(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重質炭化水素原料のMCR分の少なくとも一部を転化して、低減されたMCR分を有する生成物を得るための方法であって、MCR転化プロセス条件下で前記重質炭化水素原料を触媒と接触させて、前記生成物を得ることを含み、ここで、改善は、前記方法における前記触媒として、モリブデン成分、ニッケル成分、擬ベーマイト粉末、及び無機酸を含む、共混練混合物の焼成粒子を使用することにより、前記重質炭化水素原料の前記MCR分の転化を高めることを含み、ここで、前記焼成粒子が(a)195m2/gから230m2/gの範囲の全表面積;(b)85Åから120Åの範囲のメジアン細孔直径(水銀注入法により測定される);(c)前記焼成粒子の全細孔体積の5%から30%が、250Å以上の直径を有するマクロ細孔内にあり;(d)前記焼成粒子の全細孔体積の55%以下が、55Åから115Åの範囲の直径を有する細孔内にあること、を含む特異的に規定された物理的特性を有するようになる条件下で調製され、及び
前記全細孔体積の25%から35%が50Åから100Åの範囲の直径の細孔内にあり、これらの細孔内の全細孔体積の部分が100Åから150Åの範囲の細孔直径を有する細孔内の全細孔体積の部分よりも小さく、並びに
前記触媒組成物の総重量を基準として5重量%以上であるが13重量%を超えない量のモリブデン成分であって、前記モリブデン成分は実際の形態に関わらず酸化物形態であるものとみなされるモリブデン成分、及びモリブデン成分に対するニッケル成分の重量比が0.25から0.8の比であるような量で存在するニッケル成分をさらに含む、
方法。
重質炭化水素原料のMCR分の接触転化における使用に適した触媒であって、前記触媒が共混練混合物の焼成粒子を含み、ここで、前記共混練混合物がモリブデン成分、ニッケル成分、擬ベーマイト粉末、及び無機酸を含み、ここで、前記焼成粒子が195m2/gから230m2/gの範囲の全表面積;(b)85Åから120Åの範囲のメジアン細孔直径;(c)前記焼成粒子の全細孔体積の5%から30%が250Å以上の直径を有するマクロ細孔内にあり;及び(d)前記焼成粒子の全細孔体積の55%以下が、55Åから115Åの範囲の直径を有する細孔内にあること、を含む特異的に規定された物理的特性を有するようになる条件下で調製され、及び
前記全細孔体積の25%から35%が50Åから100Åの範囲の直径の細孔内にあり、これらの細孔内の全細孔体積の部分が100Åから150Åの範囲の細孔直径を有する細孔内の全細孔体積の部分よりも小さく、並びに
前記触媒組成物の総重量を基準として5重量%以上であるが13重量%を超えない量のモリブデン成分であって、前記モリブデン成分は実際の形態に関わらず酸化物形態であるものとみなされるモリブデン成分、及びモリブデン成分に対するニッケル成分の重量比が0.25から0.8の比であるような量で存在するニッケル成分をさらに含む、
触媒。
前記共混練混合物の前記粒子の焼成が、1150°Fを超える焼成温度を含む焼成条件下で追加蒸気の無い空気中で行われて、前記焼成粒子を得る、請求項2に記載の触媒。
前記共混練混合物が、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化リン、及びγ−アルミナを含む触媒微粒子部分をさらに含み、前記触媒微粒子部分が前記焼成粒子におけるリン含有量を所望の範囲内に在るようにする量である、請求項2に記載の触媒。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の触媒組成物は重質炭化水素原料の水素化転化において特に有用である。本発明の触媒組成物は、重質炭化水素原料の触媒による水素化転化に使用した場合、従来技術もしくは比較する触媒組成物と比べて、重質炭化水素原料のミクロ残留炭素(MCR)分の水素化転化に対して高い活性を有する。
【0015】
本発明の触媒組成物の1つの特徴は、例えば押出し、圧縮又は球状化技術により形成された、触媒組成物を構成する成分の共混練混合物の凝集粒子などの焼成粒子であることである。共混練混合物の成分は、好ましくは2段階沈殿法又は本明細書に記載される方法により作製される擬ベーマイト粉末、ニッケル化合物、モリブデン化合物、及び場合によりリンもしくは触媒微粒子のいずれか又はその両方を含む、又は本質的にこれらからなる。
【0016】
共混練混合物の調製において、好ましくは水溶液中の無機酸も成分と共に共混練され、共混練混合物の成分として含まれる。無機酸の選択、共混練混合物のpHの制御、及び共混練混合物中に含まれる水の総量の制御はすべて、MCR転化特性を高めるための、本発明の触媒の最終的な焼成粒子の物理的特性の制御における重要なパラメータである。
【0017】
本質的ではなくとも、本発明の触媒組成物のもう1つの重要な特徴は、本発明の触媒組成物が比較的低いモリブデン含有量を有する一方、高いニッケル対モリブデンの重量比(実際の形態に関わらず、NiO/MoO
3として計算される)を有することである。
【0018】
本発明の触媒は、さらに比較的低い表面積及び特異的に規定された細孔サイズ分布を有し、触媒組成物の他の特徴と相まって、従来技術の他の触媒組成物と比べてMCR転化を高める触媒特性に寄与し得る。特定範囲内の比較的低い表面積を有するというその特定的な特徴が、MCR転化能力を大幅に高める触媒組成物に寄与し得ることは予想外である。
【0019】
本発明の触媒組成物は、比較的低い表面積と共に、構造において二峰性であるとして特徴づけられる特異的に規定された細孔サイズ分布を有していることである。低い表面積と併せて触媒組成物の特定の細孔構造は、触媒のMCR転化特性を高めると考えられる。
【0020】
従って、本発明の触媒の固有の触媒特性を提供するのは、二峰性細孔分布と共に非常に特異的かつ狭い範囲に規定された触媒組成物の低表面積である。二峰性細孔分布は、触媒の全細孔体積の有意な部分がマクロ細孔内に含有されること、並びに触媒の全細孔体積の特異で且つ有意な部分が特異的に規定された細孔直径の範囲内に含有されることを含む。
【0021】
本発明の触媒組成物は非−含浸触媒であるので、予め成形されている担体材料に活性金属成分を導入するための、液相含浸により作製されていない。むしろ、本発明の触媒組成物は触媒組成物の基本成分の共混練混合物であり、共混練組成物は比較的高い焼成温度において気体雰囲気中、例えば空気中で、気体雰囲気中に有意な蒸気の添加をせずに焼成されている。実際、本発明の触媒組成物が、その成分の共混練混合物を含むことは、本発明の触媒組成物の重要な特徴である。
【0022】
触媒組成物の主成分の共混練は、含浸法による触媒の調製に対して、いくつかの利益を提供する。これらの利益の1つは、含浸触媒を作製するために必要とされるいくつかの製造ステップが、共混練触媒の作製には必要が無く、共混練触媒組成物は含浸触媒よりも経済的に作製されることである。例えば、含浸触媒では、しばしば金属による含浸に先立って焼成しなければならない担体粒子の形成を必要とする。担体が金属で含浸された後、典型的には2回目の焼成を受ける。
