【実施例】
【0050】
本発明の非制限的な例を、具体的実施例を参照してより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲をいかなるようにも制限すると解釈してはならない。
【0051】
ヒアルロン酸ナトリウム(HA)(Mw=90 kDa、密度=1.05 g/cm
3)は、JNC Corporation(Tokyo, Japan)から寄贈された。塩酸チラミン(Tyr・HCl)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、ウシ精巣由来のヒアルロニダーゼ(400〜1,000単位/mg)、およびシスプラチンは全て、Sigma-Aldrich(Minnesota of the United States of America)から購入した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、100単位/mg)は、Wako Pure Chemical Industries(Osaka, Japan)から購入した。過酸化水素(H
2O
2)は、Lancasterから得た。ドキソルビシンはBoryung pharmaceutical(Seoul, South Korea)から得た。AlamarBlue、CyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイキット、TRIzol(登録商標)およびTaqman(登録商標)遺伝子発現マスターミクスはそれぞれ、Life Technologies(Singapore)から提供された。ヒトCD44に対するマウスモノクローナル抗体およびFITCコンジュゲートラット抗マウスIgG2a二次抗体は、GeneTex(Hsinchu, Taiwan)から得た。ラットモノクローナル抗-CD44抗体(Hermes-1)は、Abcam(Cambridge, United Kingdom)から購入した。トリプシン-EDTA(0.025%)およびペニシリン/ストレプトマイシンは、PAN Biotech GmbH(Aidenbach, Germany)から購入した。熱不活化ウシ胎児血清(FBS)は、GE Healthcare(Buckinghamshire, United Kingdom)から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、150 mM、pH 7.3)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)およびRPMI-1640培地は全て、Biopolis(Singapore)の培地調製施設によって供給された。
【0052】
MDA-MB-231、MCF-7、HCC1937、およびBT-474乳癌細胞株は、American Type Culture Collection(Manassas, Virginia of the United States of America)から購入した。MDA-MB-231、HCC1937、およびBT-474細胞は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640培地において生育させた。MCF-7細胞は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEMにおいて生育させた。細胞株は全て、ポリスチレン組織培養フラスコにおいて培養し、80%コンフルエントに達すると継代した。
【0053】
統計分析:データは全て、平均値±標準偏差(SD)として表記した。特に明記されていない限り、値の差は、SigmaStatソフトウェア(Systat Software, Inc.)を用いてStudentのt-検定を用いて評価した。p<0.05は、統計学的に有意であると見なされた。実験は全て、1試料あたり3回ずつ行った。
【0054】
実施例1
HA-チラミンゲルの合成
HA-チラミン複合体で構成される酵素的に架橋されたHAゲルは、H
2O
