【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会における発表 集会名 第56回 光波センシング技術研究会 開催日 平成27年12月8日〜12月9日 2.刊行物 発行者名 応用物理学会・光波センシング技術研究会 刊行物名 第56回 光波センシング技術研究会 講演論文集「光波センシングにおける超高速技術」 発行年月日 平成27年12月8日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対をなし時間幅が異なる光パルスを複数個、光ファイバの一端から入射し、この光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光の周波数シフト量の変化から物理量を検出するブリルアン散乱測定方法であって、
前記対をなす光パルスの各位相が互いに同一あるいは異なる2種類の光パルス対を生成し、
この生成した2種類の光パルス対を入射することにより、発生する後方ブリルアン散乱光を光ヘテロダイン受信器で各別に測定し、
前記光ヘテロダイン受信器による測定で得られる各信号を、時間幅が前記光パルス対の各光パルスの時間幅にそれぞれ等しく、遅延時間が変更可能な2つの窓関数でサンプリングするとともに、
前記2つの窓関数でサンプリングした各信号に予め定めた変換を行い、前記2種類の光パルス対ごとに、この予め定めた変換結果から得た2つの信号の積を求めた後、この求めた各積の差に基づいて、前記後方ブリルアン散乱光のスペクトルを得ることを特徴とするブリルアン散乱測定方法。
前記各積の差を2回以上求め、求めた複数の積の差の平均値あるいは加算値から、前記後方ブリルアン散乱光のスペクトルを得ることを特徴とする請求項1に記載のブリルアン散乱測定方法。
前記光ヘテロダイン受信器による測定で得た各信号を周波数シフトの周波数変換によってベースバンド信号として検出し、前記検出した各ベースバンド信号を、前記2つの窓関数でサンプリングするとともに、
前記予め定めた変換は、
前記2つの窓関数でサンプリングした各信号の時間に関する積分であり、
さらに、前記予め定めた変換結果から得た2つの信号は、前記各信号の時間に関する積分によって得たそれぞれの信号であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブリルアン散乱測定方法。
前記光パルス対の各光パルスの時間幅と各光パルス間の離隔時間は、フォノンの寿命を考慮して定めていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のブリルアン散乱測定方法。
前記光パルス対の各光パルスの時間幅は、一方がフォノンの寿命より短く、他方がフォノンの寿命より長くしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のブリルアン散乱測定方法。
前記光パルス対の各光パルスの光ファイバへの入射順は、時間幅の長短によらず、どちらが先でもよいことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のブリルアン散乱測定方法。
前記各積の差を2回以上求め、求めた複数の積の差の平均値あるいは加算値から、前記後方ブリルアン散乱光のスペクトルを得ることを特徴とする請求項10に記載のブリルアン散乱測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記非特許文献2に関わるDP−BOTDRによる計測では、位相の種類が1つでパルス長(パルス時間幅のこと。以下同様)が同等の2つのパルス波の包絡線を基にブリルアン散乱の周波数シフトを求めるため、周波数シフトの値を判定する際の誤差が大きく、真の値の判断が困難である。
一方、S−BOTDRによる計測では、周波数シフトの真値が理論的にも求まるため、周波数シフトの値を誤差なく求めることはできるが、4種類の位相変調を用いて観測した信号を合成してブリルアン散乱の周波数シフトを求める必要があるため、測定系が複雑となり、また真値を求める際に時間がかかる。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、隣接した短パルスと長パルスからプローブとする光パルスを構成し、かつ、その構成した光パルスに二値位相変調したものと位相変調しない2種類のプローブを使用するBOTDRを利用したものであって、狭い幅と広い幅の窓関数を使用して取り出した後方散乱光の検出信号から取った相互相関値を利用することで、S−BOTDRによる計測よりも簡便な方法により、長距離において優れた距離分解能を得ることのできる計測方法及び計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るブリルアン散乱測定方法は、
