(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射状に複数の軸部が形成された自在継手用トラニオンにおいて、前記トラニオンの軸部の外径が軸方向長さよりも大きく設定されており、前記軸部の中心軸上に鍛造時の材料流量を抑制するために形成された凹部を備えていることを特徴とする自在継手用トラニオン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車の燃費向上に対する要求がますます強くなり、自在継手のさらなる軽量・コンパクト化が強く望まれている。このような要求について、特許文献1は着目されていない。
【0007】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、トラニオンの軸部を大径化しても製品としての品質を満足し、トラニオンの強度を向上し、軽量・コンパクトな自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法および自在継手用トラニオンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討および検証し、以下の知見を見出した。
(1)トラニオンの強度を向上させ、コンパクト化を図るには、製品設計として、軸部の外径を大きくし断面二次モーメントを大きくすることが考えられる。
(2)そこで、軸部の外径を大きくしたトラニオンの閉塞鍛造試験を実施した。
図11が鍛造後のトラニオン成形品7’であり、軸部10の外径Dを大きくし、この外径Dを軸部10の軸方向長さLよりも大きくした。
図12(a)に示すように、ビレット15をダイス16、17内に投入する。型閉め後、上下パンチ18、19によりビレット15を押圧すると、
図12(b)の示すようにキャビティ20内に材料が流動する。閉塞鍛造試験の結果、軸部10の外径Dを大きくすると、
図11および
図12(b)に示すように、ボス部8の内径部13にヒケ14が発生した。これは、軸部10の先端へ向かう材料流動が多くなることによるものと考えられる。この試験結果より、製品としての品質を満足できない場合があるため、軸部10の大径化には鍛造面より制約があることが分かった。
(3)上記の問題について種々検討した結果、材料流量を抑制するという新たな閉塞鍛造コンセプトを着想し、本発明に至った。
【0009】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、ボス部に放射状に複数の軸部が形成された自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法において、鍛造金型は、前記トラニオンに略相当するキャビティが形成された開閉可能なダイスと、このダイスの中心軸上で相対的に移動可能に配置され、ビレットを押圧する一対の上下パンチと、前記キャビティの軸部成形金型部の中心軸上に配置され、半径方向に進退可能な充足パンチから構成され、前記ビレットを前記ダイス内に投入し、型閉めされた前記ダイスのキャビティ内に前記充足パンチが前進し前記キャビティ内に配置された状態で、前記上下パンチによりビレットを押圧することにより前記軸部およびその内部に凹部が形成され
、前記軸部の横断面積Aに対する凹部の横断面積Bの比B/Aを0.35〜0.80としたことを特徴とする。
【0010】
また、自在継手用トラニオンとしての本発明は、放射状に複数の軸部が形成された自在継手用トラニオンにおいて、前記トラニオンの軸部の外径が軸方向長さよりも大きく設定されており、前記軸部の中心軸上に鍛造時の材料流量を抑制するために形成された凹部を備えていることを特徴とする。
【0011】
上記の構成により、トラニオンの軸部を大径化してもボス部の内径部にヒケの発生がなく、製品としての品質を満足する自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法を実現することができる。また、トラニオンの軸部の大径化による鍛造時の増肉分を、軸部の中心軸上に設けた凹部によって減肉することで、強度を確保し、軽量・コンパクトな自在継手用トラニオンを実現することができる。
