(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリエーテル化合物の使用量が、前記リビングラジカル重合触媒1モルに対して、1モル以上であり、かつ、ラジカル重合性単量体 100重量部に対して、10000重量部以下である、請求項6に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
なお、本発明において、「〜を含有する」という用語は、「〜を含有する」、「実質的に〜からなる」及び「〜からなる」を包含する表現である。
【0025】
本発明において、「アルキル」とは、鎖状又は環状の脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が1つ失われて生ずる1価の基をいう。特に、鎖状の脂肪族炭化水素(鎖状アルカン)から水素原子が1つ失われて生ずる1価の基を「鎖状アルキル」、環状の脂肪族炭化水素(シクロアルカン)から水素原子が1つ失われて生ずる1価の基を「シクロアルキル」という。アルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜20のアルキル基であることがより好ましい。同様に、「アルキレン」とは、アルキル基から水素原子をさらに1つ失われて生ずる2価の基をいう。
【0026】
「低級アルキル」又は「低級アルキレン」という場合、炭素数1〜10のアルキル基又はアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜5のアルキル基又はアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基又はアルキレン基であることがさらに好ましい。「低級アルキル」は「アルキル」に包含され、「低級アルキレン」は「アルキレン」に包含される。低級アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。低級アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基が挙げられる。
【0027】
「アルコキシ」とは、上記アルキルを有するアルキルオキシ基であり、上記アルキル基を「Alkyl−」と示した場合、「Alkyl−O−」で示される基である。「鎖状アルコキシ」、「シクロアルコキシ」、「低級アルコキシ」も同様に上記鎖状アルキル、シクロアルキル、低級アルキルを有するアルキルオキシ基をいう。
【0028】
「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいう。アリール基を構成する芳香族炭化水素の環の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。また、2以上の環が存在する場合、それらの環は縮合していてもよく、縮合していなくてもよい。具体的には、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ビフェニル等を挙げることができる。
【0029】
「ヘテロアリール」とは、アリール基の芳香環の環骨格を構成する元素に炭素以外のヘテロ元素を含む基をいう。ヘテロ元素の例としては、酸素、窒素、硫黄等を挙げることができる。芳香環中のヘテロ原子の数は特に限定されず、1つでも、また同種又は異なるヘテロ原子が2以上含まれていてもよい。
【0030】
「ハロゲン(原子)」としては、フッ素(原子)、塩素(原子)、臭素(原子)、ヨウ素(原子)を挙げることができる。
【0031】
「アルキルカルボキシル」とは、上記アルキル基にカルボキシル基が結合した基をいい、上記アルキル基を「Alkyl−」で示した場合、「Alkyl−CO
2−」で示される基である。
【0032】
1.リビングラジカル重合触媒
本発明のリビングラジカル重合触媒は、ハロゲン化アルカリ金属化合物及びハロゲン化アルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、単に「ハロゲン化典型金属化合物」ということもある)を含有する。
【0033】
ハロゲン化アルカリ金属化合物のアルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが例示できる。ハロゲン化アルカリ土類金属化合物のアルカリ土類金属原子としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが例示できる。これらの中でも、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム等であることが好ましく、特にナトリウム、カリウムであることが好ましい。
【0034】
ハロゲン化典型金属化合物に含まれるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子を例示することができる。これらの中でも、分子量分布を狭くするという観点より、臭素原子又は沃素原子であることが好ましく、沃素原子であることが特に好ましい。
【0035】
本発明のリビングラジカル重合触媒は、臭化アルカリ金属化合物、ヨウ化アルカリ金属化合物、臭化アルカリ土類金属化合物、又はヨウ化アルカリ土類金属化合物であることがより好ましく、ヨウ化アルカリ金属化合物又はヨウ化アルカリ土類金属化合物であることがさらに好ましく、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、又はヨウ化カルシウムであることが特に好ましい。
【0036】
本発明において、ハロゲン化アルカリ金属化合物及びハロゲン化アルカリ土類金属化合物は、市販品、又は公知の方法により合成したものを使用することができる。市販品を使用する場合、市販品をそのまま用いてもよい。
【0037】
本発明のリビングラジカル重合触媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明のリビングラジカル重合触媒は、上記のとおりハロゲン化典型金属化合物を含む(好ましくは、ハロゲン化典型金属化合物からなる)ため、毒性が非常に少ない。また、本発明のリビングラジカル重合触媒は、非常に安価に入手することが可能であり、重合に用いる単量体の費用と比較して、実質的に無視できる程度の費用となるため、重合体の製造コストを低減することが可能である。従って、本発明のリビングラジカル重合触媒は、工業的な利用に適している。
【0039】
2.リビングラジカル重合反応
本発明の重合体の製造方法では、上記リビングラジカル重合触媒を用いて、リビングラジカル重合反応により重合体を製造することができる。以下、本発明において、「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、単量体が反応しつくした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。
【0040】
本発明の重合体の製造方法では、ラジカル重合性単量体及び有機ハロゲン化物(ドーマント種)を無溶媒又は溶媒存在下、上記リビングラジカル重合触媒と共に撹拌することによって、行うことができる。
【0041】
また、本発明の製造方法において、さらにラジカル開始剤を添加することにより、反応速度を向上させることができる。
【0042】
後述するように、上記有機ハロゲン化物(ドーマント種)は、反応系中で、アゾ系ラジカル開始剤とハロゲン分子とからの反応により生成させてもよく、この場合、ラジカル重合性単量体、アゾ系ラジカル開始剤及びハロゲン分子を無溶媒又は溶媒存在下、上記リビングラジカル重合触媒と共に撹拌すればよい。
