特許第6552571号(P6552571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552571
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】デュアルタイプの波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-191871(P2017-191871)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65958(P2019-65958A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2019年5月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩明
(72)【発明者】
【氏名】半田 純
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−23745(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0088496(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1内歯が形成されている剛性の第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車に同軸に並列配置され、第2内歯が形成されている剛性の第2内歯歯車と、
前記第1、第2内歯歯車の内側に同軸に配置され、半径方向に撓み可能な円筒体の外周面に、前記第1内歯にかみ合い可能な第1外歯および前記第2内歯にかみ合い可能で前記第1外歯とは歯数が異なる第2外歯が形成されている可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車を半径方向に撓めて、前記第1外歯を前記第1内歯に部分的にかみ合わせ、前記第2外歯を前記第2内歯に部分的にかみ合わせる波動発生器と、
を有しており、
前記第1外歯の歯筋方向の内側端面と前記第2外歯の歯筋方向の内側端面との間には、歯筋方向に所定幅を有し、歯筋方向の中央部分において歯丈方向に最深となる最深部を有する隙間が形成されており、
前記第1外歯の歯筋方向の外端から前記第2外歯の歯筋方向の外端までの歯筋方向の幅をL、前記隙間の歯筋方向における最大幅をL1とすると、
0.1L < L1 < 0.35L
に設定されており、
前記第1外歯の歯丈をh1、前記第2外歯の歯丈をh2、前記第1外歯の歯先面から前記最深部までの歯丈方向の深さをt1、前記第2外歯の歯先面から前記最深部までの歯丈方向の深さをt2とすると、
前記深さt1、t2は、3つの条件1〜3のうちのいずれか一つの条件を満足し、
前記条件1は、
0.9h1 < t1 < 1.3h1、および、
0.3h2 < t2 < 0.9h2であり、
前記条件2は、
0.3h1 < t1 < 0.9h1、および、
0.9h2 < t2 < 1.3h2であり、
前記条件3は、
0.3h1 < t1 < 0.9h1、および
0.3h2 < t2 < 0.9h2である
デュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項2】
前記波動発生器は、前記第1外歯を支持するボールベアリングからなる第1ウエーブベアリングと、前記第2外歯を支持するボールベアリングからなる第2ウエーブベアリングとを備え、
前記第1、第2ウエーブベアリングのそれぞれのボール中心は、歯筋方向において、前記隙間における歯筋方向の中心から等しい距離に位置し、
前記第1、第2ウエーブベアリングのボール中心間距離をLoとすると、
前記ボール中心間距離Loは、前記隙間の最大幅L1の増加に伴って増加し、かつ、
0.35L < Lo < 0.7L
に設定されている請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項3】
