特許第6552605号(P6552605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552605パッケージング用鋼帯の製造のための方法および関連機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552605
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】パッケージング用鋼帯の製造のための方法および関連機器
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/73 20060101AFI20190722BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20190722BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20190722BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20190722BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20190722BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20190722BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C23C22/73 A
   B05D3/00 D
   B05D1/28
   B05D7/14 G
   B05C1/08
   B05C11/10
   B05C9/14
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-512457(P2017-512457)
(86)(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公表番号】特表2017-524825(P2017-524825A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】IB2014000745
(87)【国際公開番号】WO2015173600
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2017年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストッフ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】グリジェ,ダビッド
(72)【発明者】
【氏名】マルケ,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】レキップ,ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ルクレール,ティボー
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ,マルク
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−089796(JP,A)
【文献】 特開平05−115832(JP,A)
【文献】 特表2011−521100(JP,A)
【文献】 特開昭51−112848(JP,A)
【文献】 特開平08−245973(JP,A)
【文献】 特開平03−177578(JP,A)
【文献】 特開2009−057585(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0017352(US,A1)
【文献】 T.A. TURNER,3.3.4節 Anilox coating systems,Canmaking: The Technology of Metal Protection and Decoration,1998年,p.89-91
【文献】 Anilox Guide for Offset Coating Applications,http:www.harris-bruno.com/uploads/H_B_Anilox_Guide.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動態化層で被覆されたパッケージング用鋼帯の連続製造のための方法であって、
厚さが3μm未満であり、且つ粘度が20℃で1.5×10−3Pa・s未満である水性不動態化溶液の層が、前記鋼帯の面の1つ上に堆積され、この堆積は、一方で前記鋼帯と接触し、他方で第2のコーティングローラーと接触する転写ローラーで行われ、前記第2のコーティングローラーの表面は複数の六角形状のセルを有し、前記六角形状のセルのラインカウントは1センチメートル当たり50から200ラインの間であり、且つ全体積はローラー表面の1平方メートル当たり5×10−6から10×10−6の間であり、前記コーティングローラーが、ワイピング手段を備えたタンクに浸漬されることによって水性不動態化溶液を供給し、且つ前記鋼帯が、400m/分以上の速度で動作する、製造方法。
【請求項2】