対をなし時間幅が異なる光パルスを複数個、光ファイバの一端から入射し、この光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光の周波数シフト量の変化から物理量を検出するブリルアン散乱測定方法であって、
前記対をなす光パルスの各位相が互いに同一あるいは異なる2種類の光パルス対を生成し、
この生成した2種類の光パルス対を入射することにより、発生する後方ブリルアン散乱光を光ヘテロダイン受信器で各別に測定し、
前記光ヘテロダイン受信器による測定で得られる各信号を、時間幅が前記光パルス対の各光パルスの時間幅にそれぞれ等しく、遅延時間が変更可能な2つの窓関数でサンプリングするとともに、
前記2つの窓関数でサンプリングした各信号に予め定めた変換を行い、前記2種類の光パルス対ごとに、この予め定めた変換結果から得た2つの信号の積を求めた後、この求めた各積の差に基づいて、前記後方ブリルアン散乱光のスペクトルを得ることを特徴とするものである。
【0012】
この発明に係るブリルアン散乱測定装置は、
第1の光源、あるいはこれと異なる第2の光源と、
前記2つの光源のいずれか一の光源からの出射光を所望の時間幅をもつ光パルスとして形成するパルス形成器と、を有し、
前記パルス形成器により、対をなし異なる時間幅を持つ光パルスを形成した複数個の光パルスを、光ファイバの一端から入射し、この光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光の周波数シフト量の変化から物理量を検出するブリルアン散乱測定装置であって、
前記対をなす光パルスの各位相が互いに同一あるいは異なる2種類の光パルス対を生成するパルス位相生成器と、
前記2種類の光パルス対が入力され、この入力された2種類の光パルス対を前記光ファイバに入射するとともに、この光ファイバで発生した後方ブリルアン散乱光を前記2つの光パルス対の入力経路とは異なる経路から出力する第1の光カプラと、
前記第1あるいは前記第2の光源のいずれか一の光源からの出射光と、前記光ファイバで発生した後方ブリルアン散乱光とが入力されるとともに、これら2種類の入力を各別に出力する第2の光カプラと、
この第2の光カプラからの2つの出力が別々に入力されるとともに、入力された信号のバランスを調整し、単一の出力として出力するバランス受光器と、
このバランス受光器からの出力を信号処理する信号処理器と、
を備え、
前記2種類の光パルス対の入射によって発生した後方ブリルアン散乱光を前記信号処理器で各別に測定し、
前記信号処理器による測定で得た各信号を、時間幅が前記光パルス対の各光パルスの時間幅にそれぞれ等しく、遅延時間が変更可能な2つの窓関数でサンプリングするとともに、前記2つの窓関数でサンプリングした各信号に予め定めた変換を行い、前記2種類の光パルス対ごとに、この予め定めた変換結果から得た2つの信号の積を求めた後、この求めた各積の差に基づいて、前記後方ブリルアン散乱光のスペクトルを得ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、光ファイバの一端だけを利用して光パルス対を入射して取り出した後方ブリルアン散乱光におけるBOTDRを用いた計測において、従来より簡便な方法で、数Km以上の長距離において20cm程度の優れた距離分解能を得ることのできる計測方法あるいは計測装置を提供することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係るブリルアン散乱測定装置あるいはブリルアン散乱測定方法について、図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1によるブリルアン散乱測定装置に用いるパルスプローブの電界の信号波形を示す図であり、縦軸は光パルスのレベルを示し横軸は時間を示す。
図に示すように、パルスプローブは短パルス(光パルスの時間幅T
