特許第6552927号(P6552927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552927
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   B60C11/12 A
   B60C11/12 B
   B60C11/12 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-176732(P2015-176732)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-52345(P2017-52345A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 剛史
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−027558(JP,A)
【文献】 特開2002−321509(JP,A)
【文献】 特開2008−132809(JP,A)
【文献】 特開2008−132810(JP,A)
【文献】 特開2011−204155(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02070731(EP,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0055111(KR,A)
【文献】 特開2004−314758(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02465708(EP,A1)
【文献】 特開2012−162247(JP,A)
【文献】 特開2000−255219(JP,A)
【文献】 特開2007−022361(JP,A)
【文献】 特開2002−103921(JP,A)
【文献】 特開2006−298331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面の陸部に形成されたサイプが、
長さ方向における中央のサイプ底側に位置し、深さ方向に沿って形状が変化しない2次元形状に形成された2Dセンター部と、
長さ方向における中央の踏面側に位置し、深さ方向に沿って形状が変化する3次元形状に形成された3Dセンター部と、
長さ方向における一端または両端に位置し、深さ方向に沿って形状が変化する3次元形状に形成された3Dサイド部とを有し、
前記3Dセンター部と前記3Dサイド部が、それぞれ踏面で開口し、前記3Dセンター部の開口は波形状に形成され、
前記サイプの一端または両端が前記陸部の側面で開口し、その開口したサイプ端には前記3Dサイド部が位置し、
前記3Dセンター部の3次元形状は、壁面同士が係合可能な構造を有し、前記3Dサイド部の3次元形状は、壁面同士が係合可能な構造を有する空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記3Dセンター部の3次元形状が、長さ方向に凸形状となるセンター凸部をもって屈曲しながら深さ方向に延びる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記3Dセンター部の3次元形状が、波状面により形成された壁面に相互に係合する突起と窪みを設けたものである請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記3Dサイド部の3次元形状が、幅方向に凸形状となるサイド凸部をもって屈曲しながら深さ方向に延びる請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
踏面から前記2Dセンター部と前記3Dセンター部との境界までの距離が、サイプ深さの20〜70%である請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
サイプ端から前記2Dセンター部と前記3Dサイド部との境界までの距離が、サイプ長さの10〜40%である請求項1〜5いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド面の陸部にサイプが形成された空気入りタイヤに関し、特にスタッドレスタイヤとして有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤでは、ブロックやリブなどの陸部にサイプと呼ばれる切り込みが形成されている。サイプのエッジ効果や除水効果によって、摩擦係数が低いアイス路面での走行が安定し、いわゆるアイス性能を高めることができる。このようなサイプとして、深さ方向で形状が変化しない2次元形状に形成された2次元サイプが知られており、平面サイプや波形サイプが実用化されている。
【0003】
