(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
β−シクロデキストリン、および医薬剤を含む組成物であって、ここで、前記医薬剤は3−ハロピルベートであり、前記シクロデキストリンの少なくとも1つのα−D−グルコピラノシド単位が、負電荷または正電荷をもたらす化学基で置き換えられた少なくとも1つのヒドロキシル化学基を有し、ここで前記シクロデキストリンは、前記医薬剤をカプセル化し、負電荷または正電荷をもたらす前記化学基が、アミノ官能基、エチレンジアミノ官能基、ジメチルエチレンジアミノ官能基、ジメチルアニリノ官能基、ジメチルナフチルアミノ官能基、スクシニル官能基、ヒドロキシプロピルエーテル官能基、カルボキシル官能基、スルホニル官能基、およびスルフェート官能基からなる群より選択される、組成物。
前記少なくとも1つのα−D−グルコピラノシド単位の前記少なくとも1つのヒドロキシル化学基が、C2、C3、およびC6ヒドロキシル化学基からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
前記シクロデキストリンの少なくとも1つのα−D−グルコピラノシド単位の前記C2、C3、およびC6ヒドロキシル化学基が、負電荷または正電荷をもたらす化学基で置き換えられている、請求項2に記載の組成物。
前記シクロデキストリンの前記少なくとも1つのα−D−グルコピラノシド単位が、前記シクロデキストリンの2、3、4、5、6、7、8、およびすべてのα−D−グルコピラノシド単位からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
前記β−シクロデキストリンが、6’モノ−スクシニル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、およびスクシニル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
シクロデキストリンは、水性環境中のアルキル化化合物を安定化させ、同様にタンパク質中の求核性実体のそれにアクセスする能力を低減し、それによってその全身毒性を低下させ、そのアルキル化能力を維持するために、3−ハロピルベート(例えば、3−BrPA)などのATP産生の選択的阻害剤をカプセル化することができることが、本明細書で決定された。このような組成物は、異なる形態のシクロデキストリン(例えば、ベータおよびアルファ)を使用して、シクロデキストリンに対する活性な薬剤のカプセル化の異なる比で、複数のin vitro細胞株において、かつin vivo動物腫瘍モデルにおいて本明細書で実証される。例えば、このような組成物は、in vitroおよびin vivoの両方でがん細胞を殺すATP産生の選択的阻害剤の機能特性を維持し、その結果これらの活性を、それが、毒性を最小限にしながら標的組織、臓器、および/または腫瘍に到達するまで、全身投与に関して保存および保護することができることが本明細書で実証される。この決定は、予想外であった。なぜなら、シクロデキストリンは、特にpHの増大ともに直接の触媒作用によって多くの化合物に対する不安定化効果を有することが公知であるためである(Rasheedら(2008年)、Sci. Pharm.、76巻:567〜598頁)。3−ハロピルベートは、ピルビン酸のハロゲン化誘導体であるので、シクロデキストリンのこの触媒効果は、3−ハロピルベートについて大きいと予期されていたが、シクロデキストリンは、実際には3−BrPAを保護し、安定化させることが意外にも決定された。さらに、そのα−D−グルコピラノシド単位の1つまたは複数上の1つまたは複数のヒドロキシル基を、負電荷(アニオン)をもたらすイオン化可能な基と置き換えるように修飾されたシクロデキストリンは、正電荷(カチオン)をもたらすイオン化可能な基を有するもの、または無修飾アルファ−もしくはベータ−シクロデキストリンなどの無修飾シクロデキストリンより良好に3−ハロビルベートを安定化させることが意外にも決定された。理論によって束縛されることなく、シクロデキストリン上のアニオン性部分は、ハロピルベート(例えば、3−BrPA)のハロゲン原子(例えば、臭素)を空洞中に強制的に位置させると考えられる。β−シクロデキストリンは、α−シクロデキストリンより有意に良好に、特にin vivo有効性およびまたin vitro有効性に関して3−BrPAを保護し、安定化させる形態で3−BrPAをカプセル化することも、意外にも決定された。
【0016】
したがって、本発明は、シクロデキストリン内にカプセル化されたこのような3−ハロピルベート化合物を含む組成物およびキット、ならびにこのような組成物およびキットを作製および使用する方法を提供する。
【0017】
A.定義
本発明がより容易に理解されるために、ある特定の用語および語句を以下に、かつ明細書全体にわたって定義する。
【0018】
冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的対象の1つまたは1つを超える(すなわち、少なくとも1つ)を指すのに本明細書で使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または1つを超える要素を意味する。
【0019】
用語「3−ブロモピルベート」または「3−BrPA」は、3−ブロモピルベート、3−ブロモピルベート(3−brompyruvate)の類似体および誘導体、3−ブロモピルベートのプロドラッグ、3−ブロモピルベートの代謝産物、ならびにこれらの塩を指す。
【0020】
用語「投与すること」は、被験体に医薬剤または組成物を提供することを意味し、それだけに限らないが、医療専門家による投与、および自己投与を含む。
【0021】
用語「がん」は、それだけに限らないが、固形腫瘍および血液媒介腫瘍を含む。用語のがんは、皮膚、組織、臓器、骨、軟骨、血液、および血管の疾患を含む。用語「がん」はさらに、原発性がんおよび転移性がんを包含する。
【0022】
用語「阻害する(inhibit)」または「阻害する(inhibits)」は、疾患、障害、もしくは状態の発生もしくは進行、生物学的経路の活性、または生物活性、例えば、固形悪性疾患の成長などを、未処置の対照被験体、細胞、生物学的経路、もしくは生物活性と比較して、または被験体が処置される前の被験体における固形悪性疾患の成長などの標的と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、またはさらには100%、減少させ、抑制し、減弱させ、縮小し、停止し、または安定化させることを意味する。用語「減少させる」とは、がんの疾患、障害、または状態の症状を阻害し、抑制し、減弱させ、縮小し、停止し、または安定化させることを意味する。除外されないが、疾患、障害、または状態の処置は、疾患、障害、状態、またはこれらと関連した症状が完全に排除されることを必要としないことが認識される。
【0023】
用語「調節」は、応答のアップレギュレーション(すなわち、活性化もしくは刺激)、ダウンレギュレーション(すなわち、阻害もしくは抑制)、または組み合わせで、もしくは別々に2つを指す。
【0024】
用語「薬学的に許容される」は、適切な医学的判断の範囲内であり、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を伴うことなくヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合っている化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すのに本明細書で用いられる。
【0025】
用語「薬学的に許容される担体」は、本明細書において、1つの臓器または体の一部分から別の臓器または体の一部分に対象化合物を搬送または輸送することに関与する薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクル、例えば、液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒カプセル化材料を意味する。各担体は、製剤の他の成分に適合しており、患者に対して傷害性でないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能を果たすことができる材料の一部の例としては、(1)糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース;(2)デンプン、例えば、コーンスターチおよびジャガイモデンプン;(3)セルロースおよびその誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、および酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えば、カカオバターおよび坐剤ワックス;(9)油、例えば、ラッカセイ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)発熱物質を含まない水;(17)等張食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝化溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート、および/またはポリ酸無水物;ならびに(22)医薬製剤中に用いられる他の無毒性の適合性の物質が挙げられる。
【0026】
用語「薬学的に許容される塩」は、化合物の比較的無毒性の無機および有機塩を指す。
【0027】
「被験体」として、医療目的のため、例えば、現存する疾患、障害、状態の処置、または疾患、障害、もしくは状態の発症を防止するための予防的処置のためのヒト被験体、あるいは医療目的、獣医学目的、または発育目的のための動物被験体を挙げることができる。適当な動物被験体としては、それだけに限らないが、霊長類、例えば、ヒト、サル、類人猿、テナガザル、チンパンジー、オランウータン、マカクなど;ウシ(bovine),例えば、ウシ(cattle)、雄ウシなど;ヒツジ(ovine)、例えば、ヒツジ(sheep)など;ヤギ(caprine)、例えば、ヤギ(goat)など;ブタ(porcine)例えば、ブタ(pig)、雄ブタなど;ウマ(equine)、例えば、ウマ(horse)、ロバ、シマウマなど;山ネコ(wild cat)および飼いネコ(domestic cat)を含めたネコ(feline);イヌ(dog)を含めたイヌ(canine);ウサギ(rabbit)、野ウサギなどを含めたウサギ(lagomorph);ならびにマウス、ラット、モルモットなどを含めたげっ歯類を含めた哺乳動物が挙げられる。動物は、トランスジェニック動物であってもよい。一部の実施形態では、被験体は、それだけに限らないが、胎児、新生児、乳児、若年者、および成人被験体を含めたヒトである。さらに、「被験体」は、疾患、障害、もしくは状態に罹患している、またはそれに罹患していると疑われる患者を含むことができる。したがって、用語「被験体」および「患者」は、本明細書で互換的に使用される。被験体には、動物疾患モデル(例えば、実験で使用されるラットまたはマウスなど)も含まれる。
【0028】
用語「防止する」、「防止すること」、「防止」、「予防的処置」などは、疾患、障害、もしくは状態を有していないが、それを発生させるリスクにある、またはそれを発生させることに感受性である被験体における疾患、障害、または状態を発生させる確率を低減することを指す。
【0029】
用語「有すると疑われる被験体」は、疾患または状態の1つまたは複数の臨床指標を呈する被験体を意味する。ある特定の実施形態では、疾患または状態は、がんである。ある特定の実施形態では、がんは、白血病またはリンパ腫である。
【0030】
用語「それを必要とする被験体」は、療法または処置を必要とすると同定された被験体を意味する。
【0031】
用語「全身投与」、「全身投与される」、「末梢投与」、および「末梢投与される」は、化合物、薬物、または他の材料の、それが患者の系に入り、したがって、代謝および他の同様のプロセスに供されるような、中枢神経系内に直接的ではない投与、例えば、皮下投与を意味する。
【0032】
用語「治療剤」または「医薬剤」は、宿主に対して所望の生物学的効果を有することができる薬剤を指す。化学療法剤および遺伝子毒性剤は、それぞれ、生物製剤とは対照的に起源において化学的であり、または特定の作用機序によって治療効果を引き起こすことが一般に知られている治療剤の例である。生物学的起源の治療剤の例としては、増殖因子、ホルモン、およびサイトカインが挙げられる。様々な治療剤が当技術分野で公知であり、これらの効果によって同定され得る。ある特定の治療剤は、赤血球の増殖および分化をレギュレートすることができる。例としては、化学療法のヌクレオチド、薬物、ホルモン、非特異的(例えば、非抗体)タンパク質、オリゴヌクレオチド(例えば、標的核酸配列(例えば、mRNA配列)に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド)、ペプチド、およびペプチド模倣体が挙げられる。
【0033】
用語「治療効果」は、薬理学的に活性な物質によって引き起こされる、動物、特に哺乳動物、より具体的にはヒトにおける局所的または全身的効果を指す。したがってこの用語は、動物またはヒトにおける疾患の診断、治癒、緩和、処置、もしくは防止、または望ましい身体的もしくは精神的な発達および状態の増強における使用について意図された任意の物質を意味する。語句「治療有効量」は、任意の処置に適用可能な合理的な利益/リスク比でいくらかの所望の局所的または全身的効果を生じさせるこのような物質の量を意味する。ある特定の実施形態では、化合物の治療有効量は、その治療指数、溶解度などに依存する。例えば、本発明の方法によって発見されるある特定の化合物は、このような処置に適用可能な合理的な利益/リスク比を生じさせるのに十分な量で投与され得る。
【0034】
用語「治療有効量」および「有効量」は、本明細書において、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で、動物中の細胞の少なくとも亜集団においていくらかの所望の治療効果を生じさせるのに有効である化合物、材料、または本発明の化合物を含む組成物の量を意味する。
【0035】
用語の被験体における疾患を「処置すること」または疾患を有する被験体を「処置すること」は、疾患の少なくとも1つの症状が減少し、悪化から防止されるように被験体を医薬処置、例えば、薬物の投与に供することを指す。
【0036】
用語「腫瘍」、「固形悪性疾患」、または「新生物」は、細胞の異常な、またはレギュレートされていない成長によって形成される病変を指す。好ましくは、腫瘍は、がんによって形成されるものなどの悪性である。
【0037】
B.シクロデキストリン
用語「シクロデキストリン」は、トロイダルトポロジー構造を有するC1〜C4結合によって一緒に連結された5つまたはそれ超のα−D−グルコピラノシド単位から構成される環状オリゴ糖のファミリーをいい、トロイドのより大きい開口部およびより小さい開口部が、α−D−グルコピラノシド単位のある特定のヒドロキシル基を周囲環境(例えば、溶媒)に曝露する(例えば、
図1を参照)。用語「不活性なシクロデキストリン」は、基本式C
6H
12O
6を有するα−D−グルコピラノシド単位およびいずれの追加の化学的な置換も含まないグルコース構造を含有するシクロデキストリン(例えば、6つのグルコースモノマーを有するα−シクロデキストリン、7つのグルコースモノマーを有するβ−シクロデキストリン、および8つのグルコースモノマーを有するγ−シクロデキストリン)を指す。用語「シクロデキストリン内相」は、シクロデキストリン構造のトロイドトポロジー内に封入されている(すなわち、それによってカプセル化されている)相対的により低い親水性の領域を指す。用語「シクロデキストリン外相」は、シクロデキストリン構造のトロイドトポロジーによって封入されておらず、例えば、in vivoでの全身投与中に存在する水性環境を含むことができる領域、またはそれ自体で選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体をカプセル化する構造の内相を指す。シクロデキストリンは、疎水性組成物を可溶化するのに有用である(例えば、AlbersおよびMuller(1995年)、Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Syst.、12巻:311〜337頁;ZhangおよびMa(2013年)、Adv. Drug Delivery Rev.、65巻:1215〜1233頁;Laza−Knoerrら(2010年)、J. Drug Targ.、18巻:645〜656頁;Challaら(2005年)、AAPS PharmSci. Tech.、6巻:E329〜357頁;Uekamaら(1998年)、Chem. Rev.、98巻:2045〜2076頁;Szejtli(1998年)、Chem. Rev.、98巻:1743〜1754頁;StellaおよびHe(2008年)、Toxicol. Pathol.、36巻:30〜42頁;RajewskiおよびStella(1996年)、J. Pharm. Sci.、85巻:1142〜1169頁;Thompson(1997年)、Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Sys.、14巻:1〜104頁;ならびにIrieおよびUekama(1997年)、J. Pharm. Sci.、86巻:147〜162頁を参照)。シクロデキストリン内相内に位置した任意の物質は、「カプセル化」されていると言われる。
【0038】
本明細書において、シクロデキストリンが選択的ATP産生阻害剤をカプセル化することができる限り、シクロデキストリンは、本発明によって有用である。一部の実施形態では、シクロデキストリンはさらに、選択的ATP産生阻害剤の安定化を増強するためのイオン化可能な(例えば、弱塩基性および/または弱酸性)官能基を担持する。選択的ATP産生阻害剤の安定性を保護することとは、選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体が、シクロデキストリンとの複合体中にない選択的ATP産生阻害剤分子の安定性と比較して、光安定性、貯蔵寿命安定性、熱安定性、分子内環化に対する安定性、酸加水分解に対する安定性、一般的な分解に対する安定性などによって見られるように、選択的ATP産生阻害剤分子をより安定にすることを意味する。
【0039】
所望の治療剤をカプセル化するために、シクロデキストリンは、所望の治療剤の特性、および中に効率的に高濃度に充填するためのパラメータによって選択および/または化学修飾することができる。例えば、シクロデキストリン自体が、3−ハロピルベートなどの治療剤の充填を促進するために、水中で高い溶解度を有することが好ましい。一部の実施形態では、シクロデキストリンの水溶解度は、少なくとも10mg/mL、20mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、50mg/mL、60mg/mL、70mg/mL、80mg/mL、90mg/mL、100mg/mL、またはそれ超である。このような増強された水溶解度を達成するための方法は、当技術分野で周知である。