前記コーティングローラーを前記転写ローラーに接触させて設置するためのコーティングローラー上に及ぼされる力の合計は、被覆鋼帯の幅の1メートル当たり1500Nから3000Nの間である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記転写ローラーを前記鋼帯に接触させて設置するための転写ローラー上に及ぼされる力の合計は、被覆鋼帯の幅の1メートル当たり3000から5000Nの間である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記コーティングローラーが、タンクからの出口で過剰の水性不動態化溶液の除去を可能にするワイピング手段に接触する、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記水性不動態化溶液の堆積後、被覆鋼帯は乾燥ステップに供される、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥ステップが、鋼帯の方向に空気を吹くことによって行われ、吹かれた空気が80から150℃の間の温度および15%未満の水分含有量を有する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥段階に先立って、前記鋼帯が、80℃より低い温度への予熱ステップに供される、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水性溶液中の不動態化元素の濃度は、乾燥前に不動態化フィルムの厚さの測定に応じて制御される、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記水性不動態化溶液が、不動化フィルムの水性溶液であり、前記溶液の濃度は、不動化フィルム溶液の5から15体積%の間である、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記堆積された不動化フィルムの層の厚さは、乾燥後に15nm未満である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の方法の実施のための装置であって、
転写ローラー(7)と、
前記転写ローラー(7)に接触し、且つ複数の六角形状のセルを有し、六角形状のセルのラインカウントは1センチメートル当たり50から200ラインであり、体積はローラー表面の1平方メートル当たり5×10−6から10×10−6であるコーティングローラー(8)と、
水性不動態化溶液を含み、コーティングローラー(8)が浸漬されるタンク(9)と
を含む装置。
【請求項12】
前記転写ローラー(7)が、エラストマーからなる、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記コーティングローラー(8)が、レーザーエッチングされたセラミックコーティングを含む、請求項11および12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記タンク(9)が、少なくとも1つのブレードを有するワイピングデバイス(10)を含む、請求項11から13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
乾燥前に水性不動態化溶液のフィルムの厚さの測定を可能にする磁気放射線ゲージ(5)をさらに含む、請求項11から14のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不動態化層で被覆されたパッケージング用鋼帯の連続製造のための方法、およびこの方法を実施することを可能にする機器に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「パッケージング用鋼」は、食品、飲料、およびエアゾールガスまたはペンキなどの工業非食品のパッケージングに使用される鋼系材料すべてを含む。
【0003】
パッケージング鋼としては、数ある中でも、錫プレートが挙げられ、錫プレートは、一般的に0.08%未満の低い炭素含有量を有し、錫の層によって被覆された鋼である。
【0004】
不動態化層は、錫の堆積後に施され、とりわけ、酸化スズの進展を制限することができる。不動態化は、リン酸またはクロムメッキ溶液などの水性不動態化溶液またはシュウ酸チタン、硫酸チタンまたは硫酸ジルコニウムなどの可溶性化合物の溶液を堆積することによって成し遂げることができる。堆積は、最初に湿潤したフィルムの形態で施され、溶液は水の形態であり、次いで、被覆製品は乾燥されて乾燥フィルムが得られる。乾燥は、鋼帯の方向に温風を噴霧するノズルを備えたトンネルに被覆鋼帯を通すことによって一般的に行われる。堆積された湿潤したフィルムの厚さは、一般的に、乾燥した不動態化コーティングの厚さが10nm未満に対して5μm未満である。実際に、不動態化コーティングは機械的に弱く、その厚さがより大きいほど、密着破壊の危険がより高くなる。この密着破壊は、後に施され得る、ニスまたは塗料などの有機コーティングの層間剥離もしくは密着の損失を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不動態化層は「噴霧/浸漬/圧搾」方法によって堆積され得、これによって、被覆される表面は、噴霧または浸漬によって水性不動態化溶液に接触され、その後、過剰な溶液は圧搾ローラーを用いて除去される。この方法の欠点は、堆積された湿潤したフィルムの厚さが、鋼帯に接触する溶液の量に相関するものではなく、コーティングラインの速度に相関するということである。圧搾ローラーを用いて取り除かれた溶液の量は、特に、鋼帯がこれらのローラー間を移動する速度に相関する。従って、この方法で、ラインの速度にかかわらず、一定の不動態化層の厚さを得るのは困難である。