【0012】
上記の軸部の横断面積Aに対する凹部の横断面積Bの比B/Aを0.35〜0.80とすることが好ましい。これにより、ボス部の内径部のヒケが抑制できる。さらに比B/Aを0.45〜0.75とするとより好ましい。これにより、ボス部の内径部のヒケが抑制できることに加えて、側方押出しに必要な加工荷重の増加を抑えることができ、工具寿命に対して有利となる。
【0013】
上記の閉塞鍛造方法において、軸部および凹部が成形される間、充足パンチは半径方向に位置決めされている。これにより、充足パンチの位置決め手段は、成形荷重を受けるのみで、充足パンチと位置決め手段との間の相対移動がない金型構造にできるため、摺動摩耗やかじりを防止できる。
【0014】
上記の軸部成形金型部の内面の半径方向外側端部近傍に段差部を設けることが好ましい。これにより、軸部の充足度合いを判定するマーキングとすることができる。また、段差部による成形面は、高精度に型成形されるので、軸部の円筒形外周面の研削仕上げ加工の際の位置決めに使用することができる。
【0015】
上記の凹部の横断面における形状を円形とすることが好ましい。これにより、充足パンチの形状を単純化され、製作が容易となる。また、鍛造時、材料がスムーズに流れる。ただし、凹部の横断面における形状は、円形に限ることなく、楕円形や一部直線を含む円形および楕円形状とすることもできる。
【0016】
上記のビレットは、予備成形により軸部に対応する側面を平坦面に形成することができる。これにより、成形後の軸部の先端面のダレを抑制できる。
【0017】
上記の自在継手として、具体的には、2本の軸部が形成されたトラニオンを有する2ポッド継手や3本の軸部が形成されたトラニオンを有するトリポード型等速自在継手がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トラニオンの軸部を大径化してもボス部の内径部にヒケの発生がなく、製品としての品質を満足する自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法を実現することができる。また、強度を確保し、軽量・コンパクトな自在継手用トラニオンを実現することができる。
【0019】
軸部および凹部が成形される間、充足パンチが半径方向に位置決めされる構成とした場合は、簡便な機構で摺動摩耗やかじりを防止した金型構造とすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明の自在継手用トラニオンについての第1の実施形態を
図1および
図2に示し、本発明の自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法についての第1の実施形態を
図3〜7に示す。
【0023】
まず、
図1に基づいて、第1の実施形態に係る自在継手用トラニオンを説明する。
図1は、第1の実施形態に係るトラニオンおよび自在継手を示し、(a)は横断面図で、(b)は部分縦断面図である。この自在継手1は、摺動式2ポッド継手と呼ばれるものである。2ポッド継手1は、外側継手部材2、内方継手部材としてのトラニオン7、転動体としての針状ころ11および球状ローラ12を主な構成とする。
【0024】
具体的には、摺動式2ポッド継手1は、
図1に示すように、外側継手部材2は筒状のカップ部3とその底部に軸部4が形成されている。カップ部3の内周には周方向の2等分位置(180°間隔)に2本のトラック溝5が形成され、トラック溝5の対向する側面に断面円弧状のローラ案内面6が形成されている。また、カップ部3の内周の中心部に断面円弧状の凹部9が形成されている。
【0025】
トラニオン7は、ボス部8から180°間隔で放射状に突出して形成された2本の軸部10を有する。各軸部10は、円筒状外周面10aと、軸端付近に形成された環状の止め輪溝21を備えている。軸部10の円筒状外周面10aの周りに複数の針状ころ11を介して回転自在に球状ローラ12が装着されている。軸部10の円筒状外周面10aは針状ころ11の内側軌道面を形成する。球状ローラ12の内周面12aは円筒形状で、針状ころ11の外側軌道面を形成する。
