【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 The High−Tech Plasma Processes Conference(HTPP) 刊行物名 HTPP 14 3−7 July 2016 Proceeding 発行年月日 2016年7月3日 集会名 The 14▲th▼ High−Tech Plasma Processes Conference 開催日 2016年7月3日〜7日 発行者名 公益社団法人化学工学会 刊行物名 第48回秋季大会講演要旨集 発行年月日 平成28年8月23日 集会名 公益社団法人化学工学会第48回秋季大会 開催日 平成28年9月6日〜8日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放電容器と、前記放電容器に取り付けられている複数の放電電極部と、前記放電電極部に接続されて多相交流電圧を出力する交流電源部とを備え、前記放電電極部で囲まれる領域にアーク放電を発生させてプラズマ領域を生成するプラズマ発生装置において、前記放電電極部は、前記放電容器内に陰極及び陽極を分離して配置するように設けられており、前記交流電源部は、対向配置された前記陰極及び前記陽極の間に位相差のある交流電圧を半波交流波形に整流して印加する整流回路を備えているプラズマ発生装置。
【背景技術】
【0002】
金属材料又は黒鉛材料等からなる電極体の間に電圧を印加することによって生じる放電現象については、古くより研究がなされてきている。特に、放電時に10,000℃以上の高温が得られるアーク放電については、金属の溶接や切断等で既に実用化されている。
【0003】
近年、こうしたアーク放電を含む高温熱プラズマを用いて、新材料、特にナノサイズの微粒子の製造に応用することが提案されている。その主な理由は、高温熱プラズマによって得られる10,000℃以上の高温によって材料を気化した後、10
3K/sから10
6K/sの急冷過程を経ることによって、従来の液相法等の合成手法では生成困難な結晶構造や化学組成を有する新規のナノ材料の製造が可能となることが知られてきたからである。例えば、特許文献1において、熱プラズマの高温下でチタン及びケイ素を同時に溶融させ、さらに蒸発させて気相化させることにより、チタンとケイ素が複合化した超微粒子が得られる点が記載されている。この超微粒子は、等電点のpH値が弱酸性域からシフトするという新しい性質を有するようになり、その結果純水あるいは弱酸性水又は弱アルカリ性水で容易に分散が可能になることが記載されている。
【0004】
アーク放電を含む高温熱プラズマを発生させるプラズマ発生装置の電源の方式としては、直流方式、交流方式、高周波方式等が挙げられる。これらの方式にはそれぞれ一長一短がある。直流方式は、低コストであるが電源効率が悪く、大出力を得るためには大掛かりな電源が必要となる。高周波方式は、電極体が無いため材料への汚染が無い処理が可能であるが、電源効率が悪くシステム全体として高価なものとなる。また、直流方式においては、生成量が少ないため工業化が難しく研究室レベルにとどまっている。交流方式は、システムは簡便で低コストで実現できるという利点はあるものの、電極体の消耗が他の方式に比べて大きいという欠点がある。また、交流方式の生成量は直流方式と同程度である。このため、交流方式によるプラズマ発生装置を新しい分野に応用する際の課題となっている。
【0005】
近年、複数(6本、12本など)のプラズマトーチを位相の異なる交流電源に接続し、アークによる高温領域を大幅に拡張したプラズマ発生装置が提案されている(特許文献2参照)。こうしたプラズマ発生装置では、低コストでシステムが構成できると同時に、従来の熱プラズマ装置に比して生成量を大幅に増大させることが可能となることから、工業化への取り組みが進められている。上述したナノサイズの微粒子の製造以外にも様々な分野への応用が期待されている。例えば、ガラス製造方法への適用(特許文献3参照)、大量の廃棄物を効率よく減容化処理する処理技術への適用が検討されてきている(非特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直流方式のアーク放電では、例えばタングステンやハフニウム等の高融点金属材料を電極体に使用した場合、陰極として用いると電極体がほとんど消耗しないことが知られている。しかし、タングステンやハフニウム等を陽極として用いる場合、電極体の溶融及び蒸発による消耗が生じる。これは、陽極では電子凝縮の際に、電極体の仕事関数分のエネルギーが熱として流入するため、陰極と比較して熱的負荷が大きいからである。そこで、消耗の小さい陽極として、熱伝導率が高く水冷効率のよい銅などが用いられてきた。
