特許第6552852号(P6552852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552852
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】無機質板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/02 20060101AFI20190722BHJP
   B28B 11/22 20060101ALI20190722BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20190722BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B28B3/02 F
   B28B11/22
   B05D3/04 C
   B05D7/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-56610(P2015-56610)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-175256(P2016-175256A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162248
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】堤 靖浩
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−123216(JP,A)
【文献】 特開2013−189327(JP,A)
【文献】 特開平01−315474(JP,A)
【文献】 国際公開第02/074451(WO,A1)
【文献】 特開2009−132887(JP,A)
【文献】 特開平01−242205(JP,A)
【文献】 特開2008−142713(JP,A)
【文献】 特開2009−298038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00−5/12,7/38,11/00−19/00
C04B 40/00−40/06,
C04B 41/00−41/72
B05D 3/04,7/00
E04G 9/10,21/12
C09D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料を主成分とするグリーンシートを成形型にてプレス成形した後に養生硬化させて得られた硬化板の表面に水性塗料からなる塗膜を形成して無機質板を製造する方法であって、
前記グリーンシートの表面及び前記成形型のプレス面の少なくとも一方には、親水性を有する離型剤を付着させ、
前記プレス成形後養生硬化し、前記離型剤が付着した前記硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行うことを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無機質板の製造方法において、
記グリーンシートは疎水性を有しており、
前記プラズマ処理によって、前記硬化板の表面が親水性に改質されることを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の無機質板の製造方法において、
前記水硬性材料は、疎水性物質を含有するポリマーセメントであることを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項4】
水硬性材料を主成分とするグリーンシートを成形型にてプレス成形した後に養生硬化させて得られた硬化板の表面に水性塗料からなる塗膜を形成して無機質板を製造する方法であって、
前記グリーンシートの表面及び前記成形型のプレス面の少なくとも一方には、離型剤を付着させ、
前記グリーンシートが親水性を有する一方、前記離型剤は疎水性を有しており、
前記プレス成形後養生硬化し、前記離型剤が付着した前記硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行うことを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の無機質板の製造方法において、
前記グリーンシートの表面に、少なくとも前記離型剤の一部が浸透して疎水層が形成され、前記疎水層の表面側のみ前記プラズマ処理によって、親水性に改質されることを特徴とする無機質板の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の無機質板の製造方法において、
