特許第6552598号(P6552598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552598気相におけるα−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552598
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】気相におけるα−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/20 20060101AFI20190722BHJP
   C07C 69/675 20060101ALI20190722BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   C07C67/20
   C07C69/675
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-505652(P2017-505652)
(86)(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公表番号】特表2017-528439(P2017-528439A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2015066819
(87)【国際公開番号】WO2016016073
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年3月19日
(31)【優先権主張番号】14179444.6
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390009128
【氏名又は名称】エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】ベライド アイト アイサ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マイ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス グレンピング
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/113964(WO,A1)
【文献】 特開平06−345692(JP,A)
【文献】 特表2010−510276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/20
C07C 69/675
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相応するα−ヒドロキシカルボン酸アミドを気相において不均一系触媒のもとアルコーリシス反応させることによってα−ヒドロキシカルボン酸エステルを製造する方法において、α−ヒドロキシカルボン酸アミドに対するアルコールのモル比率が、2〜25mol/molであること、及び反応が、α−ヒドロキシカルボン酸アミドを基準として3.34〜10mol/molの水の存在下で行われることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、反応が二酸化ジルコニウム触媒の存在下で行われることを特徴とする前記方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、反応温度が150〜300℃であることを特徴とする前記方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法において、出発物質が、蒸発前にカチオン性イオン交換体により処理されることを特徴とする前記方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法において、α−ヒドロキシカルボン酸アミドとしてヒドロキシイソ酪酸アミド、アルコールとしてメタノールが使用されることを特徴とする前記方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法において、発生するアンモニアが青酸製造方法又はアンモ酸化プロセスに送り込まれることを特徴とする前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相応するα−ヒドロキシカルボン酸アミド(HCA)を気相においてアルコーリシス反応させることによってα−ヒドロキシカルボン酸エステル(HCSE)を製造する方法について説明する。
【0002】
HCAのアルコーリシス反応を利用したHCSEの製造は、従来技術から十分に知られている。独国特許出願公開第2454497号明細書(DE2454497)には、触媒としての鉛化合物の使用下における相応する反応が記載されている。ここではまた、連続的な方法の変法についても言及されているが、しかしながら生成物が高効率で得られる技術的な解決策が提供されていない。
【0003】
独国特許発明第2528524号明細書(DE2528524)には、特にランタン化合物も含有する触媒の使用下でHCSEを製造する方法が記載されている。ここでもまた、方法が連続的に実施可能であるものの、長期稼動の場合に生じる問題に対する満足のいく解決策が提供されていないことが言及されている。
