特許第6552808号(P6552808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6552808フラボノイド配糖体の製造方法、飲食品の製造方法、及びフラボノイドの配糖体に飲食品適性を付与する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552808
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】フラボノイド配糖体の製造方法、飲食品の製造方法、及びフラボノイドの配糖体に飲食品適性を付与する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/44 20060101AFI20190722BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20190722BHJP
   C12R 1/66 20060101ALN20190722BHJP
【FI】
   C12P19/44
   A23L33/10
   C12R1:66
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-234787(P2014-234787)
(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-96750(P2016-96750A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002196
【氏名又は名称】サッポロホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 絵美
(72)【発明者】
【氏名】平田 拓
(72)【発明者】
【氏名】神田 一
(72)【発明者】
【氏名】太田 愛美
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 Bioorg. Med. Chem. Lett.,2013年,Vol. 23,p. 1957-1960
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00 − 19/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する真菌により下記式(1A)で表されるフラボノイドを配糖化する工程を含み、前記配糖化する工程が、前記真菌を前記フラボノイドの共存下で培養することを含む、フラボノイド配糖体の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記配糖化する工程をシクロデキストリン共存下で行う、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記シクロデキストリンが、β−シクロデキストリンである、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アスペルギルス属に属する真菌が、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・フォエニシス(Aspergillus phoenicis)及びアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記配糖化する工程を20℃以上40℃以下で行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記配糖化する工程を0.5時間以上72時間以下行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法によりフラボノイド配糖体を得る工程、及び、前記フラボノイド配糖体を飲食品原料に配合する工程を含む、飲食品の製造方法。
【請求項8】
前記飲食品中の前記フラボノイド配糖体の含有量が1.5g/m以上60g/m以下である、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する真菌により下記式(1A)で表されるフラボノイドを配糖化する工程を含み、前記配糖化する工程が、前記真菌を前記フラボノイドの共存下で培養することを含む、前記フラボノイドの配糖体に飲食品適性を付与する方法。
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド配糖体の製造方法に関する。本発明はまた、当該製造方法により得られたフラボノイド配糖体を含む飲食品及び飲食品の製造方法、並びにフラボノイドの配糖体に飲食品適性を付与する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ホップに含まれるキサントフモール等のフラボノイドは、多様な生理活性を有することが知られている。キサントフモール等のフラボノイドの機能性を飲食品の付加価値向上に利用する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−39349号公報
【特許文献2】特開2008−174507号公報
