特許第6552859号(P6552859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552859
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】荷電粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   A61N5/10 H
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-71477(P2015-71477)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-189909(P2016-189909A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年9月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】立川 敏樹
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−161716(JP,A)
【文献】 特開2014−020800(JP,A)
【文献】 特開2014−150880(JP,A)
【文献】 特開2011−177327(JP,A)
【文献】 特開2012−083145(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090614(WO,A1)
【文献】 特開昭63−249578(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0290299(US,A1)
【文献】 特開平11−233300(JP,A)
【文献】 特開2006−034582(JP,A)
【文献】 特開2005−148033(JP,A)
【文献】 特開2008−104888(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/196052(WO,A1)
【文献】 特開2013−062193(JP,A)
【文献】 特表2011−526504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線を患者の体内の被照射体へ照射する照射部と、
前記荷電粒子線のエネルギーを調整することで前記患者の体表からの前記荷電粒子線の到達深さである飛程を調整可能とした場合に、前記照射部から照射される前記荷電粒子線のエネルギーを測定するエネルギー測定部と、
前記エネルギー測定部によって測定されたエネルギーの測定値に基づいて、前記照射部から照射される前記荷電粒子線のエネルギーを調整するエネルギー変動調整部と、
前記荷電粒子線のエネルギーを低下させて前記荷電粒子線の飛程を調整する飛程調整部と、を備え、
前記エネルギー変動調整部は、
前記飛程調整部よりも上流側に設けられ、
前記飛程調整部よりも高精度に前記荷電粒子線のエネルギーを調整可能であり、
前記エネルギー測定部は、前記照射部から照射された後の荷電粒子線のエネルギーを測定する、
荷電粒子線治療装置。
【請求項2】
前記エネルギー変動調整部は、
前記加速器から出射された前記荷電粒子線を通過させると共に当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる複数のエネルギー低下部と、
各々の前記エネルギー低下部を、前記荷電粒子線の通過経路上の位置と、前記通過経路から退避された退避位置と、で移動させる駆動部と、を有する、請求項1に記載の荷電粒子線治療装置。
【請求項3】
前記エネルギー変動調整部は、
前記加速器から出射された前記荷電粒子線を通過させると共に当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる複数のエネルギー低下部と、
各々の前記エネルギー低下部を、前記荷電粒子線の通過経路上の位置と、前記通過経路から退避された退避位置と、で移動させる駆動部と、を有し、
前記エネルギー低下部は、前記飛程調整部に設けられた減衰材の最少厚よりもその厚さが小さい、請求項1に記載の荷電粒子線治療装置。
【請求項4】
前記エネルギー測定部は、治療台の位置または前記治療台上に設置される水ファントムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の荷電粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被照射体に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線治療装置として、例えば、特許文献1に記載された荷電粒子線治療装置が知られている。この荷電粒子線治療装置では、サイクロトロン2(加速器)から出射されたビームのエネルギーをデグレーダ10で調整(低下)させて、ビームの飛程(患者体内でのビームの到達位置)を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/090614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ビームの飛程を高精度に調整するためにはビームのエネルギーを高精度に調整することが求められる。例えば、加速器のメンテナンス等によって加速器から出力されるエネルギーが僅かに変動する場合がある。そうすると、その変動に対応してビームの飛程が変動してしまうので、このような飛程の変動を抑えることが望まれる。そこで本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ビームの飛程を高精度に調整することができる荷電粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の荷電粒子線治療装置は、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部と、照射部から照射される荷電粒子線のエネルギーを測定するエネルギー測定部と、エネルギー測定部によって測定されたエネルギーの測定値に基づいて、加速器から出射される荷電粒子線のエネルギーの変動を調整するエネルギー変動調整部と、を備える。
