(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
25重量%の砂(AFS 50/70標準硅砂)と1500ppmのNaClを含有し、pH8.5、温度45℃、衝突角度45°で、速度6m/sの水スラリーに4時間暴露する衝突噴流試験を行ったときの体積損失が10mm3未満である鉄系部材の製造方法であって、
a)5〜40重量%のマンガン、0.01〜3.0重量%の炭素、0〜20重量%のクロム、0〜5重量%のアルミニウム、0〜6重量%のケイ素、0〜5重量%のニッケル、0〜5重量%のコバルト、0〜5重量%のモリブデン、0〜5重量%のニオブ、0〜5重量%の銅、0〜5重量%のチタン、0〜5重量%のバナジウム、0〜1.5重量%の窒素、0〜0.1重量%のホウ素、0〜6重量%のジルコニウム、0〜6重量%のハフニウム、残余鉄からなる鋼組成物を準備する工程、
b)少なくとも1000℃まで前記組成物を加熱する工程、
c)700℃〜1000℃の範囲の温度に前記組成物を冷却する工程、
d)前記700℃〜1000℃の範囲の温度で前記組成物を塑性変形する工程、および
e)前記組成物を焼き入れ、加速冷却または空気冷却する工程
を含む方法。
前記100μm以下の微細化結晶粒径を有する微細構造が、前記組成物の表面層を含み、前記表面層の厚さが10nm〜5000nmであり、かつ前記表面層が前記組成物の使用前または使用中に形成される請求項3に記載の方法。
前記表面層が、ショットピーニング、レーザ衝撃ピーニング、表面バニシング、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される表面変形技術により形成される請求項4に記載の方法。
工程e)の前に、前記組成物が徐々に冷却されるか、または等温に保持され、かつ工程e)が前記組成物を急速に焼き入れ、加速冷却または空気冷却することを含む請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
クロムが全組成物の0.5〜20重量%の範囲であり;ニッケルまたはコバルトのそれぞれが、全組成物の0.5〜5重量%の範囲であり;アルミニウムが全組成物の0.2〜5重量%の範囲であり;モリブデン、ニオブ、銅、チタン、またはバナジウムのそれぞれが、全組成物の0.01〜5重量%の範囲であり;ケイ素が全組成物の0.1〜6重量%の範囲であり;窒素が全組成物の0.001〜1.5重量%の範囲であり;ホウ素が全組成物の0.001〜0.1重量%の範囲であり;ジルコニウムまたはハフニウムのそれぞれが全組成物の0.2〜6重量%の範囲である請求項8に記載の方法。
前記組成物が8〜20重量%のマンガン、0.60〜3.0重量%の炭素、0.5〜3重量%のクロム、0.5〜2.0重量%の銅、0.1〜1重量%のケイ素、残余鉄からなる請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
5〜40重量%のマンガン、0.01〜3.0重量%の炭素、0〜20重量%のクロム、0〜5重量%のアルミニウム、0〜6重量%のケイ素、0〜5重量%のニッケル、0〜5重量%のコバルト、0〜5重量%のモリブデン、0〜5重量%のニオブ、0〜5重量%の銅、0〜5重量%のチタン、0〜5重量%のバナジウム、0〜1.5重量%の窒素、0〜0.1重量%のホウ素、0〜6重量%のジルコニウム、0〜6重量%のハフニウム、残余鉄からなる鉄系部材であって、
25重量%の砂(AFS 50/70標準硅砂)と1500ppmのNaClを含有し、pH8.5、温度45℃、衝突角度45°で、速度6m/sの水スラリーに4時間暴露する衝突噴流試験を行ったときの体積損失が10mm3未満である鉄系部材。
【背景技術】
【0002】
配管系は、例えば、材料運搬システム、流体/固体輸送システム、採鉱操業などの多様な装置で広く使用されている。例えば、採鉱操業用の配管系は、液体媒体中の固体岩石と砂の粒子の混合物、すなわちスラリーを処理プラントへ運搬するために、また瓦礫用媒体を採鉱地区に循環させるために使用し得る。現行の、スラリーハイドロトランスポートなどのためのパイプ構造体のいくつかは、通常、低炭素のパイプライングレードの鋼(例えば、API仕様、5L X65またはX70グレードの鋼)で作製されている。
【0003】
スラリーなどの運搬は、配管系の摩耗と早期の故障をしばしば引き起こす。配管系の研磨摩耗/侵食摩耗は、パイプ壁と流体中の硬質固体粒子の相対的な動きにより生じ得る。例えば、配管材料の損失は、鋭い角度のエッジを有する粒子がパイプ壁の一部を切削または剪断する結果であり得る。それであるから、頻繁な補修および/または交換が標準的であると考えられているが、これには多額の運転コストを必要とする。したがって、事業の経済性を改善し、運転コストを低減する、高強度で、かつ/または耐摩耗性のパイプ材料を開発することに、大きな経済的インセンティブが働いている。
【0004】
一般に、低合金鋼からバイメタル複合材料および冶金接合複合材料まで、各種の配管材料を利用することができる。低合金鋼の有利性には、低価格であり普通に入手できることがある。しかしながら、この鋼は耐摩耗性に乏しい。そのような鋼は、通常、合金化および/または微細構造の調節によりある程度は強化することができるが、材料硬度の増加は一般に延性の低下を伴う。これは殆どの材料運搬システムで受け入れられない。接合複合鋼/パイプは、通常、耐衝撃性の外部パイプ被覆と硬化した耐摩耗性の内部パイプを有する。しかしながら、接合複合鋼/パイプの適用は、入手可能性およびコストにより制限される。
【0005】
オイルサンド採掘工業においても耐摩耗性強化鋼が求められている。そのようなオイルサンド鉱床は1960年代から商業的に回収されており、近年、回収率が増大している。瀝青鉱石の採収は、一般に、浅部鉱床(例えば、深さ100m未満)での露天採掘技術か、または、より深い地下(例えば、100m前後、またはそれより深い)に位置する深部鉱床でのその場熱抽出(例えば、水蒸気、化学溶剤および/またはこれらの混合物の注入など)のいずれかで採集されている。浅部オイルサンドの露天採掘では、多くの種類の重機およびパイプラインが使用される。通常、まずショベルを使ってオイルサンドを掘削し、採掘物をトラック/車両に移す。車両はオイルサンド鉱石を鉱石調製施設に運搬する。そこで、採掘された鉱石が、通常、粉砕され、熱水と混合される。その後、オイルサンドスラリーを、通常、ハイドロトランスポートパイプラインにより第一次分離槽(PSC)へポンプで圧送する。そこで、一般に、油状瀝青物が砂および水から分離される。瀝青物を分離後、残りの砂と水のスラリーを、鉱滓パイプラインにより鉱滓池へ輸送し、砂を沈殿させる。
【0006】
例えば、アルバータ州北東部にあるカナダのオイルサンド資源は、浅い表土に覆われた広大なオイルサンド鉱床を含み、したがって、露天採掘が油状瀝青物採収の効率的な方法になる。一般に、サンドは、ショベルで採掘され、粒子状物質のオイルサンドを、通常、水スラリーとして輸送するハイドロトランスポートパイプラインなどにより、処理プラントへ輸送されることが多い。瀝青物抽出後、通常、鉱滓が、処理施設からパイプラインにより、固体と水の分離を行う場所へ輸送される。大量のスラリー混合物のハイドロトランスポートは、従来の金属パイプラインなどでは、かなりの金属損失を引き起こし、それは、交換周期の短縮および経費の多大の増加をもたらす。
【0007】
したがって、オイルサンドの採掘および鉱石の調製プロセスは、多くの装置/作動領域(例えば、ショベルの爪、ホッパー、粉砕機、コンベヤー、振動篩、スラリーポンプ、パイプラインなど)に様々な応力および/または衝撃による摩耗の課題をもたらす。例えば、下流のスラリー輸送および抽出プロセスで、装置、パイプライン(例えば、ハイドロトランスポートパイプライン)、ポンプおよび/またはPSCが内部で直面する課題としては、装置/材料の、侵食、侵食/腐食、腐食、応力、摩耗および/または摩滅などがある。これらの装置/材料の侵食/腐食攻撃などは、多額の補修費、交換費および/または維持費に繋がり、また生産性の低下にも繋がる。
【0008】
記載したように、スラリーハイドロトランスポート用の現行の配管構造体は、通常、低炭素の、パイプライングレードの鋼(例えば、API仕様、5L X70)で作製されている。一般に、スラリー流れの中で高速移動する固体は、パイプのかなりの金属損失(例えば、内部パイプの壁の金属損失)を引き起こし得る。水性爆気スラリー流れも、腐食環境を提供するため、通常、パイプの侵食を促進する。さらに、スラリー中の粒子状物質(重力の影響下)は、とりわけパイプ内部の下半分に沿って損傷を引き起こす。例えば、オイルサンドの採掘操業で砂と水スラリーを運ぶハイドロトランスポートパイプラインおよび鉱滓パイプラインは、稼働中に厳しい侵食−腐食による損傷を受けるが、パイプラインの底部(例えば6時の位置)は、通常、最も厳しい侵食摩耗を受ける。
【0009】
パイプラインの耐用年数を延ばすために、定期的にパイプラインを回転させている採掘作業者もいる。例えば、パイプラインを時々(例えば、約1500時間の稼働後に)約90°だけ回転させる。通常、約3回、回転させた後(例えば、約6000時間の稼働後)、パイプラインを完全に取り換える。マルテンサイトステンレス鋼、表面硬化材料(例えば、WC系、クロム−炭化物系)およびポリマーライニング材料(例えば、ポリウレタン)などの各種材料が、オイルサンド採掘作業者により評価され、使用されてきた。しかしながら、そのような材料は、通常、摩耗/侵食性能が比較的低い(例えば、ポリマーライナー)か、または材料/製造費が高い(例えば、WC系硬質金属、クロム−炭化物系硬質金属を被覆した材料)ために、隙間的用途しか見出せないでいる。しかしながら、パイプの侵食などは依然として重大問題であり、より効率的/経済的な操業/解決を可能にする、代替のパイプ構造および/または材料が求められている。
【0010】
マンガン(Mn)を含有するある種の鋼は、ほぼ19世紀頃から知られている。最初の商業的な高Mn鋼は、イギリスの冶金技術者Robert Hadfieldにより発明された。約1.0〜約1.4重量%の炭素と、約11〜約14重量%のMnの組成を有する「ハドフィールド鋼」は、一定の耐摩耗性、靭性および加工硬化性を示す。しかしながら、製造上の様々な困難や課題のために、ハドフィールド鋼は、通常、鋳造製品または鍛造製品でのみ使用されてきた。例えば、ハドフィールド鋼は、約1050℃より高い温度でのソーキング(例えば、焼きならし)、および、それに続く水焼き入れを必要とする。
【0011】
最近、製鋼所の間で、ハドフィールド鋼より多くのマンガンを含み、炭素量は一般により少ない合金に興味がいくらか持たれてきている。鉄鋼メーカーは、Mn鋼の化学的性質を自動車用途に使用することを研究している。さらに、自動車メーカーも高Mn鋼の自動車用途への使用を調査している。
【0012】
このように、改良された(例えば、耐摩耗性が強化された)鋼組成物、およびその製造方法に対する興味が存在する。これらや他の非効率性、および改良の機会は、本開示のシステムおよび方法によって対処され、かつ/または克服される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、有利な鋼組成物を提供する。より詳しくは、本開示は、耐摩耗性/耐侵食性が向上した改良高マンガン(Mn)鋼、および耐摩耗性/耐侵食性が向上した鋼を製造するための関連する方法を提供する。例示的な実施形態では、本開示の有利な鋼組成物/部材は、次の特性:耐摩耗性、延性、耐亀裂性、耐侵食性、疲労寿命、表面硬度および/または耐環境亀裂性、の1つ以上を改善する。
