特許第6552915号(P6552915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552915
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】制振装置及び制振方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20190722BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20190722BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   E04H9/02 341B
   F16F15/03 G
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-163642(P2015-163642)
(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公開番号】特開2017-40332(P2017-40332A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亮
(72)【発明者】
【氏名】徳永 泰明
(72)【発明者】
【氏名】相田 安彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 裕
(72)【発明者】
【氏名】樋口 智一
(72)【発明者】
【氏名】大熊 俊司
(72)【発明者】
【氏名】栗原 麻貴子
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−241274(JP,A)
【文献】 特開平10−196714(JP,A)
【文献】 特開2002−221250(JP,A)
【文献】 特開平06−249285(JP,A)
【文献】 特開平04−161575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00− 15/08
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、
制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、
前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、
前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて前記質量体が揺動する際に、前記質量体の前記導体部は前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、更に、前記質量体の質量と前記曲面部の曲率半径と重力とによる復元力が前記質量体に作用するよう構成されたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記質量体は、内周側に曲面部が設けられると共に、この曲面部の外周側に導体部が設けられて構成され、前記導体部の周方向複数位置に、異なる磁極の一対の前記磁石が対向して配置されたことを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記質量体は、内周側に導体部が設けられると共に、この導体部の外周側に曲面部が設けられて構成され、前記導体部の下方に、磁極の異なる複数個の磁石を隣り合わせて交互に配設したことを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項4】
曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、
制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、
前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、
前記質量体の前記導体部は、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて揺動する際に前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、
前記質量体は、内周側に導体部が設けられると共に、この導体部の外周側に曲面部が設けられて構成され、前記導体部の下方に、磁極の異なる複数個の磁石を隣り合わせて交互に配設したことを特徴とする制振装置。
【請求項5】
前記質量体の曲面部は、その曲率半径が方向により異なって設定されたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記質量体の導体部は、その半径方向における内側から外側の領域で厚さが異なって構成されたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項7】
曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、
制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、
前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、
前記質量体の前記導体部は、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて揺動する際に前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、
