(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの動力伝達機構においては、エンジンのクランクと、ウォータポンプ(WP)やアイドリングストップジェネレータ(ISG)等の補機類との間の動力の伝達を、アイドラプーリを経由して架け渡した補機ベルトを介して行っていた。この場合、クランクの回転に伴って、補機類も常に回転することになるため、例えば、エンジンの暖気運転のようにWPを回転させる必要がない時にも不必要に回転することになり、ベルト損失とプーリの不必要な回転に起因する燃費の低下が問題となっていた。
【0003】
この問題を解決すべく、例えば、特許文献1の
図1に示すように、補機ベルトを用いる代わりに、駆動ローラ(クランクシャフトプーリ)と従動ローラ(フリクションプーリ)との間に動力伝達用のアイドラローラ(フリクションホイール)を介在させ、駆動ローラの回転力を、アイドラローラの摩擦力によって、従動ローラに伝達する技術が開示されている。このアイドラローラは、補機ベルトと異なり、その位置を進退させることによって、駆動ローラや従動ローラとの間の接離状態を自在に変えることができる。
【0005】
このアイドラローラを進退させて、駆動ローラ及び従動ローラに均等に当接させる機構(カムアクチュエータ)について、特許文献2の
図1を用いて説明する。本図に示すカムアクチュエータは、モータの回転を遊星減速機で減速し、その減速した回転を偏心カムによって連接棒の往復動に変換して、この連接棒の端部で支持されたプーリを進退させるようにしたものである。このプーリを進退させることにより、エンジンの稼働状況等の諸条件に応じて、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達又は遮断を制御し、燃費の向上を図っている。
【0006】
この連接棒は、その中ほどでシャフト軸方向から若干量だけ揺動可能に構成されている。このように、揺動可能とすることにより、プーリが駆動ローラ及び従動ローラと当接した際に、プーリと各ローラとの間の当接力がほぼ等しくなるように連接棒が揺動して、プーリが最適な位置に位置決めされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に係るカムアクチュエータは、プーリ(アイドラローラ)の回転軸を掴むように構成され、その揺動支点はプーリの外側(連接棒の長さ方向中央付近)に位置している。このため、プーリの周囲にその揺動のためのスペースを確保しておかなければならず、動力伝達機構の小型化に支障が生じ、システムレイアウトの自由度が損なわれる問題がある。また、一本の連接棒の揺動によってプーリの位置決めがなされるため、連接棒の軸周りのねじれが生じる恐れがあり、プーリと駆動ローラ及び従動ローラとの間の当接不良が生じ、摩擦による動力伝達が不安定になりやすい問題もある。
【0009】
また、駆動ローラ及び従動ローラは完全な真円とは限らず、その場合、これらの回転に伴って自励振動や共振が発生しやすい。このため、駆動ローラ及び従動ローラとプーリとの接触状態が不安定となって(プーリが、自励振動や共振に伴って小刻みに飛び跳ねて)、動力伝達が安定的にできなかったり、駆動ローラと従動ローラとの間の動力伝達の入切がスムーズにできなかったりする問題もある。
【0010】
そこで、この発明は、動力伝達機構の小型化を図るとともに、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行い、さらに、駆動ローラと従動ローラとの間の動力伝達の入切をスムーズに行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、この発明においては、駆動ローラと従動ローラとの間に介在して、前記駆動ローラの回転力を摩擦力によって前記従動ローラ側に伝達する動力伝達ローラにおいて、前記駆動ローラ及び前記従動ローラと接離するローラ本体と、前記ローラ本体の内径側に設けられるハウジングと、前記ローラ本体の回転中心に設けられ、前記ローラ本体と前記ハウジングとを相対回転自在とする軸受と、車