【0014】
一般に、本開示は、耐摩耗性(例えば、耐ステップアウト摩耗性、耐侵食性、および/または耐侵食性/耐腐食性)が向上した、費用効果が高い高マンガン鋼を提供する。より具体的には、本開示は、高率のマンガン(例えば、約5重量%以上)で合金化した鉄系の鋼であって、製造された鋼が、増大した/改善された耐摩耗性/耐摩滅性(例えば、改善された耐ステップアウト摩耗性、耐摩耗性、耐侵食性、および/または耐侵食性/耐腐食性)を示す鋼を提供する。本開示はまた、そのような改良鋼の製造方法を提供する。例示的な実施形態では、高強度と高加工硬化率という、他にはない組み合わせのために、本開示の高マンガン鋼は、耐摩耗性および耐侵食性が所望/要求される用途に、有利性/使用可能性を有する。
【0015】
ある態様では、本開示は、微細構造および/または化学的性質の制御によって、鋼の強度、靭性、ならびに耐摩耗性および耐侵食性を改善する方法を提供する。ある実施形態では、方法は、相変態(例えば、アルファプライムマルテンサイト相またはイプシロンマルテンサイト相へ)を促進する工程、変形時、双晶形成する工程、および/または硬質で耐侵食性を有する第2の相の粒子を組成物に導入する工程を含む。
【0016】
本開示の鋼組成物の使用/用途の例としては、採鉱操業における配管系、オイルサンド配管系、材料運搬システム、流体/固体輸送システムでの使用、ならびに/または、土木装置および/もしくは掘削部品の材料としての使用(例えば、耐研磨摩耗性および耐侵食性が重要な因子となる、例えば、石油および天然ガスの探査、生産、輸送および石油化学での用途など)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本開示の鋼の使用により、オイルサンド生産の経済性を改善することができ、また、ある種の材料技術(例えば、スラリー輸送/鉱滓パイプライン技術、重質油などのその場の地下熱抽出におけるケーシング/配管技術)が改善されるであろう。
【0017】
製造方法の例示:
本開示は、鉄系部材の製造方法であって、a)約5〜約40重量%のマンガン、好ましくは約9〜約25重量%のマンガン、より好ましくは約12〜約20重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、好ましくは約0.5%〜約2.0重量%の炭素、より好ましくは約0.7%〜約1.5重量%の炭素、および残余(又は残部:balance)鉄を有する組成物を準備する工程、b)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度(例えば、組成物を均質化する温度)に組成物を加熱する工程、c)圧延開始温度(RST)にまで冷却する工程、d)組成物を変形または熱間圧延する工程、およびe)組成物を焼き入れ(quench)、加速冷却(又は急速冷却)または空気冷却する工程を含む方法を提供する。
【0018】
本開示は、鉄系部材の製造方法であって、a)約5〜約40重量%のマンガン、好ましくは約9〜約25重量%のマンガン、より好ましくは約12〜約20重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、好ましくは約0.5%〜約2.0重量%の炭素、より好ましくは約0.7%〜約1.5重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度(例えば、組成物を均質化する温度)に組成物を加熱する工程、c)圧延開始温度(RST)にまで冷却する工程、d)組成物を変形または熱間圧延する工程、およびe)組成物を焼き入れ、加速冷却または空気冷却する工程を含む方法を提供する。
【0019】
本開示は、鉄系部材の製造方法であって、工程d)の後、組成物の母相が主としてまたは実質的にオーステナイト相である方法を提供する。1つ以上の実施形態では、鋼組成中のオーステナイトの体積パーセントは、約50体積%〜約100体積%、より好ましくは約80体積%〜約99体積%、より一層好ましくは約90体積%〜約98体積%である。
【0020】
鋼組成物は、熱間圧延プロセスにより、主としてまたは実質的にオーステナイト鋼板に加工することが好ましい。1つ以上の実施形態では、まず、記載した組成物から、例えば連続鋳造法などにより、鋼塊/スラブを形成する。その後、鋼塊/スラブを、約1,000℃〜約1,300℃の範囲内、より好ましくは約1050℃〜1250℃の範囲内、より一層好ましくは約1100℃〜1200℃の範囲内の温度(「再加熱温度」)に再加熱することができる。再加熱温度は、(i)鋼のスラブ/組成物を実質的に均質化し、(ii)含まれるなら、鋼のスラブ/組成物中の炭化物、窒化物、ホウ化物および/または炭窒化物を全て実質的に溶解し、かつ(iii)鋼のスラブ/組成物中に微細な初期のオーステナイト結晶粒を形成するのに十分であることが好ましい。
【0021】
再加熱したスラブ/組成物は、その後、1回以上、熱間圧延することができる。例示的な実施形態では、圧延または熱間変形は「圧延開始温度」で開始することができる。1つ以上の実施形態では、圧延開始温度は、1100℃超、好ましくは1080℃超、より好ましくは1050℃超である。例示的な実施形態では、板厚減少のための最終圧延は、「圧延終止温度」で完了させることができる。1つ以上の実施形態では、圧延終止温度は、約700℃超、好ましくは約800℃超、より好ましくは約900℃超である。熱間圧延した鋼板は、その後、第1冷却温度すなわち加速冷却開始温度(「ACST」)にまで冷却する(例えば、空気中で)ことができ、この温度で加速冷却が開始され、毎秒少なくとも約10℃の速度で、第2冷却温度すなわち加速冷却終止温度(「ACFT」)にまで鋼板を冷却する。ACFTにまで冷却後、鋼板/鋼組成物は環境空気中で室温(例えば、周囲温度)にまで冷却することができる。鋼板/鋼組成物は、自然に室温にまで冷却させることが好ましい。
【0022】
1つ以上の実施形態では、ACSTは約750℃以上、約800℃以上、約850℃以上または約900℃以上である。1つ以上の実施形態では、ACSTは約700℃〜約1000℃の範囲とすることができる。1つ以上の実施形態では、ACSTは約750℃〜約950℃の範囲とすることができる。ACSTは約650℃、700℃または750℃の低値から約900℃、950℃または1000℃の高値の範囲であることが好ましい。1つ以上の実施形態では、ACSTは約750℃、約800℃、約850℃、約890℃、約900℃、約930℃、約950℃、約960℃、約970℃、約980℃または約990℃とすることができる。
【0023】
1つ以上の実施形態では、ACFTは約0℃〜約500℃の範囲とすることができる。ACFTは、約0℃、10℃または20℃の低値から約150℃、200℃または300℃の高値の範囲であることが好ましい。
【0024】
いかなる理論にも縛られるものではないが、低い加速冷却終止温度(「ACFT」)への急速冷却(例えば、約10℃/秒を超える冷却速度)は、少なくとも1部の炭素および/または窒素原子が、鋼組成物のオーステナイト相から結晶粒界または第2の相へ拡散するのを妨げると考えられる。さらに、高い加速冷却開始温度(「ACST」)は、その後のACFTへの冷却の間に、少なくとも1部の炭素および/または窒素原子が、例えば、炭化物、炭窒化物および/または窒化物などの析出物を生成するのを妨げると考えられる。それであるから、結晶粒界での析出物の量は減少する。したがって、鋼の破壊靭性および/または耐亀裂性が増大する。
【0025】
圧延および冷却工程に続いて、鋼板からパイプなど(例えば、ラインパイプ)を形成することができる。パイプの形成には、任意の適切な方法を使用することができる。当該技術分野で知られている従来のUOEプロセスまたはJCOEプロセスにより、前駆体鋼板からラインパイプを製造することが好ましい。
【0026】
本開示はまた、鉄系部材の製造方法であって、a)約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度に組成物を加熱する工程、c)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より低い温度に組成物を冷却する工程、d)組成物がそのオーステナイト再結晶停止温度より低い温度にある間に組成物を変形させる工程、およびe)組成物を焼き入れする工程を含む方法を提供する。
【0027】
本開示はまた、鉄系部材の製造方法であって、工程e)の後で、組成物の炭化物析出体積画分が組成物の約20体積%以下、好ましくは組成物の約15体積%以下、より好ましくは組成物の約10体積%以下である方法を提供する。本開示はまた、鉄系部材の製造方法であって、工程e)の後で、組成物が約100μm以下、好ましくは約50μm以下、より好ましくは約30μm以下の微細化結晶粒径を有する微細構造を有する方法を提供する。
【0028】
本開示はまた、鉄系部材の製造方法であって、約100μm以下の微細化結晶粒径を有する微細構造が組成物の表面層を含む方法を提供する。本開示はまた、鉄系部材の製造方法であって、表面層の厚さが約10nm〜約10000nmである方法を提供する。本開示はまた、鉄系部材の製造方法であって、表面層が組成物の使用前または使用中に形成される方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、表面層が、ショットピーニング、レーザ衝撃ピーニング、表面バニシングおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される表面変形技術により形成される方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程e)の後、ショットピーニング、レーザ衝撃ピーニング、表面バニシングおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される表面変形工程をさらに含む方法を提供する。
【0029】
本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程e)の前に、組成物を徐々に冷却するか、または等温に保持する方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程e)が組成物を急速に焼き入れすることを含む方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程d)が、組成物がオーステナイト再結晶温度より低く、マルテンサイト変態開始温度より高い温度にある間に、組成物を変形させることを含む方法を提供する。
【0030】