また、特許文献1〜6に記載のように、深さ方向で形状が変化する3次元形状に形成された3次元サイプも知られている。3次元サイプでは、制動時や旋回時などにサイプの壁面同士が係合するために陸部の過度の変形が抑制され、それによりエッジ効果や除水効果を確実に発揮できる。しかし、3次元形状が画一的に形成されていると、或る特定の方向(例えば、前後方向)の変形しか抑制されない場合があり、他方向(例えば、横方向)の変形が十分に抑制されないために耐摩耗性能や耐偏摩耗性能が低下する恐れがあった。
【0004】
その一方で、単に、複数方向(例えば、前後方向と横方向)における変形を抑制できる3次元形状を採用しただけでは、アイス性能などに改善の余地が見られることが判明した。本発明者の研究によれば、その理由は、陸部の変形のしやすさが、サイプの部位によって異なり、更には陸部の摩耗段階によっても異なるためであり、これらに配慮した具体的なサイプ構造は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−314758号公報
【特許文献2】特開2006−27558号公報
【特許文献3】特開2002−321509号公報
【特許文献4】特開2005−104188号公報
【特許文献5】国際公開第2006/001446号
【特許文献6】特開2007−22361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アイス性能を確保しながら、優れた耐摩耗性能と耐偏摩耗性能を発揮できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド面の陸部に形成されたサイプが、長さ方向における中央のサイプ底側に位置し、深さ方向に沿って形状が変化しない2次元形状に形成された2Dセンター部と、長さ方向における中央の踏面側に位置し、深さ方向に沿って形状が変化する3次元形状に形成された3Dセンター部と、長さ方向における一端または両端に位置し、深さ方向に沿って形状が変化する3次元形状に形成された3Dサイド部とを有し、前記3Dセンター部と前記3Dサイド部が、それぞれ踏面で開口し、前記3Dセンター部の開口は波形状に形成され、前記サイプの一端または両端が前記陸部の側面で開口し、その開口したサイプ端には前記3Dサイド部が位置し、前記3Dセンター部の3次元形状は、壁面同士が係合可能な構造を有し、前記3Dサイド部の3次元形状は、壁面同士が係合可能な構造を有するものである。
【0008】
このようなサイプが形成された陸部では、長さ方向における変形が主に3Dセンター部によって抑制され、幅方向における変形が主に3Dサイド部によって抑制される。3Dセンター部が位置するサイプの踏面側と、3Dサイド部が位置するサイプの両端は、いずれも陸部の変形が比較的大きい部位であり、かかる部位が3次元形状に形成されていることで、陸部の過度の変形を効果的に抑制できる。長さ方向における中央のサイプ底側には2Dセンター部が位置し、これは陸部の変形が比較的小さい部位である。
【0009】
また、このサイプは、一端を陸部の側面で開口させた片側オープンサイプ、または両端を陸部の側面で開口させた両側オープンサイプとして形成される。そのような開口したサイプ端の周辺では、陸部の変形が特に大きくなる傾向にある。よって、開口したサイプ端に3Dサイド部が位置することにより、陸部の過度の変形を効果的に抑制できる。
【0010】
摩耗の初期から中期に至る段階では、陸部の剛性が比較的低いために変形が大きくなるが、このタイヤによれば、上述のように3Dセンター部と3Dサイド部によって陸部の過度の変形を抑制できる。また、摩耗の中期以降の段階では、陸部の剛性が比較的高いために変形が小さくなるが、このタイヤであれば、3Dセンター部が減少または消滅しているので、陸部の剛性が高くなり過ぎず、サイプのエッジ効果が良好に発揮される。しかも、摩耗の中期以降であっても、サイプの両端に3Dサイド部が位置することにより、陸部の剛性が低下し過ぎない。
【0011】
前記3Dセンター部の3次元形状が、長さ方向に凸形状となるセンター凸部をもって屈曲しながら深さ方向に延びるものでもよい。かかる3次元形状に形成された3Dセンター部によれば、長さ方向における陸部の過度の変形を良好に抑制できる。
【0012】
前記3Dセンター部の3次元形状が、波状面により形成された壁面に相互に係合する突起と窪みを設けたものであるものでもよい。かかる3次元形状に形成された3Dセンター部によれば、長さ方向における陸部の過度の変形を良好に抑制できる。
【0013】
前記3Dサイド部の3次元形状が、幅方向に凸形状となるサイド凸部をもって屈曲しながら深さ方向に延びるものでもよい。かかる3次元形状に形成された3Dサイド部によれば、幅方向における陸部の過度の変形を良好に抑制できる。
【0014】
踏面から前記2Dセンター部と前記3Dセンター部との境界までの距離が、サイプ深さの20〜70%であることが好ましい。また、サイプ端から前記2Dセンター部と前記3Dサイド部との境界までの距離が、サイプ長さの10〜40%であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す平面図
図2】ブロックの斜視図
図3】サイプの三面図
図4】サイプの壁面を示す斜視図