前記質量体の曲面部は、その曲率半径が方向により異なって設定されたことを特徴とする制振装置。
【請求項8】
曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、
制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、
前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、
前記質量体の前記導体部は、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて揺動する際に前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、
前記質量体の導体部は、その半径方向における内側から外側の領域で厚さが異なって構成されたことを特徴とする制振装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項のいずれか1項記載の制振装置により、前記制振対象を制振することを特徴とする制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造物の揺動を磁気減衰を用いて制振する制振装置及び制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図15に示すように、構造物の上下方向の地震動に対応するための上下免震として、構造物としての免震対象物1を上下免震要素2で柔に支持して、免震対象物1の上下方向の応答加速度を低減する手法が知られている。その際、図15の矢印Pに示すように、免震対象物1が傾く揺動と呼ばれる往復運動(ロッキング振動)が発生する。その他、船舶のように水面に浮遊している構造物は、波や風などの要因によって揺動する。このような揺動を低減する揺動低減装置として、転動する質量体を用いた振り子型動吸振器に磁気ダンパを応用したもの、球面板上を球体形状の質量体が転がる振り子型動吸振器などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−216875号公報
【特許文献2】特開2004−340163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の揺動低減装置は、ロープウェーの揺動減衰を目的とし、車輪を有する台車型の質量体が円弧状のレール上を往復運動する振り子型動吸振器であり、車輪部分に磁石と導体を配置して磁気ダンパを構成している。この構成では、質量体の運動がレールの曲面に沿った移動のみであるため、動吸振器による制振効果は1方向に限定される。このため、水平2次元的な揺動に対しては異なる向きに設置した2つ以上の動吸振器が必要になる。
【0005】
また、特許文献2に記載の揺動低減装置は、球面形状の板上を球体状の質量体が転がる振り子型動吸振器であり、全方向に対して制振効果を得ることができる。しかし、この構成では動吸振器に必要となる減衰を得ることが困難である。
【0006】
本発明における実施形態の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、制振対象の揺動を減衰して制振できる制振装置及び制振方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態における制振装置は、曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて前記質量体が揺動する際に、前記質量体の前記導体部は前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、更に、前記質量体の質量と前記曲面部の曲率半径と重力とによる復元力が前記質量体に作用するよう構成されたことを特徴とするものである。
また、本発明の実施形態における制振装置は、曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、前記質量体の前記導体部は、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて揺動する際に前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、前記質量体は、内周側に導体部が設けられると共に、この導体部の外周側に曲面部が設けられて構成され、前記導体部の下方に、磁極の異なる複数個の磁石を隣り合わせて交互に配設したことを特徴とするものである。
更に、本発明の実施形態における制振装置は、曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、前記質量体の前記導体部は、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて揺動する際に前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、前記質量体の曲面部は、その曲率半径が方向により異なって設定されたことを特徴とするものである。
また、本発明の実施形態における制振装置は、曲率半径を有する曲面部及び導体からなる導体部を備えた質量体と、制振対象に設けられると共に、前記質量体の前記曲面部を揺動可能に支持する質量体支持体と、前記制振対象に支持されて磁束を発生させる磁石と、を備える制振装置であって、前記質量体の前記導体部は、前記曲面部が前記質量体支持体に支持されて揺動する際に前記磁石が発生する前記磁束を通過するように配置され、前記質量体の導体部は、その半径方向における内側から外側の領域で厚さが異なって構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、制振対象の揺動を減衰して制振できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器が制振対象である免震対象物に設置された状態を示す側面図。
