(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552427
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ルテニウムをベースとする錯体
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
C07F15/00 A
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-20948(P2016-20948)
(22)【出願日】2011年5月13日
(65)【公開番号】特開2016-138105(P2016-138105A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年3月3日
【審判番号】不服2018-14957(P2018-14957/J1)
【審判請求日】2018年11月9日
(31)【優先権主張番号】10163504.3
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルチア ボノーモ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ デュポー
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ ボノーデ
【合議体】
【審判長】
佐々木 秀次
【審判官】
神野 将志
【審判官】
冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−005492(JP,A)
【文献】
特表2003−535869(JP,A)
【文献】
特開2002−030009(JP,A)
【文献】
特許第5933529(JP,B2)
【文献】
特表2009−520792(JP,A)
【文献】
DOUCET H.,Tetrahedron Asymmetry,1996年,vol.7,no.2,pp.525−528
【文献】
ALBERS M. O.,Journal of Organometallic Chemistry ,1984年,272,C62−C66
【文献】
ASHBY M.T. et al,J. Am. Chem. Soc.,1991年,113,pp.589−594
【文献】
J. CHEM. SOC. DALTON TRANS.,1993年,pp.327−335
【文献】
SHELDRICK, W. S. et al.,Synthesis and Stereochemistry of Diene−Ruthenium(II) Complexes of α−Amino Acids. Crystal Structures of [(cod)Ru(D,L−phe)Cl]4 and Δ−[(nbd)Ru(L−phe)2],Inorganica Chimica Acta,1989年,Vol.166,pp.213−219
【文献】
BUCHMEISER, M. B. et al.,Novel Ruthenium(II) N−Heterocyclic Carbene Complexes as Catalyst Precursors for the Ring−Opening Metathesis Polymerization (ROMP) of Enantiomerically Pure Monomers: X−ray Structures, Reactivity, and Quantum Chemical Considerations,Eur. J. Inorg. Chem,2007年,pp.3988−4000
【文献】
ACKERMANN, L. et al.,Ruthenium−Catalyzed Regioselective Direct Alkylation of Arenes with Unactivated Alkyl Halides through C−H Bond Cleavage,Angew. Chem. Int. Ed.,2009年,Vol.48,pp.6045−6048,Supporting Information(p.S1−S17, S40)
【文献】
編者 社団法人日本化学会,実験化学講座 18 有機化合物の合成 VI −金属を用いる有機合成−,2007年,第5版 第2刷,pp1−2
【文献】
CHEN,Y. et al,Different isomers of [RuII(NO+)(hedta)(H2O)] prepared from Ru(NO)Cl3 via chelation by hedta3− than by NO2− addition to [Ru(H2O)(hedta)]−,Inorganica Chimica Acta,2003年,Vol.343,pp.281−287
【文献】
MANNER,V.W. et al.,Concerted Proton−Electron Transfer in a Ruthenium Terpyridyl−Benzoate System with a Large Separation between the Redox and Basic Sites,Journal of the American Chemical Society,2009年,Vol.131, No.29,pp.9874−9875,Supporting Information
【文献】
NAKAI, M. et al.,Inorganic Chemistry,2006年,Vol.45, No.7,pp.3048−3056
【文献】
POZGAN, F. et al.,Ruthenium(II) acetate catalyst for direct functionalisation of sp2−C−H bonds with aryl chlorides and access to tris− heterocyclic molecules,Advanced Synthesis & Catalysis,2009年,Vol.351,pp.1737−1743
【文献】
SHIMIZU,H. et al.,Synthesis of novel chiral benzophospholanes and their application in asymmetric hydrogenation,Advanced Synthesis & Catalysis,2003年,Vol.345, No.1+2,pp.185−189,Supporting Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
{[(ジエン)Ru(OOCR1)2]n(S)v} (I)
〔式中、nは、1または2であり、
vは、0、1または2であり、
Sは、極性の非プロトン性溶剤または水の配位分子であり、
”ジエン”は、2個の炭素炭素二重結合を有する直鎖状または分枝鎖状のC4〜C15炭化水素基、または2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7〜C20炭化水素基を表わし、および
R1は、次のもの:
− 水素原子、
− ピリジル基、
− 場合により1〜5個のハロゲン原子および/またはC1〜4アルキルまたはC1〜4アルコキシル基によって置換されたフェニル基、
− 場合により1個のフェニル基で置換されたC1〜12アルキル基、
− 場合によりハロゲン置換されたC1〜12アルキル基、
− 1個のOH官能基またはアミノ官能基を有するC1〜12アルキル基、
− アダマンチル基、または
− スチリル基を表わす〕の化合物を製造するための方法であって、
式:
[(ジエン)Ru(Cl)2] (II)
