(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552476
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】汚染物質の無害化処理用吸着剤の製造方法、重金属回収方法及び無害化処理用吸着剤の再利用方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20190722BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
B01J20/06 C
B01J20/06 D
B22F1/02 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-245130(P2016-245130)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-99636(P2018-99636A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2017年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231327
【氏名又は名称】日本磁力選鉱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(72)【発明者】
【氏名】石川 英文
(72)【発明者】
【氏名】熊本 寛
【審査官】
高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−116465(JP,A)
【文献】
特開2013−245310(JP,A)
【文献】
特開2013−202463(JP,A)
【文献】
特開2009−119443(JP,A)
【文献】
特開昭56−051240(JP,A)
【文献】
特開2004−076027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20 − 20/29
20/30 − 20/34
C02F 1/28
1/58 − 1/64
B09B 1/00 − 5/00
B09C 1/00 − 1/10
C22B 1/00 − 61/00
B22F 1/00 − 8/00
C22C 1/04 − 1/05
33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強塩基性領域において汚染物質に含まれる重金属を吸着するとともに、その吸着した重金属を分離可能とする汚染物質の無害化処理用吸着剤の製造方法であって、
製鋼スラグを所定の粒径に篩い分ける篩い分け工程と、製鋼スラグを破砕分離する破砕分離工程と、製鋼スラグを磁力選別する磁力選別工程とを有し、この磁力選別工程によって得られた磁着物を無害化処理用吸着剤とし、
前記磁着物は、33.51〜56.97wt%の金属鉄の表面に形成された酸化膜の一部に10.39〜25.82wt%の酸化カルシウムが付着したものであり、
前記磁着物は、金属鉄、酸化膜、酸化カルシウムから構成され、塩基性を示すことを特徴とする汚染物質の無害化処理用吸着剤の製造方法。
【請求項2】
強塩基性領域において汚染物質に含まれる重金属をこの汚染物質から回収する重金属回収方法であって、
請求項1に記載の無害化処理用吸着剤を前記汚染物質に投入することにより、前記重金属を前記無害化処理用吸着剤に吸着させ、
その後、前記汚染物質から前記無害化処理用吸着剤を取り出すことにより、前記重金属を前記汚染物質から回収する重金属回収方法。
【請求項3】
汚染物質から取り出された請求項2に記載の無害化用吸着剤に物理的衝撃を与えることにより、前記重金属を該無害化処理用吸着剤から分離されることにより、該無害化処理用吸着剤を再利用可能とすることを特徴とする汚染物質の無害化処理用吸着剤の再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質の無害化処理用吸着剤、具体的には、汚染土壌等の汚染物質の原因物質である重金属を高い回収率にて回収可能とする汚染物質の無害化処理用吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然由来および又は産業活動に起因した有害物質である重金属による土壌汚染・水質汚染が顕在化している。このため、これらの汚染に対する環境保全が重要な社会的課題であるといえる。自然由来の重金属による土壌・地下水汚染については、従来、土壌汚染対策法の規制対象外であったが、2010年4月に土壌汚染対策法が改正され、現在では、たとえ自然由来の重金属であっても、場合によっては、その拡散を防ぐ必要がある。
このうち、代表的な汚染物質であるヒ素は、国内の天然土壌に多く分布している。このため、都市再開発やトンネル工事などで発生した掘削土に高濃度のヒ素が含まれる場合がよくあり、簡単にヒ素を除去することが社会的に要求されている。
また、海外においても、インドやバングラデシュなどの開発途上国を中心とする各国でヒ素等を含む汚染地下水の飲用による地域住民の健康被害が深刻であり、社会資本整備による恒久的な浄化対策が必要となっている。
