【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回折素子の逆格子ベクトルの大きさが、前記光吸収層における前記第1偏波の伝搬定数と前記光吸収層における前記第2偏波の伝搬定数との平均値に等しい、請求項1に記載の受光素子。
前記光吸収層は、前記第1方向に伝搬した前記第1偏波の光を吸収する第1光吸収層と、前記第2方向に伝搬した前記第2偏波の光を吸収する第2光吸収層とを備える、請求項5に記載の受光素子。
前記第1偏波の光と前記第2偏波の光を前記回折素子に導入するための、前記光吸収層が成す面に対して斜めに立設した光導波路を更に備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の受光素子。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る受光素子100の構成を示す断面図である。受光素子100は、基板101と、下部SiO
2層102と、P型半導体層103と、光吸収層104と、N型半導体層105と、上部SiO
2層106とを備える。各層は、基板101側から、下部SiO
2層102、P型半導体層103、光吸収層104、N型半導体層105、上部SiO
2層106の順に積層されている。
図1において、基板101の表面に垂直な方向にX軸、基板101の表面に平行な方向(図の横方向)にZ軸をとる。
【0020】
基板101は、一例として、シリコン(Si)基板である。P型半導体層103は、P型の不純物がドープされた半導体層である。例えば、P型半導体層103は、P型の不純物としてホウ素(B)がドープされた薄膜シリコン層によって構成される。光吸収層104は、不純物がドープされていないI型(真性)の半導体層である。例えば、光吸収層104は、ゲルマニウム(Ge)層によって構成される。N型半導体層105は、N型の不純物がドープされた半導体層である。例えば、N型半導体層105は、N型の不純物としてリン(P)又はヒ素(As)がドープされた薄膜シリコン層によって構成される。このように、受光素子100は、P型半導体層103、光吸収層104、及びN型半導体層105によるPIN構造107を有する。なお、P型半導体層103とN型半導体層105は、光吸収層104と同じ半導体(例えばゲルマニウム)にそれぞれP型とN型の不純物がドープされた層であってもよい。
図1ではP型半導体層103が基板101側に、N型半導体層105が基板101と反対側に形成されているが、その逆であってもよい。即ち、N型半導体層105が基板101側に、P型半導体層103が基板101と反対側に形成されてもよい。
【0021】
下部SiO
2層102は、PIN構造107の下部、即ち基板101側に隣接して形成された二酸化ケイ素(SiO
2)からなる層である。上部SiO
2層106は、PIN構造107の上部、即ち基板101と反対側に隣接して形成された二酸化ケイ素からなる層である。下部SiO
2層102及び上部SiO
2層106は、受光素子100の感度波長において光吸収層104よりも低い屈折率を有する。これにより、高屈折率の光吸収層104(あるいは、P型半導体層103、光吸収層104、及びN型半導体層105からなるPIN構造107)をコア層、低屈折率の下部SiO
2層102及び上部SiO
2層106をそれぞれ下部クラッド層、上部クラッド層とするスラブ導波路が形作られる。
【0022】
受光素子100の基板101、下部SiO
2層102、及びP型半導体層103の部分は、BOX層(埋め込み酸化膜層)とBOX層上のSOI(Silicon On Insulator)層とを有するSOI基板を利用して構成することもできる。即ち、SOI基板のBOX層を下部SiO
2層102に適用すると共に、SOI基板のSOI層からP型半導体層103を形成するようにしてもよい。
【0023】
光吸収層104は、グレーティング(回折素子)108を備える。グレーティング108は、光吸収層104の厚さがZ軸方向に沿って周期的に変化している凹凸構造である。より具体的には、光吸収層104の上部SiO
2層106側の表面に、それぞれが深さd、幅wを持つ複数の溝108aが、ピッチ(周期)ΛでZ軸方向に沿って並んで形成されている。換言すれば、光吸収層104は、厚さHの部分と各溝108aに対応する厚さH−dの部分とが、Z軸方向に沿って交互に配置した凹凸構造を有する。厚さHの部分のZ軸方向の幅はΛ−w、厚さH−dの部分のZ軸方向の幅はwである。この凹凸構造が、グレーティング108を構成する。