【0043】
本発明の触媒を用いることにより、リビングラジカル重合反応における休止種(例えば、Polymer−X)からハロゲンが引き抜かれ、重合反応が進行するものと推測される。
【0044】
2.1.ラジカル重合性単量体
本発明の重合体の製造方法では、単量体として、ラジカル重合性単量体を用いる。ラジカル重合性単量体とは、有機ラジカルの存在下にラジカル重合を行い得る不飽和結合を有する単量体をいう。このような不飽和結合は二重結合であってもよく、三重結合であってもよい。すなわち、本発明の重合方法には、従来から、リビングラジカル重合を行うことが公知である任意の単量体を用いることができる。
【0045】
より具体的には、いわゆるビニル系単量体と呼ばれる単量体を用いることができる。ビニル系単量体とは、一般式(1):
CHR
1=CR
2R
3 (1)
(式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ水素原子又は有機基を示す。)
で表される単量体の総称である。なお、一般式(1)で表される単量体は、以下において、例示される単量体を包含する。
【0046】
ビニル系単量体としては、スチレン及びその誘導体(R
1及びR
2が水素原子、R
3が置換基を有していてもよいフェニル基);アクリル酸(R
1及びR
2が水素原子、R
3がカルボキシル基);アクリルアミド(R
1及びR
2が水素原子、R
3が基−CONH
2)及びその誘導体;アクリレート(アクリル酸エステル又はアクリル酸塩);メタクリル酸(R
1が水素原子、R
2がメチル基、R
3がカルボキシル基) (MAA);メタクリルアミド(R
1が水素原子、R
2がメチル基、R
3が基−CONH
2) (MAAm)及びその誘導体;メタクリレート(メタクリル酸エステル又はメタクリル酸塩)を好適に使用することができる。
【0047】
スチレン及びその誘導体の具体例としては、スチレン (St);o−、m−又はp−メトキシスチレン;o−、m−又はp−t−ブトキシスチレン;o−、m−又はp−クロロメチルスチレン;o−、m−又はp−クロロスチレン;o−、m−又はp−ヒドロキシスチレン;o−、m−又はp−スチレンスルホン酸及びその誘導体;o−、m−又はp−スチレンスルホン酸ナトリウム;o−、m−又はp−スチレンボロン酸およびその誘導体等を挙げることができる。
【0048】
アクリルアミド及びその誘導体の具体例としては、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
アクリレートの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デカニルアクリレート、ラウリルアクリレート等のアルキルアクリレート;ベンジルアクリレート等のアリールアルキルアクリレート;テトラヒドロフルフリルアクリレート;グリシジルアクリレート等のエポキシアルキルアクリレート;シクロヘキシルアクリレート等のシクロアルキルアクリレート;2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキルアクリレート;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート等のポリアルキレングリコールアクリレート;メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコールアクリレート;2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート等のジアルキルアミノアルキルアクリレート;3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等を挙げることができる。アルキルアクリレートのアルキル基にフッ素原子が置換したフルオロアルキルアクリレート、アルキルアクリレートのアルキル基にトリス(トリアルキルシロキシ)シリル基が置換した化合物も使用できる。また、2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチルアクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、2−(N−エチル−N−メチル−N−水素化アミノ)エチルアクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩等のイオン液体製のアクリレートを用いることができる。
【0050】
メタクリルアミド及びその誘導体の具体例としては、メタクリルアミド (MAAm)、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド等を挙げることができる。
【0051】
メタクリレートの具体例としては、メチルメタクリレート (MMA)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デカニルメタクリレート (LMA)、ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;ベンジルメタクリレート (BzMA)等のアリールアルキルメタクリレート;テトラヒドロフルフリルメタクリレート;グリシジルメタクリレート等のエポキシアルキルメタクリレート;シクロヘキシルメタクリレート等のシクロアルキルメタクリレート;2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート等のアルコキシアルキルメタクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート (HEMA)、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート等のヒドロキシアルキルメタクリレート;ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコールメタクリレート;メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート (PEGMA)等のアルコキシポリアルキレングリコールメタクリレート;2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート (DMAEMA)等のジアルキルアミノアルキルメタクリレート;3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート等のアルコキシシリルアルキルメタクリレート;3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート等を挙げることができる。アルキルメタクリレートのアルキル基にフッ素原子が置換した2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート(HFBMA)等のフルオロアルキルメタクリレート、アルキルメタクリレートのアルキル基にトリス(トリアルキルシロキシ)シリル基が置換した3−[[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート(MOPES)等の化合物も使用できる。また、2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチルメタクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、2−(N−エチル−N−メチル−N−水素化アミノ)エチルメタクリレート+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩、N−エチル−N−メチルピロリジニウムメタクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩等のイオン液体性のメタクリレートを用いることができる。
