(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552541
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】凍結防止液の散布循環システム
(51)【国際特許分類】
E01H 10/00 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
E01H10/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-78805(P2017-78805)
(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公開番号】特開2018-178516(P2018-178516A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】502145988
【氏名又は名称】日中東北物産有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】近藤 賢市
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05853262(US,A)
【文献】
特開昭53−063722(JP,A)
【文献】
特開2012−024720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01H 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路(R)上に凍結防止剤を含む凍結防止液を散布する散布装置(10)と、
前記散布装置(10)によって道路(R)に散布された凍結防止液が流れ込む回収路(11)と、
前記回収路(11)を通って回収された凍結防止液を濾過する濾過装置(12)と、
凍結防止液の濃度を測定する濃度センサ(39)が設けられ、前記濾過装置(12)で濾過した凍結防止液を一時的に貯めておく貯液槽(13)と、
前記濃度センサ(39)で検出した凍結防止液の濃度が所定濃度以下のときに、この凍結防止液に凍結防止剤を補充する補充装置(40)と、
前記貯液槽(13)から送り込まれた凍結防止液が一時的に貯められる、前記散布装置(10)に併設され、凍結防止液を加熱するための加熱装置が設けられた散布用タンク(41)と、
を備え、
前記補充装置(40)が、前記散布用タンク(41)よりも上流側に設けられている凍結防止液の散布循環システム。
【請求項2】
前記貯液槽(13)と前記散布用タンク(41)は配管(42)で接続されており、この配管(42)の途中には、凍結防止液の取り出し口(44)が形成されており、この取り出し口(44)から、前記配管(42)を流れる凍結防止液の一部を取り出して作業車両(C)に充填し、前記散布装置(10)が設置されていない道路(R)に凍結防止液を散布するようにした請求項1に記載の凍結防止液の散布循環システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、道路に凍結・積雪防止用の凍結防止液を散布する凍結防止液の散布循環システムに関し、特に、この凍結防止液の循環利用を可能としたものに関する。
【背景技術】
【0002】
積雪地域においては、道路上への積雪や路面凍結を防止するために、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの塩類を主成分とする凍結防止剤(融雪剤)を散布することがある。この凍結防止剤を散布して、積雪や路面凍結を解消することによって、車両のスリップ事故を防止している。この凍結防止剤の散布は、顆粒状態のまま、あるいは、この顆粒を水に溶かして凍結防止液とした状態で、道路を走行する作業車両から散布したり、道路脇に設置された噴射装置から噴射したりすることによって行なわれる。凍結防止剤を散布する代わりに、上水や地下水を汲み上げて散布することもある。
【0003】
凍結防止剤は、道路1車線につき1キロメートル当たり、例えば、200〜300キログラム程度使用され、大きなコストを要する上に、凍結防止剤が農地、河川などに流れ込み塩害を引き起こすことがある。このため、凍結防止剤の使用量を削減するための方策が考えられている。例えば、特許文献1に示す凍結防止剤自動散布制御方法においては、路面状態(乾燥・半湿・湿潤・シャーベット・積雪・圧雪・凍結など)を検出する路面状態判別装置を搭載した雪氷巡回車を走行させて、道路の単位区間ごとに路面状態を登録する。そして、凍結防止剤を散布する凍結防止剤散布装置を搭載した凍結防止剤散布車によって、登録された路面状態に基づいて凍結防止剤を散布する。