特許第6552683号(P6552683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552683計測機器の異常判定システムおよびこれを用いた農業設備の環境制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552683
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】計測機器の異常判定システムおよびこれを用いた農業設備の環境制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08C 23/02 20060101AFI20190722BHJP
   H04W 4/38 20180101ALI20190722BHJP
   H04W 84/10 20090101ALI20190722BHJP
   G08C 25/00 20060101ALI20190722BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   G08C23/02
   H04W4/38
   H04W84/10 110
   G08C25/00 F
   A01G9/24 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-116147(P2018-116147)
(22)【出願日】2018年6月19日
(62)【分割の表示】特願2014-47667(P2014-47667)の分割
【原出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2018-156693(P2018-156693A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-196936(P2013-196936)
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517332720
【氏名又は名称】株式会社プラスパブレインズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 淳逸
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−519984(JP,A)
【文献】 特開2011−95015(JP,A)
【文献】 特開平9−252661(JP,A)
【文献】 特開平7−162969(JP,A)
【文献】 特開昭62−185420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08C 23/02
A01G 9/24
G08C 25/00
H04W 4/38
H04W 84/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を取得する温度センサ、および湿度を取得する湿度センサを有し、前記温度および前記湿度に関するデータを取得する計測機器と、
前記計測機器で取得したデータに基づいて、機器を制御する制御装置と、
前記計測機器と前記制御装置との間において、前記計測機器で取得したデータを、音波を媒体として前記制御装置へ伝達するデータ転送手段と、
前記温度センサで取得した温度および前記湿度センサで取得した湿度と、前記データ転送手段により伝達される音波の前記計測機器から前記制御装置への伝達時間との関係から、前記計測機器の異常を判定する異常判定手段と、
を備える計測機器の異常判定システム。
【請求項2】
前記異常判定手段において前記温度センサが異常であると判断されたとき、前記データ転送手段により伝達される音波の前記計測機器から前記制御装置への伝達時間から、温度を推定する温度推定手段をさらに備える請求項1記載の計測機器の異常判定システム。
【請求項3】
前記データ転送手段は、前記計測機器で取得したデータを送信する送信部、および前記制御装置に設けられ前記送信部から送信されたデータを受信する受信部を有し、
前記送信部からの音波の送信方向は、水平または地表面に向かう下向きである請求項1または2記載の計測機器の異常判定システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の計測機器の異常判定システムを備え、農業設備の環境を制御する環境制御システムであって、
前記農業設備の内部における環境を調整する調整機器を備え、
前記計測機器は、前記農業設備の内部における環境に関するデータを取得し、
前記制御装置は、前記計測機器で取得した前記農業設備の内部における環境に関するデータに基づいて前記調整機器を制御して前記農業設備の内部の環境を調整し、