前記プラズマ処理は、コロナ放電処理であることを特徴とする無機質板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外壁材や屋根材等に用いられる無機質板は、セメント系材料等の水硬性材料を主成分とするグリーンシートを成形型にてプレス成形し、養生硬化させて硬化板とし、この硬化板の表面に水性塗料等からなる塗膜を形成することにより製造される。特許文献1には、無機質板を製造するに際して、グリーンシートまたは成形型の少なくとも一方の表面に、離型剤を付着させてプレス成形することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−142151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グリーンシートが親水性を有する場合、離型剤として油性離型剤(疎水性の離型剤)が用いられる。しかしながら、この離型剤が付着した硬化板の表面に水性塗料を塗装しても、疎水性の離型剤により水性塗料がはじかれ易く、硬化板の表面に塗膜が密着し難いという問題がある。
【0005】
一方、グリーンシートが疎水性を有する場合、離型剤として親水性の離型剤が用いられる。しかしながら、この離型剤が付着した硬化板の表面に水性塗料を塗装しても、硬化板により水性塗料がはじかれ易く、この表面のうち硬化板が露出した部分、すなわち硬化板の表面のうち離型剤が付着していない部位は疎水性であるため、塗膜が密着し難いという問題がある。
【0006】
このような塗膜密着性の問題に対し、例えば、離型剤として、グリーンシートの表面に付着した後にグリーンシートの内部に浸透して表面に残り難い離型剤を用いるという対策がある。しかしながら、このような離型剤は低分子量のものであるため、プレス成形の作業環境を悪化させやすいという問題がある。
【0007】
一方、離型剤との親和性が比較的高いシーラー樹脂を、離型剤が付着した硬化板の表面上に塗布してシーラー樹脂層を形成し、このシーラー樹脂層上に水性塗料を塗装するという対策がある。しかしながら、この対策では、シーラー樹脂が離型剤を相溶し、シーラー樹脂層の表面に離型剤が浮遊しやすくなり、塗膜密着性が低下しやすいという問題があった。
【0008】
以上のように、プレス成形時における離型性を保持しつつ、硬化板と水性塗料からなる塗膜との塗膜密着性を確保するには大きな技術的困難性があった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、プレス成形時における離型性を保持しつつ、塗膜密着性を簡単に確保することができる無機質板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の無機質板の製造方法は、水硬性材料を主成分とするグリーンシートを成形型にてプレス成形した後に養生硬化させて得られた硬化板の表面に水性塗料からなる塗膜を形成して無機質板を製造する方法であって、前記グリーンシートの表面及び前記成形型のプレス面の少なくとも一方には、親水性を有する離型剤を付着させ、前記プレス成形後養生硬化し、前記離型剤が付着した前記硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行う。
【0011】
本発明にあっては、前記グリーンシートは疎水性を有しており、前記プラズマ処理によって、前記硬化板の表面が親水性に改質されることが好ましい。
【0012】
本発明にあっては、前記水硬性材料は、疎水性物質を含有するポリマーセメントであることが好ましい。
【0013】
本発明の無機質板の製造方法は、水硬性材料を主成分とするグリーンシートを成形型にてプレス成形した後に養生硬化させて得られた硬化板の表面に水性塗料からなる塗膜を形成して無機質板を製造する方法であって、前記グリーンシートの表面及び前記成形型のプレス面の少なくとも一方には、離型剤を付着させ、前記グリーンシートが親水性を有する一方、前記離型剤は疎水性を有しており、前記プレス成形後養生硬化し、前記離型剤が付着した前記硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行う。
【0014】
本発明にあっては、前記グリーンシートの表面に、少なくとも前記離型剤の一部が浸透して疎水層が形成され、前記疎水層の表面側のみ前記プラズマ処理によって、親水性に改質されることが好ましい。
【0015】
本発明にあっては、前記プラズマ処理は、コロナ放電処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、グリーンシートの表面及び成形型のプレス面の少なくとも一方には、離型剤を付着させ、プレス成形後養生硬化し、離型剤が付着した硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行うので、プレス成形時における離型性を保持しつつ、塗膜密着性を簡単に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明の実施形態(以下、本実施形態)の無機質板の製造方法は、水硬性材料を主成分とするグリーンシートを成形型にてプレス成形した後に養生硬化させて得られた硬化板の表面に水性塗料からなる塗膜を形成して無機質板を製造する方法である。プレス成形時において、グリーンシートの表面及び成形型のプレス面の少なくとも一方には、離型剤を付着させる。そして、プレス成形後養生硬化し、離型剤が付着した硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行う。すなわち、本実施形態の無機質板の製造方法は、