【0006】
また、本発明の荷電粒子線治療装置は、荷電粒子線のエネルギーを低下させて荷電粒子線の飛程を調整する飛程調整部を更に備え、エネルギー変動調整部は、飛程調整部よりも上流側に設けられることとしてもよい。
【0007】
また、エネルギー変動調整部は、加速器から出射された荷電粒子線を通過させると共に当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる複数のエネルギー低下部と、各々のエネルギー低下部を、荷電粒子線の通過経路上の位置と、通過経路から退避された退避位置と、で移動させる駆動部と、を有することとしてもよい。
【0008】
また、本発明の荷電粒子線治療装置は、荷電粒子線のエネルギーを低下させて荷電粒子線の飛程を調整する飛程調整部を更に備え、エネルギー変動調整部は、加速器から出射された荷電粒子線を通過させると共に当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる複数のエネルギー低下部と、各々のエネルギー低下部を、荷電粒子線の通過経路上の位置と、通過経路から退避された退避位置と、で移動させる駆動部と、を有し、エネルギー低下部は、飛程調整部に設けられた減衰材の最少厚よりもその厚さが小さいこととしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビームの飛程を高精度に調整することができる荷電粒子線治療装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る荷電粒子線照射装置の一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、制御部の機能を示すブロック構成図である。
図3図3は、パラメータ準備段階の処理内容を示すフローチャートである。
図4図4は、層切り替え時の処理内容を示すフローチャートである。
図5図5は、パラメータ設定、及び、荷電粒子線の照射イメージを示す図である。
図6図6は、エネルギー変動調整部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、「上流」「下流」の語は、出射する荷電粒子線の上流(加速器側)、下流(患者側)をそれぞれ意味している。
【0012】
図1に示すように、荷電粒子線治療装置1は、放射線療法によるがん治療等に利用される装置であり、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器11と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射ノズル12(照射部)と、加速器11から出射された荷電粒子線を照射ノズル12へ輸送するビーム輸送ライン13(輸送ライン)と、ビーム輸送ライン13に設けられ、荷電粒子線のエネルギーを低下させて荷電粒子線の飛程を調整するデグレーダ18と、ビーム輸送ライン13に設けられた複数の電磁石25と、複数の電磁石25のそれぞれに対応して設けられた電磁石電源27と、荷電粒子線治療装置1全体を制御する制御部30と、を備えている。本実施形態では、加速器11としてサイクロトロンを採用するが、これに限定されず、荷電粒子線を発生させるその他の発生源、例えば、シンクロトン、シンクロサイクロトン、ライナック等であってもよい。
【0013】
荷電粒子線治療装置1では、治療台22上の患者Pの腫瘍(被照射体)に対して加速器11から出射された荷電粒子線の照射が行われる。荷電粒子線は電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線等がある。本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1は、いわゆるスキャニング法により荷電粒子線の照射を行うものであり、被照射体を深さ方向に仮想的に分割(スライス)し、スライス平面(層)毎に、層上の照射範囲に対して、荷電粒子線の照射を行う(例えば図5参照)。
【0014】
なお、スキャニング法による照射方式として、例えばスポット式スキャニング照射、及び、ラスター式スキャニング照射がある。スポット式スキャニング照射は、照射範囲である、一のスポットへの照射が完了すると、一度ビーム(荷電粒子線)照射を止め、次のスポットへの照射準備が整った後に次のスポットへの照射を行う方式である。これに対し、ラスター式スキャニング照射は、同一層の照射範囲については、照射を途中で止めることなく、連続的にビーム照射を行う方式である。このように、ラスター式スキャニング照射は、同一層の照射範囲については連続的にビーム照射が行われるものであるため、スポット式スキャニング照射と異なり、照射範囲は複数のスポットから構成されるものではない。以下では、スポット式スキャニング照射により照射を行う例を説明することとし、同一層上の照射範囲は複数のスポットからなることとして説明するが、これに限定されず、ラスター式スキャニング照射により照射を行う場合には、上述したように照射範囲はスポットから構成されるものではなくてもよい。