前記データ転送手段は、前記計測機器と前記制御装置との間において、前記計測機器で取得したデータを、音波を媒体として前記制御装置へ伝達する農業設備の環境制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測機器の異常判定システムおよびこれを用いた農業設備の環境制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主に農業で用いられるビニールハウスや温室などの農業設備は、内部に外部と隔離した環境を構築している。例えば、農業設備には、温度、湿度、日照および炭酸ガス濃度など、内部における環境に関するデータを取得する各種の計測機器が設けられている。一方、農業設備には、空調装置、送風装置、湿度制御装置、炭酸ガス発生装置および日除け装置など、内部における環境を調整する調整機器が設けられている。制御装置は、これら計測機器で取得した各種のデータに基づいて調整機器を制御し、農業設備の内部の環境を予め設定した設定環境に維持している。
【0003】
従来、これら計測機器と制御装置との間は、例えば有線のLAN(Local Area Network)などによって接続されている。しかし、有線を用いる場合、配線を必要とし、計測機器と制御装置との自由な組み合わせの変更が煩雑である。また、農業設備の内部は、外部の環境に比較して多湿傾向にあり、配線機器の劣化を招きやすいという問題がある。そこで、農業設備においても無線LANやBluetooth(登録商標)など電磁波を用いた無線の通信が用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上述のように農業設備の内部は、外部に比較して湿度が高い環境にある。電磁波を用いた無線通信の場合、出力された電磁波は、性質上、水分によって熱エネルギーに変換されやすい。そのため、農業設備の内部のような特殊な環境下では、電磁波による通信は距離の低下を招きやすい。また、電磁波を用いる場合、送信側と受信側との間に電磁波を遮蔽する物体が存在すると、通信距離の低下を招きやすい。そのため、農業設備の内部の環境を取得する計測機器は、栽培される作物を避けるように作物から離れた位置に設けなければならない。その結果、より必要性の高い作物の近傍における環境に関するデータは取得が難しいという問題がある。さらに、農業設備の場合、内部で栽培される作物は日々成長する。そのため、作物の成長にともなって、計測機器の位置を変更する必要が生じる。このように、電磁波を用いた無線通信は、農業設備の内部という特殊な環境のために障害が多いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−89043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、特殊な環境下であっても、精度の高い無線による通信を確立し、異常を判定する計測機器の異常判定システム及び農業設備の環境制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態では、計測機器と制御装置との間は、音波を媒体とするデータ転送手段を用いて通信が行われる。農業設備の内部は、湿度が高い傾向にあるため、陸上よりも水中における環境に近い。そのため、音波は、湿度の高い農業設備の内部を電磁波に比較して効率的に伝搬する。また、農業設備は、外部と遮蔽されているため、外部からの音が進入しにくく静寂が保たれやすい。そのため、音波による通信は、阻害されにくい。一方、音速で伝搬する音波は、光速の電磁波に比較して遅い。しかし、農業設備の内部の通信に限定すると、遠距離の通信は生じることが無い。また、植物の成長のために農業設備に要求される環境の変化は、極めて緩やかである。そのため、通信速度が高速であることは要求されない。この点から、農業設備での利用を考慮した場合、音波を媒体とする通信は利点が大きい。さらに、農業設備内で作業者同士の会話が成立することを考慮すると、送信側と受信側との間に遮蔽となる植物が存在していても、通信の媒体となる音波は送信側から受信側まで到達することがわかる。これにより、計測機器は、植物の近傍に配置することができ、植物の成長に合わせて位置を変更する必要も無い。したがって、農業設備の内部のような特殊な環境下であっても、精度の高い無線による通信を確立することができ、内部の環境を調整することができる。
【0008】
また、音波を媒体とする本発明は、通信用の周波数を適当に設定することにより、害虫や鳥獣の忌避に用いることができる。さらに、本発明は、音波を媒体とするため、例えば心臓のペースメーカなどの医療機器への影響がほとんど生じない。そのため、高齢化が進む農業従事者の安全性を高めることができる。
【0009】
