【課題を解決するための手段】
【0006】
この電動ブレーキシステムは、電動ブレーキ装置1とこの電動ブレーキ装置1に電力を供給する電源装置19とを備え、
前記電動ブレーキ装置1は、ブレーキロータ6、摩擦材7、この摩擦材7を前記ブレーキロータ6と接触させる摩擦材操作手段8、この摩擦材操作手段8を駆動する電動モータ9、およびこの電動モータ9から前記摩擦材7に至る間の駆動伝達部での機械的係合によって所定のブレーキ力を保持する駐車ブレーキ機構5を有する電動ブレーキアクチュエータ2と、前記電動モータ9を制御することによりブレーキ力を目標値に追従制御する主ブレーキ制御手段21、および前記駐車ブレーキ機構5を制御する駐車ブレーキ制御手段22を有するブレーキ制御装置3とを有する電動ブレーキシステムにおいて、
前記電源装置19とは別の補助電源25と、前記電源装置19と前記補助電源25の 電力を使用する比率を変更可能な電源制御装置24と、前記電源装置19による電力供給状態を監視しその監視の結果により電力供給状態が所定の状態を下回ると判定された場合に、前記電源制御装置24を前記補助電源25の電力により前記電源装置19の供給電力の不足分を補って供給する接続形態とする電源監視制御手段23とを有し、前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記電源制御装置24の制御により前記電源装置19の供給電力の不足分を前記補助電源25を使用して補っている状況において、所定の判断に基づいて、前記電動ブレーキ装置1の搭載車両の操縦者の操作によらずに前記駐車ブレーキ機構5を動作させる機能を有することを特徴とする。
なお、前記「所定の判断」は、設計によって適宜の内容に定めれば良い。
【0007】
この構成によると、駐車ブレーキ機構5を適宜使用しながらブレーキ動作を行うことで、消費電力を低減し、特に補助電源25の使用時におけるブレーキ作動時間の延長に有効となる。また、前記駐車ブレーキ機構5を使用する頻度を、状況に応じて変更することで、ブレーキ性能およびフィーリングへの影響を極力小さくすることができる。
具体的には、主となる前記電源装置19(以下、「主電源装置19」称する場合がある)とは別の補助電源25と、電力供給状態が所定の状態を下回った場合に、前記補助電源25の電力を補って前記電動モータ9の駆動に使用する電源制御装置24とを備えるため、前記主電源装置19の出力電圧が蓄電量の低下等により低下しても、補助電源25の電力が主電源装置19の出力に加えられ、通常の制動動作を適正に行うことができる。
前記補助電源25は、主電源装置19と並設されるため、大きな電力容量にすると、過剰構成となってコスト増となるうえ、重量増となるため、電力容量を抑える必要がある。これにつき、前記駐車ブレーキ機構5は 駆動伝達部での機械的係合によってブレーキ力を保持する構成であるため、電力消費を殆ど必要とせずにブレーキ力の保持が可能であり、また前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記補助電源25を使用している状況において、所定の判断に基づいて、前記電動ブレーキ装置1の搭載車両の操縦者の操作によらずに前記駐車ブレーキ機構5を動作させる。そのため、運転者が特に注意しなくても、消費電力を低減できる。
【0008】
このように、駐車ブレーキ機構5を適宜使用しながらブレーキ動作を行うことで、消費電力を低減し、特に補助電源25の使用時における補助電源25の電力枯渇によるブレーキ失陥までの猶予時間を延長し、冗長性を向上させることができる。このため、主電源装置19の蓄電量の低下等による出力電圧の低下が生じても、修理や保守の可能な場所まで車両を走行させることができ、また走行を続ける間における主電源装置19の充電も期待できる。
走行中における前記駐車ブレーキ機構5の使用は、消費電力を低減させる反面、ブレーキ操作のフィーリング低下を招くが、駐車ブレーキ機構5の使用は、前記補助電源25を使用している状況において、かつ所定の判断に基づいてようにしている。このように、駐車ブレーキ機構5を使用する条件を限られた条件に限定しているため、頻繁に駐車ブレーキ機構5を使用する場合に比べて、ブレーキ操作のフィーリングの低下が抑制される。前記所定の判断の設定内容によって、制動が重要で操作フィーリングまでを問えない場合に限定して駐車ブレーキ機構5を使用することもできる。
【0009】
この発明において、前記所定の判断が、目標ブレーキ力、目標ブレーキ力の変化量、推定ブレーキ力、および推定ブレーキ力の変化量、の少なくともいずれか一つ以上に基づいて成すものであり、前記駐車ブレーキ制御手段22は、目標ブレーキ力または推定ブレーキ力が増加し、またはこれら目標ブレーキ力および推定ブレーキ力のいずれかの変化量が閾値よりも低下すると、前記電動ブレーキ装置1の作動時間における前記駐車ブレーキ機構5を機能させる時間を増加させるようにしても良い。
【0010】
前記駐車ブレーキ制御手段22により駐車ブレーキ機構5を機能させる頻度変更の条件として、上記のように、例えば目標ブレーキ力ないし推定ブレーキ力の何れかを用いることができる。