【0023】
本発明の共混練触媒組成物は、一方、含浸ステップも担体粒子の予備調製も必要としない。共混練触媒組成物のさらに別の利益は、共混練が幾つかの方法で本発明の触媒組成物の有利な特性を確かなものにすることに寄与することである。共混練はこれを、金属とアルミナとの間の異なる相互作用を助長し、これにより得られる触媒に良好な安定性をもたらし、従って、懸濁気泡床における高性能もたらすことにより達成する。
【0024】
共混練ステップはまた、本明細書において重要性が詳述されるような、必要な物理的特性及び細孔構造的特性を有する最終的な焼成凝集物又は粒子を得られるような方法で制御することができる。
【0025】
モリブデン成分は触媒組成物の焼成凝集物中に、5重量%以上の量で且つ13重量%未満の量で存在する。モリブデン成分については、焼成凝集物中に6重量%から12重量%の範囲の量で存在することが望ましい。しかしながら、モリブデン成分については焼成凝集物中に7.5重量%から11重量%の範囲、より好ましくは8重量%から11重量%の範囲、最も好ましくは8.5重量%から11重量%の範囲の量で存在するのが好ましい。これらの重量パーセント(重量%)は、焼成凝集物の総重量を基準とし(即ち総重量は、担体材料、金属、及びあらゆるその他の成分を含む、触媒組成物の個々の成分すべての合計を含む)、モリブデン成分は、実際の形態に関わらず、酸化物の形態、即ちMoO
3で存在すると仮定される。
【0026】
ニッケル成分は、モリブデン成分に対するニッケル成分の重量比が少なくとも0.25であるような量で、触媒組成物の焼成凝集物中に存在し、前記重量比は実際の形態に関わらず、ニッケル成分及びモリブデン成分のそれぞれが、その対応する酸化物の形態に在るものとして計算される(即ち、NiO/MoO
3の重量比)。この重量比は0.25から0.8の範囲であることが望ましい。好ましくは、焼成凝集物中に含有されるモリブデン成分に対するニッケル成分の重量比は0.27から0.52の範囲に在り、最も好ましくは、重量比は0.3から0.42である。
【0027】
触媒組成物はリン成分を含んでいてもよい。触媒組成物中のリン成分の量は約0.0重量%から約6重量%(2.63重量%の元素リン)までの範囲であってもよい。典型的には、リン成分は0.5重量%(0.22重量%の元素リン)から5重量%(2.19重量%の元素リン)、最も典型的には、0.75(0.33重量%の元素リン)から4重量%(1.75重量%の元素リン)の範囲の量で、触媒組成物中に存在する。これらの重量パーセント(重量%)は触媒組成物の総重量を基準とし、リン成分は実際の形態に関わらず酸化物の形態、即ちP
2O
5で存在するものとみなされる。
【0028】
本明細書に記載の通り、本発明の触媒組成物は、窒素BET法で決定して、比較的低い全表面積を有する。低い全表面積にもかかわらず、触媒組成物は、他の従来技術の触媒と比較してMCR転化特性を高めることを示すことは、本発明の触媒組成物の予想外な特徴である。
【0029】
先に記述した通り、1グラム当たりの平方メートル(m
2/g)を単位として窒素吸着BET法で決定される、狭い範囲内の表面積に規定される本発明の触媒の比較的低い表面積、並びに本発明の触媒の二峰性細孔構造の組合せが、触媒の予想外の性能利益を提供すると考えられる。二峰性細孔構造は、マクロ細孔内に含有される、触媒の全細孔体積の有意な割合、及び、より小さい細孔内に含有される、触媒の全細孔体積の割合に関する有意な且つ特異的に規定される範囲を含み、これにより触媒の二峰性細孔分布が提供される。
【0030】
本明細書に使用される場合、マクロ細孔という用語は、本明細書の標準的な水銀圧入細孔分布測定法により決定して、250Å以上の細孔直径を有する、触媒組成物の細孔である。
【0031】
表面積についての決定的な上限が約240m
2/g未満であることは、本発明の触媒の重要な特徴である。表面積についての実際的な下限は約160m
2/gよりも大きい。本発明の触媒の全表面積の望ましい範囲は約190m
2/gから約238m
2/gであり、より好ましい範囲は約195m
2/gから約235m
2/gである。最も好ましくは、全表面積は200m
2/gから230m
2/gの範囲である。
【0032】
本発明の触媒の1つの特質は、特にUS8372268の触媒と比較した場合、比較的低い表面積を有することでる。この特性は本発明のとりわけ重要な特徴である。
【0033】
本発明の触媒の低い表面積特性はさらに触媒細孔によって提供される表面積分布によって、より特異的に規定される。表面積分布は、細孔充填のKelvinモデルを用いる実験等温線から細孔サイズ分布を計算するためのBarret、Joyner及びHalendaの方法(BJH)を適用して、Micromeritics ASAP−2400機器など任意の適格な機器を用いて決定される。
【0034】
本発明の触媒の全表面積の、75Å以下の直径を有する細孔によって提供される部分は15%から40%の範囲であることができる。しかしながら、75Åを超える細孔直径を有する細孔に対するこの部分を最小限にすることが好ましい。従って、この部分は全表面積の18%から35%の範囲であることができるが、より好ましくは、20%から30%の範囲である。全表面積のこの部分は、窒素脱着により測定されるメジアン細孔直径の範囲の下端内であるか又はメジアン細孔直径の範囲外及び該範囲未満のいずれかである細孔によって規定されることが注目される。これらのメジアン細孔直径は本明細書で別に説明される。
【0035】
先に述べたように、触媒組成物は比較的低い全表面積及び特異的に規定される細孔構造を有し、これが、触媒組成物のその他の特徴と相まって、重質炭化水素原料の水素化転化において使用した場合に、触媒組成物のMCR転化能力を高めると考えられる。
【0036】
触媒の細孔体積分布は、水銀圧入法で決定した場合に、触媒の全細孔体積の約65%以下が、55Åから115Åの範囲の直径を有する細孔として存在するようなものであるべきである。55Åから115Åの範囲の直径を有する細孔内に含有される全細孔体積のパーセンテージを、ある低い範囲まで低下させることにより、MCR転化特性における漸増改善が得られるものの、かかる低下が利益を与える限度があることが見出されている。触媒の全細孔体積の60%以下が、55Åから115Åの範囲の直径を有する細孔として存在することが望ましいが、全細孔体積の割合が55%未満であることがより好ましい。
【0037】
55Åから115Åの範囲の直径の細孔内に含有される、触媒の全細孔体積の割合に関する下限は30%より大きく、好ましくは35%より大きく、より好ましくは40%より大きくあるべきである。
【0038】
本発明の触媒のMCR転化特性における、より著しい改善は50Åから100Åの範囲の直径の細孔に含有される触媒の全細孔体積の割合の制御により得ることができる。
【0039】