前記第1外歯の歯数は前記第1内歯の歯数とは異なり、
前記第2外歯の歯数は前記第2内歯の歯数とは異なる、
請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項4】
前記第1外歯の歯数は前記第1内歯の歯数よりも少なく、
前記第1内歯の歯数と前記第2内歯の歯数は同一である、
請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項5】
前記波動発生器は回転入力要素であり、
前記第1内歯歯車および前記第2内歯歯車のうち、一方は回転しないように固定された静止側内歯歯車であり、他方は減速回転出力要素である駆動側内歯歯車である、
請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項6】
前記波動発生器は、前記外歯歯車を楕円状に撓めて、前記第1外歯を前記第1内歯に対して円周方向の2か所の部位でかみ合わせ、前記第2外歯を前記第2内歯に対して円周方向の2か所の部位でかみ合わせており、
前記第1外歯の歯数と前記第2外歯の歯数の差は、nを整数とすると、2n枚である、請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項7】
前記波動発生器は、前記第1外歯を支持するボールベアリングからなる第1ウエーブベアリングと、前記第2外歯を支持するボールベアリングからなる第2ウエーブベアリングとを備え、
前記第1、第2ウエーブベアリングのそれぞれのボール中心は、歯筋方向において、前記隙間における歯筋方向の中心から等しい距離に位置し、
前記第1、第2ウエーブベアリングのボール中心間距離をLoとすると、
前記ボール中心間距離Loは、前記隙間の最大幅L1の増加に伴って増加し、かつ、
0.35L < Lo < 0.7L
に設定されており、
前記第1外歯の歯数は前記第1内歯の歯数とは異なり、前記第2外歯の歯数は前記第2内歯の歯数とは異なり、
前記波動発生器は回転入力要素であり、前記第1内歯歯車および前記第2内歯歯車のうち、一方は回転しないように固定された静止側内歯歯車であり、他方は減速回転出力要素である駆動側内歯歯車である、
請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項8】
前記波動発生器は、前記外歯歯車を楕円状に撓めて、前記第1外歯を前記第1内歯に対して円周方向の2か所の部位でかみ合わせ、前記第2外歯を前記第2内歯に対して円周方向の2か所の部位でかみ合わせており、前記第1外歯の歯数と前記第2外歯の歯数の差は、nを整数とすると、2n枚である、
請求項7に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【請求項9】
前記波動発生器は、前記第1外歯を支持するボールベアリングからなる第1ウエーブベアリングと、前記第2外歯を支持するボールベアリングからなる第2ウエーブベアリングとを備え、
前記第1、第2ウエーブベアリングのそれぞれのボール中心は、歯筋方向において、前記隙間における歯筋方向の中心から等しい距離に位置し、
前記第1、第2ウエーブベアリングのボール中心間距離をLoとすると、
前記ボール中心間距離Loは、前記隙間の最大幅L1の増加に伴って増加し、かつ、
0.35L < Lo < 0.7L
に設定されており、
前記第1外歯の歯数は前記第1内歯の歯数よりも少なく、前記第1内歯の歯数と前記第2内歯の歯数は同一であり、
前記波動発生器は回転入力要素であり、前記第1内歯歯車および前記第2内歯歯車のうち、一方は回転しないように固定された静止側内歯歯車であり、他方は減速回転出力要素である駆動側内歯歯車であり、
前記波動発生器は、前記外歯歯車を楕円状に撓めて、前記第1外歯を前記第1内歯に対して円周方向の2か所の部位でかみ合わせ、前記第2外歯を前記第2内歯に対して円周方向の2か所の部位でかみ合わせており、前記第1外歯の歯数と前記第2外歯の歯数の差は2枚である、