2およびHRPによって触媒されるチラミン部分の酸化的カップリングを用いて形成された。本明細書において、HRPおよび異なる濃度のH
2O
2(0.22 mM〜1.15 mMの範囲のH
2O
2)の溶液をHA-Tyr複合体(PBS中で3%w/v、175μl)に添加した。混合物の全量が300μlとなるように、適当量のPBSを混合物に加えた。HA-Tyr複合体およびHRPの最終濃度はそれぞれ、1.75%(w/v)および0.125単位/mlであった。混合物を直ちにボルテックスミキサーで撹拌した。
【0055】
置換度(HA反復単位100個あたりのチラミン分子の数)は、
1H NMRによって決定したところ、6であった。
【0056】
ゲルの剛性およびゲル化速度は、H
2O
2およびHRP濃度によってそれぞれ独立して調整することができる。
【0057】
ゲルの流体力学的測定は、HAAKE Rheoscope 1レオメーター(Karlsruhe, Germany)によって、直径3.5 cmおよびコーン角0.949°のコーンプレートジオメトリを用いて行った。測定は、37℃で1%の一定の変形および周波数1 Hzの動的振動モードで行った。測定時の試料の滑り落ちを防止するために、粗面のガラス底プレートを用いた。上記のように調製したゲル混合物250μlをレオメーターの底部プレートに入れた。上部コーンを0.025 mmの測定ギャップまで下げて、実験の際の溶媒の蒸発を防止するため、シリコンオイルの層を注意深くコーン周囲に適用した。流体力学的測定は、貯蔵弾性率(G')が平衡に達するまで続行した。
【0058】
図2(a)に認められるように、HA-TyrゲルのG'は、H
2O
2濃度によって良好に制御され、HA-Tyr複合体の水溶液(1.75%(w/v))を利用する場合、70〜4,000 Paの範囲であった。H
2O
2濃度が0.22 mMから1.15 mMに増加するとG'が増加したことから、H
2O
2濃度が増加すると、より高い架橋密度が達成されることを示唆した。
【0059】
HA-Tyrハイドロゲルの架橋点間平均分子量(Mc)および架橋密度(v
e)を決定した。貯蔵弾性率(G')の測定結果から、架橋点間平均分子量(Mc)および架橋密度(v
e)を、ゴム弾性理論によって計算した。
図2(b)に示されるように、HA-TyrハイドロゲルのM
cはH
2O
2濃度が増加すると減少したが、HA-Tyrハイドロゲルのv
eは、H
2O
2濃度が増加すると増加した。
【0060】
癌細胞の接着(実施例2)、増殖(実施例3)、維持(実施例4)、HA-CD44相互作用の阻害(実施例5)、および化学療法抵抗性(実施例6)を評価するために、様々な剛性(必要に応じて、0.1、0.2、0.5、1.0、2.5、および4.0 kPa)の複数のゲルを用いた。以下の実施例から明らかであるように、HA-Tyrハイドロゲル上の乳癌細胞の接着は、ハイドロゲルの剛性によって強力に調節され、CD44-HA相互作用に依存した。HA-Tyrハイドロゲルは、丸い形状の細胞形態学、低い細胞増殖およびコロニー形成の維持において、ポリスチレンと比較して異なる培養環境を提供した。HA-Tyrハイドロゲルは、CD44変種イソ型、Sox-2およびALDH1A1 mRNA発現レベルをより良好に増強することから、ポリスチレンより優れていた。ハイドロゲルの力学的特性(ハイドロゲルの成分および剛性などの)ならびにCD44変種イソ型の発現レベルは、癌細胞の細胞接着、増殖、および悪性度に影響を及ぼす要因である。HA-Tyrハイドロゲルの剛性を制御することは、乳癌細胞の悪性度を変化させるための単純かつ有効な手段である。
【0061】
実施例2
癌細胞の接着
MDA-MB-231、MCF-7、HCC1937、およびBT-474などの4つのタイプの乳癌細胞株を調べた。これらの癌細胞株におけるCD44陽性細胞集団を試験するために、CD44の表面発現のフローサイトメトリー分析(FACS)を行った。
【0062】