本実施形態では、データ転送手段は、計測機器側の送信部、および制御装置側の受信部を有している。そして、送信部からの音波の送信方向は、水平または地表面に向かう下向きに設定されている。農業設備の内部は、例えば日照や放射冷却などを原因として、地表面側と天井側との間で温度分布が形成される。一方、データ転送手段が媒体として用いる音波は、温度によって速度が変化し、温度が高い方から低い方へ屈折するという性質がある。そのため、農業設備の内部において温度分布が形成されると、条件によっては送信部と受信部との間で通信が阻害されるおそれがある。一般的な農業設備の場合、昼間は日照によって地表が温められるため、地表に近い側の温度が高くなる傾向にある。そして、昼間は、農業設備の内部の温度が設定温度よりも高くなりやすい。そのため、農業設備は、天井が開放され換気される。その結果、昼間の農業設備は、天井側よりも地表側の温度が高くなりやすい傾向にある。このように天井側の温度が低く地表側の温度が高いとき、音波は天井側へ屈折しやすい傾向にある。そこで、送信部からの音波の送信方向を水平または地表面に向かう下向きに設定することにより、音波が天井側へ屈折しても、送信部から発信された音波は確実に受信部へ到達する。一方、夜間は放射冷却によって地表が冷やされるため、冷やされた空気が地表側に溜まりやすい。このように天井側の温度が高く地表側の温度が低いとき、音波は地表側へ屈折しやすい傾向にある。この場合でも、送信部からの音波の送信方向を水平または地表面に向かう下向きに設定することにより、送信部から発信された音波は確実に受信部へ到達する。したがって、温度分布が生じやすい農業設備の内部のような特殊な環境下であっても、精度の高い無線による通信を確立することができる。
【0010】
本実施形態では、計測機器は、温度センサおよび湿度センサを有している。音の速さ、すなわち音速は、温度の関数として表される。同様に、音速は、湿度の関数としても表される。そのため、データ転送手段で転送される音波の伝達時間は、温度センサで検出された温度、および湿度センサで検出された湿度に依存する。仮にこれら温度センサや湿度センサに異常が生じると、計測機器から制御装置へ伝達される音波の伝達時間と、温度センサで検出された温度、および湿度センサで検出された湿度との関係に齟齬が生じる。その結果、これらデータ転送手段における音波の伝達時間と、温度および湿度との相関を把握することにより、計測機器を構成する温度センサまたは湿度センサの異常が検出される。したがって、精度の高い通信を確立できるだけでなく、計測機器の異常についても容易に検出することができる。
【0011】
本実施形態では、温度と音波の伝達時間とは、正常な作動時に相関関係が取得される。そこで、温度推定手段は、温度センサに異常が生じている判定されたとき、予め取得した正常な作動時における相関関係を用いて、音波の伝達時間から農業設備の内部における温度を推定する。すなわち、データの通信媒体として音波を用いることにより、温度センサに異常が生じても、音波の伝達時間から農業設備の内部の温度を推定可能である。これにより、温度センサで温度の検出が困難な場合でも、農業設備の内部の温度が推定される。制御装置は、推定された温度を用いて調整機器を制御する。したがって、計測機器に異常が生じても、農業設備の内部の環境を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態による農業設備の環境制御システムの概略的な構成を示すブロック図
図2】第1実施形態による環境制御システムを適用した農業設備を示す模式図
図3】第2実施形態による環境制御システムを適用した農業設備を示す模式図
図4】第2実施形態の変形例による環境制御システムを適用した農業設備を示す模式図
図5】第3実施形態による農業設備の環境制御システムの概略的な構成を示すブロック図
図6】第3実施形態による農業設備の環境制御システムにおける処理の流れを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、複数の実施形態による農業設備の環境制御システムについて図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において共通する部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図2に示すように第1実施形態による環境制御システム10は、農業設備11の内部における環境を制御する。農業設備11は、例えばビニールハウスや温室などである。ビニールハウスは、金属や樹脂で構成された骨格にビニールのシートを取り付けることにより構成されている。また、温室は、ビニールに代えて、ガラス製の板が取り付けられている。このように、本実施形態における農業設備11とは、作物などを栽培するために外部から隔離された空間を形成する設備を意味する。農業設備11の内部では、栽培の対象に応じて気温、湿度、日照、送風および炭酸ガスをはじめとする各種の環境的な条件を調整する必要がある。環境制御システム10は、農業設備11の内部におけるこれらの条件を調整する。
