特許第6552840号(P6552840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552840
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】誘導加熱システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/44 20060101AFI20190722BHJP
   H05B 6/04 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   H05B6/44
   H05B6/04 311
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-39874(P2015-39874)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-162576(P2016-162576A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】外村 徹
【審査官】 沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第00307044(GB,A)
【文献】 特開平06−267651(JP,A)
【文献】 特開2003−051379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/44
H05B 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘導コイルを備える第1の誘導加熱装置と、当該第1の誘導加熱装置とは異なる磁気回路を有し、第2の誘導コイルを備える第2の誘導加熱装置とを三相交流電源によって運転する誘導加熱システムであって、
少なくとも前記第2の誘導コイルの巻き数が偶数であり、
前記第1の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部の一方が前記三相交流電源の一相に電気的に接続され、その他方が前記第2の誘導コイルの中点部に電気的に接続されるとともに、
前記第2の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部が前記三相交流電源の残りの2相に電気的に接続されており、
巻き数が偶数である誘導コイルの層数が偶数であり、
前記巻き始め端部、前記巻き終わり端部及び前記中点部が、前記誘導コイルの軸方向端部に位置している誘導加熱システム。
【請求項2】
前記各誘導コイルの巻き数が偶数であり、
前記各誘導コイルの中点部に接続端子が設けられている請求項1記載の誘導加熱システム。
【請求項3】
前記第2の誘導加熱装置の負荷容量が、前記第1の誘導加熱装置の負荷容量よりも大きい請求項1又は2記載の誘導加熱システム。
【請求項4】
前記各誘導コイルの一端側と前記三相交流電源との間に、前記各誘導コイルの印加電圧を制御する電圧制御機器が設けられている請求項1乃至の何れか一項に記載の誘導加熱システム。
【請求項5】
最大出力時における前記電圧制御機器の電圧低下分を差し引いた電源電圧に対して、前記第2の誘導コイルの最大印加電圧が2/(2√3−1)倍となるように前記電圧制御機器が調整されている請求項記載の誘導加熱システム。
【請求項6】
前記各誘導コイルの巻き数が2N(Nは自然数)であり、
前記各誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部それぞれに、巻き数(2/√3−1)Nの追加巻き線が接続されており、
前記第1の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部の一方が前記第2の誘導コイルの中点部に接続され、その他方が前記三相交流電源の1相に接続されるとともに、
前記第2の誘導コイルの両端部に接続された追加巻き線が前記三相交流電源の残りの2相に接続することにより、前記第2の誘導コイルの両端部が前記三相交流電源の残りの2相に電気的に接続されている請求項1乃至の何れか一項に記載の誘導加熱システム。
【請求項7】
第1の誘導コイルを備える第1の誘導加熱装置と、当該第1の誘導加熱装置とは異なる磁気回路を有し、第2の誘導コイルを備える第2の誘導加熱装置とを三相交流電源によって運転する誘導加熱システムであって、