【特許文献3】特開2011−41531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キサントフモール等のフラボノイドは水に難溶性であるため、飲食品等に加工しにくいという問題がある。また、キサントフモール等のフラボノイドは熱によって容易にイソ化する性質があるため、飲食品製造工程において加熱時に含量が減少するという問題がある。フラボノイドを配糖化すると溶解性が向上することが知られている。
【0005】
フラボノイドを配糖化する方法として、糖転移酵素を用いて対象となる基質と接触させることで配糖体を得る方法が知られている(特許文献1)。この方法では、必要な糖転移酵素を用意するために、酵素を抽出・精製するか、又は市販品を購入する必要があり、原料費が高騰する傾向がある。フラボノイド類を広く飲食品へ利用しやすくするためには、より安価で簡便なフラボノイドの配糖化方法の開発が必要である。
【0006】
フラボノイドを糖供与体とともにTricoderma属由来の配糖化活性を有する酵素剤を作用させることによってフラボノイド配糖体を製造する方法(特許文献2)、及び、カニンガメラ属に属する微生物を利用してフラボノイド配糖体を製造する方法が知られている(特許文献3)。しかし、これらの製造方法において用いられる微生物は食経験がなく、当該製造方法で得られるフラボノイド配糖体を飲食品に利用するためには高度に精製する必要があるため、実際の飲食品製造への利用には適していない。また、乳酸菌及び酵母菌によってキサントフモール等のフラボノイドを配糖化することが可能であるが、これらの微生物による配糖体の産生効率は非常に低い。
【0007】
本発明は、飲食品利用に適したフラボノイド配糖体を効率的に得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する菌を用いることにより、キサントフモール等のフラボノイドを効率的に配糖化できることを見出した。
【0009】
本発明は、Aspergillus属に属する真菌により下記一般式(1)で表されるフラボノイドを配糖化する工程を含む、フラボノイド配糖体の製造方法を提供する。
【化1】

[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは、ジメチルアリル基又はゲラニル基を表す。]
【0010】
Aspergillus属に属する真菌は一般的に飲食品の製造に用いられてきたものであるため、上記製造方法により得られるフラボノイド配糖体は、飲食品製造への利用に適している。
【0011】
上記一般式(1)で表されるフラボノイドは、下記式(1A)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
【0012】
上記製造方法において、配糖化する工程をシクロデキストリン共存下で行うことが好ましい。また、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンであることがより好ましい。シクロデキストリン共存下、特にβ−シクロデキストリン共存下で上記配糖化する工程を行うことにより、培地中等の菌体外において蓄積されるフラボノイド配糖体の量が増加するため、より効率的にフラボノイド配糖体の製造を行うことができる。
【0013】
上記Aspergillus属に属する真菌は、Aspergillus niger、Aspergillus phoenicis及びAspergillus awamoriからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
上記製造方法においては、配糖化する工程を20℃以上40℃以下で行うことができる。また、配糖化する工程を0.5時間以上72時間以下で行うことができる。
【0015】
本発明はまた、上述の製造方法により得られたフラボノイド配糖体を飲食品原料に配合する工程を含む、飲食品の製造方法、及び上述の製造方法により得られたフラボノイド配糖体を含む飲食品を提供する。上記飲食品は、フラボノイド配糖体の含有量が1.5g/m以上60g/m以下であることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、Aspergillus属に属する真菌により上記一般式(1)で表されるフラボノイドを配糖化する工程を含む、上記フラボノイドの配糖体に飲食品適性を付与する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法により、飲食品への利用に適したフラボノイド配糖体を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】各種菌によるキサントフモール配糖体生成量を示すグラフである。
図2】各種菌によるキサントフモール配糖体生成量を示すグラフである。
図3】キサントフモール配糖体標品のNOESY解析結果を示すグラフである。
