(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1実施形態
(燃料電池スタック100)
図1は、燃料電池スタック100の斜視図である。燃料電池スタック100は、複数の燃料電池セル1及びマニホールド2を備える。本実施形態において、燃料電池セル1は電気化学セルの一例であり、燃料電池スタック100は電気化学装置の一例である。
【0012】
複数の燃料電池セル1は、配列方向に沿って一列に並べられる。各燃料電池セル1は、略等間隔で略平行に配置される。各燃料電池セル1の基端部3は、マニホールド2に固定される。各燃料電池セル1の先端部4は、自由端である。このように、各燃料電池セル1は、マニホールド2によって片持ち状態で支持される。燃料電池セル1の構成については後述する。
【0013】
マニホールド2は、各燃料電池セル1にガスを分配するように構成されている。マニホールド2は、中空状であり、内部空間を有している。マニホールド2の内部空間には、図示しない燃料ガス供給源から燃料ガス(例えば、水素)が供給される。
【0014】
マニホールド2は、各燃料電池セル1を支持する。マニホールド2は、マニホールド本体2a、天板2b、及び導入管2cを備える。本実施形態において、マニホールド本体2a、天板2b、及び導入管2cは、互いに別部材であるが、これらは一体的に形成されていてもよい。
【0015】
マニホールド本体2aは、略直方体状であって、上面が開口した内部空間を有する。マニホールド本体2aは、例えば、耐熱性を有する金属材料(例えば、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、及びNi基合金など)によって構成できる。
【0016】
天板2bは、マニホールド本体2aの上面を塞ぐように、マニホールド本体2a上に配置される。天板2bは、例えば結晶化ガラスによって、マニホールド本体2aに接合される。天板2bは、マニホールド本体2aと同様の材料によって構成できる。
【0017】
天板2bは、複数の貫通孔2dを有する。各貫通孔2dは、マニホールド2の内部空間と外部空間に連通する。各貫通孔2dには、各燃料電池セル1の基端部3が挿入される。各燃料電池セル1の基端部3は、接合材(例えば、結晶化ガラスなど)によって貫通孔2dに固定される。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO
2−B
2O
3系、SiO
2−CaO系、又はSiO
2−MgO系を用いることができる。
【0018】
(燃料電池セル1の外観構成)
次に、燃料電池セル1の外観構成について説明する。
図2は、燃料電池セル1の斜視図である。
【0019】
燃料電池セル1は、いわゆる横縞型の固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。燃料電池セル1は、8つの発電素子部A、支持基板10、シール膜11、及び表裏間接続部材12を備える。
【0020】
8つの発電素子部Aのうち4つの発電素子部Aは、支持基板10の表面上において、支持基板10の長手方向に沿って所定間隔で配置され、電気的に直列に接続される。残りの4つの発電素子部Aは、支持基板10の裏面上において、支持基板10の長手方向に沿って所定間隔で配置され、電気的に直列に接続される。
【0021】
以下の説明では、支持基板10の表面上に配置された4つの発電素子部Aのうちマニホールド2に最も近い発電素子部Aのことを「基端側発電素子部Ak」と称し、支持基板10の裏面上に配置された4つの発電素子部Aのうちマニホールド2に最も近い発電素子部Aのことを「基端側発電素子部Aj」と称する。基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajは、それぞれ基端部3上に配置された発電素子部Aである。基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajは、それぞれ後述するガス流路10aの流入口に最も近い発電素子部Aである。
【0022】
各発電素子部Aの外表面には、酸化剤ガスが供給される。酸化剤ガスは、支持基板10の基端側から先端側に向かって流れる。酸化剤ガスとしては、例えば、酸素と他の気体との混合ガスを用いることができる。酸化剤ガスとしては、安全かつ安価な空気が特に好ましい。酸化剤ガスには、窒素及びアルゴンなどの不活性ガスが含有されていてもよい。
【0023】
支持基板10は、長手方向に延びる平板である。支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料によって構成される。支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)で構成することができる。支持基板10は、8つの発電素子部Aを支持する。