【0006】
不動態化層の堆積のための他の方法は、水性不動態化溶液を、ディスクを回転させることによって発生される液滴の均一な流れの形態で鋼帯上に噴霧し次いで、拡散ローラーを用いて不動態化層を滑らかにすることを含む。この方法は、堆積された湿潤したフィルムの厚さが、回転するディスクによって噴霧された溶液の流れを調節することによってラインの速度が変動する場合でも、一定に保つことができるという利点を有する。しかし、溶液の均一な広がりは、液滴が均一な液体の流れを形成するのに必要な時間、および拡散ローラーと鋼帯との間の接触力に大きく左右され、ローラーの摩耗、鋼帯の平坦性の変動、およびローラーの形状および配置の許容差により制御するのは簡単ではない。従って、パッケージング用途に許容されない不動態化層の厚さの均一性に不具合がある。
【0007】
これらの均一性の問題を取り除くために、回転するディスクによって噴霧される溶液の量を増加させることは可能であるが、これは、同様に乾燥の問題を引き起こす湿潤したフィルムのより高い平均厚さをもたらす。実際に、増加した量の水は蒸発して、乾燥した不動態化層の必要な厚さを達成し、また鋼帯上に残留する水分の存在を除去しなければならない。1つの可能性は、そのとき、ラインのスピードを落とすことによって、鋼帯が乾燥設備を通過する時間を増加させることであるが、これは特に、400m/分以上の速度で一般的に作動するこの種の製造ラインについて、生産性の問題をもたらす。他の解決法は、乾燥ユニットの長さを増加させることであり得るが、これはラインに関するスペースの問題を引き起こす。他の可能性は、鋼帯に向けて吹き付けられる空気の温度を上昇させることであるが、この上昇はエネルギー消費の増加および不動態化溶液の劣化をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、上記の欠点を有さない方法を提供することである。従って、本発明の目的は、特に、製造ラインの速度にかかわらず、一定の厚さを有する不動態化層の堆積を可能にする方法を提供することである。
【0009】
この目的のために、本発明の目的は、請求項1に記載のような製造方法である。
【0010】
この製造方法は、請求項2から10に記載される特性を個々に、または組み合わせて、考慮されて含むこともできる。
【0011】
本発明のさらなる目的は、請求項11に記載されるような方法の実施のための装置である。
【0012】
この装置は、請求項12から15に記載される特性を個々に、または組み合わせて、考慮されて含むこともできる。
【0013】
本発明のさらなる特性および利点は、より詳細に以下に記載される。
【0014】
本発明を説明するために試験が実施され、この試験について、特に添付図面を参照して、非限定の実施例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の1つの実施形態によるパッケージング用鋼帯のための製造装置を示す。
図2】本発明の1つの実施形態によるコーティングデバイスを示す。
図3A】先行技術の方法を使用して堆積された不動態化フィルムのSIMSデバイスを使用して得られた写真である。
図3B】本発明による方法を使用して堆積された不動態化フィルムのSIMSデバイスを使用して得られた写真である。
図4】2つのグラフであり、第1のグラフは時間の関数としての製造ラインの速度を説明し、第2のグラフは同じ時間の関数としての湿潤した不動態化フィルムの厚さを説明する。
図5】横断方向で考慮された鋼帯の異なる点における、本発明による製造方法によって堆積された湿潤した不動態化フィルムの厚さを表す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、方向Dに沿って、コーティング設備2を進む鋼帯1を示す。鋼帯1は、まず、水性不動態化溶液の湿潤したフィルムを施すために、コーティングデバイス3を通過し、その後、この湿潤したフィルムに含まれる水分を除去するために、乾燥ユニット4を通過する。堆積された湿潤したフィルムの厚さを測定するデバイス5は、コーティングデバイス3と乾燥ユニット4との間に位置し、コーティングデバイス3の制御ユニット6に接続されている。
【0017】
図1に説明される実施形態では、コーティングデバイス3は、鋼帯の2つの面を同時に被覆することができるが、他の実施形態においては、コーティングデバイス3は、鋼帯の単一面のみを被覆するように、デバイスの上半分3Aまたは下半分3Bからのみ構成することができる。
【0018】
コーティングデバイス3の上側部3Aの1つの実施形態が図2に説明される。下側部3Bは、鋼帯1に関して上側部3Aと対称であるので、記載していない。
【0019】