触媒のMCR転化特性を改善させるもしくは高めるために、50Åから100Åの範囲内の細孔直径の細孔内に含有される、本発明の触媒の全細孔体積の割合に関する決定的な上限があるはずである。この上限は、触媒の全細孔体積の約49%未満である。50Åから100Åの範囲内の細孔直径の細孔内に含有されるのは、触媒の全細孔体積の約10%から約45%であることが望ましい。好ましくは、全細孔体積の15%から40%が50Åから100Åの範囲の直径の細孔内に含有され、より好ましくは、全細孔体積の15%から38%または20%から35%がこれらの直径の細孔内に含有される。
【0040】
本発明の触媒の1つの特徴は、50Åから100Åの範囲の細孔直径を有する細孔内の全細孔体積の部分が、100Åから150Åの範囲の細孔直径を有する細孔内の全細孔体積の部分よりも小さいことである。従って、100Åから150Åの範囲の細孔直径の細孔に含有される全細孔体積の部分は20%から60%、好ましくは25%から55%、最も好ましくは30%から50%の範囲である。
【0041】
さらに触媒は、250Å以上の直径を有する細孔として存在する5%から30%の全細孔体積を含むべきであり、又は触媒の全細孔体積の6%から28%が250Å以上の直径を有する細孔として存在する。250Å以上の直径を有する細孔として存在する全細孔体積のパーセンテージについては、7%から25%の範囲であることが好ましく、8%から22%の範囲であることが最も好ましい。
【0042】
触媒組成物の全細孔体積は、一般的に、少なくとも0.6cc/gであり、典型的には0.6cc/gから1.1cc/gの範囲である。より典型的には、全細孔体積は0.65cc/gから1.05cc/gの範囲であり、最も典型的には全細孔体積は0.7cc/gから1cc/gの範囲である。
【0043】
本発明の触媒に、MCR転化特性を高めるもしくはこれに寄与するために必要と考えられるもう1つの特性は、触媒のメジアン細孔直径に関係する。メジアン細孔直径の漸増により得られる触媒のMCR転化特性の改善における漸増が、もはや見られなくなる、メジアン細孔直径の下限が存在することが見出されている。水銀圧入法により決定した場合、メジアン細孔直径におけるこの下限は、約82.5Åよりも大きく、触媒のメジアン細孔直径についての実用上の上限は120Åを超えないと思われる。本発明の触媒について、85Åから120Åの範囲のメジアン細孔直径を有することが好ましい。メジアン細孔直径について、87.5Åから115Åの範囲であることが好ましく、90Åから110Åの範囲であることが最も好ましい。
【0044】
本明細書を通じて用いられる場合、用語「メジアン細孔直径」は、場合により表面積を窒素脱着データもしくは水銀圧入法データより表面積分布を得た時に、全表面積の50%がメジアン細孔直径より小さい直径の細孔内に含まれ、全表面積の50%がメジアン細孔直径より大きい直径の細孔内に含まれるところの、細孔直径を意味する。
【0045】
本発明の触媒のメジアン細孔直径は、従って、本明細書内で別途定義される窒素脱着法により測定された値で特徴付けることもできる。
【0046】
本発明の触媒のメジアン細孔直径は、窒素脱着により測定して、70Åから105Åの範囲に在ることができる。MPDについては、80Åから100Åの範囲にあることがより望ましいが、好ましくは、MPDは82.5Åから98Å、より好ましくは85Åから95Åの範囲にあり、このパラグラフで報告される値は、窒素脱着測定法により決定されたものとして理解される。このメジアン細孔直径は、本明細書において水銀圧入法で決定されたメジアン細孔直径と区別するために、窒素メジアン細孔直径と言及され得る。
【0047】
本明細書で言及される本発明の触媒組成物の細孔サイズ分布及び細孔体積は水銀圧入細孔分布測定により決定された特性である。触媒組成物の細孔サイズ分布の測定は、25℃において484dyne/cmの水銀表面張力と130°の接触角を用いて、大気圧と約60,000psiとの間の圧力範囲において操作することができる適切な任意の水銀細孔分析器により行なわれる。細孔体積は、水銀圧入法を用いて、大気圧と約60,000psiaの圧力との間で測定した、全体積として定義される。
【0048】
本発明の触媒組成物の共混練混合物において、出発材料もしくは成分はアルミナ粉末、ニッケル化合物及びモリブデン化合物を含む。出発成分は、上記のアルミナ、ニッケル及びモリブデンに加えて、リン化合物もしくは触媒微粒子、またはその両方、並びに水もしくは酸、又はその両方を含むこともできる。
【0049】
ニッケル成分は、ニッケル塩の水溶液として共混練混合物に導入することができる。モリブデン成分も、モリブデン塩の水溶液として共混練混合物に導入することができる。
【0050】
共混練混合物は押出し物などの粒子に成形され、特定の範囲の焼成温度で空気中において焼成されて、最終的な触媒組成物を得る。この共混練が、異なる方法、例えば含浸により調製された他の水素化処理触媒と識別され得る、触媒的もしくは物理的な特性又はその双方の特性を有する最終的な触媒を提供できるものと考えられる。
【0051】
用語「共混練」はこの明細書において、少なくとも引用された出発材料が一緒に混合されて、好ましくは実質的に均一なもしくは均質な、個々の成分の混合物を形成することを意味するものとして広く用いられている。この用語は、任意の公知な押出し法により押出すことができ、あるいは押出し物に成形することができる特性を示すペーストを得るための出発材料の混合を含む、十分に広い範囲を意図している。
【0052】
用語「共混練」はまた、好ましくは実質的に均質であり、かつ当業者に公知な任意の方法(成型、打錠、圧縮、造粒、押出し、及びタンブリングを含むがこれらに限定されない)により凝集されて、粒子成形物、例えば押出し物、長球体、ピル又は錠剤、円筒状物、不規則押出し物あるいは単にゆるく結合した凝集物もしくは塊にすることができる混合物を得るための出発材料の混合を包含することを意図している。混合物を凝集する好ましい方法は押出しによって、典型的に0.3969mm(1/64インチ)もしくは0.79375mm(1/32インチ)から12.7mm(1/2インチ)の範囲の直径、及び0.2から10又はそれ以上の、直径に対する長さの比を有する押出し粒子を形成することである。
【0053】
従って、共混練混合物の形成は当業者に公知な任意の方法もしくは手段により行なうことができ、これらの方法もしくは手段には、混練機のような適切なタイプの固体混合機(バッチ式もしくは連続式のいずれか)の使用、及び衝撃混合機の使用、並びに固体及び液体を混合するための又は押出し可能なペースト状混合物の形成のための適切なタイプのバッチ式もしくは連続式の混合機のいずれかの使用が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
共混練混合物の調製に用いられる出発材料の混合は、共混練混合物を適切に均質化するのに必要な任意の適切な時間で行うことができる。一般的に、ブレンド時間は12時間までの範囲又はそれ以上であり得る。典型的なブレンド時間は0.1時間から3時間の範囲である。
【0055】
この混合ステップは好ましくは、均質な押出し可能なペーストを提供する、混練を含む。混練は、アルミナ粉末粒子を砕き、本明細書に詳述されている固有の細孔構造の特徴を有する本発明の触媒を提供するために必要なより小さなサイズ及び量にすることを含む。