両本体側に固定される揺動軸と、前記ローラ本体の内径側に配置され、前記揺動軸に揺動自在に設けられる揺動アームと、前記ハウジングと前記揺動アームを貫通するシャフトと、このシャフトと同軸に設けられ前記揺動アームに対して前記ハウジングが離間するようにこのハウジングを付勢する弾性体と、を有し、前記ローラ本体を前記駆動ローラと前記従動ローラとの間の所定位置に両ローラとの当接力がバランスするように付勢する一対のハウジング付勢部材と、前記シャフトに挿通され、前記弾性体による付勢力と、前記付勢力とは前記シャフトの軸方向に対して反対向きに作用する前記ハウジングからの押し付け力との挟み込み力によって前記シャフトをその軸心方向に押圧する抵抗体と、前記抵抗体を、前記弾性体による付勢力に抗して押圧するスリーブと、を備え、前記抵抗体の前記ハウジングと当接する面側に前記シャフトの軸方向に対する第一傾斜面を形成するとともに、前記ハウジングの前記抵抗体に臨む面側に、前記第一傾斜面と当接する第二傾斜面を形成し、前記スリーブによる前記抵抗体の押圧が、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面との間の当接を解除するようになされることを特徴とする動力伝達ローラを構成した。
【0012】
この構成によると、動力伝達ローラのローラ本体に、駆動ローラ又は従動ローラの少なくとも一方が当接すると、その当接力によって一対のハウジング付勢部材が独立して伸縮するとともに、揺動アームが揺動軸周りに揺動する。この揺動によって、揺動アームが各ローラの位置に対応した位置に変位して、駆動ローラと動力伝達ローラとの間、及び従動ローラと動力伝達ローラとの間のそれぞれの当接力がほぼ等しくなり、その状態で駆動ローラから従動ローラに、安定的に動力を伝達することができる。
【0013】
しかも、揺動アームをローラ本体の内径側に配置することにより、この揺動アームを揺動する揺動軸や、軸受も同様にローラ本体の内径側に配置されることになり、揺動機構全体を含めたこの動力伝達ローラの小型化を図ることができる。さらに、ハウジング付勢部材を対で構成したことにより、付勢時におけるハウジング付勢部材のねじれが生じにくく、駆動ローラ及び従動ローラに対して、動力伝達ローラを確実に当接させることが可能となる。このため、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができる。しかも、一対のハウジング付勢部材の中間に軸受を設けることができ、この軸受の回転時の安定性も確保することができる。
【0014】
また、ローラ本体が駆動ローラ及び従動ローラに向かうように動くとき(すなわち、ハウジングが揺動アームから突出するように動くとき)は、弾性体からの付勢力とハウジングに作用する力が同じ向きとなって、抵抗体にシャフト軸方向の押圧力はほとんど作用せず、この抵抗体のシャフト軸心方向への変形は小さい。このため、抵抗体とシャフトの間に摩擦力はほとんど作用せず、ローラ本体を速やかに突出させて、駆動ローラ及び従動ローラに当接させることができる。
【0015】
その一方で、ローラ本体が駆動ローラ及び従動ローラから離れるように動くとき(すなわち、ハウジングが揺動アーム側に押し込まれるように動くとき)は、弾性体からの付勢力と、この付勢力と対向する向きに生じるハウジングからの反力が抵抗体に作用し、この抵抗体に、シャフト軸方向の逆向きの押圧力が作用する。この押圧力によって抵抗体がシャフト側に大きく変形し、抵抗体とシャフトとの間の摩擦力が高まる。このため、駆動ローラ及び従動ローラから離れようとする力がローラ本体に作用したときには、ローラ本体の動きを遅延させるダンパとしての機能が発揮される。
【0016】
このダンパとしての機能は、動力伝達機構を切状態とするとき、すなわち、ハウジングを駆動ローラ及び従動ローラから離れる方向に変位させて、ローラ本体と駆動ローラ及び従動ローラとを離間させるときにも生じ得る。このときは、第一傾斜面と第二傾斜面との間の当接を解除するようにスリーブで抵抗体を押圧することにより、ダンパ機能を一時的に停止することができる。このように、ダンパ機能の停止機能を付与したことにより、動力伝達機構をスムーズに入状態から切状態に切り替えることができる。