【0040】
一部の実施形態では、治療剤との大きい会合定数は、好ましく、治療剤のサイズに基づいてシクロデキストリン中のグルコース単位の数を選択することによって得ることができる(例えば、AlbersおよびMuller(1995年)、Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Syst.、12巻:311〜337頁;StellaおよびHe(2008)、Toxicol. Pathol.、36巻:30〜42頁;ならびにRajewskiおよびStella(1996年)、J. Pharm. Sci.、85巻:1142〜1169頁を参照)。結果として、シクロデキストリンの存在下での治療剤の溶解度(名目上の溶解度)が、さらに改善され得る。例えば、治療剤とのシクロデキストリンの会合定数は、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1,000、またはそれ超であり得る。
【0041】
シクロデキストリンヒドロキシル基(例えば、不活性なシクロデキストリンのトロイドの上および下の稜線に沿って並ぶもの)との反応によって形成される誘導体は、容易に調製され、親(不活性な)シクロデキストリンの物理化学的性質を修飾する手段を提供する。一部の実施形態では、不活性なシクロデキストリン分子、または選択的ATP産生阻害剤と複合体化していないシクロデキストリン分子の物理化学的性質は、選択的ATP産生阻害剤と複合体化したシクロデキストリン分子の性質と異なる。したがって、シクロデキストリンと複合体化した選択的ATP産生阻害剤分子は、溶解度、化学反応性、UV/VIS吸光度、薬物保持率、化学的安定性などの変化を観察することによって特徴付けることができる。例えば、シクロデキストリン内部相から見て外方を向いているものなどの修飾化ヒドロキシル基は、修飾シクロデキストリン内の治療剤、例えば、難溶性または疎水性の薬剤の充填、およびその安定化を促進するために、イオン化可能な化学基と置き換えることができることが本明細書で決定された。一実施形態では、イオン化可能な化学基と置換された少なくとも1つのヒドロキシル基を有する修飾シクロデキストリンは、ある特定の溶媒(例えば、pH)条件下で荷電部分をもたらす。用語「荷電シクロデキストリン」は、そのヒドロキシル基の1つまたは複数が荷電部分および電荷担持部分と置換されたシクロデキストリンを指す。このような部分は、それ自体荷電基であり得、またはこれは、1つもしくは複数の荷電部分と置換された有機部分(例えば、Ci〜C
6アルキルもしくはCi〜C
6アルキルエーテル部分)を含み得る。
【0042】
一実施形態では、「イオン化可能な」または「荷電した」部分は、弱くイオン化可能なものである。弱くイオン化可能な部分は、弱塩基性または弱酸性であるものである。弱塩基性官能基(X)は、CH
3−Xによって約6.0〜9.0、6.5〜8.5、7.0〜8.0、7.5〜8.0の間、および両端を含めて間の任意の範囲のpK
aを有する。同様に、弱酸性官能基(Y)は、CH
3−Yによって、約3.0〜7.0、4.0〜6.5、4.5〜6.5、5.0〜6.0、5.0〜5.5の間、および両端を含めて間の任意の範囲のlog解離定数(pK
a)を有する。pKaパラメータは、物質の酸/塩基性質の周知の尺度であり、pKa決定のための方法は、当技術分野で従来のものかつ慣例的なものである。例えば、多くの弱酸のpKa値は、化学および薬理学の参考書籍中に表化されている。例えば、IUPAC Handbook of Pharmaceutical Salts、P. H. StahlおよびC. G Wermuth編、Wiley−VCH、2002年;CRC Handbook of Chemistry and Physics、第82版、D. R. Lide編、CRC Press、Florida、2001年、8−44〜8−56頁を参照。1つを超えるイオン化可能な基を有するシクロデキストリンは、第2のおよび後続の基のpKaを有するので、それぞれは、下付き文字を用いて表されている。
【0043】
代表的なアニオン性部分としては、いずれの限定もすることなく、スクシニル、カルボキシレート、カルボキシメチル、スルホニル、ホスフェート、スルホアルキルエーテル、スルフェート、カーボネート、チオカーボネート、チオカーボネート、ホスフェート、ホスホネート、スルホネート、ニトレート、およびボレート基が挙げられる。
【0044】
代表的なカチオン性部分としては、限定することなく、アミノ、グアニジン、および第四級アンモニウム基が挙げられる。
【0045】
別の実施形態では、修飾シクロデキストリンは、「ポリアニオン」または「ポリカチオン」である。ポリアニオンは、1つを超える負に荷電した基を有する修飾シクロデキストリンであり、2つ超の単位の正味の陰イオンチャージャー(charger)をもたらす。ポリカチオンは、1つを超える正に荷電した基を有する修飾シクロデキストリンであり、2つ超の単位の正味の陽イオンチャージャーをもたらす。
【0046】
別の実施形態では、修飾シクロデキストリンは、「荷電可能な両親媒性物質」である。「荷電可能な」とは、両親媒性物質がpH4〜pH8または8.5の範囲のpKを有することを意味する。したがって、荷電可能な両親媒性物質は、弱酸または弱塩基であり得る。本明細書において「両性の」とは、アニオン性およびカチオン性の特徴の両方のイオン化可能な基を有する修飾シクロデキストリンであって、1)カチオンおよびアニオン性の両親媒性物質の少なくとも一方、および任意選択で両方が、4から8〜8.5の間のpKを有する少なくとも1つの荷電基を有して荷電可能であり、2)カチオン性電荷は、pH4で優勢であり、3)アニオン性電荷は、pH8〜8.5で優勢である、修飾シクロデキストリンを意味する。
【0047】
一部の実施形態では、「イオン化可能な」または「荷電した」シクロデキストリンは全体として、ポリイオン性であっても、両親媒性であっても、その他であっても、弱くイオン化可能である(すなわち、約4.0〜8.5、4.5〜8.0、5.0〜7.5、5.5〜7.0、6.0〜6.5の間、および両端を含めて間の任意の範囲のpKa
1を有する)。
【0048】
シクロデキストリンの任意の1つ、一部、またはすべてのα−D−グルコピラノシド単位の任意の1つ、一部、またはすべてのヒドロキシル基を修飾して、本明細書に記載のイオン化可能な化学基にすることができる。各シクロデキストリンヒドロキシル基は、化学反応性が異なるので、修飾化部分との反応は、位置異性体および光学異性体の非晶質混合物を生じさせ得る。代わりに、ある特定の化学的性質は、予め修飾されたα−D−グルコピラノシド単位が反応されて均一な生成物を形成することを可能にすることができる。
【0049】
行われる総計の置換は、置換度と呼ばれる用語によって記述される。例えば、7の置換度を有する6−エチレンジアミノ−β−シクロデキストリンは、6−エチレンジアミノ−β−シクロデキストリン分子1つ当たりのエチレンジアミノ基の平均数が7である6−エチレンジアミノ−β−シクロデキストリンの異性体の分布から構成される。置換度は、質量分析法または核磁気共鳴分光法によって決定することができる。理論的には、最大置換度は、α−シクロデキストリンについて18、βについて21、およびγ−シクロデキストリンについて24であるが、ヒドロキシル基を有する置換基自体は、追加のヒドロキシルアルキル化の可能性を提示する。置換度は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、またはそれ超であり得、完全な置換を包含し得る。
【0050】
別のパラメータは、所与のヒドロキシル置換の立体化学上の場所である。一実施形態では、シクロデキストリン内部から見て外方を向いている少なくとも1つのヒドロキシルが、イオン化可能な化学基と置換される。例えば、少なくとも1つのα−D−グルコピラノシド単位のうちのC2、C3、C6、C2およびC3、C2およびC6、C3およびC6、ならびにC2−C3−C6ヒドロキシルの3つすべてがイオン化可能な化学基と置換される。このような炭素の位置は、当技術分野で周知である。例えば、各α−D−グルコピラノシド単位の
図1に示したCH2OH部分は、C6炭素を表す。ヒドロキシルの任意のこのような組み合わせを、修飾シクロデキストリン中のα−D−グルコピラノシド単位のうちの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、最大ですべてと、かつ本明細書に記載の任意の置換度と組み合わせて、同様に組み合わせることができる。
【0051】
本明細書に記載のシクロデキストリンの1種または複数を組み合わせることも許容される。
【0052】
C.ATP産生の選択的阻害剤および関連化合物
本発明の一部の実施形態は、シクロデキストリン内のATP産生の選択的阻害剤のカプセル化に関する。用語「ATP産生の選択的阻害剤」は、ATPを生成する酵素プロセスを妨害することによってATP産生を阻害する抗代謝産物剤(例えば、3−ブロモピルベートのような3−ハロピルベートなどのGAPDH阻害剤)を指す。一部の実施形態では、ATP産生の選択的阻害剤は、「抗腫瘍性アルキル化剤」であり、これは、アルキル基による水素の置き換えを引き起こすがん処置で使用される薬剤を指す。本明細書において、用語「アルキル」は、1個の水素原子の除去によって1から20個の間の炭素原子を含有する炭化水素部分から得られる、両端を含むC
1〜20の、線状の(すなわち「直鎖」)、分枝状の、または環状の、飽和した、または少なくとも部分的に、および一部の場合では完全に不飽和の(すなわち、アルケニルおよびアルキニル)炭化水素ラジカルを指す。代表的なアルキル基としては、それだけに限らないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、sec−ペンチル、iso−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、sec−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−デシル、n−ウンデシル、ドデシルなど、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、オクテニル、ブタジエニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、およびアレニル基が挙げられる。「分枝状の」は、低級アルキル基、例えば、メチル、エチル、またはプロピルが、線状アルキル鎖に付着しているアルキル基を指す。「低級アルキル」は、1〜約8個の炭素原子(すなわち、C
1〜8アルキル)、例えば、1、2、3、4、5、6、7、または8個の炭素原子を有するアルキル基を指す。「高級アルキル」は、約10〜約20個の炭素原子、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の炭素原子を有するアルキル基を指す。ある特定の実施形態では、「アルキル」は、特に、C
1〜8直鎖アルキルを指す。他の実施形態では、「アルキル」は、特に、C
1〜8分枝鎖アルキルを指す。
【0053】
アルキル基は、同じであっても、異なっていてもよい1つまたは複数のアルキル基置換基で、任意選択で置換され得る(置換アルキル)。用語「アルキル基置換基」は、それだけに限らないが、アルキル、置換アルキル、ハロ、アリールアミノ、アシル、ヒドロキシル、アリールオキシル、アルコキシル、アルキルチオ、アリールチオ、アラルキルオキシル、アラルキルチオ、カルボキシル、アルコキシカルボニル、オキソ、およびシクロアルキルを含む。1個または複数の酸素、硫黄、または置換もしくは非置換の窒素原子をアルキル鎖に沿って任意選択で挿入することができ、窒素置換基は、水素、低級アルキル(「アルキルアミノアルキル」とも本明細書で呼ばれる)、またはアリールである。したがって、本明細書において、用語「置換アルキル」は、アルキル基の1個もしくは複数の原子または官能基が、例えば、アルキル、置換アルキル、ハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシル、ヒドロキシル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、スルフェート、およびメルカプトを含めた別の原子または官能基で置き換えられている本明細書に定義したアルキル基を含む。
【0054】
一実施形態では、ATP産生の選択的阻害剤は一般に、式:
【0056】
によって表され、式中、Xは、ハロゲン化物、スルホネート、カルボキシレート、アルコキシド、またはアミンオキシドを表す。ある特定の実施形態では、Xは、フッ化物、臭化物、塩化物、およびヨウ化物からなる群より選択されるハロゲン化物である。一実施形態では、阻害剤は、3−ハロピルベートである。ある特定の他の実施形態では、3−ハロピルベートは、3−フルオロピルベート、3−クロロピルベート、3−ブロモピルベート、および3−ヨードピルベートからなる群より選択される。一実施形態では、3−ハロピルベートは、3−ブロモピルベートである。他の実施形態では、Xは、スルホネートであり、トリフレート、メシレート、およびトシレートからなる群より選択され得る。さらに別の実施形態では、Xは、ジメチルアミンオキシドであるアミンオキシドである。ある特定の実施形態では、R
1は、OR、H、N(R”)
2、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、C1〜C6ヘテロアルキル、またはC6〜C12ヘテロアリールを表す。独立して、他の実施形態では、R”は、H、C1〜C6アルキル、またはC6〜C12アリールを表す。独立して、さらに他の実施形態では、Rは、H、アルカリ金属、C1〜C6アルキル、C6〜C12アリール、またはC(O)R’を表し、R’は、H、C1〜C20アルキル、またはC6〜C12アリールを表す。
【0057】
好適な実施形態では、本発明はさらに、一般式:
X−CH2−CO−COOH、
によって表されるATP産生の阻害剤を提供し、式中、Xは、ハロゲン化物、スルホネート、カルボキシレート、アルコキシド、またはアミンオキシドを表す。ある特定の実施形態では、Xは、ハロゲン化物であり、フッ化物、臭化物、塩化物、およびヨウ化物からなる群より選択され得る。一実施形態では、阻害剤は、3−ハロピルベートである。ある特定の実施形態では、3−ハロピルベートは、3−フルオロピルベート、3−クロロピルベート、3−ブロモピルベート、および3−ヨードピルベートからなる群より選択される。一実施形態では、3−ハロピルベートは、3−ブロモピルベートである。他の実施形態では、Xは、トリフレート、メシレート、およびトシレートからなる群より選択されるスルホネートである。さらに別の実施形態では、Xは、ジメチルアミンオキシドであるアミンオキシドである。
【0058】
3−ブロモピルベートのその他の類似体、誘導体、プロドラッグ、代謝産物、および塩も使用することができるが、ただし、これらの化合物または組成物は、3−ブロモピルベートのものと統計的に同様である抗がん効果を有することを条件とする。3−ブロモピルベートを使用する処置に本明細書で言及するとき、処置は、適用可能である場合、3−ブロモピルベートの類似体、誘導体、プロドラッグ、代謝産物、および塩を用いて行ってもよいことが理解されるべきである。
【0059】
D.シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物
本発明は、不活性なかつ/または修飾されたシクロデキストリン内にカプセル化された上述したATP産生の選択的阻害剤を含む医薬組成物を提供する。このような複合体は、シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物と本明細書で呼ばれる。ATP産生の選択的阻害剤とシクロデキストリンとの比は、1:1であり得、その結果、1つの阻害剤分子は、1つのシクロデキストリン分子と複合体を形成する。代わりに、比は、2:1、3:1、4:1、5:1、またはそれ超であり得る。
【0060】
一態様では、本発明は、1種または複数の薬学的に許容される担体(添加剤)および/または希釈剤と一緒に製剤化された、治療有効量の上述した1種または複数のこのようなシクロデキストリン/ATP阻害剤を含む薬学的に許容される組成物を提供する。別の態様では、組成物は、そのようなものとして、または薬学的に許容される担体との混ぜ物で投与することができ、他の抗がん療法、例えば、化学療法剤、スカベンジャー化合物、放射線療法、生物学的療法などと併せて投与することもできる。したがって、併用療法(conjunctive therapy)は、組成物の逐次、同時および別個の投与、または共投与を含み、投与される第1のものの治療効果は、後続の化合物が投与されるとき完全に消失していない。
【0061】
以下でより詳細に記載するように、本発明の医薬組成物は、以下のものに適合させたものを含めた固体または液体形態で投与するために特別に製剤化される場合がある:(1)経口投与、例えば、水薬(水性または非水性の溶液または懸濁液)、錠剤、例えば、頬側、舌下、および全身吸収を標的にしたもの、ボーラス、散剤、顆粒剤、舌に塗布するためのペースト剤;(2)例えば、滅菌した溶液剤もしくは懸濁液剤、または持続放出製剤のような、例えば、皮下、筋肉内、静脈内、または硬膜外注射による非経口投与;(3)例えば、皮膚に塗布されるクリーム剤、軟膏剤、または制御放出パッチもしくはスプレー剤のような局部適用;(4)例えば、ペッサリー、クリーム剤、またはフォーム剤のような膣内もしくは直腸内;(5)舌下;(6)経眼的(ocularly);(7)経皮的;あるいは(8)経鼻的(nasally)。
【0062】
上記に説明したように、選択的ATP阻害剤またはシクロデキストリン/ATP阻害剤組成物のある特定の実施形態は、塩基性官能基、例えば、アミノまたはアルキルアミノを含有する場合があり、したがって、薬学的に許容される酸との薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの塩は、投与ビヒクルもしくは剤形製造プロセス中にin situで、またはその遊離塩基形態での本発明の精製化合物を適当な有機もしくは無機酸と別個に反応させ、後続の精製中にこうして形成された塩を単離することによって調製することができる。代表的な塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナプシル酸(napthylate)塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、およびラウリルスルホン酸塩などが挙げられる(例えば、Bergeら(1977年)、「Pharmaceutical Salts」、J. Pharm. Sci.、66巻:1〜19頁を参照)。
【0063】