図4】基質濃度とキサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図5】基質濃度とキサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図6】基質濃度とキサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図7】糖源濃度とキサントフモール配糖体量及び培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図8】糖源濃度とキサントフモール配糖体量及び培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図9】糖源濃度とキサントフモール配糖体量及び培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図10】糖源濃度とキサントフモール配糖体量及び培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図11】糖源濃度とキサントフモール配糖体量及び培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図12】糖源濃度とキサントフモール配糖体量及び培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図13】培養温度とキサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図14】培養温度とキサントフモール配糖体量の培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図15】培養温度とキサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図16】培養温度とキサントフモール配糖体量の培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図17】培養温度とキサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図18】培養温度とキサントフモール配糖体量の培地中/菌体中比の関係を示すグラフである。
図19】培養時間と培地中キサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図20】培養時間と培地中キサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
図21】培養時間と培地中キサントフモール配糖体量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のフラボノイド配糖体の製造方法は、Aspergillus属に属する真菌により特定の構造式で表されるフラボノイドを配糖化する工程を含む。後述の実施例で詳述するように、Aspergillus属に属する真菌(以下、場合により「麹菌」という。)により、特定の構造を有するフラボノイドを高効率で配糖化することができる。
【0020】
本実施形態に係るフラボノイド配糖体の製造方法における基質(配糖化の対象となる化合物)は下記一般式(1)で表されるフラボノイドである。
【0021】
【化3】

[式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは、ジメチルアリル基又はゲラニル基を表す。]
【0022】
一般式(1)において、Rで表される炭素数1〜5のアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、プロピル基、1−メチルプロピル基(sec−ブチル基)、2−メチルプロピル基(イソブチル基)、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基が挙げられる。
【0023】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、Rが水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基(メチル基、エチル基、1−メチルエチル基、プロピル基)である化合物が好適であり、Rが水素原子、メチル基又はエチル基で、Rがジメチルアリル基である化合物が特に好適である。ホップ特有のフラボノイドであるキサントフモール(下記式(1A)で表される化合物)は、特に好適な化合物の1つである。
【化4】
【0024】
一般式(1)で表されるフラボノイドとしては、天然物(植物、微生物等)に由来するものであっても、人為的に合成したものであってもよい。また、市販のものがあれば、それを使用してもよい。
【0025】
例えば、キサントフモールは、ホップ抽出物を分画又は精製することによって得ることができる。ホップ抽出物としては、例えば、市販のホップエキスを使用してもよい。
【0026】
ホップからの抽出を行う場合、抽出に供するホップ組織としては、毬花が好ましい。ホップは、乾燥、凍結、加工、粉砕、選別等の処理が施されたものであってもよく、例えば、ホップペレットを使用してもよい。
【0027】