グリーンシートをプレス成形するプレス工程(a)と、プレス成形され、離型剤が付着したグリーンシート(以下、成形グリーンシートという場合がある)を養生硬化して硬化板を得る養生工程(b)と、硬化板の表面にプラズマ処理を施すプラズマ処理工程(c)と、プラズマ処理が施された硬化板(以下、プラズマ処理済硬化板という場合がある)の表面に塗膜を形成する塗装工程(d)とを含む。
【0019】
{グリーンシート}
本実施形態におけるグリーンシートは、水硬性材料を主成分とすれば特に限定されず、例えば、疎水性を有するグリーンシート、親水性を有するグリーンシートなどを用いることができる。
【0020】
このようなグリーンシートは、例えば、水硬性材料、骨材などを含み、抄造、押出、注型などを行って、作製されるのが好ましい。
【0021】
(疎水性を有するグリーンシート)
疎水性を有するグリーンシート(以下、疎水性グリーンシート)とは、グリーンシートの表面が水との接触角が大きく、水をはじき易い性質であるグリーンシートをいい、例えば、水との接触角は好ましくは90°以上、より好ましくは110°以上である。疎水性グリーンシートは、例えば、水硬性材料、骨材などを含み、必要に応じて添加剤が配合されているのが好ましい。添加剤としては、例えば、フライアッシュなどの粉体、ポリプロピレン繊維などの補強繊維、分散剤、増粘剤、増量材、着色剤、顔料、粘度調整剤などが挙げられる。なお、水との接触角は、疎水性グリーンシートを水平にした状態で、この表面に1μLの水を落とし、23±5℃の温度で接触角計を用いて、θ/2法により測定することができる。
【0022】
疎水性グリーンシートに用いられる水硬性材料としては、例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカフュームセメントなどのセメント系材料や、ポリマーセメントなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリマーセメントは、疎水性物質を含有するものであり、例えば、上記セメント系材料と油性物質と水とを主成分とするセメント含有逆エマルジョン組成物からなるのが好ましい。この組成物において、水の含有量は、セメント系材料の総質量に対して、好ましくは0.3〜2質量部である。
【0024】
疎水性物質としては、水と逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成しうるものであれば特に限定されず、通常疎水性の液状物質が利用され、例えば、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、スチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)、エチレン酢酸ビニルエマルジョン(EV)、アクリルエマルジョン(AE)等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。好ましくは、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)である。これにより、セメント系材料の水和反応と重合性二重結合を有する油性物質の重合反応が同時に起こり、ポリマーがマトリックスを形成して、優れた物理的、機械的性質を有する無機質板とすることができる。セメント含有逆エマルジョン組成物中の疎水性物質の含有量は、特に限定されず、ポリマーセメントの総量に対して、好ましくは5〜10体積%である。
【0025】
重合性二重結合を有する疎水性物質を使用する場合には、重合開始剤を併用するのが好ましい。これにより、疎水性物質の重合を促進することができる。重合開始剤としては、例えば、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物や過硫酸塩等を用いることができる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の架橋剤を併用することもできる。
【0026】
ポリマーセメントは、乳化剤(逆乳化剤)をさらに含有するのが好ましい。これにより、逆エマルジョンに安定性を付与することができる。乳化剤としては、例えばソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。乳化剤の含有量は、ポリマーセメントの総量に対して、好ましくは1〜3体積%である。
【0027】
疎水性グリーンシートに用いられる骨材としては、例えば、砂、砂利、石炭灰等の天然骨材、溶融スラグ、砕石、砕砂、フライアッシュを高温焼成したもの等の人工骨材、コンクリート廃材から取り出した再生骨材、パーライトなどの軽量骨材等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。骨材の配合割合は、水硬性材料の総質量に対して、好ましくは40〜70質量部である。
【0028】
(親水性を有するグリーンシート)
