【実施例1】
【0013】
図1は、本実施例における車両用シートのシートバックの外観図である。
図1において、シートバックは、シート状のカバーが縫製されたトリムカバー1で覆われている。また、2はデザイン性向上のための意匠溝である。
図2は、
図1のA―A面での断面図を示している。
図2において、3はモールド成形した発泡体製パッドであるモールドパッド、4は意匠溝2を構成するためのモールドパッド3に設けた溝、5は表皮材、6はウレタン等のワディングで、表皮材5とワディング6でトリムカバー1を構成している。また、トリムカバーは複数枚の表皮材とワディングを繋ぎ合わせて構成されており、その縫製部を7に示している。また、溝4内には接着剤8が付加されており、その接着剤により溝4内に押し込まれたトリムカバー1の縫製部7が溝4に接着されている。
【0014】
図3は、溝4内への接着剤の付加方法を説明する図であり、モールドパッドの溝の断面図を示している。例えば、
図3(A)に示すように、溝4内へ接着剤9を流し込む方法や、
図3(B)に示すように、シート状接着剤10を溝4内に押し込み仮置きとするなどの方法がある。これらの方法により、接着剤は溝内のみに付加出来、トリムカバー1はモールドパッド3の溝4内のみで接着され、他の部分は接着されないため、接着剤の硬化によりトリムカバーの柔軟性が損なわれシートの接触面の感触が悪くなるという不具合を解消できる。
【0015】
また、
図4は、溝4内への接着剤の付加方法の他の例を説明する図である。
図4において、まず
図4(A)に示すように、トリムカバー1を縫製する際に、シート状接着剤10を同時に縫い付ける。そして、
図4(B)に示すように、押込み板11によって、縫製部7を溝4内に押し込むことで、シート状接着剤10はズレることなく溝4内に位置付けることが出来、溝部などの部分的な接着を可能と出来、余計な場所が接着されることがなくなる。
【0016】
特に、このシート状接着剤10をトリムカバー1を縫製する際に同時に縫い付ける方法は、上記
図3の方法による効果に加え、
図3の方法での、溝に流し込む工程や、シート状接着剤を溝に押し込む工程が不要にできるという効果がある。また、
図3(B)に示す、シート状の接着剤の場合は、作業性を考慮してシート状のホットメルトとした場合には、仮置き時から加熱による接着時までの間に位置が固定されずにずれてしまう可能性があるが、
図4に示す方法であれば、それも解消できるという効果がある。
【0017】
図5は、本実施例の溝へのトリムカバーの接着方法を説明する図である。なお、
図5は、
図4に示す、シート状接着剤をトリムカバーを縫製する際に同時に縫い付ける方法によって、溝内へのトリムカバーの接着を行う場合について説明する。
【0018】
まず、
図5(A)において、シート状接着剤10はシート状ホットメルトであって、それをトリムカバー1を縫製する際に同時に縫い付け縫製部7を構成する。次に、
図5(B)に示すように、押込み板11によりトリムカバー1の縫製部7をモールドパッド3の溝4内に押し込む。その後、蒸気ノズル12をモールドパッド3内に挿入し、蒸気ノズル12から蒸気14を噴出させ、その蒸気14または加熱によって溝4内のシート状接着剤10を溶融させる。その後シート状接着剤10が冷却固化することでトリムカバー1が溝4内に接着される。なお、蒸気ノズル12からの空気の吸引によってシート状接着剤10の冷却固化を促進しても良い。
図5(C)は、シート状接着剤10が冷却固化してトリムカバー1が溝4内に接着されている状態を示している。
図5(C)において、蒸気の噴出が不要となった蒸気ノズル12は、モールドパッド3から引き抜かれ、モールドパッド3には、蒸気ノズル12を挿入した痕跡である穴15が残っている。
【0019】
