【文献】
J. Protein Chem.,1992年,vol.11, no.5,pp.571-577
【文献】
J. Biol. Chem.,1997年,vol.272, no.20,pp.12978-12983
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非ペプチド性重合体の各末端が、それぞれ免疫グロブリンFc領域のN末端、及びインスリンアナログN末端のアミノ基又はB鎖内部残基のリジンε−アミノ基やチオール基(Thiol group)に結合された、請求項7に記載のインスリンアナログ結合体。
免疫グロブリンFc領域のそれぞれのドメインが、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドである、請求項12に記載のインスリンアナログ結合体。
非ペプチド性リンカーの官能基が、アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される、請求項7に記載のインスリンアナログ結合体。
スクシンイミド誘導体が、スクシンイミジルプロピオネート、スクシンイミジルカルボキシメチル、ヒドロキシスクシンイミジル又はスクシンイミジルカーボネートである、請求項18に記載のインスリンアナログ結合体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明を実施するための最良の形態]
一態様として、本発明は、天然型に比べてインスリン力価が減少した、B鎖又はA鎖のアミノ酸が変異したインスリンアナログを提供する。
【0016】
一具体例として、本発明は、インスリン受容体に対する結合力が減少したインスリンアナログを提供する。
他の具体例として、本発明によるインスリンアナログは、B鎖の8番目のアミノ酸、23番目のアミノ酸、24番目のアミノ酸、25番目のアミノ酸、A鎖の1番目のアミノ酸、2番目のアミノ酸及び
19番目のアミノ酸からなる群から選択される
いずれか1つのアミノ酸がアラニンに置換
されているか、或いはA鎖の14番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギンに置換されたものである非天然型のインスリンアナログを提供する。
【0017】
さらに他の具体例として、本発明によるインスリンアナログは、配列番号20、22、24、26、28、30、32、34及び36からなる群から選択されるものであるインスリンアナログを提供する。
【0018】
他の態様として、本発明は、前述したインスリンアナログに半減期を延長させうるキャリアが連結されたインスリンアナログ結合体を提供する。
一具体例として、前記インスリンアナログ結合体は、(i)前述したインスリンアナログ(ii)免疫グロブリンFc領域が(iii)ペプチドリンカー、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性リンカーにより連結されるインスリンアナログ結合体を提供する。
【0019】
さらに他の態様として、本発明は、前述したインスリンアナログ結合体を含む生体内持続性及び安定性が向上したインスリン持続性製剤を提供する。
一具体例として、前記インスリン持続性製剤は糖尿病治療用である持続性製剤を提供する。
【0020】
さらに他の態様として、本発明は、前述したインスリンアナログ結合体の製造方法を提供する。
さらに他の態様として、本発明は、前記インスリンアナログ、又はインスリンアナログとキャリアが結合されたインスリンアナログ結合体を用いて生体内半減期を延長させる方法を提供する。
【0021】
さらに他の態様として、本発明は、前記インスリンアナログ又はインスリンアナログ結合体を、それを必要とする個体に投与するステップを含むインスリン関連疾患治療方法を提供する。
[発明を実施するための形態]
本発明は、in−vitro力価が減少したインスリンアナログに関する。このようなインスリンアナログは、非天然型インスリン配列によりインスリン受容体に対する結合力が天然型インスリンより減少したものであり、解離定数の増加により受容体媒介クリアランスが著しく減少し、血中半減期が延長したことを特徴とする。
【0022】
本発明における「インスリンアナログ」とは、天然型に比べてインスリン力価が減少した様々なアナログを含む。
前記インスリンアナログは、天然型に比べてインスリン力価が減少した、インスリンのB鎖又はA鎖のアミノ酸が変異したインスリンアナログであってもよい。天然型インスリンのアミノ酸配列は下記のとおりである。
【0023】
A鎖:Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号37)
B鎖:Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr(配列番号38)
本発明の実施例で用いられたインスリンアナログは遺伝子組換え技術により作製したインスリンアナログであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、in−vitro力価が減少したあらゆるインスリンが含まれる。逆方向のインスリン(inverted insulin)、インスリン変異体(variants)、インスリンフラグメント(fragments)などが含まれることが好ましく、製造法としては、遺伝子組換えだけでなく、固相合成(solid phase)法でも製造することができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
インスリンアナログはインスリンと同じ生体内血糖調節機能を有するペプチドであり、このようなペプチドにはインスリンアゴニスト、誘導体、フラグメント、変異体などが含まれる。
【0025】
本発明におけるインスリンアゴニストとは、インスリンの構造に関係なく、インスリンの生体内受容体に結合してインスリンと同じ生物学的活性を示す物質を意味する。
本発明におけるインスリンアナログとは、アミノ酸配列において天然型インスリンのA鎖、B鎖とそれぞれ80%以上の相同性を示し、アミノ酸の一残基の一部グループが化学的に置換(例えば、αメチル化、α−ヒドロキシル化)、除去(例えば、脱アミノ化)又は修飾(例えば、N−メチル化)された形態であり、体内で血糖を調節する機能を有するペプチドを意味する。本発明の目的上、インスリン受容体に対する結合力が天然型より減少したインスリンアナログであり、インスリン力価が天然型に比べて減少したインスリンアナログが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