このような状況のもと、近年では、特許文献1や非特許文献1に示すように、鉄粉にヒ素を吸着させることによって、汚染土壌からヒ素を除去する技術が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−144783号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤浦貴保ら「ひ素土壌汚染および汚染水浄化用鉄粉「エコメル」の開発」,R&D神戸製鋼技報,Vol.59,No.1,2009年4月(注:エコメルは登録商標)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1によれば、ヒ素の吸着率は、鉄粉製品を多量に投入しなければ、ヒ素の検出限界を超えることができなかった。また、ヒ素以外の重金属、特に、六価クロムと鉛については、吸着率が低く、社会的要求に十分に応えることができなかった。
【0006】
本発明は、高い回収率にて汚染土壌から重金属を回収するものである。そして、鉄成分だけでなく、重金属の化学特性に着目し、鉄粉にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物を付着させ、この酸化物と重金属とを反応させることにより、高い吸着率にて汚染物質から重金属を吸着させることができることを知見した。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物を鉄粉に付着させることで、吸着した重金属を容易に分離可能とすることができることを知見した。これらの知見から、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、汚染土壌等の汚染物質の原因物質である重金属を吸着するとともに、その吸着した重金属を機械的衝撃により分離可能とすることにより、汚染物質の無害化処理を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、強塩基性領域において汚染物質に含まれる重金属を吸着するとともに、その吸着した重金属を分離可能とする汚染物質の無害化処理用吸着剤
の製造方法であって、
製鋼スラグを所定の粒径に篩い分ける篩い分け工程と、製鋼スラグを破砕分離する破砕分離工程と、製鋼スラグを磁力選別する磁力選別工程とを有し、この磁力選別工程によって得られた磁着物を無害化処理用吸着剤とし、前記磁着物は、33.51〜56.97wt%の金属鉄の表面に形成された酸化膜の一部に10.39〜25.82wt%の酸化カルシウムが付着したものであり、前記磁着物は、金属鉄、酸化膜、酸化カルシウムから構成され、塩基性を示すことを特徴とする汚染物質の無害化処理用吸着剤の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、強塩基性領域において汚染物質に含まれる重金属をこの汚染物質から回収する重金属回収方法であって、請求項1に記載の無害化処理用吸着剤を前記汚染物質に投入することにより、前記重金属を前記無害化処理用吸着剤に吸着させ、その後、前記汚染物質から前記無害化処理用吸着剤を取り出すことにより、前記重金属を前記汚染物質から回収する重金属回収方法である。
請求項3に記載の発明は、汚染物質から取り出された請求項2に記載の無害化用吸着剤に物理的衝撃を与えることにより、前記重金属を該無害化処理用吸着剤から分離されることにより、該無害化処理用吸着剤を再利用可能とすることを特徴とする汚染物質の無害化処理用吸着剤の再利用方法である。
【0009】
本発明に係る汚染物質に含まれる重金属とは、人体に対して有害と認められる物質のうち、鉄や
カルシウムに対し反応性が認められるものをいい、ヒ素、六価クロム、カドミウム、鉛等である。汚染物質とは、これらの重金属が混在した物質であり、汚染土壌や汚染水等が挙げられる。
本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤は、鉄粉の表面に酸化膜、つまり、酸化鉄の膜で覆われ、その表面の一部に酸化カルシウムが付着したものである。つまり、酸化鉄の膜の表面の一部に
酸化カルシウムが付着し、それ以外の部分は酸化鉄の膜が露出している。
なお、酸化鉄の酸化膜は、鉄粉の表面全面に形成されていても鉄粉の表面の一部に形成されていてもよい。
【0010】
本発明に
おける汚染物質の無害化処理用吸着剤の効果が得られる科学的根拠は明確ではない。しかしながら、後述する実施例に示すデータから次のように推察することができる。
酸化カルシウムに含まれるカルシウムイオン及び鉄粉、酸化鉄中に含まれる鉄イオンが水分子の存在により溶出し、ヒ素等の重金属と結合して錯体を構成する。この錯体は塩基性雰囲気においては水に対し不溶性である。この錯イオンは全体として正の電荷を帯びる。一方、カルシウムイオンが放出された後の汚染土壌の無害化処理用吸着剤全体には負の電荷を帯び、錯イオンの吸着固定化を促進する。このようにして、汚染物質中の重金属が汚染物質の無害化処理用吸着剤に吸着されるものと考えられる。
酸化カルシウムが付着していることから、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤は、純水に投入した際、塩基性を示す。本来であれば、重金属の吸着は中性領域において高い吸着性能を示すが、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤は、pHが12以上である強塩基性領域であっても、ヒ素等の吸着力が高く(つまり、回収効率が高い)、有効であるといえる。
【0011】
また、酸化カルシウムは酸化鉄の酸化膜を介して鉄粉に付着している。付着の形態は特に問わないが、酸化カルシウムが酸化鉄の酸化膜に付着することで、酸化カルシウムと鉄粉とが容易に分離することが可能である。
さらに、本発明
における汚染物質の無害化処理用吸着剤の中心(コア、核)となる部分は鉄である。このため、汚染物質に本発明に
