特許第6552980号(P6552980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6552980
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】過巻防止装置付きクレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/88 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   B66C23/88 Q
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-30001(P2016-30001)
(22)【出願日】2016年2月19日
(65)【公開番号】特開2017-145132(P2017-145132A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 和久
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−281283(JP,A)
【文献】 実開平05−075278(JP,U)
【文献】 特開2008−001443(JP,A)
【文献】 特開平08−012256(JP,A)
【文献】 特開2005−194086(JP,A)
【文献】 実開昭63−180694(JP,U)
【文献】 米国特許第05143232(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 19/00─23/94
B66C 13/00─15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体に旋回可能に旋回体が設けられ、前記旋回体にジブが起伏可能に設けられ、前記ジブから吊持されるフックが昇降する過巻防止装置付きクレーンにおいて、
前記フックがジブ先端に所定距離までに近づいたときにフック巻上動作を停止する第1の自動停止制御部と、
前記ジブがジブ過巻角度に達したときにジブ起立動作を停止する第2の自動停止制御部と、
前記ジブがジブ第2過巻角度(>ジブ過巻角度)に達したときに前記ジブ起立動作と前記フック巻上動作を停止する第3の自動停止制御部と、
前記ジブの角度と前記ジブの起伏ロープ張力とに基づいて動作停止条件を判定したとき、前記ジブ起立動作と前記フック巻上動作を停止する第4の自動停止制御部とを備えることを特徴とする過巻防止装置付きクレーン。
【請求項2】
走行体に旋回可能に旋回体が設けられ、前記旋回体にジブが起伏可能に設けられ、前記ジブから吊持されるフックが昇降する過巻防止装置付きクレーンにおいて、
巻上ロープを繰り出し繰り込んで前記フックを昇降させる巻上装置と、
前記ジブの起伏ロープを繰り出し繰り込んで前記ジブを起伏させる起伏装置と、
起伏ロープ張力を検出するロープ張力検出器と、
ジブ角度を検出する角度検出器と、
前記角度検出器で検出されたジブ角度、および前記ロープ張力検出器で検出された起伏ロープ張力に基づいて、動作停止条件が成立したか否かを判定し、前記動作停止条件が成立したと判定すると、前記巻上装置による吊荷の巻上動作と前記起伏装置による前記ジブの起立動作を停止させる信号を出力する演算部とを備えることを特徴とする過巻防止装置付きクレーン。
【請求項3】
請求項2に記載の過巻防止装置付きクレーンにおいて、
前記演算部は、前記角度検出器で検出されたジブ角度に対する前記ロープ張力検出器で検出された起伏ロープ張力の変化率が所定値以上のとき、前記動作停止条件が成立したと判定して、前記巻上装置による吊荷の巻上動作と前記起伏装置による前記ジブの起立動作を停止させる信号を出力することを特徴とする過巻防止装置付きクレーン。
【請求項4】
請求項2に記載の過巻防止装置付きクレーンにおいて、
前記ジブの背面側に設けられ、前記ジブ角度が第1角度になると圧縮を開始し、第2角度になると密着するバネを備えたバックストップを有し、
前記演算部は、前記ジブ角度が第1角度に達するまでは、前記角度検出器で検出されたジブ角度に対する前記ロープ張力検出器で検出された起伏ロープ張力の変化率が正であるときに前記動作停止条件が成立したと判定して、前記巻上装置による吊荷の巻上動作と前記起伏装置による前記ジブの起立動作を停止させる信号を出力することを特徴とする過巻防止装置付きクレーン。
【請求項5】
請求項2に記載の過巻防止装置付きクレーンにおいて、
前記ジブの背面側に設けられ、前記ジブの角度が第1角度になると圧縮を開始し、第2角度になると密着するバネを備えたバックストップを有し、