【0014】
環境制御システム10は、図1に示すように計測機器12、調整機器13、制御装置14およびデータ転送装置15とを備えている。計測機器12は、農業設備11の内部における環境に関するデータを取得する。具体的には、計測機器12は、農業設備11の内部および外部に設けられており、農業設備11の内部の環境に影響を与える種々のデータを取得する。農業設備11の内部に設けられている計測機器12は、例えば温度センサ、湿度センサ、照度センサおよび炭酸ガス濃度センサなどである。温度センサは、農業設備11の内部において気温を検出する。同様に湿度センサは湿度を検出し、照度センサは農業設備11の内部の明るさを検出し、炭酸ガス濃度センサは農業設備11の内部における空気中の二酸化炭素の濃度を検出する。
【0015】
また、農業設備11の外部に設けられている計測機器12は、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、風向センサ、風速センサおよび気象センサなどである。温度センサは、農業設備11の近傍における外部において気温を検出する。同様に湿度センサは湿度を検出する。照度センサは、農業設備11に入射する太陽光の日射量を検出する。風向センサおよび風速センサは、それぞれ農業設備11の近傍に生じる風の風向または風速を検出する。気象センサは、晴、雨、曇、雪などの気象環境を検出する。
【0016】
調整機器13は、農業設備11に設けられており、農業設備11の内部における環境を調整する。調整機器13は、例えば図2に示すように冷房装置21、暖房装置22、湿度調整装置23、送風装置24、遮光装置25、換気装置26および炭酸ガス発生装置27などを有している。冷房装置21および暖房装置22は、例えばヒートポンプ式の空調装置として構成されている。暖房装置22は、例えば灯油を燃焼させるヒータなどで構成してもよい。湿度調整装置23は、加湿または除湿など、農業設備11の内部における湿度を調整する。送風装置24は、ファンなどを有しており、農業設備11の内部が均一な環境となるように農業設備11の内部の空気に流れを形成する。遮光装置25は、農業設備11の天井に設けられており、太陽光を遮るカーテンを有している。遮光装置25は、カーテンを開閉することにより、農業設備11の内部に入射する太陽光の入射量を調整する。換気装置26は、農業設備11の一部を開閉し、農業設備11の外部の空気を導入または農業設備の内部の空気を排出する。炭酸ガス発生装置27は、農業設備11の内部に炭酸ガスを供給する。調整機器13は、上記の他にも、図示しない散水装置や施肥装置などを含んでいてもよい。
【0017】
制御装置14は、例えば汎用のパーソナルコンピュータや専用のコンピュータで構成されており、計測機器12で取得した農業設備11の内部における環境に関するデータに基づいて、調整機器13を制御する。これにより、制御装置14は、農業設備11の内部の環境を調整する。具体的には、制御装置14は、コンピュータで構成されている制御ユニット31、入力部32および出力部33を有している。入力部32は、例えばキーボードなどの外部入力機器を有している。ユーザは、外部入力機器を利用して農業設備11に関する各種情報を入力する。入力部32を経由して入力される情報としては、例えば農業設備11に関する情報、および調整機器13に関する情報などである。農業設備11に関する情報とは、農業設備11が設置されている条件つまり南北方向および東西方向の全長、農業設備11の容積、農業設備11の材質、栽培対象とする作物、作物の位置や密度などの作付け状態、および農業設備11の出入口の位置や大きさなどである。また、調整機器13に関する情報とは、各調整機器13の有無およびその能力などである。ユーザは、入力部32から各種情報を入力するとともに、農業設備11の内部をどのように制御するかを入力部から入力する。すなわち、ユーザは、栽培対象となる作物などにあわせて例えば設定温度、設定湿度、設定光量などを時刻ごとの所望の値として入力する。制御装置14は、計測機器12で取得したデータに基づいて、農業設備11の内部を予め設定された環境となるように調整機器13を制御する。
【0018】
データ転送装置15は、送信部35および受信部36を有している。送信部35は、計測機器12にそれぞれ設けられている。また、受信部36は、制御装置14に設けられている。計測機器12は、取得した農業設備11の環境に関するデータを、送信部35から送信する。制御装置14は、計測機器12から送信されたデータを、受信部36で受信する。これにより、各計測機器12で取得された農業設備11の環境に関するデータは、データ転送装置15を経由して制御装置14へ送られる。送信部35と受信部36との間は、音波を媒体としてデータを転送する。すなわち、送信部35は、計測機器12で取得したデータを、音波に変換して出力する。受信部36は、送信部35から送信されたデータを受け取り、再び電気信号に変換する。本実施形態の場合、データ転送装置15が媒体とする音波は、可聴域の音波または超音波である。