【0015】
照射ノズル12は、治療台22の周りを360度回転可能な回転ガントリ23の内側に取り付けられており、回転ガントリ23によって任意の回転位置に移動可能とされている。照射ノズル12には、収束電磁石19(詳細は後述)、スキャニング電磁石21、真空ダクト28が含まれている。スキャニング電磁石21は、照射ノズル12の中に設けられている。スキャニング電磁石21は、荷電粒子線の照射方向と交差する面においてX方向へ荷電粒子線を走査するX方向走査電磁石と、荷電粒子線の照射方向と交差する面においてX方向と交差するY方向へ荷電粒子線を走査するY方向走査電磁石と、を有している。また、スキャニング電磁石21により走査された荷電粒子線はX方向及び/又はY方向へ偏向されるため、スキャニング電磁石よりも下流側の真空ダクト28は、その径が下流側ほど拡大されている。
【0016】
ビーム輸送ライン13は、荷電粒子線が通る真空ダクト14を有している。真空ダクト14の内部は真空状態に維持されており、輸送中の荷電粒子線を構成する荷電粒子が空気等により散乱することを抑制している。
【0017】
また、ビーム輸送ライン13は、加速器11から出射された所定のエネルギー幅を有する荷電粒子線から所定のエネルギー幅よりも狭いエネルギー幅の荷電粒子線を選択的に取り出すESS(Energy Selection System)15と、ESS15によって選択されたエネルギー幅を有する荷電粒子線を、エネルギーが維持された状態で輸送するBTS(Beam Transport System)16と、BTS16から回転ガントリ23に向けて荷電粒子線を輸送するGTS(Gantry Transport System)17と、を有している。
【0018】
デグレーダ(飛程調整部)18は、通過する荷電粒子線のエネルギーを低下させて当該荷電粒子線の飛程を調整する。患者の体表から被照射体である腫瘍までの深さは患者ごとに異なるため、荷電粒子線を患者に照射する際には、荷電粒子線の到達深さである飛程を調整する必要がある。デグレーダ18は、加速器11から一定のエネルギーで出射された荷電粒子線のエネルギーを調整する(エネルギーの低減量を調整する)ことにより、患者体内の所定の深さにある被照射体に荷電粒子線が適切に到達するように調整する。このようなデグレーダ18による荷電粒子線のエネルギー調整は、被照射体をスライスした層毎に行われる。例えば、デグレーダ18は、通過する荷電粒子線のエネルギーを低下させる減衰材を有し、荷電粒子線が通過する減衰材の厚みを調整することで荷電粒子線のエネルギーの低下量を調整する。また、減衰材の厚みを調整する方法として、減衰材の厚みをリニア又は段階的に変化した形状とし、減衰材の所望の厚みの部位をビームBの通過経路上に挿入するようにしてもよい。また、減衰材の厚みを調整する他の方法として、複数の減衰材を設け荷電粒子線を通過させる減衰材の枚数を調整するようにしてもよい。
【0019】
電磁石25は、ビーム輸送ライン13に複数設けられるものであり、磁場によってビーム輸送ライン13で荷電粒子線を輸送することができるように、当該荷電粒子線の調整を行うものである。電磁石25として、輸送中の荷電粒子線のビーム径を収束させる収束電磁石19、及び荷電粒子線を偏向させる偏向電磁石20が採用される。なお、以下では収束電磁石19及び偏向電磁石20を区別せずに電磁石25と記載する場合がある。また、電磁石25は、少なくともビーム輸送ライン13のうちデグレーダ18よりも下流側に複数設けられる。ただし、本実施形態では、電磁石25は、デグレーダ18よりも上流側にも設けられる。ここでは、電磁石25として収束電磁石19が、デグレーダ18によるエネルギー調整前の荷電粒子線のビーム径を収束させるために、デグレーダ18の上流側にも設けられている。電磁石25の総数は、ビーム輸送ライン13の長さ等により柔軟に変更が可能であり、例えば、10〜40程度の数とされる。なお、図1中には電磁石電源27が一部のみ記載されているが、実際には、電磁石25の数と同数、設けられている。
【0020】
デグレーダ18及び電磁石25のビーム輸送ライン13中における位置は特に限定されないが、本実施形態では、ESS15には、デグレーダ18、収束電磁石19、及び偏向電磁石20が設けられている。また、BTS16には収束電磁石19が設けられており、GTS17には収束電磁石19及び偏向電磁石20が設けられている。なお、デグレーダ18は、上述したように加速器11と回転ガントリ23との間であるESS15に設けられており、より詳細には、ESS15のうち回転ガントリ23よりも加速器11側(上流側)に設けられている。
【0021】
電磁石電源27は、対応する電磁石25に電流を供給することによって電磁石25の磁界を生じさせる。電磁石電源27は、対応する電磁石25に供給する電流を調整することにより、対応する電磁石25の磁場の強さを設定可能である。電磁石電源27は、制御部30からの信号に応じて電磁石25に供給する電流を調整している(詳細は後述)。電磁石電源27は、各電磁石25それぞれに一対一で対応するように設けられている。すなわち、電磁石電源27は、電磁石25の数と同数、設けられている。
【0022】