【0017】
このように、ダンパ機能を持たせるとともに、そのダンパ機能を一時的に停止し得るようにしたことにより、例えば、駆動ローラ及び従動ローラが完全な真円でなく、その回転に伴って自励振動や共振が発生した場合においても、この駆動ローラ及び従動ローラとローラ本体との接触状態を安定的に保って、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達を確実に行うとともに、エンジンの稼働状況等の諸条件に応じて、動力伝達機構をスムーズに切状態とすることができる。
【0018】
前記構成においては、前記ハウジングに、前記スリーブの移動範囲を所定範囲内に制限する移動制限部材を形成した構成とするのが好ましい。
【0019】
このように、移動範囲を制限することにより、動力伝達機構を入状態としたときに、スリーブが不用意に弾性体の付勢力に抗して抵抗体を付勢し、ダンパ機能が低下するのを防止することができるとともに、動力伝達機構を入状態から切状態に切り替えるときに、スリーブが抵抗体から大きく離間することによって、スリーブによる抵抗体の押圧が遅延するのを防止することができる。
【0020】
前記各構成においては、前記スリーブを前記抵抗体と離間する方向に付勢するスリーブ付勢部材を設けた構成とするのが好ましい。
【0021】
このように、抵抗体を付勢することにより、動力伝達機構を入状態としたときに、スリーブが不用意に弾性体の付勢力に抗して抵抗体を付勢し、ダンパ機能が低下するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明においては、駆動ローラと従動ローラとの間に介在して、前記駆動ローラの回転力を摩擦力によって前記従動ローラ側に伝達する動力伝達ローラにおいて、前記駆動ローラ及び前記従動ローラと接離するローラ本体と、前記ローラ本体の内径側に設けられるハウジングと、前記ローラ本体の回転中心に設けられ、前記ローラ本体と前記ハウジングとを相対回転自在とする軸受と、車両本体側に固定される揺動軸と、前記ローラ本体の内径側に配置され、前記揺動軸に揺動自在に設けられる揺動アームと、前記ハウジングと前記揺動アームを貫通するシャフトと、このシャフトと同軸に設けられ前記揺動アームに対して前記ハウジングが離間するようにこのハウジングを付勢する弾性体と、を有し、前記ローラ本体を前記駆動ローラと前記従動ローラとの間の所定位置に両ローラとの当接力がバランスするように付勢する一対のハウジング付勢部材と、前記シャフトに挿通され、前記弾性体による付勢力と、前記付勢力とは前記シャフトの軸方向に対して反対向きに作用する前記ハウジングからの押し付け力との挟み込み力によって前記シャフトをその軸心方向に押圧する抵抗体と、前記抵抗体を、前記弾性体による付勢力に抗して押圧するスリーブと、を備え、前記抵抗体の前記ハウジングと当接する面側に前記シャフトの軸方向に対する第一傾斜面を形成するとともに、前記ハウジングの前記抵抗体に臨む面側に、前記第一傾斜面と当接する第二傾斜面を形成し、前記スリーブによる前記抵抗体の押圧が、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面との間の当接を解除するようになされることを特徴とする動力伝達ローラを構成した。
【0023】
このように、揺動アームが揺動軸周りに揺動することによって、駆動ローラ及び従動ローラに対する動力伝達ローラの大まかな位置が決定され、さらに、その位置において、駆動ローラと動力伝達ローラとの間、及び従動ローラと動力伝達ローラとの間のそれぞれの当接力に応じて、一対のハウジング付勢部材がそれぞれ独立して伸縮することにより、それぞれの当接力がほぼ等しくなり、動力伝達ローラの位置決めを容易かつスムーズに行うことができる。
【0024】