ホップの品種は特に制限されず、既存の品種(例えば、チェコ産ザーツ種、ドイツ産ハラタウ・マグナム種、ドイツ産ハラタウ・トラディション種、ドイツ産ペルレ種)のいずれでもよい。1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ホップからの抽出は、例えば、ホップを溶媒に浸漬し、これを濾過することによって行うことができる。溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール等のアルコール、又はアルコールと水の混合溶液が好適である。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。浸漬の際には超音波処理を行ってもよい。得られた抽出物に対しては、公知の方法(例えば、減圧濃縮、凍結乾燥)により濃縮又は乾燥を行ってもよく、更に粉砕等の処理を行ってもよい。
【0029】
ホップ抽出物からのキサントフモールの分画、精製は、例えば次のようにして行うことができる。すなわち、まず、ホップ抽出物の水溶液又は水懸濁液をヘキサンで分配し、得られた水層を酢酸エチル(pH3)で分配する。そして、得られた有機層を、更に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8以上9以下)で分配し、新たに生じた有機層を回収する。次に、この有機層に対して、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[ジエチルエーテル/ヘキサン(3:7)→酢酸エチル/ヘキサン(4:6)→酢酸エチル/ヘキサン(6:4)→クロロホルム/メタノール(5:5)]を行って、キサントフモール溶出画分を分取する。最後に、これを、ODSカラムを用いて、又は再結晶により更に精製する。
【0030】
以上の抽出、分画、精製の際の温度は、キサントフモールのイソ化防止の観点から、5℃以上65℃以下が好ましく、5℃以上50℃以下がより好ましい。
【0031】
得られた化合物がキサントフモールかどうかは、公知の方法(例えば、質量分析、元素分析、核磁気共鳴分光法、紫外分光法、赤外分光法)により確認することができる。
【0032】
本実施形態に係るフラボノイド配糖体の製造方法は、一般式(1)で表されるフラボノイドのうちの1種のみを配糖化の基質(フラボノイド)としてもよく、2種以上を基質としてもよい。
【0033】
(フラボノイド配糖体)
本実施形態に係るフラボノイド配糖体の製造方法において得られるフラボノイド配糖体は、一般式(1)で表されるフラボノイド中の2’位、4位及び4’位の少なくとも1つに糖残基がβ結合している。糖残基数は1つでも複数でもよいが、1つであることが好ましい。フラボノイドに結合する糖残基は、例えばグルコース、ガラクトース、キシロース等とすることができる。得られるフラボノイド配糖体は1種であってもよく、異なる構造を有する2種以上のフラボノイド配糖体の混合物であってもよい。
【0034】
目的とするフラボノイド配糖体が得られたどうかは、例えば、公知のフラボノイド配糖体の構造情報に基づいて、公知の方法(例えば、質量分析、元素分析、核磁気共鳴分光法、紫外分光法、赤外分光法)により確認することができる。
【0035】
本実施形態に係る製造方法により得られるフラボノイド配糖体は、水への優れた溶解性を有する。また、キサントフモール等の上記フラボノイドは、加熱すると容易にイソ化する傾向があるが、配糖化されると耐熱性が向上する。具体的には、上記フラボノイド配糖体は、配糖化される前の状態と比較して、例えば25℃、pH7の場合に、水への溶解性が60倍以上となる。また、上記フラボノイド配糖体は、配糖化される前の状態と比較して、例えば60℃でのイソ化(イソキサントフモールの生成)が抑制される。
【0036】
(麹菌)
本実施形態に係るフラボノイド配糖体の製造方法においては、Aspergillus(アスペルギルス)属に属する真菌(麹菌)によってフラボノイドの配糖化を行う。麹菌によって、高い効率で上記フラボノイドを配糖化することができる。Aspergillus属に属する真菌としては、上記式(1)で表されるフラボノイドを配糖化する性質を有するものであればよい。
【0037】
上記式(1)で表されるフラボノイドを配糖化する性質を有する麹菌は、市販の麹菌を用いることができ、また、フラボノイド配糖体の産生を指標としてスクリーニングすることにより得てもよい。フラボノイド配糖体の産生を指標としたスクリーニング方法としては、例えば、被検微生物を各菌株に適した培養条件(培地条件、培養温度等)で培養し、培養後の培地中に再出されたフラボノイド配糖体を定量し、フラボノイド配糖体の産出量が多い菌株を取得することにより、行うことができる。培地中のフラボノイド配糖体の定量は、例えば、公知のフラボノイド配糖体の構造情報に基づいて、LC−MS/MS等により分析し、目的とするフラボノイド配糖体を産生する菌株を選択することができる。例えば、Aspergillus niger(アスペルギルス・ニガー)、Aspergillus phoenicis(アスペルギルス・フォエニシス)、Aspergillus awamori(アスペルギルス・アワモリ)等が挙げられる。配糖化を行う麹菌は1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合せて用いてもよい。
【0038】
麹菌による、基質である上記一般式(1)で表されるフラボノイドの配糖化は、例えば、麹菌を上記フラボノイドの共存下で培養することにより行うことができる。
【0039】