低い受容体媒介インターナリゼーション(receptor−mediated internalization)又は受容体媒介クリアランス(receptor−mediated clearance)を示すものであれば特にその種類や大きさが限定されるものではなく、受容体媒介インターナリゼーション又は受容体媒介クリアランスが生体内タンパク質除去の主要メカニズムとして作用するインスリンアナログが本発明の目的に適している。
【0027】
本発明におけるインスリンフラグメントとは、インスリンに1つ又はそれ以上のアミノ酸が追加又は除去された形態を意味し、追加されるアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよく、このようなインスリンフラグメントは体内で血糖調節機能を有する。
【0028】
本発明におけるインスリン変異体とは、インスリンとアミノ酸配列が1つ以上異なるペプチドであって、体内で血糖調節機能を有するペプチドを意味する。
本発明のインスリンアゴニスト、誘導体、フラグメント及び変異体において用いる各製造方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。例えば、アミノ酸配列が1つ以上異なり、N末端アミノ酸残基に脱アミノ化された体内で血糖調節機能を有するペプチドも含まれる。
【0029】
具体的には、前記インスリンアナログは、B鎖の8番目のアミノ酸、23番目のアミノ酸、24番目のアミノ酸、25番目のアミノ酸、A鎖の1番目のアミノ酸、2番目のアミノ酸
、14番目のアミノ酸
及び19番目のアミノ酸からなる群から選択される1つ又はそれ以上のアミノ酸が
他のアミノ酸に置換されたものであってもよく、好ましくは、
B鎖の8番目のアミノ酸、23番目のアミノ酸、24番目のアミノ酸、25番目のアミノ酸、A鎖の1番目のアミノ酸、2番目のアミノ酸及び19番目のアミノ酸からなる群から選択される1つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換
されているか、或いはA鎖の14番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギンに置換されたものであってもよい。また、配列番号20、22、24、26、28、30、32、34及び36からなる群から選択されたものであってもよ
いが、インスリン受容体
の結合力が減少したインスリンアナログ
であれば制限なく含むことができる。
【0030】
本発明の一実施例によれば、配列番号20、22、24、26、28、30、32、34及び36のインスリンアナログがin vitroで天然型に比べてインスリン受容体結合力が減少することが確認され、特に代表的なものとしてインスリンアナログ7、8、9(配列番号32,34,36)が確認された(表4)。
【0031】
さらに他の態様として、本発明は、前記インスリンアナログとキャリアが結合されたインスリンアナログ結合体を提供する。
本発明における「キャリア」とは、結合されたインスリンアナログの生体内半減期を延長させうる物質を意味する。本発明によるインスリンアナログは、インスリン受容体に対する結合力が天然型より減少したものであり、受容体媒介クリアランス及び腎クリアランス機序を回避できることを特徴とするので、従来の公知の様々な生理活性ポリペプチドに結合して生体内半減期を延長させることが知られているキャリアを連結させると、生体内半減期が延長して持続性製剤として利用できることは言うまでもない。
【0032】
例えば、半減期延長が最優先目的であるので、力価減少新規インスリンに結合されるキャリアは免疫グロブリンFc領域に限定されるものではなく、腎クリアランス(renal clearance)を減少させることのできる様々な重合体(例えば、ポリエチレングリコール及び脂肪酸、アルブミン及びそのフラグメント、特定アミノ酸配列など)、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織又はその誘導体、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド(saccharide)、及び高分子重合体からなる群から選択されるいずれかの生体適合性物質などに結合されて生体内半減期を延長させる生体適合性物質を含むが、これらに限定されるものではない。また、力価が減少したインスリンアナログに生体内半減期を延長させうる生体適合性物質を連結する方法には、遺伝子組換え法やin vitro結合などが含まれる。前記生体適合性物質は、例えばFcRn結合物質、脂肪酸、ポリエチレングリコール、アミノ酸フラグメント又はアルブミンであってもよい。前記FcRn結合物質は免疫グロブリンFc領域であってもよい。
【0033】
前記インスリンアナログ及び生体適合性物質のキャリアは、リンカーであるペプチド又は非ペプチド性重合体により連結された形態であってもよい。
前記インスリン結合体は、(i)インスリンアナログ(ii)免疫グロブリンFc領域とが、(iii)ペプチドリンカー、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性リンカーにより連結されるインスリンアナログ結合体であってもよい。
【0034】
本発明のインスリンアナログ結合体の具体的な一実施形態において、インスリンアナログはそのB鎖のN末端にリンカーである非ペプチド性重合体が連結される。他の具体的実施形態において、本発明の結合体はインスリンアナログのB鎖の残基にリンカーである非ペプチド性重合体が連結される。インスリンはA鎖を修飾すると活性や安全性が低下するので、このような実施形態においては、インスリンB鎖に非ペプチド性重合体をリンカーとして連結することにより、インスリンの活性を保持すると共に安全性を向上させることができる。
【0035】
本発明における「活性」とは、インスリンがインスリンの受容体に結合する能力を意味し、インスリンがその受容体に結合してインスリンの作用を示すことを意味する。本発明のインスリンB鎖のN末端における非ペプチド性重合体の結合はpH調節により引き起こされ、好ましいpHの範囲は4.5〜7.5である。
【0036】
本発明における「N末端」は「N末端領域」と混用される。
具体的な一実施例として、本発明者は、免疫グロブリンFc領域のN末端にPEGを結合させ、さらにインスリンアナログB鎖のN末端に選択的にカップリングすることによりインスリンアナログ−PEG−免疫グロブリンFc結合体を作製した。このようなインスリンアナログ−PEG−免疫グロブリンFc結合体の血中半減期は非結合体より長くなり、疾患モデル動物においても血糖強化効果を示すので、生体内活性が維持される新たな持続型インスリン剤形を製造できることは自明である。