前記演算部は、前記ジブ角度が第1角度から第2角度までの角度範囲においては、前記ジブ角度に対する前記起伏ロープ張力の変化率が負のときに前記動作停止条件が成立したと判定して、前記巻上装置による吊荷の巻上動作と前記起伏装置による前記ジブの起立動作を停止させる信号を出力することを特徴とする過巻防止装置付きクレーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過巻防止装置付きクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
上部旋回体にジブを起伏動可能に設けたクローラクレーンでは、ジブの背面と上部旋回体との間にはバックストップが設けられ、機械的にジブが過剰に俯仰することを阻止している。バックストップは、内筒を外筒に挿通して伸縮可能な構造であり、内筒の基端側には圧縮コイルバネが嵌挿されている。ジブが所定角度を超えて俯仰すると、外筒の基端部が圧縮コイルバネと当接し、ジブ角度が大きくなるに従い圧縮コイルバネが圧縮される。
【0003】
上部旋回体には、ジブフット近傍にジブ過巻スイッチが設けられ、ジブがジブ過巻角度θ1まで起立するとジブ過巻スイッチが閉成して、ジブ起立動作を停止するようにしている。また、この種のクローラクレーンにはフック過巻装置が搭載されており、フックがジブ先端に接近するとフック巻上動作を停止するようにしている。
フック過巻装置が故障しているとき、上記ジブ過巻スイッチが閉成してジブ起立動作が停止しても、オペレータが誤ってフックを引き続き巻き上げていきフックがジブ先端に引っ掛かると、フック巻上によりジブ角度がさらに増加する。このような状況下では、圧縮コイルバネの収縮量が所定以上になると、換言すると、ジブ角度がジブ第2過巻角度、たとえば81.5度以上になるとジブ第2過巻スイッチが閉成されて巻上動作を停止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平7−24385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したジブ過巻スイッチとジブ第2過巻スイッチの点検は、ジブを実際に所定角度以上に俯仰させて行われる。この作業はジブを限界角度まで起立させる必要があり、周囲に民家が密集しているような現場では慎重な作業とせざるを得ず、毎日の点検が行われないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の第1の態様によれば、走行体に旋回可能に旋回体が設けられ、旋回体にジブが起伏可能に設けられ、ジブから吊持されるフックが昇降する過巻防止装置付きクレーンは、フックがジブ先端に所定距離までに近づいたときにフック巻上動作を停止する第1の自動停止制御部と、ジブがジブ過巻角度に達したときにジブ起立動作を停止する第2の自動停止制御部と、ジブがジブ第2過巻角度(>ジブ過巻角度)に達したときにジブ起立動作とフック巻上動作を停止する第3の自動停止制御部と、ジブ角度とジブの起伏ロープ張力とに基づいて動作停止条件を判定したとき、ジブ起立動作とフック巻上動作を停止する第4の自動停止制御部とを備える。
(2)本発明の第2の態様によれば、走行体に旋回可能に旋回体が設けられ、旋回体にジブが起伏可能に設けられ、ジブから吊持されるフックが昇降するクレーンは、巻上ロープを繰り出し繰り込んでフックを昇降させる巻上装置と、ジブの起伏ロープを繰り出し繰り込んでジブを起伏させる起伏装置と、起伏ロープ張力を検出するロープ張力検出器と、ジブ角度を検出する角度検出器と、角度検出器で検出されたジブ角度、およびロープ張力検出器で検出された起伏ロープ張力に基づいて動作停止条件が成立したか否かを判定し、動作停止条件が成立したと判定すると、巻上装置による吊荷の巻上動作と起伏装置によるジブの起立動作を停止させる信号を出力する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1の態様の過巻防止装置付きクレーンによれば、第4の自動停止制御部を有するので、第1の自動停止制御部と第3の自動停止制御部がともに働かないときでも、第4自動停止制御部により、ジブが後方に倒れ込むことを防止できる。
本発明の第2の態様の過巻防止装置付きクレーンによれば、ジブ角度の検出値、および起伏ロープ張力の検出値によりフック巻上動作とジブ起立動作を停止することができるので、フック過巻き装置とジブ第2過巻装置がともに故障していても、ジブを後方に倒す事態を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の過巻防止装置付きクレーンの一実施の形態であるクローラクレーンを示す図。
図2】一実施の形態のバックストップを説明する斜視図。
図3】一実施の形態の制御ブロック図。
図4】ジブ角度θに対する起伏ロープ張力Pの特性線図。
図5】第1〜第4の自動停止機能を説明する表。
図6】第1〜第4の自動停止機能を実現するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態の概要)
本発明の一実施の形態の過巻防止装置付きクレーンは次の4つの自動停止機能を有している.