フラボノイドの配糖化のための麹菌の培養は、一般的な麹菌の培養条件で行うことができる。培養温度は例えば、0℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上とすることができ、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下とすることができる。培養温度は例えば0℃以上40℃以下とすることができ、15℃以上40℃以下とすることが好ましく、20℃以上40℃以下とすることがより好ましく、25以上35℃以下とすることが更に好ましい。培養温度を上記範囲とすると、フラボノイドの配糖化効率がより高まる傾向がある。また、培養温度は例えば、20℃以上35℃以下としてもよく、20℃以上30℃以下としてもよく、20℃以上25℃以下としてもよい。培養温度を上記範囲とすると、培地中に蓄積するフラボノイド配糖体の割合が増加する傾向があるため好ましい。
【0040】
フラボノイドの配糖化のための麹菌の培養は、例えば、0.5時間以上、1時間以上、2時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上行うことができ、100時間以下、80時間以下、72時間以下、60時間以下、48時間以下、30時間以下、24時間以下、20時間以下、16時間以下、10時間以下行うことができる。フラボノイドの配糖化のための麹菌の培養は、例えば1時間以上100時間以下で行うことができる。高効率でフラボノイド配糖体を得るため、2時間以上80時間以下で行うことが好ましく、4時間以上60時間以下で行うことがより好ましく、6時間以上30時間以下で行うことが更に好ましく、6時間以上20時間以下で行うことがより更に好ましく、6時間以上16時間以下で行うことが特に好ましく、6時間以上10時間以下で行うことが最も好ましい。フラボノイドを配糖化する工程は、pHを例えば麹菌の培養可能な範囲にすることができ、pH1.5以上pH9以下が好ましく、pH4以上pH6以下がより好ましい。培養はインキュベーター中で行ってもよく、また、通気振とうしてもよい。
【0041】
培地中の基質である上記一般式(1)で表されるフラボノイドの初期濃度は、例えば0.1mM以上10mM以下とすることができる。より高効率でフラボノイド配糖体を産生するために好適な基質の初期濃度は菌株により異なるが、例えば培地中の基質初期濃度を0.1mM以上1mM以下、0.1mM以上0.5mM以下、1mM以上10mM以下、1mM以上5mM以下、5mM以上10mM以下とすることができる。また、培地中の基質初期濃度が0.1mM以上0.5mM以下、又は5mM以上10mM以下であると、培地中等の麹菌の菌体外において蓄積されるフラボノイド配糖体の割合が増加する傾向があるため好ましい。
【0042】
フラボノイドを配糖化する工程において配糖体の糖残基の供給源となる糖源としては、糖残基がグルコース残基である場合、グルコース単位を含む任意の糖源を用いることができ、例えば、グルコース、グルクロン酸、スクロース、ラクトース、デキストリン、シクロデキストリン、アミロース、アミロペクチン、デンプン等を用いることができる。また、糖残基がガラクトース又はキシロース残基である場合は、ガラクトース又はキシロース単位を含む任意の糖源を用いることができ、例えば、ガラクトース、キシロース、キシラン、キシログルカン、アラビノガラクタン等を用いることができる。中でも配糖化効率の点からデキストリン又はシクロデキストリンが好ましい。糖源の培地中初期濃度は、例えば0.1質量%以上5質量%以下とすることができる。
【0043】
フラボノイドを配糖化する工程がシクロデキストリン共存下であると、培地中に蓄積するフラボノイド配糖体の割合が増加する傾向があるため好ましい。シクロデキストリンの中でもβ−シクロデキストリンはフラボノイド配糖体の培地中蓄積効果が高いためより好ましい。シクロデキストリンの培地中の濃度が高いほど、フラボノイド配糖体の菌体外における蓄積作用は高まる。したがって、フラボノイドを配糖化する工程におけるシクロデキストリンの培地中の初期濃度又は配糖化中濃度は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
麹菌培養のための培地には、必要に応じて肉エキス、ペプトン、グルテン、カゼイン、酵母エキス、アミノ酸等の窒素源を添加してもよい。また、無機質として、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、鉄、マンガン、モリブデン等を添加することができ、更にビタミン等を添加することができる。好適な培地としては、PSA培地、PCA培地、PDA培地、オートミール培地、麦芽エキス培地、YM培地等が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る製造方法により得られたフラボノイド配糖体は、例えば、ろ過、イオン交換樹脂の使用等により麹菌の菌体、培地等と分離し、精製して用いてもよい。麹菌菌体中に含まれるフラボノイド配糖体は、例えば菌体を氷冷下で超音波等を用いて物理的に破砕し、遠心分離を行うことにより、菌体から抽出することができる。
【0046】