また、揺動アームをローラ本体の内径側に配置することにより、この揺動アームを揺動する揺動軸や、軸受も同様にローラ本体の内径側に配置されることになり、揺動機構全体を含めたこの動力伝達ローラの小型化を図ることができる。さらに、ハウジング付勢部材を対で構成したことにより、付勢時におけるハウジング付勢部材のねじれが生じにくく、駆動ローラ及び従動ローラに対して、動力伝達ローラを確実に当接させることが可能となる。このため、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができる。しかも、一対のハウジング付勢部材の中間に軸受を設けることができ、この軸受の回転時の安定性も確保することができる。
【0025】
さらに、シャフトに抵抗体を設け、ダンパ機能を持たせたことにより、駆動ローラ及び従動ローラが完全な真円でなく、その回転に伴って自励振動や共振が発生した場合においても、この駆動ローラ及び従動ローラとローラ本体との接触状態を安定的に保つことができ、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達を確実に行うことができる。
【0026】
しかも、抵抗体を押圧するスリーブを設け、動力伝達機構を切状態とするときに、抵抗体をスリーブで押圧して、抵抗体に形成した第一傾斜面と、ハウジングに形成した第二傾斜面との間の当接を解除して、ダンパ機能を一時的に停止するようにしたので、動力伝達機構をスムーズに入状態から切状態に切り替えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明に係る動力伝達ローラ1の実施形態を
図1及び
図2に示す。この動力伝達ローラ1は、クランク等の駆動ローラDと、ウォータポンプ(WP)やアイドリングストップジェネレータ(ISG)等の補機類を作動させる従動ローラSとの間に介在して、駆動ローラDの回転力を摩擦力によって従動ローラS側に伝達するためのものであり、ローラ本体2、揺動軸3、揺動アーム4、軸受5、ハウジング6、一対のハウジング付勢部材7、7と、このハウジング付勢部材7のシャフト7aとの間で摩擦力を生じさせる抵抗体8、スリーブ9、スリーブ9を付勢するスリーブ付勢部材10、及びカム部材11を主要な構成要素としている。なお、駆動ローラD及び従動ローラSとしての機能は、クランク等の各ローラに固有のものではなく、例えば、ISGが駆動ローラD、クランクが従動ローラSとして機能することもある。
【0029】
ローラ本体2は、
図2に示すように、駆動ローラD及び従動ローラSに直接接触する有底円筒状の部材である(
図2参照)。ローラ本体2の円筒底部には複数の孔2aが形成され、このローラ本体2の軽量化が図られている。このローラ本体2の回転中心には軸受孔2bが形成されており、軸受5(この実施形態では玉軸受を採用)の内輪5aの内径及び軸受孔2bに、軸受保持部材12を挿し込むことによって、内輪5a側に設けたローラ本体2と軸受5の外輪5bとを相対回転自在としている。このように、ローラ本体2を内輪5aとともに回転させるように構成することにより、外輪を回転輪とした場合と比較して軸受5への負荷が小さくなり、その長寿命化を図ることができる。
【0030】
この軸受5の外輪5bには、ハウジング6が嵌め込まれている。
図1に示すように、このハウジング6には、軸受5を中心とする対称位置に、一対の貫通孔6a、6aが形成されている。各貫通孔6aには、ハウジング付勢部材7のシャフト7aが挿し込まれ、その頭部側(
図1において、シャフト7aの下端側)は、揺動軸3によって揺動自在に設けられた揺動アーム4に固定されている。この揺動軸3として、ボルトが採用されている(
図2参照)。シャフト7aの先端側(
図1において、シャフト7aの上端側)は、止め輪7bによって抜け止めされつつハウジング6から突出自在となっている。
【0031】
弾性体7cとしてのコイルばね(以下、弾性体と同一の符号7cを付する。)は、シャフト7aと同軸に設けられており、受圧板7dを介して抵抗体8をハウジング6側に付勢する。一対のコイルばね7c、7cは、
図1に示すローラ本体2の上側半分に駆動ローラD又は従動ローラSの少なくとも一方が当接すると、駆動ローラD及び従動ローラSのそれぞれの当接力に対応して、それぞれが独立して伸縮する。さらに、揺動アーム4が揺動軸3周りに揺動し、駆動ローラDと従動ローラSの両方に、ローラ本体2を均等に当接させる。