対象化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、無毒性の有機または無機酸からの化合物の従来の無毒性の塩または第四級アンモニウム塩が挙げられる。例えば、このような従来の無毒性の塩としては、無機酸、例えば、塩酸(hydrochloride)、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などに由来するもの、および有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸(salicyclic)、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イソチオン酸などから調製される塩が挙げられる。
【0064】
他の場合では、本発明の選択的ATP阻害剤またはシクロデキストリン/ATP阻害剤組成物は、1つまたは複数の酸性官能基を含有する場合があり、したがって、薬学的に許容される塩基との薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの塩は、投与ビヒクルまたは剤形製造プロセス中にin situで、あるいはその遊離酸形態での精製化合物を、適当な塩基、例えば、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩、もしくは炭酸水素塩と、アンモニアと、または薬学的に許容される有機第一級、第二級、もしくは第三級アミンと別個に反応させることによって同様に調製することができる。代表的なアルカリまたはアルカリ土類塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウムの塩などが挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な代表的な有機アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどが挙げられる(例えば、Bergeら、上記を参照)。
【0065】
湿潤剤、乳化剤、ならびに滑沢剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤および芳香剤、防腐剤、ならびに抗酸化剤も、組成物中に存在し得る。
【0066】
薬学的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど、(2)油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロールなど、および(3)金属キレート化剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが挙げられる。
【0067】
シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物製剤としては、経口、経鼻、局部的(頬側および舌下を含めた)、直腸、膣、および/または非経口投与に適したものが挙げられる。製剤は、好都合なことには、単位剤形で提供することができ、薬学の技術分野で周知の任意の方法によって調製され得る。単一剤形を生成するのに担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、処置されている宿主、および特定の投与様式に応じて変動する。単一剤形を生成するのに担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、一般に、治療効果を生じさせる化合物の量である。
【0068】
ある特定の実施形態では、シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物の製剤は、より大きい安定性、より大きい安定性、in vivoでの異なる放出性質、特異的部位への標的化、または被験体もしくは被験体中の標的への複合体のより有効な送達を可能にする任意の他の所望の特徴を可能にする他の担体、例えば、限定することなく、リポソーム、ミクロスフェア、ナノスフェア、ナノ粒子、バブル、ミセル形成剤、例えば、胆汁酸、ならびにポリマー担体、例えば、ポリエステルおよびポリ酸無水物を含み得る。ある特定の実施形態では、上述の製剤は、本発明の化合物を経口的に生物学的に利用可能にする。
【0069】
シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物の液体投与製剤は、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤、およびエリキシル剤を含む。活性成分に加えて、液体剤形は、当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤、ならびに乳化剤など、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実、塊根植物(groundnut)、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの混合物を含有し得る。
【0070】
不活性希釈剤に加えて、経口組成物は、アジュバント、例えば、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、香味剤、着色剤、芳香剤および防腐剤なども含むことができる。
【0071】
懸濁液剤は、活性化合物に加えて、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール、およびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、およびトラガカント、ならびにこれらの混合物のような懸濁剤を含有し得る。
【0072】
経口投与に適した製剤は、それぞれ所定量の活性成分を含有するカプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(風味付けされた基剤、通常スクロースおよびアカシアもしくはトラガカントを使用する)、散剤、顆粒剤の形態で、または水性もしくは非水性液体中の溶液剤もしくは懸濁液剤として、または水中油型もしくは油中水型液体エマルジョンとして、またはエリキシル剤もしくはシロップ剤として、または香錠(不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシアを使用する)として、かつ/または洗口剤などとして存在し得る。本発明のシクロデキストリン/ATP阻害剤組成物は、ボーラス、舐剤、またはペースト剤として投与されてもよい。
【0073】
固形剤形(例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤など)では、活性成分は、1種または複数の薬学的に許容される担体、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、および/または以下のうちのいずれかと混合される:(1)充填剤もしくは増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/もしくはケイ酸、(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、および/もしくはアカシアなど、(3)グリセロールなどの保水剤(humectant)、(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のシリケート、および炭酸ナトリウム、(5)パラフィンなどの溶解遅延剤、(6)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール、および非イオン性界面活性剤など、(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイト粘土、(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物、ならびに(10)着色剤。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合では、組成物は、緩衝剤も含み得る。同様のタイプの固体組成物は、ラクトースまたは乳糖などの賦形剤、および高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、ソフトおよびハードシェルゼラチンカプセル中の充填剤として用いられる場合もある。
【0074】
錠剤は、任意選択で1種または複数の副成分(accessory ingredient)とともに圧縮または成形によって作製され得る。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、ナトリウムデンプングリコレートもしくは架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース)、表面活性剤または分散剤を使用して調製される場合がある。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適当な機械で成形することによって作製され得る。
【0075】
錠剤、ならびに他の固形剤形、例えば、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤は、コーティングおよびシェル、例えば、腸溶コーティング、および医薬製剤分野で周知の他のコーティングを用いて任意選択で刻み目を付け、または調製することができる。これらは、例えば、所望の放出プロファイルをもたらす様々な割合でのヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム、および/またはミクロスフェアを使用して、中にある活性成分の緩慢な放出または制御放出をもたらすように製剤化される場合もある。組成物は、迅速放出用に製剤化される、例えば、冷凍乾燥される場合もある。これらは、例えば、細菌保持フィルターによる濾過によって、または使用直前に滅菌水もしくは他のいくつかの滅菌注射可能媒体中に溶解させることができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって滅菌され得る。これらの組成物は、不透明化剤(opacifying agent)も任意選択で含有する場合があり、これらが任意選択で遅延様式で、胃腸管のある特定の部分中でのみ、または優先的に活性成分(複数可)を放出する組成のものであり得る。使用することができる包埋組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。活性成分はまた、適切な場合、上述した賦形剤の1種または複数を伴ったマイクロカプセル化形態であり得る。
【0076】
直腸または膣投与のための製剤は、坐剤として提供することができ、これは、本発明の1種または複数の化合物を、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコール、坐剤ワックス、もしくはサリチレートを含む1種または複数の適当な非刺激性賦形剤または担体と混合することによって調製することができ、室温で固体であるが体温で液体であり、したがって直腸腔または膣腔内で溶融し、活性化合物を放出する。
【0077】
膣投与に適している製剤には、適切であることが当技術分野で公知である担体などを含有するペッサリー、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、フォーム剤、またはスプレー製剤も含まれる。
【0078】
本発明のシクロデキストリン/ATP阻害剤組成物の局部投与または経皮投与用剤形としては、散剤、スプレー剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、溶液剤、パッチ、および吸入剤が挙げられる。活性化合物は、薬学的に許容される担体と、かつ必要とされる場合のある任意の防腐剤、緩衝液、または噴霧体と滅菌条件下で混合することができる。
【0079】
軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、およびゲル剤は、本発明の活性化合物に加えて、賦形剤、例えば、動物性脂肪および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、ならびに酸化亜鉛、またはこれらの混合物を含有し得る。
【0080】
散剤およびスプレー剤は、賦形剤、例えば、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、およびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物を含有することができる。スプレー剤は、慣例的な噴霧体、例えば、クロロフルオロ炭化水素、ならびにブタンおよびプロパンなどの揮発性非置換炭化水素をさらに含有することができる。
【0081】
経皮パッチは、体への制御送達をもたらすというさらなる利点を有する。このような剤形は、適切な媒体中に化合物を溶解または分散させることによって作製することができる。吸収促進剤も、皮膚を横断する化合物のフラックスを増大させるのに使用することができる。このようなフラックスの速度は、速度制御膜を提供すること、またはポリマーマトリックスもしくはゲル中に化合物を分散させることによって制御することができる。
【0082】
眼科用製剤、眼軟膏剤、散剤、溶液剤なども、本発明の範囲内であると企図されている。
【0083】
非経口投与に適した医薬組成物は、滅菌等張性水性もしくは非水性の溶液、分散液、懸濁液、もしくはエマルジョン、または使用直前に滅菌注射可能溶液もしくは分散液に再構成され得る滅菌粉末を含むことができ、これらは、糖、アルコール、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、製剤を意図されたレシピエントの血液と等張性にする溶質、または懸濁剤もしくは増粘剤を含有し得る。
【0084】
本発明の医薬組成物中に用いられ得る適当な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適当な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料を使用することによって、分散液の場合では必要とされる粒径を維持することによって、かつ界面活性剤を使用することによって維持することができる。
【0085】
ある特定の実施形態では、上述した医薬組成物は、本明細書に提供する方法および組成物によって、当技術分野で公知の他の薬理学的に活性な化合物(「第2の活性な薬剤」)と組み合わせることができる。第2の活性な薬剤は、大型分子(例えば、タンパク質)、または低分子(例えば、合成の無機分子、有機金属分子、もしくは有機分子)であり得る。一実施形態では、第2の活性な薬剤は、がんを処置するのに独立して、または相乗的に役立つ。
【0086】
例えば、化学療法剤は、抗がん剤である。用語の化学療法剤は、限定することなく、白金系薬剤、例えば、カルボプラチンおよびシスプラチン;ナイトロジェンマスタードアルキル化剤;ニトロソ尿素アルキル化剤、例えば、カルムスチン(BCNU)および他のアルキル化剤;メトトレキセートなどの代謝拮抗剤;プリン類似体代謝拮抗剤;ピリミジン類似体代謝拮抗剤、例えば、フルオロウラシル(5−FU)およびゲムシタビン;ホルモン抗新生物薬、例えば、ゴセレリン、ロイプロリド、およびタモキシフェン;天然抗新生物薬、例えば、タキサン(例えば、ドセタキセルおよびパクリタキセル)、アルデスロイキン、インターロイキン−2、エトポシド(VP−16)、インターフェロンアルファ、およびトレチノイン(ATRA);抗生物質の天然抗新生物薬、例えば、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、およびマイトマイシン;ならびにビンカアルカロイド天然抗新生物薬、例えば、ビンブラスチンおよびビンクリスチンを含む。
【0087】
さらに、以下の薬物も、それら自体で抗新生物剤と見なされなくても、抗新生物剤と組み合わせて使用される場合がある:ダクチノマイシン;ダウノルビシンHCl;ドセタキセル;ドキソルビシンHCl;エポエチンアルファ;エトポシド(VP−16);ガンシクロビルナトリウム;ゲンタマイシン硫酸塩;インターフェロンアルファ;ロイプロリド酢酸塩;メペリジンHCl;メタドンHCl;ラニチジンHCl;ビンブラスチン硫酸塩(vinblastin sulfate);およびジドブジン(AZT)。例えば、フルオロウラシルは、最近、エピネフリンおよびウシコラーゲンと併せて製剤化されて、特に有効な組み合わせが形成された。
【0088】
なおさらに、以下のリストのアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、多糖、および他の大型分子も使用され得る:変異体および類似体を含めたインターロイキン1〜18;インターフェロンまたはサイトカイン、例えば、インターフェロンα、β、およびγ;ホルモン、例えば、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)および類似体、ならびにゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH);増殖因子、例えば、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、成長ホルモン放出因子(GHRF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子相同因子(FGFHF)、肝細胞増殖因子(HGF)、およびインスリン増殖因子(IGF);腫瘍壊死因子−α&β(TNF−α&β);浸潤阻害因子−2(IIF−2);骨形態形成タンパク質1〜7(BMP1〜7);ソマトスタチン;サイモシン−α−1;γ−グロブリン;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD);補体因子;抗血管新生因子;抗原性物質;ならびにプロドラッグ。
【0089】
