(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6553048
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】セラミック基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20190722BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20190722BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20190722BHJP
【FI】
H05K1/03 610D
C04B35/64
H05K3/46 H
H05K3/46 T
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-541735(P2016-541735)
(86)(22)【出願日】2016年1月8日
(86)【国際出願番号】JP2016000081
(87)【国際公開番号】WO2016114120
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2016年6月21日
【審判番号】不服2018-1532(P2018-1532/J1)
【審判請求日】2018年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-3819(P2015-3819)
(32)【優先日】2015年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正憲
(72)【発明者】
【氏名】沓名 正樹
【合議体】
【審判長】
井上 信一
【審判官】
山澤 宏
【審判官】
山田 正文
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−246722(JP,A)
【文献】
特開2007−59390(JP,A)
【文献】
特開平11−66951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックスから主に成るセラミック層と、
銀(Ag)から主に成る導体パターンと
を備えるセラミック基板であって、
前記セラミック層に含まれるホウ素原子(B)の濃度は、前記導体パターンに隣接する隣接領域において前記導体パターンに近づくほど高くなり、
前記隣接領域は、前記セラミック層のうち厚さ方向の中央に位置する中央領域よりも3倍以上の濃度となるホウ素原子(B)を含有する領域を有することを特徴とするセラミック基板。
【請求項2】
前記導体パターンには、ランタン原子(La)およびチタン原子(Ti)の少なくとも一方が存在する、請求項1に記載のセラミック基板。
【請求項3】
前記セラミック層は、ホウケイ酸ガラスおよびアルミナ(Al2O3)を含む、請求項1又は請求項2に記載のセラミック基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基板には、ガラスセラミックスから主に成るセラミック層と、銀(Ag)を主に含有する導体パターンとを備えるものが知られている。このようなセラミック基板は、セラミック層の焼成前の形態であるグリーンシートに、導体パターンの焼成前の形態である導体ペーストを塗布した後に、焼成することによって形成される。このようなセラミック基板は、低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)基板とも呼ばれる。
【0003】
焼成によってセラミック基板を形成する際、導体ペーストの銀成分がセラミック層へと拡散することによって、セラミック層に空隙、変形、変色などが発生する場合があった。セラミック層への銀成分の拡散は、導体パターンに含まれる銀成分の酸化によって促進されると考えられる。
【0004】
特許文献1には、導体ペーストに含まれる銀粉末の表面をアンチモン塩で覆うことによって、セラミック層への銀成分の拡散を抑制する技術が開示されている。特許文献2には、導体ペーストにケイ素粉末を添加することによって、セラミック層への銀成分の拡散を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−252524号公報
【特許文献2】特開2007−234537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2の技術では、セラミック層への銀成分の拡散を十分に抑制できない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態は、ガラスセラミックスから主に成るセラミック層と;銀(Ag)から主に成る導体パターンとを備えるセラミック基板を提供する。このセラミック基板において、前記セラミック層に含まれるホウ素原子(B)の濃度は、前記導体パターンに隣接する隣接領域において前記導体パターンに近づくほど高くなる。
また、前記隣接領域は、セラミック層のうち厚さ方向の中央に位置する中央領域よりも3倍以上の濃度となるホウ素原子(B)を含有する領域を有する。この形態によれば、銀成分の拡散に起因してセラミック層に空隙、変形、変色などが発生することを抑制できる。その結果、セラミック基板の品質を向上させることができる。
また、銀成分の拡散に起因してセラミック層に空隙、変形、変色などが発生することを十分に抑制できる。
【0010】
(3)上記形態のセラミック基板において、前記導体パターンには、ランタン原子(La)およびチタン原子(Ti)の少なくとも一方が存在してもよい。この形態によれば、銀成分の拡散に起因してセラミック層に空隙、変形、変色などが発生することを抑制できる。
【0011】
(4)上記形態のセラミック基板において、前記セラミック層は、ホウケイ酸ガラスおよびアルミナ(Al
