特許第6552497号(P6552497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552497磁性単分散ポリマー粒子を製造するための改良プロセス
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  • 特許6552497-磁性単分散ポリマー粒子を製造するための改良プロセス 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552497
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】磁性単分散ポリマー粒子を製造するための改良プロセス
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   C08F2/44 Z
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-535670(P2016-535670)
(86)(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公表番号】特表2016-539232(P2016-539232A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2014076404
(87)【国際公開番号】WO2015082540
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年12月1日
(31)【優先権主張番号】13195723.5
(32)【優先日】2013年12月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100173635
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 樹里
(72)【発明者】
【氏名】ボレ,イェンス・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ザイデル,クリシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】レックリーズ,ザンドラ
【審査官】 山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−176212(JP,A)
【文献】 特表2002−542318(JP,A)
【文献】 特開2004−205481(JP,A)
【文献】 特開2006−257414(JP,A)
【文献】 特開2008−081647(JP,A)
【文献】 特開2009−256639(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0301257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 − 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性ポリマー粒子を製造するための方法であって、
(a)以下の成分:
(i)ラジカル重合可能な液体モノマー、
(ii)前記モノマーに可溶性のラジカル開始剤、
(iii)立体安定剤、及び
(iv)前記モノマーと混和性のキャリヤ流体中に界面活性剤でコーティングしたコロイド磁性粒子を含む磁性流体、
を含む組成物を提供する;
(b)(A)前記モノマーと不混和性である極性溶媒、該極性溶媒はエマルションの連続相を形成する、及び
(B)工程(a)の組成物、前記モノマーとキャリヤ流体がエマルションの分散相を形成する、
からエマルションを調製する;
(c)疎水性シードポリマー粒子を前記エマルションに添加し、混合してシードエマルションを形成し、このシードエマルションをインキュベートすることにより、前記シードポリマー粒子を膨潤させる;
(d)前記ラジカル開始剤を活性化して、膨潤した前記シードポリマー粒子中のモノマーを重合する;
工程を含み、これにより磁性ポリマー粒子を製造する、前記方法。
【請求項2】
前記工程(a)において、前記モノマーが、芳香族ビニルモノマー、アクリルモノマー、ビニルエステルモノマー、ビニルエーテルモノマー、ポリビニルモノマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマーが、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、フェニレンメタクリレート、フェニレンジメタクリレート、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)の組成物中で、前記液体モノマーが、プロパン、ブタン、シクロブタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルイソプロピルベンゼン、イソ酪酸イソブチル、及びこれらの混合物からなる群から選択される疎水性溶媒中に溶解されたモノマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、前記ラジカル開始剤が、2,2’-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾ−ビスジメチルバレロニトリル、過酸化ジクミル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ジ-t-ブチル、t-ブチル−ペルオキシベンゾエート、t-ブチル−ペルオキシピバレート、ジオクタノイルペルオキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(a)において、前記立体安定剤が、ポリ(N-ビニルピロリドン)、(ヒドロキシプロピル)セルロース、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(イソブチレン)、ポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)、ポリ(2-エチルヘキシルメタクリレート)、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、特にTween 20、Tween 80、Span 80及びSpan 85、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記極性溶媒が、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、前記磁性流体の前記キャリヤ流体がモノマーを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、前記磁性流体中の前記界面活性剤がラジカル重合可能な化合物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(c)の後で且つ前記工程(d)の前に、ラジカル捕捉剤をエマルションの極性液体相に添加する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ラジカル捕捉剤が、水溶性ヨウ化物塩、特にヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウム、水溶性アルデヒド、特にグルコース、及びこれらの混合物から選択される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーシード粒子から出発する単分散ポリマー粒子の製造に関する。