【0004】
欧州特許第0945423号明細書(EP0945423)には、HCSEの製造方法が開示されており、ここではHCAとアルコールとを触媒の存在下で液相において相互に反応させる一方で、反応溶液におけるアンモニア濃度が0.1質量%以下に保たれる。よって、発生するアンモニアは、継続的にできるだけ完全に反応溶液から除去される。そのために、反応溶液は沸騰するまで加熱され、ストリッピングガスを反応溶液全体にわたってバブリングさせる。現行の方法の欠点は、これが効果的にアンモニアを除去するために、非常に有効な分離カラム、延いては特別な技術的労力を必要とすることである。
【0005】
不活性のストリッピングガスを使用することによって、たしかにアンモニアの分離は改善されるが、さらなるプロセス成分が犠牲となり、その後処理はさらなる取り扱いを意味する。さらに、α−ヒドロキシイソ酪酸アミド及びメタノールが相応する出発物質として使用される場合、文献に記されている条件下で生じるアンモニア及び残留メタノールは互いに分離することが非常に困難である。さらなる物質流の追加処理(ストリッピングガス/アンモニアの分離)も必要であるため、提案される運転方法が経済性においてあまり興味深いものではなくなってしまい、そのためこの方法は今まで工業的に使用されてこなかった。液相におけるこの触媒作用による実施の際にはさらに、副生成物(例えば、N−メチルヒドロキシイソ酪酸アミド又はトリメチルアミン)が形成されてしまい、これらは相応する方法によって非常に高いコストをかけて所望の生成物であるヒドロキシイソ酪酸メチルエステルから分離する必要がある。
【0006】
つい最近、欧州特許出願公開第2415750号明細書(EP2415750)にて、気相におけるHCAのアルコーリシス反応について説明する方法が開示された。ここでは、非常に高いHCAの転化率(最大90%)が「1回の経路ごとに(per single path)」達成できることが示され、このことによって既に、HCSEの製造において蒸気消費の著しい改善がもたらされる。というのも、循環流の発生がより少なくなるからである。しかしながら、HCSEに対する選択率が著しく乏しくなること、及び副生成物(例えば、アセトン及び2−アミノ−2−メチルプロピオニトリル(AMPN))がより多く発生することが示される。よって、そこに記載される気相法は、たしかにエネルギー面では液相法より良い評価ができるが、しかしながら選択率は不十分であり、それにより引き起こされる比較的高い副生成物の濃度は、長期稼動にとって場合によっては不利である。
【0007】
従来技術に鑑みると、今や本発明の課題は、省エネルギーかつ省資源、延いては容易にかつ価格面で有利に実施可能なHCSEの製造方法を提供することであった。本発明のさらなる課題は、HCSEを非常に選択的に得ることができる方法を提供することにあった。さらに、副生成物が作製されない、又は少量の副生成物しか作製されないHCSEの製造方法を提供することが本発明の課題であった。ここで生成物は、できるだけ高い収率で、かつ(全体的に見て)僅かなエネルギー消費で得られるべきである。
【0008】
これらの課題、並びにここでは明示されていないさらなる課題は、相応するHCAを気相において不均一系触媒のもとアルコーリシス反応させることによってHCSEを製造する方法を提供することによって解決され、この方法は、HCAに対するアルコールのモル比率が、2〜25mol/molであること、及び反応が水の存在下で行われることを特徴とする。
【0009】
本発明の反応において使用可能なHCAとは通常、カルボン酸アミド基に対するα位において少なくとも1つのヒドロキシ基を有するカルボン酸アミド全てである。
【0010】
また、カルボン酸アミドは当業者にとって一般的に公知である。ここでは通常、式−CONR’R’’−の基を有する化合物と理解され、前記式中、R’及びR’’は、独立して水素であるか、又は炭素原子を1〜30個有する基、殊に炭素原子を1〜20個、好ましくは1〜10個、特に1〜5個有する基であり、ここでR’及びR’’がともに水素であるアミドが特に好ましい。カルボン酸アミドは、式−CONR’R’’−の基を、1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれより多く含むことができる。これには殊に、式R(−CONR’R’’)の化合物があり、前記式中、基Rは炭素原子を1〜30個有する基、殊に炭素原子を1〜20個、好ましくは1〜10個、特に1〜5個、特に好ましくは2〜3個有する基であり、R’及びR’’は先に挙げた意味を有し、nは、1〜10、好適には1〜4、特に好ましくは1又は2の範囲にある整数を表す。
【0011】
「炭素原子を1〜30個有する基」という用語は、炭素原子1〜30個を有する有機化合物の基を意味する。これには、芳香族及び複素芳香族の基だけでなく、脂肪族及び複素脂肪族の基も含まれ、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルキルチオ基、及びアルケニル基がある。ここで、列挙された基は分枝鎖状であっても分枝鎖状でなくてもよい。
【0012】
本発明によると、芳香族基とは、好適にはC原子を6〜20個、殊に6〜12個有する単環式若しくは多環式の芳香族化合物の基である。
【0013】