本実施形態に係る製造方法で用いられる麹菌は飲食品製造に一般に広く使用されている真菌であるため、飲食品製造への利用に際し、得られるフラボノイド配糖体を高度に精製する必要はない。したがって、麹菌菌体又はその処理物とフラボノイド配糖体を含むフラボノイド配糖体組成物として、飲食品原料に配合し、飲食品を製造することもできる。麹菌菌体を含むフラボノイド配糖体組成物として利用する場合には、麹菌菌体(生菌体又は死菌体)に、例えば、加熱、凍結、酸又はアルカリ処理、超音波等の物理的処理を行ってもよい。加熱処理を行う場合、フラボノイド配糖体のイソ化を抑制するため、例えば60℃以下で低温殺菌することが好ましい。
【0047】
上述のフラボノイド配糖体の製造方法は、上記フラボノイドの配糖体に飲食品適性を付与する方法ということもできる。飲食品適性とは、飲食品に利用可能であることをいう。上述の製造方法により得られるフラボノイド配糖体は、食品に一般的に使用することのできる真菌を用いて得られるものであるため、厳密にフラボノイド配糖体を精製する等の処理が不要であり、したがって、飲食品に容易に利用可能である。フラボノイド配糖体は、例えば飲食品製造の際に、その他の飲食品原料に添加するなど、飲食品原料の1つとして利用することができる。
【0048】
本実施形態に係るフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物は、飲食品(飲料、食品)、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用することができる。例えば、飲料としては、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク等が挙げられる。食品としては、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等が挙げられる。本実施形態に係るフラボノイド配糖体は、抗酸化用、抗脂質異常症用、抗癌用、抗非アルコール性肝障害用等の特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。上記飲食品は、本実施形態に係るフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物を飲食品原料に配合する工程を含む製造方法によって得ることができる。また、上記飲食品は、麹菌により上記一般式(1)で表されるフラボノイドを配糖化する工程と、得られたフラボノイド配糖体を飲食品原料に配合する工程とを含む製造方法により得ることができる。上記飲食品中のフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物の含有量は、例えば、1.5g/m以上、10g/m以上とすることができ、60g/m以下、30g/m以下とすることができる。上記飲食品中のフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物の含有量は、1.5g/m以上60g/m以下であることが好ましく、10g/m以上30g/m以下であることがより好ましい。
【0049】
本実施形態に係るフラボノイド配糖体は溶解性に優れるため、飲料等の液状の飲食品に高濃度で含有させることができる。本実施形態に係るフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物を液状の飲食品の成分として使用する場合、飲食品中のフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物の含有量は、1.5mg/L以上、10mg/L以上とすることができ、60mg/L以下、30mg/L以下とすることができる。液状の飲食品中のフラボノイド配糖体又はフラボノイド配糖体組成物の含有量は、1.5mg/L以上60mg/L以下であることが好ましく、10mg/L以上30mg/L以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0051】
試験例1
(酵母菌)
サッポロ価値創造フロンティア研究所微生物バンクに所有するSaccharomycesに属する酵母菌の205株をYM寒天培地にて1−2日間25℃で培養し、その後YM培地にて1−2日間25℃で培養し、前培養とした。
【0052】
96ウェルディーププレート(Fast Gene社製、23171)に、YM培地1ml及び酵母菌の前培養液を10μlずつ添加し、好気条件では通気性シール(BMBio社製、BF−400)を被せた後に、嫌気条件では窒素充填後にプレートシール(Greiner社製、43001−0200)を被せた後に、25℃でプレートシェーカーを用いて1−2日間振とう培養した。ここに、キサントフモール粉末(hop steiner社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶かして0.1Mの濃度としたキサントフモールDMSO溶液(最終濃度1mM)、及び、糖源として1M D−グルコースを10μl添加し、更に25℃で7日間振とう培養した。
【0053】
(乳酸菌)
サッポロ価値創造フロンティア研究所微生物バンクに所有する乳酸菌Leuconostoc mesenteroidesの7株をMRSプレートにて1−2日間30℃で培養し、その後MRS培養液にて2−3日間30℃で静置培養し、前培養とした。