一般に、ブレーキ力が大きいほど消費電力は増加する傾向がある為、ブレーキ力が増加するほど駐車制動の頻度が高くなる処理とすると好適と考えられる。ブレーキ力の増加は、目標ブレーキ力と推定ブレーキ力とのいずれであっても良い。
また、前記頻度変更の条件として、例えば目標ブレーキ力ないし推定ブレーキ力の変化量を用いることができる。前記変化量が小さいほどブレーキ力を変化させる必要性が小さく、駐車ブレーキを使用したときの制動性能への影響が小さいため、前記変化量が小さいほど駐車制動の頻度が高くなる処理とすると好適と考えられる。
【0011】
この発明において、前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記所定の判断を、前記補助電源25の残存電力に基づいて為し、前記補助電源25の残存電力が低下すると、前記電動ブレーキ装置1の作動時間における前記駐車ブレーキ機構5を実行する時間の比率を上昇させるようにしても良い。
前記補助電源25の残存電力が少なくなるほど、ブレーキフィーリング等を犠牲にしてもブレーキ動作可能時間を延長する必要があるため、前記残存電力が少なくなるほど駐車制動の頻度が高くなる処理とすると好適と考えられる。
補助電源25の残存電力に応じて、駐車ブレーキ機構5を適用する頻度を段階的に調整することで、極力ブレーキフィーリングを維持しつつ、補助電源25の電力枯渇によるブレーキ失陥までの猶予時間を延長し、冗長性を向上させることができる。
【0012】
この発明において、前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記電動ブレーキ装置1の搭載車両の車速推定手段29を有し、前記所定の判断を、前記電動ブレーキ装置1の搭載車両の車速に基づいて為し、前記車速が低下すると、前記電動ブレーキ装置1の作動時間における前記駐車ブレーキ機構5を機能させる時間の比率を上昇させるようにしても良い。
前記車速が低いほど車両の安全性に対する制動性能悪化の影響が低いため、車速が低くなるほど駐車制動の頻度が高くなる処理とすると好適と考えられる。特に、車速が概ね零すなわち停車状態であれば、ブレーキ力を変化させる必要が無いため、車両を停止するのに十分なブレーキ力をもって駐車制動を行うと好適と考えられる。その際、例えば車両の駆動力が喪失している場合は、駐車制動を解除する必要が無いため、駐車制動を維持し続ければよい。
【0013】
なお、前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記所定の判断およびその判断結果に基づく処理につき、前記処理の判断,処理のうちの一つを選択して実行しても、また二つ以上を適宜組み合わせて実行しても良い。
【0014】
この発明において、前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記所定の判断に基づいて操縦者の操作によらず前記駐車ブレーキ機構5を機能させるときに、前記操縦者によるブレーキ操作手段31の操作に追従する通常制動動作の連続作動時間を制限する通常制動時間上限値C
thsと、前記駐車ブレーキ機構5が機能するときの最低継続時間を制限する駐車制動時間下限値C
thpとを有し、前記駐車ブレーキ機構5が機能する時間の比率が、前記通常制動時間上限値C
thsおよび駐車制動時間下限値C
thpを変更することによって調整可能であっても良い。
この構成のように、前記駐車ブレーキ機構5が機能する時間の比率を、前記通常制動時間上限値C
thsおよび駐車制動時間下限値C
thpを変更することによって調整可能とした場合、消費電力を抑える程度と、操作のフィーリングを重視する制御との割合を、容易に変更することができる。
【0015】
この発明において、前記電動ブレーキ装置1を搭載する車両の駆動力の状態を推定する駆動力監視手段32を有し、前記駐車ブレーキ制御手段22は、前記駆動力監視手段32により車両の駆動力が喪失または所定値を下回っていると判断され、かつ前記電動ブレーキ装置1の搭載車両が概ね停止していると判断されたときに、前記駐車ブレーキ機構5を機能させたままで車両停止状態を維持し続けるようにしても良い。
車両の駆動力が喪失している場合、ブレーキにより車両が停車した後に再度走行することは無いため、駐車ブレーキ機構5を機能させ続けることで、安全に車両の停止状態を維持することができる。
【0016】
この発明において、前記駐車ブレーキ機構5が、前記電動モータ9から前記摩擦材操作手段8までの動力伝達部を構成する部品および静止部品のうち、互いに係合することで前記
摩擦材の緩み方向への移動を阻止する部品の間で、両部品を係合させる係合部と被整合部とを係合させ、前記電動モータ9の動力によらず前記摩擦材7の押圧力を保持する構成であっても良い。
このように、駐車ブレーキ機構5が部品間の係合で移動阻止を行う構成とすることで、電力消費を殆ど必要とせずに、制動力を維持することができる。