第1の自動停止機能は、フックがジブ先端に所定距離までに近づいたときにフック巻上動作を停止する機能である。
第2の自動停止機能は、ジブが過巻角度θ1に達したときにジブ起立動作を停止する機能である。
第3の自動停止機能は、ジブがジブ第2過巻角度θ2(>θ1)に達したときにジブ起立動作とフックの巻上動作を停止する機能である。
第4の自動停止機能は、ジブ角度とジブ起伏ロープ張力の各検出値に基づいて動作停止条件の成立が判定されたとき、ジブ起立動作とフックの巻上動作を停止する機能である。
第1〜第3の自動停止機能は従来から搭載されている機能であり、第4の自動停止機能が実施の形態のクレーンで新たに付加した機能である。
以下、図1図6を参照して本発明によるクレーンの実施の形態について説明する。
【0010】
(全体構成)
図1は本発明が適用される油圧式クローラクレーンの側面図である。クローラクレーンは、走行体1と、走行体1上に旋回可能に搭載された旋回体2と、旋回体2に起伏可能に軸支されたジブ6とを有する。
ジブ6は、旋回体2のジブ取付部にジブフットピンで軸支されたロアジブ6Aと、ロアジブ6Aの上端部に連結された中間ジブ6Bと、中間ジブ6Bの上端部に連結されたアッパジブ6Cとにより構成されている。
旋回体2には巻上ドラム3と起伏ドラム4が搭載されている。巻上巻下操作指令に基づく巻上ドラム3の駆動により巻上ロープ7が巻き取りまたは繰り出され、フック5に吊り下げられた吊り荷Wが昇降する。また、ジブ起伏操作指令に基づく起伏ドラム4の駆動により起伏ロープ8が巻き取りまたは繰り出され、ジブ6が起伏する。
【0011】
実施の形態のクローラクレーンでは、運転席の操作レバーが操作されると操作方向と操作量に応じたパイロット操作圧力信号が発生し、このパイロット操作圧信号によりコントロールバルブが切り替えられる。油圧ポンプから吐出される圧油はコントロールバルブによりその流れが制御され、巻上油圧モータ、起伏油圧モータなどの油圧アクチュエータが駆動制御される。電気式操作レバーを用いてもよい。
【0012】
図1において、旋回体2にはガントリ21が設けられ、ガントリ21の頂部にガントリシーブ22とハンガ23が設けられている。起伏ドラム4に巻き付けられた起伏ロープ8は、ガントリシーブ22からブライドル24に引き回され、ブライドル24とハンガ23との間で複数回掛け回されている。図1(b)に示すように、ガントリ21の上部にはロードセル25が取り付けられ、起伏ロープ8の終端がロードセル25に係止されている。ブライドル24とアッパジブ6Cとの間にはペンダントロープ26が設けられ、起伏ドラム4が起伏ロープ8を繰り出し繰り込みことによりブライドル24とハンガ23との間の距離が変化してジブ6が起伏する。
【0013】
ロードセル25は起伏ロープ8の張力に応じた荷重信号を出力する。この荷重信号に基づいて吊荷5の重量を周知の計算式で計算することができる。本実施の形態のクレーンでは、後述するように、起伏ロープ張力を用いてジブ6とフック5の動作停止条件の成立を判定する。動作停止条件の成立が判定されるとジブ起立動作とフック巻上動作を停止する。
【0014】
(フック過巻検出装置)
クローラクレーン1は、フック過巻検出装置140を備えている。フック過巻検出装置140は、アッパジブ6Cの先端に設けられたフック過巻検出用のリミットスイッチ141を備えている。このリミットスイッチ141は、錘142で支持ワイヤ143に引張張力が作用しているときはオンしている。錘142はリング形状であり、その中央開口を巻き上げロープが貫通している。巻上動作によりアッパジブ6Cの先端と所定距離の位置までフック5が上昇すると、フック5が錘142を押上げ、支持ワイヤ143の張力がゼロとなってフック過巻検出用のリミットスイッチ141がオフする。過巻検出用リミットスイッチ141がオフするとフックを巻き上げる方向の動作が停止される。
【0015】
(ジブ過巻検出装置)
クローラクレーンには、ジブ6がジブ過巻角度θ1に達したことを検出するためのジブ過巻検出装置170が設けられている。ジブ過巻検出装置170は、ジブ6の基端部(ジブフット)に設けられたストライカと、旋回体2のジブ取付部に設けられた過巻検出リミットスイッチとを備えている。ジブ6がジブ過巻角度θ1に達すると、ストライカがジブ過巻検出用リミットスイッチを駆動してリミットスイッチからジブ過巻検出信号が出力される。