【0054】
96ウェルディーププレートに、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2)のMRS培養液1ml、乳酸菌の前培養液5μlを無菌状態で添加し、プレートシールを被せた後に30℃で3日間静置培養した。ここに酵母菌の場合と同様の0.1MキサントフモールDMSO溶液を添加し(最終濃度1mM)、さらに30℃で3日間静置培養した。
【0055】
得られた酵母菌及び乳酸菌の培養液について、それぞれ96ウェルディーププレートとともに800×g、20分間、室温で遠心分離を行い、培地と菌体を分離した。この培地を2mlチューブに移し、酢酸エチル0.5mlを添加してボルテックスを行い、キサントフモール類縁体を抽出した。酢酸エチル層を遠心エバポレーターによって乾固し、300μlのMeOH:HO(2/1、v/v)で懸濁した。これをフィルタープレート(アクロプレップ、96FilterPlate、PALL社製)によってろ過し、LC用96ウェルプレート(5042−1386、5042−1389、Agilent社製)で回収し、下記の条件でLC−MS/MS分析に供して、培地中のキサントフモール配糖体量を調べた。結果を図1、2に示す。図2には、図1に示す結果の一部を示す。
【0056】
(麹菌)
Aspergillus属に属する3種の真菌(麹菌)を用いてキサントフモールの配糖化を行った。麹菌は、サッポロ価値創造フロンティア研究所微生物バンクに所有するA.niger SBC9045(JCM5553と同株。独立行政法人理化学研究所微生物材料開発室(JCM)より入手可。)、並びに秋田今野商店にて購入したA.phoenicis AOK1502及びA.awamori AOK1523を用いた。これらの麹菌をポテトデキストロース寒天(PDA)にて25℃で4−6日間培養し、その後ポテトデキストロース培養液(PDB)にて25℃で4−5日間振とう培養し、前培養とした。
【0057】
滅菌したマイクロチューブにPDB0.5ml、及び麹菌の前培養液10μlを添加し、25℃、900rpmで3−4日間振とう培養した。ここに酵母菌の場合と同様の0.1MキサントフモールDMSO溶液を添加し(最終濃度1mM)、更に25℃で3日間振とう培養した。
【0058】
培養した麹菌を20,400×g、10分間、室温で遠心分離を行い、培地と菌体を分離した。培地を0.5mlの酢酸エチルで抽出し、これを乾固させた後に300μlのMeOH:HO(2/1、v/v)で懸濁した。その後、0.45μmフィルターで濾過し、下記の条件でLC−MS/MS分析に供し、培地中のキサントフモール配糖体量を調べた。結果を図1、2に示す。
【0059】
<HPLC>
カラム:SymmetryShield RP18、3.5μm、i.d.2.1x150mm(Waters社製)
HPLCシステム:Agilent1100(Agilent technologies社製)
注入量:2μl
溶媒:A,HO+0.1%ギ酸;B,MeCN+0.1%ギ酸
流速:0.5ml/min
溶離液:B conc.(%)5%(0分)−100%(8分)−100%(4分)
平衡化:8min
カラム温度:40℃
<検出>
DAD:190−500nm
MS systems:3200Qtrap(AB SCIEX社製)
イオン化:ESI positive
Scan Type:MRM(Q1:m/z=517.2、Q3:m/z=299.2)
Source/Gas: CUR 20, CAD 4, IS−5000、TEM600、GS1 50、GS2 80
Compound:DP−30、EP−10、CE−30、CXP−3
【0060】
なお、各試験例において産生したキサントフモール配糖体の定量のための標品としては、別途カーネーション由来の糖転移酵素を用いて配糖化したキサントフモール配糖体を用いた。標品はH−、13C−NMR解析及び二次元NMR解析によって構造を同定した。同定されたキサントフモール配糖体は、キサントフモールの4’位にグルコースが結合している、下記式(1B)で表される化合物であると判断した。各試験例において産生されたキサントフモール配糖体は、上記標品を基準としてLC−MS/MSによって識別した。キサントフモール配糖体標品のH−、13C−NMR解析結果を表1に、NOESY解析結果を図3に示す。
【0061】
【化5】
【0062】
【表1】
【0063】
麹菌(Aspergillus)を用いた場合に、キサントフモールの配糖化を著しく高効率で行うことが可能であった。
【0064】
次に、試験例1で用いた麹菌について、キサントフモール配糖体生成のための各種条件を検討した。以降の検討では、培地中(sup)及び菌体中(ppt)について、キサントフモール配糖体量を評価した。菌体中のキサントフモール配糖体量は、試験例1と同様に遠心分離で培地と分離した後の菌体に、300μlのMeOH:HO(2/1、v/v)を添加して氷冷下で10分間超音波破砕処理を行い、更に20,400×g、10分間、室温で遠心分離を行い残渣と分離し、その後、0.45μmフィルターで濾過してLC−MS/MS分析に供することにより測定した。
【0065】
(試験例2)
