(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィラーによるヒステリシスループ及び前記ポリマーによるヒステリシスループを応力−歪空間に描いたグラフを出力するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
分子動力学計算を用いて、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルを周期的に加振して変形させるシミュレーション演算を実行するシミュレーション実行部と、
前記変形によって前記フィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力を時点毎に算出する応力算出部と、
前記全粒子に生じる応力を、前記フィラーを構成する粒子と前記ポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値とポリマーに生じる応力の合計値とを時点毎に算出する集計部と、
各時点の前記応力の合計値及び歪みに基づき応力−歪空間に描くことができる前記フィラーによるヒステリシスループ及び前記ポリマーによるヒステリシスループの面積をヒステリシスロスとして算出するヒステリシスロス算出部と、
を備える、フィラー充填ゴムのヒステリシスロスを算出する装置。
前記フィラーによるヒステリシスループ及び前記ポリマーによるヒステリシスループを応力−歪空間に描いたグラフを出力するグラフ出力部を更に備える、請求項3に記載の装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィラー充填ゴムは、フィラーとポリマーとを含んでいる。各成分のヒステリシスロスに対する寄与を見積もることができれば、配合の方針を開発者に与えることができ、有用である。しかし、このような指針については、先行技術文献に開示又は示唆されていない。
【0006】
本開示は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、フィラー充填ゴムのヒステリシスロスを、フィラーに起因する成分とポリマーに起因する成分とに分割して算出する方法、装置及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0008】
本開示のフィラー充填ゴムのヒステリシスロスを算出する方法は、
分子動力学計算を用いて、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルを周期的に加振して変形させるシミュレーション演算を実行するステップと、
前記変形によって前記フィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力を時点毎に算出するステップと、
前記全粒子に生じる応力を、前記フィラーを構成する粒子と前記ポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値とポリマーに生じる応力の合計値とを時点毎に算出するステップと、
各時点の前記応力の合計値及び歪みに基づき応力−歪空間に描くことができる前記フィラーによるヒステリシスループ及び前記ポリマーによるヒステリシスループの面積をヒステリシスロスとして算出するステップと、
を含む。
【0009】
本開示のフィラー充填ゴムのヒステリシスロスを算出する装置は、
分子動力学計算を用いて、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルを周期的に加振して変形させるシミュレーション演算を実行するシミュレーション実行部と、
前記変形によって前記フィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力を時点毎に算出する応力算出部と、
前記全粒子に生じる応力を、前記フィラーを構成する粒子と前記ポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値とポリマーに生じる応力の合計値とを時点毎に算出する集計部と、
各時点の前記応力の合計値及び歪みに基づき応力−歪空間に描くことができる前記フィラーによるヒステリシスループ及び前記ポリマーによるヒステリシスループの面積をヒステリシスロスとして算出するヒステリシスロス算出部と、
を備える。
【0010】
このように、フィラーによるヒステリシスロスと、ポリマーによるヒステリシスロスとをそれぞれ分割して算出できるので、フィラー成分及びポリマー成分がヒステリシスロスに与える寄与を精度よく計算でき、配合設計の指針に役立てることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
[フィラー充填ゴムのヒステリシスロスを算出する装置]
本実施形態の装置1は、フィラー充填ゴムモデルを用いた分子動力学計算によって、フィラー充填ゴムのヒステリシスロスを、フィラーに起因する成分とポリマーに起因する成分とに分割して算出する装置である。
【0014】
図1に示すように、装置1は、初期設定部10と、シミュレーション実行部11と、応力算出部12と、集計部13と、ヒステリシスロス算出部14と、グラフ出力部15と、を有する。これら各部10〜15は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置において予め記憶されている図示しない処理ルーチンをCPUが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0015】
図1に示す初期設定部10は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、解析対象となるフィラー充填ゴムモデルに関するデータの設定、分子動力学計算を用いた加振変形解析に必要な解析条件などの各種設定を実行し、これら設定値をメモリに記憶する。
図1に示すように、メモリには、フィラー充填ゴムモデルデータM1が記憶されている。フィラー充填ゴムモデルデータM1は、ポリマーモデルデータと、フィラーモデルデータと、を有する。ポリマーモデルデータには、複数の粒子が連なった分子鎖の数、1分子鎖あたりの粒子の数、結合ポテンシャル及び非結合ポテンシャルなどが設定されている。例えば、Kremer-Grest分子鎖モデルを複数の架橋粒子で結合した加硫ゴムモデル、分子鎖モデルを架橋していない未加硫フィラー充填ゴムモデルなどを設定することが挙げられる。結合ポテンシャルの一例として、FENE(Finite Extensible Nonlinear Elastic)−LJ(Lennard-Jones)が挙げられ、非結合ポテンシャルの一例として、WCA(Weeks-Chandler-Andersen;斥力のみのLJポテンシャル)が挙げられる。勿論、これは一例であって、その他の設定が可能である。フィラーモデルデータには、複数の粒子で構成されるフィラーの形状、フィラーを構成する粒子同士の内部拘束、ポリマーとの非結合ポテンシャルなどが設定されている。本実施形態では、フィラー充填ゴムモデルは、