FACSにおいて、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン-EDTAを用いて収集した。剥離させた細胞を、2%FBSを含むPBSによって洗浄して、氷中で抗CD44抗体と共に30分間インキュベートした。2%FBSを含むPBSによって洗浄後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)にコンジュゲートさせた二次抗体を、製造元が推奨する濃度で細胞浮遊液に添加して、氷中の暗所で30分間インキュベートした。細胞を2回洗浄して、2%FBSを含むPBS 0.5 mlに浮遊させた。BD LSRIIフローサイトメトリーアナライザ(BD Biosciences, of New Jersey of the United States of America)を用いて、細胞を分析およびソーティングした。
【0063】
図3に示すように、FACSを用いてMDA-MB-231(
図3(a))、MCF-7(
図3(b))、およびBT-474(
図3(c))においてそれぞれ、99.5%、44.2%、および0.5%のCD44陽性細胞が検出されたことが認められうる。MDA-MB-231、HCT116、およびMCF-7細胞のCD44タンパク質発現レベル(平均値)は、BT-474細胞の発現レベルより103、12、および5倍高かった。
【0064】
さらに、MDA-MB-231、MCF-7、HCC1937間の比較では、FACSを用いた検出により、MDA-MB-231細胞ではCD44タンパク質が高レベルで発現され、HCC1937細胞では中レベルで発現され、MCF-7細胞では低レベルで発現されることが認められうる(
図4(a))。CD44発現レベルは、単一の細胞におけるCD44分子の数として定義される。これらの乳癌細胞株におけるCD44の様々な発現レベルを、細胞表面上のタンパク質発現レベル(
図4(a))ならびにmRNA発現レベル(
図4(b))に基づいて評価した。MDA-MB-231およびHCC1937細胞におけるCD44のmRNA発現レベルは、MCF-7細胞の発現レベルより8.5および4.5倍高かった。これらの結果は、
図4(a)に示されるようにCD44タンパク質発現レベルの結果と密接に関連した。
【0065】
次に、HA-Tyrゲルの表面に対するこれらの細胞株の癌細胞接着を調べた。異なる剛性(0.1、0.2、0.5、1.0、2.5、および4.0 kPa、必要であれば)を有するHA-Tyrゲル(250μl)を24ウェルプレートにおいて調製した。ゲルを一晩沈降させた。次に、ゲルをPBSで3回洗浄した後、培養培地で1回洗浄した。培養培地中で細胞密度1.0×10
5個/mlの乳癌細胞250μlをゲル上に播種した。
【0066】
プレートをインキュベーター(5%CO
2を含む37℃の湿潤大気中)に、1から9時間の範囲の適切な期間戻した。選択された間隔で、非付着細胞を有する培地を吸引して、細胞をPBSによって3回洗浄した。ゲルを有しない細胞培養プレートを比較のために用いた。
【0067】
MDA-MB-231、MCF-7、およびHCC1937に関して、CyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイキットを用いてDNAの定量を行って、付着細胞数を評価した。推奨される製造元のアッセイプロトコールに従った。HA-Tyrハイドロゲル上およびポリスチレン上の細胞を、ヒアルロニダーゼ(1,000単位/ml)およびトリプシン-EDTAと共にそれぞれインキュベートすることによって収集した。細胞沈降物をPBSで2回洗浄して、凍結融解サイクルによって溶解した。次に、試料をCyQUANT作業溶液200μlに溶解した。公知の密度の細胞浮遊液と共に試料溶液を蛍光測定することによって、細胞数を、検量線に基づいて決定した。蛍光測定は、480および520nmでの励起および放射波長でマイクロプレートリーダーを用いて行った。
【0068】
BT-474に関して、ゲルに付着した細胞を、10%Alamar Blue色素を含む培養培地中で37℃で4時間インキュベートした。Alamar Blue色素の蛍光測定をそれぞれ545および590 nmでの励起および放射波長でのマイクロプレートリーダーを用いて行った。次に、Alamar Blue溶液100μlを96ウェルプレートに移して、蛍光強度を測定した。Alamar Blue色素の蛍光強度は、本試験における付着細胞数であると見なされた。