請求項1に記載のデュアルタイプの波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置に関し、特に、デュアルタイプの波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デュアルタイプの波動歯車装置は、一対の内歯歯車、円筒状をした可撓性の外歯歯車、および波動発生器を備えている。外歯歯車には、半径方向に撓み可能な円筒体の外周面に、一方の内歯歯車にかみ合い可能な第1外歯と、他方の内歯歯車にかみ合い可能で第1外歯とは歯数の異なる第2外歯とが形成されている。デュアルタイプの波動歯車装置は、50未満の速比を容易に実現できる。
【0003】
デュアルタイプの波動歯車装置においては、外歯歯車の第1外歯および第2外歯が共通の円筒体の外周面に形成されており、それらの歯底リム部は相互に繋がっている。第1、第2外歯は歯数および歯形形状が相互に異なるので、一方の内歯歯車の内歯とのかみ合いによって第1外歯に作用する力は、他方の内歯歯車の内歯とのかみ合いによって第2外歯に作用する力と大きく相違する。したがって、薄肉弾性体からなる可撓性の円筒体の外周面に形成されている第1、第2外歯の間の部分には、大きな応力集中、大きな捩れが生じる。この結果、第1、第2外歯のそれぞれにおいて、歯筋方向の各位置での各内歯に対する歯当りが変化し、歯筋方向の各部分に作用する歯面荷重分布が大きく変動する。
【0004】
歯当りが変化し、歯面荷重分布の変動が大きいと、外歯歯車の歯底疲労強度および伝達負荷トルクを高めることができない。外歯歯車の歯底疲労強度および伝達負荷トルクを高めるためには、歯面荷重分布を均一にして最大歯面荷重を下げ、歯筋方向の各位置での歯当りを良好な状態に維持する必要がある。
【0005】
また、第1、第2外歯の各内歯に対するかみ合い状態、特に、それらの歯筋方向のかみ合い状態は、波動発生器の支持剛性に左右される。歯筋方向の各位置におけるかみ合い状態が適切でないと、伝達負荷トルクが低下してしまう。
【0006】
したがって、外歯歯車の歯底疲労強度および伝達負荷トルクを高めるためには、歯面荷重分布を均一にして最大歯面荷重を下げ、歯筋方向の各位置での歯当りを良好な状態に維持することが必要である。また、歯筋方向の各位置において適切なかみ合い状態が形成されるように、波動発生器の支持剛性を高めることが必要である。
【0007】
さらに、波動発生器による外歯歯車の支持状態が適切でないと、波動発生器の2列のボールベアリングに生じるベアリングボール荷重分布が不均一となり、それらの寿命が低下してしまう。したがって、ベアリングボール荷重分布を均一にして、その耐久性を高めるためにも、第1外歯と一方の内歯歯車の内歯とのかみ合い部分、および、第2外歯と他方の内歯歯車の内歯とのかみ合い部分を、適切に支持することが必要である。
【0008】
本願出願人は、これらの点に鑑みて、特許文献1において、低い速比を容易に実現でき、可撓性の外歯歯車の歯底疲労強度が高く、負荷容量の大きなデュアルタイプの波動歯車装置を提案している。また、外歯歯車の支持剛性が高く、耐久性の高い波動発生器を備えた負荷容量の大きなデュアルタイプの波動歯車装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016−23742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、デュアルタイプの波動歯車装置において、両歯車のかみ合い歯面の耐摩耗性および可撓性の外歯歯車の疲労強度の更なる向上が望まれる場合がある。本発明の目的は、このような要望に応えるために、耐摩耗性および疲労強度を更に高めることのできるデュアルタイプの波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明のデュアルタイプの波動歯車装置は、
第1内歯が形成されている剛性の第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車に同軸に並列配置され、第2内歯が形成されている剛性の第2内歯歯車と、