【0016】
(バックストップ)
ロアジブ6Aの背面側には伸縮可能な一対のバックストップ10が機体の幅方向に並設されている。バックストップ10は、図2に示すように、互いに収縮可能な内筒110と外筒130とを有する二重筒構造である。外筒130の上端部130Uはロアジブ6Aの背面部に回動可能に連結され、内筒110の下端部110Lは旋回体2のバックストップブラケット2aに回動可能に連結されている。
【0017】
内筒110の下端部110Lにはバネ座111が設けられ、内筒110に挿入された圧縮バネ112がバネ座111に着座している。圧縮バネ112の上端側から突設する内筒110には環状プレート113が挿入され、環状プレート113は圧縮バネ112の上端に載置される。外筒130の下端にはフランジ131が設けられ、ジブ角度がジブ過巻角度θ0以上、たとえば、78度以上になると外筒フランジ131が環状プレート113に当接する。ジブ角度が78度を超えると圧縮バネ112が圧縮を開始し、環状プレート113が圧縮バネ112に追従して内筒110の基端側に移動する。ジブ角度が大きくなるに従い圧縮バネ112は圧縮されて全長が短くなっていく。ジブ角度がジブ過巻角度θ1,ジブ第2過巻角度θ2を越えてさらに大きくなった限界角度θ3になると圧縮バネ112は密着する。
【0018】
(ジブ第2過巻検出装置)
内筒110の基端側にジブ第2過巻検出装置150が設けられている。ジブ第2過巻検出装置150は、圧縮バネ112が密着する手前のジブ第2過巻角度θ2に達したことを検出する検出装置である。ジブ第2過巻検出装置150の詳細を図2に基づいて説明する。
ジブ第2過巻検出装置150は、内筒110の下端部110Lに設けられたブラケット151aに設置されたリミットスイッチ151と、圧縮バネ112の圧縮に追従して動く環状プレート113に固定設置されたストライカ152aとを有する。
【0019】
内筒110の基端部110Lにはブラケット151aが固定され、ブラケット151aにはリミットスイッチ151が固定されている。環状プレート113にはブラケット152が取り付けられている。ブラケット152は環状プレート113から内筒110の基端側に延在するバー状の部材であり、下端にストライカ152aが取り付けられている。ストライカ152aは、圧縮バネ112が密着するジブ角度の手前のジブ第2過巻角度θ2でリミットスイッチ151のドグを押動してリミットスイッチ151をオフする。このとき、リミットスイッチ151からジブ第2過巻検出信号が出力される。
【0020】
以上のとおり実施の形態のクローラクレーンでは、ジブ6がジブ過巻角度θ1になると、ジブ過巻検出装置170からジブ過巻検出信号が出力される。圧縮バネ112が密着するジブ角度手前のジブ第2過巻角度θ2になると、ジブ第2過巻検出装置150からジブ第2過巻検出信号が出力される。
【0021】
(制御装置)
図3は、実施の形態のクローラクレーンの制御装置の概要を示すブロック図である。
制御装置は、上述した第1〜第4の自動停止機能を実行させるための各種演算を行う。 制御装置は、演算装置201と、ジブ角度を検出するジブ角度検出装置202と、フック過巻検出装置140と、ジブ過巻検出装置170と、ジブ第2過巻検出装置150と、起伏ロープ張力を検出するロードセル25とを備える。これらの検出器やスイッチからの信号は演算装置201に入力される。
【0022】
演算装置201は、各種検出器やセンサなどから入力信号を受信すると、後述する各種演算を実行してフック巻上動作、ジブ起立動作および下げ動作を停止する条件が成立しているかを判定する。演算装置201は、それらの動作停止条件が成立したと判定したとき、該当する動作を停止するため、対応する電磁ソレノイド210〜212を駆動してそれぞれの動作を停止する信号を出力する。
演算装置201にはモニタ213が接続され、クローラクレーンの各種運転状態を表す画像や数値がモニタ213に表示される。
【0023】
フック過巻検出装置140は、フック5がジブ先端に所定距離まで近づいたときにフック過巻検出信号を出力する装置であり、第1自動停止機能の構成要素である。