図1では、N型半導体層105はグレーティング108の凹部の底面と凸部の上面だけでなく、凹凸の側面にも形成されている。このような構成は、凹凸を跨いで光電流が流れる場合に有効である。凹凸を跨いで光電流が流れる必要がない場合は、後述する
図9の構成のように、N型半導体層105は凹部の底面と凸部の上面だけに形成されてもよい。更に、図示しないが、凹部の底面のみ、又は凸部の上面のみにN型半導体層105が形成されてもよい。
【0024】
次に、受光素子100の動作を説明する。上部SiO
2層106の上方の空気層109から、入射光ILが入射角θ
2で上部SiO
2層106へ入射される。入射光ILは、TE偏波の入射光IL
TEとTM偏波の入射光IL
TMを含む。上部SiO
2層106への入射光ILは、空気層109と上部SiO
2層106との境界面で屈折して上部SiO
2層106の中を進み、入射角θ
1でグレーティング108へ入射される。なお、
図1では入射光ILは1本の線で描かれているが、入射光ILの入射位置は、グレーティング108への入射が可能となるような位置であればよく、したがって、入射光ILは、グレーティング108の大きさに応じた幅を有することができる。
【0025】
グレーティング108へ入射したTE偏波の入射光IL
TEは、グレーティング108によって−Z方向へと回折される。即ち、TE偏波の入射光IL
TEの回折後の伝搬方向は、−Z方向である。グレーティング108によって回折されたTE偏波の入射光IL
TEは、光吸収層104(をコア層とするスラブ導波路)のTE偏波伝搬モード光に結合して、光吸収層104内を−Z方向に伝搬していく。一方、グレーティング108へ入射したTM偏波の入射光IL
TMは、グレーティング108によって+Z方向へと回折される。即ち、TM偏波の入射光IL
TMの回折後の伝搬方向は、+Z方向である。グレーティング108によって回折されたTM偏波の入射光IL
TMは、光吸収層104(をコア層とするスラブ導波路)のTM偏波伝搬モード光に結合して、光吸収層104内を+Z方向に伝搬していく。
【0026】
こうして、TE偏波の入射光IL
TEからの回折光とTM偏波の入射光IL
TMからの回折光は、光吸収層104の面内をそれぞれ−Z方向、+Z方向に伝搬していきながら、光吸収層104によって吸収される。吸収された光に応じて、光吸収層104内にキャリア(電子及びホール)が発生する。PIN構造107に対して逆バイアス電圧を印加することによって、発生したキャリアに応じた電流が、P電極110及びN電極111を介して受光素子100から取り出される。
【0027】
このように、受光素子100は光吸収層104に対して光が上方から面的に入射する構成の面型受光素子であるが、光吸収層104に入射された光は光吸収層104をその厚さ方向に通過するのではなく、グレーティング108による回折を受けて、TE偏波とTM偏波の両方の光が、光吸収層104と平行で互いに反対の方向へと光吸収層104の面内を伝搬する。したがって、光と光吸収層104との相互作用長が長くなることにより、TE偏波とTM偏波の両方の光からキャリアを高効率で発生させることができ、その結果、受光素子100の受光感度、即ち光電気変換効率を向上させることができる。グレーティング108は、非特許文献1に開示されたような2次元の構造ではなく、1次元で(即ちZ軸方向に沿って)形成されているので、TE及びTMの2種類の偏波の両方に対して効率良く回折を生じさせることが可能であり、受光素子100の光電気変換効率を向上させることができる。
【0028】
次に、TE偏波の入射光とTM偏波の入射光がグレーティング108によって光吸収層104と平行で互いに反対の方向へと回折される条件を説明する。なお、以下の説明では、便宜上、任意のベクトルAについてその大きさ|A|を単にAと表記することがある。
【0029】
図2は、グレーティング108の回折における波数保存則を示した図である。
図2において、ベクトルKは、グレーティング108の逆格子ベクトルを表す。逆格子ベクトルKの大きさは、|K|=2π/Λである。TE偏波の入射光に作用する逆格子ベクトルKの向きは、−Z方向である。TM偏波の入射光に作用する逆格子ベクトルKの向きは、+Z方向である。ベクトルk
