特許第6552826号(P6552826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552826
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】車両用シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B68G 7/05 20060101AFI20190722BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B68G7/05 C
   B68G7/05 B
   B60N2/58
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-5704(P2015-5704)
(22)【出願日】2015年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-129645(P2016-129645A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 文
【審査官】 小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−024159(JP,A)
【文献】 特許第2994087(JP,B2)
【文献】 特開平06−304352(JP,A)
【文献】 特開2005−058549(JP,A)
【文献】 特開平05−025438(JP,A)
【文献】 特開平04−253892(JP,A)
【文献】 特開平04−359978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G 7/05−7/052
A47C 31/02
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドパッドと該モールドパッドを覆うトリムカバーを有し、モールドパッドは溝を有した車両用シートの製造方法であって、
トリムカバーを縫製する際に同時にシート状接着剤を縫い付け縫製部を構成し、
押込み板を用いて前記縫製部を前記溝の内部に押し込み、
前記モールドパッドの前記トリムカバーで覆う反対面から該モールドパッドに蒸気ノズルを挿入し、該蒸気ノズルの先端はモールドパッドに有した溝の最深部よりも深い位置でとどめており、
前記蒸気ノズルからの加熱または蒸気によって前記溝の内部のシート状接着剤を溶融状態にし、
その後、前記蒸気ノズルからの空気の吸引によって前記シート状接着剤の冷却固化を促進し、前記シート状接着剤の冷却固化によって前記トリムカバーが前記溝の内部に接着されることを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートの製造方法であって、
前記シート状接着剤はホットメルトであることを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用シートの製造方法であって、
前記蒸気ノズルは、前記溝に沿って所定間隔で前記モールドパッドに挿入され、前記溝に前記トリムカバーを接着させるように、前記溝の内部のシート状接着剤を溶融状態とすることを特徴とする車両用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに係り、特に発泡体製パッドに表皮材を接着して形成する接着シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにおいて、略シートの外形形状にモールド成形した発泡体製パッドに表皮材を接着して形成する接着シートがある。その接着シートの製造方法として、モールド成形した発泡体( 例えばウレタンフォーム)製パッドの、例えば着座面全面に液状接着剤を塗布し、この着座面に表皮材を加圧して接着する方法がある。しかし、この全面に塗布する接着剤は、液体状接着剤であってパッドに噴霧させるものが一般的であるので、その接着剤を作業者が吸引してしまう虞れがある。また、この作業は密閉状の室内で行なうため、作業性が悪いという不具合があった。
【0003】
この不具合を解消するために、例えば、実開平5−85833号公報(特許文献1)がある。特許文献1には、下型の型面にセットされたシートカバーに対しモールドパッドがその表面に塗布されたホットメルト接着剤を対面させて重ねられた後、下型に対し上型が型締めされ、上型に配列されたニードルがモールドパッド内に突入された状態のもとで、各ニードルからスチームが噴出され、ホットメルト接着剤が溶融することで接着される接着シートが開示されている。
【0004】
また、当該技術分野の先行技術として、例えば、特開2005−58549号公報(特許文献2)がある。特許文献2には、発泡体製パッドの表面に設けた凹溝内にホットメルト接着剤を付着させ、パッドを被覆する表皮材の一部をパッドの凹溝内に喰い込ませて加圧し、パッドの凹溝に対応する部分に設けた加熱装置の加熱蒸気によって、ホットメルト接着剤を溶融させて表皮材をパッドの凹溝内に接着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−85833号公報