親水性を有するグリーンシート(以下、親水性グリーンシート)とは、グリーンシートの表面が水との接触角が小さく、水が浸透し易い性質であるグリーンシートをいい、例えば、水との接触角は好ましくは80°以下、より好ましくは70°以下である。親水性グリーンシートは、例えば、水硬性材料、骨材、補強繊維を含み、必要に応じて、添加剤が配合されているのが好ましい。添加剤としては、例えば、フライアッシュなどの粉体、分散剤、メチルセルロースなどの増粘剤、重量材、着色剤、顔料、粘度調整剤などが挙げられる。なお、水との接触角は、親水性グリーンシートを水平にした状態で、この表面に1μLの水を落とし、23±5℃の温度で接触角計を用いて、θ/2法により測定することができる。
【0029】
親水性グリーンシートに用いられる水硬性材料としては、例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカフュームセメントなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ただし、セメント原材料にはあらかじめ添加剤などが含まれていてもよい。
【0030】
親水性グリーンシートに用いられる骨材としては、例えば、珪酸質材料、砂、砂利、石炭灰等の天然骨材、溶融スラグ、砕石、砕砂、フライアッシュを高温焼成したもの等の人工骨材、コンクリート廃材から取り出した再生骨材、マイクロバルーンなどの軽量骨材等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。珪酸質材料としては、例えば、珪石粉、シリカ粉、シリカヒューム、シラスバルーン、パーライト、マイカ、ケイ藻土、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス粉、ケイ質粘土、ベントナイトなどを用いることができる。
【0031】
親水性グリーンシートに用いられる補強繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。補強繊維の繊維長は、特に限定されず、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは2〜8mmである。補強繊維の繊維径は、特に限定されず、1〜100μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0032】
{プレス工程(a)}
プレス工程(a)では、成形型を用いて、グリーンシートの表面及び成形型のプレス面の少なくとも一方に離型剤を付着させ、グリーンシートをプレス成形する。これにより、グリーンシートの表面にプレス面の表面形状(凹凸形状)が転写されると共に、グリーンシートの厚みが所定の製品厚みに形成された成形グリーンシートが得られる。さらに、グリーンシートの表面及び成形型のプレス面の少なくとも一方に離型剤を付着させることで、プレス成形時にグリーンシートが離型しやすくなる。
【0033】
(離型剤)
離型剤としては、特に限定されず、例えば、疎水性を有する離型剤(以下、疎水性離型剤)、親水性を有する離型剤(以下、親水性離型剤)などを用いることができる。グリーンシートとして疎水性グリーンシートを用いる場合は、親水性離型剤を用いるのが好ましい。また、グリーンシートとして親水性グリーンシートを用いる場合は、疎水性離型剤を用いるのが好ましい。
【0034】
疎水性離型剤とは、例えば、天然油脂、合成油、両者の混合物である。具体的には、シリコンオイル、フッ化物、炭化水素などの合成油や、灯油、軽油、スピンドル油、マシン油などの石油精製品などの油性離型剤などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
親水性離型剤とは、例えば、水溶性樹脂、界面活性剤である。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
離型剤の塗布方法としては、例えば、浸漬法、刷毛塗り法、ローラー塗り法、スプレー法、流し塗り、回転塗りなどが挙げられる。
【0037】
離型剤の塗布量は、特に限定されず、好ましくは5〜50g/m、より好ましくは5〜20g/mである。
【0038】
特にグリーンシートとして親水性グリーンシートを、離型剤として疎水性離型剤を用いる場合、離型剤の塗布量は、好ましくは5〜20g/m、より好ましくは5〜10g/mである。これにより、親水性グリーンシートの表面に、少なくとも疎水性離型剤の一部が浸透して疎水層がされる。すなわち、疎水層は、親水性グリーンシートの表面上に位置する疎水性離型剤からなる層と、親水性グリーンシート内部に浸透した疎水性離型剤からなる層とからなる。そして、この親水性グリーンシートを養生硬化した後、疎水層の表面側のみを後述するプラズマ処理によって親水性に改質することで、親水性グリーンシートに浸透した一部の疎水性離型剤はプラズマ処理によって親水性に改質されていない状態のままとなる。そのため、得られる無機質板は、その内部に親水性に改質されていない一部の疎水性離型剤に由来する撥水層を有する。その結果、透水性に優れる無機質板とすることができる。
【0039】
