特許第6552857号(P6552857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552857
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】ガス化炉
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/30 20060101AFI20190722BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   C10J3/30
   C10J3/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-69996(P2015-69996)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-190888(P2016-190888A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】加納 弘也
(72)【発明者】
【氏名】釜田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小寺 聖之
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−143983(JP,A)
【文献】 特表2013−506028(JP,A)
【文献】 実開昭57−174420(JP,U)
【文献】 特開2009−298979(JP,A)
【文献】 特開2004−051258(JP,A)
【文献】 特開2003−164749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガス供給部と水蒸気供給部とバイオマス供給装置とが炉壁に設けられ、炉内で水性ガス反応を生起するガス化炉であって、
前記バイオマス供給装置は、基端側にバイオマス投入口が形成され先端側が前記炉壁に接続された筒状のケーシングと、前記筒状のケーシングに内挿されたスクリュー羽根とを備え、前記バイオマス投入口に投入されたバイオマスを炉内に搬送供給するように構成され、搬送方向に沿って前記筒状のケーシングとスクリュー羽根の1ピッチ間で形成される区間の容積が基端側と比較して先端側で大きくなるように構成され、前記スクリュー羽根の支軸が前記スクリュー羽根の長さより短く構成されているガス化炉。
【請求項2】
前記スクリュー羽根のピッチが基端側と比較して先端側で長くなるように構成されている請求項1記載のガス化炉。
【請求項3】
記スクリュー羽根のピッチが基端側と比較して中間部で短くなり先端側で長くなるように構成されている請求項1記載のガス化炉。
【請求項4】
前記スクリュー羽根の先端が前記炉壁の内壁近傍まで延出形成されている請求項1からの何れかに記載のガス化炉。
【請求項5】
前記スクリュー羽根の先端が前記炉壁の内側に突出形成されている請求項1からの何れかに記載のガス化炉。
【請求項6】
搬送方向に沿って前記筒状のケーシング及び前記スクリュー羽根の径が基端側と比較して先端側で大きくなるように構成されている請求項1からの何れかに記載のガス化炉。
【請求項7】
前記炉壁で囲まれる炉本体は竪形に形成され、前記バイオマス供給装置は前記水蒸気供給部より上方位置で前記炉壁に接続されている請求項1からの何れかに記載のガス化炉。
【請求項8】
前記炉壁の外側が断熱材で覆われ、前記スクリュー羽根のうち少なくとも前記支軸より先端側が断熱材に覆われている請求項1から7の何れかに記載のガス化炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスからエネルギーの原料となるガスを得るガス化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスは再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものをいう。バイオマスが燃焼することにより放出されるCOは、本来、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収したCOであることから、地球温暖化の原因物質とはならないこともあり、再生可能なエネルギー源として注目されている。
【0003】
従来、さとうきびやトウモロコシ等の可食原料を発酵、ろ過してアルコールに転換し、代替燃料として利用する技術が確立されていたが、そのために可食原料の不足や価格の高騰を招く等の虞のあることから、近年、稲わら、もみ殻、木くず等の非可食原料をガス化炉に投入して水性ガス反応によりガス化し、得られたガスをFT合成により液体燃料化する技術が注目されている。
【0004】
一般に、バイオマスと水蒸気から一酸化炭素と水素を生成する水性ガス反応は吸熱反応であり、当該反応を促進するためにガス化炉の炉内温度は500℃〜1200℃に維持されている。
【0005】
特許文献1には、大気圧存在下の被移送物を負圧雰囲気の容器内に特別のシール装置を設けることなく移送することを目的とするゴミ焼却炉に用いるスクリューフィーダ装置が開示されている。当該スクリューフィーダ装置は、スクリューを排出口より少なくとも投入口側において欠除させている。そのため、被移送物は、後方から移送されてくる被移送物の押圧力のみにより移送され、そして、ケーシング内で圧密にされることで、圧密状態が促進され保持される。その結果、大気圧下の被移送物を負圧下の容器内に移送するにあたって、スクリューフィーダ装置内で圧密された被移送物により十分なシールを行うことができる効果があると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、バイオマスの粉粒体を定量供給する粉粒体供給装置が開示されている。当該粉粒体供給装置は、貯蔵する粉粒体を水平方向に沿って移送すると共に、移送された当該粉粒体を下方の開口部から送出させるホッパーと、ホッパーの開口部へ基端側が連結され、粉粒体を圧縮することなく先端側から送出する第一のスクリューフィーダと、第一のスクリューフィーダの先端側へ基端側が連結され、先端側を粉粒体で塞ぎながら当該粉粒体を先端側から送出する第二のスクリューフィーダとを備えている。