【0009】
一方、従来の交流方式のアーク放電では、同一の電極体が陰極及び陽極として用いられるため、電極体の消耗が大きい(非特許文献2参照)。そのため、これまで直流方式に比べて使用されることが少なかった。
【0010】
そこで、本発明は、交流方式のアーク放電に用いる電極体の消耗の低減化を図ることができるプラズマ発生装置及び方法並びにこれらを用いた微粒子製造装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプラズマ発生装置は、放電容器と、前記放電容器に取り付けられている複数の放電電極部と、前記放電電極部に接続されて多相交流電圧を出力する交流電源部とを備え、前記放電電極部で囲まれる領域にアーク放電を発生させてプラズマ領域を生成するプラズマ発生装置において、前記放電電極部は、前記放電容器内に陰極及び陽極を分離して配置するように設けられて
おり、前記交流電源部は、対向配置された前記陰極及び前記陽極の間に位相差のある交流電圧を半波交流波形に整流して印加する整流回路を備えている。さらに、前記交流電源部は、位相差のある交流電圧を重畳して出力する電源回路を備えている。さらに、前記交流電源部は、出力される交流電圧の重畳する程度を制御する機能を備えている。
【0012】
本発明に係るプラズマ発生方法は、上記のプラズマ発生装置を用いたプラズマ発生方法であって、対向配置された前記放電電極部の前記陰極及び前記陽極の間に位相差のある交流電圧を
半波交流波形に整流して印加することでアーク放電を発生させ、前記放電電極部で囲まれる領域にプラズマ領域を生成する。
【0013】
本発明に係る微粒子製造装置は、上記のプラズマ発生装置と、前記放電容器に接続されるとともに前記放電容器内に微粒子の原料となる材料を供給する材料供給装置と、前記放電容器に接続されるとともに前記放電容器内に生成された微粒子を回収する回収装置とを備えている。
【0014】
本発明に係る微粒子製造方法は、上記の微粒子製造装置を用いた微粒子製造方法であって、前記放電電極部で囲まれる領域にプラズマ領域を生成し、前記放電容器内に前記材料を供給して前記プラズマ領域内に投入し、前記材料が蒸発又は気化して生成された材料ガスが前記プラズマ領域から離れることで急激に冷却されて微粒子を生成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電電極部が陰極及び陽極を分離して配置するようにしているので、アーク放電に用いる陰極及び陽極の消耗の低減化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態ついて詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例を含むものであるから、技術的に種々の制限がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明に係るプラズマ発生装置に関する概略構成図であり、
図2は、放電電極部が設置された部位Aを上方から見た概略平面図である。円筒状の放電容器1は、気密性の高い金属製真空チャンバから構成される真空装置である。なお、
