特許第6552891号(P6552891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552891
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】車上システムおよび地上システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/40 20060101AFI20190722BHJP
   B61L 27/00 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   B60L15/40 G
   B61L27/00 L
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-131775(P2015-131775)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-17857(P2017-17857A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、「エネルギー効率化社会構築に向けての省エネ列車運行制御システムの開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行木 英明
(72)【発明者】
【氏名】鴨 雄史
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−131867(JP,A)
【文献】 特開昭60−092955(JP,A)
【文献】 特開2015−116895(JP,A)
【文献】 特開平04−079705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L1/00−3/12
7/00−13/00
15/00−58/40
B61L1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に設けられる車上システムであって、
前記列車のダイヤ情報と、前記列車の現在位置に関する情報と、前記列車が前記現在位置に到着、前記現在位置から出発、または前記現在位置を通過する時刻としての現在時刻とに基づいて前記列車の遅れ時間を算出する遅れ時間算出部と、
前記列車が走行する複数の駅間の各々の余裕時分およびエネルギー特性の少なくとも一方と、前記遅れ時間とに基づいて、前記列車の遅れを回復するための回復時間を前記複数の駅間の各々に配分し、前記複数の駅間の各々の走行時間を調整する走行時間調整部とを備え
前記余裕時分は、前記複数の駅間の各々を前記列車が前記ダイヤ情報に従って走行した場合に要する計画上の走行時間から、前記複数の駅間の各々を前記列車が最速で走行した場合に要する最速走行時間を差し引いた時間を示すものであり、
前記エネルギー特性は、前記複数の駅間の各々を前記列車が最速で走行した場合に要する前記最速走行時間に対して駅間の走行時間を延ばしていった場合の消費エネルギーの低減度合を示すものであり、
前記走行時間調整部は、前記複数の駅間の各々の余裕時分の総和から前記遅れ時間を差し引いた差分時間を、前記消費エネルギーの低減度合が最も大きい駅間から順に配分し、配分した前記差分時間を前記余裕時分から差し引いて前記回復時間を決定する、車上システム。
【請求項2】
前記走行時間調整部は、前記消費エネルギーの低減度合が等しい駅間が複数存在する場合、前記余裕時分の残りが最も大きい駅間から順に前記差分時間を配分する、請求項に記載の車上システム。
【請求項3】
調整された前記走行時間を運転士に提示する走行時間提示部をさらに備える、請求項1または2に記載の車上システム。
【請求項4】
調整された前記走行時間に応じた運転曲線を作成する運転曲線作成部と、
作成された前記運転曲線に従った運転を行うための支援情報を作成し、作成した前記支援情報を運転士に提示する運転支援部とをさらに備える、請求項1または2に記載の車上システム。
【請求項5】
調整された前記走行時間に応じた運転曲線を作成する運転曲線作成部と、
作成された前記運転曲線に従った運転を行うための制御指令を決定し、決定した前記制御指令を用いて前記列車の駆動制動装置を制御する運転制御部とをさらに備える、請求項1または2に記載の車上システム。
【請求項6】
地上に設けられる地上システムであって、
列車のダイヤ情報と、前記列車の現在位置に関する情報と、前記列車が前記現在位置に到着、前記現在位置から出発、または前記現在位置を通過する時刻としての現在時刻とに基づいて前記列車の遅れ時間を算出する遅れ時間算出部と、