〔式中、”ジエン”は、式(I)中の定義と同じ意味を有する〕の単量体またはポリマーである前駆体化合物を、R1が上記定義と同じ意味を有し、かつMがアルカリ金属陽イオン(mが1である)またはアルカリ土類金属陽イオン(mが2である)であるカルボキシレート(R1COO)mMの存在下で反応させ、この反応が極性の非プロトン性溶剤中および不活性雰囲気下で実施される工程を有し、前記式(II)の前駆体化合物は、予め形成されたカルボキシレート(R1COO)mMと反応するか、あるいは、カルボン酸(R1COOH)と、塩基としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物との反応によりインサイチューで形成されたカルボキシレート(R1COO)mMと反応し、かつ、前記式(I)の化合物および前記式(II)の前駆体化合物は、Ru(II)錯体である、式(I)で示される化合物を製造するための方法。
【請求項2】
”ジエン”は、場合により置換された、2個の炭素炭素二重結合を有するC7〜C12炭化水素基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
”ジエン”は、場合により置換された、2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7〜C12炭化水素基であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
極性の非プロトン性溶剤は、C2〜12アミド、C2〜6スルホキシド、C6〜9N−アルキルラクタム、C4〜8カルバメートまたは尿素、C4〜8アミンまたはその混合物であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
vが、0であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、触媒反応の分野、詳述すれば、特殊な単量体または二量体のルテニウム錯体の製造、および多くの公知のタイプの触媒のための有用な前駆体としての新規の単量体または二量体のルテニウム錯体の使用に関する。前記発明の全てのルテニウム錯体は、形式的にRu(II)錯体である。前記の特殊なルテニウム錯体の幾つかは、同じ公知技術水準の前駆体を上廻る多くの重要な利点を有する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
nが1または2である、一般式[Ru(ジエン)(OOCR)
2]
nの幾つかのルテニウムカルボキシレート錯体は、例えば炭素−炭素二重結合の水素化における良好な触媒である、式[Ru(PP)(OOCR)
2]の多くのルテニウムジホスフィン(PP)錯体を製造するための有用な出発化合物として記載され続けている(例えば、O.Albers et.al.,J.Organomet.Chem.1984,C62,272;Ohta T.et.al.,J.Org.Chem.,1987,52,3174−3176;Noyori R.et.al.,J.Am.Chem.Soc.,1986,108,7117−7119;またはTakaya H.et.al.,Am.Chem.Soc.,1987,109,1596−1597参照)。
【0003】
前記出発原料の有用性にも拘わらず、[(ジエン)RuCl
2]
n(これは、最も普通に商業的に入手できる出発原料の1つである)からの前記[Ru(ジエン)(OOCR)
2]
nの複数の間接的な合成(すなわち、1工程を上廻る)だけが刊行物中に記載されている。実際に、[Ru(ジエン)(OOCR)
2]
nの報告された製造は、次の反応式:
【化1】
に示されたような、中間体としてのタイプ[(ジエン)Ru(メチルアリル)
2]の錯体を必要とする。
【0004】
こうして、ジエンがCODまたはNBDであり、かつRがCF
3、CCl
3、CHCl
2、CH
3または幾つかのアリールである、タイプ[(ジエン)Ru(OOCR)
2]
nの幾つかの錯体の製造は、記載されて続けている(H.Doucet et.al.,Tetrahedron Asymmetry,1996,7,525−528;B.Heiser et.al.,Tetrahedron Asymmetry,1991,2(1),51−62;M.O.Albers et.al.,Inorganic Syntheses,1989,26,249−58;またはM.O.Albers et.al.,J.Organomet.Chem.,1984,C62,272参照)。
【0005】
これらの刊行物中に記載された合成経路は、次の大きな欠点をこうむる:
- アリル中間体の合成、例えば[Ru(ジエン)Cl
2]
nから得られた[(ジエン)Ru(ビスメチルアリル)
2]は、著しく希釈され、グリニャール試薬の使用を必要とし、および得られた中間体は、溶液状態および固体状態の双方で少しだけ安定性であり、こうして係る合成操作の工業的具体化を複雑化し;
- [Ru(ジエン)(OOCR)
2]
nの製造は、従来技術の方法で[Ru(ジエン)Cl
2]から出発する少なくとも2つの工程を必要とし、および取り扱うのが困難な中間体の形成を必要とし;
- プロトン化によるメチルアリル配位子の置換は、ハロゲン化酢酸または幾つかのアリールカルボン酸を使用してのみ示され、即ちこの方法は、一般的ではなく;
- [(COD)Ru(アセテート)
2]は、ビス−メチルアリル錯体から直接に得ることができず、および酢酸塩との陰イオン性配位子交換によって[(COD)Ru(OOCCF
3)
2]
2から合成されたものであり、こうして付加的な工程をプロセス全体に付加する。更に、この[(COD)Ru(アセテート)
2]製造の全収量は、極めて僅かである。
【0006】
更に、また、公知の[(ジエン)Ru(OOCR)
2]
n化合物(上記参照)は、空気の存在下での少しだけの安定性、こうして出発原料の操作を行なうこと、ならびに[Ru(PP)(OOCR)
2]触媒の製造、困難な消費および時間的消費という欠点をこうむる。
【0007】
B.Kavanagh et al.(J.Chem.Soc.Dalton Trans.1993,328中)は、ポリマー[(ジエン)Ru(Cl)
2]よりも極めて反応性の種である二量体のRu(IV)からのRu(IV)ジカルボキシレート錯体の製造を報告している。更に、Ru(IV)化学は、Ru(II)化学とは全く異なり、それというのも酸化状態が異なる(不安定であるRu(IV)と不活性であるRu(II))だけでなく、異なる配位子(アリル陰イオン対炭素炭素π系)が存在するからであり、それ故に、前記刊行物は、本発明を示唆することができるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】O.Albers et.al.,J.Organomet.Chem.1984,C62,272
【非特許文献2】Ohta T.et.al.,J.Org.Chem.,1987,52,3174−3176
【非特許文献3】Noyori R.et.al.,J.Am.Chem.Soc.,1986,108,7117−7119
【非特許文献4】Takaya H.et.al.,Am.Chem.Soc.,1987,109,1596−1597
【非特許文献5】H.Doucet et.al.,Tetrahedron Asymmetry,1996,7,525−528
【非特許文献6】B.Heiser et.al.,Tetrahedron Asymmetry,1991,2(1),51−62
【非特許文献7】M.O.Albers et.al.,Inorganic Syntheses,1989,26,249−58
【非特許文献8】M.O.Albers et.al.,J.Organomet.Chem.,1984,C62,272
【非特許文献9】B.Kavanagh et al., J.Chem.Soc.Dalton Trans.1993,328
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それ故に、改善された効率を可能にする、タイプ[(ジエン)Ru(OOCR)
2]
nの錯体を得るための改善されたプロセスが必要とされる。更に、また、簡単な操作を可能にする一方で、例えば[Ru(PP)(OOCR)
2]触媒の製造のために高い収量を保証する、タイプ[(ジエン)Ru(OOCR)