図5】2Dセンター部、3Dセンター部及び3Dサイド部の領域を模式的に示す図
図6】別実施形態におけるサイプの三面図
図7】比較例のタイヤにおけるサイプの正面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示したトレッド面Trには、陸部としてのブロック1が設けられている。ブロック1の各々は、主溝2と横溝3によって区分されている。主溝2はタイヤ周方向に連続して延びており、横溝3は主溝2と交差する方向に延びている。ブロック1は、平面視にて矩形状に形成されているが、これに限られない。このようなブロックに代えてまたは加えて、タイヤ周方向に連続して延びるリブが陸部として設けられてもよい。
【0018】
図2に拡大して示すように、ブロック1にはサイプ4が形成されている。サイプ4は、図1で左右方向となるタイヤ幅方向に延びている。アイス性能、特にアイス路面での発進性能や制動性能を向上するうえでは、このようにタイヤ周方向と交差する方向にサイプ4が延びていることが好ましい。ブロック1には、少なくとも1本のサイプが形成されていればよい。したがって、例えば、タイヤ周方向に間隔を設けて配置された複数本のサイプ4が1つのブロック1に設けられていても構わない。
【0019】
長さ方向LDは、サイプ4の長さ方向であり、本実施形態ではタイヤ幅方向と同じ方向である。サイプ長さL4は、サイプ4の両端間の直線距離として測定される。深さ方向DDは、サイプ4の深さ方向である。サイプ深さD4は、踏面からサイプ底までの直線距離として測定される。サイプ深さD4は、例えば主溝2の深さの40〜80%に設定される。幅方向WDは、サイプ4の幅方向であり、本実施形態ではタイヤ周方向と同じ方向である。サイプ幅W4は、十分なエッジ効果を発現するうえで、例えば0.3〜2.0mmに設定される。
【0020】
図3は、サイプ4の(a)平面図、(b)側面図及び(c)正面図を含む三面図である。図4は、そのサイプ4の壁面を示す斜視図である。図3,4に示すように、トレッド面Trのブロック1に形成されたサイプ4は、長さ方向LDにおける中央のサイプ底側に位置する2Dセンター部5と、長さ方向LDにおける中央の踏面側に位置する3Dセンター部6と、長さ方向LDにおける両端に位置する3Dサイド部7とを有する。図5は、それらの領域を模式的に示している。
【0021】
2Dセンター部5は、深さ方向DDに沿って形状が変化しない2次元形状に形成されている。3Dセンター部6及び3Dサイド部7は、それぞれ深さ方向DDに沿って形状が変化する3次元形状に形成されている。但し、それらは互いに異なる3次元形状に形成されている。また、3Dセンター部6と3Dサイド部7は、それぞれ踏面で開口している。3Dセンター部6の開口は、幅方向WDに屈曲しながら長さ方向LDに沿って延び、短辺と長辺とを交互に繰り返した波形状に形成されている。
【0022】
このタイヤでは、サイプ4の一端または両端がブロック1の側面で開口する。本実施形態のサイプ4は、その両端をブロック1の側面で開口させた両側オープンサイプであるが、片端のみを開口させた片側オープンサイプでもよい。開口したサイプ端には3Dサイド部7が位置し、ブロック1の過度の変形を抑制するように構成されている。片側オープンサイプでは、開口したサイプ端と同様に、ブロック内で閉塞したサイプ端にも3Dサイド部を位置させることが好ましいが、これに限定されない。サイプ長さL4は、長さ方向LDにおけるブロック幅の30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0023】
2Dセンター部5の2次元形状は波形に形成され、その壁面には深さ方向DDに延びた凹凸列が設けられている。X−X矢視における横断面は、図3(a)と略同じ形状となり、2Dセンター部5では、このような波形状が深さ方向DDに連続する。この2Dセンター部5は、いわゆる波形サイプに形成されているが、壁面が平坦に形成された平面サイプでも構わない。平面サイプでは、横断面が直線形状をなし、その直線形状が深さ方向に連続する。サイプ4が2Dセンター部5を有することで、そうでない場合に比べて、タイヤの加硫工程における脱型時の抵抗が小さくなる。
【0024】
3Dセンター部6の3次元形状は、壁面同士が長さ方向LDに係合可能な構造を有する。本実施形態において、この3次元形状は、長さ方向LDに凸形状となるセンター凸部61をもって屈曲しながら深さ方向DDに延びる。壁面には、長さ方向LDに振幅を有して深さ方向DDに延びた凹凸列が設けられている。その凹凸列は、長さ方向LDの一方に傾斜した部分と、その逆向きに傾斜した部分とを備え、それらがセンター凸部61を介して深さ方向DDに連なっている。3Dセンター部6の凹凸列は、2Dセンター部5の凹凸列とスムーズに接続されている。
【0025】