少なくとも前記第2の誘導コイルの巻き数が偶数であり、
前記第1の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部の一方が前記三相交流電源の一相に電気的に接続され、その他方が前記第2の誘導コイルの中点部に電気的に接続されるとともに、
前記第2の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部が前記三相交流電源の残りの2相に電気的に接続されており、
前記第2の誘導コイルの巻き数が2N(Nは自然数)であり、
前記第1の誘導コイルの巻き数が√3Nである誘導加熱システム。
【請求項8】
巻き数が偶数である誘導コイルの層数が偶数であり、
前記巻き始め端部、前記巻き終わり端部及び前記中点部が、前記誘導コイルの軸方向端部に位置している請求項記載の誘導加熱システム。
【請求項9】
前記第2の誘導加熱装置の負荷容量が、前記第1の誘導加熱装置の負荷容量よりも大きい請求項又は記載の誘導加熱システム。
【請求項10】
前記各誘導コイルの一端側と前記三相交流電源との間に、前記各誘導コイルの印加電圧を制御する電圧制御機器が設けられている請求項乃至の何れか一項に記載の誘導加熱システム。
【請求項11】
前記三相交流電源の電源周波数が50Hz又は60Hzである請求項1乃至10の何れか一項に記載の誘導加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2組の誘導加熱装置を用いた誘導加熱システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱装置の誘導コイルは、同一磁気回路内で位相が異なる磁束が交ざり合うと、力率低下を引き起こしたり、発熱分布に不均一を生じたりすることから、単相交流を供給することが望ましい。
【0003】
ところが、誘導加熱装置の動力源は三相交流電源が一般的であるため、通常は三相交流から単相交流を取り出すことが多い。
【0004】
ここで、同一仕様の2組の誘導加熱装置の誘導コイルをそのままU−V端子及びV−W端子に接続すれば、U相、V相及びW相の相電流のバランスは、1:√3:1となり、1.732倍のアンバランスが発生してしまう。これは、低圧及び高圧受電の内線規定(JEAC)の、不平衡負荷の制限及び特殊な機械器具の中の「単相接続負荷より計算して設備不平衡率30%以下を原則とする」規定に違反している。
【0005】
これを防止するためには、特許文献1に示すように、三相交流電源と誘導コイルの間にスコット結線変圧器を設けて、三相交流から単相交流出力を2回路取り出す方法がある。
【0006】
しかしながら、スコット結線変圧器が必要になり、コスト及びスペースの観点からデメリットが大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−297867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、2つの誘導加熱装置を三相交流電源によって運転するものにおいて、スコット結線変圧器を用いることなく、相電流のアンバランスを低減することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る誘導加熱システムは、第1の誘導コイルを備える第1の誘導加熱装置と、当該第1の誘導加熱装置とは異なる磁気回路を有し、第2の誘導コイルを備える第2の誘導加熱装置とを三相交流電源によって運転する誘導加熱システムであって、少なくとも前記第2の誘導コイルの巻き数が偶数であり、前記第1の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部の一方が前記三相交流電源の一相に電気的に接続され、その他方が前記第2の誘導コイルの中点部に電気的に接続されるとともに、前記第2の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部が前記三相交流電源の残りの2相に電気的に接続されていることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、2つの誘導加熱装置それぞれの誘導コイルである第1の誘導コイル及び第2の誘導コイルをスコット結線しているので、スコット結線変圧器を用いることなく、相電流のアンバランスを低減することができる。詳細については、後述する。