ジブ過巻検出装置170は、ジブ6がジブ過巻角度θ1に達したときにジブ過巻検出信号を出力する装置であり、第2自動停止機能の構成要素である。
ジブ第2過巻検出装置150は、ジブ6がジブ第2過巻角度θ2に達したときにジブ第2過巻検出信号を出力する装置であり、第3自動停止機能の構成要素である。
ロードセル25は、起伏ロープ張力を検出するセンサであり、第4自動停止機能の構成要素である。
【0024】
(転倒防止装置)
実施の形態のクローラクレーンは転倒防止装置を備えている。転倒防止装置はいわゆるモーメントリミッタと呼ばれる安全装置であり、演算装置201に実装することができる。専用の転倒防止装置としてクローラクレーンに搭載しても良い。
転倒防止装置は以下のような演算を実行してクレーンの転倒を防止する。
【0025】
転倒防止装置に入力されているジブ長と、ジブ角度検出器202で検出されたジブ角度とに基づいて作業半径Rが演算される。ロープ張力検出器24で検出されたジブ起伏ロープ張力に基づいて吊荷の重量Wが演算される。作業半径R×作業半径Rにより作業中の転倒モーメントが演算される。予め記憶部201aには定格荷重曲線が記憶されている。定格荷重曲線は、横軸に作業半径、縦軸に吊荷の限界荷重をとって示すグラフである。グラフの下の領域で作業を行っている場合は転倒しない。すなわち、演算された作業半径と演算された吊荷の重量とをプロットした点がグラフの内側であれば転倒しない。演算された作業半径と演算された吊荷の重量とをプロットした点がグラフの外側であれば転倒する可能性があり、転倒モーメントが増加する方向の動作を停止する。すなわち、ジブ下げ動作を停止する。
【0026】
(ジブ角度−起伏ロープ張力特性線図)
図4は、横軸をジブ角度θ、縦軸を起伏ロープ張力Pとしたジブ角度θに対する起伏ロープ張力Pの特性線図である。符号L1,L2,L3は、同一のジブ長さのジブ6で作業を行うクレーンの負荷率が異なる場合の特性線図である。特性L1が大きい負荷率、特性L3が小さい負荷率、特性L2が中の負荷率である。負荷率は、ある作業半径における最大吊り重量に対する実重量の割合である。この特性線図は予め演算装置201の記憶部201aに記憶されている。記憶されている吊り重量と異なる重量の吊荷を巻き上げているときは、複数の特性線図を補間して該当する吊り重量の特性線図が算出されて使用される。もちろん、細かいピッチの重量ごとの多数の特性線図を予め記憶部201aに記憶しても良い。また、複数のジブ長さに応じて同様な特性線図が記憶される。実施の形態では、この特性線図を基準特性と呼ぶ。
【0027】
図4の基準特性を示すグラフL1において、ジブ角度θ1は、ジブ過巻検出装置170で検出されるジブ過巻角度である。ジブ6がジブ過巻角度θ1に達したことをジブ過巻検出装置170が検出すると、ジブ起立動作が停止する。ジブ角度θ2は、ジブ第2過巻検出装置150で検出されるジブ第2過巻角度である。ジブ6がジブ第2過巻角度θ2に達したことをジブ第2過巻検出装置150が検出すると、フック巻上動作とジブ起立動作が停止する。ジブ角度θ3は圧縮バネ112が密着した時点のジブ角度である。圧縮バネ112が密着するジブ角度θ3において、ジブ6はジブ上げ方向には旋回体2と一体化され、ジブ角度がさらに大きくなる場合、ジブ6に大きな曲げ荷重が作用する。
【0028】
演算装置201は、ジブ角度検出器202で検出されたジブ角度θと、ロープ張力検出用ロードセル25で検出され演算装置201で演算されたジブ起伏ロープ張力Pとに基づいて、次のようにして起伏ロープ張力の挙動異常を検出する。
【0029】
−圧縮バネ112が密着した後(ジブ角度θ3以上)−
圧縮バネ112が密着した後は、すなわちジブ角度がθ3以上になると、図4に示すように、ジブ角度θに対するジブ起伏ロープ張力Pが急激に大きくなる。ジブ起伏ロープ張力Pのジブ角度に対する変化率が所定の閾値以上のとき、異常と判定する。
ジブ角度に対する起伏ロープ張力の変化率に代えて、起伏ロープ張力の時間変化率が所定の閾値値以上のときに異常と判定したり、あるいは単位時間当たりの起伏ロープ張力の変化量が所定の閾値以上のときに異常と判定してよい。