前記列車が走行する複数の駅間の各々の余裕時分およびエネルギー特性の少なくとも一方と、前記遅れ時間とに基づいて、前記列車の遅れを回復するための回復時間を前記複数の駅間の各々に配分し、前記複数の駅間の各々の走行時間を調整する走行時間調整部とを備え
前記余裕時分は、前記複数の駅間の各々を前記列車が前記ダイヤ情報に従って走行した場合に要する計画上の走行時間から、前記複数の駅間の各々を前記列車が最速で走行した場合に要する最速走行時間を差し引いた時間を示すものであり、
前記エネルギー特性は、前記複数の駅間の各々を前記列車が最速で走行した場合に要する前記最速走行時間に対して駅間の走行時間を延ばしていった場合の消費エネルギーの低減度合を示すものであり、
前記走行時間調整部は、前記複数の駅間の各々の余裕時分の総和から前記遅れ時間を差し引いた差分時間を、前記消費エネルギーの低減度合が最も大きい駅間から順に配分し、配分した前記差分時間を前記余裕時分から差し引いて前記回復時間を決定する、地上システム。
【請求項7】
前記走行時間調整部は、前記消費エネルギーの低減度合が等しい駅間が複数存在する場合、前記余裕時分の残りが最も大きい駅間から順に前記差分時間を配分する、請求項に記載の地上システム。
【請求項8】
調整された前記走行時間を前記列車に送信する走行時間情報送信部をさらに備える、請求項6または7に記載の地上システム。
【請求項9】
調整された前記走行時間に応じた運転曲線を作成する運転曲線作成部と、
作成された前記運転曲線を前記列車に送信する運転曲線情報送信部とをさらに備える、請求項6または7に記載の地上システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車上システムおよび地上システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、列車の遅延が発生した場合、制限速度を超えない範囲で可能な最速のパターンで運転することによって遅延回復を図っていたが、消費エネルギーの増加が大きいという問題があった。これに対し、省エネを考慮した回復運転の方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。この方法では、遅れ時間を端末駅までの駅間数で割って、1駅間で回復させる時間を決定し、複数駅間で遅延回復を図っている。これにより、消費エネルギーの増加を抑制しつつ遅延回復を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−131867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、端末駅までの複数の駅間は、それぞれ駅間の長さや路線条件が異なり、余裕時分は一様ではない。したがって、全ての駅間において回復させる時間を同一とした場合、余裕時分の小さい駅間では、最速パターンに近い運転となり、端末駅までの全区間の消費エネルギーが最小とならない場合がある。
【0005】
そこで、実施形態では、遅延回復時の運転において、消費エネルギーの増加をより抑制できる車上システムおよび地上システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による車上システムは、列車に設けられる。この車上システムは、遅れ時間算出部と、走行時間調整部とを備える。遅れ時間算出部は、列車のダイヤ情報と、列車の現在位置に関する情報と、列車が現在位置に到着、現在位置から出発、または現在位置を通過する時刻としての現在時刻とに基づいて列車の遅れ時間を算出するように構成される。走行時間調整部は、列車が走行する複数の駅間の各々の余裕時分およびエネルギー特性の少なくとも一方と、遅れ時間とに基づいて、列車の遅れを回復するための回復時間を複数の駅間の各々に配分し、複数の駅間の各々の走行時間を調整するように構成される。余裕時分は、複数の駅間の各々を列車がダイヤ情報に従って走行した場合に要する計画上の走行時間から、複数の駅間の各々を列車が最速で走行した場合に要する最速走行時間を差し引いた時間を示すものである。エネルギー特性は、複数の駅間の各々を列車が最速で走行した場合に要する最速走行時間に対して駅間の走行時間を延ばしていった場合の消費エネルギーの低減度合を示すものである。走行時間調整部は、複数の駅間の各々の余裕時分の総和から遅れ時間を差し引いた差分時間を、消費エネルギーの低減度合が最も大きい駅間から順に配分し、配分した差分時間を余裕時分から差し引いて回復時間を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態による車上システムの構成を示した例示ブロック図である。
図2A図2Aは、ある駅間における運転曲線および余裕時分の事例を示した例示図である。