被照射体の各層の深さと電磁石25に供給される電流との関係は以下のとおりである。すなわち、各層の深さから、各層に荷電粒子線を照射するために必要な荷電粒子線のエネルギーが決まり、デグレーダ18によるエネルギー調整量が決まる。ここで、荷電粒子線のエネルギーが変わると、当該荷電粒子線を偏向・収束するために必要な磁場の強さも変わることとなる。従って、電磁石25の磁場の強さがデグレーダ18によるエネルギー調整量に応じた強さとなるように、電磁石25に供給される電流が決まる。
【0023】
次に、図2も参照しながら制御部30及び電磁石電源27の詳細について説明する。なお、図2中では電磁石電源27は3個のみ記載されているが、実際には荷電粒子線治療装置1に設けられた電磁石25の数だけ、対応する電磁石電源27が設けられている。また、図2中には電磁石25が記載されていないが、実際には電磁石電源27と電気的に接続された電磁石25が設けられている。
【0024】
制御部30は、加速器11から出射された荷電粒子線の被照射体への照射を制御する。制御部30は、メイン制御部31と、ビーム制御部32と、ESS制御部33と、BTS制御部34と、GTS制御部35と、スキャニング制御部36と、レイヤ制御部37と、を有している。
【0025】
メイン制御部31は、ビーム制御部32及びスキャニング制御部36を制御する。具体的には、メイン制御部31は、ビーム制御部32及びスキャニング制御部36に対して処理開始信号を送信することにより処理を開始させ、処理終了信号を送信することにより処理を終了させる。
【0026】
ビーム制御部32は、荷電粒子線が被照射体へ照射可能となるよう、各機能を制御するものである。具体的には、ビーム制御部32は、メイン制御部31からの処理開始信号に応じて、サイクロトン制御部(図示せず)に対して処理開始信号を送信し、加速器11に荷電粒子線の出射を行わせる。また、ビーム制御部32は、メイン制御部31からの処理開始信号に応じて、ESS制御部33、BTS制御部34、及びGTS制御部35に対して処理開始信号を送信する。
【0027】
ESS制御部33は、ビーム制御部32からの処理開始信号に応じて、ESS15に設けられた電磁石25に対応する電磁石電源27の電源を入れる。同様に、BTS制御部34は、ビーム制御部32からの処理開始信号に応じて、BTS16に設けられた電磁石25に対応する電磁石電源27の電源を入れる。同様にGTS制御部35は、ビーム制御部32からの処理開始信号に応じて、GTS17に設けられた電磁石25に対応する電磁石電源27の電源を入れる。このような、ビーム制御部32による加速器11の制御、及び、ESS制御部33、BTS制御部34、及びGTS制御部35による電磁石電源27の制御によって、加速器11から出射された荷電粒子線を被照射体へ照射することが可能な状態となり、その後に、スキャニング制御部36による制御が行われる。
【0028】
スキャニング制御部36は、被照射体への荷電粒子線のスキャニング(走査)を制御するものである。スキャニング制御部36は、メイン制御部31からの処理開始信号に応じて、スキャニング電磁石21に対して照射開始信号を送信し、スキャニング電磁石21に同一層上の複数の照射スポットへの照射を行わせる。各層における照射スポットに関する情報は、予めスキャニング制御部36に記憶されている。また、スキャニング制御部36は、スキャニング電磁石21による、一の層の全スポットへの照射が完了すると、レイヤ制御部37に対して層切り替え信号を送信する。該層切り替え信号には切り替え後の層を特定する情報(例えば2層目、等)が含まれている。
【0029】
スキャニング制御部36の制御に応じたスキャニング電磁石21の荷電粒子線照射イメージについて、図5(b)及び(c)を参照して説明する。図5(b)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、図5(c)は、荷電粒子線の照射方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
【0030】
図5(b)に示すように、被照射体は深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線の照射ビームBの飛程が長い)層から順に、層L1、層L2、…層Ln−1、層Ln、層Ln+1、…層LN−1、層LNとN層に仮想的にスライスされている。また、図5(c)に示すように、照射ビームBは、ビーム軌道TLを描きながら層Lnの複数の照射スポットに対して照射される。すなわち、スキャニング制御部36に制御された照射ノズル12は、ビーム軌道TL上を移動する。
【0031】
図2に戻り、レイヤ制御部37は、スキャニング制御部36からの層切り替え信号に応じて、層切り替え関連処理を行う。層切り替え関連処理とは、デグレーダ18のエネルギー調整量を変更するデグレーダ設定処理、及び、電磁石25のパラメータをデグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じたものとする電磁石設定処理である。電磁石25のパラメータとは、電磁石25に供給する電流の目標値である。
【0032】
ここで、荷電粒子線治療では、ある患者の治療を行うにあたり、その患者へどのように荷電粒子線を照射するかが計画される(治療計画)。当該治療計画時に決定した治療計画データは、治療が行われる前に治療計画装置(図示せず)から制御部30のレイヤ制御部37に送信され、レイヤ制御部37において記憶される。当該治療計画データには、被照射体の各層に荷電粒子線を照射するためのデグレーダ18のエネルギー調整量、及び、デグレーダ18のエネルギー調整量に応じた全ての層に照射するための電磁石25のパラメータ等が含まれている。