【0052】
本発明では、R
2及びR
3が共にカルボキシル基又はカルボキシレートを有する基である場合でも、好適に反応が進行する。具体的には、イタコン酸 (ITA)、イタコン酸ジメチル (Me
2ITA)、イタコン酸モノブチル (BuITA)等のイタコン酸、そのモノアルキルエステル及びそのジアルキルエステルを挙げることができる。
【0053】
本発明には、2つ以上の二重結合(ビニル基、イソプロペニル基等)を有する単量体も使用可能である。具体的には、例えば、ジエン系化合物(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、アリル基を2つ有する化合物(例えば、ジアリルフタレート等)、メタクリル基を2つ有する化合物(例えば、エチレングリコールジメタクリレート)、アクリル基を2つ有する化合物(例えば、エチレングリコールジアクリレート)等である。
【0054】
本発明には、上述した以外のビニル系単量体を使用することもできる。具体的には、例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル)、上記以外のスチレン誘導体(例えば、α−メチルスチレン)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール)、アクリロニトリル (AN)、メタクリロニトリル、マレイン酸及びその誘導体(例えば、無水マレイン酸)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル)、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1又は2−ブテン、1−ヘキセン、シクロヘキセン)等である。
【0055】
これらのラジカル重合性単量体は単独で使用してもよいし、また、2種以上を併用してもよい。
【0056】
本発明の触媒を用いた場合、水酸基を有する単量体であっても、好適に重合反応が進行する。また、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を2つ有する単量体においても、好適に重合反応が進行する。
【0057】
本発明において、前記ラジカル重合性単量体の使用量としては、用いる触媒の量、有機ハロゲン化物(ドーマント種)の量、目的とする重合体の分子量によって、適宜、設定すればよい。
【0058】
2.2.リビングラジカル重合触媒
本発明で用いるリビングラジカル重合触媒は上述したとおりである。
【0059】
本発明の重合体の製造方法において、リビングラジカル重合触媒の使用量は、反応速度の観点よりラジカル重合性単量体 1モルに対して、0.000125以上であることが好ましい。また、リビングラジカル重合触媒の使用量は、ラジカル重合性単量体 1モルに対して、経済的観点より1モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましく、0.02モル以下であることが特に好ましい。
【0060】
2.3.有機ハロゲン化物(ドーマント種)
本発明において、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物(ドーマント種)を添加し、この有機ハロゲン化物から成長鎖に与えられるハロゲンを保護基として用いる。このような有機ハロゲン化物は比較的安価であるので、リビングラジカル重合に用いられる保護基として用いられる公知の他の化合物に比べて有利である。また、必要に応じて、炭素以外の元素にハロゲン原子が結合した低分子ドーマント種を用いることも可能である。
【0061】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、分子中に少なくとも1個の炭素−ハロゲン結合を有しており、ドーマント種として作用するものであればよく、特に限定されるものではない。しかし、一般的には有機ハロゲン化物の1分子中にハロゲン原子が1個又は2個含まれているものが好ましい。
【0062】
ここで、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、ハロゲンが脱離して炭素ラジカルが生成した際に、炭素ラジカルが不安定であることが好ましい。従って、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物としては、ハロゲンが脱離して炭素ラジカルが生成した際に、炭素ラジカルを安定化させる置換基が2つ以上当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものは適さない。ただし、炭素ラジカルを安定化させる置換基が1つ当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものは、適度なラジカル安定性を示すことが多く、ドーマント種として使用可能である。
【0063】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子が結合した炭素原子(以下、便宜上、「有機ハロゲン化物の1位炭素原子」という)が有する水素原子は、2つ以下であることが好ましく、1つ以下であることがより好ましく、水素原子を有していないことが特に好ましい。また、有機ハロゲン化物の1位炭素原子に結合している結合しているハロゲン原子の数は、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることが特に好ましい。
【0064】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の1位炭素原子には、炭素原子が1つ以上結合していることが好ましく、炭素原子が2つ又は3つ結合していることが特に好ましい。
【0065】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子は、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、より好ましくは臭素原子又はヨウ素原子である。分子量分布を狭くするという観点から、最も好ましくはヨウ素原子である。臭素原子も好ましく使用することが可能である。臭素化合物は、一般的にヨウ素化合物に比べて安定であるため、低分子ドーマント種の保存が容易である点、及び生成ポリマーから末端ハロゲンを除去する必要性が比較的低い点が利点として挙げられる。
【0066】
また、有機ハロゲン化物中のハロゲン原子は、触媒として用いるハロゲン化典型金属化合物中のハロゲン原子と同一であってもよく、異なってもよい。異種のハロゲン原子であっても、有機ハロゲン化物と触媒のハロゲン化典型金属化合物との間で、互いにハロゲン原子を交換することが可能であるからである。ただし、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子と、触媒のハロゲン化典型金属化合物中のハロゲン原子とが同一であれば、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物と触媒のハロゲン化典型金属化合物との間でハロゲン原子の交換がより容易であるので、好ましい。
【0067】
具体的には、例えば、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、一般式(2):
