、特に、後述する実施形態2〜4のように包括耐アーク層32を断熱管2Aの内管21の内周面又は外周面、又は外管22の内周面に接して備える場合には、包括耐アーク層32は、上述の有機材料や無機材料、高耐アーク材料などの塗布層、押出層、適宜な接合材を介してテープ材やシート材が接合されてなる接合層などを含むことができる。
【0057】
・・厚さ
耐アーク層30,32は、厚いほどアーク放電を遮断し易いが、厚過ぎるとコア径の増大、この例ではコア集合体10Aの大型化、ひいては超電導ケーブル1Aの大型化を招く。各個別耐アーク層30の厚さ及び包括耐アーク層32の厚さは、近接する二つのケーブルコア10,10の個別耐アーク層30,30の合計厚さが両コア10,10間のアーク放電を実質的に遮断できる厚さとなり、かつ、各個別耐アーク層30と包括耐アーク層32との合計厚さが各コア10と断熱管2A間のアーク放電を実質的に遮断できる厚さとなるように調整する。耐アーク層の材質などにもよるが、上述の高耐アーク材料のうち、樹脂などの非金属材料や繊維、金属から構成される場合には、個別耐アーク層30の厚さは、0.5mm以上10mm以下、更に1mm以上5mm以下、包括耐アーク層32の厚さは、0.1mm以上10mm以下、更に1mm以上5mm以下、両耐アーク層30,32の合計厚さは、1mm以上20mm以下、更に2mm以上10mm以下が挙げられる。耐アーク層30,32の厚さや合計厚さが上述の範囲であれば、小径なコア10や超電導ケーブル1Aとし易い。
【0058】
・・その他の機能
耐アーク層30,32の少なくとも一部に、強度などの機械的特性に優れる繊維、特に上述の高強度繊維や上述の高強度・高弾性率繊維から構成される高強度層を備えることができる。個別耐アーク層30に高強度層を備える場合や、包括耐アーク層32に高強度層を備えると共にこの例のように包括耐アーク層32を内管21の内側に備える場合には、これら高強度層をテンションメンバに利用することができる。両耐アーク層30,32が高強度層を備える場合には、双方の高強度層をテンションメンバに利用できる。
【0059】
高強度層を構成する繊維は、引張強さが1GPa以上である上述の高強度繊維や高強度・高弾性率繊維を好適に利用できる。この程度の強度を有することで、超電導ケーブル1Aの製造にあたり、ケーブルコア10を断熱管2A内に引き込む際に、高強度層を引き込み用のテンションメンバとして好適に利用できる。高強度層を構成する繊維の引張強さは、高いほど好ましく、1.5GPa以上、更に2GPa以上が挙げられる。高強度層の構成材料には、スーパー繊維と呼ばれる非金属繊維を好適に利用できる。耐アーク層30,32の全体又は耐アーク層30,32が主として高強度繊維や、高強度・高弾性率繊維から構成されて、耐アーク層30,32の実質的に全体が高強度層である場合には、耐アーク性に優れる上に、上述の引き込み時の張力に対する強度を十分に有することができる。耐アーク層30,32の一部にのみ高強度層を備える場合には、例えば、他部を耐アーク性により優れる材料で構成することなどができる(上述の無機繊維層と有機繊維層とを備える多層構造の形態参照)。
【0060】
高強度層を、上述のような繊維テープ材を巻回してなる巻回層とする場合、巻回ピッチは比較的長い方が好ましい。具体的な巻回ピッチは、例えば、400mm以上2000mm以下、好ましくは600mm以上1000mm以下が挙げられる。このような比較的長いピッチとすることで、引き込み時に高強度層を引っ張ることで高強度層(巻回層)が巻き締まってケーブルコア10を締め付け、この締め付けによってコア10に過度の力が付与されることを防止できる。また、巻回ピッチが上記範囲を満たすことで、縦添えする場合に比較して、引き込み時の張力に耐え得る十分な強度を有することができる。
【0061】
・断熱管
断熱管2Aは、内管21と、内管21の外周に設けられる外管22とを有する二重構造管であり、内管21と外管22との間に真空断熱層が形成された真空断熱管である。内管21の内部空間は、ケーブルコア10の収納空間であると共に、超電導導体層12や外側超電導層の超電導状態を維持するための液体冷媒Lが充填され、流通される空間(冷媒流路)である。内管21及び外管22は、ステンレス鋼などの金属管であってコルゲート管(本例)やベローズ管とすると可撓性に優れ、フラット管とすると表面積が小さく断熱性に優れる上に、液体冷媒Lの圧力損失を小さくできる。内管21と外管22との間にスーパーインシュレーションといった断熱材25を備えると、より高い断熱性を有する。
