特許第6552878号(P6552878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6552878-手袋の編成方法および手袋 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552878
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】手袋の編成方法および手袋
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/00 20060101AFI20190722BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20190722BHJP
   D04B 1/28 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   A41D19/00 M
   A41D19/015 210Z
   D04B1/28
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-115323(P2015-115323)
(22)【出願日】2015年6月5日
(65)【公開番号】特開2017-2418(P2017-2418A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】木野 高志
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】前田 巧
【審査官】 冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−202008(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/020719(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0240308(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2511404(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D19/00−19/04
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用い、筒状に編成される親指袋部と四本胴部と五本胴部を備え、且つ指先側から編み始めて手首部側で編み終える手袋の編成方法において、
前記四本胴部は、第1四本胴部と第2四本胴部と第3四本胴部から成り、掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成して前記第1四本胴部を編成した後、甲側と掌側をC字状に編成しながら、掌側では人差し指側の編幅の一部で徐々に編幅を減らす引き返し編成を繰り返して傾斜させた人差し指側引き返し部を形成することで前記第2四本胴部を編成し、続けて掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成することで前記第3四本胴部を編成するステップaと、
前記親指袋部を筒状に編成するステップbと、
前記五本胴部は、第1五本胴部と第2五本胴部と第3五本胴部から成り、前記第3四本胴部と前記親指袋部の編目のウェールに続けて掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成しながら前記第1五本胴部を編成した後、甲側と掌側をC字状に編成しながら、掌側では前記第1五本胴部の親指袋部側で、引き返し編成で親指側傾斜部と、親指側傾斜部側部と第1五本胴部を繋げる緩衝部とを編成しながら、前記親指側傾斜部が隣接する前記緩衝部の親指袋部側の領域に重なるように減らし編成を行って前記第2五本胴部を形成し、続けて掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成して筒状に前記第3五本胴部を編成するステップcと、
を備えることを特徴とする手袋の編成方法。
【請求項2】
前記ステップaの前記第2四本胴部の編成では、小指側で徐々に編幅を減らす引き返し編成を繰り返して傾斜させた小指側引き返し部を形成しながら編成することを特徴とする請求項1に記載の手袋の編成方法。
【請求項3】
横編機を用いて編成され、掌側の編目と甲側の編目を端部で繋げて筒状に編成される親指袋部と四本胴部と五本胴部を備える手袋において、