2]
nの新規錯体が必要とされる。
【0010】
発明の説明
ところで、意外なことに、錯体[(ジエン)Ru(OOCR)
2]
nは、前駆体[Ru(ジエン)Cl
2]をカルボン酸塩と有利な、高い生産性の反応条件下で反応させることによって前記前駆体から一工程で得ることができることを見出した。
【0011】
上記問題を克服するために、本発明は、式
{[(ジエン)Ru(OOCR
1)
2]
n(S)
v} (I)
〔式中、nは、1または2であり、
vは、0、1または2であり、
Sは、極性の非プロトン性溶剤または水の配位分子であり、
”ジエン”は、2個の炭素炭素二重結合を有する直鎖状または分枝鎖状のC
4〜C
15炭化水素化合物、または2個の炭素炭素二重結合を有する環式C
7〜C
20炭化水素基を表わし、および
R
1は、次のもの:
- 水素原子、
- ピリジル基、
- 場合によっては1〜5個のハロゲン原子および/またはC
1〜4アルキルまたはアルコキシル基によって置換されたフェニル基、または
- 場合によりハロゲン置換され、
場合により1個のフェニル基によって置換され、但し、このフェニル基は、場合により1〜5個のハロゲン原子によって置換され、および/またはC
1〜4アルキルまたはアルコキシ基によって置換されたものとし、および
場合により1または2個のOH官能基、アミノ官能基、エーテル官能基またはチオエーテル官能基を有する、C
1〜18アルキルまたはアルケニル基を表わす〕で示される化合物を製造するための方法であって、
式:
[(ジエン)Ru(Cl)
2] (II)
〔式中、”ジエン”は、式(I)中の定義と同じ意味を有する〕の前駆体化合物を
R
1が上記定義と同じ意味を有し、かつMがアルカリ金属陽イオン(mが1である)またはアルカリ土類金属陽イオン(mが2である)であるカルボキシレート(R
1COO)
mMの存在下で反応させ、この反応が極性の非プロトン性溶剤中および不活性雰囲気下で実施される工程を有する、前記式Iの化合物を製造するための方法に関する。
【0012】
理解しやすいように、化合物(I)は、種々の構造を有する錯体、即ちそれぞれのR
1COO基が1個のRuのみに配位されている単量体(即ち、[(ジエン)Ru(OOCR
1)
2])、またはR
1COO基の少なくとも1個が2個のRuに配位されている二量体(例えば、[(ジエン)Ru(OOCR
1)(μ−OOCR
1)]
2または[((ジエン)Ru(μ−OOCR
1)
2]
2)を有することが述べられなければならない。
【0013】
理解しやすいように、ジエンの定義に使用された表現”2個の炭素炭素二重結合を有する炭化水素化合物”により、この表現は、中性配位子を意味し、およびアリル系を意味しないことが述べられなければならない。
【0014】
本発明の詳細な実施態様によれば、Sは、プロセス溶剤として使用される極性の非プロトン性溶剤と同じものであるか、または水である。この場合、この後者の水は、例えばプロセス中に反応混合物中に存在する。本発明の詳細な実施態様によれば、Sは、アミンまたはアミド、例えば極性の非プロトン性溶剤として使用されるもの、例えば下記に記載されたものである。本発明の詳細な実施態様によれば、化合物(I)は、vが0である化合物、即ち式
[(ジエン)Ru(OOCR
1)
2]
n
で示される化合物である。
【0015】
本発明の詳細な実施態様によれば、”ジエン”は、C
7〜C
12またはC
7〜C
10、場合により置換された、2個の炭素炭素二重結合を有する炭化水素化合物、例えばC
7〜C
12、またはC
7〜C
10、2個の炭素炭素二重結合を有する炭化水素化合物である。”環式炭化水素”として当業者に十分に理解されているように、この環式炭化水素は、環式部分を有する化合物として理解される。
【0016】
適当な”ジエン”の制限のない例としては、COD(シクロオクタ−1,5−ジエン)またはNBD(ノルボルナジエン)、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンまたはなおシクロヘプタ−1,4−ジエンのような化合物を引用することができる。
【0017】
上記で提供された”ジエン”の例は、化合物(I)および(II)の双方に当てはまる。
【0018】
前駆体(II)は、刊行物からよく知られており、および殊に[(COD)Ru(Cl)
2]または[(NBD)Ru(Cl)
2]である。
【0019】
化合物(I)の別の構成成分は、カルボキシル基R
1COOである。式(I)の化合物は、主に基Rの厳密な性質に依存して単量体(n=1)または二量体(n=2)であることができ、例えばRがメチル基である場合には、この化合物は、単量体であり、一方、R
1がCCl
3である場合には、この化合物は、二量体である。
【0020】
幾つかの場合には、化合物(I)は、2つの形(単量体および二量体)で存在することができる。
【0021】
本発明の詳細な実施態様によれば、R
1基は、次のものを表わす:
- 場合によりハロゲン化され、
場合により1個のフェニル基によって置換され、および
場合により1個のOH官能基、アミノ官能基またはエーテル官能基を有するC
1〜12アルキル基、
或いは
- 場合により1〜3個または5個のハロゲン原子および/またはC
1〜4アルキルまたはアルコキシル基によって置換されたフェニル基。
【0022】
本発明の詳細な実施態様によれば、R
1基は、場合によりα位および/またはβ位で枝分かれしたC
2〜10アルキル基を表わす。
【0023】
本発明の詳細な実施態様によれば、R
1基は、α位に第三級炭素原子または第四級炭素原子を有しおよび/またはβ位に第四級炭素原子を有する分枝鎖状C
2〜10アルキル基を表わし、この場合R
1は、場合により1個のOH官能基またはアミノ官能基またはエーテル官能基を有し、ならびに場合により1個のフェニル基を有し、このフェニル基は、場合により1〜5個のハロゲン原子によって、および/またはC
1〜4アルキル基またはアルコキシ基によって置換されている。
【0024】
理解しやすいように、”α位”の表現によって、この表現は、当業界において通常の意味、即ち基R
1COOのCOO部分に直接結合された炭素原子を意味する。同様に、”β位”の表現によって、この表現は、α位に直接結合された炭素原子を意味する。
【0025】
化合物(I)のR
1COO基は、化合物(R
1COO)
mMを化合物(II)と反応させることによって導入される。本発明の詳細な実施態様によれば、M陽イオンは、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+またはBa
2+、殊にNa
+またはK
+である。
【0026】
適当なR
1COOMの制限のない例として、それ故に、式(I)のR
1COO基の制限のない例として、この例は、酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、ピバル酸、第三ブチル酢酸、2−Et−ヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸、ピコリン酸、ケイ皮酸、安息香酸、4−Me−安息香酸、4−OMe−安息香酸、3,5−ジクロロ安息香酸、イソ吉草酸、アダマンテート(adamantate)または第二酪酸のカリウム塩またはナトリウム塩を引用することができる。
【0027】
R
1COOMは、予め形成された塩として使用されることができるか、またはインサイチュー(in−situ)で発生させることができる。実際に、R
1COOMは、反応媒体に塩基(例えば、アミン、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物またはアルカリ金属アルコキシドもしくはアルカリ土類金属アルコキシド、またはアルカリ金属炭酸塩)を添加し、次に酸R
1COOHを添加することによって、または反対に行なうことによって、インサイチュー(in−situ)で形成させることができる。
【0028】