【0026】
軸部10の軸端付近に形成された止め輪溝21には、アウタワッシャ22を介して止め輪23が装着されている。針状ころ11は、軸部10の付け根段部とアウタワッシャ22により、軸部10の軸方向の移動が規制されている。アウタワッシャ22は、軸部10の半径方向に延びた円盤部22aと、軸部10の軸線方向に延びた円筒部22bとからなる。アウタワッシャ22の円筒部22bは球状ローラ12の内周面12aより小さな外径を有し、トラニオン7の半径方向で見た円筒部22bの外側の端部22cは、球状ローラ12の内周面12aよりも大径に形成されている。したがって、球状ローラ12は、軸部10の軸線方向に移動することができ、かつ、端部22cにより脱落が防止されている。
【0027】
トラニオン7の軸部10に回転自在に装着された球状ローラ12は、外側継手部材2のトラック溝5のローラ案内面6に回転自在に案内される。また、トラニオン7のボス部8は球状に形成されており、このボス部8が外側継手部材2の凹部9に嵌合され、凹部9の軸線方向に摺動自在であるが、軸線方向に対して直交する面内では変位しないように案内されている。このような構造により、外側継手部材2とトラニオン7との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収され、回転が伝達される。
【0028】
トラニオン7のボス部8の内周面には雌スプライン24が形成されており、この雌スプライン24に、図示は省略するが、中間シャフトの雄スプラインが嵌合され、トルク伝達可能に連結される。
【0029】
本実施形態に係る2ポッド継手1は、軽量・コンパクト化を図るために、
図2に示す各寸法関係を有する。中間シャフトの軸径(スプライン大径)dとローラ案内面のPCDの比d/PCDを0.65〜0.75と大きく設定する共に、トラニオン7の軸部10の外径Djと前記軸径dとの比Dj/dを0.87〜0.93と大きく設定している。また、針状ころ長さLnと軸部10の外径Djとの比Ln/Djを0.40〜0.47と小さく、すなわち、軸部10の外径Djを軸部10の軸方向長さよりも大幅に大きく設定している。
【0030】
各軸部10は上記のように大径化されているが、各軸部10の中心軸上に鍛造時の材料流量を抑制するために形成された凹部25を備えている。軸部10の横断面積A〔
図4(b)参照〕に対する凹部25の横断面積B〔
図4(b)参照〕の比B/Aを0.35〜0.80とすることが好ましく、さらに比B/Aを0.45〜0.75とするとより好ましい。これにより、トラニオンの軸部を大径化しても鍛造時の材料流量を十分抑制することができるので、ヒケの発生がなく、製品としての良好な品質を確保することができる。加えて、側方押出しに必要な加工荷重の増加を抑えることができ、工具寿命に対して有利となる。この点については、後述の閉塞鍛造方法の実施形態においてさらに詳細に説明する。
【0031】
次に、本発明の自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法についての第1の実施形態を
図3〜7に基づいて説明する。まず、鍛造前の素材を
図3に示す。
図3(a)はバー材を切断したビレットを示す斜視図であり、
図3(b)は
図3(a)のビレットを予備成形した状態を示す斜視図である。
【0032】
バー材は、クロム鋼(SCr420)やクロムモリブデン鋼(SCM420)等の肌焼鋼からなる。
図3(a)に示すように、鍛造重量に基づいてバー材を所定長さで切断し、円柱状のビレット15aを製作する。このビレット15aの閉塞鍛造工程(本成形工程)の前に、予備成形工程により
図3(b)に示す形状の予備成形材15bを成形する。予備成形材15bは、軸部10に対応する側面を平坦面26とし、両端部には上下のパンチ18、19〔
図5(a)参照〕の膨出部18a、19aが嵌合するに凹部27a、27b〔
図5(a)参照〕が形成されている。予備成形材15bは上記の形状に成形されるが、その作用効果については後述する。ここで、ビレットとは、ビレット15aと予備成形材15bのいずれをも指す。
【0033】