前記四本胴部は、第1四本胴部と第2四本胴部と第3四本胴部とが並び、五本胴部は第1五本胴部と第2五本胴部と第3五本胴部とが並ぶ状態で、
前記第2四本胴部の甲側に繋がる掌側は、人差し指側で編地端部から徐々にウェール数が少なくなるように引き返し編成することで形成される人差し指側引き返し部で構成され、前記第1五本胴部には、前記第2五本胴部の甲側に繋がる掌側で減らし編成によって形成される親指側傾斜部の底部と親指側傾斜部の側部が繋がると共に、該側部は親指側傾斜部に隣接して編地の歪みを分散させる緩衝部を介して繋がっていることを特徴とする手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手袋の編成方法および手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
手袋の掌側に弛みが生じないようにしてフィット感を高めることや、物を掴みやすくするために、手袋の指袋や四本胴を予め掌側へ屈曲させた状態に縫製・編成することが試みられている。例えば、特許文献1では、甲側の編幅中心が掌側の編幅中心に対してウェール方向の編目数が多い状態に編成することで、手袋を掌側へ湾曲する状態が保持でき、手にフィットする手袋が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−202008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年では、ゴルフ、野球あるいは自転車用として使用するスポーツ用手袋等、グリップを握るための好適な手袋が消費者に求められている。手袋のニーズの多様化が進行している中、特許文献1を含めて従来の縫製・編成技術の手袋では、グリップを握るのに好適とはいえず不十分であった。そのため、従来とは異なりグリップを握るための新規な手袋が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、グリップを握りやすいように湾曲させた手袋の編成方法と、その編成方法により得られた手袋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用い、筒状に編成される親指袋部と四本胴部と五本胴部を備え、且つ指先側から編み始めて手首部側で編み終える手袋の編成方法において、
前記四本胴部は、第1四本胴部と第2四本胴部と第3四本胴部から成り、掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成して前記第1四本胴部を編成した後、甲側と掌側をC字状に編成しながら、掌側では人差し指側の編幅の一部で徐々に編幅を減らす引き返し編成を繰り返して傾斜させた人差し指側引き返し部を形成することで前記第2四本胴部を編成し、続けて掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成することで前記第3四本胴部を編成するステップaと、
前記親指袋部を筒状に編成するステップbと、
前記五本胴部は、第1五本胴部と第2五本胴部と第3五本胴部から成り、前記第3四本胴部と前記親指袋部の編目のウェールに続けて掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成しながら前記第1五本胴部を編成した後、甲側と掌側をC字状に編成しながら、掌側では前記第1五本胴部の親指袋部側で、引き返し編成で親指側傾斜部と、親指側傾斜部側部と第1五本胴部を繋げる緩衝部とを編成しながら、前記親指側傾斜部が隣接する前記緩衝部の親指袋部側の領域に重なるように減らし編成を行って前記第2五本胴部を形成し、続けて掌側と甲側を繋げた状態で新たな編目を形成して筒状に前記第3五本胴部を編成するステップcと、
を備えることを特徴とする手袋の編成方法。
【0007】
また本発明は、 前記ステップaの前記第2四本胴部の編成では、小指側で徐々に編幅を減らす引き返し編成を繰り返して傾斜させた小指側引き返し部を形成しながら編成する。
【0008】
また本発明は、横編機を用いて編成され、掌側の編目と甲側の編目を端部で繋げて筒状に編成される親指袋部と四本胴部と五本胴部を備える手袋において、
前記四本胴部は、第1四本胴部と第2四本胴部と第3四本胴部とが並び、五本胴部は第1五本胴部と第2五本胴部と第3五本胴部とが並ぶ状態で、