【0024】
支持基板10の内部には、複数のガス流路10aが形成される。各ガス流路10aは、支持基板10の短手方向において略等間隔で略平行に形成される。各ガス流路10aは、支持基板10の長手方向に沿って延びる。各ガス流路10aは、支持基板10の長手方向両端面で開口している。各ガス流路10aは、支持基板10の基端側端面に形成された燃料ガスの流入口と、支持基板10の先端部側端面に形成された燃料ガスの流出口とを有する。
【0025】
燃料ガスとしては、水素、炭化水素、及び、水素と炭化水素との混合ガスが挙げられる。炭化水素としては、例えば、天然ガス、ナフサ、及び石炭ガス化ガスなどが挙げられるが、これに限られない。燃料ガスは、1種類の炭化水素であってもよく、2種類以上の炭化水素の混合物であってもよい。燃料ガスは、窒素及びアルゴンなどの不活性ガスを含有していてもよい。
【0026】
シール膜11は、支持基板10の外表面を覆う。シール膜11は、緻密質材料によって構成することができる。緻密質材料としては、例えば、YSZ、ScSZ、ガラス、スピネル酸化物などが挙げられる。シール膜11は、後述する各発電素子部Aの固体電解質層40と同じ材料によって一体的に構成されていてもよい。
【0027】
表裏間接続部材12は、先端部4を周回するように設けられる。表裏間接続部材12は、先端部4上に配置された表裏2つの発電素子部Aどうしを電気的に直列に接続する。
【0028】
表裏間接続部材12は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)、或いは、La(Ni、Fe、Cu)O
3等で構成することができる。
【0029】
(燃料電池セル1の内部構造)
次に、燃料電池セル1の内部構造について説明する。
図3は、燃料電池セル1のP面における断面図である。
【0030】
燃料電池セル1の各発電素子部Aは、燃料極20、インターコネクタ30、固体電解質層40、反応防止層50、空気極活性部60、及び空気極集電部70を備える。
【0031】
燃料極20は、燃料極集電部21と燃料極活性部22とを有する。燃料極集電部21は、支持基板10上に配置される。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とによって構成され得る。燃料極集電部21の厚さは特に制限されないが、50〜500μm程度とすることができる。燃料極活性部22は、燃料極集電部21上に配置される。燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とによって構成され得る。燃料極活性部22の厚さは特に制限されないが、5〜30μm程度とすることができる。
【0032】
インターコネクタ30は、燃料極集電部21上において、燃料極活性部22から離れた位置に配置される。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密材料によって構成される。インターコネクタ30は、例えば、LaCrO
3(ランタンクロマイト)によって構成され得る。インターコネクタ30の厚さは特に制限されないが、例えば、10〜100μm程度とすることができる。
【0033】
固体電解質層40は、燃料極20を覆うように配置される。固体電解質層40は、隣り合う発電素子部Aそれぞれのインターコネクタ30に接続される。固体電解質層40は、イオン伝導性を有し、電子伝導性を有さない緻密材料によって構成される。固体電解質層40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)によって構成され得る。固体電解質層40の厚さは特に制限されないが、例えば、3〜50μm程度とすることができる。
【0034】
反応防止層50は、固体電解質層40を覆うように配置される。反応防止層50は、緻密材料によって構成される。反応防止層50は、例えば、GDC((Ce,Gd)O
2:ガドリニウムドープセリア)によって構成され得る。反応防止層50の厚さは特に制限されないが、例えば、3〜50μm程度とすることができる。
【0035】
空気極活性部60は、反応防止層50上に配置される。空気極活性部60は、燃料電池セル1のうち発電反応を担う部分である。空気極活性部60は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する。空気極活性部60は、酸素イオン伝導性材料と電子伝導性材料とを混合したコンポジット材料、或いは、酸素イオン伝導性と電子伝導性との両方を有する混合導電性材料を主成分として含有する。
【0036】