トラニオンの閉塞鍛造後の状態を
図4(a)に示す。図示のように、鍛造後のトラニオン成形品7’は、ボス部8から180°間隔で放射状に突出した軸部10が成形され、軸部10には、その中心軸上に鍛造時の材料流量を抑制するための凹部25が形成されている。ボス部8の両端部には凹部27a’、27b’〔
図5(b)参照〕が形成されている。
【0034】
トラニオン成形品7’を得る閉塞鍛造工程を
図5〜7に基づいて説明する。
図5(a)は、予備成形材15bを投入後、上下のダイス16、17を型閉めし、充足パンチ30を所定の成形位置に配置した状態を示す。この状態になるまでの各金型の動きを説明する。開閉可能な上下のダイス16、17を離間させた状態で、予備成形材15bを投入する。この時、上下パンチ18、19は後退した位置に待機した状態にあり、投入された予備成形材15bの下端部の凹部27bが下パンチ19の膨出部19aに嵌合し姿勢が保持されてセットされる。その後、上下のダイス16、17が接近し、
図6に示すカム31が充足パンチ30を前進させる。上下のダイス16、17が当接し型閉め後、充足パンチ30の前進を終了し、半径方向の所定の成形位置に配置される。この状態が
図5(a)に示されている。ここで、鍛造金型とは、上下ダイス16、17、上下パンチ18、19および充足パンチ30を指す。
【0035】
図5(a)の状態から上下パンチ18、19が接近し、上パンチ18の膨出部18aが予備成形材15bの上端部の凹部27aに嵌合し、上パンチ18の下端面18bと下パンチ19の上端面19bが予備成形材15bの上下端面を押圧する。上下パンチ18、19が押し込まれると、
図5(b)に示すように、予備成形材15bを塑性変形させて、上下ダイス16、17の軸部成形金型部16a、17aの内面に形成されたキャビティ20に材料を流動させる。この成形の際、充足パンチ30が所定の成形位置に配置されているので、トラニオン7の軸部10が大径であっても、充足パンチ30の横断面積により材料流量を抑制することができる。この成形時に軸部10の中心軸上に凹部25が形成される。このため、ボス部8の内径部13のヒケが抑制される。
【0036】
図4(a)に示すように、トラニオン成形品7’の軸部10は、その外径Dを大きくし、外径Dは軸方向長さLよりも大幅に大きく設定されているが、
図4(b)に基づいて、前記ヒケを抑制するための有利な構成について付け加える。軸部10の横断面積Aに対する充足パンチ30の横断面積に対応して形成される凹部25の横断面積Bの比B/Aを0.35〜0.80とすることが好ましい。これにより、軸部10の外径Dを大径化しても、鍛造時に材料が流れる横断面積が軸部10の横断面積Aから凹部25の横断面積Bを差し引いたものになり、材料流量を抑制できるので、ボス部8の内径部13のヒケが抑制できる。
図4(b)において、軸部10の横断面積Aはハッチングを施した部分であり、凹部25の横断面積Bはクロスハッチングを施した部分である。さらに比B/Aは0.45〜0.75とするとより好ましい。これにより、ヒケが抑制できるという上記効果に加え、側方押出しに必要な加工荷重の増加を抑えることができ、工具寿命に対して有利となる。
【0037】
図3(b)に示した予備成形材15bは、前述したように軸部10に対応する側面を平坦面26とした。この作用効果を説明する。閉塞鍛造において軸部10の先端面10b〔
図5(b)参照〕となる部分は、軸部成形金型部16a、17aや充足パンチ30に接する部分が、その間の部分に比べ流動しにくくなる。しかし、上記形状の予備成形材15bを用いることによって、軸部成形金型部16a、17aのキャビティ20に逃げ部20aを設けても
図5(b)に示すように、軸部10の先端面10bのダレを小さくできる。このように、軸部10の先端面10bのダレを小さくできれば、このトラニオン7を用いた2ポッド継手1のコンパクト化、軽量化を図ることができる。上記の予備成形材15bでは、軸部に対応する側面を平坦面26にしたものを例示したが、これに限られず、曲率半径の大きななだらかな円筒状面や楕円筒状面としてもよい。
【0038】
図5(b)に示す閉塞鍛造が終了したトラニオン成形品7’の斜視図が