【0007】
第二のスクリューフィーダは、先端側のピッチ間隔を基端側よりも先端側ほど小さくなるように設定したスクリューを備え、或いは先端側の羽根高さを基端側よりも先端側ほど小さくなるように設定したスクリューを備え、当該スクリューの羽根高さに対応させて、先端側の直径を基端側よりも先端側ほど小さくなるようにテーパー状に形成されたケーシングを備えている。ケーシングの先端側をバイオマスで塞ぎながら当該バイオマスをケーシングの先端側から送出するように構成されている。
【0008】
そのため、ケーシングの内部とガス化炉の内部とをバイオマスで仕切ることができ、ガス化炉内のガス化剤が押し込みスクリューフィーダ内に逆流しにくくすることができると共に、シールガス送給装置から押し込みスクリューフィーダを介してガス化炉内に流出するシールガスの量を非常に少なくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−175626号公報
【特許文献2】特開2004−51258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載されたスクリューフィーダ装置を高温のガス化炉に用いると、スクリューフィーダの先端部から炉内に落下供給された後にスクリュー羽根のケーシング先端に形成される空洞部が高温に晒されて、ケーシング内の一部のバイオマスがガス化炉内に投入される前に熱分解されて固着し、或いは発生したタールがケーシングの内壁に付着して成長し、或いはバイオマスがタールや水蒸気の結露で濡れて固着するため、そのような状況が継続するとやがてスクリューフィーダが閉塞するという問題があった。ケーシング内の温度は炉内より若干低いため、タールや水蒸気が冷却されて付着固化するのである。
【0011】
特許文献2に記載されたスクリューフィーダは、ケーシングの先端側ほどバイオマスが圧密化されるようにスクリュー羽根のピッチが先端側ほど狭く構成され、あるいはケーシングが先端側ほど縮径されているため、シール性は優れるものの、ケーシングの内部先端側でバイオマスが熱分解して発生したタール成分がバイオマスに浸潤して温度低下することで塊状化して閉塞する虞があった。
【0012】
特にスクリューフィーダを間歇運転する場合には、停止時に塊状化が進んで次次作動する際に大きなトルクが発生して機械的な破損を招く虞もあった。
【0013】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、タール等による内部の詰りや供給不良を引き起こすことなく、バイオマスを安定して供給することが可能なバイオマス供給装置を備えたガス化炉を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明によるガス化炉の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、酸素ガス供給部と水蒸気供給部とバイオマス供給装置とが炉壁に設けられ、炉内で水性ガス反応を生起するガス化炉であって、前記バイオマス供給装置は、基端側にバイオマス投入口が形成され先端側が前記炉壁に接続された筒状のケーシングと、前記筒状のケーシングに内挿されたスクリュー羽根とを備え、前記バイオマス投入口に投入されたバイオマスを炉内に搬送供給するように構成され、搬送方向に沿って前記筒状のケーシングとスクリュー羽根の1ピッチ間で形成される区間の容積が基端側と比較して先端側で大きくなるように構成され、前記スクリュー羽根の支軸が前記スクリュー羽根の長さより短く構成されている点にある。
【0015】
筒状のケーシングとスクリュー羽根とで区画される空間にバイオマスが充填され搬送され、当該空間に充填されるバイオマスによって炉内に外気が流入しないようにシールされる。スクリュー羽根の支軸がスクリュー羽根の長さより短く構成されているので、スクリュー羽根の支軸の先端が、炉壁から基端側に控えられ、高温に晒されにくくなる。それにより、スクリュー羽根の支軸へのタールや水蒸気の結露を原因としたバイオマスの凝集付着が起きにくくなる。また、筒状のケーシングの先端側ではスクリュー羽根の支軸がないため、筒状のケーシングの先端側のバイオマスの充填率は、いっそう小さくなり、それにより、筒状のケーシングの先端側のバイオマスは、筒状のケーシングに凝集付着しにくくなり、安定して炉内に供給することができるようになる。
【0016】
また、単位長さ当たりの容積が基端側と比較して先端側で大きくなるので、筒状のケーシングの先端側に搬送されたバイオマスは基端側で圧密化された状態から先端側に搬送され開放されて解れた状態になる。筒状のケーシングの先端側で高温に晒された一部のバイオマスが熱分解されても、それほど圧密化されていないため、その周囲のバイオマスにタールが浸潤するまでに炉内に搬送されるようになる。また、一部のバイオマスがタールや水蒸気に濡れても、スクリュー羽根で炉内に搬送されるようになる。
【0017】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記スクリュー羽根のピッチが基端側と比較して先端側で長くなるように構成されている点にある。
【0018】
上述の構成によれば、筒状のケーシング内を搬送されるバイオマスの充填率は、筒状のケーシングの基端側より先端側で小さくなり、それにより、筒状のケーシングの基端側では、圧密のバイオマスによりシール性が確保されると同時に、圧密にされない筒状のケーシングの先端側のバイオマスは、筒状のケーシングに凝集付着しにくくなり、安定して炉内に供給することができるようになる。
【0019】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記スクリュー羽根のピッチが基端側と比較して中間部で短くなり先端側で長くなるように構成されている点にある。
【0020】