本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが好ましくは60重量%以上を占め、より好ましくは70重量%以上を占め、さらに好ましくは90重量%以上を占めることを意味する。
【0037】
混合導電性材料としては、一般式ABO
3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型複合酸化物が挙げられる。このようなペロブスカイト型複合酸化物としては、LSFつまり(La,Sr)FeO
3、LSCつまり(La,Sr)CoO
3等の材料が挙げられ、特にLSCFつまり(La,Sr)(Co,Fe)O
3が好適である。なお、空気極活性部60は、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニアやScSZ等のスカンジア安定化ジルコニアを含むジルコニア系材料を含有していてもよい。
【0038】
空気極活性部60の厚みは特に制限されないが、例えば、5〜100μm程度とすることができる。
【0039】
空気極集電部70は、空気極活性部60上に配置される。空気極集電部70は、隣り合う発電素子部Aのインターコネクタ30と空気極活性部60とに接続される。空気極集電部70は、多孔質焼成体である。空気極集電部70は、燃料電池セル1の発電反応に必要な電子を空気極活性部60に供給する部分である。
【0040】
空気極集電部70は、空気極活性部60よりも高い電子伝導性を有している。空気極集電部70は、酸素イオン伝導性を有していなくてもよいが、酸素イオン伝導性を有していてもよい。空気極集電部70の材料としては、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)などの金属材料を用いることができるが、一般式ABO
3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有する材料が好適である。一般式ABO
3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有する材料としては、例えば、(La,Sr)CoO
3やLa(Ni,Fe,Cu)O
3などが挙げられ、特に、次の式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物が好適である。
【0041】
La(Ni
1−x−yFe
xCu
y)O
3−δ・・・(1)
式(1)において、xは0.03以上0.3以下であり、yは0.05以上0.5以下であり、δは0以上0.8以下である。ただし、BサイトにおけるNi
1−x−yFe
xCu
yの組成は、x値及びy値の影響を受けることはないものとする。
【0042】
空気極集電部70の厚みは特に制限されないが、例えば、30〜500μmとすることができる。
【0043】
ここで、基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajのそれぞれは、汚染物質トラップ部80をさらに有する。
【0044】
汚染物質トラップ部80は、空気極集電部70上に配置される。汚染物質トラップ部80は、表面及び/又は内部を流通する酸化剤ガスに含まれる汚染物質をトラップ(吸着、除去)する。
【0045】
汚染物質とは、酸化剤ガスに含有される物質のうち、空気極活性部60に吸着して触媒活性を低下させる物質である。例えば、汚染物質が空気極活性部60の複合酸化物と反応して反応生成物が生成されると、空気極活性部60内の空孔が塞がれて、酸化剤ガスが空気極活性部60内に充分に供給されなくなって、空気極活性部60の触媒活性が不充分となる。また、汚染物質が空気極活性部60の複合酸化物と反応して、触媒活性を有しない他の物質に変性してしまうおそれがある。空気極活性部60の触媒活性が低下すると、燃料電池セル1の発電性能が低下してしまう。
【0046】
汚染物質としては、例えば、S、Cr、Si、B、及びClの少なくとも1種の元素を含有する物質(例えば、SOxなど)が挙げられる。汚染物質には、H
2Oが含まれていてもよい。
【0047】
汚染物質トラップ部80は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する。汚染物質トラップ部80は、酸素イオン伝導性材料と電子伝導性材料とを混合したコンポジット材料、或いは、酸素イオン伝導性と電子伝導性との両方を有する混合導電性材料を主成分として含有する。混合導電性材料としては、上述した空気極活性部60の構成材料として例示した材料を用いることができる。汚染物質トラップ部80は、空気極活性部60の構成材料を含んでいてもよいが、空気極活性部60の構成材料を含んでいなくてもよい。