図4(a)である。閉塞鍛造後、トラニオン成形品7’のボス部8の内部壁8aを打ち抜く。その後、トラニオン成形品7’は、外周の所定の部位(ボス部8の端面や内周面、止め輪溝21等)を旋削加工し、雌スプライン24〔
図1(a)、(b)、
図2参照〕をブローチ加工した後、熱処理を施す。浸炭焼入れ焼戻しにより、表面硬さはHRC58〜62程度に硬化される。熱処理後、軸部10の円筒状外周面10aを研削加工により仕上げて、完成品となる。このように閉塞鍛造後のトラニオン成形品7’と完成品7との間で軸部10には細部の違いがあるが、成形品7’と完成品7の軸部には同じ符号10を付して、説明を簡略化する。また、
図4(a)のトラニオン成形品7’の軸部10の外径Dと
図2に示す軸部10の外径Djとの間には、研削取り代(0.1〜0.2mm程度)の差があるが、DとDjの寸法関係は同等とみなされる。
【0039】
軸部成形金型部16a、17aの内面の半径方向の外側端部近傍には、
図5(a)に示すように段差部16b、17bが設けられている。
図5(b)に示すように、閉塞鍛造が終了したトラニオン成形品7’の軸部10の先端面10bに、段差部16b、17bの形状が成形されているかどうかや成形の状態により、軸部10の充足度合いを判定するマーキングとすることができる。また、軸部10の先端面10bに形成された段差部16b、17bによる成形面は、高精度に型成形されるので、軸部10の円筒状外周面10aの研削仕上げ加工の際の位置決めに使用することができる。段差部16b、17bは円周方向の全周にわたって設けるものに限られず、円周方向の一部の必要な範囲に設けてもよい。
【0040】
図5(a)に示すように、充足パンチ30の先端面30aは、鍛造時の潤滑材を円滑に流すために滑らかな湾曲面で形成され、先端面30aと先端外径面30bは適宜のR形状で滑らかに接続されている。これにより、鍛造時に充足パンチ30により材料流量を抑制しても、材料はスムーズに流動する。また、先端外径面30bが所定の軸方向幅で形成され、この先端外径面30bの反先端側には逃げ部30cが設けられている。これにより、摩擦力が低減され、鍛造時の成形荷重や後述する充足パンチ30の分離荷重を低減することができる。また、逃げ部30cに対向する軸部成形金型部16a、17aの内面にも逃げ部を設けることができる。これにより、摩擦力を一層低減することができる。
【0041】
図5(a)および
図5(b)に示すように、トラニオン成形品7’が成形される間、充足パンチ30は、半径方向の所定の成形位置で位置決めされている。ここで、充足パンチ30の進退機構を
図6および
図7に基づいて説明する。
図6は、充足パンチ30が前進し半径方向の所定の成形位置で位置決めされていて、成形が終了した状態を示す縦断面図である。
図7は、成形終了後、充足パンチ30が軸部10から後退した状態を示す縦断面図である。
【0042】
具体的には、充足パンチ30の進退機構32は、ハウジング33、バネ部材34、カム31、カム受け部材35を主な構成とする。ハウジング33内に多数の皿バネ34aが積層されバネ部材34が構成され、皿バネ34aの内周孔に充足パンチ30が挿入されている。充足パンチ30のカム側の端部にはカム受け部材35が嵌合固定されている。カム受け部材35のカム面35aとカム31のカム面31aが当接し、カム31は図の上下方向に移動可能になっている。
図6は、カム31が下降して皿バネ34aの付勢力に抗して充足パンチ30を前進させ、半径方向の所定の成形位置に位置決めした状態を示している。このように、カム31は、充足パンチ30の前進駆動手段と位置決め手段としての機能を有する。
【0043】
前述したように、トラニオン成形品7’が成形される間、充足パンチ30は、半径方向の所定の成形位置で位置決めされている〔
図5(a)、
図5(b)および
図6参照〕。このように成形過程では、充足パンチ30(カム受け部材35)とカム31との間には相対運動がなく、充足パンチ30(カム受け部材35)とカム31のテーパ状のカム面35a、31aは成形荷重を受けるのみとなり摺動しないため、カム面35a、31aにかじりを生じることがない。
【0044】