なお、シート状接着剤はトリムカバー1を縫製する際に同時に縫い付けられているが、接着剤の溶融により、シート状接着剤が縫い付けられている痕跡は判別が難しいが、トリムカバーの上にシート状接着剤を覆った状態で縫製用の糸で縫製されているので、少なくとも、トリムカバーと縫製用の糸との間に接着剤が入り込み、かつ、シート状接着剤のシート厚分の接着剤が残っていれば、シート状接着剤が縫い付けられていたと判断できる。
【0020】
また、モールドパッド3の蒸気ノズル12挿入側には補強用の部材として例えばフェルトが貼られており、その部分は熱の伝わり方が悪いので、その部分に蒸気ノズル12の挿入用の穴を設け蒸気ノズル12を挿入し、モールドパッド3は熱が伝わりやすいので、溝4の手前から蒸気が広い範囲にわたって広がるように、蒸気ノズル12の先端は溝4の最深部よりも深い位置でとどめるのが効果的である。
【0021】
また、溝4に沿って所定間隔で蒸気ノズル12による蒸気の噴出を行うことで、均一に溝とトリムカバーを接着することが出来る。
【0022】
また、
図5(A)において、13はエアーノズルであって、トリムカバー1の縫製部7をモールドパッド3の溝4内に押し込む際に、エアーノズル13からのエアーを用いて補助しても良い。
【0023】
また、意匠溝を再現する他の従来の方法である、トリムカバーに縫い付けられた吊り部材を、モールドパッドに装着されたインサートワイヤーにCリング等により固定し意匠溝を再現する方法に比べても、本実施例は、インサートワイヤー、吊り部材を使用しないことにより、シートの座り心地、フィーリング性能の向上、モールドパッドの薄肉化、軽量化、材料費の削減が図られ、また、Cリング作業が不要になるので、品質ばらつきの抑制、加工コストの削減の効果がある。
【0024】
なお、上記、溝へのトリムカバーの接着方法の説明では、シート状接着剤をトリムカバーを縫製する際に同時に縫い付ける方法を前提に説明したが、
図3に示した、溝内へ接着剤を流し込む方法や、シート状接着剤を溝内に押し込み仮置きとする方法にも適用可能である。
【0025】
また、上記説明では、車両用シートのシートバックについて説明したが、シートバック以外の車両用シートであっても、溝にトリムカバーを接着する際に適用できるのは明らかである。
【0026】
また、上記説明では、表皮材とワディングでトリムカバーを構成しているとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、モールドパッドを覆う表皮材をトリムカバーとしても良い。
【0027】
以上のように、本実施例は、モールドパッドと該モールドパッドを覆うトリムカバーを有した車両用シートの製造方法であって、モールドパッドは溝を有しており、溝内に接着剤を付加し、トリムカバーを溝内に押し込み、モールドパッドのトリムカバーで覆う反対面からモールドパッドに蒸気ノズルを挿入し、蒸気ノズルからの加熱または蒸気によって溝内の接着剤を溶融させて溝にトリムカバーを接着させる。
【0028】
また、溝内への接着剤付加は、溝内へ接着剤を流し込む、または、接着剤をシート状接着剤として溝内に押し込み仮置きとすることで実施する。
【0029】
また、溝内への接着剤付加は、接着剤をシート状接着剤としてトリムカバーを縫製する際に同時にシート状接着剤を縫い付け縫製部を構成し、トリムカバーを溝内に押し込む代わりに縫製部を溝内に押し込むことで実施する。
【0030】
また、モールドパッドと、モールドパッドを覆うトリムカバーを有し、モールドパッドは溝を有しており、トリムカバーが溝内で接着されており、モールドパッドのトリムカバーで覆う反対面からモールドパッド内に溝に沿った穴を複数有している車両用シートとする。
【0031】
よって、本実施例によれば、接触面の感触がよく、さらに、製造工程が簡素化できる車両用シート及びその製造方法を提供することが出来る。
【0032】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部を他の構成に置き換えることも可能である。