図2図1の動吸振器を拡大して示す側面図。
図3図1の動吸振器を示す平面図。
図4図1の動吸振器を示す側断面図。
図5図1の動吸振器の作用を示す説明図。
図6】第2実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器を示す側面図。
図7図6の動吸振器の質量体を示す平面図。
図8図6の磁石の配置例を示す説明図。
図9図6の磁石による磁束線と質量体の導体部との関係を説明する説明図。
図10】第3実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器を示す側断面図。
図11】第4実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器の一例を示す側断面図。
図12】第4実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器の他の例を示す側断面図。
図13】第5実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器の質量体を示し、(A)が平面図、(B)、(C)が図13(A)のそれぞれB矢視図、C矢視図。
図14】第6実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器を示す側断面図。
図15】上下免震要素により支持された免震対象物の揺動状況を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図5
図1は、第1実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器が制振対象である免震対象物に設置された状態を示す側面図である。また、図2は、図1の動吸振器を拡大して示す側面図である。これらの図1及び図2に示す制振装置としての動吸振器10は、制振対象としての免震対象物1の例えば天面1Aに設置されて、この免震対象物1の揺動を制振するものであり、質量体11、質量体支持体12、磁石13、磁石支持体14及び基板15を有して構成される。
【0011】
ここで、制振対象としての免震対象物1は、上下免震要素2を用いて地面3に対し柔に支持されたものであり、上下免震要素2によって上下方向の応答加速度が低減されるが、その際に生じる矢印P方向のロッキング振動、つまり揺動が動吸振器10により制振される。尚、動吸振器10が制振する制振対象は免震対象物1に限らず、水面に浮遊して波や風により揺動する船舶などの構造物も含まれる。
【0012】
質量体11は、図3及び図4にも示すように、軸心Oを含む内周側の部分に曲面部16が設けられると共に、この曲面部16の外周側に導体部17が設けられて構成される。これらの曲面部16及び導体部17は、曲面部16が平面視円板形状に、導体部17が平面視リング形態に形成されることで、軸心Oに対して対称な形状に構成される。特に、曲面部16は、少なくとも下面16Aが球面形状に形成されて、その下面16Aの周方向各位置の曲率半径Rが同一の値に設定される。また、導体部17は導電体にて構成され、曲面部16に連続して結合されて質量体11の半径方向外方へ延在する。
【0013】
質量体支持体12は、図2図4及び図5に示すように、質量体11の曲面部16の下面16Aに接触し、この質量体11の曲面部16の下面16Aを水平方向に揺動可能に下方から支持する。例えば、質量体支持体12は、質量体11の水平方向の変位に対して摩擦抵抗が小さくなるように構成されており、具体的にはボールキャスタのようなころを備えて構成される。更に質量体支持体12は、空気ばね等を用いて質量体11を水平方向に揺動可能に下方から非接触に支持してもよい。この質量体支持体12は、磁石支持体14と共に基板15に設置され、この基板15が免震対象物1の天面1Aに取り付けられる。質量体支持体12は、基板15において質量体11の曲面部16の下方に設置される。
【0014】
図3及び図4に示すように、磁石支持体14は、基板15において質量体11の導体部17における周方向複数位置に略等間隔で設置されて免震対象物1に固定される。また、磁石13は磁石支持体14を介して免震対象物1に支持される。すなわち、磁石支持体14に、異なる磁極の一対の磁石13、つまりN極、S極の一対の磁石13が質量体11の導体部17を挟んで対向して設置され、この一対の磁石13の間に磁束が発生する。
質量体11の導体部17は、図5に示す質量体11が水平方向に揺動する際、一対の磁石13が発生する磁束を通過(横切って移動)するように配置される。ここで、磁石支持体14は磁性体にて構成されてヨークとして機能し、磁石13及び磁石支持体14により磁気回路を形成することで、導体部17が通過する磁束の磁束密度を増大させている。
【0015】
図1図2及び図5に示すように、免震対象物1が矢印P方向に揺動したとき、この揺動に伴って動吸振器10の質量体11は、免震対象物1に対して相対的に変位して水平方向に揺動する。この際、質量体11の曲面部16が周方向各位置に曲率半径Rを有しているので、質量体11は、変位した際に作用する重力Gによる復元力Fによって、振り子として機能する。更に、質量体11の導体部17は、一対の磁石13が形成する磁束を通過(横切って移動)する。このため、磁気減衰の原理で、質量体11の振動(揺動)速度に比例する減衰力が導体部17に作用して、質量体11の揺動が減衰される。この結果、動吸振器10は、振り子型動吸振器として機能する。