このデバイスは、転写ローラー7と呼ばれる第1のローラーから構成される。この転写ローラー7は、一方で鋼帯1と接触し、他方でコーティングローラー8と呼ばれる第2のローラーと接触している。コーティングローラー8は、転写ローラー7に接触し、鋼帯1上に堆積される水性不動態化溶液を含むタンク9に接触している。図2に説明される実施形態では、タンク9は、コーティングローラー8の表面上に溶液を圧搾するデバイス10を備えている。
【0020】
この製造方法中において、コーティングローラー8は回転し、水性不動態化溶液を含むタンク9に浸漬される。この水性溶液は水の粘度に近い、20℃で1.5×10−3Pa・s未満の粘度を有する。該溶液は、例えば、シラン水性溶液、3価のクロム水性溶液またはBonderite(R)の水性溶液とすることができる。コーティングローラー8は、時計回り方向または反対方向に回転することができる。
【0021】
本発明によれば、コーティングローラー8は複数の六角形状のセルを有し、そのラインカウントは1センチメートル当たり50から200ラインの間であり、その体積はローラー表面の1平方メートル当たり5×10−6から10×10−6の間であり、好ましくはローラー表面の1平方メートル当たり5×10−6から7×10−6の間である。
【0022】
コーティングローラー8のこれらの刻み込まれた特性により、鋼帯の全表面にわたって湿潤した不動態化フィルムの必要な厚さを均一に得るのに必要な量の水性不動態化溶液を堆積することができる。
【0023】
コーティングローラー8のセルは水性不動態化溶液で満たされる。ワイピングデバイス10により、必要な湿潤したフィルムの厚さを得るために堆積される溶液の必要な量でローラー8が被覆されることを確実にすることができる。このデバイス10は2枚のブレードから構成することができ、例えば、第1のブレードは、ローラー8がタンク9に入り、タンク9を介してローラー8の前の通過から残留する残留水性溶液を取り除くことができる点に位置し、第2のブレードは、ローラー8がタンク9を出て、過剰な溶液を取り除くことを可能にする点に位置する。第1のブレードは、例えば、プラスチックからなることができ、第2のブレードは、ステンレス鋼または炭素繊維からなることができる。デバイス10は、単一ブレード、例えば、ステンレス鋼からなるブレードとすることもでき、ローラー8がタンク9を出る点に位置する。
【0024】
コーティングローラー8の表面は、例えば、セラミックからなることができ、セルは、例えば、レーザーもしくは機械的工具を用いて刻み込むことができる。
【0025】
タンク9を通過後、水性溶液で被覆されたコーティングローラー8の表面は転写ローラー7と接触し、コーティングローラー8の回転方向に対して反対の回転方向にこれ自体駆動される。
【0026】
転写ローラー7、または少なくともその表面は、溶液の最適な転写、つまり例えば、ローラーまたはその表面が構成される材料による吸収により、またはこれに反して、ローラーの表面に対する溶液の過剰な滑りによって溶液の損失を最小化する転写を可能にする材料からなることが好ましい。この材料は、機械的摩耗と同様に耐薬品腐食性を示すこともできる。転写ローラー7はエラストマーからなり、例えば、クロロスルホン化ポリエチレンまたはHypalon(R)ならなることが好ましい。
【0027】
コーティングローラー8と転写ローラー7との間の接触圧力は、コーティングローラー8から転写ローラー7に水性不動態化溶液を移動するのに十分でなければならないが、溶液の損失、従って溶液の最適でない移動をもたらす可能性があるスプラッシュを引き起こすほど大きくてはならない。2つのローラー7、8間のこの圧力は、例えば、コーティングローラー8上に設けられたシリンダ(図示せず)を用いて加えられることができる。ローラー8に加えられた合計の力FRRは、鋼帯1の幅の1メートル当たり1500から3000Nの間が好ましい。
【0028】
この接触に続いて、転写ローラー7は、鋼帯1上に堆積される水性不動態化溶液で被覆される。
【0029】
転写ローラー7と鋼帯1との間の接触圧力は、堆積された湿潤した不動態化溶液フィルムを過剰に拭き取るおそれがあるため、大きすぎてはならず、溶液での鋼帯の湿潤が不十分になるおそれがあるため、小さすぎてはならない。さらに、後者の平坦性のおそれに関する欠陥を補うために、ローラーによって鋼帯に加えられる圧力は最小でなければならない。転写ローラー7と鋼帯1との間のこの圧力は、例えば、転写ローラー7上に設けられた少なくとも1つのシリンダ(図示せず)を用いて加えることができる。ローラー7に加えられた合計の力FTBは、鋼帯1の幅の1メートル当たり3000から5000Nの間であることが好ましい。
【0030】
転写ローラー7およびコーティングローラー8の回転数は、鋼帯1の移動の速度と同期させることができる。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、堆積された不動態化層の湿潤したフィルムの厚さは、厚み測定デバイス5を用いて測定される。測定された厚みが目標の厚さ未満である場合には、タンク9中の水性溶液の濃度は増加され、また逆も同様である。
【0032】