前記第2四本胴部の甲側に繋がる掌側は、人差し指側で編地端部から徐々にウェール数が少なくなるように引き返し編成することで形成される人差し指側引き返し部で構成され、前記第1五本胴部には、前記第2五本胴部の甲側に繋がる掌側で減らし編成によって形成される親指側傾斜部の底部と親指側傾斜部の側部が繋がると共に、該側部は親指側傾斜部に隣接して編地の歪みを分散させる緩衝部を介して繋がっている手袋。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、手袋の第2四本胴部の人差し指側で、徐々に編幅を減少させる引き返し編成を繰り返し行って人差し指側引き返し部を形成してから、新たな編目を形成して第3四本胴部を編成していくことで、第2四本胴部と第3四本胴部の接続部分における長さの違いとコース数の差により、グリップに沿った形状で手袋を掌側に湾曲させることができる。さらに、引き返し編成によって、第3四本胴部と人差し指側引き返し部の傾斜部分に繋がる箇所では、編目が傾斜に沿って引っ張られる領域となり、第3四本胴部と人差し指側引き返し部の平坦部に繋がる箇所では、膨らむ領域となる。この膨らむ領域は、グリップ状の物を握る際にフィットさせる部分となる。そして、第2五本胴部に緩衝部を設けることで、接続箇所の伸縮する力を分散させることができ、その緩衝部を介して第1五本胴部と親指側傾斜部が繋がっている。そのため親指と人差し指の間を基点として湾曲させることができる。
【0010】
本発明では、四本胴部の掌側で、人差し指側の編幅の一部に加えて小指側で徐々に編幅を減らす引き返し編成をすることで、湾曲する領域が拡がり、より握りやすい手袋を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に示す手袋の主要部分の拡大図である。
図2】本実施形態に示す手袋の掌側と甲側の編成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の手袋1とその編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、前針床で手袋1の掌側を、後針床では甲側を編成する。なお、手袋1の掌側と甲側は前後どちらの針床で編成してもよい。
【0013】
≪全体構成≫
実施例では、図1に示す筒状に編成される親指袋部4と四本胴部3と五本胴部5を用いて、グリップが握りやすいように湾曲させた手袋1の編成方法とその手袋1について説明する。
【0014】
四本胴部3は、第1四本胴部3Aと第2四本胴部3Bと第3四本胴部3Cとが並び、五本胴部5は第1五本胴部5Aと第2五本胴部5Bと第3五本胴部5Cとが並ぶ状態となっている。第2四本胴部3Bの甲側に繋がる掌側は、人差し指側で編地端部から徐々にウェール数が少なくなるように引き返し編成することで形成される人差し指側引き返し部7aで構成されている。第1五本胴部5Aには、第2五本胴部5Bの甲側に繋がる掌側で減らし編成によって形成される親指側傾斜部9が編地の歪みを分散させる緩衝部8を介して繋がっており、第1五本胴部5Aの編目のウェールと親指側傾斜部9の編目のウェールが交差している。
【0015】
≪編成手順≫
図2の(a)は手袋1の掌側、(b)は甲側の編成概略図である。本実施形態に示す手袋1は、地糸に弾性糸を用いて1×1リブの組織で編成する共に、各コースでは張力を付加した弾性糸をインレイ編成する。なお、手袋1を構成する編組織は限定されず、例えば、天竺組織、あるいはその他の異なる組織などでもよい。なお、図示はしないが、手袋1の編成は、各指袋を順次編成してから、手首部6側に向けて胴部と接合しながら無縫製で一体に編成する。
【0016】
手袋1は、公知の編成方法により、人差指袋、中指袋および薬指袋を順次編成し、相互に接合して三本胴部2に移行し、その後編成した小指袋と三本胴部2とを相互に接合して四本胴部3に移行して編成を行う。四本胴部3は、第1四本胴部3Aと第2四本胴部3Bと第3四本胴部3Cから構成されており、まずは掌側の編目と甲側の編目を端部で繋げた状態で第1四本胴部3Aをラインαまで筒状に編成する。なお、例えば掌側の中央部を編成せず、C字状に編成を行ってもよい。その場合、後述する小指側引き返し部7bの効果と合わせてグリップに適した形状を形成することができる。次に、第1四本胴部3Aに続いて、甲側と掌側をC字状に編成しながら、掌側では、人差し指側b−hと小指側c−iで編針を順次編成から外して不作用状態としていく引き返し編成を繰り返し、傾斜させた人差し指側引き返し部7aと小指側引き返し部7bを形成しながら第2四本胴部3Bを編成していく。