本明細書では、磁性ポリマー粒子を製造する簡便化されたプロセスを開示し、本プロセスは、(a)以下の成分:ラジカル重合可能な液体モノマー、前記モノマーに可溶性のラジカル開始剤、立体安定剤、及び前記モノマーと混和性(miscible)のキャリヤ流体中に界面活性剤でコーティングしたコロイド磁性粒子を含む磁性流体(ferrofluid)、を含む組成物を提供する;(b)前記モノマーと不混和性である極性溶媒、及び工程(a)の組成物、からエマルションを調製する;(c)シードポリマー粒子を前記エマルションに添加し、混合してシードエマルションを形成し、このシードエマルションをインキュベートすることにより、前記シードポリマー粒子を膨潤させる;(d)前記ラジカル開始剤を活性化して、膨潤した前記シードポリマー粒子中のモノマーを重合する;工程を含み、これにより磁性ポリマー粒子を製造する。本プロセスの結果として、単分散磁性粒子を提供することができる。粒子は、磁性材料が均一分散すること、及び磁鉄鉱の浸出が存在しないことを特徴とする。磁性粒子は、微生物学及び分子生物学での選択的細胞分離及び免疫磁気分離などに広く使用されている。
【背景技術】
【0002】
いわゆる「逐次シード乳化重合(successive seeded emulsion polymerization)」法とは、ポリマー粒子の活性化膨潤(activated swelling)法である。重要なことには、このプロセスによって予測可能な直径サイズ1〜100μmの単分散球状ビーズを製造することができる(Ugelstad J.ら、Blood Purif.11巻(1993年)349-369頁)。ポリマー粒子は、多くの異なるモノマー材料から製造することができ、マクロ多孔性構造を含む様々なモルフォロジーをもつことができる。WO2000/61647は、単分散膨潤可能なシードポリマー/オリゴマーを含む水性分散物とモノマーとを接触させ、及び立体安定剤の存在下で重合を開始することにより形成される、単分散ポリマー粒子を製造するプロセスを開示する。得られる膨潤シード粒子は、粒子モード径により特徴付けられる。
【0003】
多孔質ビーズは、たとえばビーズの細孔体積中に存在する小さな粒状物として磁性酸化鉄を含む着磁性(magnetizable)単分散ポリマー粒子の基礎を形成する。この目的のために、WO2000/61647は、膨潤及び重合工程後に続く工程として、単分散ポリマー粒子を磁性コーティングでコーティングする概念について述べている。しかしながら、US4,707,523は、特に単分散ポリスチレン微粒子の製造を開示する。例示的なプロセスでは、水、シクロヘキサン、スチレン、ジビニルベンゼン、ベンゾイルペルオキシド及びドデシル硫酸ナトリウムを含む攪拌エマルション中にシード粒子を膨潤させることによって、ポリスチレンシード粒子をより大きなサイズに成長させた。特定の時間、膨潤させた後、混合物の温度を上昇させ、これによって重合プロセスを開始し、さらに一定の時間、実施した。得られるポリスチレン微粒子を続いて濃H2SO4/HNO3でニトロ化し、これによりポリマーを-NO2(ニトロ)基で官能基化した。そのような官能基化ポリマー粒子を最終的にHClの存在下でFe粉末と反応させ、これにより鉄をニトロ基で酸化した。この反応により、ポリスチレン微粒子の表面、並びに粒子中に存在するかもしれない細孔の接近可能な表面に酸化鉄が付着することにつながる。特に、US4,707,523のプロセスは、三つの主な独立した工程:(i)単分散粒子の生成、(ii)粒子のニトロ化、及び(iii)酸化金属の付着から構成される。このニトロ化工程は、強力な薬品を使用しなければならないので、より大きなスケールで安全に日常的に合成するためにはかなり複雑な装置が必要である。
【0004】
EP1391899A1は、磁性ポリマー粒子を製造する別法を開示する。最初にポリスチロール粒子などの疎水性ポリマー粒子粉末を準備する、これは逐次シード乳化重合プロセスにより単分散ポリマー粒子として得ることができる。この文書は、コロイド分散物を形成する第一工程を開示し、この分散物は、提供されたままの粒子を含み、たとえば磁性流体の形状の微細磁性材料と、ポリマー粒子に浸透し得る非極性有機溶媒をさらに含む。このように、成分を混合してコロイド分散物を形成し、これをインキュベーションすると、疎水性粉末が膨潤する。膨潤する間に、ポリマー粒子は磁性材料を吸収した。続く工程で、たとえば蒸発又は抽出によって非極性有機溶媒を除去すると、磁性材料が閉じ込められたポリマー粒子が得られる。特に、EP1391899A1は、このプロセスは繰り返し実施する必要があるかもしれないと開示している。従って、この製造プロセスは、所望の量及び/又は所望の再現性で磁性材料の取り込みを達成するために、さらなる取り組みが必要かもしれない。
【0005】
US4,339,337は、ビニル芳香族ポリマーの磁性ビーズの製造プロセスを開示し、このプロセスは、重合可能なビニル芳香族モノマーの溶液に微細磁性材料を分散させる、水中の懸濁液に得られた分散物を入れる、及び前記モノマーを重合する、工程を含む。この文献に開示された例示的なプロセスは、様々なサイズをもつ磁性粒子が生成することを示している。この文献は、単分散粒子に関しては何も書いていないようである。
【0006】
US4,358,388は、磁性ポリマーラテックスを製造するプロセスを開示する。帯磁性粒子(magnetically charged particle)を、有機的に可溶性の開始剤とビニル芳香族モノマーなどの有機モノマー成分とを含む有機相中に分散させる。この分散物を、乳化剤を含む水溶液と混合して均質化する。そして重合を実施して磁性ポリマーラテックスを形成する。一態様では、有機モノマー成分は、重合の直前又は重合の間に添加することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2000/61647