CR
4R
5R
6X
1 (2)
(式中、R
4及びR
5は同一又は異なって、ハロゲン原子、水素原子、又はアルキル基である。R
6はハロゲン原子、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルカルボキシル基、又はシアノ基である。X
1はハロゲン原子である。R
6はR
4及びR
5と同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物である。
【0068】
R
4及びR
5は、好ましくは水素原子、又は低級アルキル基であり、より好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0069】
X
1は、ハロゲン原子である。好ましくは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。より好ましくは臭素原子又はヨウ素原子であり、最も好ましくはヨウ素原子である。R
4〜R
6にハロゲン原子が存在する場合、X
1はそのR
4〜R
6のハロゲン原子と同一であってもよく、異なっていてもよい。また、X
1のハロゲン原子は、触媒のハロゲン化典型金属化合物中のハロゲン原子と同じハロゲン原子とすることができるし、異なっていてもよい。
【0070】
上記R
4〜R
6及びX
1は、それぞれ、互いに独立して選択されるが、R
4〜R
6のうちにハロゲン原子が0又は1つ存在すること(即ち、有機ハロゲン化物として、化合物中に1又は2つのハロゲン原子が存在すること)が好ましい。
【0071】
好ましい実施形態では、低分子ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化置換アルキルである。より好ましくは、ハロゲン化置換アルキルである。ここで、アルキルは第2級又は第3級アルキルであることが好ましく、第3級アルキルであることがより好ましい。
【0072】
低分子ドーマント種として使用されるハロゲン化アルキル又はハロゲン化置換アルキルにおいてアルキルの炭素数は2又は3であることが好ましい。従って、低分子ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、さらに好ましくは、ハロゲン化置換エチル又はハロゲン化置換イソプロピルである。低分子ドーマント種として使用されるハロゲン化置換アルキルにおける置換基としては、例えば、フェニル基、カルボキシル基、アミド基、エステル基、又はシアノ基等のラジカルを安定化する置換基が挙げられる。
【0073】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の別の具体例としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ブロモメチル、ジブロモメタン、ブロモホルム、ブロモエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ブロモトリクロロメタン、ジクロロジブロモメタン、クロロトリブロモメタン、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、塩化イソプロピル、塩化t−ブチル、臭化イソプロピル、臭化t−ブチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t−ブチル、ブロモジクロロエタン、クロロジブロモエタン、ブロモクロロエタン、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン、2−ヨード−2−ポリエチレングリコシルプロパン、2−ヨード−2−アミジノプロパン、2−ヨード−2−シアノブタン、2−ヨード−2−シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−シアノ−4−メチル−4−メトキシペンタン、4−ヨード−4−シアノペンタン酸、メチル 2−ヨードイソブチレート、2−ヨード−2−メチルプロパンアミド、2−ヨード−2,4−ジメチルペンタン、2−ヨード−2−シアノブタノール、2−ヨード−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド 4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド 4−メチルペンタン、2−ヨード−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、2−ヨード−2−(2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、ヨードベンジルシアニド(PhCN−I)、エチル 2−ヨードフェニルアセテート(PhE−I)、ジエチル 2−ヨード−2−メチルマロネート(EEMA−I)、2−ヨード−2−シアノプロパン(CP−I)、1−ヨード−1−シアノエタン(CE−I)、1−ヨード−1−フェニルエタン(PE−I)、エチル 2−ヨードイソブチレート(EMA−I)、エチル 2−ヨードヴァレレート(EPA−I)、エチル 2−ヨードプロピオネート(EA−I)、エチル 2−ヨードアセテート(E−I)、2−ヨードイソ酪酸(MAA−I)、ヒドロキシエチル 2−ヨードイソブチレート(HEMA−I)、2−ヨードプロピオン酸アミド(AAm−I)、エチレングリコール ビス(2−ヨードイソブチレート)(EMA−II)、ジエチル 2,5−ジヨードアジペート(EA−II)、グリセロール トリス(2−ヨードイソブチレート)(EMA−III)、6−(2−ヨード−2−イソブチロキシ)ヘキシルトリエトキシシラン(IHE)等が挙げられる。これらのハロゲン化物は単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0074】
低分子ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の好ましい具体例としては、例えば、PhCN−I、PhE−I、EEMA−I、CP−I、CE−I、PE−I、EMA−I、EPA−I、EA−I、E−I、MAA−I、HEMA−I、AAm−I、EMA−II、EA−II、EMA−III、又はIHE等が挙げられる。以下にこれらの構造式を示す。
【0076】
本発明の方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、溶媒として使用されるものではないので、溶媒としての効果を奏する程、大量に用いる必要はない。従って、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の使用量は、いわゆる「溶媒量」(即ち、溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。
【0077】
本発明の方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、上述した通り、成長鎖にハロゲンを保護基として提供するために使用されるため、反応系中の成長鎖に充分な量のハロゲンを提供できれば充分である。具体的には、例えば、本発明の方法においてドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の触媒に対する使用量は、重合反応系中における触媒としてのハロゲン化典型金属化合物 1モル当たり0.001モル以上であることが好ましく、0.01モル以上であることがより好ましく、0.03モル以上であることが特に好ましい。また、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、重合系中における触媒としてのハロゲン化典型金属化合物 1モル当たり1000モル以下であることが好ましく、300モル以下であることがより好ましく、100モル以下であることが特に好ましい。