本明細書に記載の組成物および処置の方法とともに使用するための化学療法剤としては、それだけに限らないが、アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロホスファミド(cyclosphosphamide);スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン(piposulfan);アジリジン、例えば、ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパ;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethiylenethiophosphoramide)、およびトリメチロールオメラミン(trimethylolomelamine)を含めたエチレンイミンおよびメチルアメラミン;アセトゲニン(特にブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)、およびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW−2189およびCB1−TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン;スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード、例えば、クロランブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素(nitrosurea)、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン(ranimnustine);抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマlIおよびカリケアマイシンオメガl1;ジネマイシン(dynemicin)Aを含めたジネマイシン;クロドロネートなどのビスホスホネート;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連した色素タンパク質エンジイン抗生物質(antiobiotic)発色団、アクラシノマイシン(aclacinomysin)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン(caminomycin)、カルジノフィリン、クロモマイシン(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;抗代謝産物、例えば、メトトレキセートおよび5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤(anti−adrenal)、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;フロリン酸(frolinic acid)などの葉酸補充剤(folic acid replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトラキセート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン(diaziquone);エルフォルミチン(elformithine);エリプチニウム酢酸塩(elliptinium acetate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン;マイタンシノイド、例えば、マイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocin);ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体);ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフラン(sizofuran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A、およびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドキセタキセル;クロランブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金配位錯体、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT−11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(difluoromethylomithine)(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が挙げられる。
【0090】
別の実施形態では、本発明の組成物は、治療薬またはプロドラッグを含めた他の生物学的活性物質、例えば、他の化学療法剤、スカベンジャー化合物、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗炎症剤、血管収縮剤、および抗凝固剤、がんワクチン適用に有用な抗原、または対応するプロドラッグを含み得る。
【0091】
例示的なスカベンジャー化合物としては、それだけに限らないが、チオール含有化合物、例えば、グルタチオン、チオ尿素、およびシステイン;アルコール、例えば、マンニトール、置換フェノール;キノン、置換フェノール、アリールアミン、およびニトロ化合物が挙げられる。
【0092】
様々な形態の化学療法剤および/または他の生物学的に活性な薬剤が使用され得る。これらとしては、限定することなく、生物学的に活性である無荷電分子、分子複合体、塩、エーテル、エステル、アミドなどの形態が挙げられる。
【0093】
E.シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物を作製する方法
シクロデキストリン/ATP阻害剤組成物、およびこれらの製剤を調製する方法は、本発明の化合物を担体、および任意選択で1種または複数の副成分と会合させるステップを含む。一般に、製剤は、本明細書に記載のATP産生の選択的阻害剤をシクロデキストリンと均一かつ密接に会合させることによって調製される。一般に、このような複合体は、治療剤(例えば、ATP産生の選択的阻害剤を含有する溶液)を滴下添加してシクロデキストリン(例えば、シクロデキストリンを含有する溶液)を攪拌および混合するか、または逆の場合も同様にすることによって得ることができる。阻害剤およびシクロデキストリンを組み合わせることの助けになる多くの混合手段、例えば、限定することなく、超音波処理、ボルテックス、撹拌、加熱、共沈、中和、スラリー化、混練、粉砕などが、当技術分野で公知である。治療剤の物理的性質によって治療剤として溶媒中に溶解した物質または固体物質を使用することが可能である。溶媒についての特定の制限事項はなく、例えば、シクロデキストリン外相と同一の物質を使用することができる。シクロデキストリンと混合される治療剤の量は、組込みの所望レベルに応じて等モル量または異なる比であり得る。一部の実施形態では、ATP産生の選択的阻害剤の絶対量は、シクロデキストリンの量に対して、0.001〜10mol当量、0.01〜1mol当量の間の範囲、または両端を含む任意の範囲であり得る。また、加熱温度についての特定の制限事項はない。例えば、5℃またはそれ超、室温またはそれ超(例えば、20℃またはそれ超も好ましい)は、すべて許容される。
【0094】
任意の望まれない、または組み込まれなかった複合体または組成物、例えば、シクロデキストリンによってカプセル化されなかった治療剤、もしくはリポソームによってカプセル化されなかった治療剤シクロデキストリン複合体を除去するための周知の方法が存在する。代表例としては、限定することなく、透析、遠心分離、およびゲル濾過が挙げられる。透析は、例えば、透析膜を使用して行うことができる。透析膜として、分子量カットオフを有する膜、例えば、セルロースチューブまたはSpectra/Porを引用することができる。遠心分離に関して、遠心加速度は、任意で、好ましくは100,000gまたはそれ超で、より好ましくは300,000gまたはそれ超で行われる。ゲル濾過は例えば、セファデックスまたはセファロースなどのカラムを使用して分子量に基づいて分画を行うことによって実施され得る。
【0095】
一部の場合では、薬物の効果を延長するために、皮下または筋肉内注射からの薬物の吸収を修正する(例えば、遅くする)ことが望ましい。これは、難水溶性を有する結晶性または非晶質材料の液体懸濁液を使用することによって達成され得る。そのとき、薬物の吸収の速度は、溶解のその速度に依存し、それはひいては、結晶サイズおよび結晶形に依存し得る。代わりに、非経口的に投与される薬物形態の吸収の遅延は、油ビヒクル中に薬物を溶解または懸濁させることによって達成することができる。一部の実施形態では、本明細書に記載のシクロデキストリンカプセル化選択的ATP阻害剤組成物は、リポソーム中に充填することができる。
【0096】
注射可能デポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中の対象化合物のマイクロカプセル化マトリックス(microencapsule matrix)を形成することによって作製される。薬物とポリマーとの比、および使用される特定のポリマーの特質に応じて、薬物放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(酸無水物)が挙げられる。デポー注射可能製剤は、体組織に適合するリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬物を捕捉することによっても調製される。
【0097】
F.治療法
本発明はさらに、がん性腫瘍を含めたがんを防止し、遅延させ、低減し、かつ/または処置する新規治療法を提供する。一実施形態では、処置の方法は、有効量のシクロデキストリン/選択的ATP産生阻害剤組成物を被験体(例えば、それを必要とする被験体)に投与することを含む。それを必要とする被験体として、例えば、前がん性腫瘍、がんを含めた腫瘍と診断された被験体、または以前の処置に対して難治性であった被験体を含めた、処置されている被験体を挙げることができる。
【0098】
治療剤の「治療有効量」のような用語「有効量」は、所望の生物学的応答を誘発するのに必要な薬剤の量を指す。当業者によって認識されるように、薬剤の有効量は、所望の生物学的なエンドポイント、送達される薬剤、医薬組成物の組成、標的組織または細胞などの要因に応じて変動し得る。より具体的には、用語「有効量」は、所望の効果を生じさせる、例えば、疾患、障害、もしくは状態、またはこれらの1つもしくは複数の症状の重症度、継続時間、進行、または発症を低減し、または回復させる;疾患、障害、または状態の進展(advancement)を防止する;疾患、障害、または状態を後退させる;疾患、障害、または状態と関連した症状の再発、発生、発症、または進行を防止する、あるいは別の療法の予防的または治療的な効果(複数可)を増強または改善するのに十分な量を指す。
【0099】
本発明の方法は、任意のがん性または前がん性腫瘍を処置するのに使用され得る。ある特定の実施形態では、がん性腫瘍は、高度に解糖的な表現型を有する。例えば、高度に解糖的な腫瘍は、脳、結腸、泌尿生殖器、肺、腎臓、前立腺、膵臓、肝臓、食道、胃、造血、乳房、胸腺、精巣、卵巣、皮膚、骨髄、および/または子宮組織から選択される組織中に位置し得る。一部の実施形態では、本発明の方法および組成物は、任意のがんを処置するのに使用され得る。本発明の方法および組成物によって処置され得るがんは、それだけに限らないが、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮に由来するがん細胞を含む。さらに、がんは、具体的には、以下の組織型のものであり得るが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘体細胞癌;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;石灰化上皮腫(pilomatrix carcinoma);移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;混合型肝細胞癌および胆管癌;柱状腺癌(trabecular adenocarcinoma);腺様嚢胞癌;腺腫様ポリープ内腺癌;腺癌、大腸家族性ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌(branchiolo−alveolar adenocarcinoma);乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞性腺癌;乳頭状濾胞性腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜癌(endometroid carcinoma);皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳道腺癌(ceruminous adenocarcinoma);粘液性類表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢胞腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性腺管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;腺癌w/扁平上皮化生;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫、悪性;脂質細胞腫、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色細胞腫;グロムス血管肉腫(glomangiosarcoma);悪性黒色腫;メラニン欠乏性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑における悪性黒色腫(malig melanoma);類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣状横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽細胞腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胎生期癌;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管外皮細胞腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨の巨細胞腫;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル芽細胞歯牙肉腫(ameloblastic odontosarcoma);エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;神経膠芽腫;乏突起神経膠腫;乏突起膠芽細胞腫;原始神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅神経原性腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン;側肉芽腫(paragranuloma);悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大細胞、びまん性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;特定された他の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病(lymphosarcoma cell leukemia);骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞性白血病;巨核芽球性白血病(megakaryoblastic leukemia);骨髄性肉腫;およびヘアリー細胞白血病。
【0100】
本明細書に記載の組成物は、経口的、経鼻的、経粘膜的、経眼的、直腸に、膣内や、筋肉内、皮下、髄内注射、および髄腔内、直接脳室内、静脈内、関節内、胸骨内、滑液包内、肝内、病巣内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内、もしくは眼内注射を含む非経口的、槽内、頬側および舌下を含む散剤、軟膏剤、もしくは滴剤(点眼剤を含む)などによる局部的、経皮的、吸入スプレーによる、または当技術分野で公知の送達の他の様式を含めた任意の適当な投与経路によって送達することができる。
【0101】
用語「全身投与」、「全身投与される」、「末梢投与」、および「末梢投与される」は、本明細書において、患者の系に入り、したがって代謝および他の同様のプロセスに供されるような選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体の投与を意味する。
【0102】
用語「非経口投与」および「非経口的に投与される」は、本明細書において、通常注射による、経腸および局部投与以外の投与様式を意味し、限定することなく、静脈内、筋肉内、動脈内(intarterial)、髄腔内、嚢内、眼窩内、眼内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内の注射および注入を含む。
【0103】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、一般に(例えば、経口または非経口投与を介して)送達される。ある特定の他の実施形態では、医薬組成物は、腫瘍内への直接注射、または腫瘍の血液供給(例えば、動脈もしくは静脈血供給)内への直接注射によって局所的に送達される。一部の実施形態では、医薬組成物は、一般的投与および局所投与の両方によって送達される。例えば、腫瘍を有する被験体は、本発明の医薬組成物の経口投与と組み合わせて、腫瘍または腫瘍の血液供給内への本明細書に記載の組成物を含有する組成物の直接注射によって処置される場合がある。局所投与および一般的投与の両方が使用される場合、局所投与は、一般的投与の前、それと同時的に、かつ/またはその後に行うことができる。
【0104】
ある特定の実施形態では、がん性または前がん性腫瘍の処置を含めた本発明の処置の方法は、被験体に第2の薬剤および/または療法と組み合わせて本明細書に記載の組成物を投与することを含む。「〜と組み合わせて」とは、同時に、逐次的に、またはこれらの組み合わせで1種または複数の治療剤とともに、選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体を投与することを意味する。したがって、選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体および/または治療剤の組み合わせを投与される被験体は、本明細書に記載の選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体、および1種または複数の治療剤を、両薬剤の組み合わせの効果が被験体中で達成される限り、同じ時間に(すなわち、同時に)、または異なる時間に(すなわち、同じ日もしくは異なる日にいずれの順序でも逐次的に)受けることができる。逐次的に投与される場合、薬剤は、互いに1、5、10、30、60、120、180、240分、またはそれ超内に投与することができる。他の実施形態では、逐次的に投与される薬剤は、互いに1、5、10、15、20、またはそれ超の日数内に投与することができる。
【0105】
組み合わせで投与される場合、特定の生物学的応答を誘発するための薬剤のそれぞれの有効濃度は、単独で投与される場合の各薬剤の有効濃度未満であり得、それによって、薬剤が単剤として投与される場合に必要とされる用量と比べて薬剤の1つまたは複数の用量の低減を可能にする。複数の薬剤の効果は、相加的または相乗的であり得るが、そうである必要はない。薬剤は、複数回投与される場合がある。このような組み合わせ療法では、最初に投与される薬剤の治療効果は、後続の薬剤(複数可)の逐次、同時、または別個の投与によって縮小されない。
【0106】