TE、k
TMは、それぞれ上部SiO
2層106内におけるTE偏波又はTM偏波の入射光の波数ベクトルを表す。波数ベクトルk
TE、k
TMの大きさは、入射光の波長をλ、上部SiO
2層106の屈折率をn
SiO2とすると、k≡|k
TE|=|k
TM|=(2π/λ)・n
SiO2である。波数ベクトルk
TE、k
TMの向きは、それぞれの偏波の入射光のグレーティング108に対する入射角によって規定される。TE偏波の入射光の入射角をθ
1TE、TM偏波の入射光の入射角をθ
1TMとすると、波数ベクトルk
TEのZ成分k
TE,Zと波数ベクトルk
TMのZ成分k
TM,Zは、それぞれk
TE,Z=k・sinθ
1TE、k
TM,Z=k・sinθ
1TMで与えられる。
【0030】
また、
図2において、ベクトルβ
TEは、光吸収層104を伝搬するTE偏波伝搬モード光の伝搬方向(即ち−Z方向)を向き、TE偏波伝搬モード光の伝搬定数と同じ大きさを持つベクトルである。TE偏波伝搬モード光の伝搬定数は、TE偏波伝搬モード光に対する光吸収層104の等価屈折率をn
effTEとすると、|β
TE|=(2π/λ)・n
effTEと表される。ベクトルβ
TMは、光吸収層104を伝搬するTM偏波伝搬モード光の伝搬方向(即ち+Z方向)を向き、TM偏波伝搬モード光の伝搬定数と同じ大きさを持つベクトルである。TM偏波伝搬モード光の伝搬定数は、TM偏波伝搬モード光に対する光吸収層104の等価屈折率をn
effTMとすると、|β
TM|=(2π/λ)・n
effTMと表される。光吸収層104を構成する半導体(例えばゲルマニウム)の屈折率は上部SiO
2層106の屈折率n
SiO2よりも大きく、n
effTE>n
SiO2、n
effTM>n
SiO2であるので、ベクトルβ
TEとβ
TMの大きさは、入射光の波数ベクトルの大きさkよりも大きい。
【0031】
図2に示されるように、一般にグレーティングによる回折では、グレーティングの逆格子ベクトルに対応する波数空間のk
Z方向において、次の波数保存則が成立する。
【0032】
k
Z=−|β−N・K| ………(1)
但し、k
Zは入射光の波数ベクトルのZ成分、βはグレーティングによる回折光の伝搬定数、Kはグレーティングの逆格子ベクトルの大きさ、Nは正の整数である。
図2はグレーティング108による1次回折(即ちN=1)を示しているが、この場合は、式(1)から、TE偏波とTM偏波についてそれぞれ次式(2a)及び(2b)が満たされることが、1次回折が生じる条件となる。
【0033】
k
TE,Z=−β
TE+K (<0) ………(2a)
k
TM,Z=−K+β
TM (<0) ………(2b)
但し、上式においてβ
TE及びβ
TMは、それぞれ光吸収層104におけるTE偏波伝搬モード光及びTM偏波伝搬モード光の伝搬定数を表す。
【0034】
式(2a)は、波数ベクトルのZ成分がk
TE,Z=−β
TE+Kを満足するような入射角θ
1TEで入射されたTE偏波の入射光が、グレーティング108によって−Z方向に回折されることを示す。同様に、式(2b)は、波数ベクトルのZ成分がk
TM,Z=−K+β
TMを満足するような入射角θ
1TMで入射されたTM偏波の入射光が、グレーティング108によって+Z方向に回折されることを示す。したがって、k
TE,Z=k
TM,Z即ち次式(3)が成り立つ場合に、同一方向からのTE偏波及びTM偏波の入射光がそれぞれ−Z方向と+Z方向に回折されることになる。
【0035】
K=(β
TE+β
TM)/2 ………(3)
また、このとき入射光ILの入射角θ
1TE(=θ
1TM)は、
θ
1TE=sin
−1(k
TE,Z/k)
=sin
−1[(β
TM−β
TE)/(2・k)]
=sin
−1[(n
effTM−n
effTE)/(2・n
SiO2)] …(3)’
となる。
【0036】
実際のMMF(マルチモードファイバ)から受光素子100へ入射される入射光ILの入射角は角度のばらつきや広がりを有し、グレーティング108によってスラブ導波路(光吸収層104)に完全には結合できない角度成分も存在するが、これらの角度成分も、グレーティング108によってスラブ導波路にほぼ平行な角度に回折される。したがって、受光素子100の入力にMMFを用いた場合であっても、上記角度成分の入射光は光吸収層104とほぼ平行な方向に伝搬するので、グレーティングを有しない従来の受光素子と比べて光吸収層を通過する距離が長くなり、光吸収層104での光の吸収量の増加、即ち受光素子100の感度向上に寄与する。