上述の構成によれば、筒状のケーシング内を移動するバイオマスの充填率は、筒状のケーシングの基端側より先端側で小さくなる。それにより、筒状のケーシングの先端側の圧密されない解れたバイオマスは、筒状のケーシングに凝集付着しにくくなり、安定して炉内に供給することができるようになる。さらに、筒状のケーシングの中間部のバイオマスの充填率は、基端側のそれより大きくなるため、シール効果が増し、ガス化炉内への外気の流入や、ガス化炉内のガス化剤の逆流を抑制することができる。
【0021】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記スクリュー羽根の先端が前記炉壁の内壁近傍まで延出形成されている点にある。
【0022】
上述の構成によれば、スクリュー羽根の先端が炉壁の内壁近傍まで延出形成されているため、スクリュー羽根によりバイオマスを機械的に直接押し出して炉内に供給できるようになる。また、炉壁の内壁近傍の筒状のケーシングの内壁にタール等が付着し、筒状のケーシングが閉塞するような事態となった場合であっても、筒状のケーシングに内挿され回転するスクリュー羽根により付着したタール等を剥ぎ取ることが可能である。そもそもスクリュー羽根が回転していることで、筒状のケーシングの内壁にはタール等が付着しにくくなっている。よって、バイオマスを定量的に確実に供給できるようになる。
【0023】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記スクリュー羽根の先端が前記炉壁の内側に突出形成されている点にある。
【0024】
上述の構成によれば、スクリュー羽根の先端が炉壁の内側にまで突出形成されているため、上述の第五の特徴構成によるものと同様の作用効果を、より確実に発揮できるようになる。
【0025】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、搬送方向に沿って前記筒状のケーシング及び前記スクリュー羽根の径が基端側と比較して先端側で大きくなるように構成されている点にある。
【0026】
上述の構成によれば、筒状のケーシング内を搬送されるバイオマスの充填率を、筒状のケーシングの基端側より先端側で小さくすることが可能である。それにより、筒状のケーシングの基端側で、圧密のバイオマスによりシール性が確保されると同時に、筒状のケーシングの先端側の圧密にされないバイオマスが、タール等により凝集し筒状のケーシングに付着しにくくなり、バイオマスを炉内に安定して供給することができるようになる。
【0027】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記炉壁で囲まれる炉本体は竪形に形成され、前記バイオマス供給装置は前記水蒸気供給部より上方位置で前記炉壁に接続されている点にある。
【0028】
上述の構成によれば、竪形の炉本体の炉壁に接続された水蒸気供給部より上方位置にあるバイオマス供給装置から炉内に供給されるバイオマスは、水蒸気供給部から供給される高温に熱せられた水蒸気の下方からの噴流により高効率で水性ガス反応をする。
【0029】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記炉壁の外側が断熱材で覆われ、前記スクリュー羽根のうち少なくとも前記支軸より先端側が断熱材に覆われている点にある。
【0030】
上述の構成によれば、スクリュー羽根の支軸は高温になりにくくなり、それによって、スクリュー羽根の劣化を抑制できる。また、スクリュー羽根の冷却機構の負荷を低減できるようになる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明した通り、本発明によれば、タール等による内部の詰りや供給不良を引き起こすことなく、バイオマスを安定して供給することが可能なバイオマス供給装置を備えたガス化炉を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明によるガス化炉の一部切欠き説明図
図2】(a)は本発明によるガス化炉の要部説明図、(b)は(a)のA−A線断面図
図3】供給量制御機構の説明図
図4】(a),(b),(c)はバイオマスのガス化反応の説明図、(d)は実験結果を示す表
図5】(a),(b),(c),(d)は別実施形態を示す本発明によるガス化炉の要部説明図
図6】(a),(b),(c)は本発明によるガス化炉に用いられるバイオマス供給装置の説明図
図7】本発明によるガス化炉が組み込まれたバイオマスの液体燃料化システムの説明図
図8】本発明によるガス化炉が組み込まれたエネルギー生成システムの説明図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明によるガス化炉の実施形態を説明する。
図7に示すように、本発明によるガス化炉10は、バイオマスを原料にして生成される合成ガスから液体燃料を生成する液体燃料化システム100に組み込まれることが可能なガス化炉である。尚、当該ガス化炉10で生成される合成ガスは、発電や他の熱源としても利用可能である。
【0034】
液体燃料化システム(BTLシステム)100は、バイオマスから液体燃料の原料となる合成ガスを生成するガス化炉10、生成された合成ガスから灰分等の固形物、硫化水素ガスや塩化水素ガス、アンモニア等を除去するサイクロン、スクラバー、活性炭吸着塔等からなるガス精製装置204を経て精製された合成ガスから燃料を合成するFT合成装置104を備えている。
【0035】
ガス化炉10は、炉温が500℃以上1000℃以下の高温下で、バイオマスを水蒸気或いは過熱水蒸気で還元加熱して合成ガス(H、CO)を生成する反応塔を備えている。反応塔で得られた合成ガスが後段のガス精製装置204で精製され、不純物が除去された後にヒータ及び圧縮機を介して高温高圧に加熱及び加圧されてFT合成装置104に投入される。
【0036】
FT合成とは、Fischer−Tropsch合成の略で、一酸化炭素と水素から触媒反応を用いて液体炭化水素を合成する一連の合成反応プロセスを指す。FT合成装置104に投入された合成ガスは、触媒が分散された溶媒中に投入されて所望の炭化水素に合成される。触媒の種類や性状により変化するが、例えば、メタノールを合成する場合には、水素と一酸化炭素の比率H/COは約2であることが好ましい場合もある。また本実施形態で軽油を合成する場合には水素と一酸化炭素の比率H/COは約1であることが好ましい。