このような方法は、ある特定の実施形態では、本明細書に記載の化学療法剤を含めた1種または複数の化学療法剤および/またはスカベンジャー化合物、ならびに当技術分野で公知の他の薬剤と併せて本明細書に記載の組成物を含む医薬組成物を投与することを含む。併用療法は、投与された第1の選択的ATP阻害剤の治療効果が、後続の化合物が投与されるとき、完全に消失していない方法で組成物の逐次、同時、および別個の投与、または共投与を含む。一実施形態では、第2の薬剤は、化学療法剤である。別の実施形態では、第2の薬剤は、スカベンジャー化合物である。別の実施形態では、第2の薬剤は、放射線療法である。さらなる実施形態では、放射線療法を組成物に加えて投与してもよい。ある特定の実施形態では、第2の薬剤は、別個の医薬組成物中に共製剤化され得る。
【0107】
一部の実施形態では、本発明の対象医薬組成物は、予防的または治療的処置の一部として、治療有効量の組み込まれた治療剤または他の材料を患者に送達するのに十分な量で送達される1種または複数の物質を組み込む。粒子中の活性化合物の所望の濃度は、薬物の吸収速度、不活化速度、および排出速度、ならびに化合物の送達速度に依存する。投与量値は、軽減される状態の重症度によっても変動し得ることが留意されるべきである。任意の特定の被験体について、具体的な投薬レジメンは、個体の必要性、および組成物の投与を施し、または監督する者の専門的な判断によって時間をわたって調整されるべきであることがさらに理解されるべきである。典型的には、投薬は、当業者に公知の技法を使用して決定される。
【0108】
投与量は、患者の体重1kg当たりの組成物またはその活性化合物(例えば、ATP産生の選択的阻害剤)の量に基づき得る。例えば、患者の体重1kg当たり約0.001、0.01、0.1、0.5、1、10、15、20、25、50、75、100、150、200、もしくは250mg、またはそれ超のこのような組成物を含めた、ある範囲の量の組成物またはその中にカプセル化された化合物が企図されている。他の量は、当業者に公知であり、容易に決定される。
【0109】
ある特定の実施形態では、組成物またはその活性化合物(例えば、ATP産生の選択的阻害剤)の投与量は、通常、体重1kg当たり約0.001mg〜約250mgの範囲、具体的には1kg当たり約50mg〜約200mgの範囲、より具体的には1kg当たり約100mg〜約200mgの範囲である。一実施形態では、投与量は、1kg当たり約150mg〜約250mgの範囲である。別の実施形態では、投与量は、1kg当たり約200mgである。
【0110】
一部の実施形態では、医薬組成物中の組成物またはその活性化合物(例えば、ATP産生の選択的阻害剤)のモル濃度は、約2.5M、2.4M、2.3M、2.2M、2.1M、2M、1.9M、1.8M、1.7M、1.6M、1.5M、1.4M、1.3M、1.2M、1.1M、1M、0.9M、0.8M、0.7M、0.6M、0.5M、0.4M、0.3M、もしくは0.2M未満であるか、またはそれらに等しい。一部の実施形態では、組成物またはその活性化合物(例えば、ATP産生の選択的阻害剤)の濃度は、約0.10mg/ml、0.09mg/ml、0.08mg/ml、0.07mg/ml、0.06mg/ml、0.05mg/ml、0.04mg/ml、0.03mg/ml、もしくは0.02mg/ml未満であるか、またはそれらに等しい。
【0111】
代わりに、投与量は、組成物またはその活性化合物(例えば、ATP産生の選択的阻害剤)の血漿濃度を参照することによって決定される場合がある。例えば、最大血漿濃度(C
max)および時間0〜無限大までの血漿濃度−時間曲線下面積(AUC(0−4))が使用され得る。本発明についての投与量は、C
maxおよびAUC(0−4)について上記値を生じさせるもの、ならびにそれらのパラメータについてより大きいまたはより小さい値をもたらす他の投与量を含む。
【0112】
本発明の組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、患者に対して有毒であることなく、特定の患者、組成物、および投与様式について所望の治療応答を達成するのに有効である活性成分の量を得るように変更され得る。
【0113】
選択される投与量レベルは、用いられる製剤中の特定の治療剤、またはそのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時間、用いられている特定の治療剤の排出速度または代謝速度、処置の継続時間、用いられる特定の化合物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または材料、処置されている患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康、および先の医療歴、ならびに医療分野において周知の同様の要因を含めた様々な要因に依存する。
【0114】
当技術分野における通常の技能を有する医師または獣医は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定および処方することができる。例えば、医師または獣医は、所望の治療効果を達成するのに必要とされるものより低いレベルで医薬組成物中に用いられる本発明の化合物の用量を処方および/または投与し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増大させることができる。
【0115】
一般に、本発明の化合物の適当な一日用量は、治療効果を生じさせるのに有効な最低用量である化合物の量である。このような有効用量は一般に、上述した要因に依存する。
【0116】
所望される場合、活性化合物の有効な一日用量を、1日を通して適切な間隔で、任意選択で単位剤形で別個に投与される、2、3、4、5、6、またはそれ超の部分用量(sub−dose)として投与してもよい。
【0117】
所与の患者において最も有効な処置を生じる任意の特定の化合物の投与の正確な時間および量は、特定の化合物の活性、薬物動態、および生物学的利用能、患者の生理的条件(年齢、性別、疾患のタイプおよび病期、一般的な身体状態、所与の投与量および薬物適用のタイプに対する応答性を含む)、投与経路などに依存する。本明細書に提示した指針は、例えば、投与の最適な時間および/または量を決定して、処置を最適化するのに使用することができ、それは、被験体の監視ならびに投与量および/またはタイミングの調整からなる慣例的な実験しか必要としない。
【0118】
被験体が処置されている間、患者の健康は、24時間の期間中の所定の時間において妥当な指標の1つまたは複数を測定することによって監視することができる。サプリメント、量、投与の時間、および製剤を含めた、処置のすべての側面を、このような監視の結果によって最適化することができる。患者は、同じパラメータを測定することによって改善の程度を決定するのに定期的に再評価されてもよく、最初のこのような再評価は、典型的には、療法の開始から4週間の最後に行われ、後続の再評価は、療法中4〜8週間毎に、次いでその後3カ月毎に行われる。療法は、数カ月またはさらには数年継続し得、最短1カ月がヒトに対する療法の典型的な長さである。例えば、投与される薬剤の量(複数可)および投与の時間に対する調整は、これらの再評価に基づいて行うことができる。
【0119】
処置は、化合物の最適用量未満であるより少ない投与量で開始され得る。その後、投与量を、最適な治療効果が達成されるまで小さい増分で増大させることができる。
【0120】
上述したように、組成物またはその活性化合物(例えば、ATP産生の選択的阻害剤)は、放射線療法と組み合わせて投与されてもよい。放射線療法の最適化された線量が、一日線量として被験体に与えられ得る。放射線療法の最適化された一日線量は、例えば、約0.25〜0.5Gy、約0.5〜1.0Gy、約1.0〜1.5Gy、約1.5〜2.0Gy、約2.0〜2.5Gy、および約2.5〜3.0Gyであり得る。例示的な一日線量は、例えば、約2.0〜3.0Gyであり得る。例えば、腫瘍がより低線量の放射線に対して耐性である場合、より高線量の放射線が投与される場合がある。高線量の放射線は、例えば、4Gyに到達し得る。さらに、処置の過程にわたって投与される放射線の合計線量は、例えば、約50〜200Gyの範囲であり得る。例示的な実施形態では、処置の過程にわたって投与される放射線の合計線量は、例えば、約50〜80Gyの範囲である。ある特定の実施形態では、一線量の放射線が、例えば、1、2、3、4、または5分の時間間隔にわたって与えられる場合があり、時間の量は、線源の線量率に依存する。
【0121】
ある特定の実施形態では、一日線量の最適化された放射線が、例えば、1週間に4または5日、およそ4〜8週間にわたって投与され得る。代替的実施形態では、一日線量の最適化された放射線が、1週間に7日、毎日、およそ4〜8週間投与される場合がある。ある特定の実施形態では、一日線量の放射線が、単回線量で与えられる場合がある。あるいは、一日線量の放射線を、複数の線量として与えてもよい。さらなる実施形態では、最適化された線量の放射線は、一日ベースで患者によって耐容され得るより高線量の放射線である場合がある。したがって、高線量の放射線が患者に投与される場合があるが、より少ない頻度の投薬レジメンで投与される。
【0122】
がん処置で使用され得る放射線のタイプは、当技術分野で周知であり、線形加速器、またはコバルトもしくはセシウムなどの放射性源、プロトン、および中性子からの電子ビーム、高エネルギー光子を含む。例示的なイオン化放射線は、X線放射線である。
【0123】
放射線を投与する方法は、当技術分野で周知である。例示的な方法としては、それだけに限らないが、外部ビーム照射、内部ビーム照射、および放射性薬品が挙げられる。外部ビーム照射では、がんに冒された体のエリアに高エネルギーX線を送達するのに線形加速器が使用される。放射線源は体の外側に由来するので、外部ビーム照射は、均一な線量の放射線で体の大きいエリアを処置するのに使用することができる。内部放射線療法は、近接照射療法としても公知であり、高線量の放射線を体の特定の部位に送達することを伴う。内部放射線療法の2つの主要なタイプは、放射線源が患部組織(effected tissue)内に配置される組織内照射、および放射線源が患部から短い距離の内部体腔内に配置される腔内照射(intracavity radiation)を含む。放射性材料も、腫瘍−特異的抗体への付着によって腫瘍細胞に送達され得る。内部放射線療法で使用される放射性材料は、典型的には、小型カプセル、ペレット、ワイヤー、チューブ、またはインプラント中に含有される。対照的に、放射性薬品は、経口的に、静脈内に、または体腔中に直接与えることができる密閉されていない放射線源である。
【0124】
放射線療法は、線形加速器またはガンマナイフ、および放射線処置の前に腫瘍の位置をマッピングするためのコンピューター支援療法である3次元等角放射線療法(three dimensional conformal radiation therapy)(3DCRT)を使用して、正確な量の放射線を小さい腫瘍エリアに送達することができる、定位手術または定位放射線療法も含み得る。
【0125】
対象化合物の毒性および治療有効性は、例えば、LD
50およびED
50を決定するのに、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。大きい治療指数を呈する組成物が好適である。一部の実施形態では、LD
50(致死投与量)は、測定することができ、いずれのシクロデキストリンカプセル化も伴わない選択的ATP阻害剤と比べて、本明細書に記載のシクロデキストリンカプセル化選択的ATP阻害剤組成物について、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれ超低減することができる。同様に、ED
50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する濃度)も、測定することができ、いずれのシクロデキストリンカプセル化も伴わない選択的ATP阻害剤と比べて、本明細書に記載のシクロデキストリンカプセル化選択的ATP阻害剤組成物について、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれ超増大させることができる。やはり同様に、IC
50(すなわち、がん細胞に対する最大半量の細胞傷害効果または細胞増殖抑制効果を達成する濃度)も、測定することができ、いずれのシクロデキストリンカプセル化も伴わない選択的ATP阻害剤と比べて、本明細書に記載のシクロデキストリンカプセル化選択的ATP阻害剤組成物について、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、またはそれ超増大させることができる。有毒な副作用を呈する化合物を使用してもよいが、副作用を低減するために、化合物を所望の部位に標的化する送達系を設計するのに注意が払われるべきである。
【0126】
一部の実施形態では、本開示の方法は、アッセイにおいて、がん細胞成長の少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはさらには100%の阻害を生じさせる。
【0127】
上述した方法のいずれかにおいて、選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体を投与すると、選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体を投与する前の固形悪性疾患と比較して、被験体の固形悪性疾患において少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはさらには100%の減少をもたらすことができる。
【0128】
一部の実施形態では、治療有効量の選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリンの複合体は、被験体において固形悪性疾患が形成することを防止するのに予防的に投与される。
【0129】
一部の実施形態では、被験体は、ヒトである。他の実施形態では、被験体は、哺乳動物などの非ヒトである。
【0130】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータを、ヒトで使用するための一連の投与量を策定するのに使用してもよい。任意のサプリメント、または代わりにその中の任意の構成要素の投与量は、好ましくは、ほとんどまたはまったく毒性を伴わないED
50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変動し得る。本発明の薬剤について、治療有効用量は、細胞培養アッセイから最初に推定される場合がある。用量は、細胞培養で決定されるIC
50を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて策定され得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するのに使用することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。
【0131】
G.キット
本明細書に記載の選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体および組成物を組み立てて、がんなどの疾患を処置または防止するのに使用するためのキットまたは医薬品システムにすることができる。一部の実施形態では、3−BrPA−シクロデキストリン複合体および組成物は、がんによって引き起こされる固形悪性疾患を防止または処置するのに使用することができる。一般に、本開示のキットは、本開示の主題による方法を実行するための構成要素、試薬、備品などの一部またはすべてを含有する。キットは、典型的には、望まれない疾患(例えば、固形悪性疾患)を防止し、遅延させ、低減し、または処置するための有効量の複合体を含む。一実施形態では、キットは、本明細書に記載の選択的ATP産生阻害剤/シクロデキストリン複合体および/またはその組成物を含む、少なくとも1つの容器(例えば、カートン、ボトル、バイアル、チューブ、またはアンプル)を含む。典型的には、複合体および/または組成物は、1つまたは複数の容器で供給され、各容器は、固形悪性疾患が後退し、減速し、または停止されるのを可能にする有効量の複合体を含有する。
【0132】
したがって、一部の実施形態では、本開示の主題は、少なくとも1種のシクロデキストリン担体内にカプセル化された少なくとも1種の選択的ATP産生阻害剤を含むキットを提供する。他の実施形態では、キットは、少なくとも1種のシクロデキストリン担体内にカプセル化された少なくとも1種の選択的ATP産生阻害剤を使用するための一組の指示書をさらに含む。
【0133】
選択的ATP産生阻害剤およびシクロデキストリンを別個に貯蔵し、次いで使用前にこれらを組み合わせることが望ましい場合がある。したがって、さらに他の実施形態では、キットは、1つの容器中の少なくとも1種の選択的ATP産生阻害剤、および別の容器中の少なくとも1種のシクロデキストリン担体を含む。
【実施例】
【0134】
以下の実施例を、本開示の主題の代表的な実施形態を実行するための指針を当業者に提供するために含めた。本開示および当技術分野における技能の一般的なレベルを踏まえると、当業者は、以下の実施例が、単に例示的であるように意図されており、多数の変化、改変、および変更を、本開示の主題の範囲から逸脱することなく用いることができることを認識することができる。以下の実施例を、例示として、かつ限定の目的でなく提供する。
【0135】
実施例1:実施例2〜3のための材料および方法
A.修飾β−シクロデキストリンを合成するための一般的な方法
スクシニル−β−シクロデキストリンは、Sigma Chemical(St.Louis、MO、USA;カタログ番号85990)から購入した。無修飾β−シクロデキストリンおよびα−シクロデキストリンを購入した(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)。
【0136】
しかし、スクシニル化シクロデキストリンは、合成することもできる。例えば、β−シクロデキストリン(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)を、第一級6’ヒドロキシル基においてピリジン中の塩化トシル0.9モル当量を用いてモノトシル化して、対応するトシル酸塩を得た。これを、アセトン中のヨウ化ナトリウムで処理することによってヨード誘導体に変換した。ヨード誘導体を、適切なアミンとともに80℃で8〜12時間加熱することによって、所望の6’アミノ化シクロデキストリンに変換した(TangおよびNg(2008年)、Nat. Protocol.、3巻:691〜697頁)。6’モノ−スクシニル−β−シクロデキストリンを、DMF中の無水コハク酸0.9当量で親β−シクロデキストリンを処理することによって合成した(Cucinottaら(2005年)、J. Pharmaceut. Biomed. Anal.、37巻:1009〜1014頁)。生成物をアセトン中で沈殿させ、使用前にHPLCによって精製した。
