【実施例】
【0039】
以下、実施例、比較例、製造例、試験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各実施例、比較例に記載のRet−LysoPCおよびジレチノイルホスホコリン(以下「Ret−PC」という。)の代表構造を表1に示す。また、Ret−LysoPCおよびRet−PCのレチノイル基all−trans体含有率、Ret−LysoPC中の1−レチノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン含有率は、以下の記載に従い算出し、結果は、表2に示した。徐放基材である各ゼラチン誘導体は特許第4303196号に記載のTNBS法によりアミノ基数を求め、修飾率を算出し表3に示した。
(レチノイル基all−trans体含有率の算出方法)
精製後の反応生成物5mgを重溶媒1mlに溶解し、
1H−NMR(600MHz、内部標準 TMS)を測定した。Ret−LysoPCにおいては重メタノールを用いて測定し、δ=1.0ppm(−C(C
H3)
2−)のシグナルの積分値を6.0として、δ=5.8ppm(−OCO−C
H=C(CH
3)−)のシグナルの積分値(積分値1.0の時100%)から、all−trans体含有率を算出した。Ret−PCにおいては重クロロホルムを用いて測定し、δ=1.0ppm(−C(C
H3)
2−)のシグナルの積分値を12.0として、δ=5.8ppm(−OCO−C
H=C(CH
3)−)のシグナルの積分値(積分値2.0の時100%)から、all−trans体含有率を算出した。
(Ret−LysoPC中の1−レチノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン含有率の算出方法)
精製後の反応生成物5mgを重メタノール1mlに溶解し、
1H−NMR(600MHz、内部標準 TMS)を測定した。δ=1.0ppm(−C(C
H3)
2−)のシグナルの積分値を6.0として、δ=5.0ppm(HO−CH
2−C
H(OCO−)−CH
2−O−)のシグナルの積分値(積分値1.0の時100%)から、2−レチノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン含有率を算出するとともに、1−レチノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン含有率(100−(2−レチノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン含有率),%)を算出した。
【0040】
(実施例1)Ret−LysoPCおよび(比較例1)Ret−PCの製造
all−transレチノイン酸(東京化成工業株式会社製)1.0gに、クロロホルム(アミレン含有)12g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.35gを加え攪拌した。3時間後、α−グリセロホスホコリン(Euticals S.p.A製)2.6g、ジメチルアミノピリジン0.086gを加えて攪拌しながら50℃まで昇温した。60時間後、加熱を止めて、室温まで冷却した。反応溶液を攪拌しながらα−トコフェロール0.010gを加えた後、不溶物をろ別した。ろ液の溶剤を留去した後、展開溶剤としてクロロホルム、メタノール、水を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:ワコーゲル C−200(和光純薬工業株式会社製)10g)により精製を行った。Ret−PCを含む分画、またはRet−LysoPCを含む分画を複数に分けて回収した。それぞれの回収分画をイオン交換樹脂SMN−1(三菱化学株式会社製)5.5g、イオン交換樹脂SMN−1(三菱化学株式会社製)5.5gに通液した。その後、溶剤を留去し、目的物(実施例1−1〜1−2および比較例1)を得た。
得られた目的物を
1H−NMR(600MHz、重メタノール、内部標準 TMS)にて分析し、δ=1.0ppm(6H,s,−C(C
H3)
2−)、1.5ppm(2H,m,−C(CH
3)
2−CH
2−CH
2−C
H2−)、1.6ppm(2H,m,−C(CH
3)
2−CH
2−C
H2−CH
2−)、1.7ppm(3H,s,−CH
2−C(C
H3)=)、2.0ppm(3H,s,−OCO−CH=C(CH
3)−CH=CH−CH=C(C
H3)−)、2.0ppm(2H,m,−C(CH
3)
2−C
H2−CH
2−CH
2−)、2.3ppm(3H,s,−OCO−CH=C(C
H3)−CH=CH−CH=C(CH
3)−)、3.2ppm(9H,s,N(C
H3)
3−CH
2−CH
2)、3.6ppm(2H,m,N(CH