複素芳香族とはアリール基であり、ここで少なくとも1つのCH基がNと交換されており、かつ/又は少なくとも2つの隣接するCH基がS、NH、又はOと交換されている。
【0014】
本発明による好ましい芳香族若しくは複素芳香族の基は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、チオフェン、フラン、ピロール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピラゾール、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1,3,4−トリアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,5−トリフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,3,4−テトラゾール、ベンゾ[b]チオフェン、ベンゾ[b]フラン、インドール、ベンゾ[c]チオフェン、ベンゾ[c]フラン、イソインドール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ピリジン、ビピリジン、ピラジン、ピラゾール、ピリミジン、ピリダジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,4,5−トリアジン、テトラジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シノリン、1,8−ナフチリジン、1,5−ナフチリジン、1,6−ナフチリジン、1,7−ナフチリジン、フタラジン、ピリドピリミジン、プリン、プテリジン又はキノリジン、4H−キノリジン、ジフェニルエーテル、アントラセン、ベンゾピロール、ベンゾオキサチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾピリジン、ベンゾピラジン、ベンゾピラジジン、ベンゾピリミジン、ベンゾトリアジン、インドリジン、ピリドピリジン、イミダゾピリミジン、ピラジノピリミジン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、フェノキシアジン、フェノチアジン、アクリジジン、ベンゾプテリジン、フェナントロリン及びフェナントレンから誘導され、これらは場合によっては置換されていてもよい。
【0015】
好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、ノニル基、1−デシル基、2−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、及びエイコシル基がある。
【0016】
好ましいシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及びシクロオクチル基があり、これらは場合によっては、分枝鎖状若しくは非分枝鎖状のアルキル基により置換されている。
【0017】
好ましいアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−メチル−2−プロペン基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−デセニル基、及び2−エイコセニル基がある。
【0018】
好ましい複素脂肪族には、上記の好ましいアルキル基及びシクロアルキル基があり、ここで少なくとも1つの炭素単位は、O、S、又は基NR若しくはNRと交換されており、R及びRは、独立して炭素を1〜6個有するアルキル基、炭素を1〜6個有するアルコキシ基若しくはアリール基を意味する。
【0019】
本発明によると極めて好ましくは、カルボン酸アミドは、炭素原子を1〜20個、好適には炭素原子を1〜12個、有利には1〜6個、殊に1〜4個有する分枝鎖状若しくは非分枝鎖状のアルキル基又はアルコキシ基、及び炭素原子を3〜20個、好適には炭素原子を5〜6個有するシクロアルキル基及び/又はシクロアルキルオキシ基を有する。基Rは置換基を有することができる。好ましい置換基としては特に、ハロゲン、殊にフッ素、塩素、臭素、並びにアルコキシ基又はヒドロキシ基がある。
【0020】
HCAは、本発明の方法において単独で、又は2種若しくは3種若しくはそれより多くの異なるHCAの混合物として使用することができる。特に好ましいHCAとしては、α−ヒドロキシイソ酪酸アミド及び/又はα−ヒドロキシイソプロピオン酸アミドがある。
【0021】
さらに本発明による方法の発展形において、ケトン又はアルデヒドと青酸とからのシアノヒドリン合成によって獲得できるHCAを使用することは特に興味深い。ここで、第一工程において、カルボニル化合物、例えばケトン(殊にアセトン)又はアルデヒド(例えばアセトアルデヒド、プロパナール、ブタナール)を青酸と反応させてそれぞれシアノヒドリンにする。ここで特に好ましくは、アセトン及び/又はアセトアルデヒドを、一般的な手法で、少量のアルカリ又はアミンを触媒として使用しながら反応させる。そのように得られたシアノヒドリンを、さらなる工程において水と反応させてHCAにする。
【0022】