【0137】
最適な安定性を有するpH範囲は、pH4〜9である。
【0138】
B.カプセル化複合体を調製する一般的な手順
1:1の比のスクシニル−β−シクロデキストリン内にカプセル化した3−BrPAを調製した。3−BrPA(150mg、1mmol)を、スクシニル−ベータ−シクロデキストリンの撹拌溶液(蒸留水中1,500mg)に少しずつ(それぞれ10mg)添加した。添加が完了した後、溶液を室温で1時間超音波処理した。次いで超音波処理した溶液を、25℃にてサーモミキサー(thermomixer)上で一晩振盪させ、ドライアイス−アセトン浴中でフラッシュ凍結させ、凍結乾燥させた。
【0139】
同様に、2:1の比のスクシニル−β−シクロデキストリン内にカプセル化した3−BrPAを調製した。3−BrPA(166mg、1mmol)を、スクシニル−ベータ−シクロデキストリンの撹拌溶液(蒸留水20ml中918mg)に少しずつ(それぞれ10mg)添加した。添加が完了した後、溶液を室温で1時間超音波処理した。次いで超音波処理した溶液を、25℃にてサーモミキサー上で一晩振盪させ、ドライアイス−アセトン浴中でフラッシュ凍結させ、凍結乾燥させた。
【0140】
さらに、1:1の比のα−シクロデキストリン(以下の構造を参照)内にカプセル化した3−BrPAを調製した。3−BrPA(166mg、1mmol)を、アルファ−シクロデキストリンの撹拌溶液(蒸留水10ml中972mg、1mmol)に少しずつ(それぞれ10mg)添加した。添加が完了した後、溶液を室温で1時間超音波処理した。次いで超音波処理した溶液を、25℃にてサーモミキサー上で一晩振盪させ、ドライアイス−アセトン浴中でフラッシュ凍結させ、凍結乾燥させた。非GRASおよびGRASバージョンを使用し、同様の結果を伴った。
【0141】
α−シクロデキストリンの構造
【0142】
【化3】
【0143】
そのα−D−グルコピラノシド単位の1つまたは複数上の1つまたは複数のヒドロキシル基を、負電荷(アニオン)をもたらすイオン化可能な基で置き換えるように修飾されたシクロデキストリンは、正電荷(カチオン)をもたらすイオン化可能な基を有するもの、または無修飾アルファ−もしくはベータ−シクロデキストリンなどの無修飾シクロデキストリンより良好に3−ハロピルベートを安定化させると意外にも決定された。β−シクロデキストリンは、α−シクロデキストリンより有意に良好に、特にin vivo有効性、およびまたin vitro有効性に関して3−BrPAを保護し、安定化させる形態で3−BrPAをカプセル化することも、意外にも決定された。
【0144】
さらに、in vitro細胞培養およびin vivoマウス処置を、3−BrPAをカプセル化している一般に安全と認識されている(GRAS)バージョンのβ−シクロデキストリン(例えば、以下の化学形態で示したものなどの3〜5の置換レベルを有するヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)を使用して、3−BrPAをカプセル化しているスクシニル−β−シクロデキストリンについて上記および以下に記載したように調製および実施した。結果は、3−BrPAをカプセル化しているスクシニル−β−シクロデキストリンについて記載したものと同様であった。
【0145】
GRASヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの構造
【0146】
【化4】
【0147】
C.in vitro細胞培養
3−BrPAおよびβ−シクロデキストリン(ビヒクル)は、Sigma Chemical(St.Louis、MO、USA)から購入した。生存度アッセイのために、MiaPaCa−2細胞およびSuit−2細胞を、1ウェル当たり5×10
3細胞の密度で96−ウェルプレート中に三連で播種した。12時間後、細胞を3−BrPA、CD−3BrPA(0〜150μm)、およびビヒクルの濃度を上昇させて処置した。細胞内ATPレベルを、製造者のプロトコールに従って、Cell Titer−Glo Luminescence Cell Viabilityアッセイキット(Promega、Durham、NC、USA)を使用して測定した。測定は、処置後24時間および72時間に実施した。
【0148】
D.in vivoマウス処置
合計15匹の動物を、5mg/kgのベータ−CD−3BrPA(1:1の比での)(N=10)またはビヒクル対照(N=5)で毎日注射を受けるようにランダム化した。ベースライン生物発光イメージングにより、すべての動物において腫瘍成長を確認した(5匹の代表的な動物を
図4および
図5に示す)。腹腔内注射をして2週間後に、すべての動物をフォローアップイメージングに供した。ビヒクルで処置した動物は、生物発光シグナルの強い増大を実証し、腫瘍進行を表した。
【0149】
雄の胸腺欠損ヌードマウス(20〜25g、4週齢、Crl:Nu−Nu、Charles River Laboratories、Wilmington、MA、USA)を、承認されたプロトコールの下で施設の指針に従って使用した。マウスを、食物および水を自由に与えて、一定の温度および湿度にて層流室内で維持した。伸長因子1アルファプロモーターの制御下のルシフェラーゼ−アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ融合遺伝子を安定にトランスフェクトしたMiaPaCa−2細胞株を使用した。マウスをイソフルラン吸入麻酔によって麻酔した後、手術および処置を行った。小さい左腹部脇腹切開を行い、膵臓を外面化させた。同所性の膵臓腫瘍を、膵臓の尾部内に1〜2×10
6個のMiaPaCa−2細胞を注射することによって生成した。腫瘍細胞の成功裏の被膜下膵臓内注射は、腹腔内漏出を伴わない流体ブレブ(fluid bleb)の出現によって特定した。
【0150】
生物発光イメージング(BLI)のために、同所性の腫瘍を担持する麻酔したマウスに、150mg/kgのD−ルシフェリン(Gold Biotechnilogy、St Louis、MO、USA)を腹腔内に注射し、IVIS100(Xenogen Corp、Alameda、CA、USA)を使用して5分後に光学的に画像化した。検出された光子の空間分布を表した疑似カラー画像を、グレースケール写真画像上に重ねた。シグナル強度を、Living Imageソフトウェア(Xenogen Corp.)を使用して10秒間露光した後、ROI(p/s/cm
2/Sr)で定量化した。イメージングは、腫瘍を移植して7、14、21、28、および35日後に実施した。
【0151】
腫瘍を移植して1週間後にBLIを使用して各動物における腫瘍成長を確認した後、すべての動物を、毎日の腹腔内注射(注射体積、500μl/マウス/日;用量、5mg/kg)を介して3−BrPA、CD−3BrPA、またはビヒクルを受けるように3つの群にランダム化した。注射液は、7.4のpHに調整したリン酸緩衝食塩水中に化学物質を溶解させることによって調製した。動物を、最初の注射中、1時間当たり1回、かつフォローアップ注射の都度4〜6時間後毎に観察した。全体的な臨床状態のあらゆる変化を、すべての処置群について記録した。
【0152】
最後のBLIイメージングをして24時間後以内に、動物を、頸部脱臼を使用して屠殺した。腹部全体を開き、腫瘍を、脾臓および膵臓を含む一塊とした抽出を使用して得た。腫瘍標本を、4%パラホルムアルデヒドを使用して72時間固定し、パラフィンで包埋し、切片にした。組織切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色し、病理学者の診察で解釈した。
【0153】
実施例2:ヒト膵がん細胞株に対する3−BrPAをカプセル化しているシクロデキストリンのin vitro効果
ヒト膵がんの2種の細胞株、すなわちMiapaCa−2およびSuit−2を、3−BrPAおよびCD−3−BrPAに対するこれらの応答について試験した。MiaPaCa−2は、局所的に浸潤性のヒト腺癌に由来し、膵臓内に典型的な充実性結節を形成する。これは、ゲムシタビンを含めたいくつかの標準治療抗がん剤に対して顕著な耐性を示すことが公知である。Suit−2は、転移性の肝臓腫瘤から単離された高度に侵襲性の膵臓腫瘍に由来する。これは、浸潤および遊走などの高度に侵襲性の表現型の性質を有する。細胞応答または細胞生存度を、標準的なATP生存度アッセイを使用してアッセイした。各実験は、三連の生体試料を用いて少なくとも2回繰り返した。
【0154】
図2A〜
図2Bは、24時間の処置後のMiaPaCa−2細胞(
図2A)およびSuit−2細胞(
図2B)に対する3−BrPA(いずれのシクロデキストリンカプセル化または複合体形成も伴わないリン酸緩衝食塩水中の従来の3−BrPA)またはベータ−CD−3−BrPA(リン酸緩衝食塩水中の3−BrPAをカプセル化しているスクシニル−β−シクロデキストリン)の効果を示す。データは、3−BrPA処置細胞と比較してベータ−CD−3−BrPAで処置された細胞の生存度の用量依存性減少を示す。さらに、多剤耐性MiaPaCa2細胞は、Suit2細胞より3−BrPA/CD−3−BrPAに対して感受性であることが見出された。ビヒクル(いかなる3−BrPAも含まないリン酸緩衝食塩水中のβ−シクロデキストリン)は、それ自体で何の毒性にも寄与しなかった。
【0155】
図3は、72時間の処置後のMiaPaCa2細胞に対する3−BrPA(いずれのシクロデキストリンカプセル化または複合体形成も伴わないリン酸緩衝食塩水中の従来の3−BrPA)またはベータ−CD−3−BrPA(リン酸緩衝食塩水中のBrPAをカプセル化しているスクシニル−β−シクロデキストリン)の効果を示す。MiaPaCa−2細胞は、処置の72時間において約50μMの濃度のCD−3−BrPAでさえ、生存度の有意な喪失を示し、一方、24時間における同じ濃度で(
図2A)、生存度の有意な喪失はなかった。したがって、より長い継続時間(48時間)の処置で、かなり低い濃度(50uM)のCD−3−BrPAは、細胞死(約50%の死)を開始するのに十分である(
図3)。
【0156】
実施例3:ヒト膵がんのマウスモデルにおける材料、および3−BrPAをカプセル化しているシクロデキストリンのin vivo効果
ヒト膵がんの胸腺欠損マウスモデルをin vivo試験に使用した。ルシフェラーゼ遺伝子を安定に発現するヒト膵がん細胞株、MiaPaca−2を、膵臓に同所性に移植した。腫瘍成長および応答を、生物発光イメージングによって監視した。
【0157】
表1は、高用量の3−BrPAまたはCD−3−BrPAで処置された腫瘍担持動物において観察された臨床徴候または症状を記載するものである。これらの症状は、偏りのない盲検試験様式で記録した。これらの症状は、5mg/体重1kg超の用量および約3.5mMの濃度(推奨された治療用量より高い)で観察した。望ましくない臨床徴候または症状が3−BrPAで処置したマウスにおいて見られ、これらの徴候または症状は、CD−3−BrPAで処置したマウスにおいて有意により少なく、シクロデキストリン担体は、3−BrPA分子の副作用から被験体を保護することを示した。
【0158】
【表1】
【0159】
スクシニル−β−シクロデキストリン−3−BrPAで処置した動物は、生物発光イメージングで完全またはほとんど完全な腫瘍応答を示した(
図4および
図5)。引き続いて、動物を屠殺して、剖検により生物発光結果を確認した(
図4)。結果は、CD−3BrPAは、CDと複合体形成した後でさえその抗がん活性を保存することを示す。
【0160】
同所性MiaPaCa−2腫瘍の病理組織学的分析を実施した。
図6は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色した腫瘍は、対照群において変化を示さなかった一方、処置した動物から回収した腫瘍は、広範な中心壊死、および解離中の腫瘍組織のエリアを示すことを示す。
【0161】
したがって、シクロデキストリン複合体形成は、in vitroデータおよびin vivoデータの両方から明白であるように、3−BrPAの抗がん性質に影響しないことが決定された。また、3−BrPAの活性は、それが標的臓器または腫瘍に送達または分布されるまでCDによって保存または保護され得る。さらに、動物へのCD−3−BrPA投与は、3−BrPA単独と比較してより少ない毒性または関連した臨床徴候をもたらす。
【0162】
実施例4:実施例5〜6のための材料および方法
実施例2〜3に記載した実験を、以下の材料および方法を使用してこれらから得た結果を進めるために拡張した。例えば、膵管腺癌(PDAC)は、世界におけるがん関連死の4番目に最も一般的な原因として並ぶ(Siegelら(2014年)、CA Canc. J. Clin.、64巻:9〜29頁)。患者の大部分は、進行期で診断されるので、治療選択肢は、限られたままであり、予後は、芳しくなく、5年生存率は、5%未満である(Hidalgo(2010年)、New Engl. J. Med.、362巻:1605〜1617頁)。この20年は、膵がんにおける腫瘍形成および疾患進行の理解の著しい前進をもたらし、それは、現在では多様な、かつ多因性の新生物過程として見ることができる(Hidalgo(2010年)、New Engl. J. Med.、362巻:1605〜1617頁;HanahanおよびWeinberg(2011年)、Cell、144巻:646〜674頁)。膵臓腫瘍組織は、コラーゲンに富む、不十分に血管化した、かつ高度に低酸素の、非新生物間質を含めたいくつかの独特の細胞および非細胞要素から構成されている(Chuら(2007年)、J. Cell. Biochem.、101巻:887〜907頁;MahadevanおよびVon Hoff(207)、Mol. Canc. Therapeut.、6巻:1186〜1197頁)。これらの特性は、ゲムシタビンなどの最も一般に使用される全身適用可能な抗がん剤に対する深刻な化学療法耐性と関連する(Muerkosterら(2004年)、Cancer Res.、64巻:1331〜1337頁;YokoiおよびFidler(2004年)、Clin. Canc. Res.、10巻:2299〜2306頁)。特に、エネルギー代謝の変化が、腫瘍微小環境の組織化の原理に最近加えられており、現在では、膵がんの「顕著な特色」として見ることができる(HanahanおよびWeinberg(2011年)、Cell、144巻:646〜674頁;Guillaumondら(2014年)、Arch. Biochem. Biophys、545巻:69〜73頁。がん細胞のエネルギー供給の主軸としての解糖に対する酸素に無関係な依存は、「Warburg効果」として長く知られているが、この状況はまだ、治療目的のために臨床的に活用されていない(Warburgら(1927年)、J. Gen. Physiol.、8巻:519〜530頁;Ganapathy−KanniappanおよびGeschwind(2013年)、Mol. Cancer、12巻:152頁)。3−ブロモピルベート(3−BrPA)、酵素グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)の高度に強力な低分子阻害剤は、モノカルボン酸トランスポーター1(MCT1)によって選択的にがん細胞に入ることができる唯一利用可能な抗解糖薬候補である(Ganapathy−Kanniappanら(2009年)、Anticancer Res.、29巻:4909〜4918頁;Birsoyら(2013年)、Nature Genet.、45巻:104〜108頁)。3−BrPAの抗腫瘍効果は、局所領域療法の設定におけるいくつかのマウス腫瘍モデルにおいて広範に試験および確認されており、腫瘍への供給動脈(tumor−feeding artery)によって、または直接の腫瘍内注射を用いて送達されている(Otaら(2013年)、Target. Oncol.、8巻:145〜151頁;Geschwindら(2002年)、Canc. Res.、62巻:3909〜3913頁)。しかし、そのアルキル化の性質に起因して、3−BrPAは、治療用量で全身送達される場合、有意な毒性を実証しており、これはひいては、がん患者におけるこの薬物の臨床開発および使用を妨害し得る(Changら(2007年)、Acad. Radiol.、14巻:85〜92頁;Caoら(2008年)、Clin. Canc. Res.、14巻:1831〜1839頁)。
【0163】
A.抗体、試薬、およびキット
以下の一次抗体を使用した:ウサギ抗−MMP−9ポリクローナル抗体(pAB)#3852(Cell Signaling)、DAPI #D1306(Invitrogen)、Alexa Fluor 568 Phalloidin #12380(Life Technologies)、GAPDH(14C10)モノクローナルAB(mAB)Alexa Fluor 488 Conjugate #3906(Cell Signaling)、GAPDH pAB #sc−47724(Santa Cruz)、切断カスパーゼ−3 pAB #9661(Cell Signaling)、MCT−1 pAB #sc50324(Santa Cruz)、およびKi−67キット/抗体(Dako Inc.)。以下の二次抗体を使用した:ヤギ抗ウサギIgG HRP−結合体化 #7074(Santa Cruz)、抗ウサギIgG(H+L)、F(ab’)
2断片PE結合体 #8885(Cell Signaling)、およびヤギ抗マウスIgG−FITC #sc2010。以下の化学物質を使用した:3−ブロモピルビン酸(3−bromopyruvatic acid)(3−BrPA、Sigma Aldrich)、ゲムシタビン塩酸塩(LC Laboratories)、スクシニル−β−シクロデキストリン(β−CD、Sigma Aldrich)、およびD−ルシフェリンカリウム塩(Gold Biotechnology、St Louis、MO、USA)。以下の細胞培養試薬を使用した:RPMI−1640(Life Technologies)、MEM(Life Technologies)、ウシ胎児血清(FBS、Thermo Scientific)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma Aldrich)、コラーゲンIラット尾部(BD Biosciences、#354326)、および制御雰囲気チャンバー(controlled atmosphere chamber)(Plas.Labs)。以下の浸潤アッセイ試薬を使用した:マトリゲル基底膜マトリックス(BD Biosciences)、およびマトリゲル浸潤チャンバートランスウェルポリカーボネート膜インサート(Corning)。以下のキットを使用した:CellTiter−Glo発光細胞生存度アッセイキット(Promega)、デュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイキット(Promega)、2D quantキット(GE Healthcare)、histostain plus 3rd gen ICH検出キット(Invitrogen)、およびdiff quik染色キット(Polysciences Inc.)。以下のイメージング装置を使用した:Zeiss 700 LSM共焦点顕微鏡、Olympus IX81倒立顕微鏡、Eclipse TS100倒立顕微鏡(Nikon)、およびIVIS200(Xenogen Corp.、Alameda、CA)。