【0037】
つまり、FT合成で所望の炭化水素を効率的に得るために、水素と一酸化炭素の比率H/COが調整されていることが好ましく、この比率は同じ種類の炭化水素を得る場合でもFT合成で使用される触媒の種類にも依存する。
【0038】
従って、様々な比率H/COで合成ガスが得られる汎用性の高いガス化炉10が望まれ、また合成ガスの収率が高くコンパクトなガス化炉10が望まれている。
【0039】
図1には、本発明によるガス化炉10の一例が示されている。
ガス化炉10は、フレームで支持され、耐食性の金属で構成された縦型円筒形状の反応塔4と、反応塔4にバイオマスを供給するバイオマス供給装置2と、水性ガス反応を生起するための水蒸気を反応塔4に供給する水蒸気供給部3と、反応塔4を所望の温度に加熱するとともに合成ガスである水素と一酸化炭素の比率H/COを調整する酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)とが設けられている。
【0040】
例えば高周波加熱等により常圧で約500℃程度に加熱された水蒸気とバイオマスとが反応塔4の内部で水性ガス反応や、水性ガスシフト反応して、反応塔4上部の排気口40から排気され、排気管42を経て上述したガス精製装置204(図7参照)に導かれる。水性ガス反応は主に反応塔4の下部で、水性ガスシフト反応は主に反応塔4を上昇する過程で生じる。ガス精製装置204(図7参照)には誘引送風機が設けられ、反応塔4内部が負圧に維持され、反応塔4内で生成されたガスがガス精製装置204(図7参照)に誘引されて精製される。
【0041】
バイオマス供給装置2は一端が反応塔4の下方にフランジ接続された筒状のケーシング20と筒状のケーシング20に収容されたスクリュー羽根21とを備えたスクリューコンベア機構で構成され、筒状のケーシング20(以下、単に「ケーシング」と記す。)の他端側にバイオマスの投入口22が設けられている。投入口22には略鉛直姿勢の搬送路70が接続され、その搬送路70の上端に定量供給機構71を備えたホッパー7が設けられている。
【0042】
原料となるバイオマスとして稲わら、もみ殻、麦わら、トウモロコシの茎葉等の乾燥系のバイオマスが好適に用いられる。数mm程度に破砕されたこれらの乾燥系のバイオマスがホッパー7に充填され、搬送路70を介して投入口22に搬送される。投入口22に投入されたバイオマスはスクリュー羽根21で圧密に搬送されて反応塔4に投入される。つまり、ケーシング20内が充填され圧密化されたバイオマスで外気と反応塔4内部との間がシールされる。
【0043】
バイオマス供給装置2の下方に第1酸素ガス供給部5(5a)が設けられ、第1酸素ガス供給部5(5a)の下方に水蒸気供給部3が設けられている。バイオマス供給装置2の上方にはさらに他の複数の酸素ガス供給部5(5b,5c)が上下方向位置を異ならせて設けられている。
【0044】
反応塔4には、塔内温度を維持するために反応塔4を囲むように断熱壁Wが設置されている。断熱壁Wの内側、特に反応塔4の下方には反応塔4を所望の温度に維持するために複数のヒータHが埋め込まれている(図2(b)参照)。
【0045】
図2(a)に示すように、バイオマス供給装置2から反応塔4の内部に供給されたバイオマスBは水蒸気供給部3の先端部に設けられたノズル30から噴射される水蒸気により反応塔4の内部で流動する噴流床8が形成される。
【0046】
ノズル30の開口30aが反応塔4の底部41に向かって噴射され、底部41に向かって落下したまたは落下中のバイオマスを巻き上げながら上方に吹き上げる。反応塔4の下部の噴流床8が形成される領域が主に水性ガス反応が行なわれる第1領域R1となる。更に第1領域の上方に主に水性ガスシフト反応が行なわれる第2領域R2(図1参照)が形成される。
【0047】
水性ガス反応とは、次式に示すように、500℃以上の高温環境下でバイオマスである固体炭素Cと水蒸気HOとから一酸化炭素COと水素Hが生成される吸熱反応をいう。
C+HO → CO+H
【0048】
水性ガスシフト反応とは、次式に示すように、800℃以上の高温環境下で一酸化炭素COと水蒸気HOとから二酸化炭素COと水素Hが生成される発熱反応をいう。
CO+HO → CO+H
【0049】
吸熱反応である水性ガス反応が500℃以上の高温環境下で促進されるために加熱源が必要になる。そのため、上述したヒータH及び酸素ガス供給部5(5a)が設けられている。
【0050】
図2(b)に示すように、反応塔4が断熱壁Wで囲まれた状態でヒータHに通電されることにより、反応塔4の内部が500℃以上に加熱される。
【0051】
図2(a)に戻り、その後、第1酸素ガス供給部5(5a)から供給される酸素ガスにより第1領域R1で流動しているバイオマスBの一部が燃焼して二酸化炭素になる発熱反応によって高温の環境温度が維持されるようになる。図2(a)で黒く塗りつぶされた粒子が燃焼したバイオマスである。つまり、ヒータHからの外部加熱やバイオマスBの一部の燃焼による内部加熱により温度が維持される。
C+O → CO
C+1/2・O → CO
【0052】
第1領域R1のうちバイオマス供給装置2の上方にも第2酸素ガス供給部5(5b)が設けられ、第2酸素ガス供給部5(5b)から供給される酸素によってもバイオマスが部分燃焼して環境温度が維持される。もちろんこれらの酸素ガス供給部5から供給される酸素ガス量は安定した水性ガス反応が行なわれるために十分な量でありバイオマスの殆どが燃焼して消失するような量ではない。
【0053】
バイオマス供給装置2から供給されたバイオマスBは加熱されることなく反応塔4に供給され、反応塔4内の下方へ落下するので、噴流床の最下部近傍の温度が最も低くなる。そのため、この近傍に第1酸素ガス供給部5(5a)が配置されることが重要となる。また、第1領域の内バイオマス供給装置2の上方でも十分な環境温度を維持するため第2酸素ガス供給部5(5b)の位置も重要となる。何故なら、基本的にヒータHは立上げ時の熱源として用いられ、その後は酸素ガスとバイオマスBの燃焼反応で環境温度が維持されるように構成されているからである。