【0033】
レイヤ制御部37は、層切り替え関連処理として、まずデグレーダ設定処理を行う。レイヤ制御部37には、上述したように、予め、被照射体の各層に荷電粒子線を照射するための、デグレーダ18のエネルギー調整量が記憶されている。そして、レイヤ制御部37は、スキャニング制御部36からの層切り替え信号に応じて、デグレーダ18のエネルギー調整量を、切り替え後の層に応じた値に設定する。
【0034】
レイヤ制御部37は、デグレーダ設定処理後に電磁石設定処理を行う。具体的には、レイヤ制御部37は、各電磁石電源27に対して層切り替え信号を一斉に送信することにより、電磁石25のパラメータをデグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じたものとする。ここで、レイヤ制御部37が電磁石電源27に送信する層切り替え信号は、単に、切り替え後の層を特定する情報が含まれたものであり、切り替え後の層に対応する電磁石25のパラメータ(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータ)が含まれるものではない。電磁石25のパラメータ変更は、電磁石電源27により行われる。その前提として、レイヤ制御部37は、上述した治療計画データのうち、デグレーダ18のエネルギー調整量に応じた全ての層に照射するための電磁石25のパラメータを、照射が開始される前(層への照射(切り替え)直前ではなく、治療が開始される前)に電磁石電源27に送信している。
【0035】
電磁石電源27は、レイヤ制御部37から受信した層切り替え信号に応じて、切り替え後の層に対応する電磁石25のパラメータ(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータ)を設定する。具体的には、電磁石電源27は、各層に対応する電磁石25のパラメータを記憶する記憶部27aを有しており、レイヤ制御部37から層切り替え信号を受信した際に、該層切り替え信号に含まれる切り替え後の層に対応するパラメータを設定する。これにより、切り替え後の層に対応した電流が電磁石25に供給される。
【0036】
電磁石電源27によるパラメータ設定について、図5(a)を参照して説明する。図5(a)に示すように、すべての電磁石電源27には、被照射体の各層、具体的には層L1〜層LN(図5(b)参照)に対応する電磁石25のパラメータD1〜DNが記憶されている。そして、電磁石電源27は、レイヤ制御部37から送信された層切り替え信号SGに含まれる切り替え後の層を特定する情報(L=n)に応じて、パラメータDnを設定する。
【0037】
なお、レイヤ制御部37は、層切り替え信号を電磁石電源27に送信した後所定の時間(例えば50msec〜200msec)経過後に、電磁石電源27のパラメータ設定が完了したと判断し、スキャニング制御部36に切り替え完了信号を送信する。そして、スキャニング制御部36は、該切り替え完了信号に応じて、スキャニング電磁石21に対して照射開始信号を送信する。
【0038】
次に、図3を参照して、電磁石電源27の記憶部27aに電磁石25のパラメータを準備(格納)する処理について説明する。
【0039】
まず、レイヤ制御部37により、治療計画装置からスキャニングデータテーブルが読み込まれる(S101)。層毎の電磁石25のパラメータは、被照射体に応じた荷電粒子線のエネルギーが考慮され、事前に設定されたものである。
【0040】
つづいて、レイヤ制御部37により、電磁石25のパラメータについて、電磁石電源27に対する送信情報として選択される(S102)。なお、電磁石25のパラメータは、層毎に管理されている。
【0041】
つづいて、レイヤ制御部37により、電磁石25のパラメータが電磁石電源27に送信される(S103)。パラメータは、例えば、全層の電磁石25のパラメータがひとまとめにされ、各電磁石電源27に対して順次送信される。
【0042】
最後に、電磁石電源27の記憶部27aに、レイヤ制御部37から送信された全層の電磁石25のパラメータが格納され、記憶される。以上が、記憶部27aに電磁石25のパラメータを格納する処理である。当該格納処理が完了すると、層切り替え時において、レイヤ制御部37と電磁石電源27とが連携した電磁石25のパラメータ設定処理が可能となる。
【0043】
次に、図4及び図5を参照して、層切り替え時におけるパラメータ設定処理について説明する。なお、当該処理を行う前提として、電磁石電源27の記憶部27aに電磁石25のパラメータが準備(格納)されるとともに、ビーム制御部32による加速器11の制御、及び、ESS制御部33、BTS制御部34、及びGTS制御部35による電磁石電源27の制御によって、加速器11から出射された荷電粒子線を被照射体へ照射可能となっている必要がある。
【0044】
図5(b)に示す被照射体の層L1〜層LNに対して、荷電粒子線を照射する例で説明する。以下に示す処理の前提として、被照射体の最も深い層である層L1に荷電粒子線を照射するための設定が行われている。具体的には、電磁石電源27により、層L1に対応する電磁石25のパラメータD1が設定されている。
【0045】
まず、スキャニング制御部36からの照射開始信号に基づいて、スキャニング電磁石21により、被照射体の層L1の全照射スポットへ荷電粒子線が照射される(S201)。当該層L1の全照射スポットへの照射が完了すると、スキャニング制御部36により、レイヤ制御部37に対して層切り替え信号SGが送信される(S202)。なお、該層切り替え信号SGには切り替え後の層L2を特定する情報(L=2)が含まれている。