S(「光パルスの時間幅」を以降「パルス長」と呼ぶ))と長パルス(パルス長T
L)を隣接して構成する。
つまり、T
S<T
Lである。次に、
図1(a)において、記号「++」は、パルス長T
Sの区間とパルス長T
Lの区間とで位相が同一であること、すなわち、
図1(a)は位相シフトが0(ゼロ)である位相変調の様子を示している。以降このような位相変調をさせたパルスプローブを光パルス対Aと呼ぶ。また、
図1(b)において、記号「+−」は、パルス長T
Sの区間とパルス長T
Lの区間では位相がπ(180度)異なること、すなわち、
図1(b)は位相シフトがπである位相変調の様子を示している。以降このような位相変調をさせたパルスプローブを光パルス対Bと呼ぶ。
【0016】
後述するように、本実施の形態におけるブリルアン散乱測定装置における距離分解能とブリルアンスペクトル幅は、パルス長T
Sとパルス長T
Lの持続時間によって決定される。ここでのスペクトルとは、各周波数における信号の強度のことである。このパルスプローブにより生じた後方ブリルアン散乱光を、光ヘテロダイン検波と、周波数シフトf
Mの周波数変換によりベースバンド信号として検出する。
【0017】
ところで、一般にBOTDRにおいては、単一の光パルスの距離分解能(空間分解能)Δzは、t
Lを光パルスの時間幅(パルス長)、V
gを光ファイバ中での光速とすると、式(1)で定められる。
【数1】
ここで、V
gは使用する光ファイバによって決まる物性値であるから、距離分解能を高めるためには、パルス幅が短い(t
Lが小さい)短パルスの光パルスを用いる必要がある。
【0018】
ところで、BOTDRでは、この光パルスから得た後方ブリルアン散乱光を周波数変換する必要があるため、周波数分解能Δfも高くする必要がある。ここでΔfは次式(2)で表される(この式の左辺の値は、この式の右辺の値で近似される)。
【数2】
ここで、Δf
bは自然線幅と呼ばれるスペクトル幅で、用いる光ファイバによって決まるローレンツスペクトルの線幅である。本実施の形態に係る計測方法、あるいは計測装置で求められるブリルアンスペクトルは、このローレンツスペクトルと長パルスのフーリエ変換とのコンボルーション(関数Fを平行移動しながら関数Gを重ね合わせること)で近似される。さらに、そのスペクトル幅は、ローレンツスペクトルと長パルスのフーリエ変換のピーク幅の2乗和の平方根で近似される。この近似された式が上記の式(2)である。
【0019】
上記短パルスの光パルスを用いた場合には、距離分解能は高いが周波数分解能は低くなる。一方、パルス幅の長い長パルスの光パルスを用いた場合には、周波数分解能は高いが距離分解能は低くなる。
【0020】
そこで、本実施の形態1では、パルス幅が短い短パルスとパルス幅の長い長パルスを対にした光パルス対を形成するとともに、これら2種類の光パルスを相互作用させ、距離分解能及び周波数分解能が共に高くなるように設定している。
ここで、2種類の光パルスを相互作用させて、高い距離分解能及び周波数分解能を得るためには、短パルスと長パルスは時間的に互いに重ならないようにするとともに、所定の時間以上に離れすぎないようにする必要がある。具体的には、短パルスのパルス立下り時間と長パルスのパルス立上り時間の違いの最大値をフォノンの減衰時間を考慮して、この違いを零とするか、あるいは30ns(ナノ秒)以下、好ましくは10ns以下に設定する。
なお、以上においては、短パルスと長パルスの時間幅はT
S<T
Lである場合について説明したが、これに限らず、T
S≧T
Lであってもよい。
【0021】
以上のような事情を考慮して、信号の一部は、
図2に示す2つの矩形の窓関数W
S(t)及びW
L(t)を使用して抽出する。ここでtは時間を表すパラメータである。
これらの窓関数の時間長は各々、上記パルス長と同じT
SとT
Lである。この図に示すように、パルスプローブの入射時間からの遅延時間をDとし、W
S(t)を時間Dだけ遅延させた窓関数W
S(t−D)と、W
L(t)を時間D+T
Sだけ遅延させたW
L(t−D−T
S)を使用して、信号の一部を抽出する。
これら2種類の窓関数を使用する場合には、窓関数によるサンプルデータには次のものが含まれている。つまり、zを距離として、z=V
gD/2からz=V
g(D+T
S)/2までの短い区間SSからの後方ブリルアン散乱信号と、z=V