当業者にはよく知られているように、”極性の非プロトン性溶剤”によって、この溶剤は、18を上廻るpKaおよび20を上廻る誘電率εを有することが理解されており、この場合この誘電率は、標準条件下で測定される。この誘電率は、化学の手引き書、例えば”Handbook of Chemistry and Physics”,第87版,2006−2007,第15−13頁ないし第15−23頁,ISBN 978−0−8493−0487−3、または例えばMarch’s ”Advanced Organic Chemistry”第5版,ISBN 0−471−58589−0、または任意の他の同様の参考文献において検索することができる。
【0029】
本発明の詳細な実施態様によれば、溶剤は、20を上廻るpKaおよび30を上廻る誘電率εを有し、この場合この誘電率は、標準条件下で測定される。勿論、当業者であれば、溶剤の選択は、錯体の性質の1つの目的であり、および当業者はそのつど反応を最適化するために最も有利な溶剤を選択しうることを認めている。
【0030】
溶剤が反応温度を下廻る融点を有する液体であることも当業者によってよく知られている。また、別の発明方法の利点が使用される溶剤が含水量に関する特殊な要件を必要とせず、例えば無水である必要はなく、実際に、本方法の任意の工業化を著しく簡易化することを述べることは、有用である。殊に、工業銘柄の溶剤は、使用されることができ、例えばこの溶剤は、水を1または2%w/wまで含有していてよい。
【0031】
この溶剤の典型的な例として、次のものを引用することができる:
- C
2〜12アミド、殊にC
3〜8N−アルキルアミドまたはN,N−ジアルキルアミド(例えば、アセトアミド、N,N−ジメチル−アセトアミド、N,N−ジメチル−ホルムアミド、N−アセチルピペリジンまたはN−アセチルピロリジン)、
- C
2〜6スルホキシド(例えば、DMSO)、
- C
6〜9N−アルキルラクタム(例えば、N−メチルピロリドン)、
- C
4〜8カルバメートまたは尿素(例えば、テトラメチル尿素)、
- C
4〜8アミン(例えば、第三ブチルアミン)または
- その混合物。
【0032】
特に評価される溶剤は、C
3〜8N,N−ジアルキルアミド(N,N−ジメチル−ホルムアミドまたはN,N−ジメチル−アセトアミド)、C
5〜10ラクタム(N−メチルピロリドン)または第三ブチルアミンである。
【0033】
上記したような本発明の方法は、幅広い範囲の温度で実施されてよい。本発明の詳細な実施態様によれば、温度は、10℃〜100℃、好ましくは15℃〜70℃から構成されている。勿論、当業者であれば、好ましい温度を融点および沸点の1つの関数として、ならびに溶剤の特殊な性質の関数として、ならびに反応または変換の望ましい時間を選択することもできる。
【0034】
上記したような本発明の方法は、不活性の雰囲気下、または本質的に酸素不含の雰囲気下で実施される。当業者であれば、不活性の雰囲気とは何を意味するのかを認識しており、このような雰囲気の制限のない例として、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気を引用することができる。
【0035】
本発明の方法を実行するための典型的な方法は、本明細書中で下記の実施例中に報告されている。
【0036】
本発明の方法によって得られる式(I)の錯体の幾つかは、極めて興味がそそられる性質を有する新規化合物である。それ故に、本発明の別の対象は、式
{[(ジエン)Ru(OOCR
2)
2]
n(S)
v} (I')
〔式中、n、v、Sおよび”ジエン”は、化合物(I)に関して上記に示した意味を有し、および
R
2は、α位に第三級炭素原子または第四級炭素原子を有し、および/またはβ位に第四級炭素原子を有する分枝鎖状C
3〜18アルキル基、この場合この基は、場合によりOH官能基、アミノ官能基またはエーテル官能基を有し、場合によっては1個のフェニル基によって置換されており、フェニル基は、場合により1〜5個のハロゲン原子によって、および/またはC
1〜4アルキル基またはアルコキシ基によって置換されており、または
CHR
3Ph基であり、R
3は、OH基またはNH
2基であり、Phは、場合により1〜5個のハロゲン原子によって、および/またはC
1〜4アルキル基またはアルコキシ基によって置換されたフェニル基である〕の化合物に関する。
【0037】
式(I’)の前記錯体は、空気に対して特に安定性であり、かつさらに下記に示されているように、式[Ru(PP)(OOCR)
2]の公知の触媒の簡易化された製造に適していることが証明された。
【0038】
化合物(I’)の詳細な実施態様によれば、この化合物は、ジエンがCODまたはNBDを表わすものである。
【0039】
化合物(I’)の詳細な実施態様によれば、R
2基は、次のとおりである:
- 式C(R
4)
2C(R
5)
3の分枝鎖状C
3〜10アルキル基、上記式中、それぞれのR
4またはR
5は、互いに独立に、水素原子またはC
1〜3アルキル基を表わし、但し、全てのR
4が水素原子である場合には、全てのR
5は、アルキル基であるか、または少なくとも1つのR
5が水素原子である場合には、少なくとも1つのR
4は、アルキル基であり、上記のR
2は、場合によりOH官能基、アミノ官能基またはエーテル官能基を有し、或いは
- CR
7R
6Ph基、この場合R
6は、メチル基またはOH基またはNH
2基であり、R
7は、メチル基または水素原子であり、およびPhは、場合により1〜5個のハロゲン原子によって、および/またはC
1〜4アルキル基またはアルコキシ基によって置換されたフェニル基である。
【0040】
化合物(I’)の詳細な実施態様によれば、R
2は、分枝鎖状C
3〜10アルキル基を表わすか、または上記に定義したような分枝鎖状C
4アルキル基でもある。
【0041】
理解しやすいように、R
3基を有する炭素原子は、R
2のα位であり、かつ同様にR
4基を有する炭素原子は、R
2のβ位であることが注目される。
【0042】
化合物(I’)の詳細な実施態様によれば、R
2は、
tBu基、
iPr基、ネオペンチル基、
secBu基またはアダマンチル基を表わす。
【0043】
化合物(I’)の詳細な実施態様によれば、vは、0である。それとは別に、vは、殊に、例えば上記に定義されたように、本発明の方法が溶剤中、例えば極性の非プロトン性アミドまたはアミン中で実施される場合(このような場合には、Sは、同じアミンまたはアミドであってよい)には、1または2であることができる。
【0044】
化合物(I’)の詳細な実施態様によれば、次のものの中の1つである:{[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}、[(COD)Ru(O
2C
tBu)
2]、{[(NBD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}、[(NBD)Ru(O
2C
tBu)
2]、{[(COD)Ru(O
2C
iPr)]
2(μ−O
2C
iPr)
2}、[(COD)Ru(O
2C
iPr)
2]、{[(COD)Ru(O
2CCH
2tBu)]
2(μ−O
2CCH
2tBu)
2}、[(COD)Ru(O
2CCH
2tBu)
2]、{[(COD)Ru(O
2CAd)]
2(μ−O
2CAd)
2}(Adは、アダマンチルを意味する)、{[(COD)Ru(O
2C
secBu)]
2(μ−O
2C
secBu)
2}、[(COD)Ru(O
2C
secBu)
2]、[(COD)Ru(O
2CC(Me)
2NH
2)
2]、[(COD)Ru(O
2CC(Me)
2OH)
2]、[(COD)Ru(O
2CC(Me)
2OMe)
2]、[(COD)Ru(O
2CCH(OH)Ph)
2]、[(COD)Ru(O
2CC(Me)
2CH
2OH)
2]または{[(COD)Ru(O
2CC(Me)
2CH
2OH)]
2(μ−O
2CC(Me)
2CH
2OH)
2}。
【0045】