本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程d)が、組成物を変形させて、組成物のマルテンサイト生成を誘起することを含む方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、組成物を約18℃〜約24℃の温度で変形させて、組成物のマルテンサイト生成を誘起する方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程d)の後、オーステナイト再結晶停止温度より高い温度に組成物を加熱する工程をさらに含む方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程d)の後、オーステナイト再結晶停止温度より高い温度に組成物を加熱することにより、組成物の変形誘起されたマルテンサイトを超微細結晶粒オーステナイトに戻す方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、超微細結晶粒オーステナイトのマルテンサイト開始温度が約24℃未満である方法を提供する。
【0031】
本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程e)の後、オーステナイト再結晶停止温度より高い温度に組成物を加熱し、その後、組成物を焼き入れする工程をさらに含む、方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程c)の前に、組成物がオーステナイト再結晶停止温度より高い温度にある間に、組成物を変形させる工程をさらに含む方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、約700℃〜約1000℃の温度で組成物を変形させる方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程b)が、組成物を少なくとも約1000℃に加熱することを含む方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程c)が、組成物を毎秒約1℃〜毎秒約60℃の速度で冷却することを含む方法を提供する。
【0032】
本開示は鉄系部材の製造方法であって、組成物が、さらにクロム、アルミニウム、ケイ素、ニッケル、コバルト、モリブデン、ニオブ、銅、チタン、タングステン、タンタル、バナジウム、窒素、ホウ素、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の合金元素を含む方法を提供する。本開示は鉄系部材の製造方法であって、クロムが全組成物の0〜30重量%、より好ましくは全組成物の0.5〜20重量%、より一層好ましくは全組成物の2〜5重量%の範囲であり;ニッケルまたはコバルトのそれぞれが、全組成物の0〜20重量%、より好ましくは全組成物の0.5〜20重量%、より一層好ましくは全組成物の1〜5重量%の範囲であり;アルミニウムが全組成物の0〜15重量%、より好ましくは全組成物の0.5〜10重量%、より一層好ましくは全組成物の1〜5重量%の範囲であり;モリブデン、ニオブ、銅、チタン、タングステン、タンタル、またはバナジウムのそれぞれが、全組成物の0〜10重量%、より好ましくは全組成物の0.02〜5重量%、より一層好ましくは全組成物の0.1〜2重量%の範囲であり;ケイ素が全組成物の0〜10重量%、より好ましくは全組成物の0.1〜6重量%、より一層好ましくは全組成物の0.1〜0.5重量%の範囲であり;窒素が全組成物の0〜3.0重量%、より好ましくは全組成物の0.02〜2.0重量%、より一層好ましくは全組成物の0.08〜1.5重量%の範囲であり;ホウ素が全組成物の0〜0.1重量%、より好ましくは全組成物の0.001〜0.1重量%の範囲であり;ジルコニウムまたはハフニウムのそれぞれが全組成物の0〜6重量%(例えば、0.2〜5重量%)の範囲である方法を提供する。
【0033】
本開示は鉄系部材の製造方法であって、組成物が約8〜約25重量%のマンガン、約0.60〜約3.0重量%の炭素、約0.05〜約5重量%のクロム、約0.0〜約5.0重量%の銅、約0.01〜約7重量%のケイ素、および残余鉄を含む方法を提供する。
【0034】
本開示は鉄系部材の製造方法であって、工程d)が変態誘起塑性または双晶誘起塑性を含む方法を提供する。
【0035】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物の炭化物析出体積画分が組成物の約20体積%以下である部材を提供する。
【0036】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物が、約150μm以下の微細化結晶粒径を有する微細構造を有する部材を提供する。
【0037】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物が、周囲温度で300MPa以上の引張降伏強さを有する部材を提供する。
【0038】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物が、周囲温度で600MPa以上の最大高張力を有する部材を提供する。
【0039】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物が、周囲温度で7%以上の引張均一伸びを有する部材を提供する。
【0040】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物が−40℃で約20J以上のシャルピー衝撃エネルギーを有する部材を提供する。
【0041】
本開示はまた、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を含む鉄系部材であって、組成物がAPI 5L X70グレードの炭素鋼の約2倍以上の耐摩耗性および/または耐侵食性を有する部材を提供する。
【0042】
本開示はまた、a)約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度に組成物を加熱する工程、c)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より低い温度に組成物を冷却する工程、d)組成物が組成物のオーステナイト再結晶停止温度より低い温度にある間に組成物を変形させる工程、およびe)組成物を焼き入れする工程により製造される、鉄系部材を提供する。
【0043】
実施形態を任意に組み合わせたり、あるいは変更したりすることが想定されている。以下の説明により、特に添付の図面と併せて読めば、本開示の開示されたシステムおよび方法の、さらに有利な特徴、機能および用途が明らかになるであろう。本開示で挙げた参考文献は全て、その全体が参照により本開示に組み込まれる。
【0044】
以下に、添付の図面を参照しながら、実施形態の特徴および態様を説明するが、図面中の要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていない。
【0045】
本開示の例示的な実施形態について、添付の図面を参照しながらさらに詳しく説明する。以下で説明し、また図面で説明している各種の工程、特徴および工程/特徴の組み合わせの配置や構成を変えて、本開示の精神と範囲に依然含まれる実施形態にすることができることに留意すべきである。当業者が、開示したシステム、組立品および方法を作り、また使用するのを手助けするために、以下の添付の図面が参照される。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書に例として開示する実施形態は、有利な鋼組成物、ならびに本開示のシステムおよびその方法/手法を説明するものである。しかしながら、開示された実施形態は、本開示の単なる例示であって、様々な形態に具体化し得るものであると理解されるべきである。したがって、例示した鋼組成物/製造方法と、関連する組立および使用の方法/手法に関して、本明細書に開示した詳細は、限定するものと解釈されるべきでなく、本開示の有利な鋼組成物の製造方法および使用方法を当業者に教示するための単なる基礎であると解釈されるべきである。図面は必ずしも一定の縮尺でなく、ある図では、明確化のために、部分的に誇張されていることがあり得る。
【0048】
本明細書の詳細な説明および特許請求の範囲における数値は全て、示された数値に「約」または「略」を加えることにより修飾されており、当業者が予想するだろう実験誤差および変動を考慮している。
【0049】
値の範囲が与えられている場合、その範囲の上下限の間のそれぞれの値であって、文脈で特に指定がなければ下限の単位の小数第1位までの値と、その指定範囲内の他の任意の指定された値または中間値は、本発明に包含されると理解される。任意の下限値から任意の上限値の範囲が考えられている。独立してより狭い範囲に含まれ得る、これらのより狭い範囲の上下限もまた、明確に排除した、その指定範囲の限界値に依存して、本発明の範囲に包含される。指定範囲が一方または両方の限界値を含む場合、含まれたそれらの限界値の一方または両方を排除した範囲もまた本発明に含まれる。
【0050】
本発明を実施または試験するにあたり、本明細書に記載のものと類似の、または等価の任意の方法および材料を使用することもできるが、ここで、好ましい方法および材料について記載する。本明細書で言及した全ての刊行物は、それらの刊行物が関連して言及している方法および/または材料を説明し記載するため、参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
本明細書、および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形(「a」、「an」および「the」)は、文脈にそうでないことが明記されていない限り、複数の言及を含むことに留意しなければならない。
【0052】
異なる定義がなされていない限り、本明細書中に使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。本明細書中、発明の説明で使用する技術用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の限定を意図するものではない。本明細書で言及する全ての刊行物、特許出願、特許、図面および他の参考文献は、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。
【0053】
定義
CRA:耐腐食性合金であって、腐食問題を引き起こしやすい仕上げ部材用に使用される、特別に調合した材料を意味し得るが、決してそれに限定されない。耐腐食性合金は広範囲の攻撃的条件のために調合し得る。
【0054】
延性:破壊前、かなりの塑性変形を受ける材料の能力を示す尺度を意味し得るが、決してそれに限定されない。これは、伸び率(%EL)または面積減少率(%AR)で表され得る。
【0055】
耐侵食性:材料の表面に衝突する運動中の固体粒子に曝露されたときの、侵食に対する材料固有の耐性を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0056】
靭性:破壊開始に対する耐性を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0057】
疲労:繰り返し荷重下の破壊に対する耐性を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0058】
降伏強さ:変形せずに荷重に耐える能力を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0059】