【0062】
断熱管2Aの外管22の外側には、ビニルやポリエチレンなどの防食材から構成される防食層24を備える。
【0063】
・製造方法
この例の超電導ケーブル1Aは、代表的には、工場などで、個別耐アーク層30を備えるケーブルコア10を作製し、複数のコア10の外周を覆うように包括耐アーク層32を形成し、得られたコア集合体10Aを断熱管2Aに収納することで製造できる。コア集合体10Aの外周に断熱管2Aを形成したり、別途作製した断熱管2A内にコア集合体10Aを引き込んだりすることで、コア集合体10Aを断熱管2Aに収納した状態にできる。その他、工場などで作製したコア集合体10Aを布設現場に搬送し、布設経路に断熱管2Aを布設した後、この断熱管2A内にコア集合体10Aを収納することでも超電導ケーブル1Aを製造できる。耐アーク層30,32の少なくとも一方が上述の高強度層を含む場合には、工場又は布設現場において、コア集合体10Aを引き込んで断熱管2Aに収納する際に、高強度層をテンションメンバとして利用することで、別途のテンションメンバを省略できる。この場合、部品点数を低減できるため、超電導ケーブル1Aの製造性、布設作業性に優れる。
【0064】
・効果
実施形態1の超電導ケーブル1Aは、断熱管2Aに収納される複数のケーブルコア10のいずれもが個別耐アーク層30を備えると共に、複数のコア10を覆う包括耐アーク層32を備える。換言すれば、超電導ケーブル1Aは、各コアの超電導導体層12と断熱管2Aの内管21との間に両耐アーク層30,32が介在する。そのため、超電導ケーブル1Aは、自身に地絡などの事故が生じて超電導導体層12から接地層14に向かってアーク放電が生じた場合でも、このアーク放電が断熱管2A(内管21)に至らない。即ち、超電導ケーブル1Aは、超電導導体層12から接地層14を経て断熱管2Aに向かおうとするアーク放電を両耐アーク層30,32によって遮断できる。従って、超電導ケーブル1Aは、地絡などの事故時に上記のアーク放電に起因する断熱管2Aの損傷や、この損傷によるケーブル1A外への液体冷媒Lの漏出などを防止できる。
【0065】
また、実施形態1の超電導ケーブル1Aは、多心一括ケーブル(この例では3心一括ケーブル)であり、断熱管2Aに収納される一つのコア10が絶縁破壊して、超電導導体層12から接地層14にアーク放電が生じた場合に、このコア10に隣接する別のコア10に向かうアーク放電を、これら二つのコア10間に介在する両コア10の個別耐アーク層30,30によって遮断できる。従って、超電導ケーブル1Aは、地絡などの事故時に上記のアーク放電に起因して、隣接するコア10,10同士の間で短絡が生じることも防止できる。即ち、地絡事故から短絡事故に移行することを防止できる。
【0066】
かつ、実施形態1の超電導ケーブル1Aは、個別耐アーク層30と包括耐アーク層32との双方を備えることで、いずれか一方のみを備える場合と比較して、各耐アーク層30,32の厚さを薄くできる。その結果、ケーブル径を小さくできる。
【0067】
以上のことから、実施形態1の超電導ケーブル1Aは、自身に地絡などの事故が生じた場合にケーブル1A外へのアーク放電を防止できる上に、小型である。
【0068】
特に、この例の超電導ケーブル1Aは、断熱管2Aの内管21の内側に包括耐アーク層32を備えるため、上述のようにアーク放電による断熱管2Aの損傷が実質的に生じず、ケーブル1A外へのアーク放電をより確実に防止できる上に、液体冷媒Lの漏出も実質的に生じない。
また、この例の超電導ケーブル1Aは、両耐アーク層30,32が上述の高耐アーク材料によって構成されるため、耐アーク性に優れており、両耐アーク層30,32の厚さをより薄くできて、より小型である。
更に、包括耐アーク層32が上述のテープ材の巻回層を含むと、複数のコア10の外周に耐アーク層32を形成し易い上に、複数のコア10をコア集合体10Aにまとめられて取り扱い易い。耐アーク層30,32の少なくとも一方が上述の高強度層を含み、テンションメンバに利用できる場合には、別途のテンションメンバが不要であり、製造性にも優れる。
【0069】
[変形例1]