【0046】
つづいて、レイヤ制御部37により、スキャニング制御部36からの層切り替え信号SGに基づいて、デグレーダ18のエネルギー調整量変更が行われる(S203)。具体的には、レイヤ制御部37により、層切り替え信号SGに含まれる切り替え後の層L2を特定する情報(L=2)と、予め記憶された、被照射体の各層に荷電粒子線を照射するためのデグレーダ18のエネルギー調整量に関する情報とに基づいて、デグレーダ18のエネルギー調整量が、切り替え後の層L2に応じた値に変更される。
【0047】
つづいて、レイヤ制御部37により、各電磁石電源27に対して層切り替え信号SGが送信される(S204)。なお、レイヤ制御部37が電磁石電源27に送信する層切り替え信号SGは、単に、切り替え後の層L2を特定する情報(L=2)が含まれたものであり、切り替え後の層L2に対応する電磁石25のパラメータD2(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータD2)が含まれるものではない。
【0048】
つづいて、電磁石電源27により、レイヤ制御部37からの層切り替え信号SGに基づいて、切り替え後の層L2に対応する電磁石25のパラメータD2(デグレーダ設定処理後のデグレーダ18のエネルギー調整量に応じた電磁石25のパラメータD2)が設定される(S205)。これにより、切り替え後の層L2に対応した電流が電磁石25に供給され、切り替え後の層L2に対して、荷電粒子線の適切な照射が可能となる。
【0049】
最後に、レイヤ制御部37によりスキャニング制御部36に対して切り替え完了信号が送信される(S206)。以上が、層切り替え時におけるパラメータ設定処理である。レイヤ制御部37による切り替え完了信号の送信を契機として、スキャニング制御部36はスキャニング電磁石21に対して照射開始信号を送信する。このようなS201〜S206の処理が繰り替えされることにより、各層へ切り替える際のパラメータ設定処理が行われる。すなわち、例えば、層Ln−1から層Lnに切り替える際にも上述したS201〜S206の処理が行われることにより切り替え後の層Lnのパラメータ設定が行われる。そして、最後に、層LNに対するS201の処理(全スポットへ照射)が完了すると、スキャニング制御部36により、被照射体の全層への照射が完了した旨の照射完了信号がメイン制御部31に送信され、該当の患者に対する放射線治療が完了する。
【0050】
また、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1では、荷電粒子線を照射する被照射体の層の切り替え時において、レイヤ制御部37から電磁石電源27に対して、切り替え後の層を特定する情報が含まれた層切り替え信号が送信される。
【0051】
荷電粒子線治療装置において被照射体の層を切り替える際には、荷電粒子線のエネルギーを切り替え後の層に応じたものに変更するとともに、当該エネルギー変更後の荷電粒子線を切り替え後の層に適切に照射すべく、電磁石のパラメータ(電磁石に供給される電流等)を変更する必要がある。従来、被照射体の層を切り替える際には、電磁石電源を制御する装置から各電磁石電源に対して、対応する電磁石の切り替え後の層に関するパラメータを都度送信していた。電磁石のパラメータは電磁石毎にそれぞれ異なる値であり、また、パラメータには電磁石に供給する電流等の複数の情報が含まれているため、電磁石電源を制御する装置と各電磁石電源とのデータ通信には時間を要していた(例えば1秒程度)。これにより層の切り替えに時間がかかっていた。
【0052】
この点、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1では、電磁石電源27が、被照射体における層毎の電磁石25のパラメータを記憶する記憶部27aを有している。そして、上述したように、層の切り替え時においては、レイヤ制御部37が、電磁石電源27に対して切り替え後の層を特定する情報が含まれた層切り替え信号を送信する。そのため、電磁石電源27では、レイヤ制御部37から送信された層切り替え信号に基づいて、記憶部27aが記憶する切り替え後の層の電磁石25のパラメータを設定することができる。このように、電磁石電源27の記憶部27aに各層の電磁石25のパラメータを記憶させておくことで、層の切り替え時において、電磁石電源を制御する装置(レイヤ制御部37)から電磁石電源27に対して各層のパラメータ自体を送信する必要がなく、単に切り替えのタイミングを知らせる信号(切り替え後の層を特定する情報が含まれた層切り替え信号)を送信すればよい。このことで、レイヤ制御部37と各電磁石電源27とのデータ通信時間を大幅に短縮(例えば10msec)できる。これによって、層の切り替え時間を短縮し照射時間を短縮することができる。
【0053】
また、上述したように、レイヤ制御部37から電磁石電源27に対して送信される層切り替え信号には層を特定する情報が含まれている。そして、電磁石電源27は、層切り替え信号に含まれる層を特定する情報と、記憶部27aが記憶する各層に対応する電磁石25のパラメータとから、特定された層に対応する電磁石25のパラメータを設定する。このように、層切り替え信号に層を特定する情報が含まれていることにより、電磁石電源27は切り替え後に設定する層のパラメータを一意に特定することができ、層の切り替え処理が容易になる。
【0054】