【0032】
ハウジング付勢部材7を対で構成したことにより、付勢時におけるハウジング付勢部材7のねじれが生じにくく、駆動ローラD及び従動ローラSに対して、動力伝達ローラ1を確実に当接させることが可能となる。このため、駆動ローラDと従動ローラSとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができる。しかも、一対のハウジング付勢部材7、7の中間に軸受5を設けることができ、この軸受5の回転時の安定性も確保することができる。
【0033】
シャフト7aには、コイルばね7cとハウジング6に介在する抵抗体8が設けられている。この抵抗体8のハウジング6と当接する面側には、シャフト7aの軸方向に対して傾斜した傾斜面8aが形成されている。その一方で、ハウジング6の抵抗体8に当接する面側には、この抵抗体8に形成した傾斜面8aの傾斜角と同じ傾斜角を有し、この傾斜面8aと当接する傾斜面6bが形成されている。抵抗体8に形成した傾斜面8aは、コイルばね7cからシャフト軸方向に離れるほど縮径するように形成されている。
【0034】
抵抗体8に、ゴム材等の柔軟性を有する素材を用いる場合は、この実施形態のように、周方向に切れ目がない形状でも、抵抗体8を変形させることによってシャフト7aの外周面と抵抗体8の内周面を強く当接させて、両者の間で摩擦力を生じさせることができる。その一方で、樹脂材や金属材等のようにコイルばね7cからの付勢力やハウジング6からの反力を受けても変形が生じにくい素材を用いる場合は、抵抗体8の周方向の一部に切欠き部を形成し断面C字形としたり、抵抗体8を周方向に複数に分割した分割抵抗体としたりするのが好ましい。このように、切欠き部を形成したり、分割抵抗体としたりすることにより、樹脂材や金属材等のようにコイルばね7cからの付勢力やハウジング6からの反力を受けても変形が生じにくい素材であっても、シャフト7aと抵抗体8との間の摩擦力を容易に発生させることができる。
【0035】
ハウジング6の一対の貫通孔6a、6aと、この貫通孔6a、6aに挿し込まれるシャフト7a、7aとの間には隙間が形成されており、この隙間に、スリーブ9がシャフト軸方向に移動自在に挿入されている。スリーブ9の先端側(
図1において、スリーブ9の下端側)は、抵抗体8の縮径側の端面に臨むように配置されている。一対のスリーブ9、9は、スリーブ連結部材13で連結されており、スリーブ9(スリーブ連結部材13)は、ハウジング6とスリーブ9(スリーブ連結部材13)との間に介在するスリーブ付勢部材10によって、スリーブ9が抵抗体8から離間する方向に付勢されている。
【0036】
このとき、スリーブ9の先端部は、抵抗体8の端面と離間しているか、抵抗体8を下向きに押圧しない程度(抵抗体8によるダンパ機能が損なわれない程度)にわずかに接触した状態となっている。また、ハウジング6とスリーブ連結部材13のそれぞれ相手方に臨む面との間には、若干の隙間gが形成されている。
【0037】
スリーブ連結部材13にはシャフト7aと同方向に延びる貫通孔が形成されており、この貫通孔に、ハウジング6に形成された移動制限部材14が挿し込まれている。この移動制限部材14はその頭部に拡径部を有し、スリーブ9(スリーブ連結部材13)は、移動制限部材14の長さ方向の範囲内で、シャフト7aの軸方向に移動することができる。このように、スリーブ9の移動可能範囲を制限することにより、動力伝達機構を入状態(動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとが当接した状態)としたときに、スリーブ9が不用意にコイルばね7cの付勢力に抗して抵抗体8を付勢し、ダンパ機能が低下するのを防止することができるとともに、動力伝達機構を入状態から切状態(動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとが離間した状態)に切り替えるときに、スリーブ9が抵抗体8から大きく離間することによって、スリーブ9による抵抗体8の押圧が遅延するのを防止することができる。