【特許文献2】US4,707,523
【特許文献3】EP1391899A1
【特許文献4】US4,339,337
【特許文献5】US4,358,388
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ugelstad J.ら、Blood Purif. 11巻(1993年)349-369頁
【発明の概要】
【0009】
本明細書中に報告した開示の目的は、単分散性であり、かつ規定量の磁性材料を含む磁性ポリマー粒子を製造するための、簡便で、短時間で且つ再現可能な方法であって、前記磁性材料がポリマー粒子の体積全体にくまなく均一に分散される、前記方法を確立することであった。さらに、浸出が大きく減少するか、実質的にないように磁性材料を包む磁性ポリマー粒子を提供することであった。
【0010】
本目的は、磁性ポリマー粒子を製造するための方法を提供することによって達成され、前記方法は、(a)以下の成分:ラジカル重合可能な液体モノマー、前記モノマーに可溶性のラジカル開始剤、立体安定剤、及び前記モノマーと混和性のキャリヤ流体中に界面活性剤でコーティングしたコロイド磁性粒子を含む磁性流体、を含む組成物を提供する;(b)前記モノマーと不混和性である極性溶媒、及び工程(a)の組成物、からエマルションを調製する;(c)シードポリマー粒子を前記エマルションに添加し、混合してシードエマルションを形成し、このシードエマルションをインキュベートして、前記シードポリマー粒子を膨潤させる;(d)前記ラジカル開始剤を活性化して、膨潤した前記シードポリマー粒子中のモノマーを重合する;工程を含み、これにより磁性ポリマー粒子を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は実施例1の手順を使用して得られた磁性粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。写真下部の白線は5μmを表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示された主たる考えは、非分岐ポリマー鎖又は分岐度が低い状態(即ち、ポリマー鎖を架橋する要素が5%(w/w)未満)のモノマーから重合した、ポリマーシード粒子を膨潤させることであり、前記シード粒子は、数(lower)μm〜nm範囲の直径をもつ。本明細書中で報告された改良プロセスは、溶媒和剤を任意に使用して、磁性重合可能な流体(好都合に選択された<30nmの直径をもち、モノマー溶液中に懸濁された特別に安定化された超常磁性コア粒子)でシード粒子を膨潤させることを記載する。さらに大きな利点として、モノマーは二種以上の重合可能なモノマー種の混合物であり、そのうち一種は重合プロセスで架橋剤又は分岐剤として作用し得、好都合には>5%(w/w)の濃度で存在する。
【0013】
このような新しい取り組みにより、すでに重合したシード粒子を着磁性モノマー溶液中で特異的に膨潤させると、マイクロメートルサイズ範囲の化学的だけでなく機械的にも安定な(鉄を浸出させない)粒子となる。さらには単分散磁性ポリマー粒子を得ることができる。
【0014】
本開示の目的に関しては、特定の用語は以下のように定義される。本明細書の開示及び引用文献において定義が矛盾する場合には、本開示が優先する。
本明細書中で使用するように、「〜を含む(comprising)」なる用語は、最終結果に影響しない他の工程及び成分を使用できることを意味する。「〜を含む」なる用語は、「〜からなる(consisting of)」及び「〜から本質的になる(consisting essentially of)」の表現を包含する。「the」、「a」、「an」などの単数の識別子の使用は、単一成分の使用に単に制限されるものではなく、多くの成分を包含することができる。たとえば、他に記載しない限り、「化合物(a compound)」なる表現は、「一種以上の化合物」の意味をもつ。「及び/又は(and/or)」なる用語は、列挙した要素の一つ若しくは全て、または列挙した要素の任意の二つ以上の組み合わせを意味する。本明細書中では、範囲内にあるそれぞれの一つ一つの値を記載するのに簡潔にした表現として範囲が使用される(たとえば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5など)。この範囲内の任意の値は、範囲の終点として選択することができる。本明細書中で使用するように、「室温」なる用語は、他に記載しない限り、典型的な研究室の周囲温度を意味し、これは通常、標準的な周囲温度及び圧力(SATP、25℃、100kPa)である。本明細書中で使用するように、「精製した」または「単離した」化合物とは、形成した反応混合物から化合物が分離されたことを意味する。
【0015】
「物質(substance)」なる用語は、純粋な材料若しくは化合物だけでなく、二種以上の材料若しくは化合物の混合物も包含する。「〜を混合する(mixまたはmixing)」なる動詞は、二種以上の物質を合体させるか、またはブレンドして、前記物質の「混合物」という結果になることを示す。
【0016】
本明細書中で使用する「疎水性」なる用語は、物質が水をはじく特徴を記載し、この特徴により物質は水に不溶性であるか、水に不混和性となる。従って疎水性物質は、対照的に非極性溶媒に可溶性である非極性化合物を包含する。従って「疎水性」なる用語は、液体であろうと固体であろうと、疎水性物質の水−/極性溶媒−不混和性または水−/極性溶媒−不溶性の特性を示す。水並びに他の極性化合物、特にこれらに限定されないが、たとえばC1及びC2アルコールなどの極性溶媒をはじく傾向のため、極性溶媒中の液体の疎水性物質は、凝集してミセルを形成することが多い。上記に従って、「疎水性溶媒」なる用語は、水−不混和性液体である全ての溶媒を包含する。この用語はさらに、水混和性溶媒と不混和性である溶媒を包含する。「水混和性」、「親水性」又は「極性」(これらの用語は同義と理解される)溶媒は、「水不混和性」又は「疎水性」(これらの用語も同義と理解される)溶媒と二相混合物を形成する。同時に、水−混和性溶媒は、任意の濃度又は溶媒/水比で水溶性であるので、均質、即ち単相溶液となる。
【0017】
固体又は液体である、ある量の第一の物質が第二の液体物質と接触し混合する際に、第二の液体物質中で溶解性であると、前記第一の物質の量は溶解して、第二の液体物質と均質混合物を形成する。
【0018】