【0054】
つまり、水蒸気供給部3はガスの流れ方向に沿ってバイオマス供給装置2より上流(図2では下方)に配置され、酸素ガス供給部5のうち第1領域R1に対応する酸素ガス供給部5aは、少なくともバイオマス供給装置2より上流側に配置されている。
【0055】
さらに、酸素ガス供給部5のうち第1領域R1に対応する酸素ガス供給部5bは、バイオマス供給装置2の下流側にさらに配置され、水蒸気供給部3は何れの酸素ガス供給部5より上流側に配置されている。
【0056】
第1領域R1でバイオマスから生成された合成ガス及びチャーや灰はそのガス流れ方向下流側の第2領域R2に上昇して上述した水性ガスシフト反応が促進される。第2領域R2の入口部に先端が下方を向くように第3酸素ガス供給部5(5c)が配置され、第3酸素ガス供給部5(5c)から供給される酸素ガスにより水性ガス反応で生成された一酸化炭素の一部が燃焼する。
CO+1/2・O → CO
【0057】
第2領域で主に行われる水性ガスシフト反応は発熱反応であるため、第3酸素ガス供給部5(5c)から供給される酸素ガスは環境温度の維持よりもむしろ水性ガス反応で生成される一酸化炭素と水素の比率の調整の意義が大きい。一酸化炭素の燃焼量が増せばそれだけ水素ガスの比率が大きくなるためである。
【0058】
尚、水性ガスシフト反応に必要な水蒸気は水蒸気供給部3から供給され、第1領域で水性ガス反応に寄与しなかった水蒸気が消費される。また、第3酸素ガス供給部5(5c)から供給される酸素ガスは燃焼して二酸化炭素になるだけであるため、反応塔4を上昇するガス流量は大きく変化することが無い。
【0059】
第1領域で生成されたガスとバイオマスまたはチャーや灰は第1領域R1と第2領域R2との間で連通部43を介して移動可能に構成されている。
【0060】
上述したように水蒸気供給部3から供給される水蒸気により水性ガス反応と水性ガスシフト反応に必要な水が供給されるとともに、第1領域でバイオマスの噴流床が形成されるように水蒸気の流量が調整されている。
【0061】
具体的に、第2領域R2のガス流速を第1領域R1のガス流速よりも低下させるガス流速調整部cが連通部43に形成されている。ガス流速調整部cは、内部のガス流に直交する平均断面積(図1においては紙面に直交する平面の反応塔の面積)が第1領域R1より第2領域R2の方が大きくなるように拡径形成された反応塔4の形状により具現化されている。
【0062】
この拡径は第1領域R1から第2領域R2へのガス流れを乱さないように、縮径することなく滑らかに拡径するとともに、拡径部にバイオマスや残渣が堆積しないように、鋭角に立ち上がるように形成されている。
【0063】
第1領域R1で生成されたガスが第2領域に到達すると、拡径形成された反応塔4の形状により、その上昇速度が低下し、ガスに同伴した未反応のバイオマスがバイオマス自体の重量で第1領域に落下するように設定されている。つまり、未反応のバイオマスの殆どが第1領域R1で水性ガス反応の原料となり、或いは酸素ガスにより燃焼して灰化される。灰化されると比重が小さくなり、水蒸気供給部3からの水蒸気により生じる噴流床でこの灰化したバイオマスの残渣残差も巻き上げられ、ガスに同伴して第2領域R2に上昇して排気口40からガスとともに排気される。従って、排気口40以外に残渣を取り出す専用の残差排出部を設ける必要がない。
【0064】
上述したガス流速調整部cにより第2領域R2を流れるガスの流速は十分に低下するため、水性ガスシフト反応のための時間は十分に確保できるようになる。従って、第2領域R2の長さをそれほど稼ぐ必要がなく、反応塔4がコンパクトに構成できるようになる。
【0065】
このように、反応塔4内に主に水性ガス反応が行なわれる第1領域R1と、主に水性ガスシフト反応が行なわれる第2領域R2をガス流れに沿って形成し、ガス化された軽量の灰を第2領域から排出することで、第1領域R1と第2領域R2とが別の装置でなく一体で構成され、コンパクトなガス化炉を得ることができる。
【0066】
図6(a),(b),(c)に基づいてバイオマス供給装置2について詳述する。
既に説明したが、バイオマス供給装置2は、基端側にバイオマス投入口22が形成され先端側がガス化炉1の炉壁に接続されたケーシング20と、ケーシング20に内挿されたスクリュー羽根21とを備え、バイオマス投入口22に投入されたバイオマスをガス化炉10(反応塔4)の内部に搬送供給するように構成されている。
【0067】
図6(a)に示すように、ケーシング20の基端側で、スクリュー羽根21を支持する支軸2cを回転駆動する電動モータ2dの駆動軸が歯車やプーリーからなる減速機構を介して連結されている。
【0068】
ケーシング20に内挿されたスクリュー羽根21が電動モータ2dの駆動により回転することにより、バイオマス投入口に投入されたバイオマスは、スクリュー羽根21に押されてケーシング20内を徐々に移動し、ケーシング20の先端側から炉内に搬送供給される。
【0069】
搬送方向に沿ってケーシング20とスクリュー羽根21の1ピッチ間で形成される区間の容積が基端側と比較して先端側で大きくなるように構成されている。具体的に、スクリュー羽根21のピッチが基端側と比較して先端側で長くなるように構成されている。スクリュー羽根21のピッチを基端側から先端側に次第に長くなるように構成されていてもよい。さらに区間を区切ってピッチが段階的に長くなるように構成されていてもよい。ケーシング20の内でタールが生成されやすい300〜400℃に昇温される部位辺りからピッチを長くなるように構成されることが好ましい。
【0070】
ケーシング20とスクリュー羽根21とで区画される空間にバイオマスが充填され搬送され、当該空間に充填されるバイオマスによって炉内に外気が流入しないようにシールされる。単位長さ当たりの容積が基端側と比較して先端側で大きくなるので、ケーシング20のバイオマスは基端側で圧密化された状態から先端側に搬送され、開放されて解れた状態になる。
【0071】