前記第1、第2内歯歯車の内側に同軸に配置され、半径方向に撓み可能な円筒体の外周面に、前記第1内歯にかみ合い可能な第1外歯および前記第2内歯にかみ合い可能で前記第1外歯とは歯数が異なる第2外歯が形成されている可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車を半径方向に撓めて、前記第1外歯を前記第1内歯に部分的にかみ合わせ、前記第2外歯を前記第2内歯に部分的にかみ合わせる波動発生器と、
を有しており、
前記第1外歯の歯筋方向の内側端面と前記第2外歯の歯筋方向の内側端面との間には、歯筋方向に所定幅を有し、歯筋方向の中央部分において歯丈方向に最深となる最深部を有する隙間が形成されており、
前記第1外歯の歯筋方向の外端から前記第2外歯の歯筋方向の外端までの歯筋方向の幅をL、前記隙間の歯筋方向における最大幅をL1とすると、
0.1L < L1 < 0.35L
に設定されており、
前記第1外歯の歯丈をh1、前記第2外歯の歯丈をh2、前記第1外歯の歯先面から前記最深部までの歯丈方向の深さをt1、前記第2外歯の歯先面から前記最深部までの歯丈方向の深さをt2とすると、
前記深さt1、t2は、次の3つの条件1〜3のうちのいずれか一つの条件を満足し、
前記条件1は、
0.9h1 < t1 < 1.3h1、および、
0.3h2 < t2 < 0.9h2であり、
前記条件2は、
0.3h1 < t1 < 0.9h1、および、
0.9h2 < t2 < 1.3h2であり、
前記条件3は、
0.3h1 < t1 < 0.9h1、および
0.3h2 < t2 < 0.9h2である。
【0012】
デュアルタイプの波動歯車装置の外歯歯車においては、第1、第2外歯は歯数等が異なるので、それらの歯切りを行うために用いる歯切り用カッターも異なる。本発明では、外歯歯車の歯筋方向の中央部分、すなわち、第1外歯と第2外歯の間に、カッター逃げ部として機能する隙間を設けている。この隙間をどのように形成するのかによって、歯筋方向における第1内歯に対する第1外歯の歯当り、および歯面荷重分布が大きく影響を受ける。同様に、歯筋方向における第2内歯に対する第2外歯の歯当り、および歯面荷重分布が大きく影響を受ける。
【0013】
本発明では、第1、第2外歯の間の隙間の最大幅L1を、外歯歯車の幅Lの0.1倍から0.35倍までの範囲内に設定して、所定のカッター逃げ部を設けている。また、隙間の深さt1、t2と、第1、第2外歯の歯丈h1、h2との関係を、上記の条件1〜3のうちのいずれかを満たすように、設定している。このように隙間を形成すると、第1、第2外歯の歯筋方向の歯面荷重分布を均一化でき、第1、第2内歯に対する第1、第2外歯の歯筋方向の各位置で歯当りも良好な状態に維持できる。
【0014】
特に、本発明によれば、第1、第2外歯において、それらの歯筋方向の内側端面の側の部分の剛性を相対的に上げることができる。これにより、負荷が加わった際の第1、第2外歯のねじれを低減でき、第1、第2外歯のそれぞれの内歯に対する片当たりが軽減される。この結果、歯のかみ合い部分において歯筋方向に応力が適切に分散され、外歯歯車の耐摩耗性および疲労強度を大幅に高めることができる。
【0015】
次に、本発明のデュアルタイプの波動歯車装置において、その波動発生器が、前記第1外歯を支持するボールベアリングからなる第1ウエーブベアリングと、前記第2外歯を支持するボールベアリングからなる第2ウエーブベアリングとを備えている場合に、
前記第1、第2ウエーブベアリングのそれぞれのボール中心は、歯筋方向において、前記隙間における歯筋方向の中心から等しい距離に位置し、
前記第1、第2ウエーブベアリングのボール中心間距離をLoとすると、
前記ボール中心間距離Loは、前記隙間の最大幅L1の増加に伴って増加し、かつ、
0.35L < Lo < 0.7L
に設定されていることが望ましい。
【0016】