このように、路面状態に基づいて凍結防止剤を必要量だけ散布することによって、凍結防止効果を維持しつつ散布量の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−90037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す制御方法においては、道路に散布される凍結防止剤の量を減らすことができるが、散布された凍結防止剤が農地などに流れ込む状況は同じであり、塩害対策としては不十分である。また、作業車両による凍結防止剤の散布作業中は、作業車両が低速走行することに起因して、その後方に渋滞が生じやすい問題もある。また、凍結防止剤を散布する代わりに、上水や地下水を汲み上げて散布する方法もコストの面で好ましいとは言えない。
【0006】
そこで、この発明は、塩害を防止しつつ低コストで道路上への積雪や路面凍結を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、道路上に凍結防止剤を含む凍結防止液を散布する散布装置と、前記散布装置によって道路に散布された凍結防止液が流れ込む回収路と、前記回収路を通って回収された凍結防止液を濾過する濾過装置と、前記濾過装置で濾過した凍結防止液を一時的に貯めておく貯液槽と、を備えた凍結防止液の散布循環システムを構成した。
【0008】
このようにすると、道路上に散布された凍結防止剤を含む凍結防止液が、回収路、濾過装置、および、貯液槽を経由して循環再利用されるため、凍結防止剤の農地や河川などへの流入を極力防止することができ、塩害を防止することができる。また、凍結防止液を再利用するため、凍結防止剤の使用量を大幅に削減することができ、低コストでこのシステムを稼働させることができる。
【0009】
前記構成においては、前記貯液槽から送り込まれた凍結防止液が一時的に貯められる、前記散布装置に併設された散布用タンクをさらに備えた構成とするのが好ましい。
【0010】
このようにすると、循環システムの一部にトラブルが生じて、凍結防止液の循環が一時的に停止した場合でも、散布用タンクに貯められた凍結防止液を散布装置から散布することができるため、道路上への積雪および路面凍結を確実に防止することができる。
【0011】
前記各構成においては、前記貯液槽に凍結防止液の濃度を測定する濃度センサが設けられた構成とするのが好ましい。
【0012】
このようにすると、融雪に伴って凍結防止液に加わった水分によって、その濃度が薄まったことをシステム管理者が速やかに知ることができる。このため、例えば、凍結防止液に凍結防止剤を補充するなどの適切な対応をとることができ、凍結防止液による融雪および凍結防止効果を確実に発揮させることができる。
【0013】
上記の濃度センサが設けられた構成においては、前記濃度センサで検出した凍結防止液の濃度が所定濃度以下のときに、この凍結防止液に凍結防止剤を補充する補充装置をさらに備えた構成とするのが好ましい。
【0014】
このようにすると、人手を介さずに凍結防止液の濃度を所定の濃度に保つことができ、凍結防止液による融雪および凍結防止効果を一層確実に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明においては、道路に散布された凍結防止剤を含む凍結防止液を循環再利用する凍結防止液の散布循環システムを構成した。この構成によると、凍結防止液が再利用されるため、凍結防止剤の農地や河川などへの流入を極力防止することができ、塩害を防止することができる。また、凍結防止液を再利用するため、凍結防止剤の使用量を大幅に削減することができ、低コストでこのシステムを稼働させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明に係る凍結防止液の散布循環システムの一実施形態を示す全体図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係る凍結防止液の散布循環システムの一実施形態を
図1を用いて説明する。この凍結防止液の散布循環システムは、道路Rに凍結・積雪防止用の凍結防止液を散布するためのシステムであって、特に、この凍結防止液の循環利用を可能としたものである。この実施形態においては、高架道路Rに本システムを設けた例について示すが、本システムは、通常の道路Rにも採用することができる。この凍結防止液の散布循環システムは、散布装置10、回収路11、濾過装置12、および、貯液槽13を主要な構成要素としている。
【0018】
散布装置10は、道路R上に凍結防止剤を含む凍結防止液を散布する機能を有している。この散布装置10は、道路Rの近傍に設けられており、凍結防止液を加圧噴射するための噴射ポンプ14が併設されている。この実施形態においては、散布装置10は道路Rの左右両側に設けられているが、片側のみに設けることもできる。この凍結防止剤として、主に、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの塩類が採用されるが、これ以外のものを採用することもできる。