【0056】
酸、各成分に含有される水、及び混合物に添加される遊離水の量は、本発明の触媒の最終的な細孔構造の特徴に影響を与える全てのパラメータであることがさらに注記される。これらは、本発明の触媒に新規な特性及び特徴を提供するために制御されるパラメータである。
【0057】
混練時間はより典型的には0.16時間から2時間の範囲に在るように制御される。この混練時間は本発明の触媒の最終的な特性に影響を与え得るものであり、本発明の触媒に新規な細孔構造の特徴を与えるために制御することができる調製パラメータの1つである。
【0058】
共混練混合物の調製に適用される酸の量、水の量及び時間の制御は、本明細書に記載されるような固有の特性を本発明の触媒に与えるように行われる。
【0059】
本発明の触媒の特性はまた、出発ベーマイトの特性により影響を受けることがさらに注記される。このベーマイト材料を下記に記載する。
【0060】
共混練混合物の形成に用いられるアルミナ粉末成分はアルミナの粒子を含む。好ましくは、アルミナは主として擬ベーマイト(Al
2O
3・xH
2O、ここでxは、x=1(ベーマイト)及びx=3(ギブサイト)との間の中間値である)の結晶形態であり、約20重量%から30重量%の水分含有量を有する。
【0061】
共混練混合物の調製に用いられるベーマイト粉末は良好な分散性を有していなければならない。分散性は、混練ステップの間に簡単に、より小さな粒子に崩壊する、ベーマイト粒子の能力である。ベーマイトは、標準的な時間及び温度条件下で焼成された後の細孔体積、メジアン細孔直径及び表面積により特徴付けることができる。
【0062】
異なる粉末を比較して、粉末の挙動における違いを定量する目的のためにベーマイト粉末の分散性を測定することができる。分散性はベーマイト粒子のスラリーを作製し、その後、粒子サイズの分布を測定することによって決定される。スラリーは、所定の量の粉末、例えば4.8グラムの乾燥粉末を所定の量の希酸溶液、例えば0.25規定の硝酸溶液に添加し、スラリーを、撹拌機の設計、撹拌速度及び撹拌時間などにより規定される所定の条件下で撹拌することにより作製され、その後得られる撹拌スラリーのベーマイト粒子のサイズ分布を測定する。この測定は、0.01から100ミクロンの範囲の粒子サイズ及びサイズ分布を測定することができる任意の適切な装置を用いて行われる。適切な測定装置の例はMicromeritics SediGraph 5100である。
【0063】
粉末の分散性指数は特定のサイズよりも小さいサイズを有するベーマイト粒子の重量パーセントである。より大きな分散性指数を有する粉末は、より小さな分散性指数を有する粉末に必要とされる混練条件よりも、より低い酸含有量またはより短い混練時間など、より穏やかな混練条件を必要とすることが期待される。
【0064】
表面積、細孔体積及びメジアン細孔直径は、所定の量の粉末を規定の条件で焼成した後に測定され;大気圧から60,000PSIの間の水銀圧入を測定する。押出し物の細孔体積を予測するための対象の粉末細孔体積は、凝集された粒子間の空間を除く、粉末の
ミクロ細孔性を表す体積である。
【0065】
広い範囲のベーマイト粉末を共混練混合物の調製における出発物質として適切に使用できる。しかしながら、出発ベーマイト粉末の性状は本発明の触媒の新規な細孔構造特性を得るために必要な混練時間、混合酸含有量、及び混合水分含有量の混合条件及び混練条件に影響を与える。
【0066】
焼成されていないベーマイト粉末が、他の種々の相のアルミナ、例えばγ−アルミナの代わりに出発材料として使われる。しかしながら、共混練混合物が焼成される時の焼成温度には実際上の制限がある。この温度制限は、共混練混合物中に含有される共混練された金属の存在から生じる。焼成温度についてのこの上限はおおよそ1550°Fである。従って、合理的な焼成温度を用いて大きなメジアン細孔直径を形成する共混練混合物の成分としてベーマイト粉末を選択することが望ましい。これが、比較的小さな表面積及び比較的大きなメジアン細孔直径を有するという本発明の触媒の固有の特性をもたらす。
【0067】
本発明の触媒の共混練混合物の調製における成分として使用できる特に好ましい擬ベーマイト粉末は、いわゆる2段階沈殿法により調製される粉末である。この調製方法は米国特許第7790652号に詳しく記載されており、この特許は参照により本明細書に組込まれる。
【0068】
擬ベーマイト粉末を調製するための方法には他に多くの記載があるが、2段階沈殿法によって調製される粉末は共混練混合物の調製において特に適切であり、また共混練混合物から得られる本発明の触媒のMCR転化特性を高めることに寄与する、特定の性状もしくは物性を有し得ると考えられる。
【0069】
2段階沈殿法の第1のステップは、第1の沈殿ゾーン内で制御された様式において、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アンモニア、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つのアルカリ性化合物の第1の水性アルカリ性溶液を、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸、塩酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸性化合物の第1の水性酸性溶液と混合することによりアルミナの第1の水性スラリーを形成することを含む。第1の水性アルカリ性溶液及び第1の水性酸性溶液の混合は、第1の水性アルカリ性溶液のアルカリ性化合物もしくは第1の水性酸性溶液の酸性化合物のいずれか、又は当該溶液のアルカリ性化合物及び酸性化合物の双方が、アルミニウムを含有する化合物であることを必要とする。例えば、アルミニウム含有化合物である第1の水性アルカリ性溶液のアルカリ性化合物がアルミン酸ナトリウムもしくはアルミン酸カリウムのいずれかであり、並びにアルミニウム含有化合物である第1の水性酸性溶液の酸性化合物が硫酸アルミニウムもしくは塩化アルミニウムもしくは硝酸アルミニウムのいずれかである。
【0070】
第1の水性アルカリ性溶液及び第1の水性酸性溶液は、得られる第1の水性スラリーの第1のpHが約8から約11、好ましくは、8.5から10.5の範囲に維持されるような割合で一緒に混合される。また第1の水性アルカリ性溶液及び第1の水性酸性溶液は、2段階沈殿法により作製される全アルミナの約25重量%から約35重量%の範囲である所望の量のアルミナを含有する第1の水性スラリーが得られるような量で一緒に混合される。第1の沈殿ゾーン内の温度及び混合ステップが実施される温度は、約20℃から約40℃、好ましくは、25℃から30℃の範囲の第1の水性スラリー温度に維持もしくは制御される。
【0071】