【0037】
次に、回折条件の式(3)を成り立たせるための具体的な受光素子100の構造を説明する。
図3は、光吸収層104の厚さH(横軸)と、前述の式(2a)及び(2b)をそれぞれ満たすTE偏波及びTM偏波の入射光の入射角(縦軸)との関係を示すグラフである。但し、グレーティング108の構造パラメータであるピッチΛ(=2π/K)、深さd、及び充填率w/Λは固定されているものとする。このとき、高屈折率材料である光吸収層104の厚さHが厚くなると、TE偏波伝搬モード光及びTM偏波伝搬モード光に対する光吸収層104の等価屈折率n
effTE、n
effTMが増加し、それに伴いTE偏波伝搬モード光の伝搬定数β
TEとTM偏波伝搬モード光の伝搬定数β
TMも増加する。
【0038】
すると、TE偏波については、負の値である式(2a)の右辺はその絶対値が増加し、入射光の波数ベクトルのZ成分k
TE,Zもその絶対値が増加する。
図2を参照すると、伝搬定数の増加によりベクトルβ
TEが長くなり、逆格子ベクトルの大きさKは固定されているので、θ
1TEは大きくなる。このように、光吸収層104の厚さHの増加と共に、グレーティング108によって−Z方向に回折されるようなTE偏波の入射光の入射角θ
1TEは大きくなっていく。一方、TM偏波については、負の値である式(2b)の右辺はその絶対値が減少し、入射光の波数ベクトルのZ成分k
TM,Zもその絶対値が減少する。
図2を参照すると、伝搬定数の増加によりベクトルβ
TMが長くなり、逆格子ベクトルの大きさKは固定されているので、θ
1TMは小さくなる。このように、光吸収層104の厚さHの増加と共に、グレーティング108によって+Z方向に回折されるようなTM偏波の入射光の入射角θ
1TMは小さくなっていく。
【0039】
したがって、
図3に示されるように、ある光吸収層104の厚さ(
図3の例では0.35μm)において、それぞれの偏波の回折条件を満たす入射角θ
1TE、θ
1TMが一致することになる。即ち、光吸収層104の厚さHをそのような特定の厚さに設定することによって、同一方向から入射されたTE偏波及びTM偏波の入射光を、それぞれ−Z方向と+Z方向に回折することができる。これは、光吸収層104の厚さHを調整して式(3)の右辺が固定値の左辺に一致するようにすることに相当する。なお、
図3の例では、Λ=0.568μm、d=0.1μm、w=0.284μm、n
SiO2=1.45、光吸収層104を含むPIN構造107全体の屈折率を4.2とした。
【0040】
このように、Λ、d、及びw/Λを固定して光吸収層104の厚さHを調整することにより、回折条件の式(3)を満足する受光素子100を得ることができる。
【0041】
また、別の方法として、Λ、d、及びHを固定してw/Λを調整してもよい。即ち、Λ、d、及びHを固定してw/Λを変化させることは、グレーティング108の部分における光吸収層104の実効的な厚さH
effを変化させることと等価であり、この実効的な厚さH
effの変化によってグレーティング108の部分における光吸収層104の等価屈折率が変化し、それに伴い伝搬定数も変化する。したがって、上記の場合と同様の理由から、ある充填率w/Λの値に対して入射角θ
1TE、θ
1TMが一致し、回折条件の式(3)が成立することになる。
【0042】
更に別の方法として、グレーティング108のピッチΛを調整することによって、回折条件の式(3)が満たされるようにすることもできる。具体的には、グレーティング108の充填率w/Λが固定されていれば、光吸収層104の平均的な屈折率は一定であるので、光吸収層104の伝搬定数β
TE及びβ
TMはグレーティング108のピッチΛによらずほぼ一定となり、式(3)の右辺も一定値となる。よって、充填率w/Λが固定された条件でグレーティング108のピッチΛ(=2π/K)を調整することで、式(3)の左辺(即ちK)を固定値の右辺に一致させ、式(3)を成立させることができる。
【0043】
上述したように
図2ではグレーティング108による1次回折(N=1)を考えたが、次に、グレーティング108による高次回折を考える。TE偏波とTM偏波についてそれぞれm次、n次の回折が生じる条件は、式(1)から、
k
TE,Z=−β