実施形態1では、包括耐アーク層32がケーブルコア10(コア集合体10A)の長手方向に一様な形状(図1では三角形の枠状)を有する例を説明した。断熱管2Aの内管21の内側に包括耐アーク層32を備える別の例として、包括耐アーク層32がコア10の長手方向に一様な形状を有さない不定形な形態とすることができる。この形態は、例えば、複数のコア10を一括して覆うことが可能な大きさを有し、上述の高強度層を構成可能な材料から構成されるシート材を用意し、このシート材で複数のコア10を包みながら、このシート材をテンションメンバとして引っ張って、断熱管2A内に引き入れることで製造できる。この形態は、実施形態1と同様に、各コアの超電導導体層12と断熱管2Aの内管21との間に、各コア10の個別耐アーク層30と包括耐アーク層32とが介在するため、内管21へのアーク放電を遮断できる。
【0070】
以下、図2図4を参照して、実施形態2〜4の超電導ケーブル1B〜1Dを説明する。実施形態2〜4の超電導ケーブル1B〜1Dの基本的構成は、実施形態1と同様であり、各ケーブルコア10a,10b,10cは、個別耐アーク層30を備え、断熱管2B〜2Dの外管22の内周側に包括耐アーク層32を備える。主な相違点は、包括耐アーク層32の配置位置にある。以下、この相違点を中心に説明し、実施形態1と同様の構成及び効果については、詳細な説明を省略する。
【0071】
[実施形態2]
実施形態2の超電導ケーブル1Bは、断熱管2Bの内管21の内側、特に内管21の内周面に沿って包括耐アーク層32を備える。この例の内管21は、その内周面に包括耐アーク層32を備えるコルゲート管である。
内周面に包括耐アーク層32を備えるコルゲート管は、例えば、金属板の一面に上述の高耐アーク材料などの塗布層や接合層などを備えるものを用意し、この金属板に波付け加工や溶接などを行ったり、コルゲート管の内周面に上述の高耐アーク材料などを塗布や押出などしたりすることで製造できる。
塗布層、押出層、接合層などは、異なる複数の材料からなる多層構造の包括耐アーク層32とする場合でも容易に製造できる。塗布層や押出層などと接合層とを組み合わせることで、種々の材料からなる多層構造の包括耐アーク層32を容易に形成できる。
上述の包括耐アーク層32の製造方法は、後述する実施形態3に備える内管21(上記内周面を外周面に読み替える)、実施形態4に備える外管22にも適用できる。
【0072】
この形態では、複数のケーブルコア10を撚り合わせておくと取り扱い易い。また、この形態では、各コア10の個別耐アーク層30を上述の高強度層を含むものとすると、個別耐アーク層30を上述した引き込み用のテンションメンバに利用できる。この撚り合わせに関する点、テンションメンバに関する点は、後述の実施形態3,4についても同様に適用できる。
【0073】
実施形態2の超電導ケーブル1Bは、実施形態1と同様に、自身に地絡などの事故が生じた場合にケーブルコア10間のアーク放電、各コア10から断熱管2Bへのアーク放電を遮断して、ケーブル1B外へのアーク放電を防止できる上に、小型である。特に、超電導ケーブル1Bは、実施形態1と同様に、アーク放電が断熱管2Bの内管21に至らないため、断熱管2Bの損傷、液体冷媒Lのケーブル1B外への漏出を防止できる。
【0074】
[実施形態3]
実施形態3の超電導ケーブル1Cは、断熱管2Cの内管21の外側、特に内管21の外周面に沿って包括耐アーク層32を備える。この例の内管21は、その外周面に包括耐アーク層32を備えるコルゲート管である(製法は実施形態2参照)。
【0075】
断熱管2Cに備える包括耐アーク層32は、アーク放電によって内管21に孔が開いた場合に液体冷媒Lに接触し得る。従って、この包括耐アーク層32の構成材料は、液体冷媒Lに接しても脆化しないものであると、内管21外への液体冷媒Lの漏出を防止して、真空破壊を防止する又は低減できると期待できる。
また、この包括耐アーク層32は、内管21と外管22間に形成される真空断熱層内に配置されるため、その構成材料は、熱伝導率が低いもの、例えば1W/m・K以下、更に0.1W/m・K以下のものが好ましく、断熱材や、上述の高耐アーク材料のうち熱伝導率が低いものがより好ましい。更に、この構成材料は、真空を維持し易いもの、例えばガスを吸着して放出し難い材料などが好ましい。
この包括耐アーク層32は、内管21に接して設けられるため、実施形態1で説明した高耐アーク材料などからなる塗布層、押出層、接合層などとすることが挙げられる。