3)
3−C
H2−CH
2−)、3.9ppm(2H,m,N(CH
3)
3−CH
2−CH
2−O−POO−O−C
H2−)、4.0ppm(1H,m,−CH
2−C
H(OH)−CH
2−OCO−CH=)、4.1,4.2ppm(2H,m,−C
H2−OCO−CH=)、4.3ppm(2H,m,N(CH
3)
3−CH
2−C
H2−)、5.0−7.8ppm(6H,m,−OCO−C
H=C(CH
3)−C
H=C
H−C
H=C(CH
3)−C
H=C
H−)から、Ret−LysoPCの存在を確認した。
得られた目的物を
1H−NMR(600MHz、重クロロホルム、内部標準 TMS)にて分析し、δ=1.0ppm(12H,s,−C(C
H3)
2−)、1.5ppm(4H,m,−C(CH
3)
2−CH
2−CH
2−C
H2−)、1.6ppm(4H,m,−C(CH
3)
2−CH
2−C
H2−CH
2−)、1.7ppm(6H,s,−CH
2−C(C
H3)=)、2.0ppm(6H,s,−OCO−CH=C(CH
3)−CH=CH−CH=C(C
H3)−)、2.0ppm(4H,m,−C(CH
3)
2−C
H2−CH
2−CH
2−)、2.3ppm(6H,s,−OCO−CH=C(C
H3)−CH=CH−CH=C(CH
3)−)、3.3ppm(9H,s,N(C
H3)
3−CH
2−CH
2)、3.8ppm(2H,m,N(CH
3)
3−C
H2−CH
2−)、4.0ppm(2H,m,N(CH
3)
3−CH
2−CH
2−O−POO−O−C
H2−)、4.3,4.4ppm(2H,m,−C
H2−OCO−CH=)、4.3ppm(2H,br,N(CH
3)
3−CH
2−C
H2−)、5.3ppm(1H,m,−CH
2−C
H(OCO−CH=)−CH
2−OCO−CH=)、5.0−7.8ppm(12H,m,−OCO−C
H=C(CH
3)−C
H=C
H−C
H=C(CH
3)−C
H=C
H−)からRet−PCの存在を確認した。
【0041】
(実施例2)Ret−LysoPCの製造
all−transレチノイン酸(東京化成工業株式会社製)0.60gに、クロロホルム(アミレン含有)18g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.21gを加え攪拌した。3時間後、溶剤を留去し、濃縮物2.0gとした。α−グリセロホスホコリン(Euticals S.p.A製)0.083g、ジメチルアミノピリジン0.053gを加えて攪拌しながら50℃まで昇温した。30時間後、加熱を止めて、室温まで冷却した。反応溶液を攪拌しながらα−トコフェロール0.006gを加えた後、不溶物をろ別した。ろ液の溶剤を留去した後、展開溶剤としてクロロホルム、メタノール、水を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:ワコーゲル C−200(和光純薬工業株式会社製)3.0g)により精製を行った。Ret−LysoPCを含む分画を回収し、イオン交換樹脂SMN−1(三菱化学株式会社製)3.3g、イオン交換樹脂SMN−1(三菱化学株式会社製)3.3gに通液した。その後、溶剤を留去し、目的物を得た。
得られた目的物を
1H−NMR(600MHz、重メタノール、内部標準 TMS)にて分析し、δ=1.0ppm(6H,s,−C(C
H3)
2−)、1.5ppm(2H,m,−C(CH
3)
2−CH
2−CH
2−C
H2−)、1.6ppm(2H,m,−C(CH
3)
2−CH
2−C
H2−CH
2−)、1.7ppm(3H,s,−CH
2−C(C
H3)=)、2.0ppm(3H,s,−OCO−CH=C(CH
3)−CH=CH−CH=C(C
H3)−)、2.0ppm(2H,m,−C(CH
3)
2−C
H2−CH
2−CH
2−)、2.3ppm(3H,s,−OCO−CH=C(C
H3)−CH=CH−CH=C(CH
3)−)、3.2ppm(9H,s,N(C
H3)
3−CH
2−CH
2)、3.6ppm(2H,m,N(CH
3)
3−C
H2−CH
2−)、3.9ppm(2H,m,N(CH
3)
3−CH
2−CH
2−O−POO−O−C
H2−)、4.0ppm(1H,m,−CH
2−C
H(OH)−CH
2−OCO−CH=)、4.1,4.2ppm(2H,m,−C
H2−OCO−CH=)、4.3ppm(2H,m,N(CH
3)
3−CH
2−C
H2−)、5.0−7.8ppm(6H,m,−OCO−C
H=C(CH
3)−C
H=C
H−C
H=C(CH
3)−C
H=C
H−)から、Ret−LysoPCの存在を確認した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例3)Ret−LysoPCによる単球動員効果の評価