また、被照射体の周りを回転可能な回転ガントリ23に照射ノズル12が取り付けられていることにより、被照射体に対して、荷電粒子線を多方向から照射できる。これにより、被照射体への荷電粒子線の照射をより効果的に行うことができる。
【0055】
また、デグレーダ18が、加速器11と回転ガントリ23との間に設けられていることにより、加速器11から出射された荷電粒子線を、被照射体への照射前に確実にエネルギー調整することができる。
【0056】
ここで、デグレーダ18は、荷電粒子線を受けて当該荷電粒子線のエネルギーを低下させるものであり、高度に放射化してガンマ線や中性子線を発するものであるところ、仮にデグレーダ18が回転ガントリ23側(すなわち被照射体側)に近づけて配置された場合には、被照射体側において照射に係る構成内の放射線量が高くなるおそれがある。この点、デグレーダ18は、回転ガントリ23よりも加速器11に近い位置に設けられ、被照射体から十分に離間した位置においてエネルギーの調整を行うものであるため、被照射体側において照射に係る構成内の放射線量が高くなることを抑制できる。
【0057】
ところで、この種の荷電粒子線治療装置1では、照射ビームBのスキャニングの際、患者体内の狙った深さに正確にビームのエネルギーを付与するために、ビーム飛程(患者体内でのビームの到達位置)を高精度に調整することが望まれる。そして、ビームの飛程を高精度に調整するためにはビームのエネルギーを高精度に調整することが求められる。
【0058】
例えば、加速器11(サイクロトロン)のメンテナンスが行われると、加速器11内に設けられるデフレクタ電極や中心電極等の交換等に伴う位置変化に起因して加速器11から出力されるエネルギーが変動する場合がある。メンテナンス後には、上記のエネルギーの変動に対応してビームの飛程が変動してしまうので、上記のような変動に対応するビームの飛程の変動を抑えることが望まれる。ここで、デグレーダ18は、ビームBのスキャニングのために飛程を調整するものであるものの、ビームのエネルギー調整の精度が比較的粗く、加速器11の変動に起因するビームのエネルギーを微調整することには不向きである。
【0059】
そこで、図1に示されるように、荷電粒子線治療装置1は、照射ノズル12から照射されるビームのエネルギーを測定するための水ファントム61(エネルギー測定部)と、水ファントム61によって測定されたエネルギーの測定値に基づいて、加速器11から出射されるビームのエネルギーの変動を調整するエネルギー変動調整部63と、を備えている。エネルギー変動調整部63は、デグレーダ18の直ぐ上流に配置されている。
【0060】
図6に示されるように、エネルギー変動調整部63は、ビームBを通過させると共に通過させる当該ビームBのエネルギーを低下させる複数のエネルギー吸収体(エネルギー低下部)65と、各エネルギー吸収体65を保持する保持部67と、各保持部67を各々独立して往復移動させる駆動部69と、ビーム輸送ライン13を真空に封止しエネルギー吸収体65を収容する筐体71と、を有している。エネルギー吸収体65は、エネルギー変動調整部63を通過するビームBの径よりもその幅が大きい。保持部67は、中央の開口部にエネルギー吸収体65を保持する保持枠部67aを有している。駆動部69は、各保持部67を介して、各々のエネルギー吸収体65を、ビームBの通過経路Ba上の位置と、通過経路Baから退避された退避位置と、で往復移動させることができる。例えば、駆動部69は、各々のエネルギー吸収体65を、ビームBの進行方向に対して直交する方向に往復動させる。保持部67を往復動させる機構としては、例えば、ボールネジ等を利用することができる。上記のように、エネルギー変動調整部63がエネルギー吸収体65の駆動機構を備えることにより、エネルギー吸収体65の配置を手作業で調整する必要がなく、エネルギー変動調整部63近傍の高放射能領域に作業者が立ち入る必要がない。
【0061】
この構成により、エネルギー変動調整部63は、各エネルギー吸収体65をビームBの通過経路Ba上に挿抜し、通過経路Baに配置するエネルギー吸収体65の枚数を調整することができ、当該エネルギー変動調整部63を通過させるビームBのエネルギーを調整することができる。すなわち、エネルギー変動調整部63は、加速器11から出射され照射ノズル12から照射されるビームBのエネルギーを調整することができる。なお、エネルギー変動調整部63は、デグレーダ18と比較して、より高精度にビームBのエネルギーを調整することができる。このため、エネルギー吸収体65としては、例えば、厚さ100μm程度の一様の厚さをもつポリイミドフィルム(カプトンフィルム(登録商標))を採用することができる。また、複数のエネルギー吸収体65の中に、厚さ(ビームの吸収率)が異なるものが混在してもよい。この場合、エネルギー変動調整のバリエーションを増やすことができる。また、図6の例では、エネルギー吸収体65が4枚設けられているが、エネルギー吸収体65の枚数は4枚に限らず、これより多くても少なくてもよい。
【0062】
エネルギー吸収体65によるビームBのエネルギーの調整精度(最小調整量)は、デグレーダ18によるビームBのエネルギーの調整精度(最小調整量)よりも調整精度が高く、エネルギー吸収体65は、デグレーダ18よりも細かくビームBのエネルギーを調整することができる。すなわち、デグレーダ18の減衰材によるエネルギーの最小の減衰量よりも更に小さいエネルギーが、1枚のエネルギー吸収体65によって減衰可能である。このための構成として、例えば、エネルギー吸収体65は、デグレーダ18に設けられた減衰材の最少厚(荷電粒子線を通過させる際に使用可能な厚みのうち、最も小さな厚み)よりもその厚さが小さい(薄い)。換言すれば、厚みがリニア又は段階的に変化した形状をなすデグレーダ18の減衰材のうち最薄の部分の厚さよりも、エネルギー吸収体65の厚さが小さい。また、デグレーダ18が、複数の減衰材を設け荷電粒子線を通過させる減衰材の枚数を調整するようにした構成である場合には、デグレーダ18が備える最薄の減衰材の厚さよりも、エネルギー吸収体65の厚さが小さい。