上記したように、本発明の目的の1つは、簡単な操作を可能にし、一方で、[Ru(PP)(OOCR)
2]触媒を製造するための高い収率を保証するタイプ[(ジエン)Ru(OOCR)
2]
nの錯体を提供すること、および前記[Ru(PP)(OOCR)
2]触媒を製造するための相応する方法を提供することである。
【0046】
それ故に、本発明の別の目的は、式
[Ru(PP)(OOCR
2)
2] (III)
〔式中、PPは、C
25〜60ビス(ジアリールホスフィン)を表わし、R
2は、化合物(F)に関して上記に定義したような基を表わす〕の化合物を製造するための方法に関し、この方法は、上記に定義したような、式
{[(ジエン)Ru(OOCR
2)
2]
n(S)
v} (I')
で示される錯体をC
25〜60ビス(ジアリールホスフィン)(PP)と20℃〜200℃の温度で反応させることによって特徴付けられる。
【0047】
この方法の利点は、極めて有効な結果をもって酸素含有雰囲気下、例えば空気の下でも(即ち、任意の特殊な工業的要件なしに)実施することができることであり、それというのも、新規の出発物質は、それ自体、公知技術の出発物質と反対に係る条件下で安定性であるからである。
【0048】
ビス(ジアリールホスフィン)(PP)は、それ自体空気に対して安定性であることが知られており、当業者にもよく知られている。典型的な、限定されない例として、以下のものを引用することができる:ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、シス−1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(PROPHOS,RまたはSエナンチオマー)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン(Xantphos)、4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン(Nixantphos)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP,ラセミ体、またはRまたはSエナンチオマー)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル(BIPHEP,ラセミ体、またはRまたはSエナンチオマー)、5,5’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール(SEGPHOS,ラセミ体、またはRまたはSエナンチオマー)。
【0049】
化合物(III)を製造するための方法は、有利に溶剤中で実施される。この溶剤は、一般に[Ru(PP)(OOCR)
2]触媒の製造のために従来技術で以前に使用された任意の溶剤であることができる。溶剤の選択は、錯体の性質との関係で行なわれ、当業者は、そのつど最も有利な溶剤を適宜選択して水素添加反応を最適化することができる。しかし、不活性の溶剤の典型的な例として、例えば、以下の溶剤を引用することができる:
- C
6〜10芳香族溶剤、例えばトルエン、アニソールまたはキシレン、
- C
3〜9エステル、例えばエチルアセテート、イソプロピルアセテート、ブチルアセテート、
- C
4〜20エーテル、例えばジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン;または
- その混合物。
【0050】
特に評価される溶剤は、芳香族物質、エーテルまたはその混合物である。上記したように、化合物(III)の製造は、不活性の雰囲気下または酸素含有雰囲気下で実施されることができる。不活性の雰囲気に関連して、これは、上記と同じものを意味する。酸素含有雰囲気に関連して、これは、不活性の雰囲気と酸素との任意の混合物、例えば空気を意味する。本発明の1つの実施態様によれば、酸素含有雰囲気下で前記方法を実施することは好ましい。
【0051】
理解しやすいように、本発明の錯体(I)、(I’)、(II)および(III)は、形式的に全てのRu(II)錯体であることを挙げることができる。
【0052】
本発明の方法を実行するための典型的な方法は、本明細書中で下記の実施例中に報告されている。
【実施例】
【0053】
例
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ここで温度は摂氏で示され、また略符号は当該技術分野での通常の意味を有する。
【0054】
全ての試薬および溶剤は、後精製なしに工業銘柄で購買して使用された。NMRスペクトルは、Bruker AM−400(400.1MHzで
1H、100.6MHzで
13C、および161.9MHzで
31P)分光計で記録され、かつ、別記しない限り、CD
2Cl
2中で300Kで通常、測定された。化学シフトは、ppmで示され、かつ結合定数は、Hzで示される。IRスペクトルは、Perkin Elmer FT−IR分光計で記録され、周波数は、cm
-1で記載される。
【0055】
実施例1
本発明の方法による式(I)または(I’)の幾つかの錯体の製造
- {[(COD)Ru(O
2C
tBu)](μ−O
2C
tBu)
2}および[(COD)Ru(O
2C
tBu)
2]の合成:塩基の存在でDMF中でのポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとピバリン酸との直接反応による
【化2】
【0056】
ピバリン酸(10.0g、98mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、89mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに20時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、この混合物を5℃に冷却し、微結晶性固体を濾過により捕集し、母液を分離した。次に、固体をDMF(2×50ml)、水(3×50ml)およびさらにMeOH(50ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に二量体生成物12.4g(収率85%)をもたらした。
【0057】
【0058】
上記のようにして得られた母液を濃縮し、[(COD)Ru(O
2C
tBu)
2]を結晶させてこれを捕集し、冷たいMeOHで洗浄し、真空中で乾燥し、単量体化合物の形の生成物1.7gを生じた。
【0059】
【0060】
- {[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}の合成:塩基の存在でNMP中でのポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとピバリン酸との直接反応による
ピバリン酸(6.0g、59mmol)を室温で窒素の下でNMP(20g)中の[(COD)RuCl
2]
n(5.0g、17.8mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、54mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに20時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、この混合物を5℃に冷却し、微結晶性固体を濾過により捕集した。次に、固体をNMP(2×20ml)、水(3×50ml)およびさらにMeOH(20ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物6.0g(収率82%)をもたらした。分析データは、上記したものと同一である。
【0061】
- {[(COD)Ru(O
2C
tBu)(
tBuNH
2)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}の合成:塩基の存在で
tBuNH