本発明の方法においてうまく使用可能なアルコールとしては、当業者にとって一般的なあらゆるアルコール、並びに記載された圧力及び温度の条件下においてHCAとアルコーリシス反応の意味合いで反応できるアルコールの前駆体化合物がある。好ましくはHCAの反応は、好適には1〜10個の炭素原子、特に好ましくは1〜5個の炭素原子を有するアルコールとのアルコーリシス反応によって行われる。好ましいアルコールは特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、殊にn−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、ノナノール、及びデカノール、及びそれらの混合物である。特に好ましくは、アルコールとしてメタノール及び/又はエタノールを使用し、ここでメタノールが極めて特に有利である。アルコールの前駆物質を使用することも基本的には可能である。よって、例えばアルキルホルメートを使用することができる。殊に、メチルホルメートと、メタノール及び一酸化炭素の混合物とが適する。
【0023】
さらに、HCAとしてはヒドロキシイソ酪酸アミド(HIBA)、アルコールとしてはメタノールを使用し、これらを反応させて目的生成物であるヒドロキシイソ酪酸メチルエステル(HIBSM)にすることを特徴とする方法が好ましい。
【0024】
本発明による方法に適している触媒は、周期表第2〜4族、第7族、並びに第9〜13族の元素によって、及び/又はLa、Sb、若しくはBiによってドープされている二酸化ジルコニウムである。また、ドープされていない二酸化ジルコニウムも適している。二酸化ジルコニウムにとって好ましいドープ元素は、周期表の第3族、第7族、第9族、第10族、又は第13族からのものであり、かつ/又はB、Al、Mn、Co、Ni、Y、La、又はYbより成る群から選択されている。ドープ元素Ce、K、La、Mo、P、S、Si、Ti、W、Y、又はZnが特に好ましく、Ce、K、又はLaが極めて特に好ましい。ドープ含分は、0〜50質量%、好ましくは0.2〜20質量%、特に好ましくは0.4〜15質量%である。
【0025】
本発明による方法は気相反応であり、ここで不均一系触媒は、固定床、移動床、又は流動床の形態で存在する。触媒床を構築するための装置に関する解決策は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、Wiley 2012、p.293以降(DOI:10.1002/14356007.b04_087)に記載されている。
【0026】
本発明による気相反応では、液相反応と比較してより高い転化率が達成される。というのも、気相においては、反応平衡がより強く出発物質から生成物に向かってシフトしているからである。本発明の意味合いにおいて、気相反応とは、反応が実質的に気相において行われることと理解され、ここで存在する液相の割合は、出発物質の合計量を基準として、10質量%未満、好ましくは5質量%、特に好ましくは2質量%未満、極めて特に好ましくは0質量%である。出発物質であるHCA及びアルコールは、反応器への供給前に、又は反応器そのものの中で気相に移行することができる。さらに、出発物質は、個別に、又は混合物として反応器に供給することができる。反応は基本的に不活性ガス(例えば、窒素)の存在下でも実施することができ、このことによって、出発物質における分圧の低下に基づく出発物質の気相への移行が容易になる。しかしながら、好ましい変法では不活性ガスは必要とされない。というのも、そうすれば不活性ガスのさらなる処理コストが削減されるからである。反応器の型式としては管型反応器が好ましい。
【0027】
生成する反応生成物を未反応の出発物質、副生成物、及び/又はその他の成分から分離するために、当業者に公知の一般的な方法(例えば、精留)を適用することができる。
【0028】
反応温度は、出発物質が十分に蒸発するように選択され、これは実質的に出発物質の種類及び選択される反応圧力に依存する。HIBAとメタノールを反応させるための好ましい方法において、反応温度は、150〜300℃、好ましくは160〜250℃、特に好ましくは180〜230℃にある。
【0029】
HIBAとメタノールとの反応における反応圧力は、0.1〜3bar、好ましくは0.2〜3bar、特に好ましくは0.3〜1.5barにある。
【0030】
本発明による気相法は水の存在下で実施する。驚くべきことに、例えばHIBAとメタノールとを水の存在下で反応させた場合、副生成物、殊にアセトン又は2−アミノ−2−メチルプロピオニトリル(AMPN)の形成が極めて大幅に阻止されること、並びにHIBSMへの選択率及び触媒の持続時間が著しく向上することが立証できた。水は出発物質供給物に添加してもよく、また直接反応器に送り込んでもよい。HCAに対する水のモル比率は、0.1〜10mol/mol、好ましくは0.3〜5mol/mol、特に好ましくは0.5〜1mol/molである。
【0031】
HCAに対するアルコールのモル比率は、2〜25mol/mol、好ましくは7〜20mol/mol、特に好ましくは10〜15mol/molである。
【0032】
HCAを基準とするWHSV(単位時間あたりの重量空間速度:weight hourly space velocity)は、0.05〜2h−1、好ましくは0.1〜1.5h−1、特に好ましくは0.1〜0.6h−1である。
【0033】