【0048】
汚染物質トラップ部80は、上述した汚染物質を含有していることが更に好ましい。これにより、汚染物質トラップ部80における反応活性が高まるため、汚染物質を効率的にトラップすることができる。汚染物質トラップ部80に汚染物質を含有させるには、上述した酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する材料に汚染物質をドーピングした後に熱処理(600℃〜11200℃、1時間〜120時間)すればよい。
【0049】
汚染物質トラップ部80は、酸化剤ガスを透過可能である。汚染物質トラップ部80の開気孔率は特に制限されないが、アルキメデス法によって測定される開気孔率を10%以上50%以下とすることができる。汚染物質トラップ部80の形状は特に制限されず、例えば、膜状、層状、或いは板状のほか、直方体状、球体状などであってもよい。
【0050】
このように、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する汚染物質トラップ部80が、マニホールド2に最も近い基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajのそれぞれにおいて、空気極集電部70上に配置されている。従って、汚染物質トラップ部80が、空気極集電部70とともに、燃料電池セル10内での化学反応に伴う電流経路の一部として機能するため、汚染物質トラップ部80自体の活性を高めることができる。そのため、汚染物質トラップ部80によって汚染物質を効率的にトラップすることができる。また、汚染物質トラップ部80は、マニホールド2に最も近い基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajのそれぞれに設けられているため、汚染物質がトラップ(吸着、除去)された後の酸化剤ガスを各発電素子部Aに供給することができる。
【0051】
(燃料電池セル1の製造方法)
次に、燃料電池セル1の製造方法の一例について説明する。
【0052】
まず、上述した支持基板材料を押出成形することによって、ガス流路10aを有する支持基板10の成形体を形成する。そして、支持基板10の成形体の表裏面に、燃料極集電部21の成形体を収容するための凹部を形成する。
【0053】
次に、上述した燃料極集電部材料をペースト化してスクリーン印刷することによって、支持基板10の凹部内に燃料極集電部21の成形体を形成する。そして、燃料極集電部21の成形体の表面に、燃料極活性部22とインターコネクタ30の成形体を収容するための凹部を形成する。
【0054】
次に、上述した燃料極活性部材料をペースト化してスクリーン印刷することによって、燃料極集電部21の凹部内に燃料極活性部22の成形体を形成する。
【0055】
次に、上述したインターコネクタ材料をペースト化してスクリーン印刷することによって、燃料極集電部21の凹部内にインターコネクタ30の成形体を形成する。
【0056】
次に、上述した固体電解質層材料をペースト化してスクリーン印刷することによって、燃料極20とインターコネクタ30の成形体上に固体電解質層40の成形体を形成する。
【0057】
次に、固体電解質層40の成形体上に反応防止層材料をディップ成形することによって、反応防止層50の成形体を形成する。
【0058】
次に、支持基板10、燃料極20、インターコネクタ30、固体電解質層40、及び反応防止層50それぞれの成形体を共焼成(1300〜1600℃、2〜20時間)する。
【0059】
次に、空気極活性部材料をペースト化して反応防止層50上にスクリーン印刷することによって、空気極活性部60の成形体を形成する。
【0060】
次に、空気極集電部材料をペースト化して空気極活性部60の成形体上にスクリーン印刷することによって、空気極集電部70の成形体を形成する。
【0061】
次に、汚染物質トラップ部材料をペースト化して空気極集電部70の成形体上にスクリーン印刷することによって、汚染物質トラップ部80の成形体を形成する。
【0062】
次に、空気極活性部60、空気極集電部70及び汚染物質トラップ部80の各成形体を焼成(900〜1100℃、1〜20時間)する。
【0063】
2.第2実施形態
(燃料電池装置101の構成)
第2実施形態に係る燃料電池装置101の構成について、図面を参照しながら説明する。
図4は、燃料電池装置101の構成を示す断面図である。
【0064】
燃料電池装置101は、燃料電池セル110、インターコネクタ120、セパレータ130、酸化剤ガス供給部140、酸化剤ガス排出部150、及び汚染物質トラップ部
160を備える。燃料電池装置101を複数積層することによって、燃料電池セルスタックを構成しうる。本実施形態において、燃料電池セル110は電気化学セルの一例であり、燃料電池装置101は電気化学装置の一例である。