【特許文献2】特開2005−58549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、表皮材をパッドの着座面全面に接着剤で接着しているので、接着剤の硬化により、柔軟性が損なわれ、シートの着座面の感触が悪くなるという不具合がある。
【0007】
一方、特許文献2では、表皮材はパッドの凹溝内のみで接着され、他の部分はパッドに接着されていないため、接着剤の硬化により柔軟性が損なわれシートの着座面の感触が悪くなるという不具合を解消できる。しかし、表皮材の表側から蒸気を当てるために水分が表皮材にシミを作ったり、膜を作って接着の邪魔をして接着性能が低下する等の不具合があった。
【0008】
本発明はこれらの課題に鑑みなされたものであって、上記のような従来の接着シートの不具合を除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、モールドパッドと該モールドパッドを覆うトリムカバーを有した車両用シートの製造方法であって、モールドパッドは溝を有しており、溝内に接着剤を付加し、トリムカバーを溝内に押し込み、モールドパッドのトリムカバーで覆う反対面からモールドパッドに蒸気ノズルを挿入し、蒸気ノズルからの加熱または蒸気によって溝内の接着剤を溶融させて溝にトリムカバーを接着させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接触面の感触がよく、さらに、製造工程が簡素化できる車両用シート及びその製造方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例における車両用シートのシートバックの外観図である。
図2図1の部分断面図である。
図3】実施例における溝内への接着剤の付加方法を説明する図である。
図4】実施例における溝内への接着剤の付加方法の他の例を説明する図である。
図5】実施例における溝へのトリムカバーの接着方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本実施例における車両用シートのシートバックの外観図である。図1において、シートバックは、シート状のカバーが縫製されたトリムカバー1で覆われている。また、2はデザイン性向上のための意匠溝である。
図2は、図1のA―A面での断面図を示している。図2において、3はモールド成形した発泡体製パッドであるモールドパッド、4は意匠溝2を構成するためのモールドパッド3に設けた溝、5は表皮材、6はウレタン等のワディングで、表皮材5とワディング6でトリムカバー1を構成している。また、トリムカバーは複数枚の表皮材とワディングを繋ぎ合わせて構成されており、その縫製部を7に示している。また、溝4内には接着剤8が付加されており、その接着剤により溝4内に押し込まれたトリムカバー1の縫製部7が溝4に接着されている。
【0014】
図3は、溝4内への接着剤の付加方法を説明する図であり、モールドパッドの溝の断面図を示している。例えば、図3(A)に示すように、溝4内へ接着剤9を流し込む方法や、図3(B)に示すように、シート状接着剤10を溝4内に押し込み仮置きとするなどの方法がある。これらの方法により、接着剤は溝内のみに付加出来、トリムカバー1はモールドパッド3の溝4内のみで接着され、他の部分は接着されないため、接着剤の硬化によりトリムカバーの柔軟性が損なわれシートの接触面の感触が悪くなるという不具合を解消できる。
【0015】
また、図4は、溝4内への接着剤の付加方法の他の例を説明する図である。図4において、まず図4(A)に示すように、トリムカバー1を縫製する際に、シート状接着剤10を同時に縫い付ける。そして、図4(B)に示すように、押込み板11によって、縫製部7を溝4内に押し込むことで、シート状接着剤10はズレることなく溝4内に位置付けることが出来、溝部などの部分的な接着を可能と出来、余計な場所が接着されることがなくなる。
【0016】
特に、このシート状接着剤10をトリムカバー1を縫製する際に同時に縫い付ける方法は、上記図3の方法による効果に加え、図3の方法での、溝に流し込む工程や、シート状接着剤を溝に押し込む工程が不要にできるという効果がある。また、図3(B)に示す、シート状の接着剤の場合は、作業性を考慮してシート状のホットメルトとした場合には、仮置き時から加熱による接着時までの間に位置が固定されずにずれてしまう可能性があるが、図4に示す方法であれば、それも解消できるという効果がある。
【0017】
図5は、本実施例の溝へのトリムカバーの接着方法を説明する図である。なお、図5は、図4に示す、シート状接着剤をトリムカバーを縫製する際に同時に縫い付ける方法によって、溝内へのトリムカバーの接着を行う場合について説明する。
【0018】