試験例1と同様に前培養して用意した麹菌3種について、更に本培養としてマイクロチューブにPDB0.5ml、及び前培養液10μlを添加し、25℃、900rpmで3−4日間振とう培養し、十分に生育させた。1、0.5、0.1、0.05、0.01MキサントフモールDMSO溶液を調製し、麹菌培養液にそれぞれ1%を添加し、培地中のキサントフモール終濃度を10、5、1、0.5、0.1mMとした。その後、25℃、900rpmで2−3日間振とう培養した。培養後の培地及び菌体について上述の方法によりLC−MS/MS分析に供してキサントフモール配糖体量を測定した。3種の麹菌について、キサントフモール配糖体量、及び培地中と菌体中のキサントフモール配糖体量の存在比を図4図5図6に示す。
【0066】
A.nigerでは、培地中のキサントフモール濃度が0.1〜0.5mMの場合にキサントフモール配糖体量が高い傾向が見られた(図4)。キサントフモール配糖体量の培地中/菌体中の比は、最大で0.6程度であった。A.phoenicis(図5)及びA.awamori(図6)では培地中のキサントフモール濃度が1〜10mMの場合にキサントフモール配糖体量が高かった。
【0067】
(試験例3−1)
試験例1と同様に前培養して用意した麹菌3種について、更に本培養としてマイクロチューブにPDB0.5ml、及び前培養液10μlを添加し、25℃、900rpmで3−4日間振とう培養し、十分に生育させた。その後、糖源としてグルコース、スクロース及びマルトースをそれぞれ10mMの濃度で含む混合水溶液、α、β、γ−シクロデキストリンをそれぞれ100mg/mlの濃度で含む混合水溶液、デンプン水溶液(20mg/ml)、及びデキストリン水溶液(100mg/ml)を用意した。水溶液にはいずれも滅菌水を用いた。それぞれの糖源水溶液を培地中濃度が0.2、1又は2%となるように添加した。糖源溶液と同時にキサントフモールDMSO溶液を添加した。キサントフモールはいずれも最終濃度1mMとした。参照用としていずれの糖源水溶液も添加しないものを同様に用意した(w/o)。その後25℃、900rpmで2−3日振とう培養した。3種の麹菌について、キサントフモール配糖体量、及び培地中と菌体中のキサントフモール配糖体量の存在比を図7図8図9に示す。
【0068】
A.nigerでは、シクロデキストリン混合溶液又はデキストリンを添加した場合にわずかにキサントフモール配糖体量が上昇していた(図7(a))。また、シクロデキストリン混合溶液を添加した場合には、濃度依存的にキサントフモール配糖体量の培地中/菌体中の比が増加しており(図7(b))、A.phoenicis(図8)、及びA.awamori(図9)の場合も同様の傾向が見られた。
【0069】
(試験例3−2)
糖源として、α、β、γ−シクロデキストリンのそれぞれについて100mg/ml水溶液を調製し、添加濃度を0.1、0.5又は1mg/mlに変更した以外は、試験例3−1と同様にキサントフモールの配糖化を行った。参照用としていずれの糖源水溶液も添加しないものを同様に用意した(w/o)。3種の麹菌について、キサントフモール配糖体量、及び培地中と菌体中のキサントフモール配糖体量の存在比を図10図11図12に示す。A.niger(図10)、A.phoenicis(図11)及びA.awamori(図12)のいずれの麹菌においても、特にβ−シクロデキストリンを添加した場合に、キサントフモール配糖体量の濃度依存的な培地中/菌体中比が上昇することが確認された。
【0070】
(試験例4)
培養温度を20、25、30、35又は40℃とし、かつ振とう培養の代わりに静置条件で培養を行った以外は試験例1の麹菌培養と同様の方法でキサントフモールの配糖化を行った。キサントフモール配糖体量、及び培地中と菌体中のキサントフモール配糖体量存在比について、A.nigerの結果を図13図14に、A.phoenicisの結果を図15図16に、A.awamoriの結果を図17図18に示す。A.nigerでは、35℃で培養した場合に最もキサントフモール配糖体量が高く(図13)、30℃付近で培地中/菌体中比が高い傾向であった(図14)。A.phoenicisでは、30℃で培養した場合に最もキサントフモール配糖体量が高く(図15)、20〜30℃で培地中/菌体中比が高い傾向であった(図16)。A.awamoriでは、キサントフモール配糖体量は30℃で培養した場合に最も高く(図17)、培地中/菌体中比は20〜35℃で高く、20〜25℃で特に高い傾向であった(図18)。
【0071】
(試験例5)
キサントフモール配糖体の生産を追跡するため、糖源としてβ−シクロデキストリンを添加し、培養時間を延長した他は試験例1の麹菌と同様の方法で3種の麹菌によってキサントフモールの配糖化を行い、キサントフモール添加後0、0.5、1、2、4、8、24、48及び72時間後に培地中のキサントフモール配糖体量を測定した。結果を図19図20図21に示す。
【0072】
いずれも麹菌においてもキサントフモール添加後8時間で最も培地中のキサントフモール配糖体量が高く、24時間以降は減少し続けた。また、全ての測定ポイントにおいてβシクロデキストリンを添加した場合には、添加しない場合と比較して培地中のキサントフモール配糖体量が高かった。
図1
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