【0037】
免疫グロブリンFc領域は、生体内で代謝される生分解性ポリペプチドであるので、薬物のキャリアとして安全に使用できる。また、免疫グロブリンFc領域は、免疫グロブリン分子全体に比べて相対的に分子量が小さいので、結合体の作製、精製及び収率の面で有利であるだけでなく、アミノ酸配列は抗体ごとに異なるため、高い非均質性を示すFab部分を除去することにより、物質の同質性が非常に高くなり、血中抗原性を誘発する可能性が低くなるという効果も期待することができる。
【0038】
本発明における「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域、重鎖定常領域1(CH1)及び軽鎖定常領域(CL1)を除いた、重鎖定常領域2(CH2)及び重鎖定常領域3(CH3)部分を意味し、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含むこともある。また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然型と実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。また、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が除去された領域であってもよい。
【0039】
すなわち、本発明の免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)1つ又は2つ以上のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体であってもよい。
【0040】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然型アミノ酸配列だけでなく、その配列変異体(mutant)も含まれる。アミノ酸配列変異体とは、天然型アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214〜238、297〜299、318〜322又は327〜331番目のアミノ酸残基が変異に適した部位として用いられる。
【0041】
また、ジスルフィド結合を形成しうる部位が除去された変異体、天然型FcからN末端のいくつかのアミノ酸が除去された変異体、天然型FcのN末端にメチオニン残基が付加された変異体など、様々な種類の変異体が用いられる。また、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、抗体依存性細胞障害 (antibody dependent cell mediated cytotoxicity、ADCC)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献1、2などに開示されている。
【0042】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は当該分野において公知である(非特許文献4)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。
【0043】
場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾されてもよい。
【0044】
前述したFc変異体は、本発明のFc領域と同じ生物学的活性を示すが、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させた変異体である。
また、このようなFc領域は、ヒト、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然型から得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換型又はその誘導体であってもよい。ここで、天然型から得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理して得ることができる。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size−exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。
【0045】
ヒト由来のFc領域を微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域であることが好ましい。
また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖、天然型に比べて増加した糖鎖、天然型に比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法及び微生物を用いた遺伝工学的方法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞毒性又は補体依存性細胞毒性が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このような点から、薬物のキャリアとして本発明の目的に適する形態は、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域であると言えるであろう。
【0046】
本発明における糖鎖の除去(Deglycosylation)とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核生物、好ましくは大腸菌で生産されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0047】
一方、免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であり、ヒト起源であることが好ましい。また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来であるか、又はそれらの組み合わせ(combination)もしくはそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であることが好ましく、リガンド結合タンパク質の半減期を向上させることが知られているIgG由来であることが最も好ましい。
【0048】