本発明では、歯数の異なる第1、第2外歯の支持剛性を高め、各外歯の歯筋方向の各位置において内歯に対する歯当りを改善できるように、2列のボールベアリングのボール中心間距離Loを広げてある。すなわち、第1、第2外歯の間に形成される隙間の最大幅L1の増加に伴って、ボール中心間距離Loを広げる(増加させる)ようにしている。また、ボール中心間距離Loの増減の範囲を外歯歯車の幅Lに対して0.35倍から0.7倍までの範囲としてある。
【0017】
本発明によれば、形成される隙間の幅に応じて、第1、第2外歯のそれぞれに対して、歯筋方向における適切な位置にボール中心が位置するように、第1、第2ウエーブベアリングを配置できる。これにより、第1、第2外歯のそれぞれの歯幅方向の各位置において、第1、第2外歯を第1、第2ウエーブベアリングによって確実に支持できる(波動発生器の支持剛性を高めることができる。)。
【0018】
この結果、第1、第2外歯の歯幅方向の各位置における歯当りを改善でき、これらの歯底疲労強度を高めることができる。また、波動発生器の各ウエーブベアリングにおけるベアリングボール荷重分布を平均化でき、その最大荷重を低減できるので、波動発生器の寿命を改善できる。
【0019】
ここで、本発明のデュアルタイプの波動歯車装置では、一般に、第1外歯の歯数Zf1は第1内歯の歯数Zc1とは異なり、第2外歯の歯数Zf2は第2内歯の歯数Zc2とは異なる。例えば、第1外歯の歯数Zf1を第1内歯の歯数Zc1よりも少なくし、第1内歯の歯数Zc1と第2内歯の歯数Zc2を同一とすることができる。
【0020】
また、波動発生器が回転入力要素とされ、第1内歯歯車および第2内歯歯車のうち、一方が回転しないように固定された静止側内歯歯車とされ、他方が減速回転出力要素である駆動側内歯歯車とされる。
【0021】
さらに、外歯歯車の第1、第2外歯は、波動発生器によって、楕円状、スリーローブ状等の非円形に撓められる。これにより、外歯歯車は、剛性の内歯歯車に対して、円周方向に離れた複数の位置においてかみ合う。一般的には、外歯歯車は楕円状に撓められて、円周方向において180度離れた2か所(楕円形状の長軸の両端位置)でかみ合う。この場合には、第1外歯の歯数Zf1と第2外歯の歯数Zf2の差は、nを整数とすると、2n枚とされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】本発明を適用したデュアルタイプの波動歯車装置の端面図である。
図1B図1Aの波動歯車装置の縦断面図である。
図2図1Aのデュアルタイプの波動歯車装置の模式図である。
図3A図1Aの波動歯車装置の第1、第2外歯の間の隙間の一例を示す説明図である。
図3B図1Aの波動歯車装置の第1、第2外歯の間の隙間の別の例を示す説明図である。
図3C図1Aの波動歯車装置の第1、第2外歯の間の隙間の更に別の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したデュアルタイプの波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0024】
図1Aは本発明の実施の形態に係るデュアルタイプの波動歯車装置(以下、単に「波動歯車装置」と呼ぶ。)を示す端面図であり、図1B図1Aの1B−1B線で切断した部分を示す縦断面図である。また、図2図1Aの波動歯車装置の模式図である。波動歯車装置1は、例えば減速機として用いられ、円環状の剛性の第1内歯歯車2と、円環状の剛性の第2内歯歯車3と、半径方向に撓み可能な薄肉弾性体からなる円筒形状の可撓性の外歯歯車4と、楕円状輪郭の波動発生器5とを備えている。
【0025】
第1、第2内歯歯車2、3は、中心軸線1aの方向に、所定の隙間を開けて、同軸に並列配置されている。本例では、第1内歯歯車2は回転しないように固定された静止側内歯歯車であり、その第1内歯2aの歯数はZc1である。第2内歯歯車3は回転自在の状態に支持された駆動側内歯歯車であり、その第2内歯3aの歯数はZc2である。第2内歯歯車3は波動歯車装置1の減速回転出力要素である。
【0026】
