(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記貯蔵ユニット本体は、前記フィルタカートリッジが定位置にあるときに前記フィルタ及び/又は前記フィルタのフィルタ内容物及び/又は前記フィルタの周囲の液体へのアクセスを可能にする開口部(55)を有しており、前記貯蔵ユニットは、前記開口部を覆う取り外し式の蓋(57)を更に備えている、請求項1に記載の組立体。
前記貯蔵ユニットは、前記生体物質の貯蔵及び/又は分析をやり易くするように選択された溶液を収容する溶液室を備えており、前記フィルタカートリッジと前記貯蔵ユニットの係合が前記溶液の放出を生じさせ当該溶液をフィルタと接触させることになる、請求項1又は請求項2に記載の組立体。
前記貯蔵ユニット(490)は前記陥凹部(530)内に保持されているピストン(600)を有し、前記ピストンと前記陥凹部は前記陥凹部開口から遠位に溶液室を画定し、前記溶液室(602)は前記生体物質の貯蔵、処理、及び/又は分析をやり易くするように選択された溶液を収容し、前記ピストンは、前記陥凹部への前記フィルタカートリッジの挿入が当該ピストンを当該陥凹部の更に奥へ動かし、その結果、前記溶液室内に収容されている前記溶液が前記ピストンの周りを押し進められて前記フィルタと接触することになるように構成されている、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の組立体。
前記蓋(57)は前記生体物質の貯蔵及び/又は分析をやり易くするように選択された溶液を収容する溶液室を有しており、前記蓋と前記貯蔵ユニット本体の係合が前記溶液を放出させるので当該溶液が前記フィルタに接触することになる、請求項2に記載の組立体。
前記濾過装置は、当該装置が組み立てられたときに、前記採取室内に収容されている流体へ圧力を加えて前記流体を前記フィルタを通して前記廃棄物貯留部の中へ押し進めてゆくための手段を有している、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の組立体。
前記採取室は圧縮可能であり、前記濾過装置が組み立てられ前記採取室が流体検体を収容したときに、前記採取室を圧縮することで前記流体へ圧力を加え、それにより当該流体を前記フィルタを通して前記廃棄物貯留部の中へ押し進めてゆくようになっている、請求項1から請求項7の何れか一項に記載の組立体。
採取室は円筒袋(3)であり、ばね(5)が前記円筒袋の周りをその円筒軸に沿って取り囲み、前記円筒袋のその円筒軸の方向への圧縮を可能にしている、請求項8に記載の組立体。
前記フィルタ支持体プラットフォームは、圧力印加中及び圧力印加後に前記装置内の圧力を釣り合わせる弁(37)を備えている、請求項7から請求項9の何れか一項に記載の組立体。
前記方法は、前記採取室内の前記生体流体検体に圧力を加えて当該生体流体検体の流れを前記採取室から前記廃棄物貯留部の中へ前記フィルタを通して押し進める段階を更に備えている、請求項18に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
膀胱癌は世界的に6番目に最もよく見られる癌である。症状としては、顕微鏡的血尿又は肉眼的血尿、排尿痛、及び多尿が挙げられるが、これらの症状は何れも当該疾患に特異的というわけではない。膀胱癌を診断するための至適基準は膀胱鏡検査及びそれに続く経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)である。膀胱鏡検査の感度は、筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC、病期Ta、T1、及びTis)について白色光膀胱鏡検査で約80%、蛍光(ヘキサアミノレブリン酸)誘導式膀胱鏡検査で>95%である。
【0003】
膀胱腫瘍患者の大半(70−80%)は予後が比較的良好なNMIBCと診断されている。しかしながら、これらの腫瘍の再発率は非常に高く、患者の70%前後が再燃を経験し、これらの再発のうちの25%に至っては予後の悪い筋層浸潤性癌(MIBC、病期T2−4)へ進展してゆく。高い再発率と進展の危険性が、生涯に亘る定期的膀胱鏡検査による調査監視を余儀なくし、膀胱癌を治療するのに最も費用の掛かる癌にしている(アヴリッチャ他、2006年(Avritscher et al., 2006))。顕微鏡的血尿又は視認できる血尿を呈する全患者のうち膀胱癌と診断されるのは10%未満であるというのに、膀胱癌を除外するために遂行される膀胱鏡検査数は高く、健康管理システムへ相当な負担を課している。そのうえ膀胱鏡検査は患者へかなりな苦痛を生じさせる侵襲性の方法であることから、高信頼度で費用効率に優れた膀胱癌診断及び調査監視のための非侵襲性技法が必要とされており未だに満たされぬままである。
【0004】
膀胱腫瘍患者からの排泄尿は、細胞診によって同定され得る剥離腫瘍細胞を含んでいることがある。尿細胞診は何十年も使用されているが今なお膀胱腫瘍の検出にとって最も普及している非侵襲性技法である。但しそれはNMIBCの検出には低い感度(10−20%)を有する。幾つかの代わりの非侵襲性検査が開発されてきており、それらには、米国食品医薬品局(FDA)により認可されているもの、即ち、膀胱腫瘍抗原検定、NMP22、ImmunoCyt、及びUrovysionが含まれる。これまでのところ、これらの検査は何れも特異性の低さのせいで臨床的実践での広く行き渡った使用を実現していない(リオウ,L.S.(2006年)「検出及び調査監視のための尿路上皮癌バイオマーカー」、泌尿器学、67、25−33(Liou,L.S. (2006). Urothelial cancer biomarkers for detection and surveillance. Urology 67, 25-33)、テツ,B(2009年)「尿による尿路上皮癌診断」、Mod.Pathol.22、補遺2、53−59節(Tetu,B. (2009). Diagnosis of urothelial carcinoma from urine. Mod. Pathol. 22 Suppl 2, S53-S59)、ワドゥーワ,N.、ジャタワ,S.K.、ティワリ,A.(2012年)「膀胱癌検出のための尿に基づく非侵襲性検査」、J.Clin.Pathol.65、970−975(Wadhwa,N., Jatawa,S.K., and Tiwari,A. (2012). Non-invasive urine based tests for the detection of bladder cancer. J. Clin. Pathol. 65, 970-975.))。
【0005】
膀胱腫瘍細胞は、巨視的染色体異常、増幅、欠失、一塩基置換、及び異常なDNAメチル化、を含む多数のゲノム異常を含んでいる。個々の腫瘍に見いだされる変化のうち新生物増殖を開始させ維持するために(「ドライバー」として)必要とされるのは極小数であって、残りは悪性形質への効果を全く又は殆ど持たない「パッセンジャー」事象である。ドライバー事象とパッセンジャー事象は、それらが癌特異的である(即ち、正常組織には見られない又は異なる発現レベルで現れる)及び反復性である(即ち、独立に発生している腫瘍に相当な頻度で起こる)ならば、どちらも膀胱癌についてのバイオマーカーとして有望性があろう。膀胱癌で最も頻度の高い突然変異遺伝子は、原腫瘍形成遺伝子であるFGFR3、RAS、及びPIK3CA、及び腫瘍抑制遺伝子であるTP53を含む。NMIBCではFGFR3の突然変異がよく見られ、>60%の頻度が報告されているのに対し、MIBCではTP53突然変異が優勢的に見つけられる。加えて、何百もの遺伝子が膀胱腫瘍と正常な膀胱上皮の間で差別的にメチル化されることが示されている。
【0006】
ここ10年に亘る研究は、尿沈渣から単離されたDNA中の膀胱腫瘍特異的ゲノム異常を検出することが可能であることを示している。DNAに基づく膀胱腫瘍検出の感度及び特異性は、患者母集団やDNAバイオマーカーの選定及びこれらのバイオマーカーを検出するのに採用されている方法に依存して研究間で大きなばらつきがある。一部の研究は、90%に近い又は90%より高い診断感度及び100%に近い特異性を報告している(ドレイミ他(2004年)「腫瘍抑制遺伝子高メチル化パネルによる尿膀胱癌検出」、Clin.Cancer Res.10、1887−1893(Dulaimi et al (2004). Detection of bladder cancer in urine by a tumor suppressor gene hypermethylation panel. Clin. Cancer Res. 10, 1887-1893)、コスタ他(2010年)「3つの後成的バイオマーカー、GDF15、TMEFF2、及びVIMは、DNAに基づく尿検体分析から膀胱癌を正確に予測する」、Clin.Cancer Res.16、5842−5851(Costa et al (2010). Three epigenetic biomarkers, GDF15, TMEFF2, and VIM, accurately predict bladder cancer from DNA-based analyses of urine samples. Clin. Cancer Res. 16, 5842-5851)、ホケ他(2006年)「尿DNA中の複数遺伝子のプロモーターメチル化の評価法及び膀胱癌検出」、J.Natl.Cancer Inst.98、996−1004(Hoque et al (2006). Quantitation of promoter methylation of multiple genes in urine DNA and bladder cancer detection. J. Natl. Cancer Inst. 98, 996-1004)、レイネルト他(2011年)「膀胱癌における包括的ゲノムメチル化分析:新規メチル化遺伝子の同定と妥当性確認及びこれらの泌尿器腫瘍マーカーとしての応用」、Clin.Cancer Res.17、5582−5592(Reinert et al (2011). Comprehensive genome methylation analysis in bladder cancer: identification and validation of novel methylated genes and application of these as urinary tumor markers. Clin. Cancer Res. 11, 5582-5592))。最近の研究は、再発を監視したり腫瘍の随伴しない低リスク患者での膀胱鏡検査数を減らしたりするのに尿でのDNAバイオマーカーの分析が使用できることを示唆している(レイネルト他(2012年)「EOMES、HOXA9、POU4F2、TWIST1、VIM、及びZNF154高メチル化の尿レベルに基づく膀胱癌再発診断」、PloS.One.7、e46297(Reinert et al (2012). Diagnosis of bladder cancer recurrence based on urinary levels of EOMES, HOXA9, POU4F2, TWIST1, VIM, and ZNF154 hypermethylation. PLoS. One. 7, e46297))。低含量腫瘍特異的DNAの検出については第3世代PCR(デジタルPCR)及び次世代シーケンシングを含む改善された方法の出現で、尿に基づく膀胱腫瘍検出の有望性は劇的に高まってきている。