冷却速度:板厚の中心、または実質的な中心を冷却する速度を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0060】
オーステナイト:鉄の面心立方結晶構造における1種以上の元素の固溶体を意味し得るが、決してそれに限定されない;溶質は炭素、窒素、マンガンおよびニッケルであり得るが、決してそれに限定されない。
【0061】
マルテンサイト:無拡散相変態により形成される微細構造であって、その内部で母相(通常、オーステナイト)と生成物相が特定の配向関係にある微細構造の総称を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0062】
ε(イプシロン)−マルテンサイト:オーステナイト相を冷却するか、または歪みを加えると生成する、六方最密充填結晶構造を有するマルテンサイトの特定の形態を意味し得るが、決してそれに限定されない。ε−マルテンサイトは、通常、オーステナイト相の最密(111)面上に生成し、形態上は変形双晶または積層欠陥クラスターに類似している。
【0063】
α’(アルファプライム)−マルテンサイト:オーステナイト相を冷却するか、または歪みを加えると生成する、体心立方または体心正方結晶構造を有するマルテンサイトの特定の形態を意味し得るが、決してそれに限定されない。α’マルテンサイトは、通常、板状晶として生成する。
【0064】
M
s温度:冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が始まる温度を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0065】
M
f温度:冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終わる温度を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0066】
M
d温度:所定の変形条件下、指定された量のマルテンサイトが生成する最高温度を意味し得るが、決してそれに限定されない。Md温度は、通常、変形時のオーステナイト相の安定性を特徴づけるために使用される。
【0067】
炭化物:鉄/金属と炭素との化合物を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0068】
セメンタイト:斜方晶結晶構造を有する、略Fe
3Cの化学式を有する鉄と炭素との化合物を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0069】
パーライト:通常、フェライトとセメンタイト(Fe
3C)の交互の層からなる、2つの層の薄膜状混合物を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0070】
結晶粒:多結晶物質中の個々の結晶を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0071】
結晶粒界:一つの結晶学的配向から他のものへの変化に相当し、したがって、一つの結晶粒を他から分離している、金属中の狭い領域を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0072】
焼き入れ:任意の手段による加速冷却であって、空気冷却とは対照的に、鋼の冷却速度を増加させる傾向があるという理由で選択された流体を使用する冷却を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0073】
加速冷却開始温度(ACST):焼き入れ開始時の、板の表面が到達した温度を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0074】
加速冷却終止温度(ACFT):板の厚さの中心部から移動する熱のために、焼き入れ停止後に、板の表面が到達する最高温度または実質的最高温度を意味し得るが、決してそれに限定されない。
【0076】
再結晶:臨界温度を超えて加熱することによる、冷間加工金属からの、新しい歪みのない結晶粒構造の粒子の生成。
【0077】
T
nr温度:この温度未満ではオーステナイトが再結晶しない温度。
【0078】
本開示は、有利な鋼組成物を提供する(例えば、強化された耐摩耗性を有する)。より詳しくは、本開示は、強化された耐摩耗性を有する改良高マンガン(Mn)鋼、および強化された耐摩耗性を有する高マンガン鋼組成物の製造方法を提供する。例示的な実施形態では、本開示の有利な鋼組成物/部材は、次の特性:耐摩耗性、延性、耐亀裂性、耐侵食性、疲労寿命、表面硬度、耐応力腐食性、耐疲労性および/または耐環境亀裂性、の1つ以上を改善する。
【0079】
一態様において、本開示は、微細構造および/または化学的性質を制御することによって、鋼の強度、靭性、ならびに耐摩耗性および耐侵食性を改善する方法を提供する。ある実施形態では、微細構造および/または化学的性質を制御することにより、本開示の鋼組成物の強度、靭性、耐摩耗性、および/または耐侵食性を、改善/増大させることができる。そのような可能な経路としては、相変態(例えば、マルテンサイト/イプシロン相へ)の促進、変形時の双晶形成、および/または硬質の耐侵食性第2相粒子の組成物への導入が挙げられる。
【0080】
他の態様において、本開示は、摩耗および/または侵食を受けないように設計された高マンガン鋼(例えば、改善された耐摩耗性/耐侵食性を有する)を提供する。一般に、高強度と高加工硬化率という他にはない組み合わせのために、本開示の高マンガン鋼は、耐摩耗性および/または耐侵食性が所望/要求される用途で優位性/可能性を有する(例えば、石油およびガスの探査、生産、輸送および石油化学用途)。
【0081】
本開示に記載または包含された任意の鋼組成物は、多くのシステム/用途(例えば、採鉱操業における、配管系、オイルサンド配管系、材料運搬系、流体/固体輸送系、ならびに/または土木装置および/もしくは掘削部材の材料として)で、特に耐研磨摩耗性および耐侵食性が重要/望まれる場合に、有利に使用し得る。例示的な実施形態では、本開示のシステム/方法は、低価格、高強度で、かつ耐摩耗性/耐侵食性の鋼(例えば、高性能スラリー輸送ラインなどの製造に使用されるような)を提供する。
【0082】
後でより詳しく説明するように、本開示の製造方法/システムは、次の工程:(i)変態誘起塑性(「TRIP」)および/または双晶誘起塑性(「TWIP」)により、高加工硬化率の母材を準備する工程;(ii)使用中に相変態を誘起するよう準安定性を付与する工程;(iii)マルテンサイトに最適な硬度を付与する工程(例えば、必要な耐侵食性を付与するために、溶解炭素含有量により制御される);(iv)組成物中に径が異なる第2の相の粒子(例えば、炭化物、準結晶など)を分散させる工程;(v)有利な熱加工制御(「TMCP」)製造工程/計画を利用する工程(例えば、上記工程の少なくともいくつかを達成するために);および/または(vi)固体接合(例えば、摩擦撹拌接合)などの例示的な接合法を適用する工程、の1つ以上の工程を含み得る。
【0083】
一般に、本開示の高マンガン鋼は、比較的安価な合金であり、稼働部材の耐摩耗性などが重要な用途で可能性を有している。ある実施形態では、鋼組成物は、約0.60〜約1.50重量%の炭素と、約11〜約20重量%のマンガンを含む。
【0084】
例示的な実施形態では、鋼は、約1000℃を超える温度から焼き入れすることにより得られる、完全なオーステナイト構造を有する。この条件では、材料の硬度は比較的低い。高マンガン鋼の1つの特に有利な特徴は、加工硬化性が大きいことである。衝撃または他の機械的応力が加わったところでは、表面層はマルテンサイト変態または双晶形成により、その硬度を急速に増大させ得るが、鋼の他の部分は、依然、実質的に柔らかく、かつ/または延性を有する。この低価格と高加工硬化率の組み合わせが、有利なことに、これらの鋼を耐摩耗性配管材料などとして使用するのに適したものにしている。
【0085】
一般に、本開示は、高強度および高耐侵食性の組み合わせを示す鋼を提供する。また、これらの良好な成形性により、本明細書に記載の高マンガン鋼は、採鉱および自動車用途などの様々な状況で使用することができる。
【0086】
上述したように、本開示は、ステップアウト摩耗(step out wear)、耐侵食性および/または耐腐食性を達成するよう特に設計された、高マンガン鋼の化学的性質および/または微細構造に関する。例示的な実施形態では、表面結晶粒の微細化は、ある高Mn鋼の表面層で、その供給/使用の前、および/または供給/使用中に起こり得る(例えば、原位置で形成)。例えば、表面における結晶粒の微細化は、高強度および高硬度、高延性、ならびに/または高靭性の、他にはない組み合わせを有する層を形成させることができる。そのような微細結晶粒化(例えば、高さが約100nmの層)または超微細結晶粒化(例えば、高さが約10nmの層)された表面層は、その供給/使用の前、および/または供給/使用中に形成することができ(例えば、原位置で形成)、鋼に耐ステップアウト摩耗性(step out wear resistance)、耐侵食性および/または耐腐食性を付与することができる。
【0087】
例示的な実施形態では、そのような微細結晶粒化(例えば、約100nmの層)または微細結晶粒化(例えば、約10nmの層)された表面層は、ショットピーニング、レーザ衝撃ピーニング、および/または表面バニシング(これらに限定されない)などの表面変形手法により、例示的な鋼の使用/導入前に形成し得る。
【0088】
いくつかの配管系では、パイプに対する機械的負荷が、鋼の最大の加工硬化を引き起こすほどには強くないというのが現在の状況である。例示的な実施形態では、本開示は、耐摩耗性が改善された高マンガン鋼を提供でき、それは有利な摩擦寿命が見込める配管系用のパイプを提供できる。
【0089】
材料運搬システムにおける鋼(例えば、配管系、重機など)はしばしば摩耗し、かつ/または早期に故障し、これが、補修、置換、および/または維持/生産コストを大きく増大させているというのも現在の状況である。例示的な実施形態では、本開示は、耐摩耗性/耐侵食性/耐研磨性が改善され、その結果、商業上、製造上、および/または操業上の有利性をもたらす、費用効果の高い鋼組成物を提供する。
【0090】
さらに別の例示的な実施形態では、本開示はマンガンを含有する鉄系の部材/組成物を提供する。ある実施形態では、部材/組成物は、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を含む。それらの部材/組成物はまた、1種以上の合金元素、例えば、限定はされないが、クロム、ニッケル、コバルト、モリブデン、ニオブ、銅、チタン、バナジウム、窒素、ホウ素、およびこれらの組み合わせなどを含む。マンガン(および任意選択により他の合金元素)を含む、鉄系の部材/組成物の例は、米国特許出願公開第2012/0160363号明細書に記載、かつ開示されており、その全内容が本明細書にそのまま組み込まれる。
【0091】
部材の組成
例示的な実施形態では、上述したように、鉄系組成物は、約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を含む。
【0092】
それであるから、組成物中のマンガン濃度は、全部材/組成物の約5〜40重量%の範囲であり得る。部材/組成物中の炭素濃度は、全部材/組成物の0.01〜3.0重量%の範囲であり得る。一般に、鉄は部材/組成物の残余を実質的に構成する。