包括耐アーク層32が上述の有機繊維層や無機繊維層を含む場合、緻密な繊維シート材の接合層などとすると、内管21外への液体冷媒Lの漏出を低減し易い。包括耐アーク層32が液体冷媒Lを実質的に透過しない金属や、液体冷媒Lを透過し難い樹脂などを含むと、内管21外への液体冷媒Lの漏出を低減又は実質的に防止できる。
この項で説明した包括耐アーク層32の構成材料、形態に関する点は、後述する実施形態4についても同様に適用できる。
【0076】
又は、内管21の外周面上に設けられる包括耐アーク層32は、上述の有機材料や無機材料、好ましくは高耐アーク材料から構成されるテープ材(シート材を含む)の巻回層を含むことができる。巻回層は容易に設けられて製造性に優れる。包括耐アーク層32全体が実質的に巻回層で構成された形態とすることもできる。繊維テープ材などを利用する場合には、緻密なものとすると、内管21外への液体冷媒Lの漏出を低減又は実質的に防止できて好ましい。
【0077】
その他、内管21がコルゲート管であり、包括耐アーク層32がコルゲート管の凹凸を平滑化するように形成されている場合には、包括耐アーク層32を断熱材25の下地層とすることができる。この場合、断熱材25の配置を容易に行えて、製造性に優れる。
【0078】
実施形態3の超電導ケーブル1Cは、実施形態1,2と同様に、自身に地絡などの事故が生じた場合に、ケーブルコア10間のアーク放電を遮断できる。この超電導ケーブル1Cは、各コア10から断熱管2Cの内管21にアーク放電が達することを許容するものの、外管22へのアーク放電を遮断する。従って、超電導ケーブル1Cは、実施形態1,2と同様に、ケーブル1C外へのアーク放電を防止できる上に、小型である。また、超電導ケーブル1Cは、アーク放電が外管22に至らないため、液体冷媒Lのケーブル1C外への漏出を防止できる。
【0079】
[実施形態4]
実施形態4の超電導ケーブル1Dは、断熱管2Dの外管22の内側、特に外管22の内周面に沿って包括耐アーク層32を備える。この例の外管22は、その内周面に包括耐アーク層32を備えるコルゲート管である(製法は実施形態2参照)。
【0080】
この包括耐アーク層32の構成材料は、実施形態3で説明したように低熱伝導性の材料、好ましくは断熱材であると、内管21に孔が開いても液体冷媒Lを保持し易く、液体冷媒Lに接しても脆化しないものや液体冷媒Lを透過し難いものなどであれば、超電導ケーブル1D外への液体冷媒Lの漏出を防止できると期待できる。
【0081】
実施形態4の超電導ケーブル1Dは、実施形態1〜3と同様に、自身に地絡などの事故が生じた場合に、ケーブルコア10間のアーク放電を遮断できる。この超電導ケーブル1Dは、実施形態3と同様に、各コア10から断熱管2Dの内管21にアーク放電が達することを許容するものの、外管22外へのアーク放電を遮断する。従って、超電導ケーブル1Dは、実施形態1〜3と同様に、ケーブル1D外へのアーク放電を防止できる上に、小型である。また、超電導ケーブル1Dは、アーク放電が外管22に至らないため、液体冷媒Lのケーブル1D外への漏出を防止できる。
【0082】
[変形例2]
実施形態4では、断熱管2Dの外管22の内周面に沿って包括耐アーク層32を備える例を説明した。断熱管2Dの外管22の内側に包括耐アーク層32を備える別の例として、包括耐アーク層32が外管22の内周面に沿わずに、内管21と外管22との間に設けられた形態とすることができる。このような包括耐アーク層32は、例えば、断熱材25の外周に上述の高耐アーク材料などから構成されるテープ材の巻回層が挙げられる。この場合、包括耐アーク層32を容易に形成できる上に、断熱材25の押え層としての機能も期待できる。
【0083】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、実施形態1〜4などにおいて断熱管に収納されるケーブルコア数を2本又は4本以上とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の超電導ケーブルは、直流送電路、交流送電路に利用できる。
【符号の説明】
【0085】
1A,1B,1C,1D 超電導ケーブル 10A コア集合体
10,10a,10b,10c ケーブルコア
11 フォーマ 12 超電導導体層 13 電気絶縁層 14 接地層
30 個別耐アーク層 32 包括耐アーク層
2A,2B,2C,2D 断熱管 21 内管 22 外管 24 防食層
25 断熱材 L 液体冷媒
図1
図2
図3
図4