【0007】
膀胱癌の診断及び調査監視のための尿DNAマーカーを使用する場合の主な難題の1つは、下流分析にとって十分な細胞数を手に入れる、ということである。一部の研究では検体の35%もがDNAの量不足のせいで分析から除外されている(レイネルト他、2012年(Reinelt et al 2012))。尿の中へ剥離した腫瘍細胞の数は、高い個体間及び個体内ばらつきを示す。一般的に、遊離した細胞の数は腫瘍の大きさ及び病期と相関があり、小さい早期の腫瘍はMIBCよりも遊離させる細胞が少ない。このことが疾患及び疾患進展の非侵襲性検出及び監視での尿DNAマーカーの有用性に制限をかけている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、生体流体から得られる生体物質を捕捉し貯蔵するための便利で効率のよい組立体が病態及び障害の診断及び長期監視において患者及び医学専門家らへ有意義な利点をもたらし得るという発明者らの見識に基づいている。
【0011】
広範には、本発明は、生体流体からの生体物質の簡易低費用採取のための濾過組立体に、及びこれらの濾過組立体を使用する方法に、関する。本発明は、更に、その様な流体から採取された生体物質の貯蔵のための組立体及び同組立体を使用する方法に関する。
【0012】
生体流体からの生体物質の簡易低費用採取のための濾過組立体は、例えば在宅使用のために患者へ提供することもでき、当該濾過組立体の提供は患者へ有意義な利点をもたらすことができる。捕捉された物質は、即座に貯蔵され、後日、指定時に分析専門家又は医学専門家へ提供されてもよいし、又は適切な医療センター又は検査機関へ分析のために郵便配達員を通じて郵送されてもよい。
【0013】
本発明の組立体は、更に、医学専門家及び介護人の訪問による患者自宅での医学的ケアの提供に利点をもたらす。捕捉された物質は、即座に貯蔵され、適切な医療機関又は検査施設へ郵送されるか又は医学専門家又は介護人によってそこへ運ばれてもよい。本発明の組立体は、更に、診療所又は病院への通院及び/又は入院中の医学的ケアの提供にも利点をもたらす。
【0014】
例えば、ここに記載されている組立体及び方法は、泌尿生殖器障害と関連付けられる細胞の捕捉及び検出のための尿の採取及び濾過に関連がある。これらの障害には、例えば、限定するわけではないが、膀胱癌、前立腺癌、及び腎盂癌の様な泌尿生殖器癌が含められる。これらの障害には、更に、子宮内膜癌の様な婦人科癌又は他の部位から泌尿生殖器部位へ転移してしまった癌が含められる。ここに記載の組立体の尿濾過に着眼した使用は、膀胱腫瘍診断のための現行手続きの限界及び患者の診断及び長期監視に一般的に使用される膀胱鏡検査の患者にとっての苦痛とこの手法によって健康管理システムへ課される負担という両方の観点からの不都合への発明者らの洞察によって促された。
【0015】
また一方、癌以外の泌尿器障害と関連付けられる細胞及び他の生体物質を本発明の組立体を使用して捕捉及び貯蔵することもできる。
理解しておきたいこととして、本発明の組立体は、更に、細胞(例えば、限定するわけではないが、正常上皮細胞、癌細胞、細菌細胞、又はイースト菌細胞、など)及び他の生体物質(例えば、限定するわけではないが、タンパク質、又は核酸、など)を、例えば、限定するわけではないが、唾液、血清、血液、及び洗浄液として例えば膀胱洗浄液、の様な他の生体検体から採取するために使用することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
組立体は、濾過装置と貯蔵ユニットを備えるものとすることができる。方法は、流体を例えば取り外し式フィルタカートリッジの様な支持体内に収納されているフィルタを通して押し進めることによって生体物質を捕捉するという最初の段階を備えている。濾過後、フィルタ内容物を有する支持体を濾過装置から取り外し、捕捉された生体物質の貯蔵及び/又は分析をやり易くするための適切な溶液を収容している貯蔵ユニットの中へ設置することができる。
【0017】
従って、第1の態様では、本発明は、生体流体検体を濾過するための濾過装置と、貯蔵ユニットと、を備えている生体流体濾過組立体であって、濾過装置が、採取室と、廃棄物貯留部と、フィルタ支持体プラットフォームと、を有し、フィルタ支持体プラットフォームが、生体流体検体中に存在する生体物質を捕捉するのに適したフィルタを有する取り外し式フィルタカートリッジを収容している、生体流体濾過組立体において、採取室、廃棄物貯留部、及びフィルタ支持体プラットフォームは、生体流体の採取室から廃棄物貯留部の中へのフィルタカートリッジのフィルタを通っての通過を可能にするように接続可能であり、貯蔵ユニットは、取り外し式フィルタカートリッジと係合するように構成されている本体を有していて、係合させるとフィルタカートリッジのフィルタが貯蔵ユニットの本体内に封止されるようになっている、生体流体濾過組立体を提供することができる。
【0018】
フィルタカートリッジはフィルタ支持体プラットフォーム内に滑動可能に保持されていてもよい。つまり、フィルタ支持体プラットフォームはフィルタカートリッジを受け入れるのに適した大きさ及び形状の陥凹部を有していて、フィルタカートリッジを挿入するとフィルタが説明されている通り使用中に流体が採取室から廃棄物貯留部の中へフィルタを通って通過してゆくように位置決めされる、というようになっていてもよい。この滑動式係合は、使用時のフィルタカートリッジの偶発的な脱着を防止するために嵌め合い及び保持を改善し及び/又はスナップ嵌め型式の相互作用を提供するようにフィルタカートリッジ側と陥凹部の相補的な突起と陥凹によって提供されていてもよい。
【0019】
貯蔵ユニット本体は、フィルタカートリッジを滑動可能に受け入れるための陥凹部を備えていてもよい。貯蔵ユニット本体の陥凹部は、フィルタカートリッジを偶発的に脱着させないようにフィルタカートリッジと係合するように構成されているのが望ましい。これは、フィルタカートリッジを定位置に留めるために嵌め合い及び保持を改善し及び/又はスナップ嵌め型式の相互作用を提供するうえで十分に密接な嵌り合いを通じてであってもよいし又はフィルタカートリッジ側と陥凹部に相補的な突起と陥凹を提供することによってであってもよい。
【0020】
貯蔵ユニット本体は、フィルタカートリッジが定位置にあるときに、フィルタ及び/又はフィルタのフィルタ内容物及び/又はフィルタの周囲の液体、へのアクセスを可能にする開口部を有していてもよい。而して、貯蔵ユニットは、開口部を覆う取り外し式の蓋を更に備えていてもよい。理解しておきたいこととして、意図される使用及び蓋の性質に依存して、一部の実施形態では、蓋は、使用後にフィルタ内容物即ちフィルタ上に捕えられている生体物質にしかアクセスできないように配列されている場合もあれば、使用後にフィルタ内容物及び/又は周囲の何れかの液体へのアクセスを提供するように配列されている場合もある。
【0021】
一部の用途では、捕捉された生体物質を分析に先立って溶液に曝すのが望ましい場合もある。これは分析をやり易くし及び/又は貯蔵を改善することができる。適した溶液は、例えば、細胞溶解を誘導するのに適した緩衝液、固定液/保存液、培養液、等張性緩衝液、又は溶出のための適当な緩衝液、であってもよく、それぞれがここに記載されている。溶液室を提供すること及び溶液を含むことは随意の特徴であるものと理解しておきたい。
【0022】
従って、幾つかの実施形態では、貯蔵ユニットは、蓋が生体物質の貯蔵及び/又は分析をやり易くするように選択された溶液を収容する溶液室を有するように配列されており、蓋と貯蔵ユニット本体の係合が溶液を放出させるので溶液はフィルタと接触することになる。その様な配列を有する組立体について、生体物質が濾過されフィルタに捕捉された後、フィルタカートリッジは蓋がその場に無い状態で貯蔵ユニットの中へ挿入されることになるものと理解しておきたい。次いで蓋を嵌め、それにより溶液を放出させる。
【0023】
貯蔵ユニットは、代わりに、フィルタカートリッジと貯蔵ユニットの係合が溶液を放出させてフィルタと接触させるように配列されている溶液室を有するように構成されていてもよい。幾つかの好適な実施形態では、貯蔵ユニットは陥凹部内に保持されているピストンを有し、ピストンと陥凹部は陥凹部開口から遠位に溶液室を画定し、溶液室は生体物質の貯蔵、処理、及び/又は分析をやり易くするように選択された溶液を収容し、ピストンは、陥凹部へのフィルタカートリッジの挿入がピストンを陥凹部の更に奥へ動かし、その結果、室内に収容されている溶液がピストンの周りを押し進められてフィルタと接触し、ひいては存在する何らかのフィルタ内容物と接触することになるように構成されている。貯蔵ユニットは、溶液が室内に入っている状態で提供されていてもよいし、又は使用者によって貯蔵室内に含ませるように別々に提供されていてもよい。従って、溶液室へのアクセスは蓋の取り外しによって許容される。
【0024】
ここに記載されている組立体は生体流体を重力のみを使用して即ち重力式浸出を通じて濾過するために使用できることが理解されるであろうが、生体液体のフィルタ通過をやり易くする手段又はやり易くするための手段を提供するのが望ましい。これは、圧力差を作り出すことによって実現させることができ、例えば、生体流体をフィルタを通して押すように採取室内の液体に圧力を加えるための手段を提供することによって、又は生体流体をフィルタを通して引くように廃棄物貯留部内に真空を作り出すための手段を提供することによって、実現させることができる。
【0025】
濾過装置が流体をフィルタを通して廃棄物貯留部の中へ押し進めるように組み立てられる場合、装置は採取室内に収容されている流体への圧力印加を可能にさせる手段を有しているのが望ましい。採取室はそれ自体が圧縮可能になっていて、濾過装置が組み立てられ採取室が流体検体を収容したときに、採取室を圧縮することで流体へ圧力を加えそれにより流体をフィルタを通して廃棄物貯留部の中へ押し進めてゆくようになっていてもよい。例えば、採取室を円筒袋とし、ばねに当該円筒袋の周りをその円筒軸に沿って取り囲ませれば、それにより円筒袋のその円筒軸の方向への圧縮が可能になる。とはいえ、代わりの配列が使用されていてもよい。例えば、濾過装置が検体提供後に組み立てられる場合は、採取室には生体流体をフィルタを通して採取室から廃棄物貯留部の中へ押し進めるように構成されているピストンが設けられていてもよい。圧力を加えるために更にポンプシステムが使用されていてもよい。