【0038】
カム部材11の回転軸11aは、駆動ローラD及び従動ローラSを覆うカバー(図示せず)側に設けられている。このカム部材11は、回転軸11a周りに回転したときに、スリーブ連結部材13に当接して、このスリーブ連結部材13(スリーブ9)を押圧可能な位置に配置されている。
【0039】
この実施形態においては、軸受5及びハウジング付勢部材7は、ローラ本体2の外径面(駆動ローラD及び従動ローラSと当接する面)の幅方向中央を通る面内に配置されている。このように配置することにより、ハウジング付勢部材7によって軸受5を付勢した際に、その付勢力によるモーメントの発生を防止し、ローラ本体2がこのモーメントに起因して傾斜するのを防止することができる。このため、駆動ローラD及び従動ローラSに対して、動力伝達ローラ1を確実に当接させることが可能となり、駆動ローラDと従動ローラSとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができるとともに、各ローラD、Sの当接不良に起因するローラ本体2の摩耗等の不具合を防止することができる。
【0040】
揺動軸3、揺動アーム4、軸受5、及びハウジング付勢部材7は、全てローラ本体2の内径側(円筒内)に配置されている。このため、この動力伝達ローラ1を含む動力伝達機構の小型化を図ることができる。この動力伝達ローラ1は、その揺動軸3をスペーサ15を介して前記カバーに固定し、このカバーを所定位置に嵌め込むことによって、駆動ローラDと従動ローラSとの間の所定位置に配置されるようになっている。このとき、動力伝達ローラ1に、ハウジング付勢部材7を縮めた状態での保持及びその解除を自在に行い得る機構(図示せず)を設けることにより、カバー嵌め込み時において動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSが接触するのを防止して、この動力伝達ローラ1の取付けを容易かつスムーズに行うことができる。
【0041】
上記においては、カバー側に動力伝達ローラ1を設ける構成について述べたが、エンジンブロック側に取付スペースが確保できるのであれば、このエンジンブロックに動力伝達ローラ1を設ける構成とすることもできる。
【0042】
上述したように、動力伝達ローラ1のローラ本体2に、駆動ローラD又は従動ローラSの少なくとも一方が当接すると、その当接力によって一対のハウジング付勢部材7、7のコイルばね7c、7cのそれぞれが独立して伸縮するとともに、揺動アーム4が揺動軸3周りに揺動する。この揺動によって、駆動ローラDと動力伝達ローラ1との間、及び従動ローラSと動力伝達ローラ1との間のそれぞれの当接力がほぼ等しくなり、その状態で駆動ローラDから従動ローラSに、安定的に動力を伝達することができる。
【0043】
動力伝達ローラ1に設けた抵抗体8のダンパ機能について、
図3(a)(b)を用いて説明する。ローラ本体2(ハウジング6)が駆動ローラD及び従動ローラSに向かうように動くとき(すなわち、ハウジング6が揺動アーム4から突出するように動くとき)は、コイルばね7cからの付勢力Fと抵抗体8に作用する力Wが同じ向きとなって(
図3(b)参照)、抵抗体8に作用するシャフト軸方向の押圧力は小さく、その変形は小さいため(
図3(b)中の矢印P参照)、抵抗体8とシャフト7aの間に摩擦力はほとんど作用しない。よって、ローラ本体2を速やかに突出させて、駆動ローラD及び従動ローラSに当接させることができる。
【0044】
その一方で、駆動ローラD及び従動ローラSとローラ本体2が接しており、ローラ本体2(ハウジング6)に駆動ローラD及び従動ローラSからローラ本体2が離れる向きに力が加わり、ローラ本体2が動くとき(すなわち、ハウジング6が揺動アーム4側に押し込まれるように動くとき)は、コイルばね7cからの付勢力Fと、この付勢力Fと対向する向きに生じるハウジング6からの反力Wが抵抗体8に作用し、この抵抗体8に、シャフト軸方向の押圧力が作用する。この押圧力によって抵抗体8が大きく変形し(