【0030】
なお、圧縮バネ112が密着するジブ角度を設定しておき、この角度に達すると起伏ロープの巻き上げ速度を漸減させるような速度制御を行うことが好ましい。これは、上述した起伏ロープ張力の挙動異常を検出して巻上動作とジブ起立動作を停止するが、この停止制御に遅れが生じても確実にジブ6の後方への倒れ込みを防止ためである。
【0031】
フック巻上停止、ジブ上げ停止、ジブ下げ停止はたとえば次のような保護装置で実現できる。
クローラクレーンが油圧パイロット式操作レバー装置を備えているときは、操作レバーの操作で発生したパイロット操作圧がコントロールバルブに供給される。パイロット操作圧発生器とコントロールバルブとを接続するパイロット通路に電磁開閉弁を配置し、上記動作停止条件が成立したとき、演算装置201から電磁開閉弁210〜212に停止信号を供給する。電磁開閉弁210〜212が閉じると、操作レバーが操作されてパイロット操作圧が発生していてもパイロット操作圧はコントロールバルブに到達せず、該当する動作が停止する。
【0032】
クローラクレーンが電気式操作レバー装置を備えているときは、同様に、操作レバーの操作により発生した電気信号をコントロールバルブに印加する信号線に開閉スイッチを設け、上記動作停止条件が成立したとき、演算装置201から開閉スイッチに停止信号を供給する。開閉スイッチが開くと、操作レバーが操作されて駆動信号が発生していてもコントロールバルブに印加されず、該当する動作が停止する。
【0033】
図5は、以上説明したフック過巻検出により停止する動作、ジブ過巻検出により停止する動作、ジブ第2過巻検出により停止する動作、ジブ角度に対する起伏ロープ張力異常検出により停止する動作をまとめた表である。
【0034】
図6は、上述した動作停止処理を行うために演算装置201で実行されるプログラムの処理手順を簡易的に示すフローチャートである。
(a)はフック過巻動作を停止する処理を示す。フック過巻検出信号が検出されると、ステップS11において、フック巻上動作とジブ下げ動作を停止するため、電磁弁210、211に停止信号を印加する。これにより、フックの巻上とジブ起立動作が停止する。
【0035】
(b)はジブ過巻による起立動作の停止処理を示す。ジブ過巻検出信号が検出されると、ステップS21において、ジブ起立動作を停止するため、電磁弁211に停止信号を印加する。これにより、ジブ起立動作が停止する。
(c)はジブ第2過巻によるジブ起立動作の停止処理とフック巻上動作の停止処理を示す。ジブ第2過巻検出信号が検出されると、ステップS31において、ジブ起立動作を停止するため、電磁弁211に停止信号を印加してジブ起立動作が停止する。またステップS31において、ジブ下げ動作停止用電磁弁212に停止信号を印加してジブ下げ動作を停止する。
【0036】
(d)はジブ角度と起伏ロープ張力との関係を示す特性に基づくジブ起立動作作の停止処理とフック巻上動作の停止処理を示す。ステップS41では、記憶部201aに保存されているジブ角度と起伏ロープ張力との関係を示す基準特性を、検出したジブ角度と検出した起伏ロープ張力とで比較して、起伏ロープ張力の挙動が異常であるか否かを判定する。この異常検出を判定するとステップS42において、電磁弁211に停止信号を印加してジブ起立動作を停止する。また、フック上げ動作停止用電磁弁210に停止信号を印加してフック巻上動作を停止する。
【0037】
−変形例1−
以上の説明では、圧縮バネ112が密着した後の起伏ロープ張力異常を検出して巻上動作とジブ起立動作を停止するようにしたが、圧縮バネ112が圧縮を開始する前の起伏ロープ張力の挙動異常、あるいは、圧縮バネ112が圧縮を開始後、密着するまでの起伏ロープ張力の挙動異常を検出して、巻上動作とジブ起立動作を停止するようにしてもよい。
【0038】
(1)圧縮バネ112が圧縮を開始する前(ジブ角度θ0未満)
圧縮バネ112が圧縮を開始する前、すなわちジブ角度がθ0未満のとき、図4に示すように、ジブ角度θに対するジブ起伏ロープ張力Pの変化率は負である。ジブ角度θに対するジブ起伏ロープ張力Pの変化率が正であれば、異常と判定する。