【0026】
或る代わりの配列では、流体をフィルタを通して引く/吸うように真空を生成するための手段が提供されていてもよい。これは、廃棄物貯留部から空気を引き出しそれにより真空を作り出すように配列されているポンプの使用を通じてであってもよいし、又は廃棄物貯留部自体が真空の掛けられた室を提供されていてもよい。その場合、この室は、濾過中に流体をフィルタを通して引き出すために、例えば弁を解放することによって廃棄物貯留部の残部へ開かれるようになっていてもよい。
【0027】
生体流体をフィルタを通して押し進める/引き出すのに圧力差を使用しようとする場合、圧力/真空の印加中及び印加後に装置内の圧力を釣り合わせるように構成されている1つ又は複数の弁を含んでいるのが望ましいかもしれない。
【0028】
理解しておきたいこととして、本発明の組立体は、ここに記載されている多くの生体流体検体の濾過に適用でき、幾つかの好適な実施形態では、生体流体は尿又は膀胱洗浄液であり、最も望ましくは尿である。幾つかの他の実施形態では、流体は血液又は血清であってもよい。廃棄物貯留部は吸収性及び/又は脱臭性の材料を収容していてもよく、そうすれば尿検体の濾過には特に好都合であろう。
【0029】
フィルタは、所望されている生体物質及びここに記載されている生体物質を捕捉するように選択することができる。フィルタは、疾患、病態、又は障害の診断及び/又は予後と関連付けられる生体物質、例えば癌と関連付けられる生体物質、を捕捉するように選択されるのが望ましい。幾つかの好適な実施形態では、生体物質は、生体流体中に懸濁している細胞であり、より望ましくは尿中に懸濁している細胞である。
【0030】
生体物質は、例えば、疾患、病態、又は障害の診断及び/又は予後と関連付けられるマーカーの存在について検査されてもよい。生体物質は、特定の疾患、病態、又は障害を指示しているマーカーの存在、例えば泌尿器癌の診断及び/又は予後と関連付けられるマーカーの存在、について検査するのに適した細胞であってもよい。
【0031】
更なる態様では、本発明は、ここに記載されている組立体を使用して生体検体から生体物質を捕捉する方法であって、
(i)生体流体検体を採取室の中へ提供する段階、
(ii)採取室をフィルタ支持体プラットフォーム及び廃棄物貯留部へ接続する段階、
(iii)生体流体検体に採取室から廃棄物貯留部の中へフィルタを通って流れるように仕向けて流体中に存在する生体物質を捕捉する段階、及び、
(iv)フィルタカートリッジをフィルタ支持体プラットフォームから取り外し、フィルタカートリッジを貯蔵ユニットの中へ挿入する段階、
を備えている方法、を提供することができる。
【0032】
方法は、組立体が適切に配列されているという条件において例えば採取室を圧縮することによって、採取室内の生体流体検体に圧力を加えて生体流体検体の流れを採取室から廃棄物貯留部の中へフィルタを通して押し進める段階を更に備えていてもよい。代わりに、方法は、廃棄物貯留部内に真空を生成して生体流体検体をフィルタを通して吸う段階を備えていてもよい。
【0033】
フィルタカートリッジと貯蔵ユニットの組合せ体は、捕捉された生体物質の貯蔵及び/又は輸送に便利な封止ユニットを提供することができる。例えば、フィルタカートリッジと貯蔵ユニットの組合せ体は、検査前に貯蔵したなら、適切なケア供与者である例えば医学専門家へ渡されてもよいし、又は例えば国の郵便配達人又は国際的な郵便システムを使って輸送することもでき、何れの場合も簡便且つ衛生的に行える。
【0034】
分析者に受け取られた後、捕捉された生体物質はここに記載されている様にフィルタ及び/又は何れかの周囲の液体から回収され検査される。この検査はここに記載されている様に病態の診断及び/又は予後を支援することができる。従って、更なる態様では、本発明は、方法において、生体流体検体をここに記載されている組立体及び/又は方法を使用して濾過したら、
(i)フィルタ上に捕捉された生体物質及び/又は溶液が存在する場合には当該溶液中に捕捉された生体物質から、核酸、タンパク質、又は細胞を単離する段階、及び、
(ii)単離された物質を、特定の疾患、病態、又は障害と関連付けられることが知られているマーカーについて検査する段階、
を備えている方法を提供している。
【0035】
ここに記載されている組立体は、典型的には、患者自身又は医学専門家の様な適切なケア供与者である使用者にキット形態で提供されることになるものと理解しておきたい。従って、更なる態様では、本発明は、ここに記載されている何れか1つの実施形態としての採取室、フィルタ支持体プラットフォーム、廃棄物貯留部、及び貯蔵ユニットと、随意であるがここに記載されている方法についての説明書と、を備えているキットを提供している。
【0036】
状況によっては、組立体の個々の要素は別々に提供されていてもよいということ、及び本発明は更にここに記載のフィルタカートリッジ及びここに記載の貯蔵ユニットを組立体の残部とは別々に供給されるものとして提供することもできるということ、を理解しておきたい。
【0037】
本発明は、ここに記載されている態様及び好適な特徴の何れかの組合せを含むものであり、但しその様な組合せが明白に許されないか又は明示的に無効とされる場合を除く。
本発明の実施形態及び方法をこれより一例として添付図面を参照しながら説明してゆく。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に続く本発明の用途は一例として提供されており限定ではない。
組立体
本発明による組み立てられた生体流体濾過組立体の分解図が
図1に示されている。組み立てられた装置及びその使用は
図3に示され、また一方、
図2は、組み立てられた装置を提供するように連結される前の、採取室(左)と、フィルタ支持体プラットフォーム及び廃棄物貯留部から組み立てられている濾過ユニット(右)と、を示している。
【0040】
採取室1は、検体提供に便利なように天面開放型である。採取室は、長さ約100mm、直径95mmで、検体提供の簡便性及び尿検体分析時の最大DNAのための大凡500mLの体積を収容するのに適している不透水性材料の円筒袋3で形成されている。尿検体採取及び他の生体流体検体採取のどちらについても他の大きさ及び体積が適切である場合もあるものと理解しておきたい。例えば、一部の使用については、20mLから250mLの体積に適応する大きさが適切であるかもしれない。従って、幾つかの実施形態では、採取室は、400mL、300mL、250mL、100mL、50mL、又は20mlLまでを収納するのに適している。尿採取にはより大きい体積が適切な場合もある一方、例えば唾液の濾過にはより小さい体積が望ましいかもしれない。
【0041】
円筒袋は多少の剛性を採取室の円筒袋へ付与するばね5内に収容されている。円筒袋の封止端には蓋7があり、円筒袋の開放端には開放部分を実質的に塞ぐことなく円筒袋の開放端を包囲する環状ばね取付部分9がある。ばね5は一端が蓋7へ他端が環状取付部分9へ接続されているか又は当接している。蓋7と環状ばね取付部分9は剛性であり、プラスチック材料で作られているが、他の適した剛性材料、例えばステンレス鋼の様な金属、を使用することもできる。蓋7は円形無孔であり、円筒袋の直径より僅かに大きい直径である。蓋は、組み立てられたときに円筒袋の体積の中へ突き出るように形状を定められているが、平坦蓋又は有孔蓋を使用することもできる。蓋及び環状ばね取付部分によって保持されているばねの使用は、採取室のその円筒軸方向への圧縮を可能にする。同じ機能を果たす他の適した手段、例えば円筒袋を取り囲む一連のばね又は一連の伸縮式ロッド、を使用することもできる。これらの場合には、円筒形以外の他の形状の袋が使用されていてもよい。採取室は、環状ばね取付部分9をスナップ嵌め相互作用によって固定させることのできるロックリングアッタチメント11を有している。相補的なねじ部及び回転係合式ラグを含む他の固定手段が使用されていてもよい。
【0042】
採取室は、濾過装置完成品が組み上がるようにロックリングアッタチメント11を介して濾過ユニット13へ接続可能である。この接続は、ここに記載の装置の使用を濾過前の流体損失無しに可能にするには実質的に水密であることが必須であり、Oリング14を濾過ユニットの最上部を廻る環状溝に保持させて封止を改善している。濾過ユニット13はフィルタ支持体プラットフォーム15を有している。フィルタ支持体プラットフォーム15上の小さい突起は、環状取付部分9の相補的な窪みと係合するように配置されている。他の取付手段が代わりに提供されていてもよいものと理解しておきたい。
【0043】
フィルタ支持体プラットフォーム15は、膜フィルタ19付き取り外し式フィルタカートリッジ17を有していて、廃棄物貯留部21へ接続可能である。ここに記載されている他のフィルタ材料を使用することもできるものと理解しておきたい。廃棄物貯留部21は、少なくとも500mLの体積(即ち濾過前に採取室内に収容されている液体の全体積)に適応することのできるプラスチック材料製の剛性円筒収容器である。流体を受け入れるのに適している他の適した剛性材料をプラスチック材料に代えて使用することもできる。廃棄物貯留部21及びフィルタ支持体プラットフォーム15は、フィルタカートリッジ17と組み合わせて、濾過ユニット13を形成するように接続可能である。この接続は、ここに記載の装置の使用を濾過中の流体損失無しに可能にするには実質的に水密であることが必須である。この実施形態では、廃棄物貯留部21とフィルタ支持体プラットフォーム15は、廃棄物貯留部21の外側の突起とフィルタ支持体プラットフォーム15の内側の環状溝の間のスナップ嵌め接続によって接続可能である。幾つかの実施形態では、廃棄物貯留部21は湿分吸収材料及び/又は脱臭剤を収容している。適した湿分吸収材料には、紙、脱脂綿、又はスポンジの様な吸収性材料、又はシリカゲル、及び/又は当該技術で知られている他の吸水ポリマーが含められる。湿分吸収性材料を含むことで使用後の廃棄物貯留部の廃棄の容易さが改善される。適した脱臭剤には炭酸カリウムの様な炭酸類が含められる。
【0044】
図1に示されている分解図は、フィルタ支持体プラットフォーム15の構成部品を示している。広範には、フィルタ支持体プラットフォームは、その開放端にて採取室へ接続可能であり且つ廃棄物貯留部へも接続可能であり、装置が完全に組み立てられたときそれら2つを分離する。フィルタ支持体プラットフォームは採取室と貯留部の間の流体連通を許容するために開口部23を有しており、フィルタ支持体部分即ちこの事例ではフィルタカートリッジ17のフィルタ19がこの開口部を埋めているので、採取室から廃棄物貯留部へ渡ってゆく流体は何れもフィルタを通過することになる。フィルタ支持体プラットフォームは、フィルタカートリッジのフィルタが記載されている様に開口部を埋めるような具合にフィルタカートリッジ17を受け入れるのに適したスロット付き陥凹部25を有している。フィルタカートリッジは滑走運動式にスロット付き陥凹部に挿入したりスロット付き陥凹部から取り外したりできる。