成形方法としては、例えば、グリーンシートの上方に成形型を配置し、この状態で成形型をグリーンシートに向かって下降させて、このグリーンシートを押圧する方法などが挙げられる。プレス圧は、特に限定されず、好ましくは1〜10MPaである。プレス面の凹凸形状は、無機質板の使用用途に応じ適宜調整すればよい。
【0040】
{養生工程(b)}
養生工程(b)では、成形グリーンシートを養生硬化させ、離型剤が付着した硬化板を得る。
【0041】
養生硬化させる方法としては、例えば、成形グリーンシートに、一次養生を施し、ある程度の強度が確保されてから、二次養生(オートクレーブ養生)を施す方法などが挙げられる。
【0042】
一次養生としては、水硬性材料の材質などに応じて適宜調整すればよく、例えば、常温養生や蒸気養生などが挙げられる。具体的には、一次養生は、例えば、常圧下、40〜90℃の温度で4〜12時間行われるのが好ましい。
【0043】
オートクレーブ養生は、一次養生の条件、水硬性材料の材質などに応じて適宜調整すればよく、例えば、5065〜8104hPa(5〜8気圧)下、160〜180℃の温度で4〜12時間行われるのが好ましい。
【0044】
{プラズマ処理工程(c)}
プラズマ処理工程(c)では、離型剤が付着した硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行う。これにより、プラズマ処理済硬化板の表面に水性塗料を塗装しても水性塗料がはじかれにくくなる。すなわち、プラズマ処理という比較的簡単な方法で、離型剤が付着した硬化板の表面を親水性に改質することができ、水性塗料からなる塗膜の密着性を確保することができる。このように親水性が付与されるのは、プラズマ処理により、例えば、硬化板の表面やその近傍に位置する疎水性離型剤や疎水性物質などの樹脂成分がプラズマ放電領域に曝されて、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基などが生成するためと推測される。
【0045】
硬化板として疎水性グリーンシートを養生硬化してなる疎水性を有する硬化板(以下、疎水性硬化板という場合がある)を、離型剤として親水性離型剤を用いる場合、プラズマ処理によって、疎水性硬化板の表面が親水性に改質される。これにより、硬化板として疎水性硬化板を用いる場合であっても、比較的簡単な方法で、硬化板と水性塗料からなる塗膜との密着性を確保することができる。
【0046】
また、硬化板として親水性グリーンシートを養生硬化してなる親水性を有する硬化板(以下、親水性硬化板という場合がある)を、離型剤として疎水性離型剤を用いる場合、プラズマ処理によって、疎水性離型剤が親水性に改質される。これにより、疎水性離型剤によってプレス成形時に、親水性硬化板が離型しやすくなる一方で、表面改質によって疎水性離型剤に親水性が付与されることにより、硬化板と水性塗料からなる塗膜との密着性を確保することができる。
【0047】
プラズマ処理としては、例えば、大気圧下でのプラズマ処理、真空下でのプラズマ処理、コロナ放電処理、プラズマフレーム処理、エキシマランプ処理などが挙げられ、なかでも比較的簡単にプラズマ処理を実施できるコロナ放電処理が好ましい。
【0048】
(コロナ放電処理)
コロナ放電処理は、高周波電源電圧を用いて大気中にコロナ放電を発生させ、それに伴って発生する電子やイオンを硬化板の表面に照射することで、硬化板の表面に親水性を付与するものである。このように親水性が付与されるのは、例えば、コロナ放電処理により発生する酸素を含む分子と、硬化板の表面やその近傍に位置する疎水性離型剤や疎水性物質などの樹脂成分とが反応してカルボキシル基、水酸基、カルボニル基などが生成するためと推測される。
【0049】
コロナ放電処理の際の放電量としては、特に制限はないが、好ましくは1〜15KW・min/m、より好ましくは5〜10KW・min/mである。放電量は下記式(1)より算出される。
放電量=放電電力/(処理速度×電極長さ)・・・(1)
【0050】
例えば、硬化板をコンベア上に載置した後、コロナ放電処理装置(パール工業(株)製の「PSCMECHA」)を用いて、コロナ放電方式(空気中)により下記の条件で行う場合、コンベアの移動速度(処理速度)は、好ましくは5〜15m/分、より好ましくは5〜10m/分である。処理速度が上記範囲内であれば、硬化板の表面をより十分に改質できるとともに、生産性がより優れる。
【0051】
(コロナ放電処理の条件の一例)
・発振周波数:20kHz
・方式:大気吹き出しコロナ
・パルス周波数:100kHz
・ワーク距離:10mm
・処理回数:1回。
【0052】
{塗装工程(d)}
塗装工程(d)では、プラズマ処理済硬化板の表面に塗膜を形成する。これにより、塗膜密着性に優れる無機質板が得られる。
【0053】
塗膜の構成は、特に限定されず、単層であってもよいし、下塗水性塗料からなる下塗層と、上塗水性塗料からなる上塗層とからなる2層構成であってもよいし、3層以上の複数層構成であってもよい。
【0054】
塗膜の厚みは、好ましくは20〜50μmである。
【0055】