ガス化炉1の反応塔4内は500℃以上の高温状態に維持され、ケーシング20の先端側では、常時500℃以上の高温に晒されている。300〜400℃を超えるところではバイオマスが熱分解されてタールが生成されるようになる。
【0072】
ケーシング20の先端側で高温に晒された一部のバイオマスが熱分解されても、バイオマスはそれほど圧密化されていないため、熱分解により生じたタールが周囲のバイオマスに浸潤するまでに炉内に搬送されるようになる。また、一部のバイオマスが水蒸気に濡れてケーシング20に付着しても、スクリュー羽根により炉内に搬送されるようになる。
【0073】
スクリュー羽根21の支軸2cがスクリュー羽根21の軸方向長さより短く構成され、スクリュー羽根21の先端側に支軸2cが欠如したシャフトレス部2eが形成されている。
【0074】
そのため、スクリュー羽根21の支軸2cは高温に晒され難くなり、支軸2cに特段の冷却機構を設ける必要がなくなる。また支軸2cは伝熱により周囲の雰囲気より冷たくなるので、反応塔4の近くまで来ると結露やタール付着の虞があるが、シャフトレス部2eを設けることで付着面積も減り、結露やタール付着の虞が低減する。もし、スクリュー羽根21に冷却機構を設ける場合でも支軸2cが短くなり冷却機構の負荷を低減できるようになる。ケーシング20の先端側ではスクリュー羽根21の支軸2cがないため、ケーシング20の先端側ではバイオマスが搬送されるケーシング20の空間がより一層広くなる。そのため、バイオマスの圧密化がさらに低減されるようになる。
【0075】
スクリュー羽根21の先端が炉壁の内壁近傍まで延出形成されている。そのため、仮にケーシング20の内壁に搬送中のバイオマスの熱分解によって発生したタールが付着しても、そのまま固化することなくスクリュー羽根21の外周部及び搬送中のバイオマスにより掻き落とされてバイオマスとともに炉内に搬送される。スクリュー羽根21の先端が炉壁の内側に突出形成されていると、さらに確実にケーシング20の内壁をクリーニングできるようになる。しかし、突出形成されたスクリュー羽根21は500℃を超える温度にさらされるため損傷の虞が高く、内壁近傍までの延出がより良いのである。
【0076】
図6(b)に示すように、スクリュー羽根21のピッチが基端側と比較して中間部2iで短くなり先端側で長くなるように構成してもよい。ケーシング20の基端側のピッチ短縮部2jでは、ケーシング20の基端側から先端側に向けて、ピッチが次第に短くなっている。一方、ケーシング20の先端側のシャフトレス部2eやピッチ延長部2hでは、ケーシング20の基端側から先端側に向けて、ピッチが次第に長くなっている。
【0077】
これにより、ケーシング20内を移動するバイオマスの充填率は、ケーシング20の先端側で小さくなり、それにより、ケーシング20の先端側の圧密にされないバイオマスは、ケーシング20に凝集付着しにくくなり、安定して炉内に供給することができるようになる。さらに、ケーシング20の中間部2iのバイオマスの充填率は、基端側のそれより大きくなるため、シール効果が増し、ガス化炉1内への外気の流入や、ガス化炉1内のガス化剤の逆流を抑制することができる。
【0078】
図6(c)に示すように、搬送方向に沿ってケーシング20及びスクリュー羽根21の径が基端側と比較して先端側で大きくなるように構成してもよい。
【0079】
この構成によれば、ケーシング20内を搬送されるバイオマスの充填率を、スクリュー羽根のピッチを変えることなくケーシング20の基端側より先端側で小さくすることが可能である。それにより、ケーシング20の基端側で、圧密のバイオマスによりシール性が確保されると同時に、ケーシング20の先端側の圧密にされないバイオマスが、タール等により凝集しケーシング20に付着しにくくなり、バイオマスを炉内に安定して供給することができるようになる。
【0080】
炉壁の外側は断熱材で覆われている。スクリュー羽根21のうち少なくとも支軸2cより先端側であるシャフトレス部2eが断熱材に覆われるように構成してもよい。
【0081】
こうすることで、スクリュー羽根21の支軸2cは高温になりにくくなり、それによって、スクリュー羽根21の劣化を抑制できる。また、スクリュー羽21の支軸2cが断熱材に覆われないので支軸2cに冷却機構を設ける場合も冷却機構の負荷を低減できるようになる。冷却機構としては、支軸2cやスクリュー羽根21に冷却水や冷却風等を通す方法がある。
【0082】
図3に示すように、上述したガス化炉10で進行するバイオマスのガス化プロセスを管理して制御するプロセス制御部60がさらに設けられている。プロセス制御部60は汎用コンピュータと、汎用コンピュータにインストールされた制御プログラムと、拡張ボードを備えて構成されている。拡張ボードには第1領域R1に設置された第1温度センサS3、第2領域R2に設置された第2温度センサS4、排気管42に設置された水素ガスセンサS1及び一酸化炭素ガスセンサS2からの検出信号が入力される入力回路、バイオマス供給装置2のスクリュー羽根21を回転制御するモータへの駆動信号、水蒸気源から水蒸気供給部3に供給される水蒸気流量を調整する制御バルブV1、酸素ガス源から各酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)へ供給される酸素ガス量を調整する制御バルブVa,Vb,Vcの開度調整信号が出力される出力回路が設けられている。
【0083】
プロセス制御部60には、各酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)から供給される酸素ガスの供給量を個別に調整制御する供給量調整機構50が組み込まれている。供給量調整機構50は、反応塔4から流出するガスの組成を測定する水素ガスセンサS1及び一酸化炭素ガスセンサS2からの検出信号に基づいて、ガス組成が目標ガス組成になるように、つまり水素と一酸化炭素の比率H/COが所望の比率になるように、酸素ガス供給部5から第1領域R1及び第2領域R2の夫々に供給する酸素ガスの供給量を調整するように構成されている。
【0084】