図2B図2Bは、図2Aの次の駅間における運転曲線および余裕時分の事例を示した例示図である。
図2C図2Cは、図2Bの次の駅間における運転曲線および余裕時分の事例を示した例示図である。
図3図3は、駅間毎のエネルギー特性の事例を示した例示図である。
図4A図4Aは、第1比較例による回復運転実施時のエネルギー状況の事例を示した例示図である。
図4B図4Bは、図4Aに対応する表を示した例示図である。
図5A図5Aは、第2比較例による回復運転実施時のエネルギー状況の事例を示した例示図である。
図5B図5Bは、図5Aに対応する表を示した例示図である。
図6A図6Aは、第1実施形態による回復時間の配分方法の一例(第1の配分方法)を用いた回復運転実施時のエネルギー状況の事例を示した例示図である。
図6B図6Bは、図6Aに対応する表を示した例示図である。
図7A図7Aは、第1実施形態による回復時間の配分方法の他の一例(第2の配分方法)を用いた回復運転実施時のエネルギー状況の事例を示した例示図である。
図7B図7Bは、図7Aに対応する表を示した例示図である。
図8図8は、図7Aおよび7Bに示した第2の配分方法の詳細を説明するための例示図である。
図9図9は、第1実施形態による車上システムが実行する処理を示した例示フローチャートである。
図10図10は、第2実施形態による車上システムの構成を示した例示ブロック図である。
図11図11は、第3実施形態による車上システムの構成を示した例示ブロック図である。
図12図12は、第4実施形態による車上システムおよび地上システムの構成を示した例示ブロック図である。
図13図13は、第5実施形態による車上システムおよび地上システムの構成を示した例示ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0009】
(第1実施形態)
まず、図1〜9を参照して、第1実施形態による車上システム100について説明する。この車上システム100は、列車Tに搭載される列車運転支援装置である。
【0010】
図1は、第1実施形態による車上システム100の構成を示した例示ブロック図である。図1に示すように、車上システム100は、遅れ時間算出部1と、走行時間調整部2と、運転支援部3とを備える。また、車上システム100は、データベースとして、ダイヤ情報を記憶する第1のデータベース4と、駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性を記憶する第2のデータベース5とを備える。
【0011】
遅れ時間算出部1は、自身が搭載された列車T(以下、自列車という)のダイヤ情報と現在時刻とから、自列車の遅れ時間を算出する。遅れ時間算出部1は、自列車のダイヤ情報を、第1のデータベース4から読み出す。
【0012】
走行時間調整部2は、自列車が走行しようとする複数の駅間で、上記の遅れ時間を解消するため、複数の駅間それぞれにおける回復時間(自列車の遅れを回復するための時間)を各駅間に配分し、各駅間での自列車の走行時間を調整する。より具体的には、走行時間調整部2は、遅れ時間算出部1により算出された遅れ時間と、第2のデータベース5に保存された情報(駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性)とを用いて、自列車の遅れが解消され、かつ自列車が走行する区間全体での自列車の消費エネルギーが最小となるように、各駅間に配分する回復時間を決定する。
【0013】
運転支援部3は、上記のように決定された走行時間を支援情報として画面表示等により運転士に提示する。運転士は、支援情報として提示された走行時間を満たすように列車Tを運転することで、省エネルギー化を図りつつ遅延回復を行うことができる。
【0014】
次に、第1実施形態の走行時間調整部2による駅間毎の回復時間の配分方法を、2つの比較例と対比して説明する。以下では、簡単化のため、3駅間で遅れを回復する場合を考える。
【0015】
図2A、2Bおよび2Cは、3つの駅間A、BおよびCのそれぞれにおける運転曲線および余裕時分の事例を示した例示図である。以下では、駅間A、BおよびCの順に列車が走行するものとし、各駅間に元々設定された余裕時分は、それぞれ、4秒、6秒および9秒であるものとする。なお、図2A、2Bおよび2Cでは、列車が各駅間を最速で走行する最速運転の場合の運転曲線(最速運転曲線)が点線で表され、最速運転の場合の走行時間にそれぞれ4秒、6秒および9秒の余裕時分を付加した場合の運転曲線(標準運転曲線)が実線で表されている。
【0016】