【0065】
(燃料電池セル110)
燃料電池セル110は、固体電解質層111、燃料極112、空気極113、燃料極側集電部114、及び空気極側集電部115を有する。
【0066】
本実施形態に係る燃料電池セル110は、空気極113及び固体電解質層111に比べて燃料極112が顕著に厚い燃料極支持型セルであるが、これに限定されない。燃料電池セル110は、固体電解質層111及び燃料極112に比べて空気極113が顕著に厚い空気極支持型セルであってもよく、燃料極112及び空気極113に比べて固体電解質層111が顕著に厚い電解質支持型セルであってもよい。
【0067】
固体電解質層111は、薄板状に形成される。固体電解質層111の厚みは、3μm以上20μm以下とすることができる。固体電解質層111は、空気極113において発生する酸素イオンを燃料極112に移動させる酸素イオン伝導性を有する電解質材料によって構成される。このような電解質材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリウム添加セリア(CeSmO
2)、ガドリウム添加セリア(CeGdO
2)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)の1種、或いは2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0068】
固体電解質層111は、緻密質である。固体電解質層111は、酸化剤ガスの燃料極112側への透過、及び、燃料ガスの空気極113側への透過を防止する。アルキメデス法によって求められる固体電解質層111の相対密度は、95%以上が好ましい。
【0069】
燃料極112は、固体電解質層111の第1主面111S上に配置される。燃料極112は、燃料電池セル110のアノードとして機能する。燃料極112は、多孔質体である。
【0070】
燃料極112は、燃料ガス室S1内に配置される。燃料ガス室S1には、図示しない燃料ガス供給部から燃料ガスが供給される。燃料ガスとしては、水素、炭化水素、及び、水素と炭化水素との混合ガスが挙げられる。炭化水素としては、例えば、天然ガス、ナフサ、及び石炭ガス化ガスなどが挙げられるが、これに限られない。燃料ガスは、1種類の炭化水素であってもよく、2種類以上の炭化水素の混合物であってもよい。燃料ガスは、窒素及びアルゴンなどの不活性ガスを含有していてもよい。
【0071】
燃料極112は、周知の燃料極材料によって構成される。燃料極112は、例えば、Ni及び/又はFe等の金属と上述した電解質材料との混合物によって構成することができる。
【0072】
空気極113は、固体電解質層111の第2主面111T上に配置される。空気極113は、燃料電池セル110のカソードとして機能する。空気極113は、多孔質体である。空気極113の気孔率は特に制限されないが、110%以上とすることができる。空気極113の厚みは特に制限されないが、例えば130μm以上1200μm以下とすることができる。
【0073】
空気極113は、酸化剤ガス室S2内に配置される。酸化剤ガス室S2には、酸化剤ガス供給部140から酸化剤ガスが供給される。空気極113を通過した後の酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出部150によって酸化剤ガス室S2から排出される。酸化剤ガスとしては、空気が好ましい。
【0074】
空気極113は、酸素イオン伝導性及び電子伝導性を有する材料によって構成することができる。このような材料としては、La、Sr、Co、及びFeの少なくとも1種の元素を含む複合酸化物が好適である。このような複合酸化物としては、La
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xFeO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xMnO
3系複合酸化物、Pr
1−xBa
xCoO
3系複合酸化物、及びSm
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物などが挙げられる。
【0075】
燃料極側集電部114は、燃料極112と電気的かつ機械的に接合される。燃料極側集電部114の構成材料としては、例えば、通気性を有するNiフェルト等が挙げられる。燃料極側集電部114は、燃料電池装置101が複数積層された場合、燃料極112とインターコネクタ120との間に挟まれる。なお、燃料極側集電部114は、インターコネクタ120と一体的に形成されていてもよい。
【0076】