成形完了後、上ダイス16と上パンチ18が上方へ後退し、カム31が上方に移動する。カム31が上方に移動すると、
図7に示すように、充足パンチ30がバネ部材34の付勢力により後退し、トラニオン成形品7’(軸部10)から分離される。前述したように、充足パンチ30の先端外径面30bの反先端側に逃げ部30cが設けられているので〔
図5(a)、(b)参照〕、分離荷重を低減することができる。以上の作動により、トラニオン成形品7’が下ダイス17からノックアウト可能な状態になる。その後、下パンチ19がトラニオン成形品7’を下ダイス17からノックアウトし、閉塞鍛造工程が終了する。
【0045】
以上のように、成形過程において充足パンチとダイスやカムの間の相対運動がなく、分離荷重も低減できる金型構造のため、金型構造全体として簡素化することができ、結果として充足パンチの進退機構は、以下に示す種々の変形例が採用できる。
【0046】
次に、充足パンチ30の進退機構の第1の変形例を
図8に基づいて説明する。本変形例の進退機構32は、油圧シリンダ36、ピストン37、カム(図示省略)を主な構成とする。ピストン37に充足パンチ30が嵌合固定されており、ピストン37にはカム面37aが形成されている。充足パンチ30を前進させ、半径方向の所定の成形位置に位置決めする作動は、第1の実施形態の進退機構32と同様で、図示を省略したカムが下降し、ピストン37のカム面37aを押圧することにより行われる。この時、油圧シリンダ36内の油圧は減圧される。
【0047】
成形完了後、カムが上方に移動すると、
図8に示すように、シリンダ36内に油圧をかけ、ピストン37、充足パンチ30が後退し、トラニオン成形品7’(軸部10)から分離される。その他の作動は、第1の実施形態と同様であるので、第1の実施形態の内容を準用し、説明を省略する。
【0048】
充足パンチ30の進退機構の第2の変形例を
図9に基づいて説明する。本変形例の進退機構32は、ハウジング33、カム受け部材35、2種のカムを主な構成とする。カム受け部材35に充足パンチ30が嵌合固定されており、カム受け部材35は、軸方向の両端に2種のカム面35a、35bが形成されている。充足パンチ30を前進させ、半径方向の所定の成形位置に位置決めする作動は、第1の実施形態の進退機構32と同様で、図示を省略したカムが下降し、カム受け部材35のカム面35aを押圧することにより行われる。
【0049】
成形完了後、図示を省略したカムが上方に移動すると、
図9に示すように、充足パンチ30に後退動作を行わせる第2のカム38が上昇し、この第2のカム38のカム面38aがカム受け部材35のカム面35bと当接し、カム受け部材35、充足パンチ30が後退し、トラニオン成形品7’(軸部10)から分離される。その他の作動は、第1の実施形態と同様であるので、第1の実施形態の内容を準用し、説明を省略する。
【0050】
次に、2ポット継手用トラニオンの変形例を
図10に基づいて説明する。
図10も閉塞鍛造が終了したトラニオン成形品7’を示す斜視図である。このトラニオン成形品7’は、第1の実施形態のトラニオン成形品7’と比べて、軸部10の中心軸上に形成された凹部25の横断面形状が異なる。その他の構成については、第1の実施形態のトラニオン成形品7’と同じであるので、同じ機能を有する部位には同一の符号を付して、要点のみ説明する。
【0051】
本変形例のトラニオン成形品7’に形成した凹部25の横断面形状は、円形部分25aと直線部分25bとからなる。直線部分25bは、軸部10のトルク負荷方向に配置されている。これにより、中空状の軸部10のトルク負荷方向の肉厚を増加させ、軸部10の強度が向上し、一層のコンパクト化、軽量化を図ることができる。
【0052】
この凹部25の横断面形状の場合も、前述した第1の実施形態と同様、軸部10の横断面積Aに対する凹部25の横断面積Bの比B/Aを0.35〜0.80とすることが好ましい。これにより、ボス部の内径部のヒケが抑制できる。さらに比B/Aを0.45〜0.75とするとより好ましい。これにより、ボス部の内径部のヒケが抑制できることに加えて、側方押出しに必要な加工荷重の増加を抑えることができ、工具寿命に対して有利となる。その他の構成や作用効果、ビレットの予備成形、閉塞鍛造工程については、第1の実施形態のトラニオン成形品および閉塞鍛造方法と同様であるので、第1の実施形態で説明した内容を全て準用し、説明を省略する。