【0045】
図1に示されている様に、フィルタ支持体プラットフォームは、天部分27と底部分29から組み立てられており、それらは天部分側の突起と底部分側の相補的な陥凹の間のスナップ嵌め接続によって一体に留め付けられている。他のスナップ嵌め相互作用及び相補的なねじ部を含め、他の接続手段を構想することもできる。
図1に示されている実施形態は、使い勝手を良くする2つのハンドル31及び32を有している。ハンドルは必須ではなく、他のハンドル配列、例えば、単一ハンドル、連続環状ハンドル、又は1つ又はそれ以上のD字形ハンドルを使用することもできるものと理解しておきたい。
【0046】
天部分27と底部分29は、一体に締結されると、フィルタカートリッジ17を説明されている様に受け入れるのに適したスロット25を画定する。Oリング33が使用中の漏れを防ぐために提供されている。フィルタ支持体プラットフォームは、更に、逆流膜35と圧力逃し弁37を備えている。圧力逃し弁は、フィルタが飽和状態になれば液体を廃棄物室の中へ通過させるように或る一定の圧力で作動するように構成されている。逆流膜35は、断続的圧力印加時にフィルタ内容物が乱流に因って乱されることを防ぐために空気を貯留部21から採取室1の中へ通過させるように適合されている。更に、29には空気がユニット全体から脱出できるようにする小穴(図示せず)がある。この実施形態では、逃し弁は10−12kgの圧力で開く傘型式の弁であるが、他の適した弁を使用することもできる。
【0047】
フィルタカートリッジ17は、スロットの幅に相補の幅の本体を有しており、カートリッジの装置からの取り外しの容易さを実現し易くするため(
図2に示されている様に)使用時に本体の一部分をスロット付き陥凹部から突き出させるのに十分な程度に長さがより長くなっている。フィルタカートリッジハウジングは、把持を改善し取り外しを支援する1つ又はそれ以上の窪み又は穿孔41を有していてもよい。フィルタ19は、フィルタカートリッジハウジングの開口部内の棚部上に収納されていて、有孔被せ式支持体43によってその場に維持されており、被せ式支持体43は当該有孔被せ式支持体側の突起とハウジングの相補的な陥凹の間のスナップ嵌め接続によってハウジングへ接続されている。他のスナップ嵌め相互作用及び相補的なねじ部を含め、他の接続手段を構想することもできる。Oリング45、47、及び48が封止を改善している。Oリング47は組み立てられたフィルタカートリッジ17のフィルタ19周りの封止を改善し、Oリング45及び48は、フィルタカートリッジ17の外部面上にあり、フィルタカートリッジ17が生体流体の濾過のためにフィルタ支持体プラットフォーム内に収納されたときの封止を改善する働きをするとともにフィルタカートリッジ17が本発明による貯蔵ユニット49の中へ挿入されたときの封止を改善する働きもする。
【0048】
図1は更に本発明によるその様な貯蔵ユニット49を示している。フィルタカートリッジ17は、貯蔵及び輸送の容易さを実現し易くするために使用後は貯蔵ユニット49の中へ挿入され、貯蔵中の検体を保存することができる。貯蔵ユニット49は、更に、分析のためのフィルタ内容物(及び周囲の液体)へのアクセスを容易にする手段を提供しており、カートリッジを貯蔵ユニットから取り外す必要が無い。広範には、
図1に示されている様に、貯蔵ユニットはフィルタカートリッジを受け入れるのに適した陥凹部53を有する基部51を備えている。この基部は、分析のためのフィルタ内容物へのアクセス及びフィルタカートリッジを挿入するときの処理を可能にするように配置されている開口部55を有している。開口部は、検体を保存し貯蔵及び輸送を可能にするために蓋57によって覆われている。
図1では、蓋は、相補的なねじ部によって基部へ接続しているが、適したスナップ嵌め相互作用及びヒンジ式の蓋を含め、他の接続手段を構想することもできる。蓋57は、蓋と基部51の係合時に放出される適切な液体を収容している室を備えている。例えば、蓋は、DNA Genotek(登録商標)によって開発されていてDNA溶解緩衝液を収容しているOrangene(登録商標)からのOG−250蓋であってもよい。基部51は鋭利な突起を有しており、蓋を基部の上へねじってゆくと当該突起が蓋の室のシールを破断させ、それにより溶液を放出させる。分析のために蓋を取り外すと、それによりフィルタ内容物へのアクセスが可能になるだけでなく、フィルタ内容物が貯蔵されている収容溶液へのアクセスも可能になる。フィルタカートリッジ17及び貯蔵ユニット49は、フィルタとフィルタ内容物と何れかの存在し得る周囲の液体の周りに水密シールを形成する。
【0049】
図4は本発明による或る代わりの貯蔵ユニット及びその組み立てを示している。貯蔵ユニット490は、フィルタカートリッジを受け入れるのに適した陥凹部530と、フィルタカートリッジが挿入されたときにフィルタ内容物へのアクセスを可能にする第1開口部550と、を有するハウジング510を備えている。蓋570は、ハウジング側の突起と蓋側の相補的な陥凹の間の滑動式協働によってハウジングと係合し、停止板への当接及び保持クリップによって定位置に保持される。貯蔵ユニットは、蓋のやり方と同様のやり方でハウジングと係合している底部571も有している。ピストン600が陥凹部内の第1開口部より向こうの点に保持されていて、陥凹部開口から遠位の陥凹部端に室602を画定している。ハウジングはこの室への第2開口部603を有している。室602は液体を受け入れるのに適しており、例えば、限定するわけではないが、細胞の溶解及び核酸及び/又はタンパク質の保存のための緩衝液、細胞を特性的形態の保持に係り(細胞学的診査のため)調製するための固定液/保存液、細胞増殖を持続させるための培養液又は生体物質の貯蔵に適した等張性緩衝液、又はフィルタからの生体物質溶出のための適切な緩衝液、を受け入れるのに適している。従って、幾つかの実施形態では、貯蔵ユニットはこの型式の適した流体が室内に収容された状態で提供されている。流体は貯蔵されるべき検体の性質及び必要とされる以降の分析に応じて選択されるものと理解しておきたい。
【0050】
ピストン600は陥凹部内に保持されているが、例えばフィルタカートリッジの挿入による圧力の印加は、ピストンを陥凹部の更に奥へ押し出し、室の大きさを縮めて、その中の流体を陥凹部の残部の中へ押し進め、フィルタ及びフィルタ内容物と接触させることができる。フィルタカートリッジ17及び貯蔵ユニット490は、フィルタとフィルタ内容物と何れかの存在し得る周囲の液体の周りに水密シールを形成する。理解されるように、当該水密シールを実現するためにフィルタカートリッジ及び貯蔵ユニットの寸法及び適したOリングの提供と場所を変えることは当業者に自明であろう。
【0051】
組み立て及び使用
本発明の組立体はキットとして使用者へ直接提供されてもよく、すると使用者は、
検体を採取室の中へ提供し、
ここに記載されている装置を組み立て、
ここに記載されている装置を使用して検体を濾過し、
カートリッジを取り外し、
適切なケア供与者への又は適切な医療機関センター又は検査機関への輸送のためにフィルタ部分をここに記載されている貯蔵ユニットの中へ挿入すればよい。
【0052】
本発明による組立体は、在宅で使用することができ、検体が貯蔵された状態で、随意的には捕捉された物質の貯蔵及び/又は分析をやり易くするように選択された溶液中に貯蔵された状態で、関連のケア供与者又は適切な医療センター又は検査機関へ輸送できるということが利点である。本発明による貯蔵ユニットを使用すれば、本発明の方法によってフィルタ上に捕捉された検体を例えば通常の国の郵便サービスを使用して衛生的且つ効率的に送れるようになる。例えば膀胱癌を発症する危険性があると考えられる患者又は現時点で膀胱癌の寛解にある患者は、往々にして、定期的な膀胱鏡精密検査を受けなければならず、厄介なことに頻繁な通院を余儀なくされる。膀胱鏡精密検査は、多くの場合、辛く、合併症の危険性を孕む場合もある。それらは健康管理提供者にとって高価でもある。検体を在宅で取得及び処理するのに適した装置又はキットであって、患者の参加を要することなく分析できるようになっている装置又はキットの提供は、患者福祉に対する有意義な改善を意味する。
【0053】
従って、本発明の幾つかの実施形態では、ここに記載されている採取室と、ここに記載されている濾過ユニットと、随意であるが組立体をここに記載されている方法で使用するための説明書と、を備えているキットが提供されている。幾つかの実施形態では、濾過ユニットは完全に組み立てられて提供されている。そうして検体を例えば通常の排尿によって採取室の中へ提供する。次いで濾過ユニットを採取室へ締結する。使用者は次に組み立てられた装置を反転させて
図3に示されている様に採取室が今度は逆に装置の最上になるようにし、次いで手による圧力を提供して液体をフィルタを通して廃棄物貯留部の中へ押し進める。1つ又はそれ以上の弁及び/又は逆流膜の提供は装置内の圧力を釣り合わせる。流体がフィルタを通って流れている間に生体物質である例えば細胞がフィルタ上へ捕捉される。捕捉される物質の量及び型式は、異なる型式(例えば限定するわけではないが膜フィルタ又はビードなど)のフィルタ又は異なる特質(例えば限定するわけではないが可変孔径又は被覆など)を有するフィルタの使用を通じて変えることができる。濾過後、フィルタカートリッジをフィルタ内容物と一体に取り出せば、装置の残部は廃棄してもよい。フィルタカートリッジがスロット又は陥凹部内に保持されている実施形態では、使用者は単純にフィルタカートリッジを装置の残部から引き出せばよい。本発明のキットは更にここに記載されている貯蔵ユニットを備えていてもよい。その場合、使用者は、貯蔵及び輸送に便利なようにフィルタカートリッジを例えば
図4に示されている貯蔵ユニットの中へ挿入する。幾つかの実施形態では、貯蔵ユニットは蓋と基部(
図1に57及び51でそれぞれ表示)として提供されている。これらの実施形態ではフィルタカートリッジを最初に基部51の中へ挿入する。次いで蓋57を足し、蓋を基部と係合させると、蓋内の溶液収容室へのシールが破断され、それにより溶液が放出されてフィルタ内容物と接触する。
【0054】
幾つかの実施形態では、貯蔵ユニットは単一ユニット(
図4に490で表示)として提供されている。この貯蔵ユニットは、陥凹部内の第1開口部より向こうの点に保持されていて陥凹部開口から遠位の陥凹部端に室を画定しているピストンを備えている。貯蔵ユニットの基部はこの室への第2開口部を有している。室は溶液を収容しており、例えば、限定するわけではないが、細胞の溶解及び核酸の保存のための緩衝液、細胞を特性的形態の保持に係り(細胞学的診査のため)調製するための固定液/保存液、細胞増殖を持続させるための培養液、を収容している。フィルタカートリッジを貯蔵ユニットの陥凹部の中へ挿入すると、ピストンが陥凹部の更に奥へ押し出され、室の大きさを縮めて、その中の流体をピストン周りに押し進め、フィルタ内容物と接触させ、それがそのまま貯蔵及び輸送の間保持されることになる。