図1では、理解を容易にするために、放電容器1の外形を一点鎖線で描いている。放電容器1の側面部1aには、放電電極部10〜15が周方向に沿って等間隔で設置されている。この例では、6個の放電電極部が60度ずつ角度をずらして配置されている。放電電極部10〜15は、それぞれ陰極10a〜15a及び陽極10b〜15bを分離して設けられており、各陰極及び各陽極が放電容器1内に配置されるように側面部1aを貫通して設置されている。放電電極部10及び13、放電電極部11及び14、放電電極部12及び15はそれぞれ対向配置されており、各放電電極部が放電容器1の中心部に向かって放射状に配置されている。放電電極の配置については、必ずしも水平対向配置に限定されることなく、上下方向に適当な角度、例えば5度〜30度の範囲内で傾斜して設定してもよい。放電容器1内に上部から原料を投入する場合には、下方に向かって傾斜するように設定することで、原料をプラズマ領域に効率よく導入することができ、下部から原料を投入する場合には、上方に向かって傾斜するように設定することで、原料をプラズマ領域に効率よく導入することができる。
【0019】
放電容器1の上面部1bには、ガス供給部2が接続されており、ガス供給部2からアルゴンガス等の不活性ガスが放電容器1内に供給されるようになっている。ガス供給部2は、アルゴンガス等の不活性ガスを供給タンクから供給弁を介して供給し、放電容器1内のガス圧力が所定値となるように供給制御する。放電容器1内のガス圧力は、例えば、60kPa〜0.1MPaに設定されることが好ましい。また、放電容器1の下面部1cにはガス排気部3が接続されており、放電容器1内のガスを排気ポンプ等で排出するようになっている。
【0020】
なお、放電容器1内に不活性ガス等のプラズマ発生に必要な物質を供給する供給部及び物質を排出する排出部は、放電容器1の構造や用途に応じて放電容器1内の物質の流通がプラズマ発生に最適となるように適当な部位に接続すればよい。また、供給部及び排出部の性能及び制御についてもプラズマ発生が最適となるように調整することができる。
【0021】
放電電極部10〜15の陽極及び陰極は、それぞれ交流電源部4に接続されている。交流電源部4は、位相差のある交流電圧を重畳して出力する電源回路を備えており、また出力される交流電圧の重畳する程度を制御する機能を有している。この例では、交流電源部4は、商用の3相交流を12相交流に変換して放電電極部毎に位相差のある交流電圧を印加するようになっている。
【0022】
図3は、放電電極部10に関する側面図(
図3(a))及び正面図(
図3(b))である。放電電極部10には、陰極10aとしてタングステン、ハフニウムなどの高融点金属材料からなる直線状の棒状体を用いることができる。棒状体の外径は3mm〜6mmが好ましいが、装置の大型化を図る上では、外径をさらに大きくすることもできこの範囲に限定するものではない。陰極10aは、セラミック材料等の絶縁材料からなる支持体101に挿着されて先端部分が露出するようになっており、支持体101はホルダ100に取り付けられている。支持体101の内周面と陰極10aの外周面との間には、1mm〜5mmの間隙が形成されており、ガスの流通路となっている。ホルダ100には、陰極10aに接続して給電する給電線及び水等の冷媒を供給する供給路となる供給ライン102、アルゴンガス等の不活性ガスを供給するガス供給ライン103及び陰極10aを冷却した冷媒を排出する排出路となる排出ライン104が接続されている。供給ライン102の給電線はホルダ100内の配線を介して陰極10aに接続されて外部の交流電源部4から給電されるようになっており、供給ライン102から供給される冷媒はホルダ100内に配設された供給管路を流通して陰極10aを冷却するようになっている。冷却処理に用いられた冷媒は、ホルダ100内に配設された排出管路を流通して排出ライン104から外部に排出されるようになっている。ガス供給ライン103から供給されたガスは、ホルダ100内に配設されたガス供給路を流通して支持体101と陰極10aとの間のガス流通路に流入するようになっており、陰極10aの周囲に常時ガスが流通することで、陰極の酸化を防止するとともに冷却効果も得ることができる。
【0023】
陽極10bは、銅等の熱容量の大きい金属材料からなるリング状の環状体を用いており、環状体の中心部に陰極10aとなる棒状体を挿入することで、放電電極部を小型化することができる。陰極10aは、絶縁材料からなる支持体101に挿着されて陽極10b内に挿入されているので、陽極10bと接触して電気的に短絡することが防止されている。なお、陽極10bの形状は、リング状の環状体以外の形状に形成することも可能で特に限定されない。例えば、複数個に分割した電極体を陰極10aの周囲に配置して陽極とすることもできる。