塗膜は、例えば、プラズマ処理済硬化板の表面上に水性塗料を塗装して乾燥させることで形成される。塗膜が2層構成である場合は、例えば、プラズマ処理済硬化板の表面上に下塗水性塗料を塗装して乾燥させて下塗層を形成した後、得られた下塗層の表面上に上塗水性塗料を塗装して乾燥させることで形成される。
【0056】
水性塗料の塗布量は、好ましくは40〜200g/m・wet、より好ましくは150〜200g/m・wetである。
【0057】
塗膜が2層構成である場合、下塗水性塗料の塗布量は、好ましくは50〜150g/m・wet、より好ましくは80〜120g/m・wetであり、上塗水性塗料の塗布量は、好ましくは80〜200g/m・wet、より好ましくは120〜150g/m・wetである。
【0058】
水性塗料の塗装方法としては、特に限定されず、例えば、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等が挙げられる。
【0059】
(水性塗料)
水性塗料としては、例えば、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料などを用いることができる。水性塗料には、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を配合しておくことが好ましい。これにより、発色性を向上させることができる。
【0060】
体質顔料としては、例えば、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等を用いることができる。吸湿性樹脂としては、例えば、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等を用いることができる。また、水性塗料には、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の顔料を着色剤として配合することもできる。
【0061】
下塗水性塗料および上塗水性塗料としては、水性塗料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0063】
(離型剤)
表1に示す離型剤AないしDを用いた。
【0064】
【表1】
【0065】
(水性塗料)
・下塗水性塗料 :大日本塗料(株)製の「水性マイティーシーラーマルチ」を水と混合したものを用いた。
・上塗水性塗料 :大日本塗料(株)製の「ビューシリコン」を水と混合したものを用いた。
【0066】
また、プレス工程(a)を経て得られた成形グリーンシート、プラズマ処理工程(c)を経て得られたプラズマ処理済硬化板、および塗装工程(d)を経て得られた無機質板を用いて、離型性、撥水性、塗膜密着性の評価を行った。評価方法は下記のとおりである。
【0067】
(離型性の評価)
離型性は、プレス金型表面の付着物の有無の目視確認より、下記の2段階で評価した。
○:離型剤以外の付着物なし
×:離型剤以外の付着物あり
(撥水性の評価)
プラズマ処理済硬化板の表面に水を霧吹きで散布し、付着した水滴の形によって相対評価した。評価基準は下記のとおりである。
○:一様にぬれている
△:一部はじかれてぬれていない箇所がある
×:全て水玉状になっている
(塗膜密着性の評価)
温水60℃に8時間浸漬後、16時間風乾する処理を1サイクルとして、10サイクル実施した無機質板の塗膜面に対して布テープ(積水化学工業(株)製の「布テープ」)を1枚貼り付けた。次いで、貼り付けた布テープの表面をシリコンゴムで30往復擦った後、手前約45°方向に引っ張ることで塗膜面から布テープを剥離した。剥離した布テープの粘着面に付着した塗膜の面積を算出し、この面積を用いて下記式(2)より剥離面積率を算出した。この剥離面積率に基づいて下記の3段階の評価をした。
剥離面積率(%)=(剥離した布テープの粘着面に付着した塗膜の面積/布テープの粘着面の面積)×100・・・(2)
○: 剥離面積率<1%
△:1%≦剥離面積率≦3%
×:3%<剥離面積率
【0068】
〔実施例1、比較例5〕
(ポリマーセメント板の作製)
成形材料として、ポルトランドセメント44.15質量部、フライアッシュ30.0質量部、油性物質(スチレン)4.5質量部、軽量骨材(パーライト)18.5質量部、ポリプロピレン繊維1.2質量部、乳化剤(ソルビタンモノオレート)1.5質量部、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)0.05質量部、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)0.1質量部の固形分100質量部と、水43.0質量部の配合からなるセメント含有逆エマルジョン組成物を押出機に投入し、口金部材から押出し、ポリマーセメント板(疎水性のグリーンシート)を得た。グリーンシートのサイズは、0.5m×0.5m×0.2mtであった。ポリマーセメント板の水との接触角は97°であった。
【0069】
(プレス工程(a))
成形機のプレス面上に表2に示す離型剤をスプレーにより塗布した。この際、離型剤の塗布量は20g/mであった。次いで、グリーンシートを1MPaの条件でプレス成形することで、離型剤が付着したグリーンシート(成形グリーンシート)を得た。成形グリーンシートの表面を目視により観察したところ、表面全面は離型剤で覆われておらず、グリーンシートが露出している部位があった。