「不溶性」なる用語は、実質量の第一の物質が液体の第二の物質に溶解することなく、液体の第二の物質と接触し混合する際に、固体の第一の物質が固相のままである傾向をさす。それにもかかわらず、第一の物質は微量ながら液体の第二の物質に実際に溶解することができる。かくして、非常に低い溶解性を考慮すると(この可能性がある)、本発明の目的に関して、液体の第二の物質に関する固体の第一の物質の特性を定義している「不溶性」なる用語は通常、1kg当たり0〜10gの、第二の物質中の第一の物質の残存溶解性(residual solubility)、即ち0〜1%[w/w]、具体的には0〜0.7%[w/w]、より具体的には0〜0.5%[w/w]、より具体的には0〜0.2%[w/w]、より具体的には0〜0.1%[w/w]、さらに具体的には0〜0.05%[w/w]の特性を示す。
【0019】
第一及び第二の液体物質は、これらが二相を分離することなく任意の割合で混合できる場合には、「混和性」であると理解される。
「不混和性」なる用語は、互いに接触し混合したときに、第一及び第二の液体物質が別々の液相を形成する傾向をさす。典型的には、疎水性の液体物質と親水性の液体物質又は水とは、互いに接触した時に「二相」である。すなわち二つの液体物質は、合体した後に二つの別々の相を形成する。不混和性特性は、実質的に第一の物質が第二の物質に全く溶解しないことを意味するが、それにもかかわらず微量ながら逆の相に実際に溶解することができる。たとえば、トルエン(メチルベンゼン)は実質的に水に不溶性であり、トルエンと水の混合物は典型的に相分離を示す。それにもかかわらず、室温又は別の周囲条件下では、トルエン約0.5gの量が水1kgに溶解性である。従って、非常に低い溶解性であることを考慮すると(この可能性がある)、本開示の目的に関して、液体の第二の物質に対して液体の第一の物質の特性を定義する「不混和性」なる用語は、通常、1kg当たり0〜10gの、第二の物質中の第一の物質の残存溶解性、即ち0〜1%[w/w]、特に0〜0.7%[w/w]、具体的には0〜0.5%[w/w]、より具体的には0〜0.2%[w/w]、より具体的には0〜0.1%[w/w]、さらに具体的には0〜0.05%[w/w]の特性を示す。かくしてこの定義に従って、親水性の液体物質中の疎水性の液体物質の溶解性、又は疎水性の液体物質中の親水性の液体物質の溶解性が0〜1%[w/w]、0〜0.7%[w/w]、0〜0.5%[w/w]、0〜0.2%[w/w]、0〜0.1%[w/w]、又は0〜0.05%[w/w]である場合、疎水性の液体の第一の物質は、親水性の液体の第二の物質と不混和性である。
【0020】
溶解性及び/又は混和性に依存して、そのうち少なくとも一つが液体である第一の物質と第二の物質とを混合すると、二つ以上の相をもつ不均質混合物であるか、又は単一の液相からなる均質混合物となる。
【0021】
そのもっとも広い意味での「分散物(dispersion)」なる用語は、通常、不均質混合物として理解され、言い換えると一を超える相、即ち「分散相」と「連続相」とを含む組成物と理解される。分散物に関して具体的であるが、限定的でない例としては、二相の固体/液体混合物及び二相の液体/液体混合物がある。最も広い意味では、分散相の物質は、個別の区分(compartment)、液滴又は粒子、即ち連続相によって互いに分離されている別々の実体(entity)に分けられる。同様に、連続相は分散相の粒子、液滴又は他の区分を巻き込む連続した実体を表す。「懸濁液」の具体的な態様では、分散相は、連続相としての液体中に分散された微細固体粒子からなる。分散相が液体の第一の物質であり、連続相が液体の第二の物質である分散物は、「エマルション」と呼ばれ、従って分散物の別の具体的な態様である。エマルションは、少なくとも二つが不混和性である二種以上の液体を接触させ、混合することによって形成することができる。本発明の開示の目的に関して通常及び具体的には、連続相は液体である。「エマルション」なる用語は、一方がコロイドを含む二つの不混和性液体相の混合物も包含する。この点において、「コロイド」なる用語は、所定の時間、具体的には1時間〜24時間の時間間隔の間に、周囲条件下で、実質的に粒子状物質が全く沈降も沈殿もしないように、連続媒体中に分散された微細粒子状物質の混合物を示す。本発明の開示の目的に関して、コロイドの非限定的な例としては、本明細書に記載のように磁性流体がある。
【0022】
さらに具体的な態様では、分散物は液体物質中に微細固体粒子を含むことができる。液体物質それ自体は、単一の液体化合物からなるか;あるいは液体物質は、二種以上の液体化合物を含むことができ、これらは互いに混和性であるか、又はそのうちの少なくとも二種の化合物が不混和性で、エマルションとして存在することができる。後者の場合、分散物は三相であり、第一の不連続相として固体粒子を含み;エマルションである液相は、第二の不連続相と、第三の相を表す連続相とを含む。
【0023】
本明細書で報告されるように第一の側面は、磁性ポリマー粒子を製造するための方法であって、前記方法は、
(a)以下の成分:
(i)ラジカル重合可能な液体モノマー、
(ii)前記モノマーに可溶性のラジカル開始剤、
(iii)立体安定剤、及び
(iv)前記モノマーと混和性のキャリヤ流体中に界面活性剤でコーティングしたコロイド磁性粒子を含む磁性流体、
を含む組成物を提供する;
(b)(A)前記モノマーと不混和性である極性溶媒、及び
(B)工程(a)の組成物、
からエマルションを調製する;
(c)シードポリマー粒子を前記エマルションに添加し、混合してシードエマルションを形成し、このシードエマルションをインキュベートして、前記シードポリマー粒子を膨潤させる;
(d)前記ラジカル開始剤を活性化して、膨潤した前記シードポリマー粒子中のモノマーを重合する;
工程を含み、これにより磁性ポリマー粒子を製造する。
【0024】
工程(a)の組成物はモノマーを含む。最も広い意味での「モノマー」なる用語は、ラジカル重合能力(polymerizability)をもつ不飽和官能基を含む化合物を示す。
従って通常、「モノマー」なる用語は、フリーラジカル重合の化学的プロセスで成長するポリマー鎖に共有結合し得るモノマーを包含する。しかしながらこの用語は、(i)ポリマー鎖を伸長し得るモノマー、並びに(ii)鎖の伸長と分岐をもたらしうるモノマーも包含する。後者の場合、モノマーは、ラジカル重合能力をもつ二種以上の不飽和官能基を含む。「モノマー」なる用語はさらに、異なる特定のモノマー種の混合物、たとえばビニル芳香族モノマーとアクリルモノマーとの混合物を包含する。当業者はこのような混合物を知っており、所望の分岐度に依存して、ラジカル重合能力を持つ単一の不飽和官能基をもつモノマーと、ラジカル重合能力をもつ二種以上の不飽和官能基をもつさらなるモノマーとの特定の割合を日常的に用いる。
【0025】