さらに、本発明の別の実施形態では、コーティングローラー8の回転数は、図1に例示された制御ユニット6によって制御することができる。この制御ユニット6は、不動態化コーティングの湿潤したフィルムの厚さを測定するデバイス5に接続されている。厚みが目標の厚さ未満である場合には、コーティングローラー8の速度は増加され、また逆も同様である。
【0033】
厚さは、例えば、電磁放射ゲージを用いて測定することができる。これらのゲージは、水分がフィルムから非常に速く蒸発するので、コーティングデバイス3にできるだけ接近して設けられることが好ましいが、これにより測定において大幅な変動が引き起こされる可能性がある。
【0034】
堆積された湿潤した不動態化フィルムの厚さは、一般的に3μm未満であり、好ましくは1.5μm未満である。
【0035】
水性不動態化層の堆積のステップに続いて、鋼帯は乾燥ステップに供される。この乾燥ステップは、乾燥デバイス4を用いて実施される。
【0036】
このデバイス4は、例えば、80から190℃の間の温度で被覆鋼帯の方向に空気を噴霧するノズルを備えた乾燥トンネルである。空気は、好ましくは、80から150℃の間の温度で噴霧され、15%未満の水分含有量を有する。噴霧された空気の水分含有量を制御すると、使用される空気の温度を低下させることができ、これは、不動態化層へのダメージの危険を低減する観点からの利点とともに、空気を加熱するために使用されるエネルギーの観点からの省力を表している。この制御は、例えば、トンネル内で多数の位置にある抽出ノズルを用いて行うことができる。
【0037】
この乾燥過程に続いて、乾燥した不動態化フィルムの厚さは、一般的に15nm未満であり、好ましくは8nm未満である。
【0038】
他の実施形態(説明せず)では、鋼帯は乾燥ステップに先立って、80℃より低い温度への予熱ステップに供することができる。この予熱ステップは、例えば、誘導加熱器もしくは赤外線を用いて実施することができる。
【0039】
図3Aおよび3Bは、二次イオン化質量分析計またはSIMSを使用して得られた写真である。
【0040】
2つの写真は、錫プレート鋼上のBonderite(R)1456の水性溶液の堆積を示す。両方の場合には、ラインの速度、Bonderite(R)1456の水性溶液の濃度、および乾燥工程は同一である。第1の場合の写真3Aでは、Bonderite(R)1456は、上記のような先行技術の回転ディスク方法を用いて堆積された。これは、第2の場合の写真3Bでは、本発明による方法によって堆積された。
【0041】
これらの2つの写真では、領域が暗いほど、Bonderite(R)1456の濃度が高くなり、従って、堆積された不動態化コートの厚さが大きくなることが示されている。図3Aは、テストピースの表面上の一様でない不動態化コートの暗い領域特性を示しているのに対し、このような領域は図3Bでは観察されない。従って、本発明による方法により、一定の不動態化層の厚さが得られるが、これは先行技術の方法では得られない。
【0042】
図4は2つのグラフを含む。第1のグラフは、時間の関数としての本発明による製造ラインの速度を示す。第2のグラフは、時間の関数としてのこの製造ライン上に堆積された湿潤した不動態化フィルムの厚さを示す。
【0043】
この試験に使用される製造ラインは、鋼帯の上面上への水性不動態化溶液の堆積を可能にするコーティングを含む。このコーティングデバイスは、Hypalon(R)からなる転写ローラーと、表面がセラミックからなり、1センチメートル当たりおよそ160ラインで一定間隔で配置された複数の六角形状のセルを含み、全体積がローラー表面の1平方メートル当たり7.5×10−6であるコーティングローラーとから構成される。このコーティングローラーは、市販のBonderite(R)1456溶液のおよそ8体積%の濃度で、Bonderite(R)1456の水性溶液を含むタンクに浸漬される。タンクは、タンクの入口のプラスチックブレードおよび出口のステンレス鋼ブレードを有するワイピングデバイスを備える。
【0044】
第1のグラフに示されるように、ラインの速度は180から500m/分で変化する。第2のグラフは、この速度変動にもかかわらず、堆積された湿潤した不動態化フィルムの厚さが±0.3μmで一定のままであることを示す。観察されたピークは、2つの連続する鋼帯を溶接するステップに相当するため、無視される。
【0045】
従って、本発明による方法により、製造ラインの速度にかかわらず、一定の厚さの不動態化コーティングを得ることができる。
【0046】
図5は、鋼帯の横断方向の異なる位置で測定された鋼帯上の異なる点での湿潤した不動態化フィルムの厚さを示すグラフである。不動態化フィルムは、図4に記載されたものと同じ条件下で堆積されたBonderite(R)1456のフィルムである。
【0047】
本明細書では、鋼帯の厚さは、Bonderite(R)1456の厚さがそのチタンの重量含有量と直接関係があるため、表面の1平方メートル当たりのチタンのミリグラムで表される。
【0048】
このグラフは、乾燥前のBonderite(R)1456フィルムの厚さが、鋼帯の一方の側から他方の側まで、0.78から0.88mg/mのTiの間で変化することを示す。従って、本発明によって特許請求される方法により、±0.15mg/mのTiの、一定の厚さの不動態化コーティングを得ることができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5