一方、本発明における組み合わせ(combination)とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の単鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fcフラグメントからなる群から選択される2つ以上のフラグメントから二量体又は多量体を作製することができる。
【0049】
本発明における「ハイブリッド(hybrid)」とは、単鎖の免疫グロブリンFc領域内に、2つ以上の異なる起源の免疫グロブリンFcフラグメントに相当する配列が存在することを意味する。本発明においては、様々な形態のハイブリッドが可能である。すなわち、IgG Fc、IgM Fc、IgA Fc、IgE Fc及びIgD FcのCH1、CH2、CH3及びCH4からなる群から選択される1つ〜4つのドメインのハイブリッドが可能であり、ヒンジを含んでもよい。
【0050】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けられ、本発明においては、それらの組み合わせ又はそれらのハイブリッド化も可能である。IgG2及びIgG4サブクラスであることが好ましく、補体依存的毒性(CDC, complementdependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)のほとんどないIgG4のFc領域であることが最も好ましい。すなわち、本発明の薬物のキャリアとして最も好ましい免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域である。ヒト由来のFc領域は、ヒト生体において抗原として作用し、それに対する新規な抗体を生成するなどの好ましくない免疫反応を起こす非ヒト由来のFc領域に比べて好ましい。
【0051】
前記インスリンアナログ結合体の具体的実施形態においては、非ペプチド性重合体の各末端が、それぞれ免疫グロブリンFc領域のN末端、及びインスリンアナログB鎖のN末端のアミノ基又はB鎖内部残基のリジンε−アミノ基やチオール(Thiol)基に結合された形態であってもよい。
【0052】
本発明のFc領域−リンカー−インスリンアナログは、様々なモル比の結合が可能である。すなわち、1つのインスリンアナログに結合するFc領域及び/又はリンカーの数は限定されない。
【0053】
また、本発明のFc領域、任意のリンカー及びインスリンアナログの結合には、遺伝子組換え法でFc領域とインスリンアナログが融合タンパク質の形態で発現する場合、あらゆる共有結合と、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用などのあらゆる種類の非共有結合とが含まれる。しかし、インスリンアナログの生理活性の面からは共有結合したものが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0054】
一方、本発明のFc領域、任意のリンカー及びインスリンアナログの場合は、N末端、C末端の結合も可能であるが、遊離基に結合されることがより好ましく、特にこれらのN末端、リジンのアミノ酸残基、ヒスチジンのアミノ酸残基又は遊離システイン残基で共有結合を形成することができる。
【0055】
また、本発明のFc領域、任意のリンカー及びインスリンアナログの結合は、任意の方向に結合される。すなわち、リンカーと免疫グロブリンFc領域のN末端、C末端及び遊離基の結合が可能であり、リンカーとインスリンアナログのN末端、C末端及び遊離基の結合が可能である。
【0056】
非ペプチドリンカーと免疫グロブリンフラグメントの結合位置は、免疫グロブリンのN末端アミノ基であってもよく、免疫グロブリンフラグメント配列のリジン残基やシステイン残基など、いかなる位置にも限定されない。
【0057】
また、前記インスリンアナログ結合体の具体的実施形態においては、非ペプチド性重合体の末端が、免疫グロブリンFc領域のN末端以外にも、非ペプチド性重合体の末端の官能基に結合できる内部アミノ酸残基又はその遊離官能基に結合することができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明における非ペプチド性重合体とは、繰り返し単位が2つ以上結合された生体適合性重合体を意味し、前記繰り返し単位はペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。このような非ペプチド性重合体は両末端又は三末端を有する。
【0059】
本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)及びPLGA(ポリ乳酸−グリコール酸,polylactic−glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、ポリエチレングリコールであることが好ましい。当該分野に既に知られているこれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体なども本発明に含まれる。
【0060】
従来のインフレームフュージョン(inframe fusion)方法で作製された融合タンパク質に用いられていたペプチド性リンカーにおいては、生体内でタンパク質分解酵素により容易に切断され、キャリアによる活性薬物の血中半減期の延長効果を期待したほど得られないこともあるので、本発明においては、ペプチドリンカーだけでなく、非ペプチドリンカーを用いて結合体を作製することができる。非ペプチドリンカーは、タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体を用いることにより、キャリアと同様にペプチドの血中半減期を維持することができる。よって、本発明に用いられる非ペプチド性重合体は、このような役割を果たすもの、すなわち生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であれば制限なく用いられる。非ペプチド性重合体は、分子量が1〜100kDaの範囲、好ましくは1〜20kDaの範囲である。
【0061】
また、前記免疫グロブリンFc領域に結合される本発明の非ペプチド性重合体は、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
本発明に用いられる非ペプチド性重合体は、免疫グロブリンFc領域及びタンパク質薬物に結合される官能基を有する。
【0062】