この異常現象は、たとえば圧縮バネ112が圧縮を開始する前に、何らかの不具合が発生してジブ6が旋回体2と一体化している場合に発生し得る。あるいは、ジブ角度検出器202が故障して圧縮バネ112が圧縮しているにも拘わらず、検出値によるジブ角度がθ0未満である場合などに起こり得る。
【0039】
(2)圧縮バネ112が圧縮を開始した後、密着するまで(ジブ角度がθ0以上〜θ3未満)
圧縮バネ112が圧縮を開始した後に圧縮バネ112が密着するまでは、すなわちジブ角度がθ0〜θ3までは、図4に示すように、ジブ角度θに対するジブ起伏ロープ張力Pの変化率は正である。ジブ角度θに対するジブ起伏ロープ張力Pの変化率が負であれば、異常と判定する。
この異常現象は、フック過巻検出装置140が故障して巻上動作が停止しない場合に発生する。すなわち、フック5がアッパジブ6Cの先端に引っ掛かかり、巻上動作でジブ6が起立動作するとジブ起伏ロープ張力は急激に減少する。したがって、ジブ角度が増加するにも拘わらず起伏ロープ張力は急減する。この張力の挙動を捉えて異常と判定する。
【0040】
以上説明した実施の形態のクローラクレーンは次のような作用効果を奏する。
(1)実施の形態のクローラクレーンにおいては、走行体1に旋回可能に旋回体2が設けられ、旋回体2にジブ6が起伏可能に設けられ、ジブ6から吊持されるフック5が昇降する。このクローラクレーンは、フック5がジブ6先端に所定距離までに近づいたときにフック過巻を検出するフック過巻検出装置140を備え、フック過巻検出装置140がフック過巻を検出すると、フック巻上動作を停止する第1の自動停止制御部を備えている。実施の形態のクローラクレーンはさらに、第2〜第4の自動停止制御部を実装している。第2自動停止制御部は、ジブ6がジブ過巻角度θ1に達したときにジブ起立動作を停止する。ジブ過巻角度はジブ過巻検出装置170で検出される。第3の自動停止制御部は、ジブ6がジブ第2過巻角度θ2(>ジブ過巻角度θ1)に達したときにジブ起立動作とフック巻上動作を停止する。ジブ第2過巻角度はジブ第2過巻検出装置150で検出される。第4の自動停止制御部は、検出されたジブ角度θと、検出されたジブ6の起伏ロープ張力Pとに基づいて動作停止条件を判定したとき、ジブ起立動作とフック巻上動作を停止する。
以上の第4の自動停止制御部を付加したので、第1の自動停止制御部と第3の自動停止制御部がともに働かないときでも、第4自動停止制御部により、ジブ6が後方に倒れ込むことを防止できる。
【0041】
(2)また実施の形態のクローラクレーンにおいては、走行体1に旋回可能に旋回体2が設けられ、旋回体2にジブ6が起伏可能に設けられ、ジブ6から吊持されるフック5が昇降する。このクローラクレーンは、巻上ロープ7を繰り出し繰り込んでフック5を昇降させる巻上ドラム3と、ジブ6の起伏ロープ8を繰り出し繰り込んでジブ6を起伏させる起伏ドラム4と、起伏ロープ張力を検出するロープ張力検出器、すなわちロードセル25と、ジブ角度を検出する角度検出器22と、角度検出器22で検出されたジブ角度、およびロードセル25で検出された起伏ロープ張力に基づいて、動作停止条件が成立したか否かを判定し、動作停止条件が成立したと判定すると、巻上ドラム3による吊荷Wの巻上動作と起伏ドラム4によるジブ6の起立動作を停止させる信号を出力する演算部201とを備える。
このような構成を採用することにより、フック過巻検出装置140、ジブ第2過巻検出装置150が故障していても、ジブ角度および起伏ロープ張力の各検出値を利用して確実にジブ6が後方に倒れるような事態を防止できる。したがって、とくにジブ第2過巻検出装置150を手動で点検することを忘れた場合でも、ジブ6の後方への倒れ込みを防止できる。換言すると、実施の形態で付加した第4の自動停止動作機能は第3自動停止動作機能のバックアップとして機能する。
【0042】
(3)実施の形態のクローラクレーンは、ジブ6の背面側に設けられ、ジブの角度が第1角度θ0になると圧縮を開始し、第2角度θ3になると密着するバネ112を備えたバックストップ10を有する。角度検出器202で検出されたジブ角度に対するロードセル25で検出された起伏ロープ張力の変化率が所定の閾値以上のときに動作停止条件が成立したと判定して、巻上ドラム3による吊荷Wの巻上動作と起伏ドラム4によるジブ6の起立動作を停止させる信号を出力する。