また、図3は、上記の駅間A、BおよびCにおけるエネルギー特性の事例を示した例示図である。より具体的には、図3は、最速運転の場合を基準とし、余裕時分を付加して各駅間の走行時間を延ばしていった場合の消費エネルギーの減少特性を示したものである。なお、図3では、駅間Aにおけるエネルギー特性が実線で表され、駅間Bにおけるエネルギー特性が点線で表され、駅間Cにおけるエネルギー特性が一点鎖線で表されている。
【0017】
ここで、駅間Aの走行を開始した時の遅れを12秒とし、駅間A〜Cの3駅間で遅れ回復を図る場合について考える。
【0018】
(第1比較例による回復時間の配分方法)
図4Aおよび4Bは、第1比較例による回復時間の配分方法を説明するための例示図である。図4Aおよび4Bに示すように、第1比較例では、12秒の遅れを極力早く回復させるため、駅間AおよびBでは最速運転を実行して10秒の回復を行い、残りの2秒を駅間Cで回復させている。ここで、図4Aの符号M1、M2およびM3は、それぞれ、駅間A、BおよびCにおける消費電力量(最速運転時の消費電力量との差分)を示している。また、図4Bの斜線のハッチングは、各駅間に配分される回復時間を示している。図4Aおよび4Bに示すように、第1比較例では、駅間Cには7秒の余裕時分が残り、駅間A〜Cの3駅間でのトータルの消費電力量は、3駅間の全てで最速運転を実行する場合と比べて、3.95kWh小さくなる。
【0019】
(第2比較例による回復時間の配分方法)
図5Aおよび5Bは、第2比較例による回復時間の配分方法を説明するための例示図である。図5Aおよび5Bに示すように、第2比較例では、12秒の遅れを3駅間で均等に回復させている。つまり、第2比較例では、遅れ時間が12秒であるのに対し、駅間数が3であるので、1駅間に配分される回復時間は4秒となる。なお、図5Aの符号M11、M12およびM13は、それぞれ、駅間A、BおよびCにおける消費電力量(最速運転時の消費電力量との差分)を示し、図5Bの斜線のハッチングは、各駅間に配分される回復時間を示している。図5Aおよび5Bに示すように、第2比較例では、駅間Aでは元々の余裕時分が4秒しかないため、最速運転となるが、3駅間でのトータルの消費電力量は、3駅間の全てで最速運転を実行する場合と比べて、5.35kWh小さくなる。すなわち、第2比較例では、上記の第1比較例と比べて、1.4kWhの省エネルギー化が実現される。
【0020】
(第1実施形態による回復時間の配分方法)
図6Aおよび6Bは、第1実施形態による回復時間の配分方法の一例としての第1の配分方法を説明するための例示図である。図6Aおよび6Bに示すように、第1の配分方法では、12秒の遅れ時間を、各駅間の余裕時分に比例配分して、各駅間での回復時間を決定している。つまり、第1の配分方法では、遅れ時間をDとし、各駅間の余裕時分の総和をTsumとした場合、余裕時分がTxである駅間Xに配分される回復時間は、D×(Tx/Tsum)という式によって計算される。なお、図6Aおよび6Bの例では、比例配分結果を1秒単位に丸め、駅間A、BおよびCの各駅間での回復時間を、それぞれ、2秒、4秒、6秒と設定している。また、図6Aの符号M21、M22およびM23は、それぞれ、駅間A、BおよびCにおける消費電力量(最速運転時の消費電力量との差分)を示し、図6Bの斜線のハッチングは、各駅間に配分される回復時間を示している。
【0021】
図6Aおよび6Bに示すように、第1の配分方法では、全ての駅間で最速運転が回避され、3駅間でのトータルの消費電力量は、3駅間の全てで最速運転を実行する場合と比べて、6.9kWh小さくなる。すなわち、第1の配分方法では、第1比較例と比べて2.95kWhの省エネルギー化が実現されるとともに、第2比較例と比べて1.55kWhの省エネルギー化が実現される。したがって、第1の配分方法によれば、更なる省エネルギー化を図ることができる。
【0022】
図7Aおよび7Bは、第1実施形態による回復時間の配分方法の他の一例としての第2の配分方法を説明するための例示図である。図7Aおよび7Bに示すように、第2の配分方法では、各駅間のエネルギー特性に基づき、元々の余裕時分から遅れ時間を差し引いた差分時間(残りの余裕時分)を、省エネルギー効果の高い駅間に優先して配分している。なお、図7Aの符号M31、M32およびM33は、それぞれ、駅間A、BおよびCにおける消費電力量(最速運転時の消費電力量との差分)を示し、図7Bの斜線のハッチングは、各駅間に配分される回復時間を示している。以下、第2の配分方法を、図8を用いてより詳細に説明する。
【0023】
図8は、最速運転に対して余裕時分を付加し走行時間を延ばしていった場合の、走行時間の延び1秒当たりの消費電力量の低下を示した表である。たとえば、駅間Aでは、最速運転に対して走行時間を1秒延ばすと、2kWh消費電力量が低下し(図8の表のセルC1参照)、さらに1秒延ばすと、0.4kWh(累積で2.4kWh)消費電力量が低下する(図8の表のセルC1の1つ下のセル参照)。