【0011】
前記各誘導コイルの巻き数が偶数であり、前記各誘導コイルの中点部に接続端子が設けられていることが望ましい。
この構成であれば、第1の誘導コイル及び第2の誘導コイルの構成を同じにして互換性を持たせることができる。
【0012】
前記第1の誘導加熱装置及び前記第2の誘導加熱装置が電気的に同一仕様であり、巻き数が偶数である誘導コイルの層数が偶数であり、前記巻き始め端部、前記巻き終わり端部及び前記中点部が、前記誘導コイルの軸方向端部に位置していることが望ましい。
この構成であれば、第1の誘導コイルの電流は、第2の誘導コイルの中点部から入って巻き始め端部及び巻き終わり端部へ1/2ずつ分流して流れる。第2の誘導コイルの巻き始め端部へ流れる電流と、第2の誘導コイルの巻き終わり端部へ流れる電流とは方向が逆であるため、発生する磁束はキャンセルして消滅することになる。
ここで、少なくとも第2の誘導コイルの層数を偶数として、巻き始め端部、巻き終わり端部及び中点部を、誘導コイルの軸方向端部に位置させると、中点部から巻き始め端部までの巻き線部分と、中点部から巻き終わり端部までの巻き線部分との磁気的結合が良く、効率良く磁束を消滅させることができる。
【0013】
前記各誘導コイルの一端側と前記三相交流電源との間に、前記各誘導コイルの印加電圧を制御する電圧制御機器が設けられていることが望ましい。
この構成であれば、第1の誘導加熱装置及び第2の誘導加熱装置の個別出力制御が可能となる。
【0014】
第2の誘導コイルの一端側に設けられた電圧制御機器により第2の誘導コイルに流れる電流を零に調整しても、第2の誘導コイルに他端側には、第1の誘導コイルを流れる電流が流れるため、第2の誘導加熱装置の出力を零にすることができない。このため、前記第2の誘導加熱装置の負荷容量を、前記第1の誘導加熱装置の負荷容量よりも大きくすることで、上記のような現象が発生せず、第1の誘導加熱装置及び第2の誘導加熱装置の良好な個別制御が可能となる。
【0015】
最大出力時における前記電圧制御機器の電圧低下分を差し引いた電源電圧に対して、前記第2の誘導コイルの最大印加電圧が2/(2√3−1)倍となるように前記電圧制御機器が調整されていることが望ましい。
この構成であれば、相電流のアンバランスを一層低減することができる。詳細については、後述する。
【0016】
前記各誘導コイルの巻き数が2N(Nは自然数)であり、前記各誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部それぞれに、巻き数(2/√3−1)Nの追加巻き線が接続されており、前記第1の誘導コイルの巻き始め端部及び巻き終わり端部の一方が前記第2の誘導コイルの中点部に接続され、その他方が前記三相交流電源の1相に接続されるとともに、前記第2の誘導コイルの両端部に接続された追加巻き線が前記三相交流電源の残りの2相に接続することにより、前記第2の誘導コイルの両端部が前記三相交流電源の残りの2相に電気的に接続されていることが望ましい。
この構成であれば、相電流を同一にすることができ、アンバランスを解消することができる。詳細については、後述する。
【0017】
前記第2の誘導コイルの巻き数が2N(Nは自然数)であり、前記第1の誘導コイルの巻き数が√3Nであることが望ましい。
この構成であれば、電気的に同一仕様の2つの誘導加熱装置を運転する場合に、タップを必要とすることなく、相電流を同一にすることができ、アンバランスを解消することができる。
【0018】
三相交流電源は、工業設備として使用されるものであり、誘導加熱される対象物は、工業設備ということから基本的に厚肉金属により構成されている。このため、前記三相交流電源の電源周波数を50Hz又は60Hzの商用周波数とすることで、厚肉金属の誘導加熱における電流浸透度を大きくすることができ、効率良く対象物の加熱を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、2つの誘導加熱装置の誘導コイルをスコット結線しているので、スコット結線変圧器を用いることなく、相電流のアンバランスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る誘導加熱システムの構成を模式的に示す図。
図2】同実施形態の1つの使用例におけるベクトル図。
図3】第2実施形態に係る誘導加熱システムの構成を模式的に示す図。