【0055】
組み合わされたフィルタカートリッジ及び貯蔵ユニットは、その後、検査/分析機関又は適切な医療センターへ簡便且つ衛生的に輸送されることになる。フィルタ内容物へのアクセスは、蓋(
図1には57又は
図4には570でそれぞれ表示)を取り外して貯蔵ユニットハウジングの関連開口部を露わにすることによってやり易くなる。フィルタ内容物である例えばDNAが、当技術で知られている方法及びここに記載されている方法を使用して分析され、特定の既知のマーカーの存在又は不存在を使用して診断が提供されることになる。
【0056】
代わりに、組立体は、廃棄物貯留部とフィルタ支持体基部をまだ一体に締結させずに備えているキットとして提供されていてもよい。これらの実施形態では、使用者は最初に濾過ユニットを組み立てなくてはならない。理解しておきたいこととして、フィルタカートリッジ及びここに記載されている室内に収納されている溶液を随意で備える貯蔵ユニットを組立体の残部とは別個に提供し、これらが意図される用途に関して特定的に選択されるようにすることもできる。
【0057】
適しているフィルタ
本発明は、特定の適したフィルタを備える装置が、関連の病態及び疾患の診断及び監視に使用される効率的な分析のための生体流体からの物質の捕捉に利用できる、という発明者らの見識に基づいている。
【0058】
幾つかの実施形態では、本発明の組立体及び方法は、生体流体から細胞を捕捉するのに使用することができる。これまでの研究は、細胞を流体から機械的濾過を使用して捕捉及び分離することが実施可能であることを示している(ワイルディング他、1998年(Wilding et al., 1998)、モハメッド他、2004年(Mohamed et al., 2004)、ジェン他、2007年(Zheng et al., 1007)、リン他、2010年(Lin et al., 2010))。しかしながら、これらの方法はどれも本発明の組立体及び方法と関連付けられる利便性及び効率性を提供しておらず、即ち、安価で簡単な検体採取及び検体処理のための組立体であって、患者又は別のケア供与者によって使用され、貯蔵するのに及び検査機関又は適切な医療センターへ郵便を通じて送るのに適した捕捉細胞の検体を提供する組立体を提供できていない。
【0059】
関心対象の物質を捕捉するうえで必須の特性を有する何れのフィルタ材料が、本発明の組立体及び方法に使用されてもよい。理解しておきたいこととして、本発明の組立体及び方法は、各種疾患及び病態の検出、診断、及び監視のために異なる型式の生体物質を様々な生体流体から捕捉するのに使用することができる。従って、フィルタは特定の望ましい特性を有していることが当技術で知られているフィルタ媒体から選択することができ、場合によっては複数のフィルタを直列に提供するのが望ましい場合もある、ということを理解しておきたい。複数のフィルタが使用される場合、各フィルタは組立体内の何れかの他のフィルタと同一であってもよいし又は異なる特性を有していてもよい。
【0060】
例えば、異なる大きさ及び異なる型式の細胞の捕捉は、特定の大きさ又は形の細胞を除外するように構成されているフィルタの使用又は複数フィルタの使用によって実現させることができ、フィルタの孔径及び/又は孔配列の選択によって実現させるのが可能性として最も高い。幾つかの実施形態では、2つ又はそれ以上のフィルタを直列に提供し、第1のフィルタに大きい(例えばヒト)細胞を捕捉させ、より小さい孔の第2のフィルタにより小さい細胞(例えば細菌細胞)を捕捉させるようにするのが望ましい場合もある。大きさによる除外は、孔又は他の開口の特定の大きさを使用することによって、又は特定の孔形を使用することによって、実現させることができる。
【0061】
更に、特定の物質、例えば、タンパク質、DNA、RNA、及び代謝物質の様な高分子、を捕捉するように特化的に設計されている材料から作られているか又はその様に特化的に設計されている被覆を有しているフィルタが使用されてもよい。
【0062】
本発明の幾つかの実施形態での使用に適しているとされるフィルタ特性の下記の例は、例示として提供されているのであって、本発明を何れかの特定のフィルタ型式に限定しようとするものではない。これら及び他の適したフィルタは当技術で既知であり商業的に入手可能である場合もある。
【0063】
細菌細胞の捕捉については、約0.5μmから4μmの孔径が好適であろう。ウイルス粒子、ウイルス、又はバクテリオファージの捕捉については、約20nmから300nmの孔径、より望ましくは約20nmから約50nmの孔径、を使用することができる。血小板無しの血液成分の捕捉については、約4μmから10μmの孔径が好適であろう。赤血球細胞無しの血液成分の捕捉については、約7μmから12μmの孔径が好適であろう。腫瘍細胞の捕捉については、約8μmから20μmの孔径が好適であり、約8μmから12μmが特に好適、約8μmが最も好適である。高分子の捕捉については、関心対象の高分子を捕捉するように選択されている特異的分子量カットオフ限界(例えば限定するわけではないが50kDa)を有する高分子超濾過膜フィルタを使用することができるであろう。代わりに、関心対象のタンパク質に特異的な抗体又は関心対象のシーケンスと相補であるシーケンスを有する核酸の様な捕捉剤をフィルタ媒体(例えば、限定するわけではないが、ナイロン、ポリビニリデンジフルオリド、又はニトロセルロースで作られているフィルタの様な膜膜フィルタ、又はセファロース又は磁気ビードの様なクロマトグラフ媒体)へ接着させて、関心対象の高分子を濾過中に捕捉させるようにしてもよい。フィルタは、ポリカーボネート、ナイロン、又はパリレンの様な適したポリマー材料又はシリコンの様な適した非ポリマー材料で適宜に作ることができる。
【0064】
一部の用途では、一例として、例えば尿から細胞を捕捉する場合には、膜フィルタが好適であろう。膜フィルタは、ポリカーボネート膜であってもよく、好適にはポリカーボネート親水性膜、例えばトラックエッチングポリカーボネート親水性膜である。フィルタは、約5−10μmの孔径を有していてもよく、約8μmが望ましい。好適な膜フィルタには、商業的に入手可能なポリカーボネートフィルタ、例えば、Whatman Nucleporeトラックエッチングポリカーボネート親水性フィルタ(直径25mm、孔径8μm)、の様な微細膜フィルタが含められる。
【0065】
適している溶液
幾つかの実施形態では、貯蔵ユニットは生体物質の貯蔵及び/又は分析をやり易くするために選択された溶液を収容している。溶液は、例えば、細胞溶解を誘導して細胞から遊離される核酸又はタンパク質の分析を可能にするのに適した緩衝液、細胞を特性的形態の保持に係り調製するための固定液/保存液、細胞増殖を持続させるための培養液、生体物質の貯蔵に適した等張性緩衝液である例えばリン酸緩衝生理食塩水、又はフィルタからの生体物質溶出のための適切な緩衝液、であってもよい。理解しておきたいこととして、溶液は捕捉されるべき生体物質及び遂行されるべき分析に対応するように選択されるのが望ましいであろう。
【0066】
幾つかの実施形態では、本発明の組立体は、尿からの剥離腫瘍細胞をそれらのDNAの異常を分析する目的で採取するために使用することもできよう。例えば、これは、8μm孔径のポリカーボネート膜フィルタを使用して腫瘍細胞を捕捉し、次いでフィルタカートリッジを貯蔵ユニットの中へ挿入し、随意であるが細胞溶解及び核酸保存溶液、例えばQiagen又はDNA Genotekから商業的に入手可能なものなど[例えば、国際公開第2003104251A9号に記載]をフィルタ内容物上へ放出することによってもよい。
【0067】
目的が腫瘍細胞内の特定のタンパク質のレベルを分析することであるなら、フィルタ内容物上へ放出される溶液は、例えば、RIPA緩衝液(Milliporeから商業的に入手可能)の様な細胞溶解及びタンパク質保存溶液又は細胞抽出緩衝液(Invitrogenから商業的に入手可能)とすることができる。
【0068】
目的が細胞を細胞診によって分析することであるなら、フィルタ内容物上へ放出される溶液は、一例として、保存緩衝液であって例えばHologicから商業的に入手可能なもの(PreservCyt溶液、メタノール含有)、又は細胞増殖培養液であって例えば10%FBS、1%Lグルタミン、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを補充されたDMEM、とすることができる。
【0069】
幾つかの実施形態及び方法では、本発明の組立体は、特定の無細胞タンパク質を尿から採取するために、例えば、関心対象のタンパク質へ結合する抗体を付着させたタンパク質A/G被覆セファロースビードで構成されているフィルタを使用し、次いでフィルタカートリッジを貯蔵ユニットの中へ設置し、随意であるがリン酸緩衝生理食塩水の様な等張性緩衝液をフィルタ内容物上へ放出させることによって使用することができる。
【0070】
医学的検出、診断、及び監視での本発明の使用
ここに記載されている、生体流体からの生体物質の採取及びそれに続く当該生体物質の貯蔵及び随意的な処理のための組立体及び方法は、疾患及び病態の検出、診断、及び監視に特に関連がある。
【0071】
好適な実施形態は泌尿生殖器癌特に膀胱癌の検出のための尿検体からの細胞採取に向けられているが、適切なフィルタと装置の大きさと貯蔵ユニットの室内に収容されている流体が存在する場合には当該流体の選択を通じて、ここに記載されている組立体及び方法は各種疾患及び病態の検出、診断、及び監視に実用性を見いだし得ることが理解されるであろう。例えば、尿沈渣からの腫瘍細胞中のGSTP1、VHL、APC RASSF1A、Timp−3の様な遺伝子の高メチル化の検出は、前立腺癌及び腎盂癌に見つけられる(ケアンズ他、ネイチャー・レビュー・キャンサー、2007年、7:531−543(Cairns et al Nature Reviews Cancer 2007; 7:531-543))。更に、ミトコンドリアDNAに変化を検出することも、癌の早期検出や疾患進展及び療法への応答の監視に有用であり、体液中に存在する剥離腫瘍細胞はミトコンドリアDNAの1つの供給源となるはずである(ガブリエル ダクボ、第11章、「癌検出及び監視のための剥離細胞のミトコンドリアDNA測定:ミトコンドリア遺伝学におけるコピー数優越性と癌」、2010年、259−274頁、ISBN:978−3−642−11415−1(印刷物)、978−3−642−11416−8(オンライン)(Gabriel Dakubo Chapter 11 Mitochondrial DNA measurement in Exfoliated Cells for Cancer Detection and Monitoring: The copy Number Advantage in Mitochondrial Genetics and Cancer 2010 pp259-274 ISBN: 978-3-642-11415-1 (Print) 978-3-642-11416-8(Online))。尿沈渣中のMCM5のレベル上昇の検出は膀胱癌を予測するのに使用することができる(ストーバー他、J Natl Cancer Inst、2002年、94:1071−9(Stober et al J Natl Cancer Inst 2002; 94:1071-9))。更に、腎移植での急性拒絶反応の診断のために尿沈渣から単離されたRNAが分析されるようになってきており、腎生検の代用としての有望性をもたらしている(スザンシラン他、N.Engl.J.Med.2013年、369:20−31(Suthanthiran et al N. Engl. J. Med. 2013; 369:20-31))。