g(D+T
S)/2からz=V
g(D+T
S+T
L)/2までの長い区間LSからの後方ブリルアン散乱信号である。
【0022】
なお、上記
図2の窓関数の説明においては、光パルス対Aと光パルス対Bにおいて、短パルスと長パルスが隣接している場合について説明したが、これに限らず、光パルス対を構成する短パルスと長パルスが離れている場合にも同様に上記窓関数を使用できる。ただし、短パルスと長パルスが離れている場合には、窓関数W
S(t−D)とW
L(t−D−T
S)もこれら2つの光パルスの離間距離と同じ間隔だけ離して使用することが必要である。
【0023】
ただし、上述の窓関数によってデータを抽出するだけでは、高い距離分解能の測定かつ精密なブリルアン散乱の周波数シフトを測定することはできない。そこで、2値位相変調された2つのパルスプローブ(光パルス対Aと光パルス対B)による測定結果の減算と上述の狭い窓の窓関数W
S(t)と広い窓の窓関数W
L(t)でサンプリングした信号の相互相関処理とを組み合わせ、自然ブリルアン散乱光の統計的な特性を踏まえて以下に示すように評価すると、上記の短い区間SSからの長パルスプローブによる後方ブリルアン散乱光のみを抽出することができる。これにより、高い距離分解能で狭い幅のブリルアンスペクトルの正確な測定が可能となり、精密なブリルアン散乱の周波数シフトの評価が可能となる。
【0024】
具体的には、まず相互相関関数C
SLを下記の式(3)で定義する。
【数3】
ここで、<>は加算平均、b
WS(t)とb
WL(t)は、それぞれ、矩形の窓関数W
S(t)(狭窓の窓関数)とW
L(t)(広窓の窓関数)で抽出された後方散乱光を表し、τは遅延時間を表す。b
WS(t)とb
WL(t)は、異なる箇所からの後方ブリルアン散乱光とランダム雑音を含んでいる。
なお、式(3)の積分範囲(tの値の範囲)は、理論上は[−∞、∞]であるが、実際には、b
WS(t)のサポート区間(0(零)でない値を取る区間。以下同様)である[D、D+T
S]とb
WL(t)のサポート区間である[D+T
S、D+T
S+T
L]であり、これらの区間は有界であるため有意に解を求めることができる(実際に計算が可能となる)。
【0025】
ところで、統計的観点からランダム雑音の相互相関は0(零)となる。また、違った箇所からの後方ブリルアン散乱光は独立して生ずるので、ある箇所の後方ブリルアン散乱光とこれとは異なる箇所の後方ブリルアン散乱光の相互相関も0(零)となる。よって、式(3)を評価するに当たって評価すべきは、同一箇所の後方ブリルアン散乱光のみとなる。そこで以下では3つのケースに分けて後方ブリルアン散乱光を評価する。
【0026】
(ケース1:z>V
g(D+T
S)/2の箇所からの後方ブリルアン散乱光)
このケースにおいては、b
WS(t)には後方ブリルアン散乱光は含まれていないのでC
SLは0(零)となる。
【0027】
(ケース2:z=V
gD/2〜V
g(D+T
S)/2の箇所からの後方ブリルアン散乱光)
このケースにおいては、
図1(a)、
図1(b)における各光パルスによる上記式(3)の計算結果は、逆の符号を持つ(上記式(3)を計算する際に被積分関数の2つの要素の一方の符号を逆にすれば、全体として符号が逆になるため)が同じ絶対値を得るので、相互相関値の減算結果は2倍となる。また、減算をすることによって、狭い区間からの後方ブリルアン散乱光の相互相関値だけを残すことができる。
従って、ベースバンド信号に変換するため、周波数ダウンシフトした後方ブリルアン散乱光の相互相関値を計算することによって、狭い区間における局所的なブリルアンスペクトル成分を得ることができる。
【0028】
図3は、狭い区間SS(図中に「区間Q」と表した区間)での後方ブリルアン散乱光の相互相関値を求める際の概念図を示している。
まず左側に示す図中、最上段に後方ブリルアン散乱光の区間を示す。ケース2では、この3つの区間のうち最も狭い区間である区間Qからの後方ブリルアン散乱光についての相互相関値を求めることになる。上から2段目の図は、この相互相関値を求める場合に用いる光パルス対の位相の概念を示している。上から3段目の図は、計測に用いる窓関数の概念図である。実線が狭窓の窓関数であるW
S(t)、点線が広窓の窓関数であるW
L(t)をモデル化して表示したものである。上から4段目の図は、光パルス対Aを用いた場合の窓関数W