【0053】
本発明の自在継手用トラニオンについての第2の実施形態を
図13および
図14に基づいて説明する。本実施形態の自在継手用トラニオンは3本の軸部を有するトリポード型等速自在継手用トラニオンである。
図13(a)は、トリポード型等速自在継手の横断面図であり、
図13(b)は縦断面図である。図示のように、トリポード型等速自在継手51は、外側継手部材52、内側継手部材としてのトラニオン57、転動体としての針状ころ61および球状ローラ62を主な構成とする。
【0054】
外側継手部材52は筒状のカップ部53とその底部に軸部54が形成されている。カップ部53の内周には円周方向の三等分位置に軸方向に延びる3本のトラック溝55が形成され、各トラック溝55の対向する側面にローラ案内面56が形成されている。ローラ案内面56は、円筒面の一部、すなわち部分円筒面で形成されている。
【0055】
トラニオン57は、ボス部58と軸部60からなり、軸部60はボス部58の円周方向の三等分位置から半径方向に突出して3本形成されている。各軸部60は、円筒状外周面60aと、軸端付近に形成された環状の止め輪溝71を備えている。軸部60の円筒状外周面60aの周りに複数の針状ころ61を介して回転自在に球状ローラ62が装着されている。軸部60の円筒状外周面60aは針状ころ62の内側軌道面を形成する。球状ローラ62の内周面62aは円筒状で、針状ころ62の外側軌道面を形成する。
【0056】
軸部60の軸端付近に形成された止め輪溝71には、アウタワッシャ72を介して止め輪73が装着されている。針状ころ61は、軸部60の付根段部とアウタワッシャ72により、軸部60の軸方向の移動が規制されている。アウタワッシャ72は、軸部60の半径方向に延びた円盤部72aと、軸部60の軸線方向に延びた円筒部72bとからなる。アウタワッシャ72の円筒部72bは球状ローラ62の内周面62aより小さな外径を有し、トラニオン57の半径方向で見た円筒部72bの外側の端部72cは、球状ローラ62の内周面62aよりも大径に形成されている。したがって、球状ローラ62は、軸部60の軸線方向に移動することができ、かつ、端部72cにより脱落が防止されている。
【0057】
トラニオン57の軸部60に回転自在に装着された球状ローラ62は、外側継手部材52のトラック溝55のローラ案内面56に回転自在に案内される。このような構造により、外側継手部材52とトラニオン57との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収され、回転が等速で伝達される。
【0058】
図14は、トリポード型等速自在継手51が作動角θを取ったときの状態を示す縦断面図である。図示のように、トラニオン57が傾いたとき、外側継手部材52のトラック溝55のローラ案内面56に対して傾斜した状態となる。トラニオン57に装着された球状ローラ62は、ローラ案内面56に半径方向には拘束されているので、球状ローラ62は軸部60上に配置された針状ころ61の軸方向に相対移動する。
【0059】
トラニオン57のボス部58の内周面には雌スプライン74が形成されており、この雌スプライン74に、図示は省略するが、中間シャフトの雄スプラインが嵌合され、トルク伝達可能に連結される。
【0060】
本実施形態に係るトリポード型等速自在継手51も、軽量・コンパクト化を図るために、
図15に示す各寸法関係を有する。中間シャフトの軸径(スプライン大径)dとローラ案内面56のPCDの比d/PCDを0.62〜0.70と大きく設定する共に、トラニオン57の軸部60の外径Djと前記軸径dとの比Dj/dを0.87〜0.93と大きく設定している。また、針状ころ長さLnと軸部60の外径Djとの比Ln/Djを0.40〜0.47と小さく、すなわち、軸部60の外径Djを軸部60の軸方向長さよりも大幅に大きく設定している。
【0061】
本発明の自在継手用トラニオンの閉塞鍛造方法についての第2の実施形態を