【0024】
陽極10bは、陰極10aに比べて温度上昇が激しくまた消耗も激しいことから、その外径は25mm以上に設定することが好ましいが、装置の大型化を図る上では、外径をさらに大きくすることもできこの範囲に限定するものではない。陽極の材料としては、不純物を含まない無酸素銅またはこれに準じる材料を用いることで、消耗に対する耐久性を向上させることができる。また、陽極10bの放電が生じる先端面には、高さ1mm程度の突起(ディンプル)を形成することが好ましい。ディンプルを設けることで、放電の際に陽極10bのアーク放電点を誘引及び固定してアーク放電の安定化を図るとともに陽極の消耗を低減する効果を有している。ディンプルは、複数個を形成すればよく、4個〜6個形成することが好ましいが特に限定するものではない。
【0025】
陽極10bには、冷媒を供給する供給管110及び冷媒を排出する排出管111が取り付けられており、陽極10b内に配設された流通路に供給管110及び排出管111が接続されている。そして、流通路を冷媒が流通することで陽極10bの冷却処理が行われる。供給管110及び排出管111は、導電性材料からなり、陽極10bは、供給管110及び排出管111を介して外部の交流電源部4と電気的に接続されるようになっている。
【0026】
放電電極部11〜15についても、放電電極部10と同様の構成を備えており、外部の交流電源部4と陰極及び陽極が接続されるとともに外部から冷媒が供給されて冷却処理が行われるようになっている。また、アルゴンガス等の不活性ガスが外部から供給されて放電容器1内に噴出させることにより、放電電極部からのガスと合わせて排出ガスとバランスするようになっている。
【0027】
各放電電極部の陰極及び陽極には、上述したように、温度上昇を抑えるための冷却構造を備えており、水等の冷媒が冷却装置(図示せず)から供給されるようになっている。冷媒による冷却方式は、電極を直接冷媒で冷却する方式や電極に接触する冷却体を冷媒で冷却して間接的に冷却する方式を用いることができる。
【0028】
図4は、放電電極部の変形例に関する側面図である。この例では、陰極及び陽極を並列配置するようになっており、陽極10b’は、中空の円柱状に形成されており、陰極10aを挿着した支持体101に並列するように近接配置されている。陽極10b’には、陽極10bと同様に、冷媒を供給する供給管110’及び冷媒を排出する排出管111’が取り付けられて、陽極10b’内に導入された供給管110’は陽極内部前面壁にできるだけ近接して冷媒を噴射し、陽極内部後面に接続された排出管111’を介して冷媒を流通させることで、冷却処理が行われるようになっている。
【0029】
図5は、交流電源部4の電源回路及び整流回路に関する回路構成を示しており、
図6は、交流電源部4と各放電電極部の陽極及び陰極との接続関係を対応する番号で示している。電源回路41は、商用3相交流からスターデルタ変換トランスを用いて12相交流を得る回路構成となっている。スターデルタ変換トランスは、一次コイル側がスター結線されて二次コイル側に中間タップを有する変圧器を備えた3相−6相変換トランス41aと、一次コイル側がデルタ結線されて二次コイル側が中間タップを有する変圧器を備えた3相−6相変換トランス41bとからなる。
【0030】
3個の入力端子にそれぞれ入力されたR相、S相及びT相の3相交流を2つの3相−6相変換トランス41a及び41bにそれぞれ入力して変換することで、各3相−6相変換トランスの計12個の出力端子からそれぞれ位相差を有する12相交流が出力されるようになる。12個の出力端子には、第1相目を基準としそれぞれ30度の位相差を有する交流波形で第2相目、第3相目・・・と順次出力され、最後の第12相目から元の第1相目に戻り、再度繰り返されることになる。こうした多相交流波形は、0度より大きく90度より小さい範囲内の位相差で重畳させて出力することが好ましい。
【0031】
整流回路42は、スター結線された3相−6相変換トランス41aからの第1相目から第6相目までの6個の出力を整流素子を通して陽極に接続する陽極側整流回路42aと、デルタ結線された3相−6相変換トランス41bからの第7相目から第12相目までの6個の出力を整流素子を通して陰極に接続する陰極側整流回路42bとで構成されている。整流素子としては、ダイオード、サイリスタ、トライアック等を用いることができ、