【0072】
本発明の組立体及び方法は、尿又は他の流体中の自由高分子(例えば、タンパク質、DNA、RNA、又は代謝物質)を捕捉するのに使用することもできる。例えば、卵巣癌患者は、自身の尿中に、グリコシル化好酸球由来神経毒、ヒト絨毛性ゴナドトロピンのCOOH末端オステオポンチンフラグメント及びβサブユニットコアフラグメント、SMRP、及びBcl−2の各レベルに異常を有することが示されてきている(ダス、バスト、バイオマーク・メッド、2008年、2(3):291−303(Das and Bast Biomark Med. 2008; 2(3):291-303))。尿中のS100A6タンパク質及びS100A9タンパク質の検出は上部消化管癌の検出に実用性があり(フシ他、Proteomics Clin Appl.2011年、5(5−6):289−99(Husi et al Proteomics Clin Appl. 2011; 5(5-6):289-99))、また一方、尿中のSAA4タンパク質及びProEGFタンパク質の検出は膀胱癌の検出に有用性がある(チェン他、ジャーナル・オブ・プロテオミクス、2013年、85:28−43(Chen et al Journal of Proteomics 2013, 85: 28-43))。
【0073】
ここに記載されている組立体及び方法は、更に、肺癌及び乳癌の様な癌を含む特定の疾患及び障害と関連付けられるゲノム異常の検出を介した分析を含む捕捉物質分析に向けての、唾液、痰、及び血液の様な他の生体流体、より侵襲性の方法を使用して取得される例えば胸水や洗浄液(一例として胆管、気管支肺胞)の様な体液、及び血清の採取及び濾過のために使用することができる(ベリンスキー他、Proc. Natl. Acad. Sci. 米国、95:11891−11896、1998年(Belinsky et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 11891-11896, 1998)、アーレント他、J. Natl.Cancer Inst.、91:332−339、1999年(Ahrendt et al J. Natl. Cancer Inst., 91: 332-339, 1999)、エブロン他、ランセット、357:1335−1336、2001年(Evron et al Lancet,357:1335-1336, 2001))。
【0074】
血液の濾過及び濃度は、循環腫瘍細胞(CTCs)の単離及び分析にも使用することができる。CTCsの単離及び特性化は、それらが血中に存在する総細胞の極僅かしか構成していないことから、技術的な難題である。また一方で、CTCsは、腫瘍塊内の細胞の分子的特徴を反映しているので、患者の進展/応答を比較的非侵襲性のやり方で診断又は観察するための有望な方途をもたらす。CTCsは、乳癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、及び大腸癌の患者に同定されるといった様に癌に同定されており、CTCsは予測的及び予後的な情報を提供することが示されている。CTCsは、更に、膵臓の患者に同定されるが、CTCsを使用して臨床治療を誘導する中枢的研究は何も着手されていない(セン他、Biochimica et Biophysica Acta 2012年、1826:350−356(Cen et al Biochimica et Biophysica Acta 2012; 1826:350-356))。前立腺癌、大腸癌、及び乳癌の患者の血液からの循環腫瘍細胞の捕捉は、正常細胞に比較して腫瘍細胞の大きさが増加していることを利用して濾過方法を使用すれば実施可能であることが示されている。適切なフィルタ選択を通じて、ここに記載されている組立体及び方法は循環無細胞DNA(cf−DNA)の捕捉及び分析にも適用することができる。
【0075】
従って、ここに記載されている方法は、特定の疾患又は病態と関連付けられることが知られているマーカーについて検査する段階を伴っていてもよい。当該マーカーは、ここに記載されている及び当技術で文書化されている遺伝子マーカー、ゲノム異常、タンパク質(例えば、抗体)の存在又はレベル上昇/レベル下降、細菌又はイースト菌の存在又はレベル上昇/レベル下降、であってもよい。
【0076】
ここに記載されている幾つかの方法では、マーカーは癌と関連付けられることが知られているマーカーであってもよい。癌は泌尿器癌又は婦人科癌である場合もあり、例えば、膀胱癌、前立腺癌、腎盂癌、尿道癌、尿管癌、尿路上皮癌、尿膜管癌、子宮内膜癌、又は卵巣癌である。癌は他の器官と関連付けられる癌である場合もあり、例えば、肝臓癌、メラノーマ、直腸結腸癌、頭頚部癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、又は上部消化管癌である。癌は転移性癌の場合もある。これら及び他の癌と関連付けられるマーカーは当技術では既知である。幾つかの好適な実施形態では、マーカーは泌尿生殖器癌と関連付けられており、望ましくは膀胱癌、前立腺癌、又は腎盂癌と関連付けられている。幾つかの好適な実施形態では、マーカーは膀胱癌と関連付けられており、より望ましくは筋層非浸潤性膀胱癌と関連付けられている。
【0077】
幾つかの実施形態では、マーカーは癌以外の病態と関連付けられている。例えば、マーカーは腎移植時の急性拒絶反応と関連付けられていてもよく、そうすると侵襲性腎生検の必要性の除去が見込めるという利点があるであろうし、又はマーカーは細菌感染及び/又はイースト菌感染と関連付けられていてもよく、例えば膀胱炎や腎盂炎の様な尿管感染と関連付けられていてもよい。
【0078】
更に理解しておきたいこととして、本発明の幾つかの方法では、マーカーは、それ自体は疾患又は病態と関連性が無く、代わりに個体又は特定の家系と関連付けられる遺伝子的マーカーであって、例えば法医学検査及び父子鑑定検査での使用に供されるマーカーであってもよい。
【0079】
検体の分析
理解しておきたいこととして、フィルタ内容物を、及びフィルタ内容物を有するフィルタが貯蔵されている溶液が存在する場合には当該溶液を、分析するのに使用される方法は、生体物質の性質及び分析の目的に依存することになろう。物質及び/又は溶液を処理するための方法及び関心対象のマーカーを検出するための方法はここに記載されており、当技術では既知である。
【0080】
ここに記載されている組立体及び方法は、UCyt+(登録商標)キット及びUrovysion(登録商標)キットと関連して使用されてもよい。これらのシステムに関わる問題は、尿の輸送に加えこれらの検体中の細胞数が低いこと及び腫瘍細胞画分が低いことである。ここに記載されている組立体及び方法によって提供される適正保存、細胞単離、及び腫瘍細胞画分増加は使用を改善することができる。フォローアップ法としてFISH分析(UroVysion)を細胞診及び膀胱鏡検査法に比較する最近の研究で、ガルヴァンら(Galvan et al)(Cancer Cytopathol 2011年、119:395−403(Cancer Cytopathol 2011; 119:395-403))は、検体の10%前後は検体中の尿路上皮細胞が少なすぎること又は他の技術的理由が原因で分析しようにもできないことを指摘した。トラックエッチングの商業的フィルタを用いた濾過がこれまでにFISH分析と関連して使用されており、当該研究での検出の感度を従来の調製方法を用いて行われた他の研究に比べ改善している(マイアーズ他、Arch Pathol Lab Med 2007年、131:1574−1577(Meiers et al, Arch Pathol Lab Med 2007; 131:1574-1577))。マイアーズらは、8μm孔径のフィルタを使用し、それが上皮細胞採取に優れた収量を有していることを見いだした。著者は感度増加が一部には濾過によってもたらされる単層細胞調製のおかげであることを示唆している。しかしながら、本発明者らは、これが少なくとも一部には検体中の腫瘍細胞画分増加の効果に起因するものと確信している。マイアーズらは従来の方法による85%に比較して濾過方法に係る95%という適性比に注目しており、それはFISH分析についての堅牢性も濾過によって改善されるということであり、従ってここに提供されている組立体及び方法の使用によって改善され得る、ということを示している。
【0081】
本発明の利点の詳細
本発明の主たる用途は膀胱癌の診断及び調査監視である。本発明は、尿から膀胱腫瘍細胞を捕捉しこれらの細胞からのDNAを後日の分析のために貯蔵/保存するための単純な手段を提供するべく開発された。重要な利点は、
1)組立体の費用が低い、
2)組立体は使用するのが簡単なため在宅使用に適する、
3)濾過後の生体物質は、分析に先立って、検体を保存及び/又は処理するための適した溶液を収容する貯蔵ユニットの使用を通じて即座に処理される、
4)腫瘍細胞画分を大きさに基づく濾過によって増加させ、検出の感度を高める、
5)フィルタ内容物(例えば、捕捉された細胞)を通常郵便によって適切な医療センター又は検査機関へ発送することができるので、健康管理システムと連絡を取る必要性が減る、
6)検体採取を頻繁に繰り返しても問題無い、及び、
7)膀胱鏡検査と比べて、膀胱癌の診断及び調査監視のための本装置の使用は患者の生活の質を改善し健康管理出費を劇的に減少させる、
を含む。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は、当業者に完全な開示と本発明をどの様に実践するかの説明を提供するために示されており、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
微細膜フィルタでの細胞捕捉