【0024】
第2の配分方法では、駅間A〜Cの元々の余裕時分の合計は19秒であり、遅れ時間は12秒なので、これらの差分時間7秒を各駅間に配分し、配分した差分時間を元々の余裕時分から差し引いて回復時間を決定する。すなわち、第2の配分方法では、図8の表の上から順に、値の大きな駅間をチェックしていき、余裕時分の合計が7秒になるまで繰り返す。なお、値が等しい駅間が複数存在する場合には、余裕時分の残り(配分した差分時間を元々の余裕時分から差し引いたもの)が大きい駅間を優先する。
【0025】
図8の例では、セルC1の優先順位が最も高く、以降の優先順位は、セルC2、C3、C4、C5、C6およびC7の順となっている。この結果から、駅間A、BおよびCに配分される差分時間は、それぞれ、1秒、3秒および3秒となる。すなわち、駅間A、BおよびCに設定される回復時間は、それぞれ、3秒(=4秒−1秒)、3秒(=6秒−3秒)および6秒(=9秒−3秒)となる。
【0026】
図7Aおよび7Bに戻り、第2の配分方法では、駅間A、BおよびCの3駅間の全てで最速運転を実行する場合と比べて、7.0kWh小さくなる。すなわち、第2の配分方法では、第1比較例と比べて、3.05kWhの省エネルギー化が実現されるとともに、第2比較例と比べて、1.65kWhの省エネルギー化が実現される。また、第2の配分方法では、若干であるが、第1の配分方法に比べて省エネルギー性が向上している。省エネルギー性が向上する理由としては、駅間毎のエネルギー特性に差異がある場合、単純に余裕時分に比例して配分するより、省エネルギー効果の高い駅間を優先した方が省エネ性は向上する場合があるからだと考えられる。
【0027】
次に、図9を参照して、第1実施形態による車上システム100の各部(図1参照)が実行する処理を説明する。
【0028】
図9に示すように、車上システム100の遅れ時間算出部1は、まず、自列車のダイヤ情報と現在時刻とに基づいて、遅れ時間を算出する(S1)。
【0029】
そして、車上システム100の走行時間調整部2は、遅れ時間算出部1により算出された遅れ時間と、第2のデータベース5に保存された情報(駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性)とに基づいて、自列車の走行時間を調整する(S2)。より具体的には、走行時間調整部2は、上記の第1の配分方法(図6Aおよび6B参照)または第2の配分方法(図7A、7Bおよび8参照)を用いて、区間全体での自列車の消費エネルギーが最小となるように、遅れ時間を解消するために各駅間に配分する回復時間を決定する。
【0030】
そして、車上システム100の運転支援部3は、走行時間調整部2により調整された走行時間を支援情報として画面表示等により運転士に提示する(S3)。
【0031】
以上説明したように、第1実施形態による車上システム100は、次のような構成の遅れ時間算出部1および走行時間調整部2を備えている。遅れ時間算出部1は、自列車のダイヤ情報と現在時刻とに基づいて自列車の遅れ時間を算出するように構成されている。走行時間調整部2は、自列車が走行する各駅間の余裕時分およびエネルギー特性の少なくとも一方と、遅れ時間算出部1により算出された遅れ時間とに基づいて、自列車の遅れを回復するための回復時間を各駅間に配分し、各駅間の走行時間を調整するように構成されている。これにより、第1実施形態では、各駅間の余裕時分およびエネルギー特性の少なくとも一方と、遅れ時間とを考慮して駅間毎の回復時間が調整されるので、回復運転時の消費エネルギーの増加をより抑制することができる。
【0032】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、回復時間を配分した走行時間そのものを運転士に提示して運転支援を行う例について説明した。しかしながら、第2実施形態として、回復時間を配分して走行時間を調整した後、当該走行時間に応じた運転曲線を作成し、当該運転曲線に基づく支援情報を運転士に提示して運転支援を行う例も考えられる。以下、図10を参照して、第2実施形態による車上システム200について説明する。第2実施形態では、第1実施形態と共通する構成要素については同一の符号を割り当てて説明を省略する。
【0033】
図10に示すように、第2実施形態による車上システム200は、遅れ時間算出部1と、走行時間調整部2と、運転曲線作成部6と、運転支援部3aとを備える。また、車上システム200は、データベースとして、ダイヤ情報を記憶する第1のデータベース4と、駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性を記憶する第2のデータベース5と、路線情報および車両特性を記憶する第3のデータベース7とを備える。