おける汚染物質の無害化処理用吸着剤を混合(投入)し、重金属を吸着した後に、重金属が吸着した汚染物質の無害化処理用吸着剤を取り出すために磁力選別をすればよく、極めて簡単に汚染物質の無害化処理用吸着剤を取り出すことができる。その後、吸着した重金属を化学的又は物理的処理により汚染物質の無害化処理用吸着剤を分離すれば、重金属に対して適切な処理を行うことができる。また、重金属を分離した使用済みの汚染物質の無害化処理用吸着剤については、再び汚染物質の無害化処理用吸着剤として利用することができる(つまり、再利用が可能である)。ここで物理的衝撃を与える処理とは、破砕機による破砕、摩鉱を含むものとする。
【0014】
また、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤は、表面に酸化膜が形成された鉄粉の表面の一部に、酸化カルシウムが付着したもの、すなわち、鉄鋼スラグをベースに製造することが可能なものである。鉄鋼スラグのうち、製鋼スラグについて、磁力選別と篩い分けを繰り返すことにより、表面に酸化膜が形成された鉄粉の表面の一部に、酸化カルシウムが付着した汚染物質の無害化処理用吸着剤を得ることができる。すなわち、
本発明は、汚染物質の無害化処理用吸着剤の製造が容易であることから、低コストでかつ容易に汚染物質の無害化処理を行うことができる。
【0015】
さらに重金属が吸着された汚染物質の無害化処理用吸着剤に物理的衝撃を与えることにより、汚染物質の無害化処理用吸着剤から重金属を分離可能とすることもできる。
吸着後の汚染物質の無害化処理用吸着剤に物理的衝撃を加えることにより重金属を分離可能とすることができることから、汚染物質から重金属を回収するコストや、分離された重金属を処分するコストをさらに抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、
酸化カルシウムに含まれる
カルシウムイオン及び鉄粉、酸化鉄中に含まれる鉄イオンが水分子の存在により溶出し、ヒ素等の重金属と結合して正の電荷を帯びた錯体を構成する一方、
カルシウムイオンが放出された後の汚染物質の無害化処理用吸着剤全体には負の電荷を帯び、錯イオンの吸着固定化を促進する。このため、本来であれば、重金属の吸着は中性領域において高い吸着性能を示すが、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤は、pHが12以上である強塩基性領域であっても、ヒ素等の吸着力が高く(つまり、回収効率が高い)、有用であるといえる。
また、
酸化カルシウムは酸化鉄の酸化膜を介して鉄粉に付着している。付着の形態は特に問わないが、
酸化カルシウムが酸化鉄の酸化膜に付着することで、
酸化カルシウムと鉄粉とが容易に分離することが可能である。
さらに、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤の中心(コア、核)となる部分は鉄である。このため、汚染物質に本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤を混合(投入)し、重金属を吸着した後に、重金属が吸着した汚染物質の無害化処理用吸着剤を取り出すために磁力選別をすればよく、極めて簡単に汚染物質の無害化処理用吸着剤を取り出すことができる。その後、吸着した重金属を化学的又は物理的処理により汚染物質の無害化処理用吸着剤を分離すれば、重金属に対して適切な処理を行うことができる。また、重金属を分離した使用済みの汚染物質の無害化処理用吸着剤については、再び汚染物質の無害化処理用吸着剤として利用することができる(つまり、再利用が可能である)。
【0017】
また、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤は、鉄鋼スラグをベースに製造することが可能なものであり、低コストで汚染物質の無害化処理用吸着剤を製造することができる。
特に、鉄鋼スラグのうち、製鋼スラグについて、磁力選別と篩い分けを繰り返すことにより、表面に酸化膜が形成された鉄粉の表面の一部に、酸化カルシウムが付着した汚染物質の無害化処理用吸着剤を得ることができ、それを使用すれば低コストでかつ容易に汚染物質の無害化処理を行うことができる。
【0018】
なお、吸着後の汚染物質の無害化処理用吸着剤に物理的衝撃を加えることにより重金属を分離可能とすることができることから、汚染物質から重金属を回収するコストをさらに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例に係る汚染土壌の無害化処理用吸着剤のSEM写真である。
【
図2】
図1におけるa地点(a)、b地点(b)、c地点(c)におけるEDXチャートである。
【
図3】本発明の実施例に係る汚染土壌の無害化処理用吸着剤の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例に係る汚染物質(汚染土壌)の無害化処理用吸着剤(以下、単に「吸着剤」と記載する。)の、SEM写真を
図1に示す。
図1のaで示されるもの(a地点を含む全体)の成分について
図2(a)のEDXチャートにて分析すると、Feを示すピークが高く、Oを示すピークは低く表れている。つまり、
図1のaで示される部分は鉄(酸化されていない鉄)である。そして、
図1のaで示される部分の縦横の最長の長さ(距離)はおおよそ0.2mmである。すなわち、本実施例に係る吸着剤は、粒径おおよそ0.2mmの粒状の鉄粉が存在する。
図1のbで示されるもの(b地点を含む全体)の成分について
図2(b)のEDXチャートにて分析すると、Feを示すピークとOを示すピークが高く表れている。つまり、