第1のステップで第1の所望の量のアルミナが形成された場合、得られた第1のスラリーの温度はその後第1のスラリー温度から、約45℃から約80℃、好ましくは50℃から65℃の範囲である調節された第1の水性スラリー温度に昇温される。この第1の水性スラリーの昇温は、第1の沈殿ゾーン内にスラリーが含有されている間、又はスラリーが第2の沈殿ゾーンに輸送される時、又はスラリーが移された後、及びスライーが第2の沈殿ゾーン内に含有されている間のいずれかにおいて、第1の水性スラリーを加熱することにより行なうことができる。第1の水性スラリーは、第1の沈殿ゾーン内にスラリーが含有されている間に調節された第1の水性スラリー温度に昇温されることが好ましい。
【0072】
2段階沈殿法の第2のステップは、第1の沈殿ゾーン又は第2の沈殿ゾーンのいずれかで行うことができる。調節された第1の水性スラリー温度に加熱されている第1の水性スラリーを、第2沈殿ソーンに輸送し、そこで2段階沈殿法の第2のステップが行われることが好ましい。第1の水性スラリーを、離れた第2の沈殿ゾーンに輸送して、2段階沈殿法の第2のステップを実行するこの好ましい実施形態は、2段階沈殿法から得られる最終的なアルミナ生成物の性状のより良好な制御を可能にし、アルミナ担体材料における使用にとって適切な所望の、強化された物性を有する最終的なアルミナ生成物を提供する。
【0073】
第2の水性スラリーは従って、制御された様式において、好ましくは、温度調節された第1の水性スラリーを有する第2の沈殿ゾーン内において、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アンモニア、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つのアルカリ性化合物の第2の水性アルカリ性溶液、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸、塩酸、及び硝酸からなる群から選択される少なくとも1つの化合物の第2の水性酸性溶液を混合することにより形成される。第2の水性アルカリ性溶液及び第2の水性酸性溶液の混合は、第2のアルカリ性溶液のアルカリ性化合物又は第2の酸性溶液の酸性化合物のいずれか、あるいは当該溶液のアルカリ性化合物および酸性化合物の双方がアルミニウムを含有する化合物であることを必要とする。例えば、アルミニウム含有化合物である、第2の水性アルカリ性溶液のアルカリ性化合物はアルミン酸ナトリウム又はアルミン酸カリウムのいずれかであり、アルミニウム含有化合物である、第2の酸性溶液の酸性化合物は硫酸アルミニウム又は塩化アルミニウム又は硝酸アルミニウムのいずれかである。
【0074】
第2の水性アルカリ性溶液及び第2の水性酸性溶液は、2段階沈殿法の第2のステップにおいて、約8.5から10.5、好ましくは、8.5から9の範囲のpHを有する第2の水性スラリーが得られるような量及び割合で、第1の水性スラリーと混合される。また、第2の水性アルカリ性溶液及び第2の水性酸性溶液は、2段階沈殿法により作製されるアルミナの残りの量が形成されるような量で、第1の水性スラリーと混合される。添加ステップが行われる温度は、第2の水性スラリー温度が約45℃から約80℃、好ましくは、50から65℃の範囲にあるように維持もしくは制御される。最終的な第2の水性スラリーにおけるアルミナ濃度は、焼成されたアルミナ沈殿物を基準として、総量の約4重量パーセントから約8重量パーセントがアルミナ(Al
2O
3)であるような濃度でなければならない。好ましくは、最終的な第2の水性スラリーは6重量パーセントから6.5重量パーセントのアルミナ(焼成後ベース)を含有する。
【0075】
第2の水性スラリー中に含有されるアルミナの少なくとも一部が当業者に公知の任意の適切な方法もしくは手段により回収される。適切には、最終的な第2の水性スラリーのアルミナはろ過され、ナトリウム、硫酸塩、塩化物などの水溶性汚染物をフィルターケーキから除去するために、当業者に公知の方法に従って、任意の適切な溶媒、例えば、水により洗浄される。洗浄されたフィルターケーキは、直接アルミナ担体材料の調製において使用することができ、あるいは乾燥してアルミナ担体材料の調製において使用することができるアルミナの粉末を製造することができる。フィルターケーキは、当業者に公知の任意の方法もしくは手段、例えばトレイ乾燥、ベルト乾燥、フラッシュ乾燥又は噴霧乾燥などにより乾燥することができる。アルミナ担体材料の形成に使用するための適切なアルミナを提供するために使用できる好ましい方法は、第2の水性スラリーから得られたアルミナのスラリーを噴霧乾燥又はフラッシュ乾燥することである。
【0076】
記述の通り、2段階沈殿法において形成された合成アルミナは、共混練混合物及び本発明触媒の成分としての使用に特異的に適した特別な物理特性を有すると考えられる。調製されたアルミナは擬ベーマイトの形態のアルミナを含む。より具体的には、2段階沈殿法により作製された調製アルミナは実質的に全体的に擬ベーマイトを含み、少なくとも90重量パーセントの擬ベーマイトを含む。
【0077】
共混練混合物の調製に用いられるニッケル成分は、本明細書に定義される焼成条件下において空気中での焼成により酸化ニッケルの形態に転化可能な任意の適切なニッケル化合物である。考えられる適切なニッケル化合物は、ニッケル酸化物、ニッケル炭酸塩、ニッケル水酸化物、及びニッケル硝酸塩を含む。とりわけ適切なニッケル化合物は硝酸ニッケルである。
【0078】
共混練混合物の調製に用いられるモリブデン化合物は酸化モリブデン及び本明細書に定義される焼成条件下の空気中における焼成により酸化モリブデン形態に転化可能な任意の適切なその他のモリブデン化合物であり得る。可能な適切なモリブデン化合物はモリブデン酸化物、酸化モリブデン水和物及びモリブデン酸塩を含む。とりわけ適切なモリブデン化合物は七モリブデン酸アンモニウムである。
【0079】
触媒組成物の
マクロ細孔性(本明細書に定義される)の制御を支援するために、本発明の一実施形態において、アルミナ担体上に担持されたニッケル、モリブデン及びリン成分を含有する、既に調製済みの水素化処理触媒、好ましくは新しいもしくは水素化処理触媒の微粒子が、共混練混合物を形成するアルミナ粉末、ニッケル化合物、モリブデン化合物、及び場合により、リン化合物、酸及び水と、混合、又は共混練される。完全にもしくは部分的に再生されたあるいは全く再生されていない使用済みの水素化処理触媒を含め、別のタイプの触媒又はアルミナ担体由来の微粒子を採用することもできる。
【0080】
触媒微粒子を調製する新しい水素化処理触媒は、代表的な含浸触媒を含む市販の水素化処理触媒製品から選択することができ、あるいは本発明の共混練触媒組成物の処理からも得られる。触媒微粒子が由来する水素化処理触媒は一般的に、三酸化物(例えばMoO
3)として計算して1から35重量%の範囲のVI−B族水素化金属含有量、酸化物(例えばNiO)として計算して1から10重量%の範囲のVIII族水素化金属含有量、及び、場合により、P
2O
5として計算して最大10重量%の範囲のリン含有量を有する。水素化処理触媒微粒子は一般的に40Åから150Åの範囲の平均細孔直径を有する。
【0081】