【0034】
運転曲線作成部6は、走行時間調整部2により調整された走行時間で各駅間を走行するための運転曲線を作成する。より具体的には、運転曲線作成部6は、走行時間調整部2により調整された走行時間と、第3のデータベース7に保存された情報(路線情報および車両特性)とを用いて、自列車が走行する区間全体での消費エネルギーが最小となるような走行計画に対応する運転曲線を作成する。
【0035】
運転支援部3aは、運転曲線作成部6により作成された運転曲線に沿った運転を実現するための支援情報を作成し、作成した支援情報を画面表示等により運転士に提示する。この運転支援部3aにより提示される支援情報は、例えば現在位置に応じた目標速度等であり、運転士は、支援情報に従って運転することで、省エネルギー化を図りつつ遅延回復を行うことができる。
【0036】
上記のように、第2実施形態によれば、運転士は、運転曲線に基づくより具体的な支援情報に基づいて列車Tを運転することができるので、省エネルギー化を図りながらの遅延回復を容易に行うことができる。
【0037】
第2実施形態のその他の構成および効果は、第1実施形態と同様である。
【0038】
(第3実施形態)
上記の第2実施形態では、省エネルギー化を図りつつ遅延回復を行うことが可能なように作成された運転曲線に基づく支援情報に従って運転士が列車を手動で運転する例について説明した。しかしながら、第3実施形態として、第2実施形態と同様に作成された運転曲線に基づき、列車の現在の位置および速度に応じて運転曲線に追従するための制御指令を演算し、自動運転を行ってもよい。以下、図11を参照して、第3実施形態による車上システム300について説明する。第3実施形態では、第2実施形態と共通する構成要素については同一の符号を割り当てて説明を省略する。
【0039】
図11に示すように、第3実施形態による車上システム300は、遅れ時間算出部1と、走行時間調整部2と、運転曲線作成部6と、運転制御部8とを備える。運転制御部8は、自列車の駆動制動装置9を制御可能に構成されている。
【0040】
より具体的には、運転制御部8は、運転曲線作成部6により作成された運転曲線に基づき、自列車の位置および速度に応じて、運転曲線に追従するための制御指令を算出する。自列車の位置および速度は、たとえば、車軸に設置されるTG(Tachogenerator)から情報を取得したり、車上子を介して線路上の地上子から情報を取得したり、GPS(Global Positioning System)を利用したりすることにより検出することができる。
【0041】
運転制御部8は、上記のように算出した制御指令を駆動制動装置9に出力することにより、遅れ時間を解消し、かつ自列車が走行する区間全体での消費エネルギーが最小とすることが可能な運転曲線に沿って、駆動制動装置9を介して自列車の自動運転を行う。
【0042】
上記のように、第3実施形態によれば、省エネルギー化を図りながらの遅延回復を自動運転によって実現することができる。
【0043】
第3実施形態のその他の構成および効果は、第2実施形態と同様である。
【0044】
(第4実施形態)
上記の第1〜第3実施形態では、遅れ時間の算出や走行時間の調整等の演算を車上で実行する例について説明した。しかしながら、第4実施形態として、遅れ時間の算出や走行時間の調整等の演算を地上で実行し、その演算結果を無線等を介して車上に送信してもよい。以下、図12を参照して、第4実施形態による車上システム400および地上システム500について説明する。
【0045】
図12に示すように、第4実施形態による車上システム400は、運転曲線作成部6と、運転制御部8と、データ受信部10とを備える。また、第4実施形態による地上システム500は、遅れ時間算出部11と、走行時間調整部12と、データ送信部13とを備える。さらに、地上システム500は、データベースとして、ダイヤ情報を記憶する第1のデータベース14と、駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性を記憶する第2のデータベース15とを備える。また、地上システム400は、データベースとして、路線情報および車両特性を記憶する第3のデータベース7を備える。
【0046】
地上システム500の遅れ時間算出部11は、制御対象の列車T(以下、対象列車という)のダイヤ情報と現在時刻とから、対象列車の遅れ時間を算出する。遅れ時間算出部11は、対象列車のダイヤ情報を、第1のデータベース14から読み出す。
【0047】