2中でのポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとピバリン酸との直接反応による
ピバリン酸(6.0g、59mmol)を室温で窒素の下で
tBuNH
2(20g)中の[(COD)RuCl
2]
n(5.0g、17.8mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、54mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに20時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、この混合物を5℃に冷却し、微結晶性固体を濾過により捕集した。次に、固体を水(3×50ml)およびさらに冷たいMeOH(20ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物6.4g(収率74%)をもたらした。
【0062】
【0063】
- {[(NBD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}の合成:塩基の存在でポリマーの[(NBD)RuCl
2]
nとピバリン酸との直接反応による
【化3】
【0064】
ピバリン酸(4.6g、45mmol)を室温で窒素の下でDMF(15g)中の[(NBD)RuCl
2]
n(4.0g、15mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を40℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、45mmol)を攪拌しながら15分間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を40℃でさらに40時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、この混合物を5℃に冷却し、固体を濾過により捕集した。次に、固体をDMF(20ml)、水(2×20ml)およびさらにMeOH(3×10ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物5.0g(収率84%)をもたらした。
【0065】
【0066】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとt−ブチル酢酸との直接反応による{[(COD)Ru(O
2CCH
2tBu)
2]の合成
【化4】
【0067】
t−ブチル酢酸(12.4g、107mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。次に、この攪拌した混合物を40℃に加熱し、KOH水溶液(45%、107mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を40℃でさらに20時間攪拌し、その間に、固体が析出した。反応媒体を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。固体を水(3×50ml)、MeOH(50ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物12.0g(収率77%)をもたらした。この生成物は、IRスペクトルにより二量体として沈殿したけれども、この二量体は、簡単に、NMRスペクトルにより示されたように溶液中で単量体を生じた。
【0068】
【0069】
次に、NMR試料のCD
2Cl
2溶液を蒸発させて乾燥し、IR分析により単量体であると思われる固体を生じた。
【0070】
【0071】
- ポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとカリウムイソブチレートとの直接反応による{[(COD)Ru(O
2C
iPr)]
2(μ−O
2C
iPr)
2}の合成
【化5】
【0072】
カリウムイソブチレート(13.5g、107mmol)を室温で窒素の下でDMF(30g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。この反応混合物を40℃で20時間攪拌し、その間に、固体が沈殿した。次に、この固体を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。沈殿物を水(3×50ml)、MeOH(1×30ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物(11.2g、82%)をもたらした。
【0073】
【0074】
母液を濃縮し、[(COD)Ru(O
2C
iPr)
2]を結晶させてこれを捕集し、冷たいMeOHで洗浄し、真空中で乾燥し、単量体化合物の形の生成物1.1gを生じた。
【0075】
【0076】
- ポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとカリウムベンゾエートとの直接反応による{[(COD)Ru(O
2CPh)
2]の合成
カリウムベンゾエート(8.5g、53.6mmol)を室温で窒素の下でDMA(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(5.0g、17.8mmol)の懸濁液に添加した。次に、この攪拌した混合物を攪拌しながら2時間に亘って80℃に加熱した。この反応媒体を室温に冷却し、水(50ml)を添加した。沈殿した固体を捕集し、水(3×50ml)、冷たいMeOH(20ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物7.5g(収率93%)をもたらした。
【0077】
【0078】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとCCl
3COOHとの直接反応による{[(COD)Ru(O
2CCl
3)
2]
2(H
2O)}の合成
トリクロロ酢酸(16.0g、98mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、89mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに20時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、この混合物を5℃に冷却し、固体を濾過により捕集した。次に、固体をDMF(2×50ml)、水(3×50ml)およびさらにMeOH(50ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物18.4g(収率94%)をもたらした。
【0079】
【0080】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとピコリン酸との直接反応による{[(COD)Ru(O
2CCH
2Py)
2]の合成
【化6】
【0081】
ピコリン酸(13.2g、107mmol)を添加した。室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を40℃に加熱し、KOH水溶液(45%、107mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。この反応混合物を40℃でさらに20時間攪拌し、その間に、固体が沈殿した。反応混合物を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。沈殿物を水(3×50ml)、MeOH(50ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物13.0g(収率81%)をもたらした。
【0082】
【0083】
- [(COD)Ru(O
2CCH=CHPh)
2]の合成:塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとケイ皮酸との直接反応による