【0069】
図5は、HA-Tyrゲル表面上の細胞接着を示す。有意な数のMDA-MB-231細胞がHA-Tyrゲル表面に付着した(
図5(c))。付着したMDA-MB-231細胞数は、HA-Tyrハイドロゲルの剛性に依存し、付着細胞数はハイドロゲルの剛性が減少すると増加した。
図5(a)および
図5(b)も同様に、ハイドロゲルの剛性が減少すると、MCF-7およびHCC1937の細胞接着がそれぞれ増加したことを示す。
図5(a)〜
図5(c)は、HA-Tyrハイドロゲル上の付着細胞数が、CD44発現レベルに密接に関連するように思われることを示した(
図4)。HA-Tyrハイドロゲル上での乳癌細胞の接着は、CD44の発現レベルが増加すると増加した。これらの結果は、HA-Tyrハイドロゲル上での細胞接着が、HAとCD44との相互作用に依存していたことを強く示唆している。
【0070】
これに対し、HA-Tyrゲルに付着したBT-474細胞はごく少数であった(
図5(d))。これらの結果は、CD44発現レベルおよび/またはハイドロゲルの剛性が、ハイドロゲルへの癌細胞の接着に影響を及ぼす要因であることを示している。一般的に、CD44の発現レベルがより高く、および/またはハイドロゲルの剛性がより低ければ、ハイドロゲルに対する細胞接着の程度はより大きくなる。
【0071】
実施例3
癌細胞の増殖
付着したMDA-MB-231細胞の細胞形態学を決定するために、IX71倒立顕微鏡を備えたOlympus顕微鏡カメラ(Tokyo, Japan)を用いて位相差顕微鏡画像を得た。
図6(a)を参照して、付着したMDA-MB-231細胞は全て、ゲルの剛性によらず丸いが、ポリスチレン培養フラスコ上では、他の細胞の多くが伸展していることが観察された。
【0072】
細胞伸展面積を、Image-Pro Plus画像分析ソフトウェア(Maryland of the United States of America)を用いて分析した。細胞伸展面積を
図6(b)に示し、HA-Tyrゲル上では細胞伸展面積が、ポリスチレン上より有意に小さいが、様々な剛性の様々なHA-Tyrゲル上での細胞伸展に有意差はなかったことが明らかに示された。これらの結果は、CD44とHA-Tyrゲルの間の相互作用を介した細胞接着が、丸い形状のMDA-MB-231細胞を維持しうることを示した。
【0073】
様々なゲル(0.1、0.2、0.5、1.0、および4.0 kPa)における細胞増殖を評価するために、培養培地中で細胞密度1.0×10
5個/mlのMDA-MB-231細胞250μlを、ゲル上に播種した。ゲルを有しない細胞培養ウェルプレートを比較として用いた。細胞を、5%CO
2を含む37℃の湿潤大気中でインキュベートした。培養培地を3日毎に交換した。ハイドロゲル上での細胞増殖を評価するために、上記のCyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイキットを用いて蛍光測定を行った。
【0074】
図7に示すように、HA-Tyrゲル上で培養したMDA-MB-231細胞の生育速度は、培養プレート上で培養した細胞よりかなり低かった。剛性0.1 kPa、0.2 kPa、および0.5 kPaを有する軟らかいHA-Tyrゲルのみが、13日間の間に細胞生育を示したが、他の剛性のHA-Tyrゲルでは細胞生育は観察されなかった。
【0075】
HA-Tyrゲルの細胞付着および増殖を含むこれらの結果は、培養プレートの結果とは明らかに異なった。このことは、MDA-MB-231細胞において発現されたCD44が、HA-Tyrゲル中のHA鎖と相互作用したことを示唆する。
【0076】
HA-Tyrハイドロゲル上でのMDA-MB-231乳癌細胞の挙動をさらに調べるために、HA-Tyrハイドロゲル上でのコロニー形成を評価した(
図8)。丸い形状のMDA-MB-231細胞は、14日後にHA-Tyrハイドロゲル上でコロニーを形成したが(