【0078】
さらに、本発明の方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のラジカル重合性単量体(モノマー)に対する使用量は、目的とするポリマー鎖の長さによって適宜設定することができる。一般的には、例えば、ラジカル重合性単量体(モノマー) 1モル当たり 0.0001モル以上である。また、例えば、ラジカル重合性単量体(モノマー) 1モル当たり1モル以下である。
【0079】
前記ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、その多くの化合物が公知化合物であり、試薬販売会社等から市販されている試薬等をそのまま用いることが可能である。または、従来公知の合成方法を用いて合成してもよい。
【0080】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、その原料を仕込み、有機ハロゲン化物をin situ(即ち、反応溶液中)で生成させ、それをこの重合法の有機ハロゲン化物として使用することもできる。例えば、後述するアゾ系ラジカル開始剤(例えば、アゾビス(イソブチロニトリル))とハロゲン分子(例えば、ヨウ素分子(I
2))とを原料として仕込み、その両者の反応により有機ハロゲン化物(例えば、ヨウ化アルキルであるCP−I)をin situで生成させ、それをこの重合法のドーマント種として使用することができる。
【0081】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物としては、無機又は有機固体表面や、無機又は有機分子表面等の表面に固体化したものを使用することもできる。例えば、シリコン基板表面、高分子膜表面、無機又は有機微粒子表面、顔料表面等に固定化した有機ハロゲン化物を使用することができる。固定化には、例えば、化学結合や物理結合等が利用できる。
【0082】
また、ドーマント種としては、ハロゲン化アルキル部位を複数有する化合物を用いることもできる。ハロゲン化アルキル部位を2つ有する化合物からは、例えば、2種類のモノマーAとモノマーBのブロック共重合を行うと、BAB型のトリブロック共重合体が合成できる。さらに、ハロゲン化アルキル部位を複数有する化合物としては、有機化合物中のアルキルにハロゲンが結合した構造を有する化合物を好ましく使用できるが、必要に応じて、無機化合物に複数のハロゲン化アルキル部位が結合した構造を有する化合物を使用することもできる。ハロゲン化アルキル部位を複数有する化合物は分子量の低い化合物であってもよく、分子量の高い化合物であってもよい。即ち、高分子又は超分子の化合物を使用することもできる。また、ハロゲン化アルキル部位を複数有する化合物として、反応溶液中に溶解しない化合物を、固体のまま用いて、その固体表面から高分子鎖を成長させることもできる。このように、ハロゲン化アルキル部位を複数有する化合物として、多様な構造を有する化合物を使用することが可能である。そして、多様な構造を有する化合物を使用することにより、星型、くし型、表面グラフト化型等の多様な分岐高分子を合成できる。
【0083】
また、ハロゲン化アルキル部位を末端に持った高分子化合物を用いてブロック共重合体を合成することもできる。この方法によれば、例えば、リビングラジカル重合以外の方法で合成された高分子と、リビングラジカル重合で合成された高分子のブロック共重合体も合成できる。
【0084】
2.4.ラジカル開始剤
本発明の方法において、必要に応じて、ラジカル開始剤を少量添加することで、重合反応の促進を図ることができる。ラジカル開始剤を使用すれば、反応溶液中のラジカルの量が増えるため、重合速度を上昇させることができると推測される。
【0085】
ラジカル開始剤としては、ラジカル反応に使用する公知のラジカル開始剤を使用することができる。例えば、アゾ系ラジカル開始剤、過酸化物系ラジカル開始剤等が挙げられる。アゾ系ラジカル開始剤の具体例としては、アゾビス(イソブチロニトリル) (AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) (V65)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル) (V70)ジメチル 2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート) (V601)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル) (V59)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) (V40)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド] (VF096)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド) (VAm110)が挙げられる。過酸化物系ラジカル開始剤の具体例としてはベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート (BPB)、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネート (PERKADOX16)、過酸化二硫酸カリウムが挙げられる。
【0086】
ラジカル開始剤の使用量は、特に限定されないが、反応液 1リットルに対して、500ミリモル以下であることが好ましい。
【0087】
2.5.ポリエーテル化合物
本発明の製造方法において、必要に応じて、ポリエーテル化合物を添加することが好ましい。ポリエーテル化合物を添加することにより、本発明の触媒によるリビングラジカル重合反応を促進することができる。ポリエーテル化合物が本発明のリビングラジカル重合反応を促進する理由としては、ポリエーテル化合物が本発明の触媒が含むアルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンを一時的に補足する機能を有しているためであると推測される。
【0088】
このようなポリエーテル化合物としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル (メチルジグライム;DMDG)、ジエチレングリコールジエチルエーテル (エチルジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル (メチルトリグライム)、トリエチレングリコールジエチルエーテル (エチルトリグライム)等のジアルコキシポリアルキレングリコール;12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6等のクラウンエーテル等が挙げられる。クラウンエーテルは、触媒に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の種類により、適した環を有するクラウンエーテルを選択でき、例えば、リチウムでは12−クラウン−4、ナトリウムでは15−クラウン−5、カリウムでは18−クラウン−6を選択すればよい。中でも、安価に入手可能な点で、ジエチレングリコールジメチルエーテル (メチルジグライム;DMDG)、ジエチレングリコールジエチルエーテル (エチルジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル (メチルトリグライム)、トリエチレングリコールジエチルエーテル (エチルトリグライム)等が好ましい。