前記非ペプチド性重合体の両末端の官能基は、反応アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド(maleimide)基及びスクシンイミド(succinimide)誘導体からなる群から選択されることが好ましい。ここで、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルプロピオネート、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられる。特に、前記非ペプチド性重合体が両末端に反応アルデヒド基の官能基を有する場合、非特異的反応を最小限に抑え、非ペプチド性重合体の両末端に生理活性ポリペプチド及び免疫グロブリンがそれぞれ結合するのに効果的である。アルデヒド結合による還元性アルキル化で生成された最終産物は、アミド結合により連結されたものよりはるかに安定している。反応アルデヒド基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリジン残基と共有結合を形成することができる。
【0063】
前記非ペプチド性重合体の両末端の官能基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一方の末端にはマレイミド基、他方の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、又はブチルアルデヒド基を有してもよい。両末端に官能基のヒドロキシ基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な官能基として活性化するか、商業的に入手可能な変異した官能基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の単鎖インスリンアナログ結合体を製造することができる。
【0064】
このような本発明のインスリンアナログ結合体は、エネルギー代謝や糖代謝などの従来のインスリンの生体内活性が維持されるだけでなく、インスリンアナログの血中半減期及びそれによる前記ペプチドの生体内効力持続効果が画期的に向上するので、糖尿病の治療に有用である。
【0065】
本発明の一実施例においては、このような生体内半減期を延長するキャリアなどと結合する際に、天然型インスリン結合体に比べてインスリン受容体結合力が減少したインスリンアナログにおいて、生体内半減期が大幅に延長されることが確認された(
図6)。
【0066】
さらに他の態様として、本発明は、インスリンアナログ結合体を含むインスリン持続性製剤を提供する。前記インスリン持続性製剤は、生体内持続性及び安定性が向上したインスリン持続性製剤であってもよい。前記持続性製剤は糖尿病治療用の薬学的組成物であってもよい。
【0067】
本発明の結合体を含む薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、経口投与の場合は、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁剤、色素、及び香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、鎮痛剤、可溶化剤、等張化剤及び安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを用いることができる。本発明の薬学的組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される担体と混合して様々な形態に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、単回投与のアンプル又は複数回投与の形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0068】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などを用いてもよい。
【0069】
また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、防腐剤などをさらに含んでもよい。
さらに他の態様として、本発明は、前記インスリンアナログ又はインスリンアナログ結合体を、それを必要とする個体に投与するステップを含むインスリン関連疾患治療方法を提供する。
【0070】
本発明による結合体は、糖尿治療に有用であるため、それを含む薬学的組成物を投与することにより、前記疾患の治療を図ることができる。
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記結合体の投与経路は、薬物を標的組織に送達できるものであれば、一般的なあらゆる経路を介して投与することができる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与及び直腸内投与などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。しかし、経口投与の場合はペプチドが消化されるので、経口投与用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化することが好ましい。注射剤形態で投与することが好ましい。また、薬学的組成物は、活性物質を標的細胞に送達することのできる任意の装置により投与することができる。
【0071】
また、本発明の薬学的組成物は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価に優れるので、本発明の薬学的製剤の投与回数及び頻度を大幅に減少させることができる。
【0072】
さらに他の態様として、本発明は、インスリンアナログを準備するステップと、キャリアを準備するステップと、前記インスリンアナログとキャリアを連結するステップとを含む、インスリンアナログ結合体を製造する方法を提供する。
【0073】
さらに他の態様として、本発明は、前記インスリンアナログ、又はインスリンアナログとキャリアが結合されたインスリンアナログ結合体を用いて生体内半減期を延長させる方法を提供する。
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
実施例1:単鎖インスリンアナログ発現ベクターの作製
保有中の天然型インスリン発現ベクターを鋳型とし、A鎖又はB鎖のアミノ酸を1つずつ変異させたインスリンアナログを作製するために、順方向及び逆方向オリゴヌクレオチドを合成し(表2)、その後PCRを行って各アナログ遺伝子を増幅した。
【0076】