【0164】
B.複合体調製および核磁気共鳴(NMR)分光法
β−CD中にカプセル化された3−BrPAを調製するために、3−BrPA(166mg、1mM)を、β−CDの撹拌溶液(DI水20ml中918mg)に少しずつ(それぞれ10mg)添加した。添加が完了した後、溶液を50℃で1時間超音波処理した。次いで超音波処理した溶液を、25℃にてサーモミキサー上で一晩振盪させ、ドライアイス−アセトン浴中でフラッシュ凍結させ、凍結乾燥させた。凍結乾燥した複合体を、さらなる生物学的および生物物理学的試験のためにそのまま使用した。
1H NMR実験を、Bruker Avance分光計で400MHzにて実施した。NMRスペクトルを99.9% D
2O中で記録した、これをテトラメチルシラン(tetramethysilance)(TMS)と比べた百万分率の低磁場で報告する。β−CD単独、3−BrPA単独、または3−BrPAおよびβ−CDの複合体の10mM溶液を、内部標準として1% DSS(3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸、ナトリウム塩;Sigma Aldrich)を用いて調製した。スペクトルを、32スキャンで25℃にて記録した。メチレンプロトンの高磁場シフト(0.1ppm)が、複合体化の後に観察された(
図7を参照)。
【0165】
C.単層細胞培養および生存度アッセイ
2種のヒト膵腺癌細胞株、lucMiaPaCa−2(ルシフェラーゼ−アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ融合遺伝子を安定にトランスフェクトした、Phuoc T.Tran博士によって快く提供された)およびSuit−2(Shinichi Ota博士、日本によって快く提供された)を、ともに10% FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充した、それぞれRPMIまたはMEM培地中で培養した。細胞生存度に対する異なる薬物の効果を、発光ベースキット(CellTiter−Glo、Promega)およびマルチラブル(multilable)96−ウェルプレート(Costar)を使用して細胞内アデノシン三リン酸(ATP)レベルを定量化することによって決定した。lucMiaPaCa−2細胞におけるこの発光(luminiscence)ベースキットを使用する生存度測定の精度および再現性を、デュアルレポーターアッセイキット(Promega)を使用して確認した。簡単に説明すると、5×10
3個の細胞を三連で播種し、正常酸素または低酸素(1% O
2−レベル、制御雰囲気チャンバー内でCO
2および窒素でバランスを取った)条件下で72時間インキュベートした。示した量の遊離3−BrPA、1:1−β−CD−3−BrPA、または対照としてのβ−CDを、PBS中に溶解させ、24時間の処置にわたって培地に添加した。ゲムシタビンを用いた実験については、細胞を24時間インキュベートした後、薬物に72時間曝露した。細胞生存度を製造者のプロトコールに従って決定した。
【0166】
D.3D器官型細胞培養、イメージング、および免疫蛍光
コラーゲン1−ベース3D器官型細胞培養物を使用して、細胞外マトリックス(ECM)に富む環境(environement)を模倣し、腫瘍浸潤に対する3−BrPAの効果を試験した(Cheungら(2013年)、Cell、155巻:1639〜1651頁;Nguyen−NgocおよびEwald(2013年)、J. Microscop.、251巻:212〜223頁)。具体的には、初期に10×DMEM 25μlおよびコラーゲンI(3.83mg/ml)217μlからなっていたコラーゲン溶液を氷上で調製した。pH値は、pH=7.0に到達するように水酸化ナトリウム(Sigma Aldrich)を滴下添加することによって調整した。次いでコラーゲンIを、DMEM F12/GlutaMAX(Life Technologies)を使用して希釈して、3mg/mlの最終濃度にした。コラーゲン溶液15μlを使用して、覆われていないガラス底24ウェルプレート(InVitroScientific)の各ウェルの底部に下層を作り出し、次いでこれを37℃で少なくとも1時間重合させた。残りのコラーゲン溶液を氷上で3〜5時間保って、初期重合を可能にした。合計65×10
3個のlucMiaPaCa−2または45×10
3個のSuit−2細胞を、体積150μlのコラーゲン溶液中に再懸濁させた。0.5cmの高さを有するしずく(drop)を作り出すことによって、細胞懸濁液を予熱した下層の上に配置した。コラーゲン−細胞懸濁液を37℃で1時間重合させ、引き続いて細胞培養培地で覆った(Nguyen−NgocおよびEwald(2013年)、J. Microscop.、251巻:212〜223頁)。
【0167】
3Dオルガノイドを1回または逐次的に処置した。単回の処置については、包埋した細胞を、正常酸素または低酸素(制御雰囲気チャンバー内で1%のO
2−レベル)条件下で5日間インキュベート後、処置した。5日目に、培地を、1:1−β−CD−3−BrPA/3−BrPA/β−CD含有培地によって置き換え、細胞を、それぞれの濃度の薬物とともに24時間インキュベートした。ゲムシタビンを用いた実験については、細胞を48時間成長させた後、処置し、薬物とともにさらに72時間インキュベートした。ゲムシタビンを用いた初期実験は、24時間後に何の有効性も実証せず、72時間という最も一般的に報告されているインキュベーション時間を採用することを決定した。3−BrPAを用いた逐次の処置は、それぞれの用量で1週間1日おきに実施し、1.3NAの油浸対物レンズ(oil objective)を用いて40倍の倍率で明視野顕微鏡観察(Olympus)によって評価した。SlideBook 5.0プログラムを用いて画像を取得するのに、Hamamatsu Photonics C9100−02 EMCCDカメラを使用した。
【0168】
顕微鏡観察を、in vitro生物発光イメージング(BLI)で見られた細胞生存度の定量化と比較した。後者の測定については、3D器官型細胞培養物を覆っている細胞培養培地を、PBS中のルシフェラーゼ基質(D−ルシフェリン、カリウム塩、Life Technologies、20mg/ml)500ulによって置き換えた。5分の曝露の後、プレートを位置決めし、画像を取得した(Xenogen Ivis Imaging System100)。シグナル強度は、光子放出(カウントでの)によって決定し、3Dオルガノイド全体を囲んだ目的の領域(ROI)内で測定した(Living Image Software、PerkinElmer)。
【0169】
顕微鏡およびBLIの知見は、免疫蛍光顕微鏡観察を使用して検証した。3Dオルガノイドを、4%ホルムアルデヒドを使用して固定し、−80℃でOCT Compound(Tissue Tek)を用いて低温固定した。試料を、−20℃で厚さ100μmの切片に切断した。OCTを、それぞれ10分間、PBSを使用して2回洗い流した。染色の前に、切片を、PBS中の0.5% Trizol100で30分間透過化し、それぞれ10分間PBSで2回洗浄した。PBS中の10% FBSで2時間ブロックした後、試料を、一次抗体(Alexa Fluor568 Phalloidin、Invitrogen、1:100;GAPDH Alexa Fluor488結合体、Cell Signalling、1:800;切断カスパーゼ−3、Cell Signalling、1:500;HIF−1アルファ 1:50)とともに、光保護下で室温(RT)にて1時間インキュベートした。非結合体化一次抗体については、RTで1時間フィコエリトリン(PE)−またはフルオレセイン(fluoresceine)イソチオシアネート(FITC)結合体化二次抗体を用いた追加のインキュベーションを使用した。この後に、それぞれ10分間PBSを用いた2回の洗浄を続けた。DAPIを、300ng/mlの濃度で対比染色として使用し、結合体化抗体と同時に標本に添加した。標本を退色防止封入剤で密閉し、カバースリップで覆った。共焦点蛍光顕微鏡観察は、1.4NAの油浸対物レンズを用いて40倍の倍率で、かつ1.4NAの油浸対物レンズを用いて63倍で実施した。画像をZen2012ソフトウェア(Carl Zeiss)で分析した。励起波長および放出波長は、結合体製造者が推奨したものであった。例えば、ファロイジンおよびPE−結合体について555nm、Alexa Fluor488およびFITC−結合体について488nm、ならびにDAPIについて405nmを、励起するのに使用した。放出は、赤色蛍光について555から1000nmの間で、緑色蛍光について490nmおよびそれ超で検出した。DAPIの放出は、それぞれ赤色または緑色蛍光で画像化したとき、490nm未満または529nm未満で捕捉した。
【0170】
E.マトリゲル浸潤アッセイ、ザイモグラフィ、およびイムノブロッティング
3−BrPAの、腫瘍浸潤を阻害する能力を、マトリゲル浸潤アッセイおよびゼラチンザイモグラフィを使用して試験した(HuおよびBeeton(2010年)、J. Visual. Exp.、45巻:2445頁;Scottら(2011年)、J. Visual. Exp.、58巻:e3525頁)。マトリゲル浸潤アッセイについては、0.01M Trisおよび0.7%塩化ナトリウムを含有するコーティング緩衝液を調製し、マトリゲル基底膜(BD Biosciences、#356234)を300ug/mlに希釈するのに使用した。引き続いて、Boydenチャンバー(Transwell、Corning;直径6.5mm、孔サイズ8um)を、マトリゲル溶液100μlでコーティングし、37℃で2時間貯蔵して膠化させた。およそ7.5×10
4個の細胞を、FBS不含培地500μl中に再懸濁させ、インサートの上方チャンバー中に蒔き、次いでこれを、FBS含有培地750μlを含有する24ウェルプレート中に配置した。37℃で一晩インキュベートした後、PBS中に溶解させた様々な量の3−BrPAを上方チャンバーに添加した。48時間の後に、非浸潤性の細胞を綿スワブでマトリゲルから除去した。透過性インサートの底部側に接着した浸潤した細胞を固定し、Diff Quik Stain Kit(Polysciences Inc.)で染色した。光学顕微鏡法を、4倍、10倍、および20倍の倍率でカラー倒立顕微鏡(Eclipse TS 100)を使用して実施した。細胞の浸潤を、10倍の倍率で、未処置の試料と比較して、処置後の染色された細胞の面積を測定することによって定量化した。
【0171】
ザイモグラフィアッセイを実施して、分泌されたMMP−9の活性を決定した。したがって、4×10
6個のSuit−2細胞および2.5×10
6個のlucMiaPaCa−2細胞を、75cm
2−フラスコ中に播種し、正常酸素条件下で37℃にて一晩インキュベートした。翌日、異なる濃度の3−BrPAを含有する新鮮なFBS不含培地を添加し、細胞をさらに24時間インキュベートした。引き続いて、上清を収集し、濾過し、最終的なタンパク質濃度を、2D Quant Kit(GE Healthcare)を使用して決定した。濃度を調整した後、各試料を2つの10%ゼラチンザイモグラフィゲル(Novex、Invitrogen)上にロードした。電気泳動の後、2つのゲルのうちの1つの中のタンパク質を復元し(renaturated)、展開緩衝液中で37℃にて一晩酵素消化させた。ゲルを、100%メタノール1部中の0.1%クーマシーブリリアントブルー4部で24時間染色し、消化されたエリアが白色バンドとして検出可能となるまで蒸留(DI)水で洗浄した。ウエスタンブロット分析を、二連のゲルを使用して実施した。タンパク質を、PVDF膜上にブロットし、DI中1×TBSおよび0.1% Tween(TBST)中の5%スキムミルクを使用してブロックした。一次抗MMP抗体(Cell Signaling)を1:1000の希釈で使用し、4℃で一晩インキュベートし、その後、HRP結合体化二次抗体(Santa Cruz)を室温で1時間インキュベートした。HRPは、電気化学発光シグナルをもたらし(ECL Kit、GE Healthcare)、これをImageJ 1.46rソフトウェア(Wayne Rasband、National Institute of Health)で分析し、線積分を比較することによってシグナル強度を定量化するのに使用した。
【0172】
F.同所性動物異種移植片
雄の胸腺欠損ヌードマウス(体重、20〜25g;4週齢;Crl:NU(NCr)−Foxn1
nu;Charles River Laboratory、Germantown、MD、USA)を、承認された動物管理使用委員会のプロトコール下で施設の指針に従って使用した。マウスを、食物および水を自由に与えて、一定の温度および湿度にて層流室内で維持した。同所性異種移植片腫瘍を、PBS 50μl中に懸濁させた1.5×10
6個のlucMiaPaCa−2を、麻酔したマウス中の膵臓の尾部に移植することによって生成した。これを達成するために、マウスを、清潔な麻酔導入チャンバー(酸素流量、1リットル/分;3〜4%のイソフルラン濃度)内に配置した。立ち直り反射を喪失した後、動物を外科手術表面上に配置し、そこでノーズコーンを使用して麻酔を維持した(酸素の流れ、0.8リットル/分;イソフルラン濃度、1.5〜2%)。小さい左腹部脇腹切開を行い、膵臓を外面化させて、30G Hamiltonシリンジを使用して細胞溶液を注射した。成功裏の被膜下膵臓内注射は、腹腔内漏出を伴わない流体ブレブの出現によって特定した。腹腔を、非吸収性縫合材料の二重層を用いて閉じた(Kimら(2009年)、Nat. Protocol.、4巻:1670〜1680頁)。
【0173】
G.生物発光イメージングおよび超音波イメージング
腫瘍生存度を、外科的移植後7日目にin vivo生物発光イメージング(BLI)を介して確認した。麻酔した腫瘍担持マウスに、D−ルシフェリン150mg/kgを腹腔内に注射し、IVIS200システム(Xenogen)を使用して5分後に光学的に画像化した。光子の空間分布を表す疑似カラー画像を、以前に取得したグレースケール写真画像に重ねた。目的の領域(ROI)を、光学的な腫瘍画像を含むように作り出した。シグナル強度を、Living Imageソフトウェア(Xenogen)を使用して、10秒露光した後に、光子/秒/平方センチメートル/ステラジアン(p/s/cm2/Sr)でROI内で定量化した。さらに、腫瘍の同所性の成長を、小動物超音波イメージング(USI)を使用する処置の前に確認した。簡単に説明すると、麻酔したマウスを、40MHz(22〜55MHzを伴う広帯域)でMS−550D MicroScanトランスデューサープローブを適用することによって、VEVO2100(Visual Sonics Inc.、Toronto、カナダ、Harry C.Dietz博士によって快く提供された)を使用する検査に供した。腫瘍局在化を、解剖的な目印として左の腎臓の頭側先端および脾臓の尾側先端を使用して確認した(Otaら(2013年)、Target. Oncol.、8巻:145〜151頁;Tuliら(2012年)、Translat. Oncol.、5巻:77〜84頁)。
【0174】
H.処置レジメンおよびイメージングフォローアップ
LIおよびUSIの両方によって確認された腫瘍を有する動物を、4つの群にランダム化した:群1(N=21匹の動物)は、β−CD−3−BrPA複合体(1:1の分子比の、生理食塩水500μl中に溶解した、26mg/kgのβ−CD中の5mg/kgの3−BrPAでの)の毎日の腹腔内注射を受け、群2(N=7匹の動物)は、ゲムシタビン(文献、例えば、LiauおよびWhang(2008年)、Clin. Canc. Res.、14巻:1470〜1477頁;Larbouretら(2010年)Annal. Oncol.、21巻:98〜103頁に一般に報告されているように、生理食塩水200μl中に溶解した150mg/kg、3回の注射/週)の腹腔内注射を受け、群3(N=7)は、β−CD(生理食塩水500μl中に溶解した26mg/kgのβ−CD)の毎日の腹腔内注射を受け、群4(N=7匹の動物)は、3−BrPA単独(生理食塩水500μl中に溶解した5mg/kg)の毎日の腹腔内注射を受けた。すべての動物を、4週間の期間中断することなく処置した。BLIは、最初の注射後7、14、21、28日目に取得した。動物は、最後のイメージングセッション後28日目に、または瀕死の場合、屠殺した。
【0175】
I.免疫組織化学検査
動物を屠殺した後、腫瘍を得、少なくとも72時間の期間4%ホルムアルデヒド溶液で固定し、免疫組織化学的分析のためにパラフィン中に包埋した。スライドのヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を、CasadonteおよびCaprioli(2011年)、Nat. Protocol.、6巻:1695〜1709頁に記載されたものなどの標準プロトコールに従って実施した。厚さ18μmの腫瘍切片を、Histostain Plus 3rd Gen IHC Detection Kit(Invitrogen)、およびKi−67キット(Dako Inc.)を使用して、以下の標的、すなわち、GAPDH、MCT−1、切断カスパーゼ−3、およびKi−67について染色した。具体的には、標本を、キシレンを使用して脱パラフィン化し、下降エタノール希釈系列を使用して再び湿潤化させた(rehydrate)。脱イオン水で洗浄した後、試料を、クエン酸塩を含有する沸騰中の回復溶液(retrieval solution)(Dako)中で、95°で40分間透過化した。標本をRTまで冷却し、2滴(合計約100ul)のペルオキシダーゼクエンチング溶液とともに5分間インキュベートし、20分間ブロックした。一次抗体(GAPDH、1:500;MCT−1、1:250;Ki−67およびHIF−1α;1:50、切断カスパーゼ−3、1:1,500;PBS中)とのインキュベーションを、湿室チャンバー内でRTにて60分間行った。ビオチン化二次抗体およびストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ結合体を、それぞれ10分間順に試料に添加した。3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)色素原26.5ulを、DAB基質緩衝液(subtrate buffer)1mlと十分混合し、100ulを5分間各標本に添加した。ヘマトキシリンを対比染色として使用した。インキュベーションステップの後、それぞれ2分間、蒸留水(destilled water)で洗浄し、PBSで2回洗浄した。試料を退色防止封入剤を使用して密閉し、カバースリップで覆った。すべてのスライドを、高分解能Aperio(登録商標)スキャナーシステム(Vista、California、USA)を使用して、20倍の倍率でスキャンし、デジタル化した。次いでデジタル化したスライドを、Aperio ImageScope(登録商標)ソフトウェアを使用して評価した。Ki−67染色組織切片については、合計5〜10の視野を10倍で眺め、Ki−67−陽性細胞の数、および細胞の総数を記録して、Ki−67標識指数(式:指数[%]=[陽性細胞の数/合計細胞数]×100)を計算した。