本発明による方法のさらなる好ましい変法では、出発物質流を蒸発前にカチオン性イオン交換体により処理する。これは、ヒドロキシカルボン酸の前駆物質を製造する際に使用される触媒法を用いる時に、使用される触媒からの金属イオン及び/又は二次的助剤がメタノリシス反応のための使用物質中に残留している場合に必要となり得る。よって、アセトンシアノヒドリンから出発して、二酸化マンガンベースの不均一系触媒による加水分解によってヒドロキシイソ酪酸アミドを製造する際に、助剤、つまりpH安定剤(たいていは、アルカリ金属水酸化物、好ましくはリチウム、ナトリウム、又はカリウムの水酸化物)が後処理後でも生成物中に残留していてよいが、このことによって、これらのアルカリ金属の痕跡量は、引き続く気相でのメタノリシス反応の際に、蒸発器中でケーキングを引き起こし、痕跡量で場合によっては触媒に達してこれを損なう恐れがあるか、若しくはまた、一般的には蒸発及び触媒作用の際に反応に対して不利な影響を及ぼしかねない。同じことがその他の鉱物(これらは前駆物質から痕跡量で、出発物質として使用されるヒドロキシカルボン酸に達する)に当てはまり、例示的に幾つかの不純物を挙げるとするならば、例えばマンガンイオン(二酸化マンガン触媒からのもの)及びSiO(これは二酸化マンガンを作製する際に助剤として用いられる)がある。
【0034】
このことは第一に、触媒からおそらく浸出する金属化合物、殊にアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを供給物から取り去ることに役立つ。殊に、元素及び遷移元素の周期表の第IA族、第IIA族、第IVA族、殊に第VIIB族からの金属化合物を使用する。イオン交換体によるそのような処理工程は、従来技術から十分に知られている。適したイオン交換体は例えば、Rohm&Haas社によりAmberlystという商品名で販売されているようなものである。驚くべきことに、殊にHIBAをメタノールと反応させてHIBSMにする場合、これによって設備の蒸発領域における堆積物の形成又は詰まりの傾向を減少、若しくは完全に回避できることが判明した。出発物質流のpH値は、イオン交換体が通過した後に3〜7にある。
【0035】
イオン交換体によって供給物を前処理するための変法として、反応器の上流で使用される蒸発器(ここで全供給物を蒸発させる)を部分蒸発器(Partialverdampfer)と取り替えることができ、この部分蒸発器より、触媒からの上記金属不純物を含有する高沸点留分が排出される。ここで排出される高沸点留分は、全供給物を基準として、0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜10質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%である。場合によっては、排出された高沸点留分を下流のさらなる蒸発工程にかけることができ、ここで低沸点物は先に挙げた部分蒸発器に再び供給される。ここではまた、さらに出発材料を回収するために、当業者に公知のその他の方法も使用することができる。
【0036】
本発明の方法の好ましい変法において放出されるアンモニアは例えば、青酸製造プロセスに返送することができる。例えば、アンモニアをメタノールと反応させて青酸にすることができる。このことについては、欧州特許出願公開第0941984号明細書(EP0941984)において詳述されている。さらに青酸は、アンモニア及びメタンから、MBA法又はアンドルソフ法により獲得することができ、ここでこれらの方法は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry 5. Auflage、1995、CD−ROMに、キーワード,,Inorganic Cyano Compounds‘‘で記載されている。同様にアンモニアは、アンモ酸化プロセス(例えば、アンモニア、酸素、及びプロペンからアクリロニトリルを大規模工業的に合成すること)に返送することができる。アクリロニトリルの合成については、K.Weisermehl及びH.−J.ArpeのIndustrial Organic Chemistry、1997、p.307以降にSohio−Prozessというキーワードで記載されている。
【0037】
必要であれば、放出されたアンモニアは、洗浄工程(これは殊に固体吸着剤を含む)の後に、前述の青酸プロセス又はアンモ酸化プロセスに送り込まれる。固体吸着剤として、特に好ましくは活性炭が考えられる。
【0038】
活性炭は、あらゆる可能な形態型(粉末として、顆粒状で、又は円柱形若しくは球形のペレットとして)で使用することができる。表面積の値が1000〜1500m/g、特に好ましくは1200〜1400m/gである顆粒状の活性炭が好ましい。塩化亜鉛及び/又はリン酸によって化学的に活性化させた活性炭だけでなく、アルカリ金属塩、アルカリ金属、塩化物、硫酸塩、及び酢酸塩を使用して気体により活性化させた活性炭も好ましい。
【0039】
吸着剤としては、固定床吸着剤、移動床吸着剤、又は流動床吸着剤があり得る。例示的な装置に関する解決策は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、Wiley 2012、p.293以降(DOI:10.1002/14356007.b04_087)に記載されている。本方法の実施は連続的、又はバッチ式で行うことができ、前者が好ましい。
【0040】