TE+m・K (<0) ………(4a)
k
TM,Z=−n・K+β
TM (<0) ………(4b)
である。よって、同一方向からのTE偏波及びTM偏波の入射光が、それぞれm次回折、n次回折を受けて−Z方向と+Z方向に回折される条件は、k
TE,Z=k
TM,Zとして、
K=(β
TE+β
TM)/(m+n) ………(5)
となる。このとき入射光ILの入射角θ
1TE(=θ
1TM)は次式で与えられる。
【0044】
θ
1TE=sin
−1[(m・n
effTM−n・n
effTE)/((m+n)・n
SiO2)] …(5)’
また、式(5)は、等価屈折率を用いて次のように表すこともできる。
【0045】
(λ/2π)・K=(n
effTE+n
effTM)/(m+n) ………(6)
このように、受光素子100は、回折条件の式(5)、(6)を満足するような構造に形成されてもよい。なお、回折次数が小さいほど回折効率は高いので、m=n=1の場合、即ち上記の式(3)が成り立つ場合に、受光素子100の受光感度を最大にすることができる。
【0046】
実際のMMF(マルチモードファイバ)から受光素子200へ入射される入射光ILの入射角は角度のばらつきや広がりを有し、グレーティング208によってスラブ導波路(光吸収層204)に完全には結合できない角度成分も存在するが、これらの角度成分も、グレーティング208によってスラブ導波路にほぼ平行な角度に回折される。したがって、受光素子200の入力にMMFを用いた場合であっても、上記角度成分の入射光は光吸収層204とほぼ平行な方向に伝搬するので、グレーティングを有しない従来の受光素子と比べて光吸収層を通過する距離が長くなり、光吸収層204での光の吸収量の増加、即ち受光素子200の感度向上に寄与する。
【0047】
また、上記の説明では光吸収層104のTE偏波伝搬モード光及びTM偏波伝搬モード光のモード次数を区別しなかったが、光吸収層104のTE偏波伝搬モード光及びTM偏波伝搬モード光は、基本モードと高次モードのいずれであってもよい。また、TE偏波伝搬モード光のモード次数とTM偏波伝搬モード光のモード次数は、同じであっても異なっていてもよい。
図4は、光吸収層104の実効的な厚さH
effに対する光吸収層104の等価屈折率n
effの関係を、各モード次数のTE偏波とTM偏波について示したグラフである。TE偏波は実線、TM偏波は破線で示されている。例えば、TE偏波の基本モード光に対する符号Aで示される等価屈折率と、TM偏波の基本モード光に対する符号Bで示される等価屈折率(但し、符号Bは符号Aと同一のH
effに対応する)が、回折条件の式(6)を満たすように受光素子100を構成することができ、この場合、受光素子100への入射光は、光吸収層104を−Z方向へ伝搬するTE偏波の基本モード光と+Z方向へ伝搬するTM偏波の基本モード光に結合されることになる。
【0048】
同様に、例えば、TM偏波の1次モード光に対する符号Cで示される等価屈折率と、TE偏波の2次モード光に対する符号Dで示される等価屈折率(但し、符号Dは符号Cと同一のH
effに対応する)が、回折条件の式(6)を満たすように受光素子100を構成することができ、この場合、受光素子100への入射光は、光吸収層104を−Z方向へ伝搬するTE偏波の2次モード光と+Z方向へ伝搬するTM偏波の1次モード光に結合されることになる。また、例えば、TE偏波の基本モード光に対する符号Eで示される等価屈折率と、TM偏波の3次モード光に対する符号Fで示される等価屈折率(但し、符号Fは符号Eと同一のH
effに対応する)が、回折条件の式(6)を満たすように受光素子100を構成することができ、この場合、受光素子100への入射光は、光吸収層104を−Z方向へ伝搬するTE偏波の基本モード光と+Z方向へ伝搬するTM偏波の3次モード光に結合されることになる。
【0049】
図5は、受光素子100の上面図である。P型半導体層のコンタクト領域103aは、
図1に示されたP型半導体層103に接続されている。P電極110は、コンタクト領域103aに接続されている。N電極111は、
図1に示されたN型半導体層105に接続されている。
図5(A)に示されるように、グレーティング108は、受光素子100の受光面の全体にわたって形成されてもよい。