【0019】
音波は、一般的な機器間の通信に用いられる電磁波と比較して通信速度が遅い。すなわち、音波は、大気中を音速で伝搬するため、光速で伝搬する電磁波と比較して速度が遅いという性質がある。一方、農業設備11の内部は、栽培の対象となる植物の生育に適するように比較的高い湿度に保たれている。このように湿度の高い環境では、電磁波を用いる通信機器は、腐食などを招きやすく、機器の保守が煩雑になる。また、電磁波を用いる通信機器の場合、湿度の高い環境では、通信に用いる電磁波が熱に変換され、通信距離の低下を招きやすい。そのため、電磁波を用いる通信機器の場合、通信機器と制御装置14との間に複数の中継器を必要とし、機器の点数増加および複雑化を招く。
【0020】
これに対し、湿度の高い環境は、空気中よりも水中の環境に近似する。そのため、音波は、湿度の高い環境において電磁波と比較して減衰しにくく、効率的に伝搬するという特性がある。また、農業設備11は、外部との間に閉じられた空間を形成していることから、各種の外界の音が進入しにくく、静寂が保ちやすいという特性がある。さらに、農業設備11の場合、計測機器12で計測した各種の数値に対して、調整機器13の制御に高い応答性は要求されない。これは、農業設備11の場合、環境の変化に晒されるのが栽培対象となる植物であり、急速な環境の変化が求められないからである。また、農業設備11の内部における環境も、急速に変化することはほとんどない。そのため、農業設備11では、電磁波のような高速での通信は不要であり、速度の遅い音波による通信でも十分な制御が可能である。さらにまた、農業設備11の場合、閉じられた空間であるため、遠距離の通信も不要である。そのため、農業設備11内で作業者同士の会話が成立する環境であれば、中継器を用いることなく音波は送信部35から受信部36へ到達する。
【0021】
ところで、栽培の対象となる植物は、日々成長する。そのため、電磁波を用いる通信機器の場合、植物の成長によって送信部35と受信部36との間が遮蔽されると、通信距離が短縮されたり、通信自体が不能となる。一方、より高い栽培効率を得るためには、計測機器12は栽培対象となる植物の近傍の環境について計測することが求められる。しかし、上述のように栽培対象は日々成長するため、栽培初期に植物の近傍に計測機器12を設けると、電磁波を用いる機器では植物の成長にともない植物近傍の環境に関するデータの取得が困難になる。これに対し、音波は、成長した植物によって遮蔽されても、この植物を迂回して伝搬する。そのため、本実施形態のように音波を用いると、送信部35と受信部36との間に栽培対象となる植物が介在しても、音波は送信部35から受信部36へ植物の影響を受けることなく到達する。このように、計測機器12は、植物の近傍に配置することができるとともに、植物の成長にあわせて位置を変更する必要も無い。
【0022】
以上のような理由により、第1実施形態の環境制御システム10では、農業設備11の内部のような特殊な環境下であっても、精度の高い無線による通信を確立することができ、内部の環境を調整することができる。
また、音波を媒体とする第1実施形態は、通信用の周波数を適当に設定することにより、害虫や鳥獣の忌避に用いることができる。さらに、第1実施形態は、音波を媒体とするため、例えば心臓のペースメーカなどの医療機器への影響がほとんど生じない。そのため、高齢化が進む農業従事者の安全性を高めることができる。
【0023】
(第2実施形態)
第2実施形態による農業設備の環境制御システムを図3に示す。
図3に示すように第1実施形態による環境制御システム10は、計測機器12に設けられている送信部35、および制御装置14に設けられている受信部36の取り付け方向が規定されている。具体的には、計測機器12に設けられている送信部35は、水平または地表面に向かう下向きに音波を発信する。これにより、送信部35から送信された音波は、受信部36へ向けて水平または地表面へ向けて下向きに進む。
【0024】
農業設備11の内部は、昼間の日照や夜間の放射冷却などによって、地表面側と天井側との間で温度分布が形成される。一方、データ転送装置15が媒体として用いる音波は、温度によって速度が変化し、温度が高い方から低い方へ屈折するという性質がある。そのため、農業設備11の内部に温度分布が形成されると、条件によっては送信部35と受信部36との間の通信がこの音波の性質によって阻害されるおそれがある。
【0025】