【0089】
前記ポリエーテル化合物は、少量添加しても、溶媒量添加してもよい。前記ポリエーテル化合物を溶媒量添加する場合、ポリエーテル化合物を後述する溶媒に代えて用いてもよい。具体的なポリエーテル化合物の使用量の上限は、溶媒量で用いることもでき、例えば、ラジカル重合性単量体 100重量部に対して、10000重量部以下とすることが好ましく、2000重量部以下とすることがより好ましく、1000重量部以下とすることがさらに好ましく、500重量部以下とすることが特に好ましい。ポリエーテル化合物の使用量の下限は、特に限定されないが、例えば、使用する触媒に含まれるアルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子 1モルに対して、1モル以上が好ましい。
【0090】
2.6.溶媒
ラジカル重合性単量体等が反応温度において固体である等、反応混合物が溶液にならない場合、必要に応じて、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、従来、リビングラジカル重合に用いられていた溶媒をそのまま使用することが可能である。具体的には、水;エタノール等のアルコール;エチレンカーボネート (EC)等のカーボネート;酢酸ブチル等のエステル;N,N−ジメチル 2−メトキシエチルアミド (DMMEA)、ジメチルホルアミド (DMF)等のアミド等を例示することができる。また、上述したポリエーテル化合物を溶媒として用いてもよい。
【0091】
溶媒を用いる場合には、その使用量は重合反応が適切に行われる限り、特に限定されない。しかしながら、反応溶液の粘度が高くなり、反応溶液が攪拌できなくなることを防ぐ点で、溶媒を用いる場合、ラジカル重合性単量体 100重量部に対して、1重量部以上用いることが好ましく、10重量部以上用いることが好ましく、50重量部以上用いることがさらに好ましい。また、反応溶液のラジカル重合性単量体濃度が薄くなり、反応速度が低下することを防ぐ点で、ラジカル重合性単量体 100重量部に対して、10000重量部以下とすることが好ましく、2000重量部以下とすることがより好ましく、1000重量部以下とすることがさらに好ましく、500重量部以下とすることが特に好ましい。
【0092】
上記溶媒は、ラジカル重合性単量体と混ざり合う溶媒であっても、混ざり合わない溶媒であってもよい。ラジカル重合性単量体と混ざり合う溶媒を用いることにより、均一な溶媒系において重合反応を行うことができる。モノマーと混ざり合わない溶媒を用いることにより、乳化重合や、分散重合、懸濁重合を行うこともできる。例えば、スチレンやメタクリレートをモノマーとした場合、水を溶媒とすることで、乳化重合や分散重合、懸濁重合を行うことができる。
【0093】
2.7.その他の添加剤
上述したリビングラジカル重合のための各種材料には、必要に応じて公知の添加剤等を必要量添加してもよい。そのような添加剤としては、重合抑制剤等が挙げられる。
【0094】
2.8.反応条件
本発明の方法における反応温度は、リビングラジカル重合反応が進行する限り特に限定されない。例えば、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、40℃以上であることがいっそう好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。また、130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましく、105℃以下であることがいっそう好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。
【0095】
反応温度を130℃以下とすることで、生成するポリマーの分子量が目的よりも低くなりすぎることを防ぎ、加熱するための設備コストや運用コストを軽減することもできる。また、反応温度を10℃以上とすることで、反応混合物の準備及び保管を室温に近い温度において行うことができる。これらの観点から、反応温度は室温より少し高く、かつ、過度に高すぎない範囲(例えば、30℃以上100℃以下)であれば、実用的な意味において非常に好ましい。
【0096】
本発明においては、このように比較的低い温度で反応を行うことが可能である。上述のように低い温度(特に80℃以下)で反応を行うことにより、副反応であるドーマント種末端からのヨウ素脱離を抑制しながら反応を行うことができるので、分子量の高いポリマーを合成するのに非常に有利である。
【0097】
本発明の方法における反応時間は特に限定されず、目的とする重合体の分子量や触媒量によって適宜設定すればよい。一般的には、例えば、15分以上であることが好ましく、30分以上であることが好ましく、1時間以上であることがさらに好ましい。また、反応時間の上限は特に限定されないが、一般的には、運用効率の点において、5日以下であることが好ましく、3日以下であることが好ましく、2日以下であることが好ましく、1日以下であることが特に好ましい。
【0098】
本発明の方法では、重合反応は空気が存在する条件下で行ってもよい。また、必要に応じて窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で反応を行ってもよい。
【0099】
本発明の方法で製造されるポリマーは、単独重合体(ホモポリマー)であっても、共重合体(コポリマー、ターポリマー等)であってもよい。また、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよい。
【0100】
本発明の方法により、ブロック共重合体を製造する場合、各ブロックのモノマーを順次重合することで所望のブロック共重合体を製造することができる。
【0101】
例えば、2種類のブロックからなるブロック共重合体の場合、例えば、第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程とを包含する方法によりブロック共重合体を得ることができる。この場合、いずれか一方のブロックを重合する際に、他の方法を用いてもよいが、第1のブロックを重合する工程及び第2のブロックを重合する工程の双方に本発明の方法を用いることが好ましい。より具体的には、第1のブロックを重合した後、得られた第1のブロックポリマーの存在下に、第2のブロックの重合を行うことにより、2種のブロックからなるブロック共重合体を製造することができる。第1のブロックポリマーは、単離精製した後に、第2のブロックの重合に供することもでき、また第1のブロックポリマーを単離精製せずに、第1のブロックポリマーの重合途中又は完結後に、第1の重合を行った反応系に第2のモノマーを添加することにより、第2のブロックの重合に供することもできる。
【0102】
3種類以上のブロックを有するブロック共重合体を製造する場合も、2種類以上のブロックが結合した共重合体を製造する場合と同様に、それぞれのブロックを重合する工程を順次行うことで、所望の共重合体を得ることができる。そして、全てのブロックの重合において、本発明の方法を用いることが好ましい。
【0103】
ドーマント種として、ハロゲン化アルキル部位を複数有する化合物を用いることもできる。ハロゲン化アルキル部位を2つ有する化合物からは、例えば、モノマーAとモノマーBのブロック共重合を行うと、BABのトリブロック共重合体が合成できる。さらに、ハロゲン化アルキル部位を複数有する無機/有機の低分子/高分子/超分子/固体からは、星型、くし型、表面グラフト化型等の多様な分岐高分子を合成することもできる。