下記表1に、それぞれのA鎖又はB鎖のアミノ酸の変異した配列及びアナログ名を示す。すなわち、アナログ1はA鎖の1番目のグリシンがアラニンに置換された形態であり、アナログ4はB鎖の8番目のグリシンがアラニンに置換された形態である。
【0077】
【表1】
【0078】
インスリンアナログ増幅のためのプライマーを下記表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
インスリンアナログ増幅のためのPCR条件は、95℃で30秒、55℃で30秒、68℃で6分とし、この過程を18回繰り返した。このような条件で得られたインスリンアナログフラグメントは、細胞内の封入体の形態で発現させるためにpET22bベクターに挿入されており、このようにして得られた発現ベクターをpET22b−インスリンアナログ1〜9と命名した。前記発現ベクターは、T7プロモーターの制御下でインスリンアナログ1〜9のアミノ酸配列をコードする核酸を含み、宿主内でインスリンアナログタンパク質を封入体の形態で発現させた。
【0081】
下記表3に各インスリンアナログ1〜9のDNA配列及びタンパク質配列を示す。
【0082】
【表3-1】
【0083】
【表3-2】
【0084】
【表3-3】
【0085】
【表3-4】
【0086】
実施例2:組換えインスリンアナログ融合ペプチドの発現
T7プロモーター制御下で組換えインスリンアナログの発現を行った。それぞれの組換えインスリンアナログ発現ベクターにE.coli BL21−DE3(E. coli B F−dcm ompT hsdS(rB−mB−)gal λ(DE3);ノバジェン)を形質転換した。形質転換方法は、ノバジェン社が推奨する方法に従った。各組換え発現ベクターが形質転換されたそれぞれの単一コロニーを得て、アンピシリン(50μg/ml)が含まれる2Xルリア(Luria Broth,LB)培地に接種し、37℃で15時間培養した。組換え菌株培養液と30%グリセリンとを含む2XLB培地を1:1(v/v)の割合で混合して各1mlずつクライオチューブに分注し、−140℃で保管した。これを組換え融合タンパク質の作製のための細胞ストック(cell stock)として用いた。
【0087】
組換えインスリンアナログの発現のために、各細胞ストック1バイアルを溶解して500mlの2Xルリア培地に接種し、37℃で14〜16時間振盪培養した。OD600の値が5.0以上になったら培養を終了し、これを種培養液として用いた。50L発酵槽(MSJ−U2,B.E.MARUBISHI,日本)を用いて、種培養液を17Lの発酵培地に接種して初期バス(bath)発酵を始めた。培養条件は、温度37℃、空気量20L/分(1vvm)、攪拌速度500rpmとし、30%アンモニア水を用いてpH6.70を維持した。発酵は、培養液中の栄養素が枯渇したら追加培地(feeding solution)を添加することにより、流加培養を行った。菌株の成長はOD値によりモニターし、OD値が100以上において最終濃度500μMのIPTGを導入した。培養は導入後約23〜25時間までさらに続け、培養終了後、遠心分離器を用いて組換え菌株を得て、使用するまで−80℃で保管した。
【0088】
実施例3:組換えインスリンアナログの回収及びリフォールディング(refolding)
実施例2で発現させた組換えインスリンアナログを可溶性形態に変えるために、細胞を破砕してリフォールディングした。細胞ペレット100g(wet weight)を1L溶解緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、1mM EDTA(pH8.0)、0.2M NaCl及び0.5%トリトンX−100)に再浮遊させた。マイクロフルダイザー(microfluidizer)プロセッサM−110EH(AC Technology Corp.Model M1475C)を用いて、103MPa(15,000psi)の圧力で細胞を破砕した。破砕された細胞溶解物を7,000rpmで4℃にて20分間遠心分離して上清を捨て、3L洗浄緩衝液(0.5%トリトンX−100及び50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.2M NaCl及び1mM EDTA)に再浮遊させた。7,000rpmで4℃にて20分間遠心分離してペレットを蒸留水に再浮遊させ、その後同様に遠心分離した。ペレットを得て、400mlの緩衝液(1M Glycine,3.78g Cysteine−HCl,pH10.6)に再浮遊させて常温で1時間攪拌した。再浮遊させた組換えインスリンアナログの回収のために、400mLの8Mウレアを追加し、その後40℃で1時間攪拌した。可溶化した組換えインスリンアナログのリフォールディングのために、7,000rpmで4℃にて30分間遠心分離して上清を得て、その後これに2Lの蒸留水を蠕動ポンプ(peristaltic pump)にて1000ml/hrの流速で加えて4℃で16時間攪拌した。
【0089】
実施例4:陽イオン結合クロマトグラフィー精製
45%エタノールが含まれる20mMクエン酸ナトリウム(pH2.0)緩衝液で平衡化したSource S(GE healthcare社)カラムにリフォールディングした試料を結合させ、その後塩化カリウム0.5Mと45%エタノールとを含む20mMクエン酸ナトリウム(pH2.0)緩衝液を用いて、濃度が0%から100%になるように10カラム容量の線形濃度勾配でインスリンアナログタンパク質を溶出した。
【0090】
実施例5:トリプシン(Trypsin)及びカルボキシペプチダーゼB(Carboxypeptidase B)処理
脱塩カラム(Desalting column)を用いて、溶出した試料から塩を除去し、緩衝液(10mM Tris−HCl,pH8.0)に交換した。得られた試料のタンパク量のモル比1000に相当するトリプシンとモル比2000に相当するカルボキシペプチダーゼBを添加し、その後16℃で16時間攪拌した。反応を終了させるために、1Mクエン酸ナトリウム(pH2.0)を用いてpHを3.5に下げた。
【0091】
実施例6:陽イオン結合クロマトグラフィー精製
反応が終了した試料を45%エタノールが含まれる20mMクエン酸ナトリウム(pH2.0)緩衝液で平衡化したSource S(GE healthcare社)カラムに再び結合させ、その後塩化カリウム0.5Mと45%エタノールとを含む20mMクエン酸ナトリウム(pH2.0)緩衝液を用いて、濃度が0%から100%になるように10カラム容量の線形濃度勾配でインスリンアナログタンパク質を溶出した。
【0092】
実施例7:陰イオン結合クロマトグラフィー精製