【0093】
部材/組成物はまた、1種以上の合金元素、例えば、限定はされないが、クロム、アルミニウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、ニオブ、銅、チタン、バナジウム、窒素、ホウ素、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの組み合わせなどを含む。重量パーセントは、部材/組成物の全重量に基づいている。
【0094】
クロムは、部材中に、約0〜約30重量%(より好ましくは全組成物の0.05〜20重量%、より一層好ましくは全組成物の1〜5重量%)含まれ得る。ニッケルは、部材中に、約0〜約20重量%(より好ましくは全組成物の0.05〜20重量%、より一層好ましくは全組成物の1〜5重量%)含まれ得る。コバルトは、部材中に、約0〜約20重量%(より好ましくは全組成物の0.05〜20重量%、より一層好ましくは全組成物の1〜5重量%)含まれ得る。アルミニウムは、部材中に、約0〜約15重量%(より好ましくは全組成物の0.05〜10重量%、より一層好ましくは全組成物の1〜5重量%)含まれ得る。モリブデンは、部材中に、約0〜約10重量%(より好ましくは全組成物の0.2〜5重量%、より一層好ましくは全組成物の0.1〜2重量%)含まれ得る。ケイ素は、部材中に、約0〜約10重量%(より好ましくは全組成物の0.1〜6重量%、より一層好ましくは全組成物の0.1〜0.5重量%)含まれ得る。ニオブ、銅、タングステン、タンタル、チタンおよび/またはバナジウムはそれぞれ、部材中に、約0〜約10重量%(より好ましくは全組成物の0.02〜5重量%、より一層好ましくは全組成物の0.1〜2重量%)含まれ得る。窒素は、部材中に、約0.001〜約3.0重量%(より好ましくは全組成物の0.02〜2.0重量%、より一層好ましくは全組成物の0.05〜1.5重量%)含まれ得る。ホウ素は、部材中に、約0〜約1重量%(より好ましくは全組成物の0.001〜0.1重量%)含まれ得る。
【0095】
マンガンを含有する鉄系部材/組成物はまた、ジルコニウム、ハフニウム、ランタニウム、スカンジウム、セリウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される他の合金元素を含んでもよい。これらの他の合金元素はそれぞれ、部材/組成物中に、部材/組成物の全重量に対して約0〜約6重量%(例えば、0.02〜5重量%)の範囲で含まれ得る。
【0096】
一般に、本開示の高Mn鋼の機械特性は、歪誘起変態特性に依存し、それは、通常、鋼の化学組成および/または処理温度に制御される。従来の炭素鋼とは異なり、高Mn鋼は、周囲温度(例えば、18〜24℃)で面心立方(fcc)構造を有する準安定オーステナイト相を含む。
【0097】
歪みが加わると、準安定オーステナイト相は歪誘起変態により数種の他の相に変態し得る。より詳しくは、オーステナイト相は、鋼の化学的性質および/または温度に依存して、微細双晶(fcc)構造(母相と整列した双晶)、ε−マルテンサイト(六方格子)、およびα’−マルテンサイト(体心正方格子)へと変態し得る。
【0098】
これらの変態生成物は、様々な特有の特性を高Mn鋼に付与し得る。例えば、微細な微小双晶は1次結晶粒を効果的に区切り、転移すべりに対する強い障害物として作用する。これは、有効な結晶粒の微細化に繋がり、高い極限強さと延性の優れた組み合わせをもたらす。
【0099】
化学組成と温度は、
図1に示すように、歪誘起相変態の経路を制御する主要な因子であることが知られている。一般に、高Mn鋼は、歪みを加えたときのオーステナイト相の安定性と温度によって、4つの群、例えば、安定(A)、低位の準安定(B)、中位の準安定(C)および高位の準安定(D)Mn鋼に分類することができる。これらの相の準安定性は温度と歪みの両方から影響を受ける。これらの鋼は、温度がより低く、かつ歪みがより大きいほど、より高位の準安定となる(例えば、変態する傾向がより高くなる)傾向を示すであろう。
【0100】
図1は、高Mn鋼の相安定性と変形機構を、合金の化学的性質と温度の関数として示した図の一例である。文字(A、B、CおよびD)は、変形中における変態の各種方法を示す。この図で、鋼Aはすべりにより変形し(他の金属および合金と同様)、鋼B〜Dは変形の間に変態するであろう。
【0101】
Mn含有量が多い(例えば、約25重量%以上)領域Aの鋼は安定なオーステナイトを有し、機械的歪みが加えられると、主として転位すべりにより変形する。一般に、完全に安定化したオーステナイト構造を有する鋼は、機械的強度は小さいが、極低温で靭性を維持し、透磁率が低く、かつ水素脆性に対し強い耐性を示す。
【0102】
低位の準安定性を示す領域Bの鋼は、中程度のマンガン含有量(例えば、約15〜約25重量%のMnおよび0.6重量%のC)で製造することができる。これらの鋼は、変形中に双晶を生成する。大きな塑性伸びは、転移すべりとともに、広範囲の変形双晶の生成により達成することができ、双晶誘起塑性(TWIP)として知られている現象である。微細構造が有効に微細化されるにつれて、双晶界面は結晶粒界のように作用し、ダイナミックホール・ペッチ効果によって鋼の強度を高めることから、双晶形成は高い加工硬化率をもたらす。TWIP鋼は、極めて高い引張強さ(例えば、150ksiより大)と極めて高い一様な伸び(例えば、95%超)を結び付けることから、多くの用途でそれらを非常に魅力あるものにしている。
【0103】
中位の準安定鋼(領域Cの鋼)は、歪を加えられるとε−マルテンサイト(六方格子)へ変態し得る。機械的歪みを加えられると、これらの鋼は、転移すべりおよび/または機械的双晶形成とともに、主としてε−マルテンサイトを生成することによって変形するであろう。
【0104】
高位の準安定鋼(領域Dの鋼)は、変形が起こると高強度の体心立方相(α’−マルテンサイトという)へと変態するであろう。この高強度の相は、外部からの硬質粒子の衝突により、耐侵食性を付与する。外部粒子の衝突は鋼の表面近傍領域の変形をもたらすので、これらの表面領域は使用中に変態し、それにより耐侵食性が付与される。したがって、これらの鋼は、もし硬質表面層が損傷を受けたとしても使用中の衝突により修復するという意味で、「自己回復」特性を有している。
【0105】
このように、変形中に高Mn鋼の変態を制御することにより、様々な特性(例えば、耐摩耗性、極低温靭性、高成形性、耐侵食性)を付与するよう、高Mn鋼の化学的性質を設計することができる。
【0106】
高Mn鋼における他の合金のコンセプト
高Mn鋼の合金元素は、オーステナイト相の安定性、および歪誘起変態経路を決定する。一般に、マンガンは、高Mn鋼における主たる合金元素であり、冷却中および変形中のいずれの場合にも、オーステナイト構造の安定化に重要である。Fe−Mn二元系では、Mn含有量の増加につれて、歪誘起相変態の経路はα’−マルテンサイトからε−マルテンサイトへ、そしてさらにマイクロ双晶の形成へと変化する。
【0107】
炭素は有効なオーステナイトの安定化剤であり、炭素の溶解度はオーステナイト相では高い。したがって、炭素による合金化は、溶融体からの冷却中および塑性変形中に、オーステナイト相を安定化させるために使用することができる。炭素はまた、固溶体硬化により母相の強度を高める。上述したように、本開示の部材/組成物中の炭素は、全部材/組成物の約0.01〜約3.0重量%の範囲であり得る。
【0108】
アルミニウムはフェライトの安定化剤であり、したがって、冷却時のオーステナイト相を不安定にする。しかしながら、高Mn鋼へのアルミニウムの添加は、変形時の歪誘起相変態に対してオーステナイト相を安定化させる。さらに、それは、固溶体硬化によりオーステナイトの強度を高める。アルミニウムの添加はまた、アルミニウムの高い不働態性により、本開示の、高Mn含有鉄系部材の耐腐食性を高める。本開示の部材/組成物中のアルミニウムは、全部材の約0.0〜約15重量%の範囲であり得る。
【0109】
ケイ素はフェライトの安定化剤であり、周囲温度で変形させると、ε−マルテンサイトの生成を促進する一方、α’−マルテンサイト変態を維持する。Siの添加は、固溶体強化により1重量%のSi添加当たり約50MPaの割合でオーステナイト相を強化する。本開示の部材/組成物中のケイ素は、全部材の約0.01〜約10重量%の範囲であり得る。
【0110】
高Mn鋼合金へのクロムの添加は、冷却時のフェライト相の生成を促進し、耐腐食性を高める。さらに、Fe−Mn合金系へのCrの添加は、熱膨張係数を低下させる。本開示の部材/組成物中のクロムは、全部材の約0.05〜約30重量%の範囲であり得る。
【0111】
歪誘起相変態に対するこれらの合金元素の効果を理解すれば、特定の用途に適した鋼の化学的性質を設計することができる。高Mn鋼設計基準のいくつかは、マルテンサイト変態臨界温度、例えばM
sおよびM
εsであり得る。M
sは、この温度未満でオーステナイトからα’−マルテンサイトへの変態が生じる臨界温度であり、M
εsは、この温度未満でオーステナイトからε−マルテンサイトへの変態が生じる臨界温度である。
【0112】
M
sおよびM
εsに対する合金元素の影響は、次のように表することができる(合金元素の単位は重量パーセントであり、A
3は、これより高い温度では全てのフェライト相(α’−およびε−マルテンサイト相など)がオーステナイトへ変態する臨界温度である)。
M
s(K)=A
3−410−200(C+1.4N)−18Ni−22Mn−7Cr−45Si−56Mo、および
M
εs(K)=670−710(C+1.4N)−19Ni−12Mn−8Cr+13Si−2Mo−23Al。
【0113】
一般に、M
sがM
εsよりはるかに高ければ、オーステナイトからα’−マルテンサイトへの変態のみが生じる。M
εsがM
sよりはるかに高ければ、オーステナイトからε−マルテンサイトへの変態のみが生じる。M
sとM
εsが互いに接近していれば、α’−マルテンサイト変態とε−マルテンサイト変態がともに生じる。
【0114】
なお、マンガン含有鉄系部材/組成物は、多様な用途/使用/システム(例えば、採鉱操業における配管系、オイルサンド配管系、材料運搬システム、流体/固体輸送システム、ならびに/または土木装置および/もしくは掘削部材用材料として)で使用し得る。
【0115】
例えば、上記米国特許出願公開第2012/0160363号明細書に記載され、開示されているように、本開示のマンガン含有鉄系部材/組成物は、石油、ガスおよび/または石油化学工業などにおいて多くの使用/用途を見出し得る(例えば、極低温の用途、耐腐食性用途、耐侵食性用途、天然ガスの液化/輸送/貯蔵用の構造/部材、石油/ガス井の仕上げおよび生産用構造体/部材、地下掘削装置、石油/ガス精製および化学プラント用構造体/部材、石炭採掘用構造体/装置、石炭ガス化構造体/装置など)が、これらに限定されない。
【0116】
合金含有量が比較的少ない場合(例えば、約20重量%未満のMn、約1.5重量%のC)、高位の準安定オーステナイト相が生成する。高位の準安定オーステナイト相は、歪みが加わると、通常は不可逆性の変態である、硬質のα’−マルテンサイトに変態することが多い。これらの鋼に表面摩耗が生じると、高位の準安定オーステナイト相の表面層はα’−マルテンサイトに変態することができる。この摩擦誘起相変態は、靭性の高い、変態していないオーステナイトからなる内部を覆うマルテンサイトの薄い硬質表面層の生成をもたらす。この特有の組み合わせは、高Mn鋼を、耐摩耗性/耐侵食性、および耐衝撃性の用途に適したものにする。