吸着は、0〜150℃、好ましくは30〜100℃、特に好ましくは35〜50℃の温度範囲において、0.1〜5bar、好ましくは0.5〜4bar、特に好ましくは1〜3barの圧力で実施する。
【0041】
本発明による方法にはまた、アルコーリシス反応用触媒の再生も含まれる。これは、200〜600℃、好ましくは350〜500℃の媒体により行われる。
【0042】
適した再生媒体には、空気、水蒸気、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、キセノン)、又は燃焼ガス(例えば、CO又は窒素酸化物)、並びにそれらの混合物がある。負荷が掛けられる、及び/又は使用される再生媒体は、適した通例の処理方法(例えば、有機物処理設備又は熱酸化装置)に供給することができる。
【0043】
再生は、還元条件でも酸化条件でも実施でき、新品の触媒の酸・塩基特性が再び作製されるという作用を実質的にもたらす。
【0044】
再生温度は、200〜600℃、好ましくは300〜500℃、特に好ましくは350〜450℃である。
【0045】
再生時間は、1〜24時間、好ましくは2〜18時間、特に好ましくは3〜12時間である。
【0046】
再生すべき触媒に対する再生媒体のWHSV(単位時間あたりの重量空間速度:weighted hourly space velocity)は、0.01〜10h−1、好ましくは0.1〜5h−1、特に好ましくは0.4〜1.5h−1である。
【0047】
以下の実施例は本発明をより明確にするものであって、それを制限するものではない。
【0048】
比較例1〜4:
メタノール中にある20質量%のHIBA溶液を、HPLC用ポンプ(F.Knauer社製)を用いて、1g/分の流速で蒸発器(これは長さ1mの特殊鋼製毛細管から成り、この毛細管には500Wの加熱筒が巻かれている)に送り込む。発生する気体混合物は、長さ33cm、内径1cmの固定床反応器に導く。触媒充填物は、イットリウムがドープされた二酸化ジルコニウム100g(ドープ濃度8.3質量%)から成る。HIBAに対する相応したWHSVは0.2h−1である。4つの異なる反応器温度及びそれぞれ400mbarの反応圧力で実施された実験における転化率及び選択率に関する結果を表1に挙げる。
【表1】
【0049】
反応温度を60℃上げると、HIBAの転化率は80%から94%に上昇する。同時に、所望の目的生成物HIBSMに対する選択率は90%から54%に減少し、例えば不所望な生成物AMPNに対する選択率は8%から23%に上昇する。水を添加しない場合、又は水が存在しない場合(Mitsubishi Gas Chem.の特許公開である欧州特許出願公開第2415750号明細書(EP2415750)に記載による)、副生成物であるAMPNの形成を削減し、ヒドロキシイソ酪酸アミドからのアセトンの脱離を削減し、かつ93%超の選択率を達成する最適化点が見つからない。
【0050】
実施例1〜9:
実施例1〜9を比較例1〜4と同じ装置で実施した。ただし供給物には、メタノールを減らして水1質量%を追加した。反応温度は220℃であった。様々な酸化物がドープされた二酸化ジルコニウム触媒の場合におけるHIBAの転化率及びHIBSMの選択率に関する結果を表2に示す。
【表2】
【0051】
注目すべきは、供給物中に水がない比較例1〜4と比較して、転化率及び選択率が著しく上昇していることである。Ce、K、若しくはLaがドープされた触媒が特に良好な値を示す。
【0052】
触媒作用のある水を僅かに補助的に供給するだけで、その他に関しては類似した、及び/又は同一の条件下で効率的にアセトンの脱離が抑制され、不所望な生成物であるAMNPの生成が劇的に削減される。このようにして生成物の選択率が劇的に向上する。
【0053】
比較例5〜9:
比較例1を繰り返した。ただし、反応圧力は表3で示したように1013mbarであり、HIBAに対するメタノール/水の比率は様々である。比較例9に対する結果を表4に示す。
【表3】
【0054】
予測されていた通り、メタノールの不在下ではHIBSMは形成されない。HIBAに対するメタノールのモル比率が4未満の場合、水が存在していたとしても、著しい量のHIBSMは依然として発生しない。
【0055】
実施例10〜12及び比較例9:
比較例5を、表4で示した供給組成物を用いて繰り返した。
【表4】
【0056】
表4に示されているように、HIBAに対するメタノールのモル比率が5の場合に初めて満足できるHIBA転換率が達成される。一方で選択率は、HIBAに対するメタノールのモル比率が高い場合でも、水の存在下であれば著しくより向上する。
【0057】
実施例14〜19:
実施例14〜19を実施例1と同様に行った。ただし、全供給物を設備に送り込む前にイオン交換体を用いて前洗浄したという点で異なる。そのために、成分HIBA、MeOH、及び水を所望のモル組成で混合し、連続的にカチオン性イオン交換体(LewatitK2341)に供給した。負荷は、供給物溶液を1時間及びイオン交換体1gあたり43.3gに調整した。この処理は、イオン交換体カラムの出口におけるpH値が4±0.1になるまで実施した。そして、そのようにして処理した供給物溶液を蒸発器に送り込んだ。結果として得られた値を表5に示す。
【表5】
【0058】
HIBSMに関して、イオン交換体による前処理なしの場合(表4)よりも著しく高い選択率が達成される。