【0019】
回収路11は、道路Rの左右の側溝と接続されており、散布装置10によって道路Rに散布された凍結防止液が、側溝を経由して流れ込むようになっている。
【0020】
濾過装置12は、回収路11を通って回収された凍結防止液を濾過する機能を有している。この実施形態においては、濾過装置12は、凍結防止液の流れの上流側から下流側に向かって直列に配置された第一濾過装置15、第二濾過装置16、および、第三濾過装置17から構成されている。
【0021】
第一濾過装置15は、前段に設けられた濾過装置12であって、前処理槽18と後処理槽19から構成される。前処理槽18には、回収路11を通った凍結防止液が流れ込む。この前処理槽18には、複数の棒状部材が水平かつ平行に配設されたグレーチング20が設けられている。このグレーチング20によって、小枝や空き缶などの比較的大きなゴミが取り除かれる。
【0022】
このグレーチング20の隙間は、30mm程度とするのが好ましいが、この前処理槽18に流れ込むゴミの大きさに対応して適宜変更することができる。前処理槽18の下部には、ドレイン21が形成されている。このドレイン21から、前処理槽18内に沈殿したゴミを取り除くことができる。前処理槽18と後処理槽19は、接続管22によって接続されている。
【0023】
後処理槽19には、前処理槽18によって大きなゴミを取り除かれた凍結防止液が、接続管22を通って流れ込む。この後処理槽19には、複数の棒状部材が垂直かつ平行に立設されたグレーチング23が設けられている。このグレーチング23によって、前処理槽18に設けられたグレーチング20で取り除くことができなかった少し小さめのゴミを取り除くことができる。
【0024】
このグレーチング23の隙間は、15mm程度とするのが好ましいが、この後処理槽19に流れ込むゴミの大きさに対応して適宜変更することができる。後処理槽19の下部には、ドレイン24が形成されている。このドレイン24から、後処理槽19内に沈殿したゴミを取り除くことができる。後処理槽19と第二濾過装置16は、配管25によって接続されている。
【0025】
この配管25の途中には、オーバーフロー管26が接続されている。例えば、大雪によって回収路11に大量の凍結防止液が流れ込み、濾過装置12(第二濾過装置16、第三濾過装置17)での濾過処理が間に合わない状況となったときに、凍結防止液の一部が回収路11からオーバーフロー管26側に流れ込み、濾過装置12での不具合が生じないように構成されている。なお、オーバーフロー管26に流れ込んだ凍結防止液は、最終的に河川などに流れ込むが、オーバーフロー管26側に凍結防止液が流れ込むのは大雪などによって河川も増水しているときであるため、凍結防止液は十分希釈されて塩害が問題になることはない。
【0026】
また、このオーバーフロー管26に流れ込む凍結防止液は、第一濾過装置15によって大きなゴミが取り除かれているため、配管25とオーバーフロー管26との分岐部にゴミが詰まってトラブルとなるのを防止することができる。配管25の途中には、この配管25を流れる凍結防止液の流れを促進するための送出ポンプ27が設けられる。
【0027】
第二濾過装置16は、中段に設けられた濾過装置12であって、第一濾過装置15からの凍結防止液が直接流れ込む本体部28と、本体部28の中央付近に設けられた漏斗形の上澄み液回収部29を備えている。本体部28の上部には蓋体30が設けられ、下端部にはドレイン31が形成されている。上澄み液回収部29の上部開口には、網状のフィルタ32が設けられている。
【0028】
第一濾過装置15から凍結防止液が本体部28に流れ込むと、比重の大きなゴミ(小石や砂など)が本体部28の底に沈殿する。さらに、この凍結防止液が上澄み液回収部29に流れ込む際に、比重の小さなゴミ(落ち葉や木片など)が上澄み液回収部29に設けられたフィルタ32に引っ掛かる。そして、比重の大きなゴミはドレイン31から、比重の小さなゴミはフィルタ32によってそれぞれ取り除かれる。また、蓋体30を開けると、第二濾過装置16の内部の清掃を容易に行うことができる。
【0029】
第二濾過装置16と第三濾過装置17は配管33で接続されている。この配管33には送出ポンプ34が設けられており、凍結防止液をスムーズに第二濾過装置16から第三濾過装置17に送出し得るように構成されている。
【0030】
第三濾過装置17は、後段に設けられた濾過装置12であって、この実施形態では、上から下に向かって複数のフィルタ35を多段に配置した構成となっている。このフィルタ35は、上から下に向かって順に目が細かくなっており、ゴミを効率良く除去し得るようになっている。このフィルタ35の段数は特に限定されず、凍結防止液に含まれるゴミのサイズやゴミの量などを考慮して適宜変更することができる。第三濾過装置17の底部にはドレイン36が形成されており、このドレイン36から各フィルタ35で除去し切れなかったゴミ(泥など)が除去される。