好都合な態様では、モノマーはエチレン性不飽和モノマーである。かかる化合物は当業界で公知であり、ビニル芳香族モノマー、アクリルモノマー、ビニルエステルモノマー、ビニルエーテルモノマー及びポリビニルモノマーが挙げられる。ビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、α-クロロスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム及びジビニルベンゼンからなる群から選択することができる。アクリルモノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、β-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-ヒドロキシアクリル酸ブチル、δ-ヒドロキシアクリル酸ブチル、β-ヒドロキシメタクリル酸エチル、γアミノアクリル酸プロピル及びγ-N,N-ジエチルアミノアクリル酸プロピルからなる群から選択することができる。ビニルエステルモノマーの例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニルからなる群から選択することができる。ビニルエーテルモノマーの例としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル-n-ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル及びビニルシクロヘキシルエーテルからなる群から選択することができる。ポリビニルモノマーの例としては、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート及びトリアリルフタレートからなる群から選択することができる。これら及び他の好適なモノマーは、単独で、又はこれらの二つ以上の混合物の形態で使用することができる。本発明の開示の教示を好都合に実施するために使用し得るモノマーの非限定的な例は、ビニルベンゼンとジビニルベンゼンとの混合物である。
【0026】
本発明の開示の目的に関して、モノマーは、一態様において、液体として純粋形で提供し得る化合物である。あるいは、モノマーは、具体的には溶媒が疎水性溶媒である溶液に含まれた状態で提供することができる。従って、具体的な態様では、液体モノマーは、疎水性溶媒に、より具体的には有機疎水性溶媒に溶解したモノマーである。従って、一種以上のモノマーは疎水性溶媒中の溶解形で提供される。すなわち、提供される溶液は均質混合物である。重要なことには、疎水性溶媒は重合プロセスに関与せず、ラジカル重合能力を持つ官能基を含まないように選択される。当業者は均質溶液を形成するためにモノマーと混合することができる多くの溶媒を知っている。具体的な態様では、液体モノマーは、プロパン、ブタン、シクロブタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルイソプロピルベンゼン、メチルn-アミルケトン、イソ酪酸イソブチル及びこれらの混合物からなる群から選択される疎水性溶媒中に溶解されたモノマーである。
【0027】
当業者は、本明細書中に開示の化合物を形成するために提供される際に、プロパン、ブタン及び他のもののような揮発性化合物を適用すると、そのような化合物が凝集物の液体状態にとどまるように、本明細書に開示される教示を実施するためには、調圧封じ込め(pressure-controlled containment)が必要であることを理解している。
【0028】
本明細書中に開示された改良逐次シード乳化重合プロセスは、一種以上のラジカル重合可能なモノマーでシード粒子を膨潤させ、次いでこのモノマーを重合する工程を含む。「ラジカル重合可能な」及び「ラジカル的に重合可能な」なる用語は、ラジカル開始剤で誘発されたフリーラジカル重合の化学的プロセスで、一種以上のモノマーが重合できることを示す。
【0029】
「ラジカル開始剤」は、ラジカル種を生成し、これによってラジカル反応を促進することができる化合物である。ラジカル開始剤は通常、結合解離エネルギーが小さい結合をもつ。ラジカル開始剤は特にポリマー合成で有用である。ラジカル開始剤の典型例には、ハロゲン原子、アゾ化合物及び有機過酸化物がある。具体的な好都合な態様では、ラジカル開始剤は、2,2'-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾ−ビスジメチルバレロニトリル、過酸化ジクミル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ジ-t-ブチル、t-ブチル−ペルオキシベンゾエート、t-ブチル−ペルオキシピバレート、ジオクタノイルペルオキシド及びこれらの混合物からなる群から選択される。ラジカル開始剤の活性化は、好適な頻度及びエネルギー含有量の電磁波照射に暴露することによって実施することができる。照射は、熱(赤外線)、UV光、ガンマ線その他が挙げられる。任意の疎水性ラジカル開始剤を使用することができる。紫外線による重合の場合には、これに限定されないが、公知の光重合開始剤の中でもIrgacure(登録商標)2959などの光重合開始剤が選択される。
【0030】
活性化の別法としては、ラジカル開始剤と相互作用し得る触媒の使用が挙げられる。
その結果、ラジカル開始剤の活性化により、通常、結合解離エネルギーの小さな単結合当たり一対のラジカルを生成する。ラジカルはそれぞれ続いてモノマーと反応し、これによってフリーラジカル重合プロセスを開始する。重合プロセスから得られる「ポリマー」は、(オリゴマーを含む)任意の長さのホモポリマー及びコポリマーを含む;「コポリマー」は二種以上の重合可能なモノマーのポリマーを含み、従ってターポリマー、テトラポリマーなども含み、ランダムコポリマーも含む。
【0031】
具体的な態様では、液体モノマーはラジカル開始剤用の溶媒として機能する。別の具体的な態様では、液体モノマーは疎水性溶媒を含み、この場合、疎水性溶媒は好都合にはラジカル開始剤用の溶媒としても機能することができる。あるいは別の具体的な態様では、液体モノマー(疎水性溶媒を任意に使用する)は極性液体中に乳化され、ラジカル開始剤は極性液体中に溶解した状態で存在する。
【0032】
膨潤プロセスの間にシードポリマー粒子に取り込まれる磁性粒子は、最初に磁性流体として提供される。当業者には公知であるが、磁性流体はたとえば1〜50nmのサイズのフェロ磁性粒子又はフェリ磁性粒子(ナノ粒子)を含むコロイド流体である。本発明の開示の目的に関して、本明細書に記載のプロセスで好都合に使用し得る磁性流体の粒子の直径は20nmよりも小さい。一般に、磁性流体中の粒子サイズは、シード粒子中のポリマー構造に従って、及びシード粒子の膨潤が起きる条件に従って選択される。特定のサイズの磁性粒子は、膨潤プロセスの間に磁性粒子をすべてのシードポリマー粒子に確実に浸透させるように選択される。従って、通常、本明細書に開示の改良逐次シード乳化重合プロセスの実施には1nm〜20nmの粒径が適していることが知見された。より具体的な態様では、粒径は5nm〜20nm、より具体的には1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20nmからなる群から選択される[nm]のサイズの粒子は、本明細書に開示の教示を実施するのに好都合に使用することができる。