掌側の小指側で編成される小指側引き返し部7bは、第2四本胴部3Bのラインβまでとし、続く編成は甲側で徐々に編幅を減らしながらラインγまで引き返し編成を行う。小指側引き返し部7bと甲側の引き返し編成は必ずしも編成する必要はないが、続いて編成される第2四本胴部3Bと第1四本胴部3Aが接合できるように引き返し編成を行っている。なお、第2四本胴部3Bと第1四本胴部3Aが接合できれば、その他の編成方法でもよい。また、甲側で引き返し編成をせず、掌側の小指側引き返し部7bだけでもよい。小指側引き返し部7bを形成した場合には、手袋1が掌側に湾曲する範囲が拡がり、さらに握りやすくすることができる。その後、両引き返し部7a, 7bで形成した傾斜部分a−b, c−d,e−fのタック目も含め、続けてラインγから新たな編目を形成して筒状に第3四本胴部3Cを編成する。
【0017】
第2四本胴部3Bと人差し指側引き返し部7aと小指側引き返し部7bの編目列に新たな編目を形成して第3四本胴部3Cを編成することで、第2四本胴部3Bと第3四本胴部3Cの接続部分における長さの違いとコース数の差により、グリップに沿った形状で手袋1を掌側に湾曲させることができる。さらに、引き返し編成によって、第3四本胴部3Cと人差し指側引き返し部7aの傾斜部分a−bに繋がる箇所では、編目が傾斜に沿って引っ張られる領域となり、第3四本胴部3Cと人差し指側引き返し部7aの平坦部a−gに繋がる箇所では他に比較して編目数が多くなり、膨らむ領域となる。この膨らむ領域は、グリップ状の物を握る際にフィットさせる部分となる。
【0018】
四本胴部3の編成後は、親指袋部4を筒状に編成してから、ラインδから五本胴部5を形成していく。五本胴部5は、第1五本胴部5Aと第2五本胴部5Bと第3五本胴部5Cから構成されており、まずは第3四本胴部3Cと親指袋部4の編目のウェールに続けて、掌側の編目と甲側の編目を端部で繋げた状態で第1五本胴部5Aをラインεまで編成していく。次に、掌側で第1五本胴部5Aの親指袋部4側の編幅の一部j−k, k−lで、徐々に編幅を増やす引き返し編成で緩衝部8と親指側傾斜部9を編成することで、第1五本胴部5Aに接続する。さらに、親指側傾斜部9を緩衝部8の親指袋部4側の領域に重ねるように減らし編成を行って第2五本胴部5Bをラインζまで編成していくことで、緩衝部8を介して親指側傾斜部9が第1五本胴部5Aに接続された状態となる。甲側では、第1五本胴部5Aの編幅で新たな編目列を形成すると共に、右側の編端も引き返し編成を用いて、続く筒状に編まれる第3五本胴部5Cに繋がって接合できるように傾斜させて編成する。なお、本実施形態では、緩衝部8と親指側傾斜部9を2コース編成する際に1回減らし処理を行っている。
【0019】
親指側傾斜部9と緩衝できる。また、緩衝部8を形成しておくことで、第1五本胴部5Aと親指側傾斜部9の接続箇所の伸縮する力が分散されて突っ張りやダブりの発生をし難くできる。なお、突っ張りやダブりを発生させないためには、緩衝部8は複数の編目列で形成されていることが好ましい。また、本実施形態では、第1五本胴部5Aと親指側傾斜部9の接合は2:1の比率で行われており、2:1の接合比率に対して緩衝部8が設けられていることで、収まりがよく伸縮する力が分散されている。部8を設けることで、前述の人差し指側引き返し部7aと小指側引き返し部7bとが相互に作用して、親指と人差し指の間を基点として湾曲させることが
【0020】
第2五本胴部5Bの編目の編成に続けて第3五本胴部5Cを筒状に編成する。そして、手首部6を終端部まで筒状に編成し、公知の伏目処理を行うことで、手袋1の編成は完了する。なお、手袋1は、地糸に弾性糸を用いて1×1リブの組織で編成する共に、各コースでは張力を付加した弾性糸をインレイ編成して形成されているので、より強力に親指と人差し指の間を基点として湾曲させることができる。
【0021】
上記編成工程から得られた手袋1は、ゴルフ、野球あるいは自転車用等のグリップを握る際に好適な手袋である。なお、第2四本胴部3Bの掌側に形成される人差し指側引き返し部7aと小指側引き返し部7bの引き返し編成の位置等を変更して左右の形状や大きさを変更することで、手袋の曲がる度合いを調整しても良い。
【符号の説明】
【0022】
1 手袋
2 三本胴部
3 四本胴部
3A 第1四本胴部 3B 第2四本胴部 3C 第3四本胴部
4 親指袋部
5 五本胴部
5A 第1五本胴部 5B 第2五本胴部 5C 第3五本胴部
6 手首部
7a 人差し指側引き返し部 7b 小指側引き返し部
8 緩衝部
9 親指側傾斜部






図1
図2