図4】第2施形態のベクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下に本発明に係る誘導加熱システムの第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
第1実施形態に係る誘導加熱システム100は、2組の誘導加熱装置2、3を単一の三相交流電源4によって運転するものであり、第1の誘導コイル21を備える第1の誘導加熱装置2と、第2の誘導コイル31を備える第2の誘導加熱装置3とを有している。これら第1の誘導加熱装置2及び第2の誘導加熱装置3は、互いに異なる独立した磁気回路を有するものである。
【0023】
なお、各誘導加熱装置2、3は、電気的に同一仕様となるように構成されており、誘導コイル21、31は、鉄心22、32に巻回されて設けられている。各誘導加熱装置2、3としては、例えば、誘導コイル21、31を一次コイルとして、前記鉄心22、32に巻回された二次コイルたる導体管を誘導加熱して、当該導体管を流れる流体を加熱する流体加熱装置が考えられる。この場合、第1の誘導加熱装置2が水を加熱して飽和水蒸気を生成し、第2の誘導加熱装置3が前記第1の誘導加熱装置2により生成された飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成システムを構成することが考えられる。また、三相交流電源の電源周波数は、50Hz又は60Hzの商用周波数である。これにより、導体管などの厚肉金属の誘導加熱における電流浸透度を大きくすることができ、効率良く対象物の加熱を行うことができる。
【0024】
そして、第1の誘導加熱装置2及び第2の誘導加熱装置3と三相交流電源4とはスコット結線とされている。具体的には、第1の誘導コイル21の巻き始め端部21xが三相交流電源4のU相に電気的に接続され、第1の誘導コイル21の巻き終わり端部22yが第2の誘導コイル31の中点部31zに電気的に接続されている。また、第2の誘導コイル31の巻き始め端部31xが三相交流電源4のV相に電気的に接続され、第2の誘導コイル31の巻き終わり端部31yが三相交流電源4のW相に電気的に接続されている。
【0025】
本実施形態では、各誘導コイル21、31の両端部21x、21y、31x、31yに接続端子が設けられるとともに、各誘導コイル21、31の中点部21z、31zに接続端子が設けられている。なお、第1の誘導コイル21の中点部21zに設けられた接続端子は本実施形態では使用されないが、2つの誘導コイル21、31を同一仕様にして、互換性を持たせるために設けている。
【0026】
また、各誘導コイル21、31は、巻き数が同数かつ偶数{2N(Nは自然数)}としている。つまり、各誘導コイル21、31の中点部21z、31zから巻き始め端部21x、31xまでの巻き数はNであり、中点部21z、31zから巻き終わり端部21y、31yまでの巻き数もNである。
【0027】
本実施形態では、巻き数が偶数である各誘導コイルの層数が偶数とされている。具体的に図1では、各誘導コイル21、31が2層となるように構成されている。これにより、各誘導コイル21、31において、巻き始め端部21x、31x及び巻き終わり端部21y、31yが誘導コイル21、31の軸方向一端側に位置し、中点部21z、31zが誘導コイル21、31の軸方向他端側に位置する構成となる。
【0028】
さらに、各誘導コイル21、31の一端部と三相交流電源4との間に、各誘導コイル21、31の印加電圧を制御する電圧制御機器51、52が設けられている。本実施形態では、第1の誘導コイル21の巻き始め端部21xと三相交流電源4との間(U相)に第1の電圧制御機器51が設けられるとともに、第2の誘導コイル31の巻き始め端部31xと三相交流電源4との間(V相)に第2の電圧制御機器52が設けられている。なお、電圧制御機器51、52は、例えばサイリスタ等の半導体制御素子である。この電圧制御機器51、52は、図示しない制御部によって制御される。
【0029】
次にこのように構成した誘導加熱システム100の各相に流れる電流について、図1を参照して説明する。
以下において、三相交流電源4の電源電圧をE、制御機器51、52の電圧降下分を差し引いた端子間電圧をe、第1の誘導コイル21の端子をU−O−O、第1の誘導コイル21の容量をP、第1の誘導コイル21の電流をi、第2の誘導コイル31の端子をV−O’−W、第2の誘導コイル31の容量をP、第2の誘導コイル31の電流をiとする。また、以下の計算は全て絶対値計算とする。