【化7】
【0084】
ケイ皮酸(15.8g、107mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。次に、この混合物を40℃に加熱し、KOH水溶液(45%、107mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。この反応混合物を40℃でさらに20時間攪拌し、その間に、固体が沈殿した。次に、この固体を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。この沈殿物を水(3×50ml)、MeOH(50ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物12.8g(収率71%)をもたらした。
【0085】
【0086】
- DMF中、塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとトリフルオロ酢酸との直接反応による{[(COD)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(DMF)}の合成
トリフルオロ酢酸(11.2g、98mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、89mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。
【0087】
次に、この反応混合物を50℃でさらに40時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。水を混合物に添加し、懸濁液を生じた。固体を捕集し、DMF(2×50ml)、水(3×50ml)およびさらにMeOH(50ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物11.8g(収率70%)をもたらした。
【0088】
【0089】
- DMF中、塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとペンタフルオロプロピオン酸との直接反応による{[(COD)Ru(O
2CCF
2CF
3)
2]
2(DMF)}の合成
ペンタフルオロプロピオン酸(16.1g、98mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、89mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに48時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、水を混合物に添加した。固体を捕集し、DMF(2×50ml)、水(3×50ml)およびさらにMeOH(50ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物13.6g(収率67%)をもたらした。
【0090】
【0091】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nと2−アミノイソ酪酸との直接反応による[(COD)Ru(O
2CC(Me)
2NH
2)
2]の合成
2−アミノイソ酪酸(5.0g、48.5mmol)を室温で窒素の下でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(5.0g、17.8mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、44mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに20時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。固体を捕集し、DMF(2×20ml)、水(3×50ml)およびさらにMeOH(20ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物7.1g(収率97%)をもたらした。
【0092】
【0093】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとアダマンティック酸(adamantic acid)との直接反応による{[(COD)Ru(O
2CAd)]
2(μ−O
2CAd)
2}の合成
【化8】
【0094】
アダマンティック酸(177.0g、0.982mmol)を室温でDMF(800ml)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、0.356mmol)の懸濁液に添加した。この混合物を50℃に加熱し、次にKOH水溶液(45%、0.892mmol)を攪拌しながら30分間、滴加した。次に、この反応混合物を50℃でさらに48時間攪拌し、その間に、生成物が析出した。次に、この混合物を5℃に冷却し、固体を濾過により捕集した。次に、固体をDMF(2×500ml)、水(3×500ml)およびさらにMeOH(500ml)で洗浄し、真空下で乾燥後に生成物196g(収率95%)をもたらした。
【0095】
【0096】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとp−メトキシ安息香酸との直接反応による[(COD)Ru(O
2CPhp(OMe))
2]の合成
【化9】
【0097】
p−メトキシ安息香酸(16.3g、107mmol)を室温でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。次に、この攪拌した混合物を40℃に加熱し、KOH水溶液(45%、107mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を40℃でさらに20時間攪拌し、その間に、明黄色の固体が析出した。この固体を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。この沈殿物を水(3×50ml)、MeOH(50ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物17.3g(収率95%)をもたらした。
【0098】
【0099】
- 塩基の存在でポリマーの[(COD)RuCl
2]
nとo−メトキシ安息香酸との直接反応による[(COD)Ru(O
2CPho(OMe))
2]の合成
【化10】
【0100】
o−メトキシ安息香酸(16.3g、107mmol)を室温でDMF(40g)中の[(COD)RuCl
2]
n(10.0g、35.6mmol)の懸濁液に添加した。次に、この攪拌した混合物を40℃に加熱し、KOH水溶液(45%、107mmol)を攪拌しながら1時間に亘って滴加した。次に、この反応混合物を40℃でさらに20時間攪拌し、その間に、明黄色の固体が析出した。この固体を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。この沈殿物を水(3×50ml)、MeOH(50ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物 n17.8g(収率98%)をもたらした。
【0101】
【0102】
- 塩基の存在でポリマーの[(ビニルシクロヘキセン)RuCl
2]
nとピバリン酸との直接反応による{[(ビニルシクロヘキセン)Ru(
tBuCOO)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}の合成
ピバリン酸(2.4g、23.5mmol)を室温でDMF(8g)中の[(ビニルシクロヘキセン)RuCl