脱塩カラムを用いて、溶出した試料から塩を除去し、緩衝液(10mM Tris−HCl,pH7.5)に交換した。実施例6で得られた試料から純粋なインスリンアナログを純粋に分離するために、10mMトリス(pH7.5)緩衝液で平衡化した陰イオン交換カラム(Source Q:GE healthcare社)に結合させ、その後0.5M塩化ナトリウムが含まれる10mMトリス(pH7.5)緩衝液を用いて、濃度が0%から100%になるように10カラム容量の線形濃度勾配でインスリンアナログタンパク質を溶出した。
【0093】
精製されたインスリンアナログの純度はタンパク質電気泳動(SDS−PAGE,
図1)及び高圧クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析し(
図2)、アミノ酸の変異はペプチドマッピング(
図3)と各ピークの分子量分析により確認した。
【0094】
その結果、それぞれのインスリンアナログにおいて目的とするアミノ酸配列が変異したことが確認された。
実施例8:インスリンアナログ(7番)−免疫グロブリンFc結合体の作製
インスリンアナログβ鎖のN末端を3.4K ALD2 PEG(NOF,日本)でペグ化するために、インスリンアナログ:PEGのモル比を1:4とし、インスリンアナログ濃度を5mg/mlとして4℃で約2時間反応させた。ここで、反応はpH6.0の50mMクエン酸ナトリウム(Sodium Citrate)、45%イソプロパノールで行われ、3.0mMの濃度のシアノ水素化ホウ素ナトリウム還元剤を添加して反応させた。反応液はクエン酸ナトリウム(pH3.0)、45%エタノールが含まれる緩衝液とKCl濃度勾配を用いたSP−HP(GE Healthcare,米国)カラムを用いて精製した。
【0095】
インスリンアナログ−免疫グロブリンFcフラグメント結合体を作製するために、上で精製されたモノペグ化された(mono−PEGylated)インスリンアナログと免疫グロブリンFcフラグメントのモル比が1:1〜1:2になるようにし、総タンパク質濃度を約20mg/mlとして25℃で13時間反応させた。ここで、反応緩衝液条件は100mM HEPES、pH8.2であり、還元剤として20mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムを添加した。こうすることにより、FcフラグメントのN末端にPEGが結合した。
【0096】
反応終了後、Q HP(GE Healthcare,米国)カラムにおいて、Tris−HCl(pH7.5)緩衝液とNaCl濃度勾配を用いて、反応液から反応していない免疫グロブリンFcフラグメント、モノペグ化されたインスリンアナログを分離精製した。
【0097】
その後、Source 15ISO(GE Healthcare,米国)を2次カラムとして用いて、残留している免疫グロブリンFcフラグメント及びインスリンアナログが免疫グロブリンFcフラグメントに2つ以上結合された結合体を除去し、インスリンアナログ−免疫グロブリンFcフラグメント結合体を得た。ここで、Tris−HCl(pH7.5)が含まれる硫酸アンモニウムの濃度勾配を用いて溶出し、溶出したインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体は、タンパク質電気泳動(SDS−PAGE,
図4)及び高圧クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析した(
図5)。その結果、約99%の純度に精製されたことが確認された。
【0098】
実施例9:天然型インスリン、インスリンアナログ、天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体及びインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体のインスリン受容体結合力の比較
インスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体のインスリン受容体結合力を測定するために、Surface plasmon resonance(SPR,BIACORE 3000,GE healthcare)を用いて分析した。CM5チップにインスリン受容体をアミンカップリング法で固定化し、5種類以上の濃度で希釈した天然型インスリン、インスリンアナログ、天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体、インスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体を独立して分注し、それぞれの物質のインスリン受容体に対する結合力を確認した。各物質の結合力はBIAevaluationソフトウェアを用いて算出した。ここで用いられるモデルは1:1 Langmuir binding with baseline driftであった。
【0099】
その結果、ヒトインスリンに対して、インスリンアナログ(6番)は14.8%、インスリンアナログ(7番)は9.9%、インスリンアナログ(8番)は57.1%、インスリンアナログ(9番)は78.8%、天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体は実験runによって3.7〜5.9%の間、インスリンアナログ(6番)−免疫グロブリンFc結合体は0.9%以下、インスリンアナログ(7番)−免疫グロブリンFc結合体は1.9%、インスリンアナログ(8番)−免疫グロブリンFc結合体は1.8%、インスリンアナログ(9番)−免疫グロブリンFc結合体は3.3%の受容体結合力が確認された(表4)。このように、本発明のインスリンアナログは天然型インスリンに比べてインスリン受容体結合力が減少し、それだけでなくインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体もインスリン受容体結合力が大幅に減少することが観察された。
【0100】
【表4-1】
【0101】
【表4-2】
【0102】
実施例10:天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体とインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体のin−vitro効力の比較
インスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体のin vitro効力を測定するために、脂肪細胞に分化させたマウス由来の3T3−L1細胞株を用いたグルコース吸収能(glucose uptake,又は脂質合成能)試験を行った。3T3−L1細胞を、10%NBCS(新生仔ウシ血清)を含むDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle’s Medium,Gibco,Cat.No,12430)培地を用いて、週2〜3回継代培養して維持した。3T3−L1細胞を分化用培地(10%FBSを含むDMEM)で懸濁し、その後48ウェル皿に1ウェル当たり5×10
4個となるように接種して48時間培養した。脂肪細胞への分化のために、分化用培地に1μg/mLヒトインスリン(Sigma,Cat.No.I9278)、0.5mM IBMX(3−isobutyl−1−methylxanthine,Sigma,Cat.No.I5879)、1μM Dexamethasone(Sigma,Cat.No.D4902)を混合し、従来の培地を除去してから1ウェル当たり250μlずつ加えた。48時間後、分化用培地に1μg/mLのヒトインスリンのみ添加した培地に再び交換した。その後、48時間毎に1μg/mLのヒトインスリンを添加した分化用培地に交換し、7〜9日間脂肪細胞への分化が誘導されることを確認した。グルコース吸収能試験のために、分化済みの細胞を無血清DMEM培地で1回水洗し、その後250μlずつ加えることにより4時間にわたって血清枯渇を誘導した。ヒトインスリンは2μMから0.01μMまで、天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体とインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体はそれぞれ20μMから0.02μMまで、無血清DMEM培地で10倍ずつ順次希釈して準備した。準備した試料を細胞にそれぞれ250μlずつ添加し、その後24時間にわたって37℃にて5%CO
2培養器で培養した。培養済みの培地のグルコース残量を測定するために、200μlの培地を採取し、D−PBSでそれぞれ5倍に希釈してGOPOD(GOPOD Assay Kit,Megazyme,Cat.No. K−GLUC)分析を行った。グルコース標準溶液の吸光度に基づいて培地の残余グルコース濃度を換算し、天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体、インスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体のグルコース吸収能に対するEC50をそれぞれ算出した。
【0103】
その結果、ヒトインスリンと比較して、天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体は11.6%、インスリンアナログ(6番)−免疫グロブリンFc結合体は0.43%、インスリンアナログ(7番)−免疫グロブリンFc結合体は1.84%、インスリンアナログ(8番)−免疫グロブリンFc結合体は16.0%、インスリンアナログ(9番)−免疫グロブリンFc結合体は15.1%のグルコース吸収能を示した(表5)。このように、本発明のインスリンアナログ(6番)−免疫グロブリンFc結合体とインスリンアナログ(7番)−免疫グロブリンFc結合体のin vitro力価は天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体と比較して画期的に減少し、インスリンアナログ(8番)−免疫グロブリンFc結合体とインスリンアナログ(9番)−免疫グロブリンFc結合体のin vitro力価は天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体と同程度であることが観察された。
【0104】
【表5】
【0105】
実施例11:インスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体の薬物動態(pharmacokinetics)の確認
インスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体の薬物動態を確認するために、5日間実験室に馴化させた正常ラット(SD rat,雄,6週齢)において経過時間による血中濃度比較試験を行った。天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体とインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体に21.7nmol/kgと65.1nmol/kgをそれぞれ皮下投与し、0、1、4、8、24、48、72、96、120、144、168、192、216時間後に採血した。各時間における天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体及びインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体の血中濃度は酵素結合免疫吸着法(ELISA,enzyme linked immunosorbent assay)を用いて測定し、キットとしてInsulin ELISA(ALPCO,米国)を用いた。しかし、検出抗体(detection antibody)としては、mouse anti−human IgG4 HRP conjugate(Alpha Diagnostic Intl, Inc, 米国)を用いた。
【0106】
天然型インスリン−免疫グロブリンFc結合体とインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体の薬物動態について検討した結果、両物質共に投与濃度に比例して血中濃度が増加することが分かり、インスリン受容体に対する低い結合力を示すインスリンアナログ−免疫グロブリンFc結合体が天然型インスリン−Fc結合体に比べて大幅に延長された半減期を示すことが分かった(
図6)。
【0107】
これらの結果は、インスリン受容体結合力が減少するように変異した本発明のインスリンアナログは、免疫グロブリンFc領域に結合された結合体を形成すると、実際の生体内で血中半減期が画期的に延長して安定したインスリン製剤として提供することができ、糖尿病治療剤として効果的に使用できることを示唆するものである。また、本発明によるインスリンアナログ自体もインスリン受容体との結合力及び力価が減少するので、様々なキャリアなどに結合してもやはり同じ効果を発揮することを示唆するものである。
【0108】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。