2O
3)を含んでもよい。この形態によれば、ホウケイ酸ガラス系のセラミック基板の品質を向上させることができる。
【0012】
本発明は、セラミック基板に限らず種々の形態で実現でき、例えば、セラミック基板を製造する製造方法、セラミック基板を備える装置、セラミック基板を製造する製造装置などの形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】セラミック基板の断面を模式的に示す説明図である。
【
図2】セラミック基板の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態
図1は、セラミック基板110の断面を模式的に示す説明図である。セラミック基板110は、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板である。セラミック基板110には、所定の機能を実現する回路の少なくとも一部が形成されている。本実施形態では、セラミック基板110には、電子部品等で信号を伝達する回路が形成されている。
【0015】
セラミック基板110は、セラミック層120と、導体パターン130とを備える。本実施形態では、セラミック基板110は、相互に積層されたセラミック層120同士の間に導体パターン130が形成された構造を有する。本実施形態では、セラミック基板110には、回路を構成する導体として、導体パターン130の他、ビアおよびスルーホールなど(図示しない)が設けられている。他の実施形態では、セラミック基板110において、2以上の導体パターン130が他のセラミック層120と共にさらに積層されていてもよい。
【0016】
セラミック基板110のセラミック層120は、電気絶縁性を有する。セラミック層120は、ガラスセラミックスから主に成る。本明細書において、「(成分)から主に成る」とは、その成分が全体の50質量%以上を占めることを意味する。本実施形態では、セラミック層120は、硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ(Al
2O
3)粉末とを焼成したセラミック層である。硼珪酸系ガラスは、二酸化ケイ素(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)および酸化ホウ素(B
2O
3)から主に成る。
【0017】
セラミック層120は、導体パターン130に隣接する隣接領域121を有する。セラミック層120に含まれるホウ素原子(B)の濃度は、隣接領域121において導体パターン130に近づくほど高くなる。本実施形態では、隣接領域121は、ホウ素原子(B)の濃度がセラミック層120のうち厚さ方向の中央に位置する中央領域よりも3倍以上の濃度となるホウ素原子(B)を含有する領域を有する。
【0018】
セラミック基板110の導体パターン130は、銀(Ag)から主に成る。本実施形態では、導体パターン130は、銀(Ag)粉末と硼珪酸系ガラス粉末とを含有し、導電性を備えている。本実施形態では、導体パターン130には、ランタン原子(La)およびチタン原子(Ti)の少なくとも一方が存在する。本実施形態では、導体パターン130の厚さは、約10μmである。
【0019】
図2は、セラミック基板110の製造方法を示す工程図である。まず、セラミック層120の焼成前の状態であるグリーンシートを作製する(工程P110)。
【0020】
グリーンシートは、無機成分の粉末に、結合剤(バインダ)、可塑剤、溶剤などを混合して薄板状(シート状)に成形したものである。本実施形態では、無機成分の粉末である硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを、体積比60:40、総量で1kgとなるように秤量した後、これらの粉末をアルミナ製の容器(ポット)に入れる。その後、結合剤として120gのアクリル樹脂と、溶剤として適量のメチルエチルケトン(MEK)と、可塑剤として適量のジオクチルフタレート(DOP)とを、ポット内の材料に加える。その後、5時間、ポット内の材料を混合することによって、セラミックスラリを得る。その後、ドクターブレード法によって、セラミックスラリからグリーンシートを作製する。本実施形態では、グリーンシートの厚みは、0.15mmである。本実施形態では、打ち抜き加工によってグリーンシートを成形する。
【0021】
グリーンシートを作製した後(工程P110)、導体パターン130の焼成前の状態である導体ペーストを作製する(工程P120)。導体パターン130の焼成前の形態である導体ペーストは、金属ホウ化物の粉末を銀(Ag)粉末に添加したペーストである。
【0022】
セラミック層120への銀の拡散を抑制する観点から、導体ペーストに添加される金属ホウ化物は、六ホウ化ランタン(LaB
6)、六ホウ化ケイ素(SiB
6)および二ホウ化チタン(TiB
2)のうち少なくとも1つであることが好ましい。セラミック層120への銀の拡散を十分に抑制する観点から、導体ペーストに含まれる無機成分における金属ホウ化物
の含有量は、3体積%以上9体積%以下であることが好ましい。
【0023】
本実施形態では、導体パターン130の焼成前の状態である導体ペーストを作製する際、導体ペーストの無機成分材料として、導体材料である銀(Ag)粉末に、セラミック層120の成分と共通する硼珪酸系ガラス粉末を混合した混合粉末を用意する。その後、金属ホウ化物の粉末と、結合剤としてエチルセルロースと、溶剤としてターピネオールとを、無機成分の混合粉末に加える。その後、3本ロールミルを用いて材料を混練することによって、導体ペーストを得る。
【0024】
導体ペーストを作製した後(工程P120)、導体ペーストをグリーンシートに塗布する(工程P130)。本実施形態では、スクリーン印刷によって導体ペーストをグリーンシートに塗布する。