図2に示すように、加振試験のために立方体形状にしている。
【0016】
図1に示すシミュレーション実行部11は、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルデータM1を用いた分子動力学計算を実行する。分子動力学シミュレーションでは、
図2に示すように、解析条件(体積V、温度T)のもとでゴムモデルを周期的に加振して変形させる。本実施形態では、
図2に示すように、ゴムモデルを立方体として下面を固定し、上面に対してx軸に沿った周波数ωの周期的な往復振動を加振し、ゴムモデルを変形させる。ゴムモデルの歪みγは、γ=γ
0cosωtで表される。γ
0=d/hである。
図1に示すように、シミュレーションにおける各時点毎[t
1、t
2、…]に、ゴムモデルの歪み[γ
1、γ
2、…]がメモリに記憶される。
【0017】
図1に示す応力算出部12は、シミュレーション実行部11の演算結果を用いて、変形によってフィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力の時系列データを算出する。
図1に模式的に示すように、応力の時系列データは、ある時点tの全ての粒子のせん断応力[S
1、…、S
N]が時点毎[t
1、t
2、…]に算出されたものである。全粒子に生じる応力の算出は従来の分子動力学シミュレーションと同じであるので、詳細な説明は省略するが、概ね、ポリマーやフィラーの運動量(質量、速度)、ポリマー同士又はポリマーとフィラーの間に作用する非結合ポテンシャル、ポリマー同士に作用する結合ポテンシャル、及び、フィラーの内部拘束等を用いて算出される。応力を算出するために必要な各種パラメータは、フィラー充填ゴムモデルデータM1に予め設定されている。粒子に生じる応力は、x方向、y方向、xy方向というように各方向毎に個別に算出される。本実施形態では、加振方向に対応する方向として、xy方向のせん断応力を算出しているが、これに限定されない。解析で求めたい方向の応力を算出するように設定すればよい。
【0018】
システム全体のせん断応力σは、次の式(1)で表される。
【数1】
Nはシステムを構成する全粒子数、S
iは粒子iに生じるxy方向のせん断応力を示す。
【0019】
図1に示す集計部13は、全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を、フィラーを構成する粒子とポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値σ
fillerとポリマーに生じる応力の合計値σ
polymerとを時点毎[t
1、t
2、…]に算出する。フィラーを構成する全粒子数がN
fillerであれば、フィラーを構成する全粒子の応力の合計値σ
fillerは、式(2)で表される。ポリマーを構成する全粒子数がN
polymerであれば、ポリマーを構成する全粒子の応力の合計値σ
polymerは、式(3)で表される。
【数2】
【数3】
【0020】
集計部13が集計した応力の合計値σ
filler及びσ
polymerをプロットすれば、
図3の上図となる。この図は、横軸が時間、縦軸が応力を示している。フィラーに起因する応力は丸で示し、ポリマーに起因する応力は三角で示している。ゴム全体の応力は、ポリマーとフィラーの応力の合計であり、参考として四角で示している。
【0021】
図3の下図は、各時点の前記応力の合計値及び歪みを、第1軸(縦軸)を応力、第1軸(縦軸)に直交する第2軸(横軸)を歪みとして表される応力−歪空間にプロットした図である。この応力−歪空間には、フィラーに起因するヒステリシスループ(丸印で表される)と、ポリマーによるヒステリシスループ(三角印で表される)と、が描かれることになる。なお、この図では、参考としてゴム全体のヒステリシスループ(四角印で表される)も示している。
【0022】
オプションとして、装置1は、
図3のように、フィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループを応力−歪空間に描いたグラフを出力するグラフ出力部15を備えていてもよい(
図1参照)。出力形式は、画像データでもよいし、装置1が備えるディスプレイに表示するようにしてもよい。
【0023】
図1に示すヒステリシスロス算出部14は、フィラーに起因するヒステリシスループの面積及びポリマーによるヒステリシスループの面積を、ヒステリシスロスとして算出する。このヒステリシスロスは指標としての値である。計算方法の具体的な一例としては、データが離散データであるので、積分演算(歪み量の微変化量×応力値)が挙げられる。積算であるので計算コストが低く、好ましい。
【0024】
上記装置を用いてシミュレーションを行った一例を、
図3〜5に示す。
【0025】
図3の例では、フィラーによるヒステリシスロスは、0.0014219であり、ポリマーによるヒステリシスロスは、0.0002902であった。ゴム全体のヒステリシスロスは、両値の合計値である0.0017121であった。
図3の例では、ヒステリシスロスは、フィラーが支配的であることが分かる。
【0026】
図4は、
図3に比べて系に含まれるフィラーの個数を減らしたゴムモデルのシミュレーション結果である。
図4の例では、フィラーによるヒステリシスロスは、0.0001844であり、ポリマーによるヒステリシスロスは、0.0002064であった。ゴム全体のヒステリシスロスは、両値の合計値である0.0003908であった。
図4の例では、ヒステリシスロスは、フィラー及びポリマーの双方が同程度の影響を与えていることが分かる。
【0027】
図5は、ポリマーの量は同じであるが、フィラーの量を変化させたゴムモデルを複数種類作成し、各々のゴムモデルについてヒステリシスロスを算出した結果である。
図5によれば、ポリマーによるヒステリシスロスの寄与はほぼ一定であるのに対し、フィラーによるヒステリシスロスの寄与は、フィラーの量に応じて増加することが理解できる。