図5に示す例では、整流素子としてサイリスタが用いられている。こうした市販の電子部品を用いることで、安価で安定した整流回路を実現することができる。また、交流波形の重畳する程度を制御する場合には、整流素子としてサイリスタを用い、サイリスタのゲート信号の入力タイミングを制御することで交流波形を調整して重畳する時間や電圧値を制御することができる。
【0032】
放電電極部と接続する場合、第1相用の放電電極部10については、3相−6相変換トランス41aから出力されたR相電源出力を陽極側整流回路42aにおいて整流素子を順方向に接続して陽極10bに接続する。また、3相−6相変換トランス41bから出力されたR’相電源出力を陰極側整流回路42bにおいて整流素子を逆方向に接続して陰極10aに接続する。そして、第1相用の放電電極部10に対して対向配置された放電電極部となる第4相用の放電電極部13については、3相−6相変換トランス41aから出力された反転R相電源出力を陽極側整流回路42aにおいて整流素子を順方向に接続して陽極13bに接続する。また、3相−6相変換トランス41bから出力された反転R’相電源出力を陰極側整流回路42bにおいて整流素子を逆方向に接続して陰極13aに接続する。以下同様の接続方法で、順次各相の放電電極部及びそれに対向配置された放電電極部の陽極及び陰極を接続していく。この例では、
図5及び
図6に示すように、第2相用の放電電極部11及び対向配置された放電電極部となる第5相用の放電電極部14、第3相用の放電電極部12及び対向配置された放電電極部となる第6相用の放電電極部15について順次陽極及び陰極を接続する。
【0033】
図7は、各放電電極部の陰極及び陽極に印加される電圧波形を示すグラフである。
図7に示すグラフでは、横軸に時間(ミリ秒)をとり、縦軸に電圧(V)をとっている。対向配置された放電電極部の間では、対向する2対の陰極及び陽極の間に位相差のある電圧が整流された半波交流波形で印加されるようになっており、各対の陰極及び陽極に半波交流波形の交流電圧が順次重畳して印加されることで、持続的なアーク放電が安定して行われるようになる。
【0034】
図8は、交流電源部の変形例に関する回路構成を示している。この例では、電源回路41’は、一次コイル側がスター結線されて二次コイル側に中間タップを有する変圧器を備えた3相−6相変換トランスからなり、整流回路42’は、電源回路41’からの6個の出力端子についてそれぞれ1対のダイオードを順方向及び逆方向に並列に接続して1つの出力及びその反転出力を整流して出力するようになっている。そして、整流回路42’の各出力に対して、
図6に示す各放電電極部の陽極及び陰極の番号で接続することで、位相差60度を有する6個の交流電圧波形を各放電電極部に印加することができる。
【0035】
なお、単に整流機能を有するダイオードに代えて、サイリスタ又はトライアック等の電力制御素子を用いた場合、ゲート信号を制御することにより、陽極および陰極に印加される電力を制御することが可能となる。電力の制御範囲は、概ね50%以内を目安としそれ以上の制御は安定な放電を妨げるので好ましくない。サイリスタ等の電力制御素子を用いることで、陽極及び陰極に印加される電力を大幅に低減させて電極の消耗量を大幅に低減しつつアーク放電を安定して保持することが可能となる。また、整流回路には、回路素子が発熱により破壊されないように、ヒートシンク等の冷却装置を取り付けることが望ましく、発熱量に応じて水冷式又は空冷式の公知の冷却方式により回路素子を冷却することができる。
【0036】
以上説明したように、放電電極部の陰極及び陽極を分離して設けることで、陰極及び陽極にそれぞれ位相差を有する交流電圧を印加し、さらに陰極及び陽極に供給する電力を制御しつつ安定してアーク放電を生成することができるので、従来のように1つの電極が陽極及び陰極を兼ねている場合に比べて陰極及び陽極の消耗を大幅に低減することが可能となる。また、陰極及び陽極を分離したことで、消耗が激しい陽極を大型化して冷却効果を容易に高めることができ、陽極の消耗量をさらに低減することが可能となる。