以下は分析のために尿から細胞を捕捉するための膜フィルタの実用性を実例的に示している。
【0083】
検体の採取
膀胱鏡検査及び経尿道的切除(TURBT)のためにデンマークのHerlev病院に入院した膀胱がん患者と既知の泌尿器悪性腫瘍の無い健康なボランティアから排泄早朝尿検体を採取した。検体をデンマーク癌リサーチセンターへ送り、そこで採取後4−6時間内に処理した。
【0084】
尿検体の処理
全患者及び全対照について、各尿検体からの50mlを、2000xg、10分間の遠心分離で沈殿させ、ペレットをPBS中に洗い、次いで更に10分間の遠心分離にかけた。上澄み液を廃棄し、ペレットを大凡200μlのPBS中に再懸濁させた。並行して、同じ検体からの尿を、使い捨てシリンジの中へ引き入れ、正圧力によってフィルタホルダに装着された膜フィルタを通過させた。Whatman Nucleporeトラックエッチングポリカーボネート親水性フィルタ(直径25mm、孔径8μm)及び対応するフィルタホルダを使用した。検体を最大125mlとして飽和するまでフィルタに通した。フィルタはフィルタホルダから取り出す前にPBSで濯いだ。尿沈渣とフィルタはどちらも更なる処理まで−80℃で貯蔵した。
【0085】
貯蔵ユニットの機能性を試験するために、フィルタカートリッジを貯蔵カセットへ移し、次いでそれにOragene DNA自己採取キット(カナダ、オンタリオ州オタワのDNA Genotek、ディスクフォーマットOG−250)を装着した。
【0086】
DNA単離及び亜硫酸水素塩変換
DNAを、尿沈渣及びフィルタから、QiaAmp DNAミニキット(ドイツ、ヒルデン、Qiagen GmbH)によって単離した。フィルタ検体及び尿沈渣を、ATL緩衝液及びプロテイナーゼKを用いて56℃で少なくとも1時間(フィルタ)又は一晩(沈渣)培養した。その後の処理は製造者の説明書に従って行った。フィルタ及び沈渣からのDNAを50μlと100μlの緩衝液AE中にそれぞれ溶出させ、−80℃で貯蔵した。DNA濃度をNanoDrop1000分光計を使用して測定した。患者16人と健康対照9人からの検体は分析にとって十分なDNAを含有していなかったので廃棄した。
【0087】
亜硫酸水素塩変換は、EZ DNA Methylation−Gold Kit(Zymo Research)を使用し、製造者のプロトコルに従って行った。亜硫酸水素塩処理したDNAを20μlのM溶出緩衝液中に溶出させ−80℃で貯蔵した。対を成す検体(沈渣及びフィルタ検体)について、最大500ngとして同量のDNAを使用した。DNAの濃度が低すぎてNanoDrop分光計を使用して正確に確定できない場合は、最大検体体積(20μl)を亜硫酸水素塩変換のために使用した。BCL2、CCNA1、EOMES、HOXA9、POU4F2、SALL3、及びVIM2のプロモーターCpGアイランドの半定量分析を、TaqManに基づくリアルタイムPCR(メチライト)検定を使用し、先に説明済みのプライマー、プローブ、及び条件[12]を用いて遂行した。反応を、LightCycler480プラットフォーム上で、LightCycler480プローブマスターキット(ドイツ、マンハイム、Roche)及び1反応当たり1μlの亜硫酸水素塩処理済みDNAを使用して遂行した。試験管内メチル化DNA(IVM;CpGenome(商標)汎用メチル化DNA、マサチューセッツ州ビレルカ、Chemicon/Millipore)と全ゲノム増幅DNAをそれぞれメチル化についての陽性対照及び陰性対照として供した。メチル化レベルは、パーセントメチル化基準(PMR;参照[ワイゼンバーガー DJ、カンパン M、ロング TI、キム M、ウッズ C他(2005年)Nucleic acid Res 33:6823−6936(Weisenberger DJ, Campan M, Long TI, Kim M, Woods C et al. (2005). Nucleic Acids Res 33: 6823-6836)])として、ALUC4値に対するマーカー特異的反応値を完全メチル化対照(IVM)についての同値に対比して正規化することによって計算した。0.25ng/μl非亜硫酸水素塩処理DNA当量より下の濃度を有する検体を除外した。HOXA9、POU4F2、SALL3、及びVIM2についてのカットオフPMR値は、それぞれ、3、2、0.5、及び2とした。BCL2、CCNA1、及びEOMESは、健康対照からの尿フィルタ検体及び沈渣検体から単離されたDNAではバックグラウンドメチル化を何も示さなかった。
【0088】
リアルタイム定量的メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(メチライト(MethyLight))
メチル化分析を、メチライト、即ち、定量的な蛍光に基づくリアルタイムPCR検定(イーズ他、2000年、Nucleic Acid Res.28、E32(Eads et al., 2000, Nucleic Acids Res. 28, E32))を使用して遂行した。プライマー及びプローブを、7つの遺伝子プロモーターCpGアイランドについて、及び投入DNAの量について対照するために使用されるALUC4(ワイゼンバーガー他、2005年、Nucleic acid Res 33、6823−6936(Weisenberger et al., 2005. Nucleic Acids Res 33, 6823-6836)について、設計した。亜硫酸水素塩変換された試験管内メチル化DNA(IVM;CpGenome(商標)汎用メチル化DNA、Chemicon)を分析して、標的遺伝子とALUC4の間の何らかの増幅バイアスを正規化した。反応を、RocheのLightCycler(登録商標)480リアルタイムPCRシステム上で、Lightcycler(登録商標)480プローブマスターキット(Roche)を使用して遂行した。
【0089】
細胞培養及びモデルシステム
ヒト尿管移行上皮癌細胞株639Vを、DSMZ(ドイツ、ブラウンシュヴァイク)から購入した。細胞を10%ウシ胎仔血清を補充されたDMEM培養液に入れて5%CO
2を有する加湿培養器の中で37℃に維持した。健康なドナーからのリンパ球を末梢血から、先に説明したプロトコル[ターナー B、レーデル C、ディークマン D、ヘウアー M、クルーズ M他、(1999年)J Immunol Methods、223;1−15(Thurner B, Roder C, Dieckmann D, Heuer M, Kruse M et al. (1999) J Immunol Methods 223: 1-15)]に従って調製し、使用まで−80℃で貯蔵した。懸濁液中の細胞を、Countess自動細胞カウンタ(米国カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen)を使用して計数しそれらの直径を測定した。リンパ球と639V細胞を異なる比で100mlのPBS中に混合し濾過装置を使用して処理した。
【0090】
突然変異の分析
FGFR3突然変異(R248C、S249C、G370C、及びY373C)及び対応する野生型シーケンスの検出及び定量化を、液滴デジタルPCR(ddPCR)によって、QX200システム(カリフォルニア州ハーキュリーズのBio−Rad Laboratories)及び加水分解のプローブに基づく検定(PrimePCR ddPCR突然変異検出検定;Bio−Rad)を使用して遂行した。PCR混合物は、22μLの最終体積中に、プローブ(無dUTPs)のための11μlのddPCR液滴スーパーミックス、1.1μlの突然変異プライマー/プローブミックス(FAM)、1.1μlの野生型プライマー/プローブミックス(HEX)、及び2μlのDNA、を含有した。この混合物20マイクロリットルと液滴生成油70μlを液滴生成カートリッジの異なる溜めへ移した。液滴生成器を使用しての液滴形成の後、検体を96溜めPCRプレートへ移し、94℃で30秒間、55℃で60秒間、40サイクルに亘って増幅に曝した。液滴(1反応当たり平均〜16000)を液滴読み出し器上で分析し、Quantasoftソフトウェア(バージョン1.4.0.99)をDNA濃度の分析に使用した。カットオフ設定は突然変異陽性対照DNA検体及び突然変異陰性対照DNA検体を使用して確定した。
【0091】
発明者らは、先ず、培養された細胞を使用し、1)細胞を市販の微細膜フィルタ上に捕捉することが可能かどうか、及び2)低含量腫瘍細胞を富化できるかどうか、を試験した。PBS中に希釈された純粋培養ヒトリンパ球に0.5%膀胱癌細胞(ヒト細胞株T24)をスパイクした。細胞混合物の体積の半分を遠心分離によって沈殿させ、残り半分をフィルタに通した。更に、フィルタからの通過画分も回収し遠心分離によって沈殿させた。DNAを、未濾過検体、フィルタ検体、及び通過画分検体から単離し、細胞株T24中に存在することが既に確立されているHRAS G12V突然変異について分析した。PCRを変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)と組み合わせて使用し、突然変異及び野生型HRASを解析した。
図5に示されている様に、濾過検体は、HRAS G12V突然変異について明らかに陽性であるのに対し、未濾過検体及び通過画分検体は陰性であった(DGGEは、野生型バックグラウンドでの2−3%前後の突然変異対立遺伝子検出レベルを有している)。これらの結果は、腫瘍細胞がフィルタ上に留められていることを示していることはもとより、濾過検体では未濾過検体に比べ腫瘍細胞画分が増加していることも指し示している。
【0092】
それら同じDNA検体を、更に、T24細胞では完全にメチル化され正常リンパ球ではメチル化されないBCL2のプロモーター領域でのDNAメチル化レベルについて分析した。
図6に示されている様に、未濾過検体と通過画分検体は、正常リンパ球でのレベルと同様の3−4%の平均メチル化レベルを示した。対照的に、フィルタ検体は、13%の平均メチル化レベルを示している。この分析は、腫瘍細胞画分がフィルタでは増加していることを裏付けた。
【0093】
次に、204人の膀胱腫瘍患者と29人の健康対照からの尿検体を分割検体設計で調べることにし、全患者及び全対照について尿検体に沈殿(50ml)及び濾過(フィルタ飽和又は最大125mlまで)を並行に課した。DNAを単離し、亜硫酸水素ナトリウムで処理し、7つのメチル化マーカー(CCNA1、BCL2、EOMES、POU4F2、SALL3、HOXA9、及びVIM2)についてリアルタイムメチライト検定を使用して検査した。これらのマーカー全てが膀胱癌では異常に高メチル化されることは文献に報告されている。バックグラウンドメチル化についてのカットオフ値は、10人の健康対照からの検体の分析によって確立した。
図7は、膀胱腫瘍患者からの同じ尿検体の濾過成分及び沈殿成分の並行分析の実施例を与えている。
【0094】