【0031】
第三濾過装置17と貯液槽13は配管37で接続されている。この配管37には送出ポンプ38が設けられており、凍結防止液をスムーズに第三濾過装置17から貯液槽13に送出し得るように構成されている。
【0032】
貯液槽13は、濾過装置12(第一濾過装置15、第二濾過装置16、第三濾過装置17)で濾過した凍結防止液を一時的に貯めておく機能を有している。貯液槽13の内部には、濃度センサ39としての濃度計(以下において、濃度センサ39と同じ符号を付する。)が設けられている。この濃度計39によって、貯液槽13に貯められた凍結防止液の濃度が測定される。また、貯液槽13には、貯液槽13内に凍結防止剤を補充する補充装置40が設けられている。この補充装置40の内部には、凍結防止剤がストックされている。そして、濃度計39で測定された凍結防止液の濃度が所定濃度よりも低いときに、この補充装置40が自動的に作動して、所定量の凍結防止剤を貯液槽13内に補充するようになっている。
【0033】
貯液槽13は、散布装置10に併設された散布用タンク41と配管42で接続されている。この配管42には送出ポンプ43が設けられており、凍結防止液をスムーズに貯液槽13から散布用タンク41に送出し得るように構成されている。このように、散布装置10に散布用タンク41を併設することにより、循環システムの一部にトラブルが生じて、凍結防止液の循環が一時的に停止した場合でも、散布用タンク41に貯められた凍結防止液を散布装置10から散布することができるため、道路R上への積雪および路面凍結を確実に防止することができる。
【0034】
この配管42の途中には、凍結防止液の取り出し口44が形成されている。この取り出し口44から、配管42を流れる凍結防止液の一部を取り出して作業車両Cに充填し、散布装置10が設置されていない道路Rに凍結防止液を散布することもできる。また、この作業車両Cによって、凍結防止液を散布用タンク41に配送することもできる。
【0035】
上記の凍結防止液の散布循環システムによると、凍結防止液が再利用されるため、凍結防止剤の農地や河川などへの流入を極力防止することができ、塩害を防止することができる。また、凍結防止液を再利用するため、凍結防止剤の使用量を大幅に削減することができ、低コストでこのシステムを稼働させることができる。しかも、作業車両が低速走行することに起因する渋滞問題も解消できる。
【0036】
上記の実施形態はあくまでも一例であって、塩害を防止しつつ低コストで道路R上への積雪や路面凍結を防止する、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、その構成を適宜変更することができる。
【0037】
例えば、上記の実施形態においては、濾過装置12を第一濾過装置15、第二濾過装置16、および、第三濾過装置17の3段構成としたが、1〜2段の構成あるいは4段以上の多段構成とすることもできる。
【0038】
また、上記の実施形態においては、貯液槽13に撹拌装置(図示せず)を設けた構成とすることもできる。このようにすると、貯液槽13内に補充された凍結防止剤を速やかに溶解することができる。また、貯液槽13または散布用タンク41に凍結防止液を加熱するための加熱装置(図示せず)を設けることもできる。このようにすると、融雪および凍結防止効果を一層高めることができる。
【0039】
また、上記の実施形態においては、補充装置40を貯液槽13に併設した構成としたが、散布用タンク41に併設した構成とすることもできる。あるいは、凍結防止液の濃度の低下に対応して、凍結防止剤を道路Rに直接散布することもできる。
【0040】
また、散布用タンク41を設けずに、貯液槽13から散布装置10に凍結防止液を直接供給する構成とすることもできる。また、補充装置40を設けずに、システム管理者が、凍結防止液の濃度低下に伴って、凍結防止剤を貯液槽13や散布用タンク41に手作業で補充することもできる。
【符号の説明】
【0041】
10 散布装置
11 回収路
12 濾過装置
13 貯液槽
14 噴射ポンプ
15 第一濾過装置
16 第二濾過装置
17 第三濾過装置
18 前処理槽
19 後処理槽
20、23 グレーチング
21、24、31、36 ドレイン
22 接続管
25、33、37、42 配管
26 オーバーフロー管
27、34、38、43 送出ポンプ
28 本体部
29 上澄み液回収部
30 蓋体
32、35 フィルタ
39 濃度センサ(濃度計)
40 補充装置
41 散布用タンク
44 取り出し口
R 道路
C 作業車両