図16および
図17に基づいて説明する。
図16は、鍛造前の素材を示し、
図16(a)はバー材を切断したビレットを示す斜視図であり、
図16(b)は
図16(a)のビレットを予備成形した状態を示す斜視図である。
図17は、鍛造後のトラニオン成形品を示す斜視図である。
【0062】
図17に示すトラニオン成形品の概要を説明する。トラニオン成形品57’は、ボス部58の円周方向の三等分位置から放射状に突出する3本の軸部60を有する。軸部60には、その中心軸上に鍛造時の材料流量を抑制するための凹部75が形成されている。トラニオン成形品57’のボス部58の内部壁8aは打ち抜く。その後、トラニオン成形品57’は、外周の所定の部位(ボス部58の端面や内周面、止め輪溝等)を旋削加工し、雌スプラインをブローチ加工した後、熱処理を施す。浸炭焼入れ焼戻しにより、表面硬さはHRC58〜62程度に硬化される。熱処理後、軸部60の円筒状外周面60aを研削加工により仕上げて、完成品となる。第1の実施形態のトラニオンと同様、軸部60の円筒状外周面60aが転動体としての針状ころ61の内側軌道面を形成し、針状ころ61を介して球状ローラ62が回転自在に装着される。
【0063】
本実施形態の閉塞鍛造方法は、第1の実施形態に比べて、トラニオン成形品57’の軸部60が3本であることが異なり、その他の構成は、第1の実施形態と同様であるので、要点のみを説明する。
図16(a)に示す円柱状のビレット15a’は、クロム鋼(SCr420)やクロムモリブデン鋼(SCM420)等の肌焼鋼からなるバー材を鍛造重量に基づいて所定長さで切断して製作する。このビレット15a’の閉塞鍛造工程の前に、予備成形工程により
図16(b)に示す形状の予備成形材15b’を成形する。予備成形材15b’は、3本の軸部60に対応する側面に3つの平坦面26が形成され、両端部には、閉塞鍛造の上下パンチの膨出部が嵌合する凹部27a、27b(図示省略)が形成されている。平坦面26や凹部27a、27bの作用効果は、第1の実施形態の閉塞鍛造方法と同様である。
【0064】
図17に示すように、トラニオン成形品57’の3本の軸部60の中心軸上に鍛造時の材料流量を抑制するための凹部75が形成されているが、第1の実施形態のトラニオン成形品7’の凹部25と同様、次のように設定されている。軸部60の横断面積Aに対する凹部25の横断面積Bの比B/Aを0.35〜0.80とすることが好ましい。さらに、比B/Aは0.45〜0.75とするとより好ましい。これにより、ボス部58の内径部のヒケの抑制や側方押出しに必要な加工荷重の増加を抑えることができ、工具寿命に対して有利となる。
【0065】
第1の実施形態のトラニオン成形品7’の軸部10が2本に対して、本実施形態におけるトラニオン成形品
57’の軸部
60は3本と異なるが、鍛造時の材料流量を抑制するという大径軸部10の1本当たりの成形性が本質的な技術課題であるので、前述した凹部75の横断面積の設定は同様となる。
【0066】
その他の構成や作用効果、具体的な閉塞鍛造工程については、第1の実施形態の閉塞鍛造方法と同様であるので、軸部60の本数を3本として第1の実施形態で説明した内容を全て準用し、説明を省略する。
【0067】
以上の実施形態では、トラニオンの軸部の本数を2本のものと3本のものを例示したが、これに限られず、十字軸継手の4本の軸部を有するトラニオンにも適用することができる。
【0068】
以上の実施形態では、凹部25、75の横断面形状として、円形のものと、円形部分と直線部分とからなるものを例示したが、これに限られず、材料流動や軸部の強度等を考慮して、楕円形や一部直線を含む円形および楕円形状とすることもできる。
【0069】
以上の実施形態では、ビレットとして予備成形材15b、15b’を用いて閉塞鍛造を行うことを例示したが、必ずしも予備成形材15b、15b’を用いる必要はなく、場合によっては、バー材を所定長さで切断した円柱状のビレット15a、15a’から直接閉塞鍛造を行ってもよい。
【0070】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。