空気極側集電部115は、空気極113と電気的かつ機械的に接合される。空気極側集電部115の構成材料としては、例えば、Ag−Pd等の金属材料が挙げられる。空気極側集電部115は、空気極113とインターコネクタ120との間に挟まれる。なお、空気極側集電部115は、インターコネクタ120と一体的に形成されていてもよい。
【0077】
(インターコネクタ120)
インターコネクタ120は、空気極113と電気的に接合される。本実施形態において、インターコネクタ120は、空気極側集電部115を介して空気極113と電気的に接合されている。インターコネクタ120は、空気極側集電部115と電気的かつ機械的に接合される。インターコネクタ120は、燃料電池装置101が複数積層された場合、隣接する2つの燃料電池セル110の間に挟まれる。この場合、インターコネクタ120は、燃料極側集電部114及び空気極側集電部115それぞれと電気的かつ機械的に接合される。
【0078】
インターコネクタ120は、金属によって構成することができ、ステンレスによって構成されるのが好ましい。
【0079】
(セパレータ130)
セパレータ130は、燃料電池セル110の周囲を取り囲むように配置される。本実施形態に係るセパレータ130は、固体電解質層111の第2主面111Tに接合され、空気極113を取り囲むように配置されている。
【0080】
セパレータ130は、燃料ガス室S1と酸化剤ガス室S2とを隔てる。すなわち、セパレータ130は、固体電解質層111と同様、酸化剤ガスの燃料極112側への透過、及び、燃料ガスの空気極113側への透過を防止する。
【0081】
セパレータ130は、金属によって構成することができ、ステンレスによって構成されるのが好ましい。
【0082】
(酸化剤ガス供給部140)
酸化剤ガス供給部140は、燃料電池セル110の側方に配置される。酸化剤ガス供給部140は、酸化剤ガス供給路141と酸化剤ガス供給口142とを有する。
【0083】
酸化剤ガス供給路141は、燃料電池セル110の積層方向に沿って延びる。燃料電池装置101が複数積層された場合、酸化剤ガス供給路141どうしが連なることによって、1本の酸化剤ガス供給経路が形成される。
【0084】
酸化剤ガス供給口142は、酸化剤ガス供給路141に連なる。酸化剤ガス供給口142は、酸化剤ガス室S2に開口する。酸化剤ガス供給口142は、燃料電池セル110に向かって開口する。
【0085】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給路141と酸化剤ガス供給口142とを順次通過して、酸化剤ガス室S2に供給される。酸化剤ガス供給部140から酸化剤ガス室S2に供給される酸化剤ガスは、
図1に示すように、流通方向D1に沿って酸化剤ガス室S2内を流れる。流通方向D1は、酸化剤ガス供給口142から後述する酸化剤ガス排出口152へと向かう方向である。流通方向D1は、酸化剤ガス供給口142の中心と酸化剤ガス排出口52の中心とを結ぶ直線によって規定される。酸化剤ガス供給口142及び酸化剤ガス排出口152の少なくとも一方が複数存在する場合、流通方向D1は、いずれか1つの酸化剤ガス供給口142の中心といずれか1つの酸化剤ガス排出口152の中心とを結ぶ直線によって規定される。
【0086】
(酸化剤ガス排出部150)
酸化剤ガス排出部150は、燃料電池セル110の側方に配置される。酸化剤ガス排出部150は、酸化剤ガス排出路151と酸化剤ガス排出口152とを有する。
【0087】
酸化剤ガス排出路151は、燃料電池セル110の積層方向に沿って延びる。燃料電池装置101が複数積層された場合、酸化剤ガス排出路151どうしが連なることによって、1本の酸化剤ガス排出経路が形成される。
【0088】
酸化剤ガス排出口152は、酸化剤ガス排出路151に連なる。酸化剤ガス排出口152は、酸化剤ガス室S2に開口する。酸化剤ガス排出口152は、燃料電池セル110に向かって開口する。
【0089】
酸化剤ガス供給口142から酸化剤ガス室S2に供給され、流通方向D1に沿って酸化剤ガス室S2内を通過した酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出口152から酸化剤ガス排出路151に排出される。
【0090】
(汚染物質トラップ部
160)
本実施形態において、汚染物質トラップ部
160は、空気極113のうち酸化剤ガス供給口142側の部分上に配置される。空気極113のうち酸化剤ガス供給口142側の部分とは、流通方向D1における空気極113の中央を基準として、酸化剤ガス供給口142に近い部分のことである。汚染物質トラップ部
160は、酸化剤ガス供給口142の近くに配置されるのが好ましく、