円筒形状の外歯歯車4は、第1、第2内歯歯車2、3の内側に同軸に配置されている。外歯歯車4は、半径方向に撓み可能な薄肉弾性体である円筒体6と、この円筒体6の円形外周面に形成した第1外歯7および第2外歯8と、これらの間に形成したカッター逃げ部として機能する隙間9(図3A、3B、3C参照)とを備えている。第1外歯7は、円筒体6の円形外周面において、中心軸線1aの方向における一方の側に形成され、第2外歯8は他方の側に形成されている。これら第1、第2外歯7、8は、中心軸線1aの方向が歯筋方向となるように形成されている。
【0027】
すなわち、第1外歯7は第1内歯2aに対峙する側に形成され、その歯数はZf1であり、第1内歯2aにかみ合い可能である。第2外歯8は第2内歯3aに対峙する側に形成され、その歯数はZf2であり、第2内歯3aにかみ合い可能である。これらの歯数Zf1、Zf2は異なる。
【0028】
波動発生器5は、楕円状輪郭の剛性プラグ11と、この剛性プラグ11の楕円状外周面に装着した第1ウエーブベアリング12および第2ウエーブベアリング13とを備えている。第1、第2ウエーブベアリング12、13はボールベアリングから形成されている。
【0029】
波動発生器5は外歯歯車4の円筒体6の内周面に嵌め込まれ、円筒体6を楕円状に撓めている。したがって、第1、第2外歯7、8も楕円状に撓められている。楕円状に撓められた外歯歯車4は、その楕円形状の長軸Lmaxの両端位置において、第1、第2内歯歯車2、3にかみ合っている。すなわち、第1外歯7が楕円形状の長軸Lmaxの両端位置において第1内歯2aにかみ合っており、第2外歯8が長軸Lmaxの両端位置において第2内歯3aにかみ合っている。
【0030】
波動発生器5は波動歯車装置1の入力回転要素である。波動発生器5の剛性プラグ11は軸穴11cを備えており、ここに、入力回転軸10(図2参照)が同軸に連結固定される。例えば、モーター出力軸が連結固定される。波動発生器5が回転すると、外歯歯車4の第1外歯7と静止側の第1内歯2aのかみ合い位置、および、外歯歯車4の第2外歯8と駆動側の第2内歯3aのかみ合い位置が円周方向に移動する。
【0031】
第1外歯7の歯数Zf1と第2外歯8の歯数Zf2とは異なり、本例では第2外歯8の歯数Zf2の方が多い。また、第1内歯2aの歯数Zc1は第1外歯7の歯数Zf1とは異なり、本例では、第1内歯2aの歯数Zc1の方が多い。第2内歯3aの歯数Zc2と第2外歯8の歯数Zf2とは異なり、本例では、第2内歯3aの歯数Zc2の方が少ない。
【0032】
本例では、外歯歯車4が楕円状に撓められて円周方向の2か所で内歯歯車2、3にかみ合う。したがって、第1外歯7の歯数Zf1と第2外歯8の歯数Zf2との差は、nを正の整数とすると、2n枚である。同様に、第1内歯2aの歯数Zc1と第1外歯7の歯数Zf1との差は、nを正の整数とすると、2n枚である。第2内歯3aの歯数Zc2と第2外歯8の歯数Zf2との差は、nを正の整数とすると、2n枚である。
Zf2=Zf1+2n
Zc1=Zf1+2n
Zc2=Zf2−2n
【0033】
具体例として、各歯数は次のように設定される(n=2、n=n=1)。
Zc1=62
Zf1=60
Zc2=62
Zf2=64
【0034】
第1内歯歯車2と第1外歯7の間の速比R1、第2内歯歯車3と第2外歯8の間の速比R2は、それぞれ次のようになる。
i1=1/R1=(Zf1−Zc1)/Zf1=(60−62)/60=−1/30
i2=1/R2=(Zf2−Zc2)/Zf2=(64−62)/64=1/32
したがって、R1=−30、R2=32が得られる。
【0035】
波動歯車装置1の速比Rは、速比R1、R2を用いて、次式で表される。よって、本発明によれば、大幅に小さな速比(低減速比)の波動歯車装置を実現できる。(なお、速比のマイナス符号は、出力回転の方向が入力回転の方向とは逆方向であることを示す。)
R=(R1・R2−R1)/(−R1+R2)
=(−30×32+30)/(30+32)
=−930/62
=−15
【0036】
(隙間:カッター逃げ部)