ヒト急性単球性白血病細胞株(以下「THP−1」という。)(ATCC製)の細胞懸濁液を遠心分離した後、上澄みを廃棄し、0.1%ウシ血清アルブミン(脂肪酸不含、SIGMA ALDRICH製)含有RPMI−1640(Life Technologies製)を加えて分散させた。再び遠心分離を行い、上澄みを廃棄し細胞ペレットを得た。0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640を加えて細胞密度を1x10
6cells/mlに調整した。トランズウェル(Corning製、φ6.5mm、pore size φ8.0μm)に同細胞懸濁液100μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて30分間インキュベートした後、下部のマルチプルウェルプレート内に測定溶液(all−transレチノイン酸(東京化成工業株式会社製)(以下「RA」という)、比較例1のRet−PCまたは実施例1−2のRet−LysoPCをそれぞれ10nMとなるように0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640に溶解したもの、ならびに、0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640単独)600μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて3時間インキュベートした後、マルチプルウェルプレート内の細胞懸濁液を採取し、ヘマサイトメーターにて細胞密度を測定し、細胞の遊走率を求めた。なお、細胞の遊走率は以下のように定義した。
細胞遊走率(%)=(マルチプルウェルプレート内の細胞数)/(トランズウェルに加えた細胞数)
【0045】
図1に各測定溶液における細胞の遊走率測定結果を示す。なお、controlとは0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640に何も添加していないものをいう。RA(10nM)、Ret−PC(10nM)では細胞が遊走されておらず、単球動員効果を示さないのに対し、Ret−LysoPC(10nM)ではcontrolに比べて有意(P<0.05)に細胞が遊走された。よって、Ret−LysoPCは単球動員効果を有することが分かった。
【0046】
(実施例4)レチノイル基all−trans体含有率による単球動員効果への影響評価
THP−1の細胞懸濁液を遠心分離した後、上澄みを廃棄し、0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640を加えて分散させた。再び遠心分離を行い、上澄みを廃棄し細胞ペレットを得た。0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640を加えて細胞密度を1x10
6cells/mlに調整した。トランズウェル(Corning製、φ6.5mm、pore size φ8.0μm)に同細胞懸濁液100μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて30分間インキュベートした後、下部のマルチプルウェルプレート内に測定溶液(実施例1−1および1−2のRet−LysoPCをそれぞれ10nMとなるように0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640に溶解したもの、ならびに、0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640単独)600μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて3時間インキュベートした後、マルチプルウェルプレート内の細胞懸濁液を採取し、ヘマサイトメーターにて細胞密度を測定し、細胞の遊走率を求めた。
【0047】
図2に各測定溶液における細胞遊走率測定結果を示す。なお、controlとは0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640に何も添加していないものをいう。いずれのRet−LysoPC(10nM)においても細胞の遊走が確認された。all−trans体含有率の高いものでは単球の動員効果が高い傾向にあるものの、all−trans体含有率の少ないものであっても有意な細胞の遊走が確認されており、その他の異性体であっても単球動員効果を有することが示唆された。
【0048】
(実施例5)Ret−LysoPCによる間葉系幹細胞動員効果の評価