【0016】
この動吸振器10では、免震対象物1の揺動に適合させるべく、動吸振器10の固有振動数及び減衰比が調整される。動吸振器10の固有振動数は、曲面部16の半径R、または質量体11の質量もしくは慣性モーメントによって決定される。また、動吸振器10の減衰比は、磁石13により生ずる磁束密度、導体部17の厚さ、導体部17の透磁率、導体部17と磁石13の隙間量などによって決定される。
【0017】
以上にように構成されたから、第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)図1及び図2に示すように、免震対象物1の矢印P方向の揺動に伴って、動吸振器10の質量体11は、周方向各位置に曲率半径Rを有する曲面部16が質量体支持体12に支持されることで、免震対象物1に対して水平2次元の全方向に揺動可能となる。このとき、質量体11の導体部17が一対の磁石13の磁束を通過することで、磁気減衰の原理により導体部17に減衰力が作用して質量体11が減衰する。これにより、免震対象物1の水平2次元の全方向に対する揺動を減衰して制振できる。
【0018】
(2)動吸振器10では、質量体11の導体部17と磁石13とによる磁気減衰を用いて減衰力を生じさせ、免震対象物1を制振させるので、この制振効果を得るために必要な動吸振器10の減衰比を比較的簡素な構成で確保できる。つまり、磁石13の大きさ、磁石13と導体部17の隙間、または導体部17の厚さなどを変更することで、例えば磁石13により生ずる磁束密度を調整して、動吸振器10の減衰比を最適に確保できる。
【0019】
[B]第2実施形態(図6図9
図6は、第2実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器を示す側面図である。また、図7は、図6の動吸振器の質量体を示す平面図である。この第2実施形態において、第1実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0020】
第2実施形態の制振装置としての動吸振器20が第1実施形態と異なる点は、質量体21の軸線Oを含む内周側の部分に導体部23が設けられると共に、この導体部23の外側周囲、すなわち外周側に曲面部22が設けられて質量体21が構成され、更に、導体部23の下方に設置された磁石支持体24に、磁極の異なる複数の磁石13が交互に隣り合って配置された点である。
【0021】
つまり、質量体21の導体部23は、導電体により構成されて平面視円形状に形成される。また、曲面部22は、導体部13の外側周囲に結合されて平面視リング状に形成される。この曲面部22は、少なくとも下面22Aが球面形状に形成されて、周方向各位置に同一の値の曲率半径Rを有する。
【0022】
質量体21は、曲面部22の下面22Aが質量体支持体12により下方から支持される。この質量体支持体12は、曲面部22に対して摩擦抵抗の少ない構成であり、例えば曲面部22の下面22Aに接触するボールキャスタのようなころであったり、曲面部22の下面22に非接触な空気ばね等である。曲面部22の下面22Aが周方向各位置で曲率半径Rを有しているため、質量体21が免震対象物1の揺動に伴って水平方向に揺動したとき、この質量体21は振り子として機能する。
【0023】
第1実施形態と同様、磁石13は磁石支持体24を介して免震対象物1に支持されるが、磁石支持体24に配設される複数の磁石13は、図8に示すように、N極の磁石13とS極の磁石13が交互に隣り合って水平状態で配設され、これにより、図9に示すように、N極の磁石13からS極の磁石13へ向かう磁束線25が形成される。免震対象物1の揺動に伴う質量体21の揺動時に、質量体21の導体部23が磁束線25(磁束)を通過する(横切って移動する)ことで、磁気減衰の原理によって導体部23に減衰力が作用して質量体21が減衰され、免震対象物1の揺動が減衰して制振される。
【0024】
以上にように構成されたことから、第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0025】
(3)質量体21の導体部23の下方に、磁極の異なる複数の磁石13が交互に隣り合って配置されたので、これらの磁石13は、導体部23の片側のみに配設されることになる。このため、これらの磁石13により生ずる磁束線25の磁束は第1実施形態の場合に比べて小さく、磁気減衰の効果が第1実施形態よりも低いが、磁石支持体24を、第1実施形態の磁石支持体14よりも簡素に構成できるので、動吸振器20をコンパクトに構成できる。
【0026】
[C]第3実施形態(図10
図10は、第3実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器を示す側断面図である。この第3実施形態において、第1及び第2実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0027】
第3実施形態の制振装置としての動吸振器30が第1及び第2実施形態と異なる点は、図10及び図6に示すように、上方向に過大に移動する質量体11、21に当接してこの質量体11、21の移動を抑止する上方移動抑止体31が設けられた点である。
【0028】
この上方移動抑止体31は、図10に示すように、免震対象物1に取り付けられた基板15から立設された磁石支持体14に、質量体11の導体部17へ向かって突設される。また、図6の2点鎖線に示すように、上方移動抑止体31は、基板15に立設された取付ステー32から質量体21の曲面部22へ向かって突設される。これらの上方移動抑止体31は緩衝部材にて構成され、免震対象物1の上下動により動吸振器30の質量体11、21が質量体支持体12に対して浮き上がろうとした際に、この質量体11、21に当接して下方へ押圧し、質量体11、21の浮き上がりを防止する。