全体として、204人の膀胱腫瘍患者の尿沈渣を7つのDNAメチル化マーカーについて分析したころ感度は81%であり、また対応するフィルタ検体については87%であった(表1)。注目すべきことに、尿分析を根拠に検出するのは難しいとされる低異型度Ta腫瘍について、感度が沈渣での75%からフィルタ検体での84%へ増加した。
【0095】
【表1】
【0096】
表1.膀胱腫瘍患者(N=204)からの濾過尿検体及び沈殿尿検体における7つのDNAメチル化マーカーの感度。
分析された検体の大半で、腫瘍DNA画分は、フィルタの方が対応する沈渣よりも大きかった。これらの結果の幾つかはパイロシーケンシングによって裏付けられた(
図8)。
【0097】
7つのマーカー全てについて陰性であった26の腫瘍の大半はNMIBCであり、うち1つが上皮内癌(CIS)、22がTa腫瘍、及び2つがT1腫瘍であった。19人の対照の中では3人が陽性(2人はフィルタと沈渣の両方が陽性、1人はフィルタのみ陽性)であった。これらのうちの1人は誤って分類されたものであり、膀胱腫瘍を有していた。2人目は、以前膀胱に問題を抱えていたものであり、その後の膀胱鏡検査で過形成病変の存在が示された。3人目は膀胱鏡検査で陰性となった。
【0098】
結論として、本発明者らは、微細膜フィルタ(例えば市販ポリカーボネート膜フィルタ)を使用すれば、尿検体から細胞を捕捉し、その後のメチル化分析のためのDNAを単離することが可能であることを示した。従って、幾つかの実施形態では、本発明は、尿検体の様な生体流体検体を微細膜フィルタに通す方法に関する。一般的に、腫瘍DNA画分はフィルタの方が対応する沈渣よりも大きかった。膀胱腫瘍患者の87%について、フィルタ検体は腫瘍特異的DNAメチル化マーカーについて陽性であった。対応する尿沈渣は症例の81%で陽性であった。
【0099】
本発明による装置を使用した細胞の捕捉及びその後の分析
以上に記載されている様に、発明者らは、シリンジと市販のフィルタホルダを使用する微細膜フィルタ上に尿検体を捕捉できることを示してきた。次に続く非限定的な実施例では、その様な膜を備える本発明による採取及び濾過装置の使用を詳述する。使用されている採取及び濾過装置の技術図面が
図1(上述)に示されている。
【0100】
膀胱鏡検査のためにHerlev病院に入院した30人の患者から早朝尿検体を採取した。検体は3−6時間内にデンマーク癌リサーチセンターで処理した。検体体積は150mlから400mlの間でばらつき、平均は240mlであった(表2)。濾過装置には8μm孔径トラックエッチングポリカーボネートフィルタ(Whatman)を装着した。濾過後、フィルタを濾過装置から取り外し、更なる処理まで−80℃で貯蔵した。
【0101】
DNAをフィルタから以上に説明されている様に単離した。DNAを、50μlのAE緩衝液中に溶出させ、−80℃で貯蔵した。DNAの亜流酸水素塩変換を以上に説明されている様に遂行した。DNA濃度はGAPDHの定量的PCR分析によって確定した。7つのメチル化マーカー(CCNA1、BCL2、EOMES、POU4F2、SALL3、HOXA9、及びVIM2)のメチル化状態を以上に説明されている様にメチライト検定を使用して判定した。30の尿検体の平均DNA収量は242ngであった(6ngから1000ngに及ぶ、表2)。
【0102】
【表2】
【0103】
表2.尿濾過装置を使用して処理した30尿検体からのDNA収量。DNA濃度はqPCRによって確定した(*推定数量、測定値が範囲を外れているため)。
この分析に含まれている30症例のうち20症例は膀胱鏡検査で膀胱腫瘍と診断された(表2)。これらの腫瘍症例のうちの2つについてはDNA収量がメチル化分析にとって少なすぎた。残り18検体を7つの膀胱癌関連メチル化マーカーについて検査した(表3)。これらの検体のうちの16が1つ又はそれ以上のマーカーについて陽性であり、89%の診断感度に相当した。
【0104】
この集団の患者の大半が尿中に検出するのが難しいと周知されている小さい非侵襲性腫瘍を呈していたことからもこの数字は有望である。
【0105】
【表3】
【0106】
表3.18人の膀胱腫瘍患者からの尿DNAにおける7つのDNAメチル化マーカーのメチライト分析。これらの症例の病変は表2に表示されている。
装置性能の評価
腫瘍細胞を流体検体から捕捉し計数する装置の能力を評価するためのモデルシステムとして、発明者らは、繊維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)をコードする遺伝子の点突然変異(p.R248c;c.742C>T)を対応する野生型対立遺伝子の欠失と併せ持つ639V膀胱癌細胞を使用した。第1の実験セットでは、10
3から5x10
6の間の639V細胞を含有する100mlのPBSを装置の採取室へ加え、8μm孔径のポリカーボネート膜フィルタを通して押し進めた。フィルタ上に捕捉された639V細胞の数を定量化するために、総DNAを抽出し、突然変異FGFR3分子数を液滴デジタルPCR(ddPCR)検定を使用して確定した。この設定では、陽性事象1つが細胞1つと等価である。2μl(4%)の抽出DNAをddPCRのためのテンプレートとして使用したとき全ての検体について陽性信号が再現可能に取得された(
図9のA)。注目すべきことに、最も低い細胞濃度(100mL中10
3)について、2μl検体反応当たりの取得された平均信号数は28であり、投入細胞の〜70%の全体回収率に等しかった(
図9のB)。
【0107】
30%の投入物質損失は、少なくとも一部には、予想される抽出時DNA損失が原因であろう。より高い細胞濃度では、回収率は減少しており、5x10
6細胞/100mlでは〜5%へ下がっている。この回収の低さは、フィルタの飽和が圧力弁の開放及び流体とその細胞内容物の廃棄物貯留部への直行流れを生じさせることから予想されていた。この最初の試験は、濾過装置が流体から膀胱癌細胞を効果的に捕捉するのに使用できるということ、及び回収率はフィルタの容量にまだ達していない低細胞濃度時に特に高くなるということを示唆した。
【0108】
正常細胞のバックグラウンド中に低含量で存在する膀胱癌細胞を富化する濾過装置の能力を試験するために、発明者らは10
3から5x10
6の間の639V膀胱癌細胞を10
7の正常な純粋培養ヒトリンパ球(直径7−8μm)を含有する100mlのPBSの中へスパイクし、懸濁液を濾過装置を使って処理した。ddPCRによってフィルタから抽出されたDNAの分析は、突然変異(R248C)と野生型FGFR3の両方の信号を示した(
図10のA)。縦軸は手動で設定されたカットオフ設定値を表す。DNAをフィルタから抽出し突然変異FGFR3(R248C)分子についてddPCRを使用して検査した。正常な末梢血リンパ球(PBL)からのDNAを野生型FGFRについての対照として使用した。示されている結果は、2つの独立した実験のうちの1つからの結果である。最も重要なことに、突然変異DNAの回収率は639V膀胱癌細胞の純水溶液で実現されたものと同様であった(
図10のB)。濾過による検体処理は血中リンパ球の大半(>99%)を排除したが、野生型FGFR3対立遺伝子のバックグラウンドは変わりなかった(
図10のA及びB)。これらのバックグラウンド細胞は、フィルタの孔径より大きい残留単核細胞及びフィルタの孔径より小さいが凝集物を形成する傾向があるのでやはりフィルタ上に捕捉されてしまう血小板を表しているということになろう。
【0109】
これは、装置には低含量腫瘍細胞を単離する能力があり、従って装置は小さく活動の弱い腫瘍を早期に診断するのに有用であることを実証している。腫瘍の大きさ及び病期は、通常、尿検体中に予測される細胞の数によって反映される。小さく活動の弱い腫瘍は、より確立された腫瘍ほど多くの細胞を尿の中へ剥落させることはないはずなので標準的な診断技法では見落とされかねない。これは、更に、正常な末梢血リンパ球を含有するPBSの中へスパイクされた腫瘍細胞からDNAが単離され得ることを実証しており、装置が正常な血液細胞から腫瘍細胞を単離できるということを示している。
【0110】
尿標本での膀胱癌検出
純化されたリンパ球の中へスパイクされた培養膀胱癌細胞を濾過装置を使用して捕捉及び富化できることが実証されたところで、発明者らは次に同じ手法を膀胱腫瘍の患者からの尿検体に対して試した。濾過が正常細胞対腫瘍細胞比を増加させることによって従来の沈渣分析に勝って感度を高めることができるかどうかを試すために、彼らは、先ず、13尿検体を、各検体の一部を濾過によって処理し残部を遠心分離によって沈殿させる分割検体セットアップで検査した。全フィルタ検体及び全沈渣検体からのDNAを4つの一般的なFGFR3突然変異(R248C、S249C、G370C、及びY373C)についてddPCRを使用してスクリーニングした。検体のうち8つ(58%)がこれらの突然変異の1つについて陽性であった(表4)。定量的分析は、突然変異対野生型DNA比は濾過検体の方が対応する沈渣より高いことを示した(表4)。最も重要なことに、最も大きな富化(各々6.5倍及び8.0倍)が、最も低い突然変異対野生型比を表す2つの検体について実現された(
図11)。
【0111】
【表4】
【0112】
表4.装置濾過又は沈殿によって採取された尿細胞中の突然変異(Mut)及び野生型(WT)FGFR3の画分。
要約
尿の中へ剥落した細胞は膀胱癌の非侵襲性検出にとって好都合な供給源を提供する。細胞の採取及び下流の細胞診や腫瘍特異的マーカーの分析による検査は、膀胱癌の診断及び調査監視での膀胱鏡検査の代替又は補助をもたらすことができる。しかしながら、尿に基づく検査の実践的使用は、多くの場合、検体取り扱いの不便さ、大きな検体体積を分析する場合の困難、細胞内容物の劣化を避けるための迅速な検体処理の必要性、及び低い腫瘍細胞対正常細胞比に起因する不十分な分析感度によって制限されている。ここには、在宅使用又はポイント・オブ・ケアでの使用のために設計された濾過装置であって、尿からの腫瘍細胞の採取、富化、即時保存、又は処理を可能にさせる濾過装置が記載されている。スパイク実験では、この装置をDNAバイオマーカー定量化のための液滴デジタルPCRと組み合わせて使用したところ、余計なリンパ球の>99%が排除された膀胱癌細胞の効率的な回収をもたらした。装置の処理能力を、低異型度Ta腫瘍を有する患者数人を含む膀胱癌患者の尿から採取された細胞のDNAに基づく分析によって更に評価した。腫瘍対正常DNA比は濾過検体の方が沈殿によって処理された同じ検体に比べて高く、高い感度を示した。尿から診断細胞を容易に採取し、処理し、発送できるようになることで、膀胱癌の検出及びフォローアップのための非侵襲性検査の使用が広がるであろう。
【0113】
参考文献
ここに引用されている又は本願と共に提出されている全ての出版物、特許、及び特許出願は、情報開示陳述書の一部として提出されている参考文献を含め、参考文献としてそっくりそのまま援用される。