一般的な農業設備11の場合、昼間は、日照によって地表が温められ、地表に近い側の温度が高くなる傾向にある。また、昼間は、日照による温度上昇によって、農業設備11の内部の温度が予め入力された設定温度よりも高くなりやすい。そのため、農業設備11は、内部の温度を維持するために、天井を開放して換気することにより、内部の温度を維持している。これらの結果、昼間の農業設備11は、天井側よりも地表側の温度が高くなりやすい傾向にある。このように天井側の温度が低く地表側の温度が高いとき、音波は天井側へ屈折しやすい傾向にある。第2実施形態では、送信部35からの音波の送信方向は、水平または地表面に向かう下向きに設定している。そのため、音波が天井側へ屈折しやすい昼間の温度条件においても、送信部35から水平または下向きに音波が送信される。その結果、送信部35から発信された音波は、確実に受信部36へ到達する。
【0026】
一方、夜間は、放射冷却によって地表が冷やされる。そのため、地表で冷やされた空気は地表側に溜まり、地表側の温度は低くなりやすい。このように地表側に比較して天井側の温度が高いとき、音波は地表側へ屈折しやすい傾向にある。この場合でも、送信部35からの音波の送信方向は、水平または下向きであるので、送信部35から送信された音波は受信部36へ向かって進行しやすい。その結果、送信部35から水平または下向きに発信された音波は、確実に受信部36へ到達する。
【0027】
第2実施形態では、送信部35からの音波の送信方向を水平または下向きに設定している。これにより、温度分布が生じやすい農業設備11の内部のような特殊な環境下であっても、送信部35から受信部36への音波到達の確実性が向上される。したがって、精度の高い無線による通信を確立することができる。
【0028】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の変形例を図4に示す。
第2実施形態では、計測機器12の送信部35と制御装置14の受信部36との間を音波を媒体として通信を行う例について説明した。しかし、図4に示すように変形例として、複数の農業設備11の相互間における通信に音波を用いるデータ転送装置15を適用してもよい。すなわち、農業設備11に設けられている送信部35と受信部36との間においても、音波を媒体として通信を行ってもよい。この場合、第2実施形態と同様に、送信部35は、水平または下向きに音波を発信する。
これにより、複数の農業設備11の間でも、音波を媒体として精度の高い無線による通信を確立することができる。
【0029】
(第3実施形態)
第3実施形態による農業設備の環境制御システムを図5に示す。
第3実施形態では、計測機器12は、温度センサ41および湿度センサ42を有している。温度センサ41は、農業設備11の内部における温度を検出する。温度センサ41は、検出した温度を電気信号としてデータ転送装置15を経由して制御装置14へ出力する。湿度センサ42は、農業設備11の内部における湿度を検出する。湿度センサ42は、検出した湿度を電気信号としてデータ転送装置15を経由して制御装置14へ出力する。
【0030】
制御装置14の制御ユニット31は、コンピュータプログラムを実行することにより、異常判定部51および温度推定部52をソフトウェア的に実現する。なお、これら異常判定部51および温度推定部52は、ソフトウェア的に実現するだけでなく、専用のハードウェアで実現してもよく、ソフトウェアとハードウェアとの協働で実現してもよい。
農業設備11の内部の温度とデータ転送装置15で伝達される音波の速度つまり音速との間には、式(1)に示すような関係がある。すなわち、音速c(m/s)は、温度t(℃)が高くなるほど速く、温度tが低くなるほど遅くなる。
【0031】
c=331.45+0.6t (1)
また、農業設備11の内部の湿度と音速との間には、式(2)に示すような関係がある。すなわち、湿気を含む空気の音速c’は、式(1)に基づく温度に相関する乾燥した空気の音速cとの間に、式(2)に示すような関係がある。つまり、音速c’は、湿度が高くなるほど速くなる傾向にある。
【0032】
【数1】
【0033】
式(2)では、湿気を含む空気の音速c’(m/s)は、乾燥した空気の音速c(m/s)を気圧H(Pa)、水蒸気圧p(Pa)、水蒸気の比熱比γw(−)、乾燥した空気の比熱比γによって求められることを示している。
【0034】
異常判定部51は、データ転送装置15で転送される音波の伝達時間Tと、温度センサ41で取得した温度および湿度センサ42で取得した湿度との関係から、計測機器12に異常が生じているか否かを判定する。伝達時間Tは、音波が送信部35から受信部36へ到達するまでの時間である。上述の式(1)および式(2)に示すように、音が伝搬する速度すなわち音速は、温度および湿度に相関する。そのため、農業設備11における温度および湿度が正しく計測されていれば、データ転送装置15を経由して転送される音波の伝達時間Tは、温度センサ41で取得した温度および湿度センサ42で取得した湿度との間の相関が保たれる。一方、計測機器12に異常が生じていると、伝達時間Tと温度および湿度との間には、齟齬が生じる。このような齟齬が生じているとき、異常判定部51は計測機器12に異常が生じていると判定する。