【0029】
ここで、上方移動抑止体31と質量体11、21の間には隙間が設定されて、質量体11、21の水平方向の移動(揺動)を阻害しないことが望ましい。但し、上方移動抑止体31と質量体11、21とを接触させる場合には、上方移動抑止体31は低摩擦材にて構成されて、質量体11、21の移動(揺動)が阻害されないよう考慮される。
【0030】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1及び第2実施形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0031】
(4)上方向に過大に移動する質量体11、21に当接してこの質量体11、21を抑止する上方移動抑止体31が設けられたから、免震対象物1の上下動によっても質量体11、21の過大な上方移動、つまり浮き上がりを防止できる。この結果、質量体11、21は、質量体支持体12に支持されて水平方向に滑らかに揺動することが可能になるので、質量体11の導体部17、質量体21の導体部23が磁石13の磁束を確実に通過する。これにより、磁気減衰によって質量体11、21が減衰されることで、免震対象物1の揺動を確実に制振できる。
【0032】
[D]第4実施形態(図11図12
図11は、第4実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器の一例を示す側断面図である。また、図12は、第4実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器の他の例を示す側断面図である。この第4実施形態において、第1及び第2実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0033】
第4実施形態の制振装置としての動吸振器40が第1及び第2実施形態と異なる点は、水平方向に過大に移動する質量体11、21に当接してこの質量体11、21の移動を抑止する水平移動抑止体41、42、43が設けられた点である。
【0034】
つまり、水平移動抑止体41は緩衝部材にて構成され、図11に示すように、免震対象物1に取り付けられた基板15から立設された磁石支持体14に、質量体11が揺動する水平方向に対し長手方向を直交して設置される。これにより、質量体11が水平方向に過大な振幅で揺動したとき、この質量体11は、水平移動抑止体41に当接して緩衝され、質量体支持体12からの落下が防止される。
【0035】
また、図12に示すように、水平移動抑止体42は、質量体21から垂下された質量体側支持部材44の外側に例えばリング状に設置される。また、水平移動抑止体43は、基板15に立設された基板側支持部材45の内側に例えばリング状に設置される。これらの水平移動抑止体42及び43は共に緩衝部材にて構成され、質量体21が水平方向に過大な振幅で揺動したとき、この質量体21は、質量体21側の水平移動抑止体42が基板15側の水平移動抑止体43に当接することで緩衝され、質量体21が質量体支持体12から落下することが防止される。なお、この第4実施形態に、第3実施形態の上方移動抑止体31が併設されてもよい。
【0036】
以上のように構成されたことから、第4実施形態においても、第1及び第2実施形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0037】
(5)水平方向に過大に移動する質量体11、21に当接してこの質量体11、21の移動を抑止する水平移動抑止体41、42、43が設けられたことから、質量体11、21が過大な振幅で揺動した際に、質量体11が水平移動抑止体42に当接し、また質量体21が水平移動抑止体42を介して水平移動抑止体43に当接するので、質量体11、21の過大な水平移動が緩衝されて阻止される。これにより、質量体11、21が質量体支持体12から落下することが防止される。
【0038】
この結果、質量体11、21は、質量体支持体12に支持されて水平方向に滑らかに移動(揺動)できるので、質量体11の導体部17、質量体21の導体部23が磁石13の磁束を確実に通過する(横切って移動する)。このため、磁気減衰によって質量体11、21が減衰されることで、免震対象物1の揺動を確実に制振できる。
【0039】
[E]第5実施形態(図13
図13は、第5実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器の質量体を示し、(A)が平面図、(B)、(C)が図13(A)のそれぞれB矢視図、C矢視図である。この第5実施形態において、第1及び第2実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0040】
第5実施形態の制振装置としての動吸振器50が第1実施形態と異なる点は、質量体51の曲面部52におけるその少なくとも下面52Aが楕円体の面形状に形成されて、この下面52Aの曲率半径が曲面部52の周方向により異なって設定され、これにより、質量体51の揺動方向によって動吸振器50の固有振動数が異なるよう構成された点である。
【0041】
つまり、動吸振器により免震対象物1の揺動を静止する場合には、動吸振器は、免震対象物1の揺動の振動数に応じてその固有振動数を調整する必要がある。その際、免震対象物1は、必ずしも対称性を備えた構造になっている訳ではないので、揺動方向によってその振動数が異なる、いわゆる振動数の異方性を有する場合がある。