【0028】
このように、フィラーによるヒステリシスロスと、ポリマーによるヒステリシスロスとをそれぞれ分割して算出できるので、フィラー成分及びポリマー成分がヒステリシスロスに与える寄与を精度よく計算でき、配合設計の指針に役立てることが可能となる。
【0029】
[フィラー充填ゴムのヒステリシスロスを算出する方法]
図1に示す装置1を用いて、フィラー充填ゴムのヒステリシスロスを、フィラーに起因する成分とポリマーに起因する成分とに分割して算出する方法について、
図6を用いて説明する。
【0030】
まず、ステップST1において、初期設定部10は、解析対象となるフィラー充填ゴムモデルM1、分子動力学計算を用いた加振変形解析に必要な条件、その他の分子動力学計算に必要な解析条件(温度、体積など)などの各種設定を行い、これらの設定値をメモリに記憶する。
【0031】
ステップST2において、シミュレーション実行部11は、分子動力学計算を用いて、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルを周期的に加振して変形させるシミュレーション演算を実行する。
【0032】
ステップST3において、応力算出部12は、変形によってフィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を時点毎[t
1、t
2、…]に算出する。
【0033】
ステップST4において、集計部13は、全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を、フィラーを構成する粒子とポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値σ
fillerとポリマーに生じる応力の合計値σ
polymerとを時点毎[t
1、t
2、…]に算出する。
【0034】
ステップST5において、ヒステリシスロス算出部14は、各時点の応力の合計値[σ
filler、σ
polymer]及び歪みγに基づき応力−歪空間に描くことができるフィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループの面積をヒステリシスロスとして算出する。
【0035】
場合によってステップST6を実行してもよい。ステップST6において、グラフ出力部15は、
図3〜
図4のように、フィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループを応力−歪空間に描いたグラフを出力する。
【0036】
以上のように、本実施形態の方法は、
分子動力学計算を用いて、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルを周期的に加振して変形させるシミュレーション演算を実行するステップ(ST2)と、
変形によってフィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を時点毎[t
1、t
2、…]に算出するステップ(ST3)と、
全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を、フィラーを構成する粒子とポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値σ
fillerとポリマーに生じる応力の合計値σ
polymerとを時点毎[t
1、t
2、…]に算出するステップ(ST4)と、
各時点の応力の合計値[σ
filler、σ
polymer]及び歪みγに基づき応力−歪空間に描くことができるフィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループの面積をヒステリシスロスとして算出するステップ(ST5)と、
を含む。
【0037】
本実施形態の装置1は、
分子動力学計算を用いて、フィラー及びポリマーを含むフィラー充填ゴムモデルを周期的に加振して変形させるシミュレーション演算を実行するシミュレーション実行部11と、
変形によってフィラー充填ゴムを構成する全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を時点毎[t
1、t
2、…]算出する応力算出部12と、
全粒子に生じる応力[S
1、…、S
N]を、フィラーを構成する粒子とポリマーを構成する粒子に区分けし、フィラーに生じる応力の合計値σ
fillerとポリマーに生じる応力の合計値σ
polymerとを時点毎[t
1、t
2、…]に算出する集計部13と、
各時点の応力の合計値[σ
filler、σ
polymer]及び歪みγに基づき応力−歪空間に描くことができるフィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループの面積をヒステリシスロスとして算出するヒステリシスロス算出部14と、
を備える。
【0038】
このように、フィラーによるヒステリシスロスと、ポリマーによるヒステリシスロスとをそれぞれ分割して算出できるので、フィラー成分及びポリマー成分がヒステリシスロスに与える寄与を精度よく計算でき、配合設計の指針に役立てることが可能となる。
【0039】
本実施形態の方法において、フィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループを応力−歪空間に描いたグラフを出力するステップ(ST6)を更に含む。
本実施形態の装置1において、フィラーによるヒステリシスループ及びポリマーによるヒステリシスループを応力−歪空間に描いたグラフを出力するグラフ出力部15を更に備える。
【0040】
このようにヒステリシスループをグラフとして出力すれば、理解しやすく、使い勝手を向上させることが可能となる。
【0041】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法をコンピュータに実行させるプログラムである。このプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0043】
例えば、
図1に示す各部10〜15は、所定プログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現しているが、各部を専用回路で構成してもよい。
【0044】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。