【0037】
上述したプラズマ発生装置では、各放電電極部の陰極及び陽極のうち対向する1対の陰極及び陽極に対して黒鉛材料等の導電材料からなる着火体を接触させた状態で、陰極及び陽極に交流電源部4から電圧を印加することでアーク放電を着火させ、残りの陰極及び陽極でもアーク放電を誘引させて各放電電極部で囲まれた領域全体にアーク放電を発生させる。こうして、放電電極部で囲まれた領域にアーク放電を発生させることで、
図2に示すように、高温熱プラズマ領域Pが生成されるようになる。なお、各放電電極部を放電容器の中心部に向かって互いに接近又は離間するように移動させる移動装置を取り付けておき、各放電電極部の陰極を互いに接触させた状態で電圧を印加することで、アーク放電を着火させることもできる。そして、アーク放電を発生させた状態で陰極が互いに離間する方向に放電電極部を移動させることで、
図2に示す高温熱プラズマ領域Pを生成することができる。
【0038】
この例では、放電電極部を放電容器1の部位Aに1段で配列しているが、同じ1段の放電電極部を上下に多段で配列することで、高温熱プラズマ領域を上下に拡大して上下左右の広範囲に生成することもできる。また、プラズマ発生方法に用いる放電電極部の数は、適宜選択することが可能となるように回路構成されており、例えば、選択される放電電極部の数を2〜4、6又は12等に自由に選択することができ、特に放電電極部の数が限定されることはない。また、選択された複数の放電電極部を上下に多段に配列して多重化して用いるように設定することも可能である。
【0039】
そして、放電容器1に微粒子の原料となる材料を供給する材料供給装置を接続し、生成された微粒子を回収する回収装置を接続することで、微粒子製造装置を構成することができる。放電容器1内に供給された材料は、高温熱プラズマ領域内に投入されることで、蒸発又は気化して材料ガスとなり、生成された材料ガスが高温熱プラズマ領域から離れることで急激に冷却されて微粒子を生成するようになる。こうして生成された微粒子は、回収装置により回収されて放電容器1から外部に取り出される。
【0040】
供給する材料としては、シリコン、アルミナ等の無機系材料を供給することができ、ナノサイズの微粒子を安定して製造することができる。また、こうした無機系材料と反応する反応ガスを同時に投入することで、無機系材料の酸化物、窒化物、炭化物からなる微粒子も生成することができ、用途に応じて様々な材料からなる高品質の微粒子を安定して量産することが可能となる。
【0041】
上述した微粒子製造装置では、電極消耗量を従来と比べて大幅に低減することができるプラズマ発生装置を用いることで、長時間の連続運転が可能となり、生産性を格段に向上させて大幅なコストダウンを図ることができる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0043】
[実施例1]
図1で説明したプラズマ発生装置において、放電容器1としてステンレス製の真空チャンバ(福伸工業株式会社製)を用いた。まず、排気ポンプにより真空チャンバ内を1x10−1Torr以下まで排気した後、アルゴン(Ar)ガス(純度99.99%)を0.1MPaの圧力となるまで供給した。また、放電電極部の陰極に使用しているタングステン電極をシールドする目的で、各放電電極部に3リットル/分の流量で、アルゴンガスを供給した。このままでは、真空チャンバ内にアルゴンガスが充満して徐々に圧力が上昇するので、排気ポンプにと炉体間に取り付けたバルブを開けて真空チャンバ内圧力がほぼ大気圧となるように調節した。真空チャンバ内圧力は、自動圧力調整装置を用いて行ってもよい。
【0044】
真空チャンバ内には、真空排気前に予め1対の陽極及び陰極を備えた6本の放電電極部を
図1に示すように等間隔で配列してセットした。陰極としては、トリア(ThO
2)を2重量%含有するタングステン電極(IPBANK(中国)WT−2032)を準備し、長さ150mm及び直径3.2mmの棒状体のものを使用した。陽極としては、水冷式の銅製ロッド(福伸工業株式会社製;直径20mm)を使用した。放電電極部は、陰極が陽極より約5mm突き出ている状態に設定した。これは真空チャンバ上部に取り付けられているのぞき穴から高速ビデオカメラなどの測定機器で観察する際、陰極が陽極に隠れて観察ができないことを考慮したためで、陽極先端と陰極先端が同一であっても放電には何ら影響を与えるものではない。