S(t)とW
L(t)でサンプリングした場合の概念図であり、上から5段目の図は、光パルス対Bを用いた場合の窓関数W
S(t)とW
L(t)でサンプリングした場合の概念図である。次に右側に示す図は、光パルス対Aと光パルス対Bを用いて、これらのコンボリュージョン(畳み込み積分した)結果を減算して得られる結果のモデル図を示している。
この右側に示す図から、結果的に、C
SL+の2倍の値が得られることが判る。
【0029】
(ケース3:z<V
gD/2の箇所からの後方ブリルアン散乱光)
このケースにおいては、b
WS(t)とb
WL(t)は、同じ長パルスによる後方ブリルアン散乱光であるので、C
SLは不要な成分を含んでいる。C
SLからこの不要な成分を取り除くため、
図1(a)、
図1(b)に示す0位相シフトさせた光パルス対Aのプローブとπ位相シフトさせた光パルス対Bのプローブ、計2つのプローブでの測定を行う。どちらの測定においても、同じC
SLの値を得ることができ、これらを減算することで不要な相関成分を除去できる。
【0030】
さらに、FFT(フーリエ変換)と相互相関に関する定理を用いることによって、局所的なブリルアンスペクトルを直接評価できる。FFTを用いる理由は、光ファイバの細分区間ごとの信号スペクトルを得るためであり、1つの時間信号から各周波数成分を求めるためにFFTを用いて分解することでこのことを実現する。
また、ヘテロダイン検波で検出された後方ブリルアン散乱光は、ベースバンド信号に変換されることなく、W
S(t)とW
L(t)の2つの窓関数を使用してサンプリングされる。上記FFTは、時間窓で切り出した(サンプリングした)信号へ適用するので、各時間窓の範囲内での局所的なスペクトルが得られる。
そして、時間窓を移動させて光ファイバ全体をカバーするようにして、局所的なスペクトルを光ファイバ全体にわたって得ることができる。
すなわち、あるサンプルデータのFFTと他のサンプルデータのFFTの複素共役を乗算すると、式(3)で与えられている相関関数のFFTが定まり、狭い区間(ここで「狭い区間」とは、短パルスの時間長に対応する区間のことをいう。例えば、短パルスの時間長を2nsとすれば区間の幅は20cmになる)における後方ブリルアン散乱光のスペクトルが抽出される。この手法を繰り返し行うことによって多くの後方ブリルアン散乱光のスペクトルを取得し、それらの集合平均をとることによって局所的なブリルアンスペクトルを得ることができる。
以上、局所的なブリルアンスペクトルを得る方法を概観したが、以下では、このフーリエ変換によって局所的なブリルアンスペクトルを得る方法の詳細について説明する。
【0031】
図4は、このフーリエ変換によって局所的なブリルアンスペクトルを得る方法について説明するためのフローチャートである。
まず、
図1に示す光パルス対A、光パルス対Bを生成し、生成した光パルス対A、光パルス対Bを測定センサである光ファイバに入射する(ステップ11(S11))。
次に、光ファイバからの後方ブリルアン散乱光を、光ヘテロダイン受信器で測定し、測定によって得られた干渉信号の時間波形をx
k(t)とする(ステップ12(S12))。
次に、遅延時間Dを変えて以下(具体的にはステップ18(S18)まで)の手順を行う(ステップ13(S13))。
次に、窓関数W
S(t)とW
L(t)をそれぞれD、D+T
Sだけ遅延させた窓関数W
S(t−D)とW
L(t−D−T
S)を使用して、干渉信号の時間波形x
k(t)からサンプリングして信号x
Sk(t、D)、x
Lk(t、D)を取得する(ステップ14(S14))。
次に、信号x
Sk(t、D)、x
Lk(t、D)をフーリエ変換し、X
Sk(f、D)、X
Lk(f、D)を得る。そして、このX
Sk(f、D)とX
Lk(f、D)の複素共役であるX
Lk*(f、D)の積X
k(f、D)、を計算する。つまり、X
k(f、D)=X
Sk(f、D)・X
Lk*(f、D)である。なお、X
k(f、D)=X
Sk*(f、D)・X
Lk(f、D)により、X
k(f、D)を求めてもよい。ここで記号
*は複素共役を表す(ステップ15(S15))。
次に、上記X
k(f、D)を用いて、その差分X(f、D)をX(f、D)=X
1(f、D)−X
2(f、D)から求める(ステップ16(S16))。
次に、以上の手順、ステップ11(S11)からステップ16(S16)を繰り返して行い、X(f、D)の平均あるいは加算値<X(f、D)>を計算する(ステップ17(S17))。