図5(B)に示されるように、グレーティング108は、受光素子100の受光面の一部にのみ形成されてもよい。入射光の入射角が受光面の場所により異なる場合は、グレーティング108のピッチΛを受光面の場所に応じて変化させてもよい。
【0050】
図1において、下部SiO
2層102及び上部SiO
2層106の一方又は両方に代えて、他の低屈折率材料を用いてもよい。例えば、上部SiO
2層106を空気層としてもよい。下部SiO
2層102及び上部SiO
2層106(又は他の低屈折率材料)と光吸収層104との屈折率差は、大きい方が好ましい。屈折率差が大きいと、スラブ導波路において光吸収層104への光の閉じ込めが強くなり、グレーティング108(光吸収層104)を伝搬する光とグレーティング108との相互作用が大きくなって、グレーティング108の回折効率が増大する。これにより、光吸収層104へ回折される入射光の割合を大きくすることができ、受光素子100の感度をより一層向上させることができる。
【0051】
また、
図1において、光吸収層104への入射光の反射を抑えるため、上部SiO
2層106とN型半導体層105との間に、上部SiO
2層106とN型半導体層105の中間の屈折率を有する単層又は多層の誘電体層が設けられてもよい。
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係る受光素子200の構成を示す断面図である。受光素子200は、基板201と、下部SiO
2層202と、P型半導体層203と、光吸収層204と、N型半導体層205と、上部SiO
2層206とを備える。各層は、基板201側から、下部SiO
2層202、P型半導体層203、光吸収層204、N型半導体層205、上部SiO
2層206の順に積層されている。基板201、下部SiO
2層202、及び上部SiO
2層206は、それぞれ、第1実施形態の受光素子100の対応する構成要素と同じものである。
図6において、
図1と同様に、基板201の表面に垂直な方向にX軸、基板201の表面に平行な方向(図の横方向)にZ軸をとる。
【0052】
受光素子200は、P型半導体層203、光吸収層204、及びN型半導体層205によるPIN構造207を有する。PIN構造207は、−Z方向側の第1PIN構造207aと+Z方向側の第2PIN構造207bを含む。第1PIN構造207aは、第1P型半導体層203a、第1光吸収層204a、及び第1N型半導体層205aからなり、第2PIN構造207bは、第2P型半導体層203b、第2光吸収層204b、及び第2N型半導体層205bからなる。
【0053】
受光素子200は、下部SiO
2層202、上部SiO
2層206、第1PIN構造207a、及び第2PIN構造207bによって囲まれた領域に、グレーティング208を備える。グレーティング208は、その上部SiO
2層206側の表面に、それぞれが深さd、幅wを持つ複数の溝208aがピッチ(周期)ΛでZ軸方向に沿って並んで形成された凹凸構造である。グレーティング208は、光吸収層204とは異なる材料によって構成される。例えば、グレーティング208は、シリコン(Si)や二酸化ケイ素(SiO
2)によって構成することができる。
【0054】
受光素子200の動作は、第1実施形態に係る受光素子100の動作と基本的に同じである。即ち、入射角θ
1でグレーティング208へ入射したTE偏波の入射光IL
TEは、グレーティング208によって−Z方向へと回折される。即ち、TE偏波の入射光IL
TEの回折後の伝搬方向は、−Z方向である。グレーティング208によって回折されたTE偏波の入射光IL
TEは、グレーティング208中を−Z方向へ進んで第1光吸収層204a(をコア層とするスラブ導波路)のTE偏波伝搬モード光に結合して、第1光吸収層204a内を−Z方向に伝搬していく。一方、入射角θ
1でグレーティング208へ入射したTM偏波の入射光IL
TMは、グレーティング208によって+Z方向へと回折される。即ち、TM偏波の入射光IL
TMの回折後の伝搬方向は、+Z方向である。グレーティング208によって回折されたTM偏波の入射光IL
TMは、グレーティング208中を+Z方向へ進んで第2光吸収層204b(をコア層とするスラブ導波路)のTM偏波伝搬モード光に結合して、第2光吸収層204b内を+Z方向に伝搬していく。
【0055】