【0070】
得られた成形グリーンシートを用いて、離型性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0071】
(養生工程(b))
成形グリーンシートに、常圧下、100℃の温度で10時間の条件で養生硬化を施し、乾燥させて、離型剤が付着した硬化板(疎水性硬化板)を得た。
【0072】
(プラズマ処理工程(c))
疎水性硬化板をコンベア上に載置した後、コンベアの移動速度(処理速度)を表2に示す速度に調整し、疎水性硬化板の片面にコロナ放電処理を施し、プラズマ処理済硬化板を得た。得られたプラズマ処理済硬化板について、撥水性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
コロナ放電処理は、コロナ放電処理装置(パール工業(株)製の「PSCMECHA」)を用いて、コロナ放電方式(空気中)により下記の条件で行った。
・発振周波数:20kHz。
・方式:大気吹き出しコロナ。
・パルス周波数:100kHz。
・ワーク距離:10mm。
・処理回数:1回。
【0074】
(塗装工程(d))
プラズマ処理済硬化板のコロナ放電処理が施された側の面上に、下塗水性塗料をスプレーにより塗装し、熱風乾燥機を用いて、温度約100℃で約5分間乾燥して、下塗塗膜を形成した。次いで、上塗水性塗料をスプレーにより塗装し、熱風乾燥機を用いて、温度約100℃で約5分間乾燥して、上塗塗膜を形成し、無機質板を得た。下塗膜の厚さは、20μmであった。上塗膜の厚さは、10μmであった。得られた無機質板について、塗膜密着性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0075】
〔実施例2〜6、比較例1〜4〕
(繊維セメント板の作製)
成形材料として、ポルトランドセメント65.0質量部、珪石粉13.0質量部、フライアッシュ12.0質量部、軽量骨材(マイクロバルーン)5.0質量部、パルプ繊維1.5質量部、増量剤(硬化板の粉砕品)5.0質量部、増粘剤(メチルセルロース)0.3質量部および分散剤0.2質量部を乾式混合し、さらに固形分濃度が80質量%となるように水を配合し、それらをミキサーで混合分散することで、水硬性材料を得た。得られた水硬性材料を押出機に投入し、口金部材から押出し、繊維セメント板(親水性のグリーンシート)を得た。繊維セメント板の水との接触角は63°であった。
【0076】
(プレス工程(a))
表2に示す離型剤を用いた他は、〔実施例1、比較例5〕と同様にして、グリーンシートをプレス成形し、離型剤が付着したグリーンシート(成形グリーンシート)を得た。成形グリーンシートの表面を目視により観察したところ、表面全面は離型剤で覆われておらず、グリーンシートが露出している部位があった。
【0077】
得られた成形グリーンシートを用いて、離型性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0078】
(養生工程(b))
成形グリーンシートに、〔実施例1、比較例5〕と同様にして、養生硬化を施し、乾燥させて、離型剤が付着した硬化板(親水性硬化板)を得た。
【0079】
(プラズマ処理工程(c))
処理速度を表2に示す速度に調整した他は、〔実施例1、比較例5〕と同様にして、親水性硬化板の片面にコロナ放電処理を施し、プラズマ処理済硬化板を得た。得られたプラズマ処理済硬化板について、撥水性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0080】
(塗装工程(d))
プラズマ処理済硬化板のコロナ放電処理が施された側の面上に、〔実施例1、比較例5〕と同様にして、塗膜を形成して、無機質板を得た。得られた無機質板について、塗膜密着性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例1〜6では、プレス工程(a)において成形型のプレス面に離型剤を付着させ、かつプレス工程(a)および養生工程(b)をこの順で実行した後、プラズマ処理工程(c)において、離型剤が付着した硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行ったので、離型性、撥水性および塗膜密着性の評価において、「○」が3つ、または「○」が2つで「△」が1つであった。すなわち、実施例1〜6では、プレス成形時における離型性を保持しつつ、塗膜密着性を簡単に確保することができた。
【0083】
一方、比較例1〜5では、プレス工程(a)において成形型のプレス面に離型剤を付着させ、かつプレス工程(a)および養生工程(b)をこの順で実行した後、プラズマ処理工程(c)において、離型剤が付着した硬化板の表面にプラズマ処理にて親水性を付与する改質を行っていなかったので、離型性、撥水性および塗膜密着性の評価において、「×」を1つ以上含むか、「△」が2つ含むものであった。すなわち、比較例1〜5では、プレス成形時における離型性を保持しつつ、塗膜密着性を簡単に確保することができなかった。