共混練混合物の他の成分と共にブレンドする時に用いられる触媒微粒子を調製するために、材料(例えば水素化処理触媒)を、少なくとも90重量%が40メッシュの篩(公称の篩開口、0.420mm)を通過することができる触媒粒子を含有する粉末に粉砕する。5ミクロンと50ミクロンとの間の平均粒子サイズを有する触媒微粒子(1ミクロンは10
−6メーターである)を調製するために、材料を、粉末を形成する粒子に粉砕することができる、当業者に公知な任意の適切な装置を使用することができる。装置の一例は通常のハンマーミルである。
【0082】
共混練混合物の他の成分と一緒に混合される触媒微粒子の量は、本発明の最終的な触媒組成物の
マクロ細孔性を、本明細書に記載される所望の範囲内に制御するためのものである。従って、共混練混合物中に含有される触媒微粒子の量は、触媒を構成するアルミナ粉末及び触媒微粒子の、乾燥ベースの総重量の、50重量パーセントまでの範囲(典型的には0重量%から30重量%)であり得る。
【0083】
本発明の他の実施形態において、共混練混合物は、アルミナ粉末及び/又はその他の触媒の粉末の総重量を基準として1重量%から40重量%の、さらには5重量%から30重量%の触媒微粒子を含み得る。
【0084】
共混練混合物に添加され及び混合される触媒微粒子の量は、所望量のリンもしくはシリカ、又はリン及びシリカの両方を導入するように制御することもできる。リンもしくはシリカのいずれかの導入は、共混練混合物の押出し性または焼成粒子の最終的な細孔構造特性に悪影響を与えないように制御することができる。
【0085】
上記の調製パラメータに加えて、共混練混合物の粒子が焼成される条件も、本発明の最終的な焼成粒子の表面積及びその他の細孔構造特性に影響を与え得る。本発明の最終的な触媒組成物を得るためには、共混練混合物を凝集することによって形成された粒子を空気中で適切な焼成条件において焼成することが必要である。
【0086】
焼成条件は、共混練混合物及び凝集物のニッケル化合物及びモリブデン化合物を酸化物形態に転化し、そして本明細書に記載の通りの所望の表面積及び細孔体積分布を有する最終的な触媒組成物が得られるものでなければならない。
【0087】
共混練混合物から形成される凝集物の焼成は、好ましくは凝集物がかなりの高い温度においてかなりの蒸気が存在する空気雰囲気に曝される水熱タイプの焼成であってはならない。むしろ、凝集物の焼成は実質的にもしくは有意に蒸気を添加せずに空気雰囲気の存在下で行うべきである。
【0088】
従って、凝集物の焼成は標準状態の空気中に概して観察される濃度レベルの水分を有する空気雰囲気において実施し得るが、加熱された空気に対して天然に空気中に含有される水分量を超えるような実質的な水の添加をしてはならない。
【0089】
実質的な水の添加は、焼成凝集物又は本発明の最終的な触媒組成物の最終的な特性に実質的に影響を与え得る、凝集物の焼成において使用される加熱された空気に添加される量の水である。
【0090】
共混練混合物の凝集物の焼成において適切に使用され得る空気の例は、60°Fの温度及び1気圧の圧力において水で飽和された空気である。
【0091】
共混練混合物の粒子が焼成される温度は、他のファクターの中でも、特に最終的な焼成粒子の特性に影響する。得られる焼成粒子の細孔直径は、焼成温度に対し、焼成温度が上がるにつれ細孔直径が増える正の相関を有し、及び得られる焼成粒子の表面積は、焼成温度に対し、焼成温度が上がるにつれ表面積が減る逆の相関を有することが理解される。
【0092】
固有の性状を有する焼成粒子を得るために必要な焼成温度に影響を与える種々の他のファクターは、上述のように、共混練混合物中の成分のタイプ及び量並びに共混練混合物の調製に用いられる装置を含む。
【0093】
傾斜式ロータリーキルンを用いて共混練混合物の粒子を焼成することが好ましい。典型的にはキルン内の焼成時間は0.1時間から10時間、好ましくは0.2時間から8時間、最も好ましくは0.25時間から2時間の範囲である。
【0094】
キルン焼成炉に関連して、必要な焼成温度に何らかの形で影響を与えるその他多くの変数があり得る。これらの変数の幾つかは、キルンのタイプ、又はキルン内の軸方向温度プロフィール、傾斜角度、制御熱電対の配置などである。
【0095】
共混練混合物の粒子の焼成に必要な温度に影響を与える上記のファクターを考慮すると、焼成温度は一般的には621℃(1150°F)を超えるが843℃(1550°F)未満であるべきである。焼成温度に関して好ましい範囲は635℃(1175°F)から843℃(1550°F)であり、焼成温度に関してより好ましい範囲は649℃(1200°F)から815℃(1500°F)である。最も好ましい焼成温度は663℃(1225°F)から815℃(1500°F)の範囲である。
【0096】
本発明の重質炭化水素原料は、例えば、タールサンドから抽出された重質油などの原油及びタールサンド炭化水素を含む適切な炭化水素源から得ることができる。重質炭化水素原料は原油又はタールサンド炭化水素の減圧残油又は常圧残油成分であり得る。1つの有力な重質油炭化水素原料は、カナダの多くの地域で回収されるオイルサンドのいずれかであり、常圧蒸留及び減圧蒸留により抜頭されているオイルサンド由来のものである。
【0097】
さらに、重質炭化水素原料は高濃度の硫黄化合物及び窒素化合物並びにニッケル及びバナジウムなどの金属を含み得る。実際、重質炭化水素の水素化処理を非常に難しいものにしているのは、重質炭化水素が高分子量であることに加え、高濃度の金属、硫黄化合物及び窒素化合物である。
【0098】
重質炭化水素原料は、従って、原油由来の炭化水素もしくはタールサンド炭化水素材料又はその他の重質炭化水素源の混合物を含む。重質炭化水素の混合物の大部分は約343℃(650°F)を超える沸点を有する。さらに、重質炭化水素の混合物の一部、好ましくは、大部分は538℃(1000°F)を超える沸点を有する。好ましい重質炭化水素原料は、少なくとも50重量パーセントが538℃(1000°F)を超える温度で沸騰し、最も好ましくは重質炭化水素原料の少なくとも85重量パーセントが538℃(1000°F)を超える温度で沸騰するような沸点範囲を有する。本明細書において言及される沸点範囲は、ASTM試験法D−1160により決定されるものである。重質炭化水素原料のAPI比重は約0から約20の範囲にわたり得るが、より特異的には、API比重は3から15、より特異的には4から11の範囲である。
【0099】
重質炭化水素原料はまた、ASTM試験法D−4530により決定して10重量パーセントを超えるミクロ残留炭素(MCR)分を有し得、より特異的にはMCR分は12重量パーセントを超え、最も特異的には14重量パーセントを超える。MCR分について、可能性のある上限は40重量パーセント未満である。
【0100】
重質炭化水素原料はまた、重質炭化水素原料中の硫黄の濃度が約2重量パーセントを超え、さらには3重量パーセントを超えるような量で硫黄化合物を含み得る。より特異的には、重質炭化水素原料中の硫黄濃度は2から10重量パーセント、又は4から10重量パーセントの範囲であり得る。
【0101】