最後に、<X(f、D)>の絶対値を計算し、遅延時間Dで決定される位置におけるブリルアン散乱光のスペクトル|<X(f、D)>|を求める(ステップ18(S18))。
【0032】
上述の方法では、広帯域受信とFFTを用いる方法により、周波数を固定した1回の計測で、ブリルアン散乱光のスペクトルを求めることができるという効果を奏する。ここでの「広帯域受信」の方式とは、「周波数掃引方式を用いていない」という程度の意味である。
なお、以上においては、ベースバンド信号に変換することなく、フーリエ変換を用いて局所的なブリルアンスペクトルを得る方法について説明したが、この方法に限らず、ベースバンド信号を利用する周波数掃引によって求める方法もある。以下この周波数掃引によって求める方法についてフローチャートを用いて詳しく説明する。
【0033】
図5は、この周波数掃引によって局所的なブリルアンスペクトルを得る方法について説明するためのフローチャートである。
まず、
図1に示す光パルス対A、光パルス対Bを生成し、生成した光パルス対A、光パルス対Bを測定センサである光ファイバに入射する(ステップ21(S21))。
次に、光ファイバからの後方ブリルアン散乱光を、光ヘテロダイン受信器で測定し、測定した信号を周波数変換によってベースバンド信号に変換する。このベースバンド信号に変換された周波数fの各成分の干渉信号の時間波形をy
k(f、t)とする(ステップ22(S22))。
次に、遅延時間Dを変えて以下((具体的にはステップ26(S26)まで)の手順を行う(ステップ23(S23))。
次に、窓関数W
S(t)とW
L(t)をそれぞれD、D+T
Sだけ遅延させた窓関数W
S(t−D)とW
L(t−D−T
S)を使用して、干渉信号の時間波形y
k(f、t)からサンプリングして信号y
Sk(f、t、D)、y
Lk(f、t、D)を取得する(ステップ24(S24))。
次に、信号y
Sk(f、t、D)と信号y
Lk(f、t、D)の時間tに関するそれぞれの積分の積I
yk(f、D)=[∫y
Sk(f、t、D)dt]・[∫y
Lk(f、t、D)dt]を計算する(ステップ25(S25))。
次に、差分Y(f、D)を、Y(f、D)=I
y1(f、D)−I
y2(f、D)を基に計算して求める(ステップ26(S26))。
最後に、以上の手順、ステップ21(S21)からステップ26(S26)を繰り返して行い、Y(f、D)の平均あるいは加算値<Y(f、D)>を計算する。この<Y(f、D)>が、遅延時間Dで決定される位置におけるブリルアン散乱光のスペクトルである(ステップ27(S27))。
【0034】
上述の
図5に示した方法では、周波数をステップ状に変化させながら多数回の計測を行うが、その計測は、単に光検出器による検出だけであるから実現することが容易であると
いう効果を奏する。
【0035】
次に、実際の測定装置の基本構成について、図を用いて以下説明する。
図6は、本実施の形態1に係る測定方式の基本となる装置構成の一例を説明するための図である。すなわち、実際の測定装置の基本構成は、光源1からのレーザー光を基に、光ファイバへ入射するための短パルスと長パルスの組み合わせとなる光パルス3aをパルス形成器3で形成し、その形成した光パルスを位相変調して、2種類の位相変調特性(短パルスは2種類とも同じ0(零)変調、長パルスは一方は0(零)変調、他方はπ変調)を持つ光パルス4aをパルス位相生成器4で生成し、この位相生成した光パルス4aを、光カプラ5を介して被測定体であるシングルモード光ファイバ(SMF)10に入射する。この入射光である光パルス4aにより、光ファイバで発生した後方散乱光を、入射光を通した光カプラ5に、入射光とは逆方向に入射し、その出射光を、上記光源1と同種の光源2からの出射光とともに、上記光カプラ5とは別の光カプラ6に別々に入射した後、さらに、それらの出射光である2種類の光をバランス受光器7に別々に入力した後、このバランス受光器7からの単一の出力信号を信号処理器8で信号処理する構成となっている。なお、上記では2つの光源1、2を持つ装置としたが、これに限らず、1つの光源だけを持つ装置構成としてもよい。この場合には、光源から出射された光は、光源の出口側に配置した光カプラなどを用いて、2つの異なる経路に分けられる以外の構成については、上述の構成と同様である。