このように、第2実施形態においても、受光素子200は受光面に対して光が上方から面的に入射する構成の面型受光素子であるが、入射光はグレーティング208による回折を受けて、TE偏波とTM偏波の両方の光が、光吸収層204と平行で互いに反対の方向へと光吸収層204(第1光吸収層204a及び第2光吸収層204b)の面内を伝搬する。したがって、光と光吸収層204との相互作用長を長くとることができ、TE偏波とTM偏波の両方の光からキャリアを高効率で発生させることができ、その結果、受光素子200の受光感度、即ち光電気変換効率を向上させることができる。また、光吸収層204(第1光吸収層204a及び第2光吸収層204b)のZ軸方向の長さが、第1実施形態の場合よりも短いため、PIN構造207により形成されるキャパシタンスが低減する。したがって、受光素子200の高感度化のみならず、CR時定数の低減による高速動作を実現することも可能である。
【0056】
図7は、受光素子200の上面図である。P型半導体層のコンタクト領域203aは、
図6に示されたP型半導体層203に接続されている。P電極210は、コンタクト領域203aに接続されている。N電極211は、
図6に示されたN型半導体層205に接続されている。
図7(A)に示されるように、グレーティング208は、受光素子200の受光面にわたって1次元的に形成されてもよい。
図7(B)に示されるように、グレーティング208は、受光素子200の受光面に円形に形成されてもよい。
図7(B)の構成において、グレーティング208は全体としては円形であるが、局所的には、即ち微小角度範囲について見れば、1次元グレーティングとして構成されている。
【0057】
図8は、グレーティング208の実効的な厚さH
effに対する等価屈折率n
effの関係を、各モード次数のTE偏波とTM偏波について示したグラフである。TE偏波は実線、TM偏波は破線で示されている。第1実施形態における
図4と同様に、符号A及びBは、受光素子200への入射光が、第1光吸収層204aを−Z方向へ伝搬するTE偏波の1次モード光と第2光吸収層204bを+Z方向へ伝搬するTM偏波の1次モード光に結合されることを示す。また同様に、符号C及びDは、受光素子200への入射光が、第2光吸収層204bを+Z方向へ伝搬するTM偏波の1次モード光と第1光吸収層204aを−Z方向へ伝搬するTE偏波の2次モード光に結合されることを示し、符号E及びFは、受光素子200への入射光が、第1光吸収層204aを−Z方向へ伝搬するTE偏波の基本モード光と第2光吸収層204bを+Z方向へ伝搬するTM偏波の2次モード光に結合されることを示す。
<第3実施形態>
図9は、本発明の第3実施形態に係る受光素子300の構成を示す断面図である。受光素子300は、第1実施形態に係る受光素子100の各構成要素に加えて、更に光導波路112を備える。光導波路112は、上部SiO
2層106の上に、その光軸が光吸収層104の成す面に対して傾いた状態に形成される。例えば、光導波路112は、高屈折率の樹脂からなるコア(112)と、その周囲に充填された低屈折率の樹脂113からなるクラッドとを含む導波路構造とすることができる。グレーティング108への入射角θ
1TE(=θ
1TM)が前述の式(3)’又は(5)’で与えられる角度であるとき、光導波路112の等価屈折率をn
wとすると、光導波路112の傾き角θ
wは、スネルの法則n
w・sin(θ
w)=n
SiO2・sin(θ
1TE)を満足する角度に設定される。このような構成によれば、入射光ILの入射角を、グレーティング108の回折条件を満たす角度に固定することができる。
【0058】
光導波路112がマルチモード導波路である場合には、モード毎に光導波路112の等価屈折率は異なる。この場合、モードiに対する光導波路112の等価屈折率をn
wi、光導波路112におけるモードiの光強度をP
iとして、光導波路112の等価屈折率n
wを、例えば、
n
w=Σ(P
i・n
wi)/ΣP
i
と定義してもよい。但し、Σは全てのモードiに関する和を表す。光導波路112がマルチモード導波路である場合の等価屈折率n
wの定義は、上記式に限定されない。例えば、光強度P
iが最大となるn
wiを光導波路112の等価屈折率n
wとしてもよい。
【0059】
なお、第2実施形態に係る受光素子200の各構成要素に同様の光導波路112を付加してもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更が可能である。