図8a、I〜V、XII)、ポリスチレン上ではコロニーは観察されなかった。HA-Tyrハイドロゲルの剛性が減少するとコロニーサイズは増加した。
【0077】
実施例4
HA-Tyrハイドロゲルによる癌幹細胞マーカーの発現レベルの増強
HA-Tyrゲル(剛性0.2、0.5、1.0、および4.0 kPa)上での培養13日後のMDA-MB-231細胞におけるNanog、Sox-2、およびEpCAMのmRNA発現レベルを調べた。さらに、HA-Tyrハイドロゲル(剛性0.1、0.2、0.5、1.0、および4.0 kPa)上でのMDA-MB-231細胞におけるCD44(CD44標準)、CD44v3-10(CD44変種イソ型)、CD44v8-10(CD44変種イソ型)、Sox-2、EpCAM、およびALDHD1A1遺伝子の転写レベルもまた調べた。
【0078】
本明細書において、培養培地中で細胞密度1.0×10
5個/mlのMDA-MB-231細胞250μlをゲル上に播種した。ゲルを含まない細胞培養ウェルプレートを比較として用いた。細胞を、5%CO
2を含む37℃の湿潤大気中でインキュベートした。培養培地を3日毎に交換した。
【0079】
様々なHA-Tyrハイドロゲル上のMDA-MB-231細胞を、その後のRNA抽出のために、ヒアルロニダーゼ(1,000単位/ml)およびトリプシン-EDTAによって処理することによって収集した。MDA-MB-231細胞の総RNAを、培養13日後にTRIzol(Life technologies, Singapore)を用いて抽出した。cDNAを調製するために、総RNAを、RT緩衝液、ランダムヘキサマープライマー、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)混合物、RNアーゼ阻害剤、および逆転写酵素を含むRT反応混合物(Thermo Scientific, China)と共にインキュベートした後に、DNアーゼ処置を行った。
【0080】
リアルタイム定量的PCRをiQ5マルチカラーRT PCR検出システム(Bio-Rad laboratories, Singapore)を用いて行った。反応混合物(Life technologies, Singapore)は、TaqMan PCRマスターミクス10μL、各プライマー1.0μL、cDNA 2.0μ L、および蒸留水7.0 μLを含んだ。用いた様々なプライマーは、Hs01075861_m1(総CD44)、Hs01081473_m1(CD44s)、Hs01081480_m1(CD44v3 -v10)、Hs01081475_m1(CD44v8-v10))、Nanog(Hs02387400_s1)、Sox-2(Hs01053049_s1)、EpCAM(Hs00901885_m1)、およびALDH1A1(Hs00946916_m1)であった。PCRのために用いた温度プロファイルは、95℃で20秒、95℃で3秒および60℃で20秒を40サイクルであった。△-△Ct法を用いるその後の全ての計算において、1試料あたり3回ずつの測定の平均閾値サイクル(Ct)値を用い、結果を内因性の参照遺伝子(GAPDH)に対して標準化して、無処置対照(ポリスチレンプレート)と比較した遺伝子発現の変化倍率として表記する。
【0081】
図9に示すように、0.2 kPaの剛性を有するHA-TyrゲルでのNanog、Sox-2、およびEpCAMのmRNA発現レベルは、他の培養プレートの発現レベルより有意に高いことが観察された。他のゲルは、Sox-2を除き、有意に高いmRNA発現レベルを示した。NanogおよびSox-2は、stemnessマーカーであることが知られており、それらの転写因子は、抗アポトーシスタンパク質発現および化学療法抵抗性を誘導する。さらに、CSCマーカーの1つであるESAの発現が増強されたことは、HA-Tyrゲル上に接着したMDA-MB-231細胞がCSCであることを示した。
【0082】