【0035】
温度推定部52は、異常判定部51において温度センサ41に異常が生じていると判定されたとき、データ転送装置15により伝達される音波の伝達時間Tから、農業設備11の内部における温度を推定する。これにより、温度センサ41に異常が生じていても、温度推定部52は音波の伝達時間Tから農業設備11の内部における温度を推定可能である。そして、制御装置14は、この温度推定部52で推定された温度を用いて、調整機器13を制御する。
【0036】
ここで、異常判定部51による異常判定の詳細な流れの一例について図6に基づいて説明する。
環境制御システム10が起動されると、制御装置14は、温度センサ41から農業設備11の内部における温度tmを取得するとともに(S101)、湿度センサ42から農業設備11の内部における湿度hmを取得する(S102)。また、制御装置14は、データ転送装置15における音波の伝達時間Tmを取得する(S103)。制御装置14は、送信部35による音波の発信から受信部36による音波の受信までの所要時間を音波の伝達時間Tmとして取得する。これら、温度tmの取得、湿度hmの取得、および伝達時間Tmは、同時または任意の順序で取得してもよい。
【0037】
異常判定部51は、S102で取得した湿度hm、およびS103で取得した伝達時間Tmから農業設備11の内部における温度を推定温度tsとして算出する(S104)。具体的には、異常判定部51は、例えば式(1)および式(2)を基にして予め湿度hmおよび伝達時間Tmを変数として作成された関係式を用いて、推定温度tsを算出する。異常判定部51は、予め作成した湿度hmおよび伝達時間Tmと推定温度tsとの関係を示すテーブルから推定温度tsを求めてもよい。
【0038】
異常判定部51は、S104で算出した推定温度tsとS101で温度センサ41から取得した温度tmとの差の絶対値が予め設定した警告温度差taより大きいか否かを判断する(S105)。すなわち、異常判定部51は、|ts−tm|>taであるか否かを判定する。S104で算出した推定温度tsは、伝達時間Tmおよび湿度hmに基づいて算出された推定値である。温度センサ41が正常であれば、この推定温度tsと温度センサ41で取得した温度tmとはほぼ同一である。そこで、異常判定部51は、推定温度tsと温度センサ41で取得した温度tmとの差の絶対値が警告温度差taより大きいか否かを判断する。この警告温度差taは、農業設備11で管理される生物などに応じてユーザが任意に設定できる値である。
【0039】
異常判定部51は、S105において推定温度tsと温度tmとの差の絶対値が警告温度差taよりも大きいと判断すると(S105:Yes)、温度センサ41に異常が生じていると判断し、出力部33を構成するディスプレイなどに警告を促す警告情報を表示する(S106)。この警告情報は、温度センサ41に異常が生じていることから、修理または交換を促すための表示である。
【0040】
一方、異常判定部51は、S105において推定温度tsと温度tmとの差の絶対値が警告温度差ta以下であると判断すると(S105:No)、推定温度tsと温度tmとの差の絶対値が注意温度差twより大きいか否かを判断する(S107)。すなわち、異常判定部は51、|ts−tm|>twであるか否かを判定する。この温度差|ts−tm|が警告温度差ta未満であっても、温度センサ41に軽微な異常が生じている可能性もある。そこで、異常判定部51は、警告温度差taよりも小さな値として設定されている注意温度差twを用いて、温度センサ41に異常が生じているか否かを判断する。すなわち、注意温度差twおよび警告温度差taは、ta>twに設定されている。例えば、警告温度差taを5℃と設定したとき、注意温度差twは2℃に設定されている。この注意温度差twも、警告温度差taと同様に農業設備11で管理される生物などに応じてユーザが任意に設定できる値である。
【0041】
異常判定部51は、S107において推定温度tsと温度tmとの差の絶対値が注意温度差twよりも大きいと判断すると(S107:Yes)、温度センサ41に警告ほどではない軽微な異常が生じていると判断し、出力部33を構成するディスプレイなどに注意を促す注意情報を表示する(S108)。この注意情報は、温度センサ41に異常が生じているものの、継続した使用が可能な軽微な異常であることを示す表示である。
【0042】