【0033】
本明細書に開示の磁性流体に含まれ、本明細書に開示の方法及び組成物で使用されるコロイドフェロ磁性粒子又はコロイドフェリ磁性粒子は、通常、超常磁性であり、この特性は「磁性」なる用語によって包含される。この点において、具体的な態様の超常磁性粒子は特に好都合である。磁性ナノ粒子は、鉄塩の溶液から磁鉄鉱をアンモニアで沈殿させることによって製造することができる。
【0034】
従って、本発明の開示の目的に関しては、磁性流体は「キャリヤ流体」中にコロイド形の磁性粒子を含む。キャリヤ流体は、コロイドの連続相であり、液体モノマーと不混和性である液体溶媒を含む。通常、キャリヤ流体は、本明細書に記載の通り改良逐次シード乳化重合プロセスの重合に関与しない疎水性溶媒である。
【0035】
通常、具体的な助剤物質(helper substance)を使用しなければ、磁性ナノ粒子の懸濁液はそれ自体安定ではない。ファンデルワールス力などの表面主導の効果と組み合わさって、粒子間の磁力により磁気相が急速に凝集し沈降する。粒子が凝集しないようにするために、様々な液体キャリヤに対して界面活性剤を好都合に使用する。コロイドであるため、磁性流体は、キャリヤ流体と磁性粒子との間の表面張力(surface tension)又は界面張力(interfacial tension)を下げる化合物を示す「界面活性剤」を含む。磁性流体中では、粒子はそれぞれ界面活性剤でコーティングされ、その結果、磁性粒子の凝集が抑えられる。室温では、平均径10nmの安定化コロイド磁性ナノ粒子は通常、24時間以上、そのキャリヤ流体の中に均一に分散したままである。より大きな粒子は沈降する傾向が強い。しかしながら、この重力効果は、攪拌、例えば攪拌により弱めることができる。
【0036】
多くの磁性流体に存在する例示的な界面活性剤はオレイン酸である。本明細書の記載を実施するために好適な磁性流体は市販されており、Ferrofluid Type EFH1(SmartPhysik.de,ベルリン、ドイツ)が挙げられる。別の具体的な態様では、磁性流体中で安定剤として作用する界面活性剤は、ラジカル重合反応に関与することができる。この態様の界面活性剤は、ラジカル重合可能な一つ以上の利用可能なビニル又はアクリル官能基をもつ化合物を含む。この点において「利用可能な(accessible)」なる用語は、安定剤化合物がコロイド磁性物質に付着しているにもかかわらず、重合可能な官能基がモノマーと反応し得ることを意味する。本明細書において、磁性流体中のそのような安定剤化合物は、「サーフマー(surf-mer)」ともいう。
【0037】
本明細書に開示の方法の工程(a)で提供された組成物の一部である「立体安定剤」としては、二種の不混和性液体物質の二相混合物中で疎水性成分と親水性成分の両方に部分的に溶解性である一種以上の化合物が挙げられる。二種の成分を乳化すると、立体安定剤はこの二相が再び分離する傾向を減らして、これによって二相混合物の乳化状態を引き伸ばす。特別な例では、連続相として極性溶媒と、不連続相として疎水性液体のエマルションでは、立体安定剤は、その立体的な距離を安定化することによって疎水性液滴の融合を抑制又は予防する。具体的な態様では、立体安定剤は、二相混合物の相分離を防ぐ。好都合には、立体安定剤は、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリエチレンオキシド、ポリ(N-ビニルピロリドン)、(メチル)セルロース、(エチル)セルロース、(ヒドロキシプロピル)セルロース、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(イソブチレン)、ポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)、ポリ(2-エチルヘキシルメタクリレート)、ドデシル硫酸ナトリウム及びこれらの混合物からなる群から選択される。中でも、ポリ(ビニルアルコール)及びポリ(N-ビニルピロリドン)などのポリマー性立体安定剤は、特に好適な態様において、特にドデシル硫酸ナトリウムと組み合わせて使用することができる。
【0038】
具体的な態様では、立体安定剤は、シードポリマー粒子をベースとして、0.1%〜100%[w/w]、特に1%〜20%[w/w]の量で使用され、ラジカル開始剤は、モノマーをベースとして0.001〜10%[w/w]、特に0.01〜0.5%[w/w]の量で使用される。
【0039】
その結果、モノマー、ラジカル開始剤、立体安定剤、及び磁性流体を含む工程(a)の組成物は液相と粒子からなる相とを含み、この液相は実質的に疎水性である組成物である。しかしながら、組成物中の粒子相はコロイドとして含まれる。
【0040】
本明細書に報告されたように本開示を実施するために、工程(a)に従った好都合な組成物は、モノマーと不混和性である極性溶媒と効果的にエマルションを形成できる粘度をもつ。従って、具体的な態様では、室温において、(地球の磁場以外の)磁場の非存在下における工程(a)に従った組成物の全粘度は、0.5mPa・s〜1300mPa・sである。
【0041】
組成物の提供の工程(a)に続いて、乳化工程(b)を実施する。この目的のために、さらなる液相を準備する。ここでさらなる液相は親水性であり、不均質、即ち工程(a)の組成物の液相と二相混合物を形成することができる。すなわち、親水性の液相は極性の、水−混和性溶媒を含む。具体的な態様では、極性溶媒は水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される。他の具体的な態様としては、多価アルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びこれらの混合物が挙げられる。水混和性有機溶媒は、単独で、又は水との液体混合物の状態で使用することができる。液体混合物の場合には、水はできるだけ多量に含まれ、その混合比は、使用するモノマー及び有機溶媒に従って決定するのが好ましい。
【0042】
エマルションを形成するために、工程(a)の組成物を親水性液相と接触させ、混合する、ここでエマルションは、混合することにより得られる。典型的な態様では、混合は攪拌により実施する。
【0043】