【0104】
また、ハロゲン化アルキル部位を末端に持った高分子化合物から、ブロック共重合体が合成できる。これにより、例えば、リビングラジカル重合以外の方法で合成された高分子と、リビングラジカル重合で合成された高分子のブロック共重合体も合成できる。
【0105】
3.重合体(ポリマー)
本発明の方法により製造された重合体は、その末端にハロゲン原子(例えば、ヨウ素)を有する。そのため、必要に応じて、末端のハロゲンを除去して、重合体として使用することができる。また、末端のハロゲン原子を公知の反応又はそれと類似する反応により、他の官能基に変換することで、新たな機能を付与することもできる。末端のハロゲンの反応性は、一般的に高いため、様々な反応によりその除去や変換ができる。例えば、Handbook of Radical Polymerization; Wiley & Sona: New York, 2002に記載された反応が挙げられる。末端のハロゲン原子がヨウ素である場合の重合体末端の処理方法の例を以下のスキームにて示す。これらのスキームに示す反応等により、重合体末端を利用することができる。重合体末端のハロゲン原子がヨウ素以外の場合も、同様に重合体末端を官能基に変換することができる。
【0107】
上述した本発明の触媒及び重合体の製造方法に依れば、分子量分布の狭い重合体が得られる。例えば、反応材料の配合や反応条件を適切に選択することにより、重合平均分子量Mwと数平均分子量との比(Mw/Mn)が1.5以下の重合体を得ることが可能であり、さらに反応材料配合及び反応条件を適切に選択することにより、Mw/Mnが1.4以下、1.3以下、1.2以下、さらには、1.1以下の重合体を得ることが可能となる。
【0108】
本発明の製造方法により得られる重合体の分子量(数平均分子量、重量平均分子量)は特に限定されず、目的に応じて適宜反応条件を設定することで所望の分子量(数平均分子量、重量平均分子量)に近い重合体を得ることができる。
【0109】
本発明の触媒及び重合体の製造方法によって得られる重合体は、各種用途に使用可能である。例えば、従来より、重合体が用いられているレジスト、接着剤、潤滑剤、塗料、インク、分散剤、包装材、薬剤、パーソナルケア製品(整髪料、化粧品等)、エラストマー(自動車材料、工業用品、スポーツ用品、電線被覆材、建築資材等)、コーティング(粉体塗装等)等の生産に使用可能である。また、新しい電子・光学・力学・結晶・分離・潤滑・医療材料の創成に利用しうる。
【0110】
本発明の触媒及び重合体の製造方法によって得られる重合体は、また、ポリマー中に残存する触媒量が少ないという点においても各種用途に有利に使用可能である。即ち、従来の遷移金属系の触媒等に比べて触媒量が少なくすることが可能であるため、得られる樹脂の純度が高くなり、高純度の樹脂が必要とされる用途に適している。触媒残渣は、用途に応じて生成したポリマーから除去してもよいし、除去しなくてもよい。特に本発明の触媒は、ハロゲン化典型金属化合物であるため、毒性等が低く、除去する必要性は極めて低い。
【0111】
各種用途に応じて、ポリマーは成形されたり、溶媒又は分散媒に溶解又は分散させることがあるが、成形された後のポリマー、若しくは溶解又は分散された後のポリマーも本発明の利点を維持しているものであり、依然として本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーの範囲に包含されるものである。
【0112】
本発明の製造方法を用いて合成した重合体は分子量分布が狭く、重合体中の残存触媒量が少なく、コストが安いという利点を生かして、様々な用途に利用可能である。
【0113】
本発明の触媒は、ハロゲン化典型金属化合物を含有しており、ラジカル重合反応の成長末端の可逆的活性化を触媒できる
【実施例】
【0114】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0115】
なお、以下の実施例及び比較例において、下記モノマー化合物についてそれぞれ略称を用いた。
【0116】
【化3】
【0117】
【化4】
【0118】
溶媒又はポリエーテル化合物として、以下の略称を用いた。
DMDG:ジエチレングリコールジメチルエーテル
EC:エチレンカーボネート
DMMEA:N,N−ジメチル 2−メトキシエチルアミド
DMF:ジメチルホルアミド
なお、溶媒又はポリエーテル化合物の使用量は、別段の記載がない限り、ラジカル重合性単量体に対する重量比で記載した。
【0119】
以下の実施例において、ラジカル開始剤及び有機ハロゲン化物に用いた略称は上述のとおりである。触媒は、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製、純度:99.9%)、ヨウ化カリウム(ナカライテスク社製、純度:99.5%)、ヨウ化セシウム(和光純薬社製、純度:95%)、ヨウ化マグネシウム(アルドリッチ社製、純度:98%)、及びヨウ化カルシウム(アルドリッチ社製、純度:99%)を用いた。
【0120】
また、分子量分布指数(PDI)は、
PDI=Mw/Mn
により示される数値である。ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量であり、それぞれゲル浸透クロマトグラフィ(GPC;Shodex社製GPC−101)を用い、テトラヒドロフラン(THF)またはジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液として求めた値である。なお、MMAの単独重合では、標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量、Stの単独重合では、標準ポリスチレン(PSt)換算分子量、他の重合では、多角光散乱(MALLS)検出器を併用して決定した分子量をそれぞれ重量平均分子量、数平均分子量とした。
【0121】
実施例において、別段の記載がない限り、各試薬のモル比は、MMA 1Lの室温でのモル数である8000mmolより、ラジカル重合性単量体の使用量(ランダム共重合の場合、その総量)を8000で統一して、各試薬のモル比を記載した。
【0122】
その他、以下の表及び図等において、以下の表記を用いている。
[M]
0:重合性単量体の初期濃度
[R−X]
0:有機ハロゲン化物の初期濃度
[X
2]
0:ハロゲン分子の初期濃度
Mn,theoは、以下の数式で定義されるように、ラジカル重合性単量体の初期濃度、ドーマント種の初期濃度、ラジカル重合性単量体の分子量及び重合率(ラジカル重合性単量体の転化率;conversion)より求められる理論値である。
【0123】
Mn,theo=([M]
0/[R-X]
0)×(ラジカル重合性単量体の分子量)×(重合率)/100
なお、式中[M]
0及び[R-X]
0は上述のとおりである。沃素等のハロゲン(X
2)とラジカル開始剤とを用いて、系中にて、有機ハロゲン化物(R−X)を発生させる場合、発生する有機ハロゲン化物の理論量濃度(即ち、2×[X
2]
0)を[R−X]
0としてMn,theoを求めた。
【0124】
実施例1
ドーマント種となるハロゲン化アルキルとして、2−ヨード−2−シアノプロパン (CP−I)を用いた。触媒として、ヨウ化ナトリウムを用いた。これらの材料をMMA 3gに溶解した。使用したMMA、CP−I及びヨウ化ナトリウムのモル比は、8000:80:80であった。その後、MMAに対して50重量%のジエチレングリコールジメチルエーテル (DMDG)を溶媒として加えて希釈した。溶解時の反応溶液は均一であった。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を80℃に加熱することにより重合反応を行った。反応時間は、120分間又は300分間であった。実験結果を表1に示す。