図10に示されるように、HA-Tyrハイドロゲル上でのCD44v3-10およびCD44v8-10のmRNA発現レベルは、ポリスチレン上の発現レベルより有意に高かったが、CD44の発現レベルは、ポリスチレン上の発現レベルとほぼ同じであった。興味深いことに、CD44v3-10およびCD44v8-10の増強された発現レベルは、HA-Tyrハイドロゲルの剛性が増加すると増加した(
図10a)。これらの結果は、HA-Tyrハイドロゲルがハイドロゲル剛性依存的にCD44v3-10およびCD44v8-10の発現レベルを増強することができるが、CD44発現レベルは増強しないことを示している。それゆえ、結果から、HA-Tyrハイドロゲルが、乳癌細胞の悪性の特性を誘導することが強く示唆される。
【0083】
さらに、HA-Tyrハイドロゲル上でのSox-2およびALDH1A1のmRNA発現レベルもまた、ポリスチレン上の発現レベルと比較してHA-Tyrハイドロゲル上で有意に増強された(
図10b)。ALDH1A1の発現レベルは、HA-Tyrハイドロゲルのハイドロゲル剛性とは無関係であった。この結果は、CD44-HA相互作用が、剛性非依存的にALDH1A1発現を増強することを示唆した。Sox-2の場合、mRNA発現レベルは、0.2および0.5 kPa HA-Tyrハイドロゲルにおいて有意に増加した。さらに、CSCマーカーの1つであるALDH1A1発現が増強されたことは、HA-Tyrハイドロゲル上に接着したMDA-MB-231細胞がCSC特性を誘導されることを示した。
【0084】
したがって、HAに基づく細胞培養基質は、CSCの選択、培養、および維持にとって有用でありうることが示される。
【0085】
実施例5
抗CD44抗体を用いてHA-Tyrハイドロゲル上でのMDA-MB-231細胞接着の阻害を評価した。MDA-MB-231細胞をPBSによって洗浄して、トリプシン-EDTAを用いて細胞培養フラスコから収集した。剥離した細胞を、FBSを含まないRPMI-1640培地によって洗浄して、30 μg/ml抗CD44抗体と共に氷中で1時間インキュベートした。抗CD44抗体を有しない細胞浮遊液を比較として用いた。FBSを含まないRPMI-1640培地によって洗浄後、培養培地中で細胞密度1.0×10
5個/mlのMDA-MB-231細胞250μlを、上記と同様の方法で24ウェルプレートで調製した0.1 kPa HA-Tyrハイドロゲル上に播種した。細胞を、5%CO
2を含む37℃の湿潤大気中で1時間インキュベートした。その後、非付着細胞を有する培地を吸引して、ウェルをPBSによって3回洗浄した。HA-Tyrハイドロゲル上の付着細胞数を評価するために、上記のCyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイキットを用いて、蛍光測定を行った。
【0086】
図11に示されるように、抗CD44抗体による前処置により、無処置対照と比較して0.1 kPa HA-Tyrハイドロゲルに付着した細胞の百分率が劇的に減少した。したがって、HA-Tyrハイドロゲル上の細胞接着は、ほとんどがHA鎖とCD44受容体との相互作用によって媒介されたことが認められうる。
【0087】
実施例6
癌細胞の選択および維持
癌細胞の選択を評価するために、HA-Tyr(0.1、0.2、0.5、1.0、および4.0 kPa)上に付着したMDA-MB-231細胞におけるCD44s、CD44v3-10、CD44v8-10、EpCAM、およびALHD1A1遺伝子の転写レベルを分析した。培養培地中で細胞密度1.0×10
5個/mlの乳癌細胞250μlをハイドロゲル上に播種した。細胞を、5%CO
2を含む37℃の湿潤大気中で1時間インキュベートした後、PBS 500μlによって3回洗浄して、非付着細胞を除去した。本実施例では、実施例4と比較して、ここで追加の洗浄段階を用いた。HA-Tyrハイドロゲルおよびポリスチレン上の細胞をそれぞれ、ヒアルロニダーゼ(1,000単位/ml)およびトリプシン-EDTAと共にインキュベートすることによって収集した。細胞沈降物をPBSによって2回洗浄して、mRNA発現レベルの測定のために用いた。
【0088】