まず、図5(A)において、シート状接着剤10はシート状ホットメルトであって、それをトリムカバー1を縫製する際に同時に縫い付け縫製部7を構成する。次に、図5(B)に示すように、押込み板11によりトリムカバー1の縫製部7をモールドパッド3の溝4内に押し込む。その後、蒸気ノズル12をモールドパッド3内に挿入し、蒸気ノズル12から蒸気14を噴出させ、その蒸気14または加熱によって溝4内のシート状接着剤10を溶融させる。その後シート状接着剤10が冷却固化することでトリムカバー1が溝4内に接着される。なお、蒸気ノズル12からの空気の吸引によってシート状接着剤10の冷却固化を促進しても良い。図5(C)は、シート状接着剤10が冷却固化してトリムカバー1が溝4内に接着されている状態を示している。図5(C)において、蒸気の噴出が不要となった蒸気ノズル12は、モールドパッド3から引き抜かれ、モールドパッド3には、蒸気ノズル12を挿入した痕跡である穴15が残っている。
【0019】
なお、シート状接着剤はトリムカバー1を縫製する際に同時に縫い付けられているが、接着剤の溶融により、シート状接着剤が縫い付けられている痕跡は判別が難しいが、トリムカバーの上にシート状接着剤を覆った状態で縫製用の糸で縫製されているので、少なくとも、トリムカバーと縫製用の糸との間に接着剤が入り込み、かつ、シート状接着剤のシート厚分の接着剤が残っていれば、シート状接着剤が縫い付けられていたと判断できる。
【0020】
また、モールドパッド3の蒸気ノズル12挿入側には補強用の部材として例えばフェルトが貼られており、その部分は熱の伝わり方が悪いので、その部分に蒸気ノズル12の挿入用の穴を設け蒸気ノズル12を挿入し、モールドパッド3は熱が伝わりやすいので、溝4の手前から蒸気が広い範囲にわたって広がるように、蒸気ノズル12の先端は溝4の最深部よりも深い位置でとどめるのが効果的である。
【0021】
また、溝4に沿って所定間隔で蒸気ノズル12による蒸気の噴出を行うことで、均一に溝とトリムカバーを接着することが出来る。
【0022】
また、図5(A)において、13はエアーノズルであって、トリムカバー1の縫製部7をモールドパッド3の溝4内に押し込む際に、エアーノズル13からのエアーを用いて補助しても良い。
【0023】
また、意匠溝を再現する他の従来の方法である、トリムカバーに縫い付けられた吊り部材を、モールドパッドに装着されたインサートワイヤーにCリング等により固定し意匠溝を再現する方法に比べても、本実施例は、インサートワイヤー、吊り部材を使用しないことにより、シートの座り心地、フィーリング性能の向上、モールドパッドの薄肉化、軽量化、材料費の削減が図られ、また、Cリング作業が不要になるので、品質ばらつきの抑制、加工コストの削減の効果がある。
【0024】
なお、上記、溝へのトリムカバーの接着方法の説明では、シート状接着剤をトリムカバーを縫製する際に同時に縫い付ける方法を前提に説明したが、図3に示した、溝内へ接着剤を流し込む方法や、シート状接着剤を溝内に押し込み仮置きとする方法にも適用可能である。
【0025】
また、上記説明では、車両用シートのシートバックについて説明したが、シートバック以外の車両用シートであっても、溝にトリムカバーを接着する際に適用できるのは明らかである。
【0026】
また、上記説明では、表皮材とワディングでトリムカバーを構成しているとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、モールドパッドを覆う表皮材をトリムカバーとしても良い。
【0027】
以上のように、本実施例は、モールドパッドと該モールドパッドを覆うトリムカバーを有した車両用シートの製造方法であって、モールドパッドは溝を有しており、溝内に接着剤を付加し、トリムカバーを溝内に押し込み、モールドパッドのトリムカバーで覆う反対面からモールドパッドに蒸気ノズルを挿入し、蒸気ノズルからの加熱または蒸気によって溝内の接着剤を溶融させて溝にトリムカバーを接着させる。
【0028】
また、溝内への接着剤付加は、溝内へ接着剤を流し込む、または、接着剤をシート状接着剤として溝内に押し込み仮置きとすることで実施する。
【0029】
また、溝内への接着剤付加は、接着剤をシート状接着剤としてトリムカバーを縫製する際に同時にシート状接着剤を縫い付け縫製部を構成し、トリムカバーを溝内に押し込む代わりに縫製部を溝内に押し込むことで実施する。
【0030】
また、モールドパッドと、モールドパッドを覆うトリムカバーを有し、モールドパッドは溝を有しており、トリムカバーが溝内で接着されており、モールドパッドのトリムカバーで覆う反対面からモールドパッド内に溝に沿った穴を複数有している車両用シートとする。
【0031】
よって、本実施例によれば、接触面の感触がよく、さらに、製造工程が簡素化できる車両用シート及びその製造方法を提供することが出来る。
【0032】
以上実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部を他の構成に置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…トリムカバー、2…意匠溝、3…モールドパッド、4…溝、5…表皮材、6…ワディング、7…縫製部、8、9…接着剤、10…シート状接着剤、11…押込み板、12…蒸気ノズル、13…エアーノズル、14…蒸気、15…穴
図1
図2
図3
図4
図5