【0025】
導体ペーストをグリーンシートに塗布した後(工程P130)、導体ペーストを塗布したグリーンシートを焼成する(工程P140)。これによって、セラミック基板110が完成する。
【0026】
本実施形態では、グリーンシートを焼成する前に、複数のグリーンシートを積層した積層体を作製する。本実施形態では、切削加工によって積層体を焼成に適した形状に成形する。本実施形態では、250℃の大気中に10時間、積層体を曝すことによって、積層体を脱脂する。本実施形態では、積層体を脱脂した後、850℃の大気中に60分、積層体を曝すことによって、積層体を焼成する。これらの工程を経て、セラミック基板110を得る。
【0027】
積層体を焼成する際、導体ペーストに含まれる添加成分である金属ホウ化物の酸化反応によって、導体ペースト近傍の酸素が消費される。これによって、導体ペーストに含まれる銀成分の酸化が抑制される。したがって、セラミック層120への銀成分の拡散が抑制される。
【0028】
焼成中に酸化した添加成分である金属ホウ化物の少なくとも一部は、セラミック層120のうち導体パターン130に隣接する隣接領域121に拡散する。そのため、セラミック層120に含まれるホウ素原子(B)の濃度は、導体パターン130に隣接する隣接領域121において導体パターン130に近づくほど高くなる。セラミック層120への銀の拡散を十分に抑制する観点から、隣接領域121は、セラミック層120のうち厚さ方向の中央に位置する中央領域よりも3倍以上の濃度のホウ素原子(B)を含有する領域を有することが好ましい。
【0029】
導体ペーストに六ホウ化ランタン(LaB
6)を添加した場合、導体パターン130には、添加成分に由来するランタン原子(La)が存在する。導体ペーストに二ホウ化チタン(TiB
2)を添加した場合、導体パターン130には、添加成分に由来するチタン原子(Ti)が存在する。
【0030】
図3は、評価試験の結果を示す表である。
図3の評価試験では、それぞれ異なる導体ペーストを用いたセラミック基板110として、試料S01〜S07を作製した。
図3の表において、導体パターン130の焼成前の状態である導体ペーストにおける添加剤の含有量は、セラミックペーストに含まれる無機成分における添加剤の体積百分率を示す。
【0031】
試料S01〜S06の製造方法は、
図2の製造方法と同様である。試料S07の製造方法は、導体ペーストに金属ホウ化物を添加しない点を除き、
図2の製造方法と同様である。
【0032】
走査型電子顕微鏡(SEM)および電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて各試料の断面を観察することによって、セラミック層120へのホウ素(B)および銀(Ag)の拡散距離を測定した。セラミック層120のうち厚さ方向の中央に位置する中央領域におけるホウ素(B)濃度を基準値とし、セラミック層120と導体パターン130との界面からホウ素(B)濃度が基準値の3倍未満となる位置までの距離を、ホウ素の拡散距離として10箇所で測定した。セラミック層120と導体パターン130との界面における銀(Ag)濃度を基準値とし、その界面からセラミック層120において銀(Ag)濃度が基準値の半分となる位置までの距離を10箇所で測定し、その平均値を銀の拡散距離として求めた。
【0033】
次の基準で各試料を判定した。
○(優):銀の拡散距離が5μm未満
×(劣):銀の拡散距離が5μm以上
【0034】
試料S01〜S06と試料S07との評価結果によれば、金属ホウ化物である六ホウ化ランタン(LaB
6)、六ホウ化ケイ素(SiB
6)および二ホウ化チタン(TiB
2)を、導体パターン130の焼成前の形態である導体ペーストに添加することによって、セラミック層120への銀の拡散を抑制できることが分かる。また、導体パターン130の焼成前の状態である導体ペーストに含まれる無機成分における金属ホウ化物の含有量が、3体積%以上9体積%以下である場合、セラミック層120への銀の拡散を十分に抑制できることが分かる。また、セラミック層120への銀の拡散が十分に抑制される場合、セラミック層120には、厚さ方向の中央に位置する中央領域よりも3倍以上の濃度となるホウ素原子(B)を含有する領域が隣接領域121として形成されることが分かる。
【0035】
以上説明した実施形態によれば、セラミック基板110において、セラミック層120に含まれるホウ素原子(B)の濃度は、導体パターン130に隣接する隣接領域121において導体パターン130に近づくほど高くなる。これによって、銀成分の拡散に起因してセラミック層120に空隙、変形、変色などが発生することを抑制できる。その結果、セラミック基板110の品質を向上させることができる。
【0036】
また、隣接領域121は、セラミック層120のうち厚さ方向の中央に位置する中央領域よりも3倍以上の濃度となるホウ素原子(B)を含有する領域を有する。そのため、銀成分の拡散に起因してセラミック層120に空隙、変形、変色などが発生することを十分に抑制できる。
【0037】
B.他の実施形態
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことができる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。
【0038】
他の実施形態において、導体パターン130の焼成前の状態である導体ペーストを作製する際(工程P120)、原料粉末に結合剤および溶剤を加える前に、金属ホウ化物の粉末を原料粉末に混合することによって、金属ホウ化物の粉末を銀(Ag)粉末の表面に付着させてもよい。これによって、導体パターン130からセラミック層120への銀成分の拡散をいっそう抑制できる。
【符号の説明】
【0039】
110…セラミック基板
120…セラミック層
121…隣接領域
130…導体パターン