得られるエマルションでは、親水性液相はエマルションの連続相を形成するのに十分な量で存在しなければならない。従って、連続相を形成するのに十分な体積を提供するために、親水性液相の体積は、工程(a)の組成物の体積に対して選択する。この体積比は、乳化プロセスで形成する疎水性相の液滴のサイズに影響を与える。液滴サイズは、攪拌による剪断力が乳化すべき組成物に加える強度によっても影響を受ける。液滴サイズを決定する別の因子は、エマルション中の立体安定剤の濃度である。一般に、立体安定剤は、その最小ミセル−形成濃度を超える量で存在しなければならない。一般に、エマルション中に安定化疎水性液滴を形成するために条件を適用し、ここで極性溶媒はエマルションの連続相を形成する。
【0044】
本明細書に開示の磁性ポリマー粒子を製造するためのプロセスは、単分散ポリマー粒子を製造するための逐次シード乳化重合プロセス(Ugelstad)の改良別法である。単分散粒子は、平均粒径として表される、やや均一サイズを特徴とし、ここで直径の変動係数は10%未満、具体的には5%未満、より具体的には3%未満である。一般に当業界では、ポリマー粒子は、モノマーと重合開始剤とを、混合物に加えられたポリマーシードの中に拡散させることによって、乳化二相混合物中で製造することができることが公知である。シードはモノマーを吸収して膨潤する特性をもち、開始剤を活性化させるために加熱することなどによって重合を開始した後、膨潤したシードからより大きなポリマー粒子が生成する。本発明の著者らは、特定の条件下において、ポリマーシードはモノマーと重合開始剤とを吸収できるだけでなく、磁性粒子も吸収できることを知見した。従って、この驚くべき利点を有する簡易化プロセスが、単分散の再現可能な量の磁性材料を含む単分散の磁性粒子であって、磁性材料が所与の粒子の中にくまなく均一分散されている磁性粒子を製造するために開発された。また重要なことには、本明細書に開示のプロセスを実施するためには、ニトロ化工程は必要ない。
【0045】
本明細書で報告されるプロセスは、シードエマルションを形成することを含み、このエマルションはモノマーと不混和性である極性溶媒と、工程(a)の組成物とを含む。すなわち、シードポリマー粒子をエマルションに加え、それと共に混合する。具体的な態様では、シード粒子は、工程(a)の組成物にも存在する重合した単一モノマー化合物からなる。別の具体的な態様では、シード粒子は、工程(a)の組成物中にも存在する二種以上の単一モノマー化合物の重合混合物からなる。さらに別の具体的な態様では、シード粒子は、重合した非架橋(即ち、非分岐)スチレンの粒子である。さらに別の具体的な態様では、シード粒子は、重合した低架橋スチレン、即ち0.5%[w/w]ジビニルベンゼンを含むスチレンの分岐コポリマーの粒子である。
【0046】
得られる混合物では、疎水性シード粒子を連続相から分離し、疎水性エマルション液滴中で区分化する。所定の時間間隔の間、シード粒子は膨潤できる。すなわちモノマー(たとえば、ジビニルベンゼン及びスチレン)とコロイド磁性粒子を含む、工程(a)に従った組成物を吸収することができる。
【0047】
工程(a)の特定の組成物に添加されるシード粒子の量は、組成物に存在し、シード粒子により吸収され得る化合物の総量に関して選択される。従って、シード粒子の特に好適な量は、経験的に決定することができる。
【0048】
エマルションはシード粒子と共に混合する。攪拌することによって、混合物中のシード粒子と他の成分とが等しく分配される。重要なことに、モノマーを吸収する特性をもつシード粒子は、それ自体が疎水性である。従って、例示するシード粒子はエマルションの疎水性液滴によって吸収され、これによってシード粒子は、工程(a)で提供された組成物と接触する。これらと接触する際に、シード粒子は組成物を吸収し、膨潤し始める。すなわちそのサイズが大きくなる。液滴中に最初に存在した組成物の所定量が吸収されるまで、吸収しつづける。混合物の攪拌、成長する粒子の慣性(inertia)(その動き又は方向を変えることに対する抵抗)の増加、剪断力及び他の影響の結果、成長する粒子は疎水性液滴から引き離されて、それによって吸収及び膨潤プロセスを中断する。粒子は別の液滴と接触して、吸収/膨潤プロセスを継続することができる。
【0049】
重要なことには、膨潤プロセスは、モノマーとラジカル開始剤の吸収を含むだけでなく、同時にコロイド磁性粒子の吸収も包含する。従って、シード粒子の膨潤によってシード粒子のサイズが大きくなる間に、磁性粒子が均一分布する。
【0050】
工程(a)の組成物中に存在する場合には、疎水性溶媒、モノマー及びキャリヤ流体の量は、膨潤プロセスの間に、シード粒子中に最初に存在するポリマーマトリックスが完全に溶解しないが、どれだけ膨潤しても骨格として原形を保ち、吸収した物質を包むように見積もられ、選択される。
【0051】
一態様において、膨潤プロセスの最後には、工程(a)の全ての材料が吸収される。
あるいは、別の態様では、工程(a)の組成物は、シード粒子が材料を吸収する能力に対して過剰量で存在する。この場合、膨潤プロセスは、残っている組成物から膨潤した粒子を濾過などによって分離することが必要である。しかしながら、遠心分離及び磁気分離などこれらに限定されないが、他の分離法も存在する。続いて分離された粒子は、場合により界面活性剤の存在下で極性溶媒中に再び分散されて、これにより疎水性物質を個々の粒子に閉じ込める。
【0052】
固定の次の工程では、ラジカル開始剤を活性化する。ラジカル重合を開始することにより、モノマーが重合する。具体的な態様では、モノマーは二種以上の異なるラジカル重合可能な化合物の混合物であり、さらに具体的な態様では、このうち少なくとも一つは鎖延長及び分岐機能を提供する。そのようなモノマーを重合すると、本質的に、元のシード粒子のポリマー材料と絡み合った新規に生成したポリマーマトリクスがもたらされる。シード粒子自体がラジカル重合可能な官能基をもつ場合、この基は重合反応にも関与することができる。
【0053】
重合の結果として、ポリマーの格子が生成し、これが今度は磁性流体の磁性ナノ粒子を安定してからませる。すなわち重合工程は、モノマーと一緒にシード粒子により吸収された物質を閉じ込める。
【0054】
再現性のある結果に関しては、通常、重合反応は、重合反応が起きる動力学を制御できる制御された温度条件下で実施する。例示的な、スチレンとジビニルベンゼンを含む2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)で開始した重合反応の場合には、ラジカル開始剤を60℃で活性化し、反応は定められた時間点で70℃及び80℃への温度シフトを含む所定の時間の間実施する。
【0055】