【0117】
さらに、本開示の高Mn鋼の接合は、上記米国特許出願公開第2012/0160363号明細書に記載され、開示されているように、従来の方法(例えば、溶融、抵抗溶接など)および新しい接合方法(例えば、レーザ、電子ビーム、摩擦撹拌接合など)を使用して行うことができる。例示的な実施形態では、好ましい接合方法として、固相接合法(例えば、抵抗溶接、摩擦撹拌接合)が挙げられ、そのような接合法は、溶接金属の使用を必要としない(本開示はこれに限定するものではない)。
【0118】
バルクの改質
本開示のシステム/方法は、とりわけ耐研磨摩耗性を有する高Mn鋼を提供/製造する。本開示の鋼組成物の高強度および加工硬化率により、摩耗時の鋼の材料損失が減少する。
【0119】
本開示の材料を改良するためのいくつかの有望な冶金的アプローチを
図2に示す。それであるから、
図2は、高Mn鋼の耐摩耗性を改善するための例示的アプローチを示す。
図2には、バルクの化学的性質の調節および第2相粒子による強化が示されている。
【0120】
例示的な実施形態では、変形中に相変態(TRIP)および双晶形成(TWIP)を促進するためにバルクの改質が行われる。一般に、分散粒子は、材料/組成物の強度を高めるが、複雑な効果を示す。分散粒子は、(i)組成物の母相自体の化学的性質、(ii)結晶粒径、および(iii)全体としての材料/組成物の靭性に影響を及ぼし得ることが理解されよう。一般に、本開示の例示的な実施形態においては、これらの効果の適切なバランスが重要である。
【0121】
一般に、高マンガン鋼はTRIP/TWIP効果により、高い加工硬化率を有する。それらの活性化は、通常、合金の積層欠陥エネルギー(「SFE」)がトリガーになる。なお、塑性変形は、低SFE値(例えば、約12mJ/m
2未満)でマルテンサイト変態を伴い、また中間のSFE値で双晶形成を伴う。より高いSFE値(例えば、35mJ/m
2超)では、塑性および歪硬化は、通常、転移すべりによってのみ制御される。それであるから、SFE値は鋼の設計では重要なパラメータである。
【0122】
SFEは合金の化学的性質と温度の関数である。固有の積層欠陥は、厚さが2面のε−マルテンサイトエンブリオとして表すことができる。SFEは、体積エネルギーと表面エネルギーの両方の寄与を含む。化学的性質および温度に対するSFEの依存性は、主としてε−マルテンサイトとオーステナイトの体積エネルギーの差から生じることが示されている。さらに、相の体積自由エネルギーは利用可能なデータベースなどから得ることができる。
【0123】
図3は、FeMn13C0.6に各種合金元素を加えたときの、予測SFE値を示す。別の表現をすれば、
図3は、FeMn13C0.6基準物のSFE値および変形機構に対する合金元素の予測される影響を示す。
【0124】
図3に示すように、各種合金元素の添加のSFEに対する寄与は異なる。炭素の効果が最も大きく、マンガンの影響は最も小さい。多くの合金元素の相互作用を考慮する場合、化学的性質へのSFEの依存性は複雑であり、単調ではない。一般に、変形機構は、バルクの化学的性質を適切に調整することにより制御することができる。
【0125】
第2相粒子の分散による強化
例示的な実施形態では、本開示のシステム/方法はまた、例示的な鋼組成物の耐摩耗性をさらに改善するために、第2相粒子の導入を含む。ある非限定的な実施形態では、例示的なシステム/方法は主として炭化物/窒化物粒子に関して説明される。しかしながら、本開示のシステム/方法が、ホウ化物および酸化物(これらに限定されない)などの他の粒子/析出物に関して、それらを使用し、それらに適用し、かつ/またはそれらを含み得ることに留意されたい。例示的な実施形態では、主として炭化物/窒化物および酸化物粒子が考慮されるとき、結晶粒径の微細化は第2相粒子による追加的な恩恵であり得る。
【0126】
一般に、粒子の大きさと空間的分布は重要である。鋼/材料の強化に対する粒子の効果は、粒径が小さくなるほど増大することが示されている。したがって、微粒子は一般に、主として材料の強度を高めることにより、材料の耐摩耗性に寄与し、一方、粗い粒子は一般に、侵食による損傷に対する耐性をさらに高める。
【0127】
なお、粒子の大きさおよび/または空間分布は、材料の使用条件に基づいて調節/最適化できる。例えば、配管系などに使用する組成物では、摩耗損傷は、広い粒度分布を有する砂により引き起こされ得る。したがって、鋼組成物には二峰性の粒度分布を考慮することができよう。なお、様々な種類および大きさの第2相粒子を有する高マンガン鋼の作製または製造は、以下で、より詳しく記載するように、各種の例示的な熱加工制御プロセス(「TMCP」)により可能である。
【0128】
ある実施形態では、炭化物/窒化物の析出もまた、オーステナイト母相内で局所的にTRIPまたはTWIP効果を高めることができる。炭化物/窒化物粒子中の侵入型元素(炭素および窒素)の濃度は、鋼の平均値よりはるかに高い。界面における拡散勾配のために、侵入型元素は、母相を取り囲む析出物の中で枯渇するであろう。それは、TRIPまたはTWIPのための活性化エネルギーの低下をもたらす。
【0129】
図4(模式図、縮尺不定)は、機械特性および対応する変形機構に対する炭化物析出の全体的な影響を示す。実質的に同じ化学的性質を有する完全なオーステナイト鋼と比べ、例示的な炭化物/窒化物を有する高マンガン鋼は、より高い降伏強さと加工硬化特性を有し得る。例示的な実施形態では、硬質粒子と加工硬化性材料の母相との組み合わせは、本開示の組成物を、運転使用により(例えば、硬質粒子による切削/剪断などにより)引き起こされる研磨摩耗作用に耐え、かつ/または減じるのに適したものにする。
【0130】
製造およびマイクロ合金化:
本開示の鋼組成物/部材は、限定はされないが、各種の例示的な熱加工制御プロセス(「TMCP」)の手法、工程または方法(これらに限定されない)などの、各種の加工手法により作製または製造することができる。一般に、いくつかのTMCP法が、特に結晶粒径および微細構造の微細化が望ましい低合金鋼の製造に使用されてきた。
【0131】
溶解していない粒子は高温では比較的急速に粗大化することから、例示的な実施形態では、所望の炭化物/窒化物粒子を生成するために、変形の前に粒子を実質的に溶解状態にすべきである。制御された変形は、それによって、粒子状結晶内欠陥(これは核生成には好ましい場所である)で満たされた、伸長したオーステナイト結晶粒が生じるように、再結晶停止温度未満で行うべきである。
【0132】
その後、粒子析出を促進するために、徐冷または等温保持する必要がある。最後に、完全なオーステナイト母相を維持するために、急速な焼き入れを行う。
【0133】
図5は本開示の鋼組成物/部材を製造する製造スケジュールの一例を示す。それであるから、
図5は、本開示の鋼の製造方法の一例を示す模式図である。
図5に示すように、T
nrはオーステナイト再結晶停止温度であり、A
sはオーステナイト開始温度である。
【0134】
例示的な実施形態では、TMCP法はマイクロ合金の添加に関し、相乗効果を有する。所望の微細粒子を製造するためには、組成物に添加/使用する合金元素に応じて、適切な熱加工条件が選択されなければならない。一般に、本開示の方法で使用する合金元素は、TMCP、もしくはバルク特性の調節、またはその両方に一定の影響を及ぼし得る。
【0135】
ある実施形態では、炭素は、バルクの変形機構を制御し、炭化物の析出を促進し、冷却時のオーステナイト相を安定化させるための、最も有効な合金元素の1つである。なお、従来の高マンガン鋼と比べると、本組成物の全炭素含有量ははるかに多いもしくは高含有であるが、TMCP工程後に溶解している炭素の量は、はるかに低い濃度に制御されなければならない。
【0136】
例示的な実施形態では、マンガンはオーステナイト相の安定化剤である。この元素は、主に、冷却時およびTMCP時に完全なオーステナイト母相を維持するために、組成物に添加することができる。一般に、それは変形機構には殆ど影響を及ぼさない。
【0137】
クロムは炭化物生成剤である。それは、合金濃度および/または熱処理温度に応じて、M7CおよびM23C6などの種々の炭化物の生成を促進する。さらに、クロムの添加は、通常、耐腐食性を高めるために重要である。
【0138】
ニオブ、バナジウム、タンタルおよびチタンは、変形したオーステナイトに歪誘起析出物(例えば、(Ti、Nb)、(C、N))を生成させることにより、TMCP中における再結晶化を阻止するのに有効な元素である。さらに、本開示の例示的な実施形態においては、ニオブおよび/またはバナジウムおよび/またはタンタルおよび/またはチタンの添加は、バルクの炭素濃度の調節を容易にする。
【0139】
アルミニウムおよびシリコンは、本開示の高マンガン鋼のSFEを調節または調整するために加えられる。なお、アルミニウムの添加は、以下に記載するように、準結晶相の生成を容易にすることができる。
【0140】
準結晶析出硬化高Mn鋼:
準結晶の析出硬化を使用する高Mn鋼を提供することが、本開示の他の1つの目的である。例示的な実施形態では、高Mn鋼は、準結晶の析出により強度を高めることができ、そのような構造は高温(例えば、約700℃まで)での熱処理により達成することができる。
【0141】
一般に、準結晶質材料は周期的な原子構造(例えば、5回または10回回転対称)を有するが、通常の結晶質材料に典型的な三次元対称は、通常とらない。特別に設計された準結晶質材料は、それらの結晶学的構造のために、高Mn鋼の強度を高める上で魅力的な特有の特性を示す。
【0142】
なお、準結晶格子を貫いて移動する転位が困難なため、準結晶質の析出物は、結晶質析出物(例えば、炭化物)より、より大きな強度増大効果を示すことができる。さらに、準結晶は、結晶質析出物とは異なり、ある大きさを超えて成長せず、そのため特定の結晶質析出物に関連する過剰エージングの懸念が軽減されるであろう。
【0143】
準結晶材料は、正20面体Al−Cu−Feの化学的性質においては、通常、ステンレス鋼基材上のその低い表面エネルギー(例えば、約30mJ/m
2)のために、非付着性表面を提供する。その低い表面エネルギーのために、準結晶材料は、乾燥空気中におけるダイヤモンド圧子による引っかき硬さ試験において、比較的高い微小硬さとともに、低い摩擦係数(例えば、約0.05)を示す。準結晶質材料は、Al−TM(TM=遷移金属;例えばV、Cr、Mn)、Al−(Mn、Cu、Fe)−(Si)およびAl−Cu−TM(例えば、Cr、Fe、Mn、Mo)系に見いだされる。
【0144】
超微細結晶粒高Mn鋼
例示的な実施形態では、改良鋼組成物(例えば、超微細結晶粒高Mn鋼組成物)を例示的な熱加工制御プロセス(TMCP)により製造することができる。ある実施形態では、特に、フェライトまたはマルテンサイト相がオーステナイト相よりも熱力学的に安定である、8重量%以下などの低Mn合金の化学的性質において、本開示のTMCPは、室温(例えば、18〜24℃)および/または極低温(例えば、−196℃)および/または中間温度での重度の塑性変形を含み、マルテンサイトの生成を誘起し、その後の高温での焼鈍は、変形誘起マルテンサイトを超微細結晶粒オーステナイトへと戻す。熱加工制御プロセスも一例を