3Dサイド部7の3次元形状は、壁面同士が深さ方向DDに係合可能な構造を有する。本実施形態において、この3次元形状は、幅方向WDに凸形状となるサイド凸部71をもって屈曲しながら深さ方向DDに延びる。3Dサイド部7が位置するサイプ4の両端は、図3(b)のように幅方向WDに振幅を有して深さ方向DDに延びた波形状となる。本実施形態では、その波形状がブロック1の側面に出現する。壁面では、サイド凸部71の稜線71a〜71jが長さ方向LDに沿って延びており、このうち稜線71a,71bと、稜線71f,71gが、それぞれセンター凸部61を起点にして長さ方向LDに延びている。
【0026】
このブロック1では、長さ方向LDにおける変形が主に3Dセンター部6によって抑制され、幅方向WDにおける変形が主に3Dサイド部7によって抑制される。3Dセンター部6が位置するサイプ4の踏面側と、3Dサイド部7が位置するサイプ4の両端は、いずれもブロック1の変形が比較的大きい部位であり、かかる部位が3次元形状に形成されていることで、制動時や旋回時などにおけるブロック1の過度の変形を効果的に抑制できる。長さ方向LDにおける中央のサイプ底側には2Dセンター部5が位置し、これはブロック1の変形が比較的小さい部位である。
【0027】
既述のように、このサイプ4は、両端をブロック1の側面で開口させた両側オープンサイプとして形成されており、これに代えて、一端をブロック1の側面で開口させた片側オープンサイプとしてもよい。そのような開口したサイプ端の周辺では、ブロック1の変形が特に大きくなる傾向にある。よって、開口したサイプ端に3Dサイド部7が位置することにより、ブロック1の過度の変形を効果的に抑制できる。
【0028】
摩耗の初期から中期に至る段階では、ブロック1の剛性が比較的低いために変形が大きくなるが、このタイヤによれば、上述のように3Dセンター部6と3Dサイド部7によってブロック1の過度の変形を抑制できる。また、摩耗の中期以降の段階では、ブロック1の剛性が比較的高いために変形が小さくなるが、このタイヤであれば、3Dセンター部6が減少または消滅しているので、ブロック1の剛性が高くなり過ぎず、サイプ4のエッジ効果が良好に発揮される。しかも、摩耗の中期以降であっても、サイプ4の両端に3Dサイド部7が位置することにより、ブロック1の剛性が低下し過ぎない。
【0029】
本実施形態では、発進時や制動時にブロック1が前後方向に変形しようとすると、3次元形状に形成された壁面同士が係合し、その変形が主に3Dサイド部7によって抑制される。また、旋回時にブロック1が横方向に変形しようとすると、3次元形状に形成された壁面同士が係合し、その変形が主に3Dセンター部6によって抑制される。それでいて、摩耗に伴うブロック1の剛性変化に対応し、アイス性能を確保しながら、優れた耐摩耗性能と耐偏摩耗性能を発揮できる。
【0030】
加えて、本実施形態では、3Dサイド部7の3次元形状に含まれるサイド凸部71の稜線71a,71bと稜線71f,71gが、3Dセンター部6の3次元形状に含まれるセンター凸部61を起点にして長さ方向LDに延びることにより、3Dセンター部6と3Dサイド部7とがスムーズに接続され、その部分がいびつな形状になることを回避できる。その結果、サイプ4の壁面同士が係合した際に、3Dセンター部6と3Dサイド部7との接続箇所に応力が局所的に集中することを防いで、サイプ4内のクラックや欠損などの発生を予防できる。
【0031】
3Dサイド部7における幅方向WDの振幅は、長さ方向LDの中央に向かって減少し、2Dセンター部5と3Dサイド部7との境界、及び、3Dセンター部6と3Dサイド部7との境界では、長さ方向LDから見て実質的に直線状に収束する。よって、サイド凸部71の稜線は、それぞれサイプ端から離れるにつれてサイプ4の幅方向WDの中央に近付くように傾斜する。これにより、上記境界での接続がスムーズになり、いびつな形状になることを回避できる。その結果、サイプ4の壁面同士が係合した際に、上記境界に応力が局所的に集中することを防ぎ、サイプ4内のクラックや欠損などの発生を予防できる。
【0032】
本実施形態では、深さ方向DDに隣接する2つのサイド凸部71の稜線71a,71bが同一のセンター凸部61を起点にして長さ方向に延びる。図3(c)のように、稜線71a,71bは、深さ方向DDに傾斜しながら長さ方向LDに沿って延びている。稜線71f,71gも同様に構成されている。これによりサイド凸部71が密に配置され、中央よりもブロック1の変形が大きくなりがちなサイプ4の両端において、ブロック1の変形を効果的に抑制できる。このサイプ4はブロック1の両方の側面に開口しているため、その効果がより顕著に得られる。
【0033】
本実施形態では、図3(c)に示すように、3Dセンター部6の3次元形状が、深さ方向DDの1箇所で屈曲した横向きV字状をなしている。かかる3次元形状に形成された3Dセンター部6によれば、長さ方向LDにおけるブロック1の過度の変形を良好に抑制できる。深さ方向DDの複数箇所で屈曲する形状でも構わないが、そのような形状に比べて、本実施形態によればタイヤの加硫工程における脱型時の抵抗を小さくできる。
【0034】