図3A図3Bおよび図3Cは、それぞれ、隙間9の形成例を示す説明図である。なお、図3B図3Cにおいて、図3Aにおける各部に対応する部位には、図3Aにおける場合と同一の符号を付してある。第1、第2外歯7、8の間に形成されている隙間9は、第1、第2外歯7、8を歯切するために用いる歯切り用カッターのカッター逃げ部として機能する。
【0037】
図3Aを参照して、第1、第2外歯7、8について説明する。本例の第1、第2内歯2a、3aの歯幅が実質的に同一である。したがって、円筒体6における歯筋方向の中央位置6aを中心として、対称な状態で同一歯幅の第1外歯7および第2外歯8が形成されている。第1内歯2a、第2内歯3aの歯幅が相互に異なる場合には、これに対応させて、第1外歯7、第2外歯8も異なる歯幅とされる。
【0038】
隙間9は、歯筋方向に所定の幅を有し、歯筋方向の中央部分において歯丈方向に最深となる最深部を有している。本例では、歯厚方向から見た場合に、歯筋方向の中央部分が歯筋方向に平行に延びる直線によって規定される最深部9aとなっている。最深部9aにおける歯筋方向の両端には、第1外歯7の歯筋方向の内側端面7aを規定する凹円弧曲線および第2外歯8の歯筋方向の内側端面8aを規定する凹円弧曲線が滑らかに繋がっている。最深部9aを凹曲面によって規定し、両側の内側端面7a、8aを傾斜直線によって規定することもできる。また、最深部9aを直線によって規定し、両側の内側端面7a、8aを傾斜直線によって規定することもできる。
【0039】
本例の隙間9の歯筋方向の幅は、最深部9aから歯丈方向に向けて漸増している。その歯筋方向における最大幅L1は、第1外歯7の歯先円の歯筋方向の内側端7bから、第2外歯8の歯先円の歯筋方向の内側端8bまでの歯筋方向の距離である。
【0040】
ここで、第1外歯7の歯筋方向の外端7cから第2外歯8の歯筋方向の外端8cまでの幅をL、隙間9の歯筋方向における最大幅をL1とすると、
0.1L < L1 < 0.35L
に設定されている。
【0041】
また、隙間9の最深部9aの深さは次のように設定されている。第1外歯7の歯丈をh1、第2外歯8の歯丈をh2、第1外歯7の歯先面7dから最深部9aまでの歯丈方向の深さをt1、第2外歯8の歯先面8dから最深部9aまでの歯丈方向の深さをt2とする。また、深さt1、t2は、次の条件1、条件2、および条件3のうちのいずれか一つを満足するように設定されている。図3A条件1を満たす場合の説明図であり、図3B条件2を満たす場合の説明図であり、図3C条件3を満たす場合の説明図である。
【0042】
条件1
0.9h1 < t1 < 1.3h1
0.3h2 < t2 < 0.9h2
条件2
0.3h1 < t1 < 0.9h1
0.9h2 < t2 < 1.3h2
条件3
0.3h1 < t1 < 0.9h1
【0043】
デュアルタイプの波動歯車装置1の外歯歯車4においては、第1、第2外歯7、8の歯切りを行うために用いる歯切り用カッターも異なる。したがって、外歯歯車4の歯筋方向の中央部分、すなわち、第1外歯7と第2外歯8の間に、カッター逃げ部として機能する隙間9が形成されている。
【0044】
このように隙間9を形成することで、第1、第2外歯7、8の歯筋方向の歯面荷重分布を均一化でき、第1、第2内歯2a、3aに対する第1、第2外歯7、8の歯筋方向の各位置で歯当りも良好な状態に維持できる。特に、本例によれば、第1、第2外歯7、8において、それらの歯筋方向の内側端面の側の部分の剛性を相対的に上げることができる。これにより、負荷が加わった際の第1、第2外歯7、8のねじれを低減でき、第1、第2外歯7、8のそれぞれの内歯に対する片当たりが軽減される。この結果、歯のかみ合い部分において歯筋方向に応力が適切に分散され、外歯歯車4の耐摩耗性および疲労強度を大幅に高めることができる。したがって、速比が30以下の波動歯車装置を容易に実現できると共に、耐摩耗性および疲労強度が高く、負荷容量の高い波動歯車装置を実現できる。
【0045】
(ベアリングボール中心間距離)