4 kPa HA-Tyrハイドロゲル上でのCD44s、CD44v3-10、CD44v8-10、EpCAM、およびALHD1A1などのCSCマーカーのmRNA発現レベルは、ポリスチレン上より有意に高かった(
図12(a))。特に、CD44v8-10レベルは、たとえ軟らかい(0.1および0.2 kPa)HA-Tyrハイドロゲル上でもポリスチレン上のレベルより有意に高かった。CD44v8-10は、活性酸素種(ROS)に対する抵抗性の増強により乳癌の転移との相関が十分に研究されている。EpCAMおよびALDH1A1もまた、CSC特性と相関することが周知である。それゆえ、これらの結果は、調節可能な剛性を有するHA-Tyrハイドロゲルが、CSC細胞の選択にとって有用でありうるという仮説を支持する。さらに、4 kPa HA-Tyrハイドロゲル上のCD44v8-10のmRNA発現レベルは、14日後でも維持された(
図12(b))。0.1および0.2 kPa HA-Tyrハイドロゲルの場合、CD44v8-10のmRNA発現レベルは、14日後では有意に増強された。これらの結果は、選択された癌細胞の特性が、HA-Tyrハイドロゲル上で維持されたのみならず、増強されたことを示している。さらに、追加の洗浄段階を用いることによって、CD44、EpCAMおよび他のマーカーを高度に発現する細胞が得られた。
【0089】
実施例7
癌細胞の化学療法抵抗性
化学療法抵抗性を評価するために、HA-Tyrゲル上のMDA-MB-231の細胞生存率を、シスプラチンおよびドキソルビシンなどの従来の抗癌剤の存在下または非存在下で測定した。本明細書において、培養培地中で5.2×10
3個/mlの細胞密度のMDA-MB-231細胞250μlを、ゲル(0.2、0.5、1.0、2.5、および4.0 kPa)に播種した。培養培地を3日毎に交換した。細胞播種の10日後、10〜100μMシスプラチンまたはドキソルビシンを、ゲル上の培養細胞に添加して、48時間インキュベートした。次に、細胞をPBSによって洗浄して、上記のようにAlamarBlue細胞生存率アッセイを用いて蛍光強度を測定した。抗癌剤の存在下での細胞生存率を無処置対照(0μM)に対して標準化した。
【0090】
シスプラチンの存在下では、培養プレート上のMDA-MB-231細胞の生存率は、用量依存的に減少した(
図13(a)を参照されたい)。これに対し、HA-Tyrゲルは、細胞培養プレートと比較して試験濃度範囲ではるかにより高い細胞生存率を示した。特に、0.5および1 kPaのHA-Tyrの場合、細胞生存率は、100 mMシスプラチンであってもほぼ100%であった。
【0091】
類似の傾向が、ドキソルビシンの存在下で観察された(
図13(b))。0.2および0.5 kPaゲルでは、100μMドキソルビシンの存在下であっても、およそ80%の生存率が維持されたが、細胞培養プレートおよびHA-Tyrゲル(2.5および4.0 kPa)ではそれぞれ、およそ10および20%の細胞生存率が観察された。これらの結果は、HA-Tyr、特に軟らかいゲルが、化学療法抵抗性を有意に誘導することを示した。
【0092】
用途
開示の方法は、所望の癌幹細胞または癌幹細胞を含む癌細胞株を培養するために細胞培養用途において用いることができる。
【0093】
開示の方法は、様々な癌細胞の複数または混合物から所望の癌幹細胞(または癌細胞株)を選択的に分離しそうすることによって単離するために用いられうる。
【0094】
開示のゲルは、所望の癌幹細胞の選択および生育を支持するために用いられうる。開示のゲルは、癌幹細胞と共に、癌幹細胞がそれに対して化学療法抵抗性である抗癌剤、または癌幹細胞に対して治療効果を有する抗癌剤を決定するための、癌治療に関する薬物スクリーニングプラットフォームとして用いられうる。
【0095】
開示の方法およびゲルは、受容体-リガンド結合によって所望のマーカーを含む癌幹細胞を選択的に単離するために用いられうる。
【0096】
本発明の様々な他の改変および適応が、前述の開示を読むことによって当業者に明らかとなるが、それらも本発明の精神および適用範囲に含まれ、そのような全ての改変および適応が添付の特許請求の範囲の適用範囲に含まれると意図されることは明白であろう。