【0036】
次に、目的とする距離分解能が達成されていることを、上記の基本構成を備えた実際の実験装置で確認したので、この実験装置の詳細と実験結果について、以下に図を用いて説明する。
【0037】
まず、実験装置の詳細について、
図7を用いて説明する。この図は、光ファイバ内の局所ブリルアンスペクトルを得るために用いた実験装置のブロック図である。図において、LD(ここでLDはLaser Diodeの略称)は半導体レーザー、C1、C2は光カプラ、PC(ここでPCはpolarization controllerの略称)は光偏波用コントローラ、SSBM(ここでSSBMはSingle Side Band carrier-suppressed Modulatorの略称)はシングルサイドバンド変調器、EDFA1、EDFA2(ここでEDFAはErbium-Doped Fiber Amplifierの略称)はエルビウム添加光ファイバ増幅器、MZMは、マッハ・ツェンダー変調器、PS(ここでPSはpolarization scramblerの略称)は光偏波スクランブラー、Cirはサーキュレータ、SMF1、SMF2(ここでSMFはSingle Mode Fiberの略称
)はシングルモード光ファイバ、BPD(ここでBFDはBalanced Photo Diodeの略称)はバランスド・フォトダイオード、DO(ここでDOはDigital scilloscopeの略称)はデジタルオシロスコープである(
図7(a)参照)。ここで、光偏波スクランブラーを用いる方式では、偏波変動の平均値を求めている。なお、以下の説明では、上記に示した略称を用いる。
【0038】
次に、上記サーキュレータの機能を説明するため、
図7(b)に、
図7(a)中に符号Eで示した部分の拡大図を示す。この図でLDからのレーザー光は上記SSBM、EDFA2などを通過後、符号h1で示した箇所からサーキュレータに入った光は符号h2で示した箇所、つまりセンサであるシングルモード光ファイバ(SM1、SM2、…)に入射する。そして、この入射光によりシングルモード光ファイバ部分で発生した後方ブリルアン散乱光は、符号h2で示した箇所を通過後、サーキュレータにより、符号h1で示した箇所ではなく、符号h3で示した方向に進む。すなわち、光カプラC1を通過した局発光と合流して光カプラC2に入る。
【0039】
図7に示す実験装置で用いたパルスプローブの持続時間、すなわち、T
SとT
Lはそれぞれ2ns、32nsである。なお、T
Lの値はフォノンの寿命を考慮して決めている。また、この実験装置はパルスプローブの持続時間の他、信号処理部分に特徴がある。後方ブリルアン散乱光と局発光との間のビート周波数をBPDの受信可能な最大周波数の半分程度になるようにするため、波長1.55μmのプローブ光はSSBMにより周波数がf
Mだけアップされる。具体的なf
Mの値は、およそ10.080GHzである。
これにより、全ての後方ブリルアン散乱光の周波数成分を同時に検出できる。検出された信号は、DOにより、サンプリングされ、前述の手順でPCを用いて周波数領域で処理される。
【0040】
なお、後方ブリルアン散乱光の信号は、
図1に示した2つのパルスプローブ(光パルス対A、光パルス対B)ごとに、5万回取得した(この回数は原理的には2回以上でよい)。また、供試光ファイバには、長さ300mと20mの2つのSMF1と、長さ40cmのSMF2を用いた。この場合において、SMF2は、SMF1とブリルアン周波数シフト(以下BFSと略記する)値が約40MHz異なるものを使用し、このSMF2を2つのSMF1の間の位置に融着接続により接続した(
図7(a)参照)。
【0041】
次に、
図7の実験装置で実験した際の実験結果について、以下、
図8〜
図12を用いて説明する。
まず、
図8は、上記SMF2及びこれに隣接する2つのSMF1のBFSの測定結果を示したものである。横軸は、
図7に示す2つのSMF1のうち、長さが長い方のSMF1の入射光側の位置を始点とした場合の距離をm単位で示したものである。一方、縦軸は測定されたBFSをGHz単位で示したものである。この測定結果より、SMF2の領域でのBFSの変動が適正に測定できており、また、20cmの距離分解能が達成されていることが確認できた。
【0042】
次に、
図9〜