【0030】
第1の誘導コイル21の端子U−O間電圧をeとすると、e=√3e/2である。
第1の誘導コイル21の容量Pは、P=i√3e/2となる。
第1の誘導コイル21の電流iは、i=2P/e√3となる。
【0031】
ここで、第2の誘導コイル31の端子V−W間電圧はeであるため、ベクトルeに対する電流をi’とすると、巻き数は第1の誘導コイル21と同じ2Nでコイルインピーダンスが同じであるから、第1の誘導コイル21に比べて端子V−W間電圧は2/√3倍となり、電流も2/√3倍となる。
したがって、i’=2i/√3となり、
第2の誘導コイル31の容量Pは、P=2ie/√3となる。
【0032】
第1の誘導コイル21と第2の誘導コイル31の容量比は、
/P=(2ie/√3)/(i√3e/2)
=4/3
【0033】
第2の誘導コイルの電流iは、
=√{(i’)+(i/2)
=i√(4/3+1/4)
=i√(19/12)
【0034】
したがって、各相電流の電流比は、1:1.258:1.258となり、アンバランスは1.258倍に低減される。
【0035】
また、第1の誘導コイル21の電流iは、第2の誘導コイル31の中点部31zの端子Oから入って、端子V及び端子Wへi/2ずつ分かれて流れる。このとき、端子Vへ流れる電流と端子Wへ流れる電流とは方向が逆であるため、発生する磁束はキャンセルされて消滅することになる。
【0036】
ここで、第2の誘導コイル31が偶数層(2層)とされて、巻き始め端部31x、巻き終わり端部31y及び中点部31zが第2の誘導コイル31の軸方向端部に位置するので、端子O’−V間のコイル部分を流れる電流により発生する磁束と、端子O’−W間のコイル部分を流れる電流により発生する磁束の結合が良く、効率良く磁束を消滅させることができる。
【0037】
また、上記の通り、第2の誘導コイル31により発生する磁束の大半はキャンセルされて消滅するので、第2の誘導コイル31の発熱電力はi’によるものだけになる。したがって第2の制御機器52だけで第2の誘導加熱装置3の電力制御ができることになる。
【0038】
ただし、端子V−O’間のコイル部分と端子O’−W間のコイル部分との結合状態によっては一部の磁束が残存するため、その磁束による発熱電力への影響が発生する。しかしながら、誘導加熱装置3は、基本的に負荷温度を制御するものであり、残存磁束による影響分を含んだ合計電力が制御されるので、誘導加熱温度は問題無く制御することができる。
【0039】
さらに、第2の電圧制御機器52を用いてベクトルeによる電流i’を零に調整しても、第2の電圧制御機器52が接続されない端子側(W相)に電流iが流れるため、第2の誘導加熱装置3の出力を零まで調整することができない。したがって、負荷容量の大きい側に第2の誘導加熱装置3を配置すれば、第1の誘導加熱装置2の電流iが流れた状態で第2の誘導加熱装置3の出力を零に調整するようなことが起こらないので、第1の誘導加熱装置2及び第2の誘導加熱装置3の良好な個別制御が可能となる。
【0040】
次に、最大出力時における電圧制御機器の電圧低下分を差し引いた電源電圧をeとし、第2の電圧制御機器52により第2の誘導コイル31の端子V−W間に印加される最大印加電圧をeとする。
【0041】
ここで、e=e/√3+eとすれば、e=e−e/√3となる。
また、e=e/2√3であるから、e/2√3=e−e/√3となる。
したがって、e=2/√3(e−e/√3)=2/√3e−2eとなる。
【0042】
ここで、e=eとなる条件を算出すると、
=2/√3e−2e
(2√3−1)e=2e
=2e/(2√3−1)となる。
【0043】
すなわち、e=2e/(2√3−1)に設定すれば、第1の誘導コイル21に印加される最大印加電圧eも同じe=2e/(2√3−1)となる。
最大容量も同じになり、P=P=2ei/(2√3−1)となる。
電流i=(2√3−1)P/2e
電流i=√{i+(i/2)
=i√5/2
=1.118i
【0044】
したがって、各相電流の電流比は、1:1.118:1.118となり、アンバランスは1.118倍に低減される。つまり、最大出力時における電圧制御機器52の電圧低下分を差し引いた電源電圧eに対して、第2の誘導コイル31の最大印加電圧eを2/(2√3−1)倍となるように調整することで、相電流のアンバランスを一層低減することができる。
【0045】