【0045】
真空チャンバの外壁には、
図1に示されていない小型モータで駆動され前後に移動が可能な移動装置が各放電電極部に取り付けられている。この移動装置によって各放電電極部の先端部で囲まれた円形空間の直径を、30mm〜120mm程度までの間で設定することができる。
【0046】
放電を開始するには、電極間距離を上記のように30mmに設定し、これを点火位置とした。
図5に示す交流電源部で整流回路の整流素子としてダイオードを用いたものを使用し、電源回路からの出力をダイオードを用いた整流回路を通して各陽極及び陰極に位相差のある半波交流(電圧70〜80V、電流70A)を印加した。交流電圧を印加した状態で、長さ約40mm(電極間距離30mmより少し長めのもの)の黒鉛材料を用いて対向する陽極及び陰極を短絡させて電極間にスパークを発生させ、これによって生じたアーク放電によって残りの電極間にアーク放電を誘引させ、多相交流アーク放電(今回の場合は、6相交流アーク放電)を開始した。発生した多相交流アーク放電を持続させて電圧値及び電流値が安定した段階で徐々に電流を増加させ、放電電圧22V及び放電電流100Aで安定した放電を継続することができた。
【0047】
放電を開始してから30分後に交流電源部からの電圧出力を停止し、放電電極部の放冷後、真空チャンバ内を大気圧に戻し、放電電極部の陰極を取り外して重量を計測した。放電前と放電後の陰極の重量の差から1本の陰極の平均消耗量を算出したところ、0.13mg/分であった。
【0048】
取り出した陰極の先端部を肉眼で観察したところ、いずれの陰極も滑らかで付着物等は全く存在しなかった。これらの観察により、放電電極部の陰極及び陽極を分離して位相差を有する交流電圧を印加することで、多相交流アーク放電を安定して継続することができるとともに電極の消耗を大幅に低減することが確認できた。
【0049】
[比較例]
実施例1で用いたものと同じ装置と条件を用いた。真空チャンバ内には、真空排気前に予め6本の放電電極部をセットしたが、実施例1で用いた陽極は取り付けずに陰極として用いたタングステン電極のみを取り付けた。また、交流電源部は、
図5に示す交流電源部の整流回路を取り外して電源回路から直接タングステン電極に接続した。放電の開始は、実施例1と同じく炭素材料を電極間に接触する方法で行った。実施例1と同様に、発生した多相交流アーク放電を持続させて電圧値及び電流値が安定した段階で徐々に電流を増加させ、放電電圧22V及び放電電流100Aで多相交流アーク放電を継続させた。多相交流アーク放電を開始してから30分後に交流電源部からの電圧出力を停止し、放電電極部の放冷後、真空チャンバ内を大気圧に戻し、タングステン電極を取り外して重量を計測した。放電前と放電後のタングステン電極の重量の差から1本の電極の平均消耗量を算出したところ、0.40mg/分であった。
【0050】
取り出した電極の先端部を肉眼で観察したところ、電極の先端部は溶融した痕跡が確認された。また、真空チャンバの底部には、電極からのスパッタによる粒子状金属が確認された。
【0051】
図9は、アーク電流値及び電極消耗量の測定結果を示すグラフである。グラフでは、縦軸に電極消耗量(mg/分)をとり、横軸にアーク電流値(A)をとっている。実施例の測定結果を円形マークでプロットしており、比較例の測定結果をひし形マークでプロットしている。
【0052】
ダイオードで整流し、交流電極を二極分割することで、電極消耗量が著しく低下していることがわかる。仕事関数が低く高融点である上述したトリア添加のタングステン電極材料を陰極時のみに用いることで、陰極温度をタングステンの融点である3695K以下に抑えることができた。また、アークからの伝熱量の大きい陽極時には、熱伝導度の高い銅を用いることで消耗を大幅に低減することができたと考えられる。
【0053】
以上の実験結果により、放電電極部の陰極及び陽極を分離して位相差を有する交流電圧を印加することで、1つの電極が陰極及び陽極を兼ねる場合に比べて陰極の消耗量を約1/3に低減することが確認できた。