(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552912
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】新規フルオレン化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/96 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
C07D311/96CSP
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-160079(P2015-160079)
(22)【出願日】2015年8月14日
(65)【公開番号】特開2016-196445(P2016-196445A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-76939(P2015-76939)
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 侑太郎
(72)【発明者】
【氏名】鞍谷 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】
松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0319097(US,A1)
【文献】
特開2004−083855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、Ar
1及びAr
2は芳香族炭化水素環を示す。
RA1及びRA2が水素原子であり、かつRB1及びRB2が水酸基である。R
C1及びR
C2はアルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシル基を示す。mは0〜4の整数を示し、nは0〜4の整数を示す。)
で表されるフルオレン化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規フルオレン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールA等のビスフェノール化合物は、エポキシ樹脂等の原料として使用され、種々の用途が知られている。しかしながら、これらの樹脂では用途によっては耐熱性が不十分であった。
【0003】
一方、フルオレン骨格を有する化合物は、耐熱性等において優れた機能を有することが知られている。例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)を用いて得られたエポキシアクリレート樹脂が、耐熱性に優れていることを開示している(特許文献1)。
【0004】
耐熱性の指標として、融点及び重量減少温度が知られている。しかしながら、特許文献1で示されたエポキシ樹脂でも、融点が121〜123℃、硬化膜の重量減少開始が280℃であり、用途によってはその耐熱性が未だ十分とはいえない。
【0005】
そのため、より高い耐熱性を有する単量体化合物の開発が未だなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−48424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規フルオレン化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、フルオレンの9位に特定のスピロ構造を有する化合物が高い耐熱性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に示す態様を包含する。
【0010】
項1. 下記一般式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Ar
1及びAr
2は芳香族炭化水素環を示す。R
A1、R
B1、R
A2及びR
B2は水酸基又は水素原子を示す。ただし、R
A1及びR
B1の一方は水酸基であり、他方は水素原子である。また、R
A2及びR
B2の一方は水酸基であり、他方は水素原子である。R
C1及びR
C2はアルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシル基を示す。mは0〜4の整数を示し、nは0〜4の整数を示す。)
で表されるフルオレン化合物。
【0013】
項2. 前記R
A1及びR
A2が水素原子であり、かつR
B1及びR
B2が水酸基である、前記項1に記載のフルオレン化合物。
【0014】
項3. 前記R
A1及びR
A2が水酸基であり、かつR
B1及びR
B2が水素原子である、前記項1に記載のフルオレン化合物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフルオレン化合物は、耐熱性が極めて高く、耐熱性が要求される用途に適している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(式中、Ar
1及びAr
2は芳香族炭化水素環を示す。R
A1、R
B1、R
A2及びR
B2は水酸基又は水素原子を示す。ただし、R
A1及びR
B1の一方は水酸基であり、他方は水素原子である。また、R
A2及びR
B2の一方は水酸基であり、他方は水素原子である。R
C1及びR
C2はアルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシル基を示す。mは0〜4の整数を示し、nは0〜4の整数を示す。)
で表されるフルオレン化合物に関する。
【0019】
前記Ar
1及びAr
2は、芳香族炭化水素環を示す。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。Ar
1及びAr
2は同一でも異なっていてもよい。
【0020】
前記R
A1及びR
B1の一方は水酸基であり、他方は水素原子である。また、前記R
A2及びR
B2の一方は水酸基であり、他方は水素原子である。容易に製造できる観点より、R
A1及びR
A2は同一である(即ち、R
B1及びR
B2も同一である)ことが好ましい。即ち、本発明は、下記一般式(1a):
【0022】
(式中、Ar
1、Ar
2、R
C1、R
C2、m及びnは前記に同じ。)
で表されるフルオレン化合物、及び下記一般式(1b):
【0024】
(式中、Ar
1、Ar
2、R
C1、R
C2、m及びnは前記に同じ。)
で表されるフルオレン化合物を好ましい態様として含む。
【0026】
前記R
C1及びR
C2は、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシル基を示す。R
C1及びR
C2は同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基を挙げることができる。より具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基等が例示できる。
【0028】
アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基を挙げることができる。より具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が例示できる。
【0029】
アシル基としては、炭素数1〜6のアシル基を挙げることができる。より具体的には、アセチル基等が例示できる。
【0030】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物は、以下の反応式に示す反応により、製造することができる。
【0033】
(式中、R
A及びR
Bは、R
AがR
A1、R
BがR
B1を示すか、又はR
AがR
A2を示し、R
BはR
B2を示す。Ar
1、Ar
2、R
A1、R
A2、R
B1、R
B2、R
C1、R
C2、m及びnは前記に同じ。)
前記一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物との反応は、酸存在下、必要に応じて助触媒を用いることで行うことができる。一般式(2)及び(3)で表される化合物は、公知の化合物であるか、又は公知の方法により容易に製造できる化合物である。
【0034】
一般式(3)で表される化合物の使用量は、一般式(2)で表される化合物(2) 1モルに対して、2〜10モルであることが好ましい。
【0035】
酸条件としては、濃硫酸、濃塩酸等を挙げることができる。これらの酸の使用量は、一般式(2)の化合物 1モルに対して1〜10モルであることが好ましい。
【0036】
助触媒としては、3−メルカプトプロパン酸等のメルカプト基を有する有機酸を挙げることができる。助触媒の使用量は、一般式(2)の化合物 1モルに対して、0.01〜1モルであることが好ましい。
【0037】
前記反応は、溶媒存在下行うことが好ましい。溶媒としては、1,4−ジオキサン等のエーテル溶媒を挙げることができる。溶媒の使用量は、一般式(2)の化合物 1重量部に対して、1〜25重量部であることが好ましい。
【0038】
前記反応における反応温度は、通常60〜80℃であり、反応時間は、通常2〜12時間である。
【0039】
なお、生成した化合物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製してもよい。
【0040】
本発明の化合物は、フルオレンの9位にスピロ環として、ジベンゾ[c,h]キサンテン環を有しているため、高い耐熱性を有すると考えられる。
【0041】
本発明の一般式(1)で表される化合物は2つのフェノール性水酸基を有しているため、エポキシ樹脂の原料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
なお、以下において、融点及び5%重量減温度は、熱分析 示差熱熱重量同時測定装置 TG/DTA 6200(エスエスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、窒素雰囲気下、30−450℃の測定温度で測定した。
【0044】
実施例1
スピロ[フルオレン−9,9’−(1’、8’−ジヒドロキシベンゾキサンテン)]の製造
【0045】
【化6】
【0046】
300mLのセパラブルフラスコに、9−フルオレノン 9重量部(0.05モル、大阪ガスケミカル株式会社製)、1,5−ジヒドロキシナフタレン 24重量部(0.15モル、関東化学株式会社製)、3−メルカプトプロピオン酸 0.3重量部(0.003モル)及び1,4−ジオキサン 80重量部を投入した後に、硫酸12.8重量部(0.13モル)を滴下し、80℃で12時間攪拌した。HPLC(日立HPLC D−7000、溶媒:アセトニトリル:0.1重量%リン酸水溶液=55/45〜95/5)により、原料である9−フルオレノンの残量を測定し、転化率が99.5%以上であることを確認した。確認後、反応液にメチルイソブチルケトン(MIBK) 100重量部を加えて溶解し、水で3回洗浄した。有機層を濃縮した後、得られた黒色固体をアセトン/メタノール=1/2の混合溶媒 300gを用いて再結晶することで、スピロ[フルオレン9,9’−(1’,8’−ジヒドロキシジベンゾキサンテン)] 13.5重量部(収率 58.1%)を灰色固体として得た。
【0047】
スピロ[フルオレン9,9’−(1’,8’−ジヒドロキシジベンゾキサンテン)]の理化学的性質は以下の通りである。
【0048】
マススペクトル:(m/z)464
FT−IR(cm
−1):3530、3049、1602、1509、1372、1230、813、785
1H−NMR(CDCl
3): δ (ppm)
3.8(2H,broad)、6.4(2H,d)、6.9(2H,d)、7.1−7.6(10H,m)、7.9(2H,d)、8.3(2H,d)
5%重量減温度:430℃
融点:なし(分解)。
【0049】
参考例1
スピロ[フルオレン−9,9’−(2’,7’−ジヒドロキシベンゾキサンテン)]の製造
【0050】
【化7】
【0051】
300mLのセパラブルフラスコに、9−フルオレノン 9重量部(0.05モル、大阪ガスケミカル株式会社製)、1,6−ジヒドロキシナフタレン 24重量部(0.15モル、関東化学株式会社製)、3−メルカプトプロピオン酸0.3重量部(0.003モル)及び1,4−ジオキサン 40重量部を投入した後に、硫酸 13.2重量部(0.013モル)を滴下し、60℃で3時間攪拌した。HPLC(日立HPLC D−7000、溶媒:アセトニトリル:0.1重量%リン酸水溶液=55/45〜95/5)により、原料である9−フルオレノンの残量を測定し、転化率が99.5%以上であることを確認した。確認後、反応液にメチルイソブチルケトン(MIBK) 100重量部を加えて溶解し、水で3回洗浄した。有機層を濃縮した後、得られた黒色固体をトルエンで洗浄することで、スピロ[フルオレン9,9’−(2’,9’−ジヒドロキシジベンゾキサンテン)] 14.6重量部(収率62.9%)を灰色固体として得た。
【0052】
スピロ[フルオレン9,9’−(2’,9’−ジヒドロキシジベンゾキサンテン)]の理化学的性質は以下の通りである。
【0053】
マススペクトル:(m/z)464
FT−IR(cm
−1):3562、3064、1607、1523、1376、1261、827、787
1H−NMR(DMSO): δ (ppm)
6.2(2H,d)、7.1−7.2(8H,m)、7.3(2H,dd)、7.4(2H,t)、8.0(2H,d)、8.6(2H,d)、9.9(2H,broad)
融点:352℃。
【0054】
比較例1
スピロ[フルオレン−9,9’−(3’,6’−ジヒドロキシキサンテン)]
【0055】
【化8】
【0056】
スピロ[フルオレン−9,9’−(3’,6’−ジヒドロキシキサンテン)]の融点及び5%重量減温度を測定した。
【0057】
5%重量減温度:287℃
融点:268℃。
【0058】
比較例2
6,6’−(9−フルオレニリデン)−2,2’−ジナフトール
【0059】
【化9】
【0060】
6,6’−(9−フルオレニリデン)−2,2’−ジナフトールの融点及び5%重量減温度を測定した。
【0061】
5%重量減温度:369.3℃
融点:213℃。