【0176】
J.統計的なデータ分析
すべての実験は、独立して実施し、少なくとも3回繰り返した。実験からのデータは、平均±平均の標準誤差でまとめた。データセットの統計的な比較を、スチューデントt−検定および一元配置ANOVA検定によって実施した。報告されたBLIシグナル強度を、動物間で正規化し、ベースライン値に対する倍数として報告した。
【0177】
実施例5:β−CD−3−BrPAは、2Dおよび3D細胞培養において強い抗がん効果を示し、代謝を標的化することは、がん細胞の浸潤能を低減する
3−BrPAとβ−CDとの間の複合体化をNMRで分光学的に確認した後(
図7)、薬物のマイクロカプセル化製剤を、さらなる実験のために使用した。用量依存的なATP枯渇および細胞死を達成するマイクロカプセル化3−BrPA(β−CD−3−BrPA)の有効性を評価するために、2種のヒト膵がん細胞株を使用した。MiaPaCa−2は、原発性膵腺癌(PDAC)に由来し、Suit−2は、異なる患者からの転移性原発性膵腺癌に由来した(Kitamuraら(2000年)、Clin. Exp. Metast.、18巻:561〜571頁)。β−CD−3−BrPAの用量依存的効果を遊離3−BrPAおよびゲムシタビンと比較し、β−CDを対照として使用した。低酸素がPDACにおける化学療法耐性(chemooresistance)と関連することが多いので、低酸素曝露を実験設計に加えた(YokoiおよびFidler(2004年)、Clin. Canc. Res.、10巻:2299〜2306頁;Kasuyaら(2011年)、Oncol. Rep.、26巻:1399〜1406頁;Onozukaら(2011年)、Canc. Sci.、102巻:975〜982頁;Zhaoら(2014年)、Canc. Res.、74巻:2455〜2464頁))。β−CD−3−BrPAおよび遊離3−BrPAは、正常酸素(50〜75μM)および低酸素(12.5〜25μM)条件下で同様の細胞傷害性プロファイルを実証し、興味深いことに、低酸素のとき薬物に対してより感受性であることが見出された(
図8)。β−CD単独で処置した細胞株は、非常に高い濃度(confentration)に曝露したときでさえ、実験全体にわたって完全に生存可能であった。同様の結果がSuit−2細胞について観察されたが、正常酸素条件と低酸素条件との間の差異はそれほど顕著でなかった(
図8)。ゲムシタビンの有効性を評価する場合、MiaPaCa−2細胞およびSuit−2細胞におけるIC
50は、正常酸素条件(0.1μM)下でほとんど達成されず、どの濃度も完全な殺傷を達成せず、低酸素は、薬物に対する耐性を増大させるようであった。
【0178】
ECMに富む環境におけるβ−CD−3−BrPAの有効性を試験するために、lucMiaPaCa−2細胞を3Dコラーゲン1マトリックス中で培養し、単回用量のβ−CD−3−BrPA、遊離3−BrPA、またはβ−CD(対照としての)で処置した。BLI定量化は、両薬物製剤が正常酸素条件において等価な効力を有することを示した(IC
50、25〜50μM)(
図8)。低酸素条件下で、MiaPaCa−2細胞は、β−CD−3−BrPAより遊離3−BrPAに対してわずかにより感受性であった(
図8)。3D中で培養した細胞を、実施例4に記載したように薬物で逐次的に処置した。形態学的、BLI、および免疫蛍光ベース分析により、3−BrPAの、ECMに富むマトリックスに浸透し、細胞増殖を阻害し、かつアポトーシスを誘導する能力が確認された(
図9〜10)。したがって、未処置のMiaPaCa−2細胞は、増殖し、コラーゲン1マトリックス内で「ブドウ」様構造を形成した一方、Suit−2細胞は、より浸潤性の成長パターンを実証し、細胞突出部が成長の6日後に目に見えた(
図10)。3−BrPAで処置したとき、両細胞株における増殖は、阻害され、Suit−2細胞内の細胞突出部の顕著な低減を伴った(
図10)。さらに、免疫蛍光イメージングにより、3−BrPAによるアポトーシスの用量依存的誘導が確認された。
【0179】
さらに、致死量以下の薬物濃度で膵がん細胞の浸潤性を阻害する3−BrPAの能力を、マトリゲル浸潤アッセイを使用して試験した。
図11A〜11Bに示したように、局所的に浸潤性のMiaPaCa−2細胞および転移性Suit−2細胞はともに、12.5μMという低い薬物濃度で浸潤の低減を示した。さらに、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP−9)、膵がん細胞の浸潤能について十分記述されたマーカーの分泌に対する致死量以下の用量の3−BrPAの効果を、ゼラチンザイモグラフィおよびイムノブロッティングを使用して試験した(Jonesら(1999年)、Annal. N. Y. Acad. Sci.、880巻:288〜307頁;Merdadら(2014年)、Anticanc. Res.、34巻:1355〜1366頁;Yangら(2001年)、J. Surg. Res.、98巻:33〜39頁)。それに応じて、MMP−9の分泌の顕著な低減が、両細胞株において検出された。この効果は、アポトーシスを誘導せず、または細胞生存度を低減しなかった用量である6.25μMの3−BrPA濃度から始まって観察され、より転移性のSuit−2細胞株においてより早く開始した(
図11C〜11D)。
【0180】
実施例6:β−CD−3−BrPAの全身送達は、in vivoでの強い抗がん効果を達成する
全身送達されるβ−CD−3−BrPAの抗がん有効性を、胸腺欠損ヌードマウスにおけるヒト膵がんの異種移植片モデルを使用して試験した。より詳細な試験のための治療用量を選択する前に、腫瘍を担持していない動物における比較による用量漸増試験を、β−CD−3−BrPAおよび遊離3−BrPAの両方について実施した。それに応じて、20mg/kgのβ−CD−3−BrPAおよび10mg/kgの遊離3−BrPAが、単回注射後の半数致死量(LD
50)として特定され、5mg/kgのβ−CD−3−BrPAが、7日の過程にわたって全身に、かつ毎日与えたとき、何の毒性も引き起こさなかった安全な用量として特定された。次いで、同所性に移植し、BLIおよびUSIで確認したMiaPaCa−2腫瘍を有する合計42匹の動物を、β−CD−3−BrPA(N=21)、ゲムシタビン(N=7)、またはβ−CD(N=7)の腹腔内(i.p.)注射を受けるようにランダム化した。同所性移植片を有する追加の群の動物(N=7)を遊離3−BrPAで処置した。遊離3−BrPA(生理食塩水500μl中5mg/kg)の毎日の腹腔内(i.p.)注射で処置した動物は、高い処置関連毒性を実証し、3/7(43%)匹の動物が、最初のフォローアップBLIを取得する前に死亡した(
図12C)。実験の最後で(28日目)、わずか2/7匹の遊離薬物で処置された動物(28%)が依然として生存していた(
図12C)。このような死亡率は、残りの群のいずれについても観察されなかった。β−CD−3−BrPA(生理食塩水500μl中5mg/kg)の毎日のi.p.注射は、強い抗がん効果を実証し、最初の注射後14日目に目に見える早期の効果を伴った(
図12B)。4週間の処置の後に、群間のBLIシグナル強度の比較を実施した。β−CD対照で処置した動物は、ベースラインと比較して140倍のシグナル増大を実証した。腫瘍成長の中等度の減速がゲムシタビン処置動物で観察され、時間をわたって60倍シグナルが増大した。最も重要なことに、β−CD−3−BrPAで処置した動物は、ゲムシタビンおよび対照群と比較してシグナルの最小限の進行または進行なしを示した(
図12)。このエンドポイントを達成した後、動物を屠殺し、さらなる分析のために腫瘍を回収した。すべての動物を剖検に供し、臓器(脳、心臓、肺、腸、肝臓、および腎臓)を、潜在的な組織損傷を分析するために回収した。臓器毒性も組織損傷も、β−CD−3−BrPAで処置した動物において観察されなかった(
図12D)。腫瘍病理の分析により、β−CD−3−BrPAで処置した動物において液化性壊死の中心エリアを伴った広大な腫瘍破壊が実証された(
図13)。インタクトな細胞接合部を有する腫瘍領域は、切断カスパーゼ−3の高い発現を実証し、劇症性腫瘍アポトーシスを示した。β−CD−3−BrPAで処置した動物は、Ki67免疫組織化学検査で評価した場合、増殖の有意な低減を実証し、平均は、それぞれ17%および51%であった(
図13)。さらに、β−CD−3−BrPAで処置した動物は、β−CDまたはゲムシタビン群と比較して、処置された腫瘍内でMCT1およびGAPDHのより低い発現レベルを実証した。
【0181】
これらの結果は、全身送達されたβ−CD−3−BrPAが、遊離薬物と比較した場合、治療用量においてはるかに低い毒性を生じさせながらin vivoでの強い抗腫瘍効果を達成したことを示す。さらに、3−BrPAのマイクロカプセル化は、in vitroで膵がん細胞に対する薬物の有効性を変化させず、このことは、2D、およびECMに富む3D細胞培養物を使用して、ともに正常酸素条件および低酸素条件下で実証された。致死量以下の用量でMMP−9の分泌を阻害し、膵がん細胞の浸潤性を低減する3−BrPAの能力は、この薬物の抗転移能をさらに示す。
【0182】
腫瘍代謝を選択的に標的化することは、望ましい治療選択肢として長く考えられてきたが、まだ臨床上の実施につなげられていない。3−BrPAを用いた全身への送達可能性というマイルストーンに到達することにおける主要な制限事項は、そのアルキル化の性質に起因する報告された毒性である(Ganapathy−KanniappanおよびGeschwind(2013年)、Mol. Cancer、12巻:152頁;Changら(2007年)、Acad. Radiol.、14巻:85〜92頁;Kunjithapathamら(2013年)、BMC Res. Not.、6巻:277頁)。結果として、薬物の局所的な画像ガイド送達が、代替の治療選択肢として探索されているが、これらの手法の実用上の使用は、局在化した疾患の処置に限定されている(Otaら(2013年)、Target. Oncol.、8巻:145〜151頁;Geschwindら(2002年)、Canc. Res.、62巻:3909〜3913頁)。本明細書に記載の結果は、薬物が、全身送達のために適切に製剤化される場合、極めて有効であったことを明らかに実証し、それによってこの化合物の使用を実質的に任意のがんに拡張する。これらの結果は、薬物が固形腫瘍を処置するのにその遊離形態で全身に使用された唯一の他の試験のものと対照をなす。その試験では、遊離3−BrPAは、本明細書に記載の実験で使用した用量で、何らかの意味のある腫瘍応答を誘発することにも失敗した(Caoら(2008年)、Clin. Canc. Res.、14巻:1831〜1839頁;Schaeferら(2012年)、Translat. Res.、159巻:51〜57頁)。具体的には、皮下膵がん異種移植片においてHSP90阻害剤と組み合わせた遊離3−BrPAの全身送達を探索した試験では、安全性検討事項を越えて1週間当たり2回与えた5mg/kgの用量での3−BrPA単独について何らかの有意な有効性も報告されなかった(Caoら(2008年)、Clin. Canc. Res.、14巻:1831〜1839頁)。遊離薬物のこの芳しくない有効性プロファイルの可能な説明は、全身投与して2〜3分後という早期にin vivoで起こることが知られている血清タンパク質との非特異的相互作用による3−BrPAの急速な不活化である(Kunjithapathamら(2013年)、BMC Res. Not.、6巻:277頁)。ある程度の有効性がこれらの用量で観察されたが、ほとんどの動物における処置関連死を伴った過剰な毒性が支配的な結果であった。したがって、遊離3−BrPAの全身投与は、有効であり得ず、望ましくない毒性を促進し得ると考えられる。また、マイクロカプセル化製剤では、3−BrPAは、腫瘍細胞内への取り込みにより生物学的に利用可能であり、その毒性を見かけ上媒介する正常細胞にとってそれほど利用可能でないことが考えられる(Birsoyら(2013年)、Nature Genet.、45巻:104〜108頁;ZhangおよびMa(2013年)、Advanc. Drug Deliv. Rev.、65巻:1215〜1233頁;HeidelおよびSchluep(2012年)、J. Drug Deliv.、2012年:262731頁)。
【0183】
膵臓腫瘍組織の特徴的な特色は、酸素拡散を制限し、その深刻な化学療法耐性および浸潤性の増大について知られている高度に低酸素の潅流が不十分な(ill−perfused)腫瘍微小環境を作り出す高密度なECMの過剰な蓄積である(YokoiおよびFidler(2004年)、Clin. Canc. Res.、10巻:2299〜2306頁;Yangら(2001年)、J. Surg. Res.、98巻:33〜39頁)。公開された試験は、膵臓腫瘍細胞の30%超が低酸素腫瘍区画中に位置し、それによって従来の化学療法の効果を逃れていることを確認した。次いでこれらの細胞は、さらにより侵襲性で、化学療法に対して耐性になった腫瘍を再形成し続ける(Guillaumondら(2013年)、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、110巻:3919〜3924頁)。本明細書に記載の結果は、3−BrPAが、腫瘍解糖を、それが低酸素条件下で悪化させられた場合でも有効にブロックすることができることを実証する。反対に、ゲムシタビンが、その最高用量においてさえも、膵がん細胞内の低酸素に対処することができないことが確認された。これまでのところ、矛盾するデータが、がん細胞内の3−BrPAの酸素依存性について報告されている(Caoら(2008年)、Canc. Chemother. Pharmacol.、62巻:985〜994頁;Xiaoら(2013年)、Oncol. Rep.、29巻:329〜334頁)。しかし、薬物耐性の重要な機構としての低酸素を克服する3−BrPAの能力を支持する有意な証拠がある(Xuら(2005年)、Canc. Res.、65巻:613〜621頁)。具体的には、より最近の試験は、低酸素と、低酸素細胞および腫瘍領域内で過剰発現されることが示されたMCT−1の発現との間の関連を確立し、したがって、3−BrPAに対する低酸素腫瘍組織の感受性の増大の機能的な説明をもたらした(Matsumotoら(2013年)、Magnet. Res. Med.、69巻:1443〜1450頁)。注目すべきことに、有効性の増大を潜在的に実現するためにゲムシタビンと3−BrPAの組み合わせがin vitroで探索されたが、組み合わせ効果は同定されず、したがって、それぞれのin vivo実験は、実施されなかった。
【0184】
さらに、ECMに富む腫瘍微小環境のモデルとしてコラーゲン1に富む3D器官型細胞培養物を使用することにより、単層細胞培養と比較して有効性のいかなる測定可能な低減も伴うことなくマトリックスに成功裏に浸透する3−BrPAの能力が実証された。本明細書に記載の試験で使用した3D細胞培養モデルは、それが、ヒトex vivo試料中で見られるコラーゲン1に富むECMを模倣するマトリックスから構成されているという主な理由のために、比較的に特異的であると見ることができる(Mollenhauerら(1987年)、Pancreas、2巻:14〜24頁)。薬物検査の目的に対するこのようなin vitroモデルの利益は、ますます認識されているが、in vivoでこれらの条件を模倣することは、より大きな課題の代表例である(Longatiら(2013年)、BMC Canc.、13巻:95頁)。この試験を設計するとき、種々の動物モデルが考えられた。一方では、広く認識された同所性異種移植片モデルを使用すると、重要な利点、例えば、再現性、予測可能な腫瘍成長動態、および特異的で画像化可能なレポーター遺伝子を発現するように腫瘍細胞をゲノム修飾することを可能にすることがもたらされる(Kimら(2009年)、Nat. Protocol.、4巻:1670〜1680頁)。他方では、これらのモデルがヒト病変における腫瘍微小環境を反映する程度は、未知のままである。いくつかの明確に定義されたマウス腫瘍モデルは、ECM−構成要素および腫瘍低酸素をより現実的に模倣することができるが、これらのモデルは、標準化された薬物検査の目的にとってそれほど適していないと思われる(Guillaumondら(2013年)、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、110巻:3919〜3924頁)。in vitroで細胞浸潤性を阻害する3−BrPAの実証された能力を踏まえて、転移性Suit−2異種移植片モデルの使用が考えられた。しかし、Suit−2異種移植片の同所性移植は、合併症(すなわち、血性腹水)、および移植後14日以内に動物の大部分の喪失をもたらし、それにより、実行可能な代替案としてMiaPaCa−2異種移植片の選択が促進された。
【0185】
追加の予想外の結果が、処置された腫瘍組織の免疫組織化学的分析において観察された。3−BrPAの分子標的としてのGAPDHの予想され、以前に報告された枯渇は別として、3−BrPAの特異的なトランスポーターとしてのMCT−1の量が、処置された試料中で有意に低減された(Ganapathy−Kanniappanら(2012年)、Radiol.、262巻:834〜845頁)。3−BrPAの潜在的な標的としてのMCT−1の存在についての証拠はこれまで存在してない。それでも、この乳酸トランスポーターは、がん療法の適当な分子標的として繰り返して同定されてきた(Schneiderhanら(2009年)、Gut、58巻:1391〜1398頁;Shihら(2012年)、Oncotarget、3巻:1401〜1415頁;Sonveauxら(2012年)、PloS One、7巻:e33418頁)。
【0186】
したがって、本明細書に記載の結果は、3−BrPAのマイクロカプセル化を、全身送達可能な抗解糖的腫瘍療法の目標を最終的に実現することに向けた有望な進歩として同定した。β−CD−3−BrPAの強い抗がん効果、および好都合な毒性プロファイルは、膵がんおよび潜在的に他の悪性疾患を有する患者における臨床試験に向けた道を開く。
【0187】
参考としての援用
本願全体にわたって引用したすべての参考文献、特許出願、特許、および公開済み特許出願、ならびに図および配列表の内容は、参照により本明細書に組み込まれている。いくつかの特許出願、特許、および他の参考文献が本明細書に参照されているが、このような参考文献は、これらの文書のいずれもが、当技術分野における共通の一般的な知識の一部を形成するという承認を構成するものではないことが理解される。
【0188】
均等物
当業者は、本明細書に記載の本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または慣例的な実験しか使用せずに確認することができる。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるように意図されている。