この実施の形態においても、バネ112の圧縮後における起伏ロープ張力異常を検出して巻上動作と起伏動作を停止するので、作業前の点検を忘れた場合でも、ジブ6の後方への倒れ込み現象を防止できる。
【0043】
(4)実施の形態のクローラクレーンは、ジブ6の背面側に設けられ、ジブの角度が第1角度θ0になると圧縮を開始し、第2角度θ3になると密着するバネ112を備えたバックストップ10を有する。演算部201は、圧縮バネ112が圧縮を開始する前において、角度検出器202で検出されたジブ角度に対するロードセル25で検出された起伏ロープ張力の変化率が正であるとき、動作停止条件が成立したと判定して、巻上ドラム3による吊荷Wの巻上動作と起伏ドラム4によるジブ6の起立動作を停止させる信号を出力する。
たとえば圧縮バネ112が圧縮を開始する前に、何らかの不具合が発生して(たとえば、内筒と外筒とがかじる現象)ジブ6が旋回体2と一体化している場合、あるいは、ジブ角度検出器202が故障して圧縮バネ112が圧縮しているにも拘わらず、検出値によるジブ角度がθ0未満である場合などには、ジブ角度がθ0未満であっても起伏ロープ張力が大きくなり、変化率は正となる。この挙動を捉えて巻上動作とジブ起立動作が停止するので、作業前の点検ができないような作業現場においてジブ6の後方への倒れ込み現象を防止できる。
【0044】
(5)実施の形態のクローラクレーンは、ジブ6の背面側に設けられ、ジブの角度が第1角度θ0になると圧縮を開始し、第2角度θ3になると密着するバネ112を備えたバックストップ10を有する。演算部201は、圧縮バネ112が圧縮を開始した後に圧縮バネ112が密着するまでの角度範囲において、ジブ角度に対する起伏ロープ張力の変化率が負のとき、動作停止条件が成立したと判定して、巻上ドラム3による吊荷Wの巻上動作と起伏ドラム4によるジブ6の起立動作を停止させる信号を出力する。
このような場合も、起伏ロープ張力の挙動を捉えて巻上動作とジブ起立動作が停止するので、作業前の点検を忘れた場合でも、ジブ6の後方への倒れ込み現象を防止できる。
【0045】
(6)実施の形態のクローラクレーンは、角度検出器202で検出されたジブ角度とジブ長さにより演算された作業半径と、ロードセル25で検出された起伏ロープ張力に基づき演算された吊荷の重量と、定格荷重曲線とに基づいて、クレーン運転動作点が定格荷重曲線の外側にあるときに転倒モーメントが増加する方向の動作を停止する転倒防止装置をさらに備える。
したがって、上記第4の自動停止制御部を付加してもハードウエアを新たに設けるコストは必要にならない。
【0046】
実施の形態のクレーンのバックストップは内筒110と、外筒130と、圧縮バネ112とを備えたものとして説明したが、バックストップの構造は実施の形態のものに限定されない。ジブが所定角度以上まで起立したときに衝撃緩和用の弾性部材が圧縮されるものであれば、その形態は問わない。
実施の形態のクローラクレーンでは、ガントリとブライドルによりジブ起伏を行う構成であるが、ライブマストによりジブ起伏を行う構成を採用してもよい。
また、本発明は、ラチス式ジブに代えてテレスコピック式ジブを備えるクレーンにも適用可能である。さらに、クローラに代えてタイヤを実装したいわゆるトラッククレーンやラフテレーンにも本発明を適用することができる。
【0047】
上記では、種々の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 走行体
2 旋回体
3 巻上ドラム
4 起伏ドラム
5 フック
6 ジブ
7 主巻ロープ
8 起伏ロープ
10 バックストップ
25 ロードセル
110 内筒
130 外筒
140 フック過巻検出装置
141 リミットスイッチ
142 錘
150 ジブ第2過巻検出装置
151 リミットスイッチ
170 ジブ過巻検出装置
201 演算装置
201a 記憶部
202 ジブ角度検出装置
210 巻上停止用電磁弁
211 ジブ上げ停止用電磁弁
212 ジブ下げ停止用電磁弁
213 モニタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6