図6に模式的に示す。
図6は、本開示の超微細結晶粒高Mn鋼を製造するための製造方法の一例を示す模式図である。
図6に示すように、A
fはオーステナイト終了温度(オーステナイト再結晶停止温度)であり、A
sはオーステナイト開始温度である。
【0145】
例示的な実施形態では、焼きならし温度で鋼組成物を加熱および保持した後、鋼組成物の準安定オーステナイト相を、室温(例えば、18〜24℃)、極低温(例えば、−196℃)、および/または中間温度での重度の塑性変形により、歪誘起マルテンサイト相へと変態させる(
図6)。歪誘起マルテンサイト相をさらに強く変形すると、薄板状または板状構造体は、復帰処理(例えば、
図6の逆焼鈍)の前に破壊され得る。歪誘起マルテンサイト相は、復帰オーステナイト相の結晶粒の粗大化を抑制するのに十分な低い温度で、オーステナイト相に復帰させ得る。例示的な実施形態では、本開示の鋼組成物(例えば、高Mn鋼組成物)の化学的性質は、復帰したオーステナイトのマルテンサイト開始温度(M
s)が室温(例えば18〜24℃)より低くなるよう設計することができる。
【0146】
例示的な製造方法
本開示は鉄系部材の製造方法であって、a)約5〜約40重量%のマンガン、好ましくは約9〜約25重量%のマンガン、さらにより好ましくは約12〜約20重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、好ましくは約0.5%〜約2.0重量%の炭素、さらにより好ましくは約0.7%〜約1.5重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度(例えば、組成物を均質化する温度)に組成物を加熱する工程、c)組成物が、組成物のオーステナイト再結晶停止温度より低い温度にある間に組成物を変形させる工程、d)組成物を焼き入れ、加速冷却または空気冷却する工程を含む方法を提供する。
【0147】
本開示は、鉄系部材の製造方法であって、工程d)の後、組成物の母相が主としてまたは実質的にオーステナイト相である方法を提供する。1つ以上の実施形態では、鋼組成物中のオーステナイトの体積パーセントは、約50重量%〜約100重量%、より好ましくは約80重量%〜約99重量%である。
【0148】
鋼組成物は、熱間圧延法を使用して、主としてまたは実質的にオーステナイト鋼板に加工することが好ましい。1つ以上の実施形態では、まず、記載した組成物から、例えば連続鋳造法などにより、鋼塊/スラブを形成する。その後、鋼塊/スラブを、約1,000℃〜約1,300℃の範囲内、より好ましくは約1050℃〜1250℃の範囲内、より一層好ましくは約1100℃〜1200℃の範囲内の温度(「再加熱温度」)に再加熱することができる。再加熱温度は、(i)鋼のスラブ/組成物を実質的に均質化し、(ii)含まれるなら、鋼のスラブ/組成物中の炭化物、および/または炭窒化物を全て実質的に溶解し、かつ(iii)鋼のスラブ/組成物中に微細な初期のオーステナイト結晶粒を形成するのに十分であることが好ましい。
【0149】
再加熱したスラブ/組成物は、その後、1回以上、熱間圧延することができる。例示的な実施形態では、再加熱されたスラブ/鋼塊は、圧延開始温度にまで冷却することができる。1つ以上の実施形態では、圧延開始温度は、900℃超、好ましくは950℃超、さらにより好ましくは1000℃超である。
【0150】
例示的な実施形態では、板厚減少のための最終圧延は、「圧延終止温度」で完了させることができる。1つ以上の実施形態では、圧延終止温度は、約700℃超、好ましくは約800℃超、より好ましくは約900℃超である。熱間圧延した鋼板は、その後、第1冷却温度すなわち加速冷却開始温度(「ACST」)にまで冷却する(例えば、空気中で)ことができ、この温度で加速冷却が開始され、毎秒少なくとも約10℃の速度で、第2冷却温度すなわち加速冷却終止温度(「ACFT])にまで鋼板を冷却する。ACFTにまで冷却後、鋼板/鋼組成物は環境空気中で室温(例えば、周囲温度)にまで冷却することができる。鋼板/鋼組成物は、自然に室温にまで冷却させることが好ましい。
【0151】
1つ以上の実施形態では、ACSTは約700℃以上、約750℃以上、約800℃以上または約850℃以上である。1つ以上の実施形態では、ACSTは約700℃〜約1000℃の範囲とすることができる。1つ以上の実施形態では、ACSTは約750℃〜約950℃の範囲とすることができる。ACSTは約650℃、700℃または750℃の低値から、約900℃、950℃または1000℃の高値の範囲であることが好ましい。1つ以上の実施形態では、ACSTは約750℃、約800℃、約850℃、約890℃、約900℃、約930℃、約950℃、約960℃、約970℃、約980℃または約990℃とすることができる。
【0152】
1つ以上の実施形態では、ACFTは約0℃〜約500℃の範囲とすることができる。ACFTは、約0℃、10℃または20℃の低値から約150℃、200℃または300℃の高値の範囲であることが好ましい。
【0153】
いかなる理論にも縛られるものではないが、低い加速冷却終止温度(「ACFT」)への急速冷却(例えば、約10℃/秒を超える冷却速度)は、少なくとも1部の炭素および/または窒素原子が、鋼組成物のオーステナイト相から結晶粒界または第2の相へ拡散するのを妨げると考えられる。さらに、高い加速冷却開始温度(「ACST」)は、その後のACFTへの冷却の間に、少なくとも1部の炭素および/または窒素原子が、例えば、炭化物、炭窒化物および/または窒化物などの析出物を生成するのを妨げると考えられる。それであるから、結晶粒界での析出物の量は減少する。したがって、鋼の破壊靭性および/または耐亀裂性が増大する。
【0154】
圧延および冷却工程に続いて、鋼板からパイプなど(例えば、ラインパイプ)を形成することができる。パイプの形成には、任意の適切な方法を使用することができる。当該技術分野で知られている従来のUOEプロセスまたはJCOEプロセスにより、前駆体鋼板からラインパイプを製造することが好ましい。
【0155】
以下の実施例について、本開示をさらに説明するが、開示の範囲がそれによって限定されるものではない。以下の実施例では、改良鋼組成物(例えば、耐摩耗性などを強化した改良高Mn鋼組成物)を作製または製造するための、改良したシステムおよび方法を説明する。下記の実施例に示すように、本開示は、本開示の有利な鋼組成物/部材が、次の特性:耐摩耗性、延性、耐亀裂性、耐侵食性、疲労寿命、表面硬度、耐応力腐食性、耐疲労性および/または耐環境亀裂性の1つ以上を改善することを説明する。一般に、微細構造および/または化学的性質を制御することにより、本開示の鋼の強度/靭性および/または耐摩耗性/耐侵食性を改善/増大させることができる。上述したように、可能な経路としては、相変態(例えば、マルテンサイトまたはイプシロン相へ)の促進、変形時の双晶形成、および/または硬質の耐侵食性第2相粒子の組成物への導入が挙げられる。
【0156】
例示的な実施形態では、本開示は、a)約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度に組成物を加熱する工程、c)組成物を冷却する工程、d)組成物が、そのオーステナイト再結晶停止温度より低い温度にある間に組成物を変形させる工程、およびe)組成物を焼き入れ、加速冷却または空気冷却する工程を含む工程により製造される鉄系部材を提供する。
【実施例】
【0157】
実施例1:
一般に、材料(例えば、鋼製配管材料)の侵食−腐食挙動は、スラリー組成、侵食性粒子の大きさ/形状、および流速、ならびに標的材料の化学的性質/微細構造などの、相互に関連した多くのパラメータの関数である。衝突噴流試験および気体衝突試験を使用し、衝突侵食条件下、選択した鋼材料の侵食重量損失を評価し、それによりハイドロトランスポート・パイプライン環境を模擬した。
【0158】
図7は、衝突噴流(例えば、噴流衝突)試験設備/構成の一例を示す模式図である。約25重量%の砂(AFS 50/70標準硅砂)を含有する、水と砂のスラリーを用いて侵食試験を実施した。水スラリーは約1500ppmのNaClも含有し、水のpHおよび温度をそれぞれpH約8.5および約45℃に維持した。
【0159】
標的材料(例えば、鋼組成物/部材)を、異なる3つの衝突角度(α)(例えば、約15°、約45°、約90°)で、高速(例えば、約6m/s)の水/砂スラリーに約4時間曝露した。各試験後、それぞれ微量天秤およびレーザ形状測定法により、標的材料の侵食重量損失および体積損失を評価した。
【0160】
本開示により製造された3種の例示的な鋼(鋼11すなわちEM11、鋼12すなわちEM12、鋼13すなわちEM13)と比較用のX70炭素鋼の侵食重量損失および体積損失を
図8に示す。3種の(鋼11すなわちEM11、鋼12すなわちEM12、鋼13すなわちEM13)例示的な高Mn鋼の公称化学組成を表1に示す(全ての組成は重量%である)。
図8は、約45°の衝突角度における衝突噴流試験後の、試料(X70対照試料、鋼11すなわちEM11、鋼12すなわちEM12、鋼13すなわちEM13)の重量損失および体積損失を示す。
【0161】
図8に示すように、研究室規模の噴流衝突試験後、本開示のシステム/方法により製造された改良高Mn鋼(鋼11すなわちEM11、鋼12すなわちEM12、鋼13すなわちEM13)は、X70炭素鋼の4倍までの耐侵食性を示した。
【0162】
それであるから、改良鋼の高い強度と高い加工硬化率が摩耗時の材料損失を低減している。なお、耐摩耗性/耐侵食性に関して材料強度を増大させることの1つの欠点は、高強度が延性/亀裂靭性との妥協の上に成立するものであることである。本開示の例示的な実施形態の冶金的アプローチは、結晶粒径の微細化により、鋼の強度と延性を同時に増大させる。
【0163】
侵食試験の後、透過型電子顕微鏡(TEM)と組み合わせた集束イオンビーム(FIB)を使用し、3種の高Mn鋼(鋼11すなわちEM11、鋼12すなわちEM12、鋼13すなわちEM13)と比較用のX70鋼の断面微細構造の特性を明らかにした。3種の高Mn鋼は、侵食試験後、超微細結晶粒(約10nmの結晶粒径)の表面層を形成したが、同じ侵食試験に供した比較用のX70ラインパイプグレードの鋼には、明瞭な超微細結晶粒表面層は認められなかった。
【0164】
図9Aおよび
図9Bは、例示的な高Mn鋼(
図9A−鋼12すなわちEM12試料)およびX70炭素鋼(
図9B−比較用の鋼)の透過型電子顕微鏡の明視野像であり、両試料とも同じ侵食試験条件に置かれたが、高Mn鋼(鋼12すなわちEM12試料)では侵食試験後の表面層が微細構造を有し、X70炭素鋼では侵食試験後に表面層が存在していないことを示す。例示的な高Mn鋼(
図9A−鋼12すなわちEM12試料)は、侵食試験後、超微細結晶粒(例えば、約10nmの結晶粒径)表面層を形成したが、同じ侵食試験条件に置かれたX70鋼(
図9B)には、明瞭な超微細結晶粒の表面層は認められなかった。
【0165】
侵食試験の前に、3種の高Mn鋼(鋼11すなわちEM11、鋼12すなわちEM12、鋼13すなわちEM13)を、約1100〜1120℃に再加熱し、約830℃で約12mm厚さの鋼板に仕上げ圧延加工し、その後、加速冷却した。本発明の3種の鋼の化学組成を、下の表1に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