重質炭化水素原料はさらに、重質炭化水素原料中の窒素の濃度が0.1重量パーセントを超え、さらには0.2重量パーセントを超えるような量で窒素化合物を含み得る。より特異的には、重質炭化水素原料中の窒素濃度は0.2から3重量パーセントの範囲であり得る。
【0102】
前述の通り、重質炭化水素原料中に含有される金属はニッケルもしくはバナジウム又はその両方を含み得る。先に述べた通り、重質炭化水素原料中のニッケル濃度は10百万分の10重量部(ppmw)を超えるか、又は30ppmwを超え得る。より特異的には、重質炭化水素原料中のニッケル濃度は10百万分の10重量部(ppmw)から500ppmw、又は40から500ppmwの範囲であり得る。
【0103】
重質炭化水素原料中のバナジウム濃度は、50ppmwを超え、又は100ppmwを超え得る。より特異的には、重質炭化水素原料中のバナジウム濃度は50ppmwから1500ppmwの範囲であり得る。
【0104】
本発明の方法は、好ましくは水素の存在下で、適切な水素化処理条件下、重質炭化水素原料を本発明の触媒組成物と接触させることを含む。本発明の方法は非常に高いパーセンテージの、重質炭化水素原料のピッチ、MCR及び硫黄分の転化を提供する。
【0105】
用語「ピッチ」は水素化処理作業員の間で、彼らの経験や地域の習慣によって異なる定義の仕方があるかも知れないが、本明細書及び請求の範囲に用いられる場合、他の記載がない限り、510℃(950°F)を超える温度で沸騰する重質炭化水素原料の留分中に含有される炭化水素分子を指す。
【0106】
MCRの転化パーセントは、水素化転化プロセスにより転化された、重質炭化水素原料中に含有されるMCRの重量パーセントであるとして定義され、原料中のMCRと生成物中のMCRとの間の相違の比率により表現することができ、得られる相違を原料中のMCRで割って得られる比率に100を乗じてMCR転化パーセントを得る。
【0107】
水素化転化プロセスは、固定床、移動床及び懸濁気泡床反応系を含む任意の適切な反応手段もしくは系の使用により実行することができる。本発明の触媒組成物は任意の適切な反応器系の部分として使用できるが、その性状は組成物をとりわけ懸濁気泡床系における使用に特に適したものにしている。
【0108】
重質炭化水素原料が本発明の水素化転化触媒組成物と接触させる水素化処理条件は、水素化処理された生成物を提供するために効果的であり、好ましくは重質炭化水素原料のMCR成分の有意な部分の転化において効果的であるプロセス条件を含む。
【0109】
重質炭化水素原料を本発明の水素化処理触媒組成物と接触させる適切な水素化処理条件は、約300℃(572°F)から約700℃(1292°F)の範囲の水素化転化接触温度、約500psiaから約6,000psiaの範囲の水素化転化全接触圧力(約500psiaから約3,000psiaの範囲の水素分圧を含む)、約500SCFBから約10,000SCFBの範囲の重質炭化水素原料の体積当たりの水素添加速度、及び約0.2hr
−1から5hr
−1の範囲の水素化転化液空間速度(LHSV)を含む。
【0110】
好ましい水素化転化接触温度は310℃(590°F)から650℃(1202°F)の範囲であり、最も好ましくは316℃(600°F)から600℃(1112°F)の範囲である。
【0111】
好ましい水素化転化全接触圧力は500psiaから3,000psiaの範囲、最も好ましくは、1,000psiaから2,850psiaの範囲であり、好ましくは800psiaから2,000psia、最も好ましくは1,000psiaから1,850psiaの水素分圧を含む。
【0112】
LHSVは好ましくは0.2hr
−1から4hr
−1、最も好ましくは0.2hr
−1から3hr
−1の範囲である。水素添加速度は好ましくは600SCFBから8,000SCFB、より好ましくは700SCFBから6,000SCFBの範囲である。
【0113】
既存の水素化転化プロセス系に用いられていた触媒を、上記のMCR転化特性を高めることを示す本発明の触媒に置き換えることにより、本発明の触媒組成物の固有の性状は、既存の水素化転化プロセス系の操作に著しい改善をもたらす。
【0114】
以下の実施例は本発明を例示するために掲げられるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0115】
[実施例1]
この実施例は、実施例2に記述される触媒の調製に用いられる擬ベーマイト粉末のいくつかの物性及び擬ベーマイト粉末の調製方法を示す。
【0116】
擬ベーマイト粉末は、米国特許第7790652号(参照により本明細書に組込まれる)に詳しく記載されている、いわゆる2段階沈殿法により商業生産された。
【0117】
表1に、実施例2に記載される触媒組成物の調製に用いられる擬ベーマイト粉末の性状の一部を掲げる。擬ベーマイト粉末が調製される2段階沈殿法は、特定の性状を有する粉末を提供し、おそらくその固有の結晶構造によりあるいは粉末のその他の物理的特徴により、本明細書に記載される最終的な触媒組成物に改善された触媒性能を与えることに少なくとも部分的に関与するものと考えられる。
【0118】
【表1】
【0119】
[実施例2]
この実施例2は、実施例4に記載されるように、性能について試験した本発明の触媒及び比較触媒の調製を記載する。
【0120】
触媒C1
混和ミキサー中で、37.82部のP1粉末、8.35部の触媒微粒子(γ−アルミナ、MoO
3、NiO、P
2O
5を含む)、3.22部の二モリブデン酸アンモニウム、3.86部の硝酸ニッケル、0.69部の70%硝酸及び46.07部の水を混合し、35分間混和することにより共混練混合物を調製した。次いで、共混練混合物を円筒状の押出し物に押し出し、およそ250°Fの温度の空気中で約4時間乾燥させた。その後、乾燥させた押出し物を1340°Fの温度の空気中で1時間焼成した。
【0121】
触媒C2
混和ミキサー中で、37.82部のP1粉末、8.35部の触媒微粒子(γ−アルミナ、MoO
3、NiO、P
2O
5を含む)、3.22部の二モリブデン酸アンモニウム、3.86部の硝酸ニッケル、0.69部の70%硝酸及び46.07部の水を混合し、35分間混和することにより共混練混合物を調製した。次いで、共混練混合物を円筒状の押出し物に押し出し、およそ250°Fの温度の空気中で約4時間乾燥させた。その後、乾燥させた押出し物を1400°Fの温度の空気中で1時間焼成した。
【0122】
触媒C3
混和ミキサー中で、36.13部のP1粉末、8.11部の触媒微粒子(γ−アルミナ、MoO
3、NiO、P
2O
5を含む)、3.12部の二モリブデン酸アンモニウム、3.75部の硝酸ニッケル、0.24部の70%硝酸及び48.65部の水を混合し、35分間混和することにより共混練混合物を調製した。次いで、共混練混合物を円筒状の押出し物に押し出し、およそ250°Fの温度の空気中で約4時間乾燥させた。その後、乾燥させた押出し物を1435°Fの温度の空気中で1時間焼成した。
【0123】
触媒C4
混和ミキサー中で、36.97部のP1粉末、8.29部の触媒微粒子(γ−アルミナ、MoO
3、NiO、P
2O