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株(UE7T−13)(医薬基盤研究所JCRB細胞バンク製)を予め血清不含DMEM(SIGMA ALDRICH製)を用いて24時間培養した後、0.25%トリプシン/1mM EDTA溶液(SIGMA ALDRICH製)を用いて同細胞の懸濁液とした。10%血清含有DMEM(Poweredby10培地;グライコテクニカ製)を加え、細胞懸濁液を遠心分離した後、上澄みを廃棄し、0.1%ウシ血清アルブミン(脂肪酸不含、SIGMA ALDRICH製)含有DMEM(SIGMA ALDRICH製)を加えて分散させた。再び遠心分離を行い、上澄みを廃棄し細胞ペレットを得た。0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEMを加えて細胞密度を4x10
5cells/mlに調整した。トランズウェル(Corning製、φ6.5mm、pore size φ8.0μm)に同細胞懸濁液100μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて30分間インキュベートした後、下部のマルチプルウェルプレート内に測定溶液(実施例1−2のRet−LysoPCを10nMとなるように0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEMに溶解したもの、または、0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEM単独)600μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて4時間インキュベートした後、インサート内の上清を除去した。メンブレン上側の細胞を除去した後、メンブレン下側の細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて固定化し、クリスタルバイオレット溶液を用いて染色した。水洗した後に乾燥させ、顕微鏡観察にて1視野あたりの細胞数を計測した。なお、遊走細胞比は以下のように定義した。
遊走細胞比=(各測定溶液を用いた際のメンブレン1視野あたりの細胞数)/(controlのメンブレン1視野あたりの細胞数)
ここで、controlとは0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEMに何も添加していないものをいう。
【0049】
図3に各測定溶液における遊走細胞比測定結果を示す。Ret−LysoPC(10nM)はcontrolに比べて有意(P<0.01)に細胞が遊走された。よって、Ret−LysoPCは間葉系幹細胞動員効果を有することが分かった。
【0050】
(製造例1)ゼラチンハイドロゲル乾燥体の製造
Ret−LysoPCの徐放基材として、以下に示すゼラチンハイドロゲル乾燥体を製造し、実施例5に示す徐放試験に使用した。
・等電点5ゼラチンハイドロゲル乾燥体(以下、「pI5ゲル」という。)
・等電点9ゼラチンハイドロゲル乾燥体(以下、「pI9ゲル」という。)
・コハク化ゼラチンハイドロゲル乾燥体(以下、「Sucゲル」という。)
・エチレンジアミン導入ゼラチンハイドロゲル乾燥体(以下、「E50ゲル」という。)
・ジステアロイルホスホエタノールアミン導入ゼラチンハイドロゲル乾燥体(以下、「DSPEゲル」という。)
【0051】
(製造例1−1)コハク化ゼラチンの製造
等電点5のゼラチン(牛骨由来、平均分子量約10万:新田ゼラチン株式会社製)1.0gをジメチルスルホキシド14gに溶解させた。無水コハク酸0.014gをジメチルスルホキシド4.5gに溶解させた後、この溶液をゼラチン溶液に添加した。37℃、1時間攪拌した後、透析膜で包み、外相に水を用いて3日間の透析を行った。透析終了後、内相を回収し、凍結乾燥することによってコハク化ゼラチンを得た。当該ゼラチンの修飾率を表3に示す。
【0052】
(製造例1−2)カチオン化ゼラチンの製造
等電点9のゼラチン(豚皮由来、平均分子量約10万:新田ゼラチン株式会社製)1.0gを24mlの0.1Mリン酸緩衝水溶液(pH5.0)に溶解させた。次に、ゼラチンのカルボキシル基に対して50等量のエチレンジアミンを加えた後、11Mの塩酸水溶液を用いて溶液のpHを5.0に調整した。その後、ゼラチンのカルボキシル基に対して3等量の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を添加し、0.1Mリン酸緩衝水溶液(pH5.0)を加えることによりゼラチンの最終濃度を2wt%とした。37℃、4時間攪拌を行った後、反応物を透析膜で包み、外相に水を用いて3日間の透析を行った。透析終了後、内相を回収し、凍結乾燥することによってカチオン化ゼラチンを得た。当該ゼラチンの修飾率を表3に示す。