踏面から2Dセンター部5と3Dセンター部6との境界までの距離K1(図5参照)は、サイプ深さD4の20〜70%であることが好ましい。これにより、2Dセンター部5及び3Dセンター部6の深さ方向DDでの大きさが適度に確保される。距離K1は、サイプ深さD4の30%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、距離K1は、サイプ深さD4の60%以下であることがより好ましい。
【0035】
サイプ端から2Dセンター部5と3Dサイド部7との境界までの距離K2(図5参照)は、サイプ長さL4の10〜40%であることが好ましい。これにより、2Dセンター部5及び3Dサイド部7の長さ方向LDでの大きさ、延いては3Dセンター部6の長さ方向LDでの大きさも含めて、それらが適度に確保される。距離K2は、サイプ長さL4の15%以上であることがより好ましい。また、距離K2は、サイプ長さL4の30%以下であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。
【0036】
図6は、別実施形態におけるサイプ4’の(a)平面図、(b)側面図及び(c)正面図を含む三面図である。このサイプ4’は、2Dセンター部5’、3Dセンター部6’、及び、3Dサイド部7’を有する。2Dセンター部5’は、図3で示した2Dセンター部5と同様の構成を有する。3Dサイド部7’は、サイド凸部の稜線の傾斜角度を除いて、図3で示した3Dサイド部7と同様の構成を有する。
【0037】
3Dセンター部6’の3次元形状は、波状面により形成された壁面に相互に係合する突起8と窪み9を設けたものである。この波状面は、深さ方向DDに延びた凹凸列で構成されている。本実施形態では、その凹凸列における谷状の頂部に突起8が設けられ、それに対向する山状の頂部に窪み9が設けられている。かかる3次元形状に形成された3Dセンター部6’によっても、長さ方向LDにおけるブロック1の過度の変形を良好に抑制できる。このような3次元形状の変形例として、平面により形成された壁面に上記の如き突起と窪みを設けた構造が挙げられる。
【0038】
本発明の空気入りタイヤは、ブロックやリブなどの陸部に上記の如きサイプが形成されること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成できる。したがって、従来公知の材料や製法などは何れも採用できる。
【0039】
本発明の空気入りタイヤは、前述の如き作用効果を奏してアイス性能に優れるため、特にスタッドレスタイヤとして有用である。
【0040】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの性能評価は、それぞれ以下のようにして実施した。
【0042】
(1)耐摩耗性能
22.5×7.50のリムに装着したサイズ11R22.5のタイヤを定積載量10tの車輌に装着して内圧700kPaを充填し、20000kmを走行した後のタイヤの摩耗量を測定し、その逆数を指数化した。指数が大きいほど、摩耗量が少なく耐摩耗性能に優れることを示す。
【0043】
(2)耐偏摩耗性能
20000kmを走行した後の上記タイヤの偏摩耗量(ヒールアンドトウ摩耗量、センター摩耗量、及び、ショルダー摩耗量)を測定し、その逆数を指数化した。指数が大きいほど、偏摩耗量が少なく耐偏摩耗性能に優れることを示す。
【0044】
(3)アイス性能
22.5×7.50のリムに装着したサイズ11R22.5のタイヤを定積載量10tの車輌に装着して内圧700kPaを充填し、アイス路面での発進性能と制動性能の評価結果を統合して指数化した。発進性能は、車輌が停止状態から30mの距離を進むのに要した時間を計測して採点した。制動性能は、時速30kmの走行状態から車輌が停止するまでの制動距離を計測して採点した。指数が大きいほど、点数が高くアイス性能に優れることを示す。
【0045】
(4)脱型性能
50本のタイヤについて加硫工程を実施し、脱型時に金型との密着を生じたタイヤのうち、サイプを形成するためのブレードが原因と判断されたタイヤの本数をカウントし、その逆数を指数化した。指数が大きいほど、金型との密着が少なく脱型性能に優れることを示す。
【0046】
上記性能評価に供した実施例と比較例のタイヤは、サイプの形状を除いて共通の構造を有する。実施例及び比較例では、それぞれ図3図7に示したサイプがトレッド面の全てのブロックに形成されている。図7のサイプ40は、図3で示した3Dセンター部に相当する3次元形状のみを有し、その壁面には、サイプの深さ方向の2箇所で屈曲した凹凸列が設けられている。評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1のように、実施例では、アイス性能を確保しながら、優れた耐摩耗性能と耐偏摩耗性能を発揮できており、その改善効果を確認することができる。また、実施例では、サイプが2Dセンター部を有することにより脱型性能も改善されている。
【符号の説明】
【0049】
1 ブロック(陸部の一例)
4 サイプ
5 2Dセンター部
6 3Dセンター部
7 3Dサイド部
61 センター凸部
71 サイド凸部
Tr トレッド面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7