図4に示すように、空気極113のうち酸化剤ガス供給口142側の端部上に配置されるのが特に好ましい。
【0091】
汚染物質とは、酸化剤ガスに含有される物質のうち、空気極113に吸着して触媒活性を低下させる物質である。例えば、汚染物質が空気極113の複合酸化物と反応して反応生成物が生成されると、空気極113内の空孔が塞がれて、酸化剤ガスが空気極113内に充分に供給されなくなって、空気極113の触媒活性が不充分となる。また、汚染物質が空気極113の複合酸化物と反応して、触媒活性を有しない他の物質に変性してしまうおそれがある。空気極113の触媒活性が低下すると、燃料電池セル110の発電性能が低下してしまう。
【0092】
汚染物質としては、例えば、S、Cr、Si、B、及びClの少なくとも1種の元素を含有する物質(例えば、SOxなど)が挙げられる。汚染物質には、H
2Oが含まれていてもよい。
【0093】
汚染物質トラップ部
160は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する。汚染物質トラップ部
160は、酸素イオン伝導性材料と電子伝導性材料とを混合したコンポジット材料、或いは、酸素イオン伝導性と電子伝導性との両方を有する混合導電性材料を主成分として含有する。
【0094】
汚染物質トラップ部
160は、金属酸化物を含有していることが好ましい。金属酸化物は、La、Sr、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物であることが好ましい。金属酸化物は、複合酸化物であることが好ましい。
【0095】
汚染物質トラップ部
160は、上述した汚染物質を含有していることが更に好ましい。これにより、汚染物質トラップ部
160における反応活性が高まるため、汚染物質を効率的にトラップすることができる。汚染物質トラップ部
160に汚染物質を含有させるには、上述した金属酸化物に汚染物質をドーピングした後に熱処理(600℃〜11200℃、1時間〜120時間)すればよい。
【0096】
汚染物質トラップ部
160は、酸化剤ガスを透過可能である。汚染物質トラップ部
160の開気孔率は特に制限されないが、アルキメデス法によって測定される開気孔率を10%以上50%以下とすることができる。汚染物質トラップ部
160の形状は特に制限されず、例えば、膜状、層状、或いは板状のほか、直方体状、球体状などであってもよい。
【0097】
このように、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する汚染物質トラップ部
160が、空気極113のうち酸化剤ガス供給口142側の部分上に配置されている。
【0098】
従って、汚染物質トラップ部
160が、空気極113とともに、燃料電池セル110内での化学反応に伴う電流経路の一部として機能するため、汚染物質トラップ部
160自体の活性を高めることができる。そのため、汚染物質トラップ部
160によって汚染物質を効率的にトラップすることができる。
【0099】
また、汚染物質トラップ部
160が、酸化剤ガス供給口142側の部分上に配置されているため、酸化剤ガス室S2内の雰囲気温度で酸化剤ガスが昇温する前に、酸化剤ガスを汚染物質トラップ部
160に供給できる。従って、比較的低温の酸化剤ガスを汚染物質トラップ部
160に供給できるため、汚染物質トラップ部
160の分子運動がおだやかになる。その結果、汚染物質トラップ部
160によって効率的に汚染物質をトラップすることができる。
【0100】
(燃料電池装置101の製造方法)
燃料電池装置101の製造方法の一例について説明する。
【0101】
まず、燃料極112用グリーンシート上に重ねた固体電解質層111用グリーンシートの第2主面111T上に空気極113用スラリーと汚染物質トラップ部
160用スラリーとを順に塗布・乾燥させた後に焼成することによって、燃料電池セル110と汚染物質トラップ部
160とが形成される。
【0102】
次に、固体電解質層111の第2主面111Tにセパレータ130をロウ付けする。
【0103】
次に、燃料極112に燃料極側集電部114を接合するとともに、空気極113に空気極側集電部115とインターコネクタ120とを順次接合する。
【0104】
次に、インターコネクタ120とセパレータ130が接合された燃料電池セル110の側方に酸化剤ガス供給部140と酸化剤ガス排出部150とを配置する。
【0105】
3.第2実施形態の変形例
第2実施形態の変形例に係る燃料電池装置102の構成について、図面を参照しながら説明する。
図5は、燃料電池装置102の構成を示す断面図である。
【0106】
上記第2実施形態と本変形例との相違点は、汚染物質トラップ部の配置位置になる。よって、以下の説明では、当該相違点について主に説明する。