図12は、SMF2とその周辺でのブリルアンスペクトルの理論曲線(図中の実線)と測定結果(複数の小丸印)を示したものである。いずれの図においても、横軸は、周波数で、f
M=10.080GHzを基点周波数とした場合の、検出ビート信号周波数と、この基点周波数との差の周波数の値を示している。また、縦軸は、信号強度を任意スケールで示している。
【0043】
図9は、距離zが318.00m地点のSMF1のブリルアンスペクトルの測定結果と理論曲線を示している。左上の点線の丸印は、この測定位置を
図8と関係づけるために示したものである。理論曲線(近似したローレンツ型の曲線)は、スペクトルのピーク付近の測定値とよく一致しており、測定結果は適正であると評価できる結果を得た。
【0044】
図10は、距離zが318.66m地点のSMF1とSMF2との接続点を含む区間でのブリルアンスペクトルの測定結果と理論曲線を示している。スペクトルのピークは793MHzおよび742MHzの2つあることがわかる。
【0045】
図11は、距離zが318.80m地点のSMF2のブリルアンスペクトルの測定結果と理論曲線を示している。スペクトルのピークはSMF2のBSFである742MHzと一致している。なお、800MHz近傍のピークはSMF1によるブリルアンスペクトルであるが、これはMZMからの光波の漏れ、あるいは
図1に示した2つの光パルス対間の強度不均衡が原因と考えられる。
【0046】
なお、
図8〜
図11の測定結果は、上述のように、
図7に示した実験装置を用いて得られたものであるが、この装置に限らず、
図12に示すように、
図7の実験装置の中の2つのPC(光偏波用コントローラ)が無いものであっても、
図7に示した実験装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0047】
実施の形態2.
上記基本構成を実現する
図7の実験装置とは別の装置構成の詳細について、
図13を用いて説明する。図の上側に示した分布帰還型レーザダイオード(Distributed Feed Back Laser Diode。略称DFB・LD。発振周波数f
0)101から出射されたレーザー光は、最初のLN変調器(ニオブ酸リチウム変調器)103で光強度を調整された後、2番目のLN変調器104で2種類の位相変調された光に変えられ、エルビウム添加光ファイバ増幅器(Erbium-Doped Fiber Amplifier.略称はEDFA。以降EDFAと呼ぶ)109で出力が増幅された後、3番目のLN変調器113に入射されて再び光強度が調整された後、光カプラ105を介して被測定体であるシングルモード光ファイバ(SMF)110に入射される。
この入射光により光ファイバ中に発生した後方散乱光を、入射光を通した光カプラに対して入射光とは逆方向に入射し、その出射光を偏波分離カプラ114に入射してP波(入射面に平行に振動する波)とS波(入射面に垂直に振動する波)に分離して出力する。
これら2種類の出力はそれぞれ別々に、図の下側に示した分布帰還型レーザダイオード(Distributed FeedBack LaserDiode。略称DFB・LD。発振周波数f
0±9GHz〜13GHz)102から出射され上記光カプラとは別の光カプラ115に入射した後、この光カプラ115から出射されたレーザー光とともに、第3の光カプラ106と第4の光カプラ116に入射した後、それぞれ別々のバランス受光器P(符号107)、バランス受光器S(符号117)に入力された後、それぞれのバランス受光器Pおよびバランス受光器Sの出力が、それぞれ別々の信号処理器P(符号108)、信号処理器S(符号118)で、それぞれ独立に信号処理される。なお、DFB・LD101、102はともに、制御・駆動回路111により、レーザ光の発振をオンオフされるとともに、レーザ光の波長を制御される。
【0048】
本方式(偏波ダイバシティ方式)によれば、偏波スクランブラーを用いる方式に比べ、受光感度をさらに上げることが可能である。また、検波した振幅の揺らぎが最小に抑えられ、その結果として、計測精度を上げることが可能である。
【0049】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。例えば、以上においては、光パルス対の位相の組み合わせは、零と零及び零とπの組み合わせの場合について説明したが、これに限らず、πとπ、πと零等の組み合わせの場合にも同様の議論が成り立つ。