重合反応完了後、磁性ポリマー粒子が得られ、次いでこれを重合反応混合物から分離し、これはさらに精製することができる。しかしながら、これらの工程は任意選択であって、本明細書で報告されるように、促進された逐次シード乳化重合の必要な態様及び/又は具体的な態様を表すものではない。従って、磁性粒子は、これらに限定されないが、濾過、遠心分離及び磁気分離などの様々な方法によって残存する反応混合物から分離することができる。粒子を固定するために磁場を適用することは、多くの場合、最も簡単な試みである。というのも、残存する液体は、磁性粒子から容易に排出することができるからである。特に、エタノールを用いる一つ以上のさらなる洗浄工程を使用して、磁性ポリマー粒子から残存するコロイド磁性ナノ粒子を除去することができる。続く水を用いる洗浄工程では、重合反応混合物に存在していた痕跡量の残存物質をさらに除去する。
【0056】
精製した磁性ポリマー粒子を乾燥し、乾燥物質として貯蔵することができるか、これらを使用して懸濁液を製造し、それを貯蔵することもできる。
さらには、磁性ポリマー粒子のポリマー部分は、化学的に修飾し、官能基化することができる。その非限定的な実施例としては、粒子上の接触し易い部位にストレプトアビジンを共有結合することがある。
【実施例】
【0057】
以下の実施例及び図面は、本発明を理解し易くするために提供するものである。本発明の真の範囲は請求の範囲に明記されている。本発明の開示の趣旨を逸脱することなく、手順変更が可能であることは理解される。
【0058】
実施例1
約1.7μmの平均サイズの磁性粒子の製造
他に記載しない限り、全ての手順は、室温(約20℃)及びその他は周囲条件で実施した。0.98gのポリ(N-ビニルピロリドン)K30(PVP)及び0.13gのドデシル硫酸ナトリウムをそれぞれ水49mlに溶解し、この溶液を500mlフラスコに充填して混合した。さらに6.48gのジビニルベンゼン(98%純度)及び5.42gの濾過済(安定剤及び他の不純物を除去するため)スチレンを、絶えず攪拌しながら続いて混合物に添加した。0.35gの2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を12.62gのトルエンに溶解し、この溶液をフラスコの混合物に加えた。キャリヤ流体中の界面活性剤でコーティングしたコロイド磁性粒子と共に磁性流体2ml(Type EFH1、SmartPhysik.de製,ベルリン、ドイツ)を有機相に添加した。
【0059】
攪拌翼を備えるオーバーヘッドスターラーを1分当たり1000回転で使用し、混合物を1時間、分散して、水性(極性)連続相と疎水性不連続相をもつエマルションを形成した。このエマルションに、シードラテックス分散物5%[w/w]4.7mlを添加すると、分散物は、水に分散された粒径700nmの、重合した非架橋(即ち、非分岐)スチレンの粒子を含んでいた。シードエマルションは、室温で、1分当たり500回転で20時間攪拌した。
【0060】
その後、水50mlに0.49gのPVPと0.05gのヨウ化カリウムとを含む溶液を添加し、さらに10分間、1分当たり500回転で攪拌した。その後、混合物の温度を60℃に上げた。1時間の間、1分当たり350回転で攪拌しながら、温度60℃を保持し、続いて70℃に上昇させ、さらに4時間、同一条件下で攪拌した。続いて温度を80℃に上げて、さらに2.5時間、同一条件下で攪拌した。
【0061】
その後、同一条件下で攪拌しながら、混合物を室温に放冷した。混合物は20μmポリエステルフィルターを通して濾過した。濾過画分(flow-through)から、磁性粒子は磁場に粒子を固定し、液体を排出し、続いてエタノールを用いる二つの洗浄工程、さらに水との数回の洗浄工程により分離した。
【0062】
得られた磁性粒子のサイズは、動的光散乱により測定した。
実施例2
約1.2μmの平均径の磁性粒子の製造
他に記載しない限り、全ての手順は、室温(約20℃)及びその他は周囲条件で実施した。1.97gのポリ(N-ビニルピロリドン)K30(PVP)及び0.29gのドデシル硫酸ナトリウムをそれぞれ水190mlに溶解し、この溶液を500mlフラスコに充填して混合した。さらに13.68gのジビニルベンゼン(98%純度)及び5.42gの濾過済(安定剤及び他の不純物を除去するために)スチレンを、絶えず攪拌しながら続いて混合物に添加した。0.692gの2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を25.24gトルエンに溶解し、この溶液をフラスコの混合物に加えた。キャリヤ流体中の界面活性剤でコーティングしたコロイド磁性粒子と共に磁性流体2ml(Type EFH1、SmartPhysik.de製,ベルリン、ドイツ)を有機相に添加した。
【0063】
攪拌アンカーを備えるオーバーヘッドスターラーを1分当たり1200回転で使用し、混合物を20分間、分散して、水性(極性)連続相と疎水性不連続相をもつエマルションを形成した。次いで超音波発生装置(Hielscher S3 Sonotrode、80%振幅及び80%間隔設定)を使用して超音波を20分間適用したが、攪拌はしなかった。超音波処理後、この混合物は1分当たり300回転で20分間攪拌した。このエマルションに、シードラテックス分散物5%[w/w]9.4mlを添加すると、分散物は、水に分散された粒径700nmの、重合した非架橋(即ち、非分岐)スチレンの粒子を含んでいた。シードエマルションは、35℃で、1分当たり500回転で20時間攪拌した。
【0064】
その後、水100mlに1gのPVPと0.1gのヨウ化カリウムとを含む溶液を添加し、さらに15分間、室温で1分当たり500回転で攪拌した。その後、混合物の温度を60℃に上げた。2時間の間、1分当たり100回転で攪拌しながら、温度60℃を保持し、続いて70℃に上昇させ、さらに3時間、同一条件下で攪拌した。続いて温度を80℃に上げて、さらに2.5時間、1分当たり250回転で攪拌した。
【0065】
その後、同一条件下で攪拌しながら、混合物を室温に放冷した。混合物は最初に20μmポリエステルフィルターを通し、続いて10μmポリエステルフィルターを通し、次いで酢酸セルロース膜450nm細孔を通して濾過した。最後の濾過工程の間、粒子をエタノール洗浄した。粒子を水に再懸濁し、磁場を保持しつつ水で数回洗浄した。
【0066】
得られた磁性粒子のサイズは、動的光散乱により測定した。
実施例3
磁性粒子からの鉄浸出の測定
実施例1又は実施例2の手順により製造した100mgの磁性粒子を水5mlに懸濁し、2mlの5M HClを懸濁液に添加して、混合した。この混合物をキュベットに移し、UV-Vis分光光度計(Cary(登録商標)50,Varian,Inc.)に設置した。動力学的測定は、30分間、450nmで30秒ごとに実施した。それぞれの測定の後、混合物をスパチュラで攪拌し、磁場を印加することにより磁性粒子をキュベット底に引きよせた。
30分後、上清中のFeCl2塩を示している450nmには吸収は全く検出されなかった。
図1