【0063】
水ファントム61は、照射ノズル12からのビームBの線量を測定するためのものである。例えば、荷電粒子線治療装置1の毎日の稼働開始時には、水ファントム61を用いてビームBの線量を測定し、この測定値が所定の線量基準を満たしている場合に治療を開始する。図1において、水ファントム61が、治療台22と位置を入れ替える、又は治療台22上に載置されることで、照射ノズル12からのビームBを水ファントム61に照射することができ、ビームBのエネルギーを測定することができる。なお、水ファントム61に照射されたビームBのエネルギーを測定する手法は周知であるので、詳細な説明を省略する。このように、水ファントム61は、照射ノズル12から照射されるビームBのエネルギーを測定するエネルギー測定部として機能する。なお、厳密には、水ファントム61は荷電粒子線治療装置1の一部分ではなく、線量測定時にのみ上記のように使用し、それ以外の時には例えば別の場所に保管されている。また、エネルギー測定部としては、水ファントムに限られず、例えば水ファントム以外の線量計を照射ノズル12内に設けてもよい。例えば、電離箱を照射ノズル12内にエネルギー測定部として設けてもよい。
【0064】
次に、エネルギー変動調整部63を用いて、加速器11から出射され照射ノズル12から照射されるビームBのエネルギーを調整するための調整処理について説明する。加速器11のメンテナンス後には、水ファントム61を使用して照射ノズル12からのビームBのエネルギーを測定する。そして、水ファントム61により測定されたエネルギーが基準のエネルギーよりも高い場合には、エネルギーの差分に対応させて、エネルギー変動調整部63において、ビームBの通過経路Ba上に挿入されるエネルギー吸収体65の数を増加させる。これにより、下流に供給されるビームBのエネルギーを低くするように調整することができる。また、水ファントム61により測定されたエネルギーが基準のエネルギーよりも低い場合には、エネルギーの差分に対応させて、エネルギー変動調整部63において、ビームBの通過経路Ba上に挿入されるエネルギー吸収体65の数を減少させる。これにより、下流に供給されるビームBのエネルギーを高くするように調整することができる。なお、上記の「基準のエネルギー」は、例えば、加速器11のメンテナンス前に測定された、照射ノズル12からのビームBのエネルギーである。上述のようなエネルギー変動調整部63による調整によって、例えばメンテナンス等に起因する加速器11の変動の影響を相殺することができる。その結果、照射ノズル12から照射されるビームのエネルギーの変動が抑えられ、ビームの飛程を高精度に調整することができる。なお、上記のような調整処理は、制御装置により自動的に行われてもよく、水ファントム61で測定された線量を基に作業者が制御装置への指令を出してエネルギー変動調整部を駆動してもよい。
【0065】
また、エネルギー変動調整部63は、デグレーダ18よりも下流に配置してもよい。しかしながらこの場合、エネルギー変動調整部63よりも上流に位置する電磁石25の調整も必要になり、調整作業の煩雑化を招く。従って、エネルギー変動調整部63は、可能な限り上流に配置することが好ましく、デグレーダ18よりも上流に配置することが好ましい。
【0066】
なお、荷電粒子線治療装置の構成は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0067】
例えば、スキャニング制御部36及びレイヤ制御部37は別々の構成として説明したが、それぞれの機能を具備する一の構成であってもよい。同様に、ビーム制御部32とスキャニング制御部36は別々の構成として説明したが、それぞれの機能を具備する一の構成であってもよい。また、レイヤ制御部37から電磁石電源27に送信される層切り替え信号は、層を特定する情報を含んでいるとして説明したが、必ずしも層を特定する情報が含まれている必要はなく、単に層の切り替えのタイミングを知らせる信号であってもよい。この場合には、電磁石電源の記憶部において各層の照射順序が記憶されているとともに、電磁石電源が設定しているパラメータが常に管理されている必要がある。これにより、層切り替え信号が単に層の切り替えのタイミングを知らせる信号であっても、切り替え後の層に対応する電磁石のパラメータを特定し、設定することができる。
【0068】
また、回転ガントリ23を用いず照射ノズルを固定して固定照射するものであってもよい。また、デグレーダ18に替えて、別のデグレーダを、加速器11よりも回転ガントリに近い位置や照射ノズル12内に設けてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…荷電粒子線照射装置、11…加速器、12…照射ノズル(照射部)、13…ビーム輸送ライン、18…デグレーダ(飛程調整部)、61…水ファントム(エネルギー測定部)、63…エネルギー変動調整部、65…エネルギー吸収体(エネルギー低下部)、69…駆動部、P…患者(被照射体)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6