図1のbで示される部分は酸化鉄である。そして、
図1のbで示される部分の幅はおおよそ10μmである。すなわち、本実施例に係る吸着剤は、粒径おおよそ0.2mmの粒状の鉄粉の表面に厚さ10μm程度の酸化鉄(酸化膜)が存在する。
図1のcで示されるもの(c地点を含む全体)の成分について
図2(c)のEDXチャートにて分析すると、Caを示すピークとOを示すピークが高く表れている。また、Mgを示すピーク、Si、Alを示すピークも高く表れている。つまり、
図1のcで示される部分は主に酸化カルシウムであるが、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化マグネシウムも含まれている。そして、
図1のcで示される部分は、
図1のbに示す部分の表面全体を覆うように存在しておらず、
図1のbに示す部分の表面の一部に付着しているように存在している。
以上のとおり、
図1、
図2に示すように、本発明の実施例に係る吸着剤は、表面に酸化膜が形成された鉄粉の表面の一部に、酸化カルシウムが付着している。
この吸着剤は製鋼スラグから磁力選別、ふるい選別を組み合わせて製造されるものである。そして、前述の通り、酸化カルシウムが多く含まれている。つまり、この吸着剤は、塩基性スラグである。
【0021】
この吸着剤は、篩い分け、破砕分離、篩い分け、磁力選別を組み合わせて製造される。具体的には、
図3に示すように、原料となる製鋼スラグを目開き25mmの振動篩により篩い分けする。目開き25mmの振動篩に残った残留物(つまり、粒径25mm以上の原料)をロッドミルにて粉砕する。その後、所定の粒径まで篩い分けをした後に、磁力選別機により、1回目の磁力選別を行う。このときの磁束密度は0.15テスラである。
1回目の磁力選別による磁着物についてセパレータにて所定の粒径を超えるものと、それ以外のもの(所定の粒径以下のもの)とにセパレートした後、所定の粒径以下のものについて2回目の磁力選別を行う。また、所定の粒径を超えるものについては、原料投射型の破砕機にて破砕した後、多重篩にて所定の目開きを通過するものについても、2回目の磁力選別により磁力選別する。このときの磁束密度は0.15テスラである。この磁力選別による磁着物を吸着剤として使用する。
【0022】
(吸着性能試験)
本発明にかかる汚染物質(汚染土壌)の無害化処理用吸着剤について、ヒ素、カドミウム、六価クロムおよび鉛の吸着性能を測定した。
本発明にかかる汚染土壌の無害化処理用吸着剤の成分を表1に示す。ここで、
表1に示す数値の単位はwt%である。
このうち、T.Feは吸着剤に含まれる鉄の総量であり、M.Feは酸化されていない鉄の量を示す。また、比較サンプル2は、汚染土壌の吸着剤として一般的に販売されている従来品(鉄粉)である。
【0024】
(ヒ素の吸着性能試験)
水中にヒ素を10ppm添加・溶解したヒ素水溶液を250ml用意し、これに吸着剤を添加した内容積500mlのバイアル瓶を密封し、25℃の恒温水槽に浸漬して、72時間振とうした。その後、メンブランフィルタでろ別し、ろ液中のヒ素の濃度を定量して、吸着除去率を求めた。ヒ素の濃度は、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型式:iCAP6300DUO)にて分析した。また、ヒ素吸着初期時における水溶液のpHを測定した。ヒ素の吸着性能試験の試験結果を表2に示す。
【0026】
(カドミウム、六価クロム、鉛の吸着性能試験)
カドミウム、六価クロム、鉛についてヒ素吸着性能試験と同様の試験を行った。その結果を表3に示す。
【0028】
以上の結果から、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤については、ヒ素の吸着が99%以上と極めて高いだけでなく、カドミウム、六価クロム、鉛の吸着においても高い吸着が可能であることが明らかとなった。
【0029】
本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤の効果が得られる科学的根拠は明確ではないものの、吸着初期時のpHに着目すると、本来であれば、重金属の吸着は中性領域において高い吸着性能を示し、強酸性領域及び強塩基性領域においては低い吸着性能を示すが、本発明に係る汚染物質の無害化処理用吸着剤にあっては、pHが12以上と強塩基性領域であるにもかかわらず、重金属の吸着率が高い。
アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物に含まれる金属イオン及び鉄粉、酸化鉄中に含まれる鉄イオンが水分子の存在により溶出し、ヒ素等の重金属と結合して錯体を構成する。この錯体は塩基雰囲気においては水に対し不溶性である。この錯イオンは全体として正の電荷を帯びる。一方、金属イオンが放出された後の汚染土壌の無害化処理用吸着剤全体には負の電荷を帯び、錯イオンの吸着固定化を促進する。このようにして、汚染物質中の重金属が汚染物質の無害化処理用吸着剤に吸着されるものと考えられる。
このため、pHの高い強塩基性領域においても重金属の吸着率を高めるためには、汚染物質の無害化処理用吸着剤を純水に投入した際に塩基性を示すことが必要であり、酸化膜が形成された鉄粉の表面の一部に付着している金属酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物であればよいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、自然由来および又は産業活動に起因した有害物質である重金属による土壌汚染・水質汚染に対する環境保全技術に有効である。