図4(a)に示すように、第1領域R1に備えた第1酸素ガス供給部5aから供給される酸素ガスは、水性ガス反応により低下する温度を補償するために主にバイオマスの燃焼つまり固体炭素の燃焼に費やされる。その結果発生する燃焼温度により環境温度が上昇して水性ガス反応が促進されるが、固体炭素の燃焼により発生する一酸化炭素CO及び二酸化炭素CO濃度も上昇するため、相対的に水素と一酸化炭素の比率H/COが小さくなる。この傾向は第1酸素ガス供給部5aからの酸素の供給量を増すほど強くなる。
【0085】
第1領域R1の下流側に備えた第2酸素ガス供給部5bから供給される酸素ガスは、上流側で生じた水性ガス反応により低下する温度を補償するために供給される。第1酸素ガス供給部5aから供給される酸素ガスと同様のメカニズムが働くが、既に水性ガス反応で生じた一酸化炭素と水蒸気との間で生じる水性ガスシフト反応もある程度促進される。つまり、第2酸素ガス供給部5bから供給される酸素ガス供給量により固体炭素の燃焼と水性ガスシフト反応との間のバランスが調整される。
【0086】
図4(b)に示すように、第2領域R2に備えた第3酸素ガス供給部5cから供給される酸素ガスは、主に第1領域R1で行われた水性ガス反応で生じた一酸化炭素CO、または燃焼反応で生じた一酸化炭素COの燃焼や水性ガスシフト反応に費やされる。その結果、環境温度が上昇して水性ガスシフト反応が促進される。結果、水素ガスH濃度が上昇するため、相対的に水素と一酸化炭素の比率H/COが大きくなる。この傾向は酸素の供給量を増すほど強くなる。
【0087】
図4(c)に示すように、3系統の酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)から供給される酸素ガス量を調整することにより、水素と一酸化炭素の比率H/COを所望の比率に調整できるようになる。
【0088】
尚、図4(a),(b),(c)に示すガス組成を囲み円の面積は、生成されるガスの概略の比率が示されている。
【0089】
図4(d)には、上述したガス化炉10を用いて3系統の酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)から供給される酸素ガス量を様々に調整して操炉した結果、生成されたガスの種類及びその量が示されている。
【0090】
RunNo.1はガス化炉10への供給酸素ガスの総量一定の下で、各ガス供給部へ均等比率で供給した結果が示され、RunNo.2は供給酸素ガスの総量一定の下で、第3ガス供給部5cへの供給量を相対的に増加するように供給した結果が示され、RunNo.3は供給酸素ガスの総量一定の下で、第2ガス供給部5bへの供給量を相対的に増加するように供給した結果が示され、RunNo.4は供給酸素ガスの総量一定の下で、第1ガス供給部5aへの供給量を相対的に増加するように供給した結果が示されている。
【0091】
水素と一酸化炭素の比率H/COに注目すると、第3ガス供給部5cへの供給量を相対的に多くしたRunNo.2では、均等に供給したRunNo.1に比べて比率H/COが大きくなり、第1ガス供給部5aへの供給量を相対的に多くしたRunNo.4では、均等に供給したRunNo.1に比べて比率H/COが小さくなることが確認され、第2ガス供給部5bへの供給量を相対的に多くしたRunNo.3では、均等に供給したRunNo.1に比べて比率H/COが小さくなり、RunNo.4と同様の傾向が表れることが確認できる。
【0092】
つまり、供給量調整機構50は、測定されたガス組成が目標ガス組成になるように、酸素ガス供給部5から供給される酸素ガスの総量を一定に維持しながら、第1領域及び第2領域の夫々に供給する供給量の比率を調整するように構成されている。
【0093】
具体的には、第2領域R2への酸素ガス供給量を増やすとHを相対的に増やすことができ、第1領域R1への酸素ガス供給量、さらに言えば、第1領域R1の上流側への酸素ガス供給量を増やすとCOを相対的に増やすことができる。
【0094】
例えば、バイオマスの組成や含水率に基づいて、反応塔4内を水性ガス反応及び水性ガスシフト反応を促進するために必要な環境温度に維持するために必要な入熱量を算出して、その入熱量が領域R1,R2毎にバイオマスの燃焼熱及び/または一酸化炭素の燃焼熱で得られるように酸素ガスの総量を定め、定めた総量を一定に維持しながら、第1領域及び第2領域の夫々に供給する供給量の比率を調整するのである。
【0095】
本発明によるガス化炉10に備えた供給量調整機構50は、上述した制御態様以外に第1温度センサS3及び第2温度センサS4により検出される第1領域R1及び/または第2領域R2の温度が所定の環境温度になるように各酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)から供給される酸素ガス量を調整することも可能である。この場合も、水素ガスセンサS1、一酸化炭素ガスセンサS2で測定されたガス組成が目標ガス組成になるように各酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)から供給される酸素ガス量が調整されることが前提となる。
【0096】
尚、温度センサやガスセンサは数を増やすことで、より精度良く酸素ガス量の調整が可能になり、温度や水素、一酸化炭素と比率の調整も精度良くできるようになる。
【0097】
プロセス制御部60は、供給量調整機構50によりガス組成が目標ガス組成になるように制御できない場合や、ガス組成が目標ガス組成になってもガス量が低下するような場合に、バイオマス供給装置2から供給されるバイオマスの供給量及び/または水蒸気供給部3から供給される水蒸気供給量を増減調整するように構成されている。
【0098】
そして、供給量調整機構50はバイオマスの供給量及び/または水蒸気供給量の変動に基づいて必要な酸素ガス供給量や供給量の比率を調整するように構成されている。
【0099】
本発明によるガス化炉を用いると、各酸素ガス供給部5(5a,5b,5c)から供給される酸素ガス量を調整することにより、水素と一酸化炭素の比率H/COが約2の合成ガスや、水素と一酸化炭素の比率H/COが約1の合成ガスが得られるようになる。
【0100】
以下、本発明によるガス化炉の別実施形態を説明する。