次に、図3Aを参照して、第1、第2ウエーブベアリング12、13のベアリングボール中心間距離について説明する。
【0046】
波動発生器5の剛性プラグ11は、その中心軸線の方向の一方の側に、一定幅の楕円形輪郭の第1外周面11aが形成され、他方の側に、一定幅の楕円状輪郭の第2外周面11bが形成されている。第1外周面11aと第2外周面11bとは、同一形状で同一位相の楕円形状の外周面である。
【0047】
第1外周面11aには、楕円状に撓められた状態で第1ウエーブベアリング12が装着されており、第2外周面11bには、楕円状に撓められた状態で第2ウエーブベアリング13が装着されている。第1、第2ウエーブベアリング12、13は同一サイズのベアリングである。
【0048】
第1ウエーブベアリング12および第2ウエーブベアリング13のベアリングボール中心12a、13aは、外歯歯車4の歯幅方向の中央位置6aから、歯幅方向に等距離の位置にある。また、ベアリングボール中心間距離は、隙間9の最大幅L1の増加に伴って増加するように設定される。さらに、ベアリングボール中心間距離をLoとすると、当該ボール中心間距離Loは次式で示す範囲内の値となるように設定されている。
0.35L < Lo < 0.7L
【0049】
本例では、歯数の異なる第1、第2外歯7、8の支持剛性を高め、各外歯7、8の歯筋方向の各位置において内歯2a、3aに対する歯当りを改善できるように、2列のウエーブベアリング12、13のボール中心間距離Loを広げてある。すなわち、上記のように、第1、第2外歯7、8の間に形成されるカッター逃げ部として機能する隙間9の歯筋方向の最大幅L1の増加に伴って、ボール中心間距離Loを広げる(増加させる)ようにしている。また、ボール中心間距離Loの増減の範囲を外歯歯車4の幅Lに対して0.35倍から0.7倍までの範囲としてある。
【0050】
形成される隙間9の幅に応じて、第1、第2外歯7、8のそれぞれに対して、歯筋方向における適切な位置にボール中心が位置するように、第1、第2ウエーブベアリング12、13を配置できる。これにより、第1、第2外歯7、8のそれぞれの歯幅方向の各位置において、第1、第2外歯7、8を第1、第2ウエーブベアリング12、13によって確実に支持できる(波動発生器5の支持剛性を高めることができる。)。
【0051】
この結果、第1、第2外歯7、8の歯幅方向の各位置における歯当りを改善でき、これらの歯底疲労強度を高めることができる。また、波動発生器5の各ウエーブベアリング12、13におけるベアリングボール荷重分布を平均化でき、その最大荷重を低減できるので、波動発生器5の寿命を改善できる。
【0052】
(その他の実施の形態)
なお、上記の例では、第1内歯歯車2を静止側内歯歯車、第2内歯歯車3を駆動側内歯歯車としている。逆に、第1内歯歯車2を駆動側内歯歯車、第2内歯歯車3を静止側内歯歯車とすることもできる。
【0053】
また、外歯歯車4は、波動発生器5によって、楕円状以外の非円形形状、例えば、スリーローブ状等の非円形形状に撓めることができる。非円形に撓めた外歯歯車と内歯歯車のかみ合い箇所の数をh(h:2以上の正の整数)とすると、両歯車の歯数差は、h・p(p:正の整数)に設定すればよい。
【符号の説明】
【0054】
1 波動歯車装置
1a 中心軸線
2 第1内歯歯車
2a 第1内歯
3 第2内歯歯車
3a 第2内歯
4 外歯歯車
5 波動発生器
6 円筒体
6a 中央位置
7 第1外歯
7a 内側端面
7b 内側端
7c 外端
7d 歯先面
8 第2外歯
8a 内側端面
8b 内側端
8c 外端
8d 歯先面
9 隙間
9a 最深部
10 入力回転軸
11 剛性プラグ
11a 第1外周面
11b 第2外周面
11c 軸穴
12 第1ウエーブベアリング
12a ベアリングボール中心
13 第2ウエーブベアリング
13a ベアリングボール中心
Lo ベアリングボール中心間距離
L 幅
L1 最大幅
h1、h2 歯丈
t1、t2 深さ
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C