異常判定部51は、S107において推定温度tsと温度tmとの差の絶対値が注意温度差tw以下であると判断すると(S107:No)、温度センサ41に異常が生じていないと判断する(S109)。制御装置14は、温度センサ41に異常がないと判断されると、S101で取得した温度tm、S102で取得した湿度hm、およびS103で取得した伝達時間Tmを、制御ユニット31の図示しない記憶装置に記憶する。これにより、伝達時間Tmと温度tmおよび湿度hmとの関係に齟齬がないとき、取得された温度tm、湿度hmおよび伝達時間Tmは、図示しない記憶装置に蓄積される。温度tm、湿度hmおよび伝達時間Tmを記憶すると、制御装置14はS101以降の処理を繰り返す。
【0043】
なお、上述の例では、温度センサ41の異常を判定する例を説明した。しかし、上述の例と同様の手順により、湿度センサ42の異常を判定することもできる。
ところで、農業設備11の内部環境は、農業設備11の内部で栽培する植物の成長などによって徐々に変化する。そのため、伝達時間Tmと温度tmおよび湿度hmとの関係も、時間とともに変化することが考えられる。温度センサ41や湿度センサ42に異常がないと判断されると、取得された温度tm、湿度hmおよび伝達時間Tmは記憶装置に蓄積される。そこで、異常判定部51は、この蓄積された温度tm、湿度hmおよび伝達時間Tmを用いて警告温度差taおよび注意温度差twを補正してもよい。また、温度センサ41や湿度センサ42が農業設備11に複数設けられている場合、異常判定部51は各温度センサ41および湿度センサ42についてそれぞれ異常判定を行う。このとき、異常判定部51は、複数の温度センサ41に優先順位を付けて異常を判定したり、複数の温度センサ41間で算出された値を比較する構成としてもよい。
【0044】
次に、温度推定部52による温度の推定について説明する。
上記で説明したように、温度tm、湿度hmおよび伝達時間Tmの関係は、制御装置14の図示しない記憶装置に蓄積される。そのため、制御装置14の記憶装置には、音波の伝達時間Tmに対応する温度tmが蓄積されている。ところで、温度センサ41に異常が生じると、農業設備11における温度は検出できない。このように農業設備11において温度センサ41の異常によって温度の制御が停止すると、農業設備11で管理される生物に大きな影響を及ぼすおそれがある。
【0045】
そこで、温度推定部52は、蓄積されている音波の伝達時間Tmと温度tmとの関係から、温度センサ41に代わって農業設備11の内部における温度を推定する。具体的には、温度推定部52は、データ転送装置15における音波の伝達時間Tmを取得する。すなわち、温度推定部52は、送信部35から発信された音波が受信部36に到達するまでの伝達時間Tmを取得する。そして、温度推定部52は、この取得した伝達時間Tmに対応する温度tmを、図示しない記憶装置から抽出する。過去に取得して蓄積した伝達時間Tmと温度tmとの関係は、送信部35と受信部36との位置的な関係が一定であれば、大きく変化しない。そのため、温度推定部52は、伝達時間Tmから温度tmを推定することができる。制御装置14は、この温度推定部52で推定された温度tmを農業設備11の内部における温度と推定して、調整機器13を制御する。これにより、温度センサ41に異常が生じても、制御装置14は農業設備11の内部における温度の管理を継続することができる。
【0046】
第3実施形態では、温度センサ41で検出された温度tm、湿度センサ42で検出された湿度hmおよび音波の伝達時間Tmから温度センサ41や湿度センサ42における異常の有無を判定する。したがって、精度の高い通信を確立できるだけでなく、温度センサ41や湿度センサ42など計測機器12の異常についても容易に検出することができる。
【0047】
また、第3実施形態では、温度推定部52は、温度センサ41に異常が生じている判定されたとき、予め取得した正常な作動時における相関関係を用いて、音波の伝達時間Tmから農業設備の内部における温度tmを推定する。すなわち、データの通信媒体として音波を用いる第3実施形態では、温度センサ41に異常が生じても、音波の伝達時間Tmから農業設備11の内部の温度tmを推定可能である。これにより、温度センサ41の異常などにより農業設備11の温度の検出が困難な場合でも、その温度が推定される。制御装置14は、推定された温度を用いて調整機器13を制御する。したがって、計測機器12に異常が生じても、農業設備11の内部の環境を維持することができる。
【0048】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
図面中、10は環境制御システム、11は農業設備、12は計測機器、13は調整機器、14は制御装置、15はデータ転送装置(データ転送手段)、35は送信部、36は受信部、41は温度センサ、42は湿度センサ、51は異常判定部(異常判定手段)、52は温度推定部(温度推定手段)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6