上述した実施形態では反応塔4が縦型円筒形状に構成された例を説明したが、反応塔4が縦型であれば楕円筒状であっても角筒状であってもよい。
【0101】
上述した実施形態では連通部43に形成されたガス流速調整部cとなる拡径部に、第1領域R1から第2領域R2に次第に拡径するテーパー部を形成しているが、テーパー部の角度は鈍角に形成されることが好ましい。急激に拡径すると剥離流が生じて段差部に灰等が蓄積されて流速の低下が妨げられる虞があるためである。
【0102】
上述した実施形態は、噴流床式のガス化炉について説明したが、流動床式のガス化炉に適用することも可能である。また、噴流床式のガス化炉であっても噴流床に僅かに珪砂やセラミック粒子を混入し、噴流床でバイオマスが破砕されるように構成することで水性ガス反応が促進されるようになる。
【0103】
上述した実施形態では、外部熱源であるヒータを炉の立上げ時に使用する例を説明したが、水性ガス反応を促進するために外部熱源であるヒータを使用してもよい。この場合でも酸素ガス供給部を備えることにより、ヒータに要する電力コストは大幅に低減できる。
【0104】
尚、外部熱源であるヒータ等外部から追加のエネルギー投入を無くし、バイオマスのみでガス化炉の運転ができるのがより良い形態である。
【0105】
上述した実施形態では、ガス供給機構5が3系統で構成された例を説明したが、図1に破線で示したように、さらに別系統のガス供給機構5dを備えてもよい。このようなガス供給機構5dは第1領域R1のみならず第2領域R2に備えてもよい。ガス供給機構を増やすことで、より細かな反応塔4内の温度調整と水素と一酸化炭素の成分比の制御が可能になる。
【0106】
上述した実施形態では、第1及び第2ガス供給機能5a,5bから酸素ガスが反応塔4の周壁の一か所から垂直に供給され、第3ガス供給機能5cから酸素ガスが反応塔4の周壁の一か所から斜め下方に供給される態様を説明したが、このような態様に限るものではない。
【0107】
例えば、図5(a)に示すように、ガス供給機構5に反応塔4を囲繞するようにヘッダー管50を備え、ヘッダー管50に形成された複数のガス供給管51から反応塔4の内壁に沿って供給して旋回流を生起させる向きに供給するように構成してもよいし、図5(b)に示すように、複数のガス供給管51から反応塔4の中心に向けて衝突する向きに供給するように構成してもよい。
【0108】
また、図5(c),(d)に示すように、反応塔4の軸心方向に対して下方または上方に向けて供給するように構成してもよい。図5(c)の態様は、図1に示した第3ガス供給機能5cと同じであるが、これと図5(a),(b)で示した態様とを組み合わせてもよい。図5(d)の態様も同様であり、特に第1ガス供給機能5aに好適な態様となる。
【0109】
ガス供給機構5から供給される酸素ガスは純度の高い酸素ガス以外に、例えば大気に酸素を加えた酸素富化ガスを用いることも可能である。
【0110】
上述した実施形態では、水蒸気は常圧での過熱水蒸気を用いる例を説明したが、加圧水蒸気でもよく、飽和水蒸気でもよい。尚、上述したような常圧の反応塔の場合は、常圧の過熱水蒸気が反応塔の内部での水蒸気の膨張や水蒸気製造のコストを考えると良い。
【0111】
上述した実施形態では、反応塔4の内部が一律に500℃以上に維持される態様を説明したが、水性ガス反応と水性ガスシフト反応それぞれで必要な温度に合わせ、反応塔4内に温度分布を持たせるように、つまり主に水性ガス反応が行なわれる第1領域R1と主に水性ガスシフト反応が行なわれる第2領域R2で異なる温度分布になるように構成してもよい。このようにすると各反応に必要な温度が確保できるとともにエネルギーの消費を抑えることができる。
【0112】
上述した実施形態では、バイオマスを原料にして合成ガスを生成して液体燃料を合成するシステムを説明したが、ガス化炉で精製された合成ガスはガス燃料として発電等に利用でき、合成ガスの利用方法などはどのようなものであってもよい。
【0113】
上述した実施形態では、排気口40を第2領域である反応塔4の上部の空間に繋がる反応塔4の頂部に備えた例を説明したが、排気口40は第2領域に繋がっていればよく、例えば反応塔4の上部側方に設けてもよい。
【0114】
上述した実施形態では、原料となるバイオマスとして稲わら、もみ殻、麦わら、トウモロコシの茎葉等の乾燥系のバイオマスを用いる例を説明したが、木くず、バーク、竹等を用いることも可能である。ちなみに、もみ殻は比重約0.1、含水率約10%、バークは比重約0.6、含水率約60%、竹は比重約0.7、含水率約25%であり、様々な性状のバイオマスに対応できる。
【0115】
上述した実施形態では、ガス化炉から発生するチャーはガス化炉内で水性ガス反応に利用されるのであるが、図8に示すように、ガス化10炉から発生するチャーをサイクロン等からなるチャー分離装置201で分離し、分離したチャーを燃料に用いた燃焼炉202で温水を発生させ、その温水を合成ガスの保有熱で加熱して蒸気を生成する廃熱ボイラ203を設けて、得られた水蒸気をガス化炉10に利用する等、システム全体としてエネルギー効率を向上するようにしてもよい。尚、符号204はガス精製装置であり、符号205は発電装置またはFT合成装置等を示す。
【0116】
上述した様々な実施形態は、本発明によるガス化炉の一具体例を説明したに過ぎず、当該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0117】
1:ガス化炉
2:バイオマス供給装置
2c:支軸
2d:電動モータ
2e:シャフトレス部
2h:ピッチ延長部
2i:中間部
2j:ピッチ短縮部
3:水蒸気供給部
4:反応塔
5:酸素ガス供給部
5a:第1酸素ガス供給部
5b:第2酸素ガス供給部
5c:第3酸素ガス供給部
10:ガス化炉
20:筒状のケーシング
21:スクリュー羽根
40:排気口
43:連通部
101:サイクロン
102:スクラバー
103:活性炭吸着塔
104:FT合成装置
c:ガス流速調整部
H:ヒータ
R1:第1領域
R2:第2領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8