2](2.0g、7.1mmol)の懸濁液に添加した。次に、この攪拌した混合物を40℃に加熱し、KOH水溶液(45%、21.0mmol)を攪拌しながら滴加した。次に、この反応混合物を40℃でさらに20時間攪拌し、その間に、固体が析出した。この固体を室温に冷却し、沈殿物を濾過により捕集した。この沈殿物を水(3×10ml)、MeOH(5ml)で洗浄し、真空下に乾燥し、生成物1.8g(収率61%)をもたらした。
【0103】
【0104】
実施例2
本発明の方法による式(III)の幾つかの錯体の製造
- [(dppb)Ru(O
2C
tBu)
2]の合成:窒素の下でのキシレン中の{[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}の反応による
キシレン(20ml)を{[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}(5g、12mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(5.1g、12mmol)との混合物に窒素の下で添加した。この反応混合物を4時間還流した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物をMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2C
tBu)
2](8.2g、11.2mmol)を94%の収率で生じた。
【0105】
【0106】
- [(dppb)Ru(O
2C
tBu)
2]の合成:空気の下での{[(COD)Ru(O
2O
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}とキシレン中のDPPBとの反応による
脱ガス処理されていないキシレン(20ml)を{[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2(μ−O
2C
tBu)
2}(5g、12mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(5.1g、12mmol)との混合物に空気の下で添加した。この反応混合物を4時間還流した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物をMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2C
tBu)
2](8.3g、11.2mmol)を95%の収率で生じた。
【0107】
【0108】
- [(dppb)Ru(O
2C
tBu)
2]の合成:空気の下での{[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2とEt
2O/THF 3:1中のDPPBとの反応による
脱ガス処理されていないEt
2O/THFの3:1混合物(20ml)を[(COD)Ru(O
2C
tBu)]
2(5g、12mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(5.1g、12mmol)との混合物に空気の下で添加した。この反応混合物を40℃で20時間加熱した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物をMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2C
tBu)
2](8.0g、11.0mmol)を92%の収率で生じた。
この生成物は、上記したのと同じ分析データを有していた。
【0109】
- 窒素の下での{[(COD)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}とEt
2O/THF中のDPPBとの反応による[(dppb)Ru(O
2CCF
3)
2]の合成
脱ガス処理されていないEt
2O/THFの3:1混合物(10ml)を{[(COD)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}(5g、11.3mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(4.8g、11.3mmol)との混合物に窒素の下で添加した。この反応混合物を40℃で16時間攪拌した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物をMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}(8.2g、10.7mmol)を95%の収率で生じた。
【0110】
【0111】
- 空気の下での{[(COD)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}とEt
2O/THF中のDPPBとの反応による{[(dppb)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}の合成
脱ガス処理されていないEt
2O/THFの3:1混合物(10ml)を{[(COD)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}(5g、11.3mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(4.8g、11.3mmol)との混合物に空気の下で添加した。この反応混合物を40℃で16時間攪拌した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物をMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2CCF
3)
2]
2(H
2O)}(3.9g、5.2mmol)を45%の収率で生じた。
【0112】
【0113】
- [(dppb)Ru(O
2CPh)
2]の合成:窒素の下での{[(COD)Ru(O
2CPh)]
2とEt
2O/THF 3:1中のDPPBとの反応による
脱ガス処理されていないEt
2O/THFの3:1混合物(20ml)を{[(COD)Ru(O
2CPh)
2](5.0g、11.1mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(4.73g、11.1mmol)との混合物に空気の下で添加した。この反応混合物を40℃で20時間加熱した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物をMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2CPh)
2](8.0g、10.4mmol)を93.7%の収率で生じた。
【0114】
【0115】
- [(dppb)Ru(O
2CPh)
2]の合成:空気の下での{[(COD)Ru(O
2CPh)]
2とEt
2O/THF 3:1中のDPPBとの反応による
脱ガス処理されていないEt
2O/THFの3:1混合物(20ml)を{[(COD)Ru(O
2CPh)
2](5.0g、11.1mmol)と1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)(4.73g、11.1mmol)との混合物に空気の下で添加した。この反応混合物を40℃で20時間加熱した。この溶液を室温に冷却し、蒸発させて乾燥し、固体の残留物を冷たいMeOHで処理し、[(dppb)Ru(O
2CPh)
2](4.9g、6.4mmol)を58%の収率で生じた。
【0116】
【0117】
注目することができるように、式(I’)の錯体は、[Ru(PP)(OOCR)
2]錯体の前駆体として使用されてよい。実際に、式(I’)の錯体は、[Ru(PP)(OOCR)
2]錯体の製造のために簡易化された、極めて有効な方法を可能にする。それというのも、不活性の雰囲気下での作業を回避することができ、ならびに出発物質の貯蔵は、公知方法とは異なり、何らの予防措置も必要としないからである。