【0107】
燃料電池装置101は、汚染物質トラップ部170を備える。汚染物質トラップ部170は、空気極113のうち酸化剤ガス排出口152側の部分上に配置される。空気極113のうち酸化剤ガス排出口152側の部分とは、流通方向D1における空気極113の中央を基準として、酸化剤ガス排出口152に近い部分のことである。汚染物質トラップ部170は、酸化剤ガス排出口152の近くに配置されるのが好ましく、
図5に示すように、空気極113のうち酸化剤ガス排出口152側の端部上に配置されるのが特に好ましい。
【0108】
汚染物質トラップ部170は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する。汚染物質トラップ部170は、酸素イオン伝導性材料と電子伝導性材料とを混合したコンポジット材料、或いは、酸素イオン伝導性と電子伝導性との両方を有する混合導電性材料を主成分として含有する。
【0109】
汚染物質トラップ部170は、金属酸化物を含有していることが好ましい。金属酸化物は、La、Sr、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物であることが好ましい。金属酸化物は、複合酸化物であることが好ましい。
【0110】
汚染物質トラップ部170は、汚染物質(例えば、S、Cr、Si、B、及びClの少なくとも1種の元素)を含有していることが更に好ましい。これにより、汚染物質トラップ部170における反応活性が高まるため、汚染物質を効率的にトラップすることができる。汚染物質トラップ部170に汚染物質を含有させるには、上述した金属酸化物に汚染物質をドーピングした後に熱処理(600℃〜11200℃、1時間〜120時間)すればよい。
【0111】
汚染物質トラップ部170は、酸化剤ガスを透過可能である。汚染物質トラップ部170の開気孔率は特に制限されないが、アルキメデス法によって測定される開気孔率を10%以上50%以下とすることができる。汚染物質トラップ部170の形状は特に制限されず、例えば、膜状、層状、或いは板状のほか、直方体状、球体状などであってもよい。
【0112】
このように、酸素イオン伝導性と電子伝導性を有する汚染物質トラップ部170が、空気極113のうち酸化剤ガス排出口152側の部分上に配置されている。
【0113】
従って、汚染物質トラップ部170が、空気極113とともに、燃料電池セル110内での化学反応に伴う電流経路の一部として機能するため、汚染物質トラップ部170自体の活性を高めることができる。そのため、汚染物質トラップ部170によって汚染物質を効率的にトラップすることができる。
【0114】
また、汚染物質トラップ部170が、酸化剤ガス排出口152側の部分上に配置されているため、燃料電池装置101が停止した場合に、温度低下に伴って負圧になる酸化剤ガス室S2内に酸化剤ガス排出口152から逆流する酸化剤ガス中の汚染物質をトラップすることができる。
【0115】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0116】
上記第1実施形態では、電気化学セルを備える電気化学装置の一例として、燃料電池セル10を備える燃料電池装置1について説明し、上記第2実施形態では、電気化学セルを備える電気化学装置の一例として燃料電池装置100について説明したがこれに限られない。電気化学装置には、水蒸気から水素と酸素を生成する電解セルを電気化学セルとして備えるものが含まれる。
【0117】
上記第1実施形態では、電気化学セルの一例として横縞型の燃料電池セル1について説明し、上記第2実施形態では、電気化学セルの一例として平板型の燃料電池セル100について説明したが、本発明にかかる汚染物質トラップ部80は、縦縞型の燃料電池セルにも適用可能である。
【0118】
上記第1実施形態では、マニホールド2に最も近い基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajのそれぞれが汚染物質トラップ部80を有することとしたが、これに限られるものではない。基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Aj以外の発電素子部Aが汚染物質トラップ部80を有していてもよいし、基端側発電素子部Ak及び基端側発電素子部Ajの少なくとも一方が汚染物質トラップ部80を有していなくてもよい。汚染物質トラップ部80は、酸化剤ガスのガス流方向における上流側の発電素子部Aに設けられていることが好ましい。また、汚染物質トラップ部80は、空気極側集電部70の表面のうち、酸化剤ガスのガス流方向における上流側の領域に設けられていることが好ましい。