【0053】
(製造例1−3)ジステアロイルホスホエタノールアミン導入ゼラチンの製造
等電点5のゼラチン(牛骨由来、平均分子量約10万:新田ゼラチン株式会社製)1.0gをジメチルスルホキシド30gに溶解させた。ここにN−(スクシンイミジロキシグルタリル)−ホスホエタノールアミン,ジステアロイル(COATSOME FE−8080SU5;日油株式会社製)0.67gを加え、25℃、18時間攪拌した。当該反応液を透析膜で包み、外相に水を用いて3日間の透析を行った。透析終了後、内相を回収し、凍結乾燥することによってジステアロイルホスホエタノールアミン導入ゼラチンを得た。当該ゼラチンの修飾率を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
(製造例1−4)ハイドロゲル乾燥体の製造
製造例1−1で製造したコハク化ゼラチン0.5gを水9.5gで溶解した後、5M水酸化ナトリウム水溶液を用いて、溶液のpHを5.0に調整した。25%グルタルアルデヒド水溶液45μlを加え、30秒間静かに撹拌した。その後、反応液を分注し、遮光して、室温で30分間静置後、4℃で12時間架橋反応を行った。当該ゲルを0.1Mグリシン水溶液500mlに投入し、室温で1時間振盪することにより架橋反応を停止させた。その後、グリシン水溶液を純水に置換し、室温で1時間の振盪を3回繰り返した。得られたハイドロゲルを凍結乾燥することによって、Sucゲルを得た。
【0056】
その他のゼラチンについても同様の手法で架橋および精製を行い、等電点5のゼラチン(牛骨由来、平均分子量約10万:新田ゼラチン株式会社製)よりpI5ゲル、等電点9のゼラチン(豚皮由来、平均分子量約10万:新田ゼラチン株式会社製)よりpI9ゲル、製造例1−2のゼラチン誘導体よりE50ゲル、製造例1−3のゼラチン誘導体よりDSPEゲルを得た。
【0057】
(実施例6)Ret−LysoPC含有ゼラチンハイドロゲルの徐放試験
徐放性製剤の一例として、ゼラチン誘導体を徐放基材として用いたRet−LysoPC含有徐放性製剤を作成し、徐放試験を実施した。即ち、製造例1に示した種々のゼラチンハイドロゲル乾燥体を徐放基材としてRet−LysoPC水溶液を含浸させ、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、以下「PBS」という。)中および10μg/mlコラゲナーゼ含有PBSにおける徐放特性を評価した。
Ret−LysoPC濃度が500μMとなるようRet−LysoPC(実施例1−2)をPBSに溶解した。この500μM Ret−LysoPC水溶液100μlをゼラチンハイドロゲル(10mg)に滴下し、37℃、1時間含浸させた。PBS(500μl)を加えた後、37℃、遮光条件下にて所定時間静置した(徐放試験開始)。その後、4℃、5000rpm、10分間の遠心分離にかけ、上清全量を回収した後、新しいPBS(500μl)を添加した。この操作を所定回数繰り返した。徐放試験開始12時間後、上清を回収した後、Sucゲル、E50ゲル、DSPEゲルを用いた試験について10μg/mlコラゲナーゼL(新田ゼラチン株式会社製)含有PBS(500μl)を添加した後、同様に所定時間静置した。同様に上清を回収するとともに、新しい10μg/mlコラゲナーゼL含有PBS(500μl)を添加した。この操作を徐放基材が消失するまで、または徐放試験開始から60時間後まで繰り返した。回収した上清中のRet−LysoPC濃度を逆相HPLCにて測定することによって、Ret−LysoPC徐放率を求めた。
【0058】
図4および
図5に各回収時間におけるRet−LysoPCの徐放率を示す。ゼラチン種によってRet−LysoPCの徐放特性が大きく異なることが分かった。これは徐放基材とRet−LysoPCとの相互作用が異なるためである。また、コラゲナーゼの添加により徐放基材を分解させたところ、それに伴ってRet−LysoPCが徐放されることが確認された。
【0059】
(試験例1)各リゾリン脂質の単球動員効果の比較試験
ヒト急性単球性白血病細胞株(THP−1)(ATCC製)を用いて各検体の単球遊走効果を評価した。THP−1の細胞懸濁液を遠心分離した後、上澄みを廃棄し、0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640を加えて分散させた。再び遠心分離を行い、上澄みを廃棄し細胞ペレットを得た。0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640を加えて細胞密度を1x10