地上システム500の走行時間調整部12は、対象列車の遅れが解消され、かつ対象列車が走行する区間全体での対象列車の消費エネルギーが最小となるように、前述の第1の配分方法または第2の配分方法で各駅間に回復時間を配分し、各駅間での対象列車の走行時間を調整する。走行時間の調整は、遅れ時間算出部11により算出された遅れ時間と、第2のデータベース15に保存された情報(駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性)とに基づいて実行される。
【0048】
地上システム500のデータ送信部13は、走行時間調整部12により調整された走行時間を車上システム400に無線等を介して送信する。
【0049】
車上システム400のデータ受信部10は、地上システム500から送信された走行時間を受信し、運転曲線作成部6に通知する。運転曲線作成部6は、第3のデータベース7に記憶された情報(路線情報および車両特性)を用いて、データ受信部10から通知された走行時間を満たすような運転曲線を作成する。運転制御部8は、運転曲線作成部6により作成された運転曲線に沿って列車Tを運転するための制御指令を演算し、演算した制御指令を列車Tの駆動制動装置9に出力する。
【0050】
上記のように、第4実施形態によれば、遅れ時間の算出および回復時間の調整を行う構成が地上システム500に設けられるので、省エネルギー化を図りながらの遅延回復を実現するための車上システム400の構成を簡素化することができる。
【0051】
(第5実施形態)
上記の第4実施形態では、遅れ時間の算出および走行時間の調整を地上で行い、運転曲線の作成を車上で行う例について説明した。しかしながら、第5実施形態として、遅れ時間の算出および走行時間の調整に加えて、運転曲線の作成も地上で行ってもよい。以下、図13を参照して、第5実施形態による車上システム600および地上システム700について説明する。第5実施形態では、第4実施形態と共通する構成要素については同一の符号を割り当てて説明を省略する。
【0052】
図13に示すように、第5実施形態による車上システム600は、運転制御部8と、データ受信部10aとを備える。また、第5実施形態による地上システム700は、遅れ時間算出部11と、走行時間調整部12と、データ送信部13aと、運転曲線作成部16とを備える。さらに、地上システム700は、データベースとして、ダイヤ情報を記憶する第1のデータベース14と、駅間毎の余裕時分およびエネルギー特性を記憶する第2のデータベース15と、路線情報および車両特性を記憶する第3のデータベース17とを備える。
【0053】
地上システム700の運転曲線作成部16は、第3のデータベース16に記憶された情報(路線情報および車両特性)を用いて、走行時間調整部12により調整された走行時間を満たすような運転曲線を作成する。そして、地上システム700のデータ送信部13aは、運転曲線作成部16により作成された運転曲線を車上システム600に無線等を介して送信する。
【0054】
車上システム600のデータ受信部10aは、地上システム700から運転曲線を受信し、受信した運転曲線を運転制御部8に通知する。運転制御部8は、データ受信部10aから通知された運転曲線に沿って列車Tを運転するための制御指令を演算し、演算した制御指令を列車Tの駆動制動装置9に出力する。
【0055】
上記のように、第4実施形態によれば、遅れ時間の算出および回復時間の調整を行う構成に加えて、運転曲線の作成を行う構成も地上システム700に設けられるので、省エネルギー化を図りながらの遅延回復を実現するための車上システム600の構成をより簡素化することができる。
【0056】
第5実施形態のその他の構成および効果は、第4実施形態と同様である。
【0057】
(変形例)
上記の第1実施形態(第2〜第5実施形態も同様)では、駅間A、BおよびCの各駅間の走行時間の決定(調整)を駅間Aの走行開始時に行い、決定した走行時間を駅間Cの走行終了までそのまま用いる例について説明した。しかしながら、変形例として、次の駅間Bの走行開始時点の遅れ状況により、駅間BおよびCの各々に配分する回復時間を再演算し、駅間BおよびCの走行時間を再調整してもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、上記実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1、11 遅れ時間算出部
2、12 走行時間調整部
3、3a 運転支援部
8 運転制御部
9 駆動制動装置
13 データ送信部(走行時間情報送信部)
13a データ送信部(運転曲線情報送信部)
100、200、300、400、600 車上システム
500、700 地上システム
T 列車
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13