図3(a)中の矢印P参照)、抵抗体8とシャフト7aとの間の摩擦力が高まる。よって、ローラ本体2が駆動ローラD及び従動ローラSから離れようとする力が作用した際に、ローラ本体2の動きを遅延させるダンパとしての機能が発揮される。
【0045】
このように、ダンパ機能を持たせることにより、例えば、駆動ローラD及び従動ローラSが完全な真円でなく、その回転に伴って自励振動や共振が発生した場合においても、この駆動ローラD及び従動ローラSとローラ本体2との接触状態を安定的に保つことができ、駆動ローラDから従動ローラSへの動力の伝達を確実に行うことができる。
【0046】
動力伝達ローラ1に設けたスリーブ9の機能について、
図4から
図6を用いて説明する。
【0047】
動力伝達ローラ1の動力伝達機構が入状態(動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとが当接した状態(
図1参照))のときは、
図4に示すように、カム部材11はスリーブ連結部材13と当接せず、スリーブ付勢部材10の付勢力によって、スリーブ9の先端部は、抵抗体8の端面と離間しているか、抵抗体8を下向きに押圧しない程度(抵抗体8によるダンパ機能が損なわれない程度)にわずかに接触した状態となっている。このとき、ハウジング6とスリーブ連結部材13のそれぞれ相手方に臨む面との間には、若干の隙間gが形成されている。
【0048】
ここで、カム部材11を回転軸11a周りに回転すると、このカム部材11がスリーブ連結部材13に当接して、このスリーブ当接部材13をスリーブ付勢部材10の付勢力に抗して押圧する(
図4においては、押圧方向は下向き)。すると、
図5(a)に示すように、スリーブ連結部材13と一対のスリーブ9、9が、ハウジング6とスリーブ連結部材13との間の隙間g(
図4参照)がなくなるまでその押圧方向に変位する(
図5(a)中の白抜き矢印参照)。このとき、スリーブ9の先端が、コイルばね7cの付勢力に抗して抵抗体8をその変位方向に押圧する。すると、
図5(b)に要部の拡大図を示すように、ハウジング6の傾斜面6bと抵抗体8の傾斜面8aが離間して、両傾斜面6b、8aの間の摩擦力が作用しなくなる。
【0049】
このように、両傾斜面6b、8aの間の摩擦力を解消することにより、カム部材11を回転するときのシャフト7aと抵抗体8との間の摩擦も小さくなる。このため、
図6に示すように、カム部材11の回転に伴って、スリーブ連結部材13とともにハウジング6をカム部材11で押圧してローラ本体2が駆動ローラD及び従動ローラSと離間する方向(
図6中の白抜き矢印参照)に変位させることができる。この変位によって、動力伝達機構を入状態から切状態(動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとが離間した状態)に切り替えることができる。
【0050】
なお、カム部材11を
図4から
図6に示した回転方向と逆向きに回転することにより、スリーブ付勢部材10の付勢力によって、スリーブ9が、抵抗体8の端面と離間するか、抵抗体8を下向きに押圧しない程度に退去する。これにより、コイルばね7cの付勢力によって、ハウジング6の傾斜面6bと抵抗体8の傾斜面8aが当接して、動力伝達機構を切状態から入状態に切り替えることができる。
【0051】
上記実施形態に係る動力伝達ローラ1はあくまでも一例であって、動力伝達機構の小型化を図るとともに、駆動ローラDと従動ローラSとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行い、さらに、駆動ローラDと従動ローラSとの間の動力伝達の入切をスムーズに行う、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、各構成部品の形状や配置を変更したり、別途部品を追加したりすることも許容される。例えば、スリーブ9同士を連結するスリーブ連結部材13をカム部材11で押圧する代わりに、独立して移動可能な一対のスリーブ9、9にそれぞれカム部材11を設け、各スリーブ9、9を独立して押圧する構成、抵抗体8の傾斜面8a及びハウジング6の傾斜面6bの形状を異なる形状とした構成とすることもできる。