6cells/mlに調整した。トランズウェル(Corning製、φ6.5mm、pore size φ8.0μm)に同細胞懸濁液100μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて30分間インキュベートした後、下部のマルチプルウェルプレート内に測定溶液(C18:0−LysoPC(COATSOME MC−80H;日油株式会社製)、実施例2のRet−LysoPCまたはS1P(Toronto Research Chemicals製)を0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640に溶解したもの、ならびに、0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640単独)600μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて3時間インキュベートした後、マルチプルウェルプレート内の細胞懸濁液を採取し、ヘマサイトメーターにて細胞密度を測定し、細胞の遊走率を求めた。
【0060】
図6および
図7に各測定溶液における細胞遊走率測定結果を示す。なお、controlとは0.1%ウシ血清アルブミン含有RPMI−1640に何も添加していないものをいう。
図6より、C18:0−LysoPC(100nM)では単球の動員効果を示さないが、Ret−LysoPC(100nM)では単球の動員効果を示すことが分かる。また、
図7より、S1Pは1、100nMにおいては有意(p<0.05)な単球動員効果を示さないのに対し、Ret−LysoPCでは1〜100nMのいずれにおいても有意な単球動員効果を示すことが明らかとなった。
【0061】
(試験例2)各リゾリン脂質の間葉系幹細胞動員効果の比較試験
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株(UE7T−13)(医薬基盤研究所JCRB細胞バンク製)を予め血清不含DMEM(SIGMA ALDRICH製)を用いて24時間培養した後、0.25%トリプシン/1mM EDTA溶液(SIGMA ALDRICH製)を用いて同細胞の懸濁液とした。10%血清含有DMEM(Poweredby10培地;グライコテクニカ製)を加え、細胞懸濁液を遠心分離した後、上澄みを廃棄し、0.1%ウシ血清アルブミン(脂肪酸不含、SIGMA ALDRICH製)含有DMEM(SIGMA ALDRICH製)を加えて分散させた。再び遠心分離を行い、上澄みを廃棄し細胞ペレットを得た。0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEMを加えて細胞密度を4x10
5cells/mlに調整した。トランズウェル(Corning製、φ6.5mm、pore size φ8.0μm)に同細胞懸濁液100μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて30分間インキュベートした後、下部のマルチプルウェルプレート内に測定溶液(実施例1−2のRet−LysoPCまたはS1P(Toronto Research Chemicals製)をそれぞれ所定濃度になるように0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEMに溶解したもの、ならびに、0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEM単独)600μl/wellを加えた。37℃、5%CO
2条件下にて4時間インキュベートした後、インサート内の上清を除去した。メンブレン上側の細胞を除去した後、メンブレン下側の細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて固定化し、クリスタルバイオレット溶液を用いて染色した。水洗した後に乾燥させ、顕微鏡観察にて1視野あたりの細胞数を計測した。なお、遊走細胞比は以下のように定義した。
遊走細胞比=(各測定溶液を用いた際のメンブレン1視野あたりの細胞数)/(controlのメンブレン1視野あたりの細胞数)
ここで、controlとは0.1%ウシ血清アルブミン含有DMEMに何も添加していないものをいう。
【0062】
図8に各測定溶液における遊走細胞比測定結果を示す。
図8より、S1Pは10、100nMにおいては有意(p<0.05)な間葉系幹細胞動員効果を示さないのに対し、Ret−LysoPCでは1〜100nMのいずれにおいても有意な間葉系幹細胞動員効果を示すことが明らかとなった。
【0063】
本出願は、日本で出願された特願2014−128644を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。