【0042】
第1実施形態の動吸振器10では、質量体11の曲面部16における下面16Aが球面形状(球体の面形状)に形成されているため、下面16Aの曲率半径Rは、曲面部16の周方向の各位置において一定である。従って、この動吸振器10の固有振動数は動吸振器10の方向によらず一定となり、単一の動吸振器10では免震対象物1の揺動の振動数の異方性に対応することができない。
【0043】
これに対し、第5実施形態の動吸振器50では、質量体51における曲面部52の下面52Aが楕円体の面形状に形成されているため、この下面52Aは、長手方向を正面にして目視した図13(B)に示すB矢視では、曲率半径がRbに設定され、また、B矢視に直交し且つ下面52Aの短手方向を正面にして目視した図13(C)に示すC矢視では、曲率半径がRc(Rc≠Rb)に設定されている。従って、動吸振器50の固有振動数は、質量体51の揺動方向によって異なる値に設定される。このため、動吸振器50は、免震対象物1の揺動方向によってその振動数が異なる振動数の異方性に対応することが可能になる。
【0044】
なお、図13中の符号53は、曲面部52の外側周囲に結合されて導電体から構成される導体部である。また、第2実施形態の質量体21(図6)の曲面部22を楕円体の面形状に形成して、質量体21に本第5実施形態を適用してもよい。
【0045】
以上ように構成されたことから、第5実施形態においても、第1及び第2実施形態の効果(1)〜(3)と同様の効果を奏するほか、次の効果(6)を奏する。
【0046】
(6)質量体51の曲面部52における下面52Aの曲率半径Rb、Rcが曲面部52の方向によって異なって設定され、これにより、質量体51の揺動方向によって動吸振器50の固有振動数を異ならせて設定することができる。このため、免震対象物1の揺動の振動数が揺動の方向によって異なる場合であっても、免震対象物1の揺動の振動数に応じて質量体51の曲面部52における下面52Aの曲率半径を調整することで、単一の動吸振器50であっても、免震対象物1の揺動の振動数の異方性に対応でき、免震対象物1の異なる方向の揺動を好適に制振できる。
【0047】
[F]第6実施形態(図14
図14は、第6実施形態に係る制振装置が適用された動吸振器を示す側断面図である。この第6実施形態において、第1及び第2実施形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0048】
第6実施形態の制振装置としての動吸振器60が第1実施形態と異なる点は、質量体61の導体部62は、半径方向における内側から外側の領域で厚さを異にして構成された点であり、例えば、導体部62の半径方向における内側領域部62Bの厚さTbが、外側領域部62Aの厚さTaよりも厚く設定されている。
【0049】
動吸振器60は、導体部62と磁石13とによる磁気減衰を利用しているため、導体部62の厚さの増大によって動吸振器60の減衰比が増大する。導体部62の外側領域部62Aが磁石13の磁束を通過する質量体61の通常の変位領域では、免震対象物1の揺動の制振に最適となるように質量体61が磁気減衰される。また、質量体61が想定を超えて変位する変位領域では、導体部62の内側領域部62Bが磁石13の磁束を通過して導体部62に大きな減衰力が作用し、この減衰力がブレーキとなって質量体61の想定を超える変位が抑制される。
【0050】
なお、図14中の符号63は、導体部62の内側でこの導体部62に連続して結合された曲面部である。また、本第6実施形態の導体部62は、外側領域部62Aから内側領域部62Bへ向かって厚さが漸次増大して形成されてもよい。更に、第2実施形態の質量体21(図6)の導体部23について、外側領域部の厚さを内側領域部よりも厚く設定して本第6実施形態を適用してもよい。
【0051】
以上に構成されたことから、第6実施形態によれば、第1及び第2実施形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(7)を奏する。
【0052】
(7)質量体61の導体部62では、その半径方向における内側領域部62Bが外側領域部62Aによりも厚く構成されたので、質量体61が想定を超えて変位して導体部62の内側領域部62Bが磁石13を通過したとき、導体部62に作用する減衰力が増加することで質量体61の想定を超える変位を抑制できる。この結果、第4実施形態の水平移動抑止体41、42及び43と同様に、質量体支持体12からの質量体61の落下を防止して動吸振器60による免震対象物1の制振効果を確保できると共に、動吸振器60の破損を防止できる。
【0053】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、前述の各実施形態における曲面部を導体部と同一の材料(導電体)で形成し、これらの曲面部と導体部とを一体に構成してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…免震対象物(制振対象)、10…動吸振器(制振装置)、11…質量体、12…質量体支持体、13…磁石、14…磁石支持体、16…曲面部、17…導体部、20…動吸振器(制振装置)、21…質量体、22…曲面部、23…導体部、24…磁石支持体、30…動吸振器(制振装置)、31…上方移動抑止体、40…動吸振器(制振装置)、41、42、43…水平移動抑止体、50…動吸振器(制振装置)、51…質量体、52…曲面部、60…動吸振器(制振装置)、61…質量体、62…導体部、62A…外側領域部、62B…内側領域部、O…軸心
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