いかなる理論にも縛られるものではないが、高Mn鋼母相の炭素含有量が増加すると、鋼の機械的強度および加工硬化率が増大することに留意されたい。例示的な実施形態では、全組成の約12〜20重量%の範囲のMnで合金化すると、オーステナイト相が安定化し、鋼の母相中への炭素の溶解度が増加する。約3重量%までのCrで合金化すると、固溶強化により耐侵食および機械的強度が増大する。約0.5〜約2重量%のCuで合金化すると、炭素溶解度および耐腐食性が増大する。
【0168】
実施例2
例示的な高Mn鋼(鋼11/EM11)の各種実施形態の熱処理条件と微細構造を下記表2に示す。表2で用いた例示的な高Mn鋼試料(鋼11/EM11)の公称化学組成は上記表1に示されている。
【0169】
【表2】
【0170】
例示的な実施形態では、また表2および
図10に示すように、最良の耐侵食性は、鋼11A(EM11A)、鋼11B(EM11B)、鋼11C(EM11C)の試料で示されているように、より微細な結晶粒径(例えば、約30μm以下)および/またはより低い炭化物析出画分(例えば、約2体積%未満)を有する鋼で得られた。
【0171】
図10は、耐侵食性/耐摩耗性がより強化された改良鋼(例えば、高Mn鋼)を製造するための、熱加工制御プロセス(TMCP)熱間圧延の手順/パラメータの一例を示す。それであるから、
図10は、改良された結晶粒径および/または改善された析出物(例えば、炭化物析出画分体積%)を有する鋼を製造するための、TMCP熱間圧延の手順/パラメータの一例を示している。
図10に示すように、T
nrは、オーステナイト再結晶停止温度(オーステナイト終止温度)である。
【0172】
例示的な実施形態では、(TMCP)熱間圧延パラメータは、約200μm以下の微細化結晶粒径および/または約5体積%以下の低炭化物析出画分を有する鋼組成物を得るよう調節することができる。その方法としては、変形帯/転位もつれを引き起こし、それにより微細な粒子内析出物の生成を促進する、より低い温度での仕上圧延工程を挙げることができる。
【0173】
この例示的な改良TMCP熱間圧延工程/パラメータは、限定はされないが、V、Nb、Ti、Moおよび/またはNなどの、各種マイクロ合金化元素の添加と組み合わせることができる。高Mn鋼中のマイクロ合金元素は、鋼の母相に細かく分散した、微細な炭化物/窒化物/炭窒化物の析出物を生成させることができることがわかっている。細かく分散した析出物は、熱間圧延時の再加熱および再結晶化の間に結晶粒が粗大化するのを抑制することができ、これにより、本開示の鋼組成物/部材の強度は有利に高められる。
【0174】
図11は、種々の熱処理条件/変形条件により製造された後の、例示的な高Mn鋼組成物/部材の侵食体積損失を示すグラフである。より詳しくは、
図11は、例示的な鋼の微細構造およびそれに伴う耐侵食性に対する製造方法の影響を示すために、ガス衝突試験により評価した、例示的な高Mn鋼の侵食体積損失を示したものである。前述したたように、最良の耐侵食性は、鋼11A(EM11A)、鋼11B(EM11B)、鋼11C(EM11C)の試料で示されているように、より微細な結晶粒径(例えば、約30μm以下)および/またはより低い炭化物析出画分(例えば、約2体積%未満)を有する鋼で得られた。
【0175】
実施例3
空気とケイ酸塩ガラスビーズのスラリーを用いてガス衝突侵食試験を行った。平均直径が約50μmのガラスビーズを用い、約10psiの空気圧または122m/sのガス流速でガス衝突試験を行った。他のパラメータはASTM G76に従った。
【0176】
標的材料(例えば、鋼組成物/部材)を、異なる3つの衝突角度(例えば、約15°、約45°、約90°)で、高速の空気/ガラスビーズスラリーに約1時間曝露した。各試験後に、それぞれ微量天秤およびレーザ形状測定法により、標的材料の侵食重量損失および体積損失を評価した。
【0177】
本開示により製造した3種の例示的な鋼および比較用X65炭素鋼の侵食重量損失および体積損失を下記表3に示す。表3にはまた、それらの例示的な高Mn鋼の公称化学組成も示す(全ての組成は重量%である)。
【0178】
【表3】
【0179】
表3に示すように、本開示のシステム/方法により製造した高Mn鋼は、X65炭素鋼の10倍までの耐侵食性を示した。
【0180】
実施例4
下記表4に、マイクロ合金高Mn鋼の化学組成とガス衝突による侵食重量損失を示す。全てのマイクロ合金高Mn鋼(例えば、鋼601、鋼602、鋼603、鋼604、鋼605)は、約1120℃に再加熱し、約970℃で仕上圧延を行い、その後、室温にまで加速冷却することにより製造した。
【0181】
【表4】
【0182】
表4に示すように、本開示のシステム/方法により製造したマイクロ合金高Mn鋼は、X65炭素鋼の10倍までの耐侵食性を示した。
【0183】
本開示は主として、材料運搬システム、流体/固体輸送システム、採鉱操業、オイルサンド配管系、土木装置、掘削部材および/または石油/ガス/石油化学用途用の部材に使用するための鋼組成物に関して記載してきたが、そのような記載は開示の目的のためにのみなされたものであって、本開示を限定することを意図したものではない。対照的に、開示した鋼組成物は多様な用途、システム、操業および/または工業で使用できることを認識すべきである。
【0184】
本開示のシステムと方法を、その例示的な実施形態を参照しながら記載してきたが、本開示はそのような例示的な実施形態および/または実施に限定されるものではない。むしろ、本開示のシステムと方法は、当業者であれば、本開示から容易に明らかであろうが、多くの実施および応用を受け入れるものである。本開示は、開示した実施形態のそのような修正、高度化および/または変形を明確に包含する。本開示の範囲から逸脱することなく、上記構成に多くの変更を加えることができ、多くの広く異なる本開示の実施形態を考案することが可能であるので図面および明細書に含まれるすべての事柄は、説明のためのものとして解釈されるべきであり、限定を意味するものとして解釈されるべきでないことを意図している。追加的な修正、変更および置き換えは、以上の開示に含まれるものとする。したがって、添付の特許請求の範囲は広く、かつ本開示の範囲と整合する仕方で解釈されるべきである。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
鉄系部材の製造方法であって、a)約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)前記組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度、または前記組成物を均質化する温度に、前記組成物を加熱する工程、c)前記組成物のオーステナイト再結晶停止温度未満の温度に、前記組成物を冷却する工程、d)前記組成物のオーステナイト再結晶停止温度未満の温度に前記組成物がある間に、前記組成物を変形する工程、およびe)前記組成物を焼き入れする工程を含む方法。
(態様2)
工程e)の後に、前記組成物の炭化物析出体積画分が、前記組成物の約5体積%以下である態様1に記載の方法。
(態様3)
工程e)の後に、前記組成物が、約100μm以下の微細化結晶粒径を有する微細構造を有する態様1または2に記載の方法。
(態様4)
前記約100μm以下の微細化結晶粒径を有する微細構造が、前記組成物の表面層を含み、前記表面層の厚さが約10nm〜約5000nmであり、かつ前記表面層が前記組成物の使用前または使用中に形成される態様3に記載の方法。
(態様5)
前記表面層が、ショットピーニング、レーザ衝撃ピーニング、表面バニシング、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される表面変形技術により形成される態様4に記載の方法。
(態様6)
工程e)の前に、前記組成物が徐々に冷却されるか、または等温に保持され、かつ工程e)が前記組成物を急速に焼き入れすることを含む態様1〜5のいずれかに記載の方法。
(態様7)
工程d)が、前記組成物がオーステナイト再結晶温度より低く、マルテンサイト変態開始温度より高い温度にある間に、前記組成物を変形させることを含む態様1〜6のいずれかに記載の方法。
(態様8)
工程d)が、前記組成物を変形させて、前記組成物のマルテンサイト生成を誘起することを含み、前記組成物を約18℃〜約24℃の温度で変形させて、前記組成物のマルテンサイト生成を誘起し、かつ、工程d)の後、オーステナイト再結晶停止温度より高い温度に前記組成物を加熱する工程をさらに含み、工程d)の後、オーステナイト再結晶停止温度より高い温度に前記組成物を加熱することにより、前記組成物の変形誘起されたマルテンサイトを超微細結晶粒オーステナイトに戻し、かつ、前記超微細結晶粒オーステナイトのマルテンサイト開始温度が約24℃未満である態様1〜7のいずれかに記載の方法。
(態様9)
工程e)の後、オーステナイト再結晶停止温度より高い温度に前記組成物を加熱し、その後、組成物を焼き入れする工程をさらに含む態様1〜8のいずれかに記載の方法。
(態様10)
工程c)の前に、前記組成物がオーステナイト再結晶停止温度より高い温度にある間に、前記組成物を変形させる工程をさらに含む態様1〜9のいずれかに記載の方法。
(態様11)
工程c)が、前記組成物を毎秒約2℃〜毎秒約60℃の速度で冷却することを含む態様1〜10のいずれかに記載の方法。
(態様12)
前記組成物が、クロム、アルミニウム、ケイ素、ニッケル、コバルト、モリブデン、ニオブ、銅、チタン、バナジウム、窒素、ホウ素、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上の合金元素をさらに含む態様1〜11のいずれかに記載の方法。
(態様13)
クロムが全組成物の0.5〜30重量%の範囲であり;ニッケルまたはコバルトのそれぞれが、全組成物の0.5〜20重量%の範囲であり;アルミニウムが全組成物の0.2〜15重量%の範囲であり;モリブデン、ニオブ、銅、チタン、またはバナジウムのそれぞれが、全組成物の0.01〜10重量%の範囲であり;ケイ素が全組成物の0.1〜10重量%の範囲であり;窒素が全組成物の0.001〜3.0重量%の範囲であり;ホウ素が全組成物の0.001〜0.1重量%の範囲であり;ジルコニウムまたはハフニウムのそれぞれが全組成物の0.2〜6重量%の範囲である態様12に記載の方法。
(態様14)
前記組成物が約8〜約20重量%のマンガン、約0.60〜約3.0重量%の炭素、約0.5〜約3重量%のクロム、約0.5〜約2.0重量%の銅、約0.1〜約1重量%のケイ素、および残余鉄を含む態様1〜13のいずれかに記載の方法。
(態様15)
工程d)が変態誘起塑性または双晶誘起塑性を含む態様1〜14のいずれかに記載の方法。
(態様16)
態様1〜15のいずれかに記載の方法により製造された鉄系部材。
(態様17)
a)約5〜約40重量%のマンガン、約0.01〜約3.0重量%の炭素、および残余鉄を有する組成物を準備する工程、b)前記組成物のオーステナイト再結晶停止温度より高い温度に、前記組成物を加熱する工程、c)前記組成物のオーステナイト再結晶停止温度未満の温度に、前記組成物を冷却する工程、d)前記組成物のオーステナイト再結晶停止温度未満の温度に前記組成物がある間に、前記組成物を変形する工程、およびe)前記組成物を焼き入れする工程を含む工程により製造された鉄系部材。