5を含む)、3.20部の二モリブデン酸アンモニウム、3.83部の硝酸ニッケル、0.59部の70%硝酸及び47.12部の水を混合し、35分間混和することにより共混練混合物を調製した。次いで、共混練混合物を円筒状の押出し物に押し出し、およそ250°Fの温度の空気中で約4時間乾燥させた。その後、乾燥させた押出し物を1435°Fの温度の空気中で1時間焼成した。
【0124】
触媒C5
混和ミキサー中で、37.58部のP2粉末、8.29部の触媒微粒子(γ−アルミナ、MoO
3、NiO、P
2O
5を含む)、3.2部の二モリブデン酸アンモニウム、3.83部の硝酸ニッケル、0.59部の70%硝酸及び46.51部の水を混合し、35分間混和することにより共混練混合物を調製した。次いで、共混練混合物を円筒状の押出し物に押し出し、およそ250°Fの温度の空気中で約4時間乾燥させた。その後、乾燥させた押出し物を1435°Fの温度の空気中で1時間焼成した。
【0125】
[実施例3]
この実施例3は、実施例2に記載の調製から得られる触媒の特性を示す。注:触媒C1は米国特許第8,372,268号の発明触媒に相当する。
【0126】
【表2】
【0127】
[実施例4]
この実施例4は、水素化転化性能について、上記実施例に記載した触媒を試験するための実験的試験手順及び条件を記載する。
【0128】
重質炭化水素原料の水素化処理及び水素化転化における触媒的性能について、各触媒組成物を試験した。性能試験に使用した重質炭化水素原料は、カナダオイルサンド由来のビチューメン減圧残渣(90重量%)、重質芳香族油(5重量%)及び重質軽油(5%)のブレンドであり、性状は次の通りであった:密度1.04g/cc;硫黄分5.8重量%;窒素分0.62重量%;MCR分17.6重量%;及びピッチ分81.7重量%(ピッチはこの実施例4において、524℃即ち975°Fを超える沸点を有する炭化水素であると定義される)。
【0129】
直列に接続された、Autoclave Engineersから入手され、Robinson−Mahoney internalsを具備した2基の連続撹拌タンク反応器(CSTR)装置からなる、疑似二段階懸濁気泡床装置において試験を行った。
【0130】
操作条件は、約2010psiの操作圧力、421℃(790°F)の操作温度、1時間当たり触媒1cc当たり約0.4ccの原料の液空間速度、及び水素対油比率約3600SCF/bblを含む。
【0131】
[実施例5]
この実施例は、実施例4に記載した触媒の試験から得られた相対的なミクロ残留炭素転化の結果について示す。
【0132】
下の表3は、実施例4に記載した試験方法を用いて実施例2の触媒を試験した結果を示す。結果は比較触媒と比較した転化ゲインとして表されている。(触媒C1)。本発明の触媒についてピッチ転化増加も観察されていることが注記される。
【0133】
【表3】
【0134】
図1はMCR転化パーセンテージにおける相対的なゲインの関数としての、上記に言及されたそれぞれの指定の触媒の表面積のプロットを表す。これらのデータは、特に、特定の従来技術の触媒組成物、例えば、米国特許第8372268号に記載される高表面積組成物、触媒C−1、などとの比較において、比較的低い表面積を有する本発明の触媒組成物により、MCR転化において有意な改善を得ることができること示す。
【0135】
データから、本発明の触媒の表面積に関する決定的な上限が約240m
2/g未満であることが認識され、本発明の低表面積触媒組成物に関する実用上の下限は約160m
2/gを超えると考えられる。
【0136】
性能データから観察されるように、表面積については、表面積が低下もしくは減少するにつれ、触媒組成物がそのMCR転化特性において漸増改善を提供する性質を示し始める、決定的な上限がある。MCR転化特性におけるこの改善は、さらに触媒組成物の全表面積が減少する間、全表面積における有意な漸減があっても、MCR転化における改善が、極小値の改善となる限界に達するまで続くようである。
【0137】
従って、所望されるMCR転化特性を高めるためには、特異的な狭い範囲内に制御される、比較的低い表面積を有することが、本発明の触媒組成物の望ましい性状であり得る。
【0138】
本発明の触媒組成物の全表面積について、1つの望ましい範囲は約190m
2/gから約238m2/gである。本発明の触媒組成物の全表面積については、約195m
2/gから約235m2/gであることが好ましい。
【0139】
上記に示したデータから、特異的にかつ狭く規定された範囲内の比較的低い全表面積を有することに加えて、本発明の触媒の細孔構造及び細孔体積特性が一定の特異的な範囲にあるように規定されるべきであることも、さらに観察される。触媒組成物の、一定の十分に規定されかつ特定された細孔直径範囲内の細孔内に含有される、触媒組成物の全細孔体積の割合は、本明細書に記載されているMCR転化能力高めることを示す触媒組成物にとって決定的であり得ると考えられる。
【0140】
触媒組成物の全細孔体積一定の割合を有することが要求される1つの細孔直径範囲は、55Åから115Åの範囲の直径を有する細孔である。55Åから115Åの範囲の直径の細孔内に存在する本発明の触媒組成物の全細孔体積の割合は、従って、約60パーセント未満であるべきである。
【0141】
図2はMCR転化パーセンテージにおける相対的なゲインの関数としての、55Åから115Åの範囲の直径の細孔に含まれる全細孔体積パーセンテージのプロットである。これらのデータは本発明の触媒のMCR転化特性における明らかな漸増改善が、この細孔直径範囲に含まれる細孔に含まれる全細孔体積の割合が、高い割合から低い割合へ減少することにより提供されることを示す。しかしながら、漸増改善における限界に到達しており、これは55Åから115Åの範囲の直径の細孔に含まれる全細孔体積の割合について決定的な範囲が存在することを示唆する。
【0142】
図3は本発明の触媒により提供されるMCR転化パーセンテージにおける相対的なゲインの関数としての、50Åから100Åの範囲の直径の細孔に含まれる全細孔体積のパーセンテージのプロットである。これらのデータは、50Åから100Åの特定の細孔直径の範囲内にある細孔内に含まれる全細孔体積の一定のパーセンテージが含まれるような細孔構造により提供される、本発明の触媒のMCR転化特性における明らかな改善を示す。
【0143】
MCR転化特性を改善させるもしくは高めるために、50Åから100Åの範囲内の細孔直径の細孔内に含まれる本発明の触媒の全細孔体積の割合に関して決定的な上限が存在することは明らかである。この上限は50Åから100Åの範囲の細孔直径の細孔内に含まれる全細孔体積の約49%未満である。
【0144】
50Åから100Åの範囲の細孔直径の細孔内に含まれる全細孔体積のパーセンテージについて望ましい範囲は、約45%から約10%であり、パーセンテージについて好ましい範囲は40%から15%である。50Åから100Åの範囲の細孔直径の細孔内に含まれる全細孔体積のパーセンテージについて38%から15%の範囲に在ることがより好ましいが、最も好ましくは、その範囲は35%から20%である。