なお、上記のiの式にiを代入して、ibを求めると下記となる。
=i√5/2
=√5(2√3−1)P/(2×2e)
=(2/√15−√5)P/4e
【0046】
<第1実施形態の効果>
このように構成した誘導加熱システム100によれば、単一の単相交流電源4により第1の誘導コイル21及び第2の誘導コイル31に電力を供給するものにおいて、第1の誘導加熱装置2の誘導コイル21及び第2の誘導加熱装置3の誘導コイル31をスコット結線しているので、スコット結線変圧器を用いることなく、相電流のアンバランスを低減することができる。
【0047】
<第2実施形態>
次に本発明に係る誘導加熱システムの第2実施形態について図面を参照して説明する。
【0048】
第2実施形態に係る誘導加熱システム100は、前記第1実施形態とはコイル構成及びスコット結線の態様が異なる。
【0049】
本実施形態の第1の誘導コイル21及び第2の誘導コイル31の巻き数は2N(Nは自然数)であり、各誘導コイル21、31の巻き始め端部21x、31x及び巻き終わり端部21y、31yそれぞれに、巻き数(2/√3−1)Nの追加巻き線23、33が接続されている。なお、第1の誘導コイル21及び追加巻き線23の合計巻き数及び第2の誘導コイル31及び追加巻き線33の合計巻き数はともに、2N+2×(2/√3−1)N=N(2+4/√3−2)=4N/√3となる。
【0050】
そして、第1の誘導コイル21の巻き始め端部21x三相交流電源4のU相に電気的に接続され、第1の誘導コイル21の巻き終わり端部22yが第2の誘導コイル31の中点部31zに電気的に接続されている。また、第2の誘導コイル31の巻き始め端部31xに接続された追加巻き線33が、三相交流電源4のU相に電気的に接続され、第2の誘導コイル31の巻き終わり端部31yに接続された追加巻き線33が、三相交流電源4のW相に電気的に接続されている。
【0051】
次にこのように構成した誘導加熱システム100の各相に流れる電流について図3及び図4を参照して説明する。
各電圧、電流及び容量は以下となる。
=e√3/2
=P/(e√3/2)
=ie√3/2
=e
’=P/e
ここで、P=Pとおくと、
’=i√3/2
=√{(i√3/2)+(i/2)
=i
したがって、第1の誘導コイル21及び第2の誘導コイル31は同容量となり、各相電流は全てiとなってバランスする。
【0052】
<第2実施形態の効果>
このように構成した誘導加熱システム100によれば、前記実施形態の誘導コイル21、31に追加巻き線23、33を追加してスコット結線することにより、電気的に同一仕様の2つの誘導加熱装置2、3を運転する場合に、タップを必要とすることなく、相電流を同一にすることができ、アンバランスを解消することができる。
【0053】
<本発明の変形実施形態>
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
誘導コイルの構成に関して言えば、前記第1の誘導コイル21及び第2の誘導コイル31の構成を異ならせても良い。
具体的には、前記第1実施形態においては、第1の誘導コイル21の中点部21zに接続端子を設けなくても良いし、第1の誘導コイル21の巻き数を偶数としなくても良い。
また、前記第2実施形態においては、第1の誘導コイル21の巻き始め端部21x及び巻き終わり端部21yに追加巻き線23を接続しない構成としても良い。
【0054】
さらに、第2の誘導コイル31の巻き数を2N(Nは自然数)とし、第1の誘導コイル21の巻き数を√3Nとしても良い。この場合、電気的には、前記第2実施形態と同様となり、電気的に同一仕様の2つの誘導加熱装置2、3を運転する場合に、タップを必要とすることなく、相電流を同一にすることができ、アンバランスを解消することができる。
【0055】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
100・・・誘導加熱システム
2 ・・・第1の誘導加熱装置
21 ・・・第1の誘導コイル
21x・・・第1の誘導コイルの巻き始め端部
21y・・・第1の誘導コイルの巻き終わり端部
3 ・・・第2の誘導加熱装置
31 ・・・第2の誘導コイル
31x・・・第2の誘導コイルの巻き始め端部
31y・・・第2の誘導コイルの巻き終わり端部
31z・・・第2の誘導コイルの中点部
4 ・・・三相交流電源
51 ・・・第1の電圧制御機器
52 ・・・第2の電圧制御機器
図1
図2
図3
図4