【0125】
実施例2〜12
モノマー、触媒、溶媒又はポリエーテル化合物、試薬の使用量、温度、及び反応時間を下記表1に記載のものとした以外は、実施例1と同様の方法により重合反応を行った。実験結果を表1に示す。実施例6では、ヨウ化ナトリウム 1モルに対して1モルの15crown-5をポリエーテル化合物として用いた。
【0126】
【表1】
【0127】
実施例13
ドーマント種となるハロゲン化アルキルとして、2−ヨード−2−シアノプロパン (CP−I)を用いた。触媒として、ヨウ化ナトリウムを用いた。さらに、ラジカル開始剤として、V65(和光純薬社製)を用いた。これらの材料をMMA 3gに溶解した。使用したMMA、CP−I、V65及びヨウ化ナトリウムのモル比は、8000:80:10:10であった。その後、MMAに対して10重量%のジエチレングリコールジメチルエーテル (DMDG)を溶媒として加えて希釈した。溶解時の反応溶液は均一であった。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を60℃に加熱することにより重合反応を行った。反応時間は、120分間又は300分間であった。実験結果を表2に示す。
【0128】
実施例14〜35
モノマー、触媒、ラジカル開始剤、溶媒又はポリエーテル化合物、試薬の使用量、温度、及び反応時間を下記表2及び3に記載のものとした以外は、実施例13と同様の方法により重合反応を行った。なお、実施例35は、2種のモノマーを用いたランダム共重合である。2種以上のモノマーを使用する場合、その使用割合はモノマー欄にモル比で示した。実験結果を表2及び表3に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
実施例36
ドーマント種となるハロゲン化アルキルとして、エチレングリコール ビス(2−ヨードイソブチレート) (EMA−II)を用いた。触媒として、ヨウ化ナトリウムを用いた。さらに、ラジカル開始剤として、V65を用いた。これらの材料をMMA 3gに溶解した。使用したMMA、EMA−II、V65及び触媒のモル比は、8000:80:20:80であった。その後、MMAに対して50重量%のジエチレングリコールジメチルエーテル (DMDG)を溶媒として加えて希釈した。溶解時の反応溶液は均一であった。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を60℃に加熱することにより重合反応を行った。反応時間は、120分間又は300分間であった。実験結果を表4に示す。
【0132】
実施例37〜38
モノマー、触媒、ラジカル開始剤、溶媒、試薬の使用量、温度及び反応時間を下記表4に記載のものとした以外は、実施例36と同様の方法により重合反応を行った。実験結果を表4に示す。
【0133】
実施例39
ドーマント種となるハロゲン化アルキルとして、EMA−IIを用いた。触媒として、ヨウ化ナトリウムを用いた。さらに、ラジカル開始剤として、AIBNを用いた。これらの材料をLMA 3gに溶解した。使用したLMA、EMA−II、AIBN及び触媒のモル比は、8000:40:15:80であった。その後、LMAに対して40重量%のN,N−ジメチル 2−メトキシエチルアミド (DMMEA)を溶媒として加えて希釈した。溶解時の反応溶液は均一であった。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を70℃に加熱し、360分間反応させた。その後、精製をせずに、さらに、MMA 1.31g、AIBN (MMA 8000mmolに対して10mmol)、DMMEA(MMAに対して重量基準で40重量%)を添加し、さらに70℃に加熱し、240分間反応を行った。実験結果を表4に示す。なお、表中、上段は第1ブロックの重合で用いた試薬、下段は第2ブロックの重合においてさらに添加した試薬を示す。このようにして、LMAとMMAのブロック共重合体を得た。
【0134】
【表4】
【0135】
実施例40
ハロゲンとしてヨウ素(I
2)を用い、ラジカル開始剤としてV70(和光純薬社製)を用いた。触媒として、ヨウ化ナトリウムを用いた。これらの材料をMMA 3gに溶解した。使用したMMA、ヨウ素、V70及び触媒のモル比は、8000:40:70:10であった。その後、MMAに対して10重量%のDMDGを溶媒として加えて希釈した。溶解時の反応溶液は均一であった。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を65℃に加熱することにより重合反応を行った。反応時間は、120分間又は300分間であった。実験結果を表5に示す。
【0136】
実施例41〜66
モノマー、触媒、ラジカル開始剤、溶媒、試薬の使用量、温度及び反応時間を下記表5及び表6に記載のものとした以外は、実施例40と同様の方法により重合反応を行った。なお、実施例61から66は、2種のモノマーを用いたランダム共重合である。2種以上のモノマー、又はラジカル開始剤を使用する場合、その使用割合はモノマー欄又はラジカル開始剤の欄にモル比で示した。実験結果を表5及び表6に示す。
【0137】
【表5】
【0138】
【表6】
【0139】
以上の実施例を元に、ジエチレングリコールジエチルエーテル (DMDG)の使用量が10%及び50%の場合において、それぞれ「反応時間」対「ln([M]
0/[M])」、「重合率」対「Mw/Mn」、「重合率」対「Mn/1000」をプロットし、
図1に示す。
【0140】
以上の実施例を元に、ラジカル重合性単量体8000mmolに対する触媒の使用量が5mmol、10mmol及び80mmolの場合において、それぞれ「反応時間」対「ln([M]
0/[M])」、「重合率」対「Mw/Mn」、「重合率」対「Mn/1000」をプロットし、
図2に示す。
【0141】
以上の実施例を元に、ラジカル重合性単量体8000mmolに対するラジカル開始剤(V65)の使用量が5mmol及び10mmolの場合において、それぞれ「反応時間」対「ln([M]
0/[M])」、「重合率」対「Mw/Mn」、「重合率」対「Mn/1000」をプロットし、
図3に示す。
【0142】
実施例67〜72
モノマー、触媒、溶媒又はポリエーテル化合物、試薬の使用量、温度、及び反応時間を下記表7に記載のものとした以外は、実施例1と同様の方法により重合反応を行った。実験結果を表7に示す。実施例69〜72では、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウム 1モルに対して1モルのクラウンエーテルをポリエーテル化合物として用いた。
【0143】
【表7】
【0144】
実施例73〜78
モノマー、触媒、ラジカル開始剤、溶媒又はポリエーテル化合物、試薬の使用量、温度、及び反応時間を下記表8に記載のものとした以外は、実施例13と同様の方法により重合反応を行った。実験結果を表8に示す。
【0145】
【表8】
【0146】
実施例79〜82
モノマー、触媒、ラジカル開始剤、溶媒、試薬の使用量、温度及び反応時間を下記表9に記載のものとした以外は、実施例40と同様の方法により重合反応を行った。なお、2種以上のラジカル開始剤を使用する場合、その使用割合はラジカル開始剤の欄にモル比で示した。実験結果を表9に示す。
【0147】
【表9】